説明

炭素繊維の再生処理方法

【課題】炭素複合材料から再利用可能な炭素繊維を回収することができ、炭素繊維の長さや形状を保持した状態で再生することが可能な炭素繊維の再生処理方法の提供を課題とする。
【解決手段】再生処理方法1は、炭素複合材料をメッシュベルトに載置して所定の搬送速度で搬送する搬送する炭素複合材料搬送工程S1と、搬送された炭素複合材料を予備的に加熱する予備加熱工程S2と、予備加熱領域で発生した残ガス成分を回収する残ガス回収工程S3と、回収された残ガス成分を再燃焼させる残ガス燃焼工程S4と、加熱温度に到達した炭素複合材料を当該加熱温度で保持し、マトリックス成分を除去する加熱除去工程S5と、マトリックス成分の加熱除去された再生炭素繊維を冷却する冷却工程S6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の再生処理方法に関するものであり、特に、炭素繊維強化樹脂に含まれるマトリックス成分を高温で除去し、炭素繊維のみを連続的に再生することの可能な炭素繊維の再生処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高強度性及び高弾性率等の優れた力学的特性を備える素材として炭素繊維が知られている。そして、係る炭素繊維をフィラー成分として使用し、さらに熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂をマトリックス成分(母材)として使用することにより、炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)のコンポジット(炭素複合材料)が構成されている。この炭素複合材料は、原子量の小さい炭素原子を主材として形成されるものであり、他の材料(例えば、金属性複合材料)と比べ、比強度及び比弾性率の点において特に優れた機能を有するものである。
【0003】
そのため、軽量かつ高力学的特性の要求される、例えば、航空・宇宙産業等において、航空機等の機体の主要構成材の一部として採用されたり、或いは燃費及び安全性の要求される自動車産業において、シャーシの一部として採用されている。また、上記のような先端技術産業及び主要基幹産業における使用以外にも、我々の生活に身近な日常製品においても、その応用か拡大している。例えば、ユニットバスや浄化槽等の住宅設備機器の一部として使用されたり、或いは、ゴルフクラブ、テニスラケット、及び釣り竿等のスポーツ・レジャー関連製品にもその使用が拡がっている。
【0004】
ところで、上記のように優れた力学的特性を有し、種々の産業分野においてその使用が拡大している炭素繊維及びこれらを用いた炭素複合材料であっても以下に述べるような問題点を有している。すなわち、炭素繊維と樹脂からなるマトリックス成分という特性の異なる異種材料同士を組合わせ、これを一体的に成型した炭素複合材料は、製造加工時に発生する端材或いは不良品、または使用後の再生処理が非常に困難であった。
【0005】
そこで、炭素複合材料を予め所定温度で乾留し、マトリックス成分に含まれる固定炭素を炭化した後に、濃度調整された酸素を供給しながら、300℃〜1000℃程度の加熱温度で加熱することにより、燃焼反応を生じさせることなく、炭化物を酸化分解してガス化させ、炭化物のガス化後に残存する固体状の炭素繊維を回収し、再利用する技術も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−33904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記に示した炭素繊維の回収に係る処理技術は、下記に掲げる点において問題を生じることがあった。すなわち、これらの処理技術は、予め炭素複合材料(炭素繊維強化樹脂)を乾留する第1工程と、濃度調整された酸素雰囲気下で加熱処理を行う第2工程とを要するものであり、係る第1工程及び第2工程を連続的に行うことはできなかった。そのため、加熱及び冷却のサイクルを少なくとも2回繰り返す必要があり、一回当たりの処理可能な炭素複合材料の処理量が限定されていた。
【0008】
具体的に説明すると、特許文献1に開示されている処理方法によれば、3〜10cm状に破砕した炭素繊維強化樹脂の破砕片をメッシュの金網の上に載せ、さらに加熱炉空間を密閉した電気炉内に投入し、そのまま所定の時間保持することにより乾留処理を行う(第1工程)。その後、電気炉内から取出し、再び酸素雰囲気下で加熱処理(第2工程)を行い、冷却後に再生された炭素繊維を回収するものである。すなわち、所謂「バッチ方式」を採用するものであり、上述したように、一回当たりの処理量が限定され、再生処理が非効率的に行われていた。さらに、第2工程において、濃度調整された酸素を供給する必要があり、高温加熱時に酸素を供給することは危険を伴うものであった。
【0009】
加えて、処理に使用する電気炉の密閉された加熱炉空間のサイズによって、処理可能な炭素繊維強化樹脂の処理量が限定されるとともに、処理する炭素繊維強化樹脂は、3cm〜10cm程度の小片に破砕する前処理が必要であった。ここで、炭素繊維強化樹脂に使用される炭素繊維の中には、長繊維状のものをそのまま使用するものがあり、前処理によって炭素繊維を細かく分断したもの、すなわち、短繊維状に分割したものは力学的特性等が変化し、長繊維状の炭素繊維としては再利用することができない場合があった。すなわち、再生される炭素繊維は、炭素複合材料に使用されたままの繊維形状をそのまま保持したままで回収することが期待されていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、炭素繊維強化樹脂を連続的に再生処理し、再利用可能な炭素繊維を回収することができ、元の炭素繊維の長さや形状を保持した状態で再生することが可能な炭素繊維の再生処理方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の炭素繊維の再生処理方法は、「耐火性素材によって内部に細長トンネル形状の再生処理空間が構築され、前記再生処理空間に連通する導入口及び排出口がそれぞれ開口した再生処理部に、網状部材で構成されたメッシュ搬送部の搬送面に炭素繊維及びマトリックス成分を含有する炭素複合材料を載置し、前記導入口から前記再生処理空間に導入し、前記排出口から排出する炭素複合材料搬送工程と、前記再生処理空間の加熱領域に設けられた加熱除去部によって、搬送される前記炭素複合材料を加熱し、前記マトリックス成分を加熱除去する加熱除去工程と、前記再生処理空間の前記加熱領域の搬送下流側の冷却領域に設けられた冷却部によって、前記マトリックス成分の加熱除去された再生炭素繊維を搬送しながら冷却する冷却工程とを具備し、前記炭素複合材料を連続的に再生処理する」ものから主に構成されている。
【0012】
ここで、再生処理部とは、例えば、煉瓦のような耐火性素材を用いて構築されるものであり、内部に細長トンネル状の再生空間が設けられているものである。一方、メッシュ搬送部とは、例えば、金属製の網状部材からなる長帯状(ベルト状)の部材であり、係る長帯状の一端(ベルト一端)及び他端(ベルト他端)を互いに連結することにより、円環状に形成し、ベルト内面を複数の回転ローラで支持することにより、ベルト外面(搬送面に相当)に載置された物品(炭素複合材料)を略水平方向に搬送可能なメッシュベルトを挙げることができる。或いは、複数のローラ部材の上にメッシュ状のプレートを載せ、係るプレートを搬送するものであってもよい。これにより、炭素複合材料を再生処理部の再生処理空間に搬送することができる。
【0013】
ここで、本発明の炭素繊維の再生処理方法の処理対象となる炭素複合材料は、例えば、フィラー成分としてポリアクリロニトリル系炭素繊維を用い、マトリックス成分として、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いたものを想定することができる。この場合、炭素複合材料に占めるマトリックス成分の重量比は、約60重量%のものが一般的である。ここで、熱可塑性樹脂は、100℃〜200℃程度の加熱温度で、容易に液状化し、さらに高温の加熱温度になると熱分解し、ガス化する性質を有している。一方、炭素繊維は、さらに高温で焼成処理することによって製造されたものであり、400℃から850℃程度では炭素繊維自体が分解することがない。そのため、メッシュベルトによって徐々に加熱領域に到達する炭素複合材料は、その到達の過程で含有するマトリックス成分のみが液化或いは気化によって除去され、炭素繊維(再生炭素繊維)のみが残存することとなる。なお、850℃程度までの加熱温度であれば、大気中であっても再生炭素繊維の炭素成分が酸素と反応し、消費されることがほとんどない。その結果、前述したように、再生炭素繊維のみを残すこととなり、上記の比率では約40重量%の再生炭素繊維が排出口から排出され、回収することができる。
【0014】
したがって、本発明の炭素繊維の再生処理方法によれば、メッシュベルトによって再生処理部の再生処理空間に搬送された炭素複合材料は、加熱領域に設けられた加熱除去部によって高温で加熱され、炭素複合材料に含まれるマトリックス成分を液化または気化によって容易に分解される。そして、加熱領域から冷却領域に到達した炭素複合材料は、含有するマトリックス成分がほぼ完全に除去され、炭素繊維(再生炭素繊維)のみとなっている。すなわち、炭素複合材料搬送工程によって再生処理空間に炭素複合材料を搬送しながら、加熱除去工程及び冷却工程を行うことにより、炭素複合材料からの炭素繊維の再生処理を連続的に行うことが可能となる。その結果、従来の回分式の処理方法に比べ、単位時間当たりの処理量が増加し、大量の炭素複合材料の処理が可能となる。
【0015】
さらに、本発明の炭素繊維の再生処理方法は、上記構成に加え、「前記再生処理空間の前記加熱領域の搬送方向上流側に設定された予備加熱領域に設けられた予備加熱部によって、前記炭素複合材料に含まれる熱硬化性樹脂からなる前記マトリックス成分を前記加熱温度に到達するように予備的に加熱する予備加熱工程と」を具備するものであっても構わない。
【0016】
したがって、本発明の炭素繊維の再生処理方法によれば、加熱領域の搬送上流側の再生処理空間に予備加熱領域が設けられ、当該予備加熱領域に設置された予備加熱部によって搬送される炭素複合材料を予備的に加熱することが可能となる。これにより、加熱領域に到達する炭素複合材料は、既に加熱温度まで昇温されている。このとき、予備加熱領域は、大気中の酸素がほとんど流入しない。その結果、乾留が当該予備加熱領域で進行することとなる。これにより、マトリックス成分の熱硬化性樹脂は燃焼することなく、熱分解反応を生じ、その一部が炭化水素ガス等にガス化する。その後、加熱領域に到達した炭素複合材料は、残存したマトリックス成分の残留分の酸化分解が進行し、炭素複合材料から該マトリックス成分が除去される。これにより、マトリックス成分に熱硬化性樹脂が含まれる場合であっても、予備加熱部によってこれを予め処理し、その後の加熱工程で完全にマトリックス成分を除去することが可能となる。その結果、冷却工程の行われる冷却領域には、再生後の炭素繊維(再生炭素繊維)のみが搬送されることなる。
【0017】
さらに、本発明の炭素繊維の再生処理方法は、上記構成に加え、「前記予備加熱工程によって加熱された前記炭素複合材料から発生する炭化水素ガスを含む残ガス成分を前記予備加熱領域から回収する残ガス回収工程と、回収された前記残ガス成分を再燃焼させる残ガス燃焼工程と」を具備するものであっても構わない。
【0018】
一般にマトリックス成分の樹脂(ポリマー)を燃焼させる場合、二酸化炭素と一酸化炭素が主に発生する。さらに、酸素供給が十分でない場合、すなわち、不完全燃焼の場合、煤、及びメタン、エタン、ベンゼンなどの炭化水素ガスが発生することが知られている。
【0019】
したがって、本発明の炭素繊維の再生処理方法によれば、予備加熱工程において、酸素不足のため不完全燃焼によって発生した煙やメタン等の炭化水素ガスを回収し、バーナー等の燃焼手段によって燃焼することが行われる。これにより、煙に含まれる煤及び炭化水素ガス等を完全燃焼させ、二酸化炭素及び水に転換した後に大気中に放出することができる。その結果、自然環境に対する影響を小さくすることができる。
【0020】
さらに、本発明の炭素繊維の再生処理方法は、上記構成に加え、「前記加熱工程は、前記加熱領域を400℃以上、850℃以下の加熱温度で加熱可能に設定され、前記炭素複合材料搬送工程は、前記炭素複合材料を前記再生処理部の前記導入口から前記排出口まで搬送する1搬送サイクル当たり、30min以上、360min以下の搬送時間を要するように設定される」ものであっても構わない。
【0021】
したがって、本発明の炭素繊維の再生処理方法によれば、上記の加熱条件及び搬送条件によって炭素複合材料から炭素繊維(再生炭素繊維)のみを安定的に再生処理することができる。ここで、1搬送サイクルとは、再生処理部の導入口から排出口まで炭素複合材料を搬送することであり、これに要する時間が30min以上、360min以下になっている。そのため、導入口及び排出口の間の長さ(再生処理部の長さ)によって搬送速度が決定される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の効果として、メッシュベルト等に載置した炭素繊維及びマトリックス成分を含む炭素複合材料から、加熱によって樹脂からなるマトリックして除去することができる。すなわち、炭素複合材料の再生処理をメッシュベルトを利用して連続で行うことができる。さらに、処理する炭素複合材料を従来のように、予め小片状に破砕または粉砕するといった、前処理の工程を省略することもできる。そのため、再生作業全体の労力を大幅にカットすることができる。その結果、連続して実施することにより、単位時間当たりの炭素複合材料の再生処理効率を大幅に向上させることができ、かつ粉砕等の前処理が必要ないために、処理前の炭素複合材料に含まれるそのままの長さの炭素繊維を回収することができる。その結果、得られた(回収された)再生炭素繊維の力学的特性の低下がほとんどなく、長繊維状の炭素繊維の用途にそのまま再利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態の炭素繊維の再生処理方法1(以下、単に「再生処理方法1」と称す)について、図1乃至図3に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の再生処理方法1に使用される再生処理装置27の一例の概略構成を示す側方から見た模式断面図であり、図2は再生処理装置27の概略構成を示す上方から見た説明図であり、図3は再生処理方法1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0024】
始めに、本実施形態の再生処理方法1に使用される再生処理装置27について、図1に基づいて説明すると、再生処理装置27は、耐火性素材である耐火煉瓦を利用して、内部に細長いトンネル状の再生処理空間2が構築された再生処理部3と、再生処理部3の長手方向を貫通するように、横長形状に配された円環状のメッシュベルト4と、メッシュベルト4を支持し、ローラ軸5a周りに回転可能な複数の回転ローラ5を有する搬送部6と、再生処理空間2を三つの領域に分け、その中央に設定された加熱領域HZに設置された加熱除去部7と、加熱領域HZの搬送下流側に設定された冷却領域CZに設けられ、再生処理済みの再生炭素繊維8を室温近傍まで徐冷する冷却部9と、加熱領域HZの搬送上流側に設定された予備加熱領域PZに設けられ、加熱領域HZに到達するまでに炭素複合材料10を所定の加熱温度まで予備的に加熱する予備加熱部11と、予備加熱領域PZに連通するように再生処理部3の一部を開口し、予備加熱領域PZで発生した煙や炭化水素ガス等を含む残ガス成分12を当該予備加熱領域PZから吸引し、回収する残ガス回収部13と、回収された残ガス成分12をバーナーBの燃焼手段の炎に近接させ、燃焼炉14内で再燃焼させた後に外部に放出する残ガス燃焼部15とを具備して主に構成されている。係る構成によって、メッシュベルト4に載置された炭素複合材料8は、搬送方向(図1における矢印A方向)に沿って搬送され、搬送上流側の再生処理部3に開口した導入口16から再生処理空間2に導入され、さらに搬送下流側に開口した排出口17から再生処理空間2から排出される。ここで、メッシュベルト4が本発明のメッシュ搬送部に相当する。
【0025】
ここで、導入口16及び排出口17の間の再生処理空間2は、三つの領域が設定されている。すなわち、導入された炭素複合材料10を室温近傍の温度から所定の加熱温度(例えば、550℃)に到達するように予め設定された温度勾配に沿って徐々に加熱するための予備加熱領域PZと、予備加熱領域PZの搬送下流側に設定され、再生処理空間2のほぼ中央付近を占め、予備加熱領域PZで到達した加熱温度をそのまま保持し、炭素複合材料10を加熱し、マトリックス成分を分解除去することによって再生処理を行う加熱領域HZと、加熱領域HZの搬送下流側に設定され、再生処理された後の再生炭素繊維8を室温近傍まで冷却するための冷却領域CZとの三つの領域である。ここで、個々の領域PZ,HZ,CZの境界は、明確には設定されているものではない。また、各領域のそれぞれの長さ(範囲)は、再生処理空間2の横方向の長さ(図1における紙面左右方向に相当)をおおよそ三等分した範囲がそれぞれに領域PZ等に相当している。
【0026】
ここで、メッシュベルト4及び該メッシュベルト4を回転ローラ5に従動させて、搬送方向に回転させるための搬送部6の回転伝達機構及び回転駆動用モータ等の周知の構成についてはここでは説明を省略する。また、加熱除去部7及び予備加熱部11は、メッシュベルト4の上ベルト18及び下ベルト19の間に介設され、上ベルト18のベルト内面20に相対するように発熱体21が設置されたものである。なお、加熱除去部7及び予備加熱部11における発熱体21以外の構成、すなわち、抵抗熱によって熱を発生させるために該発熱体21に電流を供給する電流供給部、供給する電流値を調整する電流調整機構、及び加熱領域HZ及び加熱温度領域PZの複数箇所の温度をそれぞれ測定する温度測定センサ等の構成については、周知のスライダックや熱電対等を用いることが可能であり、ここでは図示及びその説明について省略するものとする。
【0027】
また、冷却領域CZに設けられた冷却部9は、再生処理後で高温の状態のままの再生炭素繊維8を徐冷し、排出口21から排出された段階で作業者が回収可能な程度の温度まで下げるためのものである。そのため、十分な時間或いは非常に長い距離を冷却領域に設定可能な長大な再生処理部を採用することができれば、自然に室温近傍に下がるまでそのまま放置すれば足り、何ら特別な手段を必要としない。なお、本実施形態の再生処理方法1に用いる再生処理装置27の場合、搬送下流側から冷却領域CZに搬送上流側に向けて強制的に冷たい外気(エアー)を送気するエアー送気部22を利用することができる。そして、再生処理部3の冷却領域CZには、再生処理空間2と連通するように上方に開口した連通口23が数カ所に開設され、該連通口23には吸気ダクト24が接続されている。これにより、送気され、当該冷却領域CZにおいて熱交換によって温められたエアーの一部(例えば、約60%程度)は、吸気ダクト24を通じて外部に放出され、残りのエアー(例えば、約40%程度)は搬送上流側の加熱領域HZに流れることとなる。
【0028】
次に、本実施形態の再生処理装置27を使用した再生処理方法1の一例について、主に図2及び図3に基づいて説明する。なお、加熱除去部7及び予備加熱部11によって、既に再生処理空間2の加熱領域HZ及び予備加熱領域PZは、所定の加熱温度または当該加熱温度に到達するための所定の温度勾配になるように制御され、さらに冷却部9のエアー送気部22からは冷却領域CZに向かって冷たい外気が送気されるようになっている。
【0029】
始めに、回転ローラ5を回転させ、これに伴って従動するメッシュベルト4を稼働させる。これにより、搬送上流側のベルト一端4aから下流側のベルト他端4bに向けて回転ローラ5の上に位置するメッシュベルト4の上ベルト18が移動し、ベルト他端4bで当該移動方向が逆点し、搬送下流側から搬送上流側に向けて回転ローラ5の下に位置するメッシュベルト4の下ベルト19が移動する。ここで、該メッシュベルト4の移動速度、すなわち、搬送速度は10m/h(≒0.17m/h)に設定されている。なお、本実施形態では、再生処理部3の導入口16から排出口17までの距離が20mに設定され、ベルト一端4aからベルト他端4bまでの距離が30mになるよう設定されている。そのため、導入口16から導入され、排出口17から排出されるまで、炭素複合材料10は2時間かけて再生処理空間2を搬送されることになる。ここで、先に示したように、メッシュベルト4の搬送速度が遅い場合(例えば、0.05m/min以下)、一つの炭素複合材料10に対する処理時間がかかりすぎ、作業効率が著しく低下する。一方、搬送速度が速すぎる場合(例えば、0.6m/min)、炭素複合材料の加熱が十分ではなく、マトリックス成分の加熱除去が完全になされない場合がある。そのため、下記に掲げるように1時間当たり10m程度の搬送速度に設定することにより、作業効率及び再生炭素繊維8の品質安定性の双方の問題をクリアすることができる。ここで、20mに設定された導入口16から排出口17の間を炭素複合材料10が搬送することが、本発明の1搬送サイクルに相当し、前述したような搬送速度が算出可能となる。
【0030】
そして、導入口16よりの搬送上流側のメッシュベルト4のベルト外面25(搬送面に相当)に再生処理対象の炭素複合材料10を載置する。このとき、複数の炭素複合材料10をメッシュベルト4のベルト幅方向に複数個並べて載置するものであってもよい(図2参照)。これにより、メッシュベルト4の回転に伴って炭素複合材料10が搬送経路26に沿って所定の搬送速度で搬送される(炭素複合材料搬送工程S1)。
【0031】
そして、再生処理部3の導入口16から再生処理空間2の予備加熱領域PZに到達した炭素複合材料10は、予備加熱部11の発熱体21から発せられる熱によって加熱される(予備加熱工程S2)。ここで、本実施形態の例としては、載置される炭素複合材料10には、熱硬化性樹脂の一種であるエポキシ樹脂がマトリックス成分として含有されている。そのため、該予備加熱部11によって加熱される炭素複合材料10は、当該再生処理空間2の予備加熱領域PZには、強制的に酸素等を供給する手段を有しないため、酸素が不足した状態で加熱されることとなる。これにより、高温で酸素が不足した状態で熱分解反応を生じる、すなわち、乾留されることとなる。これにより、熱硬化性樹脂のマトリックス成分からメタンやベンゼン等の炭化水素ガスが発生し、予備加熱領域PZ中に放出されることとなる。なお、係る乾留の過程では、マトリックス成分の一部が不完全燃焼し、煙(煤)が発生することもある。
【0032】
そこで、発生した煙や炭化水素ガス等の残ガス成分12を予備加熱領域PZの上方に連結した残ガス回収部13によって回収し(残ガス回収工程S3)、回収された残ガス成分12に十分な酸素を供給しながらバーナーBで完全燃焼させることにより、二酸化炭素及び水を生成することができる(残ガス燃焼工程S4)。これにより、予備加熱領域PZで発生した残ガス成分12を自然環境への影響を小さくした状態で大気中に放出することができる。
【0033】
ここで、上記残ガス回収工程S3及び残ガス燃焼工程S4が行われている間も、炭素複合材料10はメッシュベルト4に載って搬送下流側に搬送が継続して行われている。
【0034】
その後、予備加熱領域PZを経て加熱領域HZに到達した炭素複合材料10は、マトリックス成分である熱硬化性樹脂の一部が既に予備加熱領域PZで除去されたため、該マトリックス成分に残存する炭化物等を酸化分解反応によって除去を行うために所定の加熱温度を保持する(加熱除去工程S5)。このとき、炭素複合材料10の炭素繊維自体は、400℃から850℃の範囲の加熱温度ではほとんど酸化反応を生じることがなく変化することがない。その結果、マトリックス成分に含まれる炭化物のみが加熱領域HZにおいて除去される。そのため、加熱領域HZの終端付近では、マトリックス成分はほとんど存在せず、炭素繊維(再生炭素繊維8)のみとなる。
【0035】
そして、加熱領域HZを経て冷却領域CZに到達した再生炭素繊維は、加熱除去部7による熱を受けることがないため、メッシュベルト4に載って当該領域CZを搬送される間に徐々に熱を放出し、徐冷される(冷却工程S6)。このとき、搬送下流側からは、外気がエアー送気部22によって送気されるため、該外気と接した再生炭素繊維8は、さらに温度低下の勾配が急激となり、冷却領域CZが短く設定されている場合であっても十分な冷却効果を得ることができる。なお、エアー送気部22からの外気の送気(供給)は、メッシュベルト4上の再生炭素繊維8が飛散しない程度に微弱に設定されている。また、冷却領域CZに連通するように設けられた吸気ダクト24に熱交換によって温められた外気(エアー)の一部が吸引され、外部に放出され、加熱領域HZに到達した酸素を含むエアーは、上記マトリックス成分の残留物(炭化物)との酸化反応のために費消される。ここで、図1において、再生処理空間2における搬送下流側から搬送上流側へ向かっての二点鎖線はエアーの流れを示し、搬送上流側に行くほど、エアー送気部22から送気されたエアーが到達するエアー量が減少することを当該二点鎖線の数によって示している。すなわち、加熱領域HZ及び予備加熱領域PZの境界付近から搬送上流側の再生処理空間2はほとんど酸素がない状態となっている。
【0036】
その後、再生処理空間2の終端に到達した十分に冷却された再生炭素繊維8は、排出口17から排出され、作業者はこれを回収する(再生炭素繊維回収工程S7)。ここで、回収された再生炭素繊維8は、再生処理空間2に導入された炭素複合材料10の炭素繊維(図示しない)と略同一のものが回収される。そのため、再生処理の前後で炭素繊維の太さが変化することがない。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の再生処理方法1によれば、再生対象の炭素複合材料10を搬送上流側のメッシュベルト4のベルト外面25に載置して所定の搬送速度で搬送し、再生処理空間2でマトリックス成分を加熱分解することによって、当該炭素複合材料10からマトリックス成分のみを連続的に除去することができる。さらに、再生処理空間2に炭素複合材料10を連続して搬送することができるため、単位時間当たりの再生処理量を従来の回分式に比べて飛躍的に増大させることができる。また、導入前の炭素複合材料10の形状も特に限定されない。その結果、長繊維状の炭素繊維を再生炭素繊維として回収することができ、回収後の使用用途が限定されることがない。
【0038】
加えて、予備加熱領域PZで乾留処理を行うことにより、熱硬化性樹脂をマトリックス成分として含む炭素複合材料10であっても容易に再生処理を行うことができる。これにより、マトリックス成分の種類に依存することなく炭素繊維の再生処理が可能となる。
【0039】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0040】
すなわち、本実施形態の再生処理方法1において、再生処理対象の炭素複合材料10としてエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂をマトリックス成分として含有するものを示したがこれに限定されるものではなく、ポリプロピレン樹脂のような熱可塑性樹脂をマトリックス成分として含有するものを使用しても構わない。この場合、再生処理空間2に設定された予備加熱領域PZ及び該予備加熱領域PZに設けられた予備加熱部11の構成を省略し、さらに予備加熱工程S2を再生処理方法1の中から省略するものであってもよい。すなわち、熱可塑性樹脂は、100℃から200℃前後の加熱温度で、比較的容易に液状化或いはガス化する性質を有するため、熱硬化性樹脂を含むマトリックス成分のように予備加熱工程S2で係る樹脂を乾留する必要を生じない。そのため、再生処理空間2を加熱領域HZ及び冷却領域CZの二つの領域で構成し、導入口16から搬送された炭素複合材料10に対し、加熱除去工程S5を直接実施するものであっても構わない。これにより、再生処理に要する時間を短縮することができ、さらに再生処理装置27自体の構成の簡略化も図ることができる。
【0041】
さらに、本実施形態の再生処理方法1において、長繊維状の炭素繊維(再生炭素繊維)を回収するものについて例示したが、これに限定されるものではなく、破砕等の処理が行われた短繊維状の炭素繊維を含む炭素複合材料を再生処理するものであってももちろん構わない。
【0042】
また、本実施形態の再生処理方法1を説明するために図示した再生処理装置27において、メッシュベルト4の下ベルト19が、再生処理空間2に収容されたものを示したが、これに限定されるものではなく、複数の回転ローラを組合わせ、再生処理部3の底面下方を通過するものであってもよい。また、メッシュ搬送部の構成は、特に限定されるものではなく、上述したメッシュベルト4のようなベルト状の態様を採るものでなくても構わない。すなわち、複数の回転ローラを並設し、その上に網状部材で構成されたメッシュプレートを載せ、そのメッシュプレート上面(搬送面に相当)に処理対象の炭素複合材料10を載置するものであってもよい。これにより、再生処理された再生炭素繊維8をメッシュプレートに載せた状態で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態の再生処理方法に使用される再生処理装置の一例の概略構成を示す側方から見た模式断面図である。
【図2】再生処理装置の概略構成を示す上方から見た説明図である。
【図3】再生処理方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 再生処理方法(炭素繊維の再生処理方法)
2 再生処理空間
3 再生処理部
4 メッシュベルト(メッシュ搬送部)
5 回転ローラ
7 加熱除去部
8 再生炭素繊維
9 冷却部
10 炭素複合材料
11 予備加熱部
12 残ガス成分
13 残ガス回収部
14 燃焼炉
15 残ガス燃焼部
16 導入口
17 排出口
20 ベルト内面
25 ベルト外面(搬送面)
27 再生処理装置
CZ 冷却領域
HZ 加熱領域
PZ 予備加熱領域
S1 炭素複合材料搬送工程
S2 予備加熱工程
S3 残ガス回収工程
S4 残ガス燃焼工程
S5 加熱除去工程
S6 冷却工程
S7 再生炭素繊維回収工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性素材によって内部に細長トンネル形状の再生処理空間が構築され、前記再生処理空間に連通する導入口及び排出口がそれぞれ開口した再生処理部に、網状部材で構成されたメッシュ搬送部の搬送面に炭素繊維及びマトリックス成分を含有する炭素複合材料を載置し、前記導入口から前記再生処理空間に導入し、前記排出口から排出する炭素複合材料搬送工程と、
前記再生処理空間の加熱領域に設けられた加熱除去部によって、搬送される前記炭素複合材料を加熱し、前記マトリックス成分を加熱除去する加熱除去工程と、
前記再生処理空間の前記加熱領域の搬送下流側の冷却領域に設けられた冷却部によって、前記マトリックス成分の加熱除去された再生炭素繊維を搬送しながら冷却する冷却工程と
を具備し、前記炭素複合材料を連続的に再生処理することを特徴とする炭素繊維の再生処理方法。
【請求項2】
前記再生処理空間の前記加熱領域の搬送方向上流側に設定された予備加熱領域に設けられた予備加熱部によって、前記炭素複合材料に含まれる熱硬化性樹脂からなる前記マトリックス成分を前記加熱温度に到達するように予備的に加熱する予備加熱工程をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維の再生処理方法。
【請求項3】
前記予備加熱工程によって加熱された前記炭素複合材料から発生する炭化水素ガスを含む残ガス成分を前記予備加熱領域から回収する残ガス回収工程と、
回収された前記残ガス成分を再燃焼させる残ガス燃焼工程と
をさらに具備することを特徴とする請求項2に記載の炭素繊維の再生処理方法。
【請求項4】
前記加熱工程は、
前記加熱領域を400℃以上、850℃以下の加熱温度で加熱可能に設定され、
前記炭素複合材料搬送工程は、
前記炭素複合材料を前記再生処理部の前記導入口から前記排出口まで搬送する1搬送サイクル当たり、30min以上、360min以下の搬送時間を要するように設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の炭素繊維の再生処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285601(P2008−285601A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132657(P2007−132657)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(307015688)
【出願人】(307015677)
【Fターム(参考)】