説明

炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する多機能材

【課題】 表面層として耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れた酸化ハフニウム層を有する多機能材を提供する。
【解決手段】 少なくとも表面層が炭素ドープ酸化ハフニウム層又は炭素ドープハフニウム合金酸化物層からなる多機能層を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素がドープされた炭素ドープ酸化ハフニウム層又は炭素ドープハフニウム合金酸化物層(両者を、単に炭素ドープ酸化ハフニウム層ということもある)を有する多機能材に関し、より詳しくは、炭素がHf−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ光触媒として機能する炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する多機能材に関する。
【背景技術】
【0002】
ハフニウムは、耐酸性、機械的特性、耐熱性に優れているが、熱中性子吸収断面積がジルコニウムの約600倍である105バーンと大きいので、中性子を吸収させる原子力の制御材として用いられている。また、酸化ハフニウムはガラス等に成膜することにより屈折率の高い光学膜として利用されている。
【0003】
このようなハフニウムは、その他の用途として電球のフィラメントや合金としてジェットエンジンの部品として用いられている。また、ハフニウムは、耐熱性の特性から、ジルコニア系セラミックスを溶射して形成される皮膜の成分として用いられることが提案され(特許文献1参照)、あるいは親水性の被覆皮膜の成分としての使用が提案されている(特許文献2参照)が、ハフニウムを主体とした用途は確立されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平10−54516号公報
【特許文献2】特開2002−309365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面層として耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れた酸化ハフニウム層を有する多機能材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、所定の条件下で炭素ドープした酸化ハフニウム層が耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ光触媒として機能することを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
かかる本発明は、少なくとも表面層が炭素ドープ酸化ハフニウム層又は炭素ドープハフニウム合金酸化物層からなる多機能層を具備することを特徴とする多機能材にある。
【0008】
本発明の多機能層は、例えば、少なくとも表面層がハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムからなる基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成できる。かかる多機能層は、セラミックの溶射により形成されたコーティング層とは異なり、緻密な層である。
【0009】
また、かかる多機能層は、炭素がHf−C結合した状態でドープされているのが好ましい。すなわち、多機能層において炭素が酸化ハフニウムHfO2の酸素を置換するようにドープされているのであり、Hf−C結合が生成されている。このようにHf−C結合が存在することにより、耐久性が著しく向上し、光触媒としての特性が向上する。
【0010】
本発明の多機能層は、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体の表面に設けられていてもよいし、ハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムの何れかで構成されている下層上に設けられていてもよい。何れにしても、基体を金属で形成したその表面に多機能層を連続的に設けることができるため、従来のハフニウムを含有するセラミックとは全く異なった特性を有するものである。
【0011】
例えば、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体の表面にハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムからなる表面層を設け、これを炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより、表面層全体を炭素ドープ酸化ハフニウム層とすると、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体の表面に多機能層を形成した状態となり、また、表面層の表面側の一部を多機能層とすると、多機能層の下層はハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物となる。なお、基体全体がハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物からなる場合も、多機能層の下層はハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物となる。このように多機能層はその下層のハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物と連続的且つ一体的に形成される緻密な層であり、剥離等の問題がないものである。
【0012】
また、その基体の形状については、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性等の耐久性が望まれる最終商品形状(平板状や立体状)や、表面に光触媒機能を有することが望まれる最終商品形状であっても、或いは粉末状であってもよい。
【0013】
なお、多機能層は、十分な厚さで形成すれば、表面を研磨して寸法出しを行うことも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多機能材は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ光触媒として機能するので、種々の技術分野にも有意に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の多機能材は、少なくとも表面層がハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムからなる基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成できる。
【0016】
ここで、炭素、酸素を含む化学種が表面に供給される雰囲気下で加熱処理するとは、例えば、炭素及び酸素を含む化合物を含むガス(炭素原子と酸素原子がガス雰囲気中に存在していればよく、炭素を含む化合物を含むと共に酸素を含むガス、炭素及び酸素の両者を含む化合物を含むと共に必要に応じて酸素を含むガスなどをいう)の燃焼炎を用いて加熱処理すること、又はこのような燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら必要に応じて加熱処理することである。すなわち、炭素、酸素を含む化学種、すなわち、活性化された炭素原子又は炭素原子を含む原子団、活性化された酸素又は酸素原子を含む原子団、炭素及び酸素を含む原子団などが表面に供給される状態で加熱処理をすればよく、好適には燃焼炎を用いて直接表面を加熱処理するか、燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら加熱処理することにより、表面を酸化しつつ炭化するという複雑な表面改質を実現し、炭素を表面にドープして炭素ドープ酸化ハフニウム層を形成する。
【0017】
具体的には、基体の表面にガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を燃焼ガスの雰囲気中で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。なお、少なくとも表面層がハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物からなる基体が粉末状である場合には、そのような粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素ドープ酸化ハフニウムとするか、表面が炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する粉末とすることができる。
【0018】
このように炭素ドープ酸化ハフニウム層を形成する条件は、表面改質する表面の素材や処理方法によって異なり、一概に設定することはできない。すなわち、例えば、加熱処理の温度や時間は、表面に供給される炭素、酸素を含む化学種の種類や濃度の違い、例えば、燃焼炎を用いる場合には、燃焼ガスの種類や燃焼炎の用い方により異なるが、炭素ドープ酸化ハフニウム層、特に、Hf−C結合が形成される炭素ドープ酸化ハフニウム層が形成できる条件を選択する必要がある。
【0019】
このような炭素ドープ酸化ハフニウム層は、詳細は後述するが、図1に示すように、柱状結晶からなるものであり、柱状結晶は下層のハフニウム層から連続して一体的に形成されている。なお、かかる炭素ドープ酸化ハフニウム層の厚さは加熱処理の温度及び時間により変化するものである。
【0020】
このような多機能層の好ましい形成方法としては、炭素、酸素を含む化合物を含む燃焼ガス、例えば、アルコール系化合物、炭化水素などを含むガスの燃焼炎を用いて加熱処理するのが望ましい。
【0021】
このような燃焼炎を用いて加熱処理して本発明の多機能層を得る場合、特に、炭化水素、好ましくは不飽和結合を含む炭化水素、特にアセチレンを、主成分とするガスの燃焼炎、特に還元炎を利用することが望ましい。炭化水素含有量が少ない燃料を用いる場合には、炭素のドープ量が不十分であったり、皆無であったりし、その結果として硬度が不十分となる。
【0022】
ここで、炭化水素を主成分とするガスとは、炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンを、少なくとも30容量%、好ましくは少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを30容量%以上、好ましくは50容量%以上含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。このような多機能材の製造においては、炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
【0023】
なお、このように燃焼炎を用いて多機能材を製造する場合、加熱処理する基体の表面層がハフニウム又はハフニウム合金である場合には、該ハフニウム又はハフニウム合金を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
【0024】
本発明の多機能材の製造においては、表面層がハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物からなる基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、基体の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。なお、少なくとも表面層がハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムからなる基体が粉末状である場合には、そのような粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素がHf−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化ハフニウムとするか、炭素がHf−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する粉末とすることができる。
【0025】
アセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いた加熱処理の場合には、基体の表面温度が400〜2200℃、好ましくは550〜2000℃、さらに好ましくは700〜1800℃となり、基体の表面層が炭素ドープ酸化ハフニウム層となるように加熱処理する必要がある。加熱処理が不十分の場合には、炭素ドープ酸化ハフニウム層とはならず、基体の耐久性は不十分となり、且つ光触媒活性も不十分となる。
【0026】
本発明の多機能材の多機能層は、炭素を、例えば、0.1〜10at%含有するものである。かかる炭素含有量は、加熱処理の条件、表面層の材質などによって異なり、特に限定されないが、炭素含有量が上昇するほど耐久性等の特性の向上が見られる傾向となる。
【0027】
本発明の多機能層の厚さは、10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。炭素ドープ酸化ハフニウム層の厚さが10nm未満である場合には、得られる炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する多機能材の耐久性は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化ハフニウム層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
【0028】
本発明の多機能層は、上述したとおり、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体の表面に設けられていてもよいし、ハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムの何れかで構成されている下層上に設けられていてもよく、この場合の下層の下地はハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質となる。
【0029】
ここで、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体とは、上述したような製造方法における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。このような基体としては、鉄、鉄合金、非鉄合金、セラミックス、その他の陶磁器、高温耐熱性ガラス等を用いることができる。このような基体上に形成される薄膜状の表面層は、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物からなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの等を挙げることができが、緻密で下層との密着力の優れた層とするのが好ましい。
【0030】
また、少なくとも表面層がハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物からなる基体が粉末状である場合には、その粉末の粒径が小さい場合に上記のような加熱処理により粒子全体を炭素ドープ酸化ハフニウムとすることが可能であるが、本発明においては表面層のみが炭素ドープ酸化ハフニウムとなれば良いのであり、従って、粉末の粒径については何ら制限されることはない。しかし、加熱処理の容易性、製造の容易性を考慮すると15nm以上であることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明において、ハフニウム合金としては、公知の種々のハフニウム合金を用いることができ、特に制限されることはない。例えば、ハフニウム鉄合金、ハフニウム銅合金、ハフニウムコバルト合金、ハフニウムニッケル合金などを挙げることができる。
【0032】
本発明の多機能材の炭素ドープ酸化ハフニウム層は、酸化ハフニウム層よりも優れたビッカース硬度を有し、酸化ハフニウム層より20%程度高いビッカース硬度を有する。
【0033】
また、本発明の多機能材の炭素ドープ酸化ハフニウム層は、酸化ハフニウム層と同様に耐薬品性にも優れており、1M硫酸及び1M水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に一週間浸漬した後、皮膜硬度、耐摩耗性及び光電流密度を測定し、処理前の測定値と比較したところ、有為な変化はみられなかった。
【0034】
本発明の多機能材の炭素ドープ酸化ハフニウム層は、光触媒として有効に作用するものである。
【0035】
以上説明したように、本発明の炭素ドープ酸化ハフニウム層からなる多機能層は、緻密であり、下層と連続的に形成されるので、下層との密着性も良好である。従って、従来、酸化ハフニウムを溶射、PVD、CVDなどにより形成したコーディング層の代替品として使用した場合、より緻密で、下層との密着性の高い多機能層を形成できるので、各種用途に使用可能である。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
(実施例1)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.50mmのハフニウム板(ニコラ社HF−183461、純度:99.5%)をその表面温度が約550℃となるように30分間加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化ハフニウム層を有するハフニウム板を形成した。
【0038】
(実施例2〜6)
加熱処理する際の表面温度及び加熱処理時間を下記表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6の炭素ドープ酸化ハフニウム層を有するハフニウム板を形成した。
【0039】
(実施例7)
メタンガスの燃焼炎を用い、実施例1と同様なハフニウム板をその表面温度が約900℃となるように30分間加熱処理することにより、実施例7の炭素ドープハフニウム層を有するハフニウム板を形成した。
【0040】
(比較例1)
加熱処理していないハフニウム板を比較例1のハフニウム板とした。
【0041】
(比較例2〜6)
比較例1と同一のハフニウム板を加熱炉で所定の加熱温度及び加熱時間で大気酸化して表面に酸化ハフニウム層を形成した。加熱処理温度及び加熱処理時間は表1に示すとおりであり、室温から加熱処理温度に達するまでの時間は加熱処理時間に換算しないで加熱処理時間を設定した。
【0042】
試験例1(ビッカース硬度)
各実施例及び比較例の表面硬度を、マイクロビッカース硬度計により、圧子:ダイヤモンド圧子、試験力:245.2mN、荷重保持時間:15secの条件下で皮膜硬度を測定したところ、表1の結果が得られた。
【0043】
これらの結果から明らかなように、アセチレンの燃焼炎により加熱処理した炭素ドープ酸化ハフニウム層を有する実施例1〜6のハフニウム板及びメタンガスの燃焼炎により加熱処理したハフニウム板は、加熱炉を用いて同温度・同時間だけ加熱処理した比較例と比較すると、硬度が20%程度向上していることが確認された。
【0044】
【表1】

【0045】
試験例2(結晶構造と結合状態)
実施例3の炭素ドープ酸化ハフニウム層についてXRD(X線回折分析)をした結果を図2に示す。比較のために比較例4の大気酸化による酸化ハフニウム層の分析結果も併せて示す。なお、測定条件は以下の通りである。
【0046】
測定機器:Phillips社製 PW3040
管球:Cu
出力:40kV−50mA
スキャン速度:1°/min
スキャン範囲:2θ= 2〜80°
スリット:DS・SS; 照射範囲が15mm一定となるよう自動調整
mask; 10mm
【0047】
また、XPS(X線光電子分光分析)の結果を図3に示す。
【0048】
XRDの結果によると、実施例3の表面層の結晶構造はHfO2であり、その他に有為なピークは存在しなかったので、構造が酸化ハフニウムと同一であることが確認された。
【0049】
一方、XPSにおいて、アルゴンスパッタリングにより、皮膜内部の結合状態を調べた結果、図3に示されるように、実施例3の皮膜では、280.8eV近傍に強度ピークが確認された。このピークはHf−C結合によるものと考えられる。
【0050】
これらの結果より、炭素はHfO2構造の酸素を置換するようにドープされ、Hf−C結合していると考えられる。なお、比較例4、すなわち電気炉中で酸化させた皮膜においては、Hf−C結合は確認されなかった。
【0051】
試験例3(耐薬品性)
1M硫酸水溶液および1M水酸化ナトリウム水溶液それぞれについて、実施例2、3及び比較例3、4のハフニウム板を室温で1週間浸漬した後、ビッカース硬度試験を行なった。
【0052】
この結果、実施例の試料については、浸漬前と比較して硬度の減少をほとんど認めなかった。すなわち、高い耐薬品性を有することが認められた。これに対し、比較例の試料については多少の硬度減少が、特にアルカリ浸漬後にものについて認められた。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
試験例4(短波長照射による自然浸漬電位測定)
実施例3(700℃、120分)の炭素ドープ酸化ハフニウム層及び比較例4(700℃、120分)の酸化ハフニウム皮膜の短波長用ランプ照射による自然浸漬電位を測定した。具体的には、それぞれの皮膜に対し、0.05M硫酸ナトリウム水溶液(飽和溶存酸素、常温)中で、参照電極として飽和銀−塩化銀を用いて、電位を測定した。その結果を図4に示す。
【0056】
この結果、実施例の炭素ドープ酸化ハフニウムは240nmにおける自然浸漬電位が比較例の酸化ハフニウムより卑下することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の多機能材は、炭素ドープ酸化ハフニウム層の各種特性を応用して、遮熱性、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等が求められる各種用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の多機能材の多機能層の一例を示すSEM写真である。
【図2】本発明の多機能材の炭素ドープ酸化ハフニウム層についてXRD(X線回折分析)をした結果を示す図である。
【図3】本発明の多機能材の炭素ドープ酸化ハフニウム層についてXPS(X線光電子分光分析)をした結果を示す図である。
【図4】本発明の試験例4における自然浸漬電位測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面層が炭素ドープ酸化ハフニウム層又は炭素ドープハフニウム合金酸化物層からなる多機能層を具備することを特徴とする多機能材。
【請求項2】
請求項1記載の多機能材において、
前記多機能層中の炭素がHf−C結合した状態でドープされていることを特徴とする多機能材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多機能材において、
前記多機能層が、ハフニウム、ハフニウム合金、酸化ハフニウム又はハフニウム合金酸化物以外の材質からなる基体の表面に設けられていることを特徴とする多機能材。
【請求項4】
請求項3記載の多機能材において、
前記多機能層が、ハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物又は酸化ハフニウムの何れかで構成されている下層上に設けられていることを特徴とする多機能材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の多機能材において、
多機能材が粉末状であることを特徴とする多機能材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−270318(P2007−270318A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100517(P2006−100517)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】