炭素繊維凝集体
【課題】少量配合した場合でも樹脂複合材料に導電性の付与が可能なフィラー材料として有用な炭素繊維凝集体を提供する。
【解決手段】黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸張している非直線状の炭素繊維が凝集してなる非直線状の二次凝集繊維がさらに凝集してなる凝集塊を含み、比表面積が20〜400m2/gであることを特徴とする炭素繊維凝集体。
【解決手段】黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸張している非直線状の炭素繊維が凝集してなる非直線状の二次凝集繊維がさらに凝集してなる凝集塊を含み、比表面積が20〜400m2/gであることを特徴とする炭素繊維凝集体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維凝集体、その製造方法及び用途に関する。さらに詳しく言えば、樹脂材料に添加して導電性を改善するフィラーとして好適な炭素繊維凝集体、その製造方法及びその炭素繊維凝集体を配合した複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などのマトリックス樹脂に、カーボンブラック、カーボン繊維または金属粉等の導電性フィラーを配合して導電性を付与した導電性樹脂複合材料が知られている。
しかし、この種の複合材料に高導電性(特に望ましくは、体積抵抗率1×106Ω・cm以下)を付与するには、相当な量の導電性フィラーを添加する必要がある。しかし、多量の導電性フィラーを添加するとマトリックス樹脂の物性に悪影響を及ぼし、調製された複合材料に樹脂本来の特性が反映されなくなるという欠点があった。そのため少量の配合量でも十分に高い導電性を発現するフィラー材料が望まれていた。
【0003】
このようなフィラー材料として、カーボンナノチューブが注目されている。カーボンナノチューブの製造方法としては、化学的気相成長法(以下、CVD法という。)による方法が知られている。CVD法としては、有機金属錯体などを触媒として用い、反応系内で触媒金属を気相中に生成させる方法と、触媒金属を担体に担持して用いる方法などが知られている。
【0004】
このようなCVD法のうち、前者の有機金属錯体などを触媒として使用する方法では、グラファイト層の欠陥が多く、反応後に、さらに高温で加熱処理を実施しないと導電性フィラーとして添加した場合に導電性が発現しないという問題があり、安価に製造することは困難であった。
【0005】
後者の触媒担体を用いる方法は、担体として基板を用いる方法(基板法)と粉末状の担体を用いる方法に大別できる。基板法は産業的に利用する場合、多数の基板を使用しないと基板表面積を稼げないため装置効率が低いだけでなく、生成したカーボンナノチューブを基板から回収する必要があり、工程数が多いため経済的ではなく、実用化には至っていない。
【0006】
一方、粉末状の担体を用いる方法は、基板を用いる方法に比較して比表面積が大きいため装置効率が高いだけでなく、様々な化学合成に用いられる反応装置が使用可能であるという利点を有する。
【0007】
このような粉末状の担体として、アルミナ、マグネシア、シリカ、ゼオライトなどの比表面積の大きな微粉末を用いることが数多く提案されているものの、いずれの担体を用いても、樹脂複合材料に使用した場合に少量の添加量で導電性を付与できる炭素繊維を合成することはできなかった。
【0008】
米国特許第5726116号公報(特許文献1)には、長手方向の軸が実質的に同じ相対的配向になっている複数の炭素フィブリルで、それらフィブリルの各々がその長手方向の軸に実質的に平行な黒鉛層を有し、連続的熱分解炭素外側被覆層を持たない炭素フィブリル凝集体が開示され、触媒担体としてγアルミナを用いた実施例には、炭素フィブリル凝集体が直線状かわずかに湾曲あるいはねじれている繊維が束になった直線状の繊維束(コームドヤーン:combed yarn)の形態をとることが示されている。
【0009】
国際公開公報第95/31281号パンフレット(特許文献2)の実施例には、平均粒子径1μm以下の水酸化アルミニウム微粒子(アルコア社製:H−705)を280〜600℃で質量減少率が27〜33%となるまで假焼した活性アルミナを触媒担体として用いることにより特許文献1と同様のコームドヤーン型の炭素フィブリル凝集体が得られることが開示されている。
【0010】
欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)には、水酸化アルミニウムにFeとCoを特定割合で担持させた後、熱処理した触媒が開示されており、これらの触媒を用いることにより、炭素生成効率が向上することが示されている。さらに、用いる水酸化アルミニウムとしてはバイヤライト型の水酸化アルミニウムが好適であることも開示されている。
【0011】
国際公開第2006/079186号パンフレット(特許文献4)には、80μm未満の粒子サイズの水酸化アルミニウムを担体として触媒金属を担持した後、必要に応じて熱処理、分級した触媒を用いることにより、炭素生成効率が向上することが開示されている。
【0012】
また、同様に水酸化アルミニウムを担体として用いる例として、アルミニウム塩の水溶液を中和すること(中和法)によって得られる極めて微粒のアルミナゲルや擬ベーマイトを必要に応じて造粒した後、假焼した活性アルミナや遷移アルミナを担体として用いたり(特開昭52−107329号公報;特許文献5)、アルミニウム塩と触媒金属塩の水溶液を中和するなどしてアルミニウムと触媒金属を共沈させて、必要に応じて假焼した触媒を用いるカーボンナノチューブの合成方法(国際公開第2006/50903号パンフレット;特許文献6)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5726116号公報
【特許文献2】国際公開第95/31281号パンフレット
【特許文献3】欧州特許公開第1797950号公報
【特許文献4】国際公開第2006/079186号パンフレット
【特許文献5】特開昭52−107329号公報
【特許文献6】国際公開第2006/50903号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1〜6の方法では、代表例を後述の比較例1、2、10及び11に示したように、炭素生成効率の向上は図れるものの、特に樹脂複合材料へ少量添加した際の導電性付与効果がないという欠点を有していた。
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、導電性、熱伝導性や強度向上のためのフィラー材料として、少量添加した場合でも樹脂複合材料に導電性の付与が可能な炭素繊維凝集体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の水酸化アルミニウムを加熱処理した後、触媒金属を担持させた担持触媒を用いて炭素繊維を合成することにより特異な繭状の凝集状態を有する炭素繊維凝集体が得られること、及びこの炭素繊維凝集体は樹脂複合材料へ少量添加した場合でも導電性が発現することを見出し本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]BET法比表面積が1m2/g以下で、50%体積累積粒子径(D50)が10〜300μmの水酸化アルミニウムを、加熱処理してBET法比表面積を50〜200m2/gとした担体に触媒金属または触媒金属前駆体を担持させた触媒と炭素含有化合物を加熱領域下で接触させることを特徴とする炭素繊維凝集体の製造方法。
[2]水酸化アルミニウムの加熱処理温度が500〜1000℃である前記1に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[3]炭素繊維凝集体が、直径が5〜100nm、アスペクト比が5〜1000であり、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長している非直線状の一次炭素繊維が凝集して二次凝集繊維を構成し、前記二次凝集繊維は直径が1μm以上、長さが5μm以上の非直線状であり、さらに前記二次凝集繊維が凝集して繭状の凝集塊を形成しているものである前記1または2に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[4]繭状の凝集塊が、長径と短径の比が5以上のものを含む前記3に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[5]水酸化アルミニウムがギブサイトである前記1〜4のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[6]水酸化アルミニウムとして、式(1)で示される粒度分布指数が1.50以下のものを使用する前記1〜5のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法:
(式中、D90、D10及びD50は、各々粒度分布計で求めた90%体積累積粒子径、10%体積累積粒子径、50%体積累積粒子径である。)
[7]水酸化アルミニウムとして、一次粒子の大きさが5〜300μmのものを使用する前記1〜6のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法:
[8]触媒金属または触媒金属前駆体が、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Ti、V、Ru、Rh、Pd、Pt及び希土類元素の少なくともひとつを含む前記1〜7のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[9]触媒金属元素を含有する化合物を含む溶液または分散液を、担体に含浸させた後乾燥することにより得られる担持触媒を使用する前記1〜8のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[10]前記1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる炭素繊維凝集体。
[11]炭素繊維凝集体が、直径が5〜100nm、アスペクト比が5〜1000であり、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長している非直線状の炭素繊維が凝集して二次凝集繊維を構成し、前記二次凝集繊維は直径が1μm以上、長さが5μm以上の非直線状であり、さらに前記二次凝集繊維が凝集した長径と短径の比が5以上の繭状の凝集塊を含むことを特徴とする炭素繊維凝集体。
[12]前記10または11に記載の炭素繊維凝集体を含有する樹脂複合材料。
[13]BET法比表面積が1m2/g以下で、50%体積累積粒子径(D50)が10〜300μmの水酸化アルミニウムを、加熱処理してBET法比表面積を50〜200m2/gとした担体に、触媒金属または触媒金属前駆体を担持させてなる炭素繊維凝集体製造用触媒。
[14]前記担体に触媒金属元素を含む溶液を含浸させた後乾燥することにより得られる前記13に記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[15]水酸化アルミニウムがギブサイトである前記13または14に記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[16]水酸化アルミニウムの加熱処理温度が500〜1000℃である前記12〜15のいずれかに記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[17]触媒金属元素が、Fe、Co及びNiから選択される元素とTi,V及びCrから選択される元素とMo及びWから選択される元素とを組み合わせたものである前記12〜16のいずれかに記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、少量の添加で樹脂複合材料の導電性が発現可能な炭素繊維凝集体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いる好ましい実質的に単一粒子状水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真像(×1200)。
【図2】本発明で用いる好ましい一次粒子凝集体状水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真像(×430)。
【図3】中和法で生成する擬ベーマイト凝集粒の電子顕微鏡写真像(A:×200、B:×2000)
【図4】実施例1の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×43)。
【図5】実施例1の生成物(二次凝集繊維)の電子顕微鏡写真像(×2500)。
【図6】実施例1の生成物(一次炭素繊維)の電子顕微鏡写真像(×20000)。
【図7】実施例1の生成物(一次炭素繊維)の電子顕微鏡写真像(×2000000)。
【図8】実施例4の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×55)。
【図9】実施例4の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×1300)。
【図10】γアルミナ(ストレムケミカル製)担体の電子顕微鏡写真(A:×2000、B:×20000)。
【図11】比較例1の生成物の電子顕微鏡写真像(×400)。
【図12】比較例1の生成物の電子顕微鏡写真像(×5000)。
【図13】比較例3の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×30)。
【図14】比較例5の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×33)。
【図15】比較例6の生成物の電子顕微鏡写真像(×5000)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施態様においては、特定の水酸化アルミニウムを加熱処理した後、触媒金属を担持した触媒を、高温下で炭素含有化合物と接触させることにより特異な繭状の形態をもつ炭素繊維凝集体を得ることができる。
【0020】
[水酸化アルミニウム]
水酸化アルミニウム及びその假焼品は、これまで炭素繊維製造用触媒の担体としてよく用いられている。触媒担体である水酸化アルミニウム及びその假焼品に求められる機能は、触媒金属化合物を高分散状態で担持して触媒金属化合物の凝集成長を抑制することにある。従って、担体としては、微粒で比表面積の大きいものを用いる方が触媒活性は高いと考えられていた。そこで、従来、特許文献2に開示されているように微粒の水酸化アルミニウムを用いたり、軽度に熱処理して比表面積を増加させた後担体として使用されている。
【0021】
さらに、(1)生成した炭素繊維の主たる不純物成分となる担体を酸やアルカリを用いて溶解除去することにより、あるいは(2)炭素繊維の生成効率を高めることにより、担体を溶解除去する必要のない程度まで低減させるなどの工夫が必要であった。担体を溶解除去する(1)の場合においても、担体成分としては、微粒で比表面積の大きいほど溶解性が高く良好であると考えられてきた。また、(2)の担体を溶解除去しない場合においては、樹脂複合材料としたとき樹脂複合材料の表面の平滑性を損なったり、破壊起点になるなど樹脂複合材料の特性を悪化させる原因とならないように微粒の担体が用いられてきた。
このように従来、触媒担体としては比表面積が大きく、微細な担体が好ましいとされてきた。
【0022】
本発明は、先行技術あるいは上述の考え方とは異なり、粗大粒子である水酸化アルミニウムを用い、後述する製造方法を採用することにより、従来の炭素繊維よりも少ない添加量で樹脂複合体に導電性を付与できる炭素繊維凝集体を得ることを可能としたものである。
【0023】
水酸化アルミニウムは種々の方法によって合成され、その合成方法、条件などにより結晶形態、粒度分布、不純物量などが異なる種々の水酸化アルミニウムを得ることができる。
本発明で使用する好ましい形態の水酸化アルミニウムの一例として、バイヤー法などで得られるギブサイト型構造のものが挙げられる。
【0024】
本発明においては、比較的大きな単粒子状(単粒子あるいは数個の単粒子が強固に凝集した構造)の水酸化アルミニウムを使用することが好ましい。図1及び図2に本発明で好ましく用いられる水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真を示す。有姿の粒子はその表面が荒れていたり、微細粒子の付着が若干存在するものの実質的に単一粒子であるか(図1)、複数個の一次粒子がその粒子の端部が他の粒子と強固に結合した凝集体が好ましい(図2)。図2では約20個の一次粒子が確認できる。このような構造は電子顕微鏡写真で直接観察することができるが、凝集体を構成する一次粒子の数は電子顕微鏡観察からは全てを(360度にわたって)確認することはできない。本発明においては、凝集体一個当たりの平均一次粒子の数を以下の方法で推定した。すなわち、電子顕微鏡によって確認できるのは有姿粒子の約半分の一次粒子数であると仮定して、電子顕微鏡写真から確認できた一次粒子数の2倍を全一次粒子数とした。全一次粒子数が少ない方が単粒子状に近く好ましい。好適な一次粒子の数は使用する水酸化アルミニウムの粒子径や粒度分布などによっても異なるため一義的には決められないが、具体例を挙げると、その全一次粒子数は100個以下が好ましく、50個以下がさらに好ましく、20個以下が最適である。
【0025】
一次粒子の大きさは、電子顕微鏡写真を用いて測定する。通常は一次粒子同士が重なりあっていて正確な測定は困難なため、確認できる外周を外挿し、おおよその大きさを測定した。一次粒子の大きさとしては、5〜300μmが好ましく、20〜200μmがさらに好ましく、40〜200μmが最も好ましい。
単粒子状の水酸化アルミニウムを担体原料として用いることにより、得られる炭素繊維は長径と短径の比の大きな繭状の凝集塊を形成し、樹脂複合材料に少量添加した場合でも導電性の付与効果が大きくなる。水酸化アルミニウムが単粒子状でないと繭状の凝集粒子とならなかったり、樹脂複合材料に少量添加した際の導電性の付与効果が小さかったりする。
【0026】
従って、中和法などで生成する微細なアルミナゲルや擬ベーマイトの凝集粒(図3)や、それらを成形あるいは造粒した非常に微細な粒子の凝集体は好ましくない。
このような微細粒子の凝集体は非常に大きな比表面積を有することが特徴である。比表面積は後述の加熱処理によって急激に増加するため、比表面積を尺度とする場合には注意を要するが、担体原料として好適な水酸化アルミニウムのBET法比表面積は1m2/g以下が好ましく、0.5m2/g以下がさらに好ましく、0.3m2/g以下が最も好ましい。
【0027】
単粒子状の水酸化アルミニウムであっても、50%体積累積粒子径D50が10μm未満の粒子を原料として用いると、炭素繊維の生成効率は高いが、繭状の凝集塊とならなかったり、導電性の付与効果が小さかったりするため好ましくない。粒子が大きいほうが得られる繊維の導電性付与効果が高く好ましい。しかし、D50が300μmを超えるような粗大粒子では炭素繊維生成後も触媒担体由来の粗大な残渣が炭素繊維中に残留し、樹脂複合材料にしたときに破壊基点になるなどの悪影響を及ぼす。
【0028】
従って、水酸化アルミニウムの50%体積累積粒子径D50の下限は10μmが好ましく、40μmがさらに好ましく、70μmが最も好ましい。50%体積累積粒子径D50の上限は300μmが好ましく、200μmがさらに好ましい。従って、好ましい水酸化アルミニウムの50%体積累積粒子径D50の範囲は10〜300μmが好ましく、40〜200μmがさらに好ましく、70〜200μmが最も好ましいが、例えば、肉厚の薄い成形品や、表面平滑性が求められる品物、薄膜、塗料などの用途によっては40〜150μmが好ましい場合もある。
【0029】
本発明で使用する水酸化アルミニウムの粒度分布は狭い方が好ましいが、50%体積累積粒子径D50が小さい場合には粒度分布はやや広めの方が粒子径の大きい粒子が多く含まれるため好ましい。
粒度分布の大きさの指標となる下記式で定義する粒度分布指数が1.50以下が好ましく、1.20以下がさらに好ましく、1.0以下が最も好ましい。
【0030】
【数1】
式中、D10、D50及びD90は、各々粒度分布計(日機装(株)製:マイクロトラックHRA)で求めた90%体積累積粒子径、10%体積累積粒子径、50%体積累積粒子径である。
D50が70μm以下の場合には、粒度分布指数は1.0〜1.50が好ましい。
【0031】
[加熱処理]
水酸化アルミニウムは加熱処理することにより結晶中のH2Oが離脱し、無定形アルミナ、活性アルミナを経て、様々な形態の遷移アルミナとなり、1000℃以上の高温でαアルミナへと転移する。比表面積は熱処理の過程で無定形アルミナになる際に最も高い値をとり、その後低下していく(Oxides and Hydroxides of Aluminum, K. Wefers and G. M. Bell Technical Paper (AlcoaReseachLabs), 1972:参考文献)。従って、一般に、高比表面積が望まれる炭素繊維合成用の触媒担体としては、比較的低温で処理したものが用いられてきた。具体的には国際公開公報第95/31281号パンフレット(特許文献2)に開示されているように、サブミクロンの水酸化アルミニウムの凝集粒(具体例としてはアルコア社製H−705:BET法比表面積5m2/g以上)を質量減少率が27〜33%となるまで加熱処理したものである。この場合の比表面積は、参考文献のFig.4.4から150〜300m2/g程度であると推定される。
【0032】
しかし、このように大きな比表面積の触媒担体を用いると複合材料への導電性付与効果が低くなるという欠点があった(後述の比較例9参照)。本発明の製造方法では、従来の比表面積レベルでなく、上述の特定の水酸化アルミニウムをより低い比表面積となる条件で加熱処理することに特徴がある。
【0033】
また、欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)及び国際公開第2006/079186号パンフレット(特許文献4)に開示されているような水酸化アルミニウムに触媒金属を担持した後に加熱処理する方法では、水酸化アルミニウムの脱水反応の進行につれて触媒金属との相互作用が強まり、担体中に固溶したり強固に結合するためか、生成したカーボンナノチューブの樹脂複合材への導電性付与効果は本発明の方法に比べて低くなる(後述の比較例10参照)。
【0034】
本発明の方法では、このように一般に用いられている活性の高い担体は使用せず、比較的粗大な担体原料(水酸化アルミニウム)を比較的高温で熱処理して、あまり強い活性を持たない状態で触媒金属を担持し、炭素繊維の合成反応に供するところに特徴がある。
【0035】
従って、本発明で担体原料として用いる水酸化アルミニウムの加熱処理後のBET法比表面積は50〜200m2/gであるものが好ましい。具体的には、下限としては50m2/gが好ましく、90m2/gがさらに好ましい。また、上限としては200m2/gが好ましく、150m2/gがさらに好ましく、145m2/gが最も好ましい。BET法比表面積が200m2/gを超えると、金属担持触媒を用いて得られる炭素繊維の複合材料に対する導電性付与効果が小さくなるため好ましくない。BET法比表面積が50m2/g未満では、金属担持触媒の炭素繊維生成効率が低いだけでなく、得られる炭素繊維の複合材料への導電性付与効果が小さくなり好ましくない。
【0036】
水酸化アルミニウムの加熱処理条件は、上記の比表面積が得られる温度、時間、雰囲気を選定すればよく、特に限定されない。使用する水酸化アルミニウムの粒度、不純物濃度などにより適切な温度は異なるが、通常500〜1000℃が好ましく、600〜1000℃がさらに好ましく、600〜900℃が最も好ましい。一般に、水酸化アルミニウムを假焼して活性アルミナなどの高比表面積の遷移アルミナ(中間アルミナ)を得る場合には、高温で極く短時間加熱処理する場合が多いが、これらの方法とは異なり、本発明では適切な温度で、比較的長い時間加熱処理することにより、均一な担体原料を得る。従って、好ましい熱処理時間は一般に1分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がさらに好ましく、10分〜3時間が最適である。
【0037】
[触媒金属及び触媒金属前駆体]
本発明で用いる触媒金属は、炭素繊維の成長を促進する物質であれば、特に制限されない。このような触媒金属としては、例えば、IUPACが1990年に勧告した18族型元素周期表の3〜12族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。中でも、3、5、6、8、9、10族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、チタニウム、(Ti)ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の金属が特に好ましい。また、これらの触媒として作用する金属元素を含有する化合物(触媒前駆体)としては、触媒金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などの無機塩類、酢酸塩などの有機塩、アセチルアセトン錯体などの有機錯体、有機金属化合物など、触媒金属を含有する化合物であれば特に限定されない。反応性の観点からは硝酸塩やアセチルアセトン錯体などが好ましい。
【0038】
これらの触媒金属及び触媒金属前駆体化合物を2種以上使用することにより、反応活性を調節することは広く知られている。好適な触媒の例としては、特開2008−174442号公報に開示されている、Fe、Co及びNiから選択される元素とTi,V及びCrから選択される元素とMo及びWから選択される元素とを組み合わせたものが挙げられる。
【0039】
[触媒金属の担持方法]
本発明の製造方法で使用する担持触媒は、その調製法については特に制限されないが、特に触媒金属元素を含む液を担体に含浸させることにより触媒を得る含浸法によって製造することが好ましい。
具体例としては、触媒金属前駆体化合物を溶媒に溶解または分散し、この溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させ、次いで乾燥する方法が挙げられる。
【0040】
触媒金属元素を含む液は、液状の触媒金属元素を含む有機化合物でもよいし、触媒金属元素を含む化合物を有機溶媒または水に溶解または分散させたものでもよい。ここで用いる有機溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、フラン、ジベンゾフラン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、四塩化炭素、トリクロルエチレン、クロルエタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
触媒金属元素を含む液には触媒金属元素の分散性を改善するなどの目的で、分散剤や界面活性剤(好ましくは、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤)を添加してもよい。触媒金属元素を含む液中の触媒金属元素濃度は、溶媒及び触媒金属種によって適宜選択することができる。担体と混合される触媒金属元素を含む液の量は、用いる担体の吸液量相当であることが好ましい。
【0041】
触媒金属元素を含む液と担体とを十分に混合した後の乾燥は、通常70〜150℃で行う。乾燥においては真空乾燥を用いてもよい。
【0042】
[炭素含有化合物]
本発明の炭素繊維凝集体の製造方法において使用される炭素源(炭素含有化合物)は特に限定されない。炭素含有化合物としては、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl、CO、CO2、CS2等のほか有機化合物全般が使用可能である。特に有用性の高い化合物としては、CO、CO2、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を挙げることができる。また、窒素、リン、酸素、硫黄、弗素、塩素、臭素、沃素等の元素を含んだ炭素化合物も使用することができる。
【0043】
好ましい炭素含有化合物の具体例としては、CO、CO2等の無機ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のアルケン類、アセチレン等のアルキン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の単環式芳香族炭化水素、インデン、ナフタリン、アントラセン、フェナントレン等の縮合環を有する多環式化合物、シクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等のシクロパラフィン類、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等のシクロオレフィン類、ステロイド等の縮合環を有する脂環式炭化水素化合物等がある。さらに、これらの炭化水素に酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン等が含まれた誘導体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の含酸素化合物、メチルチオール、メチルエチルスルフィド、ジメチルチオケトン等の含硫黄脂肪族化合物、フェニルチオール、ジフェニルスルフィド等の含硫黄芳香族化合物、ピリジン、キノリン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄または含窒素複素環式化合物、クロロホルム、四塩化炭素、クロルエタン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素、また天然ガス、ガソリン、灯油、重油、クレオソート油、ケロシン、テレピン油、樟脳油、松根油、ギヤー油、シリンダ油等も使用することができる。これらは2種以上の混合物として用いることもできる。
【0044】
これらの中で、好ましい炭素含有化合物として、CO、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びこれらの混合物が挙げられ、特に好ましい炭素含有化合物として、エチレン、プロピレン及びエタノールが挙げられる。
【0045】
[キャリアーガス]
本発明の炭素繊維凝集体の製造方法においては、これらの炭素含有化合物に加えて、キャリアーガスを使用することが推奨される。キャリアーガスとしては水素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガス、またはこれらの混合ガスを用いることができる。しかし、空気等の酸素分子(すなわち、分子状態の酸素:O2)を含有するガスは触媒を劣化するため適さない。本発明で用いる触媒金属前駆体化合物は酸化状態にある場合があり、こうした場合にはキャリアーガスとして還元性の水素ガスを含有するガスを用いることが好ましい。従って、好ましいキャリアーガスとしては水素ガスを1vol%以上、さらには30vol%以上、最も好ましくは85vol%以上含んだガスであり、例えば100vol%水素ガスや水素ガスを窒素ガスで希釈したガスである。
【0046】
[前処理]
一般に、触媒金属前駆体化合物は酸化状態にある場合があるため、炭素含有化合物と接触させる前に還元性のガスと接触させることにより触媒金属に還元する工程を設ける場合が多いが、本発明でこのような還元処理を実施すると触媒金属の凝集が進行するためか炭素繊維生成効率が充分でなかったり、生成した炭素繊維の樹脂複合材料への導電性付与効果が低くなる。本発明では、このような還元処理をはじめとする高温での保持時間を極力短くすることが好ましい。
【0047】
従って、予め反応炉中に触媒を静置し、昇温反応させる場合は、昇温速度を速くして、所定温度に到達後は直ちに炭素含有化合物と接触させることが好ましい。さらに好ましい方法は、反応炉を所定温度に昇温した後に、触媒を炭素含有化合物と同時に供給する方法である。
【0048】
[炭素含有ガス濃度]
上述の炭素含有化合物は、常温で液体または固体のものは、加熱し気化させて炭素含有ガスとして導入することが好ましい。これら炭素含有ガスの供給量は、使用する触媒、炭素含有化合物、反応条件によって異なるため一義的には決められないが、一般に好ましい範囲は、(炭素含有ガス流量)/(キャリアーガス流量+炭素含有ガス流量)が10〜90vol%であり、30〜70vol%がさらに好ましい。炭素含有化合物がエチレンの場合は、特に30〜90vol%の範囲が好ましい。
【0049】
[反応温度]
本発明の方法において、触媒と炭素含有化合物を接触させる温度は、使用する炭素含有化合物などにより異なるが、一般に400〜1100℃であり、好ましくは500〜800℃である。温度は低過ぎても高過ぎても炭素繊維凝集体の生成量が著しく低くなる場合がある。また、炭素繊維の生成以外の副反応が起こるような高温では、炭素繊維表面にフィラーとしての応用に適さない非導電性の物質が多量に付着する傾向がある。
【0050】
[炭素繊維凝集体]
本発明の方法で得られる炭素繊維凝集体は、各々の炭素繊維が特異な繭状の形態で凝集している。この凝集形態により、樹脂複合体中での良好な分散状態と繊維同士のネットワークの維持という相反する状態を保持できるものと考えられる。
【0051】
本発明の方法で得られる炭素繊維凝集体を構成する一次炭素繊維は、繊維径(直径)が好ましくは5〜100nm、より好ましくは5〜70nm、特に好ましくは5〜50nmである。また、アスペクト比(繊維長/繊維径)は通常5〜1000である。繊維径、及び繊維長は電子顕微鏡写真から測定する。
【0052】
本発明の好ましい態様の一次炭素繊維は、黒鉛層が繊維軸に対してほぼ平行に伸長している。なお、ここで、ほぼ平行とは繊維軸に対する黒鉛層の傾きが約±15度以内のことをいう。黒鉛層とは、炭素繊維を構成するグラフェンシートのことであり、電子顕微鏡写真(TEM)により縞模様として観察することができる。
【0053】
黒鉛層の長さは、繊維径の0.02〜15倍であることが好ましい。黒鉛層の長さが短いほど、樹脂等に充填したときに炭素繊維と樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。黒鉛層の長さ及び黒鉛層の傾きは電子顕微鏡写真などによる観察によって測定することができる。本発明の好ましい態様の一次炭素繊維は、繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が30〜90%であることが好ましい。黒鉛層の長さは、電子顕微鏡写真から測定する。
【0054】
また、好ましい態様の一次炭素繊維の形状は、繊維の中心部に空洞を有するチューブ状である。空洞部分は繊維長手方向に連続していてもよいし、不連続になっていてもよい。繊維径(d)と空洞部内径(d0 )との比(d0 /d)は特に限定されないが、通常0.1〜0.8、好ましくは0.1〜0.6である。
【0055】
本発明の好ましい態様のチューブ状の一次炭素繊維は、空洞を囲むシェルが多層構造になっているものが好ましい。具体的には、シェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されているもの、黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と乱れて不規則に配列した部分とからなるものが挙げられる。
【0056】
前者のシェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されている炭素繊維は、樹脂等に充填したときに樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。
黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と乱れて不規則に配列した部分とからなる炭素繊維では、不規則な炭素原子配列からなる層が厚いと繊維強度が弱くなりやすく、不規則な炭素原子配列からなる層が薄いと樹脂との界面強度が弱くなりやすい。繊維強度を強く、かつ樹脂との界面強度を強くするためには、不規則な炭素原子配列からなる層(不規則な黒鉛層)が適当な厚さで存在しているか、もしくは1本の繊維の中に厚い不規則な黒鉛層と薄い不規則な黒鉛層とが混在(分布)しているものが良い。
【0057】
本発明の炭素繊維凝集体は、そのBET法比表面積が通常20〜400m2/g、好ましくは30〜350m2/g、より好ましくは40〜350m2/gである。なお本明細書において、比表面積の値は窒素吸着によるBET法で求めたものである。
本発明の一次炭素繊維の形態は、特許文献1に示されるような「直線ないしはわずかに屈曲した繊維」とは異なり、繊維のほぼ全領域に亘って、くねくねと曲がった非直線状の繊維であることが特徴である。このようにくねくねと曲がっているために、二次凝集繊維の中では、比較的強い凝集力を有しているものと推定される。また、このくねくねした構造を有することにより、樹脂中に少量分散した場合でも繊維同士のネットワークが途切れず、従来技術の直線に近い繊維では発現しない低添加量の領域において導電性が発現する一因となっているものと考えられる。
【0058】
本発明の好ましい実施態様における炭素繊維凝集体は、上述のように一次炭素繊維が凝集した二次凝集繊維を形成していることが特徴である。電子顕微鏡写真を用いて観察することによりこのような炭素繊維凝集体の構造を特定することが可能である。繊維径、繊維長さなどは、電子顕微鏡写真を用いて観察される数十〜百の検体の平均値として特定される。
【0059】
上述のくねくねとした一次炭素繊維は二次凝集繊維中では比較的ランダムに凝集していることが特徴である。また、二次凝集繊維自身も直線状ではなく、湾曲していたり、各々の炭素繊維と同様にくねくねと曲がっている。この二次凝集繊維の径は通常1〜100μmであり、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。二次凝集繊維はさらに凝集し、凝集塊中にその末端が取り込まれている場合が多いため、その長さを正確に測定することは困難な場合が多い。電子顕微鏡観察で確認できる凝集繊維の長さは、通常5〜500μm、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは、20〜200μmである。
【0060】
従来の製造方法では、少量添加での樹脂複合材料への導電性付与効果が小さい無定形の凝集塊やほぼ球形の凝集塊しか得られないが、本発明の製造方法によれば、樹脂複合材料への導電性付与効果が高い繭状の凝集塊を含む炭素繊維凝集体が得られる。繭状の凝集塊はその長径と短径の比が大きいほど導電性付与効果が大きい。
【0061】
すなわち、本発明の炭素繊維凝集体は、二次凝集繊維がさらに凝集して繭状の凝集塊を形成している。繭状の凝集塊は電子顕微鏡写真による観察で、長径と短径の比を規定して特定することができる。本発明の炭素繊維凝集体は実際には繭状以外の無定形やほぼ球形などの凝集塊との混合物として得られたり、電子顕微鏡撮影のための試料調整段階などで凝集塊が壊れてばらばらになり、長径が短くなったりするので定量的に把握することは困難なケースが多い。好ましい態様では、長径と短径の比が少なくとも3以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上の繭状の凝集塊を含む。また、繭状の凝集塊の短径は50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。
【0062】
繭状の凝集塊中での二次凝集繊維同士の凝集度合いは二次凝集繊維内の各々の一次炭素繊維の凝集度合いよりも粗である。従って、この繭状の凝集塊を樹脂中に添加し混練すると、二次凝集繊維は比較的容易に分散するが、二次凝集繊維を形成している各々の一次炭素繊維はお互いに強固に絡み合っているため、樹脂複合体中で完全に分散せずに(ばらばらにはならずに)、ネットワーク構造が維持されると考えられる。繭状の凝集塊の長径と短径の比が大きい場合には、二次凝集繊維同士は配向性を有していると推定されるが、二次凝集繊維の長さが短いと配向しにくいので、二次繊維の長さはある程度長いことが配向するためには必要であると考えられる。二次凝集繊維は複合材料中に添加、混練された場合に、上述のような高分散状態を容易に形成するものと考えられる。このとき、二次凝集繊維が長いと二次凝集繊維間でもネットワーク構造が維持されやすく、このことが少量の添加で複合材料に導電性を付加できる要因であると考えられる。
【0063】
このように、本発明の炭素繊維は特異な繭状の凝集体構造を有するために、従来技術では到底導電性が発現しない低添加量の領域においても樹脂複合材料の導電性が発現するものと考えられる。
【0064】
本発明の好ましい態様における炭素繊維凝集体を樹脂に配合、混練することにより樹脂複合材料を調製することができる。一般に樹脂複合材料に配合する炭素繊維の添加量は、0.5〜30質量%である。従来の炭素繊維では5〜15質量%を配合しなければ所望の導電性が得られなかったが、本発明の炭素繊維凝集体ではその1/3から1/5(質量比)あるいはそれ以下の添加量で同等の導電性を示す優れた効果が得られる。具体的には、0.5〜10質量%、好ましくは、0.5〜5質量%の添加で十分な導電性が得られる。添加量が0.5質量%未満であると、樹脂配合体中に十分な導電性、熱伝導性の経路を作ることが難しい。一方、添加量が30質量%を超える高濃度になると樹脂自体の特性が失われやすい。
【0065】
本発明の好ましい実施態様における樹脂複合材料に用いる樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを用いることができ、光硬化性樹脂としては、例えば、ラジカル硬化系樹脂(アクリル系モノマーやポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどのアクリル系オリゴマー、不飽和ポリエステル、エンチオール系の重合体)、カチオン硬化系樹脂(エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル系樹脂)などを用いることができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、シクロポリオレフィン樹脂などを用いることができる。
【0066】
本発明による好ましい実施態様における炭素繊維凝集体を配合した樹脂複合材料は、耐衝撃性と共に、導電性や帯電防止性が要求される製品、例えばOA機器、電子機器、導電性包装用部品、導電性摺動用部材、導電性熱伝導性部材、帯電防止性包装用部品、静電塗装が適用される自動車部品などの成形材料として好適に使用できる。これら製品を製造する際には、従来知られている導電性樹脂組成物の成形法によることができる。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0068】
実施例1:
[加熱処理]
ギブサイト型水酸化アルミニウムH−100(昭和電工(株)製,BET法比表面積:0.12m2/g)をマッフル炉で650℃、1時間加熱した。BET法で測定した加熱処理後の水酸化アルミニウムの比表面積は140m2/gであった。なお、用いた水酸化アルミニウムは、25μm程度の一次粒子径約40個の凝集体である。水酸化アルミニウムの物性値(加熱処理前のBET法比表面積、粒度分布指数、一次粒子数、一次粒子径)を表1に示す。
【0069】
[触媒担持]
加熱処理後の水酸化アルミニウム1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物(純正化学社製,特級試薬)のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥させ,触媒金属(Fe)を20質量%担持した担持触媒を得た。
【0070】
[炭素繊維凝集体の合成]
内径3.2cmの石英管(長さ1m)の中央部に約40cmの横型反応炉を設置し、触媒を乗せた石英ボートを配設し、窒素ガスを500ml/分で流通させた。石英管を電気炉中に設置して、1時間かけて640℃に加熱した。その後、直ちに、窒素ガスを、250ml/分のエチレンガス、250ml/分の水素ガス(エチレン濃度50vol%)に切り替え、20分間反応させた。窒素ガス下で、冷却後、生成した炭素繊維凝集体を回収した。質量増加(回収物量/仕込み触媒量)は7倍であった。生成物の電子顕微鏡写真を図4(凝集塊,×43)、図5(二次凝集繊維,×2500)、図6(一次炭素繊維,×20000)及び図7(一次炭素繊維,×2000000)に示した。図4に示されるように生成物は繭状の丸みを帯びた凝集塊を形成しており、その短径は約100〜300μm、長径は約100〜1000μm、長径と短径の比は3〜6程度であった。二次凝集繊維はくねくねとした形状で、その径はおおよそ2〜5μm程度、その長さは少なくとも10μm程度であった(図5)。各々の繊維(一次繊維)は非直線状のくねくねとした繊維であり(図6)、直径は約10nmで、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長し、繊維表面の所々には、熱分解由来と思われる炭素層の付着が認められた(図7)。
【0071】
[樹脂複合材料の作成・評価]
実施例1で製造した炭素繊維凝集体1質量部、及びシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製;ゼオノア1420R)99質量部をラボプラストミル(東洋精機製作所製;30C150型)を用いて、270℃,80rpm,10分間の条件で混練し樹脂複合材料を得た。この複合材料を280℃,50MPa,60秒間の条件で熱プレスし、100mm×100mm×2mmの平板を作製した。この平板について、体積抵抗率計(三菱化学社製;ロレスタMCPT−410)を用いて、JIS−K7194に準拠して、4探針法で体積抵抗率を測定したところ2×103Ωcmであった。触媒調製条件(熱処理温度、熱処理後の担体のBET法比表面積)、触媒金属担持量、炭素繊維合成温度と結果(増加質量及び複合材料の抵抗値)をまとめて表2に示す。
【0072】
実施例2:
炭素繊維凝集体の合成温度を690℃にしたこと以外は実施例1と同様に実施した。生成物の形態は実施例1と同等であった。実施例1と同様に合成条件(反応温度)及び結果を表2に示す。
【0073】
実施例3:
ギブサイト型水酸化アルミニウムとして、昭和電工社製H−10Cの100メッシュ(Me)篩上品(BET法比表面積:0.062m2/g)を用いたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形態は実施例1と同等であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表2に示す。
【0074】
実施例4:
特開2003−0956455号公報に記載の方法で得たギブサイト型水酸化アルミニウムを分級して得られた、一次粒子数約1〜5、一次粒子径約20〜50μm、BET法比表面積0.24m2/g、50%体積累積粒子径D50 45μm、粒度分布指数1.20の水酸化アルミニウムを原料として用い、加熱処理温度を850℃とし、触媒担持量を10質量%としたこと以外は実施例2と同様に実施した。図8及び図9に、炭素繊維凝集体の電子顕微鏡写真を示した(図8:×55,図9:×1300)。炭素繊維凝集体の短径は約100〜200μm、長径は約200〜800μm、長径と短径の比は4〜10程度であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表2に示す。
【0075】
比較例1:
米国特許第5726116号公報(特許文献1)と同様にγアルミナ(ストレムケミカル製,BET法比表面積:130m2/g,50%体積累積粒子径D50:10μm)を担体として用いた。担体の電子顕微鏡写真を図10に示した(図10−A:×2000,図10−B:×20000)。図より、粗大なギブサイト型水酸化アルミニウムを熱処理したものとは異なり、中和法などで合成したアルミナゲル・擬ベーマイトの熱処理品であることが明らかである。担体1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥したものを触媒として用いたこと以外は、実施例2と同様に実施した。生成物の電子顕微鏡写真を図11(×400)及び図12(×5000)に示した。生成物は直線に近い二次凝集繊維と、ランダムに配向したカーボンファイバーの混合物であった。それらはさらに凝集して凝集塊を形成していた。凝集塊は球形に近い様々な形の凝集体とそれが崩壊したものの混合物であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0076】
比較例2:
ギブサイト型水酸化アルミニウムとして昭和電工製H−43M(BET法比表面積:7.3m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.68μm)を用い、加熱処理温度を550℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形状は比較例1と同様であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表3に示す。
【0077】
比較例3:
加熱処理温度を700℃としたこと以外は、比較例2と同様に実施した。図13に得られた炭素繊維凝集体塊の電子顕微鏡写真を示した(×30)。球形に近い様々な形の凝集体であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0078】
比較例4:
水酸化アルミニウムとして、ナルバック社製ベーマイトAPYRAL AOH60(BET法比表面積:6m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.9μm)を用い、熱処理温度を850℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形状は比較例3と同等であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0079】
比較例5:
水酸化アルミニウムとして、アルミニウム溶液の中和法で合成し、造粒乾燥したユニオン昭和社製擬ベーマイトV−250(BET法比表面積:230m2/g,50%体積累積粒子径D50:50μm,電子顕微鏡像;図3)を用い、加熱処理温度を850℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物は球状に近い凝集体(図14,×33)であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0080】
比較例6:
γアルミナの代わりに、気相法で合成したδアルミナ(デグッサ社製 OxideAluC,BET法比表面積:100m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.9μm)を用いたこと以外は比較例1と同様に実施した。凝集体の外観は比較例3と同様であった。凝集体中には各々の繊維がランダムに配向していた(図15,×5000)。合成条件と結果を表3に示す。
【0081】
比較例7:
γアルミナとして、住友化学社製AKP−G015(BET法比表面積:150m2/g,50%体積累積粒子径D50:2.1μm)を用いたこと以外は、比較例1と同様に実施した。繊維の形態は比較例6と同様であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0082】
実施例5〜6、比較例8〜9:
加熱処理温度を表4及び5に示した温度としたこと以外は実施例2と同様に実施した。合成条件と結果を表4及び5に示す。
【0083】
比較例10:
欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)と同様に水酸化アルミニウムに触媒金属を担持した後、加熱処理する方法で触媒を調製した。すなわち、ギブサイト型水酸化アルミニウム(昭和電工製H−43M)1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥し、乾燥後の触媒を700℃で1時間加熱処理した。加熱処理後の触媒を用いて、実施例2と同様に実施した。生成物の形態は比較例3と同等であった。合成条件と結果を表6に示す。
【0084】
比較例11〜12:
ギブサイト型水酸化アルミニウムに代えて、バイヤライト(ユニオン昭和社製VersalBT,BET法比表面積:25m2/g,50%体積累積粒子径D50:20μm)(比較例11)、擬ベーマイト(ユニオン昭和社製V−250)(比較例12)を用いた以外は、比較例10と同様に実施した。合成条件と結果を表6に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
表1〜6から、請求項1に規定する比表面積及び50%体積累積粒子径D50を有する水酸化アルミニウム(ギブサイト)を加熱処理した特定の比表面積を有する担体に触媒金属を担持した触媒を炭素源と加熱領域下で接触させて合成した炭素繊維凝集体は、比表面積及び50%体積累積粒子径D50が請求項1の範囲外の水酸化アルミニウムから調製した触媒を用いて合成した炭素繊維凝集体に比べて1質量%という少ない配合量で樹脂に導電性を付与すること(実施例1〜4、比較例2〜3)、ギブサイトから調製した触媒を用いると、他の水酸化アルミニウムから調製した触媒に比べて、樹脂への導電性付与効果が大きい炭素繊維凝集体が得られること(実施例1〜4、比較例4〜5、11〜12)、水酸化アルミニウムの加熱処理温度を請求項に規定する範囲内の温度として調製した触媒によれば、範囲外の温度で調製した触媒に比べて樹脂への導電性付与効果が大きい炭素繊維凝集体が得られること(実施例2、5〜6、比較例8〜9)、ギブサイトを用いた場合でも従来技術(特許文献3)のように触媒金属を担持した後に加熱処理する方法で調製した触媒を用いて合成した炭素繊維凝集体は樹脂への導電性付与効果が小さいこと(比較例10)が分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維凝集体、その製造方法及び用途に関する。さらに詳しく言えば、樹脂材料に添加して導電性を改善するフィラーとして好適な炭素繊維凝集体、その製造方法及びその炭素繊維凝集体を配合した複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などのマトリックス樹脂に、カーボンブラック、カーボン繊維または金属粉等の導電性フィラーを配合して導電性を付与した導電性樹脂複合材料が知られている。
しかし、この種の複合材料に高導電性(特に望ましくは、体積抵抗率1×106Ω・cm以下)を付与するには、相当な量の導電性フィラーを添加する必要がある。しかし、多量の導電性フィラーを添加するとマトリックス樹脂の物性に悪影響を及ぼし、調製された複合材料に樹脂本来の特性が反映されなくなるという欠点があった。そのため少量の配合量でも十分に高い導電性を発現するフィラー材料が望まれていた。
【0003】
このようなフィラー材料として、カーボンナノチューブが注目されている。カーボンナノチューブの製造方法としては、化学的気相成長法(以下、CVD法という。)による方法が知られている。CVD法としては、有機金属錯体などを触媒として用い、反応系内で触媒金属を気相中に生成させる方法と、触媒金属を担体に担持して用いる方法などが知られている。
【0004】
このようなCVD法のうち、前者の有機金属錯体などを触媒として使用する方法では、グラファイト層の欠陥が多く、反応後に、さらに高温で加熱処理を実施しないと導電性フィラーとして添加した場合に導電性が発現しないという問題があり、安価に製造することは困難であった。
【0005】
後者の触媒担体を用いる方法は、担体として基板を用いる方法(基板法)と粉末状の担体を用いる方法に大別できる。基板法は産業的に利用する場合、多数の基板を使用しないと基板表面積を稼げないため装置効率が低いだけでなく、生成したカーボンナノチューブを基板から回収する必要があり、工程数が多いため経済的ではなく、実用化には至っていない。
【0006】
一方、粉末状の担体を用いる方法は、基板を用いる方法に比較して比表面積が大きいため装置効率が高いだけでなく、様々な化学合成に用いられる反応装置が使用可能であるという利点を有する。
【0007】
このような粉末状の担体として、アルミナ、マグネシア、シリカ、ゼオライトなどの比表面積の大きな微粉末を用いることが数多く提案されているものの、いずれの担体を用いても、樹脂複合材料に使用した場合に少量の添加量で導電性を付与できる炭素繊維を合成することはできなかった。
【0008】
米国特許第5726116号公報(特許文献1)には、長手方向の軸が実質的に同じ相対的配向になっている複数の炭素フィブリルで、それらフィブリルの各々がその長手方向の軸に実質的に平行な黒鉛層を有し、連続的熱分解炭素外側被覆層を持たない炭素フィブリル凝集体が開示され、触媒担体としてγアルミナを用いた実施例には、炭素フィブリル凝集体が直線状かわずかに湾曲あるいはねじれている繊維が束になった直線状の繊維束(コームドヤーン:combed yarn)の形態をとることが示されている。
【0009】
国際公開公報第95/31281号パンフレット(特許文献2)の実施例には、平均粒子径1μm以下の水酸化アルミニウム微粒子(アルコア社製:H−705)を280〜600℃で質量減少率が27〜33%となるまで假焼した活性アルミナを触媒担体として用いることにより特許文献1と同様のコームドヤーン型の炭素フィブリル凝集体が得られることが開示されている。
【0010】
欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)には、水酸化アルミニウムにFeとCoを特定割合で担持させた後、熱処理した触媒が開示されており、これらの触媒を用いることにより、炭素生成効率が向上することが示されている。さらに、用いる水酸化アルミニウムとしてはバイヤライト型の水酸化アルミニウムが好適であることも開示されている。
【0011】
国際公開第2006/079186号パンフレット(特許文献4)には、80μm未満の粒子サイズの水酸化アルミニウムを担体として触媒金属を担持した後、必要に応じて熱処理、分級した触媒を用いることにより、炭素生成効率が向上することが開示されている。
【0012】
また、同様に水酸化アルミニウムを担体として用いる例として、アルミニウム塩の水溶液を中和すること(中和法)によって得られる極めて微粒のアルミナゲルや擬ベーマイトを必要に応じて造粒した後、假焼した活性アルミナや遷移アルミナを担体として用いたり(特開昭52−107329号公報;特許文献5)、アルミニウム塩と触媒金属塩の水溶液を中和するなどしてアルミニウムと触媒金属を共沈させて、必要に応じて假焼した触媒を用いるカーボンナノチューブの合成方法(国際公開第2006/50903号パンフレット;特許文献6)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5726116号公報
【特許文献2】国際公開第95/31281号パンフレット
【特許文献3】欧州特許公開第1797950号公報
【特許文献4】国際公開第2006/079186号パンフレット
【特許文献5】特開昭52−107329号公報
【特許文献6】国際公開第2006/50903号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1〜6の方法では、代表例を後述の比較例1、2、10及び11に示したように、炭素生成効率の向上は図れるものの、特に樹脂複合材料へ少量添加した際の導電性付与効果がないという欠点を有していた。
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、導電性、熱伝導性や強度向上のためのフィラー材料として、少量添加した場合でも樹脂複合材料に導電性の付与が可能な炭素繊維凝集体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の水酸化アルミニウムを加熱処理した後、触媒金属を担持させた担持触媒を用いて炭素繊維を合成することにより特異な繭状の凝集状態を有する炭素繊維凝集体が得られること、及びこの炭素繊維凝集体は樹脂複合材料へ少量添加した場合でも導電性が発現することを見出し本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]BET法比表面積が1m2/g以下で、50%体積累積粒子径(D50)が10〜300μmの水酸化アルミニウムを、加熱処理してBET法比表面積を50〜200m2/gとした担体に触媒金属または触媒金属前駆体を担持させた触媒と炭素含有化合物を加熱領域下で接触させることを特徴とする炭素繊維凝集体の製造方法。
[2]水酸化アルミニウムの加熱処理温度が500〜1000℃である前記1に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[3]炭素繊維凝集体が、直径が5〜100nm、アスペクト比が5〜1000であり、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長している非直線状の一次炭素繊維が凝集して二次凝集繊維を構成し、前記二次凝集繊維は直径が1μm以上、長さが5μm以上の非直線状であり、さらに前記二次凝集繊維が凝集して繭状の凝集塊を形成しているものである前記1または2に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[4]繭状の凝集塊が、長径と短径の比が5以上のものを含む前記3に記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[5]水酸化アルミニウムがギブサイトである前記1〜4のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[6]水酸化アルミニウムとして、式(1)で示される粒度分布指数が1.50以下のものを使用する前記1〜5のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法:
(式中、D90、D10及びD50は、各々粒度分布計で求めた90%体積累積粒子径、10%体積累積粒子径、50%体積累積粒子径である。)
[7]水酸化アルミニウムとして、一次粒子の大きさが5〜300μmのものを使用する前記1〜6のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法:
[8]触媒金属または触媒金属前駆体が、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Ti、V、Ru、Rh、Pd、Pt及び希土類元素の少なくともひとつを含む前記1〜7のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[9]触媒金属元素を含有する化合物を含む溶液または分散液を、担体に含浸させた後乾燥することにより得られる担持触媒を使用する前記1〜8のいずれかに記載の炭素繊維凝集体の製造方法。
[10]前記1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる炭素繊維凝集体。
[11]炭素繊維凝集体が、直径が5〜100nm、アスペクト比が5〜1000であり、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長している非直線状の炭素繊維が凝集して二次凝集繊維を構成し、前記二次凝集繊維は直径が1μm以上、長さが5μm以上の非直線状であり、さらに前記二次凝集繊維が凝集した長径と短径の比が5以上の繭状の凝集塊を含むことを特徴とする炭素繊維凝集体。
[12]前記10または11に記載の炭素繊維凝集体を含有する樹脂複合材料。
[13]BET法比表面積が1m2/g以下で、50%体積累積粒子径(D50)が10〜300μmの水酸化アルミニウムを、加熱処理してBET法比表面積を50〜200m2/gとした担体に、触媒金属または触媒金属前駆体を担持させてなる炭素繊維凝集体製造用触媒。
[14]前記担体に触媒金属元素を含む溶液を含浸させた後乾燥することにより得られる前記13に記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[15]水酸化アルミニウムがギブサイトである前記13または14に記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[16]水酸化アルミニウムの加熱処理温度が500〜1000℃である前記12〜15のいずれかに記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
[17]触媒金属元素が、Fe、Co及びNiから選択される元素とTi,V及びCrから選択される元素とMo及びWから選択される元素とを組み合わせたものである前記12〜16のいずれかに記載の炭素繊維凝集体製造用触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、少量の添加で樹脂複合材料の導電性が発現可能な炭素繊維凝集体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いる好ましい実質的に単一粒子状水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真像(×1200)。
【図2】本発明で用いる好ましい一次粒子凝集体状水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真像(×430)。
【図3】中和法で生成する擬ベーマイト凝集粒の電子顕微鏡写真像(A:×200、B:×2000)
【図4】実施例1の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×43)。
【図5】実施例1の生成物(二次凝集繊維)の電子顕微鏡写真像(×2500)。
【図6】実施例1の生成物(一次炭素繊維)の電子顕微鏡写真像(×20000)。
【図7】実施例1の生成物(一次炭素繊維)の電子顕微鏡写真像(×2000000)。
【図8】実施例4の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×55)。
【図9】実施例4の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×1300)。
【図10】γアルミナ(ストレムケミカル製)担体の電子顕微鏡写真(A:×2000、B:×20000)。
【図11】比較例1の生成物の電子顕微鏡写真像(×400)。
【図12】比較例1の生成物の電子顕微鏡写真像(×5000)。
【図13】比較例3の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×30)。
【図14】比較例5の生成物(炭素繊維凝集体)の電子顕微鏡写真像(×33)。
【図15】比較例6の生成物の電子顕微鏡写真像(×5000)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施態様においては、特定の水酸化アルミニウムを加熱処理した後、触媒金属を担持した触媒を、高温下で炭素含有化合物と接触させることにより特異な繭状の形態をもつ炭素繊維凝集体を得ることができる。
【0020】
[水酸化アルミニウム]
水酸化アルミニウム及びその假焼品は、これまで炭素繊維製造用触媒の担体としてよく用いられている。触媒担体である水酸化アルミニウム及びその假焼品に求められる機能は、触媒金属化合物を高分散状態で担持して触媒金属化合物の凝集成長を抑制することにある。従って、担体としては、微粒で比表面積の大きいものを用いる方が触媒活性は高いと考えられていた。そこで、従来、特許文献2に開示されているように微粒の水酸化アルミニウムを用いたり、軽度に熱処理して比表面積を増加させた後担体として使用されている。
【0021】
さらに、(1)生成した炭素繊維の主たる不純物成分となる担体を酸やアルカリを用いて溶解除去することにより、あるいは(2)炭素繊維の生成効率を高めることにより、担体を溶解除去する必要のない程度まで低減させるなどの工夫が必要であった。担体を溶解除去する(1)の場合においても、担体成分としては、微粒で比表面積の大きいほど溶解性が高く良好であると考えられてきた。また、(2)の担体を溶解除去しない場合においては、樹脂複合材料としたとき樹脂複合材料の表面の平滑性を損なったり、破壊起点になるなど樹脂複合材料の特性を悪化させる原因とならないように微粒の担体が用いられてきた。
このように従来、触媒担体としては比表面積が大きく、微細な担体が好ましいとされてきた。
【0022】
本発明は、先行技術あるいは上述の考え方とは異なり、粗大粒子である水酸化アルミニウムを用い、後述する製造方法を採用することにより、従来の炭素繊維よりも少ない添加量で樹脂複合体に導電性を付与できる炭素繊維凝集体を得ることを可能としたものである。
【0023】
水酸化アルミニウムは種々の方法によって合成され、その合成方法、条件などにより結晶形態、粒度分布、不純物量などが異なる種々の水酸化アルミニウムを得ることができる。
本発明で使用する好ましい形態の水酸化アルミニウムの一例として、バイヤー法などで得られるギブサイト型構造のものが挙げられる。
【0024】
本発明においては、比較的大きな単粒子状(単粒子あるいは数個の単粒子が強固に凝集した構造)の水酸化アルミニウムを使用することが好ましい。図1及び図2に本発明で好ましく用いられる水酸化アルミニウムの電子顕微鏡写真を示す。有姿の粒子はその表面が荒れていたり、微細粒子の付着が若干存在するものの実質的に単一粒子であるか(図1)、複数個の一次粒子がその粒子の端部が他の粒子と強固に結合した凝集体が好ましい(図2)。図2では約20個の一次粒子が確認できる。このような構造は電子顕微鏡写真で直接観察することができるが、凝集体を構成する一次粒子の数は電子顕微鏡観察からは全てを(360度にわたって)確認することはできない。本発明においては、凝集体一個当たりの平均一次粒子の数を以下の方法で推定した。すなわち、電子顕微鏡によって確認できるのは有姿粒子の約半分の一次粒子数であると仮定して、電子顕微鏡写真から確認できた一次粒子数の2倍を全一次粒子数とした。全一次粒子数が少ない方が単粒子状に近く好ましい。好適な一次粒子の数は使用する水酸化アルミニウムの粒子径や粒度分布などによっても異なるため一義的には決められないが、具体例を挙げると、その全一次粒子数は100個以下が好ましく、50個以下がさらに好ましく、20個以下が最適である。
【0025】
一次粒子の大きさは、電子顕微鏡写真を用いて測定する。通常は一次粒子同士が重なりあっていて正確な測定は困難なため、確認できる外周を外挿し、おおよその大きさを測定した。一次粒子の大きさとしては、5〜300μmが好ましく、20〜200μmがさらに好ましく、40〜200μmが最も好ましい。
単粒子状の水酸化アルミニウムを担体原料として用いることにより、得られる炭素繊維は長径と短径の比の大きな繭状の凝集塊を形成し、樹脂複合材料に少量添加した場合でも導電性の付与効果が大きくなる。水酸化アルミニウムが単粒子状でないと繭状の凝集粒子とならなかったり、樹脂複合材料に少量添加した際の導電性の付与効果が小さかったりする。
【0026】
従って、中和法などで生成する微細なアルミナゲルや擬ベーマイトの凝集粒(図3)や、それらを成形あるいは造粒した非常に微細な粒子の凝集体は好ましくない。
このような微細粒子の凝集体は非常に大きな比表面積を有することが特徴である。比表面積は後述の加熱処理によって急激に増加するため、比表面積を尺度とする場合には注意を要するが、担体原料として好適な水酸化アルミニウムのBET法比表面積は1m2/g以下が好ましく、0.5m2/g以下がさらに好ましく、0.3m2/g以下が最も好ましい。
【0027】
単粒子状の水酸化アルミニウムであっても、50%体積累積粒子径D50が10μm未満の粒子を原料として用いると、炭素繊維の生成効率は高いが、繭状の凝集塊とならなかったり、導電性の付与効果が小さかったりするため好ましくない。粒子が大きいほうが得られる繊維の導電性付与効果が高く好ましい。しかし、D50が300μmを超えるような粗大粒子では炭素繊維生成後も触媒担体由来の粗大な残渣が炭素繊維中に残留し、樹脂複合材料にしたときに破壊基点になるなどの悪影響を及ぼす。
【0028】
従って、水酸化アルミニウムの50%体積累積粒子径D50の下限は10μmが好ましく、40μmがさらに好ましく、70μmが最も好ましい。50%体積累積粒子径D50の上限は300μmが好ましく、200μmがさらに好ましい。従って、好ましい水酸化アルミニウムの50%体積累積粒子径D50の範囲は10〜300μmが好ましく、40〜200μmがさらに好ましく、70〜200μmが最も好ましいが、例えば、肉厚の薄い成形品や、表面平滑性が求められる品物、薄膜、塗料などの用途によっては40〜150μmが好ましい場合もある。
【0029】
本発明で使用する水酸化アルミニウムの粒度分布は狭い方が好ましいが、50%体積累積粒子径D50が小さい場合には粒度分布はやや広めの方が粒子径の大きい粒子が多く含まれるため好ましい。
粒度分布の大きさの指標となる下記式で定義する粒度分布指数が1.50以下が好ましく、1.20以下がさらに好ましく、1.0以下が最も好ましい。
【0030】
【数1】
式中、D10、D50及びD90は、各々粒度分布計(日機装(株)製:マイクロトラックHRA)で求めた90%体積累積粒子径、10%体積累積粒子径、50%体積累積粒子径である。
D50が70μm以下の場合には、粒度分布指数は1.0〜1.50が好ましい。
【0031】
[加熱処理]
水酸化アルミニウムは加熱処理することにより結晶中のH2Oが離脱し、無定形アルミナ、活性アルミナを経て、様々な形態の遷移アルミナとなり、1000℃以上の高温でαアルミナへと転移する。比表面積は熱処理の過程で無定形アルミナになる際に最も高い値をとり、その後低下していく(Oxides and Hydroxides of Aluminum, K. Wefers and G. M. Bell Technical Paper (AlcoaReseachLabs), 1972:参考文献)。従って、一般に、高比表面積が望まれる炭素繊維合成用の触媒担体としては、比較的低温で処理したものが用いられてきた。具体的には国際公開公報第95/31281号パンフレット(特許文献2)に開示されているように、サブミクロンの水酸化アルミニウムの凝集粒(具体例としてはアルコア社製H−705:BET法比表面積5m2/g以上)を質量減少率が27〜33%となるまで加熱処理したものである。この場合の比表面積は、参考文献のFig.4.4から150〜300m2/g程度であると推定される。
【0032】
しかし、このように大きな比表面積の触媒担体を用いると複合材料への導電性付与効果が低くなるという欠点があった(後述の比較例9参照)。本発明の製造方法では、従来の比表面積レベルでなく、上述の特定の水酸化アルミニウムをより低い比表面積となる条件で加熱処理することに特徴がある。
【0033】
また、欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)及び国際公開第2006/079186号パンフレット(特許文献4)に開示されているような水酸化アルミニウムに触媒金属を担持した後に加熱処理する方法では、水酸化アルミニウムの脱水反応の進行につれて触媒金属との相互作用が強まり、担体中に固溶したり強固に結合するためか、生成したカーボンナノチューブの樹脂複合材への導電性付与効果は本発明の方法に比べて低くなる(後述の比較例10参照)。
【0034】
本発明の方法では、このように一般に用いられている活性の高い担体は使用せず、比較的粗大な担体原料(水酸化アルミニウム)を比較的高温で熱処理して、あまり強い活性を持たない状態で触媒金属を担持し、炭素繊維の合成反応に供するところに特徴がある。
【0035】
従って、本発明で担体原料として用いる水酸化アルミニウムの加熱処理後のBET法比表面積は50〜200m2/gであるものが好ましい。具体的には、下限としては50m2/gが好ましく、90m2/gがさらに好ましい。また、上限としては200m2/gが好ましく、150m2/gがさらに好ましく、145m2/gが最も好ましい。BET法比表面積が200m2/gを超えると、金属担持触媒を用いて得られる炭素繊維の複合材料に対する導電性付与効果が小さくなるため好ましくない。BET法比表面積が50m2/g未満では、金属担持触媒の炭素繊維生成効率が低いだけでなく、得られる炭素繊維の複合材料への導電性付与効果が小さくなり好ましくない。
【0036】
水酸化アルミニウムの加熱処理条件は、上記の比表面積が得られる温度、時間、雰囲気を選定すればよく、特に限定されない。使用する水酸化アルミニウムの粒度、不純物濃度などにより適切な温度は異なるが、通常500〜1000℃が好ましく、600〜1000℃がさらに好ましく、600〜900℃が最も好ましい。一般に、水酸化アルミニウムを假焼して活性アルミナなどの高比表面積の遷移アルミナ(中間アルミナ)を得る場合には、高温で極く短時間加熱処理する場合が多いが、これらの方法とは異なり、本発明では適切な温度で、比較的長い時間加熱処理することにより、均一な担体原料を得る。従って、好ましい熱処理時間は一般に1分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がさらに好ましく、10分〜3時間が最適である。
【0037】
[触媒金属及び触媒金属前駆体]
本発明で用いる触媒金属は、炭素繊維の成長を促進する物質であれば、特に制限されない。このような触媒金属としては、例えば、IUPACが1990年に勧告した18族型元素周期表の3〜12族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。中でも、3、5、6、8、9、10族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、チタニウム、(Ti)ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の金属が特に好ましい。また、これらの触媒として作用する金属元素を含有する化合物(触媒前駆体)としては、触媒金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などの無機塩類、酢酸塩などの有機塩、アセチルアセトン錯体などの有機錯体、有機金属化合物など、触媒金属を含有する化合物であれば特に限定されない。反応性の観点からは硝酸塩やアセチルアセトン錯体などが好ましい。
【0038】
これらの触媒金属及び触媒金属前駆体化合物を2種以上使用することにより、反応活性を調節することは広く知られている。好適な触媒の例としては、特開2008−174442号公報に開示されている、Fe、Co及びNiから選択される元素とTi,V及びCrから選択される元素とMo及びWから選択される元素とを組み合わせたものが挙げられる。
【0039】
[触媒金属の担持方法]
本発明の製造方法で使用する担持触媒は、その調製法については特に制限されないが、特に触媒金属元素を含む液を担体に含浸させることにより触媒を得る含浸法によって製造することが好ましい。
具体例としては、触媒金属前駆体化合物を溶媒に溶解または分散し、この溶液または分散液を粉粒状担体に含浸させ、次いで乾燥する方法が挙げられる。
【0040】
触媒金属元素を含む液は、液状の触媒金属元素を含む有機化合物でもよいし、触媒金属元素を含む化合物を有機溶媒または水に溶解または分散させたものでもよい。ここで用いる有機溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、フラン、ジベンゾフラン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、四塩化炭素、トリクロルエチレン、クロルエタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
触媒金属元素を含む液には触媒金属元素の分散性を改善するなどの目的で、分散剤や界面活性剤(好ましくは、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤)を添加してもよい。触媒金属元素を含む液中の触媒金属元素濃度は、溶媒及び触媒金属種によって適宜選択することができる。担体と混合される触媒金属元素を含む液の量は、用いる担体の吸液量相当であることが好ましい。
【0041】
触媒金属元素を含む液と担体とを十分に混合した後の乾燥は、通常70〜150℃で行う。乾燥においては真空乾燥を用いてもよい。
【0042】
[炭素含有化合物]
本発明の炭素繊維凝集体の製造方法において使用される炭素源(炭素含有化合物)は特に限定されない。炭素含有化合物としては、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl、CO、CO2、CS2等のほか有機化合物全般が使用可能である。特に有用性の高い化合物としては、CO、CO2、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素を挙げることができる。また、窒素、リン、酸素、硫黄、弗素、塩素、臭素、沃素等の元素を含んだ炭素化合物も使用することができる。
【0043】
好ましい炭素含有化合物の具体例としては、CO、CO2等の無機ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のアルケン類、アセチレン等のアルキン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の単環式芳香族炭化水素、インデン、ナフタリン、アントラセン、フェナントレン等の縮合環を有する多環式化合物、シクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等のシクロパラフィン類、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等のシクロオレフィン類、ステロイド等の縮合環を有する脂環式炭化水素化合物等がある。さらに、これらの炭化水素に酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン等が含まれた誘導体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の含酸素化合物、メチルチオール、メチルエチルスルフィド、ジメチルチオケトン等の含硫黄脂肪族化合物、フェニルチオール、ジフェニルスルフィド等の含硫黄芳香族化合物、ピリジン、キノリン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄または含窒素複素環式化合物、クロロホルム、四塩化炭素、クロルエタン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素、また天然ガス、ガソリン、灯油、重油、クレオソート油、ケロシン、テレピン油、樟脳油、松根油、ギヤー油、シリンダ油等も使用することができる。これらは2種以上の混合物として用いることもできる。
【0044】
これらの中で、好ましい炭素含有化合物として、CO、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びこれらの混合物が挙げられ、特に好ましい炭素含有化合物として、エチレン、プロピレン及びエタノールが挙げられる。
【0045】
[キャリアーガス]
本発明の炭素繊維凝集体の製造方法においては、これらの炭素含有化合物に加えて、キャリアーガスを使用することが推奨される。キャリアーガスとしては水素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガス、またはこれらの混合ガスを用いることができる。しかし、空気等の酸素分子(すなわち、分子状態の酸素:O2)を含有するガスは触媒を劣化するため適さない。本発明で用いる触媒金属前駆体化合物は酸化状態にある場合があり、こうした場合にはキャリアーガスとして還元性の水素ガスを含有するガスを用いることが好ましい。従って、好ましいキャリアーガスとしては水素ガスを1vol%以上、さらには30vol%以上、最も好ましくは85vol%以上含んだガスであり、例えば100vol%水素ガスや水素ガスを窒素ガスで希釈したガスである。
【0046】
[前処理]
一般に、触媒金属前駆体化合物は酸化状態にある場合があるため、炭素含有化合物と接触させる前に還元性のガスと接触させることにより触媒金属に還元する工程を設ける場合が多いが、本発明でこのような還元処理を実施すると触媒金属の凝集が進行するためか炭素繊維生成効率が充分でなかったり、生成した炭素繊維の樹脂複合材料への導電性付与効果が低くなる。本発明では、このような還元処理をはじめとする高温での保持時間を極力短くすることが好ましい。
【0047】
従って、予め反応炉中に触媒を静置し、昇温反応させる場合は、昇温速度を速くして、所定温度に到達後は直ちに炭素含有化合物と接触させることが好ましい。さらに好ましい方法は、反応炉を所定温度に昇温した後に、触媒を炭素含有化合物と同時に供給する方法である。
【0048】
[炭素含有ガス濃度]
上述の炭素含有化合物は、常温で液体または固体のものは、加熱し気化させて炭素含有ガスとして導入することが好ましい。これら炭素含有ガスの供給量は、使用する触媒、炭素含有化合物、反応条件によって異なるため一義的には決められないが、一般に好ましい範囲は、(炭素含有ガス流量)/(キャリアーガス流量+炭素含有ガス流量)が10〜90vol%であり、30〜70vol%がさらに好ましい。炭素含有化合物がエチレンの場合は、特に30〜90vol%の範囲が好ましい。
【0049】
[反応温度]
本発明の方法において、触媒と炭素含有化合物を接触させる温度は、使用する炭素含有化合物などにより異なるが、一般に400〜1100℃であり、好ましくは500〜800℃である。温度は低過ぎても高過ぎても炭素繊維凝集体の生成量が著しく低くなる場合がある。また、炭素繊維の生成以外の副反応が起こるような高温では、炭素繊維表面にフィラーとしての応用に適さない非導電性の物質が多量に付着する傾向がある。
【0050】
[炭素繊維凝集体]
本発明の方法で得られる炭素繊維凝集体は、各々の炭素繊維が特異な繭状の形態で凝集している。この凝集形態により、樹脂複合体中での良好な分散状態と繊維同士のネットワークの維持という相反する状態を保持できるものと考えられる。
【0051】
本発明の方法で得られる炭素繊維凝集体を構成する一次炭素繊維は、繊維径(直径)が好ましくは5〜100nm、より好ましくは5〜70nm、特に好ましくは5〜50nmである。また、アスペクト比(繊維長/繊維径)は通常5〜1000である。繊維径、及び繊維長は電子顕微鏡写真から測定する。
【0052】
本発明の好ましい態様の一次炭素繊維は、黒鉛層が繊維軸に対してほぼ平行に伸長している。なお、ここで、ほぼ平行とは繊維軸に対する黒鉛層の傾きが約±15度以内のことをいう。黒鉛層とは、炭素繊維を構成するグラフェンシートのことであり、電子顕微鏡写真(TEM)により縞模様として観察することができる。
【0053】
黒鉛層の長さは、繊維径の0.02〜15倍であることが好ましい。黒鉛層の長さが短いほど、樹脂等に充填したときに炭素繊維と樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。黒鉛層の長さ及び黒鉛層の傾きは電子顕微鏡写真などによる観察によって測定することができる。本発明の好ましい態様の一次炭素繊維は、繊維径の2倍未満の長さを有する黒鉛層の数の割合が30〜90%であることが好ましい。黒鉛層の長さは、電子顕微鏡写真から測定する。
【0054】
また、好ましい態様の一次炭素繊維の形状は、繊維の中心部に空洞を有するチューブ状である。空洞部分は繊維長手方向に連続していてもよいし、不連続になっていてもよい。繊維径(d)と空洞部内径(d0 )との比(d0 /d)は特に限定されないが、通常0.1〜0.8、好ましくは0.1〜0.6である。
【0055】
本発明の好ましい態様のチューブ状の一次炭素繊維は、空洞を囲むシェルが多層構造になっているものが好ましい。具体的には、シェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されているもの、黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と乱れて不規則に配列した部分とからなるものが挙げられる。
【0056】
前者のシェルの内層が結晶性の炭素で構成され、外層が熱分解層を含む炭素で構成されている炭素繊維は、樹脂等に充填したときに樹脂との密着強度が高くなり、樹脂と炭素繊維のコンポジットの機械的強度が高くなる。
黒鉛層が平行に規則的に配列した部分と乱れて不規則に配列した部分とからなる炭素繊維では、不規則な炭素原子配列からなる層が厚いと繊維強度が弱くなりやすく、不規則な炭素原子配列からなる層が薄いと樹脂との界面強度が弱くなりやすい。繊維強度を強く、かつ樹脂との界面強度を強くするためには、不規則な炭素原子配列からなる層(不規則な黒鉛層)が適当な厚さで存在しているか、もしくは1本の繊維の中に厚い不規則な黒鉛層と薄い不規則な黒鉛層とが混在(分布)しているものが良い。
【0057】
本発明の炭素繊維凝集体は、そのBET法比表面積が通常20〜400m2/g、好ましくは30〜350m2/g、より好ましくは40〜350m2/gである。なお本明細書において、比表面積の値は窒素吸着によるBET法で求めたものである。
本発明の一次炭素繊維の形態は、特許文献1に示されるような「直線ないしはわずかに屈曲した繊維」とは異なり、繊維のほぼ全領域に亘って、くねくねと曲がった非直線状の繊維であることが特徴である。このようにくねくねと曲がっているために、二次凝集繊維の中では、比較的強い凝集力を有しているものと推定される。また、このくねくねした構造を有することにより、樹脂中に少量分散した場合でも繊維同士のネットワークが途切れず、従来技術の直線に近い繊維では発現しない低添加量の領域において導電性が発現する一因となっているものと考えられる。
【0058】
本発明の好ましい実施態様における炭素繊維凝集体は、上述のように一次炭素繊維が凝集した二次凝集繊維を形成していることが特徴である。電子顕微鏡写真を用いて観察することによりこのような炭素繊維凝集体の構造を特定することが可能である。繊維径、繊維長さなどは、電子顕微鏡写真を用いて観察される数十〜百の検体の平均値として特定される。
【0059】
上述のくねくねとした一次炭素繊維は二次凝集繊維中では比較的ランダムに凝集していることが特徴である。また、二次凝集繊維自身も直線状ではなく、湾曲していたり、各々の炭素繊維と同様にくねくねと曲がっている。この二次凝集繊維の径は通常1〜100μmであり、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。二次凝集繊維はさらに凝集し、凝集塊中にその末端が取り込まれている場合が多いため、その長さを正確に測定することは困難な場合が多い。電子顕微鏡観察で確認できる凝集繊維の長さは、通常5〜500μm、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは、20〜200μmである。
【0060】
従来の製造方法では、少量添加での樹脂複合材料への導電性付与効果が小さい無定形の凝集塊やほぼ球形の凝集塊しか得られないが、本発明の製造方法によれば、樹脂複合材料への導電性付与効果が高い繭状の凝集塊を含む炭素繊維凝集体が得られる。繭状の凝集塊はその長径と短径の比が大きいほど導電性付与効果が大きい。
【0061】
すなわち、本発明の炭素繊維凝集体は、二次凝集繊維がさらに凝集して繭状の凝集塊を形成している。繭状の凝集塊は電子顕微鏡写真による観察で、長径と短径の比を規定して特定することができる。本発明の炭素繊維凝集体は実際には繭状以外の無定形やほぼ球形などの凝集塊との混合物として得られたり、電子顕微鏡撮影のための試料調整段階などで凝集塊が壊れてばらばらになり、長径が短くなったりするので定量的に把握することは困難なケースが多い。好ましい態様では、長径と短径の比が少なくとも3以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上の繭状の凝集塊を含む。また、繭状の凝集塊の短径は50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。
【0062】
繭状の凝集塊中での二次凝集繊維同士の凝集度合いは二次凝集繊維内の各々の一次炭素繊維の凝集度合いよりも粗である。従って、この繭状の凝集塊を樹脂中に添加し混練すると、二次凝集繊維は比較的容易に分散するが、二次凝集繊維を形成している各々の一次炭素繊維はお互いに強固に絡み合っているため、樹脂複合体中で完全に分散せずに(ばらばらにはならずに)、ネットワーク構造が維持されると考えられる。繭状の凝集塊の長径と短径の比が大きい場合には、二次凝集繊維同士は配向性を有していると推定されるが、二次凝集繊維の長さが短いと配向しにくいので、二次繊維の長さはある程度長いことが配向するためには必要であると考えられる。二次凝集繊維は複合材料中に添加、混練された場合に、上述のような高分散状態を容易に形成するものと考えられる。このとき、二次凝集繊維が長いと二次凝集繊維間でもネットワーク構造が維持されやすく、このことが少量の添加で複合材料に導電性を付加できる要因であると考えられる。
【0063】
このように、本発明の炭素繊維は特異な繭状の凝集体構造を有するために、従来技術では到底導電性が発現しない低添加量の領域においても樹脂複合材料の導電性が発現するものと考えられる。
【0064】
本発明の好ましい態様における炭素繊維凝集体を樹脂に配合、混練することにより樹脂複合材料を調製することができる。一般に樹脂複合材料に配合する炭素繊維の添加量は、0.5〜30質量%である。従来の炭素繊維では5〜15質量%を配合しなければ所望の導電性が得られなかったが、本発明の炭素繊維凝集体ではその1/3から1/5(質量比)あるいはそれ以下の添加量で同等の導電性を示す優れた効果が得られる。具体的には、0.5〜10質量%、好ましくは、0.5〜5質量%の添加で十分な導電性が得られる。添加量が0.5質量%未満であると、樹脂配合体中に十分な導電性、熱伝導性の経路を作ることが難しい。一方、添加量が30質量%を超える高濃度になると樹脂自体の特性が失われやすい。
【0065】
本発明の好ましい実施態様における樹脂複合材料に用いる樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを用いることができ、光硬化性樹脂としては、例えば、ラジカル硬化系樹脂(アクリル系モノマーやポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどのアクリル系オリゴマー、不飽和ポリエステル、エンチオール系の重合体)、カチオン硬化系樹脂(エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル系樹脂)などを用いることができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、シクロポリオレフィン樹脂などを用いることができる。
【0066】
本発明による好ましい実施態様における炭素繊維凝集体を配合した樹脂複合材料は、耐衝撃性と共に、導電性や帯電防止性が要求される製品、例えばOA機器、電子機器、導電性包装用部品、導電性摺動用部材、導電性熱伝導性部材、帯電防止性包装用部品、静電塗装が適用される自動車部品などの成形材料として好適に使用できる。これら製品を製造する際には、従来知られている導電性樹脂組成物の成形法によることができる。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0068】
実施例1:
[加熱処理]
ギブサイト型水酸化アルミニウムH−100(昭和電工(株)製,BET法比表面積:0.12m2/g)をマッフル炉で650℃、1時間加熱した。BET法で測定した加熱処理後の水酸化アルミニウムの比表面積は140m2/gであった。なお、用いた水酸化アルミニウムは、25μm程度の一次粒子径約40個の凝集体である。水酸化アルミニウムの物性値(加熱処理前のBET法比表面積、粒度分布指数、一次粒子数、一次粒子径)を表1に示す。
【0069】
[触媒担持]
加熱処理後の水酸化アルミニウム1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物(純正化学社製,特級試薬)のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥させ,触媒金属(Fe)を20質量%担持した担持触媒を得た。
【0070】
[炭素繊維凝集体の合成]
内径3.2cmの石英管(長さ1m)の中央部に約40cmの横型反応炉を設置し、触媒を乗せた石英ボートを配設し、窒素ガスを500ml/分で流通させた。石英管を電気炉中に設置して、1時間かけて640℃に加熱した。その後、直ちに、窒素ガスを、250ml/分のエチレンガス、250ml/分の水素ガス(エチレン濃度50vol%)に切り替え、20分間反応させた。窒素ガス下で、冷却後、生成した炭素繊維凝集体を回収した。質量増加(回収物量/仕込み触媒量)は7倍であった。生成物の電子顕微鏡写真を図4(凝集塊,×43)、図5(二次凝集繊維,×2500)、図6(一次炭素繊維,×20000)及び図7(一次炭素繊維,×2000000)に示した。図4に示されるように生成物は繭状の丸みを帯びた凝集塊を形成しており、その短径は約100〜300μm、長径は約100〜1000μm、長径と短径の比は3〜6程度であった。二次凝集繊維はくねくねとした形状で、その径はおおよそ2〜5μm程度、その長さは少なくとも10μm程度であった(図5)。各々の繊維(一次繊維)は非直線状のくねくねとした繊維であり(図6)、直径は約10nmで、黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸長し、繊維表面の所々には、熱分解由来と思われる炭素層の付着が認められた(図7)。
【0071】
[樹脂複合材料の作成・評価]
実施例1で製造した炭素繊維凝集体1質量部、及びシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製;ゼオノア1420R)99質量部をラボプラストミル(東洋精機製作所製;30C150型)を用いて、270℃,80rpm,10分間の条件で混練し樹脂複合材料を得た。この複合材料を280℃,50MPa,60秒間の条件で熱プレスし、100mm×100mm×2mmの平板を作製した。この平板について、体積抵抗率計(三菱化学社製;ロレスタMCPT−410)を用いて、JIS−K7194に準拠して、4探針法で体積抵抗率を測定したところ2×103Ωcmであった。触媒調製条件(熱処理温度、熱処理後の担体のBET法比表面積)、触媒金属担持量、炭素繊維合成温度と結果(増加質量及び複合材料の抵抗値)をまとめて表2に示す。
【0072】
実施例2:
炭素繊維凝集体の合成温度を690℃にしたこと以外は実施例1と同様に実施した。生成物の形態は実施例1と同等であった。実施例1と同様に合成条件(反応温度)及び結果を表2に示す。
【0073】
実施例3:
ギブサイト型水酸化アルミニウムとして、昭和電工社製H−10Cの100メッシュ(Me)篩上品(BET法比表面積:0.062m2/g)を用いたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形態は実施例1と同等であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表2に示す。
【0074】
実施例4:
特開2003−0956455号公報に記載の方法で得たギブサイト型水酸化アルミニウムを分級して得られた、一次粒子数約1〜5、一次粒子径約20〜50μm、BET法比表面積0.24m2/g、50%体積累積粒子径D50 45μm、粒度分布指数1.20の水酸化アルミニウムを原料として用い、加熱処理温度を850℃とし、触媒担持量を10質量%としたこと以外は実施例2と同様に実施した。図8及び図9に、炭素繊維凝集体の電子顕微鏡写真を示した(図8:×55,図9:×1300)。炭素繊維凝集体の短径は約100〜200μm、長径は約200〜800μm、長径と短径の比は4〜10程度であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表2に示す。
【0075】
比較例1:
米国特許第5726116号公報(特許文献1)と同様にγアルミナ(ストレムケミカル製,BET法比表面積:130m2/g,50%体積累積粒子径D50:10μm)を担体として用いた。担体の電子顕微鏡写真を図10に示した(図10−A:×2000,図10−B:×20000)。図より、粗大なギブサイト型水酸化アルミニウムを熱処理したものとは異なり、中和法などで合成したアルミナゲル・擬ベーマイトの熱処理品であることが明らかである。担体1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥したものを触媒として用いたこと以外は、実施例2と同様に実施した。生成物の電子顕微鏡写真を図11(×400)及び図12(×5000)に示した。生成物は直線に近い二次凝集繊維と、ランダムに配向したカーボンファイバーの混合物であった。それらはさらに凝集して凝集塊を形成していた。凝集塊は球形に近い様々な形の凝集体とそれが崩壊したものの混合物であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0076】
比較例2:
ギブサイト型水酸化アルミニウムとして昭和電工製H−43M(BET法比表面積:7.3m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.68μm)を用い、加熱処理温度を550℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形状は比較例1と同様であった。用いた水酸化アルミニウムの物性を表1に、合成条件と結果を表3に示す。
【0077】
比較例3:
加熱処理温度を700℃としたこと以外は、比較例2と同様に実施した。図13に得られた炭素繊維凝集体塊の電子顕微鏡写真を示した(×30)。球形に近い様々な形の凝集体であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0078】
比較例4:
水酸化アルミニウムとして、ナルバック社製ベーマイトAPYRAL AOH60(BET法比表面積:6m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.9μm)を用い、熱処理温度を850℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物の形状は比較例3と同等であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0079】
比較例5:
水酸化アルミニウムとして、アルミニウム溶液の中和法で合成し、造粒乾燥したユニオン昭和社製擬ベーマイトV−250(BET法比表面積:230m2/g,50%体積累積粒子径D50:50μm,電子顕微鏡像;図3)を用い、加熱処理温度を850℃としたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物は球状に近い凝集体(図14,×33)であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0080】
比較例6:
γアルミナの代わりに、気相法で合成したδアルミナ(デグッサ社製 OxideAluC,BET法比表面積:100m2/g,50%体積累積粒子径D50:0.9μm)を用いたこと以外は比較例1と同様に実施した。凝集体の外観は比較例3と同様であった。凝集体中には各々の繊維がランダムに配向していた(図15,×5000)。合成条件と結果を表3に示す。
【0081】
比較例7:
γアルミナとして、住友化学社製AKP−G015(BET法比表面積:150m2/g,50%体積累積粒子径D50:2.1μm)を用いたこと以外は、比較例1と同様に実施した。繊維の形態は比較例6と同様であった。合成条件と結果を表3に示す。
【0082】
実施例5〜6、比較例8〜9:
加熱処理温度を表4及び5に示した温度としたこと以外は実施例2と同様に実施した。合成条件と結果を表4及び5に示す。
【0083】
比較例10:
欧州特許公開第1797950号公報(特許文献3)と同様に水酸化アルミニウムに触媒金属を担持した後、加熱処理する方法で触媒を調製した。すなわち、ギブサイト型水酸化アルミニウム(昭和電工製H−43M)1質量部と2.6質量部の硝酸鉄9水和物のメタノール溶液(濃度70質量%)を混合後、120℃の真空乾燥器で16時間乾燥し、乾燥後の触媒を700℃で1時間加熱処理した。加熱処理後の触媒を用いて、実施例2と同様に実施した。生成物の形態は比較例3と同等であった。合成条件と結果を表6に示す。
【0084】
比較例11〜12:
ギブサイト型水酸化アルミニウムに代えて、バイヤライト(ユニオン昭和社製VersalBT,BET法比表面積:25m2/g,50%体積累積粒子径D50:20μm)(比較例11)、擬ベーマイト(ユニオン昭和社製V−250)(比較例12)を用いた以外は、比較例10と同様に実施した。合成条件と結果を表6に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
表1〜6から、請求項1に規定する比表面積及び50%体積累積粒子径D50を有する水酸化アルミニウム(ギブサイト)を加熱処理した特定の比表面積を有する担体に触媒金属を担持した触媒を炭素源と加熱領域下で接触させて合成した炭素繊維凝集体は、比表面積及び50%体積累積粒子径D50が請求項1の範囲外の水酸化アルミニウムから調製した触媒を用いて合成した炭素繊維凝集体に比べて1質量%という少ない配合量で樹脂に導電性を付与すること(実施例1〜4、比較例2〜3)、ギブサイトから調製した触媒を用いると、他の水酸化アルミニウムから調製した触媒に比べて、樹脂への導電性付与効果が大きい炭素繊維凝集体が得られること(実施例1〜4、比較例4〜5、11〜12)、水酸化アルミニウムの加熱処理温度を請求項に規定する範囲内の温度として調製した触媒によれば、範囲外の温度で調製した触媒に比べて樹脂への導電性付与効果が大きい炭素繊維凝集体が得られること(実施例2、5〜6、比較例8〜9)、ギブサイトを用いた場合でも従来技術(特許文献3)のように触媒金属を担持した後に加熱処理する方法で調製した触媒を用いて合成した炭素繊維凝集体は樹脂への導電性付与効果が小さいこと(比較例10)が分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸張している非直線状の炭素繊維が凝集してなる非直線状の二次凝集繊維がさらに凝集してなる凝集塊を含み、比表面積が20〜400m2/gであることを特徴とする炭素繊維凝集体。
【請求項1】
黒鉛層が繊維軸に対しほぼ平行に伸張している非直線状の炭素繊維が凝集してなる非直線状の二次凝集繊維がさらに凝集してなる凝集塊を含み、比表面積が20〜400m2/gであることを特徴とする炭素繊維凝集体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−26198(P2011−26198A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207092(P2010−207092)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【分割の表示】特願2010−525149(P2010−525149)の分割
【原出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【分割の表示】特願2010−525149(P2010−525149)の分割
【原出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]