説明

無段変速装置

【課題】トロイダル型無段変速機14を構成する押圧装置10aに必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)の低減を図り、変速幅を確保しつつ、小型、軽量で優れた伝達効率を有する無段変速装置を実現する。
【解決手段】入力軸12及び出力軸13と、トロイダル型無段変速機14及び第一〜第四の遊星歯車機構15〜18と、第一、第二の動力伝達機構19、20と、高速用、低速用、後退用、低速前進用、各クラッチ21、22、23、24とを備える。そして、上記トロイダル型無段変速機14に入力される動力が最も大きくなる低速モード状態で、駆動源からの動力が各外側ディスク2、2に入力される様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用自動変速装置として、或はポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の変速装置として利用する無段変速装置の改良に関する。具体的には、トロイダル型無段変速機を構成する押圧装置に必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)の低減を図り、変速幅を確保しつつ、小型、軽量で優れた伝達効率を有する無段変速装置を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの刊行物に記載されている様に、例えば自動車用自動変速装置として、トロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。図10は、この様なトロイダル型無段変速機のうち、ダブルキャビティ型と呼ばれる構造を示している。このトロイダル型無段変速機は、回転軸1の両端部周囲に1対の外側ディスク2、2を、それぞれボールスプライン3、3を介して、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持している。又、上記回転軸1の中間部周囲に歯車4を、この回転軸1に対する相対回転を自在として支持すると共に、この歯車4の軸方向両側に1対の内側ディスク5、5を、この歯車4と同期した回転を自在に支持している。
【0003】
又、上記両外側ディスク2、2と上記両内側ディスク5、5との間にそれぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)挟持したパワーローラ6、6を、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持している。これら各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図10の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸(図示せず)を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、図示しない油圧式のアクチュエータにより、これら各トラニオン7、7を上記枢軸の軸方向に変位させる事により行なう。
【0004】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の駆動源(動力源)に繋がる駆動軸9により一方(図10の左方)の外側ディスク2を、ローディングカム式の押圧装置10を介して回転駆動する。この結果、上記回転軸1の両端部に支持された1対の外側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記両内側ディスク5、5に伝わり、上記歯車4から取り出される。尚、上記押圧装置10として、図示の例の様なローディングカム式のものの他、圧油の導入に基づいて押圧力を発生させる油圧式のものも、従来から知られている。上記ローディングカム式の押圧装置10の場合は、上記トロイダル型無段変速機に入力される動力(トルク)の大きさに比例した押圧力を発生させられる。これに対して、上記油圧式の押圧装置の場合には、この押圧装置に発生させる押圧力を、導入する圧油の調節に基づいて微細に調節する事ができる。
【0005】
上記回転軸1と歯車4との回転速度の比を変える場合で、先ず回転軸1と歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図10に示す位置に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面(トラクション面)をこの図10に示す様に、上記両内側ディスク2、2の内側面に設けたトロイド曲面(トラクション面)の中心寄り部分と、上記両外側ディスク5、5の内側面に設けたトロイド曲面(トラクション面)の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図10と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面を、図10に示した状態とは逆に、上記両外側ディスク2、2のトロイド曲面の外周寄り部分と、上記両内側ディスク5、5のトロイド曲面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、上記回転軸1と歯車4との間で、中間の速度比(変速比)を得られる。
【0006】
又、上述の様なトロイダル型無段変速機と、歯車式の差動機構である遊星歯車機構とを組み合わせて、実現できる変速度比{変速比(減速比)、速度比(増速比)=1/変速比}の幅を広くした無段変速装置も、例えば特許文献1、2に記載されている様に、従来から知られている。このうちの特許文献1には、トロイダル型無段変速機のみで動力(トルク)を伝達するモード(低速モード)と、遊星歯車機構により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速度比の調節を行なう、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、特許文献2には、トロイダル型無段変速機の変速度比を所定値(GN値、GNポイント)にする事により、入力軸を一方向に回転させたまま出力軸の回転状態を停止させる、所謂ギヤードニュートラル状態(GN状態)を実現できるモード(低速モード)と、パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。
【0007】
この様な無段変速装置のうち、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた構造の場合には、トロイダル型無段変速機の変速度比を調節する事により、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転に切り換えられる為、トルクコンバータ、発進クラッチ等の発進装置を省略でき、自動変速装置の小型・軽量化を図れる。又、これと共に、上記トルクコンバータがロックアップしていない状態や、上記発進クラッチの接続が半クラッチの状態で走行を行なう必要がなくなる。この為、駆動源であるエンジンからの動力を、出力軸、延いては車輪(タイヤ)に効率良く伝達でき、発進性能の向上も図れる(ダイレクト感のある、応答性の優れた発進フィーリングを得られる)。又、パワースプリット状態を実現できるモードを備えた構造の場合には、動力の一部を、トロイダル型無段変速機をバイパスさせて出力軸に送る事ができる。言い換えれば、入力軸に加えられる動力に比べ、上記トロイダル型無段変速機を通過する動力を低く抑える事ができ、このトロイダル型無段変速機の耐久性の向上、無段変速装置全体としての伝達効率の向上、並びに、許容伝達動力の増大を図れる。
【0008】
上述の様な、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて成る無段変速装置の場合、これらトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを通過する動力の伝達経路を、クラッチ装置(クラッチ、ブレーキ)の断接に基づいて切り換える。そして、この様なクラッチ装置の切り換え(動力伝達経路の切り換え)に基づいて、運転モードの切り換えを行なう。例えば、上記クラッチ装置を高速用、低速用各クラッチにより構成した場合は、このうちの低速用クラッチを接続すると共に高速用クラッチの接続を断つ事により低速モードを、同じく低速用クラッチの接続を断つと共に高速用クラッチを接続する事により高速モードを、それぞれ実現する。そして、これら低速用、高速用各クラッチの断接状態を切り換える事により、上記低速モードと上記高速モードとの間で運転モードの切換を行なう。
【0009】
この様に運転モードの切り換えを行なう無段変速装置の場合、このモード切換の前後で、上記トロイダル型無段変速機を通過する動力の方向が反転する構造が多い。即ち、上記トロイダル型無段変速機を構成する各ディスクのうち、駆動源であるエンジンからの動力が入力される側となるディスク(入力側ディスク)と同じく出力する側となるディスク(出力側ディスク)とが、モード切換の前後で切り換わる構造が多い。尚、前述の図10に示した構造の様な、トロイダル型無段変速機単体で自動変速装置を構成する場合には、駆動源であるエンジンからの動力が入力されるディスクが、外側ディスクと内側ディスクとのうちの何れか一方のディスクに限られる。即ち、上記図10の構造の場合は、各外側ディスク2、2が、駆動源からの動力が常に入力される入力側ディスクとなり、各内側ディスク5、5が出力側ディスクとなる。又、運転モードの切り換えを行なう無段変速装置でも、モード切換の前後でトロイダル型無段変速機を通過する動力が反転しない(入力側のディスクと出力側のディスクとが切り換わらない)構造も考えられているが、この様な構造は本発明の対象ではない(後述する様な不都合は生じない)。
【0010】
何れにしても、前述の特許文献1、2に記載された構造の場合、モード切換の前後でトロイダル型無段変速機を通過する動力の方向が反転する。例えば、特許文献1に記載された構造の場合には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達する低速モードでは、駆動源からの動力が外側ディスクに入力されるのに対して、パワースプリット状態を実現する高速モードでは、内側ディスクに上記動力が入力される。又、特許文献2に記載された構造の場合は、ギヤードニュートラル状態を実現する低速モードで、駆動源からの動力が内側ディスクに入力されるのに対して、パワースプリット状態を実現する高速モードでは、外側ディスクに上記動力が入力される。
【0011】
一方、上述の様な無段変速装置を構成するトロイダル型無段変速機を含む、前述の図10に示した様なダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機の場合、同じ大きさ(一定)の動力が入力されている状態でも、この動力が入力されるディスクが外側ディスクか内側ディスクかによって、このトロイダル型無段変速装置を構成する押圧装置に必要とされる押圧力(出力すべき押圧力)の大きさが(変速度比に応じて)変わる。図11は、上記図10に示した様なダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機に一定の動力を入力している状態での、速度比(外側ディスク2、2と内側ディスク5、5との回転速度比)の絶対値と押圧装置に必要とされる押圧力(出力すべき押圧力)との関係を示している。この図11中、実線Aは、各外側ディスク2、2に動力が入力されている状態で必要とされる押圧力を、同じく破線Bは、各内側ディスク5、5に動力が入力されている状態で必要とされる押圧力を、それぞれ示している。
【0012】
この様な図11から明らかな様に、上記各外側ディスク2、2に動力が入力されている状態では、必要とされる押圧力が変速領域全体に亙って略一定になるのに対して、各内側ディスク5、5に動力が入力されている状態では、速度比の絶対値が大きくなる程、必要とされる押圧力が大きくなる。又、これら各内側ディスク5、5に動力が入力されている状態で必要とされる押圧力の最大値は、上記各外側ディスク2、2に動力が入力されている状態での最大値に比べ1.7倍程度まで大きくなる。前述した様に、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて成る無段変速装置の場合、モード切換の前後でトロイダル型無段変速機を通過する動力の方向が反転する。この様な構造の場合、このトロイダル型無段変速機を構成する各外側ディスク2、2と各内側ディスク5、5との何れもが、駆動源からの動力が入力される入力側ディスクとなる。この為、この様な動力の入力状態によっては、上記押圧装置に必要とされる最大押圧力(発生させるべき最大押圧力)が大きくなり、この最大押圧力を発生させるべく、例えば上記押圧装置が大型化する可能性がある。即ち、例えば油圧式の押圧装置を用いる場合には、この押圧装置を構成するピストンの受圧面積を大きくする必要がある。又、大きな油圧を発生させるべく、大型のポンプを使用する必要もあり、この様な大型のポンプを駆動する分、効率が低下(損失が増大)する可能性もある。又、ローディングカム式(機械式)の押圧装置を用いる場合には、変速比の変化に拘わらず、トロイダル型無段変速機に入力される動力に応じた最大押圧力に対応する押圧力が発生する事になり、その分過剰な押付力が付与され易くなる。
【0013】
又、上述の様に最大押圧力が大きくなると、必要な強度並びに耐久性を確保する為に、例えばトロイダル型無段変速機を構成する回転軸1(図10参照)を太く(直径を大きく)する必要がある。この様な場合、トロイダル型無段変速機全体としての大型化や重量増大を招く他、実現できる変速比幅が小さくなる可能性もある。即ち、前述の図10から明らかな様に、上記回転軸1の直径を大きくすると、外側、内側各ディスク2、5の中心孔11、11の内径も大きくなり、その分これら中心孔11、11の内周面とトラクション面の内径側周縁との径方向距離Xが短縮する。この様な径方向距離Xの短縮は、上記外側、内側各ディスク2、5の強度を低下させる等、好ましくない。これに対して、この径方向距離Xを確保すべく、上記トラクション面の内径を大きくし、このトラクション面の径方向に関する幅寸法を小さくすると、実現できる変速比幅が小さくなる。又、これら径方向距離Xと変速比幅との両方を確保する為には、上記外側、内側各ディスク2、5の径方向寸法を大きくする必要があり、上記トロイダル型無段変速機全体として大型化、重量増大を招く等、好ましくない。
【0014】
【特許文献1】特開平11−63146号公報
【特許文献2】特開2000−220719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、トロイダル型無段変速機を通過する動力が運転モードに応じて反転する構造で、このトロイダル型無段変速機を構成する押圧装置に必要とされる最大押圧力(出力すべ最大押圧力)の低減を図り、変速幅を確保しつつ、小型、軽量で優れた伝達効率を有する構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の無段変速装置は何れも、入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、少なくとも1個の遊星歯車機構と、これらトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを通過する動力(トルク)の伝達経路を切り換える為の少なくとも2個のクラッチ装置(クラッチ、ブレーキ)とを組み合わせて成る。
このうちのトロイダル型無段変速機は、動力の伝達を、互いに並列な2系統で行なう、所謂ダブルキャビティ型のものであり、1対の外側ディスクと、1対或は一体型の内側ディスクと、複数個のパワーローラと、押圧装置とを備える。
このうちの各外側ディスクは、上記入力軸又はこの入力軸と共に回転する回転軸を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持されている。
又、上記内側ディスクは、上記両外側ディスク同士の間に、これら両外側ディスクと同心に、且つ、これら両外側ディスクとは独立した回転を自在として支持されている。
又、上記各パワーローラは、上記内側ディスクの両側面と上記両外側ディスクの側面との間にそれぞれ挟持されて、これら内側ディスクと外側ディスクとの間で動力を伝達する。
又、上記押圧装置は、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとを互いに近付く方向に押圧する。
又、上記無段変速装置を構成する各クラッチ装置は、断接状態の切り換えに基づく上記動力の伝達経路を切り換えに応じて、少なくとも2つの運転モードのうちの何れかの運転モードに切り換える。
又、この運転モードの切り換えに伴って、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力の方向が反転する(トロイダル型無段変速機を通過する動力の方向が反転する)。
【0017】
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記各運転モードのうち、駆動源からの動力に基づいて上記出力軸を駆動している状態{例えば無段変速装置を組み込んだ車両を駆動(例えば加速)している状態}での、上記外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力が最も大きくなる状態(トロイダル型無段変速機に入力される動力が最も大きくなる状態)を有する運転モードで、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する。
【0018】
より具体的には、請求項1に記載した無段変速装置の場合には、上記各運転モードのうち少なくとも2つの運転モードを、駆動源からの動力の一部を上記トロイダル型無段変速機をバイパスして上記出力軸に伝達する運転モード(パワースプリットモード)とする。そして、上記各運転モードのうち、駆動源からの動力に基づいて上記出力軸を駆動している状態での、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力が最も大きくなる状態(動力最大値)を有する運転モードで、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する。尚、動力最大値を有する運転モードとこの動力が入力されるディスクとの関係は、例えば、トルクコンバータの有無、遊星歯車機構の減速比、動力伝達機構を構成する歯車やスプロケットの歯数比、これら遊星歯車機構と動力伝達機構の配置(レイアウト)等に応じて変化する。この為、これら減速比、歯数比、配置並びに使用条件等を勘案して、上記動力最大値を有する運転モードで上記動力が外側ディスクに入力される様に規制する。
【0019】
又、請求項2に記載した無段変速装置の場合には、上記各運転モードのうちの何れかの運転モードを、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸を停止させるギヤードニュートラル状態を実現する運転モード(ギヤードニュートラルモード)とする。そして、この運転モード(ギヤードニュートラルモード)で、且つ、上記駆動源からの動力に基づいて正転方向(例えば前進方向)に対応する駆動力を上記出力軸から出力させている状態{例えば無段変速装置を組み込んだ車両を前進方向に駆動(加速)している状態}で、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する。この様なギヤードニュートラルモードを有する構造の場合、このギヤードニュートラル状態で、上記トロイダル型無段変速機の変速度比を調節する事により、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転に切り換えられる。そして、この様な出力軸の正転、逆転に応じて、上記トロイダル型無段変速機を通過する動力が反転するが、使用頻度の高い正転状態(前進走行に対応する状態)で、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する。この様な規制も、遊星歯車機構の減速比、動力伝達機構を構成する歯車やスプロケットの歯数比、これら遊星歯車機構と動力伝達機構の配置(レイアウト)、使用条件等を勘案して行なう。
【0020】
又、例えば上記各運転モードを、駆動源からの動力をそのままトロイダル型無段変速機に入力する(トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達する)第一運転モードと、この駆動源からの動力の一部を、上記トロイダル型無段変速機をバイパスして出力軸に伝達する第二運転モード(パワースプリットモード)とにより構成した場合には、このうちの第一運転モードで、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する事もできる。この様な場合も、トルクコンバータの有無、遊星歯車機構の減速比、動力伝達機構を構成する歯車やスプロケットの歯数比、これら遊星歯車機構と動力伝達機構の配置(レイアウト)、使用条件等を勘案して、上記第一運転モードで上記動力が外側ディスクに入力される様に規制する。
【0021】
尚、上述した何れの運転モードの状態でも、駆動状態、即ち、駆動源からの動力に基づいて出力軸を駆動している状態{例えば無段変速装置を組み込んだ車両を駆動(例えば加速)している状態}と、制動状態(コースト状態、惰性走行状態)、言い換えれば、車輪側から上記出力軸に加わる力に応じて上記駆動源が駆動される状態(例えば無段変速装置を組み込んだ車両でエンジンブレーキが加わっている状態)とで、上記トロイダル型無段変速機を通過する動力の方向(各外側ディスクと内側ディスクとの間で伝達される動力の方向)が反転する。但し、上記制動状態での、上記トロイダル型無段変速機を通過する動力の大きさは、上記駆動状態での動力に比べて小さい。又、例えば車両に無段変速装置を組み込んだ状態を考えれば、運転時間全体に占める制動状態の運転時間は少ない。この為、本発明では、トロイダル型無段変速機に入力される動力が最も大きくなる状態(動力最大値)を、上記駆動状態(駆動源からの動力に基づいて出力軸を駆動している状態)を基準としている。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置によれば、トロイダル型無段変速機を構成する押圧装置に必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)を低減でき、変速幅を確保しつつ、小型、軽量に構成できると共に、伝達効率の確保を高次元で図れる。
即ち、本発明の無段変速装置の場合は何れも、上記トロイダル型無段変速機に入力される動力が最も大きくなる状態(最大動力値)を有する運転モードで、この動力が各外側ディスクに入力される。この為、前述の図11を参照すれば明らかな様に、この様な運転モードで上記動力が内側ディスクに入力される構造に比べて、上記トロイダル型無段変速機を構成する押圧装置に必要とされる最大押圧力(発生させるべき最大押圧力)を小さくできる。この結果、例えば押圧装置として油圧式のものを用いる場合には、この押圧装置並びにポンプの小型化を図れると共に、このポンプの動力損失の低減を図れ、無段変速装置全体としての高効率化(伝達効率の向上)を図れる。又、例えばトロイダル型無段変速機を構成する各外側ディスクと共に回転する、入力軸又は回転軸を、小径にできる(細くできる)。この為、変速比幅の確保と外側、内側各ディスクの強度、耐久性の確保との両立を図れると共に、上記トロイダル型無段変速機、延いては無段変速装置全体として、小型・軽量に構成できる。又、上述の様に押圧装置が出力する押圧力を小さくできる分、回転部分を支承する各軸受部分に加わる負荷を小さくできる為、この面からも損失の低減による伝達効率の向上を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の無段変速装置は、入力軸12及び出力軸13と、トロイダル型無段変速機14及び第一〜第四の遊星歯車機構15〜18と、第一、第二の動力伝達機構19、20と、高速用、低速用両クラッチ21、22から成るクラッチ装置と、後退用クラッチ23と、低速前進用クラッチ24とを備える。
【0024】
このうちの入力軸12及び出力軸13は、軸方向に離隔した状態で、互いに同心に、且つ、相対回転自在に設置されている。又、上記トロイダル型無段変速機14及び上記各遊星歯車機構15〜18は、動力の伝達方向に関して、上記入力軸12と出力軸13との間に設置されている。又、上記第一、第二の動力伝達機構19、20は、上記トロイダル型無段変速機14と上記第一の遊星歯車機構15との間で動力を伝達させる。更に、上記高速用、低速用両クラッチ21、22は、上記第一、第二の両動力伝達機構19、20による動力伝達状態を切り換えるものである。
【0025】
尚、上記第一〜第四の遊星歯車機構15〜18のうちの、前段側に配置した第一の遊星歯車機構15は、通常の前進用(低速モード、高速モード)に使用するものである。又、中段に配置した第二の遊星歯車機構16は、低速前進用(低速前進モード)に使用するものである。又、次(後段側)に配置した第三の遊星歯車機構17は、後退用(後退モード)に使用するものである。更に、最後段に配置した第四の遊星歯車機構18は、減速用のものである。これら各遊星歯車機構15〜18は、何れも、上記入力軸12及び上記出力軸13と同心に配置されている。
【0026】
又、上記トロイダル型無段変速機14は、1対の外側ディスク2、2と、1対(又は一体型)の内側ディスク5、5と、複数個のパワーローラ6、6(図10参照、図1には省略)とを備えたダブルキャビティ型である。上記両外側ディスク2、2は、軸方向に互いに離隔した状態で、同期して回転する。又、上記両内側ディスク5、5は、上記両外側ディスク2、2同士の間に、これら両外側ディスク2、2と同心に、且つ、これら両外側ディスク2、2に対する相対回転を自在に設けられている。又、上記各パワーローラ6、6は、これら両外側ディスク2、2及び上記両内側ディスク5、5の互いに対向する側面同士の間に、それぞれ複数個ずつ配置されている。そして、前述の図10に示した構造と同様に作用して、上記両外側ディスク2、2と上記両内側ディスク5、5との間の変速度比を変える。本例の場合、これら両外側ディスク2、2と上記両内側ディスク5、5とのうちの何れが入力側ディスクとなり、何れが出力側ディスクとなるかは、上記高速用、低速用両クラッチ21、22の断接に基づく、高速モードと低速モードとの切り換えにより変化する。又、本例の場合は、上記各外側ディスク2、2と上記内側ディスク5、5とを互いに近付く方向に押圧する押圧装置10aを、油圧式のものとしている。本例の場合は、この押圧装置10aに発生させる押圧力を、その時点でのトロイダル型無段変速機に入力される動力(トルク)並びに変速度比の値に応じて適切に調節する。尚、押圧装置をローディングカム式等の機械式のものとしても良いが、変速比に応じて押圧力を調節することが難しい為、その分発生する押圧力が若干過剰になる範囲が大きくなる可能性がある。
【0027】
そして、エンジン等の駆動源(動力源)から、ダンパ25を介して上記入力軸12に入力された動力を、前段側(駆動源側)に配置した、上記第一の遊星歯車機構15を構成する第一のリング歯車26に、上記トロイダル型無段変速機14を介する事なく、直接入力している。上記第一の遊星歯車機構15は、それぞれが第一のキャリア27に回転自在に支持されて対となる第一の遊星歯車28a、28bを互いに噛合させると共に、このうちの内径寄りの遊星歯車28a、28aを第一の太陽歯車29に、外径寄りの遊星歯車28b、28bを上記第一のリング歯車26に、それぞれ噛合させる、ダブルピニオン式のものとしている。
【0028】
又、上記第一の遊星歯車機構15を構成する上記第一の太陽歯車29と上記トロイダル型無段変速機14を構成する外側ディスク2、2とを、前記第一の動力伝達機構19を介して接続している。この第一の動力伝達機構19は、上記第一の太陽歯車29と共に回転する歯車30と、上記両外側ディスク2、2と共に回転する歯車31とを噛合させて成る。従ってこれら両外側ディスク2、2は、上記第一の太陽歯車29と逆方向に、上記両歯車30、31の歯数比に応じた回転速度で回転する。
【0029】
又、上記第一の遊星歯車機構15を構成する第一のキャリア27と上記トロイダル型無段変速機14を構成する内側ディスク5、5とを、前記第二の動力伝達機構20を介して接続している。この第二の動力伝達機構20は、前記入力軸12の周囲に配置された中空回転軸32により上記第一のキャリア27と結合されたスプロケット33と、上記両内側ディスク5、5と共に回転するスプロケット34との間に、チェン35を掛け渡して成る。従ってこれら両内側ディスク5、5は上記第一のキャリア27と同方向に、上記両スプロケット33、34の歯数比に応じた回転速度で回転する。尚、上記両外側ディスク2、2と上記両内側ディスク5、5とは、間に挟持したパワーローラ6、6により動力を伝達される為、互いに反対方向に回転する。
【0030】
上述の様な第一の遊星歯車機構15の構成要素のうち、上記第一のキャリア27の動きを前記低速用クラッチ22を介して、上記第一の太陽歯車29の動きを前記高速用クラッチ21を介して、それぞれ前記第二の遊星歯車機構16を構成する第二のキャリア36に伝達可能としている。この様な構成により、低速前進用である、上記第二の遊星歯車機構16を構成する第二のキャリア36に、上記第一の遊星歯車機構15を構成する、上記第一のキャリア27又は第一の太陽歯車29の動きを伝達可能としている。
【0031】
又、上記第二の遊星歯車機構16を構成する第二のリング歯車37とハウジング等の固定の部分との間に、前記低速前進用クラッチ24を設けている。又、上記第二のリング歯車37の中心部に配置した第二の太陽歯車38を、前記入力軸12に結合して、この入力軸12と共に回転する様にしている。そして、上記第二のキャリア36に回転自在に支持した、各第二の遊星歯車39、39を、上記第二のリング歯車37及び上記第二の太陽歯車38に噛合させている。更に、上記第二のキャリア36に、中間伝達軸40の基端部(前端部)を結合している。
【0032】
上述の様な、低速前進用である、上記第二の遊星歯車機構16は、上記低速前進用クラッチ24を締結した状態で前記トロイダル型無段変速機14を介さずにエンジンの動力を上記出力軸13に伝達可能にするものである。従って、上記低速前進用クラッチ24を締結した状態では、無段変速装置全体としての速度比は固定される(変速しない)。尚、上記第二の遊星歯車機構16の減速比(速度比)は、上記トロイダル型無段変速機14を動力を通過したときに実現可能な最小速度比よりも小さい値(減速比として大きな値)に設定するのが好ましい。この理由は、上記トロイダル型無段変速機14を動力が通過する状態で実現可能な最小速度比を通常の使用時に発進可能な程度の値にしておき、より大きな駆動力が必要とされる場合(例えばトラックで、最大積載量を搭載した状態での坂道発進時)に上記低速用前進クラッチ24を締結する事により、円滑な発進を可能にする為である。イメージとしてはトラックの「2速発進」がトロイダル型無段変速機14を用いた発進とし、「1速発進」が低速用前進クラッチ24を用いた発進とする。
【0033】
又、上記第二の遊星歯車機構16の後段側に配置した、前記第三の遊星歯車機構17は、上記第二のリング歯車37により第三の太陽歯車41を、上記中間伝達軸40(に結合した上記第二のキャリア36)により第三のキャリア42を、それぞれ回転駆動する様に構成している。又、上記第三の太陽歯車41の周囲に配置した第三のリング歯車43とハウジング等の固定の部分との間に、前記後退用クラッチ23を設けている。そして、上記第三のキャリア42に回転自在に支持した、各第三の遊星歯車44、44を、上記第三のリング歯車43及び上記第三の太陽歯車41に噛合させている。従って、上記後退用クラッチ23を接続した状態では、上記トロイダル型無段変速機14を介さずに、エンジンの動力を反転して前記出力軸13に伝達する。この場合も、無段変速装置全体としての速度比は固定される(変速しない)。
【0034】
更に、最後段に設けた、前記減速用の第四の遊星歯車機構18は、減速比固定式のもので、上記中間伝達軸40の回転速度を減速してから、上記出力軸13に取り出す様にしている。この為に、この回転伝達軸40の先端部(後端部)に第四の太陽歯車45を結合すると共に、ハウジング等の固定の部分に第四のリング歯車46を固定している。そして、上記出力軸13の基端部に結合した第四のキャリア47に回転自在に支持した、各第四の遊星歯車48、48を、上記第四の太陽歯車45及び上記第四のリング歯車46に噛合させている。
【0035】
上述の様に構成する本例の無段変速装置は、高速用、低速用、後退用、低速発進用各クラッチ21、22、23、24のうちの何れか1個のクラッチを接続し、他のクラッチの接続を断った状態で運転する。以下、それぞれの場合に就いて説明する。
【0036】
[低速用クラッチ22を接続した低速モード状態]
この様な低速モードでは、第一の遊星歯車機構15を構成する第一のキャリア27から動力が取り出され、低速用クラッチ22を介して第四の遊星歯車機構18で減速され、出力軸13に取り出される。この様な低速モード状態での動力の伝達経路は、次の通りである。
エンジンの動力は、入力軸12により、先ず、上記第一の遊星歯車機構15を構成する第一のリング歯車26に入力される。
この第一のリング歯車26に入力された動力は、下記の(A) に示す、トロイダル型無段変速機14を通過しない経路と、同じく(B) に示す、このトロイダル型無段変速機14を通過する経路との、2つの経路に分割される(所謂パワースプリット状態になる)。
(A) エンジン→入力軸12→第一のリング歯車26→第一の遊星歯車28b、28b→第一のキャリア27
(B) エンジン→入力軸12→第一のリング歯車26→第一の遊星歯車28b、28a→第一の太陽歯車29→第一の動力伝達機構19→外側ディスク2、2→パワーローラ6、6→内側ディスク5、5→第二の動力伝達機構20→第一のキャリア27
尚、上記低速モード状態では、上記(B) から明らかな通り、上記両外側ディスク2、2が、動力が入力する側のディスク(入力側ディスク)となり、上記両内側ディスク5、5が、動力が出力する側のディスク(出力側ディスク)となる。
【0037】
又、上述の様な低速モード状態での、無段変速装置全体としての変速度比は、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事により調節できる。即ち、上記(B) から明らかな通り、このトロイダル型無段変速機14の外側ディスク2、2と上記第一の太陽歯車29の回転速度が比例し、同じく内側ディスク5、5と上記第一のキャリア27の回転速度とが比例する。そして、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事で、上記両外側ディスク2、2の回転速度と上記両内側ディスク5、5との比が変化する。上記入力軸12の回転速度を一定とした場合、上記第一のリング歯車26の回転速度も一定となるので、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事で、上記第一の太陽歯車29の回転速度を変えれば、上記第一のキャリア27の回転速度も変化する。即ち、上記無段変速装置全体としての変速度比et/m が変化する。
【0038】
この様な、低速モード状態で変化する、この無段変速装置全体としての変速度比et/m は次の(1) 式で表される。
t/m =Nout /Nin=isp・i1 /{ig ・ev +isp・(i1 −1)}・1/(1+i4 ) −−− (1)
この(1) 式中の符号の意味は、下記の通りである。
Nout :出力軸13の回転速度
Nin:入力軸12の回転速度
l :第一の遊星歯車機構15の減速比(=Zr /Zs =第一のリング歯車26の歯数/第一の太陽歯車29の歯数)
g :第一の動力伝達機構19の減速比(=Zg2/Zgl=歯車31の歯数/歯車30の歯数)
sp:第二の動力伝達機構20の減速比(=Zsp2 /Zspl =スプロケット34の歯数/スプロケット33の歯数)
4 :第四の遊星歯車機構18の減速比(=Zr4/Zs4=第四のリング歯車46の歯数/第四の太陽歯車45の歯数)
v :トロイダル型無段変速機14の変速度比(速度比、増速比)
尚、トロイダル型無段変速機14の変速度比ev に就いては、第一のキャリア27と接続されたディスク(内側ディスク5、5)から見た相手方のディスク(外側ディスク2、2)の回転速度の比として表している。
【0039】
又、上記低速モード状態で上記トロイダル型無段変速機14の外側ディスク2、2に入力されるトルクTvin は、上記入力軸12に入力されるトルクTin(エンジントルクに相当)と第一の動力伝達機構19の減速比ig とを用いて下記の(2) 式で表せる。
vin =ig /il ・Tin −−− (2)
【0040】
[高速用クラッチ21を接続した高速モード状態]
この様な高速モードでは、第一の遊星歯車機構15を構成する第一の太陽歯車29から動力が取り出され、高速用クラッチ21を介して第四の遊星歯車機構18で減速され、出力軸13に取り出される。この様な高速モード状態での動力の伝達経路は、次の通りである。
エンジンの動力は、入力軸12により、先ず、上記第一の遊星歯車機構15を構成する第一のリング歯車26に入力される。
【0041】
この第一のリング歯車26に入力された動力は、上述した低速モードの場合と同様、下記の(C) に示す、前記トロイダル型無段変速機14を通過しない経路と、同じく(D) に示す、このトロイダル型無段変速機14を通過する経路との、2つの経路に分割される(所謂パワースプリット状態になる)。
(C) エンジン→入力軸12→第一のリング歯車26→第一の遊星歯車28b、28a→第一の太陽歯車29
(D) エンジン→入力軸12→第一のリング歯車26→第一の遊星歯車28b、28b→第一のキャリア27→第二の動力伝達機構20→内側ディスク5、5→パワーローラ6、6→外側ディスク2、2→第一の動力伝達機構19→第一の太陽歯車29
尚、上記高速モード状態では、上記(D) から明らかな通り、上記両内側ディスク5、5が、動力が入力される側のディスク(入力側ディスク)となり、上記両外側ディスク2、2が、動力が出力される側のディスク(出力側ディスク)となる。即ち、前述した低速モードの状態とは、上記トロイダル型無段変速機14を動力(トルク)が通過する方向が逆になる。
【0042】
又、上述の様な高速モード状態での、無段変速装置全体としての変速度比も、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事により調節できる。即ち、前述した低速モードの場合と同様に、このトロイダル型無段変速機14の外側ディスク2、2と上記第一の太陽歯車29の回転速度が比例し、同じく内側ディスク5、5と上記第一のキャリア27の回転速度とが比例する。そして、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事で、上記両外側ディスク2、2の回転速度と上記両内側ディスク5、5との比が変化する。上記入力軸12の回転速度を一定とした場合、上記第一のリング歯車26の回転速度も一定となるので、上記トロイダル型無段変速機14の変速度比を変える事で、上記第一のキャリア27の回転速度を変えれば、上記第一の太陽歯車29の回転速度も変化する。即ち、上記無段変速装置全体としての変速度比et/m が変化する。
【0043】
この様な、高速モード状態で変化する、上記無段変速装置全体としての変速度比et/m は次の(3) 式で表される。
t/m =Nout /Nin=ig ・ev ・il /{ig ・ev +isp・(il −1)}・1/(1+i4 ) −−− (3)
又、この様な高速モード状態で上記トロイダル型無段変速機14の内側ディスク5、5に入力されるトルクTvin は、上記入力軸12に入力されるトルクTinと上記第二の動力伝達機構20の減速比isp とを用いて下記の(4) 式で表せる。
vin =isp・(il −1)/il ・Tin −−− (4)
【0044】
[低速前進用クラッチ24を接続した低速前進モード状態]
この低速前進用クラッチ24を接続し、前記第二の遊星歯車機構16を構成する第二のリング歯車37をケース等の固定部分に固定して回転を阻止した状態では、エンジンから前記入力軸12に入った動力は、上記トロイダル型無段変速機14を介さずに、上記第二の遊星歯車機構16を構成する第二の太陽歯車38に入力される。そして、この第二の太陽歯車38と噛合した、前記各第二の遊星歯車39、39の公転運動が前記第二のキャリア36から、前記第四の遊星歯車機構18を介して、前記出力軸13に取り出される。この際、前記第三の遊星歯車機構17は作用しない(各歯車が空転する)。
【0045】
この様な低速前進モード状態での無段変速装置全体としての変速度比et/m は、次の(5) 式で表される。
t/m =Nout /Nin=1/(1+i2 )・1/(1+i4 ) −−− (5)
この(5) 式中の符号の意味は、下記の通りである。
2 :第二の遊星歯車機構16の減速比(=Zr2/Zs2=第二のリング歯車37の歯数/第二の太陽歯車38の歯数)
この様な(5) 式により表される、上記低速前進モード状態での変速度比et/m は、前述した通り、前記トロイダル型無段変速機14を動力が通過する状態で実現可能な、無段変速装置全体としての変速度比(低速モード状態で最も低速側)よりも小さくする。
上述の様な低速前進モード状態では、上記トロイダル型無段変速機14が動力を伝達しない為、このトロイダル型無段変速機14を通過するトルクは、各部の摩擦に基づいて生じる僅少なトルクを除き、実質上ゼロになる。
【0046】
[後退用クラッチ23を接続した後退モード状態]
この状態でも、エンジンから前記入力軸12に伝えられた動力は、上記トロイダル型無段変速機14を介さずに、上記第二の遊星歯車機構16を構成する第二の太陽歯車38に入力される。そして、この第二の太陽歯車38に入力された動力が、上記第二の遊星歯車機構16及び前記第三の遊星歯車機構17の働きにより回転方向を変換されると共に減速され、前記第四の遊星歯車機構18により更に減速されてから、前記出力軸13に取り出される。
【0047】
この様な後退モード状態での無段変速装置全体としての変速度比et/m は、次の(6) 式で表される。
t/m =Nout /Nin=−1/(i2 ・i3 −1)・1/(1+i4 ) −−− (6)
この(6) 式中の符号の意味は、下記の通りである。
3 :第三の遊星歯車機構17の減速比(=Zr3/Zs3=第三のリング歯車43の歯数/第三の太陽歯車41の歯数)
上述の様な後退モード状態でも、上記トロイダル型無段変速機14が動力を伝達しない為、このトロイダル型無段変速機14を通過するトルクは、各部の摩擦に基づいて生じる僅少なトルクを除き、実質上ゼロになる。
【0048】
前述した様に、本例の場合は、低速モードの状態と高速モード状態とで、上記トロイダル型無段変速機14を通過する動力(トルク)の方向が逆になる。即ち、低速モード状態で、両外側ディスク2、2が、動力が入力する側のディスク(入力側ディスク)となるのに対して、高速モード状態で、上記両内側ディスク5、5が、動力が入力される側のディスク(入力側ディスク)となる。又、前述した様に、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin は、駆動源であるエンジンから出力されて入力軸12に入力されるトルクをTinとすると、下記の(2) 式、(4) 式で表せる。
低速モード状態:Tvin =ig /il ・Tin −−− (2)
高速モード状態:Tvin =isp・(il −1)/il ・Tin −−− (4)
【0049】
ここで、図1に示した本例の構造で、第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispは、次の様に設定できる。即ち、これら第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispは、低速モードと高速モードとの切り換え点、即ち、高速用クラッチ21と低速用クラッチ22とを断接させるモード切換ポイントで、出力軸13の回転速度が急変しない様に(出力回転数が連続する様に)設定する必要がある。又、上記低速モードと上記高速モードとの切換が、上記トロイダル型無段変速機14の最小速度比又は最大速度比で行なわれる様にして、このトロイダル型無段変速機14の速度比幅を無駄なく使用できる様にする事が好ましい。尚、一般的なトロイダル型無段変速機14の速度比幅は、0.4〜2.5となる。
【0050】
上記図1に示した構造の場合、低速モード状態では第一の遊星歯車機構15を構成する第一のキャリア27の回転を、高速モード状態では同じく第一の太陽歯車29の回転を、そのまま第四の遊星歯車機構18を構成する第四の太陽歯車45に迄(増速や減速を行なう事なく)出力として取り出す。従って、上記モード切換ポイントでは、上記第一の太陽歯車29の回転速度と、上記第一のキャリア27の回転速度とが一致している事が、滑らかなモード切換を行なう為に必要になる。言い換えれば、上記両歯車29、27の回転速度が一致していない状態でモード切換を行なうと、切換の前後で上記第四の太陽歯車45の回転速度が急変動し、変速ショックを生じる。
【0051】
ところで、上記第一のキャリア27の回転速度Nc1と、上記第一の太陽歯車29の回転速度Ns1との関係は、トロイダル型無段変速機14の速度比ev を変数として、次の(7) 式で表せる。
s1=isp/(ig ・ev )・Nc1 −−− (7)
そして、上記モード切換ポイントでNs1=Nc1とする為に必要となる、第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispの関係は、次の(8) 式となる。
v =isp/ig −−− (8)
【0052】
この様な(8) 式から明らかな様に、上記第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispの比(isp/ig )は、少なくとも上記トロイダル型無段変速機14が実現可能な速度比内に入っていないと、上記モード切換時にショックを生じる事になる。又、仮に上記比(isp/ig )が上記トロイダル型無段変速機14が実現可能な速度比内に入っていても、この実現可能な変速度比のうちで最小速度比又は最大速度比の近傍にモード切換ポイントを設定しないと、上記トロイダル型無段変速機14が実現可能な変速度比のうちに、全く使用されない速度比が生じる。この様な状況は、このトロイダル型無段変速機14の能力の一部しか使わない事になり、無駄であって、好ましくない。そこで、本例の場合は、上記第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispを下記の通り規制し、これら変速度比ig 、ispの比(isp/ig )を0.4としている。
第一の動力伝達機構19の減速比:ig =1.25
第二の動力伝達機構20の減速比:isp=0.5
【0053】
又、これと共に、第一〜第四の遊星歯車機構15〜18の変速度比i1 〜i4 を次の様に規制している。
第一の遊星歯車機構の減速比:il =2
第二の遊星歯車機構の減速比:i2 =2
第三の遊星歯車機構の減速比:i3 =2
第四の遊星歯車機構の減速比:i4 =2
これらの値のうち、上記第一の遊星歯車機構15の減速比il と、上記第一、第二の動力伝達機構19、20の変速度比ig 、ispとを、前述の(2) 式、(4) 式に代入すれば明らかな様に、低速、高速両モードで、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin が、駆動源であるエンジンから出力されて入力軸12に入力されるトルクTinに比べて小さくなる。又、これと共に、高速モード状態に比べて低速モード状態で、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin が大きくなる(最大になる)。
【0054】
図2は、上述の様に第一、第二の動力伝達機構19、20の減速比ig 、isp、並びに、第一〜第四の遊星歯車機構15〜18の減速比i1 〜i4 を適切に規制した場合の、トロイダル型無段変速機14の変速度比(バリエータ速度比)ev と、無段変速装置全体としての変速度比(トランスミッション速度比)et/m との関係を示している。この図2のうちで実線は低速モード時に於ける両者の関係を、破線は高速モード状態での両者の関係を、それぞれ示している。モード切換ポイントの前後で、無段変速装置全体としての変速度比et/m が連続的に変化している。又、図3は、同じく上述の様に減速比ig 、isp、i1 〜i4 を記載した場合の、エンジンから入力軸12に入力されるトルク(エンジントルク)に対する、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルク(バリエータ入力トルク)の比と、無段変速装置全体としての変速度比(トランスミッション速度比)et/m との関係を示している。この様な図3からも明らかな様に、低速、高速両モードで、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin が、駆動源であるエンジンから出力されて入力軸12に入力されるトルクTinに比べて小さくなる。又、これと共に、高速モード状態に比べて低速モード状態で、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin が大きくなる(最大になる)。
【0055】
但し、本例の場合、この様にトロイダル型無段変速機14に入力されるトルクが大きくなる状態(運転モード)で、上記エンジンからの動力が各外側ディスク2、2に入力される。より具体的には、上記低速、高速両各運転モードのうち、上記エンジンからの動力に基づいて出力軸13を駆動している状態{例えば無段変速装置を組み込んだ車両を駆動(加速)している状態}で、上記トロイダル型無段変速機14に入力される動力が最も大きくなる状態(外側ディスク2、2と内側ディスク5、5との間で伝達される動力が最も大きくなる状態)を有する運転モード、即ち、上記低速モード状態で、上記各外側ディスク2、2に上記エンジンからの動力が入力される。
【0056】
上述の様に構成する本例の無段変速装置によれば、トロイダル型無段変速機14を構成する押圧装置10aに必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)を低減でき、変速幅を確保しつつ、小型、軽量に構成できると共に、伝達効率の確保を高次元で図れる。
即ち、上述の様に、上記トロイダル型無段変速機14に入力される動力が最も大きくなる低速モードで、この動力が各外側ディスク2、2に入力される。この為、前述の図11を参照すれば明らかな様に、この様な低速モードで上記動力が内側ディスク5、5に入力される構造に比べて、上記押圧装置10aに必要とされる最大押圧力(発生させるべき最大押圧力)を小さくできる。この結果、この押圧装置10a並びにこの押圧装置10aを駆動するポンプの小型化を図れると共に、このポンプの動力損失の低減を図れ、無段変速装置全体としての高効率化(伝達効率の向上)を図れる。又、上記トロイダル型無段変速機14を構成する各外側ディスク2、2と共に回転する回転軸1を、小径にできる(細くできる)。この為、変速比幅の確保と外側、内側各ディスク2、5の強度、耐久性の確保との両立を図れると共に、上記トロイダル型無段変速機14、延いては無段変速装置全体として、小型・軽量に構成できる。又、上述の様に押圧装置10aが出力する押圧力を小さくできる分、回転部分を支承する各軸受部分に加わる負荷を小さくでき、この面からも損失の低減による伝達効率の向上を図れる。
【0057】
[実施の形態の第2例]
図4は、同じく請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合は、上述の図1に示した第1例の構造で、中段に配置した、低速前進用(低速前進モード)に使用する第二の遊星歯車機構16並びに低速前進用クラッチ24と、次(後段側)に配置した、後退用(後退モード)に使用する第三の遊星歯車機構17並びに後退用クラッチ23(図1参照)とを、省略している。尚、最後段に配置した、減速用の第四の遊星歯車機構18は、そのまま残している。従って、本例の場合には、高速用クラッチ21と低速用クラッチ22との断接に基づいて、低速モードと高速モードとの2つのモードを実現する。
その他の構成及び作用は、上述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0058】
[実施の形態の第3例]
図5は、同じく請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合は、前述の図1に示した第1例の構造で、中段に配置した、低速前進用(低速前進モード)に使用する第二の遊星歯車機構16の周囲に設けた低速前進用クラッチ25(図1参照)を、省略している。尚、次(後段側)に配置した、後退用(後退モード)に使用する第三の遊星歯車機構17並びに後退用クラッチ23と、最後段に配置した、減速用の第四の遊星歯車機構18とを、そのまま残している。従って、本例の場合には、高速用クラッチ21と低速用クラッチ22と後退用クラッチ23との断接に基づいて、低速モードと高速モードと後退モードとの3つのモードを実現する。
その他の構成及び作用は、前述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0059】
[実施の形態の第4例]
図6は、同じく請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合は、前述の図1に示した第1例の構造で、後段側に配置した、後退用(後退モード)に使用する第三の遊星歯車機構17並びに後退用クラッチ23(図1参照)を、省略している。尚、中段に配置した、低速前進用(低速前進モード)に使用する第二の遊星歯車機構16並びに低速前進用クラッチ24と、最後段に配置した、減速用の第四の遊星歯車機構18とを、そのまま残している。従って、本例の場合には、高速用クラッチ21と低速用クラッチ22と低速前進用クラッチ24との断接に基づいて、低速モードと高速モードと低速前進モードとの3つのモードを実現する。
その他の構成及び作用は、前述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0060】
[実施の形態の第5例]
図7は、請求項2に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合は、入力軸12aを一方向に回転させた状態のまま出力軸13aを停止させるギヤードニュートラル状態を実現する運転モード(ギヤードニュートラルモード)を備えている。この為に、本例の無段変速装置は、上記入力軸12a及び出力軸13aと、トロイダル型無段変速機14及び遊星歯車機構49と、第一、第二の動力伝達機構19、20aと、高速用、低速用両クラッチ21、22から成るクラッチ装置とを備える。
【0061】
このうちの入力軸12aは、中間部に、上記第二の動力伝達機構20aを構成するスプロケット33aを固設すると共に、先端部を、上記遊星歯車機構49を構成するキャリア50に結合している。即ち、このキャリア50と上記トロイダル型無段変速機14を構成する内側ディスク5、5とを接続する為の上記第二の動力伝達機構20aを、上記入力軸12aを介して上記キャリア50と共に回転する上記スプロケット33aと、上記両内側ディスク5、5と共に回転するスプロケット34との間に、チェン35を掛け渡す事により構成している。一方、上記遊星歯車機構49を構成する太陽歯車51と上記トロイダル型無段変速機14を構成する外側ディスク2、2とを接続する為の第一の動力伝達機構19を、上記太陽歯車51と共に回転する歯車30と、上記両外側ディスク2、2と共に回転する歯車31とを噛合させる事により構成している。又、上記遊星歯車機構49の構成要素のうち、上記太陽歯車51の動きを上記高速用クラッチ21を介して、同じくリング歯車52の動きを上記低速用クラッチ22を介して、それぞれ上記出力軸13aに伝達可能としている。尚、上記遊星歯車機構49は、同一の遊星歯車53、53を上記リング歯車52及び太陽歯車51に噛合させる、所謂シングルピニオン型のものとしている。
【0062】
上述の様に構成する本例の無段変速装置は、高速用、低速用各クラッチ21、22のうちの何れかのクラッチを接続すると共に、他のクラッチの接続を断った状態で運転する。このうちの低速用クラッチ22を接続すると共に、高速用クラッチ21の接続を断った低速モード状態では、遊星歯車機構49を構成するリング歯車52から動力が取り出され、上記低速用クラッチ22を介して出力軸13aに取り出される。この様な低速モード状態では、トロイダル型無段変速機14の変速度比を調節する事により、出力軸13aの回転状態を、停止状態を挟んで、正転(前進方向)、逆転(後退方向)に切り換えられる。又、この様な低速モード状態で、且つ、上記出力軸13aを正転させている状態で、エンジンからの動力は、上記トロイダル型無段変速機14を構成する両外側ディスク2、2に入力される。即ち、上記低速モード状態で、且つ、上記出力軸13aを正転させている状態で、上記両外側ディスク2、2が、動力が入力する側のディスク(入力側ディスク)となり、両内側ディスク5、5が、動力が出力する側のディスク(出力側ディスク)となる。
【0063】
上述の様な低速モード状態での、無段変速装置全体としての変速度比et/m は次の(9) 式で表される。
t/m =Nout /Nin={isp・(1+ipg)−ig ・ev }/{isp・isp} −−− (9)
この(9) 式中の符号の意味は、下記の通りである。
Nout :出力軸13aの回転速度
Nin:入力軸12aの回転速度
pg:遊星歯車機構49の減速比(=Zr /Zs =リング歯車52の歯数/太陽歯車51の歯数)
g :第一の動力伝達機構19の減速比(=Zg2/Zgl=歯車31の歯数/歯車30の歯数)
sp:第二の動力伝達機構20aの減速比(=Zsp2 /Zspl =スプロケット34の歯数/スプロケット33aの歯数)
v :トロイダル型無段変速機14の変速度比(速度比、増速比)
尚、トロイダル型無段変速機14の変速度比ev に就いては、キャリア50と接続されたディスク(内側ディスク5、5)から見た相手方のディスク(外側ディスク2、2)の回転速度の比として表している。
【0064】
又、上記低速モード状態で上記トロイダル型無段変速機14の外側ディスク2、2に入力されるトルクTvin は、上記入力軸12aに入力されるトルクTin(エンジントルクに相当)と、第一、第二の動力伝達機構19、20aの減速比ig 、isp、遊星歯車機構49の減速比ipg、並びに、トロイダル型無段変速機14の速度比ev とを用いて、下記の(10)式で表せる。
vin =isp・ig /[{isp・(1+ipg)−ig ・ev }・Tin] −−−− (10)
【0065】
一方、高速用クラッチ21を接続すると共に、低速用クラッチ22の接続を断った高速モード状態では、遊星歯車機構49を介する事なく、トロイダル型無段変速機14を構成する両外側ディスク2、2から動力が取り出され、第一の動力伝達機構19、高速用クラッチ21を介して、出力軸13aに取り出される。この様な高速モード状態で、エンジンからの動力は、トロイダル型無段変速機14を構成する両内側ディスク5、5に入力される。即ち、上記高速モード状態では、これら両内側ディスク5、5が、動力が入力する側のディスク(入力側ディスク)となり、上記両外側ディスク2、2が、動力が出力する側のディスク(出力側ディスク)となる。
【0066】
又、上述の様な高速モード状態での、無段変速装置全体としての変速度比et/m は次の(11)式で表される。
t/m =Nout /Nin=ig ・ev /isp −−− (11)
又、この様な高速モード状態で上記トロイダル型無段変速機14の内側ディスク5、5に入力されるトルクTvin は、上記入力軸12aに入力されるトルクTinと上記第二の動力伝達機構20aの減速比ispとを用いて下記の(12)式で表せる。
vin =isp・Tin −−− (12)
【0067】
上述の様に構成する本例の場合には、上記第一、第二の動力伝達機構19、20aの変速度比ig 、isp、並びに、遊星歯車機構49の減速比ipgを、下記の通り規制している。
第一の動力伝達機構19の減速比:ig =1.6666
第二の動力伝達機構20aの減速比:isp=0.6666
遊星歯車機構49の減速比:ipg=2
【0068】
図8は、この様に減速比ig 、isp、ipgを規制した場合の、トロイダル型無段変速機14の変速度比(バリエータ速度比)eV と、無段変速装置全体としての変速度比(トランスミッション速度比)et/m との関係を示している。この図8のうちで実線は低速モード時に於ける両者の関係を、破線は高速モード状態での両者の関係を、それぞれ示している。又、図9は、同じく上述の様に減速比ig 、isp、ipgを記載した場合の、エンジンから入力軸12aに入力されるトルク(エンジントルク)に対する、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルク(バリエータ入力トルク)の比と、無段変速装置全体としての変速度比(トランスミッション速度比)et/m との関係を示している。この図9から明らかな様に、高速モード状態に比べて低速モード状態で、上記トロイダル型無段変速機14に入力されるトルクTvin が大きくなる(最大になる)。
【0069】
但し、本例の場合は、この様にトロイダル型無段変速機14に入力されるトルクが大きくなる低速モード状態で、且つ、使用頻度の高い正転状態(前進走行に対応する状態)で、上記エンジンからの動力が各外側ディスク2、2に入力される。即ち、ギヤードニュートラル状態を有する低速モードで、且つ、エンジンからの動力に基づいて正転方向に対応する駆動力を上記出力軸13aから出力させている状態で、このエンジンからの動力が上記各外側ディスク2、2に入力される。
この様な本例の場合も、押圧装置10aに必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)を小さくできる。この為、変速幅を確保しつつ、小型、軽量に構成できる他、伝達効率の確保を高次元で図れる。
その他の構成及び作用は、前述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
図示は省略するが、駆動源からの動力をそのままトロイダル型無段変速機に入力する(トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達する)第一運転モードと、この駆動源からの動力の一部を、上記トロイダル型無段変速機をバイパスして出力軸に伝達する第二運転モード(パワースプリットモード)とを備えた無段変速装置の場合には、このうちの第一の運転モード(直結モード)で、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制する。この場合にも、押圧装置に必要とされる最大押圧力(出力すべき最大押圧力)の低減を図れ、変速幅を確保しつつ、小型、軽量に構成できる他、伝達効率の確保を高次元で図れる。
【0071】
要は、無段変速装置が実現できる運転モード、即ち、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード、ギヤードニュートラルモード、パワースプリットモードのうちで、駆動状態での上記トロイダル型無段変速機に入力される動力が最も大きくなる状態を有する運転モードで、駆動源からの動力が各外側ディスクに入力される様に規制する。
更に、本発明を実施する場合に利用するトロイダル型無段変速機は、図1、4〜7、10に示す様なハーフトロイダル型のものに限らず、フルトロイダル型のものも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す略断面図。
【図2】トロイダル型無段変速機の速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図3】入力軸に入力されるトルクに対するトロイダル型無段変速機に入力されるトルクの比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す略断面図。
【図5】同第3例を示す略断面図。
【図6】同第4例を示す略断面図。
【図7】同第5例を示す略断面図。
【図8】トロイダル型無段変速機の速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図9】入力軸に入力されるトルクに対するトロイダル型無段変速機に入力されるトルクの比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図10】ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機の1例を示す断面図。
【図11】トロイダル型無段変速機に一定の動力を入力している状態での、速度比(外側ディスクと内側ディスクとの回転速度比)の絶対値と必要とされる押圧力(出力すべき押圧力)との関係の1例を示す線図。
【符号の説明】
【0073】
1 回転軸
2 外側ディスク
3 ボールスプライン
4 歯車
5 内側ディスク
6 パワーローラ
7 トラニオン
8 支持軸
9 駆動軸
10、10a 押圧装置
11 中心孔
12、12a 入力軸
13、13a 出力軸
14 トロイダル型無段変速機
15 第一の遊星歯車機構
16 第二の遊星歯車機構
17 第三の遊星歯車機構
18 第四の遊星歯車機構
19 第一の動力伝達機構
20、20a 第二の動力伝達機構
21 高速用クラッチ
22 低速用クラッチ
23 後退用クラッチ
24 低速前進用クラッチ
25 ダンパ
26 第一のリング歯車
27 第一のキャリア
28a、28b 第一の遊星歯車
29 第一の太陽歯車
30 歯車
31 歯車
32 中空回転軸
33、33a スプロケット
34 スプロケット
35 チェン
36 第二のキャリア
37 第二のリング歯車
38 第二の太陽歯車
39 第二の遊星歯車
40 中間伝達軸
41 第三の太陽歯車
42 第三のキャリア
43 第三のリング歯車
44 第三の遊星歯車
45 第四の太陽歯車
46 第四のリング歯車
47 第四のキャリア
48 第四の遊星歯車
49 遊星歯車機構
50 キャリア
51 太陽歯車
52 リング歯車
53 遊星歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、少なくとも1個の遊星歯車機構と、これらトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを通過する動力の伝達経路を切り換える為の少なくとも2個のクラッチ装置とを組み合わせて成り、
このうちのトロイダル型無段変速機は、上記入力軸又はこの入力軸と共に回転する回転軸を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持された1対の外側ディスクと、これら両外側ディスク同士の間に、これら両外側ディスクと同心に、且つ、これら両外側ディスクとは独立した回転を自在として支持された内側ディスクと、この内側ディスクの両側面と上記両外側ディスクの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されて、これら内側ディスクと外側ディスクとの間で動力を伝達するパワーローラと、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとを互いに近付く方向に押圧する押圧装置とを備えたものであり、
上記各クラッチ装置は、断接状態の切り換えに基づく上記動力の伝達経路の切り換えに応じて、少なくとも2つの運転モードのうちの何れかの運転モードに切り換えるものであり、
この運転モードの切り換えに伴って、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力の方向が反転する
無段変速装置に於いて、
上記各運転モードのうち少なくとも2つの運転モードを、駆動源からの動力の一部を上記トロイダル型無段変速機をバイパスして上記出力軸に伝達する運転モードとし、
上記各運転モードのうち、駆動源からの動力に基づいて上記出力軸を駆動している状態での、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力が最も大きくなる状態を有する運転モードで、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制した
事を特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、少なくとも1個の遊星歯車機構と、これらトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを通過する動力の伝達経路を切り換える為の少なくとも2個のクラッチ装置とを組み合わせて成り、
このうちのトロイダル型無段変速機は、上記入力軸又はこの入力軸と共に回転する回転軸を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として支持された1対の外側ディスクと、これら両外側ディスク同士の間に、これら両外側ディスクと同心に、且つ、これら両外側ディスクとは独立した回転を自在として支持された内側ディスクと、この内側ディスクの両側面と上記両外側ディスクの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されて、これら内側ディスクと外側ディスクとの間で動力を伝達するパワーローラと、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとを互いに近付く方向に押圧する押圧装置とを備えたものであり、
上記各クラッチ装置は、断接状態の切り換えに基づく上記動力の伝達経路の切り換えに応じて、少なくとも2つの運転モードのうちの何れかの運転モードに切り換えるものであり、
この運転モードの切り換えに伴って、上記各外側ディスクと上記内側ディスクとの間で伝達される動力の方向が反転する
無段変速装置に於いて、
上記各運転モードのうちの何れかの運転モードを、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸を停止させるギヤードニュートラル状態を実現する運転モードとし、 この運転モードで、且つ、駆動源からの動力に基づいて正転方向に対応する駆動力を上記出力軸から出力させている状態で、上記駆動源からの動力が上記各外側ディスクに入力される様に規制した
事を特徴とする無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−75706(P2008−75706A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253813(P2006−253813)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】