説明

無段変速機

【課題】実変速比の推定精度を向上させること。
【解決手段】シャフト50上の第1及び第2の回転部材10,20に挟持された複数個の遊星ボール40と、各遊星ボール40を傾転させるアイリスプレート80及びウォームギヤ81と、遊星ボール40との第1接触点P1を有する第1筒状部31a及び当該第1筒状部31aから延設した第2筒状部31bを具備し、シャフト50に対する相対回転が可能な第1サンローラ31、並びに、遊星ボール40との第2接触点P2を有し、第2筒状部31bの外周面上で第1サンローラ31に対する相対回転が可能な第2サンローラ32を備えたサンローラ30と、を備え、第1回転部材10をトルクの入力部、第2回転部材20をトルクの出力部とした場合、第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比に基づいて実変速比を推定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の回転軸を有する複数の回転要素と、その回転軸に対して放射状に複数配置した転動部材と、を備え、各回転要素の内の2つに挟持された各転動部材を傾転させることによって入出力間の変速比を無段階に変化させる無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の無段変速機としては、所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものが知られている。例えば、そのトラクション遊星ギヤ機構には、回転中心となる変速機軸と、この変速機軸の中心軸を第1回転中心軸とする相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した転動部材と、この転動部材を自転させると共に支持する支持軸と、変速機軸に対して固定され、その支持軸における転動部材からの夫々の突出部分を介して当該転動部材を保持する固定要素と、を備えたものがある。このトラクション遊星ギヤ機構においては、対向させて配置した第1回転要素と第2回転要素とで各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を第3回転要素の外周面上に配置し、その転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる。下記の特許文献1には、このトラクション遊星ギヤ機構を備えた無段変速機について開示されている。この特許文献1の無段変速機においては、第3回転要素としてのサンローラの外周面が中央部分を径方向内側に凹ませた窪み形状に形成されており、このサンローラと各遊星ボール(転動部材)とが2点で接触するように構成されている。そして、この無段変速機では、その夫々の接触点が第1回転中心軸を中心に相対回転できるように、サンローラを軸線方向で2分割し、その夫々の分割構造体がアンギュラ軸受を介して固定要素としてのキャリアに支持される構成になっている。
【0003】
また、トラクション遊星ギヤ機構には、転動部材としてのパワーローラを第1及び第2の回転要素としての入力ディスクと出力ディスクとで挟持したトロイダル式のものが知られている。例えば、下記の特許文献2には、入力ディスクと出力ディスクの夫々の回転数に基づいて変速比を算出し、この算出された変速比に基づいてパワーローラの傾転角の推定を行うトロイダル式の無段変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0267510号明細書
【特許文献2】特開2009−057988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トラクション遊星ギヤ機構では、第1及び第2の回転要素をトルクの入力部及び出力部とする場合、この第1及び第2の回転要素とこれらに挟持される転動部材との間において接線力(トラクション力)が作用するので、この間で滑りが発生する。これが為、トラクション遊星ギヤ機構においては、特許文献2の技術の如く変速比や傾転角を推定したとしても、その滑りによって推定精度が低下してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、高い変速比の推定精度を得ることが可能な無段変速機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為、本発明は、回転中心となる変速機軸と、前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、前記支持軸の夫々の突出部を介して前記転動部材を傾転自在に保持する保持部材と、前記転動部材との第1接触点を有する第1筒状部及び当該第1筒状部から軸線方向に延設した第2筒状部を具備し、前記変速機軸に対する同心上での相対回転が可能な第1回転部材、並びに、前記転動部材との第2接触点を有し、前記第2筒状部の周面に沿って前記第1回転部材に対する同心上での相対回転が可能な第2回転部材を備えた第3回転要素と、前記第1回転要素と前記第2回転要素との間の回転比を前記各転動部材の傾転動作によって変化させることで変速比を変える変速装置と、を備え、前記第1回転要素をトルクの入力部、前記第2回転要素をトルクの出力部とした場合、前記第3回転要素における前記第1回転部材と前記第2回転部材の回転比に基づいて実変速比を推定することを特徴としている。
【0008】
ここで、推定した前記実変速比に基づいて前記転動部材の実傾転角を推定することが望ましい。
【0009】
また、推定した前記実変速比と要求変速比に基づいて前記第1及び第2の回転要素と前記各転動部材との間の滑り量を推定することが望ましい。
【0010】
また、前記第1及び第2の回転要素は、径方向内側に前記各転動部材との接触点を有し、前記第3回転要素における前記第1及び第2の回転部材は、径方向外側に前記各転動部材との接触点を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無段変速機は、転動部材との間で接線力及び滑りの発生しない第3回転要素における第1回転部材と第2回転部材の回転比に基づいて実変速比の推定を行うので、この実変速比の推定精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る無段変速機の実施例の構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、キャリア上の回転角センサの配置を示す斜視図である。
【図3】図3は、キャリアにおける支持軸のガイド部について説明する図である。
【図4】図4は、キャリアにおける支持軸のガイド部について説明する図である。
【図5】図5は、アイリスプレートについて説明する図である。
【図6】図6は、本発明に係る無段変速機の要部を詳述する図である。
【図7】図7は、図6のX−X線で切った第1サンローラの断面図である。
【図8】図8は、図6のY−Y線で切った第2サンローラの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
[実施例]
本発明に係る無段変速機の実施例を図1から図8に基づいて説明する。
【0015】
最初に、本実施例の無段変速機の一例について図1を用いて説明する。図1の符号1は、本実施例の無段変速機を示す。
【0016】
この無段変速機1の主要部を成す無段変速機構は、共通の第1回転中心軸R1を有する相互間での相対回転が可能な第1から第3の回転要素10,20,30と、その第1回転中心軸R1を中心にして放射状に複数個配置され、その第1回転中心軸R1と後述する基準位置において平行な別の第2回転中心軸R2を各々有する転動部材40と、第1から第3の回転要素10,20,30の回転中心に配置した変速機軸としてのシャフト50と、夫々の転動部材40を傾転自在に保持する保持部材60と、を備えた所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものである。この無段変速機1は、第2回転中心軸R2を第1回転中心軸R1に対して傾斜させ、転動部材40を傾転させることによって、入出力間の変速比γを変えるものである。以下においては、特に言及しない限り、その第1回転中心軸R1や第2回転中心軸R2に沿う方向を軸線方向と云い、その第1回転中心軸R1周りの方向を周方向と云う。また、その第1回転中心軸R1に直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。
【0017】
この無段変速機1においては、対向させて配置した第1回転要素10と第2回転要素20とで夫々の転動部材40を挟持すると共に、その夫々の転動部材40を第3回転要素30の外周面上に配設し、その第1回転要素10と第2回転要素20と第3回転要素30との間で各転動部材40を介したトルクの伝達を行うことができる。例えば、この無段変速機1においては、第1から第3の回転要素10,20,30の内の1つをトルク(動力)の入力部とし、残りの回転要素の内の少なくとも1つをトルクの出力部にすることができる。これが為、この無段変速機1においては、入力部となる何れかの回転要素と出力部となる何れかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比γとなる。例えば、この無段変速機1は、車両の動力伝達経路上に配設される。その際には、その入力部がエンジンやモータ等の動力源側に連結され、その出力部が駆動輪側に連結される。この無段変速機1においては、入力部としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動と云い、出力部としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動と云う。例えば、この無段変速機1は、先の車両の例示に従えば、加速等の様に動力源側からトルクが入力部たる回転要素に入力されて当該回転要素を回転させているときが正駆動となり、減速等の様に駆動輪側から出力部たる回転中の回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されているときが逆駆動となる。
【0018】
この無段変速機1は、第1及び第2の回転要素10,20の内の少なくとも一方を転動部材40に押し付けることによって、第1から第3の回転要素10,20,30と転動部材40との間に適切な接線力(トラクション力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。尚、第1から第3の回転要素10,20,30の内の2つを各々トルクの入力部及び出力部とした場合、残りの回転要素における接線力は、入力部及び出力部となる回転要素の接線力と比較して小さく、略0になっている。また、この無段変速機1は、夫々の転動部材40を自身の第2回転中心軸R2と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面上で傾転させ、第1回転要素10と第2回転要素20との間の回転速度(回転数)の比を変化させることによって、入出力間の回転速度(回転数)の比を変える。
【0019】
ここで、この無段変速機1においては、第1及び第2の回転要素10,20が遊星歯車機構で云うところのリングギヤの機能を為すものとなる。また、第3回転要素30は、トラクション遊星ギヤ機構のサンローラとして機能する。また、転動部材40はトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンとして機能し、保持部材60はキャリアとして機能する。以下、第1及び第2の回転要素10,20については、各々「第1及び第2の回転部材10,20」と云う。また、第3回転要素30については「サンローラ30」と云い、転動部材40については「遊星ボール40」と云う。また、保持部材60については、「キャリア60」と云う。以下の例示では、キャリア60を固定要素とし、シャフト50に固定する。
【0020】
そのシャフト50は、図示しない筐体や車体等における無段変速機1の固定部に固定したものであり、その固定部に対して相対回転させぬよう構成した円柱状又は円筒状の固定軸とする。
【0021】
第1及び第2の回転部材10,20は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円盤部材(ディスク)や円環部材(リング)であり、軸線方向で対向させて各遊星ボール40を挟み込むように配設する。この例示においては、双方とも円環部材とする。
【0022】
この第1及び第2の回転部材10,20は、後で詳述する各遊星ボール40の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、例えば、遊星ボール40の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面、その外周曲面の曲率とは異なる曲率の凹円弧面、凸円弧面又は平面等の形状を成している。ここでは、後述する基準位置の状態で第1回転中心軸R1から各遊星ボール40との接触点までの距離が同じ長さになるように夫々の接触面を形成して、第1及び第2の回転部材10,20の各遊星ボール40に対する夫々の接触角θr1,θr2が同じ角度になるようにしている。その接触角θr1,θr2とは、基準から各遊星ボール40との接触点までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール40の外周曲面に対して点接触又は面接触している。また、夫々の接触面は、第1及び第2の回転部材10,20から遊星ボール40に向けて軸線方向の力(押圧力)が加わった際に、その遊星ボール40に対して径方向内側で且つ斜め方向の力(法線力)が加わるように形成されている。
【0023】
この例示においては、第1回転部材10を無段変速機1の正駆動時におけるトルク入力部として作用させ、第2回転部材20を無段変速機1の正駆動時におけるトルク出力部として作用させる。従って、その第1回転部材10には入力軸(第1回転軸)11が連結され、第2回転部材20には出力軸(第2回転軸)21が連結される。その入力軸11や出力軸21は、シャフト50に対する周方向の相対回転を行うことができる。尚、この無段変速機1は、入力軸11として設けているものを出力軸として利用し、出力軸21として設けているものを入力軸として利用してもよい。
【0024】
ここで、入力軸11と第1回転部材10との間には、軸力を発生させる軸力発生部71が設けられている。ここでは、その軸力発生部71としてトルクカムを利用する。従って、この軸力発生部71は、入力軸11側の係合部材と第1回転部材10側の係合部材とが係合することで、入力軸11と第1回転部材10との間で軸力を発生させると共に回転トルクを伝達させ、これらを一体になって回転させる。また、出力軸21と第2回転部材20との間には、その軸力発生部71と同様の軸力発生部72が配設されている。その軸力発生部71,72による軸力は、第1回転部材10と第2回転部材20とに伝わり、これらが各遊星ボール40を押圧する際の押圧力となる。
【0025】
サンローラ30は、シャフト50と同心上に配置され、このシャフト50に対する周方向への相対回転を行う。このサンローラ30の外周面には、複数個の遊星ボール40が放射状に略等間隔で配置される。従って、このサンローラ30においては、その外周面が遊星ボール40の自転の際の転動面となる。このサンローラ30は、自らの回転動作によって夫々の遊星ボール40を転動(自転)させることもできれば、夫々の遊星ボール40の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。このサンローラ30については、後で詳述する。
【0026】
遊星ボール40は、サンローラ30の外周面上を転がる転動部材である。この遊星ボール40は、完全な球状体であることが好ましいが、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。この遊星ボール40は、その中心を通って貫通させた支持軸41によって回転自在に支持する。例えば、遊星ボール40は、支持軸41の外周面との間に配設した軸受によって、第2回転中心軸R2を回転軸とした支持軸41に対する相対回転(つまり自転)ができるようにしている。従って、この遊星ボール40は、支持軸41を中心にしてサンローラ30の外周面上を転動することができる。その支持軸41の両端は、遊星ボール40から突出させておく。
【0027】
その支持軸41の基準となる位置は、図1に示すように、第2回転中心軸R2が第1回転中心軸R1と平行になる位置である。この支持軸41は、その基準位置で形成される自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面内において、基準位置とそこから傾斜させた位置との間を遊星ボール40と共に揺動(傾転)することができる。その傾転は、その傾転平面内で遊星ボール40の中心を支点にして行われる。
【0028】
キャリア60は、夫々の遊星ボール40の傾転動作を妨げないように支持軸41の夫々の突出部を保持する。このキャリア60は、例えば、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた第1及び第2の円盤部61,62を有するものである。その第1及び第2の円盤部61,62は、互いに対向させ、その間にサンローラ30や遊星ボール40が配置できるよう間隔を空けて配置する。このキャリア60は、第1及び第2の円盤部61,62の内周面側をシャフト50の外周面側に固定し、そのシャフト50に対する周方向への相対回転や軸線方向への相対移動が行えないようにしている。例えば、このキャリア60は、第1及び第2の円盤部61,62の内周面をシャフト50の外周面に対してスプライン嵌合させることで、そのような周方向への相対回転を禁止できる。また、軸線方向への相対移動を行わせない為には、第1及び第2の円盤部61,62の軸線方向における夫々の側面にスナップリング等の係止部材を配設すればよい。また、このキャリア60は、シャフト50に圧入することで相対回転と相対移動を規制してもよい。
【0029】
この例示では、その第1及び第2の円盤部61,62を図2に示す複数本の連結軸65で連結して、全体として籠状となるようにしている。これにより、このキャリア60は、外周面に開放部分を有することになる。各遊星ボール40は、その開放部分を介して第1回転部材10と第2回転部材20とに接している。
【0030】
この無段変速機1には、夫々の遊星ボール40の傾転時に支持軸41を傾転方向へと案内する為のガイド部63,64が設けられている。この例示では、そのガイド部63,64をキャリア60に設ける。ガイド部63,64は、遊星ボール40から突出させた支持軸41を傾転方向に向けて案内する径方向のガイド溝やガイド孔であり、第1及び第2の円盤部61,62の夫々の対向する部分に遊星ボール40毎に形成する(図3,4)。つまり、全てのガイド部63,64は、軸線方向(例えば図1の矢印Aの方向)から観ると夫々に放射状を成している。
【0031】
ガイド部63は、第1円盤部61の周方向が溝幅となるガイド溝であり、その軸線方向に溝底を有している。ここで、支持軸41のガイド部63側は、2つのローラガイド42,42で挟み込まれている。従って、ガイド部63は、支持軸41の直径だけでなく、その2つのローラガイド42,42の大きさも合わせた溝幅に形成する。そのローラガイド42は、第2回転中心軸R2に直交する回転軸を備えており、遊星ボール40の傾転に伴ってガイド部63の溝底上を転動する。
【0032】
一方、ガイド部64は、ガイド溝64aとガイド孔64bの複合形状とする。ガイド溝64aにおいては、ローラガイド42と同じローラガイド43が傾転時に溝底上を転動する。このガイド溝64aは、ガイド部63と同等のものであり、支持軸41を挟み込んだ2つのローラガイド43,43の大きさも考慮した溝幅に形成する。ガイド孔64bは、ガイド溝64aの溝幅方向における溝底の中央部分をくり抜いたものであり、支持軸41が挿入される。つまり、このガイド部64は、ガイド部63にガイド孔64bを設けたものである。
【0033】
この無段変速機1においては、夫々の遊星ボール40の傾転角θbが基準位置、即ち0度のときに、第1回転部材10と第2回転部材20とが同一回転速度(同一回転数)で回転する。つまり、このときには、第1回転部材10と第2回転部材20の回転比(回転速度又は回転数の比)が1となり、変速比γが1になっている。一方、夫々の遊星ボール40を基準位置から傾転させた際には、支持軸41の中心軸(第2回転中心軸R2)から第1回転部材10との接触点までの距離が変化すると共に、支持軸41の中心軸から第2回転部材20との接触点までの距離が変化する。これが為、第1回転部材10又は第2回転部材20の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えば第2回転部材20は、遊星ボール40を一方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも低回転になり(減速)、他方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも高回転になる(増速)。従って、この無段変速機1においては、その傾転角θbを変えることによって、第1回転部材10と第2回転部材20との間の回転比(変速比γ)を無段階に変化させることができる。尚、ここでの増速時(γ<1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させる。また、減速時(γ>1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させる。
【0034】
この無段変速機1には、その変速比γを変える変速装置が設けられている。変速比γは遊星ボール40の傾転角θbの変化に伴い変わるので、その変速装置としては、夫々の遊星ボール40を傾転させる傾転装置を用いる。ここでは、この変速装置が円盤状のアイリスプレート(傾転要素)80を備えている。
【0035】
そのアイリスプレート80は、その径方向内側の軸受を介してシャフト50に取り付けられており、そのシャフト50に対して第1回転中心軸R1を中心とする相対回転を行える。その相対回転には、図示しないモータ等のアクチュエータ(駆動部)を用いる。この駆動部の駆動力は、図5に示すウォームギア81を介してアイリスプレート80の外周部分に伝えられる。
【0036】
このアイリスプレート80は、夫々の遊星ボール40の入力側(第1回転部材10との接触部側)又は出力側(第2回転部材20との接触部側)で且つキャリア60の外側に配置する。この例示では、出力側に配置している。このアイリスプレート80には、支持軸41の一方の突出部が挿入される絞り孔(アイリス孔)82を形成する。その絞り孔82は、径方向内側の端部が起点の径方向を基準線Lと仮定する場合、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて基準線Lから周方向に離れていく弧状になっている(図5)。尚、その図5は、図1の矢印Aの方向から観た図である。
【0037】
支持軸41の一方の突出部は、アイリスプレート80が図5の紙面時計回り方向に回転することで、絞り孔82に沿ってアイリスプレート80の中心側に移動する。その際、支持軸41の夫々の突出部がキャリア60のガイド溝63,64に挿入されているので、絞り孔82に挿入されている一方の突出部は、径方向内側に移動する。また、その一方の突出部は、アイリスプレート80が図5の紙面反時計回り方向に回転することで、絞り孔82に沿ってアイリスプレート80の外周側に移動する。その際、この一方の突出部は、ガイド溝63,64の作用によって径方向外側に移動する。このように、支持軸41は、ガイド溝63,64と絞り孔82によって径方向に移動できる。従って、遊星ボール40は、上述した傾転動作が可能になる。
【0038】
ところで、上述したサンローラ30は、シャフト50と同心で且つ外径が軸線方向にて均一の円筒状のものである場合、その外周面における遊星ボール40との接触点が1箇所だけなので、その接触点だけで遊星ボール40からの荷重(法線力)を受け止めることになる。これが為、この場合には、その接触点におけるサンローラ30と遊星ボール40との間の摩擦損失が大きくなるだけでなく、サンローラ30や遊星ボール40の外周面を傷つけてしまう虞がある。
【0039】
そこで、本実施例においては、軸線方向に分散させた2つの第1及び第2の接触点P1,P2(図6)でサンローラ30と遊星ボール40とを接触させるように構成する。ここでは、そのサンローラ30の外周面の軸線方向における中央部分を周方向に渡って両端部側よりも径方向内側へと凹ませ、その窪み部に第1及び第2の接触点P1,P2ができるようにする。その窪み部の形状は、V字状でもよく、曲率半径が遊星ボール40の半径よりも大きい弧状でもよい。但し、傾転時(γ≠1)には、第1接触点P1の周速V1(=Rs1*ωb)と第2接触点P2の周速V2(=Rs2*ωb)との間にずれが生じる。「Rs1」は、第1接触点P1と第2回転中心軸R2との間の最短距離であり、「Rs2」は、第2接触点P2と第2回転中心軸R2との間の最短距離である。また、「ωb」は、遊星ボール40の角速度である。その第1及び第2の接触点P1,P2の間の周速差により、サンローラ30が一体構造の場合には、サンローラ30と遊星ボール40との間にスピン損失が発生する。故に、サンローラ30は、第1接触点P1を有する第1分割構造体と第2接触点P2を有する第2分割構造体の2分割構造にして、その相互間で第1回転中心軸R1を中心に相対回転できるように構成する。これにより、この無段変速機1においては、傾転時の第1及び第2の接触点P1,P2の間で周速差はあるが、第1分割構造体としての第1回転部材(以下、「第1サンローラ」という。)31と第2分割構造体としての第2回転部材(以下、「第2サンローラ」という。)32が個別の速度で回転する。これが為、この無段変速機1においては、サンローラ30と遊星ボール40との間のスピン損失を低減させることができ、動力伝達効率の低下を抑えることができる。また、この無段変速機1は、スピン損失の低減に伴いサンローラ30と遊星ボール40の耐久性が向上する。以下、具体的な構成について説明する。
【0040】
このサンローラ30は、窪み部の最深部を境にして、軸線方向における一方の外周面を有する第1サンローラ31と、他方の外周面を有する第2サンローラ32と、に分割する。その一方の外周面は第1接触点P1を有しており、他方の外周面は第2接触点P2を有している。このサンローラ30においては、第1接触点P1と第2接触点P2における第1回転中心軸R1からの最短距離を一定にし、且つ、第1接触点P1と第2接触点P2における各遊星ボール40の全ての重心(回転中心)を含む平面(以下、「分割基準平面」という。)からの最短距離を一定にするべく、第1サンローラ31と第2サンローラ32の夫々の外周面の形状について、窪み部の最深部を境にして少なくとも第1接触点P1と第2接触点P2の存在する部分が左右対称の位置関係で且つ同一形状になるようにする。
【0041】
第1サンローラ31は、外径が分割基準平面に向けて小さくなる第1筒状部31aと、この第1筒状部31aの分割基準平面側の端面から軸線方向に向けて同じ大きさの外径のまま延設した第2筒状部31bと、を有する。その第2筒状部31bの外径は、第1筒状部31aの最小外径よりも小さくする。この第1サンローラ31においては、第1筒状部31aの外周面上に第1接触点P1を有している。従って、第1筒状部31aの分割基準平面側の端面は、その第1接触点P1よりも分割基準平面側に設ける。一方、この第1サンローラ31においては、第2筒状部31bの外周面上で同心の第2サンローラ32を相対回転自在に支持する。これが為、この第2筒状部31bは、端面を第2サンローラ32よりもキャリア60に近づくように延設し、外周面全体で第2サンローラ32を支持できるようにする。
【0042】
この第1サンローラ31は、換言するならば、上記の窪み部を有する一体構造のサンローラにおいて、その窪み部の最深部を境にした軸線方向における一方に、その最深部よりも外径の小さい段付き部又は溝部を設けたものであり、その段付き部又は溝部を第2サンローラ32の収納部として利用する。
【0043】
この第1サンローラ31は、シャフト50に対する周方向の相対回転が同心上で行えるように、第1及び第2の軸受を介してシャフト50に取り付けられている。ここでは、その第1及び第2の軸受としてラジアル軸受RB1,RB2を用いる。そのラジアル軸受RB1,RB2は、第1サンローラ31の軸線方向における両端部の内周面とシャフト50の外周面との間に軸線方向に間隔を空けて配設したものであり、アウタレースを第1サンローラ31に嵌合させると共に、インナレースをシャフト50に嵌合させる。尚、この第1サンローラ31は、ラジアル軸受RB1,RB2の内輪の側面をキャリア60に当接させる等して、シャフト50に対する軸線方向への相対移動が禁止されるように構成してもよい。
【0044】
第2サンローラ32は、外径が分割基準平面に向けて小さくなる筒状に成形し、中心軸(第1回転中心軸R1)を合わせて第1サンローラ31の第2筒状部31bの外周面上に配置する。この第2サンローラ32は、外周面上に第2接触点P2を有している。従って、この第2サンローラ32の分割基準平面側の端面は、その第2接触点P2よりも分割基準平面側に設ける。
【0045】
また、この第2サンローラ32の外径と第1筒状部31aの外径については、分割基準平面を基点にした場合、この分割基準平面からの軸線方向における単位長さ当たりの変化量を一定にすることが好ましい。これにより、第1接触点P1と第2接触点P2の位置と形状が分割基準平面を境にして左右対称になるからである。例えば、その変化量が一定の場合、窪み部は、V字状になる。この場合には、第1筒状部31aと第2サンローラ32を円錐台の筒状に成形すればよい。また、その変化量が徐々に大きくなる等、一定でない場合、窪み部は、弧状になる。ここでは、第1回転中心軸R1に対する第1筒状部31aと第2サンローラ32の傾斜面の角度θs1,θs2が同じ大きさのV字状のものを例示している。
【0046】
この第2サンローラ32は、第3及び第4の軸受を介して第1サンローラ31の第2筒状部31bに回転自在に支持させる。第3軸受とは、第2サンローラ32の内周面と第2筒状部31bの外周面との間に配設する軸受であり、例えばラジアル軸受やニードルローラ軸受などが適用できる。ここでは、ニードルローラ軸受NRBを用いることにする。これにより、この第2サンローラ32は、第1サンローラ31に対する周方向の相対回転が行える。
【0047】
ここで、第1及び第2の接触点P1,P2においては、遊星ボール40からの軸線方向に向けたスラスト荷重が作用している。しかしながら、上記のニードルローラ軸受NRBは、そのスラスト荷重を受け止めることができない。そして、この無段変速機1においては、そのスラスト荷重を吸収できなければ、第1サンローラ31と第2サンローラ32とが軸線方向に相対移動してしまうので、サンローラ30と遊星ボール40との間のエネルギ損失が大きくなって、動力伝達効率の低下を招く虞がある。
【0048】
そこで、この第2サンローラ32は、第4軸受としてのスラスト軸受TB(又はアンギュラ軸受)を介して第1サンローラ31に取り付ける。ここでは、第2サンローラ32の外径の大きい方の端部(以下、「大径側端部」という。)をスラスト軸受TBの一方のレースとして利用する。他方のレースについては、その端部と軸線方向にて対向する円盤部材33を用いる。その円盤部材33は、内周面を第2筒状部31bの外周面に嵌合させたものである。この例示では、その円盤部材33の外側の側面を支える係止部材34が第2筒状部31bに固定されており、スラスト軸受TBが遊星ボール40からのスラスト荷重を受けることで、円盤部材33を第2筒状部31bに対して軸線方向にずらさないように、また、その円盤部材33が撓まないようにしている。これにより、この無段変速機1においては、そのスラスト軸受TBがスラスト荷重を吸収するので、サンローラ30と遊星ボール40との間の損失エネルギが小さくなり、動力伝達効率の低下を抑えることができる。
【0049】
更に、この無段変速機1は、スラスト軸受TBでスラスト荷重を受け止めるので、駆動時における第1接触点P1と第2接触点P2との間の相対的な軸線方向の位置ずれを抑えることもできる。従って、この無段変速機1においては、その第1及び第2の接触点P1,P2の位置ずれに起因する第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転数(角速度ωs1,ωs2)の変化、そして、その回転数(角速度ωs1,ωs2)の比の変化を抑制することができる。
【0050】
この無段変速機1においては、変速比γ=1のときに第1サンローラ31と第2サンローラ32が同じ回転数(ωs1=ωs2)で回転し、その間に周速差が発生しないので、スラスト軸受TBのレース間の回転差も発生しない。これが為、変速比γ=1のときには、スラスト軸受TBのレース間の回転差による損失エネルギが発生しないので、その回転差に起因する動力伝達効率の低下が起こらない。そして、このときの無段変速機1においては、ニードルローラ軸受NRBも作動しないので、このニードルローラ軸受NRBでも損失エネルギが発生せず、ニードルローラ軸受NRBの動作が原因となる動力伝達効率の低下も起こらない。また、このときの無段変速機1は、スラスト軸受TBやニードルローラ軸受NRBが作動していないので、このスラスト軸受TBやニードルローラ軸受NRBの耐久性が向上する。
【0051】
これに対して、この無段変速機1においては、傾転時(変速比γ≠1のとき)に第1サンローラ31と第2サンローラ32との間で周速差は生まれるが、第2サンローラ32を第1サンローラ31で回転自在に支持しているので、サンローラの分割構造体が各々変速機軸に軸受を介して保持される従来の形態と比較して、その周速差が小さくなり、スラスト軸受TBのレース間の回転差も小さくなる。これが為、傾転時(変速比γ≠1のとき)には、スラスト軸受TBのレース間の回転差による損失エネルギを低く抑えることができるので、その回転差に起因する動力伝達効率の低下を抑えることができる。そして、このときの無段変速機1においては、周速差の減少に伴いニードルローラ軸受NRBの動きが遅くなるので、このニードルローラ軸受NRBでも損失エネルギが低減し、ニードルローラ軸受NRBの動作が原因となる動力伝達効率の低下を抑えることができる。また、このときの無段変速機1は、スラスト軸受TBやニードルローラ軸受NRBの動きが小さいので、このスラスト軸受TBやニードルローラ軸受NRBの耐久性が向上する。
【0052】
ところで、この無段変速機1においては、要求変速比γ0への変速の際に、電子制御装置(ECU)100が変速装置を制御することで、その制御指令に応じた傾転角(以下、「要求傾転角」という。)θb0まで遊星ボール40が傾転させられる。そして、電子制御装置100は、遊星ボール40の実際の傾転角(以下、「実傾転角」という。)θb1が要求傾転角θb0に一致しているのか否かを判断し、これらの間にずれが生じている場合、変速装置を制御して、実傾転角θb1を要求傾転角θb0に一致させるように補正することがある。その比較判断の際、電子制御装置100は、実傾転角θb1を求める。
【0053】
ここで、遊星ボール40の傾転角θbは、この無段変速機1の変速比γと一意の関係にある。そして、この例示において、その変速比γは、前述したように、第1回転部材10と第2回転部材20の回転比(回転速度又は回転数の比)に一致している(下記の式1)。「ωin」は、第1回転部材10の角速度であり、「ωout」は、第2回転部材20の角速度である。また、その式1に示すように、変速比γは、入力側距離Rinと出力側距離Routとの比にも一致している。入力側距離Rinとは、入力側接触点Pinと第2回転中心軸R2との間の最短距離のことであり、出力側距離Routとは、出力側接触点Poutと第2回転中心軸R2との間の最短距離のことである。入力側接触点Pinとは、第1回転部材10と遊星ボール40との接触点のことであり、出力側接触点Poutとは、第2回転部材20と遊星ボール40との接触点のことである。
【0054】
γ=Rout/Rin=ωout/ωin … (1)
【0055】
このことから、第1回転部材10の角速度ωinと第2回転部材20の角速度ωoutが明らかになれば、電子制御装置100は、夫々の角速度ωin,ωoutから実際の変速比(以下、「実変速比」という。)γ1を求め、この実変速比γ1から実傾転角θb1を演算することができる。夫々の角速度ωin,ωoutは、第1回転部材10と第2回転部材20とに各々設けた回転角センサを用いて、夫々の回転角度の検出値から演算させればよい。
【0056】
しかしながら、この無段変速機1においては、トルクの入力部及び出力部である第1及び第2の回転部材10,20と各遊星ボール40との間で接線力(トラクション力)が作用するので、この間に滑りを生じさせる。そして、例えば、正駆動時には、動力源からのトルクが第1回転部材10に入力されるので、この第1回転部材10と遊星ボール40との間の方が第2回転部材20との間よりも滑り量が多くなる。従って、正駆動時には、実傾転角θb1=0、つまり入力側距離Rinと出力側距離Routとが同じ長さ(Rin=Rout)の場合であっても、第1回転部材10の角速度ωinの方が第2回転部材20の角速度ωoutよりも大きくなり、実変速比γ1=1と演算されるべきなのに、1よりも小さい値が演算されてしまう(γ1<1)。逆駆動の場合には、逆に第2回転部材20の角速度ωoutが大きくなり、1よりも大きく実変速比γ1が演算されてしまう(γ1>1)。故に、このままでは、実変速比γ1や実傾転角θb1の推定精度が低下してしまう。
【0057】
また、電子制御装置100は、その実変速比γ1と要求変速比γ0との偏差又は実傾転角θb1と要求傾転角θb0との偏差に基づいて、第1及び第2の回転部材10,20と各遊星ボール40との間の滑り量の推定を行うこともある。しかし、その実変速比γ1や実傾転角θb1の推定精度の低下に伴い、その滑り量の推定精度についても低下してしまう。
【0058】
そこで、この無段変速機1においては、実変速比γ1や実傾転角θb1の推定精度の向上を図る。
【0059】
サンローラ30側に着目してみると、第1サンローラ31における第1接触点P1と第2サンローラ32における第2接触点P2とは、遊星ボール40の重心(前述した分割基準平面)を中心にして軸線方向に分散しており、左右対称の位置関係にある。これが為、この無段変速機1においては、前述した距離Rs1,Rs2の比が変速比γになる(下記の式2)。そして、第1サンローラ31や第2サンローラ32に滑りが発生していなければ、その変速比γは、第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比(回転速度又は回転数の比)に一致する。式2は、第1サンローラ31の角速度ωs1と第2サンローラ32の角速度ωs2に基づいた演算式である。
【0060】
γ=Rs1/Rs2=ωs1/ωs2 … (2)
【0061】
ここで、上記の様に実変速比γ1や実傾転角θb1の推定精度が低下する主な理由は、トルク入力に伴い生じた接線力による滑りの発生である。しかしながら、第1サンローラ31と各遊星ボール40との間、第2サンローラ32と各遊星ボール40との間においては、第1サンローラ31や第2サンローラ32にトルクが入力されないので、接線力が略0になり、滑りは無視できる。これが為、第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比から得られた変速比γは、実変速比γ1に一致する。従って、この無段変速機1においては、第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比を求めさせ、この回転比を実変速比γ1とする。このように、この無段変速機1では、実変速比γ1の推定精度が高くなる。
【0062】
また、電子制御装置100は、その実変速比γ1から実傾転角θb1を精度良く求めることができる。更に、この電子制御装置100は、その実変速比γ1と要求変速比γ0との偏差又は実傾転角θb1と要求傾転角θb0との偏差に基づいて、第1及び第2の回転部材10,20と各遊星ボール40との間の滑り量の推定を行うこともできる。この無段変速機1においては、その偏差についても精度の高い値が得られるので、その滑り量を高精度に推定することができる。
【0063】
この無段変速機1においては、第1サンローラ31の回転角度の検出が可能な回転角センサ91をキャリア60の第2円盤部62に配設し、且つ、第2サンローラ32の回転角度の検出が可能な回転角センサ92を第1円盤部61に配設する(図1,2,6)。その回転角センサ91,92の信号線93は、電子制御装置100に接続される。この信号線93は、キャリア60の連結軸65の内部を通って夫々の回転角センサ91,92に分岐している。電子制御装置100は、その回転角センサ91,92の検出信号に基づいて、第1サンローラ31の角速度ωs1と第2サンローラ32の角速度ωs2を求める。
【0064】
回転角センサ91,92には、例えば、所謂ギャップセンサや磁気センサ等であって、測定対象物との距離の変化により検出値が変化するものを用いる。これが為、回転角センサ91は、その検出部を第1サンローラ31の第1筒状部31aにおける大径側端部の端面に対向させて配置する。その第1サンローラ31の大径側端部には、図7に示すように、回転角センサ91の検出部に対向させた溝部31cが周方向に等間隔で形成されている。これにより、この大径側端部の端面と回転角センサ91の検出部との間においては、第1サンローラ31の回転中に溝部31cを有する部分と有しない部分とが交互に等間隔で表れるので、その間隔で距離の変化が表れる。また、回転角センサ92は、その検出部を第2サンローラ32における大径側端部の端面に対向させて配置する。その第2サンローラ32の大径側端部には、図8に示すように、回転角センサ91の検出部に向けて突出させた突出部32aが周方向に等間隔で形成されている。これにより、この大径側端部の端面と回転角センサ92の検出部との間においては、第2サンローラ32の回転中に突出部32aを有する部分と有しない部分とが交互に等間隔で表れるので、その間隔で距離の変化が表れる。
【0065】
以上示したように、この無段変速機1は、遊星ボール40との間で接線力及び滑りの発生しない第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比に基づいて実変速比γ1の推定を行うので、この実変速比γ1の推定精度が高くなる。そして、これにより、この無段変速機1は、その実変速比γ1に基づき演算される実傾転角θb1の推定精度も高くなり、また、その実変速比γ1と要求傾転角θb0との偏差に基づき演算される第1及び第2の回転部材10,20と各遊星ボール40との間の滑り量の推定精度も高くなる。
【0066】
更に、この無段変速機1は、サンローラ30が遊星ボール40との間に2つの第1及び第2の接触点P1,P2を有しているので、その間の摩擦損失を小さくして動力伝達効率の低下を抑えることが可能であり、且つ、サンローラ30や遊星ボール40における外周面の傷の発生を抑えることも可能である。また、この無段変速機1は、各々の分割構造体(第1サンローラ31と第2サンローラ32)が夫々に第1接触点P1と第2接触点P2を有するようにサンローラ30を2分割構造にし、第1サンローラ31と第2サンローラ32が相互間で相対回転できるように構成しているので、サンローラ30と遊星ボール40との間のスピン損失を低減させることができ、動力伝達効率の低下の抑制や耐久性の向上が可能になる。また、この無段変速機1は、ニードルローラ軸受NRBとスラスト軸受TBを介して第1サンローラ31で第2サンローラ32を相対回転自在に支持し、その第1サンローラ31をラジアル軸受RB1,RB2を介してシャフト50に相対回転自在に支持させており、遊星ボール40から第1サンローラ31と第2サンローラ32とに入力したスラスト荷重をスラスト軸受TBで吸収できるので、動力伝達効率の低下を抑えることが可能になる。また、この無段変速機1は、周速差が0又は小さい第1サンローラ31と第2サンローラ32との間にスラスト軸受TB及びニードルローラ軸受NRBを介在させているので、そのスラスト軸受TBやニードルローラ軸受NRBでの損失エネルギが小さくなり、動力伝達効率の低下の抑制や耐久性の向上が可能になる。このように、この無段変速機1に依れば、動力伝達効率の低下を抑えると共に、耐久性を向上させることができる。
【0067】
ここで、上述した実変速比γ1の推定は、第1回転部材10と第2回転部材20とを各遊星ボール40とシャフト50との間に配置し、且つ、第1サンローラ31及び第2サンローラ32と同形状の回転部材を各遊星ボール40よりも径方向外側に配置した無段変速機、つまり第1及び第2の回転部材10,20とサンローラ30の位置関係を入れ替えた無段変速機に適用してもよく、上記と同様の推定精度を得ることができる。尚、この場合の無段変速機においても、第1及び第2の回転部材10,20がトルクの入力部及び出力部となり、第1サンローラ31と第2サンローラ32の回転比に基づいて実変速比γ1を推定する。
【符号の説明】
【0068】
1 無段変速機
10 第1回転部材(第1回転要素)
20 第2回転部材(第2回転要素)
30 サンローラ(第3回転要素)
31 第1サンローラ
31a 第1筒状部
31b 第2筒状部
31c 溝部
32 第2サンローラ
32a 突出部
33 円盤部材
34 係止部材
40 遊星ボール(転動部材)
41 支持軸
50 シャフト(変速機軸)
60 キャリア(保持部材)
80 アイリスプレート
91,92 回転角センサ
100 電子制御装置
P1 第1接触点
P2 第2接触点
R1 第1回転中心軸
R2 第2回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心となる変速機軸と、
前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、
前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、
前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、
前記支持軸の夫々の突出部を介して前記転動部材を傾転自在に保持する保持部材と、
前記転動部材との第1接触点を有する第1筒状部及び当該第1筒状部から軸線方向に延設した第2筒状部を具備し、前記変速機軸に対する同心上での相対回転が可能な第1回転部材、並びに、前記転動部材との第2接触点を有し、前記第2筒状部の周面に沿って前記第1回転部材に対する同心上での相対回転が可能な第2回転部材を備えた第3回転要素と、
前記第1回転要素と前記第2回転要素との間の回転比を前記各転動部材の傾転動作によって変化させることで変速比を変える変速装置と、
を備え、
前記第1回転要素をトルクの入力部、前記第2回転要素をトルクの出力部とした場合、前記第3回転要素における前記第1回転部材と前記第2回転部材の回転比に基づいて実変速比を推定することを特徴とした無段変速機。
【請求項2】
推定した前記実変速比に基づいて前記転動部材の実傾転角を推定することを特徴とした請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
推定した前記実変速比と要求変速比に基づいて前記第1及び第2の回転要素と前記各転動部材との間の滑り量を推定することを特徴とした請求項1又は2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第1及び第2の回転要素は、径方向内側に前記各転動部材との接触点を有し、前記第3回転要素における前記第1及び第2の回転部材は、径方向外側に前記各転動部材との接触点を有することを特徴とした請求項1,2又は3に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255510(P2012−255510A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129794(P2011−129794)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】