説明

無指向性アレイアンテナ

【課題】垂直面指向性におけるグレーチングローブを抑制しつつ無指向性アレイアンテナを実現し、アンテナ全体構造を簡素化する。
【解決手段】鉛直方向に配列された2n個の放射素子を有する無指向性アレイアンテナであって、前記2n個の放射素子のうち、1〜n番目の放射素子は同一鉛直軸上に配列され、n+1〜2n番目の放射素子は前記同一鉛直軸上とは独立した同一鉛直軸上に配列され、前記1〜n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て同じ方向になるよう給電され、前記n+1〜2n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て前記1〜n番目の放射素子と逆方向になるよう給電されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射素子を鉛直方向に複数並べた無指向性アレイアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信、特に携帯電話通信に使用されている無指向性アレイアンテナは、水平面指向性において均一な指向性利得特性が必要とされる。また、他セル干渉を抑制するために、垂直面指向性において所望としない角度への放射(サイドローブ)を抑制する必要がある。これらを実現する方法として、誘電体基板に形成されたダイポールアンテナ素子を互いに逆向きに配置し、さらに前記ダイポールアンテナ素子を形成した複数枚の基板を、基板毎に異なる角度の向きに配置することにより不要な垂直面指向性サイドローブを抑制している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−266484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にダイポールアンテナは無指向性であるが、前記特許文献1のようにプリント基板にてダイポールアンテナ素子を形成した場合(このように形成したものはプリントダイポールアンテナと呼ばれている)、素子後方に基板グランドがあるため指向性が出てしまう。すなわち、プリントダイポールアンテナにおいては、素子後方のグランドによって、素子から放射された電波の一部が反射される。このため、プリントダイポールアンテナではわずかに指向性が出てしまう。
【0005】
したがって、図2のような垂直面指向性を実現しようとした場合、特許文献1と同様にダイポールアンテナ素子互いに逆向きに配置した無指向性アレイアンテナを考えると、素子単体の指向性のため、電気的には素子配置間隔の2倍の素子間隔で配置したアレイアンテナに見え、その結果、図3のように垂直面指向性において水平方向から±40〜±60度の方向にグレーチングローブ5が発生する。このグレーチングローブ5は、メインローブと1波長以上ずれたところで波の合成が起こって発生するものである。
【0006】
アンテナが対象とするエリアや方向以外に電波が放射されると、他の無線局に妨害を及ぼすことになるため、対象とするエリアや方向以外への電波の放射はできるだけ抑制する必要がある。例えば、このグレーチングローブは、天空45度方向に電波が放射されることになるが、比較的低いところに設置されることが多いPHSの基地局アンテナからグレーチングローブが出た場合、PHSの基地局の周囲にある当該基地局よりも高い高層ビルにおける電波の送受信に影響を及ぼすこととなる。このような高層ビルでは、ビル内にアンテナが設置されていることが多いからである。したがって、このグレーチングローブを抑制する必要がある。その対策として前記特許文献1のアンテナ構造において、上下に配置した複数の放射素子の水平角度方向を異ならせること(特許文献1の図2、図4)によりそれぞれの水平面指向性を重畳させて各放射素子のレベル差を均して抑制する方法もあり得る。しかし、この方法を用いると、アンテナの構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、前記特許文献1のアンテナ構造において、上下に配置した複数の放射素子の水平角度方向を異ならせることによりそれぞれの水平面指向性を重畳させて各放射素子のレベ
ル差を均して制御する方法を採用した場合、アンテナ素子、及び素子給電のための分岐回路を有するマイクロストリップラインをプリント基板で形成するとき、アンテナ外形を細径化しようとすると、プリント基板に対してアンテナ素子面積が基板を占有する比率が大きくなるため、給電のためのマイクロストリップラインの自由度がなくなる。その結果、素子数が多い場合はマイクロストリップラインの配置が不可能となる。その対策としてアンテナ素子とマイクロストリップラインとを分けて異なるプリント基板上に形成する構造にしたり、プリント基板上にマイクロストリップラインが配置できない部分は同軸ケーブルを使用して給電したりする方法もあり得る。しかし、この方法を用いると、アンテナ構造そのものが機械的に複雑になる問題がある。
【0008】
さらに、素子とマイクロストリップラインとを分けた構造にしたり、同軸ケーブルを使用して給電したりすると、分岐回路とアンテナ素子との構造上の位置関係によっては水平面指向性の偏差が悪化するという問題もある。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、簡単な構造でありながら、水平面指向性の偏差を悪化させることなく、垂直面指向性におけるグレーチングローブを抑制することが可能な無指向性アレイアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、鉛直方向に配列された2n個の放射素子を有する無指向性アレイアンテナであって、前記2n個の放射素子のうち、1〜n番目の放射素子は同一鉛直軸上に配列され、n+1〜2n番目の放射素子は前記同一鉛直軸上とは独立した同一鉛直軸上に配列され、前記1〜n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て同じ方向になるよう給電され、前記n+1〜2n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て前記1〜n番目の放射素子と逆方向になるよう給電されていることを特徴とする無指向性アレイアンテナが提供される。
【0011】
この場合、前記2n個の放射素子の配列の中央部に設けられた1つの給電点と、該給電点に対してT分岐によりトーナメント状に接続された給電線であって、前記給電線のT分岐の端末部に前記1〜n番目の放射素子と前記n+1〜2n番目の放射素子とが接続され、前記給電点に供給された入力電力を前記給電線にて複数の出力電力に分配し、前記各出力電力を前記2n個の放射素子にそれぞれ供給する給電線とを有することが好ましい。
【0012】
また、前記放射素子は、半波長ダイポールアンテナであることが好ましい。
【0013】
また、誘電体基板の一方の面に前記放射素子とグランドとが形成され、前記誘電体基板の他方の面に前記放射素子へ給電するための給電線が形成されていることが好ましい。
【0014】
さらに、前記1〜n番目の放射素子と前記n+1〜2n番目の放射素子とが共通の同一鉛直軸上に配列されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な構造でありながら、水平面指向性の偏差を悪化させることなく、垂直面指向性におけるグレーチングローブを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における無指向性アレイアンテナの概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態における無指向性アレイアンテナの垂直面指向性の設計例を示す特性図である。
【図3】従来例における無指向性アレイアンテナの垂直面指向性を示す特性図である。
【図4】本発明の一実施の形態における無指向性アレイアンテナの垂直面指向性の特性図である。
【図5】本発明の実施の形態と従来例の無指向性アレイアンテナを比較した概念図であり、(a)は一実施の形態、(b)は他の実施の形態、(c)は従来例をそれぞれ示す。
【図6】本発明の具体例の無指向性アレイアンテナの構成図であって、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【図7】本発明の具体例の無指向性アレイアンテナの要部拡大図であって、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【図8】図4の特性図を求めるための無指向性アレイアンテナのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[一実施の形態]
以下、本発明の一実施形態を図1を用いて説明する。
【0018】
本実施の形態の無指向性アレイアンテナは、鉛直方向に配列された2n個の放射素子を有する。放射素子はアンテナの形状、偏波に依らない。放射素子はダイポールアンテナでもよいし、逆Fアンテナでもよい。また、垂直偏波を放射する放射素子でもよいし水平偏波を放射する放射素子でもよい。また、放射素子は誘電体基板などのプリント基板を使用した放射素子でもよいし、金属板を使用した放射素子でもよい。
【0019】
図1に示すように実施の形態では、8個の放射素子102a〜102hがアレイ状に配列され、これらの放射素子102a〜102hは誘電体基板100を使用した半波長ダイポールアンテナである。放射素子が半波長ダイポールアンテナであると、水平面指向性が基本的に無指向性であるため、より確実に無指向性を確保できる。なお、図1において、誘電体基板100の鉛直方向の中心軸を通る仮想線を鉛直軸線Cとし、この鉛直軸線Cを基準として、誘電体基板100の左方向をアンテナの前方向とし、右方向をアンテナの後方向とする。また、誘電体基板100の鉛直方向を上下方向とする。
【0020】
2n個の放射素子のうち、1〜n番目の放射素子は同一鉛直軸上に配列されると共に、n+1〜2n番目の放射素子は同一鉛直軸上とは独立した同一鉛直軸上に配列されている。実施の形態によっては、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とが共通の同一鉛直軸上に配列されている場合もある。
【0021】
図1に示す実施の形態では、1〜4番目の放射素子(ダイポールアンテナ)102a〜102dと、5〜8番目の放射素子(ダイポールアンテナ)102e〜102hとが、誘電体基板100の同一平面上で、且つ共通の同一鉛直軸C上に配列されている。2n個の放射素子が誘電体基板の同一平面上に配列されていることにより、複数枚の基板を異なる角度の向きに配置するものと比べてアンテナ全体構造が簡素化できる。また、1〜4番目のダイポールアンテナと5〜8番目のダイポールアンテナとが共通の同一鉛直軸上に配列されていることにより、1〜4番目のダイポールアンテナが配列された鉛直軸と5〜8番目のダイポールアンテナが配列された鉛直軸との鉛直軸間距離がゼロとなるので、配置鉛直軸間距離に起因した電磁波が放射されず、グレーチングローブの発生をより確実に抑制できる。なお、ダイポールアンテナ素子同士の素子配置間隔を0.6λとすると指向性が形成しやすいので良い。
【0022】
また、1〜n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て同じ方向になるよう給電され、n+1〜2n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て1〜n番目の放射素子と逆方向になるよう給電されている。図1に示す実施の形態では、1〜4番目のダイポールアンテナ
102a〜102dは、それらの放射方向が全て前方向を向くように配列され給電されている。5〜8番目のダイポールアンテナ102e〜102hは、それらの放射方向が全て後方向を向くように配列され給電されている。
【0023】
このように実施の形態の2n個の放射素子は、1〜n番目の放射素子と、n+1〜2n番目の放射素子との2ブロックに分割され、それらのブロックの放射方向を互いに逆方向にしたものである。したがって、ブロック内の放射素子の放射方向はそれぞれ同じ方向になるよう配列されており、1放射素子ごとに放射方向が逆方向配置となっていないため、隣り合う素子との放射電力差が無くなり、グレーチングローブの発生を確実に抑制できる。また、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とは、放射方向が互いに逆方向になるよう配列されているので、1放射素子ごとに放射方向を逆にして無指向性を確保したのと同等の無指向性を確保することができる。なお、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子との境界に位置する放射素子間(図示例ではダイポールアンテナ102d、102e間)だけは放射方向が互いに逆方向になってしまい電力差ができてしまうが、1放射素子ごとに放射方向を互い違いに配列した場合のようなレベルの垂直面指向性グレーチンググローブは発生しない。
【0024】
2n個の放射素子に給電するために、無指向性アレイアンテナは、2n個の放射素子配列の中央部(4番目(n番目)のダイポールアンテナ102dと5番目(n+1番目)のダイポールアンテナ102eとの間)に1つの給電点を設けている。このように中央給電としているのは、入力から見た全ての素子に対する伝送線路長を等しくすることができ、その結果、伝送線路の周波数特性がフラットで周波数に依存し難く、比較的広い帯域でサイドローブを抑制した垂直面指向性設計が可能となるからである。
【0025】
また、無指向性アレイアンテナは、給電点に対してT分岐によりトーナメント状に接続された給電線を有している。この給電線は、その給電線のT分岐の端末部に1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とが接続され、給電点に供給された入力電力を給電線にて複数の出力電力に分配し、各出力電力を前記2n個の放射素子にそれぞれ供給するようになっている。
【0026】
図1の実施の形態では、1つの給電点104は、8個のダイポールアンテナ102a〜102hの配列の中央部に設けられている。給電線103は、給電点104に対してT分岐によりトーナメント状に接続されて構成されている。給電線103は、給電点104で二分岐され、一方の分岐給電線103aは1番目〜4番目のダイポールアンテナ102a〜102dに接続させるために上方に延び、他方の分岐給電線103bは5番目〜8番目のダイポールアンテナ102e〜102hに接続させるために下方に延びている。
【0027】
誘電体基板100の上方において、一方の分岐給電線103aは、2番目のダイポールアンテナ102bと3番目のダイポールアンテナ102cとの中間位置でT分岐(105)し、さらに1番目のダイポールアンテナ102aと2番目のダイポールアンテナ102bとの中間位置、及び3番目のダイポールアンテナ102cと4番目のダイポールアンテナ102dとの中間位置でそれぞれT分岐(106、107)する。誘電体基板100の下方において、他方の分岐給電線103bは、6番目のダイポールアンテナ102fと7番目のダイポールアンテナ102gとの中間位置でT分岐(115)し、さらに5番目のダイポールアンテナ102eと6番目のダイポールアンテナ102fとの中間位置、及び7番目のダイポールアンテナ102gと8番目のダイポールアンテナ102hとの中間位置でそれぞれT分岐(116、117)する。
【0028】
この給電線103の上方の2回目のT分岐(106、107)の端末部120a〜120dに1番目〜4番目のダイポールアンテナ102a〜102dが接続される。また下方
の2回目のT分岐(116、117)の端末部120e〜120hに5番目〜8n番目のダイポールアンテナ102e〜102hが接続される。これにより、前記給電点104に供給された入力電力を給電線103にて複数の出力電力にトーナメント状に分配し、前記各出力電力を前記8個のダイポールアンテナ102a〜102hにそれぞれ供給するようになっている。
【0029】
このようにトーナメント状に接続された給電線のT分岐端末部に1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とを接続するようにしたので、簡単な構造で1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子との放射方向を互いに逆方向になるよう配列するのが容易になり、サイドローブの抑制をより確実に行うことができる。
【0030】
図1は概念図であるため、誘電体基板の表裏の関係を明確に示していないが、誘電体基板の一方の面に放射素子と該放射素子に接続されたグランドとが形成され、誘電体基板の他方の面に放射素子へ給電するための給電線が形成されていることが好ましい。また、誘電体基板の一方の面に放射素子が形成され、誘電体基板の他方の面に給電線が形成されていると、誘電体基板面に対して放射素子面積が基板を占有する比率が大きくなっても、あるいは放射素子数が多くなっても、誘電体基板の他方の面に給電線を形成配置することが可能となる。したがって、アンテナ外径の細径化が容易になる。
【0031】
次に、図4に、本実施の形態に係る無指向性アレイアンテナを使用した場合の垂直面指向性の計算結果を示す。ただし、計算条件は、図3の従来例の無指向性アレイアンテナの計算と同様である。すなわち、無指向性アレイアンテナは、12素子アレーアンテナをモデルとし、そのモデル及び寸法は図8に示す。また、計算条件は下記の通りである。なお、図8は、図1、図5(a)、(b)、及び図6に対応する。また、図8において寸法の単位はmmである。
【0032】
周波数 2250MHz
素子間隔 100mm
給電条件
素子201 電圧1V 位相353°
素子202 電圧1V 位相285°
素子203 電圧1V 位相252°
素子204 電圧1V 位相226°
素子205 電圧1V 位相206°
素子206 電圧1V 位相188°
素子207 電圧1V 位相165°
素子208 電圧1V 位相147°
素子209 電圧1V 位相127°
素子210 電圧1V 位相101°
素子211 電圧1V 位相68°
素子212 電圧1V 位相0°
【0033】
図3の従来例の無指向アレイアンテナでは、グレーチングローブ5が発生していたが、図4では、グレーチングローブは発生していないことが分かる。図4では、図3でグレーチングローブ5が発生した方向も、20dB以下のレベルとなっている。なお、本実施の形態の無指向アレイアンテナでは、サイドローブ(例えば、−30°〜0°)も同時に抑制できていることが図4から分かる。
【0034】
[実施の形態の効果]
本実施の形態によれば、以下に挙げる一つ又はそれ以上の効果を有する。
【0035】
1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とは、それらの放射方向がそれぞれ同じ方向になるよう配列されており、1素子ごとに放射方向が逆方向配置となっていないため、隣り合う素子との放射電力差が無くなり、グレーチングローブの発生を抑制できる。また、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とは、放射方向が互いに逆方向になるよう配列されているので、サイドローブも同時に抑制できるとともに、1素子ごとに放射方向を逆にして無指向性を確保したのと同等の無指向性を確保することができる。なお、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子との境界に位置する放射素子間だけは放射方向が互いに逆方向になってしまい電力差ができてしまうが、1素子ごとに放射方向を互い違いに配列した場合のような垂直面指向性グレーチングローブは発生しない。
【0036】
トーナメント状に接続された給電線のT分岐端末部に1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とを接続するようにしたので、簡単な構造で1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子との放射方向を互いに逆方向になるよう配列するのが容易になり、サイドローブの抑制をより確実に行うことができる。
【0037】
また、1〜n番目の放射素子とn+1〜2n番目の放射素子とが共通の同一鉛直軸上に配列されていることにより、1〜n番目の放射素子が配列された鉛直軸とn+1〜2n番目の放射素子が配列された鉛直軸との鉛直軸間距離に起因した電磁波が放射されず、グレーチングローブをより確実に抑制できる。
【0038】
さらに、同一平面上で、且つ同一鉛直軸上に放射素子を配置し、アレイアンテナを2ブロック分けて互いに逆方向放射することにより、隣り合う素子との指向性レベル差を最小限にできるので、垂直面指向性におけるグレーチングローブを抑制しつつ無指向性アレイアンテナを実現できる。また、上下ブロックを同一平面状に配置できることから誘電体基板等で素子を形成すると、アンテナ全体構造が簡単になる。
【0039】
[他の実施の形態]
このほかにも、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々様々変形実施可能なことは勿論である。
【0040】
例えば、上述の一実施の形態においては、放射素子102a〜102dと放射素子102e〜102hを共通の同一鉛直軸上に配列して、放射素子102a〜102dを配列した鉛直軸と放射素子102e〜102hを配列した鉛直軸との鉛直軸間距離はゼロとしてある。しかし、放射素子102a〜102dの鉛直軸と放射素子102e〜102hの鉛直軸との鉛直軸間距離を、放射する電磁波の波長より小さい距離を保てばグレーチングローブを抑制できるため、放射素子を全て共通の同一鉛直軸上に配列する必要はない。
【0041】
図5(b)は、そのようなアンテナ素子を異なる鉛直軸上に配列した他の実施の形態の概念図を示す。比較のために図5(a)に既述した共通の同一鉛直軸上に素子を配列した一実施の形態を示し、図5(c)に素子の放射方向を互いに逆方向になるよう千鳥状に配列した従来例を示してある。図5(a)及び(b)に示す実施の態様のものは、上下の各ブロックの放射素子102a〜102dと102e〜102h、および放射素子112a〜112cと112d〜112fの放射方向を、ブロック単位で互いに逆方向になるよう直列状に配列している点で、図5(c)の従来例とは異なる。
【0042】
図5(b)に示す他の実施の態様のものは、上下にグループ分けした放射素子112a〜112cと112d〜112fを、異なる鉛直軸A、B上に配列して、上下の放射素子112a〜112cと112d〜112fの鉛直軸間距離Dを、放射素子から放射する電
磁波の波長より小さい距離にしてある。この他の実施の形態は、図5(a)の一実施の形態と比べて、上下にグループ分けした放射素子の鉛直軸間距離をずらすことにより、上下に生じている放射方向のデッドスペースを解消して幅方向の寸法を縮めることができるので、アンテナの外形寸法を小型化できる。ただし、図5(a)に示すように、鉛直軸C上に全ての放射素子が一列に並んでいるときがもっとも水平面指向性の偏差が小さくなる。[具体例]
【0043】
次に本発明の具体例を図6及び図7を用いて説明する。
【0044】
図6は無指向性アレイアンテナの具体例を示す構成図である。図6(a)は、アンテナの表面を示し、図6(b)はアンテナの裏面を示している。
【0045】
この具体例の無指向性アレイアンテナ1は、誘電体基板7上に鉛直方向に配列された6個の放射素子6a〜6fを有する。6個の放射素子のうち、1〜3番目の放射素子6a〜6cは同一鉛直軸A上に配列されると共に、4〜6番目の放射素子6d〜6fは前記同一鉛直軸A上とは異なる同一鉛直軸B上に配列される。1〜3番目の放射素子6a〜6cはそれらの放射方向が全て同じ方向になるよう配列され、4〜6番目の放射素子6d〜6fはそれらの放射方向が全て1〜3番目の放射素子6a〜6cと逆方向になるよう配列されている。
【0046】
誘電体基板7の一方の面(表面)にダイポールアンテナ4a〜4fとグランド8とが形成され、誘電体基板7の他方の面(裏面)にダイポールアンテナ4a〜4fへ給電するためのマイクロストリップラインからなる給電線10が形成されている。誘電体基板7の表面の一側に、入力端から給電点14に沿って同軸ケーブル20が配設され、そのシールド線がグランド8にハンダ接続され、コアの先端部が表面から裏面に抜けて給電点14に接続されている。給電は中央給電方式が採用され、励振方法は直流開放型が採用されている。
なお、本具体例では、誘電体基板7の一方の面に放射素子6a〜6fとグランド8とが形成され、誘電体基板7の他方の面に給電線10が形成されているため、給電線10を構成するマイクロストリップラインの配線自由度があり、素子数が多い場合であっても、マイクロストリップラインの配置が可能である。したがって、上述した同軸ケーブル20は、プリント基板上にマイクロストリップラインが配置できない部分は同軸ケーブルを使用して給電したりする当該同軸ケーブルとは異なる。
【0047】
1つの給電点14は、前記6n個の放射素子6a〜6fの配列の中央部に設けられている。給電線10は、前記給電点14に対してT分岐によりトーナメント状に接続され、T分岐の端末部に前記1〜3番目の放射素子6a〜6cと前記4〜6番目の放射素子6d〜6fとが接続され、給電点14に供給された入力電力を給電線10にて複数の出力電力に分配し、各出力電力を前記6個の放射素子6a〜6fにそれぞれ供給するように構成されている。
【0048】
前記6個の放射素子6a〜6fは2ブロックに分割されて上下方向に並べて設置され、上方向のブロックの放射素子6a〜l6cと下方向のブロックの放射素子6d〜6fは点対称の位置関係になるように配置されている。このように、点対称の位置関係になるように配置されている上下方向ブロックの放射素子は、同じ構成をしているので、そのうちの上方向に配置された放射素子6a〜6bについて、図7を用いて代表して説明する。
【0049】
図7に、1番目のダイポールアンテナ4aと2番目のダイポールアンテナ4bとの要部詳細図を示す。図7(a)及び図7(b)に示されるように、本具体例に係る無指向性アレイアンテナ1は、ギャップを隔ててそのギャップの鉛直方向(上下)に延びた2つのア
ンテナ素子2a,3aに給電線路9aより周波数Fの信号を給電され周波数Fで共振するダイポールアンテナ4aにより放射素子6aが構成され、このような放射素子6a,6bが上下方向に複数個並べて設置され、放射素子6a,6bは、それらの放射方向が同じ方向の位置関係になるように配置されたものである。
【0050】
本具体例の無指向性アレイアンテナ1は、上下に長く延びた誘電体基板7の表裏面にマイクロストリップライン等の導体線(導体パターン)を配置することで、放射素子、給電線路、接地部(グランド)等が形成されている。ここで、説明を簡単にするため、誘電体基板7の幅方向の中央を通り上下に延びた鉛直軸線Cを仮想的に設ける。また、誘電体基板7の表面を示した図7(a)において鉛直軸線Cの左側を後、右側を前とする。誘電体基板7の裏面を示した図7(b)では左側が前、右側が後となる。以下の説明において、鉛直軸線Cと直交する方向を水平方向と言い、鉛直軸線Cに平行な方向を上下方向と言う。
【0051】
上下方向に並ぶ2個の放射素子6a、6bは同じ構成をしているので、上に位置する放射素子6aについて代表して説明する。上に位置する放射素子6aでは、鉛直軸Cを前端としこの鉛直軸線Cから後方に誘電体基板7の表面で上下及び前後に広く面積を占める接地部8が設けられている。この放射素子6aのダイポールアンテナ4aを構成する2つのアンテナ素子2a,3aのうち下に位置するアンテナ素子2aは、グランド8の前端である鉛直軸線Cから前方に所定長さ延びた水平枝とその水平枝の前端から下方に所定長さ延びた垂直枝とからなり、左右裏返しのΓ字状を呈する。その上に位置するアンテナ素子3aは、下のアンテナ素子2aの水平枝から上下方向所定幅のギャップを隔てて鉛直軸線Cから前方に所定長さ延びた水平枝とその水平枝の前端から上方に所定長さ延びた垂直枝とからなり、左右裏返しのL字状を呈する。
【0052】
ここで、ダイポールアンテナ4aのアンテナ特性を測定して、所望のアンテナ特性が得られるように、アンテナ素子2a,3aの水平枝の長さ及びアンテナ素子2a,3a間のギャップは適宜調整して求められる。また、アンテナ素子2aの垂直枝の長さとアンテナ素子3aの垂直枝の長さとアンテナ素子2a,3a間のギャップとを合計した長さは、ダイポールアンテナ4aから放射される周波数Fの電波のほぼ1/2波長(ほぼλ/2)となる。
【0053】
誘電体基板7の裏面では、ダイポールアンテナ4aのアンテナ素子2a,3aに重なる水平方向位置に給電線路9aが設けられている。このアンテナ素子2a,3aと給電線路9aとは、静電結合により電気的に接続されている。この給電線路9aは、後述する分岐給電線路12aから前方に所定長さ延びて上のアンテナ素子3aの水平枝に重なる水平枝と、その水平枝の前端から下方に所定長さ延びて下のアンテナ素子2aの垂直部に重なる垂直枝とからなり、上下裏返しのL字状を呈する。
【0054】
図7(a)及び図7(b)に示されるように、本具体例に係る無指向性アレイアンテナ1は、上下方向に並ぶ2つの放射素子6a,6bの両方に対して給電するための共通給電線路10がそれぞれ設けられている。この共通給電線路10は、マイクロストリップラインからなり、誘電体基板7の裏面に配線される。共通給電線路10は、誘電体基板7の中央の給電点より上方及び下方に直線的に延び、上下の放射素子6a,6bの中間領域でそれぞれの広帯域二分配器(T分岐器)11に接続されている。
【0055】
広帯域二分配器11は、共通給電線路10から給電される信号を二分配するものである。分配の比率は、等分配でもよいし、不等分配にして電力分配比を任意に設定できるようにしてもよい。広帯域二分配器11からそれぞれの放射素子6a,6bまでは分岐給電線路12a,12bが配線されている。
【0056】
誘電体基板7の下方の給電点に周波数Fの信号が給電される。給電された信号は、マイクロストリップラインからなる共通給電線路10から広帯域二分配器13を介して広帯域二分配器11に伝送される。広帯域二分配器11では、不等分配も可能であるが、ここでは等分配が行われるものとする。広帯域二分配器11で等分配された給電信号は、それぞれの分岐給電線路12a,12bを経由して上下方向に並ぶ2つの放射素子6a,6bのそれぞれに給電される。
【0057】
放射素子6aにおいては、給電線路9aからダイポールアンテナ4aの2つのアンテナ素子2a,3aに信号が給電される。アンテナ素子2a,3aに給電された周波数Fの信号は、これら2つのアンテナ素子2a,3aからなるダイポールアンテナ4aにおいて励振され、ダイポールアンテナ4aから周波数Fの電波が放射される。
【0058】
なお、本具体例では、放射素子6a,6bのダイポールアンテナ4a,4bは、直流開放型の励振方法をとっているが、誘電体基板7の表面に形成された放射素子6a,6bと裏面に形成された給電線路9a.9bとをスルーホールを介して電気的に接続した直流短絡型でもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 無指向性アレイアンテナ
7 誘電体基板
100 誘電体基板
102a〜102d 1〜n番目の放射素子
102e〜l120h n+1〜2n番目の放射素子
103 給電線
104 給電点
105〜117 T分岐
120a〜120h T分岐の端末部
200 無指向性アレイアンテナ
A、B 鉛直軸線
C 同一鉛直軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に配列された2n個の放射素子を有する無指向性アレイアンテナであって、
前記2n個の放射素子のうち、1〜n番目の放射素子は同一鉛直軸上に配列され、n+1〜2n番目の放射素子は前記同一鉛直軸上とは独立した同一鉛直軸上に配列され、
前記1〜n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て同じ方向になるよう給電され、前記n+1〜2n番目の放射素子はそれらの放射方向が全て前記1〜n番目の放射素子と逆方向になるよう給電されていることを特徴とする無指向性アレイアンテナ。
【請求項2】
前記2n個の放射素子の配列の中央部に設けられた1つの給電点と、
該給電点に対してT分岐によりトーナメント状に接続された給電線であって、前記給電線のT分岐の端末部に前記1〜n番目の放射素子と前記n+1〜2n番目の放射素子とが接続され、前記給電点に供給された入力電力を前記給電線にて複数の出力電力に分配し、前記各出力電力を前記2n個の放射素子にそれぞれ供給する給電線とを
有する請求項1に記載の無指向性アレイアンテナ。
【請求項3】
前記放射素子は、半波長ダイポールアンテナである請求項1または2に記載の無指向性アレイアンテナ。
【請求項4】
誘電体基板の一方の面に前記放射素子とグランドとが形成され、前記誘電体基板の他方の面に前記放射素子へ給電するための給電線が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無指向性アレイアンテナ。
【請求項5】
前記1〜n番目の放射素子と前記n+1〜2n番目の放射素子とが共通の同一鉛直軸上に配列されている請求項1ないし4のいずれかに記載の無指向性アレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−134904(P2012−134904A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287096(P2010−287096)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】