説明

無方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】高効率分割鉄心型モータの固定子鉄心に好適な、圧延方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】熱延鋼板に45%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程;(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程であって、上記第1冷間圧延工程および上記第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるように、50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施す第2冷間圧延工程;および(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程;を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータや発電機などの高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に好適な、圧延方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、自動車、家電製品等の分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。また、家電製品分野においては、年間電気消費量の少ない高効率エアコン、冷蔵庫等がある。これらの共通した技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
従来のモータでは固定子は一体打抜き型鉄心が採用されるケースが多く、このようなモータの鉄心材料としては異方性が小さく、全周方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板が求められてきた。
一方、近年では、固定子に巻き線設計の面で有利な分割鉄心が採用されるケースが増加しており、このようなモータの鉄心材料としては、圧延方向(以下、「L方向」ともいう。)の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板が求められている。
【0004】
ところで、L方向の磁気特性が良好な電磁鋼板として方向性電磁鋼板がある。しかしながら、方向性電磁鋼板は圧延垂直方向(以下、「C方向」ともいう。)の磁気特性が極めて悪いため、C方向にも磁束が流れるモータ鉄心材料としては適していない。
【0005】
そこで、特許文献1には、分割鉄心用の電磁鋼板であって、L方向の鉄損は方向性電磁鋼板と同等で、C方向の鉄損は方向性電磁鋼板よりも低い無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。しかしながら、このような無方向性電磁鋼板を製造するためには高温長時間の2次再結晶焼鈍や脱炭焼鈍が可能な特殊な設備を要するため、著しく製造コストが嵩むという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−100026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータや発電機などの高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に好適な、圧延方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明らは上記課題を解決するために、L方向の磁気特性が特に優れるとともに、L方向およびC方向の平均磁気特性が良好である無方向性電磁鋼板を得るために鋭意検討を行った。その結果、無方向性電磁鋼板の製造工程において、第1冷間圧延工程、中間焼鈍工程、第2冷間圧延工程および仕上焼鈍工程を順に行い、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における圧下率ならびに中間焼鈍工程および仕上焼鈍工程における焼鈍条件を適正化することにより、L方向の磁気特性が特に優れるとともに、L方向およびC方向の平均磁気特性が良好である無方向性電磁鋼板を得られることが可能になることを新たに知見した。
本発明は上記新知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
(A)質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0%以上4.0%以下、sol.Al:0.6%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、Siおよびsol.Alの合計含有量が4.5%未満である化学組成を有する熱延鋼板に45%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程であって、上記第1冷間圧延工程および上記第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるように、50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施す第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0010】
上記発明においては、上記化学組成が、上記Feの一部に代えて、Sn:0.1質量%以下およびSb:0.1質量%以下からなる群から選択される1種または2種を含有していてもよい。無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させることができるからである。
【0011】
また本発明においては、上記化学組成が、上記Feの一部に代えて、Ca:0.01質量%以下を含有していてもよい。結晶粒成長性を向上させて磁気特性を向上させることができるからである。
【0012】
さらに本発明においては、上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に1時間以上20時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間以上180秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有していてもよい。磁気特性をさらに高めることができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、分割鉄心型モータのモータ効率の向上が期待できる。また、本発明においては、特殊な設備を要しないため、製造コスト面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例における第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とするものである。
(A)質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0%以上4.0%以下、sol.Al:0.6%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、Siおよびsol.Alの合計含有量が4.5%未満である化学組成を有する熱延鋼板に45%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程であって、上記第1冷間圧延工程および上記第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるように、50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施す第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0017】
以下、本発明における無方向性電磁鋼板の化学組成および本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
【0018】
(化学組成)
まず、本発明における無方向性電磁鋼板の化学組成の限定理由について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。
【0019】
Cは、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。したがって、C含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.003%以下である。
【0020】
Siは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.0%以上とする。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。したがって、Si含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.5%以下である。
【0021】
Alは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、sol.Al含有量は0.6%以上とする。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
【0022】
ここで、SiおよびAlは、固溶強化能が高いので、過剰に含有させると冷間圧延が困難になる。したがって、Siとsol.Alの合計含有量は4.5%未満とする。
【0023】
Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Mn含有量は0.1%以上とする。一方、MnはSiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が多くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
【0024】
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有するので、積極的に含有させてもよい。しかしながら、Pは固溶強化元素でもあるため、P含有量が過剰になると、鋼板が硬質化して冷間圧延が困難になる。このため、P含有量は0.2%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはP含有量を0.015%以上とすることが好ましい。
【0025】
Sは、不純物として含有され、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。このため、S含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
【0026】
Nは、不純物として含有され、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。このため、N含有量を0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
【0027】
SnおよびSbは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有するので、含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると却って磁気特性を劣化させる。このため、SnおよびSbの含有量はそれぞれ0.1%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはいずれかの元素を0.01%以上含有させることが好ましい。
【0028】
Caは、介在物制御に有効な元素であり、適度に添加すると結晶粒成長性を向上させて磁気特性を向上させる作用を有する。しかしながら、過剰に含有させると上記作用による効果は飽和して徒にコストの増加を招く。したがって、Ca含有量は0.01%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはCa含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
【0029】
(第1冷間圧延工程)
第1冷間圧延工程においては、上記化学組成を有する熱延鋼板に45%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す。この際、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるようにする。
第1冷間圧延工程における圧下率が45%未満もしくは75%超であると、良好な磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第1冷間圧延工程における圧下率は45%以上75%以下とする。
【0030】
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、熱延鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
【0031】
熱延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。後述するように熱延鋼板に熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
【0032】
(中間焼鈍工程)
中間焼鈍工程においては、上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持する中間焼鈍を施す。
中間焼鈍工程における中間焼鈍温度が900℃未満であったり、900℃以上の温度域に保持する時間が1秒間未満であったりすると、良好な磁気特性を得ることができない場合がある。一方、中間焼鈍温度を1150℃超とするには特殊な設備が必要となり、900℃以上の温度域に保持する時間を10分間超としても効果が飽和してしまうので、いずれもコストの増加を招く。したがって、中間焼鈍工程は900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持するものとする。
中間焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0033】
(第2冷間圧延工程)
第2冷間圧延工程においては、上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施す。この際、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるようにする。
【0034】
第2冷間圧延工程における圧下率が50%未満または85%超であると、良好な磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第2冷間圧延工程における圧下率は50%以上85%以下とする。
【0035】
鉄損に関しては、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータや発電機などの高効率分割鉄心型モータは高速回転域で使用される場合が多いので、高周波条件下における鉄損が低いことが求められる。第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の総圧下率が83.0%未満では、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚の下限が操業上の制約を受けることに起因して、第2冷間圧延工程後の板厚を十分に薄くすることが困難となり、鉄損が劣化する場合がある。また、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の総圧下率が92%超では、冷間圧延の能率が低下してコストの増加を招く場合がある。したがって、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の総圧下率は83.0%以上92%以下とする。
【0036】
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
【0037】
(仕上焼鈍工程)
仕上焼鈍工程においては、上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す。
上述したように、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータや発電機などの高効率分割鉄心型モータは高速回転域で使用される場合が多いので、高周波条件下における鉄損が低いことが求められるところ、結晶粒径が過大であっても過小であっても高周波条件での鉄損が劣化する。仕上焼鈍工程における仕上焼鈍温度が900℃未満では、粒成長不足により良好な磁気特性が得られない場合がある。したがって、仕上焼鈍温度は900℃以上とする。一方、仕上焼鈍温度が1200℃超では、粒成長が過度に進行してしまい良好な磁気特性が得られない場合がある。したがって、仕上焼鈍温度は1200℃以下とする。
900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍時間は特に規定せずともよいが、良好な磁気特性をより確実に得るには1秒間以上とすることが好ましい。一方、生産性の観点からは仕上焼鈍時間を120秒間以下とすることが好ましい。
仕上焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0038】
(熱延板焼鈍工程)
上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板には、熱延板焼鈍を施してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、一層良好な磁気特性が得られる。
熱延板焼鈍は箱焼鈍および連続焼鈍のいずれによって行ってもよい。箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に1時間以上20時間以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間以上180秒間以下保持することが好ましい。
熱延板焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0039】
(熱間圧延工程)
上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板は、上記化学組成を有する鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施すことにより得ることができる。
【0040】
熱間圧延においては、上記化学組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。この際、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。
熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではない。
【0041】
(その他の工程)
上記仕上焼鈍工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁皮膜を鋼板表面に塗布するコーティング工程を行ってもよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁皮膜を塗布しても構わない。また、コーティング工程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す工程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
【0044】
[実施例1]
C:0.002%、Si:2.9%、sol.Al:1.1%、Mn:0.2%、P:0.01%、S:0.001%,N:0.002%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブを熱間圧延によって2.1mmの熱延鋼板とした後、酸洗を行った。まず、基準材として、酸洗鋼板に熱延板焼鈍を施して1回の冷間圧延工程により仕上板厚とした。また、別の酸洗鋼板について熱延板焼鈍を施さずに中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚とした。このようにして得られた冷延鋼板に1100℃で30秒間保持する仕上焼鈍を施して無方向性電磁鋼板とした。
【0045】
このようにして得られた無方向性電磁鋼板について、磁化力5000A/mで磁化した際のL方向の磁束密度B50Lと、L方向およびC方向の平均磁束密度B50aveを測定し、これらを基準材と比較することで、それぞれの値の差分であるΔB50LとΔB50aveを算出した。この結果を製造条件と併せて下記表1に示す。また、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係を図1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
No.1〜5は、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における圧下率が所定の範囲内であるため、B50LおよびB50aveの双方が基準材よりも良好であった。しかも、ΔB50LがΔB50aveよりも大きくなっていることから、特にL方向の磁気特性が向上していることが確認された。一方、No.6は第2冷間圧延工程における圧下率ならびに第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の総圧下率が所定の範囲から外れているため、No.7は第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における圧下率が所定の範囲から外れているため、No.8は第2冷間圧延工程における圧下率が所定の範囲から外れているため、No.9は第1冷間圧延工程における圧下率が所定の範囲から外れているため、B50aveまたはB50LおよびB50aveが基準材よりも低下しており、磁気特性の向上が確認されなかった。
【0048】
[実施例2]
下記表2に示す化学組成を有するスラブを熱間圧延によって板厚2.0mmの熱延板とした後、酸洗を施した。これらの酸洗鋼板について、まず、基準材として、酸洗鋼板に1000℃の温度で20秒保持する熱延板焼鈍を施して1回の冷間圧延工程により0.30mmの板厚とした。また、別の酸洗鋼板について熱延板焼鈍を施さずに中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって0.30mmの板厚とした。中間板厚は0.8mmとし、中間焼鈍は1000℃の温度で20秒保持する条件で実施した。この場合、第1冷間圧延工程における圧下率は60.0%、第2冷間圧延工程における圧下率は62.5%、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における総圧下率は85.0%であった。これらの冷延鋼板に1100℃で30秒間保持する仕上焼鈍を施して無方向性電磁鋼板とした。
【0049】
このようにして得られた無方向性電磁鋼板について、磁化力5000A/mで磁化した際のL方向の磁束密度B50Lと、L方向およびC方向の平均磁束密度B50aveを測定し、これらを基準材と比較することで、それぞれの値の差分であるΔB50LとΔB50aveを算出した。この結果を製造条件と併せて下記表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、化学組成が異なっても、無方向性電磁鋼板の製造工程を、第1冷間圧延工程、中間焼鈍工程、第2冷間圧延工程および仕上焼鈍工程からなるものとし、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における圧下率ならびに中間焼鈍工程および仕上焼鈍工程における焼鈍条件を適正化することにより、L方向の磁気特性とともに、L方向およびC方向の平均磁気特性を向上させることができ、特にL方向の磁気特性が向上していることが確認された。
【0052】
[実施例3]
C:0.002%、Si:2.0%、sol.Al:2.0%、Mn:2.0%、P:0.01%、S:0.003%、N:0.002%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブを熱間圧延によって2.0mmの熱延鋼板とした後、酸洗を行った。まず、基準材として、酸洗鋼板に熱延板焼鈍を施して1回の冷間圧延工程により仕上板厚とした。また、別の酸洗鋼板について熱延板焼鈍を施さないものおよび熱延板焼鈍を施したものについて中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚とした。このようにして得られた冷延鋼板に1050℃で60秒間保持する仕上焼鈍を施して無方向性電磁鋼板とした。
【0053】
このようにして得られた無方向性電磁鋼板について、磁化力5000A/mで磁化した際のL方向の磁束密度B50Lと、L方向およびC方向の平均磁束密度B50aveを測定し、これらを基準材と比較することで、それぞれの値の差分であるΔB50LとΔB50aveを算出した。この結果を製造条件と併せて下記表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
No.15に示すように、無方向性電磁鋼板の製造工程を、第1冷間圧延工程、中間焼鈍工程、第2冷間圧延工程および仕上焼鈍工程からなるものとし、第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程における圧下率ならびに中間焼鈍工程および仕上焼鈍工程における焼鈍条件を適正化することにより、L方向の磁気特性とともに、L方向およびC方向の平均磁気特性を向上させることができ、特にL方向の磁気特性が向上させることができることが確認された。さらに、No.16および17に示すように、熱延板焼鈍を実施することでさらに磁気特性を向上させることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
(A)質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0%以上4.0%以下、sol.Al:0.6%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.005%以下およびN:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、Siおよびsol.Alの合計含有量が4.5%未満である化学組成を有する熱延鋼板に45%以上75%以下の圧下率の冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;
(B)前記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上10分間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程;
(C)前記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程であって、前記第1冷間圧延工程および前記第2冷間圧延工程における総圧下率が83.0%以上92%以下となるように、50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施す第2冷間圧延工程;および
(D)前記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に900℃以上1200℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程。
【請求項2】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Sn:0.1質量%以下およびSb:0.1質量%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Ca:0.01質量%以下を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に1時間以上20時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間以上180秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1772(P2012−1772A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138583(P2010−138583)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】