説明

無段変速機

【課題】いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラの傾転を規制することができる無段変速機を提供する。
【解決手段】入力ディスクと出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、入力ディスク及び出力ディスクに対して傾転自在に支持する支持手段6を有し、支持手段6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させ該支持手段6と共にパワーローラ4を入力ディスク及び出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させ該パワーローラ4を傾転させることで、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段5と、支持手段6の動作を摩擦力により規制可能な規制手段100と、運転状態に応じて規制手段100を制御する規制制御手段9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、入力ディスクと出力ディスクとの間に配置されたパワーローラの移動により変速比の変更が行われる、いわゆるトロイダル式の無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、駆動源である内燃機関や電動機からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で路面に伝達するために、駆動源の出力側に変速機が設けられている。この変速機には、変速比を無段階(連続的)に制御する無段変速機と、変速比を段階的(不連続)に制御する有段変速機とがある。ここで、このような無段変速機、いわゆるCVT(CVT:Continuously Variable Transmission)には、入力ディスクと出力ディスクとの間に挟み込んだパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達すると共に、パワーローラを傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機がある。
【0003】
このトロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクと出力ディスクとの間に、外周面をトロイダル面に対応する曲面としたパワーローラなどの回転手段を挟み込み、これら入力ディスク、出力ディスク及びパワーローラとの間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。そして、このパワーローラは、トラニオンにより回転自在に支持されており、このトラニオンは、揺動軸を中心として揺動可能であると共に、例えば、トラニオンに設けられたピストンに対して油圧室に供給される作動油の油圧により変速制御押圧力を作用させることで、この揺動軸に沿った方向に移動可能に構成されている。したがって、トラニオンに支持されるパワーローラがこのトラニオンと共に入力ディスク及び出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動することで、パワーローラとディスクとの間に接線力が作用しサイドスリップが発生し、このパワーローラが入力ディスク及び出力ディスクに対して揺動軸を中心として揺動、すなわち、傾転し、この結果、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比が変更される。そして、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比は、パワーローラが入力ディスク及び出力ディスクに対して傾転する角度、すなわち、傾転角に基づいて決まり、この傾転角は、当該パワーローラの中立位置から変速位置側への移動量としてのストローク量(オフセット量)の積分値に基づいて決まる。
【0004】
ところで、このようなトロイダル式無段変速機は、パワーローラ及びこれを支持するトラニオンが中立位置にある場合、入力トルクに応じて入力ディスク、出力ディスクとパワーローラとの接触点に作用する接線力に抗する大きさの変速制御押圧力をトラニオンのピストンに作用させ、パワーローラに作用する接線力と変速制御押圧力とをつりあわせることで、パワーローラ及びこれを支持するトラニオンの位置を中立位置に固定し、変速比を固定している。
【0005】
ここで、トラニオンに変速制御押圧力を作用させるために油圧室に供給される作動油の油圧が低下しこのトラニオンに変速制御押圧力が作用しない状態でトロイダル式無段変速機を搭載した車両が動かされた場合に、変速比が減少側(増速側)に変速されアップシフトしてしまうおそれがある。すなわち、例えば、油圧室に供給される作動油を加圧するためのポンプがエンジン等の駆動源の出力軸の回転と連動して駆動するものである場合に、駆動源と共にこのポンプが駆動停止しトラニオンに変速制御押圧力が作用不能な運転状態で、トロイダル式無段変速機を搭載した車両の牽引や惰性走行などにより車輪が回転すると、プロペラシャフト等を介して出力ディスクに回転力が逆入力されこの出力ディスクも回転され、この結果、入力ディスク側のフリクションを反力受けとして出力ディスクからパワーローラに接線力が作用する。そして、パワーローラに接線力が作用すると、トラニオンに変速制御押圧力が作用していないことから、パワーローラがこの接線力に抗することができず、この結果、出力ディスクの前進側回転、後進側回転のいずれの場合でも、パワーローラは、出力ディスクの回転方向に沿う方向にオフセットされてしまう。そして、パワーローラと出力ディスクとの間に接線力が作用しサイドスリップが発生し、変速比が減少側に変速され高速側変速比にアップシフトしてしまう。このため、次に始動、発進する際に、変速比が比較的小さい状態で発進しなければならないおそれがあり、この結果、トルク不足等により発進性が悪化するおそれがある。
【0006】
このため、従来のトロイダル式の無段変速機として、例えば、特許文献1に記載されているトロイダル型無段変速機は、転動体(パワーローラ)を支持するトラニオンに形成されたロック穴と、当該ロック穴に嵌合可能なロックピンとにより構成されるロック機構を備え、予め定めた所定の条件が成立した場合に、ロックピンをロック穴に嵌合させることでトラニオンと共に転動体の傾転を適正に阻止している。
【0007】
【特許文献1】特開2003−130160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているトロイダル型無段変速機の変速制御装置では、予め設定された所定の大きさの変速比のときにロックピンがロック穴に嵌合し、転動体(パワーローラ)の傾転を規制することができるものの、例えば、トロイダル型無段変速機の変速規制制御上、いかなる変速比でも転動体の傾転を規制できることがより好ましい。
【0009】
そこで本発明は、いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラの傾転を規制することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明による無段変速機は、駆動力が入力される入力ディスクと、前記駆動力が出力される出力ディスクと、前記入力ディスクと前記出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラと、前記パワーローラを回転自在、かつ、前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対して傾転自在に支持する支持手段を有し、前記支持手段に設けられたフランジ部に変速制御押圧力を作用させ該支持手段と共に前記パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させ該パワーローラを傾転させることで、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段と、前記支持手段の動作を摩擦力により規制可能な規制手段と、運転状態に応じて前記規制手段を制御する規制制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明による無段変速機では、前記規制制御手段は、少なくとも前記支持手段に前記変速制御押圧力が作用不能な運転状態である場合に、前記規制手段を制御して前記支持手段の動作を摩擦力により規制することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明による無段変速機では、前記支持手段は、回転軸線を回転中心として回転可能であると共に前記回転軸線に沿った方向に移動自在な揺動軸を有し、該揺動軸が回転することで前記パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対して傾転可能に支持し、前記規制手段は、前記支持手段の回転に伴って回転可能な支持手段側摩擦部が設けられる回転手段と、前記支持手段側摩擦部と接触可能に設けられ該支持手段側摩擦部と接触した状態で前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定側摩擦部が設けられる固定手段と、前記運転状態に応じて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とを接触させ支持手段規制押圧力を付加可能な押圧手段とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明による無段変速機では、前記支持手段側摩擦部は、前記回転手段の前記回転軸線に沿った方向の両側に設けられ、前記固定側摩擦部は、それぞれの前記支持手段側摩擦部に各々対向するように複数設けられることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明による無段変速機では、前記支持手段側摩擦部又は前記固定側摩擦部は、前記揺動軸周りに環状に設けられることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明による無段変速機では、前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動可能なストッパ部と、前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動不能な当接部とを有し、前記ストッパ部と前記当接部とが当接することで前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動を制限可能な軸線方向移動制限手段を備え、前記ストッパ部又は前記当接部は、摩擦係数が前記支持手段側摩擦部又は前記固定側摩擦部の摩擦係数より低く設定されることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明による無段変速機では、前記ストッパ部は、前記回転手段に設けられ、前記支持手段側摩擦部は、前記回転手段において前記ストッパ部より径方向内側に設けられることを特徴とする。
【0017】
請求項8に係る発明による無段変速機では、前記固定手段は、固定手段本体摩擦部が設けられ前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定手段本体と、前記固定手段本体摩擦部と接触可能な可動手段固定摩擦部と前記固定側摩擦部とが設けられ、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが接触し前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とが接触した接触位置と、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが離間し前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とが離間した離間位置とに移動自在な可動手段とを有し、前記押圧手段は、前記可動手段を前記接触位置と前記離間位置とに移動可能であると共に、前記接触位置にて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加可能であると共に前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に係る発明による無段変速機では、前記固定手段は、前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定手段本体と、前記固定側摩擦部が設けられ前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが接触した接触位置と、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが離間した離間位置とに移動自在な可動手段とを有し、前記押圧手段は、前記可動手段を前記接触位置と前記離間位置とに移動可能であると共に、前記接触位置にて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加することで、前記可動手段と前記固定手段本体とにより前記回転手段の回転を規制可能であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に係る発明による無段変速機では、前記可動手段は、前記回転手段を挟んで前記回転軸線に沿った方向の両側に一対で設けられる第1可動部材及び第2可動部材とによって構成されることを特徴とする。
【0020】
請求項11に係る発明による無段変速機では、前記第1可動部材と前記第2可動部材は、前記パワーローラの前記中立位置にて、一対の前記固定側摩擦部により前記支持手段側摩擦部を介して前記回転手段を挟持可能な位置に前記接触位置が設定されることを特徴とする。
【0021】
請求項12に係る発明による無段変速機では、前記回転手段は、前記フランジ部により構成されることを特徴とする。
【0022】
請求項13に係る発明による無段変速機では、前記押圧手段は、前記固定側摩擦部を前記支持手段側摩擦部側に付勢可能な付勢手段と、前記運転状態に応じて供給される作動油の油圧による支持手段解放押圧力によって前記固定側摩擦部を前記支持手段側摩擦部側から離間可能な離間手段とを有することを特徴とする。
【0023】
請求項14に係る発明による無段変速機では、前記規制制御手段は、前記駆動力を発生する駆動源の出力軸の回転と連動して駆動することで、前記変速比変更手段を作動する作動油及び前記離間手段に供給される作動油を加圧可能な加圧手段を有することを特徴とする。
【0024】
請求項15に係る発明による無段変速機では、前記規制制御手段は、前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧に基づいて、前記離間手段から作動油を排出可能な排出手段を有することを特徴とする。
【0025】
請求項16に係る発明による無段変速機では、前記変速比変更手段は、変速制御油圧室に供給される作動油の油圧により前記支持手段に設けられたピストンの環状の前記フランジ部に前記変速制御押圧力を作用させる油圧ピストン手段と、前記変速制御油圧室内の前記作動油の油圧を制御する油圧制御手段とを有し、前記油圧制御手段により前記変速制御油圧室内の前記作動油の油圧を制御することで、前記支持手段と共に前記パワーローラを前記回転軸線に沿って前記中立位置と前記変速位置とに移動させ、前記排出手段は、前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧に基づいて、前記変速制御油圧室から作動油を排出可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る無段変速機によれば、規制手段が運転状態に応じて支持手段の動作を摩擦力により規制するので、いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラの傾転を規制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図、図2は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図、図3は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図、図4は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図、図5は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成を示す部分断面図、図6は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転解放状態)を示す部分断面図、図7は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図、図8は、本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作を説明する流れ図である。
【0029】
なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクを示す図である。また、図3、図4は、入力ディスクを出力ディスク側から見た図であり、入力ディスクとパワーローラをそれぞれ1つだけ模式的に図示している。なお、以下の説明では、このトロイダル式無段変速機が備える規制手段としての傾転規制部は、後述する回転軸線X3を中心としてほぼ対称になるように構成されることから、図5、図6、図7には、回転軸線X3を中心として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線X3を中心として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。また、図5、図6、図7は、図2に示す2つの油圧ピストン部8のうち図中左側の油圧ピストン部8(パワーローラ4側に第1油圧室OP1が位置する油圧ピストン部8)の部分断面図を示しており、図中右側の油圧ピストン部8(パワーローラ4側に第2油圧室OP2が位置する油圧ピストン部8)の説明はできるだけ省略する。
【0030】
ここで、以下で説明する実施例では、本発明の無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源としてエンジントルクを発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機を駆動源として用いてもよい。また、駆動源として内燃機関及び電動機を併用してもよい。
【0031】
図1に示すように、本実施例に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機1は、車両に搭載される駆動源としてのエンジンからの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で車輪に伝達するためのものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVT(CVT:Continuously Variable Transmission)である。このトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込んだパワーローラ4を介して各入力ディスク2と出力ディスク3の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ4を傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機である。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル面2a、3aを有する入力ディスク2と出力ディスク3との間に、外周面をトロイダル面2a、3aに対応する曲面としたパワーローラ4を挟み込み、これら入力ディスク2、出力ディスク3及びパワーローラ4との間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。
【0032】
具体的には、このトロイダル式無段変速機1は、図1、図2に示すように、入力ディスク2と、出力ディスク3と、パワーローラ4と、変速比変更手段としての変速比変更部5とを備える。変速比変更部5は、支持手段としてのトラニオン6と、移動部7を有する。さらに、移動部7は、油圧ピストン手段としての油圧ピストン部8と、油圧制御手段としての油圧制御装置9とを有する。また、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル式無段変速機1の各部を制御するトランスミッション電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)60を備える。このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4が移動部7により入力ディスク2及び出力ディスク3に対して中立位置から変速位置に移動することで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比が変更される。
【0033】
入力ディスク2は、エンジン側からの駆動力(トルク)が、例えば、発進機構であり流体伝達装置であるトルクコンバータ(不図示)や遊星歯車機構により構成される前後進切換機構(不図示)などを介して伝達(入力)されるものである。入力ディスク2は、エンジンの回転に基づいて回転される入力軸10に2つが結合されており、この入力軸10により回転自在に設けられている。さらに言えば、入力ディスク2は、入力軸10と同一の回転をするバリエータ軸11によって回転される。各入力ディスク2は、このバリエータ軸11にスラストベアリングを介して連結されており、このバリエータ軸11の軸方向に移動可能に構成されている。したがって、各入力ディスク2は、入力軸10の回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各々の入力ディスク2は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各入力ディスク2の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各入力ディスク2のトロイダル面2aをなす。2つの入力ディスク2は、トロイダル面2aが互いに対向するように設けられる。
【0034】
出力ディスク3は、各入力ディスク2に伝達(入力)された駆動力を車輪側に伝達(出力)するものであり、各入力ディスク2に対応して1つずつ、合計2つ設けられる。各入力ディスク2と各出力ディスク3とは、回転軸線X1に同軸上に入力軸10に対して相対的に回転自在に設けられる。したがって、各出力ディスク3は、回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各出力ディスク3は、各入力ディスク2とほぼ同一な形状をなし、すなわち、各々の出力ディスク3は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各出力ディスク3の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各出力ディスク3のトロイダル面3aをなす。そして、各出力ディスク3は、回転軸線X1に沿った方向に対して2つの入力ディスク2の間に設けられると共に、各トロイダル面3aが各入力ディスク2のトロイダル面2aにそれぞれ対向するように設けられる。すなわち、回転軸線X1に沿った断面内において、一方の入力ディスク2のトロイダル面2aと一方の出力ディスク3のトロイダル面3aとが半円キャビティを形成し、他方の入力ディスク2のトロイダル面2aと他方の出力ディスク3のトロイダル面3aとが別の半円キャビティを形成している。
【0035】
また、各出力ディスク3は、ベアリングを介しバリエータ軸11に回転可能に支持されている。この2つの出力ディスク3の間には、出力ギア12が連結されており、この出力ギア12は、2つの出力ディスク3と共に一体で回転可能である。出力ギア12には、カウンターギア13がかみ合わされており、このカウンターギア13に出力軸14が連結されている。したがって、各出力ディスク3の回転に伴い、出力軸14が回転する。なお、上述のバリエータ軸11は、入力軸10と同一の回転をするものであり、このバリエータ軸11によって入力ディスク2が回転される。また、入力ディスク2は、バリエータ軸11にスラストベアリングを介し連結されており、バリエータ軸11の軸方向に移動可能になっている。
【0036】
パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間にこの入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられ、入力ディスク2からの駆動力を出力ディスク3に伝達するものである。すなわち、パワーローラ4は、外周面がトロイダル面2a、3aに対応した曲面状の接触面4aとして形成される。そして、パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟持され、接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触可能であり、各パワーローラ4は、それぞれ後述するトラニオン6によってこの接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触しながら、回転軸線X2を回転中心として回転自在に支持されている。パワーローラ4は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより入力ディスク2と出力ディスク3のトロイダル面2a、3aとパワーローラ4の接触面4aとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力(トルク)を伝達する。本実施例では、パワーローラ4は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3(1つのキャビティ)に対して2つずつ、合計4つ設けられる。
【0037】
さらに具体的には、パワーローラ4は、パワーローラ本体41と、外輪42とにより構成される。パワーローラ本体41は、外周面に入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3aと接触する上述の接触面4aが形成されている。パワーローラ本体41は、外輪42に形成された回転軸42aに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体41は、外輪42のパワーローラ本体41と対向する面に対して、スラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。したがって、パワーローラ本体41は、回転軸42aの回転軸線X2を回転中心として回転可能である。
【0038】
外輪42は、上述の回転軸42aと共に偏心軸42bが形成されている。偏心軸42bは、回転軸線X2’が回転軸42aの回転軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸42bは、後述するトラニオン6のローラ支持部6aに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。したがって、外輪42は、偏心軸42bの回転軸線X2’を中心として回転可能である。つまり、パワーローラ4は、トラニオン6に対して、回転軸線X2及び回転軸線X2’を中心として回転可能となり、すなわち、公転可能でかつ自転可能となる。これにより、パワーローラ4は、回転軸線X1に沿った方向に移動可能な構成となり、例えば、部品変形や部品精度のバラツキを許容することが可能となる。
【0039】
ここで、入力軸10は、油圧押圧(エンドロード)機構15に接続される。この油圧押圧機構15は、内部に油圧を受け、各入力ディスク2に対してそれぞれ出力ディスク3側に押圧力を作用させ、油圧押圧機構15側(フロント側)の一方の入力ディスク2を油圧押圧機構15側から離間する方向へ移動させ、他方の入力ディスク2をバリエータ軸11と共に油圧押圧機構15側に接近する方向へ移動させることで、各入力ディスク2と各出力ディスク3との間に挟圧力を生じさせ、これによって各パワーローラ4をそれぞれ所定の圧力で入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込むものである。これによって、入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との間のスリップを防ぎ、トラクション状態を維持することができる。
【0040】
変速比変更部5は、上述したように、トラニオン6と、移動部7を有し、移動部7によって、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して、トラニオン6と共にパワーローラ4を移動し、パワーローラ4をこの入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更するものである。ここで、変速比とは、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比であり、典型的には、[変速比=出力側接触半径(パワーローラ4と出力ディスク3とが接触する接触半径(接触点と回転軸線X1との距離))/入力側接触半径(入力ディスク2とパワーローラ4とが接触する接触半径)]で表すことができる。
【0041】
具体的には、各トラニオン6は、パワーローラ4をそれぞれ回転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して移動させ入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するものである。トラニオン6は、ローラ支持部6aと揺動軸6bとを有する。ローラ支持部6aは、パワーローラ4が配置される空間部6cが形成され、トラニオン6は、この空間部6cにて上述のようにパワーローラ4を回転自在に支持している。また、ローラ支持部6aは、揺動軸6bと一体で移動可能に設けられる。揺動軸6bは、柱状に形成され回転軸線X3を回転中心として回転可能に設けられる。したがって、トラニオン6は、ローラ支持部6aが揺動軸6bと共に回転軸線X3を回転中心として回転自在にケーシング(不図示)に支持されている。また、トラニオン6は、回転軸線X3に沿った方向に移動自在にケーシング(不図示)に支持され、後述する移動部7によって、回転軸線X3に沿った方向に移動可能に構成される。
【0042】
ここで、トラニオン6は、パワーローラ4の回転軸線X2が揺動軸6bの回転軸線X3と垂直な平面と平行になるようにパワーローラ4を支持している。また、トラニオン6は、揺動軸6bの回転軸線X3が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1と垂直な平面と平行になるように配置される。すなわち、トラニオン6は、回転軸線X1と垂直な平面内で回転軸線X3に沿って移動することで、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して回転軸線X3に沿って移動させることができる。また、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転揺動することで、パワーローラ4を回転軸線X3と垂直な平面内でこの回転軸線X3を中心として入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在とすることできる。なお、言い換えれば、トラニオン6は、パワーローラ4に後述する傾転力が作用することでこのパワーローラ4を傾転可能に支持していることになる。
【0043】
移動部7は、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った方向に移動させるものであり、上述したように、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。
【0044】
油圧ピストン部8は、ピストン81と、変速制御油圧室82とを含んで構成され、変速制御油圧室82に導入される作動油の油圧をピストン81のフランジ部84により受圧することで、トラニオン6を回転軸線X3に沿った2方向(A1方向及びA2方向)に移動させるものである。すなわち、油圧ピストン部8は、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧によりトラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させる。
【0045】
具体的には、ピストン81は、ピストンベース83とフランジ部84とにより構成されている。ピストンベース83は、円筒形状に形成され揺動軸6bの一端部に挿入され、回転軸線X3方向及び回転軸線X3周り方向に対して固定されている。
【0046】
フランジ部84は、ピストンベース83からピストンベース83の径方向、言い換えれば、揺動軸6bの径方向に突出するように固定的に設けられており、ピストンベース83及びトラニオン6の揺動軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動可能である。フランジ部84は、揺動軸6bの回転軸線X3周りに円環板状に形成されている。
【0047】
変速制御油圧室82は、油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87により構成される。シリンダボデー86は、変速制御油圧室82の空間部となる凹部が形成されている。ロアカバー87は、シリンダボデー86の凹部の開口を塞ぐようにこのシリンダボデー86に固定され、これにより、変速制御油圧室82は、シリンダボデー86とロアカバー87とにより回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に区画される。このシリンダボデー86及びロアカバー87は、シリンダボデー86のロアカバー87側とは反対側においてケーシング(不図示)に固定されている。
【0048】
そして、フランジ部84は、作動油が導入される変速制御油圧室82内に収容されると共に、この変速制御油圧室82内を回転軸線X3に沿った方向に2つの油圧室、すなわち、第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに区画する。フランジ部84の径方向外側の先端部には、環状のシール部材Sが設けられており、したがって、このフランジ部84によって区画される変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれこのシール部材Sにより互いに作動油が漏れないようにシールされている。
【0049】
なお、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにパワーローラ4、トラニオン6が2つずつ設けられることから、この第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにそれぞれ2つずつ設けられることになる。このとき、この一対のトラニオン6では、第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2の位置関係がトラニオン6ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン6の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン6の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン6の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン6の第1油圧室OP1となる。したがって、図2に示すトロイダル式無段変速機1では、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4は、第1油圧室OP1又は第2油圧室OP2内の油圧により、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動することになる。
【0050】
なお、トロイダル式無段変速機1は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4及びトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させるための機構として、ロアリンク16やアッパリンク17などにより構成されるリンク機構を備えている。ロアリンク16は、揺動軸6bにおいてピストン81が設けられている一端部側(シリンダボデー86とローラ支持部6aとの間)にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する一方、アッパリンク17は、揺動軸6bにおいて他端部側にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する。そして、ロアリンク16、アッパリンク17は、それぞれケーシング(不図示)に固定されるロアポスト、アッパポストの支持軸16a、17aに支持されている。この支持軸16a、17aは、回転軸線X1と平行な方向に延設されており、ロアリンク16、アッパリンク17は、この支持軸16a、17aを支点としてシーソー状に揺動可能に構成されている。したがって、ロアリンク16、アッパリンク17は、一対のトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させることができる。また、トロイダル式無段変速機1は、一対のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進する機構として、各トラニオン6に設けられるプーリと、この一対のプーリ間で一回交差するように反転して張架されるワイヤとの摩擦力により、一方のトラニオン6の回転トルクを他方のトラニオン6に伝達する機構を備えていてもよい。
【0051】
油圧制御装置9は、トランスミッションの各部に作動油を供給するものであり、変速制御油圧室82内の作動油の油圧を制御するものである。油圧制御装置9は、オイルタンク91と、加圧手段としてのオイルポンプ92と、流量制御弁としての第1流量制御弁93と、第2流量制御弁94と、作動油通路としての第1通路95と、第2通路96と、供給通路97と、排出通路98とを含んで構成される。
【0052】
オイルタンク91は、トランスミッションの各部に供給する作動油を貯留している。オイルポンプ92は、例えば、エンジンの出力軸であるクランクシャフト(不図示)の回転に連動して作動し、オイルタンク91に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。この加圧された作動油は、プレッシャーレギュレータバルブ(不図示)を介して、第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94や他の流量制御弁などに供給される。なお、このプレッシャーレギュレータバルブは、プレッシャーレギュレータバルブよりも下流側における油圧が所定油圧以上、すなわち、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧以上になった際に、下流側にある作動油をオイルタンク91に戻して所定のライン圧に調圧するものである。
【0053】
第1流量制御弁93は、第1油圧室OP1に作動油を供給し、第2油圧室OP2から作動油を排出するものである一方、第2流量制御弁94は、第2油圧室OP2に作動油を供給し、第1油圧室OP1から作動油を排出するものである。第1流量制御弁93は、油路構成本体部93aと、スプール弁子93bと、作動油供給ポート93cと、作動油排出ポート93dと、第1油圧室連通ポート93eと、第2油圧室連通ポート93fと、第1弾性部材93gと、第1ソレノイド93hとにより構成される。一方、第2流量制御弁94は、油路構成本体部94aと、スプール弁子94bと、作動油供給ポート94cと、作動油排出ポート94dと、第2油圧室連通ポート94eと、第1油圧室連通ポート94fと、第2弾性部材94gと、第2ソレノイド94hとにより構成される。この第1流量制御弁93と、第2流量制御弁94は、トランスミッションECU60から入力される制御指令値入力に基づいた駆動電流により駆動する駆動手段としての第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hがスプール弁子93b、94bの位置を変位させることで、作動油供給ポート93c、94c、作動油排出ポート93d、94dと、第1油圧室連通ポート93e、94f、第2油圧室連通ポート93f、94eから流出入する作動油の流量を制御するものである。
【0054】
具体的には、油路構成本体部93a、94aは、油路を構成するものであり、それぞれ、構成された油路と連通する作動油供給ポート93c、94c、作動油排出ポート93d、94dと、第1油圧室連通ポート93e、94fと、第2油圧室連通ポート93f、94eが形成される。油路構成本体部93a、94aに構成される油路は、それぞれスプール弁子93b、94bが挿入されている。スプール弁子93b、94bは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。
【0055】
作動油供給ポート93c、94cは、供給通路97を介してオイルポンプ92と接続されており、この作動油供給ポート93c、94cにはオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油が供給される。作動油排出ポート93d、94dは、排出通路98を介してオイルタンク91と接続されている。第1流量制御弁93の第1油圧室連通ポート93eは、第1通路95を介して第1油圧室OP1と接続されると共に、第2流量制御弁94の第1油圧室連通ポート94fと接続される。また、第1流量制御弁93の第2油圧室連通ポート93fは、第2通路96を介して第2油圧室OP2と接続されると共に、第2流量制御弁94の第2油圧室連通ポート94eと接続される。なお、本実施例のトロイダル式無段変速機1の油圧制御装置9は、第1通路95及び第2通路96中に後述する排出手段としての作動油排出弁99を備えている。
【0056】
そして、第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの一端側に設けられる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの他端側に設けられる。第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、スプール弁子93b、94bを第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94h側(OFF側)に移動させる付勢力を作用させる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、供給される駆動電流に応じて発生する電磁力により、当該付勢力に抵抗してスプール弁子93b、94bを第1弾性部材93g、第2弾性部材94g側(ON側)に移動させる押圧力を作用させる。
【0057】
また、この第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、制御手段としてのトランスミッションECU60と電気的に接続されており、このトランスミッションECU60により駆動制御されている。したがって、スプール弁子93b、94bには、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される駆動電流に応じた押圧力が作用する。
【0058】
例えば、トランスミッションECU60は、第1流量制御弁93がOFF状態(図2に示すOFFの部分)では、第1ソレノイド93hに供給する駆動電流を0Aとする。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力が作用しないため第1弾性部材93gによる付勢力のみが作用し、スプール弁子93bは、第1ソレノイド93h側のOFF位置に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとの連通が遮断され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとの連通が遮断される。つまり、第1流量制御弁93がOFF状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給されず、第2油圧室OP2内の作動油は、排出されない。
【0059】
一方、トランスミッションECU60は、第1流量制御弁93がON状態(図2に示すONの部分)では、第1ソレノイド93hに駆動電流を供給する。このとき、トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比や変速速度などに基づいて駆動電流を設定する。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力と第1弾性部材93gによる付勢力とが作用する。第1ソレノイド93hによる押圧力が第1弾性部材93gによる付勢力よりも大きくなると、スプール弁子93bは、第1弾性部材93g側に移動し、OFF位置以外のON位置(最大ON位置は図2のONの部分)に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとが連通され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとが連通される。つまり、第1流量制御弁93がON状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給され、第2油圧室OP2内の作動油は排出される。これにより、第1油圧室OP1の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧>第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第1方向A1に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動する。このとき、スプール弁子93bのON側への移動量に応じて、パワーローラ4の第1方向A1への移動が調整される。
【0060】
同様に、第2流量制御弁94のOFF状態(図2に示すOFFの部分)では、トランスミッションECU60は、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を0Aとする。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとの連通が遮断され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとの連通が遮断され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給されず、第1油圧室OP1内の作動油は、排出されない。第2流量制御弁94のON状態(図2に示すONの部分)では、トランスミッションECU60は、第2ソレノイド94hに駆動電流を供給する。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとが連通され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとが連通され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給され、第1油圧室OP1内の作動油は排出される。これにより、第2油圧室OP2の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧<第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第2方向A2に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動する。
【0061】
したがって、この移動部7は、トランスミッションECU60により油圧制御装置9が駆動され油圧ピストン部8の各変速制御油圧室82内の油圧が制御されることで、ピストン81のフランジ部84に所定の変速制御押圧力を作用させ、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った2方向、すなわち、第1方向A1と第2方向A2とに移動させることができる。そして、変速比変更部5は、この移動部7によって、トラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置(図3参照)から変速比に応じた変速位置(図4参照)に移動させ、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更することができる。
【0062】
ここで、図3に示すように、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置は、変速比が固定される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用不能な位置である。すなわち、パワーローラ4が中立位置にあり、変速比が固定されている状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の中立位置(変速比固定時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る(直交する)位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向(転がる方向)と入力ディスク2の回転方向とが一致しており、この結果、パワーローラ4に傾転力が作用せず、したがって、パワーローラ4は、この中立位置にとどまりながら入力ディスク2とともに回転をつづけ、この間の変速比は固定されている。
【0063】
このとき、入力ディスク2からパワーローラ4に作用する力は駆動力(トルク)だけであるので、移動部7の油圧ピストン部8と油圧制御装置9とは、油圧によりこの駆動力に抗するだけの力をトラニオン6に作用させている。すなわち、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6が中立位置にある場合、上述したように、入力トルクに応じて入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との接触点に作用する接線力F1(図3参照)に抗する大きさの変速制御押圧力F2(図3参照)をフランジ部84に作用させ、パワーローラ4に作用する接線力F1と変速制御押圧力F2とをつりあわせることで、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6の位置を中立位置に固定し、変速比を固定している。
【0064】
一方、図4に示すように、パワーローラ4の変速位置は、変速比が変更される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用する位置である。すなわち、パワーローラ4が変速位置にあり、変速比が変更される状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内から回転軸線X3に沿った第1方向A1あるいは第2方向A2に移動した位置に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の変速位置(変速時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る位置、すなわち、中立位置からオフセットされた位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向と入力ディスク2の回転方向とがずれ、これにより、パワーローラ4に傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4に作用する傾転力によりパワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との間にサイドスリップが発生し、パワーローラ4は、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転し、パワーローラ4と入力ディスク2との入力側接触半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との出力側接触半径とが変更され、したがって、変速比が変更される。
【0065】
例えば、本図4に示すように、入力ディスク2が図4中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第2方向A2(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向とは反対方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に逆らう方向(出力ディスク3の回転方向に沿う方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の周辺側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1から離間させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向外方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向内方側に移動するように傾転し、変速比が減少側に変更され、アップシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
【0066】
逆に、ダウンシフトする場合は、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第1方向A1(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に沿う方向(出力ディスク3の回転方向に逆らう方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の中心側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1に近接させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向内方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向外方側に移動するように傾転し、変速比が増加側に変更され、ダウンシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
【0067】
ここで、このパワーローラ4の位置は、中立位置からのストローク量と入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角により決定される。パワーローラ4のストローク量は、パワーローラ4の回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を通る中立位置を基準位置として、この中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2への移動量(中立位置からのオフセット量)である。パワーローラ4の傾転角は、パワーローラ4の回転中心である回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転中心である回転軸線X1と直交する位置を基準位置として、この基準位置から入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾斜角度(鋭角側の傾斜角度)であり、言い換えれば、回転軸線X3周りの回転角度である。そして、このトロイダル式無段変速機1の変速比は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角によって定まり、この傾転角は、パワーローラ4の中立位置からのストローク量の積分値により定まる。
【0068】
ここで、トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてトロイダル式無段変速機1の各部の駆動を制御しトロイダル式無段変速機1の実際の変速比である実変速比を制御するものである。すなわち、トランスミッションECU60は、例えば、種々のセンサが検出するエンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、入力ディスク回転数、出力軸回転数、シフトポジションなどの運転状態や傾転角、ストローク量などに基づいて、目標の変速比である目標変速比を決定すると共に変速比変更部5を駆動してパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて、所定の傾転角まで傾転させることで変速比の変更を実行する。さらに言えば、トランスミッションECU60は、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を制御指令値に基づいて制御することで、第1流量制御弁93又は第2流量制御弁94のON/OFF状態を制御し、これにより、油圧ピストン部8の第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御して、トラニオン6と共にパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて所定の傾転角まで傾転させることで、実変速比が目標変速比となるように制御する。
【0069】
上記のようなトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2に駆動力(トルク)が入力されると、その入力ディスク2にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ4に駆動力が伝達され、さらにそのパワーローラ4から出力ディスク3にトラクションオイルを介して駆動力が伝達される。この間、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移化し、それに伴う大きいせん断力によって駆動力を伝達するので、各入力ディスク2、出力ディスク3は、入力トルクに応じた圧力がパワーローラ4との間に生じるように、油圧押圧機構15により押圧される。また、パワーローラ4の周速と各入力ディスク2、出力ディスク3のトルク伝達点(パワーローラ4がトラクションオイルを介して接触している接触点)の周速とが実質的に同じであるから、入力ディスク2とパワーローラ4との接触点の回転軸線X1からの半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との接触点の回転軸線X1からの半径とに応じて、各入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)が異なることとなり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
【0070】
そして、トランスミッションECU60は、変速比を設定した目標変速比に変更する場合、すなわち、変速比の変速の場合は、入力ディスク2の回転方向に基づいて、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることで、パワーローラ4が目標変速比に応じた傾転角になるまで、トラニオン6を中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。例えば、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をON状態、第2流量制御弁94をOFF状態として、第1油圧室OP1の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させると、上述したように変速比が増加しダウンシフトが行われる。一方、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をOFF状態、第2流量制御弁94をON状態として、第2油圧室OP2の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動させると、上述したように変速比が減少しアップシフトが行われる。また、設定された変速比を固定する場合は、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることでパワーローラ4が中立位置となるまで、トラニオン6を第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。
【0071】
なお、このトランスミッションECU60は、傾転角センサ(不図示)によって検出されるパワーローラ4の傾転角とストロークセンサ(不図示)によって検出されるストローク量に基づいて、実変速比(実際の変速比)が目標変速比(変速後の目標の変速比)となるようにカスケード式のフィードバック制御を行っている。すなわち、このトランスミッションECU60は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速比に対応した目標の傾転角である目標傾転角を決定し、この目標傾転角と傾転角センサによって検出した実際の傾転角である実傾転角との偏差に基づいて、目標変速比、目標傾転角に対応した目標のストローク量である目標ストローク量を決定し、ストロークセンサが検出したストローク量がこの目標ストローク量となるように移動部7の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御している。このようなトロイダル式無段変速機1の変速制御では、基本的には、傾転角センサによって検出される傾転角(言い換えれば、変速比)のみをフィードバック制御すればよいが、ストローク量が傾転角の微分に相当することから、ストロークセンサによって検出されるストローク量のフィードバック制御もあわせて行うことで、傾転制御における振動を抑制するダンピング効果を得ることができる。また、このECU60は、変速比の応答性を向上するために、このフィードバック制御と共にフィードフォワード制御をあわせて行ってもよい。
【0072】
ところで、トラニオン6に変速制御押圧力を作用させるために変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧が低下しこのトラニオン6に変速制御押圧力が作用しない状態でトロイダル式無段変速機1を搭載した車両が動かされた場合に、変速比が減少側(増速側)に変速されアップシフトしてしまうおそれがある。すなわち、上記のように、変速制御油圧室82に供給される作動油を加圧するためのオイルポンプ92がエンジンなどの駆動源のクランクシャフト(出力軸)の回転と連動して駆動するものである場合に、エンジンと共にこのオイルポンプ92が駆動停止しトラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力が作用不能な運転状態で、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両の牽引や惰性走行などにより車輪が回転すると、プロペラシャフト等を介して出力ディスク3に回転力が逆入力されこの出力ディスク3も回転され、この結果、入力ディスク2側のフリクションを反力受けとして出力ディスク3からパワーローラ4に接線力が作用する。そして、パワーローラ4に接線力が作用すると、トラニオン6に変速制御押圧力が作用していないことから、パワーローラ4がこの接線力に抗することができず、この結果、出力ディスク3の前進側回転、後進側回転のいずれの場合でも、パワーローラ4は、出力ディスク3の回転方向に沿う方向にオフセットされてしまうおそれがある。そして、パワーローラ4と出力ディスク3との間に接線力が作用しサイドスリップが発生し、パワーローラ4が傾転し変速比が減少側に変速され高速側変速比にアップシフトしてしまうおそれがある。このため、次に始動、発進する際に、変速比が比較的小さい状態で発進しなければならないおそれがあり、この結果、トルク不足等により発進性が悪化するおそれがある。
【0073】
そこで、本実施例のトロイダル式無段変速機1は、規制手段としての傾転規制部100が運転状態に応じてトラニオン6の動作を摩擦力により規制することで、いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができるようにしている。
【0074】
具体的には、トロイダル式無段変速機1は、図2、図5に示すように、規制手段としての傾転規制部100を備え、規制制御手段としての油圧制御装置9によりこの傾転規制部100をトロイダル式無段変速機1の運転状態に応じて制御する。つまり、本実施例のトロイダル式無段変速機1では、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じて油圧制御装置9による油圧制御により傾転規制部100を制御しており、すなわち、この油圧制御装置9が本発明の規制制御手段に相当する。
【0075】
傾転規制部100は、トラニオン6の動作を摩擦力により規制可能なものであり、回転手段としての回転部110と、固定手段としての固定部120と、押圧手段としての押圧部130とを有する。
【0076】
そして、回転部110は、本実施例ではピストン81のフランジ部84により構成され、支持手段側摩擦部としてのトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bと、ストッパ部としてのストロークストッパ面84c、84dと、フランジ部本体84eとを有する。
【0077】
固定部120は、固定手段本体としての固定部本体121と、可動手段としての可動シリンダ部122とを有する。固定部本体121は、上述の油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87により構成され、固定手段本体摩擦部としての固定部本体摩擦面121aと、ロアカバー側対向面121bと、当接部としてのストロークストッパ当接面121c、121dとを有する。可動シリンダ部122は、第1可動部材としての第1可動シリンダ123と第2可動部材としての第2可動シリンダ124とによって構成される。そして、第1可動シリンダ123は、固定側摩擦部としてのシリンダ側傾転固定摩擦面123aと可動手段固定摩擦部としてのシリンダ固定摩擦面123bを有し、第2可動シリンダ124は、固定側摩擦部としてのシリンダ側傾転固定摩擦面124aと第2可動シリンダ側対向面124bを有する。
【0078】
押圧部130は、第1押圧部131と第2押圧部132とによって構成される。第1押圧部131は、付勢手段としての皿バネ133と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室134とを有し、第2押圧部132は、付勢手段としての皿バネ135と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室136とを有する。
【0079】
具体的には、図5に示すように、回転部110をなすフランジ部84は、上述したように、ピストンベース83を介してトラニオン6の揺動軸6bに対して回転軸線X3周りの回転方向に相対的に変位しないように固定されており、また、回転軸線X3に沿った方向に対しても相対的に変位しないように固定されている。したがって、回転部110をなすフランジ部84は、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴ってこのトラニオン6と共にこの回転軸線X3を回転中心として回転することができる。
【0080】
そして、このフランジ部84は、フランジ部本体84eがピストンベース83を介して揺動軸6bの回転軸線X3周りに円環板状に形成されており、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b及びストロークストッパ面84c、84dがこのフランジ部本体84eの回転軸線X3に沿った方向の両側、すなわち、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と対向する面及び第2油圧室OP2と対向する面にそれぞれ設けられる。ここでは、フランジ部本体84eは、第1油圧室OP1と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面84aとストロークストッパ面84cとが設けられ、第2油圧室OP2と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面84bとストロークストッパ面84dとが設けられる。
【0081】
トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b及びストロークストッパ面84c、84dは、フランジ部本体84eから回転軸線X3に沿った方向に突出するように形成されている。ここでは、ストロークストッパ面84c、84dは、突出量がトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bの突出量よりも大きく設定されている。また、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b及びストロークストッパ面84c、84dは、それぞれ回転軸線X3上に中心を有する同心円で環状に形成される。したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b及びストロークストッパ面84c、84dは、フランジ部84のフランジ部本体84eに設けられていることから、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴ってこのトラニオン6と共にこの回転軸線X3を回転中心として回転することができ、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動することができる。
【0082】
そして、ストロークストッパ面84c、84dは、フランジ部84のフランジ部本体84eの先端部に設けられる一方、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bは、フランジ部本体84eの基端部側に設けられる。したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bは、フランジ部84のフランジ部本体84eにおいてストロークストッパ面84c、84dより径方向内側に設けられる。なお、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の作動油の漏れを防止する上述のシール材Sは、フランジ部本体84eの両面に設けられるストロークストッパ面84c、84dの間に設けられている。また、第1油圧室OP1には、上述の第1通路95が開口する一方、第2油圧室OP2には、上述の第2通路96が開口する。
【0083】
ここで、ストロークストッパ面84c、84dは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能なストロークストッパ当接面121c、121dと共に軸線方向移動制限手段としてのストローク制限部140をなす。ストロークストッパ当接面121c、121dは、変速制御油圧室82の壁面、すなわち、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能な部材であるシリンダボデー86及びロアカバー87の変速制御油圧室82を区画する面に設けられる。ストロークストッパ当接面121cは、シリンダボデー86の第1油圧室OP1と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面121cは、上述のストロークストッパ面84cと回転軸線X3方向に対向するように形成される。一方、ストロークストッパ当接面121dは、ロアカバー87の第2油圧室OP2と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面121dは、上述のストロークストッパ面84dと回転軸線X3方向に対向するように形成される。したがって、ストローク制限部140は、ストロークストッパ面84cとストロークストッパ当接面121cとが当接することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿ったA2方向への移動を制限することができ、ストロークストッパ面84dとストロークストッパ当接面121dとが当接することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿ったA1方向への移動を制限することができる。
【0084】
ここで、このストロークストッパ面84c、84d、ストロークストッパ当接面121c、121dは、摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aの摩擦係数より低く設定される。トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bは、後述する第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124のシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aと接触し摩擦係合することでトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制し、パワーローラ4の傾転を規制する傾転規制部100をなす。これに対し、ストロークストッパ面84c、84d、ストロークストッパ当接面121c、121dは、上述のように、ストロークストッパ面84cとストロークストッパ当接面121cとが当接、あるいは、ストロークストッパ面84dとストロークストッパ当接面121dとが当接することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を制限するストローク制限部140をなす。
【0085】
このとき、このストローク制限部140では、ストロークストッパ面84cとストロークストッパ当接面121cとの当接、あるいは、ストロークストッパ面84dとストロークストッパ当接面121dとの当接によってトラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を制限することで、パワーローラ4及びトラニオン6の中立位置からのストローク量を制限しているのであり、パワーローラ4の傾転動作自体を規制しているわけではない。そして、ストロークストッパ面84cとストロークストッパ当接面121cとが当接した状態、あるいは、ストロークストッパ面84dとストロークストッパ当接面121dとが当接した状態で、トラニオン6が回転軸線X3を回転中心として回転しパワーローラ4が入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転する際でも、ストロークストッパ面84c、84d、ストロークストッパ当接面121c、121dの摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aの摩擦係数より低く設定されていることから、ストローク制限部140における摩擦力が相対的に小さくなるので、トラニオン6の回転、パワーローラ4の傾転が阻害されることを防止することができる。
【0086】
固定部120は、油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87からなる固定部本体121と、第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124からなる可動シリンダ部122により構成される。油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87は、上述したように、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能な部材であり、また、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能な部材である。したがって、シリンダボデー86及びロアカバー87からなる固定部本体121は、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能であると共に、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能である。
【0087】
そして、シリンダボデー86は、第1可動シリンダ123を回転軸線X3に沿った方向に移動可能に収容する空間部として第1シリンダ室121eが形成され、ロアカバー87は、第2可動シリンダ124を回転軸線X3に沿った方向に移動可能に収容する空間部として第2シリンダ室121fが形成される。第1シリンダ室121e及び第2シリンダ室121fは、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。第1シリンダ室121eは、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1側に設けられる一方、第2シリンダ室121fは、変速制御油圧室82の第2油圧室OP2側に設けられる。
【0088】
また、シリンダボデー86は、回転軸線X3に沿った方向の第1シリンダ室121eと第1油圧室OP1側との間に突起壁部121gが形成されている一方、ロアカバー87は、回転軸線X3に沿った方向の第2シリンダ室121fと第2油圧室OP2側との間に突起壁部121hが形成されている。突起壁部121gは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に連通部121iが設けられる一方、突起壁部121hは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に連通部121jが設けられた環状に形成される。そして、この連通部121iは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、第1シリンダ室121eと第1油圧室OP1とを回転軸線X3に沿った方向に連通する一方、連通部121jは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、第2シリンダ室121fと第2油圧室OP2とを回転軸線X3に沿った方向に連通する。
【0089】
また、第1シリンダ室121eは、回転軸線X3に沿った方向の突起壁部121gとは反対側がアッパシリンダカバー86aにより区画されている。アッパシリンダカバー86aは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され、シリンダボデー86のロアカバー87側とは反対側においてこのシリンダボデー86に締結されている。第2シリンダ室121fは、回転軸線X3に沿った方向の突起壁部121hとは反対側がロアシリンダカバー87aにより区画されている。ロアシリンダカバー87aは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成される円板部87bと、回転軸線X3を中心とした円筒状に形成される円筒部87cとにより構成される。円筒部87cは、基端部が円板部87bに固定され先端部がこの円板部87bから回転軸線X3に沿った方向(本図中ではA2方向)に突出するように形成される。円板部87bは、外径が円筒部87cの外径より大きく設定されている一方、内径が円筒部87cの内径とほぼ等しい大きさに設定されている。したがって、円板部87bと円筒部87cとは、内周面が連続しこの内周面が軸挿入部87dとして形成され、外周面側が円環段状に形成される。ロアシリンダカバー87aは、ロアカバー87のシリンダボデー86側とは反対側において円板部87bがこのロアカバー87に締結されている。
【0090】
また、シリンダボデー86は、突起壁部121gにおいて第1シリンダ室121eと対向する面が固定部本体摩擦面121aとして形成される一方、ロアカバー87は、突起壁部121hにおいて第2シリンダ室121fと対向する面がロアカバー側対向面121bとして形成される。したがって、固定部本体摩擦面121a、ロアカバー側対向面121bは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能であると共に、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能である。この固定部本体摩擦面121aは、次に説明する第1可動シリンダ123のシリンダ固定摩擦面123bと対向すると共に接触可能に設けられる一方、ロアカバー側対向面121bは、第2可動シリンダ124の第2可動シリンダ側対向面124bと対向して設けられる。
【0091】
可動シリンダ部122をなす第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124は、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、第1可動シリンダ123は、円筒部123cと円板部123dとを有する一方、第2可動シリンダ124は、円筒部124cと円板部124dとを有する。円筒部123c、円筒部124cは、回転軸線X3を中心とした円筒状に形成される。円板部123d、円板部124dは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成される。円筒部123cは、基端部が円板部123dに固定され先端部がこの円板部123dから回転軸線X3に沿った方向(本図中ではA1方向)に突出するように形成される一方、円筒部124cは、基端部が円板部124dに固定され先端部がこの円板部124dから回転軸線X3に沿った方向(本図中ではA2方向)に突出するように形成される。
【0092】
円板部123d、円板部124dは、外径が円筒部123c、円筒部124cの外径より大きく設定されている。また、第1可動シリンダ123は、円筒部123cの内周面が軸挿入部123fとして形成され、外周面側が円板部123dによって円環段状に形成される。一方、第2可動シリンダ124は、円筒部124cの内周面が軸挿入部124fとして形成され、外周面側が円板部124dによって円環段状に形成される。
【0093】
そして、第1可動シリンダ123は、円筒部123cの先端部にシリンダ側傾転固定摩擦面123aが形成される一方、第2可動シリンダ124は、円筒部124cの先端部にシリンダ側傾転固定摩擦面124aが形成される。また、第1可動シリンダ123は、円板部123dの円環段状部分にシリンダ固定摩擦面123bが形成される一方、第2可動シリンダ124は、円板部124dの円環段状部分に第2可動シリンダ側対向面124bが形成される。
【0094】
そして、第1可動シリンダ123は、円筒部123cが連通部121iに挿入され円板部123dが第1シリンダ室121e内に収容されると共に軸挿入部123fにピストンベース83が挿入されるように配置される一方、第2可動シリンダ124は、円筒部124cが連通部121jに挿入され円板部124dが第2シリンダ室121f内に収容されると共に軸挿入部124fにロアシリンダカバー87aの円筒部87cが挿入されるように配置される。そして、このロアシリンダカバー87aの円筒部87cの内周面である軸挿入部87dにピストンベース83が挿入されるように配置される。つまり、可動シリンダ部122は、第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124とが回転部110をなすフランジ部84を挟んで回転軸線X3に沿った方向の両側に一対で設けられる。
【0095】
シリンダ側傾転固定摩擦面123aは、軸挿入部123fにピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にトラニオン側傾転固定摩擦面84aと対向する位置に設けられ、シリンダ固定摩擦面123bは、固定部本体摩擦面121aと対向する位置に設けられる。一方、シリンダ側傾転固定摩擦面124aは、軸挿入部124fにロアシリンダカバー87aの円筒部87cを介してピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にトラニオン側傾転固定摩擦面84bと対向する位置に設けられ、第2可動シリンダ側対向面124bは、ロアカバー側対向面121bと対向する位置に設けられる。言い換えれば、第1可動シリンダ123は、円筒部123cにおいてトラニオン側傾転固定摩擦面84aと対向する端面がシリンダ側傾転固定摩擦面123aとして形成され、円板部123dにおいて固定部本体摩擦面121aと対向する面がシリンダ固定摩擦面123bとして形成される。一方、第2可動シリンダ124は、円筒部124cにおいてトラニオン側傾転固定摩擦面84bと対向する端面がシリンダ側傾転固定摩擦面124aとして形成され、円板部124dにおいてロアカバー側対向面121bと対向する面が第2可動シリンダ側対向面124bとして形成される。
【0096】
また、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124は、図7に示す接触位置と図5、図6に示す離間位置とに移動自在に設けられる。図7に示すように、第1可動シリンダ123の接触位置は、シリンダ側傾転固定摩擦面123aがトラニオン側傾転固定摩擦面84aに接触し、シリンダ固定摩擦面123bが固定部本体摩擦面121aに接触する位置であり、第2可動シリンダ124の接触位置は、シリンダ側傾転固定摩擦面124aがトラニオン側傾転固定摩擦面84bに接触し、第2可動シリンダ側対向面124bがロアカバー側対向面121bに隙間をあけて対向する位置である。一方、図5、図6に示すように、第1可動シリンダ123の離間位置は、シリンダ側傾転固定摩擦面123aがトラニオン側傾転固定摩擦面84aから離間し、シリンダ固定摩擦面123bが固定部本体摩擦面121aから離間した位置であり、第2可動シリンダ124の離間位置は、シリンダ側傾転固定摩擦面124aがトラニオン側傾転固定摩擦面84bから離間し、第2可動シリンダ側対向面124bがロアカバー側対向面121bからさらに離間した位置である。
【0097】
そして、本実施例では、第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124とは、パワーローラ4の中立位置において、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a、シリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bの三箇所がそれぞれ接触するように配置されている。すなわち、第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124とは、パワーローラ4の中立位置にて、一対のシリンダ側傾転固定摩擦面123a、シリンダ側傾転固定摩擦面124aによりトラニオン側傾転固定摩擦面84a、トラニオン側傾転固定摩擦面84bを介して回転部110をなすフランジ部84を挟持可能な位置に接触位置が設定される。
【0098】
なお、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124は、円板部123d、124dの径方向外側の先端部に環状のシール部材Sが第1シリンダ室121eの壁面をなすシリンダボデー86内面又は第2シリンダ室121fの壁面をなすロアカバー87内面に接触するように設けられており、したがって、後述するトラニオン解放油圧室134、136は、この各シール部材Sにより作動油が漏れないようにシールされている。また、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124は、円筒部123c、円筒部124cの外周面に環状のシール部材Sが突起壁部121gの内周面又は突起壁部121hの内周面に接触するように設けられており、したがって、第1油圧室OP1とトラニオン解放油圧室134、第2油圧室OP2とトラニオン解放油圧室136は、それぞれこのシール部材Sにより互いに作動油が漏れないようにシールされている。さらに、第1可動シリンダ123は、円筒部123cの内周面である軸挿入部123fに環状のシール部材Sがピストンベース83の外周面に接触するように設けられており、したがって、第1油圧室OP1は、この各シール部材Sにより作動油が漏れないようにシールされている。また、第2可動シリンダ124は、円筒部124cの内周面である軸挿入部124fに環状のシール部材Sがロアシリンダカバー87aの円筒部87cの外周面に接触するように設けられており、ロアシリンダカバー87aの円筒部87cの内周面である軸挿入部87dに環状のシール部材Sがピストンベース83の外周面に接触するように設けられている。したがって、第2油圧室OP2は、この各シール部材Sにより作動油が漏れないようにシールされている。
【0099】
押圧部130は、第1押圧部131と第2押圧部132とを有し、第1押圧部131は、皿バネ133とトラニオン解放油圧室134とを有し、第2押圧部132は、皿バネ135とトラニオン解放油圧室136とを有する。
【0100】
皿バネ133は、回転軸線X3に沿った方向のアッパシリンダカバー86aと第1可動シリンダ123の円板部123dとの間に設けられる。皿バネ133は、円環板状に形成され、内径側縁部がアッパシリンダカバー86aの突起部86bに当接する一方、外径側縁部が円板部123dの突起部123gに当接するように設けられる。そして、皿バネ133は、第1可動シリンダ123の円板部123dを回転軸線X3に沿ったA1方向に付勢する。すなわち、皿バネ133は、第1可動シリンダ123をフランジ部84側に付勢することで、シリンダ側傾転固定摩擦面123aをトラニオン側傾転固定摩擦面84a側に付勢可能である。
【0101】
トラニオン解放油圧室134は、第1シリンダ室121e内にて、シリンダボデー86の壁面、第1可動シリンダ123の円板部123d及び突起壁部121gによって区画される。上述の固定部本体摩擦面121a及びシリンダ固定摩擦面123bは、このトラニオン解放油圧室134に対向している。そして、トラニオン解放油圧室134には、作動油を供給するための作動油供給通路99aがシリンダボデー86の壁面に開口している。したがって、トラニオン解放油圧室134は、内部に作動油が供給されることで、トラニオン解放油圧室134内の作動油の油圧による支持手段解放押圧力としてのトラニオン解放押圧力を第1可動シリンダ123の円板部123dに作用させ、これにより、第1可動シリンダ123の円板部123dを回転軸線X3に沿ったA2方向に離間させることができる。すなわち、トラニオン解放油圧室134は、内部に供給される作動油のトラニオン解放押圧力により第1可動シリンダ123をフランジ部84側から離間することで、シリンダ固定摩擦面123bを固定部本体摩擦面121a側から離間し、シリンダ側傾転固定摩擦面123aをトラニオン側傾転固定摩擦面84a側から離間することができる。
【0102】
ここで、トラニオン解放油圧室134内に供給される作動油のトラニオン解放押圧力と皿バネ133による付勢力とは、第1可動シリンダ123の図5、図6に示す離間位置においてトラニオン解放押圧力が皿バネ133による付勢力より大きくなるように設定されている。したがって、トラニオン解放油圧室134は、内部に作動油が供給されることで、この作動油のトラニオン解放押圧力により、第1可動シリンダ123を図7に示す接触位置から図5、図6に示す離間位置に移動させることができる。また、トラニオン解放油圧室134は、内部の作動油を排出することで、図6に示すように、皿バネ133の付勢力がトラニオン解放油圧室134内の圧力より大きくなり、この皿バネ133の付勢力により第1可動シリンダ123を図5、図6に示す離間位置から図7に示す接触位置に移動させることができる。そしてさらに、皿バネ133は、第1可動シリンダ123の接触位置にて、第1可動シリンダ123をフランジ部84側にさらに付勢することで、この第1可動シリンダ123を介して、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121aとに支持手段規制押圧力としてのトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0103】
皿バネ135は、回転軸線X3に沿った方向のロアシリンダカバー87aと第2可動シリンダ124の円板部124dとの間に設けられる。皿バネ135は、円環板状に形成され、内径側縁部が円板部124dの突起部124eに当接する一方、外径側縁部がロアカバー87とロアシリンダカバー87aとの入隅部に当接するように設けられる。そして、皿バネ135は、第2可動シリンダ124の円板部124dを回転軸線X3に沿ったA2方向に付勢する。すなわち、皿バネ135は、第2可動シリンダ124をフランジ部84側に付勢することで、シリンダ側傾転固定摩擦面124aをトラニオン側傾転固定摩擦面84b側に付勢可能である。
【0104】
トラニオン解放油圧室136は、第2シリンダ室121f内にて、ロアカバー87の壁面、第2可動シリンダ124の円板部124d及び突起壁部121hによって区画される。上述のロアカバー側対向面121b及び第2可動シリンダ側対向面124bは、このトラニオン解放油圧室136に対向している。そして、トラニオン解放油圧室136には、作動油を供給するための作動油供給通路99aがロアカバー87の壁面に開口している。したがって、トラニオン解放油圧室136は、内部に作動油が供給されることで、トラニオン解放油圧室136内の作動油の油圧による支持手段解放押圧力としてのトラニオン解放押圧力を第2可動シリンダ124の円板部124dに作用させ、これにより、第2可動シリンダ124の円板部124dを回転軸線X3に沿ったA1方向に離間させることができる。すなわち、トラニオン解放油圧室136は、内部に供給される作動油のトラニオン解放押圧力により第2可動シリンダ124をフランジ部84側から離間することで、第2可動シリンダ側対向面124bをロアカバー側対向面121b側から離間し、シリンダ側傾転固定摩擦面124aをトラニオン側傾転固定摩擦面84b側から離間することができる。
【0105】
ここで、トラニオン解放油圧室136内に供給される作動油のトラニオン解放押圧力と皿バネ135による付勢力とは、第2可動シリンダ124の図5、図6に示す離間位置においてトラニオン解放押圧力が皿バネ135による付勢力より大きくなるように設定されている。したがって、トラニオン解放油圧室136は、内部に作動油が供給されることで、この作動油のトラニオン解放押圧力により、第2可動シリンダ124を図7に示す接触位置から図5、図6に示す離間位置に移動させることができる。また、トラニオン解放油圧室136は、内部の作動油を排出することで、図6に示すように、皿バネ135の付勢力がトラニオン解放油圧室136内の圧力より大きくなり、この皿バネ135の付勢力により第2可動シリンダ124を図5、図6に示す離間位置から図7に示す接触位置に移動させることができる。そしてさらに、皿バネ135は、第2可動シリンダ124の接触位置にて、第2可動シリンダ124をフランジ部84側にさらに付勢することで、この第2可動シリンダ124を介して、シリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとに支持手段規制押圧力としてのトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0106】
規制制御手段としての油圧制御装置9は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じて傾転規制部100を制御するものであり、油圧制御により傾転規制部100を制御する。油圧制御装置9は、運転状態が駆動力伝達不要状態である場合、例えば、イグニッションがOFFとされトロイダル式無段変速機1を搭載した車両のエンジンが停止状態の場合、エンジンストール状態の場合、あるいは、油圧制御装置9における各部のシール部材が破損した場合に、傾転規制部100を制御してトラニオン6の動作を摩擦力により規制する。ここでは、油圧制御装置9は、トラニオン6に設けられたピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能であり、すなわち、作動油の油圧により変速制御ができない状態で、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両の牽引や惰性走行などにより車輪が回転することで出力ディスク3も回転しパワーローラ4に接線力が作用し得るような運転状態である場合に、油圧制御により傾転規制部100を制御し、トラニオン6の動作を摩擦力により規制する。
【0107】
具体的には、油圧制御装置9は、図2に示すように、上述の各トラニオン解放油圧室134、136に開口し作動油を供給、排出する作動油供給通路99aを有し、トラニオン解放油圧室134、136内の作動油の油圧を制御する。作動油供給通路99aは、供給通路97におけるオイルポンプ92の下流側、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94の上流側と各トラニオン解放油圧室134、136とを接続し、オイルポンプ92によりトラニオン解放圧としてのライン圧に加圧された作動油をトラニオン解放油圧室134、136に供給し、このトラニオン解放油圧室134、136内の作動油により第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にトラニオン解放押圧力を作用させる。
【0108】
ここで、加圧手段としてのオイルポンプ92は、トロイダル式無段変速機1が搭載された車両のエンジンの出力軸であるクランクシャフト(不図示)の回転に連動して作動している。そして、このオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油は、上述したように、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)にも供給されフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力を作用させることで、変速制御にも用いられている。つまり、このオイルポンプ92は、駆動力を発生するエンジンのクランクシャフトの回転と連動して駆動することで、変速比変更部5の油圧ピストン部8を作動する作動油及び傾転規制部100の押圧部130を作動する作動油を加圧しており、すなわち、変速比変更部5の油圧ピストン部8を作動する作動油と傾転規制部100の押圧部130を作動する作動油とは、共通のオイルポンプ92によりライン圧に加圧され、変速比変更部5の油圧ピストン部8を作動する作動油の元圧と傾転規制部100の押圧部130を作動する作動油の元圧とが共通の元圧となる。
【0109】
そして、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止した状態で、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に作動油が供給されず変速制御油圧室82内の油圧が低下し、ピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な場合、押圧部130のトラニオン解放油圧室134、136にも作動油が供給されず、トラニオン解放油圧室134、136内の油圧も低下し、したがって、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にもトラニオン解放押圧力が作用しない。すると、図6に示すように、皿バネ133、135の付勢力がトラニオン解放油圧室136内の圧力より大きくなり、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124が図7に示す接触位置に移動し、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとが接触しトラニオン規制押圧力が付加される。
【0110】
一方、エンジンが始動しオイルポンプ92が駆動した状態で、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に作動油が供給されピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能な場合、押圧部130のトラニオン解放油圧室134、136にも作動油が供給され、したがって、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にもトラニオン解放押圧力が作用する。すると、トラニオン解放油圧室134、136内の圧力が皿バネ133、135の付勢力より大きくなり、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124が図5に示す離間位置に移動し、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとが離間し接触状態が解除される。
【0111】
そして、本実施例の油圧制御装置9は、さらに、排出手段としての作動油排出弁99を備えている。作動油排出弁99は、変速比変更部5の油圧ピストン部8を作動する作動油の元圧(ライン圧)に基づいて、該元圧が所定値よりも低下した際にトラニオン解放油圧室134、136から作動油を排出可能なものであり、ここでは、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)からも作動油を排出可能である。作動油排出弁99は、第1通路95及び第2通路96及び作動油供給通路99aの経路中に設けられている。
【0112】
具体的には、作動油排出弁99は、図2に示すように、油路構成本体部99cと、スプール弁子99dと、作動油供給ポート99eと、第1油圧室ポンプ側連通ポート99fと、第2油圧室ポンプ側連通ポート99gと、トラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hと、第1油圧室油室側連通ポート99iと、第2油圧室油室側連通ポート99jと、トラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kと、第1油圧室作動油排出ポート99lと、第2油圧室作動油排出ポート99mと、トラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nと、弾性部材99oとにより構成される。
【0113】
油路構成本体部99cは、油路を構成するものであり、構成された油路と連通する作動油供給ポート99e、第1油圧室ポンプ側連通ポート99f、第2油圧室ポンプ側連通ポート99g、トラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99h、第1油圧室油室側連通ポート99i、第2油圧室油室側連通ポート99j、トラニオン解放油圧室油室側連通ポート99k、第1油圧室作動油排出ポート99l、第2油圧室作動油排出ポート99m、トラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nが形成される。油路構成本体部99cに構成される油路は、スプール弁子99dが挿入されている。スプール弁子99dは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。
【0114】
作動油供給ポート99eは、作動油供給通路99a及び供給通路97を介してオイルポンプ92と接続されており、この作動油供給ポート99eにはオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油が供給される。第1油圧室ポンプ側連通ポート99fは、第1通路95を介して第1流量制御弁93の第1油圧室連通ポート93e及び第2流量制御弁94の第1油圧室連通ポート94fと接続される。第2油圧室ポンプ側連通ポート99gは、第2通路96を介して第1流量制御弁93の第2油圧室連通ポート93f及び第2油圧室連通ポート94eと接続される。トラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hは、作動油供給通路99a及び供給通路97を介してオイルポンプ92と接続されており、このトラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hにはオイルポンプ92によりトラニオン解放圧としてのライン圧に加圧された作動油が供給される。第1油圧室油室側連通ポート99iは、第1通路95を介して第1油圧室OP1と接続される。第2油圧室油室側連通ポート99jは、第2通路96を介して第2油圧室OP2と接続される。トラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kは、作動油供給通路99aを介してトラニオン解放油圧室134、136と接続される。第1油圧室作動油排出ポート99l、第2油圧室作動油排出ポート99m、トラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nは、排出通路98を介してオイルタンク91と接続されている。
【0115】
そして、弾性部材99oは、スプール弁子99dの一端側に設けられる一方、上述の作動油供給ポート99eは、スプール弁子99dの他端側に設けられる。弾性部材99oは、スプール弁子99dを作動油供給ポート99e側(OFF側)に移動させる付勢力をこのスプール弁子99dに作用させる一方、作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部に供給されるライン圧の作動油は、その油圧により、当該付勢力に抵抗してスプール弁子99dを弾性部材99o側(ON側)に移動させる押圧力をこのスプール弁子99dに作用させる。
【0116】
作動油排出弁99は、オイルポンプ92が駆動した状態では、作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部にライン圧の作動油が供給される。そして、スプール弁子99dには、この作動油の油圧による押圧力と弾性部材99oによる付勢力とが作用する。作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部に供給されたライン圧の作動油の油圧による押圧力が弾性部材99oによる付勢力よりも大きくなると、スプール弁子99dは、弾性部材99o側に移動し、ON位置(図2のONの部分)に位置する。このとき、第1油圧室ポンプ側連通ポート99fと第1油圧室油室側連通ポート99iとが連通されると共に第1油圧室作動油排出ポート99lが遮断され、第2油圧室ポンプ側連通ポート99gと第2油圧室油室側連通ポート99jとが連通されると共に第2油圧室作動油排出ポート99mが遮断され、トラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hとトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kとが連通すると共にトラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nが遮断される。
【0117】
つまり、作動油排出弁99がON状態では、第1通路95を流動する作動油は、作動油排出弁99において第1油圧室ポンプ側連通ポート99fから第1油圧室油室側連通ポート99iへ又は第1油圧室油室側連通ポート99iから第1油圧室ポンプ側連通ポート99fへ通過することができ、第2通路96を流動する作動油は、作動油排出弁99において第2油圧室ポンプ側連通ポート99gから第2油圧室油室側連通ポート99jへ又は第2油圧室油室側連通ポート99jから第2油圧室ポンプ側連通ポート99gへ通過することができ、作動油供給通路99aを流動する作動油は、作動油排出弁99においてトラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hからトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kへ又はトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kからトラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hへ通過することができる。
【0118】
これにより、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に作動油が供給されピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能となると共に、押圧部130のトラニオン解放油圧室134、136にも作動油が供給され、したがって、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にもトラニオン解放押圧力が作用可能となる。
【0119】
一方、作動油排出弁99は、オイルポンプ92が停止した状態では、作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部にライン圧の作動油が供給されず、このため、スプール弁子99dには弾性部材99oによる付勢力のみが作用する。これにより、スプール弁子99dは、弾性部材99oによる付勢力によって作動油供給ポート99e側(OFF側)に移動し、OFF位置(図2のOFFの部分)に位置する。このとき、第1油圧室ポンプ側連通ポート99fと第1油圧室油室側連通ポート99iとが遮断されると共に第1油圧室油室側連通ポート99iと第1油圧室作動油排出ポート99lとが連通され、第2油圧室ポンプ側連通ポート99gと第2油圧室油室側連通ポート99jとが遮断されると共に第2油圧室油室側連通ポート99jと第2油圧室作動油排出ポート99mとが連通され、トラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hとトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kとが遮断されると共にトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kとトラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nとが連通される。
【0120】
つまり、作動油排出弁99がOFF状態では、第1通路95を流動する作動油は、オイルポンプ92側の作動油が作動油排出弁99において第1油圧室ポンプ側連通ポート99fから第1油圧室油室側連通ポート99iに通過することが遮断されると共に第1油圧室OP1側の作動油が第1油圧室油室側連通ポート99iから第1油圧室作動油排出ポート99lに通過し排出通路98を介してオイルタンク91に排出される。第2通路96を流動する作動油は、オイルポンプ92側の作動油が作動油排出弁99において第2油圧室ポンプ側連通ポート99gから第2油圧室油室側連通ポート99jに通過することが遮断されると共に第2油圧室OP2側の作動油が第2油圧室油室側連通ポート99jから第2油圧室作動油排出ポート99mに通過し排出通路98を介してオイルタンク91に排出される。作動油供給通路99aを流動する作動油は、オイルポンプ92側の作動油が作動油排出弁99においてトラニオン解放油圧室ポンプ側連通ポート99hからトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kに通過することが遮断されると共にトラニオン解放油圧室134、136側の作動油がトラニオン解放油圧室油室側連通ポート99kからトラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nに通過し排出通路98を介してオイルタンク91に排出される。
【0121】
これにより、オイルポンプ92が停止し、ライン圧が所定値よりも低下し変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)内の油圧が低下し、ピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な状態になった際に、すみやかに、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)及びトラニオン解放油圧室134、136内の作動油を排出することができる。この結果、すみやかに第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124に対するトラニオン解放押圧力が作用不能となり、皿バネ133、135の付勢力により第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124を接触位置に移動させることができる。よって、オイルポンプ92の停止によりトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になった時点ですみやかに、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0122】
なお、このトロイダル式無段変速機1は、図5に示すように、ロアカバー87、ロアシリンダカバー87a及びピストンベース83などに潤滑作動油供給通路99bが設けられている。そして、オイルポンプ92から不図示の潤滑作動油供給回路を介して潤滑油としての作動油がこの潤滑作動油供給通路99bに供給され各部の摺動部等が潤滑、冷却される。
【0123】
次に、図8を参照してトロイダル式無段変速機1が備える傾転規制部100の動作を説明する。なお、本図に示す傾転規制部100の動作は、トランスミッションECU60による電子制御によって実行される制御を示したものではなく、トロイダル式無段変速機1の機械的な構成による運転状態に応じた各部の動作を概念的に示したものである。
【0124】
上記のように構成されるトロイダル式無段変速機1は、エンジンが始動しオイルポンプ92が駆動すると、このオイルポンプ92により作動油が加圧される。そして、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値以上になると(S100:Yes)、作動油排出弁99は、作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部にライン圧の作動油が供給され、スプール弁子99dがON位置に位置する(S102)。ここで、所定値は、皿バネ133、135の付勢力等に基づいて予め設定されている。
【0125】
作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に供給されピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能になる。そして、作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部130のトラニオン解放油圧室134、136にも供給され、したがって、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にトラニオン解放押圧力が作用する。すると、トラニオン解放油圧室134、136内の圧力が皿バネ133、135の付勢力より大きくなり、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124が離間位置(図5参照)に移動する(S104)。そして、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとは、皿バネ133、135の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用せず、互いに離間し接触状態が解除され、摩擦係合が解除される。この結果、このトロイダル式無段変速機1は、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が解放されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が解放され、変速比変更部5による変速制御によって、このトラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させ、変速比を変更することができる(S106)。
【0126】
一方、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止すると、このオイルポンプ92により作動油が加圧されず、ライン圧(トラニオン解放圧)が低下する。そして、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値より低下すると(S100:No)、作動油排出弁99は、作動油供給ポート99eから油路構成本体部99c内部に所定値以上のライン圧の作動油が供給されず、このため、スプール弁子99dがOFF位置に位置する(S108)。
【0127】
作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に供給されず、ピストン81のフランジ部84を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になる。
【0128】
そして、作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部130のトラニオン解放油圧室134、136にも供給されず、したがって、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124にもトラニオン解放押圧力が作用しない。すると、トラニオン解放油圧室134、136内の圧力が皿バネ133、135の付勢力より小さくなり、皿バネ133、135の付勢力により第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124が接触位置(図7参照)に移動する(S110)。
【0129】
そして、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121a及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとは、皿バネ133、135の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用し、互いに接触状態となり摩擦係合する。
【0130】
したがって、固定部120は、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121aとが摩擦係合することで、可動シリンダ部122をなす第1可動シリンダ123が固定部本体121をなすシリンダボデー86に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、シリンダボデー86に対する第1可動シリンダ123の相対的な回転変位が規制され、第1可動シリンダ123のシリンダ側傾転固定摩擦面123aがトラニオン6の回転に伴って回転軸線X3周りに回転することが規制される。
【0131】
そして、傾転規制部100は、シリンダ固定摩擦面123bと固定部本体摩擦面121aとが摩擦係合した状態で、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84aとが摩擦係合し、シリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bが摩擦係合することで、回転部110をなすフランジ部84が第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124とにより挟持され、可動シリンダ部122をなす第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124に対するフランジ部84の相対的な回転変位が規制され、回転部110をなすフランジ部84が第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となることで、トラニオン6自体も回転軸線X3周りに回転不能となる。つまり、固定部120に対する回転部110をなすフランジ部84の相対的な回転変位が規制され、トラニオン6自体の回転軸線X3周りの回転が規制される(S112)。この結果、このトロイダル式無段変速機1は、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が規制されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が規制され、この結果、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転を規制することができる。
【0132】
このとき、作動油排出弁99がOFF状態となると、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2及びトラニオン解放油圧室134、136の作動油は、この作動油排出弁99にて、第1油圧室作動油排出ポート99l、第2油圧室作動油排出ポート99m及びトラニオン解放油圧室作動油排出ポート99nから排出通路98を介してオイルタンク91に排出される。これにより、オイルポンプ92が停止し、トラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な状態になった際に、すみやかに、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)及びトラニオン解放油圧室134、136内の作動油を排出することができる。この結果、迅速に第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124を接触位置に移動させトラニオン規制押圧力を付加することができる。よって、このトロイダル式無段変速機1は、オイルポンプ92の停止によりトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になった時点ですみやかに、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転が規制され、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転を規制することができる。
【0133】
この結果、傾転規制部100によって摩擦力によりトラニオン6の動作を規制することで、いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができる。すなわち、例えば、所定の大きさの変速比のときにロックピンがロック穴に嵌合することでパワーローラ4の傾転を規制する場合のように予め設定された所定の大きさの変速比のみでしかパワーローラ4の傾転を規制することができない場合と比較して、変速規制の制御性をさらに向上することができる。また、例えば、ロックピンのように高い剛性を要する部材も必要としない。
【0134】
そして、傾転規制部100によっていずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができることから、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧が低下しこのトラニオン6に変速制御押圧力が作用しない状態で、例えば、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両が牽引や惰性走行などにより動かされ車輪が回転された場合などに、出力ディスク3の前進側回転、後進側回転のいずれの場合でも、変速比が減少側(増速側)に変速されアップシフトしてしまうことを防止することができる。このため、次に始動、発進する際に、変速比が比較的小さい状態で発進されることを防止することができ、この結果、トルク不足等により発進性が悪化することを防止することができる。
【0135】
また、このトロイダル式無段変速機1は、上記のような構成であることから、通常の運転時では、傾転規制部100にて摩擦力を発生させるためのトラニオン規制押圧力を第1可動シリンダ123、第2可動シリンダ124に作用させる皿バネ133、135の付勢がトラニオン6に直接に作用することがない。このため、変速比変更部5による変速制御性が悪化することも防止することができる。また、例えば、車輪が回転された場合に出力ディスク3からパワーローラ4に作用する接線力に抗するための押圧力をトラニオン6に作用させるために、通常の運転時では不要なポンプを出力軸系などに別途設ける必要がないことから、装置の大型化やコストアップ等も防止することができる。
【0136】
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、駆動力が入力される入力ディスク2と、駆動力が出力される出力ディスク3と、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するトラニオン6を有し、トラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させこのトラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置から変速位置に移動させこのパワーローラ4を傾転させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比を変更可能な変速比変更部5と、トラニオン6の動作を摩擦力により規制可能な傾転規制部100と、運転状態に応じて傾転規制部100を制御する油圧制御装置9とを備える。したがって、傾転規制部100によって摩擦力によりトラニオン6の動作を規制することで、いずれの変速比においてもトロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0137】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、油圧制御装置9は、少なくともトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な運転状態である場合に、傾転規制部100を制御してトラニオン6の動作を摩擦力により規制する。したがって、トラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な運転状態で、例えば、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両の牽引や惰性走行などにより車輪が回転することで出力ディスク3も回転しパワーローラ4に接線力が作用しても、少なくともトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能な運転状態である場合に、油圧制御装置9によって傾転規制部100を制御してトラニオン6の動作を摩擦力により規制することから、出力ディスク3の前進側回転、後進側回転のいずれの場合でも、変速比が減少側(増速側)に変速されアップシフトしてしまうことを防止することができる。
【0138】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転可能であると共に回転軸線X3に沿った方向に移動自在な揺動軸6bを有し、この揺動軸6bが回転することでパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転可能に支持し、傾転規制部100は、トラニオン6の回転に伴って回転可能なトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bが設けられる回転部110と、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bと接触可能に設けられこのトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bと接触した状態でトラニオン6の回転に伴って回転不能なシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aが設けられる固定部120と、運転状態に応じてトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加可能な押圧部130とを有する。したがって、傾転規制部100は、押圧部130により、トラニオン6の回転に伴って回転可能な回転部110に設けられるトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bと、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部120に設けられるシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共に、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとの間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によりトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0139】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bは、回転部110の回転軸線X3に沿った方向の両側に設けられ、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aは、それぞれのトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bに各々対向するように複数設けられる。したがって、回転部110をシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aによりトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bを介して回転軸線X3に沿った方向の両側から挟持することで、シリンダ側傾転固定摩擦面123aとトラニオン側傾転固定摩擦面84aとの摩擦力及びシリンダ側傾転固定摩擦面124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84bとの摩擦力により確実にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0140】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b及びシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aは、揺動軸6b周りに環状に設けられる。したがって、揺動軸6b周りのどの位置でもトラニオン側傾転固定摩擦面84aとシリンダ側傾転固定摩擦面123aとが対向し、トラニオン側傾転固定摩擦面84bとシリンダ側傾転固定摩擦面124aとが対向していることから、いずれの変速比においても確実にパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0141】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動可能なストロークストッパ面84c、84dと、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能なストロークストッパ当接面121c、121dとを有し、ストロークストッパ面84c、84dとストロークストッパ当接面121c、121dとが当接することでトラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を制限可能なストローク制限部140を備え、ストロークストッパ面84c、84d、ストロークストッパ当接面121c、121dは、摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aの摩擦係数より低く設定される。したがって、ストロークストッパ面84c、84d、ストロークストッパ当接面121c、121dの摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aの摩擦係数より低く設定されていることから、ストローク制限部140における摩擦力が相対的に小さくなるので、トラニオン6の回転、パワーローラ4の傾転がストローク制限部140の摩擦力により阻害されることを防止することができ、トラニオン6の回転、パワーローラ4の傾転を滑らかに行うことができる。
【0142】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、ストロークストッパ面84c、84dは、回転部110に設けられ、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bは、回転部110においてストロークストッパ面84c、84dより径方向内側に設けられる。したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bが回転部110においてストロークストッパ面84c、84dより径方向内側に位置していることから、固定部120のシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aもストロークストッパ面84c、84dより径方向内側に設けることができ、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aの径を小さく設定することができる。このため、固定部120においてシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aが設けられる部材である第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124の径を小さく設定することができ、例えば、第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124を回転部110をなすフランジ部84の径の範囲内におさめることができ、よって、傾転規制部100を小型化することができる。
【0143】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、固定部120は、固定部本体摩擦面121aが設けられトラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部本体121と、固定部本体摩擦面121aと接触可能なシリンダ固定摩擦面123bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとが設けられ、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとが接触し固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとが接触した接触位置と、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとが離間し固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとが離間した離間位置とに移動自在な可動シリンダ部122とを有し、押圧部130は、可動シリンダ部122を接触位置と離間位置とに移動可能であると共に、接触位置にてトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとにトラニオン規制押圧力を付加可能であると共に固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとにトラニオン規制押圧力を付加可能である。
【0144】
したがって、押圧部130により可動シリンダ部122を離間位置に移動させることで、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を解放すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を解放することができる。そして、押圧部130により可動シリンダ部122を接触位置に移動させることで、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することができると共に固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することができる。よって、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとの摩擦力及び固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとの摩擦力により、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0145】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、可動シリンダ部122は、回転部110を挟んで回転軸線X3に沿った方向の両側に一対で設けられる第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124とによって構成される。言い換えれば、固定部本体121は、固定部本体摩擦面121aが設けられ、可動シリンダ部122は、回転部110を挟んで回転軸線X3に沿った方向の両側に一対で設けられる第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124によって構成され、第1可動シリンダ123に固定部本体摩擦面121aと接触可能なシリンダ固定摩擦面123bが設けられ、固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとは、接触位置にて接触する一方、離間位置にて離間し、押圧部130は、接触位置にて固定部本体摩擦面121aとシリンダ固定摩擦面123bとにトラニオン規制押圧力を付加可能である。したがって、回転部110に対して回転軸線X3に沿った方向の両側からそれぞれ接近、離間可能な第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124とによって、回転部110をシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124a、トラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bを介して両側から確実に挟持し固定することができる。
【0146】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、第1可動シリンダ123と第2可動シリンダ124は、パワーローラ4の中立位置にて、一対のシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aによりトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bを介して回転部110を挟持可能な位置に接触位置が設定される。したがって、第1可動シリンダ123及び第2可動シリンダ124は、パワーローラ4の中立位置近傍にて、回転部110を挟持しトラニオン6を固定することができることから、パワーローラ4に作用するサイドスリップ力が比較的小さい位置でトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができ、このため、トラニオン規制押圧力を比較的小さな値に設定することができる。また、次に始動、発進する際に、パワーローラ4が中立位置近傍にある状態で発進することができることから、発進性をより向上することができる。
【0147】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、回転部110は、フランジ部84により構成される。したがって、変速制御押圧力を受圧するためのフランジ部84を回転部110として兼用することができるので、装置の大型化を抑制することができる。
【0148】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、押圧部130は、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aをトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b側に付勢可能な皿バネ133、135と、運転状態に応じて作動油の油圧によるトラニオン解放押圧力によってシリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aをトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84b側から離間可能なトラニオン解放油圧室134、136とを有する。したがって、トラニオン解放油圧室134、136内の油圧を制御し、トラニオン解放押圧力が皿バネ133、135の付勢力よりも大きくなることで、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとを離間しトラニオン6の動作を解放することができる。一方、トラニオン解放押圧力が皿バネ133、135の付勢力よりも小さくなることで、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとを接触させると共にトラニオン規制押圧力を付加し、シリンダ側傾転固定摩擦面123a、124aとトラニオン側傾転固定摩擦面84a、84bとを摩擦係合し、トラニオン6の動作を規制することができる。
【0149】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、油圧制御装置9は、駆動力を発生するエンジンのクランクシャフトの回転と連動して駆動することで、変速比変更部5を作動する作動油及びトラニオン解放油圧室134、136に供給される作動油を加圧可能なオイルポンプ92を有する。したがって、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止した状態で、変速比変更部5において変速制御押圧力が作用不能になると、トラニオン解放押圧力も作用不能になり、トラニオン解放押圧力が皿バネ133、135の付勢力よりも小さくなることから、油圧制御装置9は、変速比変更部5において変速制御押圧力が作用不能になるのに伴って、傾転規制部100を制御してトラニオン6の動作を規制することができる。
【0150】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、油圧制御装置9は、変速比変更部5を作動する作動油の元圧としてのライン圧に基づいて、トラニオン解放油圧室134、136から作動油を排出可能な作動油排出弁99を有する。したがって、作動油排出弁99により、ライン圧が所定値よりも低下し、変速比変更部5において変速制御押圧力が作用不能になった際に、すみやかにトラニオン解放油圧室134、136から作動油を排出することができ、この結果、迅速に可動シリンダ部122を接触位置に移動させトラニオン6の動作を規制することができる。
【0151】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、変速比変更部5は、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧によりトラニオン6に設けられたピストン81の環状のフランジ部84に変速制御押圧力を作用させる油圧ピストン部8と、変速制御油圧室82内の作動油の油圧を制御する油圧制御装置9とを有し、油圧制御装置9により変速制御油圧室82内の作動油の油圧を制御することで、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿って中立位置と変速位置とに移動させ、作動油排出弁99は、変速比変更部5を作動する作動油の元圧としてのライン圧に基づいて、変速制御油圧室82から作動油を排出可能である。したがって、ライン圧が所定値よりも低下し、変速比変更部5において変速制御押圧力が作用不能になった際に、すみやかに変速制御油圧室82から作動油を排出することができ、この結果、可動シリンダ部122を接触位置に移動させる際に、この変速制御油圧室82内の作動油が可動シリンダ部122の移動の抵抗になることを抑制することができる。また、この作動油排出弁99によりトラニオン解放油圧室134、136から作動油を排出する手段と変速制御油圧室82から作動油を排出する手段とを兼用することから、油圧制御装置9を小型化することができる。
【実施例2】
【0152】
図9は、本発明の実施例2に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図、図10は、本発明の実施例2に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。実施例2に係る無段変速機は、実施例1に係る無段変速機と略同様の構成であるが、可動手段が1つの可動部材により構成されている点、支持手段側摩擦部とストッパ部とが兼用されている点及び固定手段本体がロアカバーを備えない点が実施例1に係る無段変速機とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、主要部分の構成については図1、図2を参照する。
【0153】
具体的には、実施例2に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機201は、図9、図10に示すように、規制手段としての傾転規制部200を備え、規制制御手段としての油圧制御装置9によりこの傾転規制部200をトロイダル式無段変速機201の運転状態に応じて制御する。
【0154】
傾転規制部200は、回転手段としての回転部210と、固定手段としての固定部220と、押圧手段としての押圧部230とを有する。回転部210は、本実施例ではピストン81のフランジ部284により構成され、支持手段側摩擦部としてのトラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bと、フランジ部本体284eとを有する。
【0155】
固定部220は、固定手段本体としての固定部本体221と、可動手段としての可動シリンダ部222とを有する。固定部本体221は、油圧室構成部材85であるシリンダボデー86により構成され、シリンダボデー86は、固定側摩擦部としての固定部本体側傾転固定摩擦面221aと、シリンダボデー側対向面221bとを有する。可動シリンダ部222は、可動部材としての可動シリンダ223によって構成される。そして、可動シリンダ223は、固定側摩擦部としてのシリンダ側傾転固定摩擦面223aとシリンダ側対向面223bとを有する。
【0156】
押圧部230は、付勢手段としての皿バネ233と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室234とを有する。
【0157】
回転部210をなすフランジ部284は、トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bがフランジ部本体284eの回転軸線X3に沿った方向の両側、すなわち、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と対向する面及び第2油圧室OP2と対向する面にそれぞれ設けられる。フランジ部本体284eは、第1油圧室OP1と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面284aが設けられ、第2油圧室OP2と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面284bが設けられる。
【0158】
トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bは、フランジ部本体284eから回転軸線X3に沿った方向に突出するように形成されている。トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bは、それぞれ回転軸線X3上に中心を有する同心円で環状に形成される。トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bは、フランジ部284のフランジ部本体284eの先端部、すなわち、径方向外側縁部に設けられる。
【0159】
ここで、本実施例のトロイダル式無段変速機201は、トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284b、固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aがトラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を制限する軸線方向移動制限手段として兼用されている。すなわち、トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bがストッパ部に相当し、後述する固定部本体側傾転固定摩擦面221a、シリンダ側傾転固定摩擦面223aが当接部に相当する。ただし、ここでは、傾転規制部200をなすトラニオン側傾転固定摩擦面284a、284b、固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aが軸線方向移動制限手段として兼用されていることから、支持手段側摩擦部、固定側摩擦部の摩擦係数と、ストッパ部、当接部の摩擦係数とは等しい値となっており、比較的に高い摩擦係数に設定されている。
【0160】
固定部220は、油圧室構成部材85であるシリンダボデー86からなる固定部本体221と、可動シリンダ223からなる可動シリンダ部222により構成される。シリンダボデー86は、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能な部材であり、また、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能な部材である。
【0161】
そして、シリンダボデー86は、可動シリンダ223を回転軸線X3に沿った方向に移動可能に収容する空間部として第1シリンダ室221eと第2シリンダ室221fが形成される。第1シリンダ室221e及び第2シリンダ室221fは、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。第1シリンダ室221eは、変速制御油圧室82の一部をなすと共に、第2シリンダ室221fは、第1シリンダ室221eの第2油圧室OP2側でこの第1シリンダ室221eと連通するように設けられる。そして、第2シリンダ室221fは、外径が第1シリンダ室221eの外径より大きく設定されている。
【0162】
また、シリンダボデー86は、第1シリンダ室221eの第1油圧室OP1側に突起壁部221gが形成されている。突起壁部221gは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に軸挿入部221iが設けられる。この軸挿入部221iは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、シリンダボデー86は、軸挿入部221iにピストンベース83が挿入されるように配置される。
【0163】
シリンダボデー86は、突起壁部221gにおいて第1シリンダ室221eと対向する面が固定部本体側傾転固定摩擦面221aとして形成される。また、シリンダボデー86は、第1シリンダ室221eと第2シリンダ室221fとが連続する部分の壁面(回転軸線X3に沿った方向と交差する大径部壁面)がシリンダボデー側対向面221bとして形成される。したがって、固定部本体側傾転固定摩擦面221a、シリンダボデー側対向面221bは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能であると共に、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能である。この固定部本体側傾転固定摩擦面221aは、上述の回転部210をなすフランジ部284のトラニオン側傾転固定摩擦面284aと対向すると共に接触可能に設けられる一方、シリンダボデー側対向面221bは、次に説明する可動シリンダ223のシリンダ側対向面223bと対向して設けられる。
【0164】
可動シリンダ部222をなす可動シリンダ223は、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、可動シリンダ223は、円筒部223cと円板部223dとを有する。円筒部223cは、回転軸線X3を中心とした円筒状に形成される。円板部223dは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成される。円筒部223cは、基端部が円板部223dに固定され先端部がこの円板部223dから回転軸線X3に沿った方向(本図中ではA2方向)に突出するように形成される。
【0165】
円板部223dは、外径が円筒部223cの外径より大きく設定されている。また、可動シリンダ223は、円筒部223cの内周面が軸挿入部223fとして形成され、外周面側が円板部223dによって円環段状に形成される。
【0166】
そして、可動シリンダ223は、円筒部223cの先端部にシリンダ側傾転固定摩擦面223aが形成される。また、可動シリンダ223は、円板部223dの円環段状部分にシリンダ側対向面223bが形成される。
【0167】
そして、可動シリンダ223は、円筒部223cが第1シリンダ室221e内に収容され円板部223dが第2シリンダ室221fに収容されると共に軸挿入部223fにピストンベース83が挿入されるように配置される。つまり、可動シリンダ部222は、この可動シリンダ223が、回転軸線X3に沿った方向に対して、フランジ部284を挟んで突起壁部221gとは反対側に設けられる。
【0168】
シリンダ側傾転固定摩擦面223aは、軸挿入部223fにピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にトラニオン側傾転固定摩擦面284bと対向する位置に設けられ、シリンダ側対向面223bはシリンダボデー側対向面221bと対向する位置に設けられる。言い換えれば、可動シリンダ223は、円筒部223cにおいてトラニオン側傾転固定摩擦面284bと対向する端面がシリンダ側傾転固定摩擦面223aとして形成され、円板部223dにおいてシリンダボデー側対向面221bと対向する面がシリンダ側対向面223bとして形成される。
【0169】
また、可動シリンダ223は、図10に示す接触位置と図9に示す離間位置とに移動自在に設けられる。図10に示すように、可動シリンダ223の接触位置は、この可動シリンダ223によりフランジ部284を突起壁部221g側に移動させ、トラニオン側傾転固定摩擦面284aが固定部本体側傾転固定摩擦面221aに接触し、シリンダ側傾転固定摩擦面223aがトラニオン側傾転固定摩擦面284bに接触し、さらに、シリンダ側対向面223bがシリンダボデー側対向面221bに隙間をあけて対向する位置である。一方、図9に示すように、可動シリンダ223の離間位置は、この可動シリンダ223がフランジ部284から離間し、フランジ部284が突起壁部221gから離間した位置であり、トラニオン側傾転固定摩擦面284aが固定部本体側傾転固定摩擦面221aから離間し、シリンダ側傾転固定摩擦面223aがトラニオン側傾転固定摩擦面284bから離間し、シリンダ側対向面223bがシリンダボデー側対向面221bからさらに離間した位置である。
【0170】
なお、可動シリンダ223とシリンダボデー86の壁面との間、可動シリンダ223とピストンベース83との間及びピストンベース83とシリンダボデー86の壁面との間には環状のシール部材Sが設けられている。
【0171】
押圧部230は、皿バネ233とトラニオン解放油圧室234とを有する。皿バネ233は、可動シリンダ223の円板部223dの背面側(シリンダ側対向面223bとは反対側)に設けられる。皿バネ233は、円環板状に形成され、内径側縁部が円板部223dの突起部223gに当接する一方、外径側縁部がシリンダボデー86の壁面(第2シリンダ室221fの壁面)に設けられたスナップリング233a当接するように設けられる。そして、皿バネ233は、可動シリンダ223の円板部223dを回転軸線X3に沿ったA2方向に付勢する。すなわち、皿バネ233は、可動シリンダ223をフランジ部284側に付勢することで、シリンダ側傾転固定摩擦面223aをトラニオン側傾転固定摩擦面284b側に付勢可能である。
【0172】
トラニオン解放油圧室234は、第2シリンダ室221f内にて、シリンダボデー86の壁面(シリンダボデー側対向面221bが形成された大径部壁面を含む)、可動シリンダ223の円板部223d(シリンダ側対向面223bが形成された側の壁面)によって区画される。上述のシリンダボデー側対向面221b及びシリンダ側対向面223bは、このトラニオン解放油圧室234に対向している。そして、トラニオン解放油圧室234には、作動油を供給するための作動油供給通路99aがシリンダボデー86の壁面に開口している。したがって、トラニオン解放油圧室234は、内部に作動油が供給されることで、トラニオン解放油圧室234内の作動油の油圧による支持手段解放押圧力としてのトラニオン解放押圧力を可動シリンダ223の円板部223dに作用させ、これにより、可動シリンダ223の円板部223dを回転軸線X3に沿ったA1方向に離間させることができる。すなわち、トラニオン解放油圧室234は、内部に供給される作動油のトラニオン解放押圧力により可動シリンダ223をフランジ部284側から離間することで、シリンダ側傾転固定摩擦面223aをトラニオン側傾転固定摩擦面284bから離間し、シリンダ側対向面223bをシリンダボデー側対向面221bからさらに離間することができる。
【0173】
ここで、トラニオン解放油圧室234内に供給される作動油のトラニオン解放押圧力と皿バネ233による付勢力とは、可動シリンダ223の図9に示す離間位置においてトラニオン解放押圧力が皿バネ233による付勢力より大きくなるように設定されている。したがって、トラニオン解放油圧室234は、内部に作動油が供給されることで、この作動油のトラニオン解放押圧力により、可動シリンダ223を図10に示す接触位置から図9に示す離間位置に移動させることができる。また、トラニオン解放油圧室234は、内部の作動油を排出することで、トラニオン解放油圧室234内の圧力が皿バネ233の付勢力より小さくなり、この皿バネ233の付勢力により可動シリンダ223を図9に示す離間位置から図10に示す接触位置に移動させることができる。そしてさらに、皿バネ233は、この可動シリンダ223を介してフランジ部284を突起壁部221g側に移動させ、可動シリンダ223の接触位置にて、可動シリンダ223をフランジ部284側にさらに付勢することで、この可動シリンダ223を介して、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bとに支持手段規制押圧力としてのトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0174】
なお、本実施例では、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1は、シリンダボデー86の壁面(突起壁部221gを含む)、ピストンベース83の外周面及びフランジ部284のトラニオン側傾転固定摩擦面284aが形成されている面により区画され、したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221aとは、この第1油圧室OP1に対向している。第2油圧室OP2は、シリンダボデー86の壁面、ピストンベース83の外周面、可動シリンダ223のシリンダ側傾転固定摩擦面223aが形成されている端面及びフランジ部284のトラニオン側傾転固定摩擦面284bが形成されている面により区画され、したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面284bとシリンダ側傾転固定摩擦面223aとは、この第2油圧室OP2に対向している。また、第1油圧室OP1に作動油を供給可能な第1通路95、第2油圧室OP2に作動油を供給可能な第2通路96及びトラニオン解放油圧室234に作動油を供給可能な作動油供給通路99aは、シリンダボデー86にそれぞれ設けられている。また、潤滑油としての作動油を各部の摺動部等に供給する潤滑作動油供給通路99bは、シリンダボデー86、可動シリンダ223及びピストンベース83などに設けられている。
【0175】
上記のように構成されるトロイダル式無段変速機201は、エンジンが始動し加圧手段としてのオイルポンプ92が駆動して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値以上になると、排出手段としての作動油排出弁99は、スプール弁子99dがON位置に位置する。作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に供給されピストン81のフランジ部284を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能になる。そして、作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部230のトラニオン解放油圧室234にも供給され、したがって、可動シリンダ223にトラニオン解放押圧力が作用する。すると、トラニオン解放油圧室234内の圧力が皿バネ233の付勢力より大きくなり、可動シリンダ223が離間位置(図9参照)に移動する。
【0176】
そして、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bとは、皿バネ233の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用せず、互いに離間し接触状態が解除され、摩擦係合が解除される。この結果、このトロイダル式無段変速機201は、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が解放されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が解放され、変速比変更部5による変速制御によって、このトラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させ、変速比を変更することができる。
【0177】
一方、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値より低下すると、作動油排出弁99は、スプール弁子99dがOFF位置に位置する。作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)にライン圧の作動油が供給されず、ピストン81のフランジ部284を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になる。そして、作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部230のトラニオン解放油圧室234にも供給されず、したがって、可動シリンダ223にもトラニオン解放押圧力が作用しない。すると、トラニオン解放油圧室234内の圧力が皿バネ233の付勢力より小さくなり、皿バネ233の付勢力により可動シリンダ223が接触位置(図10参照)に移動する。
【0178】
そして、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bとは、皿バネ233の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用し、互いに接触状態となり摩擦係合する。
【0179】
したがって、傾転規制部200は、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221aとが摩擦係合し、シリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bが摩擦係合することで、回転部210をなすフランジ部284が可動シリンダ223とシリンダボデー86の突起壁部221gとにより挟持される。そして、フランジ部284は、可動シリンダ部222をなす可動シリンダ223及び固定部本体221をなすシリンダボデー86に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、可動シリンダ223、シリンダボデー86に対するフランジ部284の相対的な回転変位が規制され、回転部210をなすフランジ部284が可動シリンダ223、シリンダボデー86に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となることで、トラニオン6自体も回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、固定部220に対する回転部210をなすフランジ部284の相対的な回転変位が規制され、トラニオン6自体の回転軸線X3周りの回転が規制される。この結果、このトロイダル式無段変速機201は、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が規制されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が規制され、この結果、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転を規制することができる。
【0180】
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機201によれば、傾転規制部200によって摩擦力によりトラニオン6の動作を規制することで、いずれの変速比においてもトロイダル式無段変速機201の運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0181】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機201によれば、傾転規制部200は、押圧部230により、トラニオン6の回転に伴って回転可能な回転部210に設けられるトラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bと、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部220に設けられる固定部本体側傾転固定摩擦面221a、シリンダ側傾転固定摩擦面223aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共に、トラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bと固定部本体側傾転固定摩擦面221a、シリンダ側傾転固定摩擦面223aとの間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によりトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0182】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機201によれば、回転部210を固定部本体側傾転固定摩擦面221a、シリンダ側傾転固定摩擦面223aによりトラニオン側傾転固定摩擦面284a、284bを介して回転軸線X3に沿った方向の両側から挟持することで、固定部本体側傾転固定摩擦面221aとトラニオン側傾転固定摩擦面284aとの摩擦力及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bとの摩擦力により確実にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0183】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機201によれば、固定部220は、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部本体221と、シリンダ側傾転固定摩擦面223aが設けられトラニオン側傾転固定摩擦面284bとシリンダ側傾転固定摩擦面223aとが接触した接触位置と、トラニオン側傾転固定摩擦面284bとシリンダ側傾転固定摩擦面223aとが離間した離間位置とに移動自在な可動シリンダ部222とを有し、押圧部230は、可動シリンダ部222を接触位置と離間位置とに移動可能であると共に、接触位置にてトラニオン側傾転固定摩擦面284bとシリンダ側傾転固定摩擦面223aとにトラニオン規制押圧力を付加することで、可動シリンダ部222と固定部本体221とにより回転部210の回転を規制可能である。したがって、押圧部230により可動シリンダ部222の可動シリンダ223を離間位置に移動させることで、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を解放すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を解放することができる。そして、押圧部230により可動シリンダ部222の可動シリンダ223を接触位置に移動させることで、トラニオン側傾転固定摩擦面284aと固定部本体側傾転固定摩擦面221a及びシリンダ側傾転固定摩擦面223aとトラニオン側傾転固定摩擦面284bとの摩擦力により、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【実施例3】
【0184】
図11は、本発明の実施例3に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図、図12は、本発明の実施例3に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。実施例3に係る無段変速機は、実施例1に係る無段変速機と略同様の構成であるが、可動手段が1つの可動部材により構成されている点が実施例1に係る無段変速機とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、主要部分の構成については図1、図2を参照する。
【0185】
具体的には、実施例3に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機301は、図11、図12に示すように、規制手段としての傾転規制部300を備え、規制制御手段としての油圧制御装置9によりこの傾転規制部300をトロイダル式無段変速機301の運転状態に応じて制御する。
【0186】
傾転規制部300は、回転手段としての回転部310と、固定手段としての固定部320と、押圧手段としての押圧部330とを有する。回転部310は、本実施例ではピストン81のフランジ部384により構成され、支持手段側摩擦部としてのトラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bと、ストッパ部としてのストロークストッパ面384c、384dと、フランジ部本体384eとを有する。
【0187】
固定部320は、固定手段本体としての固定部本体321と、可動手段としての可動シリンダ部322とを有する。固定部本体321は、上述の油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87により構成され、シリンダボデー86は、固定側摩擦部としての固定部本体側傾転固定摩擦面321aと、当接部としてのストロークストッパ当接面321cとを有し、ロアカバー87は、ロアカバー側対向面321bと、当接部としてのストロークストッパ当接面321dを有する。可動シリンダ部322は、可動部材としての可動シリンダ323によって構成される。そして、可動シリンダ323は、固定側摩擦部としてのシリンダ側傾転固定摩擦面323aとシリンダ側対向面323bを有する。押圧部330は、付勢手段としての皿バネ333と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室334とを有する。
【0188】
回転部310をなすフランジ部384は、トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384b及びストロークストッパ面384c、384dがフランジ部本体384eの回転軸線X3に沿った方向の両側、すなわち、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と対向する面及び第2油圧室OP2と対向する面にそれぞれ設けられる。フランジ部本体384eは、第1油圧室OP1と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面384aとストロークストッパ面384cとが設けられ、第2油圧室OP2と対向する面にトラニオン側傾転固定摩擦面384bとストロークストッパ面384dとが設けられる。
【0189】
トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384b及びストロークストッパ面384c、384dは、フランジ部本体384eから回転軸線X3に沿った方向に突出するように形成されている。トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384b及びストロークストッパ面384c、384dは、それぞれ回転軸線X3上に中心を有する同心円で環状に形成される。ストロークストッパ面384c、384dは、フランジ部384のフランジ部本体384eの先端部に設けられる一方、トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bは、フランジ部本体384eの基端部側に設けられる。したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bは、フランジ部384のフランジ部本体384eにおいてストロークストッパ面384c、384dより径方向内側に設けられる。
【0190】
ここで、ストロークストッパ面384c、384dは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能なストロークストッパ当接面321c、321dと共に軸線方向移動制限手段としてのストローク制限部340をなす。ストロークストッパ当接面321c、321dは、変速制御油圧室82の壁面、すなわち、シリンダボデー86及びロアカバー87の変速制御油圧室82を区画する面に設けられる。ストロークストッパ当接面321cは、シリンダボデー86の第1油圧室OP1と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面321cは、上述のストロークストッパ面384cと回転軸線X3方向に対向するように形成される。一方、ストロークストッパ当接面321dは、ロアカバー87の第2油圧室OP2と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面321dは、上述のストロークストッパ面384dと回転軸線X3方向に対向するように形成される。このストロークストッパ面384c、384d、ストロークストッパ当接面321c、321dは、摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面384a、384b、固定部本体側傾転固定摩擦面321a、シリンダ側傾転固定摩擦面323aの摩擦係数より低く設定される。
【0191】
固定部320は、油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87からなる固定部本体321と、可動シリンダ323からなる可動シリンダ部322により構成される。
【0192】
シリンダボデー86は、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1側に突起壁部321gが形成されている。突起壁部321gは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に軸挿入部321iが設けられる。この軸挿入部321iは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、シリンダボデー86は、軸挿入部321iにピストンベース83が挿入されるように配置される。
【0193】
シリンダボデー86は、突起壁部321gにおいて変速制御油圧室82と対向する面に固定部本体側傾転固定摩擦面321a、ストロークストッパ当接面321cが形成される。固定部本体側傾転固定摩擦面321aは、軸挿入部321iにピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にトラニオン側傾転固定摩擦面384aと対向する位置に設けられ、ストロークストッパ当接面321cは、ストロークストッパ面384cと対向する位置に設けられる。
【0194】
ロアカバー87は、可動シリンダ323を回転軸線X3に沿った方向に移動可能に収容する空間部としてシリンダ室321fが形成される。シリンダ室321fは、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。シリンダ室321fは、変速制御油圧室82の第2油圧室OP2側に設けられる。このシリンダ室321fは、外径が変速制御油圧室82の外径より小さく設定されている。また、ロアカバー87は、回転軸線X3に沿った方向のシリンダ室321fと第2油圧室OP2側との間に突起壁部321hが形成されている。突起壁部321hは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に連通部321jが設けられた環状に形成される。そして、この連通部321jは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、シリンダ室321fと第2油圧室OP2とを回転軸線X3に沿った方向に連通する。突起壁部321hは、シリンダ室321fと対向する面にロアカバー側対向面321bが形成される。
【0195】
したがって、固定部本体側傾転固定摩擦面321a、ロアカバー側対向面321bは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能であると共に、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能である。この固定部本体側傾転固定摩擦面321aは、上述の回転部310をなすフランジ部384のトラニオン側傾転固定摩擦面384aと対向して接触可能に設けられる一方、ロアカバー側対向面321bは、次に説明する可動シリンダ323のシリンダ側対向面323bと対向するように設けられる。
【0196】
可動シリンダ部322をなす可動シリンダ323は、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、可動シリンダ323は、円筒部323cと円板部323dとを有する。円筒部323cは、回転軸線X3を中心とした円筒状に形成される。円板部323dは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成される。円筒部323cは、基端部が円板部323dに固定され先端部がこの円板部323dから回転軸線X3に沿った方向(本図中ではA2方向)に突出するように形成される。
【0197】
円板部323dは、外径が円筒部323cの外径より大きく設定されている。可動シリンダ323は、円筒部223cの内周面が軸挿入部323fとして形成され、外周面側が円板部323dによって円環段状に形成される。
【0198】
そして、可動シリンダ323は、円筒部323cの先端部にシリンダ側傾転固定摩擦面323aが形成される。また、可動シリンダ323は、円板部323dの円環段状部分にシリンダ側対向面323bが形成される。
【0199】
そして、可動シリンダ323は、円筒部323cが連通部321jに挿入され円板部323dがシリンダ室321f内に収容されると共に軸挿入部323fにピストンベース83が挿入されるように配置される。上述の突起壁部321hは、回転軸線X3に沿った方向に対して、この可動シリンダ323の円板部323dとフランジ部384との間に設けられる。
【0200】
また、シリンダ側傾転固定摩擦面323aは、軸挿入部323fにピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にトラニオン側傾転固定摩擦面384bと対向する位置に設けられ、シリンダ側対向面323bは、ロアカバー側対向面321bと対向する位置に設けられる。言い換えれば、可動シリンダ323は、円筒部323cにおいてトラニオン側傾転固定摩擦面384bと対向する端面がシリンダ側傾転固定摩擦面323aとして形成され、円板部323dにおいてロアカバー側対向面321bと対向する面がシリンダ側対向面323bとして形成される。
【0201】
また、可動シリンダ323は、図12に示す接触位置と図11に示す離間位置とに移動自在に設けられる。図12に示すように、可動シリンダ323の接触位置は、この可動シリンダ323によりフランジ部384を突起壁部321g側に移動させ、トラニオン側傾転固定摩擦面384aが固定部本体側傾転固定摩擦面321aに接触し、シリンダ側傾転固定摩擦面323aがトラニオン側傾転固定摩擦面384bに接触し、さらに、シリンダ側対向面323bがロアカバー側対向面321bに隙間をあけて対向する位置である。一方、図11に示すように、可動シリンダ323の離間位置は、この可動シリンダ323がフランジ部384から離間し、フランジ部384が突起壁部321gから離間した位置であり、トラニオン側傾転固定摩擦面384aが固定部本体側傾転固定摩擦面321aから離間し、シリンダ側傾転固定摩擦面323aがトラニオン側傾転固定摩擦面384bから離間し、シリンダ側対向面323bがロアカバー側対向面321bからさらに離間した位置である。
【0202】
なお、可動シリンダ323とロアカバー87の壁面との間、可動シリンダ323とピストンベース83との間及びシリンダボデー86の壁面とピストンベース83との間には環状のシール部材Sが設けられている。
【0203】
押圧部330は、皿バネ333とトラニオン解放油圧室334とを有する。皿バネ333は、可動シリンダ323の円板部323dの背面側(シリンダ側対向面323bとは反対側)に設けられる。皿バネ333は、円環板状に形成され、内径側縁部が円板部323dの突起部323gに当接する一方、外径側縁部がロアカバー87の壁面(シリンダ室321fの壁面)に設けられたスナップリング333aに当接するように設けられる。そして、皿バネ333は、可動シリンダ323の円板部323dを回転軸線X3に沿ったA2方向に付勢する。すなわち、皿バネ333は、可動シリンダ323をフランジ部384側に付勢することで、シリンダ側傾転固定摩擦面323aをトラニオン側傾転固定摩擦面384b側に付勢可能である。
【0204】
トラニオン解放油圧室334は、シリンダ室321f内にて、ロアカバー87の壁面(ロアカバー側対向面321bが形成された突起壁部321hを含む)、可動シリンダ323の円筒部323c外周面及び円板部323d(シリンダ側対向面323bが形成された側の壁面)によって区画される。上述のロアカバー側対向面321b及びシリンダ側対向面323bは、このトラニオン解放油圧室334に対向している。そして、トラニオン解放油圧室334には、作動油を供給するための作動油供給通路99aがロアカバー87の壁面に開口している。したがって、トラニオン解放油圧室334は、内部に作動油が供給されることで、トラニオン解放油圧室334内の作動油の油圧による支持手段解放押圧力としてのトラニオン解放押圧力を可動シリンダ323の円板部323dに作用させ、これにより、可動シリンダ323の円板部323dを回転軸線X3に沿ったA1方向に離間させることができる。すなわち、トラニオン解放油圧室334は、内部に供給される作動油のトラニオン解放押圧力により可動シリンダ323をフランジ部384側から離間することで、シリンダ側傾転固定摩擦面323aをトラニオン側傾転固定摩擦面384bから離間し、シリンダ側対向面323bをロアカバー側対向面321bからさらに離間することができる。
【0205】
ここで、トラニオン解放油圧室334内に供給される作動油のトラニオン解放押圧力と皿バネ333による付勢力とは、可動シリンダ323の図11に示す離間位置においてトラニオン解放押圧力が皿バネ333による付勢力より大きくなるように設定されている。したがって、トラニオン解放油圧室334は、内部に作動油が供給されることで、この作動油のトラニオン解放押圧力により、可動シリンダ323を図12に示す接触位置から図11に示す離間位置に移動させることができる。また、トラニオン解放油圧室334は、内部の作動油を排出することで、トラニオン解放油圧室334内の圧力が皿バネ333の付勢力より小さくなり、この皿バネ333の付勢力により可動シリンダ323を図11に示す離間位置から図12に示す接触位置に移動させることができる。そしてさらに、皿バネ333は、この可動シリンダ323を介してフランジ部384を突起壁部321g側に移動させ、可動シリンダ323の接触位置にて、可動シリンダ323をフランジ部384側にさらに付勢することで、この可動シリンダ323を介して、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321a及びシリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bとに支持手段規制押圧力としてのトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0206】
なお、本実施例では、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1は、シリンダボデー86の壁面(突起壁部321gを含む)、ピストンベース83の外周面及びフランジ部384のトラニオン側傾転固定摩擦面384aが形成されている面により区画され、したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321aとは、この第1油圧室OP1に対向している。第2油圧室OP2は、シリンダボデー86の壁面、ロアカバー87の突起壁部321h、ピストンベース83の外周面、可動シリンダ323のシリンダ側傾転固定摩擦面323aが形成されている端面及びフランジ部384のトラニオン側傾転固定摩擦面384bが形成されている面により区画され、したがって、トラニオン側傾転固定摩擦面384bとシリンダ側傾転固定摩擦面323aとは、この第2油圧室OP2に対向している。また、第1油圧室OP1に作動油を供給可能な第1通路95は、シリンダボデー86に設けられ、第2油圧室OP2に作動油を供給可能な第2通路96及びトラニオン解放油圧室334に作動油を供給可能な作動油供給通路99aは、ロアカバー87にそれぞれ設けられている。また、潤滑油としての作動油を各部の摺動部等に供給する潤滑作動油供給通路99bは、シリンダボデー86及びピストンベース83などに設けられている。
【0207】
上記のように構成されるトロイダル式無段変速機301は、エンジンが始動し加圧手段としてのオイルポンプ92が駆動して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値以上になると、排出手段としての作動油排出弁99は、スプール弁子99dがON位置に位置する。作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に供給されピストン81のフランジ部384を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能になる。そして、作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部330のトラニオン解放油圧室334にも供給され、したがって、可動シリンダ323にトラニオン解放押圧力が作用する。すると、トラニオン解放油圧室334内の圧力が皿バネ333の付勢力より大きくなり、可動シリンダ323が離間位置(図11参照)に移動する。
【0208】
そして、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321a及びシリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bとは、皿バネ333の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用せず、互いに離間し接触状態が解除され、摩擦係合が解除される。この結果、このトロイダル式無段変速機301は、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が解放されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が解放され、変速比変更部5による変速制御によって、このトラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させ、変速比を変更することができる。
【0209】
一方、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値より低下すると、作動油排出弁99は、スプール弁子99dがOFF位置に位置する。作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)にライン圧の作動油が供給されず、ピストン81のフランジ部384を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になる。そして、作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部330のトラニオン解放油圧室334にも供給されず、したがって、可動シリンダ323にもトラニオン解放押圧力が作用しない。すると、トラニオン解放油圧室334内の圧力が皿バネ333の付勢力より小さくなり、皿バネ333の付勢力により可動シリンダ323が接触位置(図12参照)に移動する。
【0210】
そして、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321a及びシリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bとは、皿バネ333の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用し、互いに接触状態となり摩擦係合する。
【0211】
したがって、傾転規制部300は、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321aとが摩擦係合し、シリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bが摩擦係合することで、回転部310をなすフランジ部384が可動シリンダ323とシリンダボデー86の突起壁部321gとにより挟持される。そして、フランジ部384は、可動シリンダ部322をなす可動シリンダ323及び固定部本体321をなすシリンダボデー86、ロアカバー87に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、可動シリンダ323、固定部本体321をなすシリンダボデー86、ロアカバー87に対するフランジ部384の相対的な回転変位が規制され、回転部310をなすフランジ部384が可動シリンダ323、シリンダボデー86、ロアカバー87に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となることで、トラニオン6自体も回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、固定部320に対する回転部310をなすフランジ部384の相対的な回転変位が規制され、トラニオン6自体の回転軸線X3周りの回転が規制される。この結果、このトロイダル式無段変速機301は、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が規制されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が規制され、この結果、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転を規制することができる。
【0212】
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、傾転規制部300によって摩擦力によりトラニオン6の動作を規制することで、いずれの変速比においてもトロイダル式無段変速機301の運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0213】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、傾転規制部300は、押圧部330により、トラニオン6の回転に伴って回転可能な回転部310に設けられるトラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bと、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部320に設けられる固定部本体側傾転固定摩擦面321a、シリンダ側傾転固定摩擦面323aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共に、トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bと固定部本体側傾転固定摩擦面321a、シリンダ側傾転固定摩擦面323aとの間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によりトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0214】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、回転部310を固定部本体側傾転固定摩擦面321a、シリンダ側傾転固定摩擦面323aによりトラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bを介して回転軸線X3に沿った方向の両側から挟持することで、固定部本体側傾転固定摩擦面321aとトラニオン側傾転固定摩擦面384aとの摩擦力及びシリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bとの摩擦力により確実にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0215】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、ストロークストッパ面384c、384d、ストロークストッパ当接面321c、321dの摩擦係数がトラニオン側傾転固定摩擦面384a、384b、シリンダ側傾転固定摩擦面323a、固定部本体側傾転固定摩擦面321aの摩擦係数より低く設定されていることから、ストローク制限部340における摩擦力が相対的に小さくなるので、トラニオン6の回転、パワーローラ4の傾転がストローク制限部340の摩擦力により阻害されることを防止することができ、トラニオン6の回転、パワーローラ4の傾転を滑らかに行うことができる。
【0216】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、トラニオン側傾転固定摩擦面384a、384bが回転部310においてストロークストッパ面384c、384dより径方向内側に位置していることから、固定部320のシリンダ側傾転固定摩擦面323a、固定部本体側傾転固定摩擦面321aもストロークストッパ面384c、384dより径方向内側に設けることができることから、シリンダ側傾転固定摩擦面323a、固定部本体側傾転固定摩擦面321aの径を小さく設定することができる。このため、固定部320においてシリンダ側傾転固定摩擦面323aが設けられる部材である可動シリンダ323の径を小さく設定することができ、例えば、可動シリンダ323をフランジ部384の径の範囲内におさめることができ、よって、傾転規制部300を小型化することができる。
【0217】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機301によれば、固定部320は、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部本体321と、シリンダ側傾転固定摩擦面323aが設けられトラニオン側傾転固定摩擦面384bとシリンダ側傾転固定摩擦面323aとが接触した接触位置と、トラニオン側傾転固定摩擦面384bとシリンダ側傾転固定摩擦面323aとが離間した離間位置とに移動自在な可動シリンダ部322とを有し、押圧部330は、可動シリンダ部322を接触位置と離間位置とに移動可能であると共に、接触位置にてトラニオン側傾転固定摩擦面384bとシリンダ側傾転固定摩擦面323aとにトラニオン規制押圧力を付加することで、可動シリンダ部322と固定部本体321とにより回転部310の回転を規制可能である。したがって、押圧部330により可動シリンダ部322の可動シリンダ323を離間位置に移動させることで、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を解放すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を解放することができる。そして、押圧部330により可動シリンダ部322の可動シリンダ323を接触位置に移動させることで、トラニオン側傾転固定摩擦面384aと固定部本体側傾転固定摩擦面321a及びシリンダ側傾転固定摩擦面323aとトラニオン側傾転固定摩擦面384bとの摩擦力により、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【実施例4】
【0218】
図13は、本発明の実施例4に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図、図14は、本発明の実施例4に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。実施例4に係る無段変速機は、実施例1に係る無段変速機と略同様の構成であるが、回転手段がピストンのフランジ部とは別の部材により構成されている点が実施例1に係る無段変速機とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、主要部分の構成については図1、図2を参照する。
【0219】
具体的には、実施例4に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機401は、図13、図14に示すように、規制手段としての傾転規制部400を備え、規制制御手段としての油圧制御装置9によりこの傾転規制部400をトロイダル式無段変速機401の運転状態に応じて制御する。
【0220】
傾転規制部400は、回転手段としての回転部410と、固定手段としての固定部420と、押圧手段としての押圧部430とを有する。回転部410は、本実施例ではピストン81のフランジ部484とは別体のハブ410aにより構成され、支持手段側摩擦部としての複数(ここでは2つ)のフリクションプレート410bを有する。
【0221】
固定部420は、固定部本体421と、可動部422とを有する。固定部本体421は、上述の油圧室構成部材85であるシリンダボデー86及びロアカバー87により構成され、シリンダボデー86は、当接部としてのストロークストッパ当接面421cを有し、ロアカバー87は、当接部としてのストロークストッパ当接面421dを有する。可動部422は、固定側摩擦部としての複数(ここでは3つ)のセパレータプレート422aを有する。押圧部430は、付勢手段としての圧縮バネ433と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室434と、押圧シリンダ437とを有する。そして、回転部410のフリクションプレート410bと固定部420のセパレータプレート422aとは、摩擦係合手段としての摩擦ブレーキ450を構成する。
【0222】
ここで、ピストン81のフランジ部484は、ストッパ部としてのストロークストッパ面484c、484dがフランジ部本体484eの回転軸線X3に沿った方向の両側、すなわち、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と対向する面及び第2油圧室OP2と対向する面にそれぞれ設けられる。フランジ部本体484eは、第1油圧室OP1と対向する面にストロークストッパ面484cが設けられ、第2油圧室OP2と対向する面にストロークストッパ面484dが設けられる。ストロークストッパ面484c、484dは、フランジ部484のフランジ部本体484eの先端部、すなわち、径方向外側縁部に設けられる。ストロークストッパ面484c、484dは、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動に伴って移動不能なストロークストッパ当接面421c、421dと共に軸線方向移動制限手段としてのストローク制限部440をなす。ストロークストッパ当接面421cは、シリンダボデー86の第1油圧室OP1と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面421cは、上述のストロークストッパ面484cと回転軸線X3方向に対向するように形成される。一方、ストロークストッパ当接面421dは、ロアカバー87の第2油圧室OP2と対向する面に形成される。また、ストロークストッパ当接面421dは、上述のストロークストッパ面484dと回転軸線X3方向に対向するように形成される。このストロークストッパ面484c、484d、ストロークストッパ当接面421c、421dは、摩擦係数がフリクションプレート410b、セパレータプレート422aの表面の摩擦係数より低く設定される。
【0223】
回転部410のハブ410aは、ピストンベース83の図中下側(パワーローラ4が配置される側とは反対側)において、トラニオン6の揺動軸6bに対して回転軸線X3周りの回転方向に相対的に変位しないように固定されている。すなわち、揺動軸6bは、外周面において、回転軸線X3に沿った方向に複数のスプライン溝410eが形成される。ハブ410aは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され、肉厚の内周面に複数のスプライン爪410dが設けられている。そして、ハブ410aは、スプライン爪410dがスプライン溝410eにスプライン嵌合されることで、この揺動軸6bに対して回転軸線X3に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転可能に設けられる。ただし、ここでは、ハブ410aのスプライン爪410dに接するようにピストンベース83が設けられていることから、ハブ410aは、回転軸線X3に沿った方向に対してもトラニオン6と相対的に変位しないように固定されている。
【0224】
また、ハブ410aは、肉厚の外周面において、回転軸線X3に沿った方向に複数のスプライン溝410cが形成される。一方、フリクションプレート410bは、円環状のプレート材として形成される。そして、各フリクションプレート410bは、内周部に設けられるスプライン爪がスプライン溝410cにスプライン嵌合されることで、このハブ410aに対して回転軸線X3に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能に設けられる。つまり、各フリクションプレート410bは、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転可能に設けられる。なお、2枚のフリクションプレート410bは、後述する3枚のセパレータプレート422aの間に交互に設けられている。
【0225】
固定部420のシリンダボデー86は、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1側に突起壁部421gが形成されている。突起壁部421gは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に軸挿入部421iが設けられる。この軸挿入部421iは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成され、シリンダボデー86は、軸挿入部421iにピストンベース83が挿入されるように配置される。シリンダボデー86は、突起壁部421gにおいて変速制御油圧室82と対向する面に上述のストロークストッパ当接面421cが形成される。ストロークストッパ当接面421cは、軸挿入部421iにピストンベース83が挿入された状態で回転軸線X3に沿った方向にストロークストッパ面484cと対向する位置に設けられる。
【0226】
ロアカバー87は、回転部410や押圧部430を収容する空間としてシリンダ室421fが形成される。シリンダ室421fは、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。シリンダ室421fは、変速制御油圧室82の第2油圧室OP2側に設けられる。また、ロアカバー87は、回転軸線X3に沿った方向のシリンダ室421fと第2油圧室OP2側との間に突起壁部421hが形成されている。突起壁部421hは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成され径方向中心部に軸挿入部421jが設けられた環状に形成される。そして、この軸挿入部421jは、回転軸線X3上の点を中心とした円形状の開口部として形成される。ロアカバー87は、軸挿入部421jにピストンベース83が挿入されるように配置される。
【0227】
また、ロアカバー87は、シリンダ室421fの壁面に突起壁部421kが形成されている。突起壁部421kは、回転軸線X3を中心とした円環板状に形成される。そして、シリンダ室421fは、回転軸線X3に沿った方向に対してこの突起壁部421kと突起壁部421hとの間に押圧部430が設けられる一方、突起壁部421kに対して突起壁部421hとは反対側に可動部422が設けられる。
【0228】
可動部422は、3つのセパレータプレート422aを有する。ここで、シリンダ室421fは、壁面において、突起壁部421kから下側(突起壁部421hとは反対側)に回転軸線X3に沿った方向に複数のスプライン溝423aが形成される。一方、セパレータプレート422aは、円環状のプレート材として形成される。そして、各セパレータプレート422aは、外周部に設けられるスプライン爪がスプライン溝423aにスプライン嵌合されることで、シリンダ室421fの内壁面に対して、言い換えれば、ロアカバー87に対して回転軸線X3に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能に設けられる。つまり、各セパレータプレート422aは、トラニオン6の回転軸線X3周りの回転に伴って回転不能に設けられる。
【0229】
この3枚のセパレータプレート422aと2枚のフリクションプレート410bとは、上述したように回転軸線X3に沿った方向に交互に設けられている。そして、この3枚のセパレータプレート422aと2枚のフリクションプレート410bの回転軸線X3に沿った方向の移動は、A2方向への移動が突起壁部421kにより制限される一方、A1方向への移動がロアカバー87に対して固定的に設けられるスナップリング423bにより制限される。言い換えれば、セパレータプレート422a、フリクションプレート410bは、回転軸線X3に沿った方向に対して突起壁部421kとスナップリング423bとの間で移動自在に設けられ、摩擦ブレーキ450を構成する。
【0230】
押圧部430は、付勢手段としての圧縮バネ433と、離間手段としてのトラニオン解放油圧室434と、押圧シリンダ437とを有する。押圧シリンダ437は、回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、押圧シリンダ437は、相対的に径が小さい小径部437aと、この小径部437aより径が大きく設定される大径部437bとを有する。小径部437aと大径部437bとは、共に円筒状に形成される。そして、押圧シリンダ437は、小径部437aと大径部437bとが円環板状の連結部437cを介して連結されている。
【0231】
押圧シリンダ437は、大径部437bが突起壁部421h側に位置し、小径部437aが突起壁部421k側に位置するようにシリンダ室421fに配置される。押圧シリンダ437は、回転軸線X3に沿った方向に移動自在に設けられ、連結部437cが突起壁部421kと接触可能なように設けられる。
【0232】
また、押圧シリンダ437は、図14に示す接触位置と図13に示す離間位置とに移動自在に設けられる。図14に示すように、押圧シリンダ437の接触位置は、この押圧シリンダ437が突起壁部421k側に移動して小径部437aの端部がセパレータプレート422aに接触し、セパレータプレート422a、フリクションプレート410bをスナップリング423b側に移動させる位置である。そして、押圧シリンダ437の接触位置は、セパレータプレート422a、フリクションプレート410bが互いに接触し、後述する圧縮バネ433によってトラニオン規制押圧力を付加可能な位置である。一方、図13に示すように、押圧シリンダ437の離間位置は、押圧シリンダ437が突起壁部421h側に移動して小径部437aの端部がセパレータプレート422aから離間した位置である。そして、押圧シリンダ437の離間位置は、後述する圧縮バネ433によってセパレータプレート422a、フリクションプレート410bにトラニオン規制押圧力を付加不能な位置である。
【0233】
なお、押圧シリンダ437とロアカバー87の壁面(突起壁部421kを含む)との間、ピストンベース83とシリンダボデー86、ロアカバー87の壁面との間には環状のシール部材Sが設けられている。
【0234】
圧縮バネ433は、押圧シリンダ437と突起壁部421hとの間に設けられる。圧縮バネ433は、一端が押圧シリンダ437の連結部437cと当接し、他端が突起壁部421hと当接するように設けられる。そして、圧縮バネ433は、押圧シリンダ437を回転軸線X3に沿ったA1方向に付勢する。すなわち、圧縮バネ433は、押圧シリンダ437を回転部410側に付勢可能である。圧縮バネ433は、押圧シリンダ437の接触位置にて、セパレータプレート422a、フリクションプレート410bにトラニオン規制押圧力を付加可能である。
【0235】
トラニオン解放油圧室434は、シリンダ室421f内にて、ロアカバー87の壁面(突起壁部421kを含む)と、押圧シリンダ437の外周面によって区画される。そして、トラニオン解放油圧室434には、作動油を供給するための作動油供給通路99aがロアカバー87の壁面に開口している。また、押圧シリンダ437の大径部437bの外周面とロアカバー87の壁面との間、押圧シリンダ437の小径部437aの外周面と突起壁部421kの端面との間には、環状のシール部材Sが設けられており、したがって、トラニオン解放油圧室434に供給される作動油は、このシール部材Sにより外部に漏れないようにシールされている。
【0236】
したがって、トラニオン解放油圧室434は、内部に作動油が供給されることで、トラニオン解放油圧室434内の作動油の油圧による支持手段解放押圧力としてのトラニオン解放押圧力を押圧シリンダ437の連結部437cに作用させ、これにより、押圧シリンダ437を回転軸線X3に沿ったA2方向に離間させることができる。すなわち、トラニオン解放油圧室434は、内部に供給される作動油のトラニオン解放押圧力により押圧シリンダ437を回転部410側から離間することで、圧縮バネ433によってセパレータプレート422a、フリクションプレート410bにトラニオン規制押圧力を作用不能にすることができる。
【0237】
ここで、トラニオン解放油圧室434内に供給される作動油のトラニオン解放押圧力と圧縮バネ433による付勢力とは、押圧シリンダ437の図13に示す離間位置においてトラニオン解放押圧力が圧縮バネ433による付勢力より大きくなるように設定されている。したがって、トラニオン解放油圧室434は、内部に作動油が供給されることで、この作動油のトラニオン解放押圧力により、押圧シリンダ437を図14に示す接触位置から図13に示す離間位置に移動させることができる。また、トラニオン解放油圧室434は、内部の作動油を排出することで、トラニオン解放油圧室434内の圧力が圧縮バネ433の付勢力より小さくなり、この圧縮バネ433の付勢力により押圧シリンダ437を図13に示す離間位置から図14に示す接触位置に移動させることができる。そしてさらに、圧縮バネ433は、この押圧シリンダ437を介してセパレータプレート422a、フリクションプレート410bにトラニオン規制押圧力を付加することができる。
【0238】
なお、本実施例では、変速制御油圧室82の第1油圧室OP1は、シリンダボデー86の壁面(突起壁部421gを含む)、ピストンベース83の外周面及びフランジ部484のストロークストッパ面484cが形成されている面により区画される。第2油圧室OP2は、シリンダボデー86の壁面、ロアカバー87の突起壁部421h、ピストンベース83の外周面及びフランジ部484のストロークストッパ面484dが形成されている面により区画される。また、第1油圧室OP1に作動油を供給可能な第1通路95、第2油圧室OP2に作動油を供給可能な第2通路96は、シリンダボデー86に設けられ、トラニオン解放油圧室434に作動油を供給可能な作動油供給通路99aは、ロアカバー87にそれぞれ設けられている。また、潤滑油としての作動油を各部の摺動部等に供給する潤滑作動油供給通路99bは、ロアカバー87及びピストンベース83などに設けられている。
【0239】
上記のように構成されるトロイダル式無段変速機401は、エンジンが始動し加圧手段としてのオイルポンプ92が駆動して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値以上になると、排出手段としての作動油排出弁99は、スプール弁子99dがON位置に位置する。作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)に供給されピストン81のフランジ部484を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用可能になる。そして、作動油排出弁99がON状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部430のトラニオン解放油圧室434にも供給され、したがって、押圧シリンダ437にトラニオン解放押圧力が作用する。すると、トラニオン解放油圧室434内の圧力が圧縮バネ433の付勢力より大きくなり、押圧シリンダ437が離間位置(図13参照)に移動する。
【0240】
そして、摩擦ブレーキ450のフリクションプレート410bとセパレータプレート422aとは、圧縮バネ433の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用せず、摩擦係合が解除される。この結果、このトロイダル式無段変速機401は、トラニオン6の動作が解放され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が解放されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が解放され、変速比変更部5による変速制御によって、このトラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させ、変速比を変更することができる。
【0241】
一方、エンジンが停止しオイルポンプ92が停止して、作動油のライン圧(トラニオン解放圧)が予め設定される所定値より低下すると、作動油排出弁99は、スプール弁子99dがOFF位置に位置する。作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、変速比変更部5の変速制御油圧室82(第1油圧室OP1、第2油圧室OP2)にライン圧の作動油が供給されず、ピストン81のフランジ部484を介してトラニオン6に変速制御押圧力が作用不能になる。そして、作動油排出弁99がOFF状態となると、ライン圧の作動油は、押圧部430のトラニオン解放油圧室434にも供給されず、したがって、押圧シリンダ437にもトラニオン解放押圧力が作用しない。すると、トラニオン解放油圧室434内の圧力が圧縮バネ433の付勢力より小さくなり、圧縮バネ433の付勢力により押圧シリンダ437が接触位置(図14参照)に移動する。
【0242】
そして、セパレータプレート422aとフリクションプレート410bとは、圧縮バネ433の付勢力によるトラニオン規制押圧力が作用し、互いに接触状態となり摩擦係合する。したがって、回転部410をなすハブ410aは、セパレータプレート422aとフリクションプレート410bとが摩擦係合することで、固定部本体421をなすロアカバー87に対して相対的に回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、ロアカバー87に対するハブ410aの相対的な回転変位が規制され、トラニオン6自体も回転軸線X3周りに回転不能となる。すなわち、固定部420に対する回転部410をなすハブ410aの相対的な回転変位が規制され、トラニオン6自体の回転軸線X3周りの回転が規制される。この結果、このトロイダル式無段変速機401は、トラニオン6の動作が規制され、よって、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動が規制されると共にトラニオン6の回転軸線X3周りの回転が規制され、この結果、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転を規制することができる。
【0243】
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機401によれば、傾転規制部400によって摩擦力によりトラニオン6の動作を規制することで、いずれの変速比においてもトロイダル式無段変速機401の運転状態に応じてパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0244】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機401によれば、傾転規制部400は、トラニオン6の回転に伴って回転可能なフリクションプレート410bが設けられる回転部410と、フリクションプレート410bとが接触可能に設けられこのフリクションプレート410bと接触した状態でトラニオン6の回転に伴って回転不能なセパレータプレート422aが設けられる固定部420と、運転状態に応じてフリクションプレート410bとセパレータプレート422aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加可能な押圧部430とを有する。したがって、傾転規制部400は、押圧部430により、トラニオン6の回転に伴って回転可能な回転部410に設けられるフリクションプレート410bと、トラニオン6の回転に伴って回転不能な固定部420に設けられるセパレータプレート422aとを接触させトラニオン規制押圧力を付加することで、トラニオン6の回転軸線X3に沿った方向への移動を規制すると共に、フリクションプレート410bとセパレータプレート422aとの間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によりトラニオン6の回転軸線X3周りの回転を規制することができる。
【0245】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機401によれば、フリクションプレート410b及びセパレータプレート422aは、揺動軸6b周りに環状に設けられる。したがって、揺動軸6b周りのどの位置でもフリクションプレート410bとセパレータプレート422aとが対向していることから、いずれの変速比においても確実にパワーローラ4の傾転を規制することができる。
【0246】
なお、上述した本発明の実施例に係る無段変速機は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、規制手段は、支持手段と共に回転する回転手段の回転を摩擦力によって規制することで、支持手段の回転を規制するものとして説明したが、支持手段自体、例えば、揺動軸を直接的に摩擦力により規制してもよい。この場合、揺動軸の外周面が支持手段側摩擦部となる。
【0247】
以上の説明では、支持手段側摩擦部及び固定側摩擦部は、揺動軸周りに環状に設けられ両摩擦部が円環状に形成されるものとして説明したが、これに限らず、いずれか一方であってもよい。また、円環状の支持手段側摩擦部、固定側摩擦部に間隔の狭いスリットが入っていてもよい。
【0248】
また、以上の説明では、軸線方向移動制限手段のストッパ部は、ピストンのフランジ部に設けられ、当接部は変速制御油圧室の壁面に設けられるものとして説明したが、これに限らず、ストッパ部は、支持手段の回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動可能な部材に設けられていればよく、当接部は支持手段の回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動不能な部材に設けられていればよい。
【0249】
また、以上の説明では、支持手段解放押圧力は、離間手段(トラニオン解放油圧室)にトラニオン解放圧としてのライン圧の作動油を供給することでライン圧に応じた押圧力とするものとして説明したが、離間手段に供給される作動油の油圧として、例えば、調圧弁を設けてライン圧とは異なるトラニオン解放圧を設定するようにしてもよい。
【0250】
また、以上の説明では、規制手段は、全ての支持手段(トラニオン)に設けるものとして説明したが、これに限らず、少なくとも1つに設けられていればよい。すなわち、複数の支持手段のうち1つの動作が規制されれば、リンク機構やワイヤで連結されている他の支持手段の動作も規制することができる。
【0251】
また、以上の説明では、加圧手段により変速比変更手段の油圧ピストン手段を作動する作動油の元圧と規制手段の押圧手段を作動する作動油の元圧とが共通の元圧とするものとして説明したが、加圧手段の駆動が停止し油圧ピストン手段を作動する作動油の元圧が所定値よりも低下した際、すなわち、フランジ部を介して支持手段に変速制御押圧力が作用不能な際に、離間手段(トラニオン解放油圧室)内の作動油を排出する排出手段を備えていれば、必ずしも共通でなくてもよい。
【0252】
また、以上の説明では、規制制御手段は、油圧制御手段の油圧制御により規制手段を制御するものとして説明したが、これに限らず、運転状態が駆動力伝達不要状態である場合、例えば、イグニッションがOFFとされトロイダル無段変速機を搭載した車両の駆動源の停止状態の場合、エンジンストール状態の場合、あるいは、油圧制御手段における各部のシール部材が破損した場合に、トランスミッションECU60による電子制御によって規制手段を制御して支持手段の動作を摩擦力により規制するようにしてもよい。例えば、押圧手段を電磁ソレノイドなどの電気アクチュエータにより構成し、規制制御手段としてのトランスミッションECU60は、無段変速機の運転状態を示す種々のパラメータの検出結果(例えば、車両の牽引を検出する牽引検出手段の検出結果)に基づいてこの電気アクチュエータを電気的に制御することで規制手段を制御するようにしてもよい。この場合、オイルポンプ92は、エンジンのクランクシャフトの回転と連動して駆動するポンプではなく、電動のポンプを用いてもよい。牽引検出手段は、例えば、運転者の操作に応じて牽引状態を設定する牽引状態設定スイッチを用いてもよいし、駆動源の回転を検出する回転センサと、車輪の回転を検出する車輪センサとを用いて、駆動源の回転数が0のときに車輪の回転が検出された場合に車両の牽引を検出するようにしてもよい。
【0253】
また、以上の説明では、例えば、実施例1の固定手段本体(固定部本体121のシリンダボデー86)と、可動手段(可動シリンダ部122の第1可動シリンダ123)とは、接触位置にて固定手段本体摩擦部(固定部本体摩擦面121a)と可動手段固定摩擦部(シリンダ固定摩擦面123b)とを介して摩擦係合するものとして説明したが、これに限らず、例えば、固定手段本体(固定部本体121のシリンダボデー86)と、可動手段(可動シリンダ部122の第1可動シリンダ123)とがスプライン嵌合することで、回転軸線X3に沿った方向に対して相対移動可能であると共に回転軸線X3周りに相対回転不能に構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0254】
以上のように、本発明に係る無段変速機は、いずれの変速比においても運転状態に応じてパワーローラの傾転を規制することができるものであり、パワーローラを有する種々のハーフトロイダル式の無段変速機に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図である。
【図3】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図である。
【図5】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成を示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転解放状態)を示す部分断面図である。
【図7】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。
【図8】本発明の実施例1に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作を説明する流れ図である。
【図9】本発明の実施例2に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図である
【図10】本発明の実施例2に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施例3に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施例3に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。
【図13】本発明の実施例4に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の構成(傾転解放状態)を示す部分断面図である。
【図14】本発明の実施例4に係るトロイダル式無段変速機が備える傾転規制部の動作(傾転規制状態)を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0256】
1、201、301、401 トロイダル式無段変速機(無段変速機)
2 入力ディスク
3 出力ディスク
4 パワーローラ
5 変速比変更部(変速比変更手段)
6 トラニオン(支持手段)
6b 揺動軸
8 油圧ピストン部(油圧ピストン手段)
9 油圧制御装置(油圧制御手段、規制制御手段)
60 トランスミッションECU
81 ピストン
82 変速制御油圧室
83 ピストンベース
84、284、384、484 フランジ部
84a、84b、284a、284b、384a、384b トラニオン側傾転固定摩擦面(支持手段側摩擦部)
84c、84d、384c、384d、484c、484d ストロークストッパ面(ストッパ部)
86 シリンダボデー
87 ロアカバー
92 オイルポンプ(加圧手段)
99 作動油排出弁(排出手段)
99a 作動油供給通路
100、200、300、400 傾転規制部(規制手段)
110、210、310、410 回転部(回転手段)
120、220、320、420 固定部(固定手段)
121、221、321 固定部本体(固定手段本体)
121a 固定部本体摩擦面(固定手段本体摩擦部)
121c、121d、321c、321d、421c、421d ストロークストッパ当接面(当接部)
122、222、322 可動シリンダ部(可動手段)
123 第1可動シリンダ(第1可動部材)
123a、124a、223a、323a シリンダ側傾転固定摩擦面(固定側摩擦部)
123b シリンダ固定摩擦面(可動手段固定摩擦部)
124 第2可動シリンダ(第2可動部材)
130、230、330、430 押圧部(押圧手段)
131 第1押圧部
132 第2押圧部
133、135、233、333 皿バネ(付勢手段)
134、136、234、334 トラニオン解放油圧室(離間手段)
140、340、440 ストローク制限部(軸線方向移動制限手段)
221a、321a 固定部本体側傾転固定摩擦面(固定側摩擦部)
223、323 可動シリンダ
410a ハブ
410b フリクションプレート(支持手段側摩擦部)
421 固定部本体
422a セパレータプレート(固定側摩擦部)
422 可動部
433 圧縮バネ
434 トラニオン解放油圧室
437 押圧シリンダ
450 摩擦ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が入力される入力ディスクと、
前記駆動力が出力される出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラと、
前記パワーローラを回転自在、かつ、前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対して傾転自在に支持する支持手段を有し、前記支持手段に設けられたフランジ部に変速制御押圧力を作用させ該支持手段と共に前記パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させ該パワーローラを傾転させることで、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段と、
前記支持手段の動作を摩擦力により規制可能な規制手段と、
運転状態に応じて前記規制手段を制御する規制制御手段とを備えることを特徴とする、
無段変速機。
【請求項2】
前記規制制御手段は、少なくとも前記支持手段に前記変速制御押圧力が作用不能な運転状態である場合に、前記規制手段を制御して前記支持手段の動作を摩擦力により規制することを特徴とする、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記支持手段は、回転軸線を回転中心として回転可能であると共に前記回転軸線に沿った方向に移動自在な揺動軸を有し、該揺動軸が回転することで前記パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対して傾転可能に支持し、
前記規制手段は、前記支持手段の回転に伴って回転可能な支持手段側摩擦部が設けられる回転手段と、前記支持手段側摩擦部と接触可能に設けられ該支持手段側摩擦部と接触した状態で前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定側摩擦部が設けられる固定手段と、前記運転状態に応じて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とを接触させ支持手段規制押圧力を付加可能な押圧手段とを有することを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記支持手段側摩擦部は、前記回転手段の前記回転軸線に沿った方向の両側に設けられ、
前記固定側摩擦部は、それぞれの前記支持手段側摩擦部に各々対向するように複数設けられることを特徴とする、
請求項3に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記支持手段側摩擦部又は前記固定側摩擦部は、前記揺動軸周りに環状に設けられることを特徴とする、
請求項3又は請求項4に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動可能なストッパ部と、前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動に伴って移動不能な当接部とを有し、前記ストッパ部と前記当接部とが当接することで前記支持手段の前記回転軸線に沿った方向への移動を制限可能な軸線方向移動制限手段を備え、
前記ストッパ部又は前記当接部は、摩擦係数が前記支持手段側摩擦部又は前記固定側摩擦部の摩擦係数より低く設定されることを特徴とする、
請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項7】
前記ストッパ部は、前記回転手段に設けられ、
前記支持手段側摩擦部は、前記回転手段において前記ストッパ部より径方向内側に設けられることを特徴とする、
請求項6に記載の無段変速機。
【請求項8】
前記固定手段は、固定手段本体摩擦部が設けられ前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定手段本体と、前記固定手段本体摩擦部と接触可能な可動手段固定摩擦部と前記固定側摩擦部とが設けられ、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが接触し前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とが接触した接触位置と、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが離間し前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とが離間した離間位置とに移動自在な可動手段とを有し、
前記押圧手段は、前記可動手段を前記接触位置と前記離間位置とに移動可能であると共に、前記接触位置にて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加可能であると共に前記固定手段本体摩擦部と前記可動手段固定摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加可能であることを特徴とする、
請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項9】
前記固定手段は、前記支持手段の回転に伴って回転不能な固定手段本体と、前記固定側摩擦部が設けられ前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが接触した接触位置と、前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とが離間した離間位置とに移動自在な可動手段とを有し、
前記押圧手段は、前記可動手段を前記接触位置と前記離間位置とに移動可能であると共に、前記接触位置にて前記支持手段側摩擦部と前記固定側摩擦部とに前記支持手段規制押圧力を付加することで、前記可動手段と前記固定手段本体とにより前記回転手段の回転を規制可能であることを特徴とする、
請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項10】
前記可動手段は、前記回転手段を挟んで前記回転軸線に沿った方向の両側に一対で設けられる第1可動部材及び第2可動部材とによって構成されることを特徴とする、
請求項8又は請求項9に記載の無段変速機。
【請求項11】
前記第1可動部材と前記第2可動部材は、前記パワーローラの前記中立位置にて、一対の前記固定側摩擦部により前記支持手段側摩擦部を介して前記回転手段を挟持可能な位置に前記接触位置が設定されることを特徴とする、
請求項10に記載の無段変速機。
【請求項12】
前記回転手段は、前記フランジ部により構成されることを特徴とする、
請求項3乃至請求項11のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項13】
前記押圧手段は、前記固定側摩擦部を前記支持手段側摩擦部側に付勢可能な付勢手段と、前記運転状態に応じて供給される作動油の油圧による支持手段解放押圧力によって前記固定側摩擦部を前記支持手段側摩擦部側から離間可能な離間手段とを有することを特徴とする、
請求項3乃至請求項12のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項14】
前記規制制御手段は、前記駆動力を発生する駆動源の出力軸の回転と連動して駆動することで、前記変速比変更手段を作動する作動油及び前記離間手段に供給される作動油を加圧可能な加圧手段を有することを特徴とする、
請求項13に記載の無段変速機。
【請求項15】
前記規制制御手段は、前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧に基づいて、前記離間手段から作動油を排出可能な排出手段を有することを特徴とする、
請求項13及び請求項14に記載の無段変速機。
【請求項16】
前記変速比変更手段は、変速制御油圧室に供給される作動油の油圧により前記支持手段に設けられたピストンの環状の前記フランジ部に前記変速制御押圧力を作用させる油圧ピストン手段と、前記変速制御油圧室内の前記作動油の油圧を制御する油圧制御手段とを有し、前記油圧制御手段により前記変速制御油圧室内の前記作動油の油圧を制御することで、前記支持手段と共に前記パワーローラを前記回転軸線に沿って前記中立位置と前記変速位置とに移動させ、
前記排出手段は、前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧に基づいて、前記変速制御油圧室から作動油を排出可能であることを特徴とする、
請求項15に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−115269(P2009−115269A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291259(P2007−291259)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】