説明

炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法

【課題】炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)のポリオルガノシロキサンと下記式(2)のポリエーテルからなる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度及び比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、スポーツ及び航空・宇宙用途に加え、自動車や土木、建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されている。
【0003】
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維束が広く利用されている。該ポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法として、アクリル繊維などからなるアクリル繊維束(前駆体繊維束)を200〜400℃の酸素存在雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維束に転換し(耐炎化工程)、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で炭素化して(炭素化工程)、炭素繊維束を得る方法が知られている。この方法で得られた炭素繊維束は、優れた機械的特性により、特に複合材料用の強化繊維として工業的に広く利用されている。
【0004】
しかし、炭素繊維束の製造方法において、主に耐炎化工程で単繊維間に融着が発生し、耐炎化工程およびそれに続く炭素化工程(以下、耐炎化工程と炭素化工程を総合して「焼成工程」とも表記する)において、毛羽や束切れといった工程障害が発生し、操業性が低下する場合があった。耐炎化工程での単繊維間の融着を防止する方法としては、前駆体繊維束の表面に油剤組成物を付与する方法(油剤処理)が知られており、多くの油剤組成物が検討されてきた。
【0005】
また、近年、炭素繊維複合材料の用途・需要の拡大に伴い、炭素繊維複合材料の生産性を向上させる目的で、40,000本以上の単繊維の集合体である、いわゆるラージトウと呼ばれる炭素繊維束の需要が高まっている。
しかし、ラージトウは、6,000〜24,000本程度の単繊維の集合体からなるレギュラートウに比べ、機械的特性に劣る傾向にあった。ラージトウでは、耐炎化工程において繊維束内部へ酸素が拡散されにくく、繊維束を形成する単繊維が不均一な耐炎化状態になりやすい。その結果、機械的特性が低下するものと考えられる。
従って、油剤組成物には、焼成工程での単繊維間の融着を防止する機能(融着防止性)に加え、耐炎化工程において耐炎化炉内の循環流により繊維束が容易に分繊し、繊維束内部にまでガスが拡散するような分繊性を繊維束に付与できる機能や、繊維束の分繊性を妨げないような性質が求められる。
【0006】
従来、耐熱性の高いシリコーン油剤を前駆体繊維束に付与する技術が多数提案され、工業的に広く適用されている。例えば、特定のアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤は、空気中及び窒素中での加熱時の減量が少なく、融着防止効果が高いことが知られている(例えば特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載の変性シリコーンを含有する油剤は、油剤を付着させた後の前駆体繊維束を乾燥する工程において、加熱ロール上で変性シリコーンオイルの粘性により繊維が加熱ロールに取られたり、温度によって架橋反応が起こり樹脂化したりして、工程障害となる問題があった。さらに、耐炎化工程において単繊維間に油剤が介在して耐炎化反応に必須となる酸素の供給を妨げ、その結果、耐炎化反応の進行度むら、いわゆる焼成むらの発生が誘起されることがあった。さらには焼成むらが誘起されることで、続く炭化工程において糸切れや毛羽が発生しやすくなり、生産性向上の大きな障害となることが多かった。
【0007】
そこで、シリコーン油剤の熱処理時の硬化挙動を特定することで、耐炎化工程での焼成むらの抑制効果を改善する技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
また、有機化合物やシリコーン化合物からなる粒子を繊維表面に付与することで、単繊維間に隙間を設け、単繊維間融着を抑制する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
さらに、近年、150℃における動粘度が15000cSt以上である液体を必須成分とする液状微粒子を含む油剤が提案されている(例えば特許文献4参照)。該油剤によれば、前駆体繊維束の製造工程において単繊維間の融着を抑制すると共に、それに続く耐炎化工程において炭素繊維前駆体を傷つけることなく単繊維をばらけさせることが可能となるため、単繊維間に酸素が均一に供給され、焼成むらを高効率で抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−40152号公報
【特許文献2】特開2001−172880号公報
【特許文献3】特開平9−41226号公報
【特許文献4】特開2007−39866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のシリコーン油剤では、シリコーンが単繊維同士を拘束することで接着剤のような働きを示すため、特にラージトウを製造する場合、耐炎化工程にて焼成むらが発生しやすく、機械的特性に優れた高品質な炭素繊維束が得られにくかった。さらに、焼成工程において硬化したシリコーン油剤が、各ガイドや溝状のロールに堆積し、繊維束が巻き付くなどの工程障害を引き起こし、操業性が低下することがあった。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、繊維表面に付与された粒子が繊維から脱落して製造装置内を汚染しやすかった。その結果、汚染物と繊維の擦過により毛羽が発生したり、脱落した粒子が繊維に強く押し付けられることで繊維が傷ついたりしやすく、機械的特性に優れた高品質な炭素繊維束が得られにくかった。このような傾向は、単繊維数の多いラージトウの場合に顕著であった。
【0011】
また、特許文献4に記載の油剤は極めて高粘度であるため、安定性が低下しやすかった。さらに、油剤を付着した後の前駆体繊維束を乾燥する際に、使用する加熱ロール上に高粘性な油剤が析出し、加熱ロールに繊維束が取られるなどの工程障害が発生し、操業性が著しく低下することがあった。
【0012】
このように、従来の油剤では、油剤本来の目的である融着防止性は有するものの、工業的に必要不可欠である操業安定性を十分に満足できなかった。また、昨今の要求に応える機械的強度に優れた高品質な炭素繊維束、特にラージトウを得ることは困難であった。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても単繊維間の融着防止性を良好に維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ、機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、油剤組成物を構成する成分の粘性が、前駆体繊維束の分繊性に影響することに着目した。そこで、主成分となるポリオルガノシロキサンの動粘度を、前駆体繊維束の分繊性を阻害しにくい程度の範囲に規定し、かつ乳化剤成分として特定のポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することで、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても、融着防止性を維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ機械的特性に優れた炭素繊維束が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、25℃における動粘度が50〜300mm/s、アミノ当量が1500〜5000g/molであり、下記式(1)で示されるアミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、下記式(2)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを5〜45質量部含有することを特徴とする。
【0016】
【化1】

【0017】
式(1)中、mは1以上の任意の数である。
【0018】
【化2】

【0019】
式(2)中、Rは炭素数10〜20の炭化水素基であり、nは3〜20である。
【0020】
また、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、帯電防止剤を0.5〜5質量部含有することが好ましい。
さらに、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、酸化防止剤を0.5〜5質量部含有することが好ましい。
また、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、抗菌剤を0.01〜1質量部含有することが好ましい。
【0021】
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、前記炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を付着したことを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、前記炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を水中に分散させてミセルを形成した水系乳化溶液を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する工程と、水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束を乾燥緻密化する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても単繊維間の融着防止性を良好に維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ、機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法を提供できる。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物によれば、操業安定性に優れるので、炭素繊維束の工業的な生産性を高め、安定して高品質な炭素繊維束を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
[炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物]
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物(以下、「油剤組成物」という。)は、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含有する。
【0024】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、後述の油剤処理前の炭素繊維前駆体アクリル繊維束(以下、単に「前駆体繊維束」とも表記する。)に対する油剤組成物の親和性および耐熱性の向上に有効である。
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、25℃における動粘度が50〜300mm/sであり、50〜150mm/sであることが好ましい。動粘度が50mm/s未満であると、耐炎化工程での単繊維間の融着を十分に防止しにくくなると共に、高品質の炭素繊維束が得られにくくなる。なお、動粘度は、その値が低くなるほどゲル化しにくくなるが、耐熱性が低下し、耐炎化工程で油剤組成物が飛散しやすくなる傾向にある。一方、動粘度が300mm/sを超えると、油剤組成物のエマルションの調製が困難になる。また、油剤組成物のエマルションの安定性が低下し、前駆体繊維束に均一に付着しにくくなる。さらに、耐炎化工程での前駆体繊維束の分繊性が低下し、特にラージトウを製造する場合、単繊維間に斑が発生し、高品質の炭素繊維束が得られにくくなる。
【0025】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンの動粘度は、JIS−Z−8803に準拠して測定される値であり、例えばウッベローデ粘度計を用いて測定できる。
【0026】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、アミノ当量が1500〜5000g/molであり、1500〜3000g/molであることが好ましい。アミノ当量が1500g/mol未満であると、シリコーン1分子中のアミノ基の数が多くなりすぎ、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンの熱安定性が低下し、工程障害の要因となると共に、高品質の炭素繊維束が得られにくくなる。一方、アミノ当量が5000g/molを超えると、シリコーン1分子中のアミノ基の数が少なくなりすぎ、前駆体繊維束との馴染みが悪くなり、油剤組成物が均一に付着しにくくなったり、耐炎化工程で飛散しやすくなったりする。
【0027】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、上記式(1)で示される構造を有する。
式(1)中、mは1以上の任意の数である。具体的には、10〜300が好ましく、10〜150がより好ましい。mが10未満であると、油剤組成物の耐熱性が低下しやすくなり、耐炎化工程での単繊維間の融着を防止しにくくなる。一方、mが300を超えると、油剤組成物の粘度が過渡に上昇しやすくなる。その結果、本発明の油剤組成物が付着した前駆体繊維束が搬送ロール等に巻き付きやすくなり、工程障害を引き起こし、操業性が低下しやすくなる。
【0028】
なお、式(1)中のmは、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンの動粘度を測定し、該動粘度からの推算値として概算することができる。
mを求める手順は、まずアミノ基含有ポリオルガノシロキサンの動粘度を測定し、測定された動粘度の値からA.J.Barryの式(logη=1.00+0.0123M0.5、(η:25℃における動粘度、M:分子量))により分子量を算出する。ついで、この分子量からアミノ基含有ポリオルガノシロキサンの構造を形成するmの値を決定することができる。
mは平均値であるので整数になるとは限らないが、有効数字2桁として以下を四捨五入して表示する。
【0029】
このようなアミノ基含有ポリオルガノシロキサンとしては、市販品を用いることができ、例えば信越化学工業株式会社製の「x−22−161B」、「KF−8012」、チッソ株式会社製の「FM−3325」などが好適である。
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、乳化剤の役割を果たす。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、上記式(2)で示される構造を有する。
式(2)中、Rは炭素数10〜20の炭化水素基である。炭素数が10未満であると、油剤組成物の熱的な安定性が低下しやすくなる上に、適切な親油性を有しにくくなり、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンを乳化しにくくなる。一方、炭素数が20を超えると、油剤組成物の動粘度が高くなったり、固化したりして、操業性を低下させる場合がある。加えて、親水基とのバランスが悪くなり乳化性能が低下する場合がある。これにより、油剤組成物が前駆体繊維束に均一に付着しにくくなり、耐炎化工程での前駆体繊維束の分繊性が低下することがある。
【0031】
炭化水素基としては、飽和鎖式炭化水素基や飽和環式炭化水素基等の飽和炭化水素基が好ましく、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。これらの中でも、本発明の油剤組成物を効率よく乳化するために、油剤組成物のその他の成分に馴染みやすい適度な親油性をもたすことができる点でドデシル基が特に好ましい。
【0032】
nは、EOの付加モル数を示し、3〜20であり、5〜15が好ましく、5〜10がより好ましい。nが3未満であると、水と馴染みにくく、乳化性能が得られにくくなる。その結果、操業安定性が低下したり、耐炎化工程での前駆体繊維束の分繊性が低下したりすることがある。一方、nが20を超えると、油剤組成物の構成成分として用いた場合、得られる油剤組成物が付着した前駆体繊維束の分繊性が低下しやすくなる。
なお、Rは油剤組成物の親油性に関与する要素であり、nは油剤組成物の親水性に関与する要素である。従って、nの値は、Rとの組み合わせにより適宜決定される。
【0033】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、市販品を用いることができ、例えば花王株式会社製の「エマルゲン105」、日本ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL BL−9EX」、「NIKKOL BS−20」などが好適である。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、5〜45質量部であり、10〜25質量部が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が5質量部未満であると、油剤組成物のエマルションの安定性が低下する場合がある。その結果、油剤組成物が前駆体繊維束に均一に付着しにくくなったり、耐炎化工程での前駆体繊維束の分繊性が低下したりすることがある。特に、ラージトウを製造する場合、単繊維間に斑が発生し、高品質の炭素繊維束が得られにくくなる。一方、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が45質量部を超えると、必然的にアミノ基含有ポリオルガノシロキサンの割合が少なくなり、油剤組成物の耐熱性が低下し、耐炎化工程での単繊維間の融着を十分に防止しにくくなると共に、高品質の炭素繊維束が得られにくくなる。
【0035】
本発明の油剤組成物は、帯電防止剤を含有することが好ましい。
帯電防止剤としては、公知の物質を用いることができる。帯電防止剤はイオン型と非イオン型に大別され、イオン型としてはアニオン系、カチオン系及び両性系があり、非イオン型ではポリエチレングリコール型及び多価アルコール型がある。帯電防止の観点からイオン型が好ましく、中でも脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、高級アルコールエチレンオキシド付加物ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好ましく用いられる。
これら帯電防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
帯電防止剤の含有量は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、0.5〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。帯電防止剤の含有量が0.5質量部未満であると、帯電防止効果が十分に得られにくくなる。一方、帯電防止剤の含有量が5質量部を超えると、焼成工程において帯電防止剤が分解し、分解物が炉内に堆積するなどして工程障害となる場合がある。
【0037】
また、本発明の油剤組成物は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては公知の様々な物質を用いることができるが、フェノール系や硫黄系の酸化防止剤が好適である。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。
硫黄系の酸化防止剤の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート等が挙げられる。
これら酸化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
また、酸化防止剤としては、上述したアミノ基含有ポリオルガノシロキサンに作用するものが特に好ましく、上記の中では、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0039】
酸化防止剤の含有量は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、0.5〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。酸化防止剤の含有量が0.5質量部未満であると、酸化防止効果が十分に得られにくくなる。そのため、前駆体繊維束の製造過程において前駆体繊維束に付着した油剤組成物中のアミノ基含有ポリオルガノシロキサンが、熱ロール等により加熱されて樹脂化する場合がある。アミノ基含有ポリオルガノシロキサンが樹脂化するとロール等の表面に堆積しやすくなり、前駆体繊維束が巻き付いて工程障害を招き、操業性が低下する。一方、酸化防止剤の含有量が5質量部を超えると、酸化防止剤が油剤組成物中に均一に分散しにくくなる。
【0040】
さらに、本発明の油剤組成物は、上記式(1)で示される構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサンを含有するため、水に分散して油剤処理液とした際に、経時的にアミノ基が電離して油剤処理液のpH(水素イオン指数)が上昇し、好アルカリ性菌などの繁殖が懸念される場合がある。
そこで、本発明の油剤組成物は、好アルカリ性菌の繁殖による油剤処理液の劣化を防止することを目的として、抗菌剤を含有することが好ましい。
【0041】
抗菌剤としては、公知の物質を用いることができる。例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系化合物;2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、ヘキサブロモジメチルスルホンなどの有機臭素系化合物;ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドなどのアルデヒド系化合物;3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、o−フェニルフェノール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルなどのフェノール系化合物;8−オキシキノリン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、(2−ピリジルチオ−1−オキシド)ナトリウムなどのピリジン系化合物;N,N',N''−トリスヒドロキシエチルヘキサヒドロ−S−トリアジン、N,N',N''−トリスエチルヘキサヒドロ−S−トリアジンなどのトリアジン系化合物;3,4,4’−トリクロロカルバニリド、3−トリフルオロメチル−4,4’−ジクロロカルバニリドなどのアニリド系化合物;2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンズイミダゾールなどのチアゾール系化合物;2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチルなどのイミダゾール系化合物;1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−n−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール、(RS)−2−(2,4−ジクロロフェニル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾールー1−イル)ヘキサン−2−オール、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、α−(クロロフェニル)−α−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル−1H−1,2,4−トリアゾールなどのトリアゾール系化合物;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物;4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなどの有機塩素系化合物;3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、2,3,3−トリヨードアリルアルコールなどの有機ヨード系化合物等が挙げられる。これらの中でもイソチアゾリン系の抗菌剤が好ましい。
これら抗菌剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
抗菌剤の含有量は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、0.01〜1質量部が好ましく、0.1〜0.5質量部がより好ましい。抗菌剤の含有量が0.01質量部未満であると、抗菌効果が十分に得られにくくなる。一方、抗菌剤の含有量が1質量部を超えると、焼成工程において抗菌剤、あるいは抗菌剤の分解物が繊維束に損傷を与え、得られる炭素繊維束の品質を低下させる場合がある。
【0043】
本発明の油剤組成物は、炭素繊維束に付着させるための設備や使用環境によって、操業性を向上させたり、油剤組成物の安定性や付着特性を向上させたりすることを目的として、消泡剤や浸透剤などの添加物を含有してもよい。
【0044】
以上説明した本発明の油剤組成物は、特定のアミノ基含有ポリオルガノシロキサンとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを特定量含有するので、耐熱性が向上し、炭素繊維束製造工程における単繊維間の融着を効果的に防止しつつ、工程障害の発生を抑制できるので操業安定性に優れる。また、耐炎化工程での前駆体繊維束の分繊性を低下させにくい。従って、単繊維数の多いラージトウを製造する場合であっても、繊維束が容易に分繊して繊維束内部まで酸素が拡散するので、均一な耐炎化状態となり、機械的特性に優れた炭素繊維束が得られる。
本発明の油剤組成物は、炭素繊維束製造工程の操業性と製品の品質を同時に向上できることを可能にしたものであり、その効果は特にラージトウにおいて顕著である。
【0045】
[炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法]
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法においては、上述したアミノ基含有ポリオルガノシロキサンと、ポリオキシエチレンアルキルエーテルと、必要に応じて帯電防止剤、酸化防止剤、抗菌剤を配合した油剤組成物を、水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する工程(油剤処理)を行い、ついで油剤処理された前駆体繊維束を乾燥緻密化する工程を行う。
以下、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法における各工程について詳しく説明する。
【0046】
(紡糸)
本発明に用いる、油剤処理前の前駆体繊維束としては、公知技術により紡糸されたアクリル繊維束を用いることができる。具体的には、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維束が挙げられる。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーであってもよく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を併用したアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
【0047】
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル単位の含有量は、96〜98.5質量%であることが焼成工程での繊維の熱融着防止、共重合体の耐熱性、紡糸原液の安定性、および炭素繊維にした際の品質の観点でより好ましい。アクリロニトリル単位が96質量%以上の場合は、炭素繊維に転換する際の焼成工程で繊維の熱融着を招くことなく、炭素繊維の優れた品質および性能を維持できるので好ましい。また、共重合体自体の耐熱性が低くなることもなく、前駆体繊維を紡糸する際、繊維の乾燥あるいは加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸のような工程において、単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位が98.5質量%以下の場合には、溶剤への溶解性が低下することもなく、紡糸原液の安定性を維持できると共に共重合体の析出凝固性が高くならず、前駆体繊維の安定した製造が可能となるので好ましい。
【0048】
共重合体を用いる場合のアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、耐炎化反応を促進する作用を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、または、これらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アクリルアミド等の単量体から選択すると、耐炎化を促進できるので好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体がより好ましい。アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシル基含有ビニル系単量体単位の含有量は1.5〜4質量%が好ましい。
これらビニル系単量体は、1種単独で用いても良よく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
紡糸の際には、アクリロニトリル系重合体を、溶剤に溶解し紡糸原液とする。このときの溶剤には、ジメチルアセトアミドあるいはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、または塩化亜鉛やチオシアン酸ナトリウム等の無機化合物水溶液等、公知のものから適宜選択して使用することができる。これらの中でも、生産性向上の観点から凝固速度が早いジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0050】
また、緻密な凝固糸を得るためには、紡糸原液の重合体濃度がある程度以上になるように紡糸原液を調整することが好ましい。具体的には、紡糸原液中の重合体濃度が17質量%以上になるように調整することが好ましく、より好ましくは19質量%以上である。
なお、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とするため、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
【0051】
紡糸方法は、上述した紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維束を得るには湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
【0052】
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を円形断面の孔を有するノズルより凝固浴中に吐出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50〜85質量%、凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。
【0053】
(延伸処理)
重合体あるいは共重合体を溶剤に溶解し、紡糸原液として凝固浴中に吐出して繊維化して得た凝固糸には、凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。あるいは、一部空中延伸した後に、浴中延伸してもよく、延伸の前後あるいは延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態の前駆体繊維束を得ることができる。
浴中延伸は、通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が5〜15倍になるように凝固糸を延伸するのが、得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。
【0054】
(油剤処理)
炭素繊維束への油剤組成物の付与には、本発明の油剤組成物を水中に分散させて、ミセルを形成させた水系乳化溶液(エマルション)を用いる。その際、ミセルの平均粒子径が0.01〜0.5μmとなるように、ホモジナイザー等を用いて分散させるのが好ましい。ミセルの平均粒子径が上記範囲内であれば、前駆体繊維束の表面に油剤組成物を均一に付与できる。
なお、水系乳化溶液中のミセルの平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定することができる。
【0055】
水系乳化溶液は、例えば以下のようにして調製できる。すなわち、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを攪拌しながら、そこに水を加えることで油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液が得られる。
酸化防止剤を含有させる場合は、酸化防止剤を予めアミノ基含有ポリオルガノシロキサンに溶かしておいてもよい。また、帯電防止剤や抗菌剤を含有させる場合は、水を加えて水系乳化溶液とした後に添加攪拌することが好ましい。
各成分の混合または水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。特に、150MPa以上に加圧可能な超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0056】
水系乳化溶液中の油剤組成物の濃度は、2〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、20〜30質量%が特に好ましい。油剤組成物の濃度が2質量%未満であると、必要な量の油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与することが困難となる。一方、油剤組成物の濃度が40質量%を超えると、水系乳化溶液が不安定となり乳化の破壊が起こりやすくなる。
【0057】
本発明の油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する際、前記水系乳化溶液に、さらにイオン交換水を加えて所定の濃度に希釈して用いること好ましい。
なお、「所定の濃度」は油剤処理時の前駆体繊維束の状態によって調整される。所定の濃度とした分散液を、以下「油剤処理液」という。
【0058】
油剤組成物のアクリル繊維束への付与は、上述した浴中延伸後の水膨潤状態の前駆体繊維束に、油剤組成物の水系乳化溶液を付与することにより行うことができる。
浴中延伸の後に洗浄を行う場合は、浴中延伸および洗浄を行った後に得られる水膨潤状態の繊維束に油剤組成物の水系乳化溶液を付与することもできる。
【0059】
油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する方法としては、油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液に、イオン交換水を加えて所定の濃度に希釈して油剤処理液とした後、水膨潤状態の前駆体繊維束に付着させる手法を用いることができる。
油剤処理液を水膨潤状態の前駆体繊維束に付着させる方法としては、ローラーの下部を油剤処理液に浸漬させ、そのローラーの上部に前駆体繊維束を接触させるローラー付着法、ポンプで一定量の油剤処理液をガイドから吐出し、そのガイド表面に前駆体繊維束を接触させるガイド付着法、ノズルから一定量の油剤処理液を前駆体繊維束に噴射するスプレー付着法、油剤処理液の中に前駆体繊維束を浸漬した後にローラー等で絞って余分な油剤処理液を除去するディップ付着法等の公知の方法を用いることができる。
これらの方法の中でも、均一付着の観点から、前駆体繊維束に十分に油剤処理液を浸透させ、余分な処理液を除去するディップ付着法が好ましい。より均一に付着するためには油剤付与工程を2つ以上の多段にし、繰り返し付与することも有効である。
【0060】
(乾燥緻密化処理)
水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束は、続く乾燥工程で乾燥緻密化される。
乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもある。例えば温度が100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法にて緻密乾燥化するのが好ましい。このとき加熱ローラーの個数は、1個でもよく、複数個でもよい。
【0061】
(二次延伸処理)
緻密乾燥化した前駆体繊維束には、加熱ローラーにより延伸処理を施すのが好ましい。該延伸処理により、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をさらに高めることができる。特に、加熱ローラーにより緻密乾燥化した前駆体繊維束を搬送させながら、ローラー速度を変えることで、1.1〜4倍に延伸することで、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより向上できる。
加熱ローラーの温度としては150〜200℃程度が好ましい。温度が150℃未満であると、可塑化が不完全となり、延伸をかけた際に毛羽等が発生し、続く炭素化工程で繊維束が巻き付いて、工程障害を招き操業性が低下することがある。一方、温度が200℃を超えると、酸化反応や分解反応などが開始され、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の品質を低下させる場合がある。
【0062】
乾燥緻密化処理および加熱ローラーによる二次延伸処理を経て得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、室温のロールを通し、常温の状態まで冷却した後にワインダーでボビンに巻き取られる、あるいはケンスに振込まれて収納される。
そして、炭素繊維前駆体アクリル繊維束は焼成工程に移され、炭素繊維束となる。
【0063】
[炭素繊維前駆体アクリル繊維束]
このようにして得られる本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、本発明の油剤組成物が乾燥質量に対して0.1〜2質量%付着しいていることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。油剤組成物の付着量が0.1質量%未満であると、油剤組成物本来の機能を十分に発現することが困難となる場合がある。一方、油剤組成物の付着量が2質量%を超えると、過剰に付着した油剤組成物が、焼成工程において高分子化して、単繊維間の接着の誘因となる場合がある。
なお、「乾燥質量」とは、乾燥緻密化処理された後の前駆体繊維束の乾燥繊維質量のことである。
【0064】
油剤組成物の付着量は、以下のようにして求められる。
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法に準拠し、90℃のメチルエチルケトンに炭素繊維前駆体アクリル繊維束を8時間浸漬させて油剤組成物を抽出し、抽出前の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量W、および抽出後の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量Wをそれぞれ測定し、下記式(i)により油剤組成物の付着量を求める。
油剤組成物の付着量(質量%)=(W−W)/W×100 ・・・(i)
【0065】
以上説明したように、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、本発明の油剤組成物が均一に付着した炭素繊維前駆体アクリル繊維束を生産性よく製造できる。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、本発明の油剤組成物が均一に付着しているので、焼成工程において単繊維間の融着を防止し、かつ操業性に優れる。さらに、耐炎化工程での分繊性に優れるので、単繊維数が多くても分繊しやすく、機械的特性に優れた炭素繊維束が得られる。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束は、機械的特性に優れ、高品質であり、様々な構造材料に用いられる繊維強化樹脂複合材料に用いる強化繊維として好適である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に用いた各成分、および各種測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0067】
[成分]
<アミノ基含有ポリオルガノシロキサン>
・A−1:25℃における動粘度が55mm/s、アミノ当量が1500g/molであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:X−22−161B)。
・A−2:25℃における動粘度が90mm/s、アミノ当量が2200g/molであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−8012)。
・A−3:25℃における動粘度が300mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(チッソ株式会社製、商品名:FM―3325)。
・A−4:25℃における動粘度が12mm/s、アミノ当量が430g/molであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−8010)。
・A−5:25℃における動粘度が450mm/s、アミノ当量が5700g/molであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−8008)。
【0068】
<ポリオキシエチレンアルキルエーテル>
・B−1:上記式(2)においてRが炭素数12のドデシル基、n=4であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、商品名:エマルゲン105)。
・B−2:上記式(2)においてRが炭素数12のドデシル基、n=9であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL BL−9EX)。
・B−3:上記式(2)においてRが炭素数18のオクタデシル基、n=20であるポリオキシエチレンステアリルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL BS−20)。
・B−4:上記式(2)においてRが炭素数12のドデシル基、n=2であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL BL−2)。
・B−5:上記式(2)においてRが炭素数12のドデシル基、n=21であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL BL−21)。
・B−6:上記式(2)においてRが炭素数22のドコシル基、n=10であるポリオキシエチレンドコシルエーテル(和光純薬工業株式会社製)。
【0069】
<その他>
・帯電防止剤:第四級アンモニウム塩(ライオン・アクゾ株式会社製、商品名:アーカード2HT−50ES)。
・酸化防止剤:テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(株式会社エーピーアイ コーポレーション製、商品名:トミノックスTT)。
・抗菌剤:1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(シグマアルドリッチ社製)。
【0070】
[測定・評価]
<フェルト沈降速度の測定>
油剤組成物を1質量%の濃度で水に分散させたエマルションに、フェルト片(20×20×2mm)を液面に浮かべ、液中に沈降する時間(秒)を測定した。この時のエマルションの温度は25℃、エマルション中のミセルの平均粒子径は前述の測定方法により0.1〜0.3μmの範囲で行うこととした。
フェルト沈降速度は、前駆体繊維束への油剤組成物の浸透性の指標であり、フェルト沈降速度の値が小さいほど繊維束中に浸透しやすく、単繊維間の斑がなく均一に付着しやすいことを意味する。
【0071】
<皮膜粘度の測定>
油剤組成物を30質量%の濃度で水に分散させたエマルションを、5℃毎分で昇温しながら110℃まで加熱し、110℃で2時間加熱して実質的に水分を含まない絶乾物とした。コーンプレート粘度計(東京計器株式会社製、商品名:Visconic−EMD)を用いて、得られた乾燥物の90℃における粘度(mPa.s)を測定した。
皮膜粘度の値が高いものほど前駆体繊維束に油剤組成物が付着したときに、繊維束内の単繊維が拘束されており、逆に皮膜粘度の値が低いものほど単繊維の拘束の程度が小さくばらけやすい。すなわち、皮膜粘度の値は繊維束の分繊性に関与する指標である。
【0072】
<ゲル化度の測定>
アルミシャーレ(直径45mm、深さ10mm)に、油剤組成物を30質量%の濃度で水に分散させたエマルション2.0gを精秤し、105℃で2時間予備乾燥後、空気中200℃で2時間加熱した。その後、クロロホルムで抽出した残渣を秤量し、予備乾燥後の乾燥物の質量M、および抽出後の残渣の質量Mとして、下記式(ii)によりゲル化度を求めた。ゲル化度は油剤組成物の耐熱性の指標であり、ゲル化度の値が小さいほど耐熱性に優れ、油剤組成物付与後の乾燥工程や耐炎化工程での工程通過性が良好であり、ゲル化した油剤組成物により誘発される毛羽、糸切れが少ないことを意味する。
ゲル化度(質量%)=(M/M)×100 ・・・(ii)
【0073】
<油剤付着量の測定>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を105℃で1時間乾燥させた後、メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法に準拠し、90℃のメチルエチルケトンに8時間浸漬して付着した油剤組成物を溶媒抽出した。抽出前の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量W、および抽出後の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の質量Wをそれぞれ測定し、上記式(i)により油剤組成物の付着量を求めた。
【0074】
<分繊性の評価>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を2cmに切断し、黒色紙上に置き、軽く振盪して分繊状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて分繊性を評価した。
◎:単繊維が非常にばらけやすく、分繊性が特に良好である。
○:単繊維がばらけやすく、分繊性が良好である。
△:単繊維がばらけにくく、分繊性やや不良である。
×:単繊維が非常にばらけにくく、分繊性が著しく不良である。
【0075】
<操業安定性の評価>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を24時間連続して製造した時に、搬送ロールへ単糸が巻き付き、除去した回数を測定し、下記評価基準にて操業安定性を評価した。
○:除去回数(回/24時間)が1回以下。
△:除去回数(回/24時間)が2〜5回。
×:除去回数(回/24時間)が6回以上。
【0076】
<ストランド強度の測定>
炭素繊維束のストランド強度は、JIS−R−7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の対象とした。
【0077】
[実施例1]
<油剤組成物の調製>
アミノ基含有ポリオルガノシロキサンに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合攪拌し、そこに酸化防止剤を加えた後、油剤組成物の濃度が30質量%になるようにイオン交換水をさらに加え、ホモミキサーで乳化した。その後、帯電防止剤と抗菌剤を加えてさらに攪拌した。この状態でのミセルの平均粒子径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定したところ、2μm程度であった。
その後、さらに高圧ホモジナイザーにより、ミセルの平均粒子径が0.5μm以下になるまで分散し、油剤組成物の水系乳化溶液(エマルション)を得た。
油剤組成物中の各成分の種類と配合量(アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対する各成分の量(質量部))を表1に示す。また、油剤組成物のフェルト沈降速度、皮膜粘度、ゲル化度を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
油剤組成物を付着させる前駆体繊維束は、次の方法で調製した。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96/3/1(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解し、紡糸原液を調製し、ジメチルアセトアミド水溶液を満たした凝固浴中に孔径(直径)60μm、孔数60000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は水洗槽中で脱溶媒すると共に5倍に延伸して水膨潤状態の前駆体繊維束とした。
先に得られた油剤組成物の水系乳化溶液を超純水で希釈して、油剤組成物の濃度が1.5質量%になるように調整した油剤処理液を満たした油剤処理槽に、水膨潤状態の前駆体繊維束を導き、水系乳化溶液を付与させた。
その後、水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束を表面温度180℃のロールにて乾燥緻密化した後に、表面温度190℃のロールを用い2倍延伸を施し炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の油剤付着量を測定し、分繊性および操業安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
<炭素繊維束の製造>
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通して耐炎化し、耐炎化繊維束とした。引き続き、該耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維束とした。
得られた炭素繊維束のストランド強度を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2〜11]
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製し、炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例1〜7]
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製し、炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1から明らかなように、各実施例で得られた油剤組成物は、フェルト沈降速度が概ね速く、前駆体繊維束中への浸透性が速やかであり、均一に付着できることが示唆された。また、皮膜粘度の値が概ね低く、単繊維の拘束の程度を小さくでき、繊維束の分繊性を低下させにくいことが示唆された。さらに、ゲル化度の値も概ね低く、耐熱性に優れ、工程障害の発生を抑制し、良好な工程通過性を維持できることが示唆された。
また、各実施例では、油剤付着量が適正な量であった。さらに、分繊性に優れる炭素繊維前駆体アクリル繊維束が得られると共に、良好な操業安定性を維持でき、連続操業にあたり何ら問題がなかった。
また、各実施例で得られた炭素繊維束は、ストランド強度が高い数値を示し、機械的特性に優れていた。
【0085】
なお、動粘度が300mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンを用いた実施例3の場合、皮膜粘度およびゲル化度の値が他の実施例に比べてやや高かったが、工程障害の発生は確認されず、操業上、問題はなかった。また、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性が、他の実施例に比べるとやや劣っていたが、要求される程度の分繊性は有していた。
式(2)中のnが20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた実施例5の場合、フェルト沈降速度が他の実施例に比べて遅かったが、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性、および操業安定性は他の実施例と同程度に良好であった。また、炭素繊維束のストランド強度も高い数値を示し、炭素繊維束の生産に十分に対応できた。
帯電防止剤、酸化防止剤、抗菌剤を用いない実施例11の場合、ゲル化度が他の実施例に比べて高く、24時間の連続操業で数回搬送ロールへ単糸が巻き付くことがあったが、生産を継続できないレベルではなく、炭素繊維束の生産に十分に対応できた。また、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性が、他の実施例に比べるとやや劣っていたが、要求される程度の分繊性は有していた。
【0086】
一方、表2から明らかなように、動粘度が12mm/s、アミノ当量が430g/molであるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンを用いた比較例1の場合、得られた炭素繊維束のストランド強度が低かった。
動粘度が450mm/s、アミノ当量が5700g/molであるアミノ基含有ポリオルガノシロキサンを用いた比較例2の場合、油剤組成物のフェルト沈降速度、皮膜粘度、およびゲル化度が高く、前駆体繊維束への浸透性(付着性)、分繊性、耐熱性のいずれもが各実施例に比べて劣っていた。また、比較例2は操業安定性に劣り、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性が低かった。
【0087】
式(2)中のnが2であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた比較例3の場合、操業安定性に劣っていた。また、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性や、炭素繊維束のストランド強度が低かった。
式(2)中のnが21であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた比較例4の場合、油剤組成物のフェルト沈降速度が高く、前駆体繊維束への浸透性に劣っていた。また、比較例4は操業安定性に劣っていた。さらに、実施例2、4、5と比べると分繊性にも劣っていた。
式(2)中のRが炭素数22のドコシル基であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた比較例5の場合、油剤組成物のフェルト沈降速度が高く、前駆体繊維束への浸透性に劣っていた。また、比較例5は操業安定性に劣っていた。さらに、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性や、炭素繊維束のストランド強度が低かった。
【0088】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが3.1質量部と少ない比較例6の場合、油剤組成物のフェルト沈降速度およびゲル化度が高く、前駆体繊維束への浸透性、耐熱性に劣っていた。また、比較例6は、操業安定性に劣っていた。さらに、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性や、炭素繊維束のストランド強度が低かった。
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが80質量部と多い比較例7の場合、炭素繊維束のストランド強度が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、単繊維間の融着を効果的に抑制しつつ、操業安定性に優れる。さらに、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性を良好に維持でき、均一で機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる。特に、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、単繊維の多いラージトウの製造に有用である。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束から得られた炭素繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできる。また、炭素繊維束を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における動粘度が50〜300mm/s、アミノ当量が1500〜5000g/molであり、下記式(1)で示されるアミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、下記式(2)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを5〜45質量部含有する、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
【化1】

(式(1)中、mは1以上の任意の数である。)
【化2】

(式(2)中、Rは炭素数10〜20の炭化水素基であり、nは3〜20である。)
【請求項2】
前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、帯電防止剤を0.5〜5質量部含有する、請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
【請求項3】
前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、酸化防止剤を0.5〜5質量部含有する、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
【請求項4】
前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、抗菌剤を0.01〜1質量部含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を付着した、炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
【請求項6】
請求項5に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法であって、
前記炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を水中に分散させてミセルを形成した水系乳化溶液を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する工程と、
水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束を乾燥緻密化する工程とを有する、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。

【公開番号】特開2011−99167(P2011−99167A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252650(P2009−252650)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】