炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料
【課題】 カーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性を改善した炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、工程(a)と、工程(b)と、工程(c)と、を含む。工程(a)は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る。工程(b)は、混合物を誘電加熱して混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する。工程(c)は、工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する。
【解決手段】 本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、工程(a)と、工程(b)と、工程(c)と、を含む。工程(a)は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る。工程(b)は、混合物を誘電加熱して混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する。工程(c)は、工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを含む炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などは、医療分野、特に生体関節に置換して用いられる人工関節の部材に採用されている(例えば、特許文献1参照)。人工関節は、膝関節、股関節、肘関節、指関節などが十分に機能しなくなった部分に対して置換手術が行われている。しかしながら、人工関節には耐用年数があるため、置換手術を受けた患者の多くが再手術を必要としている。このような人工関節の耐用年数を決定する主な要因は、摺動面における摩耗である。人工関節は、繰り返し摩擦や荷重を受けるため、例えば超高分子量ポリエチレンにおいては接触面における耐摩耗性の要求が高かった。そこで、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノファイバーとを混合することで高温における凝着摩耗が改善された複合材料が提案された(例えば、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−301093号公報
【特許文献2】特開2009−67864号公報
【特許文献3】特開2009−91439号公報
【特許文献4】特開2009−155509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性が改善した炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、
合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、
前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、
前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、
を含む。
【0006】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、炭素繊維複合材料中のカーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性を改善することができる。
【0007】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)は、前記合成樹脂の融解温度以上で混合する工程を含むことができる。
【0008】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記合成樹脂は、超高分子量ポリエチレンであり、
前記工程(a)は、粒子状の前記超高分子量ポリエチレンと前記カーボンナノファイバーとを、前記超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、前記粒子状の超高分子量ポリエチレンに前記カーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の複合材料を得る工程を含むことができる。
【0009】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記誘電加熱は、マイクロ波加熱であることができる。
【0010】
本発明かかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)で得られた前記混合物を圧縮成形した後に、前記工程(b)を行うことができる。
【0011】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(c)で得られた炭素繊維複合材料をさらに圧縮成形することができる。
【0012】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得ることができる。
【0013】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとが良好に濡れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】密閉式混練機30による粒子状の複合材料を得る工程を模式的に示す図である。
【図2】熱機械分析装置(TMA)によって測定した温度変化−熱変形量を示すグラフである。
【図3】実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含むことを特徴とする。
【0017】
(I)合成樹脂
合成樹脂としては、結晶性の高分子を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチルなどを挙げることができるが、結晶性を有する高分子であればこれらに限らず用いることができる。特に、本発明にかかる一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料が例えば人工関節に用いる場合には、高機能性高分子である超高分子用ポリエチレン(UHMWPE)などを用いることができる。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、市販されている粒子状の超高分子量ポリエチレン樹脂であって、粘度法で測定した平均分子量が好ましくは100万g/mol〜800万g/mol、さらに好ましくは300万g/mol〜800万g/molであることができる。超高分子量ポリエチレンの平均粒径は、10μm〜200μmであることができる。超高分子量ポリエチレンは、融解温度(融点)が130℃〜135℃であることができ、超高分子量ポリエチレンの粒子同士が融着し始める流動開始温度が180℃以上であることができ、超高分子量ポリエチレンが熱分解し始める熱劣化開始温度(熱分解温度)が230℃以上であることができる。超高分子量ポリエチレンの融解温度と流動開始温度は、後述する熱機械分析装置(TMA)によって測定することができる。また、超高分子量ポリエチレンの熱劣化開始温度は、後述する熱重量分析(TG)法によって測定することができる。TMAによる測定時の雰囲気を大気雰囲気から窒素雰囲気にした場合には、流動開始温度が230℃以上であることができる。市販されている超高分子量ポリエチレンとしては、例えば、三井化学工業のハイゼックスミリオン、旭化成工業のサンテック、Ticona社のHOSTALRN.GUR、ハーキュルスのHIFLAX.100などがある。
【0018】
(II)カーボンナノファイバー
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることができ、炭素繊維複合材料の剛性を向上させるためには0.5ないし160nmであることができる。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であることができ、または湾曲繊維状であることができる。カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できるが、成形性を考慮すると超高分子量ポリエチレン100質量部(phr)に対してカーボンナノファイバー1質量部(phr)〜20質量部(phr)とすることができる。
【0019】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0020】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0021】
(III)炭素繊維複合材料の製造方法
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含む。
【0022】
まず、工程(a)について説明する。合成樹脂とカーボンナノファイバーとの混合は、公知の方法を採用することができる。このような公知の方法としては、例えば粒子状の合成樹脂とカーボンナノファイバーとをミキサーやブレンダなどの攪拌機で混合する乾式混合、あるいは水溶液中に合成樹脂とカーボンナノファイバーとを投入して例えば超音波攪拌機などで混合する湿式混合、合成樹脂を融解温度まで加熱してカーボンナノファイバーと共に密閉式混練機や押出機などで混練する方法により混合する方法などを挙げることができる。工程(a)に用いられる合成樹脂は粒子状(例えば平均粒径10〜200μm)のまま混合され、混合物は粒子状の合成樹脂を含む粉体の状態で得ることができる。工程(a)によって得られた混合物は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとが混在している。混合物は、凝集体のカーボンナノファイバーが解繊すなわちばらばらに解された状態で存在していることができる。工程(a)において、合成樹脂の弾性を利用して混練することによって、合成樹脂中にカーボンナノファイバーを均一に分散することができ、均一に分散したカーボンナノファイバーは凝集体が解繊していることができる。
【0023】
超高分子量ポリエチレンのように融解温度以上で粒子状のままの合成樹脂は、工程(a)として、例えば、粒子状の超高分子量ポリエチレンとカーボンナノファイバーとを、超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、粒子状の超高分子量ポリエチレンにカーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の混合物を得る工程を含むことができる。より詳細には、例えば以下のような攪拌工程と混練工程とを含むことができる。
【0024】
まず、粒子状の超高分子量ポリエチレンと、カーボンナノファイバーと、を超高分子量ポリエチレンの融解温度未満で攪拌して粉体状の混合物を得る工程を有することができる。このように攪拌することで、凝集し易いカーボンナノファイバーが混合物の一部に偏在することを防止することができるため好ましいが、例えばカーボンナノファイバーの配合量などによって後の工程で使用する密閉式混練機で同様の攪拌操作を行なうこともできる。このような攪拌に用いられる攪拌機としては、一般に2種類以上の粒子状の物質を混合するミキサーやブレンダを用いることができる。このような攪拌操作は、超高分子量ポリエチレンの融解温度未満で行なうことでカーボンナノファイバーの偏在をさらに防止することができる。しかしながら、このままではカーボンナノファイバーは凝集塊のままであるので、解繊しなければならない。
【0025】
図1は、2本のロータを用いた密閉式混練機30による粒子状の混合物を得る工程を模式的に示す図である。図1に示すように、粒子状の超高分子量ポリエチレン40と、カーボンナノファイバー38と、を含む粉体状の混合物42を、第1の温度に設定された密閉式混練機30内に投入口34から投入し、剪断力によって混練し、粒子状の超高分子量ポリエチレン40にカーボンナノファイバー38が入り込んだ粒子状の混合物を得る工程を行うことができる。粉体状の混合物42は、前述した攪拌工程によって得たものを用いることができる。また、攪拌工程によって粉体状の混合物42を得ることなく、そのまま粒子状の超高分子量ポリエチレンと、カーボンナノファイバーと、を密閉式混練機30に投入することができる。第1の温度は、超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満であることができる。第1の温度は、大気雰囲気で混練する場合、130℃以上180℃未満であることができ、さらに130℃以上160℃以下であることができる。流動開始温度は、融解温度と共に、熱機械分析装置(TMA)によって超高分子量ポリエチレンの温度を変化させながら一定の荷重を加えて温度に対する変形量を測定することで得ることができる。超高分子量ポリエチレンをこのように熱機械分析すると、融解温度を超えたあたりから試料が急激に膨張し始め、膨張停止温度まで達すると試料の膨張がほぼ停止し、流動開始温度を超えると試料が急激に収縮を開始する。流動開始温度は、測定雰囲気に影響されることがわかっており、窒素雰囲気で測定した場合には230℃程度であることができる。したがって、窒素雰囲気で混練する場合には、第1の温度を130℃以上230℃未満とすることができる。
【0026】
密閉式混練機30は、第1のロータ31と、第2のロータ32と、を有する。第1のロータ31と第2のロータ32とは、所定の間隔で配置され、回転することによって超高分子量ポリエチレン40とカーボンナノファイバー38とを混練することができる。図示の例では、第1のロータ31および第2のロータ32は、互いに反対方向(例えば、図中の矢印で示す方向)に所定の速度比で回転している。第1のロータ31と第2のロータ32との速度、第1、第2のロータ31,32とチャンバー36の内壁部との間隔などによって所望の剪断力を得ることができる。この工程での剪断力は、超高分子量ポリエチレン40の種類とカーボンナノファイバー38の量などによって適宜設定される。密閉式混練機30を第1の温度に設定しておくことで、超高分子量ポリエチレン40は少なくとも融解温度以上で混練されるため、粒子状の形態のまま弾性を有したエラストマーのような状態となり、カーボンナノファイバー38が超高分子量ポリエチレン40の粒子へ浸入することができる。このような密閉式混練機30としては、バンバリーミキサー、ニーダーなどを採用することができる。
【0027】
このようにして得られた粒子状の混合物は、平均粒径は10μm〜200μmの超高分子量ポリエチレンの粒子に、平均直径が0.5nmないし500nmのカーボンナノファイバーの少なくとも一部が入り込むことができる。粒子状の混合物は、超高分子量ポリエチレンの粒子の表面付近をカーボンナノファイバーが囲むように存在することができる。しかも、カーボンナノファイバーは、粒子状の混合物の表面に均一に分散し、解繊されることで凝集塊もほとんど無くすことができる。このような粒子状の混合物によれば、超高分子量ポリエチレンは少なくともその粒子にカーボンナノファイバーの一部が入り込むことで超高分子量ポリエチレンの粒子と共にカーボンナノファイバーを容易にハンドリングできるため、多様な成形法に用いることができる。また、このような粒子状の混合物を用いて、後述する工程(b)および工程(c)を経て得られた炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーの凝集塊がないので、凝集塊を欠陥とする摩耗も大幅に減少することができる。
【0028】
次に、工程(b)及び工程(c)について説明する。
混合物を誘電加熱して混合物中でカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含む。工程(b)で用いられる混合物は、工程(a)で得られた混合物をそのまま用いてもよいが、例えば、所定形状に成形した後に用いることができる。また、工程(b)は、粒子間の隙間を少なくするために、混合物に対し所定の荷重をかけたまま行うことができ、例えば混合物をアルミナなどのセラミックス製容器内に収容し、混合物上から0N/cm2〜1000N/cm2の定荷重をかけた状態で加熱することができる。
【0029】
誘電加熱は、混合物中に含まれるカーボンナノファイバーを加熱することができる。誘電加熱に用いられる周波数は、カーボンナノファイバーを効率的に加熱することができる電磁波を用いることができ、電磁波は300MHz〜300GHzのいわゆるマイクロ波であることができ、特に電子レンジなどで使用されている2450MHz帯のマイクロ波を用いることができる。
【0030】
誘電加熱することによって、混合物中にあるカーボンナノファイバーが昇温し、カーボンナノファイバーと少なくとも接触している合成樹脂がカーボンナノファイバーの熱によって加熱され、融解する。加熱されたカーボンナノファイバーの温度や加熱時間によっては、カーボンナノファイバーに近接している合成樹脂も融解することができる。
【0031】
工程(c)は、誘電加熱した混合物を冷却することによって、融解した合成樹脂が固化する。冷却は、室温の雰囲気に放置して自然放冷することができ、例えば雰囲気温度を積極的に制御することで合成樹脂の結晶化の状態を制御することもできる。この冷却によって、融解した合成樹脂は固化する際に結晶化することができる。この結晶化は、カーボンナノファイバーの表面を結晶の核として、合成樹脂の結晶が成長するものと推測できる。工程(c)によって得られた炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーの表面とその表面に接触している合成樹脂とが良好に濡れており、工程(a)で得られた混合物の状態に比べてカーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性が改善されている。
【0032】
このようにして得られた炭素繊維複合材料を所望の形状、例えば人工関節に成形することができる。工程(c)によって得られた炭素繊維複合材料を、例えば、押出成形法、トランスファー成形法、射出成形法、圧縮成形法などによって所望の形状例えばブロック状、シート状、人工関節形状などに成形することができる。なお、人工関節形状における半球状凹部からなるカップ部分は摺動面となるため、金型によってあらかじめ成形してもよいが、切削加工によって最終形状に加工してもよい。
【0033】
圧縮成形は、例えば、合成樹脂として超高分子量ポリエチレンを用いた場合、粒子状の炭素繊維複合材料を、超高分子量ポリエチレンの流動開始温度以上熱劣化開始温度未満に設定した金型内に充填して予熱した後、加圧して成形する工程を有することができ、予熱した金型の温度は例えば180℃以上230℃未満であることができる。このときの圧縮成形機は、金型内を真空にする真空成形機であることができる。金型内での予熱によって、複合材料における超高分子量ポリエチレンは少なくとも流動開始温度まで昇温することで流動が可能となり、加圧されることで他の粒子と結合すると共に所望の形状に成形することができる。
【0034】
このような炭素繊維複合材料を所望の形状に成形する工程は、工程(b)の前の段階で実施することもできる。その場合には、工程(a)で得られた混合物を圧縮成形などで所望の形状に成形し、成形された混合物を工程(b)において誘電加熱することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(1)超高分子量ポリエチレンの熱機械分析装置(TMA)による測定
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、粒子状の三井化学社製ハイゼックスミリオンM340であって、粘度法で測定した平均分子量が550万g/molを用いた。粒子状の超高分子量ポリエチレンを融着防止のため石英板(0.5g)で挟み、厚さ約1mm×幅10mmの円盤状に圧縮成形し、熱機械分析装置(TMA)によって圧縮荷重5mNで圧縮し、温度変化に対する熱変形量(μm)を測定した。測定装置は、SII社製TMA/SS6100を用いた。測定結果は、図2に示す。
【0037】
図2の測定結果によれば、本実施例で用いられた超高分子量ポリエチレンは、点Aにおいて膨張率が大きくなり、点Bにおいてさらに急激に膨張率が大きくなり、点Cにおいてほぼ膨張しなくなり、点Dにおいて急激な収縮を開始した。これらの結果から、点Aが約60℃のガラス転移点、点Bが約130℃の融解温度、点Cが約160℃の膨張停止温度、点Dが約180℃の流動開始温度であることがわかった。なお、点Bについては、示差走査熱量分析(DSC)によって融解温度を確認した。また、窒素雰囲気中で同様の測定を行ったところ、点Dの流動開始温度が230℃程度まで上昇した。
【0038】
(2)実施例及び比較例の試料の作成
(実施例1)
工程(a)として、室温において、ジュースミキサーに超高分子量ポリエチレン100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出し、さらに密閉式混練機(ブラベンダー社製、PLASTI−CORDER、容量350ml)を用いて窒素雰囲気中、200℃で混合した。次に、工程(b)として、この混合物をアルミナ製容器内に収容し荷重551N/cm2をかけたまま家庭用電子レンジ内に配置して、2,450MHz、340Wで10秒(6000W/g)マイクロ波加熱を行い、工程(c)として加熱された混合物が室温になるまで放置して冷却し、炭素繊維複合材料を得た。得られた炭素繊維複合材料は、粒子状であり、全体の外観は粉末状であった。その実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図3(7.0kV、5,000倍)及び図4(7.0kV、15,000倍)に示した。図3,4に示すように、超高分子量ポリエチレンの表面にカーボンナノファイバーが多数付着し、カーボンナノファイバーの周囲が超高分子用ポリエチレンで覆われている様子が観察された。
【0039】
(比較例1)
超高分子量ポリエチレン100gを真空成形機の150mm×180mm×2mmの金型内に充填し、真空中、220℃、5分間圧縮成形して、比較例1の超高分子量ポリエチレン単体の試料を得た。
【0040】
(比較例2)
まず、室温において、ジュースミキサーに、表1に示す所定量の超高分子量ポリエチレン100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出した。次に、密閉式混練機(ブラベンダー社製、PLASTI−CORDER、容量350ml)に、粉体状の混合物105gを投入し、回転数20rpm、窒素雰囲気中、200℃、10分間混練し粒子状の混合物を得た。その粒子状の混合物を真空成形機の150mm×180mm×2mmの金型内に充填し、真空中、220℃、5分間圧縮成形して、比較例2の炭素繊維複合材料を得た。その比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図5(3.0kV、50倍)、図6(5.0kV、300倍)、図7(3.0kV、5,000倍)、図8(3.0kV、50,000倍)に示した。図5は比較例2の炭素繊維複合材料をミクロトームで平滑面出しした状態を示し、図6はその平滑面の拡大写真である。図6において、UHMW−PEと矢印で示した濃い灰色の部分が超高分子量ポリエチレン単体の部分であり、それを囲うBoundary layerと矢印で示した白い線状部分はカーボンナノファイバーが超高分子量ポリエチレン中に存在する部分である。粒子状の混合物の状態で粒子状の超高分子量ポリエチレンの表面付近にカーボンナノファイバーが存在し、そのままの状態で圧縮成形されたため、粒子と粒子の境界領域にカーボンナノファイバーが存在している。超高分子量ポリエチレンの粒子表面にカーボンナノファイバーが均一に分散され、カーボンナノファイバーの凝集塊はみられなかった。図7は、図6における境界領域を拡大して示し、Boundary layerと記入して楕円で囲った部分はカーボンナノファイバーが分散した境界領域である。図8は、図7にける境界領域をさらに拡大して示し、丸で囲った部分に超高分子量ポリエチレンとの接合不足によってカーボンナノファイバーが抜けた穴が多数存在する。
【0041】
(実施例2)
比較例2の炭素繊維複合材料を、アルミナ製容器内に収容して家庭用電子レンジ内に配置し、無荷重で、2,450MHz、340W、10秒(6,000W/g)マイクロ波加熱した後、試料が室温になるまで放置して冷却し、実施例2の炭素繊維複合材料を得た。その実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図9(3.0kV、50倍)、図10(5.0kV、300倍)、図11(3.0kV、5,000倍)、図12(3.0kV、50,000倍)に示した。図9は実施例2の炭素繊維複合材料をミクロトームで平滑面出しした状態を示し、図10はその平滑面の拡大写真である。図10において、超高分子量ポリエチレン単体の部分とそれを囲うカーボンナノファイバーが存在する部分とは比較例2の図6と同様に観察できた。図11は、図10における境界領域を拡大して示し、図11の横方向に広がるBoundary layerと記入して楕円で囲った部分はカーボンナノファイバーが分散した境界領域である。図12は、図11にける境界領域をさらに拡大して示し、カーボンナノファイバーと超高分子量ポリエチレンとが良好に濡れて接合している状態が観察された。
【0042】
(比較例3)
室温において、ジュースミキサーに、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出した。次に、この混合した粉体状の混合物を100℃(PMMAの融解温度は160℃)で5分間加熱し、さらにジュースミキサーで混合し、比較例3の炭素繊維複合材料を得た。その比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図13(3.0kV、5,000倍)、図14(3.0kV、20,000倍)に示した。図14は、図13において四角く囲った部分を拡大した顕微鏡写真である。ポリメタクリル酸メチルの表面にカーボンナノファイバーが付着しているが、分散していない部分が多く観察され、カーボンナノファイバーとポリメタクリル酸メチルとが濡れていない部分が多く観察された。ポリメタクリル酸メチルは、住友化学工業社製のメタクリル酸ビーズスミペックス−EXAを用いた。
【0043】
(実施例3)
比較例3の炭素繊維複合材料を、アルミナ製容器内に収容して家庭用電子レンジ内に配置し、551N/cm2の荷重を加え、2,450MHz、340W、10秒(6,000W/g)マイクロ波加熱した後、試料が室温になるまで放置して冷却し、実施例3の炭素繊維複合材料を得た。その実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図15(3.0kV、5,000倍)、図16(3.0kV、20,000倍)に示した。図16は、図15において四角く囲った部分を拡大した顕微鏡写真である。カーボンナノファイバーとポリメタクリル酸メチルとがよく濡れている状態が観察された。
なお、実施例1〜3及び比較例2,3に用いたカーボンナノファイバーは、平均直径87nmの気相成長炭素繊維であった。
【0044】
(3)引張試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを1号ダンベル形状に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い、降伏応力(MPa)、引張破断強さ(MPa)及び破断伸び(%)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
(4)動的粘弾性試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、昇温速度3℃/min、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い、25℃における貯蔵弾性率(GPa)と、200℃における貯蔵弾性率(MPa)と、を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0046】
(5)ピンオンディスク摩耗試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを板状の試料に成形し、神鋼造機製の摩擦摩耗試験機SSWTを用いてピンオンディスク摩耗試験を行い、摩擦係数と比摩耗量(μm2)とを測定した。その結果を表1に示す。ピンオンディスク磨耗試験は、CoCrMo製ピン(ASTM F75)を用いて、25℃の生理食塩水中で荷重980mN、摺動条件2Hz/6mm、摺動回数50万回であった。比摩耗量は、摩耗体積を摩耗距離で除して求めた。すなわち、試料が摩耗された平均断面積である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、実施例2によれば、以下のことが確認された。すなわち、実施例2の炭素繊維複合材料は、比較例1,2に比べて摩擦係数が小さくなり、比摩耗量が少なかった。したがって、誘電加熱した実施例2の炭素繊維複合材料は、比較例2に比べ、耐摩耗性がさらに改善した。
【符号の説明】
【0049】
30 密閉式混練機
31 第1のロール
32 第2のロール
34 投入口
36 チャンバー
38 カーボンナノファイバー
40 超高分子量ポリエチレン
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを含む炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などは、医療分野、特に生体関節に置換して用いられる人工関節の部材に採用されている(例えば、特許文献1参照)。人工関節は、膝関節、股関節、肘関節、指関節などが十分に機能しなくなった部分に対して置換手術が行われている。しかしながら、人工関節には耐用年数があるため、置換手術を受けた患者の多くが再手術を必要としている。このような人工関節の耐用年数を決定する主な要因は、摺動面における摩耗である。人工関節は、繰り返し摩擦や荷重を受けるため、例えば超高分子量ポリエチレンにおいては接触面における耐摩耗性の要求が高かった。そこで、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノファイバーとを混合することで高温における凝着摩耗が改善された複合材料が提案された(例えば、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−301093号公報
【特許文献2】特開2009−67864号公報
【特許文献3】特開2009−91439号公報
【特許文献4】特開2009−155509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性が改善した炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、
合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、
前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、
前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、
を含む。
【0006】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、炭素繊維複合材料中のカーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性を改善することができる。
【0007】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)は、前記合成樹脂の融解温度以上で混合する工程を含むことができる。
【0008】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記合成樹脂は、超高分子量ポリエチレンであり、
前記工程(a)は、粒子状の前記超高分子量ポリエチレンと前記カーボンナノファイバーとを、前記超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、前記粒子状の超高分子量ポリエチレンに前記カーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の複合材料を得る工程を含むことができる。
【0009】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記誘電加熱は、マイクロ波加熱であることができる。
【0010】
本発明かかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)で得られた前記混合物を圧縮成形した後に、前記工程(b)を行うことができる。
【0011】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(c)で得られた炭素繊維複合材料をさらに圧縮成形することができる。
【0012】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得ることができる。
【0013】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとが良好に濡れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】密閉式混練機30による粒子状の複合材料を得る工程を模式的に示す図である。
【図2】熱機械分析装置(TMA)によって測定した温度変化−熱変形量を示すグラフである。
【図3】実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含むことを特徴とする。
【0017】
(I)合成樹脂
合成樹脂としては、結晶性の高分子を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチルなどを挙げることができるが、結晶性を有する高分子であればこれらに限らず用いることができる。特に、本発明にかかる一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料が例えば人工関節に用いる場合には、高機能性高分子である超高分子用ポリエチレン(UHMWPE)などを用いることができる。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、市販されている粒子状の超高分子量ポリエチレン樹脂であって、粘度法で測定した平均分子量が好ましくは100万g/mol〜800万g/mol、さらに好ましくは300万g/mol〜800万g/molであることができる。超高分子量ポリエチレンの平均粒径は、10μm〜200μmであることができる。超高分子量ポリエチレンは、融解温度(融点)が130℃〜135℃であることができ、超高分子量ポリエチレンの粒子同士が融着し始める流動開始温度が180℃以上であることができ、超高分子量ポリエチレンが熱分解し始める熱劣化開始温度(熱分解温度)が230℃以上であることができる。超高分子量ポリエチレンの融解温度と流動開始温度は、後述する熱機械分析装置(TMA)によって測定することができる。また、超高分子量ポリエチレンの熱劣化開始温度は、後述する熱重量分析(TG)法によって測定することができる。TMAによる測定時の雰囲気を大気雰囲気から窒素雰囲気にした場合には、流動開始温度が230℃以上であることができる。市販されている超高分子量ポリエチレンとしては、例えば、三井化学工業のハイゼックスミリオン、旭化成工業のサンテック、Ticona社のHOSTALRN.GUR、ハーキュルスのHIFLAX.100などがある。
【0018】
(II)カーボンナノファイバー
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることができ、炭素繊維複合材料の剛性を向上させるためには0.5ないし160nmであることができる。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であることができ、または湾曲繊維状であることができる。カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できるが、成形性を考慮すると超高分子量ポリエチレン100質量部(phr)に対してカーボンナノファイバー1質量部(phr)〜20質量部(phr)とすることができる。
【0019】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0020】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0021】
(III)炭素繊維複合材料の製造方法
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含む。
【0022】
まず、工程(a)について説明する。合成樹脂とカーボンナノファイバーとの混合は、公知の方法を採用することができる。このような公知の方法としては、例えば粒子状の合成樹脂とカーボンナノファイバーとをミキサーやブレンダなどの攪拌機で混合する乾式混合、あるいは水溶液中に合成樹脂とカーボンナノファイバーとを投入して例えば超音波攪拌機などで混合する湿式混合、合成樹脂を融解温度まで加熱してカーボンナノファイバーと共に密閉式混練機や押出機などで混練する方法により混合する方法などを挙げることができる。工程(a)に用いられる合成樹脂は粒子状(例えば平均粒径10〜200μm)のまま混合され、混合物は粒子状の合成樹脂を含む粉体の状態で得ることができる。工程(a)によって得られた混合物は、合成樹脂とカーボンナノファイバーとが混在している。混合物は、凝集体のカーボンナノファイバーが解繊すなわちばらばらに解された状態で存在していることができる。工程(a)において、合成樹脂の弾性を利用して混練することによって、合成樹脂中にカーボンナノファイバーを均一に分散することができ、均一に分散したカーボンナノファイバーは凝集体が解繊していることができる。
【0023】
超高分子量ポリエチレンのように融解温度以上で粒子状のままの合成樹脂は、工程(a)として、例えば、粒子状の超高分子量ポリエチレンとカーボンナノファイバーとを、超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、粒子状の超高分子量ポリエチレンにカーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の混合物を得る工程を含むことができる。より詳細には、例えば以下のような攪拌工程と混練工程とを含むことができる。
【0024】
まず、粒子状の超高分子量ポリエチレンと、カーボンナノファイバーと、を超高分子量ポリエチレンの融解温度未満で攪拌して粉体状の混合物を得る工程を有することができる。このように攪拌することで、凝集し易いカーボンナノファイバーが混合物の一部に偏在することを防止することができるため好ましいが、例えばカーボンナノファイバーの配合量などによって後の工程で使用する密閉式混練機で同様の攪拌操作を行なうこともできる。このような攪拌に用いられる攪拌機としては、一般に2種類以上の粒子状の物質を混合するミキサーやブレンダを用いることができる。このような攪拌操作は、超高分子量ポリエチレンの融解温度未満で行なうことでカーボンナノファイバーの偏在をさらに防止することができる。しかしながら、このままではカーボンナノファイバーは凝集塊のままであるので、解繊しなければならない。
【0025】
図1は、2本のロータを用いた密閉式混練機30による粒子状の混合物を得る工程を模式的に示す図である。図1に示すように、粒子状の超高分子量ポリエチレン40と、カーボンナノファイバー38と、を含む粉体状の混合物42を、第1の温度に設定された密閉式混練機30内に投入口34から投入し、剪断力によって混練し、粒子状の超高分子量ポリエチレン40にカーボンナノファイバー38が入り込んだ粒子状の混合物を得る工程を行うことができる。粉体状の混合物42は、前述した攪拌工程によって得たものを用いることができる。また、攪拌工程によって粉体状の混合物42を得ることなく、そのまま粒子状の超高分子量ポリエチレンと、カーボンナノファイバーと、を密閉式混練機30に投入することができる。第1の温度は、超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満であることができる。第1の温度は、大気雰囲気で混練する場合、130℃以上180℃未満であることができ、さらに130℃以上160℃以下であることができる。流動開始温度は、融解温度と共に、熱機械分析装置(TMA)によって超高分子量ポリエチレンの温度を変化させながら一定の荷重を加えて温度に対する変形量を測定することで得ることができる。超高分子量ポリエチレンをこのように熱機械分析すると、融解温度を超えたあたりから試料が急激に膨張し始め、膨張停止温度まで達すると試料の膨張がほぼ停止し、流動開始温度を超えると試料が急激に収縮を開始する。流動開始温度は、測定雰囲気に影響されることがわかっており、窒素雰囲気で測定した場合には230℃程度であることができる。したがって、窒素雰囲気で混練する場合には、第1の温度を130℃以上230℃未満とすることができる。
【0026】
密閉式混練機30は、第1のロータ31と、第2のロータ32と、を有する。第1のロータ31と第2のロータ32とは、所定の間隔で配置され、回転することによって超高分子量ポリエチレン40とカーボンナノファイバー38とを混練することができる。図示の例では、第1のロータ31および第2のロータ32は、互いに反対方向(例えば、図中の矢印で示す方向)に所定の速度比で回転している。第1のロータ31と第2のロータ32との速度、第1、第2のロータ31,32とチャンバー36の内壁部との間隔などによって所望の剪断力を得ることができる。この工程での剪断力は、超高分子量ポリエチレン40の種類とカーボンナノファイバー38の量などによって適宜設定される。密閉式混練機30を第1の温度に設定しておくことで、超高分子量ポリエチレン40は少なくとも融解温度以上で混練されるため、粒子状の形態のまま弾性を有したエラストマーのような状態となり、カーボンナノファイバー38が超高分子量ポリエチレン40の粒子へ浸入することができる。このような密閉式混練機30としては、バンバリーミキサー、ニーダーなどを採用することができる。
【0027】
このようにして得られた粒子状の混合物は、平均粒径は10μm〜200μmの超高分子量ポリエチレンの粒子に、平均直径が0.5nmないし500nmのカーボンナノファイバーの少なくとも一部が入り込むことができる。粒子状の混合物は、超高分子量ポリエチレンの粒子の表面付近をカーボンナノファイバーが囲むように存在することができる。しかも、カーボンナノファイバーは、粒子状の混合物の表面に均一に分散し、解繊されることで凝集塊もほとんど無くすことができる。このような粒子状の混合物によれば、超高分子量ポリエチレンは少なくともその粒子にカーボンナノファイバーの一部が入り込むことで超高分子量ポリエチレンの粒子と共にカーボンナノファイバーを容易にハンドリングできるため、多様な成形法に用いることができる。また、このような粒子状の混合物を用いて、後述する工程(b)および工程(c)を経て得られた炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーの凝集塊がないので、凝集塊を欠陥とする摩耗も大幅に減少することができる。
【0028】
次に、工程(b)及び工程(c)について説明する。
混合物を誘電加熱して混合物中でカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、を含む。工程(b)で用いられる混合物は、工程(a)で得られた混合物をそのまま用いてもよいが、例えば、所定形状に成形した後に用いることができる。また、工程(b)は、粒子間の隙間を少なくするために、混合物に対し所定の荷重をかけたまま行うことができ、例えば混合物をアルミナなどのセラミックス製容器内に収容し、混合物上から0N/cm2〜1000N/cm2の定荷重をかけた状態で加熱することができる。
【0029】
誘電加熱は、混合物中に含まれるカーボンナノファイバーを加熱することができる。誘電加熱に用いられる周波数は、カーボンナノファイバーを効率的に加熱することができる電磁波を用いることができ、電磁波は300MHz〜300GHzのいわゆるマイクロ波であることができ、特に電子レンジなどで使用されている2450MHz帯のマイクロ波を用いることができる。
【0030】
誘電加熱することによって、混合物中にあるカーボンナノファイバーが昇温し、カーボンナノファイバーと少なくとも接触している合成樹脂がカーボンナノファイバーの熱によって加熱され、融解する。加熱されたカーボンナノファイバーの温度や加熱時間によっては、カーボンナノファイバーに近接している合成樹脂も融解することができる。
【0031】
工程(c)は、誘電加熱した混合物を冷却することによって、融解した合成樹脂が固化する。冷却は、室温の雰囲気に放置して自然放冷することができ、例えば雰囲気温度を積極的に制御することで合成樹脂の結晶化の状態を制御することもできる。この冷却によって、融解した合成樹脂は固化する際に結晶化することができる。この結晶化は、カーボンナノファイバーの表面を結晶の核として、合成樹脂の結晶が成長するものと推測できる。工程(c)によって得られた炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーの表面とその表面に接触している合成樹脂とが良好に濡れており、工程(a)で得られた混合物の状態に比べてカーボンナノファイバーと合成樹脂との濡れ性が改善されている。
【0032】
このようにして得られた炭素繊維複合材料を所望の形状、例えば人工関節に成形することができる。工程(c)によって得られた炭素繊維複合材料を、例えば、押出成形法、トランスファー成形法、射出成形法、圧縮成形法などによって所望の形状例えばブロック状、シート状、人工関節形状などに成形することができる。なお、人工関節形状における半球状凹部からなるカップ部分は摺動面となるため、金型によってあらかじめ成形してもよいが、切削加工によって最終形状に加工してもよい。
【0033】
圧縮成形は、例えば、合成樹脂として超高分子量ポリエチレンを用いた場合、粒子状の炭素繊維複合材料を、超高分子量ポリエチレンの流動開始温度以上熱劣化開始温度未満に設定した金型内に充填して予熱した後、加圧して成形する工程を有することができ、予熱した金型の温度は例えば180℃以上230℃未満であることができる。このときの圧縮成形機は、金型内を真空にする真空成形機であることができる。金型内での予熱によって、複合材料における超高分子量ポリエチレンは少なくとも流動開始温度まで昇温することで流動が可能となり、加圧されることで他の粒子と結合すると共に所望の形状に成形することができる。
【0034】
このような炭素繊維複合材料を所望の形状に成形する工程は、工程(b)の前の段階で実施することもできる。その場合には、工程(a)で得られた混合物を圧縮成形などで所望の形状に成形し、成形された混合物を工程(b)において誘電加熱することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(1)超高分子量ポリエチレンの熱機械分析装置(TMA)による測定
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、粒子状の三井化学社製ハイゼックスミリオンM340であって、粘度法で測定した平均分子量が550万g/molを用いた。粒子状の超高分子量ポリエチレンを融着防止のため石英板(0.5g)で挟み、厚さ約1mm×幅10mmの円盤状に圧縮成形し、熱機械分析装置(TMA)によって圧縮荷重5mNで圧縮し、温度変化に対する熱変形量(μm)を測定した。測定装置は、SII社製TMA/SS6100を用いた。測定結果は、図2に示す。
【0037】
図2の測定結果によれば、本実施例で用いられた超高分子量ポリエチレンは、点Aにおいて膨張率が大きくなり、点Bにおいてさらに急激に膨張率が大きくなり、点Cにおいてほぼ膨張しなくなり、点Dにおいて急激な収縮を開始した。これらの結果から、点Aが約60℃のガラス転移点、点Bが約130℃の融解温度、点Cが約160℃の膨張停止温度、点Dが約180℃の流動開始温度であることがわかった。なお、点Bについては、示差走査熱量分析(DSC)によって融解温度を確認した。また、窒素雰囲気中で同様の測定を行ったところ、点Dの流動開始温度が230℃程度まで上昇した。
【0038】
(2)実施例及び比較例の試料の作成
(実施例1)
工程(a)として、室温において、ジュースミキサーに超高分子量ポリエチレン100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出し、さらに密閉式混練機(ブラベンダー社製、PLASTI−CORDER、容量350ml)を用いて窒素雰囲気中、200℃で混合した。次に、工程(b)として、この混合物をアルミナ製容器内に収容し荷重551N/cm2をかけたまま家庭用電子レンジ内に配置して、2,450MHz、340Wで10秒(6000W/g)マイクロ波加熱を行い、工程(c)として加熱された混合物が室温になるまで放置して冷却し、炭素繊維複合材料を得た。得られた炭素繊維複合材料は、粒子状であり、全体の外観は粉末状であった。その実施例1の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図3(7.0kV、5,000倍)及び図4(7.0kV、15,000倍)に示した。図3,4に示すように、超高分子量ポリエチレンの表面にカーボンナノファイバーが多数付着し、カーボンナノファイバーの周囲が超高分子用ポリエチレンで覆われている様子が観察された。
【0039】
(比較例1)
超高分子量ポリエチレン100gを真空成形機の150mm×180mm×2mmの金型内に充填し、真空中、220℃、5分間圧縮成形して、比較例1の超高分子量ポリエチレン単体の試料を得た。
【0040】
(比較例2)
まず、室温において、ジュースミキサーに、表1に示す所定量の超高分子量ポリエチレン100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出した。次に、密閉式混練機(ブラベンダー社製、PLASTI−CORDER、容量350ml)に、粉体状の混合物105gを投入し、回転数20rpm、窒素雰囲気中、200℃、10分間混練し粒子状の混合物を得た。その粒子状の混合物を真空成形機の150mm×180mm×2mmの金型内に充填し、真空中、220℃、5分間圧縮成形して、比較例2の炭素繊維複合材料を得た。その比較例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図5(3.0kV、50倍)、図6(5.0kV、300倍)、図7(3.0kV、5,000倍)、図8(3.0kV、50,000倍)に示した。図5は比較例2の炭素繊維複合材料をミクロトームで平滑面出しした状態を示し、図6はその平滑面の拡大写真である。図6において、UHMW−PEと矢印で示した濃い灰色の部分が超高分子量ポリエチレン単体の部分であり、それを囲うBoundary layerと矢印で示した白い線状部分はカーボンナノファイバーが超高分子量ポリエチレン中に存在する部分である。粒子状の混合物の状態で粒子状の超高分子量ポリエチレンの表面付近にカーボンナノファイバーが存在し、そのままの状態で圧縮成形されたため、粒子と粒子の境界領域にカーボンナノファイバーが存在している。超高分子量ポリエチレンの粒子表面にカーボンナノファイバーが均一に分散され、カーボンナノファイバーの凝集塊はみられなかった。図7は、図6における境界領域を拡大して示し、Boundary layerと記入して楕円で囲った部分はカーボンナノファイバーが分散した境界領域である。図8は、図7にける境界領域をさらに拡大して示し、丸で囲った部分に超高分子量ポリエチレンとの接合不足によってカーボンナノファイバーが抜けた穴が多数存在する。
【0041】
(実施例2)
比較例2の炭素繊維複合材料を、アルミナ製容器内に収容して家庭用電子レンジ内に配置し、無荷重で、2,450MHz、340W、10秒(6,000W/g)マイクロ波加熱した後、試料が室温になるまで放置して冷却し、実施例2の炭素繊維複合材料を得た。その実施例2の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図9(3.0kV、50倍)、図10(5.0kV、300倍)、図11(3.0kV、5,000倍)、図12(3.0kV、50,000倍)に示した。図9は実施例2の炭素繊維複合材料をミクロトームで平滑面出しした状態を示し、図10はその平滑面の拡大写真である。図10において、超高分子量ポリエチレン単体の部分とそれを囲うカーボンナノファイバーが存在する部分とは比較例2の図6と同様に観察できた。図11は、図10における境界領域を拡大して示し、図11の横方向に広がるBoundary layerと記入して楕円で囲った部分はカーボンナノファイバーが分散した境界領域である。図12は、図11にける境界領域をさらに拡大して示し、カーボンナノファイバーと超高分子量ポリエチレンとが良好に濡れて接合している状態が観察された。
【0042】
(比較例3)
室温において、ジュースミキサーに、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)100gと、カーボンナノファイバー5gと、を投入し、10,000rpmで高速攪拌してほぼ均等に混ざり合わせた後、粉体状の混合物をジュースミキサーから取り出した。次に、この混合した粉体状の混合物を100℃(PMMAの融解温度は160℃)で5分間加熱し、さらにジュースミキサーで混合し、比較例3の炭素繊維複合材料を得た。その比較例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図13(3.0kV、5,000倍)、図14(3.0kV、20,000倍)に示した。図14は、図13において四角く囲った部分を拡大した顕微鏡写真である。ポリメタクリル酸メチルの表面にカーボンナノファイバーが付着しているが、分散していない部分が多く観察され、カーボンナノファイバーとポリメタクリル酸メチルとが濡れていない部分が多く観察された。ポリメタクリル酸メチルは、住友化学工業社製のメタクリル酸ビーズスミペックス−EXAを用いた。
【0043】
(実施例3)
比較例3の炭素繊維複合材料を、アルミナ製容器内に収容して家庭用電子レンジ内に配置し、551N/cm2の荷重を加え、2,450MHz、340W、10秒(6,000W/g)マイクロ波加熱した後、試料が室温になるまで放置して冷却し、実施例3の炭素繊維複合材料を得た。その実施例3の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡写真を図15(3.0kV、5,000倍)、図16(3.0kV、20,000倍)に示した。図16は、図15において四角く囲った部分を拡大した顕微鏡写真である。カーボンナノファイバーとポリメタクリル酸メチルとがよく濡れている状態が観察された。
なお、実施例1〜3及び比較例2,3に用いたカーボンナノファイバーは、平均直径87nmの気相成長炭素繊維であった。
【0044】
(3)引張試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを1号ダンベル形状に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い、降伏応力(MPa)、引張破断強さ(MPa)及び破断伸び(%)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
(4)動的粘弾性試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、昇温速度3℃/min、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い、25℃における貯蔵弾性率(GPa)と、200℃における貯蔵弾性率(MPa)と、を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0046】
(5)ピンオンディスク摩耗試験
比較例1の超高分子量ポリエチレンと比較例2及び実施例2の炭素繊維複合材料とを板状の試料に成形し、神鋼造機製の摩擦摩耗試験機SSWTを用いてピンオンディスク摩耗試験を行い、摩擦係数と比摩耗量(μm2)とを測定した。その結果を表1に示す。ピンオンディスク磨耗試験は、CoCrMo製ピン(ASTM F75)を用いて、25℃の生理食塩水中で荷重980mN、摺動条件2Hz/6mm、摺動回数50万回であった。比摩耗量は、摩耗体積を摩耗距離で除して求めた。すなわち、試料が摩耗された平均断面積である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、実施例2によれば、以下のことが確認された。すなわち、実施例2の炭素繊維複合材料は、比較例1,2に比べて摩擦係数が小さくなり、比摩耗量が少なかった。したがって、誘電加熱した実施例2の炭素繊維複合材料は、比較例2に比べ、耐摩耗性がさらに改善した。
【符号の説明】
【0049】
30 密閉式混練機
31 第1のロール
32 第2のロール
34 投入口
36 チャンバー
38 カーボンナノファイバー
40 超高分子量ポリエチレン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、
前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、
前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、
を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(a)は、前記合成樹脂の融解温度以上で混合する工程を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記合成樹脂は、超高分子量ポリエチレンであり、
前記工程(a)は、粒子状の前記超高分子量ポリエチレンと前記カーボンナノファイバーとを、前記超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、前記粒子状の超高分子量ポリエチレンに前記カーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の複合材料を得る工程を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記誘電加熱は、マイクロ波加熱である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記工程(a)で得られた前記混合物を圧縮成形した後に、前記工程(b)を行う、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記工程(c)で得られた炭素繊維複合材料をさらに圧縮成形する、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項の製造方法によって得られた、炭素繊維複合材料。
【請求項1】
合成樹脂とカーボンナノファイバーとを混合して混合物を得る工程(a)と、
前記混合物を誘電加熱して前記混合物中のカーボンナノファイバーに接触している合成樹脂を融解する工程(b)と、
前記工程(b)で融解した合成樹脂を冷却して固化する工程(c)と、
を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(a)は、前記合成樹脂の融解温度以上で混合する工程を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記合成樹脂は、超高分子量ポリエチレンであり、
前記工程(a)は、粒子状の前記超高分子量ポリエチレンと前記カーボンナノファイバーとを、前記超高分子量ポリエチレンの融解温度以上流動開始温度未満に設定された密閉式混練機内に投入し、剪断力によって混練し、前記粒子状の超高分子量ポリエチレンに前記カーボンナノファイバーが入り込んだ粒子状の複合材料を得る工程を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記誘電加熱は、マイクロ波加熱である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記工程(a)で得られた前記混合物を圧縮成形した後に、前記工程(b)を行う、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記工程(c)で得られた炭素繊維複合材料をさらに圧縮成形する、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項の製造方法によって得られた、炭素繊維複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−62428(P2012−62428A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209127(P2010−209127)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(MWCNTセル・タイ技術を用いたスーパーシールの実用化)」委託研究、 平成22年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(ナノカーボンを用いた耐熱性・放熱性に優れた熱可塑性樹脂の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(MWCNTセル・タイ技術を用いたスーパーシールの実用化)」委託研究、 平成22年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(ナノカーボンを用いた耐熱性・放熱性に優れた熱可塑性樹脂の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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