説明

無機中空体組成物およびその製造方法

【課題】 無機中空体を主材とする組成物の流動性及び硬化性を用いて、これまでにない新規な建材用組成物を提供することにある。
【解決手段】 無機中空体としてパーライト、無機バインダーとして水ガラス(=ケイ酸ソーダ)、吸熱性化合物として水酸化アルミニウムを、配合比各25重量%〜40重量%の範囲で配合したことを特徴とする無機中空体組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、無機中空体組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、配合当初には流動性を有し、その後乾燥硬化する建築材料としては、キャスタブル(不定形耐火物)が知られている。例えば、特許文献1には、骨材を主材とし、これにアルミナセメントを結合材として配合してなる水硬性不定形耐火組成物が開示されている。
【特許文献1】特開昭58−176181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このキャスタブルは、水不溶性の高吸水性樹脂を配合し、焼成によってこの高吸水性樹脂を揮散させて微細な気孔を有する軽量化されたキャスタブル成形体を得るものである。 従って、このキャスタブルを固化(硬化)させるには、乾燥以外にも焼成工程(作業)が必要となっている(明細書第4頁右下欄)。
【0004】
一方、本願発明は、無機中空体を主材とする組成物の流動性及び硬化性を用いて、これまでにない新規な建材用組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第1の発明は、パーライト、泡ガラス、バーミキュライト、シャモット、軽石、から選ばれる1種以上の無機中空体と、バインダーが水ガラス、コロイダルシリカ、燐酸アルミニウム、アルミナゾル、セメントから選ばれる1種以上の無機バインダーとを配合し、さらに水酸化アルミニウム、石膏、シリカゲル、ゼオライト、水酸化銅、硫酸マグネシウム水和物、硫酸アルミニウム水和物、燐酸マグネシウム水和物、燐酸鉄水和物、フッ化鉄水和物、フッ化アルミニウム水和物、から選ばれる1種以上の吸熱性化合物を混合したことを特徴とする無機中空体組成物である。
第2の発明は、無機中空体としてパーライト100重量%に対して、無機バインダーとして水ガラス(=ケイ酸ソーダ)を10〜200重量%配合したことを特徴とする同無機中空体組成物である。
第3の発明は、無機中空体としてパーライト、無機バインダーとして水ガラス(=ケイ酸ソーダ)、吸熱性化合物として水酸化アルミニウムを、配合比各25重量%〜40重量%の範囲で配合したことを特徴とする同無機中空体組成物である。
第4の発明は、無機中空体と無機バインダーを、重力式ミキサー(例:ポットミキサー等)を使用して混合したことを特徴とする無機中空体組成物の製造方法である。
第5の発明は、無機中空体と無機バインダーを混合した後に、吸熱性化合物を混合することを特徴とする同無機中空体組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)本願組成物の主材は無機中空体であるので、耐火性・耐熱性に優れた組成物を提供できる。
(2)無機バインダーの乾燥前は、無機中空体どうしが無結合又は弱結合状態であるために、流動性に優れた組成物を提供できる。
(3)無機バインダーの乾燥後は、無機中空体どうしが完全結合状態に固化するために、自硬性に優れた組成物を提供できる。
(4)無機バインダーの乾燥によって硬化するために、一定時間後に自立する(自立性)組成物を提供できる。
(5)組成物の主材が無機中空体であるために、軽量性に優れた組成物を提供できる。
(6)成形した時に、乾燥前後で体積変化しないために、硬化後に隙間を生じない(硬化体積性)組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明の実施形態を説明する。
第1の実施形態は、無機中空体と無機バインダーと吸熱性化合物を混合した無機中空体組成物である。
この無機中空体組成物は、以下の特徴を有する。
(1)無機中空体の少なくとも表面に付着した無機バインダーの乾燥によって、無機中空体どうしが無結合又は弱結合状態から完全結合状態に固化する。すなわち、流動性と自立性(自硬性)を備えるものである。
(2)成形した時に、乾燥前後で体積変化しない。すなわち、硬化体積性を備えるものである。
(3)吸熱性化合物は、必須の配合物ではない。しかし、吸熱性化合物を混合(配合)することで、無機中空体組成物の耐火性・耐熱性をさらに向上させることができる。
【0008】
上記無機中空体組成物の特徴(1)で言及した「流動性」について、詳細に説明する。
無機中空体組成物の流動性とは「無機中空体どうしの無結合又は弱結合状態」を意味するが、無機中空体は中空(軽量)且つ球状であることで、周り込み性能を有するものである。すなわち、図1に示す充填空間10を例(従来例)にすると、通常の流動性を有する充填材30を充填空間10の上方から充填させた場合、充填空間10に既設されている装置・設備等(コンセントボックス等)20の下側にまで充填材30が周り込まず、デッドスペース11となってしまう。
【0009】
これに対して、本願発明に係る無機中空体組成物は、周り込み性能を有する流動性があるので、図1の実施例に示すように、無機中空体組成物40が充填空間10に既設されている装置・設備等20の下側にまで周り込み、デッドスペースを形成することなく、充填空間10を隙間無く充填できる。その結果、無機中空体組成物40を充填材として使用した場合には、充填空間に隙間を生じることなく、高い耐火性能・耐熱性能を発揮する。
【0010】
次に、無機中空体組成物の原料の種類とその理由を説明する。
無機中空体として特に限定されるものでなくパーライト、泡ガラス、バーミキュライト、シャモット、軽石などを使用できる。形状や軽量性からパーライトが好ましい。
パーライトの原石は、黒曜石、真珠岩、松脂岩の3種類が知られている。これらの原石を800℃〜1,000℃に加熱すると発泡して数倍に膨れ上がり、粒状または粉状パーライトになる。同じパーライトでも真珠岩・松脂岩のものは連続通気泡体で粉状化しやすく、黒曜石のものは、独立気泡体となっている。黒曜石パーライトは、その特色である独立気泡により、粒芯に浸水しないため、半永久的に軽量性を維持することができるばかりでなく、断熱性においても優れた機能を維持し続ける。無機バインダーとの混合においても少量で混合が可能である。そのため、本発明に使用するパーライトは黒曜石、真珠岩、松脂岩系の3種類いずれも使用可能であるが、好ましくは、黒曜石系である。
使用するパーライトの粒径は、小さ過ぎると、嵩密度が高くなるため、壁が充填材(無機中空体組成物)の自重で崩壊するおそれがある。また、表面積が大きくなるため、混合する無機バインダー溶液量が多くなり、流動性が悪化する、乾燥(硬化)時間が長くなる欠点がある。大きすぎると流動性(周り込み性能)が悪化するおそれがある。そのため、パーライト粒径の範囲は、0.05〜7.0mm、好ましくは1.2mmから5.0mm、さらに好ましくは2.5〜3.2mmである。
【0011】
無機バインダーとして特に限定されるものでなく水ガラス(=ケイ酸ソーダ)、コロイダルシリカ、燐酸アルミニウム、アルミナゾル、セメントなどを使用できる。乾燥工程の短縮、早期強度発現を必要とする場合は、水ガラス(=ケイ酸ソーダ)が好ましい。
ケイ酸ソーダは、一般的に1、2、3号の順に溶液粘度は上昇する。そのため、混合時1、2号を使用すると充填材(無機中空体組成物)の流動性が悪化する。また、4号は、吸湿し、液だれする可能性があり、硬化した後自硬性が低い。そのため、本発明で使用するケイ酸ソーダは3号が好ましい。
【0012】
吸熱性化合物においても特に限定されるものでなく水酸化アルミニウム、石膏、シリカゲル、ゼオライト、水酸化銅、硫酸マグネシウム水和物、硫酸アルミニウム水和物、燐酸マグネシウム水和物、燐酸鉄水和物、フッ化鉄水和物、フッ化アルミニウム水和物などが使用できる。中でも使用する温度域で吸熱効果が高い水酸化アルミニウムが好ましい。
水酸化アルミニウムの粒径は、小さいと混合する時に粒子の表面積が増大するため、無機バインダー量多く必要となるため、流動性が悪化し硬化に必要な乾燥時間が長くなる。また、粒径が大きいと、均一な混合が難しくなる。そのため、本発明で使用する水酸化アルミニウムの粒径は、0.75μm〜100μm、好ましくは30〜90μm、さらに好ましくは50〜80μmである。
【0013】
さらに、無機中空体組成物の配合(混合)について説明する。
無機中空体組成物の配合比率は自硬性、流動性、乾燥時間のトータルバランスを考慮すると以下のようになる。
(1)2成分の配合比の範囲
パーライト(無機中空体)100重量%に対してケイ酸ソーダ(無機バインダー)を10〜200重量%、好ましくは20〜100重量%、さらに好ましくは、40〜60重量%配合する。
(2)3成分の配合比の範囲
・パーライト(無機中空体) 25〜40重量%、好ましくは30〜35%
・ケイ酸ソーダ(無機バインダー) 25〜40重量%、好ましくは30〜35%
・水酸化アルミ(吸熱性化合物) 25〜40重量%、好ましくは30〜35%
【0014】
図2は、上記(2)3成分の配合比の範囲についてのその実験結果を示した評価表である。本願発明に係る無機中空体組成物は、自硬性があっても流動性が悪ければ、充填材として使用しにくく、また、自硬性が無いと、充填後に硬化しないおそれがあるため、使用できない。従って、図2の評価表によれば、自硬性と流動性が共に良好な配合である評価表「A」ランクの配合(各成分31〜35%)が好ましい範囲であり、評価表「AA」ランクの配合(各成分33〜34%)がより好ましい範囲である。
【0015】
図3は、パーライトの自硬性に関する実験結果を示す評価表である。この実験結果によれば、水ガラス(珪酸ソーダ3号)との関係で「自硬性」及び「流動性」に優れているパーライトとしては「農業関連資材:真珠岩系パーライト」として使用されるものよりも「建築関連資材:黒曜石系パーライト」として使用される「フヨーライト(商品名:芙蓉パーライト株式会社製造)」が好適であることが判明した。さらに各種「フヨーライト」の中でも「フヨーライト3号」が最適であることが判明した。
【0016】
本願発明の第2実施形態は、無機中空体組成物の製造方法である。
同製造方法は、以下のような工程になっている(吸熱性化合物を配合しない場合には、第2工程は不要である)。
(1)第1工程 … 無機中空体と無機バインダーを混合
(2)第2工程 … さらに第1工程の混合物に吸熱性化合物を混合
(3)第3工程 … 乾燥前の混合物(無機中空体組成物)を密封状態に保管する。
【0017】
上記(1)第1工程及び(2)第2工程における混合(配合)には、重力式ミキサー(例:ポットミキサー等)を使用することが好ましい。モルタルミキサー等のような強制練りミキサーを使用すると無機中空体が混じり合わないためである。
また、吸熱性化合物(水酸化アルミ)を、無機バインダー(ケイ酸ソーダ)より先に無機中空体(パーライト)と一緒に撹拌すると、比重の関係で無機中空体(パーライト)と吸熱性化合物(水酸化アルミ)は混じり合わない。従って、吸熱性化合物(水酸化アルミ)を混合する場合は、必ず無機中空体(パーライト)と無機バインダー(ケイ酸ソーダ)の混合(第1工程)後に、第2工程として混合する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本願発明は、「充填材」や「敷設材」として幅広く利用できる。具体的には、次の通りである。
(1)間仕切壁の空隙部分への充填材
(2)軒裏天井への敷設材
(3)その他
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】無機中空体組成物の流動性を説明する説明図。
【図2】3成分の配合比の範囲についての評価を示した表。
【図3】パーライトの自硬性に関する実験結果を示す評価表。
【符号の説明】
【0020】
10 充填空間 11 デッドスペース
20 装置・設備
30 充填材(従来例)
40 無機中空体組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーライト、泡ガラス、バーミキュライト、シャモット、軽石、から選ばれる1種以上の無機中空体と、バインダーが水ガラス、コロイダルシリカ、燐酸アルミニウム、アルミナゾル、セメントから選ばれる1種以上の無機バインダーとを配合し、さらに水酸化アルミニウム、石膏、シリカゲル、ゼオライト、水酸化銅、硫酸マグネシウム水和物、硫酸アルミニウム水和物、燐酸マグネシウム水和物、燐酸鉄水和物、フッ化鉄水和物、フッ化アルミニウム水和物、から選ばれる1種以上の吸熱性化合物を混合したことを特徴とする無機中空体組成物。
【請求項2】
無機中空体としてパーライト100重量%に対して、無機バインダーとして水ガラスを10〜200重量%配合したことを特徴とする請求項1記載の無機中空体組成物。
【請求項3】
無機中空体としてパーライト、無機バインダーとして水ガラス、吸熱性化合物として水酸化アルミニウムを、配合比各25重量%〜40重量%の範囲で配合したことを特徴とする請求項1又は2記載の無機中空体組成物。
【請求項4】
無機中空体と無機バインダーを、重力式ミキサーを使用して混合したことを特徴とする無機中空体組成物の製造方法。
【請求項5】
無機中空体と無機バインダーを混合した後に、吸熱性化合物を混合することを特徴とする請求項4記載の無機中空体組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126389(P2010−126389A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301876(P2008−301876)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】