説明

無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末及びその製造方法、並びに分散型無機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要のない、耐湿性、耐久性に優れた分散型無機EL素子とそれに用いる無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスを母体として、発光中心となり得る希土類元素を含むことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末及びその製造方法、並びに分散型無機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンス(以下、「無機EL」という)素子は、高精細、高コントラスト、応答速度が速いといった特徴から液晶ディスプレイ用バックライト、各種インテリア用照明、車載用表示装置等への応用が期待されている。無機EL素子には素子を蒸着等の薄膜形成技術で通常数μm程度の厚さに形成する薄膜型無機EL素子と、スクリーン印刷等の厚膜形成技術で通常数10μm程度の厚さに形成する分散型無機EL素子とがある。分散型無機EL素子は、製造設備が比較的単純であり、連続生産に適しており大量生産に有利であるとともに、近年需要が高まっている素子の大型化にも有利であることなどの特徴を有する。
【0003】
分散型無機EL素子は、通常ガラスやポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる基材の片面に酸化インジウムスズ(ITO)等からなる透明導電層を形成した透明電極と、バインダー中に蛍光体粉末を分散してなる発光層と、バインダー中に誘電体粉末を分散してなる絶縁層と、アルミニウムやカーボン等からなる背面電極とを順次積層して構成されており、さらに、防湿、耐久性向上を目的とした表面保護層が設けられている。
【0004】
一方、無機EL素子に用いられる蛍光体材料は、硫化亜鉛(ZnS)を母相とし、賦活材としてCu、Ag、Mn、3価希土類等を添加した材料が多く用いられており、また、近年では、青色発光体としてバリウムチオアルミネート(BaAl:Eu)、緑色発光体としてストロンチウムチオガレイト(SrGa:Eu)、赤色発光体として硫化カルシウム(CaS:Eu)等が用いられるようになってきている。しかし、これらの蛍光体材料は硫化物を母相として用いているため、耐湿性に乏しく、表面保護層の形成などの防湿処理が必要とされている。
【0005】
また、非特許文献1及び2、特許文献1に記載されているように耐湿性、耐久性に優れた酸化物蛍光体の開発が行われており、発光デバイスへの応用が期待されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、蛍光体粉末表面に酸化物薄膜層を形成することにより、吸湿による発光特性の劣化を防止する技術が示されており、特許文献3には、防湿フィルムを使用することにより、防湿性の向上及び漏電防止を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−8674号公報
【特許文献2】特開平4−230996号公報
【特許文献3】特開2007−188725号公報
【非特許文献1】植田 和茂、「様々なペロブスカイト型酸化物蛍光体」、セラミックス、43、627−633(2008)
【非特許文献2】Weiyi Jia, ”Effects ofcompositional phasetransitions onluminescence ofSr1−xCaxTiO3:Pr3+",Solid StateCommunications, Vol 126, P153−157,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2は、蛍光体粉末表面に酸化物蛍光体を形成する追加の工程が必要となり、製造コストの増加と製造歩留まりの低下を招き望ましくない。さらに、屋外使用などの過酷な状況下での防湿性も十分でないなどの課題が残る。また、特許文献3は、防湿フィルムを用いることによる複雑形状への対応の困難さ、屋外使用などの過酷な状況での防湿性、製造コストの増大などの問題がある。
【0009】
そこで、以上の問題を解決すべく、本発明は、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要がなく、耐湿性及び耐久性に優れた分散型無機エレクトロルミネッセンス素子とそれに用いる無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスを母体として、発光中心となり得る希土類元素を含む無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末を用いることにより、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要がなく、耐湿性及び耐久性に優れる無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末ができることを見出した。すなわち、本発明は、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスを母体として、発光中心となり得る希土類元素を含むことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末に関する。
【0011】
また、本発明は、上記無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末の製造方法であり、塩基性化合物の存在するアルカリ性水溶液中で、希土類元素を含んだペロブスカイト型結晶構造の酸化物セラミックスを構成する金属イオンを60〜200℃で反応させる製造方法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、上記無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末を用いた分散型無機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要がなく、耐湿性、耐久性に優れた分散型無機エレクトロルミネッセンス素子とそれに用いる無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無機EL素子の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】実施例1の無機EL用蛍光体粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1の無機EL素子の駆動電圧と発光スペクトルの変化を示す図である。
【図4】実施例28の無機EL素子の駆動電圧と発光スペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要のなく、耐湿性、耐久性に優れた無機EL用蛍光体粉末及びその製造方法、並びに分散型無機EL素子とに関する。
【0016】
[無機EL用蛍光体粉末]
本発明に係る無機EL用蛍光体粉末は、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスを母体として、発光中心となり得る希土類元素を含む。本発明に係る無機EL用蛍光体粉末によれば、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要がなく、耐湿性、耐久性に優れた分散型無機EL素子用蛍光体粉末を提供することが可能となる。発光中心となり得る希土類元素としては、公知のものを用いることができ、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)などが好適であり、特にPrが好ましい。
【0017】
ペロブスカイト型結晶構造を有する無機EL用蛍光体粉末の第1の例は、R1−3y/2BOで表される。式中、Rは、希土類元素、Aは、Mg及びアルカリ土類金属元素のいずれか一種又は二種以上、Bは、Ti及びZrのいずれか一種又は二種、0<y≦0.01である。この無機EL用蛍光体粉末によれば、耐湿性、耐久性に優れた無機EL用蛍光体粉末を提供することが可能となるとともに、発光開始電圧が低く、発光強度の大きな無機EL用蛍光体粉末を提供することができるので好ましい。
【0018】
ペロブスカイト型結晶構造を有する無機EL用蛍光体粉末の第2の例は、Pr(Ca1−xSr1−3y/2TiOで表される。式中、0≦x≦0.4、0<y≦0.01である。この無機EL用蛍光体粉末によれば、蛍光体粉末の表面処理や防湿フィルムの使用などによる防湿対策を施す必要がなく、耐湿性、耐久性に優れた無機EL用蛍光体粉末を提供することが可能となるとともに、発光開始電圧がさらに低く、より大きな発光強度の無機EL用蛍光体粉末を提供することができるのでより好ましい。
【0019】
ペロブスカイト型結晶構造を有する無機EL用蛍光体粉末の第3の例は、ABO+aR+bMで表される。式中、Rは、希土類元素、Aは、Mg及びアルカリ土類金属元素のいずれか一種又は二種以上、Bは、Ti及びZrのいずれか一種又は二種、Mは、Al及びMgのいずれか一種又は二種、0<a≦0.01、0<b≦1である。この無機EL用蛍光体粉末によれば、耐湿性、耐久性に優れた無機EL用蛍光体粉末を提供することが可能となるとともに、発光開始電圧が低く、発光強度の大きな無機EL用蛍光体粉末を提供することができるので好ましい。
【0020】
ペロブスカイト型結晶構造を有する無機EL用蛍光体粉末の第4の例は、SrTiO+aPr+bAlで表される。式中、0<a≦0.01、0<b≦1である。この無機EL用蛍光体粉末によれば、耐湿性、耐久性に優れた無機EL用蛍光体粉末を提供することが可能となるとともに、発光開始電圧がより低く、より大きな発光強度の無機EL用蛍光体粉末を提供することができるのでより好ましい。
【0021】
本発明に係る無機EL用蛍光体粉末において、そのメジアン径(D50)は、0.04μm乃至20μmであることが好ましく、この範囲に限定することにより、発光開始電圧の低電圧化が可能であるとともに発光強度の大きな分散型無機EL素子を作製することが可能となる。粒度分布は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて求めることができる。測定粉末試料を水系分散剤を含んだ水溶液中に超音波分散させ測定試料とする。これにより、粉末試料の凝集の影響を受けることなく、セラミックス粉末試料の粒度分布を測定することができる。メジアン径(D50)が0.04μm以下となると発光強度が著しく悪化するため好ましくない。また、メジアン径(D50)が20μm以上となるとスクリーン印刷法で作製した発光層が不均質となり易く、安定した面発光が得られにくいため好ましくない。
【0022】
さらに、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末において、そのメジアン径(D50)のより好ましい範囲は、1μm乃至10μmである。メジアン径(D50)がこの範囲にあると発光層中の蛍光体粉末の割合を大きくして発光層の形成が可能となり、発光強度をより大きくすることができるため好ましい。
【0023】
本発明に係る無機EL用蛍光体粉末において、そのメジアン径(D50)と粒子径標準偏差(σ)との関係が、D50/σ≧0.8であることが好ましく、D50/σ≧0.8である場合には、発光層中の蛍光体粉末の割合を大きくしても良好な塗膜が得られ、発光開始電圧の低電圧化が可能となるとともに発光強度を高めることができるので好ましい。D50/σを調整する方法としては、篩による分級、風力分級法などが挙げられる。また、粒子径標準偏差が比較的小さな微粒子からなる粉末を作製する方法としては、水熱合成法、共沈法やゾル−ゲル法などの液相合成法、気相法などが好ましく、これらの方法は、不純物元素の混入を抑制することができる。特に、液相合成法は、比較的製造コストが低価になるため好ましい。さらに、液相合成法の中でも、水熱合成法は、反応条件の制御により粒子径の制御された結晶性微粒子からなる粉末が得られるため、微粒子からなる粉末の品質及びコストの面からも好ましい。
【0024】
本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の製造方法としては、固相反応法、水熱合成法、共沈法やゾル−ゲル法などの液相合成法、気相法などの無機酸化物粉末の合成法がある。
【0025】
固相反応法としては、一般的な固相反応法を用いることができる。希土類元素を含んだぺロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスの原料としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の化合物を用いることができる。また、焼成は、上記原料化合物が固相反応してペロブスカイト型酸化物となる条件で行えば特に支障はない。例えば、1000〜1500℃の温度範囲で加熱焼成してペロブスカイト型酸化物を得ることができる。加熱焼成雰囲気としては大気中が好ましい。また、一旦700〜1200℃の温度範囲で仮焼した後、再度、粉砕後1000〜1500℃の温度範囲で再焼成しても良い。
【0026】
また、固相反応法では、得られた無機EL用蛍光体粉末のメジアン径(D50)は、20μm以上となり易いため、その場合には、ジェットミル法、ボールミル法、振動ミル法などの粉体粉砕法により、メジアン径(D50)を0.04μm乃至20μmに調整することができる。
【0027】
本発明の一態様であるPr(Ca1−xSr1−3y/2TiO(但し、0≦x≦0.4、0<y≦0.01)で表されるペロブスカイト型酸化物を作製する場合、チタン化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、プラセオジウム化合物として、例えば、酸化チタン、チタン酸等のチタン化合物、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等のカルシウム化合物、炭酸ストロンチウム、酸化ストロンチウム等のストロンチウム化合物、塩化プラセオジウム、酸化プラセオジウム等のプラセオジウム化合物が挙げられる。
【0028】
水熱合成法は、塩基性化合物の存在するアルカリ性水溶液中で、希土類元素を含んだペロブスカイト型結晶構造の酸化物セラミックスを構成する金属イオンを60〜200℃で反応させることで行われる。塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、特に、アルカリ金属水酸化物や、アミン類等の有機塩基を塩基として用いることができる。希土類元素を含んだペロブスカイト型結晶構造の酸化物セラミックスを構成する金属イオンの原料化合物としては、金属塩化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属水酸化物等の化合物を用いることができ、これらの原料を所定量含んだ水溶液をオートクレーブ等の加圧容器中で、60〜200℃の範囲内で所定時間反応させることにより水熱合成が行われる。
【0029】
本発明の一態様であるPr(Ca1−xSr1−3y/2TiO(但し、0≦x≦0.4、0<y≦0.01)で表されるペロブスカイト型酸化物を作製する場合には、チタンイオンを生成する化合物としては、四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、チタンアルコキシド等を用いることができる。また、四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタンなどを酸性水溶液中で加水分解して得られたチタニアゾルを用いることもできる。また、プラセオジウムイオンを生成する化合物としては、塩化プラセオジウム・七水和物、硝酸プラセオジウム・六水和物、硫酸プラセオジウム・八水和物等を用いることができる。また、カルシウムイオンを生成する化合物としては、塩化カルシウム・二水和物、硝酸カルシウム・四水和物、硫酸カルシウム・二水和物、水酸化カルシウム等を用いることができる。また、ストロンチウムイオンを生成する化合物としては、塩化ストロンチウム・六水和物、硝酸ストロンチウム・四水和物、水酸化ストロンチウム・八水和物、硫酸ストロンチウム等を用いることができる。
【0030】
水熱合成法は、上記原料等を所定量含んだ水溶液をオートクレーブ等の加圧容器中で、60〜200℃の範囲内で所定時間反応させることで行われる。また、第一工程として、四塩化チタン等のチタンイオンを生成する化合物と塩基性化合物を含んだアルカリ水溶液を60〜200℃の範囲内で所定時間反応させチタニアゾルを生成させた後、第二工程として、プラセオジウムイオンを生成する化合物、カルシウムイオンを生成する化合物、ストロンチウムイオンを生成する化合物を所定量加え、60〜200℃の範囲内で所定時間反応させることも可能である。
【0031】
得られたスラリーを濾過と水洗等を繰り返し、500℃以下の温度で乾燥することにより、Pr(Ca1−xSr1−3y/2TiO(但し、0≦x≦0.4、0<y≦0.01)の微粒子からなる粉末が得られる。また、得られた微粒子からなる粉末を加えて水熱合成を繰り返し、所望の粒子径に調整することもできる。また、500℃から1500℃程度の温度で熱処理することにより、微粒子の粒成長を促進させて粒径を調整することも可能である。
【0032】
水熱合成法で得られた粉末は、固相反応法で行う粉砕等の工程を経る必要がないため不純物元素の混入を防ぐことが可能であり、不純物元素を原因とする発光強度の低下や、不純物元素を原因とする発光ピークを抑制できるので好ましい。
【0033】
本発明に係る無機EL用蛍光体粉末は、電界励起した場合に波長が600nm乃至630nmの発光ピークの最大発光強度(I)と波長が660nm乃至690nmの発光ピークの最大発光強度(I)との関係が、I/I≧50であることが好ましい。
【0034】
[分散型無機EL素子]
本発明に係る分散型無機EL素子は、ベースフィルム1の片面に、正面電極2、発光層3、絶縁層4、背面電極5がこの順に積層されており、後述のEL表示装置における発光部を形成する。
【0035】
(電極)
本発明に係る分散型無機EL素子において、正面電極としては、一般的に用いられている任意の透明電極材料が用いられる。例えば、錫ドープ酸化インジウム、フッ素ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛などの酸化物、銀などの薄膜を高屈折率層で挟んだ多層体、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。これらの透明電極にはこれに櫛型あるいはグリッド型等の金属配線を配置して導電性を改善することも好ましい。透明電極の表面抵抗は、0.1Ω/□〜200Ω/□の範囲が好ましい。
【0036】
光を取出さない側の背面電極としては、導電性のある任意の材料を使用できる。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作製する素子の形態、作製工程の温度等により適時選択される。また、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。
【0037】
正面電極及び背面電極の双方が透過性を有しない場合は、無機EL素子は主として側面から発光する。この場合、電極の選択肢が多くなり、電極の種類を変えることで発光層の発光強度を高めることができる。一方、電極の一方が透明電極である素子で、背面電極、絶縁層、発光層、透明電極層の順に積層すると、無機EL素子は主として透明電極を透過した光によって発光する。この構成では電極間の光の反射による損失が低減するので素子としての発光効率を高めることが容易である。また、一般に発光層の面積が大きいものについては前記透明電極層を有する構成の方が光の利用効率が高くなり好ましい。
【0038】
(発光層)
発光層は、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末をバインダーに分散したものを用いる。バインダーとしては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、チタン酸バリウム(BaTiO)やチタン酸ストロンチウム(SrTiO)などの高誘電率の微粒子からなる粉末を適度に混合して誘電率を調整することもできる。
【0039】
分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。本発明で用いる好ましい蛍光体粉末の量は、バインダー量1に対して重量比で4.2〜20であり、特に好ましいのは4.5〜10である。
【0040】
発光層は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することが好ましい。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法は、蛍光体や誘電体の微粒子からなる粉末を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布する。メッシュ数、乳剤膜厚、印刷速度、スキージ硬さ、塗布回数を選択することにより膜厚を制御できる。分散液を変えることで、発光層のみならず、絶縁層や背面電極なども形成でき、さらに、スクリーンの大きさを変えることで大面積化が可能である。
【0041】
(絶縁層)
本発明に係る分散型無機EL素子は、基本的に発光層を対向する一対の電極で狭持した構成を持つ。発光層と電極との間に絶縁層を形成することにより、発光開始電圧が安定し、作製が容易になるため好ましい。
【0042】
絶縁層は、誘電率が高く、且つ高い絶縁破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択された粉末をバインダーに分散したものが用いることができる。バインダーとしては、発光層で用いたバインダーと同様のものを用いることができる。また、使用する誘電体粉末としては、例えば、TiO2、BaTiO、SrTiO、PbTiO、KNbO、PbNbO、Ta、BaTa、LiTaO、Y、Al、ZrO、AlON、ZnSなどが挙げられる。特に好ましくはBaTiOである。
【0043】
分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。本発明で用いる好ましい蛍光体粉末の量は、バインダー量1に対して重量比で4.2〜20であり、特に好ましいのは4.5〜10である。
【0044】
絶縁層4は、発光層3上に高誘電体粉末を分散したバインダーを塗布することにより形成することができる。形成方法としては、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することが好ましい。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法は、蛍光体や誘電体の微粒子からなる粉末を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布する。メッシュ数、乳剤膜厚、印刷速度、スキージ硬さ、塗布回数を選択することにより膜厚を制御できる。分散液を変えることで、発光層や絶縁層のみならず、背面電極なども形成で、さらに、スクリーンの大きさを変えることで大面積化が可能である。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例1について説明する。先ず、SrCO,CaCO,TiO,Pr11の原料をPr0.002(Ca0.6Sr0.40.997TiO組成(x=0.4、y=0.002)になるように秤量し、10mmφZrOボールとエタノールで15時間ボールミル混合した。このスラリーを脱媒、乾燥、解砕し、1000℃で9時間仮焼した。得られた仮焼粉末を解砕した後、10mmφZrOボールとエタノールで15時間ボールミル混合した。このスラリーを脱媒、乾燥、解砕し、1350℃で9時間保持した後、1000℃で10時間保持して焼成した。得られた焼結体粉末を解砕し、28メッシュに分級した後、5mmφZrOボールとエタノール溶媒で20時間ボールミル粉砕した。このスラリーを40μm以下に分級濾過した後、得られた固形物を乾燥、解砕して無機EL用蛍光体粉末を作製した。表1に記載するように得られた粉末のメジアン径(D50)は5.01μm、粒子径標準偏差(σ)は5.54μmであった。
【0046】
得られた無機EL用蛍光体粉末を、X線回折装置を用いて評価した。図2にX線回折パターンを示す。図より明らかなようにペロブスカイト型結晶構造を有していることが確認された。
【0047】
蛍光X線分析装置を用いて、得られた無機EL用蛍光体粉末の組成分析を行ったところ、Caとして30.9mol%、Srとして19.4mol%、Tiとして49.6mol%、Prとして0.12mol%(仕込み組成は、Caとして29.9mol%、Srとして20.0mol%、Tiとして50.0mol%、Prとして0.10mol%である。)であり、ほぼ、目的とする組成の無機EL用蛍光体粉末が得られていることが確認できた。
【0048】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例1に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。先ず、前記の無機EL用蛍光体粉末とバインダーとしてシアノエチルセルロースとを、重量比で10対1の比率で秤量混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として発光層用ペーストを作製した。さらに、誘電体粉末としてBaTiO粉末を、バインダーとしてシアノエチルセルロースを、重量比で10対1の比率で秤量混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として絶縁層用ペーストを作製した。
【0049】
表面抵抗率が5Ω/□であるITOガラス基板上に、スクリーン印刷法により発光層を形成した。発光層の厚みは約60μmとなるように、印刷回数を制御した。その後、発光層上に、スクリーン印刷法により約15μmの絶縁層を形成し、市販の黒鉛ペースト(日本アチオン製、UN801)を用いて、スクリーン印刷法により絶縁層上に背面電極層を形成し、分散型無機EL素子とした。
【0050】
正面電極(ITOガラス基板)と背面電極(黒鉛層)との間に周波数1kHzの交流電圧を印加して、作製した分散型無機EL素子の発光スペクトルの評価を行った。図3に発光スペクトルの電圧依存性を示す。
【0051】
印加電圧を300Vとした場合に、610nm付近にPr3+イオンのからへのエネルギー遷移によると考えられる発光ピークが確認でき、印加電圧の増加とともに、発光強度が大きくなることがわかる。一方、670nm及び710nm付近に発光ピークが確認され、蛍光体粉末の作製工程で混入した不純物元素に起因する発光ピークであると思われる。
【0052】
実施例1における印加電圧450Vでの発光強度を100%として表1に記載した。また、印加電圧を450Vとした場合の610nm付近の発光ピークの発光強度(I)と670nm付近の発光ピークの発光強度(I)との比(I/I)は3.3であった。
作製した分散型無機EL素子を、温度85℃、湿度85%の条件下に100時間放置した後、110℃で2時間乾燥後、発光強度の評価を行ったところ、放置前の発光強度に比べ93%の発光強度が得られた。
【0053】
【表1】

【0054】
(比較例1)
緑色蛍光体として一般的に使用されているZnS:Cu、Cl蛍光体を用いて、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製した。得られた分散型無機EL素子は、470nm〜550nmに発光ピークを持つ緑色発光であった。また、実施例1と同様に、温度85℃、湿度85%の条件下に100時間放置した後、110℃で2時間乾燥後、発光強度の評価を行ったところ、放置前の発光強度に比べ56%の発光強度となり。大幅な低下が確認された。
【0055】
(実施例2〜5)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例2〜5について説明する。x=0、0.1、0.2、0.3とした以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0056】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例2〜5に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。相対発光強度は96〜128%と大きな発光強度が得られた。一方で、I/Iは4.5〜7.2と670nm付近の発光が確認された。
【0057】
(実施例6〜8)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例6〜8について説明する。x=0.5、0.6、0.7とした以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0058】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例6〜8に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。相対発光強度は42〜76%と実施例1〜5に比べて小さい値を示した。また、発光開始電圧も350V以上と高かった。
【0059】
(実施例9〜13)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例9〜13について説明する。y=0.001、0.004、0.006、0.008、0.010とした以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0060】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例9〜13に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。相対発光強度は85〜108%と大きな発光強度を示している。
【0061】
(実施例14)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例14について説明する。y=0.012とした以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0062】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例14に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。相対発光強度は52%と実施例6〜10に比較して小さい値を示した。
【0063】
(実施例15〜18)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例15〜18について説明する。5mmφZrOボールとエタノール溶媒で20時間ボールミル粉砕した後、更に、2mmφZrOボールとエタノール溶媒で1〜20時間ボールミル粉砕した以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0064】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例15〜18に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示す無機EL用蛍光体粉末を用い、実施例15及び16では、無機EL用蛍光体粉末とシアノエチルセルロースとを2対1の比率に、実施例17では、無機EL用蛍光体粉末とシアノエチルセルロースとを5対1の比率にした以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。メジアン径(D50)が0.04〜20.0の範囲内である実施例16〜18では、相対発光強度が92〜107%と大きな値を示した。一方、メジアン径(D50)が0.036である実施例15では、相対発光強度が56%と小さく、また、発光開始電圧も400Vと高かった。
【0065】
(実施例19〜22)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例19〜22について説明する。5mmφZrOボールとエタノール溶媒でボールミル粉砕する時間を1〜15時間とした以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表1に示す。
【0066】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例19〜22に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。メジアン径(D50)が0.04〜20.0の範囲内である実施例19〜21では、相対発光強度が124〜134%と大きな値を示した。一方、メジアン径(D50)が23.8である実施例22では、安定した面発光が得られず、発光状態の面内分布が非常に大きな素子となった。
【0067】
(実施例23、24)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例23、24について説明する。5mmφZrOボールとエタノール溶媒でボールミル粉砕した後、分級操作を行わない(実施例23)、20μm以下に分級濾過(実施例24)した以外は実施例1と同様にして無機EL用蛍光体粉末を作製した。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差を表1に示す。
【0068】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例23、24に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。表1に示すように、用いる無機EL用蛍光体粉末以外は、実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表1に示す。メジアン径(D50)と粒子径標準偏差(σ)との関係が、D50/σ=1.147である実施例24では、相対発光強度が140%と大きな値を示した。また、発光開始電圧も275Vと低い値を示した。一方、メジアン径(D50)と粒子径標準偏差(σ)との関係が、D50/σ=0.311である実施例23では、安定した面発光が得られず、発光状態の面内分布が非常に大きな素子となった。
【0069】
(実施例25)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例25について説明する。TiClを0.5mol/L、CaCl・2HOを0.399mol/L、SrCl・6HOを0.100mol/L、PrCl・7HOを0.001mol/L、KOHを2.5mol/Lの濃度になるように調整したアルカリ水溶液をオートクレーブ中で150℃、3h水熱反応させ、Pr0.002(Ca0.8Sr0.20.997TiO組成(x=0.2、y=0.002)の無機EL用蛍光体粉末を含んだスラリーを得た。その後、濾過、水洗を3回繰り返し、得られた粉末を150℃で12h乾燥することで無機EL用蛍光体粉末を得た。表2に記載するように得られた粉末のメジアン径(D50)は0.044μm、粒子径標準偏差は0.024μmであった。
【0070】
【表2】

【0071】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例25に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。用いる無機EL用蛍光体粉末を表2記載の実施例25の無機EL用蛍光体粉末とし、無機EL用蛍光体粉末とシアノエチルセルロースとを、2対1の比率で秤量混合し発光層用ペーストとした以外は実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表2に示す。相対発光強度は86%と比較的大きな値を示した。
【0072】
(実施例26〜30)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例26〜30について説明する。粒成長工程として、実施例21で得られた無機EL用蛍光体粉末25gと、TiClを0.25mol/L、CaCl・2HOを0.199mol/L、SrCl・6HOを0.050mol/L、PrCl・7HOを0.0005mol/L、KOHを2.5mol/Lの濃度になるように調整したアルカリ水溶液をオートクレーブ中で110℃、5h水熱反応させ、Pr0.002(Ca0.8Sr0.20.997TiO組成(x=0.2、y=0.002)の無機EL用蛍光体粉末を含んだスラリーを得た。前記粒成長工程を実施例26では1回、実施例27では2回、実施例28では3回、実施例29では4回、実施例30では5回繰り返すことで粒子径を調整した。その後、濾過、水洗を3回繰り返し、得られた粉末を150℃で12h乾燥することで無機EL用蛍光体粉末を得た。得られた粉末のメジアン径(D50)及び粒子径標準偏差(σ)を表2に記載する。水熱合成で得られた無機EL用蛍光体粉末は、表1に記載した固相法で得られた無機EL用蛍光体粉末に比べ、D50/σが大きくなっており、生成した粒子が単分散であることがわかる。
【0073】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例26〜30に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。用いる無機EL用蛍光体粉末を表2記載の実施例26〜30の電無機EL用蛍光体粉末とし、無機EL用蛍光体粉末とシアノエチルセルロースとの比率を、実施例26では5対1とした以外は実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表2に示す。相対発光強度は92〜138%と大きな値を示した。
【0074】
実施例28で作製した分散型無機EL素子の発光スペクトルの印加電圧依存性を図4に示す。印加電圧を300Vとした場合に、610nm付近にPr3+イオンのからへのエネルギー遷移によると考えられる発光ピークが確認でき、印加電圧の増加とともに、発光強度が大きくなることがわかる。また、実施例1で確認された670nm及び710nm付近の発光ピークが確認されず、単色での発光であることが確認できる。印加電圧を450Vとした場合の610nm付近の発光ピークの発光強度(I)と670nm付近の発光ピークの発光強度(I)との比(I/I)は110000であった。
【0075】
(実施例31)
(無機EL用蛍光体粉末)
次に、本発明に係る無機EL用蛍光体粉末の実施例31について説明する。実施例25で得られた無機EL用蛍光体粉末を1350℃で9hアニール処理することで粒成長させた無機EL用蛍光体粉末を得た。得られた粉末のメジアン径(D50)は3.20μmで粒子径標準偏差(σ)は2.97μmであった。
【0076】
(分散型無機EL素子)
次に、実施例31に係る無機EL用蛍光体粉末を用いて、分散型無機EL素子を作製した。用いる無機EL用蛍光体粉末を表2記載の実施例31とした以外は実施例1と同様の方法にて分散型無機EL素子を作製し、実施例1の駆動条件にて発光させた。発光特性を表2に示す。相対発光強度は125%と大きな値を示した。
【符号の説明】
【0077】
1 ベースフィルム
2 正面電極層
3 発光層
4 絶縁層
5 背面電極層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物セラミックスを母体として、発光中心となり得る希土類元素を含むことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末。
【請求項2】
Pr(Ca1−xSr1−3y/2TiO(但し、0≦x≦0.4、0<y≦0.01)で表されることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末。
【請求項3】
メジアン径(D50)が、0.04μm乃至20μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末。
【請求項4】
メジアン径(D50)と粒子径標準偏差(σ)との関係が、D50/σ≧0.8であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末。
【請求項5】
電界励起した場合に波長が600nm乃至630nmの発光ピークの最大発光強度(I)と波長が660nm乃至690nmの発光ピークの最大発光強度(I)との関係が、I/I≧50であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末。
【請求項6】
塩基性化合物の存在するアルカリ性水溶液中で、希土類元素を含んだペロブスカイト型結晶構造の酸化物セラミックスを構成する金属イオンを60〜200℃で反応させて請求項1乃至5いずれか記載の無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末を得ることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれか記載の無機エレクトロルミネッセンス用蛍光体粉末を含有することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87230(P2012−87230A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235810(P2010−235810)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】