説明

無効電力補償装置、無効電力補償システム、及び無効電力補償方法

【課題】需要者側で発生する電力変動を電力供給側で抑制する。
【解決手段】負荷電流ILから無効電流成分を抽出する無効電流抽出手段80と、逆相電流成分を抽出する逆相電流抽出手段85と、負荷電流IL及び連系点電圧Vsから負荷アドミッタンスの周波数特性を演算する振幅位相演算手段60と、負荷アドミッタンスの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定する周波数特定手段70と、特異周波数の周波数成分を除去するBEF90と、特異周波数の周波数成分を除去するBEF95と、BEF90の出力信号を打ち消す正相電流と、BEF95の出力信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流を負荷電流ILに加算出力する電力変換器20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要者側で発生する負荷変動を電力供給側で抑制する無効電力補償装置、無効電力補償システム、及び無効電力補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を溶解するアーク炉は、使用電力となる正相有効電流、電圧変動を引き起こす正相無効電流、あるいは、電圧不平衡を引き起こす逆相電流が頻繁に変動する。このため、アーク炉需要家のアーク炉母線に電圧フリッカが発生する。この電圧フリッカがアーク炉母線から、アーク炉用変圧器、電力会社側の上位母線、及び、一般需要家用変圧器を介して、一般需要家母線に減衰しながら伝達する。一般需要家母線の電圧フリッカを低減するために発生源であるアーク炉母線の電圧フリッカを抑制する必要がある。
例えば、特許文献1には、電源にリアクタンスを介して接続される母線と、母線に変圧器を介して接続される負荷と、母線に接続される複数のフィルタと、母線に接続されるリアクトルを介してサイリスタとを備え、母線の電圧と負荷に流れる電流とを用いて、サイリスタを位相制御して、アーク炉の無効電力変動を抑制する技術が開示されている。なお、バンドリジェクトフィルタ(BRF)を用いて、直流成分を抽出している。
また、アーク炉母線に並列接続される複数のフィルタの各々は、直列共振回路を構成するため、アーク炉電流には例えば2次フィルタ電流、3次フィルタ電流、4次フィルタ電流、及び5次フィルタ電流が含まれる。無効電力補償装置がこれらのフィルタ電流を含めてアーク炉電流を検出して、無効電力変動を打ち消すように制御すると、制御遅れの影響でこれらの共振回路への正帰還が発生し、これらの高次電流がさらに増大する問題がある。これを避けるため、無効電力補償装置は需要家側に設置され、かつフィルタ電流を含めないアーク炉電流のみを検出して、正相無効電流と逆相電流の変動を打ち消すように制御されてきた。
【特許文献1】特開平7−67321号公報(図1、段落番号0011)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
契約または設備の制約から、無効電力補償装置を従来の需要家側ではなくリアクタンス(送電線)を介した電源側(電力会社側)に設置する要求が生じている。無効電力補償装置の入力となるアーク炉電流は、並列接続された複数のフィルタ電流を含んでいるため、正帰還により高次電流が増大する問題点がある。
需要家側におけるフィルタ周波数設定値は固定値であるが、電源側あるいは需要家側の電力系統構成の影響で、電源側に設置される無効電力補償装置から見える共振点(制御不安定点)は低く見える。電力系統構成は絶えず変動するため、電源側に設置される無効電力補償装置から見える共振点(制御不安定点)が変動していくという問題点がある。なお、特許文献1の技術は、母線側(需要者側)で電圧フリッカを検出し、無効電力変動を抑制しているため問題は少ない。
【0004】
そこで、本発明は、需要者側で発生する電力変動を電力供給側で抑制することができる無効電力補償装置、無効電力補償システム、及び無効電力補償方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の無効電力補償システムは、上位系統と、インピーダンスを有する送電線と、この送電線を介して前記上位系統から送電される需要家とを備える電力系統の電圧変動を低減する無効電力補償装置を備える無効電力補償システムであって、前記無効電力補償装置は、前記送電線の前記上位系統側で測定される前記送電線に流れる負荷電流から正相電流成分を抽出する正相電流抽出手段と、前記負荷電流から逆相電流成分を抽出する逆相電流抽出手段と、前記送電線の前記上位系統側で測定した連系点電圧及び前記負荷電流から負荷アドミッタンスの周波数特性を演算する振幅位相演算手段と、前記振幅位相演算手段が演算した前記負荷アドミッタンスの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定する周波数特定手段と、前記正相電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第1フィルタと、前記逆相電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第2フィルタと、前記第1フィルタの出力信号を打ち消す正相電流と前記第2フィルタの出力信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流を前記負荷電流に加算出力する電力変換器とを備えることを特徴とする。
【0006】
これによれば、負荷電流に流れる正相電流及び逆相電流が抽出され、抽出された各電流から特定の周波数成分が除去される。そして除去された電流を打ち消すように正相電流及び逆相電流が生成され、生成された電流が補償電流として負荷電流に加算される。また、連系点電圧と負荷電流とで演算された負荷アドミッタンスの正相振幅の特異周波数が特定され、この特異周波数の周波数成分が負荷電流から抽出された正相電流及び逆相電流から除去される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、需要者側で発生する電力変動を電力供給側で抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態である無効電力補償システムの構成を説明する。
図1において、無効電力補償システム200は、送電線130及びアーク炉需要家用の変圧器Tr3を介して上位系統110と接続される無効電力補償装置100と、送電線135及び一般需要家用の変圧器Tr2A,Tr2B,Tr2Cを介して上位系統110と接続される一般需要家120と、送電線137を介してアーク炉需要家用の変圧器Tr3に接続されるアーク炉需要家150とを備えている。
【0009】
アーク炉需要家150は、アーク炉152と、共振周波数f2,f3,f4,f5のLC直列共振回路が複数並列接続されたBPF155と、送電線137から電力を受電し、アーク炉152に電力を供給する変圧器Tr4とを備えている。
アーク炉152は、鉄等の金属廃棄物に三相電圧を印加して、相間にアーク電流を流して溶解させる炉であり、溶解状態によりアークの瞬時電流が逐次変動する。また、アーク炉152には、相間の瞬時電流のバラツキにより、不平衡電流が流れ、金属廃棄物のインダクタンス成分等により、非繰り返しで不定期に電流振幅と位相が変動する。このアーク炉動作に伴い発生する連系点周波数を中心とした広い周波数範囲にわたる電流変動成分によって、アーク炉需要家150に電圧変動が発生する。この電圧変動は、変圧器Tr4、及び送電線137のリアクタンスL3を介して、無効電力補償システム200のアーク炉用母線に伝わり、さらに変圧器Tr3を介して上位母線に伝わり、一部が送電線130のリアクタンスL1を介して上位系統110に変動電流として分流し、残りが変圧器Tr2A,Tr2B,Tr2Cを介して一般需要家用母線に伝わり、さらに送電線135のリアクタンスL2を介して一般需要家120にも影響を与える。
【0010】
BPF155は、商用周波数f0(60Hz)の整数倍f2,f3,f4,f5(120Hz,180Hz,240Hz,300Hz)の共振周波数としており、アーク炉152で発生する高調波周波数の電圧ノイズをバイパスしている。
【0011】
上位系統110は、発電設備、又は変電設備が代表的である。送電線130は、長距離送電線であることが多く、複数のルートがある場合や、2回線となっている場合もある。送電線容量、発電設備容量、又は変電設備容量、または設備点検などの制約により、一日に数回の頻度で上位系統110および送電線130の切換が行われる。このとき、送電線130のリアクタンスL1が変化する。
【0012】
無効電力補償装置100は、計器用変圧器PTで検出した連系点電圧Vsと、変流器50で検出した送電線137を介してアーク炉需要家150へ流れるアーク炉電流Iを入力として、正相無効電流、逆相電流の変動成分を抽出して、これらを打ち消す補償電流Icを生成してアーク炉用母線に注入する。言い換えれば、アーク炉用母線に流れる連系電流Isは、Is=Ic+Iとなる。
【0013】
ここで、三相不平衡電力について説明する。アーク炉負荷では、三相電源に複数の周波数成分が含まれている。ここでは、そのうちの周波数成分fについて説明する。
三相電圧Vu(f),Vv(f),Vw(f)、三相電流Iu(f),Iv(f),Iw(f)としたとき、周波数成分fに対する三相電力P(f)は、
P(f)=Vu(f)・Iu(f)+Vv(f)・Iv(f)+Vw(f)・Iw(f)
=3V0(f)・I0(f)+3V1(f)・I1(f)+3V2(f)・I2(f)
であり、零相電力と正相電力と逆相電力との和となる。
なお、
零相電流I0(f)=(1/3)(Iu(f)+Iv(f)+Iw(f))、
正相電流I1(f)=(1/3)(Iu(f)+a・Iv(f)+a・Iw(f))、
逆相電流I2(f)=(1/3)(Iu(f)+a・Iv(f)+a・Iw(f))
であり、aはベクトルオペレータである。
【0014】
また、周波数成分fに対する負荷電流Iu(f),Iv(f),Iw(f)は、平衡電流と不平衡電流とに分解され、不平衡電流は逆相電流I2(f)が原因となって発生する。ここで、逆相電流I2(f)と正相電流I1(f)との比I2(f)/I1(f)は、不平衡率k(f)である。特に、三相交流平衡電流I(f)のとき、I0(f)=0,I1(f)=I,I2(f)=0となり、正相電流のみとなる。
【0015】
また、正相電流は正相有効電流と正相無効電流とに分解される。したがって、無効電力及び不平衡電力を低減するために、無効電力補償装置100は正相無効電流及び逆相電流を打ち消す補償電流Icを電力系統に注入する。
【0016】
図2において、無効電力補償装置100は、STATCOM(STATic synchronous COMpensator)もしくは自励式SVC(Static Var Compensator:静止形無効電力補償装置)ともいう。)ともいい、変圧器10と、電力変換器20と、コンデンサ30と、電流制御手段40と、振幅位相演算手段60と、振幅位相演算手段65と、周波数特定手段70と、正相電流抽出手段80と、逆相電流抽出手段85と、BEF(Band Elimination Filter)90,95と、変流器(CT)55とを備え、アーク炉用母線に無効電力を供給して連系点電圧Vsを安定化する。なお、電流制御手段40と振幅位相演算手段60と振幅位相演算手段65と周波数特定手段70と正相電流抽出手段80と逆相電流抽出手段85とBEF90,95とは、図示しないCPU,ROM,RAM等を用いたコンピュータ及びプログラムによって機能する。
【0017】
変圧器10と電力変換器20とコンデンサ30とは、電力変換器20のスイッチタイミングを制御することにより、コンデンサ30の直流電圧を加工して交流電圧として出力し、正相無効電流と逆相電流を調整する。なお、電力変換器20は、自励式変換器であり、系統側のAC電圧の歪に無関係に運転することができるので、補償電力供給能力の制約が少ない。また、自励式SVCは、進相コンデンサが不用であるので、他励式SVCに比較して設置スペースが小さいという利点がある。また、電力変換器20は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体制御素子を用いて構成されるが、GTO(Gate Turn-Off thyristor)、IEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)等を用いることもできる。
【0018】
電流制御手段40は、アーク炉電流ILの正相無効電流成分と逆相電流成分とに基づいて、電力変換器20のスイッチタイミングを制御する。
【0019】
正相電流抽出手段80は、アーク炉電流ILから正相無効電流を抽出する。具体的には、アーク炉電流ILから振幅位相演算手段60が演算した連系点周波数における位相特性の値θを用いてsinθを乗算して正相無効電流を演算する。BEF90は、正相電流抽出手段80が出力する正相無効電流信号から設定された周波数成分を除去する。逆相電流抽出手段85は、系統電流Isから逆相電流を抽出する。例えば、逆相電流I2を
I2=(1/3)(Iu+a・Iv+a・Iw)
を用いて演算する。BEF95は、逆相電流抽出手段85が出力する逆相電流信号から設定された一つあるいは複数の周波数成分を除去する。
【0020】
振幅位相演算手段60は、連系点電圧Vs及びアーク炉電流Iを用いて負荷アドミッタンスのボード線図を演算する。すなわち、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsをそれぞれ周波数解析して、n次(測定窓が10sならば、1次=1/10s=0.1Hz)周波数成分を求め、アーク炉電流n次成分を連系点電圧n次成分で除してn次成分負荷アドミッタンスYarc(n)を演算し、この負荷アドミッタンスYarc(n)の振幅と位相との周波数特性を演算する。
【0021】
具体的には、図3及び図4の構成図において、振幅位相演算手段60は、αβ変換手段310,315と、波形メモリ312,313,317,318と、FFT320,322,324,326と、正相演算手段330,335と、、逆相演算手段370,375と、振幅位相分離手段340,345,380,385と、除算器350,355と、加算器360,365とを備える。
【0022】
αβ変換手段310は、(1)式、及び(2)式に基づいて三相の連系点電圧Vs(Vsu,Vsv,Vsw)を用いてα相電圧Vsaとβ相電圧Vsbとを出力する。
Vsa=Vsu・2/3−Vsv/3−Vsw/3 (1)
Vsb=Vsu/√3−Vsw/√3 (2)
【0023】
αβ変換手段315は、(3)式(4)式に基づいて三相のアーク炉電流I(Iarcu,Iarcv,Iarcw)を用いてa相電流Iarcaとb電流Iarcbとを出力する。
Iarca=Iarcu・2/3−Iarcv/3−Iarcw/3 (3)
Iarcb=Iarcu/√3−Iarcw/√3 (4)
【0024】
波形メモリ312,313,317,318は、10秒間のα相電圧Vsa、β相電圧Vsb、電流a相電流Iarca、及びb電流Iarcbを各々記憶する。
【0025】
FFT変換手段320,322,324,326は、α相電圧Vsa、β相電圧Vsb、α相電流Iarca、β相電流Iarcbを、高速フーリエ変換するものであり、各々正弦波成分Vsas,Vsbs,Iarcas,Iarcbsと余弦波成分Vsac,Vsbc,Iarcac,Iarcbcとに分解する。なお、検出分解能を0.1Hzに想定すると、判定に必要なサンプリング期間はT=1/0.1Hz=10秒となる。
【0026】
関数f(t)のn次FFTの一般式は、次の式(5)及び式(6)で表せる。
【数1】

【0027】
正相演算手段330は、FFT変換された連系点電圧Vsas(n),Vsbs(n),Vsac(n),Vsbc(n)を、正相電圧Vsd(正)(n),Vsq(正)(n)に変換するものである。
正相演算手段335は、FFT変換されたアーク炉電流Iarcas(n),Iarcbs(n),Iarcac(n),Iarcbc(n)を、正相電流Iarcd(正)(n),Iarcq(正)(n)に変換するものである。
【0028】
振幅位相分離手段340は、正相電圧Vsd(正)(n),Vsq(正)(n)を正相振幅と正相位相とに分離するものであり、次式によって演算される。
Vs正相振幅(n)=√{Vsd(正)(n)+Vsq(正)(n)
Vs正相位相(n)=tan−1{Vsd(正)(n)/Vsq(正)(n)}
【0029】
振幅位相分離手段345は、正相電流Iarcd(正),Iarcq(正)を正相振幅と正相位相とに分離するものであり、次式によって演算される。
Iarc正相振幅(n)=√{Iarcd(正)(n)+Iarcq(正)(n)
Iarc正相位相(n)=tan−1{Iarcd(正)(n)/Iarcq(正)(n)}
【0030】
除算器350は、Iarc正相振幅(n)をVs正相振幅(n)で除することによって、負荷アドミッタンスYarc(n)の正相振幅(n)を演算する。また、加算器360は、Iarc正相位相(n)からVs正相位相(n)を減じることによって、負荷アドミッタンスYarc正相位相(n)を演算する。
【0031】
逆相演算手段370は、FFT変換された連系点電圧Vsas(n),Vsbs(n),Vsac(n),Vsbc(n)を、dqベクトル変換された正相電圧Vsd(逆)(n),Vsq(逆)(n)に変換するものである。また、正相演算手段375は、FFT変換されたアーク炉電流Iarcas(n),Iarcbs(n),Iarcac(n),Iarcbc(n)を、dqベクトル変換された正相電流Iarcd(逆)(n),Iarcq(逆)(n)に変換するものである。
【0032】
振幅位相分離手段380は、dqベクトル変換された逆相電圧Vsd(逆)(n),Vsq(逆)(n)を逆相振幅と逆相位相とに分離するものであり、次式によって演算される。
Vs逆相振幅(n)=√{Vsd(逆)(n)+Vsq(逆)(n)
Vs逆相位相(n)=tan−1{Vsd(逆)(n)/Vsq(逆)(n)}
【0033】
振幅位相分離手段385は、dqベクトル変換された逆相電流Iarcd(逆)(n),Iarcq(逆)(n)を逆相振幅と逆相位相とに分離するものであり、次式によって演算される。
Iarc逆相振幅(n)=√{Iarcd(逆)(n)+Iarcq(逆)(n)
Iarc逆相位相(n)=tan−1{Iarcd(逆)(n)/Iarcq(逆)(n)}
【0034】
除算器355は、Iarc逆相振幅(n)をVs逆相振幅(n)で除することによって、負荷アドミッタンスYarc逆相振幅(n)を演算する。また、加算器365は、Iarc逆相位相(n)からVs逆相位相(n)を減じることによって、負荷アドミッタンスYarcの逆相位相(n)を演算する。
【0035】
ここで、図5を参照して、電力系統の負荷アドミッタンスYarcについて補足する。
図5(a)は無効電力補償システム200の等価回路であり、図5(b)はこの等価回路のテブナン等価回路である。
図5(a)において、無効電力補償装置100と上位系統110とアーク炉に並列接続されることがある他励式の無効電力補償装置の交流源152とには、各々等価的なインダクタンスZ1,Z2,Z3が接続され、これらのインダクタンスZ1,Z2,Z3の接続点をノードAとしている。なお、アーク炉152にはBPF155が接続されている。
【0036】
ここで、ノードAの電位Vを重ね合わせの定理を用いて算出する。
=(Z2//Z3’)/{(Z2//Z3’)+Z1}・V1+(Z1//Z3’)/{(Z1//Z3’)+Z2}・V2+(Z1//Z2)/{(Z1//Z2)+Z3’}・V3
ここで、a,bを整数として、(Za//Zb)=Za・Zb/(Za+Zb)であり、Z3’はZ3とアーク炉の等価抵抗とBPF155との合成インピーダンスである。
【0037】
図5(b)のテブナン等価回路においては、この電位Vがテブナン電源Vsとして記載されている。また、交流源V1,V2,V3を接地して求めるA点におけるテブナン抵抗は、各インピーダンスZ1,Z2,Z3’(図5(a))の並列回路である。本実施形態においては、A点の電位を連系点電圧Vsと負荷電流であるアーク炉電流Iとを測定して、アーク炉152のアドミッタンスYを演算している。なお、後記するように連系点電圧Vsと補償電流Icとで、無効電力補償装置100の装置アドミッタンスも演算している。
【0038】
周波数特定手段70は、振幅位相演算手段60が演算したアドミッタンスYの振幅と位相とから特異点の周波数を一つあるいは複数特定する。
図6(a)はアーク炉電流Iに基づいた負荷アドミッタンスYarcの正相振幅の周波数特性であり、縦軸が規格化した振幅[pu]であり、横軸が周波数[Hz]である。図6(b)は正相位相の周波数特性であり、縦軸が位相[°]であり、横軸が周波数[Hz]である。
【0039】
図6(a)において、正相振幅が10[pu]以上の周波数は、101.8Hz、104.9Hz、163,5Hz、212.9Hzであり、これらの共振周波数がアーク炉のフィルタ共振周波数と推定される。
また、図6(b)に示される正相位相特性は、位相変化点が多く共振周波数の特定が困難である。
【0040】
図7(a)はアーク炉電流Iに基づいたアドミッタンスYarcの逆相振幅の周波数特性であり、縦軸が規格化した振幅[pu]であり、横軸が周波数[Hz]である。図6(b)は逆相位相の周波数特性であり、縦軸が位相[°]であり、横軸が周波数[Hz]である。10[pu]以上の逆相振幅は発生していないので、共振周波数として特定されない。なお、逆相振幅が10[pu]以下の周波数101.8Hz、104.9Hz、109.5Hz、140.4Hz、154.3Hz、160.5Hz、163.5Hzの共振周波数が存在する。すなわち、正相振幅から推定された共振周波数と同一の周波数成分が含まれている。なお、図6(b)に示される逆相位相特性も位相変化点が多く、共振周波数の特定が困難である。
【0041】
すなわち、周波数特定手段70(図2)は、図6(a)に示される正相振幅特性を用いて、特定された共振周波数fV2,fV3,fV4,fI2,fI3,fI4をBEF90,95(図2)に設定する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、上位系統110からインピーダンスを有する送電線130を介してアーク炉需要家150に送電する電力系統の電圧変動を低減する無効電力補償装置100は、上位系統110側で測定される送電線130に流れるアーク炉電流Iから無効電流成分を抽出し、無効電流成分の信号から特定周波数の周波数成分を除去し、上位系統110側で測定した連系点電圧Vs及びアーク炉電流Iから負荷アドミッタンスYarcの周波数特性を演算し、負荷アドミッタンスYarcの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定し、特定周波数(単数あるいは複数の特異周波数)の周波数成分を除去した無効電流成分の信号を打ち消す正相電流と特定周波数(単数あるいは複数の特異周波数)の周波数成分を除去した逆相電流成分の信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流Icをアーク炉電流Iに加算出力する。これにより、送電線よりも上位系統110側で無効電流(正相電流)及び逆相電流を補償することができる。
【0043】
(第2実施形態)
第1実施形態では、アーク炉電流Iを用いて演算したアーク炉正相アドミッタンス振幅を用いたが、これに加えて、アーク炉電流Iを用いて演算したアーク炉逆相アドミッタンス振幅を用いて演算した負荷アドミッタンス逆相振幅を考慮して共振周波数を特定することができる。
【0044】
この第2実施形態の無効電力補償装置の構成は第1実施形態と同様であるが、周波数特定方法が異なる。この周波数特定方法を図9のフローチャートを参照して説明する。
まず、振幅位相演算手段60は、第1実施形態と同様に、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsとを10秒間記録して、(S10)、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsとを用いて、アーク炉アドミッタンス正相振幅(Yarc正相振幅)を演算して(S20)、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsとを用いて、アーク炉アドミッタンス逆相振幅(Yarc逆相振幅)を演算する(S30)。
【0045】
そして、周波数特定手段70は、Yarc正相振幅が所定値10[pu]以上の周波数101.8Hz、104.9Hz、163.5Hz、212.9Hzを特定し、Yarc逆相振幅が他の所定値5[pu]以上の周波数101.8Hz、104.9Hz、109.5Hz、140.4Hz、154.3Hz、160.5Hz、163.5Hzを特定する(S40)。さらに、周波数特定手段70は、双方の共通周波数である101.8Hz、104.9Hz、163.5Hzを特定し、この特定周波数に基づいた周波数(重複周波数)をBEF90,95に設定する(S50)。そしてこのルーチンが終了する。これにより、Yarc正相振幅で特定された周波数212.9Hzが除去される。
【0046】
(第3実施形態)
第1実施形態では、アーク炉電流Iを用いて演算したアーク炉正相アドミッタンス振幅を用いたが、これに加えて、無効電力補償装置100の補償電流Icを用いて演算した負荷アドミッタンス正相振幅を考慮して共振周波数を特定することができる。
【0047】
この第3実施形態の無効電力補償装置の構成は第1実施形態と同様であるが、周波数特定方法が異なる。この周波数特定方法を図10のフローチャートを参照して説明する。
まず、振幅位相演算手段60は、第1実施形態と同様に、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsとを10秒間記録して、(S110)、アーク炉電流Iと連系点電圧Vsとを用いて、アーク炉アドミッタンス正相振幅(Yarc正相振幅)を演算する(S120)。
さらに、振幅位相演算手段65は、補償電流Icと連系点電圧Vsとを10秒間記録して(S110)、補償電流Icと連系点電圧Vsとを用いて、無効電力補償装置100の装置アドミッタンス正相振幅(Yinv正相振幅)を演算する(S130)。
【0048】
そして、周波数特定手段70は、Yarc正相振幅が10[pu]以上の周波数101.8Hz、104.9Hz、163.5Hz、212.9Hzを特定し、Yinv正相振幅が20[pu]以上の周波数104.9Hz、141.9Hz、163.5Hz、212.9Hzを特定する(S140)。さらに、周波数特定手段70は、双方の共通周波数である104.9Hz、163.5Hz、212.9Hzを特定し、この特定周波数に基づいた周波数(重複周波数)をBEF90,95に設定する(S150)。そしてこのルーチンが終了する。これにより、Yarc正相振幅で特定された周波数101.8Hzが除去される。
【0049】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記各実施形態は、無効電流(正相)のBEF90と逆相のBEF95とで周波数設定を共通にしたが、何れかのBEFを削除する場合もある。
102HzがLC共振周波数である場合では、102Hz−60Hz=42Hzの正相用のBEF90と、102Hz+60Hz=162Hzの逆相用のBEF95とが原理的に必要であるが、例えば、42Hzの正相用のBEF90のみで十分な場合もある。
(2)前記各実施形態は、正相アドミッタンス、あるいは逆相アドミッタンスを演算したが、正相インピーダンス、あるいは逆相インピーダンスを演算しても、これらは正相アドミッタンス、あるいは逆相アドミッタンスの逆数とみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態である無効電力補償システムの構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態である無効電力補償装置の構成図である。
【図3】振幅位相演算手段の一の構成図である。
【図4】振幅位相演算手段の他の構成図である。
【図5】無効電力補償システムの等価回路である。
【図6】アーク炉正相振幅、及び正相位相の周波数特性を示す図である。
【図7】アーク炉逆相振幅、及び逆相位相の周波数特性を示す図である。
【図8】無効電力補償装置の正相振幅の周波数特性を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態のフィルタ周波数を特定する方法を示すフローチャート
【図10】本発明の第3実施形態のフィルタ周波数を特定する方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 変成器
20 電力変換器
30 コンデンサ
40 電流制御手段
50 変流器
55 変流器
60 振幅位相演算手段
65 振幅位相演算手段
70 周波数特定手段
80 無効電流抽出手段
85 逆相電流抽出手段
90,95 BEF
100 無効電力補償装置
110 上位系統
120 一般需要家
130,135 送電線
150 アーク炉需要家
152 アーク炉
155 BPF
200 無効電力補償システム
310,315 αβ変換手段
320,322,324,326 FFT変換手段
330,335 正相演算手段
340,345,380,385 振幅位相分離手段
350,355 除算器
360,365 加算器
370,375 逆相演算手段

PT 変成器
CT 変流器
Tr2A,Tr2B,Tr2C,Tr3,Tr4 変圧器
f2,f3,f4,fV2,fV3,fV4、fI2,fI3,fI4 共振周波数
IL アーク炉電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に流れる負荷電流から正相電流成分を抽出する正相電流抽出手段と、
前記負荷電流から逆相電流成分を抽出する逆相電流抽出手段と、
前記負荷電流及び連系点電圧から負荷アドミッタンスの周波数特性を演算する振幅位相演算手段と、
前記振幅位相演算手段が演算した前記負荷アドミッタンスの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定する周波数特定手段と、
前記正相電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第1のフィルタと、
前記逆相電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第2のフィルタと、
前記第1のフィルタの出力信号を打ち消す正相電流と、前記第2のフィルタの出力信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流を前記負荷電流に加算出力する電力変換器とを備えることを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項2】
前記振幅位相演算手段は、前記負荷アドミッタンスの正相振幅の周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記正相振幅が所定値以上の特異周波数を複数選定し、この選定された特異周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項1に記載の無効電力補償装置。
【請求項3】
前記振幅位相演算手段は、前記負荷電流及び前記連系点電圧から前記負荷アドミッタンスの逆相振幅と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅との周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記負荷アドミッタンスの逆相振幅が所定値以上の第1特異周波数と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第2特異周波数とを選定し、
前記第1特異周波数と前記第2特異周波数との共通周波数を複数特定し、この特定された複数の共通周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項1に記載の無効電力補償装置。
【請求項4】
前記振幅位相演算手段は、前記補償電流及び前記連系点電圧から装置アドミッタンスの正相振幅と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅との周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記装置アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第1特異周波数と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第2特異周波数とを選定し、
前記第1特異周波数と前記第2特異周波数との共通周波数を複数特定し、この特定された複数の共通周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項1に記載の無効電力補償装置。
【請求項5】
上位系統と、インピーダンスを有する送電線と、この送電線を介して前記上位系統から送電される需要家と、これらからなる電力系統の電圧変動を低減する無効電力補償装置とを備える無効電力補償システムであって、
前記無効電力補償装置は、
前記送電線の前記上位系統側で測定される前記送電線に流れる負荷電流から正相電流成分を抽出する正相電流抽出手段と、
前記負荷電流から逆相電流成分を抽出する逆相電流抽出手段と、
前記送電線の前記上位系統側で測定した連系点電圧及び前記負荷電流から負荷アドミッタンスの周波数特性を演算する振幅位相演算手段と、
前記振幅位相演算手段が演算した前記負荷アドミッタンスの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定する周波数特定手段と、
前記無効電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第1のフィルタと、
前記逆相電流抽出手段の出力信号から前記特異周波数の周波数成分を除去する第2のフィルタと、
前記第1のフィルタの出力信号を打ち消す正相電流と前記第2のフィルタの出力信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流を前記負荷電流に加算出力する電力変換器とを備えることを特徴とする無効電力補償システム。
【請求項6】
前記需要家は、アーク炉と、このアーク炉に並列接続され、商用周波数の高調波周波数を共振周波数とする帯域フィルタとを備え、
前記周波数特定手段で特定される特定周波数と前記商用周波数の高調波周波数との差が前記電力系統によって生じることを特徴とする請求項5に記載の無効電力補償システム。
【請求項7】
前記振幅位相演算手段は、前記負荷アドミッタンスの正相振幅の周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記正相振幅が所定値以上の特異周波数を複数選定し、この選定された特異周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の無効電力補償システム。
【請求項8】
前記振幅位相演算手段は、前記負荷電流及び前記連系点電圧から負荷アドミッタンスの逆相振幅と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅との周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記負荷アドミッタンスの逆相振幅が所定値以上の第1特異周波数と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第2特異周波数とを選定し、
前記第1特異周波数と前記第2特異周波数との共通周波数を複数特定し、この特定された複数の共通周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の無効電力補償システム。
【請求項9】
前記振幅位相演算手段は、前記補償電流及び前記連系点電圧から装置アドミッタンスの正相振幅と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅との周波数特性を演算し、
前記周波数特定手段は、前記装置アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第1特異周波数と、前記負荷アドミッタンスの正相振幅が所定値以上の第2特異周波数とを選定し、
前記第1特異周波数と前記第2特異周波数との共通周波数を複数特定し、この特定された複数の共通周波数を前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに設定することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の無効電力補償システム。
【請求項10】
前記無効電力補償装置は、前記電力変換器が変圧器を介して補償電流を前記負荷電流に加算出力することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の無効電力補償システム。
【請求項11】
上位系統と、インピーダンスを有する送電線と、この送電線を介して前記上位系統から送電される需要家とを備える電力系統の電圧変動を低減する無効電力補償装置の無効電力補償方法であって、
前記無効電力補償装置は、
前記送電線の前記上位系統側で測定される前記送電線に流れる負荷電流から正相電流成分と逆相電流成分とを抽出するステップと、
前記送電線の前記上位系統側で測定した連系点電圧及び前記負荷電流から負荷アドミッタンスの周波数特性を演算するステップと、
前記負荷アドミッタンスの振幅特性と位相特性とから特異周波数を特定するステップと、
前記正相電流成分の信号、及び前記逆相電流成分の信号から前記特異周波数の周波数成分を除去するステップと、
前記特異周波数の周波数成分を除去した正相電流成分の信号を打ち消す正相電流と前記特異周波数の周波数成分を除去した逆相電流成分の信号を打ち消す逆相電流とからなる補償電流を前記負荷電流に加算出力するステップとを実行することを特徴とする無効電力補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−199853(P2008−199853A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35144(P2007−35144)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】