説明

炭素繊維パッケージ

【課題】
本発明は、分散性と高速解舒性に優れた炭素繊維を提供することおよびかかる炭素繊維に最適なパッケージを提供することを目的とする。また、良好な品質や品位を有する繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】
糸さばけ率x[%]が以下の式(1)を満たす糸を内取り解舒用ボビンに巻付けた炭素繊維パッケージ。
100<x<150 ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維パッケージに関する。より詳しくは、糸さばけ率の高い炭素繊維を高速解舒するための炭素繊維パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維の使用量が増加するとともにその使用分野も広がり、さまざまな方法で加工されるようになった。これら加工方法の中には、織物やフィラメントワインディング、SMC(シートモールディングコンパウンド)、ダイレクトスプレーのように高速で加工するため、炭素繊維の取り出しの容易さ、即ち解舒性が重要な加工上のファクターとなるプロセスがある。そのような用途においては、従来ボビンに巻付けたパッケージからの縦取りによる解舒方法が一般的であるが、炭素繊維は有機繊維やガラス繊維に比較して伸度が極端に低いため毛羽立ちやすく、このような縦取りによる高速供給方法ではしばしば解舒時のトラブルが起こっていた。中でも糸がさばけやすく集束性が低い種類の炭素繊維においては、毛羽やさばけた糸の一部がパッケージ表面に付着し、それがもとで引き出した糸が絡みつき、パッケージ表層にリングを形成し解舒できなくなるケースがあった。
【0003】
従来、炭素繊維の解舒性を向上させるためのパッケージに関する報告は少なく、さらに内取り解舒または内取り解舒用パッケージに関する記述があるものは特許文献1、特許文献2、特許文献3に見られる程度である。これらは何れも炭素繊維を巻き上げたボビンに関するものや、連続して高次加工可能とする形態のボビンおよびパッケージを主眼としたものであり、いずれも糸の特性とパッケージに関する知見は十分に得られていなかった。
【0004】
さばけやすい糸はプリプレグ、SMCやダイレクトスプレーなどのあらゆる高次加工において均一に分散することで樹脂の含浸性が高まり、成型品の特性や品位が向上するなどの理由で有用に使用されているが、反面、糸の引き出し性、つまり高速での解舒性においてトラブルが発生しやすいことが問題となっていた。例えば、さばけやすいがために糸束の一部がからまったり、糸束の微小な毛羽によってパッケージ表面や端面にこすれることで引っかかったり、うまく引き出せないことがある。また、解舒するときに毛羽が周囲に飛散することで作業環境を悪化させる現象もみられる。その結果として、加工速度を低下させるなど生産性を低下しなければならなかったり、毛羽が製品に混入するなどして製品の品質、品位を低下させたり、製品の収率を低下させる問題が発生する場合があった。
本発明者はこれらの現状に鑑み、高速での解舒性に優れ、かつ分散性に優れた炭素繊維パッケージについて鋭意検討した。そこで検討の結果、集束性の低い炭素繊維を高速解舒する用途に供する製品は内取り解舒用ボビンによって巻き取ることにより、問題を根本的に解決しうることを見出し、本発明にいたった。
【特許文献1】特許第2884142号公報
【特許文献2】特開平10−212070号公報
【特許文献3】特公平3−72547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、分散性と高速解舒性に優れた炭素繊維を提供することおよびかかる炭素繊維を得るために最適なパッケージを提供することを目的とする。また、良好な品質や品位を有する繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用する。すなわち、
1.糸さばけ率x[%]が以下の式(1)を満たす糸を内取り解舒用ボビンに巻付けた炭素繊維パッケージ。
【0007】
100<x<150 ・・・(1)
2.糸さばけ率x[%]とパッケージ最内層の綾角w[°]が以下の式(2)を満たすよう巻き取られた1に記載の炭素繊維パッケージ。
【0008】
300<x・w<3000 ・・・(2)
3.巻径aと巻幅bとが以下の式(3)を満たすように巻き取られた1または2に記載の炭素繊維パッケージ。
【0009】
0.5≦a/b≦3 ・・・(3)
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、糸さばけ率x[%]が100<x<150の炭素繊維を、通常には使用しない内取り用ボビンに巻き付けることによって、高次加工品の品質・品位において優れた製品を提供することができる。また、本発明のパッケージから解舒された炭素繊維およびそれから得られる布帛を用いて製造されるプリプレグやSMC、ダイレクトスプレー等の樹脂含浸シートは毛羽等の品位と樹脂の含浸状態に優れたものである。さらに、かかる炭素繊維および布帛から得られる繊維強化複合材料は樹脂のボイドが少なく、品位が優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の炭素繊維パッケージは、後述される方法によって測定される糸さばけ率が100%より大きく150%未満の炭素繊維を内取り用の紙管等のボビンに巻きつけたことを特徴とする。本発明において、糸さばけ率とは糸束のさばけやすさを評価するもの(測定方法は後述)であり、高くなるほどさばけやすいことを示す。糸さばけ率が100%以下の繊維束は集束性が良好でさばけにくいため、解舒性そのものは良好であるが、集束性が良過ぎることで、樹脂が均一に分散しないために樹脂が糸束内に入りにくく、成形品の品質・品位等の問題を引き起こすことがある。また、糸さばけ率が150%以上の糸は形態が不安定であるため、パッケージが崩れやすくラージパッケージ化を阻害したり、輸送時にパッケージが崩れて使用できなくなったり、ハンドリング性も極端に低下する。従って、糸さばけ率x[%]は100<x<150が良好な範囲である。より好ましくは105<x<145であり、さらに好ましい範囲は110<x<140となる。糸さばけ率x[%]が100<x<150の範囲の炭素繊維は次のように得られるものが好ましい。
【0012】
原料繊維としてはポリアクリロニトリル系繊維、ピッチ系繊維、レーヨン系繊維等、いずれとするものであってもよいが、耐擦過性に優れた炭素繊維束が得られるという理由で、ポリアクリロニトリル系繊維を原料繊維とするものであるのが好ましい。また、単繊維の数は生産性や樹脂含浸性から3,000〜50,000本、好ましくは10,000〜50,000の範囲内が適当である。紡糸方法は通常湿式および乾湿式が挙げられるが、乾湿式紡糸法によって得た該ポリアクリロニトリルフィラメントを焼成して実表面積Srと投影面積Spとの比Sr/Spが1≦Sr/Sp<1.05、好ましくは1≦Sr/Sp≦1.03の範囲内にある炭素繊維が、ガイドとの耐摩擦に強く好適に用いられる。糸さばけ率の調整は、サイジング剤の付着量および組成を変更すること、または原料繊維の製造条件、焼成条件および巻取り条件を調整すること等で達成できる。サイジング剤は特に限定されるものでないが、例えば脂肪族系、芳香族系エポキシ樹脂の水溶液または分散液が挙げられる。分散液には通常乳化剤が用いられる。サイジング剤は、その100℃乾燥物の軟化点(以下、SZ軟化点という)が50℃以下が好ましく、20℃以下であるものがさらに好ましい。また、液状乾燥物の組成成分としては脂肪族系エポキシ樹脂またはその乳化物であるものが好ましい。サイジング剤の付与方法は転写法、浸漬法、スプレー法等、既知の方法を採ることができる。乾燥方法は特に限定されないが、例えば200℃の空気中で1〜2分乾燥する方法が挙げられる。また、サイジング剤の付着量(以下、SZ付着量という)が0.1から3重量%、好ましくは0.3から3重量%の炭素繊維が通常好適に用いられ、より好ましくは0.3から2重量%であり、さらに好ましくは0.5から1.6%が糸さばけ率調整に好適である。また、パッケージ表面損傷防止用フィルムの包装作業性に劣る場合があるため、ボビンへの巻き始めの糸端のパッケージからの露出は20mm以内であることが好ましい。
【0013】
一般に、外層からの縦取り解舒をする場合、引き出し速度、引き出し角度やガイドまでの長さ、糸の硬さなどによって状態は異なるが、図2のようなバルーニングが発生することが通常である。しかし、本発明の糸さばけ率の範囲の糸は柔らかいため、比較的バルーニングが小さくなる傾向があり、パッケージの表面と引き出した糸が接触しやすい。接触することにより容易に毛羽が発生し、更に、引っかかった場合にはそれがもとでパッケージ表面に糸がからみついたりして解舒できなくなることがある。また、高密度で巻き取った場合に巻層の上下で混繊して解舒できなくなることがある。このようなとき、そのバルーニングが発生しない内取り解舒すること、即ち内取り解舒用ボビンに巻きつけるパッケージ形態をとることにより、問題を解決することができる。本発明において、内取り用のボビンとは、外取り用のボビンにも要求される、炭素繊維束を巻き取ること、梱包したときや輸送時の型崩れによる炭素繊維へのダメージがないこと等の特性に加えて、使用時に簡便に糸束の抜き取りが可能であることが要求され、例えばテープ状固定帯が貼付けされたものや、図1のように螺旋状のミシン目を有するものなど、従来知られているものを用いれば良い。実際に巻き取る条件としてワインド比、張力、ガイド形状、ローラーベールの接圧などを適性にすることで堅牢かつ品位、解舒性の良好なパッケージを得ることができるが、本発明においては、特に糸さばけ率x[%]とパッケージ最内層の綾角w[°]との関係が300<x・w<3000、好ましくは900<x・w<2500、より好ましくは1000<x・w<2400の範囲となるように糸さばけ率に対して一定範囲の綾角とすることで、更に安定した解舒性が得られることを見出した。
【0014】
パッケージ最内層の綾角とは図3のようにボビンの軸線4が垂直になるように立てた場合の炭素繊維1と水平軸5との角度であり、言い換えると、ボビンに糸を巻き取り始める時のボビンの回転方向に対する炭素繊維の挿入方向との角度のことである。
【0015】
x・wが300以下であると糸が多重に重なって巻上げられてしまうため、糸を引き出す際のわずかな力によっても二、三重分の糸が一斉に引き出される場合があり、それがもとで絡まり解舒できなくなる場合がある。また、反対にx・wが3000以上であると高速解舒時に糸の軸線方向の移動速度が速いことから糸束が大きくさばけたり、絡まったりすることで解舒できなくなる場合がある。
【0016】
さらに、図4に示している炭素繊維パッケージの巻径aと巻幅b(それぞれ、図4における6および7)とが0.5≦a/b≦3、好ましくは0.5<a/b<3の関係を満たすように巻き取ることで内取り解舒性を向上させることが可能となる。a/bが0.5未満であると、巻径に対する巻幅が大きくなることから内層から引き出される糸と内層表面との接触面積が増加し、こすれやすいことで毛羽が発生したり、糸束が絡んだりし、製品の品位を低下させる場合がある。また、a/bが3を越えると巻崩れしてパッケージ形態の美観が損なわれたり、巻崩れによる解舒不良により毛羽が発生する場合がある。好ましくは0.6≦a/b≦2.0、より好ましくは0.7≦a/b≦1.5の範囲とすることでさらに良好な解舒性を得ることができる。
【実施例】
【0017】
本発明の炭素繊維内取り解舒用パッケージおよびその巻取り方法の効果を、実施例および比較例をあげて説明する。
(実施例1〜5、比較例1〜3)
実施例1〜5と比較例1〜3については、全て、フィラメント数12000本、実質的に無撚りでテープ形状の炭素繊維を用いた。使用したボビンは図1に示した螺旋状のミシン目付紙管であり、紙管を抜き取った後のパッケージ内径は80mm、巻取り速度は10m/minとした。乾湿式紡糸で得たポリアクリロニトリルフィラメントを焼成して、炭素繊維束を構成する単繊維の平均単繊維径が7μm、実表面積Srと投影面積Spとの比Sr/Spが1.01で引張強度4900MPa、引張弾性率230GPaの炭素繊維となるようにし、SZ軟化点の異なるビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤をSZ付着量を調整しながら炭素繊維表面に付与して、炭素繊維束およびそのパッケージを得た。
【0018】
各実施例、比較例について、得られた炭素繊維束およびそのパッケージについて、以下に示す糸さばけ率、パッケージ形態(巻経、巻幅、綾角)、Sr/Sp、SZ軟化点、SZ付着量、解舒性、毛羽、樹脂含浸性について表1にそれぞれ示した。
(実施例6〜20)
実施例6〜20については、全て、フィラメント数12000本、実質的に無撚りでテープ形状の炭素繊維を用いた。使用したボビンは図1に示した螺旋状のミシン目付紙管であり、紙管を抜き取った後のパッケージ内径は80mm、巻取り速度は10m/minとした。乾湿式紡糸で得たポリアクリロニトリルフィラメントを焼成して、炭素繊維束を構成する単繊維の平均単繊維径が7μm、実表面積Srと投影面積Spとの比Sr/Spが1.02で引張強度4900MPa、引張弾性率230GPaの炭素繊維となるようにし、SZ軟化点の異なるビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤をSZ付着量を調整しながら炭素繊維表面に付与して、炭素繊維束およびそのパッケージを得た。
【0019】
なお、実施例19,20については、製糸工程における浴延伸倍率を、実施例6〜18で用いた炭素繊維に比べ、それぞれ0.7倍、1.7倍として得たポリアクリロニトリルフィラメントを焼成して得たものを用いた。
【0020】
各実施例について、得られた炭素繊維束およびそのパッケージについて、以下に示す糸さばけ率、パッケージ形態(巻経、巻幅、綾角)、Sr/Sp、SZ軟化点、SZ付着量、解舒性、毛羽、樹脂含浸性について表1にそれぞれ示した。
【0021】
次に本発明で用いた測定法を説明する。
<巻径・巻幅>
図4に示すパッケージ部位をノギスを用いて少数点以下第1位まで測定し、mm単位で表す。
<糸さばけ率>
約20mm長にカットした繊維束を2つ用意する。試験装置は包合力試験機(メーカー名:(株)大栄科学精器製作所 型式:TM200i 往復速度100回/分)を用いる。カットした繊維束を10mm長だけ突出するように固定具に貼り付け、平行光ラインセンサ(メーカー名:オムロン 型式:形Z4LC−S2840。丸棒径測定モード)を用いて繊維束先端の最大糸幅を測定する(その幅をAとする)。その後、2つの固定具を、それぞれに固定された繊維束同士が繊維長方向に5±0.5mmずつ重なるように試験機にセットする。移動側の固定具に固定された繊維束が、固定側の固定具に固定された他方の繊維束の位置を中心として両側13.5mmずつのストロークをもって移動すると、それぞれの固定具に固定された繊維束同士(5mmずつ)がぶつかり合う。移動する回数、即ち27mmの距離を往復する回数は5回とし、往復移動する速度は100回/分とする。往復運動後、糸束の先端の最大糸幅Bを糸幅Aと同様に平行光ラインセンサで測定し、糸さばけ率(%)をB/A×100で定義して糸さばけ率を評価する(図5)。なお、測定数はn=20本(移動側固定具に固定された10本および固定側固定具に固定された10本)とし、単純平均する。
<綾角>
炭素繊維パッケージより炭素繊維を最内層まで剥ぎ取り、図3のようにボビンの軸線4が垂直になるように立てた場合の炭素繊維1と水平軸5との角度を分度器により計測する。
<Sr/Sp>
実表面積Srと投影面積Spとの比Sr/Spは、次のようにして測定する。すなわち、炭素繊維束を数mmの長さに切断し、単繊維を抜き出した。次に、銀ペーストを用いて単繊維をシリコンウエハ上に固定し、原子間力顕微鏡、たとえばDigital Instruments社製Nanoscope IIIa原子間力顕微鏡のDimension 3000ステージシステムを用い、3次元表面形状の像を得る。なお、走査モードはタッピングモードとし、探針には、たとえばオリンパス光学工業株式会社製Siカンチレバー一体型探針OMCL−AC120TSを用いる。また、走査速度は0.4Hz、ピクセル数は512×512、測定雰囲気は25±2℃の大気中とする。次に、得られた像について、上記原子間力顕微鏡に付属のソフトウエアNanoscope IIIバージョン4.22r2を用いてデータ処理し、1次フィルタ、Lowpassフィルタ、3次Plane Fitフィルタを用いてフィルタリングし、得られた像全体を対象にして実表面積Srと投影面積Spとを算出し、それらの比、すなわち、Sr/Spを求める。なお、投影面積は、単繊維が曲面を有していることを考慮し、曲面の曲率に近似した3次曲面への投影面積とする。そして、1個の単繊維について任意に選んだ5か所について上記測定を行い、最大値と最小値とを除いた3か所の相加平均値をもって比Sr/Spとする。Sr/Sp測定のn数は3とし、単純平均値として求める。
<SZ軟化点>
SZ軟化点は、次のようにして測定する。すなわち、サイジング剤を100℃で2時間乾燥して乾燥物を得る。該乾燥物の流動開始温度を高化式フローテスターを用い、オリフィス内径/長さ=1mm/1mm、荷重=9.8N、昇温速度=3℃/分の条件下で測定する。n数は3とし、その単純平均値を軟化点として算出する。
<SZ付着量>
SZ付着量は、次のようにして測定する。すなわち、重量W1g(2g)の炭素繊維束を、空気に触れないように50リットル/分の窒素ガスが流されている450℃の電気炉(容量:120cm)に入れ、15分間放置してサイジング剤を完全に熱分解させる。次に、20リットル/分の乾燥窒素ガスが流されている容器内に移し、15分間冷却した後の重量W2gを測定し、次式から求める。
【0022】
SZ付着量(%)=((W1− W2)/W1)×100
<解舒不良回数>
本発明では炭素繊維パッケージの解舒性に関する指標として、以下に示す解舒不良回数を用いる。すなわち、縦床置きしたパッケージをガイドまでの距離1.0mとして解舒糸速70m/分で30分間解舒した際に混繊またはリング状毛羽発生によるパッケージからの引き出し不能な解舒不良発生回数を測定し、10km当たりの解舒不良発生回数[回/10km]を算出する。
<毛羽数>
本発明では炭素繊維の品位に関する指標として、以下に示す毛羽数を用いる。すなわち、70m/minで解舒した糸をボビンに再巻取りし、評価サンプルである炭素繊維パッケージを、温度23±3℃、相対湿度60±5%に管理された温調室に60分以上放置する。次に、上記温度と湿度条件が設定されている温調室内にある毛羽計数装置を用いて、図9に示した糸道図に従い、炭素繊維をパウダークラッチを内蔵したクリール13に仕掛けて糸道を作製し、毛羽カウンター14を通過させる。毛羽カウンターとは、ランプ光から走行糸に照射し、その照射光をレンズで集光せしめた状態で、フォトトランジスタで毛羽数を検出するものである。検出精度としては、糸長2mm以上で、かつ炭素繊維の単繊維径が3μm以上の毛羽を検出することができる。走行時のスリップが発生しないように駆動ローラー15に炭素繊維を5回以上巻いて、ワインダー16に巻き付ける。糸速を3m/分に設定して、図9に示したローラー17を介した糸道で炭素繊維の走行を開始する。糸道が安定したことを確認し、毛羽カウント機器14から駆動ローラー15の間で測定した走行時の炭素繊維の張力が6gf/texになるように、パウダークラッチで初期張力を調整する。その後、毛羽カウンターを作動させて、走行状態での毛羽の評価を、サンプル毎に30m測定し、1mあたりの毛羽数[個/m]を算出する。なお、本実施例では、毛羽数計数装置として、東レエンジニアリング(株)製毛羽数計数装置“DT−105(S特)”を用いた。
<樹脂ピックアップ率>
本発明では炭素繊維の樹脂含浸性に関する指標として以下に示す樹脂ピックアップ率を用いる。すなわち、2400〜3300texを1束とする250mm長さの炭素繊維束を3束合わせ、その片端を50mm残してかた結びする。結び目上30〜50mm部分をテープ固定し、結び目下から正確に150mmで糸束をカットする。糸束3本をそれぞれ均一に張力をかけながら図6に示すように編むことで三つ編みサンプルを作製する。編む回数は35回に設定する。三つ編み数の数え方は2本束の間に1本束を挿入することで1回と数え、順次2回、3回と数える。35回編みこんだ後でテール部分がほどけないようにサンプルと同じ800〜1700texの炭素繊維束を用いて図7のように結びつける。結び目と結び目の内側である三つ編み部分の長さが100〜110mmになっていることを確認(該範囲を外れる場合はサンプルとして使用しない)し、固定していたテープを剥がして上部結び目上から20mm部分をカットする。こうして作製した三つ編みサンプル重量を少数点以下第4位まで電子天秤で測定する(Cとする)。樹脂含浸用の樹脂は、平均分子量370のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート827:ジャパンエポキシレジン(株)製)を用いる。室温50℃において、三つ編み下の結び部分にクリップで500gの重りをつけて(図8)、結びの上端10mmをプライヤーで把持し、エポキシ樹脂を入れた容器の中にサンプル全体を5秒間浸漬する。その後すみやかに引き上げ、空中で10秒間放置する。その後、すばやくクリップおよび重りを外し、サンプルをアルミ皿に載せて重量を小数点以下第4位まで電子天秤で測定する。樹脂含浸後の重量をDとしたとき、樹脂ピックアップ率(%)を下式より算出する。なお、測定数はn=10本とし、単純平均する。
【0023】
樹脂ピックアップ率(%)=(D−C)/C×100
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】内取り用ボビン(螺旋状のミシン目つきボビン)からのボビン取り出し図の例
【図2】外層からの縦取りバルーニング説明図
【図3】綾角説明図
【図4】炭素繊維パッケージの巻径および巻幅説明図
【図5】糸さばけ率測定図
【図6】三つ編み方法および回数のカウント方法説明図
【図7】三つ編み端部の結び方法説明図
【図8】樹脂ピックアップ率測定図
【図9】毛羽計数装置図
【符号の説明】
【0026】
1炭素繊維
2ガイド
3ミシン目
4軸線
5水平軸
6巻径
7巻幅
8固定具
9結び目
10三つ編みした炭素繊維
11おもり
12樹脂
13クリール
14毛羽カウンター
15駆動ローラー
16ワインダー
17ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸さばけ率x[%]が以下の式(1)を満たす糸を内取り解舒用ボビンに巻付けた炭素繊維パッケージ。
100<x<150 ・・・(1)
【請求項2】
糸さばけ率x[%]とパッケージ最内層の綾角w[°]が以下の式(2)を満たすよう巻き取られた請求項1に記載の炭素繊維パッケージ。
300<x・w<3000 ・・・(2)
【請求項3】
巻径aと巻幅bとが以下の式(3)を満たすように巻き取られた請求項1または請求項2に記載の炭素繊維パッケージ。
0.5≦a/b≦3 ・・・(3)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−151690(P2006−151690A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310906(P2005−310906)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】