説明

無機固体電解質及びリチウム二次電池

【課題】 安価に製造することができ、かつ高いイオン伝導性を発現させることができ、リチウムイオン二次電池等の他、種々の電気化学デバイスにおける固体電解質として好適である固体電解質を提供する。
【解決手段】 リチウム原子及び硫黄原子を含有する無機固体電解質であって、該無機固体電解質は、硫化リチウム、α−アルミナ及び第3成分からなる3種の必須成分を原料として得られ、該第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物であり、該3種の必須成分の原料中における硫化リチウムのモル比をx、α−アルミナのモル比をy、第3成分のモル比をzとすると、x=45〜69、y=9〜40、z=100−x−y、z>0であることを特徴とする無機固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質及びリチウム二次電池に関する。より詳しくは、リチウムイオン二次電池を始め、その他リチウムイオン一次電池等の電池材料として適用でき、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、表示素子等の電気化学デバイスへの適用や蓄電材料としての適用等が期待される無機固体電解質及びそれを用いたリチウム二次電池に関する。
特に、本発明の無機固体電解質は、全固体リチウムイオン電池の電解質や電極活物質との合材に用いることができる硫化物系リチウムイオン伝導性無機固体電解質として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、従来の液体電解質に代わる安全性・安定性の高い電気化学材料として注目され、新たな研究開発が盛んに進められている。その性能向上は、エネルギー・材料関連技術の重要な検討項目の一つとなっている。その背景としては、近年、化石燃料からいわゆる環境エネルギーへの代替が検討される中、その貯蔵手段として、また、情報技術(IT)関連の電子機器の急速な普及やハイブリッド車及び電気自動車等の普及促進に伴って、これらの種々の用途における適用性、安全性が高く、電気化学的な信頼性、性能が高い電池や電気化学デバイスに対するニーズが高まっていることが挙げられる。
【0003】
ところで、電解質の1つの代表的分野である電池分野においては、特に、容量が大きく、軽量のリチウムイオン電池が繰り返し充放電を行うことができる二次電池として今後の利用の拡大が更に期待されている。今日では、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等、様々な分野においても使用が広がり、この分野において最も研究、開発が活発に行われている。このようなリチウムイオン二次電池の研究開発においても、有機溶媒を電解液に使用したものが引火性、可燃性を有し、高温時や過充電・過放電状態での信頼性に課題を有し、甚だしい時には、発火や破裂爆発のような事態が起こる危険性が秘められていることから、その安全性を高めることは極めて重要な課題となっている。特に、リチウム二次電池の高いエネルギー密度を生かした用途展開として、ハイブリッド車用電源等の車載電源の開発が盛んであるが、更なる高エネルギー密度化が要求され、その結果、電池内部に含まれる信頼性阻害要因物質の増大が生じ、そのためにより一層の安全性確保が重要な課題となっている。
【0004】
こうした技術的要求の流れの中、高分子材料や無機材料を用いたリチウムイオン伝導性固体電解質材料の研究、及び、それを用いた全固体リチウム二次電池の研究開発が進められている。特に、無機材料を用いたリチウムイオン伝導性固体電解質は、引火性・可燃性がないことに加え、耐熱性や電気化学的な安定性が高いことから研究が進められ、今日では、有機電解液に匹敵するイオン伝導度を有する固体電解質も得られるようになってきている。中でも、リチウムイオン伝導性固体電解質として、その構成材料に、硫黄原子を含む硫化物系リチウムイオン伝導体、及び、それを用いた全固体リチウム二次電池の研究が盛んとなっている。この硫化物系リチウムイオン伝導体には、非晶質系と結晶質系、及び、その混合体の存在が知られている。更に、これら材料には、リン、シリコン、ゲルマニウム、ホウ素等の原子を含む系が知られている。
【0005】
これらの硫化物系リチウムイオン伝導体として、例えばLiS−P系電解質が注目を浴びており、このような硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質にα−アルミナを混合してなる混合電解質をガラス化したものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。また、近年では、硫化物系リチウムイオン伝導体の合成方法として、出発原料を遊星ボールミルで混合し、反応させることも検討されており、例えば、硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質とα−アルミナとを遊星ボールミルを用いて混合し、反応させて得られるリチウムイオン伝導性固体電解質が開示されている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−158476号公報
【特許文献2】特許第4478706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、リチウムイオン伝導性固体電解質が安全性、信頼性の面から注目され、IT関連電子機器やハイブリッド車等の車載電池の需要が急増する中、種々の検討が行われている。しかしながら、特許文献1に記載された電解質ガラスを合成するに際しては、調合された電解質粉末を真空アンプルに封じ、これを約850℃の高温で加熱溶融した後、強急冷するという工程が必要であり、工業的製造が困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載の電解質は、ボールミルを用いた合成方法を採用することにより、上記のような製造工程における実施困難性はある程度解消されているものの、α−アルミナの含有量が増えるにしたがって常温下でのイオン伝導性が低下するという問題があった。近年の電池分野におけるリチウムイオン伝導性固体電解質の需要増加に伴い、製造コストの低減も強く求められるところであるが、α−アルミナは安価な材料であるため、電解質中のα−アルミナの含有量(含有率)を増やすことができれば製造コストを効果的に削減することができる。このため、α−アルミナの添加量を増加させても常温下で高いイオン伝導性を維持することが可能な固体電解質の開発が切望されている。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、安価に製造することができ、かつ高いイオン伝導性を発現させることができ、リチウムイオン二次電池等の他、種々の電気化学デバイスにおける固体電解質として好適である固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リチウムイオン伝導性固体電解質について種々検討したところ、先ず、硫化リチウム、α−アルミナ及び第3成分からなる3種の必須成分を原料とし、該第3成分を、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物として固体電解質を調製すると、高いイオン伝導性を発現させることができることに着目した。そして、それら3成分の割合を特定の範囲内とすると、α−アルミナの含有量を従来の電解質と比較して増加させても、高いイオン伝導性を維持できることを見いだした。
従来技術におけるリチウムイオン伝導性固体電解質においても高いイオン伝導性を発現させるための電解質組成が種々検討されてはいたが、α−アルミナの含有量が多い領域(以下、高アルミナ領域ともいう。)においてもそのイオン伝導性を維持できるものは得られていなかった。したがって、単に電解質組成が最適化されたというものではなく、高アルミナ領域においても高いイオン伝導性を維持できるという、従来の技術では達成されなかった効果が得られることを見いだしたものである。このような固体電解質によれば、安価なα−アルミナの含有量(含有率)を従来と比較して増加させることができ、リチウムイオン二次電池等、需要が増大する分野において固体電解質の製造コストを充分に低減することができるため、その技術的意義は極めて大きいといえる。
このように、上記3成分をこれまでにない特定の範囲内とした固体電解質とすることによって上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、リチウム原子及び硫黄原子を含有する無機固体電解質であって、上記無機固体電解質は、硫化リチウム、α−アルミナ及び第3成分からなる3種の必須成分を原料として得られ、上記第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物であり、上記3種の必須成分の原料中における硫化リチウムのモル比をx、α−アルミナのモル比をy、第3成分のモル比をzとすると、x=45〜69、y=9〜40、z=100−x−y、z>0であることを特徴とする無機固体電解質である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の無機固体電解質(以下、単に電解質ともいう。)は、硫化リチウム、α−アルミナ及び第3成分からなる3種の必須成分を原料として得られ、上記第3成分が、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物(以下、周期律表第13〜15族の原子の化合物ともいう。)であるものである。なお、本発明の無機固体電解質は、3種の異なる必須成分を原料として得られるものであり、周期律表第13〜15族の原子の化合物は、必須成分の1つであるα−アルミナとは異なる化合物である。
無機固体電解質の原料は、これら3種の必須成分を含むものである限り、硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物のいずれにも該当しないその他の成分を含んでいてもよいが、原料全体を100質量%として、これら3種の必須成分の割合が80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上であり、更に好ましくは、95質量%以上であり、特に好ましくは、97質量%以上であり、最も好ましくは、原料が実質的にこれら3種の必須成分のみからなることである。ここで、上記硫化リチウムは、硫黄元素とリチウム元素とを1:2(モル比)で含むものであれば特に限定されるものではなく、化合物である硫化リチウムを用いてもよく、硫黄と金属リチウムとを1:2(モル比)となるように別々に加えても差し支えない。
上記α−アルミナ(Al)としては特に限定されず、通常α−アルミナと呼ばれるものを用いることができる。
【0012】
上記周期律表第13〜15族の原子の化合物としては、B、Ga、Si、Ge、P及びAsのいずれかの原子の化合物であることが好ましい。より好ましくは、B、Si、Ge及びPのいずれかの原子の化合物であり、更に好ましくは、P、Si原子の化合物であり、特に好ましくはP原子の化合物である。また、周期律表第13〜15族の原子の化合物としては、硫化物、酸化物、硫酸等の鉱酸塩、水素化物、ハロゲン化物、アルコキシド等が好ましい。より好ましくは、硫化物、酸化物であり、更に好ましくは、硫化物である。
これらの中でも、周期律表第13〜15族の原子の化合物は、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム及び硫化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。これらの化合物を具体的に表すと、P、P、P、P、P、P10等の硫化リン、SiS等の硫化ケイ素、GeS等の硫化ゲルマニウム、B等の硫化ホウ素が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは、硫化リン、硫化ケイ素であり、更に好ましくは硫化リンであり、中でも、Pが特に好ましい。
周期律表第13〜15族の原子の化合物は、1種を用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、周期律表第13〜15族の原子の化合物としては、周期律表第13〜15族の原子が硫化物、酸化物等の化合物の形態となったものを用いてもよく、周期律表第13〜15族の原子(単体)と、該原子と反応して周期律表第13〜15族の原子の化合物を形成する原料となる物質(単体や化合物)とを、周期律表第13〜15族の原子の化合物を形成するための適切なモル比で別々に加えても差し支えない。
【0013】
上記硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物からなる3種の必須成分のモル比は、硫化リチウムのモル比をx、α−アルミナのモル比をy、周期律表第13〜15族の原子の化合物のモル比をzとすると、x=45〜69、y=9〜40、z=100−x−y、z>0であるが、硫化リチウムのモル比x、α−アルミナのモル比yは、x=50〜69、y=9〜35であることが好ましい。より好ましくは、x=52.5〜68、y=10〜30であり、更に好ましくは、x=56〜66、y=12〜25であり、更により好ましくは、x=56〜64、y=15〜25であり、特に好ましくは、x=56〜60、y=20〜25である。なお、いずれの場合も、周期律表第13〜15族の原子の化合物のモル比zは、z=100−x−y、z>0である。
【0014】
また、本発明の無機固体電解質においては、硫化リチウムのモル比xと、周期律表第13〜15族の原子の化合物のモル比zとの比x/zが、x/z=1〜9を満たすことが好ましい。このような組成とすると、上記無機固体電解質をより高いイオン伝導性を有するものとすることができる。特に、上記無機固体電解質を好ましい製造方法の1つであるメカニカルミリング法により製造する場合には、x/zを上記のように設定することで、電解質中に高イオン伝導相が生じやすくなり、その結果、得られる電解質も高いイオン伝導性を有するものになると考えられる。
上記x/zの範囲として、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2.5〜3.5である。
【0015】
本発明においては、硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物を混合することで、硫化リチウム由来の硫化物イオン伝導体と、更にリチウムイオンと対イオンを形成し得る他のイオン伝導体とからなる、リチウムイオンと対イオンとなるネットワーク構造が形成され、これにより、可動リチウムイオンが増加して、イオン伝導性が向上すると考えられる。
本発明の最も好ましい形態の1つである、硫化リチウム、α−アルミナ、周期律表第13〜15族の原子の化合物として硫化リン(P、又は、リンと硫黄とを2:5のモル比となるように加えたもの)を用いた場合、下記式(1);
(100−a)LiPS・aAl (1)
(式中、aは、mol%を表す。)で表される組成物が生成していると推定され、これにより、リチウムイオンと対イオンとなるネットワーク構造が形成されているものと考えられる。
上記式(1)で表される組成物において、aが9〜40となる場合に、特に優れたイオン伝導性が発揮される。すなわち、上記式(1)で表される組成物において、aが9〜40となる割合で硫化リチウム、α−アルミナ及び硫化リンを含む原料を用いて無機固体電解質を得ることが本発明の好適な実施形態である。
【0016】
上記無機固体電解質はまた、一部が結晶性を有することが好ましい。すなわち、上記無機固体電解質は、部分的な結晶相を含むことが好ましい。これによって、より高いイオン伝導性を実現することができる。上述したように、本発明の無機固体電解質は、硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物を夫々特定の割合で用いて得られるものであるが、このような電解質においては高いイオン伝導性を有する結晶相が生じやすく、それに起因して、電解質全体としても高いイオン伝導性を有することになると推測される。
より具体的には、無機固体電解質をX線回折(XRD)測定により分析すると、α−アルミナ含有量が少ない形態(例えば、上記yが9より大幅に小さい形態)においては、電解質は結晶性を持たないガラス状態(非晶質)であるが、α−アルミナ含有量が増えるにしたがって、未反応のα−アルミナに相当する結晶相が観察されるようになる。更にα−アルミナ含有量が増加し、本発明の組成範囲となると、2θ=15〜20°の範囲に未反応のα−アルミナとは異なる結晶相に由来するピークも観察されるようになり、この結晶相が高いイオン伝導性を有しているものと推測される。このように、α−アルミナとは異なる結晶相を含むことは、本発明の無機固体電解質の好適な実施形態の1つである。
なお、α−アルミナとは異なる結晶相を含むことは、上記のようにX線回折(XRD)測定による分析によって、2θ=15〜20°の範囲にα−アルミナとは異なる結晶相に由来するピークが観察されることで確認することができる。
【0017】
本発明の無機固体電解質の製造方法は特に制限されず、溶融急冷法、メカニカルミリングによる方法、不活性ガス又は真空中で500℃以下で焼成する方法、原料混合物の粉砕/ペレット化/焼成を繰り返す方法等を用いることができる。また、これらの製造方法を組み合わせてもよく、メカニカルミリングの後に焼成を行ってもよい。なお、硫化リチウムが酸素や水と反応性を有するため、窒素やアルゴンなどの不活性乾燥ガス雰囲気下や真空中で反応を行うことが好ましい。
溶融急冷法としては、1000℃前後で融解した原料混合物を液体窒素や双冷却ロールに流下する方法を用いることができる。メカニカルミリングとしては、ボールミル等の高せん断粉砕混合装置を用いて原料を混合する方法を用いることができる。
メカニカルミリングによる方法、不活性ガス又は真空中で500℃以下で焼成する方法、又は、原料混合物の粉砕/ペレット化/焼成を繰り返す方法を用いる場合、原料を粉砕し、50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下にまで小粒径化するとともに、反応前に均一に混合することが好ましい。これにより、反応時間を短縮し、また、得られる硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質の特性の振れを小さくすることができる。
【0018】
上記無機固体電解質の製造方法の中でも、メカニカルミリングによる方法が好ましい。メカニカルミリングによる方法を用いることにより、高温を必要とせずに高イオン伝導相を含む無機固体電解質を得ることができる。また、工程の時間短縮や性能向上を目的として500℃以下の熱処理を組み合わせても良い。
本発明の無機固体電解質は、硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物からなる3種の必須成分を上述したような特定の割合で含む原料を用いることにより、高温による熱処理を行わず、最も簡便な製造方法であるメカニカルミリングによる方法、またメカニカルミリングと500℃以下の熱処理を組み合わせる方法によって製造しても高いイオン伝導性を有する無機固体電解質を得ることができることになる。
上記3種の必須成分は、全てが1つの工程において混合されてもよいし、例えば予め硫化リチウムと周期律表第13〜15族の原子の化合物とから硫化物系リチウムイオン伝導性固体電解質を合成した後、α−アルミナを混合及び反応させる形態のように、複数の工程にわたって混合されてもよい。製造工程数を少なくする観点からは、上記3種の必須成分の全てが1つの工程において混合されることが好ましい。このように、高いイオン伝導性を有する無機固体電解質が、必須成分の全てを一度に混合する簡便な製造方法によって製造できることも、本発明の無機固体電解質の特徴の一つであり、このような無機固体電解質の製造方法もまた、本発明の1つである。
すなわち、硫化リチウム、α−アルミナ及び周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物からなる3種の必須成分を一度に混合する工程を含む無機固体電解質の製造方法であって、該3種の必須成分の原料中における硫化リチウムのモル比をx、α−アルミナのモル比をy、第3成分のモル比をzとすると、x=45〜69、y=9〜40、z=100−x−y、z>0であることを特徴とする無機固体電解質の製造方法もまた、本発明の一つである。
メカニカルミリングによる方法を用いる場合、粉砕用ジルコニアボールを備える遊星ボールミル粉砕機(フリッチュ社製)を用いて、回転数300rpm以上で30時間以上混合粉砕することが好ましい。
【0019】
本発明の無機固体電解質は、電池材料として好適に適用でき、また、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、表示素子等の電気化学デバイスへの適用や蓄電材料としての適用等が期待されるものである。中でも、安価に製造することができ、かつ高いイオン伝導性を安定的に発揮することができる本発明の無機固体電解質は、近年、自動車や電子機器等、様々な分野への使用が拡大し、高い電池性能と低コスト化との両立が求められるリチウム二次電池の電解質として好適に用いることができるものである。
このような、本発明の無機固体電解質を用いるリチウム二次電池もまた、本発明の1つである。
【0020】
上記リチウム二次電池は、主に正極、電解質、負極より構成される。正極は、正極活物質、本発明の無機固体電解質及び/又はバインダー、並びに、必要に応じて導電助剤等の添加剤を含む正極合剤組成物から形成される。また、負極は、負極活物質、本発明の無機固体電解質及び/又はバインダー、並びに、必要に応じて導電助剤等の添加剤を含む負極合剤組成物から形成される。
【0021】
上記正極活物質としては、硫黄、遷移金属硫化物、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、五酸化バナジウム、バナジン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄のリチウム塩、ポリアセチレン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等を用いることができる。
これらの中でも、硫黄、遷移金属硫化物、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物系正極活物質、オリビン型リン酸鉄のリチウム塩が好ましい。蓄電容量の面から、硫黄、遷移金属硫化物が更に好ましく、硫黄が特に好ましい。
このような、硫黄を正極活物質として用いるリチウム二次電池は、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0022】
上記正極合剤組成物、負極合剤組成物に用いる導電助剤としては、主に導電性カーボンが用いられる。導電性カーボンとしては、特に制限されるものではなく、例えばケッチェンブラックやアセチレンブラックなどの粒子状カーボンブラック、気相成長カーボンファイバーやカーボンナノチューブなどのファイバー状カーボン、グラファイトや黒鉛などの結晶性カーボン等が挙げられる。
【0023】
上記正極合剤組成物、負極合剤組成物に用いるバインダーとしては、フッ化ビニリデン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、スチレン−ブタジエン系ポリマー、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
なお、上記正極合剤組成物や負極合剤組成物が、本発明の無機固体電解質を含む場合、当該無機固体電解質のバインダー能により、バインダーを用いることなく正極合剤や負極合剤を形成することができる。上記正極合剤組成物や負極合剤組成物が本発明の無機固体電解質を含むことは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0024】
上記正極合剤組成物は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、特に制限されず、アニオン性、ノニオン性若しくはカチオン性の界面活性剤、又は、高分子分散剤等の種々の分散剤や結着性を有するゴム成分、ポリ(メタ)アクリル酸等などを用いることができる。分散剤により、正極活物質及び導電助剤の微粒子化を促進し、分散性を向上させることで、より安定した正極膜の伝導度を達成できる。
【0025】
上記負極活物質としては、負極活物質として一般に用いられるものを用いることができ、特に制限されるものではなく、重合体、有機物、ピッチ等を焼成して得られたカーボンや天然黒鉛、リチウム金属及び、Al、Si、Ge、Sn、Pb、In、Zn及びTiから選ばれる少なくとも1種、或いは各元素を含むリチウム合金、或いは各元素を含む酸化物、チタン酸リチウム等のリチウムを可逆的に吸蔵、放出可能な材料等を用いることができる。
【0026】
上記負極合剤組成物は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、上記正極合剤組成物が含むことができる他の添加剤と同様のものを用いることができる。他の添加剤として分散剤を用いると、負極活物質及び導電助剤の微粒子化を促進し、分散性を向上させることで、より安定した負極膜の伝導度を達成できる。
【0027】
本発明の無機固体電解質は、イオン伝導性(イオン伝導度)に優れるものである。
本発明の無機固体電解質は、後述する実施例と同様の方法によりイオン伝導度を測定した場合に、25℃におけるイオン伝導度が0.4mS/cm以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5mS/cm以上である。
また、本発明の無機固体電解質を用いたリチウム二次電池は、初期容量、サイクル特性等の電気的特性に優れるものである。このような、本発明の無機固体電解質を用いたリチウム二次電池もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の無機固体電解質は、上述の構成よりなり、安価に製造することができ、かつ高いイオン伝導性を発揮することから、電池材料として適用でき、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、表示素子等の電気化学デバイスへの適用や蓄電材料としての適用が期待されるものであり、中でも、近年様々な分野への使用が拡大し、優れた電気特性と低コスト化とが要求されるリチウム二次電池の材料として好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】硫化リチウム、硫化リン、及び、α−アルミナを原料として得られた無機固体電解質について、α−アルミナの添加量と得られた無機固体電解質の25℃におけるイオン伝導度との関係を示した図である。
【図2】実施例1、4及び比較例2〜6で作成した無機固体電解質のX線回折の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0031】
酸素や水分の影響を防ぐため、原料の秤量や混合等の操作は、不活性ガス雰囲気下で雰囲気を管理し、露点を−50℃以下に制御したグローブボックス内で行った。また測定に際して、グローブボックスから取り出す際には、密閉状態で取り出した。測定の際は、次の条件で行った。
【0032】
[XRD(X線回折)測定]
X線回折装置(RINT2000、Rigaku社製)を用いて測定を行った。
【0033】
[ペレット作成]
乳鉢で充分すり潰した無機固体電解質120mgを内径10mmの金型に計り取り、均一に充填した後プレス機にかけ、3.8t/cmで加圧成型した。
[イオン伝導度]
作成したペレットをIn電極で挟み込み、E4980A(Agilent社製)を用い、複素インピーダンス法にて測定した。
【0034】
(実施例1)
硫化リチウム(LiS)34.2部、硫化リン(P)55.2部、α−アルミナ(Al)10.6部をグローブボックス中で秤量し、これをメノウ乳鉢で粉砕・混合した後、粉砕用ジルコニアボールと共に遊星ボールミル用ステンレスポット内に充填・密封し、グローブボックスから取り出し、遊星ボールミル粉砕機を用いて380rpmで、35時間混合粉砕し、無機固体電解質を得た。
【0035】
(実施例2〜8、比較例1〜7)
合成に用いる原料の組成を表1に示す様にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で無機固体電解質を得た。得られた電解質のイオン伝導度を表1、図1に示す。実施例1〜8においてはいずれの電解質も25℃で0.4mS/cm程度以上の高いイオン伝導度を示したのに対して、比較例1〜7においてはいずれも上記実施例におけるイオン伝導度より低い値であった。
【0036】
【表1】

【0037】
また、電解質中の結晶相の有無を確認するため、実施例1、4及び比較例2〜6の無機固体電解質について、XRD(X線回折)測定を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、α−アルミナのモル比yが1〜5.8の形態(比較例2〜5)においてはブロードなピークが観察されるのみであり、電解質が結晶性を持たない非晶質であることがわかる。yが7.7(比較例6)になると、未反応のα−アルミナに帰属されるシャープなピークが観察されるようになる(図中の●印)。yが9.5〜15(実施例1、4)になると、未反応のα−アルミナとは異なるシャープなピークが観察されるようになり、特にy=15(実施例4)においてはピークが顕著になることがわかる。
これらより、yが7.7以下では、結晶相が存在しないか、存在してもイオン伝導性の比較的低い未反応のα−アルミナであるため、電解質のイオン伝導性は低い水準に留まるが、yが9.5以上では、α−アルミナとは異なる高いイオン伝導性を有する結晶相が生じるため、電解質のイオン伝導性が高くなるものと推察される。
【0038】
実施例、比較例の結果から、硫化リチウム、硫化リン、及び、α−アルミナを特定の割合で用いることで、得られた無機固体電解質が、高アルミナ領域においてもイオン伝導性に優れたものとなることが確認された。このような3成分からなる無機固体電解質においては、上述したように、硫化リチウム由来の硫化物イオン伝導体と、更にリチウムイオンと対イオンを形成し得る他のイオン伝導体とからなる、リチウムイオンと対イオンとなるネットワーク構造が形成され、これにより、可動リチウムイオンが増加して、イオン伝導性が向上すると考えられる。このようなネットワーク構造の形成については、本発明の硫化リチウム、α−アルミナ、及び、周期律表第13〜15族の原子の化合物からなる3種の必須成分を原料として得られる無機固体電解質については、同様であるため、上記実施例、比較例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子及び硫黄原子を含有する無機固体電解質であって、
該無機固体電解質は、硫化リチウム、α−アルミナ及び第3成分からなる3種の必須成分を原料として得られ、
該第3成分は、周期律表第13〜15族のうち少なくとも1つの原子を有する化合物であり、
該3種の必須成分の原料中における硫化リチウムのモル比をx、α−アルミナのモル比をy、第3成分のモル比をzとすると、
x=45〜69、y=9〜40、z=100−x−y、z>0
であることを特徴とする無機固体電解質。
【請求項2】
前記第3成分は、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム及び硫化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の無機固体電解質。
【請求項3】
前記xと前記zとの比x/zが、x/z=1〜9を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機固体電解質。
【請求項4】
前記無機固体電解質は、一部が結晶性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機固体電解質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の無機固体電解質を用いることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項6】
硫黄及び/又は遷移金属硫化物を正極活物質として用いることを特徴とする請求項5に記載のリチウム二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−190553(P2012−190553A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50610(P2011−50610)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】