説明

炭素複合材料及びその製造方法

【課題】従来の材料に比し、充放電サイクル試験時の初期のサイクルにおける不可逆容量による容量損失の割合の小さい電極を得ることが可能な材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 炭素材料の表面に金属酸化物が被覆されてなる炭素複合材料であって、金属酸化物がFeを含有する金属酸化物である炭素複合材料。前記炭素材料がメソポーラスカーボンである炭素複合材料。前記Feを含有する金属酸化物がFe23である炭素複合材料。
以下の(a)および(b)の工程を含む前記のいずれかに記載の炭素複合材料の製造方法。
(a)陽極と、炭素材料を表面に配置させた陰極と、Feを含有する水溶液からなる電解液とを用いて、電解により、前記炭素材料の表面にFeを被覆し、Feが被覆された炭素材料を得る工程。
(b)Feが被覆された炭素材料を酸素含有雰囲気中で加熱する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素複合材料及びその製造方法に関する。詳しくは、電極に用いられる炭素複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、二次電池、キャパシター、燃料電池などの電力貯蔵用途の電極に用いられている。炭素材料からなる電極としては、メソポーラスカーボンからなる電極が、特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−166325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の炭素材料からなる電極を用いて作製された二次電池においては、その充放電サイクル試験時の初期のサイクルにおける不可逆容量による容量損失の割合が大きいという問題があった。本発明の目的は、従来の材料に比し、充放電サイクル試験時の初期のサイクルにおける不可逆容量による容量損失の割合の小さい電極を得ることが可能な材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供する。
<1>炭素材料の表面に金属酸化物が被覆されてなる炭素複合材料であって、金属酸化物がFeを含有する金属酸化物である炭素複合材料。
<2>前記炭素材料がメソポーラスカーボンである前記<1>記載の炭素複合材料。
<3>Feを含有する金属酸化物がFe23である前記<1>または<2>記載の炭素複合材料。
<4>前記炭素複合材料のBET比表面積が400m2/g〜1000m2/gである<1>〜<3>のいずれかに記載の炭素複合材料。
<5>前記炭素複合材料が細孔を有し、その細孔の平均直径が1nm〜10nmである前記<1>〜<4>のいずれかに記載の炭素複合材料。
<6>以下の(a)および(b)の工程を含む前記<1>〜<5>のいずれかに記載の炭素複合材料の製造方法。
(a)陽極と、炭素材料を表面に配置させた陰極と、Feを含有する水溶液からなる電解液とを用いて、電解により、前記炭素材料の表面にFeを被覆し、Feが被覆された炭素材料を得る工程。
(b)Feが被覆された炭素材料を酸素含有雰囲気中で加熱する工程。
<7>陽極および陰極が、Al板である請求項6記載の製造方法。
<8>前記<1>〜<5>のいずれかに記載の炭素複合材料または前記<6>若しくは<7>の製造方法によって得られた炭素複合材料を有する電極。
【発明の効果】
【0006】
本発明の炭素複合材料によれば、従来の炭素材料からなる電極に比し、充放電サイクル試験時の初期のサイクルにおける不可逆容量による容量損失の割合の少ない電極を得ることが可能であることから、二次電池、特に、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池に好適に使用でき、また、キャパシター用の電極、燃料電池用の電極にも使用でき、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、炭素材料の表面に金属酸化物が被覆されてなる炭素複合材料であって、金属酸化物がFeを含有する金属酸化物である炭素複合材料を提供する。
【0008】
本発明の効果をより高める意味で、本発明における炭素材料は、そのBET比表面積が大きいことが好ましい。好ましいBET比表面積が大きい炭素材料としては、メソポーラスカーボンを挙げることができる。メソポーラスカーボンは、均一なサイズの細孔を三次元的に有し、その細孔が規則的に配列した炭素材料である。炭素材料としてメソポーラスカーボンを用いると、細孔内の炭素材料表面をも、Feを含有する金属酸化物で被覆させることができる。炭素材料としてメソポーラスカーボンを用いることにより得られる炭素複合材料を電極に用いた場合には、電極の高容量化、均一な電極反応が実現可能となる。
【0009】
前記のメソポーラスカーボンは、メソポーラス酸化物、すなわち、均一なサイズの細孔を三次元的に有し、その細孔が規則的に配列している酸化物(例えば、メソポーラスシリカ等)を基材とし、その細孔に、砂糖、スクロースなどのカーボン源となる有機物質を充填し、これを窒素、希ガスなどの不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、前記有機物質を炭化させ、さらに、フッ酸等の酸、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液により基材を溶解することにより得ることができる。
【0010】
本発明において、Feを含有する金属酸化物としては、酸化鉄(II)FexO (x=0.91〜0.95)、酸化鉄(III)Fe23、酸化二鉄(III)鉄(II) Fe34
が挙げられ、酸化鉄(III)Fe23であることが好ましい。Fe23の中でも、γ−Fe23であることがより好ましい。Feを含有する金属酸化物を、好ましいFe23、より好ましいγ−Fe23とすることにより、得られる炭素複合材料は、これを電極に用いた場合に、その容量を高めることができる。
【0011】
本発明の炭素複合材料は、そのBET比表面積が400m2/g〜1000m2/gであることが好ましく、より好ましくは、400m2/g〜700m2/gである。BET比表面積を前記のようにすることで、得られる炭素複合材料は、これを電極に用いた場合に、その容量を高めることができる。また、BET比表面積は、後述の製造工程(a)の操作回数、Feを含有する水溶液におけるFe濃度制御により、制御することができる。すなわち、前記操作回数を増やしていくほど、BET比表面積は小さくなり、また、前記Fe濃度が大きいほど、BET比表面積は小さくなる。
【0012】
本発明の炭素複合材料は、細孔を有することが好ましく、この場合、細孔の平均直径は、1nm〜10nmであり、より好ましくは2nm〜4nmである。細孔の平均直径を前記のようにすることで、得られる炭素複合材料は、これを電極に用いた場合に、その容量を高めることができる。
【0013】
本発明におけるBET比表面積、細孔の平均直径は、サンプル(炭素材料、炭素複合材料)を液体窒素温度下において、サンプルに窒素ガスを吸着して得られる窒素吸着等温線を用いて、求めることができる。具体的には、窒素吸着等温線を用いて、Brenauer-Emmet-Telle(BET)法により、サンプルのBET比表面積を求めることができるし、また、窒素吸着等温線を用いて、Barret-Joyner-Halenda(BJH)法により、サンプルの細孔の平均直径を求めることができる。これらを求めるには、測定装置として、例えば、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP-miniII)を用いて測定すればよい。
【0014】
本発明において、Feを含有する金属酸化物は、炭素材料の表面に、層状に被覆されていることが好ましい。層状に被覆されていることにより、得られる炭素複合材料は、これを電極に用いた場合に、電極反応を均一に進行させることができる。
【0015】
また、本発明において、炭素複合材料の重量(100重量部)に対するFeを含有する金属酸化物の重量は、通常、1重量部〜80重量部であり、本発明を好ましく適応する意味で、好ましくは、5重量部〜50重量部である。
【0016】
次に本発明の炭素複合材料の製造方法について説明する。
本発明の炭素複合材料は、以下の(a)および(b)の工程を含む方法により、製造することができる。
(a)陽極と、炭素材料を表面に配置させた陰極と、Feを含有する水溶液からなる電解液とを用いて、電解により、前記炭素材料の表面にFeを被覆し、Feが被覆された炭素材料を得る工程。
(b)Feが被覆された炭素材料を酸素含有雰囲気中で加熱する工程。
【0017】
上記工程(a)は、いわゆるメッキ法である。上記工程(a)において、得られるFeが被覆された炭素材料につき、工程(a)と同様の電解操作を繰り返してもよい。具体的には、以下の工程(a’)となる。この工程(a’)を繰り返すことにより、得られる炭素複合材料における被覆の厚み、BET比表面積を調整可能となる。
(a’)陽極と、Feが被覆された炭素材料を表面に配置させた陰極と、Feを含有する水溶液からなる電解液とを用いて、電解により、前記のFeが被覆された炭素材料の表面にFeを被覆し、さらにFeが被覆された炭素材料を得る工程。
【0018】
上記工程(a)において、操作面で、陰極の表面に配置させる炭素材料は、ペレット状に成型されていることが好ましい。この場合、工程(a)において、得られるFeが被覆された炭素材料は、ペレット状であり、工程(b)において、加熱する前に、粉砕等により粉末状にしておいた方がよい。また、上記の陽極および陰極には、Al板を用いればよい。
【0019】
上記におけるFeを含有する水溶液は、塩化鉄水溶液、硝酸鉄水溶液、硫酸鉄水溶液等を挙げることができ、これらの混合水溶液を用いることもできる。また、Feを含有する水溶液におけるFeの濃度は、通常、0.5mol/L〜10mol/Lであり、好ましくは1mol/L〜5mol/Lである。
【0020】
また、上記における電解は、通常、別途準備した電源を用いて、電源のプラス極と上記の陽極とを電気的に接続し、電源のマイナス極と上記の陰極とを電気的に接続して行う。
【0021】
また、上記により得られるFeが被覆された炭素材料について、工程(b)において、加熱する前に、洗浄を行ってもよい。洗浄により、余分な金属イオン、アニオンなどの不純物を除去することができる。洗浄は、水、水−アルコール、アセトン等により1回以上行えばよい。
【0022】
上記工程(b)において、加熱する温度は、100℃以上350℃以下であることが好ましく、より好ましくは250℃以上300℃以下である。前記加熱温度で保持する時間は、通常1〜5時間であり、好ましくは1〜2時間である。また、加熱の雰囲気としては、酸素、空気等、酸素が含まれている雰囲気が好ましい。
【0023】
次に、本発明の炭素複合材料を有する電極について、例として、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池用電極(正極、負極)を挙げて説明する。
【0024】
非水電解質二次電池用正極は、正極活物質およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。該正極合剤には、さらに導電助剤が含まれていてもよい。前記導電助材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック、アセチレンブラックなどを挙げることができる。通常、正極合剤中の導電助材の割合は、1重量%以上30重量%以下である。本発明の炭素複合材料は、前記の正極活物質または導電助剤として用いることができる。
【0025】
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。また、これらの二種以上を混合して用いてもよい。前記バインダーの正極合剤に対する割合は、通常、1重量%以上10重量%以下である。
【0026】
前記正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または有機溶媒などを用いてペースト化し、正極集電体上に塗布、乾燥後プレスするなどして固着する方法が挙げられる。ペースト化する場合、正極活物質、導電材、バインダー、有機溶媒からなるスラリーを作製する。有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0027】
正極合剤を正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。以上に挙げた方法により、非水電解質二次電池用正極を製造することができる。
【0028】
上記の非水電解質二次電池用正極を用いて、次のようにして、非水電解質二次電池を製造することができる。すなわち、セパレータ、負極集電体に負極合剤が担持されてなる負極、および上記の正極を、積層および巻回することにより得られる電極群を、電池缶内に収納した後、電解質を含有する有機溶媒からなる電解液を含浸させて製造することができる。
【0029】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0030】
前記負極としては、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料を含む負極合剤を負極集電体に担持したもの、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができ、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料としては、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素材料が挙げられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソポーラスカーボンのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。本発明の炭素複合材料は、前記のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料として用いることができる。
【0031】
また、前記のリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料として、酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物を用いることもできる。該カルコゲン化合物としては、周期率表の13、14、15族の元素を主体とした結晶質または非晶質の酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられ、具体的には、スズ酸化物を主体とした非晶質化合物等が挙げられる。前記の電解液が後述のエチレンカーボネートを含有しない場合において、ポリエチレンカーボネートを含有した負極合剤を用いると、得られる二次電池のサイクル特性と大電流放電特性が向上することがある。
【0032】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVDF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。また、前記の負極合剤は必要に応じて導電材を含有してもよい。本発明の炭素複合材料は、該導電材として用いることができる。
【0033】
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。該負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0034】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができ、また、これらの材質を2種以上用いたセパレータとしてもよいし、異なる材質からなる2層以上の層を積層した積層セパレータとしてもよい。積層セパレータとしては、含窒素芳香族重合体層およびポリエチレン層を積層した積層セパレータが、二次電池用セパレータとして耐熱性の面、シャットダウンの性能面で好適である。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報等に記載のセパレータを挙げることができる。セパレータの厚みは電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、通常10〜200μm程度、好ましくは10〜30μm程度である。
【0035】
前記電解液において、電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いる。
【0036】
また前記電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの二種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF6等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0037】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの高分子電解質を用いることができる。また、高分子に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23などの硫化物電解質、またはLi2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機化合物電解質を用いると、安全性をより高めることができることがある。
【0038】
上述においては、本発明の炭素複合材料を有する電極として、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池用電極の例を示しているが、他の電極の例としては、ニッケル・カドミウム二次電池、ニッケル・金属水素化物二次電池などの水系電解液二次電池用の電極、キャパシター用の電極、燃料電池用の電極等を挙げることができる。これらの電極は、公知の技術を用いて製造すればよい。すなわち、本発明の炭素複合材料を用いて、例えば、水系電解液二次電池用の電極としては、特開平8−315810号公報、特開2004−014427号公報に開示されているような技術、キャパシター用の電極としては、特開2000−106327号公報に開示されているような技術、燃料電池用の電極としては、特開2006−331786号公報に開示されているような技術を用いることにより、これらの電極を製造することができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、炭素材料、炭素複合材料のBET比表面積、細孔の平均直径の測定には、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP-miniII)を用いた。
【0040】
製造例1(炭素材料の製造)
炭素材料として、メソポーラスカーボンを次の方法により製造した。
界面活性剤(中性ブロック共重合体、HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H、アルドリッチ社製品)2g、36%塩酸10mlおよび蒸留水65mlをビーカーに入れ混合し、さらにビーカーにテトラメトキシオルトシリケート(TMOS 関東化学(株)製)3mlを入れ、40℃に設定し20時間攪拌を行った後、80℃に設定し一日静置させ、ろ過、洗浄し、乾燥して、固形分を得た。該固形分を空気中で550℃、5時間焼成し、メソポーラスシリカ(SP1)を得た。得られたメソポーラスシリカ(SP1)1gに、スクロース(和光純薬工業(株))1.25g、97%硫酸0.14gおよび蒸留水5mlを加え、100℃で6時間加熱し、さらに160℃で6時間加熱しスクロースを炭化させ、炭化させた試料に、再度、スクロース0.8g、97%硫酸0.09gおよび蒸留水5mlを加え、100℃で6時間加熱し、さらに160℃で6時間加熱して、シリカ/炭素材料の複合材料(SC1)を得た。得られたシリカ/炭素材料の複合材料(SC1)をアルゴンガス雰囲気下において、900℃で5時間焼成し、得られた焼成試料を濃度10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液15mlに入れてシリカ分を溶解し、残存の固形分を、ろ過、洗浄し、乾燥して、メソポーラスカーボン(CP1)を得た。CP1のBET比表面積は、1036m2/g、CP1の細孔の平均直径は3.8nmであった。
【0041】
実施例1
1.酸化鉄(Fe23)および炭素材料からなる炭素複合材料の製造
硫酸第一鉄・7水和物(FeSO4・7H2O)、塩化第一鉄・4水和物(FeCl2・4H2O)および蒸留水を用いて、硫酸第一鉄および塩化第一鉄混合水溶液(硫酸第一鉄・7水和物濃度400g/L、塩化第一鉄・4水和物160g/L)を調整した。該水溶液を以下のメッキ浴として用いた。
製造例1により得られたCP1とバインダー(PTFE)とを重量比で95:5の比率で混合し、金型に入れ、圧力200MPaで圧粉体ペレットを成型した。この圧粉体ペレットを金属アルミニウム板にカーボンテープを用いて固定し、前記のメッキ浴に浸し、陰極とした。また、別の金属アルミニウム板をメッキ浴に浸し、陽極とした。メッキ浴の浴温を40℃に保ち、上記陽極および陰極間に、ガルバノスタットを用いて、285mAで1710秒間、定電流を流し、電解(メッキ)を行った。その後、圧粉体ペレットをメッキ浴から取出し、粉砕し、蒸留水で洗浄、乾燥した後、上記と同様の操作(成型により、圧粉体ペレットを得、上記と同様の定電流電解(メッキ)を行う操作)を4回繰り返した。上記のように計5回メッキを行った後、圧粉体ペレットを粉砕し、酸素気流中で、250℃、1時間加熱処理を行いメッキ層の酸化を行い、酸化鉄(Fe23)および炭素材料からなる炭素複合材料(FCP1)を得た。FCP1について、窒素ガスの吸脱着等温線を測定したところ、メソポーラス由来の曲線の立上りが平坦化していることが確認され、このことから、メソポーラスカーボンの細孔内に被覆層が形成されていることがわかった。また、FCP1のBET比表面積は452m2/gであり、細孔の平均直径は2.4nmであった。また、FCP1のSEM−EDXの測定により、FCP1の粒子表面に鉄が存在していることが確認され、さらにFCP1の粉末X線回折測定により酸化鉄(γ−Fe23)由来の回折ピークが確認されたことから、メソポーラスカーボンの表面に被覆された金属酸化物は、酸化鉄(γ−Fe23)であることがわかった。また、FCP1につき、ICP測定を行ったところ、酸化鉄含有量は、30重量%であることがわかった。
【0042】
2.コインセルによる充放電試験
上記により得られたFCP1とバインダー(PTFE)とを重量比で95:5の比率で混合し、金型に入れ、圧力200MPaで圧粉体ペレットを成型し、電極サンプル1を得た。電極サンプル1と、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比30:70混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したもの(LiPF6/EC+DEC)と、セパレータとしてポリエチレン多孔質膜と、対極として金属リチウムと、を組み合わせてコインセル1を製造した。コインセル1を用いて、25℃保持下、以下の順の充放電条件で、定電流充放電試験を実施した。
<充放電条件>
放電最小電圧1.0V、放電電流0.5mA/cm2
充電最大電圧4.0V、充電電流0.5mA/cm2
上記の充放電試験において、初回の放電容量(mAh/g)を100としたところ、初回の充電容量は71であり、コインセル1については、不可逆容量が少なく、不可逆容量による容量損失の割合が小さいことがわかった。
【0043】
比較例1
FCP1の代わりに、製造例1において得られたCP1を用いた以外は、実施例1と同様にして、コインセル2を製造した。コインセル2を用いて、25℃保持下、以下の順の充放電条件で、定電流充放電試験を実施した。
<充放電条件>
放電最小電圧0.3V、放電電流0.5mA/cm2
充電最大電圧3.0V、充電電流0.5mA/cm2
上記の充放電試験において、初回の放電容量(mAh/g)を100としたところ、初回の充電容量は24であり、コインセル2については、不可逆容量が多く、不可逆容量による容量損失の割合が大きいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料の表面に金属酸化物が被覆されてなる炭素複合材料であって、金属酸化物がFeを含有する金属酸化物である炭素複合材料。
【請求項2】
前記炭素材料がメソポーラスカーボンである請求項1記載の炭素複合材料。
【請求項3】
Feを含有する金属酸化物がFe23である請求項1または2記載の炭素複合材料。
【請求項4】
前記炭素複合材料のBET比表面積が400m2/g〜1000m2/gである請求項1〜3のいずれかに記載の炭素複合材料。
【請求項5】
前記炭素複合材料が細孔を有し、その細孔の平均直径が1nm〜10nmである請求項1〜4のいずれかに記載の炭素複合材料。
【請求項6】
以下の(a)および(b)の工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載の炭素複合材料の製造方法。
(a)陽極と、炭素材料を表面に配置させた陰極と、Feを含有する水溶液からなる電解液とを用いて、電解により、前記炭素材料の表面にFeを被覆し、Feが被覆された炭素材料を得る工程。
(b)Feが被覆された炭素材料を酸素含有雰囲気中で加熱する工程。
【請求項7】
陽極および陰極が、Al板である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の炭素複合材料または請求項6若しくは7の製造方法によって得られた炭素複合材料を有する電極。

【公開番号】特開2008−162821(P2008−162821A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351838(P2006−351838)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】