説明

無方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】冷間圧延方向の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板を製造する有利な方法を提案する。
【解決手段】C:0.005mass%以下、Si:2〜7mass%、Mn:0.03〜3mass%、Al:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、S:0.005mass%以下を含有し、さらに、Caを0.0005〜0.01mass%かつSとの原子比(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32)が0.5〜3.5の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍し、冷間圧延した後、再結晶焼鈍を施して結晶粒径dを70μm以下とした後、圧下率が1〜15%のスキンパス圧延し、歪取焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関し、具体的には、圧延方向に優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力を初めとする各種消費エネルギーの削減という世界的な動きの中で、電気機器の分野においても、その高効率化や小型化が強く望まれるようになってきている。無方向性電磁鋼板は、電気機器の鉄心材料として広く用いられている。そのため、電気機器の小型化・高効率化を達成するためには、無方向性電磁鋼板の高品質化、すなわち、高磁束密度化・低鉄損化が不可欠となってきている。
【0003】
無方向性電磁鋼板は、従来、添加する合金元素の種類や量を適正化したり、冷延前粒径をできる限り大きくしたり、冷延圧下率を最適化したりすることなどで高磁束密度化を図り、また、固有抵抗を高める元素を添加したり、板厚を低減したりすることなどで低鉄損化を図ってきている。
【0004】
ところで、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータは、鉄心材料の歩留りを向上する観点から、従来の一体型コアに代わって、分割コアが採用されるようになってきている。この分割コアは、従来のように積層するコア材を、素材鋼板から一体としてリング状に打ち抜くのではなく、円周方向で分割したT字型のコアのティース部が、鋼板の圧延方向となるように打ち抜いた後、コアに組み立てることで、モータの特性向上を図る技術であり、磁束が集中するティース部が、電磁鋼板の圧延方向となるため、モータの高トルク化、高効率化を図ることが可能となる。
【0005】
上記分割コアに用いる材料としては、圧延方向の磁気特性が良好な方向性電磁鋼板が考えられるが、製造工程に二次再結晶プロセスを必要とするため、製造コストが高く、分割コアにはほとんど採用されておらず、専ら、安価な無方向性電磁鋼板が用いられている。そのため、無方向性電磁鋼板における圧延方向の磁束密度を高めることができれば、分割コアの最適材料となり得ると考えられる。
【0006】
圧延方向の磁気特性を向上させる技術としては、例えば、特許文献1には、熱延板焼鈍後の結晶粒径と冷間圧延の圧下率を適正範囲に制御することによって、面内圧延方向と垂直方向に優れた磁気特性を得る方法が開示されている。しかし、この方法では、300μm以上の冷延前結晶粒径を得ることが必要であるため、鋼中の不純物濃度を低減してやる必要があったり、熱延板焼鈍温度を高温にしてやる必要があったりするため、製造性やコスト面で問題がある。
【0007】
また、特許文献2には、Si:2.0mass%以下、Mn:3.0mass%以下、Al:1.0〜3.0mass%を含有する鋼素材を、熱延し、熱延板焼鈍し、酸洗し、冷延し、仕上焼鈍し、スキンパス圧延を施す製造工程において、結晶粒径を50μm以下を有する仕上焼鈍後の鋼板を圧下率が3〜10%でスキンパス圧延することで、L方向の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されている。しかしながら、この特許文献2の技術は、Alを1mass%以上添加する必要があるため、飽和磁束密度が低下したり、原料コストが増加したりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−332042号公報
【特許文献2】特開2006−265720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷間圧延方向の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板を製造する有利な方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、Alを低減し、かつCaを添加した再結晶焼鈍後の冷延鋼板における結晶粒径を適正範囲に制御した上で、適正な圧下率のスキンパス圧延を施すことで、冷間圧延方向(L方向)の磁束密度を著しく向上させることができることを見出し、本発明を開発した。
【0011】
上記知見に基く本発明は、C:0.005mass%以下、Si:2〜7mass%、Mn:0.03〜3mass%、Al:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、S:0.005mass%以下を含有し、さらに、Caを0.0005〜0.01mass%かつSとの原子比(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32)が0.5〜3.5の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍し、冷間圧延した後、再結晶焼鈍を施して結晶粒径dを70μm以下とした後、圧下率が1〜15%のスキンパス圧延し、歪取焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0012】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法に用いる鋼スラブは、上記成分組成に加えてさらに、Sn:0.003〜0.5mass%、Sb:0.003〜0.5mass%、P:0.03〜0.15mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧延方向に優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を安価に提供することができるので、本発明の無方向性電磁鋼板を、分割コア材料に用いることにより、ハイブリッド自動車や電気自動車の性能を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】圧延方向の磁束密度B50−Lに及ぼすAl含有量の影響を示すグラフである。
【図2】圧延方向の鉄損W15/50−Lに及ぼすAl含有量の影響を示すグラフである。
【図3】圧延方向の磁束密度B50−Lに及ぼすCaとSの原子比(Ca/40)/(S/32)の影響を示すグラフである。
【図4】圧延方向の鉄損W15/50−Lに及ぼすCaとSの原子比(Ca/40)/(S/32)の影響を示すグラフである。
【図5】圧延方向の磁束密度B50−Lに及ぼすスキンパス前平均粒径の影響を示すグラフである。
【図6】圧延方向の鉄損W15/50−Lに及ぼすスキンパス前平均粒径の影響を示すグラフである。
【図7】圧延方向の磁束密度B50−Lに及ぼすスキンパス圧下率の影響を示すグラフである。
【図8】圧延方向の鉄損W15/50−Lに及ぼすスキンパス圧下率の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、前述したように、無方向性電磁鋼板の冷間圧延方向(L方向)の磁気特性を向上するべく検討した結果、Alを低減し、かつCaを添加した再結晶焼鈍後の冷延鋼板における結晶粒径を適正範囲に制御した上で、適正な圧下率のスキンパス圧延を施すことで、冷間圧延方向(L方向)の磁束密度を大きく向上することができることを知見し、本発明を開発した。以下、上記知見に関する実験について説明する。
【0016】
<実験1>
Al含有量が、鋼板の圧延方向の磁気特性に及ぼす影響を調査するため、C:0.0025mass%、Si:3.0mass%、Mn:0.15mass%、Al:0.001〜1.5mass%、N:0.0019mass%、S:0.0020mass%およびCa:0.0025mass%を含有する鋼スラブを1100℃で30分間加熱後、熱間圧延し、板厚:2.0mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の熱延板焼鈍を施し、1回の冷間圧延で板厚:0.368mmの冷延板とし、その後、800℃で30秒の再結晶焼鈍を施して、結晶粒径を35μmとした。ここで、上記結晶粒径は、L断面を線分法にて測定した平均結晶粒径のことである(以下、同様)。その後、圧下率:5%のスキンパス圧延を施して板厚:0.35mmとした後、820℃で2時間保持した後、炉冷する歪取焼鈍を施した。
【0017】
斯くして得られた冷延焼鈍板から、長さL:180mm×幅C:30mmのL方向(圧延方向)サンプルを切り出し、エプスタイン試験によって磁気特性(磁束密度B50−L、鉄損W15/50−L)を測定し、その結果を、図1および図2に示した。これらの図から、Alの含有量が0.01mass%以下の領域でL方向の磁気特性が向上していることがわかる。Alを低減することで、スキンパス、歪取焼鈍後のL方向の磁気特性が改善される理由は、まだ十分に明らかとなっていないが、AlはAlNを形成して粒界移動を抑制するインヒビター元素であることから、Alを低減することで、粒界方位差角による易動度差が生じ、それによる歪取焼鈍後の粒成長性の差によってGoss方位への集積度が高まったためと考えられる。
【0018】
<実験2>
次に、Ca含有量が、鋼板の圧延方向の磁気特性に及ぼす影響を調査するため、C:0.0028mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.50mass%、Al:0.004mass%、N:0.0022mass%、S:0.0024mass%およびCa:0.0001〜0.015mass%を含有する鋼スラブを1100℃で30分間加熱後、熱間圧延し、板厚:1.8mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の熱延板焼鈍を施し、1回の冷間圧延で板厚:0.269mmの冷延板とし、その後、820℃で30秒の再結晶焼鈍を施して、結晶粒径を40μmとした。その後、圧下率:7%のスキンパス圧延を施して板厚:0.25mmとした後、750℃で2時間保持した後、炉冷する歪取焼鈍を施した。
【0019】
斯くして得られた冷延焼鈍板から、長さL:180mm×幅C:30mmのL方向(圧延方向)サンプルを切り出し、エプスタイン試験によって磁気特性(磁束密度B50−L、鉄損W15/50−L)を測定し、その結果を、図3および図4に示した。これらの図から、CaとSの原子比を表す(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32)が0.5〜3.5の範囲において、L方向の磁気特性が向上していることがわかる。Caを上記範囲にすることで、スキンパス、歪取焼鈍後のL方向の磁気特性が改善される理由については、Caは鋼中でSを固定し、CaSとして析出することで、粗大に析出し、熱延板焼鈍時や歪取焼鈍時の粒成長性を改善するが、(Ca/40)/(S/32)が0.5未満では、上記効果が十分ではなく、一方、(Ca/40)/(S/32)が3.5を超えると、CaSの析出量が多くなり過ぎてヒステリシス損が増加し、却って鉄損が増加するためと考えられる。
【0020】
<実験3>
次に、スキンパス前の結晶粒径が鋼板の圧延方向の磁気特性に及ぼす影響を調査するため、C:0.0025mass%、Si:3.0mass%、Mn:0.15mass%、Al:0.00lmass%、N:0.0019mass%、S:0.0015mass%およびCa:0.0020mass%を含有する鋼スラブを1100℃で30分間加熱後、熱間圧延し、板厚:2.0mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の条件で熱延板焼鈍を施し、1回の冷間圧延で板厚:0.368mmの冷延板とした。その後、750〜1050℃の温度範囲で30秒の再結晶焼鈍を施して、結晶粒径を種々の大きさに変化させた後、圧下率:5%のスキンパス圧延を施して板厚:0.35mmとした後、820℃で2時間保持した後、炉冷する歪取焼鈍を施した。
【0021】
斯くして得られた冷延焼鈍板から、長さL:180mm×幅C:30mmのL方向(圧延方向)サンプルを切り出し、エプスタイン試験によって磁気特性(磁束密度B50−L、鉄損W15/50−L)を測定し、その結果を、図5および図6に示した。これらの図から、再結晶焼鈍後(スキンパス圧延前)の粒径を70μm以下とすることで、L方向の磁気特性が向上していることがわかる。これはスキンパス前の粒径が70μmを超えると、スキンパス、歪取焼鈍後に歪誘起粒成長が起こり難くなるため、集合組織がランダム化し、Goss方位への集積度が低下するため、および、スキンパスで導入された歪が歪取焼鈍後も残存してしまうためと考えられる。
【0022】
<実験4>
さらに、スキンパスの圧下率が鋼板の圧延方向の磁気特性に及ぼす影響について調査するため、C:0.0026mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.50mass%、Al:0.002mass%、N:0.0022mass%、S:0.0018mass%およびCa:0.0023mass%を含有する鋼スラブを1100℃で30分間加熱後、熱間圧延し、板厚:1.8mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の条件で熱延板焼鈍を施し、1回の冷間圧延で板厚:0.251〜0.313mmの冷延板とした。その後、800℃で30秒の再結晶焼鈍を施して、結晶粒径を40μmの大きさとした。その後、圧下率を0.5〜20%の範囲で変化させてスキンパス圧延を施して板厚:0.25mmとした後、750℃で2時間保持した後、炉冷する歪取焼鈍を施した。
【0023】
斯くして得られた冷延焼鈍板から、長さL:180mm×幅C:30mmのL方向(圧延方向)サンプルを切り出し、エプスタイン試験によって磁気特性(磁束密度B50−L、鉄損W15/50−L)を測定し、その結果を、図7および図8に示した。これらの図から、再結晶焼鈍後のスキンパスの圧下率を1〜15%の範囲とすることで、L方向の磁気特性が向上していることがわかる。これはスキンパス圧下率が1%未満では、導入する歪エネルギーが不足するため、歪取焼鈍時にGoss方位への集積が認められなくなるため、一方、スキンパス圧下率が15%を超えると、逆に、導入される歪エネルギーが大きくなり過ぎて、歪取焼鈍時にGoss方位への優先成長が認められなくなるためと考えられる。
【0024】
なお、上記のように、スキンパス圧延、歪取焼鈍後にGoss方位へ集積度が高まる機構については、まだ明確にはなっていないが、内部歪の少ないGoss粒が粒成長する方位選択的粒成長によるものであると考えられ、前述した、Al低減の効果と相俟って、Goss方位への集積が促進されたものと思われる。
【0025】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の成分組成を限定する理由について説明する。
C:0.005mass%以下
Cは、0.005mass%を超えて含有すると、製品板が磁気時効を起こして鉄損特性が低下する。よって、Cは0.005mass%以下とする。好ましくは0.003mass%以下である。
【0026】
Si:2〜7mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する元素であるので、2mass%以上含有させる必要がある。一方、Siが7mass%を超えると、鋼が硬質化して加工性が低下し、また、飽和磁束密度も低下する。よって、Siは2〜7mass%の範囲とする。好ましくは、2〜6.5mass%の範囲である。
【0027】
Mn:0.03〜3mass%
Mnは、熱間加工性を改善するために必要な元素であるが、0.03mass%未満では、上記効果が得られず、一方、3mass%を超える添加は、原料コストの上昇を招く。よって、Mnは0.03〜3mass%の範囲とする。好ましくは、0.05〜2mass%の範囲である。
【0028】
Al:0.01mass%以下
Alは、0.01mass%を超えると、方位差角による粒界の易動度差が生じ難くなるため、熱延板焼鈍後および歪取焼鈍後の集合組織がランダム化し、Goss方位が発達せず、優れた磁気特性を得ることができなくなる。よって、Alは0.01mass%以下とする。好ましくは0.005mass%以下である。
【0029】
S:0.005mass%以下、N:0.005mass%以下
SおよびNは、本発明においては磁気特性を低下させる不純物元素であり、それぞれが0.005mass%を超えて含有していると、上記弊害が大きくなる。よって、S,Nはそれぞれ0.005mass%以下とする。好ましくは、それぞれ0.003mass%以下である。
【0030】
Ca:0.0005〜0.01mass%かつ(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32):0.5〜3.5
Caは、鋼中のSを固定してCaSとして析出することで、粒成長性を改善し、磁気特性を向上する効果を有する元素である。Caの添加量が0.0005mass%未満では、上記効果が十分ではなく、一方、0.01mass%を超える添加は、CaSの過析出を招き、ヒステリシス損が増加するため好ましくない。よって、Caは0.0005〜0.01mass%の範囲とする。好ましくは0.001〜0.008mass%の範囲である。
【0031】
ただし、Caの上記効果を得るためには、上記組成範囲とすることに加えて、CaのSに対する原子比(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32))が0.5〜3.5の範囲となるよう添加する必要がある。CaのSに対する原子比が0.5未満では、上記効果が十分に得られず、一方、CaのSに対する原子比が3.5を超えると、CaSの析出量が多くなり過ぎてヒステリシス損が増加するため、却って鉄損が増加する。よって、Caは、Sに対する原子比で0.5〜3.5の範囲で添加する必要がある。
【0032】
本発明の電磁鋼板は、上記成分組成を満たすことに加えてさらに、Sn,SbおよびPのうちから選ばれる1種または2種を下記の範囲で含有することができる。
Sn:0.003〜0.5mass%、Sb:0.003〜0.5mass%
SnおよびSbは、集合組織を改善して磁束密度を向上させるだけでなく、鋼板表層の酸化や窒化、および、それに伴う表層微細粒徹棚粒の生成を抑制することによって、磁気特性の低下を防止する等、種々の作用効果を有する元素である。かかる効果を発現させるためには、SnおよびSbのいずれか1種以上を0.003mass%以上添加することが好ましい。一方、添加量が0.5mass%を超えると、結晶粒の粒成長性が阻害されて磁気特性の低下を招くおそれがある。よって、SnおよびSbを添加する場合には、それぞれ0.003〜0.5mass%の範囲とすることが望ましい。
【0033】
P:0.03〜0.15mass%
Pは、集合組織を改善して磁束密度を向上させる効果を有する元素であり、0.03mass%以上含有させることが好ましい。しかし、含有量が0.15mass%を超えると、鋼板の硬さが上昇して脆化を起こし、冷間圧延することが困難となる。よって、Pは0.03〜0.15mass%の範囲とするのが望ましい。
【0034】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、本発明に適合する上記成分組成を有する鋼を転炉や電気炉、真空脱ガス装置などを用いた通常公知の精錬プロセスで溶製し、連続鋳造あるいは造塊−分塊圧延法で鋼スラブとし、この鋼スラブを通常公知の方法で熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延し、再結晶焼鈍し、スキンパス圧延し、歪取焼鈍を施すことで製造することができる。上記製造工程のうち、冷間圧延までは、常法に準じて行えばよく、特に制限はなく、例えば、冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上行ってもよく、圧下率の通常の無方向性電磁鋼板と同様に設定することができる。
ただし、再結晶焼鈍以降については、下記の条件で行うのが望ましい。
【0035】
再結晶焼鈍
冷間圧延後の再結晶焼鈍は、焼鈍後の結晶粒径を70μm以下に制御する必要があるため、焼鈍温度は700〜900℃の範囲で行うのが好ましい。より好ましくは750〜850℃の範囲である。
【0036】
スキンパス
再結晶焼鈍後に行うスキンパスの圧下率は、1〜15%の範囲に設定する必要がある。前述したように、スキンパス圧下率が1%未満では、導入する歪エネルギーが不足するため、歪取焼鈍時にGoss方位への集積が認められなくなる。一方、スキンパス圧下率が15%を超えると、逆に導入される歪エネルギーが大きくなり過ぎて、歪取焼鈍時にGoss方位への優先成長が認められなくなるからである。好ましくは2〜10%の範囲である。
【0037】
歪取焼鈍
歪取焼鈍は、一般には、700〜900℃の温度で2時間程度均熱する条件で行われているが、本発明では、粒成長を促進するため、焼鈍温度はできるだけ高温とするのが好ましい。しかし、焼鈍温度が900℃を超えると、製造コストの上昇を招く。よって、歪取焼鈍の焼鈍温度は700〜900℃の範囲が好ましく、より好ましくは750〜850℃の範囲である。
【実施例】
【0038】
表1に示した成分組成の鋼スラブを溶製し、1080℃で30分間加熱後、熱間圧延して板厚:2.0mmの熱延板とした後、1000℃で30秒の熱延板焼鈍し、1回の冷間圧延で冷延板とした後、表2に示した焼鈍温度で10秒間の再結晶焼鈍を施した。この際、再結晶焼鈍後の鋼板からサンプルを採取し、L断面の平均結晶粒径を線分法で測定した。その後、表2に示した圧下率でスキンパス圧延して、表2に記載の最終板厚とした後、780℃で2時間保持後、炉冷する歪取焼鈍を施し、製品板とした。
【0039】
【表1】

【0040】
斯くして得られた製品板から、長さL:180mm×幅C:30mmのL方向(圧延方向)サンプルを切り出し、エプスタイン試験によって磁気特性(磁束密度B50−L、鉄損W15/50−L)を測定し、その結果を、平均結晶粒径と共に、表2に併記した。
表2から、本発明の製造方法で製造した無方向性電磁鋼板は、圧延方向の磁気特性が優れていることがわかる。
【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の無方向性電磁鋼板の用途は、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータの分割コアに限定されるものではなく、圧延方向の磁気特性に優れることが要求される他の用途、例えば、トランス用コア材等としても好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.005mass%以下、Si:2〜7mass%、Mn:0.03〜3mass%、Al:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、S:0.005mass%以下を含有し、さらに、Caを0.0005〜0.01mass%かつSとの原子比(Ca(mass%)/40)/(S(mass%)/32)が0.5〜3.5の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍し、冷間圧延した後、再結晶焼鈍を施して結晶粒径dを70μm以下とした後、圧下率が1〜15%のスキンパス圧延し、歪取焼鈍を施す無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記成分組成に加えてさらに、Sn:0.003〜0.5mass%、Sb:0.003〜0.5mass%、P:0.03〜0.15mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−112853(P2013−112853A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260163(P2011−260163)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】