説明

点眼剤

【課題】塩酸ジフェンヒドラミンを含有しながら、眼に対する刺激感が改善された点眼剤を提供すること。
【解決手段】(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、上記(a)成分の含有量が、全量に対して、0.01〜0.05w/v%である、点眼剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸ジフェンヒドラミンは、強い抗ヒスタミン作用を有することから、医薬品・医薬部外品の薬理活性成分として汎用されている。また、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第98/013040号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、通常点眼剤として使用する濃度範囲において一定濃度以上の塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤について種々検討を行ったところ、所定量の塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤は、眼に対して「しみる感じ」(本明細書においては、「しみる感じ」を「刺激感」とも表現する。)を与えるという新しい知見を得た。
【0005】
そこで、本発明は、塩酸ジフェンヒドラミンを含有しながら、眼に対する刺激感が改善された点眼剤を提供することを目的とする。また本発明は、眼に対する刺激感が改善された塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、上記(a)成分の含有量が、全量に対して、0.01〜0.05w/v%である、点眼剤を提供する。
【0007】
本発明の点眼剤は、上記(a)成分を含有しながら、上記(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含有することにより、眼に対する刺激感を顕著に改善することができる。また、点眼剤に上記(a)成分を上記所定量含む場合には、眼に対する刺激感があるが、本発明の点眼剤はこの場合においても、眼に対する刺激感を顕著に改善することができる。
【0008】
上記点眼剤は、更に、ホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよい。
【0009】
上記点眼剤は、ホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有している場合でも、上記(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含有することにより、眼に対する刺激感を顕著に改善することができる。
【0010】
したがって、本発明は、点眼剤の成分として、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤と、を配合する、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感を改善する改善方法ということもできる。
【0011】
本発明はまた、(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、上記(a)成分の含有量が全量に対して、0.01〜0.05w/v%である組成物を調製する工程を備える、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の製造方法を提供する。
【0012】
上記製造方法は、上記所定量の上記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含有する組成物を調製する工程を備えているため、眼に対する刺激感が改善された塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤を製造することができる。
【0013】
上述のように、上記(a)成分を含有する点眼剤において、上記(b)成分、(c)成分及び(d)成分を併用することにより、眼に対する刺激感を改善することができる。したがって、本発明に係る(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤との組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感の改善剤として用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
ビタミンB6類は、生体内でアミノ酸脱炭酸酵素及びアミノ基転移酵素の補酵素として、タンパク質の代謝に関わる成分であり、肉体疲労、眼精疲労、妊娠時の栄養補給のために、広く医薬品や健康食品に用いられており、点眼剤にも配合される。ビタミンE類は、眼細胞の新陳代謝を促進して目の疲れを解消させること等を目的として、点眼剤に使用されている。また、非イオン界面活性剤は他の配合成分の溶解補助などを目的として、医療分野で点眼剤等に使用されている。しかしながら、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に対して、ビタミンB6類、ビタミンE類及び非イオン界面活性剤の組み合わせがいかなる影響を及ぼすかについては、全く知られていない。
【0015】
本発明の点眼剤によれば、塩酸ジフェンヒドラミンを含有していながら、眼に対して「しみる感じ」、すなわち刺激感が顕著に改善されているので、消費者が安心して快適に使用することができ、コンプライアンスの向上に繋がるため、より確実にアレルギー症状などの眼の疾患を治療することが可能となる。
【0016】
更に本発明の点眼剤は、(a)塩酸ジフェンヒドラミン、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類、及び(d)非イオン界面活性剤を含有することによって、優れた保存効力を発揮するため、点眼剤における微生物の増殖を抑制し、又は微生物を減少させることができる。また、経時的な保存効力も増強されている。そのため、点眼剤をより安全に使用可能とし、点眼剤の開封後においても、長期間安定して安全に使用することができる。点眼薬は、消費者にとって眼や眼の周辺部に容器が接触し易いため、保存効力の増強が特に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中、含有割合又は配合割合の単位「%」は「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。
【0018】
本明細書中、特に記載の無い限り、略号「POE」はポリオキシエチレンを意味する。
【0019】
本明細書中、特に記載の無い限り、略号「POP」はポリオキシプロピレンを意味する。
【0020】
〔(I)点眼剤〕
本発明の点眼剤は、塩酸ジフェンヒドラミン(単に「(a)成分」と表記することもある)を含有する。
【0021】
ジフェンヒドラミンは、2−ベンズヒドリルオキシ−N,N−ジメチルエタンアミンとも称される公知の化合物である。塩酸ジフェンヒドラミンは、ジフェンヒドラミンの塩酸塩である。本発明で使用される塩酸ジフェンヒドラミンとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、公知の方法で合成したものや、市販のものを使用することができる。特に、点眼剤における刺激感が改善され易く、保存効力を増強するという観点から、第十五改正日本薬局方の規格に適合する塩酸ジフェンヒドラミンが好適に用いられる。
【0022】
上記(a)成分の点眼剤中における含有割合は、点眼剤の総量に対して、(a)成分が総量で、通常、0.006〜0.09%となる範囲であればよいが、点眼剤の刺激感の改善効果をより一層顕著に奏し、点眼剤の保存効力をより一層増強するという観点から、好ましくは0.01〜0.05%、より好ましくは0.02〜0.04%となる範囲が例示される。
【0023】
本発明の点眼剤は、ビタミンB6類(単に「(b)成分」と表記することもある)を含有する。
【0024】
本発明の点眼剤に使用されるビタミンB6類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、ピリドキシン(「4,5−ビス(ヒドロキシメチル)−2−メチルピリジン−3−オール」とも称される。)、ピリドキサール(「3−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−4−ピリジンカルボキサルデヒド」とも称される。)、ピリドキサミン(「4−(アミノメチル)−5−(ヒドロキシメチル)−2−メチルピリジン−3−オール」とも称される。)及びこれらの塩が挙げられる。
【0025】
上記(b)成分のうち、ピリドキシン、ピリドキサール及びピリドキサミンの塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩、より好ましくは塩酸塩及びリン酸塩、更に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシン、ピリドキサール及びピリドキサミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0026】
これらの(b)成分のうち、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、好ましくはピリドキシン及びその塩、より好ましくはピリドキシン及びその無機酸塩、更に好ましくはピリドキシン塩酸塩及びピリドキシンリン酸塩、特に好ましくはピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。特に、第十五改正日本薬局方の規格に適合する塩酸ピリドキシンが好適に用いられる。
【0027】
上記(b)成分の点眼剤中における含有割合は、他の配合成分の種類や含有割合、点眼剤の製剤形態等に応じて適宜設定できる。(b)成分の含有割合の一例として、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、点眼剤の総量に対して、(b)成分が総量で、0.001〜0.2w/v%、好ましくは0.005〜0.15w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%となる範囲が挙げられる。
【0028】
本発明の点眼剤において、(a)成分に対する(b)成分の含有比率については、特に制限されるものではないが、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、(a)成分の総量1質量部に対して、(b)成分が総量で0.05〜20質量部、より好ましくは0.1〜15質量部、更に好ましくは0.2〜12質量部となる範囲が例示される。
【0029】
本発明の点眼剤は、ビタミンE類(単に「(c)成分」と表記することもある。)を含有する。
【0030】
本発明の点眼剤に使用されるビタミンE類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、トコフェロール、トコトリエノール、及びこれらの誘導体、並びにこれらの塩が挙げられる。上記トコフェロール及びトコトリエノールは、α−、β−、γ−、及びδ−のいずれであってもよく、またd体及びdl体のいずれであってもよい。好ましくはトコフェロールであり、より好ましくはα−トコフェロールであり、更に好ましくはd−α−トコフェロールである。
【0031】
上記(c)成分のうち、トコフェロールの誘導体としては、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、リノレン酸トコフェロール等のトコフェロール有機酸エステル等が挙げられる。これらの誘導体の中でも、好ましくは酢酸トコフェロールが挙げられる。これらの誘導体は1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
上記(c)成分のうち、トコフェロール、トコトリエノール及びこれらの誘導体の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。トコフェロール、トコトリエノール及びこれらの誘導体の塩は、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の点眼剤において、(c)成分は、トコフェロール、トコトリエノール、及びこれら誘導体、並びにこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、好ましくはトコフェロール、トコフェロールの誘導体、及びこれらの塩、より好ましくはトコフェロールの誘導体、更に好ましくはトコフェロール有機酸エステル、特に好ましくは酢酸トコフェロールが挙げられる。特に、日本薬局方外医薬品規格2002の規格に適合する酢酸トコフェロールが好適に用いられる。
【0034】
上記(c)成分の点眼剤中における含有割合は、他の配合成分の種類や含有割合、点眼剤の製剤形態等に応じて適宜設定できる。(c)成分の含有割合の一例として、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、点眼剤の総量に対して、(c)成分が総量で、0.0005〜0.2w/v%、好ましくは0.005〜0.1w/v%、より好ましくは0.01〜0.05w/v%となる範囲が挙げられる。
【0035】
本発明の点眼剤において、(a)成分に対する(c)成分の含有比率については、特に制限されるものではないが、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、(a)成分の総量1質量部に対して、(c)成分が総量で0.05〜15質量部、より好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.2〜7質量部となる範囲が例示される。
【0036】
本発明の点眼剤は、非イオン界面活性剤(単に「(d)成分」と表記することもある。)を含有する。
【0037】
本発明における(d)成分としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー付加物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選択される1種以上とすることができる。
【0038】
本発明に用いる(d)成分としては、具体的には、次のような成分が挙げられる。例えば、POEソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20),モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80),POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60),POEソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)等;POE硬化ヒマシ油としては、POE硬化ヒマシ油5,POE硬化ヒマシ油10,POE硬化ヒマシ油20,POE硬化ヒマシ油40,POE硬化ヒマシ油50、POE硬化ヒマシ油60,POE硬化ヒマシ油100等;POEヒマシ油としては、POEヒマシ油3,POEヒマシ油10,POEヒマシ油20,POEヒマシ油35,POEヒマシ油40,POEヒマシ油50,POEヒマシ油60等;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(以下、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体」ともいう。)としては、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188等;エチレンジアミンのPOE−POPブロックコポリマー付加物としては、ポロキサミン等;POEアルキルエーテル類としては、POE(9)ラウリルエーテル等;POE・POPアルキルエーテルとしては、POE(20)POP(4)セチルエーテル等;POEアルキルフェニルエーテルとしては、POE(10)ノニルフェニルエーテル等;等が挙げられる。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0039】
(d)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、(d)成分としては、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、POEソルビタン脂肪酸エステル、POE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましく、中でも、ポリソルベート80、POE硬化ヒマシ油60、POEヒマシ油10、POEヒマシ油35、POE硬化ヒマシ油40、ポロクサマー407が特に好ましい。これらの中でも、点眼剤の刺激感の改善効果を一層顕著に奏し、保存効力を増強するという観点から、第十五改正日本薬局方の規格に適合するポリソルベート80、又は医薬品添加物規格2003に適合するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が好適に用いられる。
【0040】
上記(d)成分の点眼剤中における含有割合は、(d)成分の種類、他の配合成分の種類や含有割合、点眼剤の製剤形態等に応じて適宜設定できる。(d)成分の含有割合の一例として、点眼剤の総量に対して、(d)成分が総量で、通常0.001〜5%、好ましくは0.001〜4%、より好ましくは0.002〜3%、更に好ましくは0.005〜2%、特に好ましくは0.01〜1%程度が例示される。非イオン界面活性剤の配合量が上記範囲内であれば、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から好適であり、眼障害性や刺激感がより低く押さえられる。
【0041】
本発明の点眼剤において、(a)成分に対する(d)成分の含有比率については、特に制限されるものではないが、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、(a)成分の総量1質量部に対して、(d)成分が総量で0.2〜100質量部、好ましくは1〜70質量部、より好ましくは2〜50質量部の範囲内であることが好ましい。
【0042】
本発明に係る(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤による眼に対する刺激感を効果的に改善することができる。したがって、本発明に係る(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感の改善のために使用することができる。また、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤における、眼に対する刺激感の改善剤として用いることもできる。
【0043】
さらに、本発明に係る(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、実施例において詳細に説明するように、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の保存効力を増強することができる。したがって、本発明に係る(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の保存効力増強のために使用することができる。また、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の組み合わせは、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤における、保存効力増強剤として用いることもできる。
【0044】
本発明の点眼剤は、更にホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよい。これらのうち、ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、クエン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、又はイプシロン−アミノカプロン酸を含有することが好ましい。ホウ酸及びその塩としては、ホウ酸並びにホウ酸アルカリ金属塩及びホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。また、ホウ酸及びその塩として、ホウ酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸及びその塩として、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム及びホウ砂等が例示できる。ホウ酸及びその塩の好適な具体例として、ホウ酸とその塩との組み合わせ;好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩との組み合わせ、ホウ酸と、アルカリ土類金属塩との組み合わせ、並びにホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩との組み合わせ;更に好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩との組み合わせ;特に好ましくはホウ酸とホウ砂との組み合わせが例示される。クエン酸及びその塩としては、クエン酸、並びにクエン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。より具体的な例として、クエン酸及びその塩として、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム及びクエン酸二ナトリウム等が例示できる。クエン酸及びその塩の好適な具体例として、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの組み合わせが例示される。
ホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の点眼剤においてホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有する場合、その含有割合については、使用するホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の種類、他の配合成分の種類や量、点眼剤の製剤形態や用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、点眼剤の総量に対して、これらが総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、より好ましくは0.1〜3w/v%程度が例示される。
【0046】
本発明の点眼剤は、更に緩衝剤を含有してもよい。点眼剤に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用してもよい。好ましい緩衝剤は、リン酸緩衝剤及び炭酸緩衝剤である。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。また、リン酸緩衝剤として、リン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の点眼剤のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されないが、点眼剤の刺激感の改善効果を一層高め、また点眼剤の保存効力を高めるという観点から、好適なpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは4.5〜9.0、より好ましくは、4.5〜8.5、更に好ましくは4.5〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0048】
本発明の点眼剤は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調整することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、通常0.7〜5.0、より好ましくは0.8〜3.0、更に好ましくは0.9〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に準じて、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は第十五改正日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0049】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、上記成分の他に種々の薬理活性成分や生理活性成分を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの薬理活性成分や生理活性成分として、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。
【0050】
薬理活性成分又は生理活性成分としては、具体的には、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、イプロヘプチン、マレイン酸クロルフェニラミン、トラニラスト、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸ニカリウム、アズレンスルホン酸、アラントイン、トラネキサム酸、イプシロン−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、プラノプロフェン等。
【0051】
また、本発明の点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0052】
本発明の点眼剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは水性点眼剤である。水性点眼剤とは、通常は、水を50w/v%以上、より好ましくは80w/v%以上、更に好ましくは90w/v%以上、特に好ましくは95w/v%以上含有するものを意味する。本発明の点眼剤に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第十五改正日本薬局方に基づく。
【0053】
本発明の点眼剤は、所望量の上記(a)成分、(b)成分、(c)成分、及び(d)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製され、目的に応じて種々の製剤形態をとることができるが、点眼剤の形態として、液剤、ゲル剤等が挙げられる。好ましくは液剤である。
【0054】
本発明の点眼剤は、コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む。なお、上記コンタクトレンズには、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等のあらゆるコンタクトレンズが含まれる。
【0055】
本発明の点眼剤は、刺激感の改善効果を一層高めるという観点から、1回あたりの片眼に対する点眼量が、1〜3滴であることが好ましく、1〜2滴がより好ましい。また、1回あたりの片眼に対する点眼量を容量で表すと、30〜300μLであることが好ましく、30〜200μLであることがより好ましく、30〜100μLであることが更に好ましい。
【0056】
また、本発明の点眼剤の容器としては、プラスチック製容器が好ましく、このようなプラスチック製容器の素材としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等が例示される。特に、ポリエチレンテレフタレート製容器が好ましい。
【0057】
本発明の点眼剤は、目の乾き、目の疲れ、結膜充血、目の炎症、目のかゆみ、目のかすみ等の治療に対し、有用である。また、上記(a)成分に基づいて抗ヒスタミン作用をも発揮できるので、アレルギー症状の予防又は緩和剤としても有用である。
【0058】
〔(II)点眼剤の製造方法〕
上述のように、上記(a)成分を含有する点眼剤において、上記(b)成分、(c)成分及び(d)成分を含有させることにより、眼への刺激感が改善された(a)成分含有点眼剤の製造が可能になる。
【0059】
したがって、本発明は、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤を含有させることを特徴とする、眼への刺激感が改善された塩酸ジフェンヒドラミン含有点眼剤の製造方法をも提供する。
【0060】
本発明はまた、(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、(a)成分の含有割合が全量に対して、0.01〜0.05w/v%である組成物を調製する工程を備える、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の製造方法をも提供する。この製造方法において、「組成物」とは、上述した(a)〜(d)成分、ホウ酸又はホウ砂、クエン酸又はクエン酸ナトリウム、イプシロン−アミノカプロン酸、緩衝剤、薬理活性成分や生理活性成分、各種添加物等を含む組成物を意味する。また、「組成物」は「水性組成物」であってもよく、この場合「水性組成物」は、通常水を50w/v%以上、より好ましくは80w/v%以上、更に好ましくは90w/v%以上、特に好ましくは95w/v%以上含有する。含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第十五改正日本薬局方に基づく。上記組成物を、目的に応じて種々の製剤形態に調製することにより、点眼剤を製造することができる。
【0061】
なお、これらの製造方法において、使用する(a)〜(d)成分の種類、含有割合、含有比率、その他に配合される成分の種類、含有割合、点眼剤の製剤形態や用途等については、上記「(I)点眼剤」における各成分の種類、含有割合、含有比率、点眼剤の製剤形態、点眼剤の用途等と同様である。
【0062】
〔(III)点眼剤の眼に対する刺激感を改善する改善方法〕
本発明はまた、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤を配合する、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感を改善する改善方法ということもできる。
【0063】
また、上記改善方法は、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤を含有させる、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感を改善する改善方法ということもできる。
【0064】
なお、上記改善方法において、使用する(a)〜(d)成分の種類、配合割合、含有割合、配合比率、含有比率等、その他に配合される成分の種類、配合割合、含有割合、配合比率、含有比率等、点眼剤の製剤形態や用途等については、上記「(I)点眼剤」における各成分の種類や含有割合、含有比率、点眼剤の製剤形態、点眼剤の用途等と同様である。
【0065】
〔(IV)点眼剤の保存効力の増強方法〕
上述のように、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に、上記(b)成分、(c)成分及び(d)成分を配合することにより、該点眼剤の保存効力を増強することが可能になる。
【0066】
したがって、本発明は、更に別の観点から、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤に、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤を配合することによる点眼剤の保存効力の増強方法をも提供する。
【0067】
また、上記増強方法は、更に別の観点から、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を配合することによる該点眼剤の保存効力の増強方法をも提供する。
【0068】
したがって、本発明は更に、点眼剤の成分として、点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤と、を配合する、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の保存効力の増強方法ということもできる。
【0069】
なお、上記増強方法等において、使用する(a)〜(d)成分の種類、配合割合、含有割合、配合比率、含有比率等、その他に配合される成分の種類や配合割合、含有割合、配合比率、含有比率等、点眼剤の製剤形態や用途等については、上記「(I)点眼剤」における各成分の種類や含有割合、含有比率、点眼剤の製剤形態、点眼剤の用途等と同様である。
【実施例】
【0070】
〔試験例1:刺激感の改善試験1〕
下記表1に示す処方(実施例1−1、1−2、比較例1−1〜1−5、参考例1−1)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、滅菌済のPET製点眼容器(容量15mL)に充填して無菌の点眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品を用いた。これらの点眼剤を用いてビジュアルアナログスケール(VAS)法により「刺激感(しみる感じ)」の評価を行った。具体的には、10人の被験者に上記点眼剤を点眼(1回30〜100μL)し、点眼時に感じられる「刺激感(しみる感じ)」について、それぞれ10cmの線が引いてある自覚症状調査シートを用いて、「刺激感(しみる感じ)」が感じられない場合を0cm、非常に強く感じられる場合を10cmとして、被験者が感じた刺激感(しみる感じ)の程度のところにチェックしてもらい、自覚症状の強さの程度としてこの長さ(cm)を測定し、これを刺激感(しみる感じ)のスコアとした。10名の被験者のスコア平均値を算出することにより、刺激感(しみる感じ)の評価を行った。なお、本明細書においては、「しみる感じ」について「刺激感」と表現している。
【0071】
得られた結果を表1に併せて示す。この結果から、0.01〜0.05w/v%の塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤には刺激感(しみる感じ)があることが判明した(比較例1−1及び1−2並びに参考例1−1を参照)。この塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤による刺激感(しみる感じ)は、塩酸ピリドキシンの配合(比較例1−3)、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80の配合(比較例1−4)、ポリソルベート80の配合(比較例1−5)では改善されず、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80を組み合わせて配合することではじめて、顕著に改善された(実施例1−1及び1−2)。また、比較例1−1〜1−5における刺激感(しみる感じ)は、点眼直後から30秒〜3分程度持続していた。一方、実施例1−1及び1−2における刺激感(しみる感じ)は点眼直後から30秒〜3分後であっても抑制されており、刺激感の持続的な抑制効果も確認された。
【0072】
【表1】

【0073】
〔試験例2:刺激感の改善試験2〕
下記表2に示す処方(実施例1−A、1−B、1−C、1−D、1−E、1−F、比較例1−A、1−B及び参考例1−A)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、滅菌済のPET製点眼容器(容量15mL)に充填して無菌の点眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80、マレイン酸クロルフェニラミンはそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポロクサマー407は医薬品添加物規格2003適合品を用いた。これらの点眼剤を用いて、試験例1と同様にして、ビジュアルアナログスケール(VAS)法により「刺激感(しみる感じ)」の評価を行った。
【0074】
得られた結果を表2に併せて示す。この結果から、0.05w/v%のマレイン酸クロルフェニラミンを含有する点眼剤には、刺激感(しみる感じ)は認められなかった(参考例1−A)。一方で、0.01〜0.05w/v%の塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤による刺激感は、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80を各濃度で組み合わせることで顕著に改善され(実施例1−B及び1−C)、酸性条件下(pH4.5)でもこの効果が確認された(実施例1−A)。また、(d)非イオン界面活性剤として、ポリソルベート80に代えて、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポロクサマー407を用いた場合にも同様の効果が確認された(実施例1−D、1−E及び1−F)。しかしながら、0.05w/v%を超えて塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤においては、刺激感の改善は認められなかった(比較例1−B)。また、参考例1−1の点眼剤に塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80を組み合わせて配合しても刺激感に変化は無かった(比較例1−A)。
【0075】
【表2】

【0076】
〔試験例3:刺激感の改善試験3〕
下記表3に示す処方(実施例1−G及び1−H、並びに比較例1−C及び1−D)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、滅菌済のPET製点眼容器(容量15mL)に充填して無菌の点眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品を用いた。これらの点眼剤を用いて、試験例1と同様にして、ビジュアルアナログスケール(VAS)法により「刺激感(しみる感じ)」の評価を行った。
【0077】
得られた結果を表3に併せて示す。この結果から、ホウ酸及びホウ砂に代えて、クエン酸及びクエン酸ナトリウムを配合した場合(実施例1−G及び比較例1−C)、又はイプシロン−アミノカプロン酸を配合した場合(実施例1−H及び比較例1−D)でも、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤による刺激感(しみる感じ)は、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80を組み合わせて配合することで顕著に改善された。
【0078】
【表3】

【0079】
〔試験例4:刺激感の改善試験4〕
下記表4に示す処方(比較例1−6、1−7)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、洗眼カップに充填して洗眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品を用いた。この洗眼剤を用いてビジュアルアナログスケール(VAS)法により刺激感(しみる感じ)の評価を行った。具体的には、10人の被験者に対して上記洗眼剤を用いて洗眼(1回5mL)し、洗眼時に感じられる「刺激感(しみる感じ)」について、それぞれ10cmの線が引いてある自覚症状調査シートに、「刺激感(しみる感じ)」が感じられない場合を0cm、非常に強く感じられる場合を10cmとして、被験者が感じた症状の程度のところにチェックしてもらい、自覚症状の重症度としてこの長さ(cm)を測定し、これを刺激感(しみる感じ)のスコアとした。10名の被験者のスコア平均値を算出することにより、刺激感(しみる感じ)の評価を行った。
【0080】
得られた結果を表4に併せて示す。洗眼剤の形態で処方した比較例1−6及び1−7においては、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及びポリソルベート80を組み合わせた処方であっても、刺激感(しみる感じ)は抑制されなかった。すなわち、本願発明の効果は、点眼剤の形態で処方した場合にはじめて奏される効果であり、極めて多量に眼表面や眼の周辺部に接触する洗眼剤の形態で処方した場合には、刺激感を改善する効果は得られなかった。
【0081】
【表4】

【0082】
〔試験例5:保存効力試験1〕
下記表5に記載の処方(比較例2−1及び2−2)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、滅菌済のPET製点眼容器に充填して無菌の点眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミンは第十五改正日本薬局方適合品を用いた。調製直後の点眼剤について、日本薬局方(第十五改正)に定める方法に準じて生菌数試験を行い、点眼剤の防腐性(保存効力)を評価した(調製直後品)。また、上記点眼剤を、60℃の恒温器にて5日間保存したものについても、同様に、日本薬局方(第十五改正)に定める方法に準じて生菌数試験を行い、点眼剤の防腐性を評価した(60℃保存品)。上記生菌数試験は、具体的には、以下の手順により実施した。Escherichia coli (ATCC 8739株)を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン平板培地の表面に接種して、33℃で24時間培養を行った。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約3×10CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。この細菌浮遊液に対して、下記表5に示す各点眼剤を適量添加した後に、25℃で所定期間静置した。なお、各点眼剤の添加量は、Escherichia coliの生菌数が約3×10CFU/mLとなるように算出した。その後、25℃で2日間静置した後に1mL当たりの生菌数を測定した。
【0083】
Escherichia coliについて評価した結果を表5に併せて示す。生菌数が少ないほど保存効力が高いことを示す。これらの結果から、調製直後品に菌を添加した際の2日後の生菌数と比較し、60℃保存品に菌を添加した際の2日後の生菌数のほうが増加しており、塩酸ジフェンヒドラミンのみを含有する点眼剤は、60℃5日間保存後に保存効力が低下することが判明した。
【0084】
【表5】

【0085】
〔試験例6:保存効力試験2〕
下記表6に記載の処方(実施例2−1〜2−4並びに比較例2−3及び2−4)に従い水性組成物を調製し、0.2μmメンブランフィルターにてろ過し、滅菌済のPET製点眼容器に充填して無菌の点眼剤とした。なお、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は医薬品添加物規格2003適合品を用い、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品を用いた。各点眼剤を、60℃の恒温器にて5日間保存した(60℃保存品)。その後、日本薬局方(第十五改正)に定める方法に準じて生菌数試験を行い、点眼剤の防腐性を評価した。具体的には、Escherichia coli(ATCC 8739株)を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン平板培地の表面に接種して、33℃で24時間培養を行った。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約3×10CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。この細菌浮遊液に対して、下記表6に示す各点眼剤を適量添加した後に、25℃で所定期間静置した。なお、各点眼剤の添加量は、Escherichia coliの生菌数が約3×10CFU/mLとなるように算出した。その後、25℃で2日間静置した後に1mL当たりの生菌数を測定した。
【0086】
Escherichia coliについて評価した結果を表6に併せて示す。生菌数が少ないほど保存効力が高いことを示す。試験例5に示したとおり、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤は、60℃保存後の保存効力が低下する傾向にあるが、表6の結果から、塩酸ジフェンヒドラミンと共に、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール及び非イオン性界面活性剤を配合することにより、生菌数が顕著に減少していることから、60℃保存後の点眼剤においても高い保存効力が得られ、保存効力は増強されていた。
【0087】
【表6】

【0088】
表7に記載の処方で、点眼剤(処方例1〜10)が調製される。表7の処方中、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ピリドキシン、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品が用いられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は医薬品添加物規格2003適合品が用いられ、酢酸トコフェロールは日本薬局方外医薬品規格2002適合品が用いられる。塩酸及び水酸化ナトリウムはpH調整に用いられ、点眼剤が表7に記載のpHとなるように加えられる。精製水は点眼剤の全量が100mlとなるよう加えられる。
【0089】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、
前記(a)成分の含有量が、全量に対して、0.01〜0.05w/v%である、点眼剤。
【請求項2】
更に、ホウ酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びにイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
点眼剤の成分として、
点眼剤全量に対して、0.01〜0.05w/v%の(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、
(b)ビタミンB6類、(c)ビタミンE類及び(d)非イオン界面活性剤と、を配合する、
塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の眼に対する刺激感を改善する改善方法。
【請求項4】
(a)塩酸ジフェンヒドラミンと、(b)ビタミンB6類と、(c)ビタミンE類と、(d)非イオン界面活性剤と、を含有し、前記(a)成分の含有量が全量に対して、0.01〜0.05w/v%である組成物を調製する工程を備える、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する点眼剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−10755(P2013−10755A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125991(P2012−125991)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】