説明

無機質体改質のための含浸用組成物

【課題】従来の含浸剤は、大理石、砂岩、レンガ、モルタル等の無機質建材、特に多孔質の無機質建材に対しての浸透性、接着性、強化性が十分でなく、例えば補修用途の場合、脆弱部分の細部や奥部まで浸透しきらないため、含浸後の無機質建材の強度や耐久性不足の問題や、黄変するという意匠的問題があった。
【解決手段】 平均分子量400−1000、末端水酸基2−4のポリエステルポリオールと、化1式で表される有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体と、少なくとも1種の常温硬化型化合物並びに溶剤を含んでなる無機質体含浸用組成物により、課題は達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のポリオールと、溶剤と、少なくとも1種の常温硬化型化合物、好ましくはイソシアネート化合物及び溶剤を必須成分とする含浸剤組成物に関わり、更には有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体を添加してなる無機質体を改質するための含浸用組成物に関する技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来の含浸強化剤は、コンクリート、モルタル用塗料の前工程として下地の強化を行う薬剤として、エポキシ系の強化プライヤーやトリレンジイソシアネート系、ジフェニルメタンジイソシアネート系ウレタンプライヤー並びに遺構や遺物の表面を含浸強化したり、屋根瓦表面を含浸強化させるシリカ系薬剤が広く使用されてきた。
【0003】
しかしながら、これらの含浸剤は、大理石、砂岩、レンガ、モルタル等の無機質建材、特に多孔質の無機質建材に対しての浸透性、接着性、強化性が十分でなく、例えば補修用途の場合、脆弱部分の細部や奥部まで浸透しきらないため、含浸後の無機質建材の強度や耐久性不足の問題や、黄変するという意匠的問題があり不満足であった。 また、これら従来のエポキシ樹脂系にはビスフェノールA等の毒性物質が含まれており、環境上好ましくなかった。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2の方法は、建造物に使用するための有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重体とイソシアネート熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物を開示しているが、これは建造物に防カビ性及び易洗性を与えるため建造物の表面に塗布する又は無機建材を接着するものにすぎない。従って、建造物部材、好ましくは無機質建材、より好ましくは多孔質あるいは脆弱部の無機質建材に含浸強化するためのポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、溶剤とイソシアネート常温硬化型化合物を含む組成物は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特公平15−3390191号
【特許文献2】特開2001−19935号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は無機質建材、より好ましくは多孔質の無機質建材への浸透性、強化、弾力性、耐水性、防水性、耐候性、耐黄変性、防黴性に優れ、更には、環境上の問題を起こさない含浸剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均分子量400−1000、末端水酸基2−4のポリエステルポリオールと、少なくとも1種の常温硬化型化合物並びに溶剤とを含んでなる無機質体含浸用組成物に関わり、更には、化1式で表される有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体を添加してなる無機質体含浸用組成物に関わる。
【化1】

【0008】
ここで、本発明の組成物においてのポリエステルポリオールは、主として浸透性、強靱性、柔軟性、密着性、硬化性などの諸物性を自由に変化させ向上することができる。そして平均分子量400〜1000、末端水酸基2−4のポリエステルポリオールが望ましい。また、場合によっては、アクリルポリオール、フッ素系ポリオール、ポリプロピレングリコール等を併用使用してもよい。
【0009】
又、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体は、主として基材への浸透性、拡散性を助長し、基材自体の含浸も向上させることができ、結果として強度を増強させる。更に容易に表面が洗浄されるため汚れ防止効果に優れ、菌類、黴、蘚苔類の発生を防止する効果を有する。
【0010】
本発明による有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体を表す上記一般式におけるRの例としては、水素基、炭素数1〜8のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基など)、アシル基(例えはアセチル基など)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えばベンジル基、フェニルエチル基など)、トリル基、キシリル基、シクロヘキシル基、ハロゲン化アルキル基(トリフロロプロピル基、クロロプロピル基など)を挙げることができ、特に好ましくは、メチル基である。
又、上記式におけるAの例としては、上述のRの例から水素基を除いたものと全く同様である。
【0011】
本発明において使用する有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体の具体例には、下記の化式3(A〜E)で表されるものである。
【化3】

【0012】
一方、本発明の組成物のもう一つの必須成分である常温硬化型化合物は、硬化することにより無機質体の強度を向上させるために添加され、他方の成分であるポリエステルポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン、溶剤と相溶あるいは混合できるイソシアネート化合物である。本発明において使用できる常温硬化性化合物イソシアネート化合物とは、分子中にイソシアネート基を有する化合物を意味し、例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、これらイソシアネートプレポリマー型変性体、ヌレート型変性体、カルボンジイミド変性体およびその他の変性体の化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
そして、常温硬化性化合物イソシアネート化合物としては、化2式(式中R'は2価の炭化水素基を表す)で表されるヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートのヌレート型変性体が好ましい。R'は2価の炭化水素基であればいかなる基であってもよいが、炭素数2〜20の炭化水素基が好ましく、炭素数2〜12のアルキレンが特に好ましい。
【化2】

【0014】
ポリエステルポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体とイソシアネート常温硬化型化合物との配合比は特に限定されないが、イソシアネート常温硬化型化合物100重量部に対して、ポリエステルポリオールを30〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、最も好ましくは60〜90重量部、また、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体は0〜9.9重量部、好ましくは0.3〜7.5重量部、最も好ましくは0.5〜5重量部である。有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体9.9重量部以上であると、硬化体より遊離現象があるため接着性などの物性が低下するからである。
【0015】
本発明の含浸用組成物には、含浸性能を高めるためトルエン、キシレン等の炭化水素系、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系、およびアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤が用いられるが、中でもエステル系容剤が好適である。好ましくは、ポリエステルポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体とイソシアネート常温硬化型化合物の100重量部に対して、酢酸エステル系溶剤25〜900重量部、好ましくは65〜550重量部、より好ましくは100〜400重量部、最も好ましいのは135〜250重量部である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無機質材料を改質するための含浸用組成物は、砂岩、れんが、モルタル、大理石等の無機質材料への浸透性、拡散性に優れており、無機質材料の弾力性、凝集力及び耐候性を向上させることができるため、無機質材料の保存、修復、強化剤として好適に使用することができる。本発明の含浸用組成物は、一般的に用いられるエポキシ樹脂系プライマーなどに含まれるビスフェノールA等の毒性または環境破壊性の物質を使用することなく、優れた性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の好適な一実施の形態を実施例によって説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態によって限定されるものでなく、その要旨を変更することなく様々に改変して実施することができる。
【0018】
本発明の含浸用組成物は、必要に応じて硬化促進触媒を配合してもよい。硬化促進触媒としては、オクチル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マーカプチド、ジブチル錫チオカルボキシレート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫オキサイド、モノブチル錫オキサイド、ジオクチル錫チオカルボキシレート、ジオクチル錫マーカプチド等の有機錫化合物、有機アンチモン化合物、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マグネシウム、水銀、ニッケル、コバルト、亜鉛、アルミニウム、錫、バナジウム、チタン等のカルボン酸塩、ジブチル錫アミン−2−エチルヘキソエート等の如きアミン塩、ならびに他の酸性触媒及び塩基性触媒等が挙げられ、特に限定されないが、有機錫化合物が好ましい。これら触媒を常温硬化型化合物に対し、例えば0.001〜5重量%配合することができる。
【0019】
本発明の含浸用組成物には、必要であれば、タレ止め剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、防錆剤、抗菌剤、防黴剤、防藻剤などを配合してもよいタレ止め剤としては有機酸処理炭酸カルシウム、水添ひまし油、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、微粉末シリカなどが挙げられる。架橋剤としてはアルコキシシラン類、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーンやカルビノール変性シリコーンなどの反応性シリコーン類、アミノ化合物、アミド化合物などが挙げられる。
【0020】
本発明の含浸用組成物は、上記成分を常法により混合することにより製造することができる。製品の安定性向上等のため、2液タイプあるいはそれ以上のタイプの製品として供給し、使用時に混合する。2液タイプにおいては、例えば、一方にポリエステルポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、硬化促進触媒、溶剤及び充填剤等のその他の配合剤、もう一方にイソシアネート常温硬化型化合物及び溶剤等を配合することができる。
【0021】
本発明の含浸用組成物を2液タイプとした場合、2液を混合してから、塗布、吹き付け、噴霧、含浸、注入などの方法により基材に直接適用して部材の含浸を行う。含浸作業後は、接着物を5℃から30℃程度の雰囲気下で放置すれば、16時間以内に含浸剤が硬化する。本発明の含浸用組成物の基材に対する使用量は特に限定されないが、1平方メートル当たり300〜600gが好ましい。
【0022】
本発明の含浸用組成物は、ポリオール・有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、溶剤とイソシアネート常温硬化型化合物を必須成分とするため、基材への浸透性、拡散性が優れ、建造物部材の含浸剤、特には建造物部材の補修用含浸剤として好適に使用でき、脆弱部の奥部まで浸透するばかりか、部材自身にも浸透、硬化後は強度を著しく向上させることができる。また、耐候性、耐黄変性、耐水性、防水性、耐久性、空隙充填性のほか、表面が容易に洗浄されるため汚れ防止効果に優れ、黴、蘚苔類の発生を防止する。さらには建造物部材が、大理石、砂岩、レンガ、モルタル等の無機質建材である場合に上述の特長を効果的に発揮する。
【実施例1】
【0023】
化2式で示されるヘキサメチレン系ポリイソシアネート化合物と、化4式で示される平均分子量600、末端水酸基2のポリエステルポリオールと、化3式Dで示される有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体の配合比を変えた場合の試料を、アプリケーターにて離型ガラス板上に膜厚が0.15m/mとなるように塗布し、60℃、10日間乾燥放置し硬化させた後、物性値を測定した。その結果を表1に示す。なお、触媒(オクチル酸錫)はポリエステルポリオール1に対して0.1%添加した。
【化4】

【0024】
【表1】

【実施例2】
【0025】
縦35mm、横30mm、長さ100mmにカットしたテラコッタの長手側面に表2に示す薬剤を塗布し、7日間養生後、図1に示す表層強度測定器(回転速度4000回転/分のドリル(ビット径Φ3、ダイヤモンド粒#60粒度)で、塗布面の表面から削孔し、削孔深さと削孔に要する時間を測定する方法)にて、薬剤の効果を測定した。結果を図2に示す。この結果から、樹脂固形分が少ない試料No.3およびW剤の改質度が優れているが、ポリエステルポリオールを含む方が弾力性があるため望ましいと判断した。
【0026】
【表2】

【実施例3】
【0027】
ALCパネル(高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリートパネル)の健全部、劣化部および劣化部に表2の試料3を含浸補修したものについて、図3に示す試験方法にて強度試験を行った。結果を表3に示すが、含浸補修により健全部と同等の強度にまで回復したことがわかる。
【0028】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】表層強度測定器の概要を示す図である。
【図2】テラコッタに各種の薬剤を含浸させた場合の、表層強度測定結果を示す図である。
【図3】ALCパネル表層部の強度試験方法を示す概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量400−1000、末端水酸基2−4のポリエステルポリオールと、少なくとも1種の常温硬化型化合物および溶剤とを含んでなる無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の含浸用組成物に、化1式で表される有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体を添加してなる無機質体を改質するための含浸用組成物。
【化1】

【請求項3】
前記の常温硬化型化合物がイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート化合物が、化2式(式中、R'は2価の炭化水素基を表す)で表されるヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートのヌレート型変性体である、請求項3に記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【化2】

【請求項5】
前記R’が炭素数2〜20の2価の炭化水素基であることを特徴とする請求項4に記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項6】
前記R’が炭素数2〜12のアルキレンであることを特徴とする請求項5に記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項7】
配合比が、常温硬化型イソシアネート化合物100重量部に対し、ポリエステルポリオール30〜150重量部、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体0〜9.9重量部とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の溶剤がエステル系であり、その配合比が、ポリエステルポリオール、有機ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、及び常温硬化型イソシアネート化合物の合計100重量部に対し、エステル系溶剤25〜900重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。
【請求項9】
前記において、無機質体材料が、無機建材であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無機質体を改質するための含浸用組成物。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−39518(P2007−39518A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223788(P2005−223788)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(599097201)
【出願人】(505288837)株式会社 エステーエス (2)
【Fターム(参考)】