説明

炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージ、及び炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包方法

【課題】収納嵩密度が高く、梱包時のトウの形態が安定しており、梱包状態からトウを引き取る際に安定してトウの引き取りを行うことが可能な炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージを提供する。
【解決手段】本発明により、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に梱包したパッケージであって、前記梱包容器に梱包された炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの収納嵩比重が340kg/m3以上であることを特徴とする炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージ、及び同前駆体トウの梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度、比弾性率、耐火性、耐熱性、耐久性などに優れることから、その適用分野はますます広がってきている。現状の製造技術をもって、その品質を確保するには繊維の生産性を抑えざるを得ず、どうしても価格が高くなる。近年、炭素繊維の生産性を上げてコストダウンを図るため、フィラメント数が50000以上の太い炭素繊維前駆体トウが採用されるようになり、その結果、このような太繊度のトウを梱包したトウパッケージも大型化が余儀なくされている。このパッケージの大型化には、トウの振り落としによる梱包方法が有利であるとされている。従来から、トウの振り落としによる様々な梱包方法の提案がなされてきている。また、耐炎繊維用の前駆体トウも、同様に生産性の観点から太繊度のものが採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、ケンスの半部に未延伸トウをエゼクタを使って吸引させるとともにトラバースさせてケンスの一端から他端へと連続してジグザグ状にl0〜20層積重ねて収納したのち、トウの非収納側の半部側にトウの収納を切り換えて、同じくl0〜20層積重ねて収納する。この切り換わった間に先の収納した半分のトウを、押込面に空気抜き孔を有する押込板をもってトウ内の空気を抜きながらケンス内に押し込む。この切換え操作を繰り返してトウパッケージを製造する。このように収納することにより、トウを高密度で収納できる。
【0004】
また、例えば特許文献2によれば、紡出された未延伸糸トウをニップローラで引き取り、その下方のトウ梱包容器に収納する。このとき、ニップローラの下方で、トウを挟んで横方向に対向して配された一対の気体噴射ノズルから、噴出圧力0.3kg/cm2以上、噴出速度150m/秒以上の気体を、30回/秒以上のサイクルで落下途中のトウに交互に噴射させる。こうすることにより、未延伸トウをトウ梱包容器に連続的に安定して収納することができるようになり、延伸時に未延伸トウの乱れやもつれ等がなく引き出すことができ、延伸工程の操業性を向上させることが可能になるとしている。
【0005】
更に、例えば特許文献3では、ポリエステル繊維の未延伸トウをギヤホイルを介して落下させる途中で左右から空気を吹き付けながら、ギヤホイルの下方でX及びY方向にトラバースするトウ梱包容器に振り落としている。
【0006】
また、例えば特許文献4では、溶融紡糸されたポリエステル繊維の多数のフィラメントを冷却し、オイリング等を施した後、多錘分の未延伸トウを集束して未延伸トウを得たのちガイドローラで案内して、エゼクタを通して引き取りながら落下させ、2枚のはね板を交互に切り換え、容器の半部づつ所定量のトウを下方でX及びY方向にトラバースするトウ梱包容器内に交互に落下収納する。この収納ごとに収納を終えたトウに対して一対の押え板を切り換えながら交互にプレスしている。この押え板のプレスによって嵩高な糸条束を圧縮してとう梱包容器内に多量に収納することが可能になるというものである。
【0007】
また、例えば特許文献5によれば、円筒状容器を回転させておき、この中心から外れた位置にフィラメントを落下させ、さらに別の位置に圧縮部材を昇降させるようにした。フィラメントは容器内で、概ね、小円を描きながら大円を描くようにして堆積し、圧縮部材で間断なく圧縮される。構造が簡単でありながら、高い圧縮が実現されるとしている。
【0008】
また、例えば特許文献6は、酸素透過度が200ml/(m2・24hr・atm)以下、厚みが20〜200μmのフィルムにより炭素繊維用プリカーサーを水分率3〜150wt%で包んだパッケージとその製法に関するものである。トウの振り落としによって梱包するにあたり、プリカーサーの水分率を高めることで集束性をもたせると同時に、高水分率の炭素繊維用プリカーサーを長期間保管しても、バクテリアやカビの増殖が抑えられ、炭素繊維の強度低下を防止することができるとしている。
【特許文献1】特公昭56−13143号公報
【特許文献2】特開平7−42016公報
【特許文献3】特開平11−79556号公報
【特許文献4】特開平11−208996号公報
【特許文献5】特開2001−89030号公報
【特許文献6】特開2001−240168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで上記特許文献1では、トウの梱包容器の半分にエゼクタによって未延伸トウをトラバースさせながらジグザグ状に振り込む一方、トウが収納された他の半部を一対の押込板の一方をもって容器内に押し込むことを容器の半部づつ交互に行うため、トウ振込み側の押込板を押込み位置からトウとの干渉を避ける位置へと退避せなければならず、押込板の揺動機構とタイミング制御が必要になり、機構とタイミング制御が複雑化する。更に上記特許文献4では、装置全体の機構がより複雑化するとともに、高生産性が得がたい。
【0010】
また、上記特許文献2のより好ましい例では、落下するトウに対して左右から気体を高サイクルで交互に噴射し波打たせながら容器に振り落とす一方、容器をX軸方向とY軸方向の二軸方向にトラバースさせている。従って、そのトラバース機構が複雑化するのみならず、容器内のトウの積層構造を安定化することが難しい。また上記特許文献3も、空気をトウの両側から交互に吹き付けてジグザグに落下させ、下方で一軸方向にトラバースする容器に振り落としながら収納するため、特許文献2よりもトラバース機構が簡略化される。しかし、このように落下するトウに対して左右から空気を吹き付ける場合には、毛羽が誘起され、複数本の細いトウを集束トウとした場合には、もとの細いトウにたやすく分割してしまう。また、糸条に撚りを与えてしまう可能性もある。
【0011】
また、上記特許文献5は、機構が簡単であるが、押え部材の自重により圧縮荷重を付与しようとするため、梱包嵩密度を上げようとする際には設備を過大なものとせざるを得ない。上記特許文献6では、トウの水分率を3〜150wt%と高く設定しているため、その防腐対策としてフィルムの密閉作業、脱酸素剤の封入、脱気、ガス置換、加熱処理などパッケージング作業を煩雑にする。
【0012】
さらに、炭素繊維の製造において、生産性を高めて更なるコストダウンを図るためには、前記のような太繊維の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを容器内に梱包する際に、容器に収納するトウの収納嵩比重をより一層高めて梱包を行って、以降の焼成工程などの炭素繊維製造工程へのトウの運送を効率的に行うことが望まれていた。
【0013】
本発明はこうした従来の様々な課題を解消することを目的としてなされたものであり、具体的には、太繊度のストレートな糸条の容器への安定した収納と梱包重量の極大化を実現化するとともに、防腐処理などの格別に煩雑な作業が不要であり、しかもトウの形態が安定し、パッケージから引き取るときにも安定して引き取ることが可能な、効率的にトウの梱包を行うことのできる炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包方法を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、収納嵩密度が高く、梱包時のトウの形態が安定しており、梱包状態からトウを引き取る際に安定したトウの引き取りを行うことが可能な炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によって提供される炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージは、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に梱包したパッケージであって、前記梱包容器に梱包された炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの収納嵩比重が340kg/m3以上であることを最も主要な特徴とするものである。
【0015】
一方、本発明に係る炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包方法は、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを揺動シュートを介して梱包容器に振り込み梱包する方法であって、前記トウを梱包容器に振り込む前に、予め前記トウに1〜5wt%の水分を付与すること、前記水分を付与したトウを、トウの収納嵩比重が340kg/m3以上となるように前記梱包容器に梱包することを含んでなることを最も主要な特徴とするものである。
【0016】
また、上記本発明の梱包方法は、前記梱包容器が、段ボールからなる梱包容器本体と、同梱包容器本体の内部に配され、梱包容器本体の内面形状と略同一形状をもち、0.1mm以下の厚さからなる非透湿性の内装材とからなり、前記トウを前記内装材を介して梱包容器本体内に収納することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明では、前記トウに水分を付与したのち、更にトウをギヤロール間に通して引き取り前記梱包容器に振り込むことが好ましい。
【0018】
さらにまた本発明は、前記揺動シュート内にエアを流通するか、或いはシュート先端にてエアカーテン状のエアを噴出させてトウに引張り力を付与することが好ましく、また前記揺動シュート内をバフ研磨仕上げしトウの引っかかりを防止することが好ましい。さらに、前記揺動シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるよう揺動させることが好ましく、特にこの場合、前記梱包容器を、紡速に対して1/100 〜1/25 にてシュートの揺動方向と直交する方向に往復させることが好ましく、また、前記揺動シュート先端の揺動速度を、トウの振込み初期から終盤にかけて段階的又は連続的に増加させることが好ましい。
【0019】
また、上記梱包方法において、トウの振込み初期段階から梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレスを行うことが好ましく、さらに、トウの振込み終了後のトウ上面に弾力性のある緩衝材を配して圧縮梱包することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージは、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度のトウが、340kg/m3以上の収納嵩比重で梱包容器に梱包されたパッケージである。このようにトウの収納嵩比重が極めて高い本発明のパッケージであれば、大量のトウを所定の大きさの梱包容器に従来よりもコンパクトに梱包することができるため、例えばその後に行われる焼成工程などの炭素繊維製造工程への前記前駆体トウの運送を効率的に行うことができる。これにより、炭素繊維の生産性の向上に寄与し、炭素繊維のコストダウンを図ることができる。また、パッケージにおけるトウの収納嵩比重が増大したことにより、パッケージの形態が安定し、例えばパッケージを運送する際に、パッケージが型崩れしにくくなる。
【0021】
また、本発明の梱包方法は、炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に振り込む前に、予めトウに1〜5wt%の水分を付与する。このように、トウを梱包容器に振り込む前に、予めトウに所定量の水分を付与しておくと、シュート詰まりが生じ難く、またパッケージング前にバクテリアやカビの増殖を防止する防腐処理等が不要である。しかも、トウへの水分付与を行うことにより、梱包容器に収納されるトウの集束性が確保される。さらに、トウへ水分を付与した後に、トウを梱包容器に振り込み梱包することにより、トウの収納嵩比重が340kg/m3以上となるように安定して梱包を行うことができる。このようにしてトウの梱包を行えば、例えばその後に梱包容器からトウを引き出す際に、トウ間において解舒性に優れており、毛羽などの発生がなく円滑にトウの引き出しを行うことができる。
【0022】
また、トウを収容する梱包容器は、段ボールからなる梱包容器本体と、その梱包容器本体の内部に配され、梱包容器本体の内面形状と略同一形状をもち、0.1mm以下の厚さからなる非透湿性の内装材とからなり、前記トウを前記内装材を介して梱包容器本体内に収納することができる。これにより、水分を付与したトウを梱包容器に振り込む際に、トウは段ボール内側面と直接接触しないため、梱包容器本体から摩擦、擦過等の損傷を受けなくてすむ。また、梱包容器本体が段ボールにより構成されていても、段ボールがトウに付与した水分を吸湿するのを防ぐことができる。
【0023】
この梱包容器を構成する内装材の材質は特に限定はないが、安価で利便性の高いポリエチレンシートであることが好ましい。内装材は、容器の内面に可能な限り密着させ、トウの振り込み形態を乱さないよう、なるべく極薄のものとすることが好ましい。内装材の厚さは0.1mm以下であって、好ましくは0.05mmであり、更に好ましくは0.03mmである。0.03mm以下では、段ボールに内装材を充填する際の破損やコストの面で好ましくない。内装材の形状は基本的に段ボールからなる梱包容器本体の形状と同じにすることが好ましい。例えば、梱包容器本体が角底であれば内装材も角底にし、梱包容器本体が丸底であれば内装材も丸底にする。また、トウの振り込み終了後に、トウの水分蒸発や外部からのゴミや異物の混入を防ぐためには、最終的な梱包をする前に、一旦内装材でトウを包装することが好ましい。その方法として、例えば真空包装や完全密閉といった方法が考えられるが、ここでは特に限定されることはなく、簡単な包装でその効果が期待できる。
【0024】
また本発明は、トウに水分を付与したのち、更にトウをギヤロール間に通して引き取り前記梱包容器に振り込むことが望ましい。このとき、ギヤロールは構造を簡素化するためギヤ形状の2枚のプレートを所定の間隔をおいて配し、各対応するギヤ形状間をパイプをもって連結して作製することができる。勿論、所要の厚みを持つ通常のギヤであってもよい。なお、本発明において、上記各対応するギヤ形状間を連結する部材は、パイプに限定されるものではなく、丸棒や角材の角を丸く仕上げた部材などを用いることができる。
【0025】
上記のように、トウに水分を付与したのち、更にトウをギヤロール間に通して引き取るようにすると、トウを偏平化すると同時にごく軽度にトウにジグザク形状が付与される。このため、トウを梱包容器内に振り込むときに、例えば梱包容器内の端部でトウの折り返しをスムースに行うことができ、さらにトウの集束性やパッケージの形状安定性を高めることができる。また、梱包容器に収納されたときにトウ間の交絡が少なくなるため、その後梱包容器からトウを引き出すときには、前述のジグザグ形状が解消されており、ストレートな繊維群からなるトウとなって円滑に引き出すことができるようになる。また、上記のようにトウをギヤロール間に通して引き取りを行うことにより、トウとギヤロールとの接触面積が少ない状態で引取りが可能であるため、トウのギヤロールへの巻き付きを防止して、トウを安定に梱包容器に収納することができる。
【0026】
また、本発明にあっては、揺動シュート内にエアを流通するか、或いはシュート先端にてエアカーテン状のエアを噴出させることにより、トウに引張り力を付与することができる。また、揺動シュート内をバフ研磨仕上げすることにより、トウが揺動シュート内を走行する際にトウの引っかかりを防止し、揺動シュートからのトウの振り出しを円滑に行うことができる。
【0027】
また、本発明の梱包方法において、シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるように揺動させることができる。これにより、トウを梱包容器内の端から端まで均等に振り込むことができ、梱包容器内に無駄な隙間を作ることなく、トウを容器内でストレートに引き揃えることができる。このようなトウの収納形態が、梱包容器内におけるトウの折り返し回数を極小化させることを可能とし、結果として梱包嵩密度の極大化につながる。
【0028】
この場合、梱包容器を、紡糸速度に対して1/100 〜1/25にてシュートの揺動方向と直交する方向に往復させることができる。これにより、トウを梱包容器の振込み面に均等に振り込むことができ、しかも、梱包容器に振り込まれたトウが容器の往復運動により斜めに倒れ込むことを防ぎ、梱包容器内に振り込まれたトウの位置がずれるのを防止することができる。さらに、揺動シュート先端の揺動速度をトウの振込み初期から終盤にかけて段階的又は連続的に増加させることができ、これにより、振込み面が低い段階から梱包容器の隅々までトウを振り込むことが可能となる。
【0029】
また、本発明は、トウの振込み初期段階から梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレスを行うことができる。このときのプレスは、振込みの早い時期、すなわち容器の振り込んだトウの高さ位置が容器の底部にある段階から開始する。このようなトウの振込み初期段階からのプレスは、梱包容器に収納されたトウの収納密度の極大化を達成させる。プレスの頻度は容器の往復に伴うそれぞれ両端の折り返し地点において行う。この容器の往復動における両端の折り返し位置の検出は、例えば光電管スイッチにて高精度に行うことができる。また、振込みトウにプレスを行うプレス装置は、容器内において次第に上昇する振り込みトウの高さ位置(トウの振込み面)に追従させる必要があるため、エアシリンダーにて駆動することが好ましい。この場合、トウの振込みの早い段階から振込みが終了するまでプレスを行うには、梱包容器に応じてプレス装置のストローク長を稼ぐ必要がある。そのため、例えば2以上のシリンダーを直列的に配することにより、そのストローク長を確保することができる。
【0030】
さらに、本発明にあっては、トウの振り込み終了後のトウ上面に弾力性のある緩衝材を配して圧縮梱包することができる。これにより、例えばトウを梱包容器に梱包した後に運送する際に、運送時のトウへの振動を軽減することができ、更に、トウの沈降により形成される容器上部の隙間が発生することを抑制することができる。この場合、緩衝材の材質としては特に限定されるものではなく、反発力を有する材質であればよい。この材質は安価で加工性に優れていることが望ましく、発泡スチロールや市販されているエアー入り緩衝材であっても特に問題はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度からなる炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包方法、その方法を実施するための梱包装置及びその梱包に使用する梱包容器の好適な実施形態を図示実施例に基づいて図面を参照しながら具体的に説明する。
【0032】
図1は本発明の代表的な実施例に係る紡糸工程に続いて炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包する梱包工程の全体を概略で示す工程説明図である。
本実施例によれば、湿式紡糸にて得られる単糸繊度1.2dtex、フィラメント数50000本のアクリル繊維の集合体からなる小トウ1を3本並列させた状態で複数の乾燥ロール11が並列する乾燥工程10に連続して導入して乾燥させる。その後、同乾燥工程10のトウ導出口の直前に配された水槽12の中にタッチロール13の一部を浸漬したタッチロール方式の水分付与手段をもって、小トウ1に1〜5wt%の水分を付与する。例えば、本実施例においては、例えば紡糸速度を40m/minとした場合、小トウ1への水分の付与量は1.5wt%とすることができ、また紡糸速度を65m/minとした場合、小トウ1への水分の付与量は4wt%とすることができる。
【0033】
なお、本発明において、上記水分付与手段は、タッチロール方式の水分付与に限定されず、その他に例えば噴射ノズルによる噴霧などによっても、小トウ1に1〜5wt%の水分付与を行うことができる。さらに、トウに水分を付与する時期は、集束して太繊度トウとなる前の小トウを偏平化する段階で付与することが望ましいが、これに限定されず、例えば小トウを集束して太繊度トウを形成した後にトウへの水分付与を行うこともできる。
【0034】
また例えば、前記トウへの水分の付与はトウの梱包後に開梱され梱包容器から引き出されるまでの間の時間や運搬条件などにより任意に変更できるが、その好ましい範囲は1〜5wt%である。このようにトウに付与される水分量を1〜5wt%に設定すると、長期間の保管に対しても、バクテリアやカビの増殖が皆無であり、しかも梱包容器63への振込み時も、更には同容器から引き出し焼成工程への供給時も、トウの形態が安定しており、その結果、以降の焼成工程における品質の低下がなく、炭素繊維として要求される十分な高品質の製品が得られる。
【0035】
上述のようにして水分が付与された3本の小トウ1は、図1及び図2に示すように、一旦そのトウ幅が均等になるように狭められ、それぞれが独立して次工程である小トウ1の構成繊維フィラメント同士を交絡させる単繊維交絡工程20へと同時に送り込まれる。この単繊維交絡工程20には、各小トウ1ごとに図示せぬ多数のエア噴出孔を有する上下一対の偏平ノズル21が上下に所定の間隙をもって配されている。この単繊維交絡工程20に並列して同時に送り込まれた3本の小トウ1は、それぞれ独立して配された前記各偏平ノズル21の間の間隙に導入され、そこでエアが吹き付けられて小トウ1ごとに、その構成フィラメントを交絡させる。本実施例にあっては、このときの吹き付けるエア圧を100kPaに設定しており、同時に各小トウ1の張力を700gとなるように張力制御している。
【0036】
単繊維交絡工程20にて、それぞれに単糸交絡がなされた小トウ1は、図3に示すトウ寄せ工程30に導入されて、湾曲部材31の凹状湾曲面に沿って各小トウ1が中央へと引き寄せられて150000本の構成フィラメントからなる一枚の偏平化した大繊度のトウ2とされたのち図示せぬ交絡装置により隣接小トウ間の構成フィラメント同士が交絡され、次工程であるトウ振込機導入部50へと送られる。このトウ振込機導入部50と前記トウ寄せ工程30との間には、図1及び図4に示すように、複数のフィードロール41を備えたトウ送出し部40が配されており、前記フィードロール41によるフィード量を制御して、上記単繊維交絡工程20における小トウ1の張力を制御している。トウ寄せ工程30にて一本となった大繊度のトウ2は、複数のガイドロール42に案内されてほぼ水平に走行し、前記トウ振込機導入部50にて変向ロール51に案内されて垂直下方へと向きを変え、直下に設置されたトウ振込機60の一対のギアロール61間へと送り込まれる。
【0037】
前記トウ振込機60は、図5に示すように、左右一対の前記ギアロール61と、同一対のギアロール61の間のトウ送出し位置の直下にトウ導入口62aを対向させるとともに、その上端のトウ導入口62aの近傍を揺動中心として、全体が同一鉛直面内を揺動可能に支承されたトウ振込みシュート62と、同トウ振込みシュート62の下方にあってトウ梱包容器63の載置位置に配され、同トウ振込みシュート62の揺動方向と直交する方向にトウ梱包容器63を往復動させる容器往復駆動コンベア64と、前記トウ梱包容器63の往復動折返し位置のそれぞれ上方に配された前後一対のプレス装置65とを備えている。
【0038】
本実施例にあって上記各ギアロール61は、図6に拡大して示すように、外周縁に多数で同数のギア歯が等間隔に形成された同一形状の2枚の円板61aを対向して配し、各円板61aの隣接するギア歯の頂部間にパイプ又は丸棒61bの両端部をそれぞれ固着して円板61a同士を連結することにより製作されている。このとき、パイプ又は丸棒61bは、その断面の半分を前記円板61aの外周縁から外径側に露呈させて円板61aに固着される。なお、本発明において、円板61a同士を連結する部材として、上記のようなパイプ又は丸棒61bの他に、例えば角材の角を丸く仕上げた部材などを用いることができる。
【0039】
かかるギアロール構造により、軽量化を実現できるとともに材料及びギア作製コストを低減させることが可能となる。また、例えば円板61aに対するパイプ又は丸棒61bの端部固定手段としてボルト及びナットを使って脱着自在に取り付ければ、仮に一部のパイプ又は丸棒61bが破損した場合にも容易に交換が可能であり、またそのメンテナンスも容易となる。このように、トウ振込機導入部50から送り込まれるトウ2をギアロール61を通すことによりトウ2にはジグザグ状の波形が賦形されるため、所要量の水分の含有と相まってトウ2の構成繊維の偏平化形態をより安定化させる。
【0040】
上記トウ振込みシュート62は、ステンレス、アルミ合金、銅合金などの金属板が使われ、同金属板をプレス加工したのち溶接などによって製作される方形筒体からなる。本実施例によれば、図7に示すように、同トウ振込みシュート62のトウ導入開口部62aの開口断面は正方形に近く、その中間部62bの開口断面はシュート62の揺動方向の内壁間隔を揺動方向に直交する方向の間隙の略1/2と狭めた矩形状をなしており、更にその下端部のトウ振出し開口部62cの開口断面を前記矩形状の中間部開口断面よりも更に薄くして、トウ導入開口部62a、中間部62b、トウ振出し開口部62cへと連続して、その方形の開口断面をシュート62の揺動方向に順次薄くしている。因みに、前記トウ導入開口部62aのトウ幅方向及びトウ厚み方向の開口幅は双方ともに150mmであるが、中間部62bでの前記トウ幅方向及びトウ厚み方向の開口幅はそれぞれ100mm、45mmに縮小し、さらに振り出し開口部62cではそのトウ厚み方向の開口幅は30mmとしている。この場合、シュート62の中間部62b及び振り出し開口部62cにおけるトウ幅方向の長さは、シュート62に導入されるトウの幅の略2倍に設定して幅方向に余裕を持たせることが好ましい。
【0041】
さらに好ましい態様として、図8及び図9に示すように、均等な矩形断面を有するシュート本体62dの開口部に延長シュート62d’を設ける。この場合に延長シュート62d’の上端部形状は、そのトウの幅方向内寸をトウ幅の3倍程度とし、また、トウ厚み方向の開口寸法を振り込み側に向けて残減させて、略30mmとすることが好ましい。このような形状をもつ延長シュート62d’をシュート本体62dの開口部に設けることにより、後述するシュート内を走行するトウ2に振り出し方向へ引張力を付与するエアカーテン状の空気流を作り出すための図示せぬ引張力付与手段となる給気部を設けることが可能となる。これにより、トウ2を振込みシュート62内で詰まらせることなく円滑に走行させて、延長シュート62d’から安定して振り出すことができる。なお、当然のことではあるが、シュート62及び延長シュート62d’の寸法は、梱包するトウの総繊度等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
このように、シュート62のトウ振出し端において矩形開口をトウ幅方向で変えることなく、揺動方向(トウ厚み方向)で薄く形成するため、シュート62の内部を走行するトウ2の捩じれが防止でき、下方に振り出されるときもトウは捩じれずに、テープ状の偏平形態を保持できる。更に本実施例では、図5に示すように、シュート62内を走行するトウ2に振り出し方向へ引っ張り力を付与するために、シュート62のトウ導入開口部69にシュート内部に向けて空気流をつくり出す給気部62″を設けている。この給気部62″に代えて、シュート62のトウ振出し開口部62cの近傍に振り出し方向に向けてエアカーテン状の空気流つくり出す給気部を設けることもできる。このシュート62を太繊度のトウ2が通過するときに、シュート62内でトウ2が摩擦による損傷を受けないようにシュート62の内面にはバフ研磨仕上げが施されている。
【0043】
また、本実施例によるトウ振込みシュート62は、図5に示すように、同シュート62の揺動を前後方向とするとき、その左右側面のうちの一側面の上端に板材からなるブラケット62’の下半部を溶接などにより固設しておき、同ブラケット62’の上半部の中央部が図示せぬ駆動源によって駆動回転する回転軸にカムなどの揺動機構を介して結合され、前記ブラケット62’が前記回転軸の軸線上を揺動中心として所要の揺動幅でシュート62の全体を揺動させる。このときのシュート62のトウ振出し開口部の揺動幅は下方に配される梱包容器63の振込方向の内寸とほぼ一致させている。その揺動機構は、前述のごとくカムやリンク機構など公知の機構が採用できる。また、サーボモーターによって直接往復動の幅を制御しても良い。すなわち、ギアロール61を通して下方に送り出される大繊度の偏平トウ2は、トウ振込みシュート62に導入されるが、このとき前記シュート62のトウ導入開口部62aから先端のトウ振出し開口部62cに到る全体がブラケット62’を介して同一方向に揺動されるようになるため、同シュート62の内部を円滑に走行する。
【0044】
本実施例にあって、このシュート62の揺動速度は、シュート62のトウ振り出し側先端部の揺動速度が紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるように設定している。このようにシュート62の先端における揺動速度をトウ2の紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるようにすると、シュート62の振出し開口から振り出されるトウ2が多く振り出されたり、少なく振り出されたりしない。そのため、梱包容器63におけるトウの折返し位置においても確実に折り返しが可能となり、梱包容器63のトラバース方向の端部まで確実にトウ2を振り込むことができ、梱包容器63の全面に均等に収納できるようになる。また、同時に梱包容器63の内部におけるトウの折返し回数を極小化することができ、結果として梱包の嵩密度を極大化させることができる。さらに本実施例では、揺動シュート62の先端の揺動速度をトウの振込み初期から終盤にかけて段階的又は連続的に増加させることができる。これにより、振込み面が低い段階から梱包容器の隅々までトウを振り込むことが可能となり、梱包されたトウの収納嵩比重を一層大きくすることができる。
【0045】
上記容器往復駆動コンベア64は、図5及び図10に示すようにロールコンベアからなり、前記シュート62の揺動方向と直交する方向に複数の並列する回転ロール64aが同一水平面上に配されている。これらの回転ロール64aは、例えば図示せぬ単一の駆動軸により往復回転する駆動ロールのロール軸端に固設された同じく図示せぬチェーンホイールを介して過の従動ロールの軸端に固設されたチェーンホイールと図示せぬチェーンを介して連結され、同一方向に同調して回転する。本実施例にあっては、前記回転ロール64aの支持フレーム64bの一部に光電管式検出器64cが配されており、これによりコンベア64上を移送されるトウ梱包容器63の所定位置への到達を検出し、その検出信号が図示せぬ制御部に送られて、その信号を受けて同制御部からの指令により前記回転ロール64aの駆動源を反転させ、所定の位置でトウ梱包容器63を折り返させて、これを繰り返す。
【0046】
この梱包容器63の往復速度は、紡糸速度に対して、1/100〜1/25に設定されている。この範囲でトウ梱包容器63をトウ2の振込み方向に直交させて往復動させることにより、梱包容器63に振り込まれたトウ2が斜めに倒れ込むことが防止され、均一なトウの収納が可能となる。
【0047】
また本実施例にあっては、図5に示すように前記トウ梱包容器63の往復動の各折返し位置のそれぞれ上方にあって、シュート62から振り込まれるトウ2を挟んで前後に一対の上記プレス装置65が配されている。これらのプレス装置65は、図11に拡大して示すように、それぞれが多段シリンダー65aと、各シリンダー65aの伸縮端を中央部に固設した板材からなるプレス部材65bとを備えている。多段シリンダー65aは所要のストローク長を確保するとともにシリンダー全体の長さをコンパクト化するのに適している。本発明では、プレス装置65によるプレスは大型のトウ梱包容器63であってもトウ2を振り込む初期段階から行われるため、また同時に次第に上昇するトウの振込み面に追従させる必要があるため、特にシリンダー65aによる伸縮ストロークを通常よりも長くする必要がある。本実施例によれば、2段シリンダー65aを採用して、こうした点に対応させている。さらにプレスする際にトウ梱包容器63がトウ2の振込み方向に直交させて往復させており、プレスしている時間も梱包容器が往復動をしている。このため、梱包容器にプレス装置を追従させるために、プレス装置取り付け部が、梱包容器往復動と同じ方向に揺動可能なヒンジ機構により取り付けられていることがより好ましい。
【0048】
前記プレス部材65bは、図5及び図9に示すように、前記トウ梱包容器63の底部形状と略同一の形状をもつ金属製板材から製作されている。同金属製板材の周縁部の強度と剛性を確保すべく、その周縁には補強壁65b’が直立して立設されており、前記金属製板材の下面及び補強壁65b’の外面はバフ研磨仕上げがなされて容器内のトウ2に対するプレス時の毛羽などが発生することを防止している。また、特に本実施例では、前後に配された一対の前記プレス部材65の対向する一側面には互いに離間する方向に斜めに立ち上がる傾斜壁65b″を有している。この傾斜壁65b″は、各プレス部材65が交互に作動するとき、シュート62から引き続き振り込まれるトウ2がプレス装置65の作動側領域に入り込まないように、トウ2を振込み側へと向かわせるための壁面を構成している。
【0049】
すなわち本発明では、トウ2を梱包容器63に振り込むとき、トウ2の振込み開始時からプレスを行っており、そのプレスと同時に梱包容器63の半部にてトウ2の振込みが続行している。そのプレスのタイミングは梱包容器63の各折返し時において反対側の半部にて行うようにしている。このときの位置検出は、既述したとおり光電管式検出器64cにて検出している。トウ梱包容器63の折返し位置にて一方のプレス部材65bが作動するときに、他方のプレス部材65bは上方の待機位置にあるが、このとき同時に待機するプレス部材65bの側では引き続きトウ2の振込みが行われている。このとき、プレス側にトウ2が入り込まないようにプレス側のプレス部材65の前記傾斜壁65b″をもって振り込まれてくるトウ2を振込み側へと確実に向かわせる。
【0050】
前記プレス部材65bはステンレス製の多孔板にて製作している。これは、プレス部材65bが下降してトウ2をプレスする際に、空気の抜けを促し、風圧による糸条の乱れを防止することと、プレスするトウ2のフィラメント間に存在するするエアを抜くためである。その開口率は20〜40%であることが好ましい。また、その孔径は、トウ2が入り込まないように5〜15mmに設定する。因みに本実施例では孔径を10mmとして、ピッチを17.5mm、開孔率30%で千鳥配列としており、そのプレス面にはバフ研磨にて仕上げ加工が施されてトウ2の引っ掛かりをなくしている。
【0051】
本実施例では、トウ2を梱包容器63の隅々まで均等に振り込むため、既述したようにシュート62の先端揺動幅を梱包容器63の内寸と同じにしている。そのため、トウ2の振込み面が上昇してくると梱包容器63の上端からトウ2が外側に溢れる可能性がある。そこで、本実施例では矩形開口面をもつトウ梱包容器63の上端開口部に、図12に示すような、上方に向けてテーパ状に拡がり、さらに梱包容器63の上端開口部の内側に密嵌するフランジ状の嵌着部66aをもつ補助部材66を予め用意している。この補助部材66の材質は問わないが、トウ2の損傷を避けるため、内面をバフ研磨仕上げしたステンレス製であることが好ましい。この補助部材66を容器上端部に嵌着することにより、シュート62の揺動に伴うトウ2の溢れを防止するとともに、プレス後に梱包容器63の上端を越えてトウ2を充填できる。すなわち、本補助部材66を取り付けることにより、見掛けの容器深さを深くでき、その結果、プレス前は梱包容器63の上端開口面よりもトウ2を高く詰め込むことができ、トウ2が容器外に溢れるのを防止する。しかも、トウ2の収納終了後には、上述のごとき後述する緩衝材58を介して圧縮梱包されるため、容器内のトウの収納嵩比重をより高くすることができる。
【0052】
ここで、表1は、既述した本実施例に関して、シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.8倍、1.0倍、1.25倍に設定してプレス操作を行わなかった場合(実施例1〜3)、シュート先端の揺動速度を紡糸速度と等しくなるように設定してプレス操作を加えた場合(実施例4)、及び、シュート先端の揺動速度が紡糸速度の0.75倍〜1.25倍から外れる0.55倍に設定してプレス操作を行わなかった場合(比較例1)について、梱包容器に梱包されたトウの梱包重量と収納嵩比重を示している。なお、上記実施例1〜4及び比較例1では、トウを梱包容器に振り込む前に、トウに1.5wt%の水分付与を行っている。
【0053】
また、表2は紡糸速度が65m/min(すなわち、トウへの水分付与量が4wt%)のときにおいて、シュート先端の遥動速度を紡糸速度の0.8倍とした場合(実施例5)、シュート先端の揺動速度を振込み初期は紡糸速度の0.82倍とし、その後段階的にシュート先端の遥動速度を紡糸速度の1.0倍となるように増加した場合(実施例6)、及び、シュート先端の遥動速度が紡糸速度の0.55倍とした場合(比較例2)について梱包容器に梱包されたトウの梱包重量と収納嵩比重を示している。なお、実施例6においては、シュート先端の揺動速度を、紡糸速度に対して、振込み開始から5分間を0.82倍、その後26分間を0.87倍、更にその後109分間を0.93倍、残りの時間を1.0倍と段階的に増加した。
【0054】
この表1から理解できるように、本発明において、シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍の範囲内に設定することにより、トウの収納嵩比重が確実に340kg/m3以上となるように梱包容器内にトウを梱包することができる。特に、実施例2のように、シュート先端の揺動速度を紡糸速度と等しくすることにより、トウの収納嵩比重を一層大きくすることができる。
【0055】
さらに実施例4に示したように、シュート先端の揺動速度を紡糸速度と等しくし、またプレス装置65により梱包容器63の往復動の折返しごとに梱包器内のトウ2をプレスする収納方式を採用することにより、最も大きな収納嵩比重でトウを梱包することが可能となる。
【0056】
また、表2から理解できるように、実施例6のようにしてシュート先端の遥動速度を段階的に上げることにより、箱の隅々までトウを収納することが可能となりトウの収納嵩比重を一層大きくすることができる。
【0057】
一方、比較例1に示したように、シュート先端の揺動速度が紡糸速度よりも極端に遅く(揺動速度が紡糸速度の0.55倍)、またプレス操作を行わなかった場合は、トウが梱包容器内でストレートに引き揃えられず、蛇行して収納されることになる。またこの場合、収納したトウとトウの重なり合う箇所が増え、且つ適切なプレスも行われていない為、結果として340kg/m3以上となるトウの収納嵩比重を得ることができなかった。また、比較例2もシュート先端の揺動速度が紡糸速度よりも極端に遅かったため、トウが梱包容器内でストレートに引き揃えられず、結果として340kg/m3以上となるトウの収納嵩比重を得ることができなかった。
【0058】
すなわち、表1に示したように、比較例1では、シュート先端の揺動速度が紡糸速度よりも極端に遅く、またプレス操作も行わなかったため、トウの収納嵩比重が340kg/m3以上となるようにトウを梱包することができなかった。それに対して、上記実施例1〜4は、トウを梱包容器に振り込む前にトウに1.5wt%の水分付与を行ったことに加えて、シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍に設定したことにより、トウの収納嵩比重を確実に340kg/m3以上とすることができた。また、実施例4のように、プレス操作をさらに加えることにより、トウを494kg/m3という極めて大きな収納嵩比重で梱包容器に収容することが可能となることがわかった。さらに表2に示す通り、シュート先端の揺動速度を徐々に増加させることで、収納嵩比重をより一層増大できることがわかった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
次に、本発明の梱包方法に使用される梱包容器63の好ましい実施例を具体的に説明する。図12は本実施例によるトウ梱包容器63を外観を示している。梱包容器63の材質には、その経済性の観点から段ボールを使うことが望ましい。本発明方法により梱包容器63に振り込まれる振込みトウ2は所要の水分を含む。このため、段ボールに振り込む際、段ボール内面とトウの接触により、摩擦,擦過等のダメージを受けないことに加えて、トウ2の水分により段ボールが吸湿することを防ぐ必要がある。そこで、本実施例にあっては、段ボールから形成された梱包容器63の内側に内装材67を介装する。この内装材67の材質は防水性があれば特に限定されないが、安価で利便性を考えたときポリエチレンからなるシート材であることが好ましい。
【0062】
内装材67は、段ボール製のトウ梱包容器63の内壁面に可能な限り密着させ、振り込み形態を乱さないよう、なるべく極薄であることが望ましい。内装材67の厚さは0.1mm以下であって、好ましくは0.05mmであり、更に好ましくは0.03mmである。0.03mm以下では、内装材67を段ボール製の梱包容器63に介装させる際に破損しやすく作業コストの面で好ましくない。内装材67の形状は基本的に梱包容器と同一形状であることが望ましい。トウの振込みが終了したのち、トウの水分蒸発や外部からのゴミや異物の混入を防ぐためには、最終梱包する前に、一旦内装材67でトウ2を包装することが好ましい。その方法として、例えば真空包装や完全密閉といった方法が考えられるが、ここでは特に限定されることはなく簡易的な包装でもその目的は十分に達成される。
【0063】
更に本実施例では、内装材67をもって振込みトウ2を包装した後、更にその上から、弾力性のある緩衝材68を振込み面の上部に配している。緩衝材68の材質としては、反発力を有するものであれば特に限定はされない。安価で加工性に優れている点を考慮すると、発泡スチロールや市販されている水玉状に空気が充填されたフィルムシート状の緩衝材68が好適である。前述のトウ溢れ防止用の補助部材66を梱包容器63の上端部に取り付けることにより、トウ2を梱包容器63の上端から50〜80mm盛り上げて振り込むことが可能となり、その状態で緩衝材68をトウ2の振込み面に配置し内装材67を介して圧縮梱包する。このように梱包することにより、収納されたトウ2は運送時の振動が軽減され、更にはトウ2の沈降による隙間の発生が抑制できる。梱包容器63を構成する段ボールは充分な強度を有するように、通常よりも厚手のもの、例えば2段以上に積層された構造をもつ段ボール材を用いることが好ましい。
【0064】
また、段ボール製の空又は梱包後のトウ梱包容器63又の取扱いを容易にするには、トウ梱包容器63の下面にパレット69を取り付けて使用することが好ましい。
【0065】
この場合、トウ梱包容器63を別途用意されたパレット上に載置して取り扱ってもよいが、本実施例では梱包容器63の下面にパレット69を一体的に取り付けておくことが好ましく、更には、トウ2の梱包容器63とパレット69とを脱着可能な構造として、容易に梱包容器63とパレット69とを分離できるように構成すると、梱包容器63を組み立てるときやトウ2を振り込むとき、或いは梱包後の輸送時などの取扱いがしやすくなる。
【0066】
前記パレット69は、トウ2を容器に振り込んだあと、通常、フォークリフトを使って取り扱うことが多いことから、通常のパレットと同様にフォークリフトのフォーク部が挿入できる構造を有している。パレット69の材質は耐久性及び耐水性に優れていれば特に限定しないが、その取扱い性や再利用を含めたコストを考えると、トウ梱包容器63と同材質である段ボール紙が好ましい。この場合、パレット69の脚部を構成する部分を複数の段ボールを積層固着し、これを波形コア部分の長さ方向に直交させて所要の幅で切断し、波型コア断面を上下に配して使えば、強度の点で十分に耐久性が確保できる。
【0067】
トウ梱包容器63の蓋体70も同様に段ボール紙で作製され、図13に仮想線で示すように、梱包容器63の上端部に外側から密嵌できる構造であることが望ましい。このような構成を採用することにより、バンド掛け梱包を行う際に、振込み面に均一な荷重が加わり、収納されたトウ2の形態が安定化するとともに、運送時に梱包物の重ね積みが可能となり、運送コストの面においても有利である。梱包するにあたっては、蓋体70、梱包容器63及びパレット69が一体となるように、全体の少なくとも2箇所以上プラスッティックバンドのような緊締テープ71をもって固定することが好ましい。
【0068】
以上のように、本発明の梱包方法によれば、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度のトウを梱包容器に振り込む前に、予めトウに1〜5wt%の水分を付与することにより、シュート内でトウの詰まりが生じ難く、トウの集束性が確保される。さらに、トウへ水分を付与した後に、トウを梱包容器に振り込み梱包することにより、トウの収納嵩比重が340kg/m3以上となるように安定して梱包することができる。
【0069】
このようにトウに1〜5wt%の水分を付与した後にトウの梱包を行えば、太繊度のトウを梱包容器に大きな収納嵩比重で安定して梱包することができ、また防腐処理等を特別に行わなくても、梱包後のトウにバクテリアやカビ等が発生するのを防止できる。さらに、梱包されたトウの形態が安定して型崩れしにくくなる。しかも、例えばその後トウを梱包したパッケージからトウの引き取り行う際に、梱包されたトウ間における解舒性に優れているため、毛羽などの発生がなく円滑にトウの引き取りを行うことができる。
【0070】
さらに、本発明によって梱包された収納嵩比重が340kg/m3以上となるパッケージであれば、非常に大量のトウを所定の大きさの梱包容器にコンパクトに梱包することができる。このため、例えばその後に行われる焼成工程などの炭素繊維製造工程への前記前駆体トウの運送を効率的に行うことができるため、炭素繊維の生産性の向上に寄与し、炭素繊維のコストダウンを図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に梱包する際に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの代表的な梱包工程を概略で示す工程説明図である。
【図2】水分付与後の複数本の小トウ幅を均等に縮小して小トウごとの構成フィラメントを交絡処理する工程図である。
【図3】離間して走行する小トウを一本の偏平化した太繊度トウに纏める工程図である。
【図4】大繊度のトウをトウ導入部に送りだすトウ送出し部を斜め前面から見た立体図である。
【図5】本実施例に適用されるトウ導入部及びトウ振込機の外観の一例を示す立体図である
【図6】本実施例に適用されるギアロールの構造例を示す立体図である。
【図7】本実施例に適用されるトウ振込みシュートの構造例を示す立体図である。
【図8】同トウ振込みシュートの変形例を示す部分正面図である。
【図9】同シュートの延長シュートの構造を示す立体図である。
【図10】本実施例に適用される容器往復駆動コンベアの構造例を示す立体図である。
【図11】本実施例に適用されるプレス装置の構造例を示す立体図である。
【図12】本実施例によるトウ振込時におけるトウ梱包容器の外観形態を示す拡大立体図である。
【図13】本実施例によるトウ梱包後の梱包形態を示す立体図である。
【符号の説明】
【0073】
1 小トウ
2 太繊度のトウ
10 乾燥工程
11 乾燥ロール
12 水槽
13 タッチロール
20 単繊維交絡工程
21 偏平ノズル
30 トウ寄せ工程
31 湾曲部材
40 トウ送出し部
41 フィードロール
42 ガイドロール
50 トウ振込機導入部
51 変向ロール
60 トウ振込機
61 ギアロール
61a 歯車状円板
61b パイプ又は丸棒
62 トウ振込みシュート
62’ ブラケット
62a トウ導入開口部
62b 中間部
62c トウ振出し開口部
62d シュート本体
62d’ 延長シュート
62″ 給気部
63 トウ梱包容器
64 容器往復駆動コンベア
64a 回転ロール
64b 支持フレーム
64c 光電管式検出器
65 プレス装置
65a 多段シリンダー
65b プレス部材
65b’ 補強壁
65b″ 傾斜壁
66 補助部材
66a フランジ状の嵌着部
67 内装材
68 緩衝材
69 パレット
70 蓋体
71 緊締テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に梱包したパッケージであって、前記梱包容器に梱包された炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの収納嵩比重が340kg/m3以上であることを特徴とする炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウのパッケージ。
【請求項2】
総繊度が48000dtex 〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを揺動シュートを介して梱包容器に振り込み梱包する方法であって、
前記トウを梱包容器に振り込む前に、予め前記トウに1〜5wt%の水分を付与すること、
前記水分を付与したトウを、トウの収納嵩比重が340kg/m3以上となるように前記梱包容器に梱包すること
を含んでなることを特徴とする炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包方法。
【請求項3】
前記梱包容器が、段ボールからなる梱包容器本体と、同梱包容器本体の内部に配され、梱包容器本体の内面形状と略同一形状をもち、0.1mm以下の厚さからなる非透湿性の内装材とからなり、前記トウを前記内装材を介して梱包容器本体内に収納することを特徴とする請求項2記載の梱包方法。
【請求項4】
前記トウに水分を付与したのち、更にトウをギヤロール間に通して引き取り前記梱包容器に振り込むことを特徴とする請求項2又は3記載の梱包方法。
【請求項5】
前記揺動シュート内にエアを流通するか、或いはシュート先端にてエアカーテン状のエアを噴出させてトウに引張り力を付与することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の梱包方法。
【請求項6】
前記揺動シュート内をバフ研磨仕上げしトウの引っかかりを防止することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の梱包方法。
【請求項7】
前記揺動シュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるよう揺動させることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の梱包方法。
【請求項8】
前記梱包容器を、紡速に対して1/100 〜1/25 にてシュートの揺動方向と直交する方向に往復させることを特徴とする請求項7記載の梱包方法。
【請求項9】
トウの振込み初期段階から梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレスを行うことを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の梱包方法。
【請求項10】
トウの振込み終了後のトウ上面に弾力性のある緩衝材を配して圧縮梱包することを特徴とする請求項2記載の梱包方法。
【請求項11】
前記揺動シュート先端の揺動速度を、トウの振込み初期から終盤にかけて段階的又は連続的に増加させることを特徴とする請求項7記載の梱包方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−176328(P2006−176328A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374189(P2004−374189)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】