説明

無方向性電磁鋼板の改善された製造方法

【課題】厚いスラブ鋳造及び薄いスラブ鋳造に適合し得ると共に、リジングの発生を発生させることなく、且つ低コストで低鉄損及び高透磁率を有する無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)6.5重量%までのケイ素、5重量%までのクロム、0.05重量%までの炭素、3重量%までのアルミニウム、及び3重量%までのマンガンを含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を調製する工程と、(b)前記溶鋼から鋼スラブを鋳造する工程と、(c)鋼の組成により定義される、Tmax未満でTminよりも高い温度に前記鋼スラブを加熱する工程と、(d)前記スラブを熱間圧延して熱間圧延ストリップとし、前記熱間圧延が、式:


を用いる公称歪みが少なくとも700である工程と、(e)鋼の組成により定義されるT未満の温度で前記ストリップを仕上げ焼鈍する工程とを含む無方向性電磁鋼板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼は、様々な電気機械類及びデバイス、特に鋼板の全方向における低鉄損及び高透磁率が所望されるモーターにおいて磁心材料として広く使用されている。本発明は、低鉄損及び高透磁率を有する無方向性電磁鋼板の製造方法に関し、該方法では、溶鋼がインゴット又は連続スラブとして凝固され、熱間圧延及び冷間圧延を受けて完成ストリップを提供する。完成ストリップは、磁気特性を高める焼鈍処理が少なくとも1回施され、本発明の鋼板は、モーター又は変圧器等の電気機械類における使用に適切なものとなる。
【0003】
市販の無方向性電磁鋼は、二つの分類:冷間圧延されたモーター積層鋼(cold rolled motor lamination steel、「CRML」)及び冷間圧延された無方向性電磁鋼(cold rolled non-oriented electrical steel、「CRNO」)に典型的に分けられる。CRMLは、非常に低い鉄損に対する要求を経済的に正当化するのが困難である用途において一般に使用される。このような用途では、無方向性電磁鋼が、1.5T及び60Hzにおける測定で、約4ワット/ポンド(約9w/kg)の最大鉄損及び約1,500G/Oe(ガウス/エルステッド)の最小透磁率を有することを典型的に要求する。このような用途において、使用される鋼板は、約0.018インチ(約0.45mm)〜約0.030インチ(約0.76mm)の呼び厚さに典型的に加工される。CRNOは、より優れた磁気特性が要求されるより厳しい用途において一般に使用される。このような用途では、無方向性電磁鋼が、1.5T及び60Hzにおける測定で、約2ワット/ポンド(約4.4W/kg)の最大鉄損及び約2,000G/Oeの最小透磁率を有することを典型的に要求する。このような用途において、鋼板は、約0.006インチ(約0.15mm)〜約0.025インチ(約0.63mm)の呼び厚さに典型的に加工される。
【0004】
無方向性電磁鋼は、通称「半製品」鋼又は「完全製品」鋼である2つの形態で一般に提供される。「半製品」とは、使用する前に製品を焼鈍して、適切な粒径及び組織を発現させ、残留応力を軽減し、必要であれば低い炭素レベルを適切に提供して時効(aging)を回避しなければならないことを意味する。「完全製品」とは、板を積層体に製造する前に磁気特性が完全に高められていること、すなわち、粒径及び組織が確立されており、炭素含量が約0.003重量%以下まで低減されて磁気時効が防止されていることを意味する。これらのグレードは、残留応力を軽減することがそれほど所望されない限り、積層体に製造した後に焼鈍を要求しない。無方向性電磁鋼は、板の回転方向に関して全方向で均一の磁気特性が所望されるモーター又は発電機等の回転デバイスにおいて主に使用される。
【0005】
無方向性電磁鋼の磁気特性は、完成板の厚さ、体積抵抗率、粒径、化学的純度及び結晶集合組織によって影響され得る。渦電流により生じる鉄損は、完成鋼板の厚さを低減すること、鋼板の合金含量を増大して体積抵抗率を増大させること、あるいは両方を組み合わせることによって低減することができる。
【0006】
無方向性電磁鋼を製造するために使用される確立された方法では、ケイ素、アルミニウム、マンガン及びリンの典型的な(しかし、非限定的である)合金添加物が使用される。無方向性電磁鋼は、約6.5重量%までのケイ素、約3重量%までのアルミニウム、約0.05重量%までの炭素(磁気時効を防止するために加工中に約0.003重量%未満の量に低減されなければならない)、約0.01重量%までの窒素、0.01重量%までの硫黄、及び製鋼方法に付随するその他の不純物を伴う残りの量の鉄を含有することができる。
【0007】
最適な磁気特性のためには、仕上げ焼鈍後に適切に大きい粒径を達成することが望まれる。分散相、介在物及び/又は析出物の存在は、正常な粒成長を抑制し、最終製品形態において、所望の粒径及び組織の達成を防止し、それによって所望の鉄損及び透磁率の達成を防止するので、仕上げ焼鈍板の純度は、磁気特性に対して顕著な効果を有し得る。また、仕上げ焼鈍の間の介在物及び/又は析出物は、AC磁化の間の磁壁の動きを妨害し、さらに最終製品形態における磁気特性を低下させる。上記のように、完成板の結晶集合組織、すなわち、電磁鋼板を構成する結晶粒の方向性の分布は、最終製品形態の鉄損及び透磁率の決定において非常に重要である。ミラー指数で定義される<100>および<110>の組織成分は、より高い透磁率を有する。反対に、<111>型組織成分は、より低い透磁率を有する。
【0008】
無方向性電磁鋼は、ケイ素、アルミニウム及び同様の元素等の添加物の割合によって区別される。このような合金化添加物は、体積抵抗率を増大させる働きをし、AC磁化の間の渦電流の抑制をもたらし、それによって鉄損を低減する。また、これらの添加物は、硬度を増大させることによって鋼の打ち抜き特性も改善する。鉄の体積抵抗率に対する合金化添加物の効果は、式Iで示される。
【0009】
(I) ρ=13+6.25(%Mn)+10.52(%Si)
+11.82(%Al)+6.5(%Cr)+14(%P)
【0010】
式中、ρは鋼の体積抵抗率(μΩ・cm)であり、%Mn、%Si、%Al、%Cr及び%Pはそれぞれ、鋼中のマンガン、ケイ素、アルミニウム、クロム及びリンの重量パーセントである。
【0011】
約0.5重量%未満のケイ素及び他の添加物を含有して約20μΩ・cmまでの体積抵抗率を提供する鋼は、モーター積層鋼として一般に分類することができる。約0.5〜1.5重量%のケイ素又は他の添加物を含有して約20μΩ・cm〜約30μΩ・cmの体積抵抗率を提供する鋼は、低ケイ素鋼として一般に分類することができる。約1.5〜3.0重量%のケイ素又は他の添加物を含有して約30μΩ・cm〜約45μΩ・cmの体積抵抗率を提供する鋼は、中ケイ素鋼(intermediate-silicon steel)として一般に分類することができる。最後に、約3.0重量%よりも多いケイ素又は他の添加物を含有して約45μΩ・cmよりも大きい体積抵抗率を提供する鋼は、高ケイ素鋼として一般に分類することができる。
【0012】
ケイ素及びアルミニウム添加物は、鋼に対して有害な効果を有する。多量のケイ素添加物、特に、約2.5%よりも高いケイ素レベルでは、鋼をより脆性にすると共に、温度感受性にする、すなわち延性−脆性遷移温度が上昇し得ることがよく知られている。また、ケイ素は、窒素と反応し、物理特性を低下させると共に無方向性電磁鋼の磁気「時効」の原因となり得る窒化ケイ素介在物を形成し得る。アルミニウム添加物は、適切に使用されると、鋳造後の冷却中及び/又は熱間圧延前の加熱中に、アルミニウムが窒素と反応して窒化アルミニウム介在物を形成するので、無方向性電磁鋼の物理的及び磁気的な性質に対する窒素の効果を最小限にすることができる。しかしながら、アルミニウム添加物は、耐火性材料のより攻撃的な磨耗(aggressive wear)、特に、スラブの鋳造中に液体鋼を供給するために使用される耐火性部品の目詰まりをもたらすことから、鋼の溶融及び鋳造に対して強い影響を与え得る。また、アルミニウムは、冷間圧延前の酸化物スケールの除去をより困難にすることによって、熱間圧延ストリップの表面品質にも影響を与え得る。
【0013】
また、ケイ素、アルミニウム等の、鉄への合金化添加物は、式IIで示されるようにオーステナイトの量にも影響を与える:
(II) γ1150℃=64.8−23Si−61Al+9.9(Mn+Ni)
+5.1(Cu+Cr)−14P+694C+347
【0014】
式中、γ1150℃は1150℃(2100°F)で形成されるオーステナイトの体積パーセントであり、%Si、%Al、%Cr、%Mn、%P、%Cr、%Ni、%C及び%Nはそれぞれ、鋼中のケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、クロム、ニッケル、銅、炭素及び窒素の重量パーセントである。典型的に、約2.5%を超えるSiを含有する合金は完全にフェライトである。すなわち、加熱又は冷却中に体心立方フェライト相から面心立方オーステナイト相への相変態が発生しない。薄いスラブ鋳造又は厚いスラブ鋳造を用いる完全フェライト電磁鋼の製造は、「リジング(ridging)」の傾向があるために困難であることが一般に分かっている。リジングは、熱間圧延鋼板の冶金学的構造における局部的な不均一性から生じる欠陥である。
【0015】
上記で議論した無方向性電磁鋼板の製造方法は、十分に確立されている。これらの方法は、所望の組成を有する溶鋼を調製することと、溶鋼を、約2インチ(約50mm)〜約20インチ(約500mm)の厚さを有するインゴット又はスラブに鋳造することと、インゴット又はスラブを典型的に約1,900°F(約1,040℃)よりも高い温度に加熱することと、約0.040インチ(約1mm)以上の板厚に熱間圧延することとを典型的に含む。続いて、酸洗いするか、又は任意に酸洗いの前若しくは後に熱延板焼鈍(hot band annealing)することと、1つ以上の工程で所望の製品厚さに冷間圧延することと、仕上げ焼鈍することとを含み得る様々な工程によって熱間圧延板は加工され、場合によってはその後、所望の磁気特性を発現させるために調質圧延が行なわれることもある。
【0016】
無方向性電磁鋼板の最も普通の模範的な製造方法では、約4インチ(約100mm)よりも厚く約15インチ(約370mm)未満の厚さを有するスラブを連続鋳造し、高温に再加熱した後、熱間粗工程(hot roughing step)で0.4インチ(約10mm)よりも厚く約3インチ(約75mm)未満の厚さを有するトランスファバー(transfer bar)にスラブを変形させ、そして熱間圧延することにより、更なる加工に適した約0.04インチ(約1mm)よりも厚く約0.4インチ(約10mm)未満の厚さを有するストリップを製造する。上述のように、厚いスラブの鋳造方法では、多数の熱間圧下工程(hot reduction step)の機会が与えられ、この工程は、適切に用いられれば、当該技術分野では「リジング」として公知の欠陥の発生を回避するのに必要とされる熱間圧延された均一な冶金学的微細構造を提供するために使用することができる。しかしながら、必要な実施は、ミル装置の操作とたいてい不適合か、又はミル装置の操作にとって望ましくない
【0017】
近年は、薄いスラブ鋳造における技術的な進歩が達成されている。この方法の一例において、無方向性電磁鋼板は、約1インチ(約25mm)より厚く約4インチ(約100mm)未満の厚さを有する鋳造スラブから製造し、鋳造スラブは、熱間圧延の前に直ちに加熱し、更なる加工に適した約0.04インチ(約1mm)より厚く約0.4インチ(約10mm)未満の厚さを有するストリップを製造する。しかしながら、モーター積層体グレードの無方向性電磁鋼板の製造は実現されているが、極めて高い磁気的及び物理的性質を有する完全フェライト無方向性電磁鋼板の製造は、「リジング」の問題のために限られた成功しか収めていない。一つには、薄いスラブ鋳造は、鋳放しスラブから仕上げ熱間圧延ストリップへの熱間圧下の量及び柔軟性のためにより制約され、厚いスラブ鋳造方法が使用される場合よりも制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述した理由のために、厚いスラブ鋳造及び薄いスラブ鋳造により提供される能力とより適合し、且つ製造コストがより低い方法を用いて、さらに、極めて高いグレードの無方向性電磁鋼の製造手段を開発することが長い間切実に必要とされている。
【0019】
本発明の主な目的は、優れた物理的及び磁気的特性を有する無方向性電磁鋼を連続鋳造スラブから製造するための改善された組成物を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記目的及びその他の重要な目的は、ケイ素、アルミニウム、クロム、マンガン及び炭素含量が次の通りであり、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼によって達成される。
i. ケイ素:6.5%まで
ii. アルミニウム:3%まで
iii. クロム:5%まで
iv. マンガン:3%まで
v. 炭素:0.05%まで
【0021】
さらに、溶鋼は、0.15%までの量のアンチモンと、0.005%までの量のニオブと、0.01%までの量の窒素と、0.25%までの量のリンと、0.01%までの量の硫黄及び/又はセレンと、0.15%までの量のスズと、0.01%までの量のチタンと、0.01%までの量のバナジウムとを有することができる。
【0022】
好ましい組成では、これらの元素は以下の量で存在する。
i. ケイ素:1%〜3.5%
ii. アルミニウム:1%まで
iii. クロム:0.1%〜3%
iv. マンガン:0.1%〜1%
v. 炭素:0.01%まで
vi. 硫黄:0.01%まで
vii. セレン:0.01%まで、及び
viii. 窒素:0.005%まで
【0023】
より好ましい組成では、これらの元素は以下の量で存在する。
i. ケイ素:1.5%〜3%
ii. アルミニウム:0.5%まで
iii. クロム:0.15%〜2%
iv. マンガン:0.1%〜0.35%
v. 炭素:0.005%まで
vi. 硫黄:0.005%まで
vii. セレン:0.007%まで、及び
viii. 窒素:0.002%まで
【0024】
1つの実施形態では、本発明は、上記組成の溶鋼から無方向性電磁鋼板を製造するための方法を提供する。続いて、該溶鋼は、約0.8インチ(約20mm)〜約15インチ(約375mm)の厚さを有するスラブに鋳造され、高温に再加熱され、約0.014インチ(約0.35mm)〜約0.06インチ(約1.5mm)の厚さのストリップに熱間圧延される。この方法の無方向性電磁鋼は、仕上げ焼鈍処理が施されて、モーター、変圧器又は同様のデバイスで使用するのに所望の磁気特性を発現させた後で使用することができる。
【0025】
第2の実施形態では、本発明は、上記組成の溶鋼から無方向性電磁鋼板が製造される方法を提供する。該溶鋼は、約0.8インチ(約20mm)〜約15インチ(約375mm)の厚さを有するスラブに鋳造され、再加熱され、約0.04インチ(約1mm)〜約0.4インチ(約10mm)の厚さのストリップに熱間圧延される。続いて、該ストリップは、冷却、酸洗い、冷間圧延及び仕上げ焼鈍されて、モーター、変圧器又は同様のデバイスで使用するのに所望の磁気特性を発現させる。この実施形態の任意形態では、熱間圧延ストリップは、冷間圧延及び仕上げ焼鈍される前に焼鈍されてもよい。
【0026】
上記実施形態の実施では、ケイ素、クロム、マンガン及び同様の添加物を含有する溶鋼が調製され、それによって該組成物は、式Iを用いて定義されるように少なくとも20μΩ・cmの体積抵抗率を提供し、式IIを用いて定義されるように最大オーステナイト体積分率γ1150℃が0重量%よりも多い。本発明の好ましい実施、より好ましい実施、及び最も好ましい実施では、γ1150℃はそれぞれ、少なくとも5%、10%、及び少なくとも20%である。
【0027】
上記実施形態の実施では、鋳造又は薄いスラブは、ストリップに熱間圧延する前に、式IIIaに定義されるようなTmax0%を超える温度まで加熱されなくてもよい。Tmax0%は、オーステナイト相領域の高温境界であり、そこでは合金中に100%のフェライトが存在し、そこより下では、低率のオーステナイトが合金中に存在する。このことは図1で説明される。加熱温度をそのように制限することによって、スラブの再加熱中にオーステナイトからフェライトへの再変態によって生じる異常な粒成長が回避される。上記実施形態の好ましい実施では、鋳造又は薄いスラブは、ストリップに熱間圧延する前に、式IIIbで定義されるようなTmax5%を超える温度まで加熱されなくてもよい。同様に、Tmax5%は、高温オーステナイト相領域の境界よりわずかに少し下で、95%のフェライト及び5%のオーステナイトが合金中に存在する温度である。より好ましい実施では、鋳造又は薄いスラブは、Tmax10%を超える温度まで加熱されなくてもよい。上記実施形態の最も好ましい実施では、鋳造又は薄いスラブは、ストリップに熱間圧延する前に、式IIIcで定義されるようなTmax20%を超える温度まで加熱されなくてもよい。Tmax10%及びTmax20%は、最大オーステナイト重量パーセントを超える温度で、それぞれ10%及び20%のオーステナイトが合金中に存在する温度である。また、Tmax5%、Tmax10%、及びTmax20%も図1で説明される。
【0028】
(IIIa) Tmax0%,℃=1463+3401(%C)+147(%Mn)−378(%P)−109(%Si)−248(%Al)−0.79(%Cr)−78.8(%N)+28.9(%Cu)+143(%Ni)−22.7(%Mo)
【0029】
(IIIb) Tmax5%,℃=1479+3480(%C)+158(%Mn)−347(%P)−121(%Si)−275(%Al)+1.42(%Cr)−195(%N)+44.7(%Cu)+140(%Ni)−132(%Mo)
【0030】
(IIIc) Tmax20%,℃=1633+3970(%C)+236(%Mn)−685(%P)−207(%Si)−455(%Al)+9.64(%Cr)−706(%N)+55.8(%Cu)+247(%Ni)−156(%Mo)
【0031】
鋳造及び再加熱スラブは、鋼の冶金学的構造がオーステナイトからなる温度において少なくとも1回の圧下パス(reduction pass)が行われる[予備成形される]ように熱間圧延されなければならない。上記実施形態の実施は、図1に示される約Tmin0%よりも高い温度で、且つ図1に示され式IIIaで定義されるような約Tmax0%未満の最高温度での熱間圧下パスを含む。上記実施形態の好ましい実施は、式IVaの約Tmin5%よりも高い温度で、且つ式IIIbで定義されるような約Tmax5%未満の最高温度での熱間圧下パスを含む。上記実施形態のより好ましい実施は、約Tmin10%よりも高い温度で、且つ図1に示される約Tmax10%未満の最高温度での熱間圧下パスを含む。上記実施形態の最も好ましい実施は、式IVbの約Tmin20%よりも高い温度で、且つ式IIIcで定義されるような約Tmax20%未満の最高温度での熱間減厚パスを含む。
【0032】
(IVa) Tmin5%,℃=921−5998(%C)−106(%Mn)+135(%P)+78.5(%Si)+107(%Al)−11.9(%Cr)+896(%N)+8.33(%Cu)−146(%Ni)+173(%Mo)
【0033】
(IVb) Tmin20%,℃=759−4430(%C)−194(%Mn)+445(%P)+181(%Si)+378(%Al)−29.0(%Cr)−48.8(%N)−68.1(%Cu)−235(%Ni)+116(%Mo)
【0034】
上記実施形態の実施は、少なくとも1回の熱間圧下パスを含み、以下の式Vを用いて計算される少なくとも700の熱間圧延後の公称歪み(ε公称)を提供する。
【0035】
【数1】

【0036】
上記実施形態の実施は、冷間圧延の前に焼鈍工程を含むことができ、この焼鈍工程は、式IVbのTmin20%未満の温度で行われる。上記実施形態の好ましい実施は、冷間圧延の前に焼鈍工程を含むことができ、この焼鈍工程は、Tmin10%未満の温度で行われる。上記実施形態のより好ましい実施は、冷間圧延の前に焼鈍工程を含むことができ、この焼鈍工程は、式IVaのTmin5%未満の温度で行われる。上記実施形態の最も好ましい実施は、冷間圧延の前に焼鈍工程を含むことができ、この焼鈍工程は、Tmin0%未満の温度で行われる。
【0037】
上記実施形態の実施は、ストリップの磁気特性を高める仕上げ焼鈍を含まなければならず、この焼鈍工程は、Tmin20%(式IVb)未満の温度で行われる。上記実施形態の好ましい実施は、ストリップの磁気特性を高める仕上げ焼鈍を含まなければならず、この焼鈍工程は、Tmin10%(図1に示される)未満の温度で行われる。上記実施形態のより好ましい実施は、ストリップの磁気特性を高める仕上げ焼鈍を含まなければならず、この焼鈍工程は、Tmin5%(式IVa)未満の温度で行われる。上記実施形態の最も好ましい実施は、ストリップの磁気特性を高める仕上げ焼鈍を含まなければならず、この焼鈍工程は、Tmin0%(図1に示される)未満の温度で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】温度の関数としてのオーステナイト相領域の略図であり、臨界温度Tmin及びTmaxを示す。
【図2】示される圧下を用いて鋳造スラブが加熱及び熱間圧延された後の熱Aの微細構造の写真である。
【図3】示される圧下を用いて鋳造スラブが加熱及び熱間圧延された後の熱Bの微細構造の写真である。
【図4】表Iからの熱C、D、E及びFのオーステナイト相領域を特徴付ける、様々な温度におけるオーステナイトの計算量のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
このような用語に与えられるべき範囲を含む、明細書及び特許請求の範囲についての明確且つ矛盾のない理解を提供するために、以下の定義が提供される。
【0040】
「フェライト」及び「オーステナイト」という用語は、鋼の特定の結晶形状を説明するために使用される。「フェライト」又は「フェライト鋼」は、体心立方、すなわち「bcc」結晶形状を有するが、「オーステナイト」又は「オーステナイト鋼」は、面心立方、すなわち「fcc」結晶形状を有する。「完全フェライト鋼」という用語は、その最終的な室温の微細構造に関係なく、溶融物からの冷却の過程及び/又は熱間圧延のための再加熱においてフェライト及びオーステナイトの結晶相形状の間の相変態を受けない鋼を説明するために使用される。
【0041】
「ストリップ」及び「板」という用語は、明細書及び特許請求の範囲における鋼の物理的な特徴を説明するために使用され、約0.4インチ(約10mm)未満の厚さと、典型的には約10インチ(約250mm)を超え、より典型的には約40インチ(約1,000mm)を超える幅とを有する鋼からなる。「ストリップ」という用語には幅の制限はないが、厚さよりも実質的に大きい幅を有する。
【0042】
本発明の実施では、ケイ素、クロム、マンガン、アルミニウム及びリンの合金化添加物を含有する溶鋼が用いられる。
【0043】
本発明の電磁鋼板の製造を始めるにあたり、溶鋼は、鋼溶融、精錬及び合金化の一般に確立された方法を用いて製造することができる。溶鋼は、一般に、6.5%までのケイ素、3%までのアルミニウム、5%までのクロム、3%までのマンガン、0.01%までの窒素、0.05%までの炭素を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる。好ましい溶鋼は、1%〜3.5%のケイ素、1%までのアルミニウム、0.1%〜3%のクロム、0.1%〜1%のマンガン、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、0.005%までの窒素、並びに0.01%までの炭素を含む。さらに、好ましい溶鋼は、チタン、ニオブ及び/又はバナジウム等の残留量の元素を、0.005%を超えない量で有することができる。より好ましい溶鋼は、1.5%〜3%のケイ素、0.5%までのアルミニウム、0.15%〜2%のクロム、0.005%までの炭素、0.008%までの硫黄又はセレン、0.002%までの窒素、0.1%〜0.35%のマンガン、並びに残りの量の鉄を含み、普通に生じる不可避的不純物を伴う。また、溶鋼は、アンチモン、ヒ素、ビスマス、リン及び/又はスズ等のその他の元素も0.15%までの量で含有することができる。また、溶鋼は、銅、モリブデン及び/又はニッケルを、個々又は組み合わせて、1%までの量で含有することができる。その他の元素が意図的な添加物として存在してもよいし、又は残留元素、すなわち鋼溶融プロセスからの不純物として存在してもよい。溶鋼を調製するための典型的な方法は、酸素、電気アーク(EAF)又は真空誘導溶融(VIM)を含む。溶鋼への合金添加物をさらに精錬及び/又は製造するための典型的な方法は、取鍋冶金炉(ladle metallurgy furnace、LMF)、真空酸素脱炭(VOD)容器及び/又はアルゴン酸素脱炭(AOD)反応器を含むことができる。
【0044】
ケイ素は、6.5%まで、好ましくは0.5%〜6.5%、より好ましくは1%〜3.5%、より一層好ましくは、1.5%〜3%の量で溶鋼中に存在する。ケイ素添加物は、体積抵抗率を増大させ、フェライト相を安定化し、そして完成ストリップにおける改善された打ち抜き特性のために硬度を増大させる働きをするが、2.5%より上のレベルでは、ケイ素は鋼をより脆性にすることがわかっている。
【0045】
クロムは、5%まで、好ましくは0.1%〜3%、より好ましくは0.15%〜2%の量で溶鋼中に存在する。クロム添加物は、体積抵抗率を増大させる働きをするが、その効果は、所望の相平衡及び微細構造特徴を保持するために考慮されなければならない。
【0046】
マンガンは、3%までの量、好ましくは0.1%〜1%、より好ましくは0.1%〜0.35%の量で溶鋼中に存在する。マンガン添加物は体積抵抗率を増大させる働きをするが、マンガンは仕上げ焼鈍の間に粒成長の速度を遅くすることが当該技術分野において知られている。このため、多量のマンガン添加物の有用性は、完成製品における所望の相平衡及び微細構造特徴の両方に関して、慎重に考慮されなければならない。
【0047】
アルミニウムは、3%までの量、好ましくは1%までの量、より好ましくは0.5%までの量で溶鋼中に存在する。アルミニウム添加物は体積抵抗率を増大させ、フェライト相を安定化し、そして完成ストリップにおける改善された打ち抜き特性のための硬度を増大させる働きをする。しかしながら、アルミニウムは製鋼耐火物の劣化を促進し得るので、多量のアルミニウム添加物の有用性は慎重に考慮されなければならない。更に、熱間圧延中に微細な窒化アルミニウムの沈殿を防止するためには、加工条件の慎重な考慮が必要とされる。最後に、多量のアルミニウム添加物は、より粘着性の酸化物スケールの発現をもたらすことがあり、板のスケール除去をより困難で高価なものにする。
【0048】
硫黄及びセレンは、他の元素と結合して加工中の粒成長を妨害し得る析出物を形成し得るという点で、本発明の鋼において望ましくない元素である。硫黄は、溶鋼(steel melting)における普通の残留物である。硫黄及び/又はセレンは、溶鋼中に存在する場合、0.01%までの量であり得る。好ましくは、硫黄は0.005%までの量、セレンは0.007%までの量で存在し得る。
【0049】
窒素は、他の元素と結合して加工中の粒成長を妨害し得る析出物を形成し得るという点で、本発明の鋼において望ましくない元素である。窒素は、溶鋼における普通の残留物であり、溶鋼中に存在する場合、0.01%までの量、好ましくは0.005%までの量、より好ましくは0.002%までの量であり得る。
【0050】
炭素は、本発明の鋼において望ましくない元素である。炭素はオーステナイトの形成を助長し、そして0.003%よりも多い量で存在する場合には、鋼に脱炭焼鈍処理を施して、仕上げ焼鈍鋼中の炭化物の沈殿により生じる「磁気時効」を防止するのに十分な程度に炭素レベルを低下させなければならない。炭素は溶鋼からの普通の残留物であり、本発明の鋼中に存在する場合、0.05%までの量、好ましくは0.01%までの量、より好ましくは0.005%までの量であり得る。溶融炭素レベルが0.003%よりも多ければ、仕上げ焼鈍ストリップが磁気時効を示さないように、無方向性電磁鋼を脱炭焼鈍して、0.003%未満の炭素、好ましくは0.0025%未満の炭素にしなければならない。
【0051】
本発明の方法は、現在の鋼板の製造方法、特に、グレードの高い無方向性電磁鋼板の製造のためのコンパクトなストリップ製造方法、すなわち薄いスラブ鋳造において生じる実用上の問題を扱う。
【0052】
薄いスラブ鋳造の特定の場合において、鋳造機はスラブ再加熱操作(あるいは、温度平衡とも呼ばれる)と密接に連結され、これは次に熱間圧延操作と密接に連結される。かかるコンパクトなミル設計は、スラブの加熱温度と、熱間圧延のために使用され得る圧下の量との両方に制限を課し得る。不完全な再結晶は最終製品にリジングをしばしばもたらすので、これらの制約は、完全フェライト無方向性電磁鋼板の製造を困難にする。
【0053】
厚いスラブ鋳造の特定の場合、及び薄いスラブ鋳造のいくつかの場合において、鋼が熱間粗圧延(rough hot rolling)のための十分に高い温度にあることを保障するために高いスラブ再加熱温度が時々用いられ、その間に、スラブはトランスファバーまで厚さが減少された後、仕上げ熱間圧延が行なわれてトランスファバーが熱延板に圧延されることがある。スラブ微細構造がフェライト及びオーステナイトの混合相からなる温度にスラブを保持し、圧延の前にスラブ中における異常な粒成長を防止するために、スラブ加熱を用いなければならない。本発明の方法の実施では、スラブ再加熱の温度は、式IIIのTmaxを超えてはならない。
【0054】
圧延ストリップは、所望の磁気特性が発現される範囲内で仕上げ焼鈍がさらに施され、必要であれば、磁気時効を防止するのに十分な程度に炭素含量を低下させる。仕上げ焼鈍は、水素及び窒素の混合ガス等の焼鈍中に制御される雰囲気中で典型的に行われる。バッチ又はボックス焼鈍、連続ストリップ焼鈍、及び誘導焼鈍を等の、当該技術分野においてよく知られているいくつかの方法がある。バッチ焼鈍は、使用される場合、ASTM仕様726−00、A683−98a及びA683−99に記載されるように、約1,450°F(約790℃)以上、約1,550°F(約843℃)未満の焼鈍温度を約1時間で提供するように典型的に行われる。連続ストリップ焼鈍は、使用される場合、1,450°F(約790℃)以上、約1,950°F(約1,065℃)未満の焼鈍温度で、10分未満の時間に典型的に行われる。誘導焼鈍は、使用される場合、約1,500°F(815℃)よりも高い焼鈍温度を約5分未満の時間で提供するように典型的に行われる。
【0055】
本発明は、商業的な使用に適切な磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供し、ここで溶鋼は出発スラブに鋳造され、これは次に、所望の磁気特性を発現させるための仕上げ焼鈍の前に、熱間圧延、冷間圧延又はその両方によって加工される。
【0056】
本発明の1つの実施形態のケイ素及びクロム含有無方向性電磁鋼板は、加工中に、優れた靭性及びストリップ破損に対するより大きい耐性という改善された機械的特性の特徴が得られるので有利である。
【0057】
1つの実施形態において、本発明は、1.5T及び60Hzにおける測定で約4W/ポンド(約8.8W/kg)の最大鉄損及び約1,500G/Oeの最小透磁率を持つ磁気特性を有する無方向性電磁鋼板の製造プロセスを提供する。
【0058】
もう1つの実施形態において、本発明は、1.5T及び60Hzにおける測定で約2W/ポンド(約4.4W/kg)の最大鉄損及び約2,000G/Oeの最小透磁率を持つ磁気特性を有する無方向性電磁鋼板の製造プロセスを提供する。
【0059】
本発明の任意実施において、熱間圧延ストリップには、冷間圧延及び/又は仕上げ焼鈍の前に焼鈍工程を施すことができる。
【0060】
フェライトから完全になる出発微細構造を有する連続鋳造スラブから無方向性電磁鋼を加工する方法は、当業者によく知られている。また、熱間圧延中に鋳放し粒構造の完全な再結晶を得る際に著しい困難性が存在することも知られている。このことは、熱間圧延鋼ストリップに不均一な粒構造の発現をもたらし、これは、冷間圧延中に「リジング」として知られる欠陥の発生をもたらし得る。リジングは不均一な変形の結果であり、最終用途に関して容認できない物理的特徴をもたらす。式IIは、オーステナイト相の形成に対する組成の効果を示し、本発明の方法の実施において、ストリップの熱間圧延(使用する場合)及び/又は焼鈍(使用する場合)の制限温度を決定するために使用することができる。
【0061】
本出願人等は、ストリップが熱間圧延され、焼鈍され、任意に冷間圧延され、及び仕上げ焼鈍されて、優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供する本発明の1つの実施形態において決定した。本出願人等は、ストリップが熱間圧延され、冷間圧延され、及び仕上げ焼鈍されて、熱間圧延後に焼鈍工程を必要とすることなく優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供する本発明のもう1つの実施形態においてさらに決定した。本出願人等は、ストリップが熱間圧延され、焼鈍され、冷間圧延され、及び仕上げ焼鈍されて、優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供する本発明の第3の実施形態においてさらに決定した。
【0062】
出願人等により行なわれた調査研究では、熱間圧延の条件は、再結晶を助長し、それにより「リジング」欠陥の発現を抑制するように特定される。本発明の好ましい実施では、熱間圧延の変形条件をモデルとして熱間変形の必要条件を決定し、それにより、ストリップの広範囲な再結晶のために必要とされる熱間圧延から付与される歪みエネルギーを決定した。式IV〜Xに概説されるこのモデルは、本発明の方法の更なる実施形態を表し、当業者により容易に理解されるはずである。
【0063】
圧延から付与される歪みエネルギーは次のように計算することができる。
【0064】
【数2】

【0065】
式中、Wは圧延で消費される仕事であり、θは鋼の制約された(constrained)降伏強度であり、Rは圧延で行われる圧下の量(小数)であり、すなわちストリップの初期厚さ(t、mm)を熱間圧延ストリップの最終厚さ(t、mm)で割った値である。熱間圧延における真の歪みは、次のようにさらに計算することができる。
(VII)ε=K
【0066】
式中、εは真歪みであり、Kは定数である。式VIを式VIIに結合させると、真歪みは以下のように計算することができる。
【0067】
【数3】

【0068】
制約された降伏強度θは、熱間圧延の際の鋳造鋼ストリップの降伏強度に関連する。熱間圧延では、回復が動的に生じ、従って熱間圧延中の歪み硬化は、本発明の方法では生じないと考えられる。しかしながら、降伏強度は温度及び歪み速度に著しく依存し、それにより、本出願人等はツェナー−ホロマン(Zener-Holloman)の関係に基づく解法を取り込み、それによって、変形の温度、及び歪み速度とも呼ばれる変形の速度に基づいて、以下のように降伏強度が計算される。
【0069】
【数4】

【0070】
θΤは、圧延中の鋼の温度及び歪み速度が補正された降伏強度であり、
【0071】
【数5】

【0072】
は圧延の歪み速度であり、Tは圧延される際の鋼の温度(°K)である。本発明の目的のために、θΤは式VIIIのθに代入され、次式が得られる。
【0073】
【数6】

【0074】
式中、Kは定数である。
【0075】
熱間圧延における平均歪み速度
【0076】
【数7】

【0077】
を計算するための簡単な方法は、式XIに示される。
【0078】
【数8】

【0079】
式中、Dは作業ロール直径(mm)であり、nはロールの回転速度(1秒あたりの回転数)であり、Kは定数である。上記の式は、式IXの
【0080】
【数9】

【0081】
の代わりに式IXの
【0082】
【数10】

【0083】
を用いて、定数K、K及びKに1の値を与えることによって、再整理及び簡単化することができ、それにより、公称の熱間圧延歪みε公称は、式XIIに示されるように計算することができる。
【0084】
【数11】

【0085】
本発明の実施形態において、鋳造スラブは、異常な粒成長を回避するために、式IIIのTmax以下の温度に加熱される。鋳造及び再加熱スラブは、1回以上の熱間圧延パスを受け、それによって、少なくとも約15%超過、好ましくは約20%超過で約70%未満、より好ましくは約30%超過で約65%未満の厚さに圧下される。温度、圧下及び圧加速度等の熱間圧延の条件は、少なくとも1回のパス、好ましくは少なくとも2回のパス、より好ましくは少なくとも3回のパスが、1,000よりも大きい、好ましくは2,000よりも大きい、より好ましくは5,000よりも大きい式Vの歪みε公称を付与するように特定されて、ストリップの冷間圧延又は仕上げ焼鈍前の鋳放し粒構造の再結晶のために最適な条件を提供する。
【0086】
本発明の実施において、熱間圧延ストリップの焼鈍は、熱間圧延ストリップがその中に保持した熱によって焼鈍される自己焼鈍によって行われてもよい。自己焼鈍は、約1,300°F(約705℃)よりも高い温度で熱間圧延ストリップをコイル状にすることによって得ることもできる。また、熱間圧延ストリップの焼鈍は、当該技術分野においてよく知られているバッチタイプのコイル焼鈍又は連続タイプのストリップ焼鈍法のいずれかを用いて行われ得るが、焼鈍温度は式IVのTminを超えてはならない。バッチタイプのコイル焼鈍を用いる場合、熱間圧延ストリップは、高温、約10分よりも長い時間で典型的に約1,300°F(約705℃)よりも高い温度に、好ましくは約1,400°F(約760℃)の温度に加熱される。ストリップタイプの連続焼鈍を用いる場合、熱間圧延ストリップは、約10分未満の時間で典型的に約1,450°F(約790℃)よりも高い温度に加熱される。
【0087】
本発明の熱間圧延ストリップ又は熱間圧延及び熱延板焼鈍ストリップは、スケール除去処理を任意に受けて、冷間圧延又は仕上げ焼鈍の前に、無方向性電磁鋼ストリップ上に形成される酸化物又はスケール層を除去することができる。「酸洗い」は、最も一般的なスケール除去方法であり、ストリップは、1つ以上の無機酸の水溶液を用いることにより金属の表面の化学洗浄を受ける。腐食性、電気化学的及び機械的な洗浄等の他の方法は、鋼表面を洗浄するための確立された方法である。
【0088】
仕上げ焼鈍の後、本発明の鋼板は、ASTM仕様A677及びA976−97における無方向性電磁鋼で使用するために特定されるもの等の適用された絶縁コーティングがさらに提供されてもよい。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
熱A及びBを表1に示される組成に溶融して、2.5インチ(64mm)の鋳造スラブにした。表1は、熱A及びBがそれぞれ、約21%及び約1%の、式IIに従って計算されるγ1150℃を提供したことを示す。両方の熱からのスラブサンプルを切断して、単一パスの熱間圧延及び約10%〜約40%の圧下の前に、実験室で約1,922°F(1,050℃)〜約2,372°F(1,300℃)の温度に加熱した。直径9.5インチ(51mm)及びロール速度32RPMを有する作業ロールを用い、単一の圧延パスで熱間圧延を行った。熱間圧延の後、サンプルを冷却し、酸エッチングして、再結晶の量を決定した。
【0090】
熱A及びBからの結果はそれぞれ、図2及び3に示される。図2が示すように、熱Aと同等の組成を有する鋼は、十分なオーステナイトを提供して約2,372°F(1,300℃)までのスラブ加熱温度における異常な粒成長を防止し、熱間圧下工程のための十分な条件を用いて、鋳造構造の優れた再結晶を提供するであろう。図3が示すように、より少ない量のオーステナイトを有する熱Bと同等の組成を有する鋼は、許容されるスラブ加熱温度、熱Bの特定の場合には約2,192°F(1,200℃)以下の温度の制約下で加工されて、熱間圧延の前にスラブにおける異常な粒成長を回避しなければならない。さらに、所望量の鋳造構造の再結晶は、はるかに狭い熱間圧延温度範囲内で、はるかに高い熱間圧下を用いることにより得られるだけであろう。図3は、異常な粒成長条件及び不十分な熱間圧延条件が、再結晶されない粒の広い領域をもたらし、これは、完成鋼板にリジング欠陥を形成し得ることを示す。
【0091】
[実施例2]
表1の熱C、D及びEの組成は、本発明の教示に従って開発され、Si−Cr組成を用いて、約20%以上のγ1150℃を提供し、式Iに従って計算される体積抵抗率は、約35μΩ・cm(当該技術分野の中ケイ素鋼に特有)〜約50μΩ・cm(当該技術分野の高ケイ素鋼に特有)である。また、熱Fも表1に示されており、これは、従来技術の完全フェライト無方向性電磁鋼を表す。表1は、本発明のこれらの鋼についてのスラブ加熱のための最大許容温度及び熱間圧延のための最適温度の両方を示す。表1の結果は、図4にプロットされる。オーステナイト相領域は、熱C、D及びEについて示される。また、図4は、熱Fがオーステナイト/フェライト相領域を有さないと計算されることも説明する。表1が説明するように、無方向性電磁鋼は、本発明の方法により製造され、十分な量のオーステナイトを提供しながら、従来技術の中〜高ケイ素鋼に特有の体積抵抗率を提供することができ、広範囲のスラブ加熱温度及び熱間圧延条件を用いて熱間圧延中の活発及び完全な再結晶を保証することができる。さらに、本発明で教示される方法は当業者により使用されて、特定の製造要件、操作能力又は装置制限との最大の適合性のための合金組成を開発することができる。
【0092】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)6.5重量%までのケイ素、
5重量%までのクロム、
0.05重量%までの炭素、
3重量%までのアルミニウム、及び
3重量%までのマンガン
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を調製する工程と、
(b)前記溶鋼から鋼スラブを鋳造する工程と、
(c)Tmin,℃=921−5998(%C)−106(%Mn)+135(%P)+78.5(%Si)+107(%Al)−11.9(%Cr)+896(%N)+8.33(%Cu)−146(%Ni)+173(%Mo)
max,℃=1479+3480(%C)+158(%Mn)−347(%P)−121(%Si)−275(%Al)+1.42(%Cr)−195(%N)+44.7(%Cu)+140(%Ni)−132(%Mo)
で定義されるような、Tmax未満でTminよりも高い温度に前記鋼スラブを加熱する工程と、
(d)前記スラブを熱間圧延して熱間圧延ストリップとし、前記熱間圧延が、式:
【数1】

を用いる公称歪みが少なくとも700である工程と、
(e)T,℃=759−4430(%C)−194(%Mn)+445(%P)+181(%Si)+378(%Al)−29.0(%Cr)−48.8(%N)−68.1(%Cu)−235(%Ni)+116(%Mo)で定義されるようなT未満の温度で前記ストリップを仕上げ焼鈍する工程と
を含む無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記仕上げ焼鈍温度が、T,℃=921−5998(%C)−106(%Mn)+135(%P)+78.5(%Si)+107(%Al)−11.9(%Cr)+896(%N)+8.33(%Cu)−146(%Ni)+173(%Mo)で定義されるようなT未満である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項9】
(a)6.5重量%までのケイ素、
5重量%までのクロム、
0.05重量%までの炭素、
3重量%までのアルミニウム、及び
3重量%までのマンガン
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を調製する工程と、
(b)前記溶鋼から鋼スラブを鋳造する工程と、
(c)Tmin,℃=759−4430(%C)−194(%Mn)+445(%P)+181(%Si)+378(%Al)−29.0(%Cr)−48.8(%N)−68.1(%Cu)−235(%Ni)+116(%Mo)
max,℃=1633+3970(%C)+236(%Mn)−685(%P)−207(%Si)−455(%Al)+9.64(%Cr)−706(%N)+55.8(%Cu)+247(%Ni)−156(%Mo)
で定義されるような、Tmax未満でTminよりも高い温度に前記鋼スラブを加熱する工程と、
(d)前記スラブを熱間圧延して熱間圧延ストリップとし、前記熱間圧延が、式:
【数2】

を用いる公称歪みが少なくとも700である工程と、
(e)T,℃=759−4430(%C)−194(%Mn)+445(%P)+181(%Si)+378(%Al)−29.0(%Cr)−48.8(%N)−68.1(%Cu)−235(%Ni)+116(%Mo)で定義されるようなT未満の温度で前記ストリップを仕上げ焼鈍する工程と
を含む無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記仕上げ焼鈍温度が、T,℃=921−5998(%C)−106(%Mn)+135(%P)+78.5(%Si)+107(%Al)−11.9(%Cr)+896(%N)+8.33(%Cu)−146(%Ni)+173(%Mo)で定義されるようなT未満である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜約1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項17】
(a)6.5重量%までのケイ素、
5重量%までのクロム、
0.05重量%までの炭素、
3重量%までのアルミニウム、及び
3重量%までのマンガン
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を調製する工程と、
(b)前記溶鋼から鋼スラブを鋳造する工程と、
(c)Tmax,℃=1463+3401(%C)+147(%Mn)−378(%P)−109(%Si)−248(%Al)+0.79(%Cr)−78.8(%N)+28.9(%Cu)+143(%Ni)−22.7(%Mo)
で定義されるような、Tmax未満の温度に前記鋼スラブを加熱する工程と、
(d)前記スラブを熱間圧延して熱間圧延ストリップとし、前記熱間圧延が、式:
【数3】

を用いる公称歪みが少なくとも700である工程と、
(e)T,℃=759−4430(%C)−194(%Mn)+445(%P)+181(%Si)+378(%Al)−29.0(%Cr)−48.8(%N)−68.1(%Cu)−235(%Ni)+116(%Mo)で定義されるようなT未満の温度で前記ストリップを仕上げ焼鈍する工程と
を含む無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記仕上げ焼鈍温度が、T,℃=921−5998(%C)−106(%Mn)+135(%P)+78.5(%Si)+107(%Al)−11.9(%Cr)+896(%N)+8.33(%Cu)−146(%Ni)+173(%Mo)で定義されるようなT未満である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記溶鋼が、
1%〜3.5%のケイ素、
0.1%〜3%のクロム、
0.01%までの炭素、
1%までのアルミニウム、
0.1%〜1%のマンガン、
0.01%までの、硫黄、セレン及びこれらの混合物からなる群から選択される金属、並びに
0.01%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記溶鋼が、
1.5%〜3%のケイ素、
0.15%〜2%のクロム、
0.005%までの炭素、
0.5%までのアルミニウム、
0.1%〜0.35%のマンガン、
0.005%までの硫黄、
0.007%までのセレン、及び
0.002%までの窒素
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記溶鋼が、0.15%までのアンチモン、0.005%までのニオブ、0.25%までのリン、0.15%までのスズ、0.01%までの硫黄及び/又はセレン、並びに0.01%までのバナジウムをさらに含む請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−209467(P2010−209467A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61176(P2010−61176)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2006−532901(P2006−532901)の分割
【原出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【出願人】(503371616)エイケイ・スティール・プロパティーズ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】AK STEEL PROPERTIES, INC.
【住所又は居所原語表記】705 Curtis Street, Middletown, OH 45043, U.S.A.
【Fターム(参考)】