説明

炭素材料の製造方法、および該炭素材料を含む電気二重層キャパシタ

【課題】バインダーなしで成型可能な炭素材料であって、単位体積あたりの静電容量に優れる負極に与える炭素材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】下記[1]〜[5]工程を含む炭素材料の製造方法である。
[1]フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて湿潤ゲルを作製する工程。
[2][1]で得られた湿潤ゲルを脱水して、乾燥ゲルを作製する工程。
[3][2]で得られた乾燥ゲルに、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸、反応させて、再湿潤ゲルを作製する工程。
[4][3]で得られた再湿潤ゲルを脱水して、再乾燥ゲルを作製する工程。
[5][4]で得られた再乾燥ゲルを焼成して炭素材料を作製する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気二重層キャパシタ及び電池用電極材料等のエネルギー貯蔵用デバイス用の電極材料、触媒を担持するための担体、クロマトグラフ用材料並びに吸着剤等として有用な炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、急速充放電が可能であり、半永久的な寿命を有し、しかも使用温度範囲が広いことから、例えば、パソコン用バックアップ電源、電気自動車用電源、発電された電力の貯蔵用デバイス等に用いられることが期待されている。そして、電気二重層キャパシタに、小容量で大量の電気量を充電し得る特性、すなわち単位体積あたりの静電容量に優れる特性を与える電極として、通常、炭素材料が用いられている。
炭素材料は、通常、活性炭粉末などをバインダー(ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン)と混練し成形するが、バインダーを用いると、得られる電極の体積抵抗率が大きく、電気二重層キャパシタを充電する際には高電圧が必要であるという問題があった。
本発明者らは、バインダーフリーの電極用に好適な炭素材料の製造方法として、タブレット状の鉢形容器においてフェノール化合物とアルデヒド化合物を反応させ、得られるゲルを乾燥、焼成する方法を既に提案している(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−187320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気二重層キャパシタは、コンパクト化、すなわち、単位体積あたりの静電容量の向上が求められており、特許文献1に記載の製造方法で得られた炭素材料を電極として含む電気二重層キャパシタよりもさらに単位体積あたりの静電容量の優れた電気二重層キャパシタを与える炭素材料が求められている。
本発明の目的は、バインダーなしで成型可能な炭素材料であって、単位体積あたりの静電容量に優れる電極に与える炭素材料を製造する方法、および該炭素材料を含む電気二重層キャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、特許文献1の製造方法で得られた炭素材料のマクロ孔、メソ孔などの空孔を有することから、焼成前のゲルの空孔において、再びフェノール化合物とアルデヒド化合物とを反応させて、空孔をさらにゲルで充填した後、焼成した炭素材料が、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[5]工程を含む炭素材料の製造方法、および該炭素材料を含む電気二重層キャパシタである。
[1]フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて湿潤ゲルを作製する工程。
[2][1]で得られた湿潤ゲルを脱水して、乾燥ゲルを作製する工程。
[3][2]で得られた乾燥ゲルに、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸、反応させて、再湿潤ゲルを作製する工程。
[4][3]で得られた再湿潤ゲルを脱水して、再乾燥ゲルを作製する工程。
[5][4]で得られた再乾燥ゲルを焼成して炭素材料を作製する工程。
【発明の効果】
【0006】
本発明の炭素材料が与える電極は、単位体積あたりの静電容量に優れ、しかも、体積抵抗率が小さい。
また、上記電極を有する電気二重層キャパシタは、急速充放電を繰り返した後の単位体積あたりの静電容量が、急速充放電を繰り返す前の単位体積あたりの静電容量と比較してほとんど低下することがない、つまり、リサイクル特性に優れる。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の[1]工程とは、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて湿潤ゲルを作製する工程であり、コロイド状の大きさの粒子を含む流動性のある液体中においてコロイド粒子が活発なブラウン運動をしているゾル状態を経て、上記コロイド粒子由来の三次元網目状構造を有する湿潤ゲルを得る工程である。
[1]工程で得られる湿潤ゲルは、三次元の網目構造中に水等の液体又は空気等の気体が含まれていてもよい。
【0008】
本発明の[1]工程に用いられるフェノール化合物としては、例えば、式(1)

(式中、R1は、ハロゲン原子若しくは置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は水素原子を表す。nは2〜5の整数を表し、mは0〜3の整数を表すが、nとmの和は5である。)
などが挙げられる。
【0009】
式(1)中のR1のアルキル基における置換基としては、例えばヒドロキシ、シアノ、アルコキシ、カルバモイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、スルホ及びスルファモイル等を挙げることができる。
上記アルキル基や、該アルキル基の置換基であるアルコキシ、アルコキシカルボニル及びアルキルカルボニルオキシは、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。
【0010】
上記R1において、ハロゲン原子若しくは置換基で置換されていてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、オクチル基、ノニル基、t−ブチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、3,4−ジヒドロキシブチル基、シアノメチル基、2−シアノエチル基、3−シアノプロピル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、4−クロロブチル基、4−ブロモブチル基、カルボキシメチル基、2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基、4−カルボキシブチル基、1,2−ジカルボキシエチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルプロピル基、4−カルバモイルブチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、3−メトキシカルボニルプロピル基、3−エトキシカルボニルプロピル基、4−メトキシカルボニルブチル基、4−エトキシカルボニルブチル基、メチルカルボニルオキシメチル基、エチルカルボニルオキシメチル基、2−メチルカルボニルオキシエチル基、2−エチルカルボニルオキシエチル基、3−メチルカルボニルオキシプロピル基、3−エチルカルボニルオキシプロピル基、4−メチルカルボニルオキシブチル基、4−エチルカルボニルオキシブチル基、スルホメチル基、2−スルホエチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基、スルファモイルメチル基、2−スルファモイルエチル基、3−スルファモイルプロピル基及び4−スルファモイルブチル基等を挙げることができる。
1としては、水素原子又は無置換のアルキル基がより好ましく、水素、メチル基、エチル基、オクチル基が特に好ましい。
【0011】
式(1)において、mとしては、1又は2が好ましく、1が特に好ましい。
【0012】
式(1)で表される化合物の具体例としては、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、i−プロピルフェノール、ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、2−クロロフェノール、4−メトキシフェノール、2,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、4−クロロ−3−メチルフェノール、カテコール、3−メチルカテコール、4−t−ブチルカテコール、レゾルシノール、2−メチルレゾルシノール、4−エチルレゾルシノール、4−クロロレゾルシノール、5−メチルレゾルシノール、2,5−ジメチルレゾルシノール、5−メトキシレゾルシノール、5−ペンチルレゾルシノールやピロガロール等を挙げることができる。
本発明の[1]工程において、上記フェノール化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0013】
[1]工程に用いられるアルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0014】
フェノール化合物/アルデヒド化合物の比は、通常は0.1〜3(mol/mol)の範囲であり、好ましくは0.2〜1の範囲である。フェノール化合物/アルデヒド化合物の比が0.1〜3(mol/mol)の範囲であるとメソ細孔が発達し、結果として、得られる炭素材料の単位体積あたりの静電容量が増加する傾向があることから好ましい。
【0015】
[1]工程における水の使用量は、上記フェノール化合物とアルデヒド化合物の合計量100重量部あたり、通常、50〜6000重量部の範囲であり、好ましくは50〜2000重量部の範囲であり、より好ましくは、50〜1000重量部の範囲である。なお、例えば、原料化合物として、例えばホルマリンのような水溶液を用いる場合は、該水溶液に含まれる水も、上記使用量に含まれる。
水の使用量が50重量部以上であると、湿潤ゲルの作製に十分な反応時間を与えることから好ましく、6000重量部以下であると、後述する湿潤ゲルの脱水時間が短縮される傾向があることから好ましい。
【0016】
[1]工程における塩基性触媒としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸バリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウムやリン酸カリウム等が挙げられ、中でも、弱塩基性の触媒がメソ細孔特性の制御が容易であることから好ましく、とりわけ、炭酸ナトリウムが好ましい。
塩基性触媒の使用量は、塩基性触媒のカチオン1モルあたりフェノール性水酸基の数が、通常、10〜2000モルの範囲であり、好ましくは100〜1000モルの範囲である。フェノール性水酸基の数が10モル以上であると、好ましくは100〜1000モルの範囲である。フェノール性水酸基の数が10モル以上であると、メソ細孔が発達し、結果として、得られる炭素材料の単位体積あたりの静電容量が増加する傾向があることから好ましく、2000モル以下であると、ゲル化が容易に起こる傾向があることから好ましい。
【0017】
[1]工程における反応温度は、通常、0〜100℃の範囲であり、好ましくは30〜90℃の範囲である。反応温度が100℃以下であると、湿潤ゲルの作製に十分な反応時間を与えることから好ましく、0℃以上であると、[1]工程の反応時間が短縮される傾向があることから好ましい。
中でも、ゲル化するまであるいはその直前までは0〜40℃、好ましくは、10〜35℃程度で反応させ、ゲル化が確認できてから、30〜100℃、好ましくは40〜80℃で反応させると、ゲル内にミクロ孔(直径が2nm未満の微細孔)、メソ孔(直径が2〜20nmの細孔)、及びマクロ孔(直径が20nmよりも大きい孔)などの空孔を含む微細構造が形成され、後述する[3]工程で、該空孔に再びゲルが充填され、そのゲルは、ミクロ孔を主とする微細構造が形成され、結果として、単位体積あたりの静電容量に優れる電極を与えることから好ましい。
このように、ゲル化するまでは、0〜40℃程度の温度で行ったり、密閉系で反応させたりする、加湿系で反応させるなどして、[1]工程においては水を蒸発させないことにより、脱水による空孔の生成を抑制することができる。
【0018】
[1]工程の具体的な方法としては、(i)円盤状、直方体などに凹部を有するディスク状鉢形容器の凹部に、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を充填し、静置することにより、反応させて凹部に湿潤ゲルを作製する方法、(ii)フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を混合して、流動可能なゾルを得た後、平滑な支持基材上に、ディップコーター、バーコーター、スピンコーターなどのコーターを用いて該ゾルを塗布し、さらに加熱、反応させて湿潤ゲルを得る方法、(iii)前記と同様にして得たゾルを平滑な支持基材上に、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、CAPコーティング法、ダイコーティング法を用いて塗布し、さらに加熱、反応させて湿潤ゲルを得る方法などが挙げられる。
【0019】
導電性の向上を目的として、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液に微細炭素繊維を混合させて、湿潤ゲルを作製してもよい。ここで、微細炭素繊維とは、通常、平均繊維径(直径)が2μm 以下である炭素繊維であり、好ましくは500nm 以下の炭素繊維である。なお、本発明における微細炭素繊維の平均繊維径とは、微細炭素繊維の繊維断面形状が円形の場合は、個々の繊維の断面の直径の合計を本数で除した平均値を示し、繊維断面形状が円形でない場合は、個々の繊維の断面積から求めた円相当直径の合計を本数で除した平均値を示す。導電性の観点から、微細炭素繊維の純度は95%以上であることが好ましい。
微細炭素繊維としては、気相成長法によって製造され、繊維径および繊維長が一般的な炭素繊維に比較して極めて小さい炭素繊維(気相成長カーボン繊維)であるカーボンナノファイバーを用いることが好ましい。
微細炭素繊維の使用量としては、通常、フェノール化合物1重量部に対し0.1重量部以下、好ましくは、1×10−6〜0.01重量部である。
【0020】
[1]工程で得られる湿潤ゲルの厚みは、最も短い辺が3mm以下のものが好ましく、0.3〜2.8mm以下のものが特に好ましい。湿潤ゲルの最も短い辺の厚みが0.3mm以上であると、得られる炭素材料の機械的強度が向上する傾向があることから好ましい。また、湿潤ゲルの最も短い辺の厚みが3mm以下であると、後述する[2]工程の脱水時間が短縮される傾向や、後述する[3]工程の含浸時間が短縮される傾向があることから好ましい。
湿潤ゲルの厚みは、(i)の方法であればディスク状鉢形容器の凹部の深さを適宜、調整すればよく、(ii)の方法であれば、コーターの高さを適宜、調整すればよく、(iii)の方法であれば、コーティングの厚みを適宜、調整すればよい。
【0021】
本発明の[2]工程は、[1]で得られた湿潤ゲルを脱水する工程であり、この工程で乾燥ゲルを得ることができる。湿潤ゲルから水を除去する方法としては、例えば、水を直接、通風乾燥法、減圧乾燥法、30〜150℃程度での加熱乾燥法、0℃以下での凍結乾燥法、あるいはこれらの乾燥法の組合せなどが挙げられるが、好ましい実施態様として、前記湿潤ゲル中の水を親水性有機溶媒で置換したのち、該親水性有機溶媒を除去する方法が推奨される。
上記の親水性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール及びt−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトニトリル等の脂肪族ニトリル類;アセトン等の脂肪族ケトン類;ジメチルスルホキシド等の脂肪族スルホキシド類;酢酸等の脂肪族カルボン酸類が挙げられる。
これらの親水性有機溶媒のうち、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド又は酢酸が好ましく用いられ、t−ブチルアルコールが特に好ましく用いられる。
【0022】
親水性有機溶媒を除去する方法としては、例えば、通風乾燥法、減圧乾燥法、30〜150℃程度での加熱乾燥法、0℃以下での凍結乾燥法、あるいはこれらの乾燥法の組合せなどが挙げられるが、凍結乾燥法は、ゾル−ゲル反応により作られた湿潤ゲルを構成する粒子の三次元の網目状構造を保持することができることから好ましい。すなわち、凍結乾燥法形態及び機能的に三次元の網目状構造が有する性状を維持しつつ、湿潤ゲル中の親水性有機溶媒等の液体を除去することができる。
さらに、凍結乾燥装置を用いることにより、湿潤ゲルを短時間で乾燥することができると共に、乾燥ゲルの製造コストを低減化することができることから好ましい。
凍結乾燥における凍結温度は、通常は−70〜0℃の範囲であり、好ましくは−30〜−5℃の範囲である。
【0023】
[3]工程は、[2]工程で得られた乾燥ゲルに、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸させ、反応させる工程であり、乾燥ゲルが有するマクロ孔やメソ孔などの空孔、中でもメソ孔に、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸させ、該水溶液からコロイド粒子を経て、乾燥ゲル内の空孔にさらに三次元網目構造を形成させた再湿潤ゲルを得る工程である。
上記水溶液は、調整された水溶液をそのまま乾燥ゲルに含浸させてもよいし、上記水溶液を攪拌させてゾル化したのち、コロイド粒子として乾燥ゲル内の空孔に含浸させてもよい。
用いるフェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒については、[1]工程で例示されたフェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を用いればよく、[1]工程で用いられたものと同一であっても異なっていてもよい。
好ましくは、フェノール化合物、アルデヒド化合物、塩基性触媒および水の使用量を適宜、調整したり、上記水溶液の攪拌時間(ゾル化時間)を調整するなどして、[1]工程で得られたゲルのコロイド粒子に由来するナノ粒子と[3]工程で形成されるコロイド粒子に由来するナノ粒子とがほぼ同一径となるように調整することが好ましい。
図1(a)には、[1]および[2]工程を施して得られた乾燥ゲルを炭化(焼成)して得られた材料(比較例4)の電子顕微鏡写真と、図1(b)には、[1]および[2]工程を施して得られた乾燥ゲルを[3]〜[5]工程を経て得られた本発明の炭素材料(実施例15)の電子顕微鏡写真を示した。写真からも明らかなように、本発明の炭素材料は[1]および[2]工程を施して得られたナノ粒子と同等程度の粒子径のナノ粒子がメソ孔に生成していることがわかる。
【0024】
含浸時間は、得られる乾燥ゲルの量、用いるフェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒からなる水溶液の濃度、粘度によっても異なるが、通常、1時間〜48時間程度、好ましくは、5時間〜30時間程度である。
含浸を十分に行うために、[3]工程においては、0〜40℃、好ましくは、10〜35℃程度にて、密閉系で反応させたり、加湿系で反応させるなどして、[3]工程において、水を蒸発させないことが好ましい。
含浸する際には、真空ポンプなどで減圧にした乾燥ゲルを用いて含浸させる方法も推奨される。
【0025】
含浸させた後、通常、30〜100℃、好ましくは40〜80℃にて、1〜48時間、好ましくは5〜30時間、静置することにより、乾燥ゲルにおけるマクロ孔およびメソ孔などの空孔に三次元の網目状構造を形成させる。
[3]工程は、乾燥ゲル内の空孔にゲルの三次元網目構造を形成させればよく、実施例の如く、含浸させたのち、静置してもよいし、含浸と静置を交互におこなってもよい。
含浸時間が長いと、乾燥ゲルの外殻部分に密度の低いゲルが生成する場合がある。このゲルを含む再湿潤ゲルをそのまま次の工程で処理してもよいが、単位体積あたりの静電容量を向上させる観点から、外殻部分のゲルを研磨するなどして除去することが好ましい。
【0026】
[4]工程は、[3]工程で得られた含浸ゲルを脱水する工程であり、再乾燥ゲルを得る工程である。具体的には[2]工程の項で例示された方法と同様に行えばよい。[2]工程と[4]工程は同一条件でも異なった条件で行ってもよい。
【0027】
[5]工程は、[4]工程で得られた再乾燥ゲルを焼成(炭化)し、炭素材料を得る工程である。通常は、不活性ガス雰囲気中で行われ、焼成(炭化)時の不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素等が好ましい。焼成(炭化)温度は、通常は200〜3000℃の範囲であり、体積抵抗率を低減させるためには、カルボキシル基などの官能基を除去し得る800℃以上であることが好ましく、グラファイト化を抑制するためには1100℃以下であることが好ましい。
焼成時間は、通常は数分間〜数時間の範囲である。
【0028】
本発明の炭素材料は、不活性ガスに、更に、H2O、CO2又はO2を含む酸化性ガス雰囲気において賦活処理してもよい。賦活温度は、通常、700〜1500℃の範囲、体積抵抗率を低減させる観点から、800〜1300℃の範囲で行われることが好ましい。賦活時間は、通常は数分間〜数時間の範囲である。賦活時間は、通常は数分間〜数時間の範囲である。
上記の賦活により、微細構造の割合、特にミクロ孔が多くなり、単位重量当りの表面積の大きな炭素材料を得ることができる。
また、上記の酸化性ガス雰囲気における賦活処理では、薬品を併用してもよい。即ち、上記[4]工程で得られた炭素材料に塩化亜鉛、リン酸、硫化カリウムや水酸化カリウム等の化学薬品を添加した後、H2O、CO2又はO2などの酸化性ガス雰囲気において賦活処理を行うことができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
[1]工程
蒸留水10g([レゾルシノールの重量]/[水の重量]=0.5g/ml、以下、R/W=0.5g/mlという場合がある)、炭酸ナトリウム48mg([フェノール性水酸基のモル数]/[ナトリウムカチオンのモル数]=100mol/mol、以下、R/C=100mol/molという場合がある)、レゾルシノール5.0g及び37重量%ホルマリン7.37gを仕込んだ([レゾルシノールのモル数]/[ホルマリンのモル数]=0.5mol/mol)を順次、混合して水溶液を調製した。
【0031】
[2]工程
厚さ1mm、内径17mmの円盤状の凹部を有するディスク状鉢形容器(2)を該凹部の開孔部が上面になるようにシャール(3)内に置いた。続いて、該凹部に気泡を含まないように、[1]工程で調製した水溶液(1)をシャーレ(3)にゆっくりと注いだ(図2(a)参照)。鉢形容器(2)が凹部を含めて全て水溶液(1)によって浸漬されたのち、該凹部の開孔部を覆うように、シャーレ(3)よりも小さいシャーレ(4)の底面と該開孔部を重ね合わせて置き(図2(b)および(c)参照)、水が蒸発しないように、さらに2つのシャーレをラップで密閉した。続いて、1日間25℃で保存した後、オーブン中50℃で1日間保存し、湿潤ゲルを得た。
【0032】
[2]工程
[1]工程で得られた湿潤ゲルをt−ブチルアルコールに数時間浸漬し、取り出した。この操作を3日間で5回以上繰り返して、湿潤ゲル中の水をt−ブチルアルコールに置換した。t−ブチルアルコールで置換されたゲルを−10℃にて3日間かけて凍結乾燥し、乾燥ゲルを得た。
【0033】
[3]工程
[2]工程で得られた脱水ゲルをシャーレに置き、[1]工程と同様に調製された水溶液を該シャーレにゆっくりと注いだ。脱水ゲルが全て水溶液によって浸漬されたのち、脱水ゲルを覆うように、該シャーレよりも小さいシャーレの底面で覆い、水が蒸発しないように、さらに2つのシャーレをラップで密閉した。続いて、1日間25℃で保存した後、オーブン中50℃で1日間保存し、再湿潤ゲルを得た。
【0034】
[4]工程
[3]工程で得られた再湿潤ゲル中の水を[2]工程と同様にしてt−ブチルアルコールに置換し、−10℃にて3日間かけて凍結乾燥して、再乾燥ゲルを得た。
【0035】
[5]工程
[2]工程で得られた再乾燥ゲルを電気炉((株)京都サイエンス)のセラミック管内に置き、室温下で窒素を同管に200 ml/minにて30分間流通して窒素置換した。続いて、同様に窒素を流しながら、4.2℃/minで523℃まで昇温し、523℃で2時間保持した後、再び、4.2℃/minで1000℃まで昇温し、1000℃にて4時間保持し、厚みが約0.60mmの炭素材料を得た。
【0036】
[細孔特性と静電容量の評価]
得られた炭素材料の77度(絶対温度)における窒素の吸脱着等温線を自動ガス吸着装置(日本ベル, BELSORP28)で測定し、BET式(ブルナウア−エメット−テーラー式)を用いて比表面積(以下、SBETという場合がある)を求めたところ、857 m2/g であった。
また、上記脱着等温線をDollimore−Heal法でメソ細孔容積およびメソ細孔分布を求めたところ、メソ細孔容積(以下、Vmesoという場合がある)0.60 cm3/g、メソ細孔分布のピーク半径(以下、Rp,mesoという場合がある)は 4.05 nm であった。また、上記脱着等温線をt-プロット法でミクロ孔容積(以下、Vmicroという場合がある)を求めたところ、0.23 cm3/g であった。
さらに、4M水酸化カリウムを電解液として、得られた炭素材料をそのまま3極式セルの作用極として用い、対極としてNi電極として用い、参照電極としてAg/AgCl電極を用いた定電流充放電測定(300mA/g)により電気二重層キャパシタの単位重量あたりの静電容量(以下、Cmasという場合がある)を求めたところ 151.9 F/g であり、電極の密度(用いた電極の径、厚みおよび質量から円柱として求めた。以下、ρという場合がある。)0.89 g/cm3 であったことから、電気二重層キャパシタの単位体積あたりの静電容量(以下、Cvolという場合がある)は 134.9 F/cm3 であった。
【0037】
(比較例1)
実施例1の[2]工程で得られた乾燥ゲルを実施例1の[5]工程と同様に焼成した。得られた炭素材料の結果を実施例1とともに表1にまとめた。
比較例1と実施例1を比較すれば明らかなように、実施例1はメソ細孔容積が低減され、単位体積あたりの静電容量が著しく増加していることがわかる。また、体積抵抗率は、2.67 Ω・cmであった。
【0038】
【表1】

【0039】
(実施例2〜6)
実施例1の[3]工程において、[1]工程で調整された水溶液をただちに使用した実施例1とは異なり、実施例2〜6の[3]工程において、表1の水溶液静置時間に記載された時間だけ[1]工程で調整された水溶液を静置してゾル化したものを用いた。結果を表1に示す。比較例1と比較すれば明らかなように、実施例2〜6はメソ細孔容積が低減され、単位体積あたりの静電容量が著しく増加していることがわかる。
【0040】
(実施例7および8)
[3]工程において用いた水溶液のR/C、R/Wおよび水溶液静置時間が表1に記載のものを用いること以外は、実施例1と同様にして炭素材料を調製した。結果を表1に示す。比較例1と比較すれば明らかなように、実施例7〜16はメソ細孔容積が低減され、単位体積あたりの静電容量が著しく増加していることがわかる。
尚、実施例7で得られた炭素材料の体積抵抗率は、2.50 Ω・cmであった。
【0041】
(実施例9〜22)
[1]工程において用いた水溶液のR/CおよびR/Wが表1に記載されたものを用い、[3]工程において用いた水溶液のR/C、R/Wおよび水溶液静置時間が表1に記載のものを用いること以外は、実施例1と同様にして炭素材料を調製した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2〜6)
[1]工程において用いた水溶液のR/CおよびR/Wが表1に記載されたものを用いる以外は比較例1と同様にして炭素材料を調製した。結果を表1に示す。比較例2は実施例9で得られた乾燥ゲルをそのまま、焼成したことを意味し、比較例3は実施例10〜13で得られた乾燥ゲルをそのまま、焼成したことを意味し、比較例4は実施例14〜17で得られた乾燥ゲルをそのまま、焼成したことを意味し、比較例5は実施例18〜19で得られた乾燥ゲルをそのまま、焼成したことを意味し、比較例6は実施例20〜22で得られた乾燥ゲルをそのまま、焼成したことを意味する。
実施例は対応する比較例よりもメソ細孔容積が低減され、単位体積あたりの静電容量が著しく増加していることがわかる。
尚、比較例3で得られた炭素材料の体積抵抗率は、2.84 Ω・cmであった。
【0043】
(実施例23)
[5]工程の最終焼成温度が900℃である以外は実施例15と同様にして炭素材料を調製した。結果を表2に示す。また、体積抵抗率は、2.87 Ω・cmであった。
尚、静電容量はいずれも、電流密度が5A/gにおける定電流充放電測定である以外は実施例15と同様に測定した。
【0044】
(実施例24)
カーボンナノファイバー(ハイペリオン社製)をレゾルシノール1重量部に対して1×10−5重量部の割合で[1]工程の水溶液に混合する以外は実施例23と同様にして炭素材料を調製した。結果を表2に示す。また、体積抵抗率は、1.58 Ω・cmであった。
尚、静電容量は実施例23と同様に測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
(サイクル特性)
実施例15の炭素材料をそのまま3極式セルの作用極として用いる以外は、対極としてNi電極、参照電極として、Ag/AgCl電極を用いて、300mA/gの電流密度にて、前記と同様の定電流充放電測定を10000回繰り返した。途中の結果を図3に示した。最終的に、単位体積当たり静電容量は1.8%、密度は2%の減少にとどまった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法で得られる炭素材料は、例えば、固体形状を有するカーボンブラックや活性炭などにも用いるが、優れた導電性から、リチウム二次電池、電気二重層キャパシタのような電極などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)比較例4で得られた炭素材料の電子顕微鏡写真 (b)実施例15で得られた炭素材料の電子顕微鏡写真
【図2】[2]工程の説明図 (a)上面に開孔部が向いている凹部を有する鉢形容器(2)をシャーレ(3)に置き、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液(1)を加えた。 (b)シャーレ(4)を鉢形容器(2)に置く。 (c)シャーレ(4)を置き、ラップで密閉する前の状態
【図3】定電流充放電の回数を横軸、静電容量を縦軸としたサイクル特性の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[1]〜[5]工程を含む炭素材料の製造方法。
[1]フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて湿潤ゲルを作製する工程。
[2][1]で得られた湿潤ゲルを脱水して、乾燥ゲルを作製する工程。
[3][2]で得られた乾燥ゲルに、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸、反応させて、再湿潤ゲルを作製する工程。
[4][3]で得られた再湿潤ゲルを脱水して、再乾燥ゲルを作製する工程。
[5][4]で得られた再乾燥ゲルを焼成して炭素材料を作製する工程。
【請求項2】
フェノール化合物が、式(1)で表される化合物である請求項1に記載の製造方法。

(式中、R1は、ハロゲン原子若しくは置換基で置換されていてもよいアルキル基、又は水素原子を表す。nは2〜5の整数を表し、mは0〜3の整数を表すが、nとmの和は5である。)
【請求項3】
[1]工程が、凹部を有するディスク状の鉢形容器の凹部にて、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて、凹部に湿潤ゲルを作製する工程である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
[1]工程に用いられる水溶液に、さらに、微細炭素繊維を混合する工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
[1]工程が、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液が0〜40℃で反応し、続いて、30〜100℃で反応する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
[2]工程が、湿潤ゲル中の水を親水性有機溶媒に置換し、次に、凍結乾燥して親水性有機溶媒を除去する工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
[3]工程が、乾燥ゲルをフェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液中にて、0〜40℃にて1時間〜48時間含浸させたのち、得られたゲルを引き上げて、さらに、30〜100℃にて5〜48時間静置する工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
[4]工程が、再湿潤ゲル中の水を親水性有機溶媒に置換し、次に、凍結乾燥して親水性有機溶媒を除去する工程を含む請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
[5]工程が、再乾燥ゲルを不活性ガス雰囲気下で焼成する工程を含む請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
下記[1]〜[5]工程を経てなる電極。
[1]フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を反応させて湿潤ゲルを作製する工程。
[2][1]で得られた湿潤ゲルを脱水して、乾燥ゲルを作製する工程。
[3][2]で得られた乾燥ゲルに、フェノール化合物、アルデヒド化合物及び塩基性触媒を含む水溶液を含浸、反応させて、再湿潤ゲルを作製する工程。
[4][3]で得られた再湿潤ゲルを脱水して、再乾燥ゲルを作製する工程。
[5][4]で得られた再乾燥ゲルを焼成して炭素材料を作製する工程。
【請求項11】
請求項10に記載の電極を含む電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−40646(P2009−40646A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209005(P2007−209005)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】