炭素繊維装置
【課題】炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率の低下を抑制できる炭素繊維装置を提供する。
【解決手段】カソード基板10と、カソード基板10上に配置されたカソード電極20と、カソード電極20上に配置された炭素繊維100と、カソード電極20の配置された領域の残余の領域においてカソード基板10上に配置されたゲート電極30と、カソード電極20及びゲート電極30の上方に配置された透明のアノード電極40と、アノード電極40のカソード基板10に対向する主面40b上に配置され、炭素繊維100から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜50とを備える。
【解決手段】カソード基板10と、カソード基板10上に配置されたカソード電極20と、カソード電極20上に配置された炭素繊維100と、カソード電極20の配置された領域の残余の領域においてカソード基板10上に配置されたゲート電極30と、カソード電極20及びゲート電極30の上方に配置された透明のアノード電極40と、アノード電極40のカソード基板10に対向する主面40b上に配置され、炭素繊維100から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜50とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を電子放出源として用いる炭素繊維装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)等のナノスケールの炭素繊維(カーボンファイバ)が、フィールドエミッションアレイ(FEA)や、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の炭素繊維装置に使用されている。これらの炭素繊維装置は、炭素繊維を電子放出源として使用し、蛍光体膜に電子を衝突させることによって蛍光体膜が励起され発光する。
【0003】
炭素繊維を電子放出源として使用するために、炭素繊維が配置されたカソード電極と炭素繊維の上方に配置されたゲート電極との間に電圧をかけることにより、炭素繊維から電子を引き出す方法が用いられている。例えば、炭素繊維を配置した領域を囲むようにカソード電極上に絶縁膜を形成し、絶縁膜上にゲート電極を形成する炭素繊維装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。炭素繊維から放出された電子は、ゲート電極上方のアノード電極上に配置された蛍光体膜に衝突する。
【特許文献1】特開2004−303679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素繊維の上方にゲート電極を配置した構造の場合、炭素繊維から放出された電子の大部分がゲート電極に引き寄せられてしまうため、アノード電極上の蛍光体膜に衝突する電子数は少ない。つまり、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率が低下するという問題があった。
【0005】
上記問題点を鑑み、本発明は、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率の低下を抑制できる炭素繊維装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、カソード基板と、カソード基板上に配置されたカソード電極と、カソード電極上に配置された炭素繊維と、カソード電極の配置された領域の残余の領域においてカソード基板上に配置されたゲート電極と、カソード電極及びゲート電極の上方に配置された透明のアノード電極と、アノード電極のカソード基板に対向する主面上に配置され、炭素繊維から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜とを備える炭素繊維装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率の低下を抑制できる炭素繊維装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0009】
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1は、図1に示すように、カソード基板10と、カソード基板10上に配置されたカソード電極20と、カソード電極20上に配置された炭素繊維100と、カソード電極20の配置された領域の残余の領域においてカソード基板10上に配置されたゲート電極30と、カソード電極20及びゲート電極30の上方に配置された透明のアノード電極40と、アノード電極40のカソード基板10に対向する主面40b上に配置され、炭素繊維100から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜50とを備える。つまり、図1に示した炭素繊維装置では、カソード電極20とゲート電極30が同一平面レベルに配置されている。
【0011】
以下では、炭素繊維装置1が、蛍光体膜50から発光される出力光Lを出力する照明装置である場合について、例示的に説明する。
【0012】
炭素繊維装置1において、炭素繊維100は電子放出源である。炭素繊維100は、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)、カーボンナノファイバ(CNF)、カーボンナノコイル等を含むナノスケールのカーボンファイバである。
【0013】
カソード基板10には、例えばニッケル(Ni)基板や、ステンレス(SUS鋼)基板等の金属プレートが採用可能である。カソード電極20及びゲート電極30には、クロム(Cr)膜等が採用可能である。
【0014】
図1に示すように、アノード電極40は、カソード基板10に対向するアノード基板60の主面60b上に配置されている。そして、アノード基板60と接する主面に対向するアノード電極40の主面40b上に、蛍光体膜50が配置されている。アノード電極40及びアノード基板60は、蛍光体膜50で励起発光する光が透過可能な材料からなる。例えばガラス板等がアノード基板60に採用可能である。アノード電極40には、例えば酸化インジウムスズ(ITO)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜等が採用可能である。
【0015】
蛍光体膜50の材料は、炭素繊維装置1の所望の発光色等に応じて選択される。例えば、青色光を発光する場合にはZnS:Ag蛍光体、緑色光を発光する場合にはZnS:Au、Al蛍光体、赤光を発光する場合にはY2O2S:Eu3+蛍光体等が蛍光体膜50に採用可能である。
【0016】
また、カソード基板10とアノード基板60との間に空間をなすように、カソード基板10の周辺部とアノード基板60の周辺部は、環状のスペーサ70にそれぞれ接合される。つまり、炭素繊維装置1の側面はスペーサ70により構成される。スペーサ70には、例えばガラス等が採用可能である。
【0017】
カソード基板10、アノード基板60及びスペーサ70により、カソード電極20とアノード電極40間の空間は外部と遮断される。カソード基板10とアノード基板60間の空間は、1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態に保たれる。スペーサ70は、例えばガラスフリットによってカソード基板10及びアノード基板60と接合される。
【0018】
カソード電極20とゲート電極30が配置されたカソード基板10の主面10aの例を図2に示す。図2は、主面10aをアノード電極40側からみた上面図である。図2に示すように、カソード電極20及びゲート電極30は、互いに紙面に向かって上下方向にそれぞれ延伸する複数の歯部分を有する櫛型形状をなし、カソード電極20とゲート電極30の櫛の歯部分は交差指状に配置されている。炭素繊維100は、カソード電極20のゲート電極30に挟まれた領域に配置される。図1は、図2のI−I方向に沿った断面図である。
【0019】
カソード電極20の櫛の歯部分の幅WC、及びゲート電極30の櫛の歯部分の幅WGは、例えば100μm程度である。また、カソード電極20の櫛の歯部分とゲート電極30の櫛の歯部分との間隔dは100μm程度である。なお、間隔dが狭いほど、炭素繊維100から電子を放出させるためにカソード電極20とゲート電極30間に印加する電圧(以下において、「ゲート電圧」という。)VGを小さくできる。このため、例えば幅WC及び幅WGを500nm、間隔dを500nm程度にしてもよい。ゲート電圧VGを小さくすることにより、消費電力が削減される。
【0020】
以下に、図1に示した炭素繊維装置1の動作について説明する。カソード電極20とアノード電極40間にアノード電圧VAを印加した状態で、カソード電極20とゲート電極30間にゲート電圧VGを印加する。アノード電圧VAは、例えば3kV〜8kV程度である。ゲート電圧VGは、例えば数V〜100V程度である。ゲート電圧VGを印加することにより、カソード電極20上に配置された電子放出源である炭素繊維100の先端から、アノード電極40に向かって電子が放出される。
【0021】
図1に示したように、カソード電極20とゲート電極30は同一平面レベルに配置されている。このため、炭素繊維100から放出された電子は、ゲート電極30に向かうことなくアノード電極40に引き寄せられ、アノード電極40の主面40bに配置された蛍光体膜50に衝突する。この衝突により、蛍光体膜50は励起され発光する。蛍光体膜50が発光した出力光Lは、アノード電極40及びアノード基板60を透過して、アノード基板60の出力面60aから炭素繊維装置1の外部に出力される。
【0022】
なお、蛍光体膜50からアノード基板60に入射した出力光Lの一部はそのまま出力面60aから炭素繊維装置1の外部に出力される。また、アノード基板60に入射した出力光Lの他の一部は、アノード基板60内部を拡散した後、炭素繊維装置1の外部に出力される。
【0023】
図3に、図1に示した炭素繊維装置1についての電子軌道シミュレーション結果を示す。電子軌道シミュレーションは、カソード電極20を接地し、ゲート電極30に200Vを印加する条件で行った。図3の横軸は、カソード電極20を原点とする位置、縦軸は電位である。図3において、カソード電極20上の炭素繊維(図示略)から放出された電子の軌道が実線で示されている。破線は等電位線を示す。図3に示すように、カソード電極20から放出された電子は、ゲート電極30に引き寄せられることなく、カソード電極20の上方に進行する。
【0024】
なお、図2にはカソード電極20とゲート電極30の互いに対向する側面が直線である例を示したが、カソード電極20とゲート電極30の隣接する部分が直線状に延伸していなくてもよい。例えば図4に示すように、カソード電極20とゲート電極30の互いに対向する側面が稲妻形に延伸してもよい。
【0025】
図5に、関連技術に係る炭素繊維装置1Aの例を示す。炭素繊維装置1Aは、カソード基板10A上にカソード電極20Aが配置され、カソード電極20A上に炭素繊維100が配置されている。炭素繊維100の配置された領域を囲むようにカソード電極20A上に絶縁膜80が配置され、絶縁膜80上にゲート電極30Aが配置されている。つまり、炭素繊維100は、絶縁膜80及びゲート電極30Aによって囲まれた空間であるホール90の底面に配置されている。
【0026】
図5に示した炭素繊維装置1Aにおいて、カソード電極20Aとゲート電極30A間にゲート電圧VGを印加して炭素繊維100から電子を放出させた場合、放出された電子の90%程度がゲート電極30Aに引き込まれる。つまり、アノード電極40上に配置された蛍光体膜50に到達する電子の割合は10%程度である。また、炭素繊維装置1Aでは、カソード電極20Aから放出された電子がゲート電極30Aに引き寄せられてゲート電流IGが流れる。このため、炭素繊維装置1Aに、ゲート電流IGに起因する消費電力が発生する。したがって、炭素繊維装置1Aの、消費電力に対する蛍光体膜50の出力光Lの光束の比率(以下において、「発光効率」という。)は低い。
【0027】
以下に、ゲート電流IGに起因する発光効率低下の例を示す。ここで、カソード電極20Aとアノード電極40A間に印加するアノード電圧VAが8kV、カソード電極20Aとゲート電極30A間に印加するゲート電圧VGが30Vである場合に、カソード電極20Aとアノード電極40A間に流れるアノード電流IAが15μA、カソード電極20Aとゲート電極30A間に流れるゲート電流IGが50mAとする。このとき、アノード電流IAに起因する消費電力は0.12Wである。ゲート電流IGに起因する消費電力は1.5Wである。出力光Lの光束が6.35ルーメン(lm)とすると、ゲート電流IGが50mAの場合の発光効率は、3.9(lm/W)である。一方、ゲート電流IGが流れない場合の発光効率は、52.92(lm/W)である。
【0028】
以上に説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1では、カソード電極20とゲート電極30がカソード基板10の主面10aに配置されているため、炭素繊維100から放出された電子は、ゲート電極30に到達することなく、蛍光体膜50に衝突する。つまり、図1に示した炭素繊維装置1によれば、カソード電極20上に配置された炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制され、発光効率の高い炭素繊維装置を提供できる。
【0029】
炭素繊維100から放出される電子数はゲート電圧VGに依存するため、図1に示した炭素繊維装置1は、図5に示した炭素繊維装置1Aと同光束の出力光Lを発光させるために必要なゲート電圧VGを小さくできる。つまり、図1に示した炭素繊維装置1は、図5に示した関連技術の炭素繊維装置1A等に比べて、発光効率が向上する。このため、消費電力の増大を抑制できる。
【0030】
また、図1に示した炭素繊維装置1を照明装置として使用できるが、炭素繊維装置1は水銀を使用していない。このため、従来から使用されてきた蛍光灯と異なり、環境問題が生じない。
【0031】
図6〜図10を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる炭素繊維装置の製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0032】
(イ)図6に示すように、カソード基板10上に電極膜200を形成する。例えば、厚さ0.1〜0.5mm程度のSUS鋼板であるカソード基板10上に、スパッタ法等により、膜厚0.1〜0.5μm程度のCr膜を電極膜200として形成する。次いで、電極膜200上にフォトレジスト膜300を塗布する。
【0033】
(ロ)フォトリソグラフィ技術によりフォトレジスト膜300を露光現像することで、フォトレジスト膜300を所定の形状にパターニングする。具体的には、カソード電極20及びゲート電極30を形成する領域にのみフォトレジスト膜300を残す。次いで、フォトレジスト膜300をマスクにして、反応性イオンエッチング(RIE)法等の技術により選択的に電極膜200をエッチングして、図7に示すように、カソード電極20及びゲート電極30を形成する。
【0034】
(ハ)フォトレジスト膜300を除去した後、図8に示すように、カソード電極20の上面上に炭素繊維100の核となる触媒150を形成する。例えばガラスマスクを使用したスパッタ法により、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)からなる426合金膜を、膜厚1〜5nm程度の膜厚で形成する。触媒150の膜厚が薄いために図1では触媒150の図示を省略したが、図8では説明をわかりやすくするために触媒150を図示している。
【0035】
(ニ)熱化学気相成長(熱CVD)法により、図9に示すように、炭素繊維100を成長させる。具体的には、炭素繊維100の原料ガスを熱CVD装置のチャンバー内に導入する。原料ガスとしては、例えば一酸化炭素/水素(CO/H2)混合ガスが採用可能であるが、他にも、二酸化炭素(CO2)ガス、メタン(CH4)ガス等の炭素(C)を供給可能なガスが採用可能である。
【0036】
(ホ)図10に示すように、カソード電極20及びゲート電極30が配置された領域を囲むように、スペーサ70をカソード基板10の周辺部上に配置する。スペーサ70は、例えばカソード基板10上にスクリーン印刷されたガラスフリットによって、カソード基板10と接合される。ガラスフリットは、脱泡された後、1×10-1〜1×10-3Paの真空状態において400℃〜550℃で焼成される。
【0037】
(ヘ)アノード基板60の主面60b上にアノード電極40を配置する。例えば、ガラス板からなるアノード基板60上に、ITO膜をアノード電極40として形成する。更に、スクリーン印刷法等により、アノード電極40の主面40b上に蛍光体膜50を配置する。その後、図1に示すように、蛍光体膜50がカソード電極20に対向するように、アノード基板60をスペーサ70上に配置する。例えばアノード基板60上にスクリーン印刷されたガラスフリットによって、スペーサ70とアノード基板60とが接合される。既に述べたように、カソード電極20とアノード電極40間の空間は、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態に保たれる。このため、カソード基板10、アノード基板60及びスペーサ70により囲まれる空間内の不要なガスを吸着する吸着剤を配置してもよい。以上により、図1に示した炭素繊維装置1が完成する。
【0038】
上記では、フォトリソグラフィ技術によってカソード電極20及びゲート電極30をパターニングする方法を説明したが、他の方法を採用してもよい。例えば、スクリーン印刷によってカソード電極20及びゲート電極30を形成してもよい。
【0039】
以上に説明したように、図1に示した炭素繊維装置1の製造方法では、図5に示した炭素繊維装置1Aと異なり、絶縁膜80を形成する工程がない。また、カソード電極20とゲート電極30を同時に形成できる。このため、製造工程を削減できる。
【0040】
本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1の製造方法によれば、カソード電極20とゲート電極30がカソード基板10の主面10aに配置され、カソード電極20上に配置された炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制された炭素繊維装置1を提供することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る炭素繊維装置1は、図11に示すように、アノード基板60の形状が電球形状であることが、図1に示した炭素繊維装置1と異なる。アノード電極40及び蛍光体膜50は、電球形状のアノード基板60の内側表面上に積層して配置される。
【0042】
カソード電極20とゲート電極30が搭載されたカソード基板10は、アノード基板60の内側の空間に配置される。アノード基板60の内側の空間は封止部材710によって、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態を保って封止される。封止部材710を貫通する電極取り出し部110を介して、カソード電極20とゲート電極30に電圧が印加される。封止部材710を貫通する電極取り出し部410を介して、アノード電極40に電圧が印加される。
【0043】
図1に示した炭素繊維装置1では、出力光Lがアノード基板60の出力面60aから出力される。一方、図11に示した炭素繊維装置1では、炭素繊維100から放出された電子が電球形状の蛍光体膜50に衝突し、蛍光体膜50で励起発光された出力光Lが、出力面60aから電球形状に出力する。
【0044】
図11に示した炭素繊維装置1によれば、炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制され、発光効率の高い電球形状の炭素繊維装置を提供できる。他は、第1の実施の形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0045】
<変形例>
図12に示す第2の実施の形態の変形例に係る炭素繊維装置1は、アノード基板60の形状が、一方の端部が曲面であり他方の端部が封止部材710で封止された釣鐘形状である。アノード電極40及び蛍光体膜50はアノード基板60の内側表面上に配置されているが、蛍光体膜50はアノード基板60の曲面領域にのみ配置されている。
【0046】
カソード電極20とゲート電極30が搭載されたカソード基板10は、アノード基板60の内側の空間に配置される。アノード基板60の内側の空間は封止部材710によって、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態を保って封止される。
【0047】
図12に示すように、カソード基板10は、カソード電極20及びゲート電極30が配置された主面10aを凸面として湾曲している。蛍光体膜50に対向するカソード基板10の主面10aは、アノード基板60の曲面領域に沿った曲面である。
【0048】
炭素繊維装置1から出力される出力光Lの輝度が出力面60aで均一であるためには、カソード電極20と蛍光体膜50間の距離が場所に依存せずに一定であることが望ましい。そのため、図11に示した炭素繊維装置1では、出力面60a上の場所によって出力光Lの輝度ムラが生じるおそれがある。
【0049】
これに対し、図12に示した炭素繊維装置1は、カソード電極20及びゲート電極30が配置された主面10aを曲面とすることにより、カソード電極20と蛍光体膜50間の距離が、蛍光体膜50上の位置に関わらず一定である。このため、出力面60aから出力される出力光Lに輝度ムラが生じない。図12に示した炭素繊維装置1は、例えば自動車のヘッドライト等に適用可能である。
【0050】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0051】
既に述べた第1及び第2の実施の形態の説明においては、炭素繊維100を成長させる際の触媒150に426合金膜を使用する例を示したが、他の触媒を用いてもよい。例えば、Fe膜を触媒150に使用してもよい。また、炭素繊維装置1が照明装置である例を説明したが、本発明がFEAやFEDの光源に適用できることは勿論である。
【0052】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置のカソード電極及びゲート電極の配置例を示す上面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置において放出される電子の軌道シミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置のカソード電極及びゲート電極の他の配置例を示す上面図である。
【図5】関連技術に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その1)。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その2)。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その3)。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その4)。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その5)。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態の変形例に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1…炭素繊維装置
10…カソード基板
20…カソード電極
30…ゲート電極
40…アノード電極
50…蛍光体膜
60…アノード基板
70…スペーサ
100…炭素繊維
150…触媒
310、410…電極取り出し部
710…封止部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を電子放出源として用いる炭素繊維装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)等のナノスケールの炭素繊維(カーボンファイバ)が、フィールドエミッションアレイ(FEA)や、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の炭素繊維装置に使用されている。これらの炭素繊維装置は、炭素繊維を電子放出源として使用し、蛍光体膜に電子を衝突させることによって蛍光体膜が励起され発光する。
【0003】
炭素繊維を電子放出源として使用するために、炭素繊維が配置されたカソード電極と炭素繊維の上方に配置されたゲート電極との間に電圧をかけることにより、炭素繊維から電子を引き出す方法が用いられている。例えば、炭素繊維を配置した領域を囲むようにカソード電極上に絶縁膜を形成し、絶縁膜上にゲート電極を形成する炭素繊維装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。炭素繊維から放出された電子は、ゲート電極上方のアノード電極上に配置された蛍光体膜に衝突する。
【特許文献1】特開2004−303679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素繊維の上方にゲート電極を配置した構造の場合、炭素繊維から放出された電子の大部分がゲート電極に引き寄せられてしまうため、アノード電極上の蛍光体膜に衝突する電子数は少ない。つまり、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率が低下するという問題があった。
【0005】
上記問題点を鑑み、本発明は、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率の低下を抑制できる炭素繊維装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、カソード基板と、カソード基板上に配置されたカソード電極と、カソード電極上に配置された炭素繊維と、カソード電極の配置された領域の残余の領域においてカソード基板上に配置されたゲート電極と、カソード電極及びゲート電極の上方に配置された透明のアノード電極と、アノード電極のカソード基板に対向する主面上に配置され、炭素繊維から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜とを備える炭素繊維装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素繊維から放出された電子数に対するアノード電極に到達する電子数の比率の低下を抑制できる炭素繊維装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0009】
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1は、図1に示すように、カソード基板10と、カソード基板10上に配置されたカソード電極20と、カソード電極20上に配置された炭素繊維100と、カソード電極20の配置された領域の残余の領域においてカソード基板10上に配置されたゲート電極30と、カソード電極20及びゲート電極30の上方に配置された透明のアノード電極40と、アノード電極40のカソード基板10に対向する主面40b上に配置され、炭素繊維100から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜50とを備える。つまり、図1に示した炭素繊維装置では、カソード電極20とゲート電極30が同一平面レベルに配置されている。
【0011】
以下では、炭素繊維装置1が、蛍光体膜50から発光される出力光Lを出力する照明装置である場合について、例示的に説明する。
【0012】
炭素繊維装置1において、炭素繊維100は電子放出源である。炭素繊維100は、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)、カーボンナノファイバ(CNF)、カーボンナノコイル等を含むナノスケールのカーボンファイバである。
【0013】
カソード基板10には、例えばニッケル(Ni)基板や、ステンレス(SUS鋼)基板等の金属プレートが採用可能である。カソード電極20及びゲート電極30には、クロム(Cr)膜等が採用可能である。
【0014】
図1に示すように、アノード電極40は、カソード基板10に対向するアノード基板60の主面60b上に配置されている。そして、アノード基板60と接する主面に対向するアノード電極40の主面40b上に、蛍光体膜50が配置されている。アノード電極40及びアノード基板60は、蛍光体膜50で励起発光する光が透過可能な材料からなる。例えばガラス板等がアノード基板60に採用可能である。アノード電極40には、例えば酸化インジウムスズ(ITO)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜等が採用可能である。
【0015】
蛍光体膜50の材料は、炭素繊維装置1の所望の発光色等に応じて選択される。例えば、青色光を発光する場合にはZnS:Ag蛍光体、緑色光を発光する場合にはZnS:Au、Al蛍光体、赤光を発光する場合にはY2O2S:Eu3+蛍光体等が蛍光体膜50に採用可能である。
【0016】
また、カソード基板10とアノード基板60との間に空間をなすように、カソード基板10の周辺部とアノード基板60の周辺部は、環状のスペーサ70にそれぞれ接合される。つまり、炭素繊維装置1の側面はスペーサ70により構成される。スペーサ70には、例えばガラス等が採用可能である。
【0017】
カソード基板10、アノード基板60及びスペーサ70により、カソード電極20とアノード電極40間の空間は外部と遮断される。カソード基板10とアノード基板60間の空間は、1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態に保たれる。スペーサ70は、例えばガラスフリットによってカソード基板10及びアノード基板60と接合される。
【0018】
カソード電極20とゲート電極30が配置されたカソード基板10の主面10aの例を図2に示す。図2は、主面10aをアノード電極40側からみた上面図である。図2に示すように、カソード電極20及びゲート電極30は、互いに紙面に向かって上下方向にそれぞれ延伸する複数の歯部分を有する櫛型形状をなし、カソード電極20とゲート電極30の櫛の歯部分は交差指状に配置されている。炭素繊維100は、カソード電極20のゲート電極30に挟まれた領域に配置される。図1は、図2のI−I方向に沿った断面図である。
【0019】
カソード電極20の櫛の歯部分の幅WC、及びゲート電極30の櫛の歯部分の幅WGは、例えば100μm程度である。また、カソード電極20の櫛の歯部分とゲート電極30の櫛の歯部分との間隔dは100μm程度である。なお、間隔dが狭いほど、炭素繊維100から電子を放出させるためにカソード電極20とゲート電極30間に印加する電圧(以下において、「ゲート電圧」という。)VGを小さくできる。このため、例えば幅WC及び幅WGを500nm、間隔dを500nm程度にしてもよい。ゲート電圧VGを小さくすることにより、消費電力が削減される。
【0020】
以下に、図1に示した炭素繊維装置1の動作について説明する。カソード電極20とアノード電極40間にアノード電圧VAを印加した状態で、カソード電極20とゲート電極30間にゲート電圧VGを印加する。アノード電圧VAは、例えば3kV〜8kV程度である。ゲート電圧VGは、例えば数V〜100V程度である。ゲート電圧VGを印加することにより、カソード電極20上に配置された電子放出源である炭素繊維100の先端から、アノード電極40に向かって電子が放出される。
【0021】
図1に示したように、カソード電極20とゲート電極30は同一平面レベルに配置されている。このため、炭素繊維100から放出された電子は、ゲート電極30に向かうことなくアノード電極40に引き寄せられ、アノード電極40の主面40bに配置された蛍光体膜50に衝突する。この衝突により、蛍光体膜50は励起され発光する。蛍光体膜50が発光した出力光Lは、アノード電極40及びアノード基板60を透過して、アノード基板60の出力面60aから炭素繊維装置1の外部に出力される。
【0022】
なお、蛍光体膜50からアノード基板60に入射した出力光Lの一部はそのまま出力面60aから炭素繊維装置1の外部に出力される。また、アノード基板60に入射した出力光Lの他の一部は、アノード基板60内部を拡散した後、炭素繊維装置1の外部に出力される。
【0023】
図3に、図1に示した炭素繊維装置1についての電子軌道シミュレーション結果を示す。電子軌道シミュレーションは、カソード電極20を接地し、ゲート電極30に200Vを印加する条件で行った。図3の横軸は、カソード電極20を原点とする位置、縦軸は電位である。図3において、カソード電極20上の炭素繊維(図示略)から放出された電子の軌道が実線で示されている。破線は等電位線を示す。図3に示すように、カソード電極20から放出された電子は、ゲート電極30に引き寄せられることなく、カソード電極20の上方に進行する。
【0024】
なお、図2にはカソード電極20とゲート電極30の互いに対向する側面が直線である例を示したが、カソード電極20とゲート電極30の隣接する部分が直線状に延伸していなくてもよい。例えば図4に示すように、カソード電極20とゲート電極30の互いに対向する側面が稲妻形に延伸してもよい。
【0025】
図5に、関連技術に係る炭素繊維装置1Aの例を示す。炭素繊維装置1Aは、カソード基板10A上にカソード電極20Aが配置され、カソード電極20A上に炭素繊維100が配置されている。炭素繊維100の配置された領域を囲むようにカソード電極20A上に絶縁膜80が配置され、絶縁膜80上にゲート電極30Aが配置されている。つまり、炭素繊維100は、絶縁膜80及びゲート電極30Aによって囲まれた空間であるホール90の底面に配置されている。
【0026】
図5に示した炭素繊維装置1Aにおいて、カソード電極20Aとゲート電極30A間にゲート電圧VGを印加して炭素繊維100から電子を放出させた場合、放出された電子の90%程度がゲート電極30Aに引き込まれる。つまり、アノード電極40上に配置された蛍光体膜50に到達する電子の割合は10%程度である。また、炭素繊維装置1Aでは、カソード電極20Aから放出された電子がゲート電極30Aに引き寄せられてゲート電流IGが流れる。このため、炭素繊維装置1Aに、ゲート電流IGに起因する消費電力が発生する。したがって、炭素繊維装置1Aの、消費電力に対する蛍光体膜50の出力光Lの光束の比率(以下において、「発光効率」という。)は低い。
【0027】
以下に、ゲート電流IGに起因する発光効率低下の例を示す。ここで、カソード電極20Aとアノード電極40A間に印加するアノード電圧VAが8kV、カソード電極20Aとゲート電極30A間に印加するゲート電圧VGが30Vである場合に、カソード電極20Aとアノード電極40A間に流れるアノード電流IAが15μA、カソード電極20Aとゲート電極30A間に流れるゲート電流IGが50mAとする。このとき、アノード電流IAに起因する消費電力は0.12Wである。ゲート電流IGに起因する消費電力は1.5Wである。出力光Lの光束が6.35ルーメン(lm)とすると、ゲート電流IGが50mAの場合の発光効率は、3.9(lm/W)である。一方、ゲート電流IGが流れない場合の発光効率は、52.92(lm/W)である。
【0028】
以上に説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1では、カソード電極20とゲート電極30がカソード基板10の主面10aに配置されているため、炭素繊維100から放出された電子は、ゲート電極30に到達することなく、蛍光体膜50に衝突する。つまり、図1に示した炭素繊維装置1によれば、カソード電極20上に配置された炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制され、発光効率の高い炭素繊維装置を提供できる。
【0029】
炭素繊維100から放出される電子数はゲート電圧VGに依存するため、図1に示した炭素繊維装置1は、図5に示した炭素繊維装置1Aと同光束の出力光Lを発光させるために必要なゲート電圧VGを小さくできる。つまり、図1に示した炭素繊維装置1は、図5に示した関連技術の炭素繊維装置1A等に比べて、発光効率が向上する。このため、消費電力の増大を抑制できる。
【0030】
また、図1に示した炭素繊維装置1を照明装置として使用できるが、炭素繊維装置1は水銀を使用していない。このため、従来から使用されてきた蛍光灯と異なり、環境問題が生じない。
【0031】
図6〜図10を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる炭素繊維装置の製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0032】
(イ)図6に示すように、カソード基板10上に電極膜200を形成する。例えば、厚さ0.1〜0.5mm程度のSUS鋼板であるカソード基板10上に、スパッタ法等により、膜厚0.1〜0.5μm程度のCr膜を電極膜200として形成する。次いで、電極膜200上にフォトレジスト膜300を塗布する。
【0033】
(ロ)フォトリソグラフィ技術によりフォトレジスト膜300を露光現像することで、フォトレジスト膜300を所定の形状にパターニングする。具体的には、カソード電極20及びゲート電極30を形成する領域にのみフォトレジスト膜300を残す。次いで、フォトレジスト膜300をマスクにして、反応性イオンエッチング(RIE)法等の技術により選択的に電極膜200をエッチングして、図7に示すように、カソード電極20及びゲート電極30を形成する。
【0034】
(ハ)フォトレジスト膜300を除去した後、図8に示すように、カソード電極20の上面上に炭素繊維100の核となる触媒150を形成する。例えばガラスマスクを使用したスパッタ法により、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)からなる426合金膜を、膜厚1〜5nm程度の膜厚で形成する。触媒150の膜厚が薄いために図1では触媒150の図示を省略したが、図8では説明をわかりやすくするために触媒150を図示している。
【0035】
(ニ)熱化学気相成長(熱CVD)法により、図9に示すように、炭素繊維100を成長させる。具体的には、炭素繊維100の原料ガスを熱CVD装置のチャンバー内に導入する。原料ガスとしては、例えば一酸化炭素/水素(CO/H2)混合ガスが採用可能であるが、他にも、二酸化炭素(CO2)ガス、メタン(CH4)ガス等の炭素(C)を供給可能なガスが採用可能である。
【0036】
(ホ)図10に示すように、カソード電極20及びゲート電極30が配置された領域を囲むように、スペーサ70をカソード基板10の周辺部上に配置する。スペーサ70は、例えばカソード基板10上にスクリーン印刷されたガラスフリットによって、カソード基板10と接合される。ガラスフリットは、脱泡された後、1×10-1〜1×10-3Paの真空状態において400℃〜550℃で焼成される。
【0037】
(ヘ)アノード基板60の主面60b上にアノード電極40を配置する。例えば、ガラス板からなるアノード基板60上に、ITO膜をアノード電極40として形成する。更に、スクリーン印刷法等により、アノード電極40の主面40b上に蛍光体膜50を配置する。その後、図1に示すように、蛍光体膜50がカソード電極20に対向するように、アノード基板60をスペーサ70上に配置する。例えばアノード基板60上にスクリーン印刷されたガラスフリットによって、スペーサ70とアノード基板60とが接合される。既に述べたように、カソード電極20とアノード電極40間の空間は、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態に保たれる。このため、カソード基板10、アノード基板60及びスペーサ70により囲まれる空間内の不要なガスを吸着する吸着剤を配置してもよい。以上により、図1に示した炭素繊維装置1が完成する。
【0038】
上記では、フォトリソグラフィ技術によってカソード電極20及びゲート電極30をパターニングする方法を説明したが、他の方法を採用してもよい。例えば、スクリーン印刷によってカソード電極20及びゲート電極30を形成してもよい。
【0039】
以上に説明したように、図1に示した炭素繊維装置1の製造方法では、図5に示した炭素繊維装置1Aと異なり、絶縁膜80を形成する工程がない。また、カソード電極20とゲート電極30を同時に形成できる。このため、製造工程を削減できる。
【0040】
本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置1の製造方法によれば、カソード電極20とゲート電極30がカソード基板10の主面10aに配置され、カソード電極20上に配置された炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制された炭素繊維装置1を提供することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る炭素繊維装置1は、図11に示すように、アノード基板60の形状が電球形状であることが、図1に示した炭素繊維装置1と異なる。アノード電極40及び蛍光体膜50は、電球形状のアノード基板60の内側表面上に積層して配置される。
【0042】
カソード電極20とゲート電極30が搭載されたカソード基板10は、アノード基板60の内側の空間に配置される。アノード基板60の内側の空間は封止部材710によって、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態を保って封止される。封止部材710を貫通する電極取り出し部110を介して、カソード電極20とゲート電極30に電圧が印加される。封止部材710を貫通する電極取り出し部410を介して、アノード電極40に電圧が印加される。
【0043】
図1に示した炭素繊維装置1では、出力光Lがアノード基板60の出力面60aから出力される。一方、図11に示した炭素繊維装置1では、炭素繊維100から放出された電子が電球形状の蛍光体膜50に衝突し、蛍光体膜50で励起発光された出力光Lが、出力面60aから電球形状に出力する。
【0044】
図11に示した炭素繊維装置1によれば、炭素繊維100から放出された電子数に対するアノード電極40に到達する電子数の比率の低下が抑制され、発光効率の高い電球形状の炭素繊維装置を提供できる。他は、第1の実施の形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0045】
<変形例>
図12に示す第2の実施の形態の変形例に係る炭素繊維装置1は、アノード基板60の形状が、一方の端部が曲面であり他方の端部が封止部材710で封止された釣鐘形状である。アノード電極40及び蛍光体膜50はアノード基板60の内側表面上に配置されているが、蛍光体膜50はアノード基板60の曲面領域にのみ配置されている。
【0046】
カソード電極20とゲート電極30が搭載されたカソード基板10は、アノード基板60の内側の空間に配置される。アノード基板60の内側の空間は封止部材710によって、例えば1×10-3〜1×10-4Pa程度の真空状態を保って封止される。
【0047】
図12に示すように、カソード基板10は、カソード電極20及びゲート電極30が配置された主面10aを凸面として湾曲している。蛍光体膜50に対向するカソード基板10の主面10aは、アノード基板60の曲面領域に沿った曲面である。
【0048】
炭素繊維装置1から出力される出力光Lの輝度が出力面60aで均一であるためには、カソード電極20と蛍光体膜50間の距離が場所に依存せずに一定であることが望ましい。そのため、図11に示した炭素繊維装置1では、出力面60a上の場所によって出力光Lの輝度ムラが生じるおそれがある。
【0049】
これに対し、図12に示した炭素繊維装置1は、カソード電極20及びゲート電極30が配置された主面10aを曲面とすることにより、カソード電極20と蛍光体膜50間の距離が、蛍光体膜50上の位置に関わらず一定である。このため、出力面60aから出力される出力光Lに輝度ムラが生じない。図12に示した炭素繊維装置1は、例えば自動車のヘッドライト等に適用可能である。
【0050】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0051】
既に述べた第1及び第2の実施の形態の説明においては、炭素繊維100を成長させる際の触媒150に426合金膜を使用する例を示したが、他の触媒を用いてもよい。例えば、Fe膜を触媒150に使用してもよい。また、炭素繊維装置1が照明装置である例を説明したが、本発明がFEAやFEDの光源に適用できることは勿論である。
【0052】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置のカソード電極及びゲート電極の配置例を示す上面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置において放出される電子の軌道シミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置のカソード電極及びゲート電極の他の配置例を示す上面図である。
【図5】関連技術に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その1)。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その2)。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その3)。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その4)。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る炭素繊維装置の製造方法を説明するための工程図である(その5)。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態の変形例に係る炭素繊維装置の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1…炭素繊維装置
10…カソード基板
20…カソード電極
30…ゲート電極
40…アノード電極
50…蛍光体膜
60…アノード基板
70…スペーサ
100…炭素繊維
150…触媒
310、410…電極取り出し部
710…封止部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード基板と、
前記カソード基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された炭素繊維と、
前記カソード電極の配置された領域の残余の領域において前記カソード基板上に配置されたゲート電極と、
前記カソード電極及び前記ゲート電極の上方に配置された透明のアノード電極と、
前記アノード電極の前記カソード基板に対向する主面上に配置され、前記炭素繊維から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜と
を備えることを特徴とする炭素繊維装置。
【請求項2】
前記カソード電極と前記ゲート電極とが交差指状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維装置。
【請求項3】
前記アノード電極の形状が電球形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維装置。
【請求項4】
前記カソード電極及び前記ゲート電極が配置された前記カソード基板の主面が曲面であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の炭素繊維装置。
【請求項5】
前記炭素繊維が、カーボンナノチューブ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の炭素繊維装置。
【請求項1】
カソード基板と、
前記カソード基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置された炭素繊維と、
前記カソード電極の配置された領域の残余の領域において前記カソード基板上に配置されたゲート電極と、
前記カソード電極及び前記ゲート電極の上方に配置された透明のアノード電極と、
前記アノード電極の前記カソード基板に対向する主面上に配置され、前記炭素繊維から放出された電子の衝突により励起発光する蛍光体膜と
を備えることを特徴とする炭素繊維装置。
【請求項2】
前記カソード電極と前記ゲート電極とが交差指状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維装置。
【請求項3】
前記アノード電極の形状が電球形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維装置。
【請求項4】
前記カソード電極及び前記ゲート電極が配置された前記カソード基板の主面が曲面であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の炭素繊維装置。
【請求項5】
前記炭素繊維が、カーボンナノチューブ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の炭素繊維装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−62069(P2010−62069A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228349(P2008−228349)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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