説明

無機質成形体の製造方法

【課題】セメント、水、油性物質を含むセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料の成形体を養生硬化するにあたり、成形条件の不均一化を防止し、且つ養生硬化時の水や油性物質の揮散を充分に抑制してドライアウトの発生を防止し、更に多品種生産時の生産設備の共通化を図る。
【解決手段】成形体1を密閉容器2内に配置する。密閉容器2内における成形体1が配置されていない空間に充填部材3を配置する。この密閉容器2を加熱して成形体1を養生硬化する。成形体1の周囲の空間4の容積を低減した状態で養生硬化を行い、成形体1の面積あたりの揮散量を抑制できる。また密閉容器2の外部の雰囲気が成形体1の養生硬化に影響することを防止できる。また同一の密閉容器2を用い成形体1の寸法等を変更する場合、充填材の寸法等を変更すれば、成形体1の周囲の空間4の容積を十分に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セメント、水、及び油性物質を含むセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を成形した成形体を養生硬化する無機質成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
押出成形等で形成されるセメント系成形品は、耐候性、耐火性に優れ、また製造コストも低いことから、建築材料として広く利用されている。
【0003】
従来、セメント系成形品等の無機質成形体を製造する有効な方法として、水、水硬性セメント並びに油性物質及び乳化剤を含む逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を配合したセメント系成形材料を利用する方法が提案されている。このセメント系成形材料は、成形時の保形性に優れており、また、水/セメント比を変化させることでセメント系成形品の比重を自由にコントロールすることができるという特長を有している(特許文献1,2参照)。
【0004】
このようなセメント系成形材料にて窯業系屋根材等の無機質成形体を作製する場合には、セメント系成形材料を所望の形状に成形すると共に必要に応じてその外面に所望の形状の模様を形成し、得られた成形体1を蒸気養生等により水和硬化させるものである。
【0005】
このような成形体1の養生硬化を行うには、例えば図2に示すように温度センサ6を備えた密閉型の養生庫5内に複数の成形体1をパレット等(図示省略)に配置した状態で積載し、この養生庫5内に蒸気を供給して所定温度で加熱することが行われていた。
【0006】
しかし、この養生硬化の過程においては、養生庫5内に蒸気を均一に充満させることは難しく、蒸気の噴き出し口付近では成形体1に蒸気の気流が直接吹き当てられて多湿且つ著しく高温となる一方、養生庫5の下部などでは蒸気が十分に行き渡らずに湿度が低くなるというように、養生庫5内の雰囲気が不均一となってしまうという問題があった。
【0007】
このように養生庫5内の雰囲気が不均一となると、複数の成形体1を同一条件で成形することが困難となって品質の安定性が低下し、特に湿度が低い箇所では温度上昇により成形体1の表面から水や油性物質が蒸発し、表層部分の水和硬化が充分に進行しなくなり、更に特に油性物質としてスチレンモノマー等の重合性モノマーを用いている場合にはこのような重合性モノマーの重合が十分になされなくなるという、いわゆるドライアウト現象が発生する問題があった。このようなドライアウトが生じると、成形体1の表面の硬度が充分に高くならず、耐摩耗性が低下して積載時のこすれ等により傷付きが生じたり、また無機質成形体に塗装を施す場合には塗膜の密着性が低下してしまうものであった。
【0008】
このため、従来は製品からドライアウトが生じた部分を研磨して除去することも行われていたが、研磨のための工程が必要となって製造工程が煩雑化し、また特に外装材として用いる場合など、表面に模様を形成している場合には、研磨により審美性を損なうという問題があった。
【特許文献1】特開2001−220199号公報
【特許文献2】特開平8−26807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような無機質成形体の不均質化や成形不良を防止するための手法として、例えば図3に示すように、一又は少数の無機質成形体を密閉容器2内に配置してこの密閉容器2を複数積載するなどし、この状態で養生庫内に蒸気を供給するなどして密閉容器2を加熱して、これにより無機質成形体を養生硬化させる手法が考えられる。このようにすると、蒸気養生を行っても成形体1に直接蒸気が吹き当てられなくなって過度に高温となる部分が生じなくなり、また養生中において無機質成形体の表面から水や油性物質が揮散しても密閉容器2内においてこの水や油性物質が速やかに飽和してそれ以上の揮散が防止され、これによりドライアウトの発生を抑制することが期待できる。
【0010】
しかし、成形体1を密閉容器2内に配置しても、この密閉空間5の容積が無機質成形体の体積に比して大きい場合にはこの密閉容器2内で水や油性物質が飽和するために必要とされる揮散量が増大し、ドライアウトを十分に防止することができなくなってしまう。そのため、密閉容器2を成形体1の寸法及び形状に合わせて形成することが考えられるが、そうすると種々の製品寸法に合わせてそれぞれ専用の密閉容器2を多数用意しなければならず、このような密閉容器2を搬送する際の搬送設備もそれぞれ専用のものが必要となるなどといった、多品種の生産にあたっての生産設備の共通化ができなくなるという問題が生じてしまう。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、セメント、水、及び油性物質を含むセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を成形し、得られた成形体を養生硬化することにより無機質成形体を製造するにあたり、成形条件の不均一化を防止して製品品質の均質化を図り、且つ養生硬化時の水や油性物質の揮散を充分に抑制して、ドライアウトの発生を防止することができ、更に寸法や形状の異なる多品種の生産にあたっての生産設備の共通化を図ることができる無機質成形体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る無機質成形体の製造方法は、セメント、水、及び油性物質を含むセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を成形した成形体1を養生硬化する無機質成形体の製造方法において、前記成形体1を密閉容器2内に配置すると共に、前記密閉容器2内における前記成形体1が配置されていない空間に充填部材3を配置した状態で、前記密閉容器2を加熱することにより前記成形体1の養生硬化を行うことを特徴とするものである。このようにして成形体1の養生硬化を行うと、成形体1の周囲の空間4の容積を小さくした状態で養生硬化を行うことができ、この養生硬化時に温度上昇により成形体1から水や油性物質が揮散しても、成形体1の周囲において揮散した水や油性物質の分圧が速やかに飽和蒸気圧付近に達し、このため成形体1の面積あたりの揮散量をごく僅かに抑え、且つそれ以上の揮散を防止できる。また、密閉容器2の外部の雰囲気が成形体1の養生硬化に影響を与えることを防止することができる。更に、同一の密閉容器2を用いる場合でも成形体1の形状や寸法に応じて充填材の形状及び寸法を変更すれば、成形体1の周囲の空間4の容積を十分に小さくすることができ、このため同一の密閉容器2を用いながら多品種の無機質成形体を生産することが可能となる。
【0013】
上記充填部材3は銅製のものであることが好ましい。このようにすると、充填部材3の熱伝導性が高くなり、密閉容器2を加熱した際にその熱を成形体1に速やかに伝達することができる。
【0014】
また、上記成形体1の表面のうち上記密閉容器2内における前記成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4に曝露されている面の面積を、前記成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積で除して得られる値が、0.3cm-1以上となるようにすることが好ましい。このようにすると、成形体1の周囲の空間4の容積を小さくした状態で養生硬化を行うことができ、この養生硬化時に成形体1の周囲における水や油性物質の分圧が飽和蒸気圧付近に達するまでに要する成形体1からの水や油性物質の揮散量が著しく少なくなり、成形体1の面積あたりの揮散量を特に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形体を養生硬化して無機質成形体を得るにあたり、ドライアウトの発生を防止することができて、成形体の表面の硬度が充分に高くすることができ、これにより、得られた無機質成形体に研磨等によるドライアウト部分の除去を施すことなく、この無機質成形体の耐摩耗性を向上し、またこの無機質成形体に塗装を施す場合には塗膜の密着性を向上することができるものである。また、密閉容器の外側の湿度等の雰囲気にかかわらず、養生硬化時の成形体の周囲の雰囲気を一定に保つことができて製品の品質安定性を向上することができ、特に複数の密閉容器を積載した状態で蒸気養生する場合に養生庫内で湿度の不均一が生じても一定の品質の製品を得ることが可能となるものである。しかも、形状や寸法の異なる無機質成形体を養生硬化する場合でも同一の密閉容器を利用して、品質安定性が高く、且つドライアウトの発生が防止された製品を得ることが可能となり、種々の寸法等を有する密閉容器を用意する必要がなくなって、多品種の無機質成形体を製造する場合でも搬送設備等の生産設備の共通化を図ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
本発明において使用されるセメント系成形材料は、セメントと水と油性物質とを主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるものである。この組成物において、セメントと水の比率は任意に設定することができるが、重量比率で、セメント1に対して水0.3〜2の範囲が一般的に好ましい。
【0018】
セメントとしては、特に制限されるものではないが、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカヒューム等を用いることができ、また一種単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。
【0019】
また、油性物質としては、水と逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成しうるものであれば、特に制限はなく、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、油性物質として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)を使用すれば、セメントの水和反応と重合性二重結合を有する油性物質の重合反応が同時に起こり、ポリマーがマトリックスを形成して、優れた物理的、機械的性質を有するセメント成形品が得られるので望ましい。尚、重合性二重結合を有する油性物質を使用する場合には、油性物質の重合を促進するために、有機過酸化物や過硫酸塩等の重合開始剤を併用することが望ましい。
【0020】
セメント含有逆エマルジョン組成物中の油性物質の含有量は、セメント含有逆エマルジョン組成物中に水との逆エマルジョンを形成でき、且つ得られる無機質成形体に所望の特性が付与されるように、適宜調整されるものであるが、例えばセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して5〜10体積%の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、セメント含有逆エマルジョン組成物には上記成分の他に、乳化剤(逆乳化剤)を配合することが好ましい。乳化剤は逆エマルジョンに安定性を付与するために配合されるものであり、例えばソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。このような乳化剤の含有量も適宜調整することができるが、好ましくはセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して1〜3体積%の範囲とするものである。
【0022】
セメント含有逆エマルジョン組成物中には、さらに適宜量の補強材や各種添加剤を配合することができる。補強材としては、例えば砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどの骨材、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどの補強繊維を挙げることができる。
【0023】
次に、上記のセメント含有逆エマルジョン組成物をセメント系成形材料として用いて無機質板Aを製造する方法について説明する。
【0024】
まずセメント系成形材料を板状等に成形して成形体1を作製する。成形体1の成形は、注型法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等の通常用いられている手段により為すことができる。
【0025】
このようにして得られる成形体1を養生硬化することにより無機質成形体を得ることができるものであるが、本発明では、図1に示すように、成形体1を充填部材3と共に密閉容器2内に配置した状態で、養生硬化を行うものである。
【0026】
密閉容器2としては内部に成形体1が配置可能な密閉空間5を形成可能なものであれば適宜のものが用いられるが、例えばステンレス板等の熱伝導性の高い材質で形成したものを用いることができる。
【0027】
また、充填部材3は、密閉容器2内における成形体1が占有していない空間に配置することで、成形体1の周囲の空間4の容積(密閉容器2内における成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積)を低減するために用いられる。
【0028】
養生硬化を行う際の条件は適宜設定されるものであるが、例えば40〜100℃で20〜48時間加熱することができる。このとき密閉容器2を蒸気で加熱する蒸気養生を行うことができ、例えば複数の密閉容器2を積載して適宜の養生庫内に配置し、この養生庫に蒸気を噴出するなどして、複数の成形体1を同時に養生硬化させることができる。また蒸気養生以外の適宜の手段で密閉容器2を加熱することにより成形体1の加熱を行っても良い。
【0029】
このようにして成形体1の養生硬化を行うと、密閉容器2内に成形体1と共に充填部材3が配置されていることから、成形体1の表面積に比して、成形体1の周囲の空間4の容積を小さくすることができ、温度上昇により成形体1の曝露面から水や油性物質が揮散するとしても、この空間4に揮散した水や油性物質の分圧が速やかに飽和蒸気圧付近に達し、このため曝露面の面積あたりの揮散量はごく僅かに抑えられ、且つそれ以上の揮散が防止されるものである。
【0030】
このため、成形体1を養生硬化して無機質成形体を得るにあたり、ドライアウトの発生を防止することができて、成形体1の表面の硬度が充分に高くすることができ、これにより、得られた無機質成形体に研磨等によるドライアウト部分の除去を施すことなく、この無機質成形体の耐摩耗性を向上し、またこの無機質成形体に塗装を施す場合には塗膜の密着性を向上することができるものである。
【0031】
また、特に蒸気養生により成形体1の養生を行う場合などには、成形体1は密閉容器2によりその外部の雰囲気から遮断されていることから、成形体1に直接蒸気が吹き当てられるようなことがなくなって、成形体1の表面が直接蒸気に曝されることによる急激な温度上昇を抑制し、このような急激な温度上昇によるドライアウトの発生も抑制することができるものであり、また成形体1に部分的に高温の蒸気があたることなどによる加熱ムラを防止したり蒸気が直接吹き当てられない成形体1との間の加熱温度の差が生じたりすることを防止できて成形品1を均一に加熱し、品質の安定性を向上することができるものである。
【0032】
また蒸気養生のための蒸気により発生する結露水が成形体1の表面に付着することも防止することができ、このため、養生硬化時に成形体1の表面の結露水が蒸発した後にその部分が急激に温度上昇することによるドライアウトの発生も防止することができ、またこのような結露水によるエフロレッセンス(白華)の発生をも防止することができるものである。
【0033】
上記の充填部材3の材質は制限されないが、特に銅製のものが熱伝導性が高いために好ましい。この場合は、成形体1の養生硬化のために密閉容器2を加熱すると、この熱が充填部材3を介して成形体1に速やかに伝達されて成形体1の加熱効率が高くなって無機質成形体の生産性が向上し、また熱の伝達経路に充填部材3が介在することにより成形体1の加熱温度が不均一となることを防止して製品の均質化を図ることができる。
【0034】
また、図示の例では、充填部材3はその一面に開口する凹部7が設けられていると共に、この凹部7の内側を含めた充填部材3の形状及び寸法が密閉容器2内の密閉空間5と同一となるように形成されており、この充填部材3を密閉容器2内に配置した際に前記凹部7の内側に成形体1が配置されるようになっている。このとき、成形体1は、充填部材3の表面(凹部7の内面)と密閉容器2の内面(密閉空間5の内面)とで囲まれる空間内に配置され、この空間の容積から成形体1の体積を減じた値が、成形体1の周囲の空間4の容積(密閉容器2内における成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積)となる。
【0035】
ここで、密閉容器2の内面(密閉空間5の内面)と充填部材3との間に隙間が形成されている場合、例えば上記充填部材3の凹部7の内側を含めた寸法及び形状が密閉空間5よりも小さい場合には、この隙間と連続する空間に成形体1が配置されていなければ、上記の成形体1の周囲の空間4の容積には影響を与えないが、例えば上記のように凹部7の内側を含めた充填部材3の形状及び寸法が密閉容器2内の密閉空間5と同一となるように形成するなどして充填部材3の表面を成形体1を囲む部分を除いて全て充填部材3の内面に接触させることにより、前記のような隙間が形成されないようにすれば、養生硬化のために密閉容器2を加熱した際にその熱が充填部材3へと容易に伝達され、成形体1の更に加熱効率が高くなる。
【0036】
また、この充填部材3としては、成形体1の周囲の空間4の容積が所望のものとなるように形成された適宜のものを用いることができ、例えば上記のように充填部材3に凹部7を形成する場合には、成形体1の形状及び寸法に応じて凹部7の形状及び寸法を適宜調整した充填部材3を用いるものである。
【0037】
このとき、特に下記式のように、成形体1の表面のうち密閉容器2内における成形体1の周囲の空間4(充填部材3が占有していない空間4)に曝露されている面の面積(Acm2)を、前記成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積(Vcm3)で除して得られる値(以下、「気積率」という)が、0.3cm-1以上となるようにすることが好ましい。
【0038】
A/V≧0.3
このとき、例えば成形体1が充填部材3の表面(凹部7の内面)と密閉容器2の内面とで囲まれた空間の内部に配置される場合には、前記空間の容積をV0(cm3)、成形体1の体積をV1(cm3)、成形体1の全表面積をA0(cm2)、前記空間の内面と成形体1との間の接触面積をA1(cm2)とすると、下記式のような条件となるようにするものである。
【0039】
(A0−A1)/(V0−V1)≧0.3
このような条件で成形体1の養生硬化を行うようにすると、成形体1の周囲の空間4の容積が、この空間4に曝露されている成形体1の表面に比して特に小さくなり、このため、養生硬化を行う際には、成形体1の周囲における水や油性物質の分圧が飽和蒸気圧付近に達するまでに要する成形体1からの水や油性物質の揮散量が著しく少なくなる。この結果、成形体1の面積あたりの揮散量が特に低減され、ドライアウトの発生を著しく防止することができるものである。
【0040】
上記気積率の値の上限は特に制限されず、この値が大きいほど、すなわち成形体1の周囲の空間4の容積が、この空間4に曝露されている成形体1の表面に比して小さくなるほど、上記のドライアウトの防止の効果を更に著しいものとすることができる。
【0041】
また、成形体1を充填部材3と共に密閉容器2内に配置するにあたって、図1(c)に示すように、成形体1が配置される空間と成形体1とが共に同一の形状及び寸法を有するようにして、前記空間の内面に成形体1の全表面が接触するようにしても良い。このとき、成形体1の表面のうち密閉容器2内における成形体1の周囲の空間4に曝露されている面の面積と、成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積とは、共に0となり、上記気積率の値は定義されなくなるが、実質的には成形体1の表面のうち密閉容器2内における成形体1の周囲の空間4に曝露されている面の面積に対する、成形体1の周囲の充填部材3が占有していない空間4の容積を極限まで低減させたものに相当し、気積率を0.3cm-1以上とした場合と同様の効果が得られると共に、その効果が著しく発揮されることとなる。
【0042】
すなわち、このような条件で成形体1の養生硬化を行うと、温度上昇による成形体1の表面からの水や油性物質の揮散をほぼ完全に防止することができ、このため、成形体1を養生硬化して無機質成形体を得るにあたり、ドライアウトの発生を著しく抑制することができるものであり、このため無機質成形体の耐摩耗や、塗装を施す場合の塗膜の密着性等を更に向上することができるものである。
【0043】
しかも、成形体1から蒸発した水により結露が発生することも防止することができ、このため、成形体1の表面の結露水の蒸発後の急激な温度上昇によるドライアウトの発生や、結露水によるエフロレッセンス(白華)の発生をも防止することができるものである。
【0044】
更に、養生硬化時における成形体1の変形も防止することができて、寸法精度を向上すると共に成形時のバリの発生も防止することができ、また成形体1中に気泡が残存している場合にも養生硬化のための加熱による気泡の膨張によって成形体1にフクレが発生することを防止して外観不良や品質不良の発生をも防止することができるものである。
【0045】
また、成形体1の形状及び寸法を密閉容器2内の密閉空間5に収まる範囲内で変更する場合には、充填部材3としてその形状及び寸法が異なるものを複数種用意しておき、成形体1の形状及び寸法に合わせて、使用する充填部材3を選択することにより、成形体1の周囲の空間4の容積や気積率等を調整することができる。
【0046】
例えば図1に示すように成形体1を充填部材3の凹部7の内面と密閉容器2の内面(密閉空間5の内面)とで囲まれる空間内に配置する場合には、凹部7の形状及び寸法を異ならせた複数種類の充填部材3を用意しておき、そして図1(a)(b)のように成形体1の寸法や形状を変更するごとに、成形体1の周囲の空間4の容積や上記気積率が所望の範囲となるように、或いは成形体1が配置される空間と成形体1とが共に同一の形状及び寸法を有するものとなるように、充填部材3を選択するものである。
【0047】
この場合、同一の密閉容器2を用いながら、種々の形状及び寸法の成形体1の養生硬化に対応することが可能となる。すなわち、成形体1の寸法や形状を変更しても、この成形体1の周囲の空間4の容積を十分に小さくすることができ、このため同一の密閉容器2を用いながら多品種の無機質成形体を生産することが可能となるものである。このようにすると、寸法や形状の異なる多品種の無機質成形体を生産するにあたって、密閉容器2を搬送するための搬送設備として常に同一のものを用いることができるなど生産設備の共通化を図ることができるものである。
【実施例】
【0048】
(実施例1〜5、比較例1,2)
油性物質(スチレン)4.5質量部、乳化剤(ソルビタンモノオレート)1.5質量部、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)0.05質量部、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)0.1質量部、顔料(ベンガラ)4,05質量部、水43質量部を混合して逆乳化エマルジョンとした後、ポルトランドセメント70質量部、軽量骨材(パーライト)18.5質量部、ポリプロピレン繊維1.2質量部を加えてミキサーにより混合し、セメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を調製した。このセメント系成形材料を押出成形してシート状の成形体1とした。
【0049】
この成形体1を実施例1〜5、比較例1については密閉容器2内に配置すると共に、このうち実施例1〜5についてはこの密閉容器2内に充填部材3を配置し、また比較例2については成形体1を密閉容器2に配置しない状態で、90℃、24時間の条件で蒸気養生することにより養生硬化させて、無機質成形体を得た。
【0050】
ここで密閉容器2としてはステンレス製のものを用い、充填部材3としては一面に凹部7を有する銅製のものを用いた。
【0051】
(ドライアウト評価試験)
各実施例及び比較例で得られた無機質成形体の表面硬度をアスカーゴム硬度計(D型)で測定し、測定値が70以上のものを「○」、60〜69のものを「△」、59以下のものを「×」と評価した。
【0052】
(試験結果)
以上の結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態を示すものであり、(a)乃至(c)は断面図である。
【図2】従来技術の一例を示す概略の斜視図である。
【図3】成形体を密閉容器内に配置した様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1 成形体
2 密閉容器
3 充填部材
4 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、及び油性物質を含むセメント含有逆エマルジョン組成物からなるセメント系成形材料を成形した成形体を養生硬化する無機質成形体の製造方法において、前記成形体を密閉容器内に配置すると共に、前記密閉容器内における前記成形体が配置されていない空間に充填部材を配置した状態で、前記密閉容器を加熱することにより前記成形体の養生硬化を行うことを特徴とする無機質成形体の製造方法。
【請求項2】
上記充填部材が銅製であることを特徴とする請求項1に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項3】
上記成形体の表面のうち上記密閉容器内における前記成形体の周囲の充填部材が占有していない空間に曝露されている面の面積を、前記成形体の周囲の充填部材が占有していない空間の容積で除して得られる値が、0.3cm-1以上となるようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機質成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−206389(P2006−206389A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21415(P2005−21415)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】