説明

無段変速機

【課題】変速力を低減させること。
【解決手段】シャフト50上に配置した第1回転部材10、第2回転部材20及びサンローラ30と、第1及び第2の回転部材10,20に挟持される複数の遊星ボール40と、遊星ボール40を支持する支持軸41と、シャフト50に固定したキャリア60と、各支持軸41の一方の突出部分に第1回転中心軸R1を中心とする周方向の変速力を加えるアイリスプレート70と、を備えた無段変速機1において、支持軸41と当該支持軸41を支持するキャリア60のガイド溝63,64との間における前記周方向の隙間について、支持軸41におけるアイリスプレート70の前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の回転軸を有する複数の回転要素と、その回転軸に対して放射状に複数配置した転動部材と、を備え、各回転要素の内の2つに挟持された各転動部材を傾転させることによって入出力間の変速比を無段階に変化させる無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の無段変速機としては、回転中心となる変速機軸と、この変速機軸の中心軸を第1回転中心軸とする相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した転動部材と、その転動部材を自転させると共に支持する支持軸(回転軸)と、この支持軸における転動部材からの夫々の突出部分を介して当該転動部材を保持する固定要素と、夫々の転動部材を傾転させる傾転装置又は傾転機構と、を備えたものが知られている。この無段変速機とは、対向させて配置した第1回転要素と第2回転要素とで各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を第3回転要素の外周面上に配置し、その夫々の転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものである。
【0003】
例えば、下記の特許文献1−3には、この種の無段変速機について開示されている。特許文献1の無段変速機は、傾転装置又は傾転機構としてアイリスプレート(円盤部材)を備えている。そのアイリスプレートは、支持軸の端部が挿入されるアイリス溝を備えており、そのアイリス溝において、自身の回転と共に支持軸の端部を最減速の変速比となる最減速部分と最増速の変速比となる最増速部分との間で案内するものである。この特許文献1のアイリスプレートは、夫々の遊星ボール(転動部材)と同様に、キャリア(固定要素)の内部に配置される。また、この特許文献1のアイリス溝は、最減速部分から更に延在させた変速機軸と同心円の弧状部(つまり周方向に沿った弧状部)を有しており、アイリスプレートを最減速の状態のまま更に回転させることができる。その弧状部は、アイリスプレートにおける径方向の内側に設けられている。特許文献2の無段変速機は、一方のリング(第1又は第2の回転要素)と遊星ボールとの間の接線力及び当該遊星ボールの回転軸ずれにより発生したスキュー状態を利用して変速させている。特許文献3の無段変速機は、特許文献1と同様のアイリスプレートを傾転装置又は傾転機構として備えている。この特許文献3の無段変速機においては、第1回転要素と第2回転要素とを夫々入力側と出力側とした場合、その第1回転要素と固定要素の入力側の円盤部との間、つまり固定要素の外側にアイリスプレートが配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0082169号明細書
【特許文献2】特表2010−532454号公報
【特許文献3】実開昭52−35481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の無段変速機においては、支持軸におけるアイリス溝に挿入されている部分が力点となり、支持軸及び遊星ボールの傾転動作を実行させる。そして、その傾転動作の際には、支持軸における固定要素に支えられている各部位の内の何れか一方が回転中心(つまり支点)になる。ここで、この無段変速機では、傾転動作を円滑に行う為の隙間が支持軸と固定要素との間に設けられており、その夫々の隙間の大きさ如何で回転中心が変わって、傾転動作の際のモーメントアームの長さが変化する。そして、各隙間の設定が力点から回転中心までの距離(モーメントアームの長さ)を短くするものである場合には、その距離が長くなる設定の場合よりも、力点においてアイリスプレートから加える力(変速力)を増大させる必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、変速力の低減が可能な無段変速機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為、本発明は、回転中心となる変速機軸と、前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、前記各転動部材を外周面上に配置し、前記変速機軸並びに前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、前記各支持軸の一方の突出部分に前記第1回転中心軸を中心とする周方向の変速力を加えることで当該各支持軸及び前記各転動部材を傾転させ、前記第1回転要素と前記第2回転要素との間の回転比を変化させる変速装置と、前記変速機軸に固定され、前記各支持軸の夫々の突出部分を前記各転動部材の傾転動作が可能な状態で各々支持する2つの支持部を有する固定要素と、を備えた無段変速機において、前記支持軸と当該支持軸を支持する前記固定要素の前記各支持部との間における前記周方向の隙間について、前記支持軸における前記変速装置の前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定したことを特徴としている。
【0008】
ここで、前記支持部は、前記周方向に対して直交する径方向の溝とする。そして、前記変速力が加わる部分に近い側の前記支持部における前記周方向の溝幅を当該変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部における前記周方向の溝幅よりも大きくすることで、前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定することが望ましい。
【0009】
また、前記支持部は、前記周方向に対して直交する径方向の溝とする。そして、前記変速力が加わる部分に近い側の前記支持部における前記周方向の溝幅と当該変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部における前記周方向の溝幅とを同じ大きさにし、且つ、前記変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部と前記支持軸との間に介在させた接触部材の外形を当該変速力が加わる部分に近い側の前記支持部と前記支持軸との間に介在させた接触部材の外形よりも大きくすることで、前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定することが望ましい。
【0010】
また、前記固定要素は2つの前記支持部を有する一体成形品であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無段変速機は、変速力が加わる部分に近い側の一方の隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の隙間よりも大きく設定することで、その変速力が加わる際のモーメントアームの長さが長くなる。これが為、この無段変速機に依れば、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比を変える際に、その変速力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る無段変速機の実施例の全体構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、キャリアのガイド溝について説明する図である。
【図3】図3は、アイリスプレートについて説明する図である。
【図4】図4は、遊星ボールや支持軸を図1の矢印Bの方向に観た図であって、夫々のガイド溝の溝幅を同じ大きさにした場合について示す図である。
【図5】図5は、図4の構成において遊星ボールにスピンモーメントが作用したときのスキュー状態を示す図である。
【図6】図6は、図5のスキュー状態において段階1の変速力が加えられたときの状態を示す図である。
【図7】図7は、図6の状態において段階2の変速力が加えられたときのスキュー状態を示す図である。
【図8】図8は、遊星ボールや支持軸を図1の矢印Bの方向に観た図であって、変速力の力点に近いガイド溝の溝幅を力点から遠いガイド溝の溝幅よりも大きくした場合について示す図である。
【図9】図9は、図8の構成において遊星ボールにスピンモーメントが作用したときのスキュー状態を示す図である。
【図10】図10は、図9のスキュー状態において変速力が加えられたときの逆方向のスキュー状態を示す図である。
【図11】図11は、変速力の力点から遠いコロ軸受の外形を力点から近いものよりも大きくした場合について示す図である。
【図12】図12は、アイリスプレートをキャリアの内側に配置した場合について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
[実施例]
本発明に係る無段変速機の実施例を図1から図12に基づいて説明する。
【0015】
最初に、本実施例の無段変速機の一例について図1を用いて説明する。図1の符号1は、本実施例の無段変速機を示す。
【0016】
この無段変速機1の主要部を成す無段変速機構は、共通の第1回転中心軸R1を有する相互間での相対回転が可能な第1から第3の回転要素10,20,30と、その第1回転中心軸R1と後述する基準位置において平行な別の第2回転中心軸R2を各々有する複数の転動部材40と、第1から第3の回転要素10,20,30の回転中心に配置した変速機軸としてのシャフト50と、このシャフト50に固定し、夫々の転動部材40を傾転自在に保持する固定要素60と、を備えた所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものである。この無段変速機1は、第2回転中心軸R2を第1回転中心軸R1に対して傾斜させ、転動部材40を傾転させることによって、入出力間の変速比γを変えるものである。以下においては、特に言及しない限り、その第1回転中心軸R1や第2回転中心軸R2に沿う方向を軸線方向と云い、その第1回転中心軸R1周りの方向を周方向と云う。また、その第1回転中心軸R1に直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。
【0017】
この無段変速機1においては、第1回転要素10と第2回転要素20と第3回転要素30との間で各転動部材40を介したトルクの伝達が行われる。例えば、この無段変速機1においては、第1から第3の回転要素10,20,30の内の1つがトルク(動力)の入力部となり、残りの回転要素の内の少なくとも1つがトルクの出力部となる。これが為、この無段変速機1においては、入力部となる何れかの回転要素と出力部となる何れかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比γとなる。例えば、この無段変速機1は、車両の動力伝達経路上に配設される。その際には、その入力部がエンジンやモータ等の動力源側に連結され、その出力部が駆動輪側に連結される。この無段変速機1においては、入力部としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動と云い、出力部としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動と云う。例えば、この無段変速機1は、先の車両の例示に従えば、加速等のように動力源側からトルクが入力部たる回転要素に入力されて当該回転要素を回転させているときが正駆動となり、減速等の様に駆動輪側から出力部たる回転中の回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されているときが逆駆動となる。
【0018】
この無段変速機1においては、シャフト50の中心軸(第1回転中心軸R1)を中心にして放射状に複数個の転動部材40を配置する。その夫々の転動部材40は、対向させて配置した第1回転要素10と第2回転要素20とで挟持させると共に、第3回転要素30の外周面上に配設する。また、夫々の転動部材40は、自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)を中心にした自転を行う。この無段変速機1は、第1及び第2の回転要素10,20の内の少なくとも一方を転動部材40に押し付けることによって、第1から第3の回転要素10,20,30と転動部材40との間に適切な接線力(トラクション力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。また、この無段変速機1は、夫々の転動部材40を自身の第2回転中心軸R2と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面上で傾転させ、第1回転要素10と第2回転要素20との間の回転速度(回転数)の比を変化させることによって、入出力間の回転速度(回転数)の比を変える。
【0019】
ここで、この無段変速機1においては、第1及び第2の回転要素10,20が遊星歯車機構で云うところのリングギヤの機能を為すものとなる。また、第3回転要素30は、トラクション遊星ギヤ機構のサンローラとして機能する。また、転動部材40はトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンとして機能し、固定要素60はキャリアとして機能する。以下、第1及び第2の回転要素10,20については、各々「第1及び第2の回転部材10,20」と云う。また、第3回転要素30については「サンローラ30」と云い、転動部材40については「遊星ボール40」と云う。また、固定要素60については、「キャリア60」と云う。
【0020】
また、シャフト50は、図示しない筐体や車体等における無段変速機1の固定部に固定したものであり、その固定部に対して相対回転させぬよう構成した円柱状の固定軸とする。
【0021】
第1及び第2の回転部材10,20は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円盤部材(ディスク)や円環部材(リング)であり、軸線方向で対向させて各遊星ボール40を挟み込むように配設する。この例示においては、双方とも円環部材とする。
【0022】
この第1及び第2の回転部材10,20は、後で詳述する各遊星ボール40の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、例えば、遊星ボール40の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面、その外周曲面の曲率とは異なる曲率の凹円弧面、凸円弧面又は平面等の形状を成している。ここでは、後述する基準位置の状態で第1回転中心軸R1から各遊星ボール40との接触部分までの距離が同じ長さになるように夫々の接触面を形成して、第1及び第2の回転部材10,20の各遊星ボール40に対する夫々の接触角θが同じ角度になるようにしている。その接触角θとは、基準から各遊星ボール40との接触部分までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール40の外周曲面に対して点接触又は面接触している。また、夫々の接触面は、第1及び第2の回転部材10,20から遊星ボール40に向けて軸線方向の力(押圧力)が加わった際に、その遊星ボール40に対して径方向内側で且つ斜め方向の力(法線力)が加わるように形成されている。
【0023】
その遊星ボール40への押圧力は、例えばトルクカム(図示略)等の押圧部で第1及び第2の回転部材10,20の内の少なくとも一方に加えられた軸線方向の力により発生させる。そのトルクカムは、例えば第1回転部材10と下記の入力軸との間、第2回転部材20と下記の出力軸との間に配設する。この無段変速機1においては、第1回転部材10と入力軸との間のトルクカムによって、その間で回転トルクを伝達させると共に軸力を発生させる。その軸力は、第1回転部材10から遊星ボール40への押圧力となる。また、第2回転部材20と出力軸との間のトルクカムは、その間で回転トルクを伝達させると共に軸力を発生させる。その軸力は、第2回転部材20から遊星ボール40への押圧力となる。
【0024】
この例示においては、第1回転部材10を無段変速機1の正駆動時におけるトルク入力部として作用させ、第2回転部材20を無段変速機1の正駆動時におけるトルク出力部として作用させる。従って、その第1回転部材10には入力軸(図示略)が連結され、第2回転部材20には出力軸(図示略)が連結される。その入力軸や出力軸は、例えばラジアル軸受(図示略)を介してシャフト50に対する周方向の相対回転を行うことができる。従って、第1回転部材10や第2回転部材20についても、シャフト50に対する周方向の相対回転が行える。
【0025】
サンローラ30は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円筒状のものであり、ラジアル軸受RB1,RB2によってシャフト50に対する周方向への相対回転を行える。このサンローラ30の外周面には、複数個の遊星ボール40が放射状に略等間隔で配置される。従って、このサンローラ30においては、その外周面が遊星ボール40の自転の際の転動面となる。このサンローラ30は、自らの回転動作によって夫々の遊星ボール40を転動(自転)させることもできれば、夫々の遊星ボール40の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。ここで、ラジアル軸受RB1,RB2の側面には、後述するキャリア60の第1及び第2の円盤部61,62を当接させている。これが為、サンローラ30は、シャフト50に対して軸線方向へと移動できない。
【0026】
遊星ボール40は、サンローラ30の外周面上を転がる転動部材である。この遊星ボール40は、完全な球状体であることが好ましいが、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。この遊星ボール40は、その中心を通って貫通させた支持軸41によって支持する。この遊星ボール40は、支持軸41の外周面との間に配設した軸受(例えばニードルベアリング)によって、第2回転中心軸R2を回転軸とした支持軸41に対する相対回転(つまり自転)が行えるようにしている。従って、この遊星ボール40は、支持軸41を中心にしてサンローラ30の外周面上を転動することができる。その支持軸41の両端は、遊星ボール40から突出させておく。
【0027】
その支持軸41の基準となる位置は、図1に示すように、第2回転中心軸R2が第1回転中心軸R1と平行になる位置である。この支持軸41は、その基準位置で形成される自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面内において、基準位置とそこから傾斜させた位置との間を遊星ボール40と共に揺動(傾転)することができる。その傾転は、その傾転平面内で遊星ボール40の中心を支点にして行われる。
【0028】
キャリア60は、夫々の遊星ボール40の傾転動作を妨げないように支持軸41の夫々の突出部を支持する。このキャリア60は、例えば、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた第1及び第2の円盤部61,62を対向させて配置し、その第1及び第2の円盤部61,62を複数本の連結軸(図示略)で連結して、全体として籠状となるようにしている。これにより、このキャリア60は、外周面に開放部分を有することになる。各遊星ボール40は、第1及び第2の円盤部61,62の間に配置し、その開放部分を介して第1回転部材10と第2回転部材20とに接している。ここで、このキャリア60は、第1及び第2の円盤部61,62の内周面をシャフト50の外周面に固定している。
【0029】
この無段変速機1には、夫々の遊星ボール40の傾転時に支持軸41を傾転方向へと案内する為のガイド部(支持部)が設けられている。この例示では、そのガイド部をキャリア60に設ける。ガイド部は、遊星ボール40から突出させた支持軸41を傾転方向に向けて案内する径方向のガイド溝63,64であり、第1及び第2の円盤部61,62の夫々の対向する部分に遊星ボール40毎に形成する(図2)。つまり、全てのガイド溝63と全てのガイド溝64は、軸線方向(図1の矢印Aの方向)から観ると夫々に放射状を成している。この例示のガイド溝63は、第1円盤部61の周方向を溝幅とし、その径方向内側を溝底としたものである。同様に、ガイド溝64は、第2円盤部62の周方向を溝幅とし、その径方向内側を溝底とする。支持軸41とガイド溝63,64との間には、傾転動作を実現させる為、そして円滑にする為に、溝幅方向(周方向)に隙間が設けられている。具体的に、その支持軸41とガイド溝63,64との間には、例えばこれらの摩耗の抑制やガイド溝63,64内での支持軸41の円滑な傾転動作を図る接触部材としてのコロ軸受42,43が配設されている。従って、その溝幅方向の隙間とは、コロ軸受42,43とガイド溝63,64との間の隙間のことになる。この隙間は、例えば、傾転動作の為のサンローラ30と遊星ボール40との間におけるサイドスリップを引き起こせるだけの大きさにする。
【0030】
この無段変速機1においては、夫々の遊星ボール40の傾転角が基準位置、即ち0度のときに、第1回転部材10と第2回転部材20とが同一回転速度(同一回転数)で回転する。つまり、このときには、第1回転部材10と第2回転部材20の回転比(回転速度又は回転数の比)が1となり、変速比γが1になっている。一方、夫々の遊星ボール40を基準位置から傾転させた際には、支持軸41の中心軸から第1回転部材10との接触部分までの距離が変化すると共に、支持軸41の中心軸から第2回転部材20との接触部分までの距離が変化する。これが為、第1回転部材10又は第2回転部材20の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えば第2回転部材20は、遊星ボール40を一方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも低回転になり(減速)、他方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも高回転になる(増速)。従って、この無段変速機1においては、その傾転角を変えることによって、第1回転部材10と第2回転部材20との間の回転比(変速比γ)を無段階に変化させることができる。尚、ここでの増速時(γ<1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させる。また、減速時(γ>1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させる。
【0031】
この無段変速機1には、その変速比γを変える変速装置が設けられている。変速比γは遊星ボール40の傾転角の変化に伴い変わるので、その変速装置としては、夫々の遊星ボール40を傾転させる傾転装置又は傾転機構を用いる。ここでは、この変速装置として円盤状のアイリスプレート(傾転要素)70が設けられている。
【0032】
そのアイリスプレート70は、その径方向内側のラジアル軸受RB3,RB4を介してシャフト50に取り付けられており、更に、スラスト軸受TB1,TB2を介してシャフト50と第2円盤部62に取り付けられている。これが為、このアイリスプレート70は、そのシャフト50やキャリア60に対して第1回転中心軸R1を中心とする相対回転を行える。その相対回転には、図示しないモータ等のアクチュエータ(駆動部)を用いる。この駆動部の駆動力は、ウォームギア71を介してアイリスプレート70の外周部分に伝えられる。
【0033】
ここで例示するアイリスプレート70は、夫々の遊星ボール40の入力側(第1回転部材10との接触部側)で且つキャリア60の外側に配置する。そして、このアイリスプレート70には、支持軸41の一方の突出部がコロ軸受44を介して挿入される絞り孔(アイリス孔)72を形成する。その絞り孔72は、径方向内側の端部が起点の径方向を基準線Lと仮定する場合、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて基準線Lから周方向に離れていく弧状になっている(図3)。尚、その図3は、図1の矢印Aの方向から観た図である。支持軸41の一方の突出部は、アイリスプレート70が図3の紙面時計回り方向に回転することで、絞り孔72に沿ってアイリスプレート70の中心側に移動する。その際、支持軸41の夫々の突出部がキャリア60のガイド溝63,64に挿入されているので、絞り孔72に挿入されている一方の突出部は、径方向内側に移動する。また、その一方の突出部は、アイリスプレート70が図3の紙面反時計回り方向に回転することで、絞り孔72に沿ってアイリスプレート70の外周側に移動する。その際、この一方の突出部は、ガイド溝63,64の作用によって径方向外側に移動する。このように、支持軸41は、ガイド溝63,64と絞り孔72によって径方向に移動できる。従って、遊星ボール40は、上述した傾転動作が可能になる。
【0034】
ところで、遊星ボール40における第1及び第2の回転部材10,20との接触部分においては、図4に示すように、駆動時に互いに逆向きの接線力(トラクション力)F1,F2が働いている。その図4は、遊星ボール40を図1の矢印Bの方向に観た図である。そして、その夫々の接触部分は、遊星ボール40の外周面上において遊星ボール40の重心からずらした位置にある。これが為、その夫々の接線力F1,F2は遊星ボール40において偏心荷重となるので、その接線力F1,F2が加わった際には、その重心を中心にした回転モーメント(以下、「スピンモーメント」という。)が遊星ボール40に発生する。この図4の例示では、反時計回り方向のスピンモーメントが働く。この無段変速機1においては、遊星ボール40の傾転動作を円滑にする為に、その傾転動作の際に動作させる部材間に隙間を設けている。例えば、この例示においては、上述したように、コロ軸受42,43とガイド溝63,64との間に隙間を設けている。これが為、遊星ボール40は、上記のスピンモーメントが発生した場合、図5に示すように、その隙間に応じた量だけスピンモーメントの方向に回転軸ずれが生じて傾いてしまう。駆動時に変速比γが或る大きさに固定されている場合には、その回転軸ずれによるスキュー状態で遊星ボール40が自転する。尚、遊星ボール40と支持軸41との間には、その間の軸受による微小のガタ(隙間)も存在している。これが為、そのガタ分を考慮に入れてもよい。
【0035】
ここで、そのスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変える場合には、接線力F1,F2に打ち勝つ力(以下、「変速力」という。)Fsをアイリスプレート70の絞り孔72の壁面からコロ軸受44を介して支持軸41に加える必要がある。
【0036】
この無段変速機1においては、アイリスプレート70に近い(つまり変速力の加えられる力点に近い)ガイド溝63とコロ軸受42との間の溝幅方向の隙間(以下、「第1隙間」という。)の大きさ、アイリスプレート70から遠い(つまり変速力の加えられる力点から遠い)ガイド溝64とコロ軸受43との間の溝幅方向の隙間(以下、「第2隙間」という。)の大きさに応じて、変速動作の形態が異なる。
【0037】
例えば、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさに設定された場合には、図6及び図7に示すように、2段階の変速動作を経る必要があり、夫々の段階1,2毎に異なる変速力Fs1,Fs2を発生させなければならない。図4−図7は、夫々のガイド溝63,64の溝幅W1,W2を同じ大きさにし、且つ、コロ軸受42,43を外形が同じ同一品とすることで、第1隙間と第2隙間とを同じ大きさに設定したものである。そのガイド溝63,64は、夫々の溝幅方向における中心位置同士を軸線方向で対向させた状態で配置されている。尚、コロ軸受42,43を備えていない場合、第1及び第2の隙間は、ガイド溝63,64と支持軸41との間における溝幅方向の隙間のことを云う。
【0038】
先ず、図5のスキュー状態からの変速の際には、第1及び第2の円盤部61,62の内、アイリスプレート70から遠い第2円盤部62側のガイド溝64に挿入されている支持軸41の端部及びコロ軸受43が回転中心となる(図6)。この段階1の変速動作においては、アイリスプレート70から少なくとも変速力Fs1を発生させることで、その回転中心を中心とするモーメントが支持軸41に作用する。これにより、その支持軸41は、コロ軸受42がガイド溝63の壁面に当接するまで遊星ボール40と共に回転する(図6)。
【0039】
その図6の状態から変速させる際には、第1及び第2の円盤部61,62の内、アイリスプレート70から近い第1円盤部61側のガイド溝63に挿入されている支持軸41の端部及びコロ軸受42が回転中心となる(図7)。この段階2の変速動作においては、少なくとも変速力Fs2を発生させることで、その回転中心を中心とするモーメントが支持軸41に作用する。これにより、その支持軸41は、コロ軸受43がガイド溝64の壁面に当接するまで遊星ボール40と共に回転する(図7)。
【0040】
これらの2段階の変速動作において、変速力Fs1は、図5のスキュー状態で接線力F1,F2に打ち勝つ最小限の力であり、下記の式1で示すものとなる。その式1は、下記のモーメントの釣り合い式(式2)から求める。
【0041】
【数1】

【0042】
【数2】

【0043】
また、変速力Fs2は、図6の状態で接線力F1,F2に打ち勝つ最小限の力であり、下記の式3で示すものとなる。その式3は、下記のモーメントの釣り合い式(式4)から求める。
【0044】
【数3】

【0045】
【数4】

【0046】
その各式の「L1」は、図4に示すように、遊星ボール40の中心からコロ軸受42の回転中心までの距離である。「L2」は、遊星ボール40の中心からコロ軸受43の回転中心までの距離である。「Ls」は、遊星ボール40の中心からコロ軸受44の回転中心(変速力Fs1,Fs2の力点)までの距離である。「Lb」は、矢印Bから観た遊星ボール40の中心から接線力F1,F2の力点までの距離である。
【0047】
このように、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさであった場合には、2段階の変速動作を経ることになる。これが為、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変える際には、夫々の変速力Fs1,Fs2の内の大きい方を変速力Fsとしてアイリスプレート70から発生させなければならない(式5)。
【0048】
【数5】

【0049】
また、アイリスプレート70に近い第1隙間の方がアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも小さい場合には、第1隙間が0よりも大きければ、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合と同様に2段階の変速動作を行い、第1隙間が0であれば、コロ軸受42を回転中心とする変速力Fs2による変速動作を行う。
【0050】
一方、図8には、アイリスプレート70に近い第1隙間の方がアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも大きい場合を示している。ここでは、第1隙間を第2隙間よりも大きくする為に、アイリスプレート70に近いガイド溝63の溝幅W1をアイリスプレート70から遠いガイド溝64の溝幅W2よりも大きくしている。また、ここでは、更にコロ軸受42,43を外形が同じ同一品とすることで、第1隙間を第2隙間よりも大きく設定している。この場合にも、遊星ボール40は、接線力F1,F2によるスピンモーメントでスキュー状態になる(図9)。そして、そのスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変える際には、上記と同じように、少なくとも接線力F1,F2に打ち勝つ変速力Fsを発生させる必要がある。この際には、第2円盤部62のガイド溝64に挿入されている支持軸41の端部及びコロ軸受43が回転中心となり、少なくとも上記の変速力Fs1を発生させることで、その回転中心を中心とするモーメントが支持軸41に作用する(図10)。このとき、第1隙間の方が第2隙間よりも大きいので、その支持軸41は、ガイド溝64とコロ軸受43との間の隙間の大きさに拘わらず、モーメントアームの長さ(Ls+L2)が変わることなく、コロ軸受43がガイド溝64の壁面に当接し且つコロ軸受42がガイド溝63の壁面に当接するまで遊星ボール40と共に回転する(図10)。つまり、この場合には、変速力Fs1のままで変速動作を完了させることができる。
【0051】
ここで、この第1隙間の方が第2隙間よりも大きい場合と、上述した第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合と、を比較する。第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合において、変速力Fs1が変速力Fs2以上のときには(Fs1≧Fs2)、上述したように、その変速力Fs1を少なくとも発生させる必要がある。従って、このときには、第1隙間の方が第2隙間よりも大きい場合と同じ大きさの変速力Fs1を発生させることで、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変えることができる。
【0052】
これに対して、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合において、変速力Fs1が変速力Fs2よりも小さいときには(Fs1<Fs2)、上述したように、変速力Fs2を少なくとも発生させる必要がある。従って、このときには、第1隙間の方が第2隙間よりも大きい場合と比較して、大きな変速力Fs(=Fs2)が必要になる。
【0053】
このように、その比較の結果に依れば、第1隙間の方が第2隙間よりも大きく設定されている場合には、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合以下の変速力Fs1で変速動作を行うことができる。
【0054】
尚、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合において、変速力Fs2の力点から回転中心までの距離「Ls−L1」は、変速力Fs1の力点から回転中心までの距離「Ls+L2」よりも短くなる。つまり、この場合には、変速力Fs2の力点からのモーメントアームが変速力Fs1の力点からのモーメントアームよりも短くなるので、段階2の変速動作に要する変速力Fs2を変速力Fs1よりも大きくする必要があると考えられる(Fs1<Fs2)。従って、第1隙間の方が第2隙間よりも大きい場合には、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合よりも小さい変速力Fsで、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変えることができる。
【0055】
また、第1隙間の方が第2隙間よりも小さい場合には、そのモーメントアームの考えに依れば、何れの変速動作が行われるにしても、変速力Fs1よりも大きい変速力Fs2を少なくとも発生させる必要がある。これが為、第1隙間を第2隙間よりも大きく設定した場合には、第1隙間を第2隙間より小さくする場合と比べて、小さい変速力Fsで一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変えることができる。
【0056】
以上の理由により、この無段変速機1においては、スキュー状態の角度(スキュー角θs)を設計する際に、第1及び第2の円盤部61,62の内、アイリスプレート70から近い第1隙間をアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも大きく設定する。その際、第1隙間と第2隙間の差は、モーメントアームの長さ等を考慮し、コロ軸受43がガイド溝64の反対側の壁面(図9で当接している壁面とは逆側)に当接する前にコロ軸受42がガイド溝63の当接しないよう、つまり2段階の変速動作が為されないように設定する。
【0057】
例えば、接線力F1,F2や遊星ボール40の中心からの距離L1,L2,Lsを次の様に仮定し、これらを上記の式1,3に代入する。これにより得られる変速力Fs1,Fs2を下記の式6,7に示す。尚、「Ft」は、接線力とする。
F1=F2=Ft
L1=L2=3Lb
Ls=5Lb
【0058】
【数6】

【0059】
【数7】

【0060】
これにより、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合には、少なくとも接線力Ftの大きさに相当する変速力Fs2が必要になることが判る。一方、第1隙間を第2隙間よりも大きく設定した場合には、少なくとも接線力Ftの1/4の大きさに相当する変速力Fs1が変速動作に必要になることが判る。従って、この仮定において第1隙間を第2隙間よりも大きく設定した場合、その変速力Fs1は、第1隙間と第2隙間とが同じ大きさの場合の変速力Fs2の1/4の大きさに低減できることが判る(Fs1=Fs2/4)。
【0061】
以上示したように、本実施例の無段変速機1は、遊星ボール40を支える2つのガイド溝63,64の夫々の溝幅方向における中心位置同士を軸線方向で対向させ、アイリスプレート70に近い第1隙間をアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも大きく設定する。これにより、この無段変速機1は、アイリスプレート70から加える変速力Fsの力点と支点としての回転中心との距離、つまりその変速力Fsが加わる際のモーメントアームの長さが長くなるので、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変える際の変速力Fsについて、第1隙間の大きさが第2隙間の大きさ以下の場合と比して低減することができる。また、この無段変速機1は、3つのコロ軸受42,43,44に同一製品を用いているので、部品の種類の削減による原価低減効果を得ることができる。
【0062】
ここで、スキュー角θsは、下記の式8で表すことができる。従って、スキュー角θsを設計する際には、その設計値となるように、遊星ボール40の中心からの距離L1,L2、ガイド溝63,64の溝幅W1,W2、コロ軸受42,43の直径d1,d2(ここでは球形とする)を設定する。
【0063】
【数8】

【0064】
この式8は、下記の式11に式9,10を代入したものである。「C1」は、ガイド溝63とコロ軸受42との間の溝幅方向の隙間、「C2」は、ガイド溝64とコロ軸受43との間の溝幅方向の隙間を表している。また、「C0」は、支持軸41とコロ軸受42,43との間の隙間を表している。
【0065】
【数9】

【0066】
【数10】

【0067】
【数11】

【0068】
ところで、この例示では、アイリスプレート70に近い第1隙間をアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも大きくする為に、ガイド溝63の溝幅W1をガイド溝64の溝幅W2よりも大きくし、且つ、コロ軸受42,43の外形を同じ大きさにしている。無段変速機1は、この形態に替えて、図11に示すように、夫々のガイド溝63,64の溝幅W1,W2を同じ大きさにし、且つ、アイリスプレート70から遠いガイド溝64におけるコロ軸受43の外形をアイリスプレート70に近いガイド溝63におけるコロ軸受42の外形よりも大きくすることで、第1隙間を第2隙間より大きくしてもよい。この無段変速機1においても、2つのガイド溝63,64は、夫々の溝幅方向における中心位置同士を軸線方向で対向させて配置する。この無段変速機1は、このような形態に替えたとしても、上記の例示と同様に、一方のスキュー状態から逆向きのスキュー状態になるよう駆動時に変速比γを変える際の変速力Fsを低減することができる。また、この無段変速機1は、ガイド溝63,64の溝幅W1,W2を同じ大きさにしているので、対向する夫々のガイド溝63,64を同一の加工により形成することができ、溝幅W1,W2を異なる大きさにするよりも夫々の相対位置や形状の誤差が小さくなる。従って、この無段変速機1は、そのガイド溝63,64の相対位置や形状の精度向上、第1円盤部61と第2円盤部62を同一形状にすることによる原価低減が可能になる。
【0069】
また、これらの例示ではキャリア60における第1円盤部61の外側にアイリスプレート70を配設しているが、そのアイリスプレート70は、第2円盤部62の外側に配設してもよい。これによっても、この無段変速機1は、上記の例示と同様の効果を得ることができる。
【0070】
更に、上記の各種の例示ではキャリア60について第1円盤部61と第2円盤部62と連結軸とを組み立てて成るものとして例示しているが、そのキャリア60は、これらからなる一体成形品であってもよく、これにより部品点数の削減による原価低減を図ることも可能になる。
【0071】
また更に、そのアイリスプレート70は、キャリア60の内側、つまりキャリア60と各遊星ボール40との間に配設してもよい。図12には、第1円盤部61と各遊星ボール40との間にアイリスプレート70を配置した例を示している。この場合においても、この無段変速機1は、ガイド溝63,64の夫々の溝幅方向における中心位置同士を軸線方向で対向させ、アイリスプレート70に近い第1隙間をアイリスプレート70から遠い第2隙間よりも大きく設定する。その図12の例示では、ガイド溝63の溝幅W1をガイド溝64の溝幅W2よりも大きく設定し、且つ、コロ軸受42,43の外形を同じ大きさに設定している。この無段変速機1は、このように構成しても、上記の例示と同様の効果を得ることができる。そして更に、この無段変速機1は、アイリスプレート70をキャリア60の内側に配置することで、例えば第1円盤部61を無段変速機1の筐体に一体化させることも可能であり、これにより部品点数の削減による原価低減の効果を得ることもできる。尚、アイリスプレート70をキャリア60の内側に配置した場合には、第1隙間と第2隙間とを同じ大きさにすると、アイリスプレート70からの変速力Fsによってスキュー状態を作り出すことができない。
【符号の説明】
【0072】
1 無段変速機
10 第1回転部材(第1回転要素)
20 第2回転部材(第2回転要素)
30 サンローラ(第3回転要素)
40 遊星ボール(転動部材)
41 支持軸
42,43,44 コロ軸受
50 シャフト(変速機軸)
60 キャリア(固定要素)
61 第1円盤部
62 第2円盤部
63,64 ガイド溝
70 アイリスプレート
R1 第1回転中心軸
R2 第2回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心となる変速機軸と、
前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、
前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、
前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、
前記各転動部材を外周面上に配置し、前記変速機軸並びに前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、
前記各支持軸の一方の突出部分に前記第1回転中心軸を中心とする周方向の変速力を加えることで当該各支持軸及び前記各転動部材を傾転させ、前記第1回転要素と前記第2回転要素との間の回転比を変化させる変速装置と、
前記変速機軸に固定され、前記各支持軸の夫々の突出部分を前記各転動部材の傾転動作が可能な状態で各々支持する2つの支持部を有する固定要素と、
を備えた無段変速機において、
前記支持軸と当該支持軸を支持する前記固定要素の前記各支持部との間における前記周方向の隙間について、前記支持軸における前記変速装置の前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定したことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記支持部は、前記周方向に対して直交する径方向の溝であり、
前記変速力が加わる部分に近い側の前記支持部における前記周方向の溝幅を当該変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部における前記周方向の溝幅よりも大きくすることで、前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定したことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記支持部は、前記周方向に対して直交する径方向の溝であり、
前記変速力が加わる部分に近い側の前記支持部における前記周方向の溝幅と当該変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部における前記周方向の溝幅とを同じ大きさにし、且つ、前記変速力が加わる部分から遠い側の前記支持部と前記支持軸との間に介在させた接触部材の外形を当該変速力が加わる部分に近い側の前記支持部と前記支持軸との間に介在させた接触部材の外形よりも大きくすることで、前記変速力が加わる部分に近い側の一方の前記隙間を当該変速力が加わる部分から遠い側の他方の前記隙間よりも大きく設定したことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項4】
前記固定要素は2つの前記支持部を有する一体成形品であることを特徴とした請求項1,2又は3に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−225390(P2012−225390A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92113(P2011−92113)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】