説明

無機微粒子分散樹脂組成物及びそれを用いた光学素子

【課題】レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた無機微粒子分散樹脂組成物及びそれを用いた光学素子を提供する。
【解決手段】少なくとも熱可塑性樹脂と無機微粒子とを含有する無機微粒子分散樹脂組成物であって、下記で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下であることを特徴とする無機微粒子分散樹脂組成物。
酸素濃度:組成物5gを、体積が20mlの気密容器内で所定の温度で6時間以上保持した後、ガスクロマトグラフィー法により測定される気密容器内の酸素濃度(ppm)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の無機微粒子分散樹脂組成物及びそれを用いて作製された樹脂組成物により形成された光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MO、CD、DVDといった光情報記録媒体(以下、単に媒体ともいう)に対して、情報の読み取りや記録を行うプレーヤー、レコーダー、ドライブといった情報機器には、光ピックアップ装置が備えられている。光ピックアップ装置は、光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットを備えており、光学素子ユニットはこれらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子を有している。
【0003】
光ピックアップ装置の光学素子は、射出成形等の手段により安価に作製できる等の点で、プラスチックを材料として適用することが好ましい。光学素子に適用可能なプラスチックとしては、環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体等が知られている。
【0004】
プラスチックを材料として適用した光学素子ユニットにおいては、ガラスレンズのような光学的安定性を有する物質であることが求められている。例えば、環状オレフィンのような光学用プラスチック物質は、従来レンズ用プラスチックとして用いられてきたポリメチルメタクリレート(PMMA)に比べて吸水率が極めて低く、吸水による屈折率の変化が大幅に改善されている。しかしながら、光学特性の温度依存性については未だ解決されておらず、屈折率の温度依存性は無機ガラスより一桁以上大きいのが現状である。
【0005】
上記のような光学用プラスチック物質の短所を改善する方法の1つとして、樹脂素材に対して無機微粒子等のフィラーを混合することで、剛性、耐熱性等の物性改良が行われてきた。通常、熱可塑性樹脂と無機微粒子との混合は、剪断力の強い溶融混練を用いることが一般的であるが、その場合、以下のような点で問題となる。通常、無機微粒子と熱可塑性樹脂との混合物を製造する際、樹脂温度が150℃以上の高温にあるため、無機微粒子と熱可塑性樹脂に含まれる酸素や水分の影響を受け、そのまま成形加工を行うと、着色や微小な空隙(ボイド)が発生し、光学素子として実用に適さないとい問題となる。
【0006】
上記課題に対し、光学用熱可塑性樹脂の成形加工時における着色を抑えるため、成形加工を窒素雰囲気下で行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、無機粒子含有熱可塑性樹脂中の性状を向上させるため、無機粒子含有熱可塑性樹脂中の水分含量を規定する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平4−70318号公報
【特許文献2】特開平10−60157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が継続して検討を進めた結果、無機微粒子と熱可塑性樹脂との混合物を製造する場合において、上記各特許文献に記載されている方法では、条件によりその所定の効果を発揮することができず、無機微粒子分散樹脂組成物の物性の低下を十分に抑制できない場合があることが判明した。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた無機微粒子分散樹脂組成物及びそれを用いた光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
1.少なくとも熱可塑性樹脂と無機微粒子とを含有する無機微粒子分散樹脂組成物であって、下記で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下であることを特徴とする無機微粒子分散樹脂組成物。
【0012】
酸素濃度:組成物5gを、体積が20mlの気密容器内で所定の温度で6時間以上保持した後、ガスクロマトグラフィー法により測定される気密容器内の酸素濃度(ppm)。
【0013】
2.前記酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、1000ppm以下であることを特徴とする前記1に記載の無機微粒子分散樹脂組成物。
【0014】
3.前記無機微粒子が、少なくとも酸化珪素を含むことを特徴とする前記1または2に記載の無機微粒子分散樹脂組成物。
【0015】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散樹脂組成物を用いて作製された樹脂組成物を有することを特徴とする光学素子。
【0016】
5.ASTM D−1003に準拠して求めた厚さ方向(1mm厚)に対する波長405nmにおける透過率が、70%以上であることを特徴とする前記4に記載の光学素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、溶融混練のような高温工程を経て作製される無機微粒子分散樹脂組成物において、着色を抑制し、成形体の耐光性及び耐候性を向上させることができ、十分な透明性をもつ光学素子用の無機微粒子分散樹脂組成物を得ることができ、また、レンズ等の光学素子として用いた場合において、白濁等を抑制し、耐光性の優れた光学素子を得ることができた。
【0018】
更に、本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を用いることで、無機微粒子を、透明性を維持しつつ、均一にかつ多量に熱可塑性樹脂に添加することができ、寸法安定性に優れ、高い光線透過率も持つ光学素子用の無機微粒子分散樹脂組成物を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、少なくとも熱可塑性樹脂と無機微粒子とを含有する無機微粒子分散樹脂組成物であって、前記で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下であることを特徴とする無機微粒子分散樹脂組成物により、樹脂だけでなく無機微粒子に吸着した酸素を限定することで着色による光線透過率の低下を防止した無機微粒子分散樹脂組成物を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0021】
すなわち、本発明者が上記課題達成に向け鋭意検討を重ねた結果、無機微粒子分散樹脂組成物の調製する際、無機微粒子に吸着している酸素が樹脂の着色等の劣化要因となっていることが判明し、無機微粒子含有樹脂組成物より溶出する溶存酸素量をある一定量以下に制御することにより、溶融混練時の着色を抑制でき、加えてそれを用いて形成した光学素子の耐光性を向上させることができることを見出した。
【0022】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0023】
〔無機微粒子分散樹脂組成物の酸素濃度〕
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物は、下記で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下であることを特徴とする。
【0024】
無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合した本発明の無機微粒子分散樹脂組成物は、ホスト材料である熱可塑性樹脂と混合することによって光学素子用の樹脂組成物として製造される。
【0025】
樹脂組成物は十分な透明性が求められるため、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に十分に混合、分散することが必要となる。上記混合には、一般的には高剪断力を有する溶融混練が用いられるが、この混練装置内の樹脂温度は200〜300℃の高温となり、無機微粒子及び樹脂に含まれている酸素及び水分により、着色及びボイドが発生する。
【0026】
そのため、混練材料である樹脂ペレット及び樹脂組成物はTg付近を上限として乾燥窒素等不活性ガス存在下で前処理を行い水分除去することが一般的である。
【0027】
しかしながら、混練温度は、熱可塑性樹脂のTg+50〜150℃と高温になり、無機微粒子より脱着する酸素による樹脂劣化を抑制できていない。
【0028】
本発明においては、本発明で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下を達成する手段として、無機微粒子に由来する吸着酸素を除去する方法として不活性ガスによる置換を行う方法を適用することが有効である。具体的な方法としては、無機微粒子分散樹脂組成物に含まれ、混練時に脱着する酸素を窒素等の不活性ガス存在下において混練時曝される温度付近まで加熱することで除去する方法であり、この際の必要とする温度及び時間に関しては、無機微粒子及び熱可塑性樹脂によって、この時点で該組成物中の樹脂体積すなわち流動性を考慮して適宜設定される。通常、混練時に曝される温度は熱可塑性樹脂のTg+50〜150℃付近であり、無機微粒子の分散していない樹脂ペレットでは容易に可塑化し、十分な脱揮が行えない。
【0029】
〔無機微粒子分散樹脂組成物の吸着酸素濃度測定〕
本発明でいう酸素濃度とは、組成物5gを、体積が20mlの気密容器内で所定の温度で6時間以上保持した後、ガスクロマトグラフィー法により測定される気密容器内の酸素濃度(ppm)と定義する。
【0030】
本発明に係る酸素濃度は、一般的なガスクロマトグラフィー法(GC)によって測定して求めることができる。本発明における酸素濃度は、以下に記載の方法より測定された値を用いるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で測定法は限定されない。
【0031】
無機微粒子分散樹脂組成物5gを体積が20mlの気密容器に入れて密封し、測定温度(100℃、200℃)に調節して、8時間保持した後、ガスタイトシリンジによって容器内気体を5mlサンプリングし、ガスクロマトグラフィー法によって酸素濃度を測定する。
【0032】
詳細な測定条件を、以下に記載する。
【0033】
測定装置:GC HP5890 Ser2、アジレントテクノロジー社製
カラム:Molecular Sieve 13X 30/60、GLサイエンス社製
キャリアガス:N2 10ml/min
検出器:TCD(Thermal Conductivity Detector) Ref flow 15ml/min
本発明においては、無機微粒子分散樹脂組成物を気密容器を密封し、測定温度100℃と200℃との酸素濃度差、すなわち気密容器内の酸素濃度の増加値が3000ppm以下であることを特徴とし、好ましくは1000ppm以下、最も好ましくは500ppm以下である。このように、100℃から200℃に温度変化した際、脱離する酸素量が大幅に低減された無機微粒子分散樹脂組成物を使用することによって、溶融混練のような高温工程を経て作製される無機微粒子分散樹脂組成物において、着色を抑制し成形体の耐光性及び耐候性を向上させることができ、十分な透明性をもつ光学素子用無機微粒子分散樹脂組成物の製造が可能となる。すなわち、無機微粒子と樹脂材料との混合時または光学素子作製時、高温工程を経ても溶存酸素の脱離が抑えられ、成形品の着色を抑えることができる。また上記酸素濃度を低く抑えることで光学素子中の溶存酸素濃度を低く抑えることができ、耐光性の向上が見られた。
【0034】
次いで、本発明の無機微粒子分散樹脂組成物の各構成材料について説明する。
【0035】
《熱可塑性樹脂》
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物は、有機重合体からなる熱可塑性樹脂中に無機微粒子が分散されることにより、熱可塑性樹脂の持つ屈折率が適度に制御できると共に、温度依存性が改良される。
【0036】
本発明に係る熱可塑性樹脂材料としては、光学材料として一般的に用いられる透明の熱可塑性樹脂材料であれば特に制限はないが、光学素子としての加工性を考慮すると、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、またはポリイミド樹脂であることが好ましく、特に好ましくは環状オレフィン樹脂であり、例えば、特開2003−73559号公報等に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂材料としては、吸水率が0.2質量%以下であることが好ましい。吸水率が0.2質量%以下の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭硝子社製)等)、環状オレフィン樹脂(例えば、ZEONEX(日本ゼオン社製)、アートン(JSR社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(ポリプラスチック社製)等)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネートなどが好適であるが、これらに限るものではない。また、これらの樹脂と相溶性のある他の樹脂を併用することも好ましい。2種以上の樹脂を用いる場合、その吸水率は、個々の樹脂の吸水率の平均値にほぼ等しいと考えられ、その平均の吸水率が0.2%以下になればよい。
【0039】
《無機微粒子》
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物に適用可能な無機微粒子は、その体積平均分散粒径が30nm以下であることが好ましく、1nm以上、30nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1nm以上、10nm以下である。体積平均分散粒径が1nm以上であれば、無機微粒子の分散性を確保することができ、所望の性能を得ることができる。また、体積平均分散粒径が30nm以下であれば、得られる無機微粒子分散樹脂組成物の良好な透明性を得ることができ、光線透過率として70%以上を達成することができる。ここでいう体積平均分散粒径とは、分散状態にある無機微粒子を、同体積の球に換算した時の直径を言う。
【0040】
本発明において用いることのできる無機粒子の形状は、特に制限されるものではないが、流動性の観点より、好適には球状の微粒子が用いられる。また、粒径分布に関しても特に制限されるものではないが、安定性の観点より広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。これらの無機微粒子は、その一部が非晶質として存在していても良い。
【0041】
本発明で用いることのできる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子が挙げられる。より具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、あるいは、リン酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。
【0042】
また、本発明に係る無機微粒子として、半導体結晶組成の微粒子も好ましく利用できる。半導体結晶組成には、特に制限はないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものが望ましい。具体的な組成例としては、例えば、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II、IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII〜VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF21515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0043】
これらの無機微粒子は、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また複数種の無機微粒子を併用してもよい。また、複合組成の無機微粒子を用いることも可能である。複数種の無機微粒子は、混合型、コアシェル(積層)型、化合物型及び複合型(1つの母材無機微粒子中にもう1つの無機微粒子が存在する形)等のどれでもよい。二種類以上の無機微粒子を用いる場合、無機微粒子の組成は、実質的に均一組成であることが好ましい。組成の均一性については、通常、TEMによる組成分析などで判断されるが、均一組成である場合、粒子内部の組成分布による光散乱が生じないため、透明性が高く、屈折率が均一になるため好ましい。
【0044】
(無機微粒子の屈折率)
光学素子として使用される熱可塑性樹脂の屈折率はナトリウムD線(25℃)を光源として測定した屈折率nd25が1.5乃至1.7付近であるものが多く、用いられる無機微粒子の屈折率としては、nd25を1.5乃至1.7の範囲に調整することが好ましい。具体的に好ましい粒子としては、酸化珪素、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム及び複合組成粒子などが挙げられ、使用される光学素子、熱可塑性樹脂によって適宜選択される。上記屈折率は、例えば、ASTMD542規格に則り、アッベ式屈折計等により測定されるものが該当し、種々の文献に記載されている値を用いることができる。また、無機微粒子を、屈折率を調整した種々の溶媒に分散させて分散液の吸光度を測定し、その値が最小になる溶媒の屈折率を測定することにより、該無機微粒子の屈折率を確認できる。
【0045】
(無機微粒子の充填率)
最終的な光学素子用の無機微粒子分散樹脂組成物に含まれる無機微粒子の体積比率は、1乃至70体積%、好ましくは10乃至50体積%である。光学素子用の無機微粒子分散樹脂組成物の無機微粒子含有量が1体積%未満の場合、望まれる物性向上が得られない可能性がある。また、光学素子用の無機微粒子分散樹脂組成物の無機微粒子含有量が70体積%超の場合、経済性や成形性において問題となる。
【0046】
(無機微粒子の製造方法)
本発明に係る無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。一般的に無機微粒子を作製する方法としては、熱分解法(原料を加熱分解して微粒子を得る方法:噴霧乾燥法、火炎噴霧法、プラズマ法、気相反応法、凍結乾燥法、加熱ケロシン法、加熱石油法等)、沈殿法(共沈法)、加水分解法(塩水溶液法、アルコキシド法、ゾルゲル法等)、水熱法(沈殿法、結晶化法、水熱分解法、水熱酸化法等)などが挙げられる。
【0047】
具体的な製造方法として、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系で加水分解することにより、酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のため、有機酸や有機アミンなどを併用する方法も用いられる。より詳細な方法として、例えば、ジャーナル・オブ・ケミカルエンジニアリング・オブ・ジャパン第31巻1号21−28頁(1998年)における二酸化チタン微粒子や、ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー第100巻468−471頁(1996年)における硫化亜鉛微粒子等がある。これらの方法に従えば、体積平均分散粒径が5nmの酸化チタンは、チタニウムテトライソプロポキサイドや四塩化チタンを原料として、適当な溶媒中で加水分解させる際に適当な表面修飾剤を添加することにより、容易に製造することができる。また、体積平均分散粒径が40nmの硫化亜鉛は、ジメチル亜鉛や塩化亜鉛を原料とし、硫化水素あるいは硫化ナトリウムなどで硫化する際に、表面修飾剤を添加することにより製造することができる。表面修飾する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、水が存在する条件下で加水分解により微粒子の表面に修飾する方法が挙げられる。この方法では、酸またはアルカリなどの触媒が好適に用いられ、微粒子表面の水酸基と、表面修飾剤が加水分解して生じる水酸基とが、脱水して結合を形成することが一般に考えられている
〈表面修飾剤〉
本発明に用いられる無機微粒子に対して適切な表面処理を行うことで、熱可塑性樹脂との親和性を向上させることができる。適用される表面修飾剤としては、例えば、シランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アミノ酸系分散剤及び各種シリコーンオイル等が挙げられる。
【0048】
これらは使用する上記無機微粒子の性状や、無機微粒子分散樹脂組成物を得るにあたって用いる熱可塑性樹脂との親和性を考え適宜選択される。各種表面処理を二つ以上同時または異なる時に行っても良い。
【0049】
無機微粒子に表面処理を施す方法は様々であり、熱可塑性樹脂との混合前に、予め表面処理を行っておいてもよい。例えば、湿式加熱法、湿式濾過法及び熱可塑性樹脂との混合時に行う方法(インテグラルブレンド法)などがある。
【0050】
シランカップリング剤の具体例として、例えば、ビニルシラザントリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等公知のものが使用できるが、無機微粒子の表面を広く覆うために、ヘキサメチルジシラザン等が好ましく用いられる。
【0051】
シリコーンオイル系処理剤としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルを用いることができる。
【0052】
また、これらの処理剤は、ヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、水等で適宜希釈して用いても良い。
【0053】
〈カップリング剤の添加量〉
本発明で用いられるカップリング剤の添加量は、使用される無機微粒子がナノサイズであり比表面積が大きいため、比較的多量に用いられる。具体的な量としては、無機微粒子100質量部に対して5〜100質量部程度である。添加量が5質量部以上であれば、期待する表面処理効果が得られ、粒子凝集の発生や熱可塑性材料中でのボイドの発生を防止でき、線膨張係数の増大や光線透過率の低下を抑制することができる。また、100質量部以下であれば、経済性と使用する樹脂との可溶化量を適正な条件に設定することができる。
【0054】
《無機微粒子分散樹脂組成物の製造方法》
本発明に係る無機微粒子と熱可塑性樹脂を用いて、光学素子用樹脂組成物を調製する場合、あらかじめ所定の混合比で無機微粒子と熱可塑性樹脂を予備混合した本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を調製する。利点としては、粉末飛散の防止や操作利便性、分散性向上などが挙げられるが、無機微粒子分散樹脂組成物の調製においては、樹脂へのダメージを抑えるため、湿式混合が望ましい。通常、混合する無機微粒子の表面に液体あるいは溶液が接触し、表面が濡れ固体表面が消失して新しく固体と液体あるいは溶液の界面が生成した状態及び前記界面をすべて覆うだけの溶解した熱可塑性樹脂が存在している状態において混合することが望ましい。但し、具体的に用いられる液体あるいは溶液量は用いる無機微粒子及び熱可塑性樹脂によって適宜選択される。
【0055】
(湿式混合方法)
本発明における熱可塑性樹脂及び無機微粒子の湿式混合においては、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリューブレンダー、リボンブレンダーなど公知の方法が適応できるが、特に混合トルクが大きく残留物の影響の少ないスーパーミキサー等が好適に用いられる。ここで熱可塑性樹脂に対する無機微粒子の配合量は25体積部以上300体積部以下であることが好ましい。25体積部より小さいと添加した無機微粒子の効果が十分に発揮されない。また、300体積部より大きいと、結着剤としての樹脂が不足し、均一な組成ができず、無機微粒子と熱可塑性樹脂との間の界面の密着が不十分となり、空隙を発生する。このように空隙が含まれる無機微粒子分散樹脂組成物使用して光学素子用無機微粒子分散樹脂組成物を製造した場合、空隙に含まれる酸素による樹脂劣化が発生したり、空隙内の空気による水分が気泡として樹脂組成物中に存在したりすることで光線透過率が低下するため光学素子として欠陥となる。
【0056】
また、湿式混合に使用する溶媒は、最終的な無機微粒子分散樹脂組成物への悪影響や経済性の観点から、溶媒等揮発残留分は総体積の2%以下であるのが好ましい。また無機微粒子分散樹脂組成物作製時に溶媒を乾燥除去することで、残留溶媒の最終製品への影響を抑制することができる。
【0057】
〈溶媒の種類〉
本発明で熱可塑性樹脂及び無機微粒子を上記方法で湿式混合する場合、溶媒を使用することで均一に混合することができる。
【0058】
使用する溶媒は上記組成物が溶解するものであれば良く、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘプタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−t−ブチル、酢酸−n−ブチル、酢酸−n−ヘキシル等のエステル類、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。また、これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0059】
使用する溶媒の大気圧時の沸点に関して、好ましくは30〜200℃、より好ましくは50〜150℃である。沸点が30℃未満であると、取り扱い上危険である。また、沸点が150℃より高いと、溶媒除去が困難であるばかりか、分解物の残留や加熱の影響で最終生成物に悪影響を与える。
【0060】
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を調製する際に使用される溶媒量は、熱可塑性樹脂が溶解する範囲内であれば特に制限されないが、樹脂100質量部に対して溶媒500〜2000質量部が好ましい。溶媒が500質量部未満である場合、樹脂がすべて溶解せず無機微粒子分散樹脂組成物組成が不均一になる恐れがある。また、2000質量部超の場合、生産性が低下するとともに湿式混合時に十分なトルクが得られず、調製した無機微粒子分散樹脂組成物の組成が不均一になる恐れがある。
【0061】
《無機微粒子分散樹脂組成物による光学素子の作製》
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を使用した光学素子用の樹脂組成物の製造方法は、無機ナノ粒子が高度に分散した組成物を得るため、無機微粒子分散樹脂組成物とホスト材料である熱可塑性樹脂とを混合しながら溶融混練装置で剪断力を与え製造する方法が好ましく用いられる。ホスト材料である熱可塑性樹脂は、透明性の観点から無機微粒子分散樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂と同一もしくは相溶性のある樹脂を用いるのが望ましく、ガラス転移点といった熱的安定性や屈折率といった光学的安定性から同一の熱可塑性樹脂を用いるのがより好ましい。最終的に調製される樹脂組成物に含まれる本発明の無機微粒子分散樹脂組成物の割合としては、通常5〜50質量%程度である。樹脂組成物に含まれる本発明の無機微粒子分散樹脂組成物の割合が大幅に少ない場合、無機微粒子含有により求められる物性改善効果が期待できない。また、上記で規定する割合を越える場合、混練装置中で均一な混合に時間がかかり、その結果、樹脂の劣化を招くほか、混練装置内壁面への無機微粒子分散樹脂組成物の付着が問題となる。
【0062】
また、上記樹脂との混合は、酸化による機能低下を防ぐため、大気中ではなくAr、N2等に置換した雰囲気下で行うのが好ましい。
【0063】
具体的な混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ポリラボシステム(HAAKE社製);ナノプラストミル(東洋精機製作所社製);ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)が挙げられる。
【0064】
(混合条件)
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物と熱可塑性樹脂との混合の程度が不十分の場合には、特に、屈折率やアッベ数、光線透過率などの光学特性に影響を及ぼすことが懸念され、また、熱可塑性や溶融成形性などの樹脂加工性にも悪影響する恐れがあるため、十分な混合を行う方が望ましい。その混合の程度は、用いる熱可塑性樹脂及び無機微粒子の特性を十分に勘案して、方法を選択することが重要である。
【0065】
(樹脂添加剤)
また、本発明の無機微粒子分散樹脂組成物および光学素子用の樹脂組成物には、常用される酸化防止剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤などを必要に応じて配合することができる。
【0066】
本発明に使用される樹脂添加剤は、様々な種類の添加剤を単独でまたは組合せて使用してもよい。本発明で用いられる添加剤には、白化剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、増量剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、加工助剤などの物質がある。組成物に配合し得る各種添加剤は一般に用いられており、当業者に公知である。かかる添加剤の具体例は、R.Gachter及びH.Muller, Plastics Additives Handbook,4th edition,1993に記載されている。また、その使用範囲は、本発明の目的効果を損なわない範囲で適宜使用することが可能である。
【0067】
本発明では、上記樹脂添加剤を無機微粒子分散樹脂組成物に添加することで、無機微粒子分散樹脂組成物を調製する際の無機微粒子の分散化効果や、バインダ機能を持たせることも可能である。これらの樹脂添加剤は、使用される各材料と相溶化できる範囲で適宜使用される。また、樹脂添加剤は、無機微粒子分散樹脂組成物の調製時を含む、いずれの時期に添加されても良い。
【0068】
以下に、各樹脂添加剤の中で主なものの具体例を挙げるが、これらに限定はされない。
【0069】
〈可塑剤〉
可塑剤としては、特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0070】
リン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤では、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤では、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコレート系可塑剤では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を挙げることができる。
【0071】
〈酸化防止剤〉
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0072】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0073】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0074】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0075】
〈耐光安定剤〉
本発明に用いられる耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、レンズの透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。ヒンダードアミン系耐光安定剤(以下、HALSと記す。)の中でも、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたGPCにより測定したポリスチレン換算のMnが1,000〜10,000であるものが好ましく、2,000〜5,000であるものがより好ましく、2,800〜3,800であるものが特に好ましい。Mnが小さすぎると、該HALSをブロック共重合体に加熱溶融混練して配合する際に、揮発のため所定量を配合できず、射出成形等の加熱溶融成形時に発泡やシルバーストリークが生じるなど加工安定性が低下する。また、ランプを点灯させた状態でレンズを長時間使用する場合に、レンズから揮発性成分がガスとなって発生する。逆にMnが大き過ぎると、ブロック共重合体への分散性が低下して、レンズの透明性が低下し、耐光性改良の効果が低減する。したがって、本発明においては、HALSのMnを上記範囲とすることにより加工安定性、低ガス発生性、透明性に優れたレンズが得られる。
【0076】
このようなHALSの具体例としては、N,N′,N″,N′″−テトラキス−〔4,6−ビス−{ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ}−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,6−ヘキサンジアミン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した高分子量HALS等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物などのMnが2,000〜5,000のものが好ましい。
【0078】
《光学素子用成形体の作製方法》
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を用いた光学素子用の樹脂組成物の成形方法としては、格別制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた成形物を得る為には、溶融成形法が好ましい。
【0079】
溶融成形法としては、例えば、市販のプレス成形、市販の押し出し成形、市販の射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性、生産性の観点から好ましい。
【0080】
成形条件は、使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば、射出成形における樹脂組成物(樹脂単独の場合または樹脂と添加物との混合物の両方がある)の温度は、成形時に適度な流動性を樹脂に付与して成形品のヒケやひずみを防止し、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、更に、成形物の黄変を効果的に防止する観点から150℃〜400℃の範囲が好ましく、更に好ましくは200℃〜350℃の範囲であり、特に好ましくは200℃〜330℃の範囲である。
【0081】
本発明に係る成形物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、本発明の光学素子の一つである光学用樹脂レンズとして用いられるが、その他の光学部品としても好適である。
【0082】
《光学素子への適用例》
本発明に係る光学素子用の樹脂組成物は、上記の作製方法により得られるが、光学素子への具体的な適用例としては、以下のようである。
【0083】
例えば、光学レンズや光学プリズムとして、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。
【0084】
光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(MiniDisc)、DVD(Digital Versatile Disc)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0085】
これらの中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズやレーザ走査系レンズとして好適であり、ピックアップレンズに最も好適に用いられる。
【0086】
本発明の無機微粒子分散樹脂組成物を用いて作製された光学素子用の樹脂組成物は優れた温度特性を有し、青紫色レーザ光源を用いた高密度な光ディスク用レンズとして好適に用いられる。
【0087】
《光学素子への適用》
上述した成形物の中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズや、レーザ走査系レンズ等の光学素子として好適に用いられ、以下、図を参照しながら、本実施形態における光学素子用無機微粒子分散樹脂組成物によって成形された光学素子が用いられた光ピックアップ装置1について説明する。
【0088】
図1に示すように、本実施形態における光ピックアップ装置1には、光源としての3種類の半導体レーザ発振器LD1、LD2、LDが具備されている。このうち、半導体レーザ発振器LD1は、BD(またはAOD)10用として波長350〜450nm中の特定波長、例えば、405nm、407nmの波長の光束を出射するようになっている。また、半導体レーザ発振器LD2は、DVD20用として波長620〜680nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。さらに、半導体レーザLD3は、CD30用として750〜810nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。
【0089】
半導体レーザ発振器LD1から出射される青色光の光軸方向には、図1中下方から上方に向かって、シェイバSH1、スプリッタBS1、コリメータCL、スプリッタBS4、BS5及び対物レンズ15が順次配設されており、対物レンズ15と対向する位置には、光情報記録媒体であるBD10、DVD20またはCD30が配置されるようになっている。また、スプリッタBS1の図1中右方には、シリンドリカルレンズL11、凹レンズL12及び光検出器PD1が順次配設されている。
【0090】
半導体レーザ発振器LD2から出射される赤色光の光軸方向には、図1中左方から右方に向けてスプリッタBS2、BS4が順次配設されている。また、スプリッタBS2の図1中下方にはシリンドリカルレンズL21、凹レンズL22及び光検出器PD2が順次配設されている。
【0091】
半導体レーザ発振器LD3から出射される光の光軸方向には、図1中右方から左方に向けてスプリッタBS3、BS5が順次配設されている。また、スプリッタBS3の図1中下方にはシリンドリカルレンズL31、凹レンズL32及び光検出器PD3が順次配設されている。
【0092】
光学素子である対物レンズ15は、光情報記録媒体としてのBD10、DVD20またはCD30に対向配置されるものであり、各半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3から出射された光を、BD10、DVD20またはCD30に集光するようになっている。このような対物レンズ15には、2次元アクチュエータ2が具備されており、この2次元アクチュエータ2の動作により、対物レンズ15は、上下方向に移動自在となっている。
【0093】
次に、光ピックアップ装置の作用について説明する。
【0094】
本実施形態における光ピックアップ装置1は、記録媒体の種類よってそれぞれ異なる動作をするため、以下において、BD10、DVD20及びCD30に対する動作態様の詳細について、それぞれ説明する。
【0095】
はじめに、BD10に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0096】
BD10への情報の記録動作時や、BD10に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD1が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L1となって、シェイバSH1を透過して整形され、スプリッタBS1を透過して、コリメータCLで平行光とされる。そして、各スプリッタBS4、BS5及び対物レンズ15を透過し、BD10の記録面10aに集光スポットを形成する。
【0097】
集光スポットを形成した光は、BD10の記録面10aで情報ピットにより変調され、記録面10aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15、スプリッタBS5及びコリメータCLを透過し、スプリッタBS1で反射した後、シリンドリカルレンズL11を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL12を透過して、光検出器PD1で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、BD10に対する情報の記録動作や、BD10に記録された情報の再生動作が完了する。
【0098】
次に、DVD20に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0099】
DVD20への情報の記録動作時や、DVD20に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD2が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L2となって、スプリッタBS2を透過し、スプリッタBS4によって反射される。反射された光線L2は、スプリッタBS5及び対物レンズ15を透過し、DVD20の記録面20aに集光スポットを形成する。
【0100】
集光スポットを形成した光は、DVD20の記録面20aで情報ピットにより変調されて、記録面20aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15及びスプリッタBS5を透過し、各スプリッタBS4、BS2で反射した後、シリンドリカルレンズL21を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL22を透過して、光検出器PD2で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、DVD20に対する情報の記録動作や、DVD20に記録された情報の再生動作が完了する。
【0101】
最後に、CD30に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0102】
CD30への情報の記録時や、CD30に記録された情報の再生時には、半導体レーザ発振器LD3から光が出射される。出射された光は、図1に示すように、光線L3となって、スプリッタBS3を通過し、スプリッタBS5によって反射される。反射された光線L3は、対物レンズ15を透過し、CD30の記録面30aに集光スポットを形成する。
【0103】
集光スポットを形成した光は、CD30の記録面30aで情報ピットにより変調されて、記録面30aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15を透過し、各スプリッタBS5、BS3で反射した後、シリンドリカルレンズL31を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL32を透過して、光検出器PD3で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、CD30に対する情報の記録動作や、CD30に記録された情報の再生動作が完了する。
【0104】
なお、光ピックアップ装置1には、BD10、DVD20またはCD30に対する情報の記録動作時や、BD10、DVD20またはCD30に記録された情報の再生動作時には、各光検出器PD1、PD2、PD3でのスポットの形状変化または位置変化による光量変化を検出して、合焦検出またはトラック検出を行うようになっている。そして、このような光ピックアップ装置1は、各光検出器PD1、PD2、PD3の検出結果に基づいて、2次元アクチュエータ2が半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3からの光をBD10、DVD20またはCD30の記録面10a、20a、30aに結像するように対物レンズ15を移動させるとともに、半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3からの光を各記録面10a、20a、30aの所定のトラックに結像させるように対物レンズ15を移動させるようになっている。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0106】
《光学素子の作製》
〔光学素子1の作製:本発明〕
(無機微粒子分散樹脂組成物1の調製)
日本ゼオン製の熱可塑性樹脂(ZEONEX340R)を30体積部、日本アエロジル製の気相法SiO2(RX300、体積平均分散粒径:7nm)を30体積部及び関東化学製のシクロヘキサン500体積部を、特殊機化工業製のT.K.ハイビスディスパーミックス3D−20を用いて、85℃にて湿式混合を行った後、脱気、乾燥を行い、無機微粒子分散樹脂組成物1を得た。その後、吸着酸素を除去するため、窒素流量下、260℃で6時間の乾燥を行った。
【0107】
〈無機微粒子分散樹脂組成物1中の酸素濃度の測定〉
下記の方法に従って測定した無機微粒子分散樹脂組成物1の100℃から200℃への温度変化における増加値は、800ppmであった。
【0108】
無機微粒子分散樹脂組成物1の5gを、体積が20mlの気密容器に入れて密封し、測定温度(100℃、200℃)に調節して、8時間保持した後、ガスタイトシリンジによって容器内気体を5mlサンプリングし、ガスクロマトグラフィー法によって酸素濃度を測定し、100℃と200℃における酸素濃度差(ppm)を求めた。
【0109】
詳細な測定条件を、以下に記載する。
【0110】
測定装置:GC HP5890 Ser2、アジレントテクノロジー社製
カラム:Molecular Sieve 13X 30/60、GLサイエンス社製
キャリアガス:N2 10ml/min
検出器:TCD(Thermal Conductivity Detector) Ref flow 15ml/min
(樹脂組成物1の調製)
英弘精機製のポリラボシステムを用いて、上記無機微粒子分散樹脂組成物1と、ZEONEX340R(日本ゼオン製)とを、SiO2粒子が30体積%になるような比率で溶融混練を行い、光学素子用の樹脂組成物1を得た。
【0111】
(光学素子の作製)
上記調製した光学素子用の樹脂組成物を、射出成形機にて成形を行い、厚さ1mm、巾20mm、長さ50mmの試験用プレート(光学素子1)を作製した。この光学素子1の酸素濃度を、上記と同様の方法で測定した結果、200ppmであった。
【0112】
〔光学素子2の作製:本発明〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、220℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物2、樹脂組成物2及び光学素子2を作製した。
【0113】
〔光学素子3の作製:本発明〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、200℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物3、樹脂組成物3及び光学素子3を作製した。
【0114】
〔光学素子4の作製:本発明〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時に用いた日本アエロジル製の気相法SiO2(RX300)に代えて、下記の方法に従って調製されたSiO2/Al23複合粒子を用いた以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物4、樹脂組成物4及び光学素子4を作製した。
【0115】
(SiO2/Al23複合粒子の調製)
ホソカワミクロン(株)製のナノクリエータを用い、ポリジメチルシロキサンとエチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレートと、アルミニウムモノ−n−ブトキシジエチルアセト酢酸エステルの混合物を、SiとAlのモル比が1:1になるように調製した溶液を原料気体として用い、酸素ガスと高温雰囲気の反応空間に流入して反応させることにより、白色微粉末状のSiO2/Al23複合粒子(粒径10nm)を形成した。
【0116】
〔光学素子5の作製:本発明〕
上記光学素子4の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、240℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物5、樹脂組成物5及び光学素子5を作製した。
【0117】
〔光学素子6の作製:本発明〕
上記光学素子5の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時に用いたSiO2/Al23複合粒子に代えて、下記の方法に従って調製されたSiO2/ZrO2複合粒子を用いた以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物6、樹脂組成物6及び光学素子6を作製した。
【0118】
(SiO2/ZrO2複合粒子の調製)
日産化学製のシリカ分散液スノーテックスOXS(SiO2、10質量%、平均粒径4〜6nm)の100gに、43.2gの酸塩化ジルコニウム8水和物を加え、60℃で分散して均一な分散液とした。その後、100℃に昇温し、5時間加熱後、水洗しながら限外ろ過して発生した塩酸を除去し、pHが5.0の分散液とした。100℃で加熱しながら濃縮し、50mlの分散液を得たところで、ジエチレングリコール50mlを添加し、更に10時間加熱還流した。得られた複合粒子分散液を200℃で真空乾燥し、SiO2/ZrO2複合粒子(10nm)を得た。
【0119】
〔光学素子7の作製:本発明〕
上記光学素子6の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、220℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物7、樹脂組成物7及び光学素子7を作製した。
【0120】
〔光学素子8の作製:本発明〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物及び樹脂組成物の調製で熱可塑性樹脂として用いたZEONEX340R(日本ゼオン製)を、同体積の三井化学製のAPEL5014に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物8、樹脂組成物8及び光学素子8を作製した。
【0121】
〔光学素子9の作製:本発明〕
上記光学素子8の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、240℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物9、樹脂組成物9及び光学素子9を作製した。
【0122】
〔光学素子10の作製:比較例〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去操作を除いた以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物10、樹脂組成物10及び光学素子10を作製した。
【0123】
〔光学素子11の作製:比較例〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、100℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物11、樹脂組成物11及び光学素子11を作製した。
【0124】
〔光学素子12の作製:比較例〕
上記光学素子1の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、120℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物12、樹脂組成物12及び光学素子12を作製した。
【0125】
〔光学素子13の作製:比較例〕
上記光学素子8の作製において、無機微粒子分散樹脂組成物調製時の吸着酸素除去温度を、120℃に変更した以外は同様にして、無機微粒子分散樹脂組成物13、樹脂組成物13及び光学素子13を作製した。
【0126】
表2に、各無機微粒子分散樹脂組成物、樹脂組成物及び光学素子の構成と、無機微粒子分散樹脂組成物及び光学素子の酸素濃度の測定結果を示す。
【0127】
【表2】

【0128】
《光学素子の評価》
(光線透過率の測定)
上記作製した厚さ1mm、巾20mm、長さ50mmの試験用プレート(光学素子)の厚さ方向(1mm厚)に対する波長405nmにおける透過率T1(%)を、ASTM D−1003に従って、島津製作所製の分光光度計UV−3150を用いて測定した。
【0129】
(耐光性の評価)
各試験用プレート(光学素子)を、温度85℃、相対湿度5%の恒温槽内で波長405nmのレーザー光をピーク強度120mW/mm2の条件で700時間照射した後、上記と同様の方法で405nmにおける透過率T2(%)を測定し、上記測定した透過率T1からの低下率(T1−T2)を測定し、これを耐光性の尺度とした。
【0130】
(耐候性の評価)
各試験用プレート(光学素子)を、スガ試験機社製のキセノンロングライフウェザーメーター「WEL−6X−HC−EC」を用いて、室温で30日光照射した後、その外観を目視観察し、下記の基準に従って耐候性を評価した。
【0131】
○:光学素子に、白濁や表面劣化がまったく認められない
△:光学素子に、白濁及び表面劣化がわずかに認めらるが、実用上許容される範囲である
×:光学素子に、明らかな白濁及び表面劣化が認めら、実用に耐えない品質である
以上により得られた結果を、表3に示す。
【0132】
【表3】

【0133】
表3に記載の結果より明らかなように、100℃から200℃への温度変化における酸素濃度の増加値が、3000ppm以下である無機微粒子分散樹脂組成物を用いて形成した本発明の光学素子は、比較例に対し、高い光線透過率を備え、かつ耐光性及び耐候性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明に係る光学素子が用いられた光ピックアップ装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0135】
15 対物レンズ(光学素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂と無機微粒子とを含有する無機微粒子分散樹脂組成物であって、下記で規定する酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、3000ppm以下であることを特徴とする無機微粒子分散樹脂組成物。
酸素濃度:組成物5gを、体積が20mlの気密容器内で所定の温度で6時間以上保持した後、ガスクロマトグラフィー法により測定される気密容器内の酸素濃度(ppm)。
【請求項2】
前記酸素濃度の100℃から200℃への温度変化における増加値が、1000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の無機微粒子分散樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機微粒子が、少なくとも酸化珪素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無機微粒子分散樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散樹脂組成物を用いて作製された樹脂組成物を有することを特徴とする光学素子。
【請求項5】
ASTM D−1003に準拠して求めた厚さ方向(1mm厚)に対する波長405nmにおける透過率が、70%以上であることを特徴とする請求項4に記載の光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314646(P2007−314646A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145002(P2006−145002)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】