説明

無段変速装置

【課題】プーリのV溝底の軸に設置した噛合手段が、この噛合手段と噛み合って駆動力を伝達する駆動力伝達手段を攻撃することがなく、噛合手段と駆動力伝達手段の協調した動きを阻害することがない無段変速装置を提供する。
【解決手段】共にプーリ溝幅を変更可能な二つのプーリ(ドライブプーリ11とドリブンプーリ12)の間に掛け回された駆動力伝達手段(チェーン13)により、一方のプーリの回転駆動力を他方のプーリに伝達する無段変速装置において、駆動力伝達手段のプーリ巻き付き側に設けた被噛合部(凹部17a)と、プーリの軸部(プーリ軸部14)に、軸部に対し進出退避自在に軸部半径方向に移動可能に設置され、変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、進出状態になって被噛合部に噛合することができる可動噛合部(可動歯16)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速装置(Continuously Variable Transmission:CVT)に関し、特に、プーリに付属する歯と駆動力を伝達する駆動力伝達手段が噛み合って動作する無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Vベルトにより回転駆動力の伝達を行なう無段変速装置として、例えば、「無段変速機構」(特許文献1参照)が知られている。
従来の「無段変速機構」は、Vベルトを用いて回転力の伝達を確実に行うために、駆動回転軸に付されたプーリと従動回転軸に付されたプーリとの間でVベルトにより回転駆動力の伝達を行い、且つ上記2つのプーリの内の少なくとも一方が可変ピッチプーリであるVベルト式無段変速機構において、Vベルトが歯付きVベルトであり、且つ少なくとも一方の可変ピッチプーリがV溝底に上記Vベルトの歯と噛み合う歯車を有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−120950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の「無段変速機構」においては、可変ピッチプーリがV溝底に有する、Vベルトの歯と噛み合う歯車が、V溝底の軸に固定されていることから、このV溝底の軸に付属する歯とVベルトの歯が十分噛み合っていない場合、両方の歯のピッチが一致しないため、軸に付属する歯がVベルトを攻撃してしまうことが避けられなかった。
つまり、可変ピッチプーリのV溝底の軸に設置した歯(即ち、噛合手段)と、この歯に噛み合って駆動力を伝達する駆動力伝達手段(Vベルトやチェーン等)との協調した動きが阻害されてしまうことになり、駆動力の伝達ができなくなると共に駆動力伝達手段が傷付くことも起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る無段変速装置は、変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、可動噛合部がプーリの軸部に対し進出状態になって駆動力伝達手段の被噛合部に噛合することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、無段変速装置の変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、可動噛合部がプーリの軸部に対し進出状態になって駆動力伝達手段の被噛合部に噛合するので、プーリのV溝底の軸に設置した噛合手段が、この噛合手段と噛み合って駆動力を伝達する駆動力伝達手段を攻撃することがなく、噛合手段と駆動力伝達手段の協調した動きを阻害することがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】この発明の一実施の形態に係る無段変速装置の概略説明図である。
【図2】図1のドリブンプーリの軸部にチェーンが巻き付いていない状態を示す説明図である。
【図3】図1のドリブンプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【図4】可動歯が取り付けられる可動歯固定部品の斜視図である。
【図5】可動歯の可動歯固定部品への組み込み状態を示す断面説明図である。
【図6】ドリブンプーリの軸部に可動歯固定部品を装着した状態を示し、(a)は最Hi時の断面説明図、(b)は最Lo時の説明図である。
【図7】チェーンと可動歯の対応関係に基づく各種状態を表で示す説明図である。
【図8】プーリ比に対するプーリ軸のスリップ率と可動歯のばね力の関係をグラフで示す説明図である。
【図9】駆動状態のチェーンに対し可動歯が可動歯組込孔から突出している状態の断面説明図である。
【図10】駆動状態のチェーンに対し可動歯が可動歯組込孔に沈み込んでいる状態の断面説明図である。
【図11】チェーンが可動歯の突起状段部に接触している状態の力の関係を示す断面説明図である。
【図12】この発明におけるスリップレス状態と従来のスリップ状態をプーリ比とスリップ率の関係において示す説明図である。
【図13】チェーンリンクの凹部と可動歯が噛合した状態における可動歯固定部品内部の可動歯を示す断面説明図である。
【図14】可動歯の他の例を示す断面説明図である。
【図15】この発明の第2実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【図16】図15の可動歯が組み込まれた可動歯ガイドの一部を裏面側から等角投影法で示した説明図である。
【図17】可動歯を等角投影法で示した説明図である。
【図18】可動歯ガイドの一部裏面側を等角投影法で示した説明図である。
【図19】図15のスプリングを等角投影法で示した説明図である。
【図20】可動歯ガイド内の可動歯保持状態を部分的に示す説明図である。
【図21】この発明の第3実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【図22】図21のスプリングを等角投影法で示した説明図である。
【図23】この発明の第4実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【図24】図23の可動歯ガイド内の可動歯保持状態を部分的に示す説明図である。
【図25】この発明の第5実施の形態に係る可動歯構造の可動歯部分を軸部方向に沿う断面で示す説明図である。
【図26】図25のA−A線に沿う断面図である。
【図27】図25の可動歯が組み込まれる可動歯固定部品を示す斜視説明図である。
【図28】図27の可動歯固定部品と可動歯をプーリ軸に組み込んだ状態を示す斜視説明図である。
【図29】図26の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。
【図30】この発明の第6実施の形態に係る可動歯構造の可動歯部分をプーリ軸方向に沿う断面で示す説明図である。
【図31】図30の可動歯が組み込まれる可動歯固定部品を示す斜視説明図である。
【図32】図31の可動歯固定部品と可動歯をプーリ軸に組み込んだ状態を示す斜視説明図である。
【図33】この発明の第7実施の形態に係る可動歯構造(その1)を説明する、図25のB−B線に沿う断面図である。
【図34】図33の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。
【図35】この発明の第7実施の形態に係る可動歯構造(その2)を説明する、図25のB−B線に沿う断面図である。
【図36】図35の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、この発明の第1実施の形態に係る無段変速装置の概略説明図である。図1に示すように、無段変速装置(CVT)10は、ドライブプーリ(プライマリプーリ)11とドリブンプーリ(セカンダリプーリ)12と共に、ドライブプーリ11とドリブンプーリ12の間に掛け回された駆動力伝達手段13を有しており、ドリブンプーリ12の軸部(プーリ軸部)14には、可動歯固定部品15を介して可動歯(可動噛合部)16が装着されている。
【0009】
このCVT10は、例えば、車両に備えられて、車両の走行速度を無段階に変化させることができる。なお、駆動力伝達手段13としては、ベルトやチェーン等が用いられるが、ここでは、駆動力伝達手段13としてチェーンを用いた例について説明する。
【0010】
ドライブプーリ11には、エンジン(図示しない)からの駆動力が入力し、ドリブンプーリ12から出力された駆動力は、駆動軸(図示しない)に伝達される。ドライブプーリ11とドリブンプーリ12は、共に、固定プーリに対し可動プーリを移動させて、固定プーリと可動プーリの間にV字状断面溝(V溝)を形成すると共にV溝幅を変更することができる。そして、駆動する側であるドライブプーリ11と駆動される側であるドリブンプーリ12のV溝幅を連続的に変えることで、駆動する側と駆動される側のチェーン13の伝達ピッチを変化させ、これにより滑らかな無段階変速を行なうことができる。
【0011】
図2は、図1のドリブンプーリの軸部にチェーンが巻き付いていない状態を示す説明図である。図3は、図1のドリブンプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
図2及び図3に示すように、ドリブンプーリ12の軸部14の外周面に装着された可動歯固定部品15には、可動歯固定部品15の外表面に対し退避自在に突出して、つまり、可動歯固定部品15の半径方向に移動自在に、可動歯固定部品15の全周に渡って可動歯16が組み込まれている。この可動歯16は、CVT10の最Hi(例えば、オーバドライブ:OD)時、可動歯固定部品15の外表面から突出し、チェーン13と噛み合った状態になる。
【0012】
なお、可動歯16は、ドリブンプーリ12の軸部14に設けられている場合に限らず、ドライブプーリ11に設けられていても良く、この場合、CVT10の最Lo時、可動歯固定部品15の外表面から突出し、チェーン13と噛み合った状態になる。
つまり、CVT10の最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、即ち、駆動力伝達手段(チェーン)13がプーリのV溝底に存在するとき、可動歯固定部品15の外表面から突出し、チェーン13と噛み合った状態になる。
【0013】
チェーン13は、薄板リング状のチェーンリンク17を、2個一組のピン18を用いて、重ね合わせた状態で円環状に連結することにより形成されており、ピン18を連結軸として連結された各チェーンリンク17は、ピン18を軸としてピン18周りに自在に回動(揺動)する。各チェーンリンク17は、可動歯16に巻き付く側の可動歯16当接部分に、凹部(被噛合部)17aを有している。凹部17aは、可動歯16の軸部14外表面からの突出形状に対応して切り欠かれていると共に、可動歯16のピッチと一致したピッチで配置されている。
【0014】
図4は、可動歯が取り付けられる可動歯固定部品の斜視図である。図4に示すように、可動歯固定部品15は、円筒状に形成されており、その周面に、可動歯16を組み込み固定するための複数の可動歯組込孔19を有している。この可動歯固定部品15は、ドリブンプーリ12の軸部14の外表面に埋設状態に組み付けられるため、円筒中心軸方向に沿う分割線15aにより二分割されていると共に、軸部14に組み付けた後の固定のため、周面の両端部近傍に固定用のスナップリング(図示しない)を取り付ける溝15bを有している。
【0015】
可動歯組込孔19は、可動歯固定部品15の周壁内外面を貫通して、一端に拡幅部19aを有する円筒中心軸に沿う長孔状、即ち、平面視T形状に形成され、可動歯固定部品15の周方向に略等間隔離間して並設されている。可動歯固定部品15内部の隣接する可動歯組込孔19の境界部分には、円筒中心軸側に突出する隔壁部20が形成されている。この隔壁部20により、可動歯固定部品15の周壁が可動歯組込孔19側にフランジ状に突出した状態になり、周壁内面が可動歯組込孔19の両側に位置する段差面(突出規制部)20b(図5参照)を形成する。
【0016】
図5は、可動歯の可動歯固定部品への組み込み状態を示す断面説明図である。図5に示すように、可動歯16は、可動歯固定部品15への組込時に可動歯組込孔19から突出する、可動歯固定部品15の中心軸方向に延びる突起状段部16aと、突起状段部16aの底面両側に外向きフランジ(鍔)状に突出する係止部16bを有している。この可動歯16は、下端面側のみが開口する箱形、或いは下端面側及び長手方向両端側が開口する逆向きU字状断面形の何れの形状に形成されていても良い。
【0017】
突起状段部16aの上端面の可動歯固定部品15周方向両側角部及び可動歯固定部品15中心軸方向両側角部は、可動歯組込孔19からの突出時に可動歯固定部品15の外表面となだらかな傾斜で連続する傾斜面16cによって形成されている(図5参照)。つまり、突起状段部16aの上端面の全周(長方形の四辺)は、角が落とされた傾斜面16cにより形成されている。
また、可動歯16は、可動歯組込孔19から突出した状態で、ドリブンプーリ12のV溝底に位置するチェーン13の凹部17aに噛み合うために十分な、可動歯固定部品15の中心軸方向長さ及び突出量を有している。
【0018】
この可動歯16は、ドリブンプーリ12の軸部14の外表面との間に、例えば、コイルスプリング等の付勢部材21を介して、圧縮付勢状態で可動歯固定部品15に組み込まれており、可動歯固定部品15への組込時、付勢部材21により付勢された可動歯16は、突起状段部16aを可動歯固定部品15の外表面から突出させる(図5参照)。このとき、可動歯16は、係止部16bが可動歯固定部品15の段差面20bに内側から当接し係止することにより移動が規制され、突起状段部16aの傾斜面16cのみが可動歯固定部品15の外表面から突出した状態に保持される。
【0019】
この可動歯16を可動歯固定部品15へ組み込む場合、可動歯16を、中心軸方向に沿って二分した可動歯固定部品15の一方の外表面側から拡幅部19aを通して、可動歯固定部品15内部に入り込ませ、内側から可動歯組込孔19に突起状段部16aを挿入した後、突起状段部16a内側に付勢部材21を配置した状態で、可動歯固定部品15を軸部14の外表面に埋設状態に組み付ける。可動歯固定部品15の他方についても、同様に、可動歯組込孔19に突起状段部16aを挿入した後、付勢部材21を配置した状態で、可動歯固定部品15の一方と円筒状に組み合わせて、軸部14の外表面に埋設状態に組み付ける。
【0020】
可動歯組込孔19に突起状段部16aを挿入した状態の可動歯16は、可動歯固定部品15内部の隔壁部20に形成された係止部20a(図5参照。なお、図5以外の図面においては図示を省略する)により、可動歯組込孔19から可動歯固定部品15内部へと抜け落ちることなく保持される。この係止部20aは、可動歯固定部品15の段差面20bとの間に、突起状段部16aの傾斜面16cが可動歯組込孔19の内部に完全に退避状態になる空間を確保することができる位置に形成されている。
【0021】
その後、溝15bにスナップリングLを取り付けて、ドリブンプーリ12の軸部14の周囲に円筒状に可動歯固定部品15を固定し(図6参照)、可動歯16を組み込んだ可動歯固定部品15と軸部14を一体化する。軸部14の周囲に固定された可動歯固定部品15は、軸部14の周囲に埋設されており、可動歯固定部品15の外表面と軸部14の外表面は面一状態となる。
【0022】
図6は、ドリブンプーリの軸部に可動歯固定部品を装着した状態を示し、(a)は最Hi時の断面説明図、(b)は最Lo時の説明図である。図6に示すように、ドリブンプーリ12は、CVT10の最Hi時、固定プーリ12aに対し可動プーリ12bを離反させてチェーン13をV溝底部に位置させ((b)参照)、一方、CVT10の最Lo時、固定プーリ12aに対し可動プーリ12bを接近させてチェーン13をV溝上部に位置させる((b)参照)。CVT10の最Hi時、即ち、ドリブンプーリ12のV溝幅が広がってチェーン13がV溝底に位置する、チェーン13がドリブンプーリ12に巻き付く巻き付き径が小さいとき、チェーン13とドリブンプーリ12の軸部とが接触状態になって、チェーン13の凹部17aは、可動歯固定部品15の可動歯組込孔19から突出する可動歯16に噛み合うことになる。
【0023】
なお、軸部14の外表面に沿って摺動する可動プーリ12bは、そのまま可動歯固定部品15の外表面を摺動し、その際、傾斜面からなる突起状段部16aを付勢部材21の付勢力に抗して押し下げつつ移動する。従って、可動歯組込孔19から突出する可動歯16は、可動歯組込孔19内に退避した状態になり、可動プーリ12bの移動を妨げない。
次に、上記構成を有するCVT10の作動について説明する。
【0024】
図7は、チェーンと可動歯の対応関係に基づく各種状態を表で示す説明図である。図7に示すように、チェーン13と可動歯16が接触(C−T接触)している状態を○、接触していない状態を×、チェーン13が乗り上げ可動歯16が沈み込み(C乗−T沈)の状態を○、乗り上げ沈み込みでない状態を×、チェーン13と可動歯16が噛合(C−T噛合)している状態を○、噛合していない状態を×として、チェーン13の滑りが抑制(C滑り抑制)されている状態を○、抑制されていない状態を×とする。なお、△は、○と×の中間状態とする。
【0025】
そして、状態(A)は、(C−T接触)×、(C乗−T沈)×、(C−T噛合)×、(C滑り抑制)×とし、状態(B)は、(C−T接触)○、(C乗−T沈)○、(C−T噛合)×、(C滑り抑制)×とし、状態(C)は、(C−T接触)○、(C乗−T沈)○、(C−T噛合)×、(C滑り抑制)△とし、状態(D)は、(C−T接触)○、(C乗−T沈)△、(C−T噛合)○、(C滑り抑制)○とする。
【0026】
図8は、プーリ比に対するプーリ軸のスリップ率と可動歯のばね力の関係をグラフで示す説明図である。図8に示すように、ドリブンプーリ12の軸14のスリップ率(SEC軸スリップ率)Sは、ドリブンプーリ12のプーリ比が0.4のとき略1%であったのが、プーリ比が0.5のとき略4.5%、プーリ比が0.6のとき略4%となり、可動歯16のばね力(SEC軸歯ばね力)Fは、ドリブンプーリ12のプーリ比が0.4のとき略2であったのが、プーリ比が0.5のとき略1.5、プーリ比が0.6のとき略1となる。
【0027】
なお、プーリ比が0.4のとき、チェーン13と可動歯16の噛合代は2.0mm、ばね力は2.0Kgfであり、プーリ比が0.5のとき、噛合代は1.0mm、ばね力は1.5Kgfであり、プーリ比が0.6のとき、噛合代は0.0mm、ばね力は1.0Kgfである。
そして、プーリ比が0.6前後のときが状態(A)、プーリ比が略0.5〜0.6のときが状態(B)、プーリ比が略0.4〜0.5のときが状態(C)、プーリ比が0.4前後のときが状態(D)となる。
【0028】
CVT10の作動状態として、先ず、最Hi時よりも変速比が大きい状態(図7及び図8の(A)参照)では、ドリブンプーリ12のシーブ面とチェーン13のピン18の端面が接触して滑りを伴いながら動力を伝達しており、チェーンリンク17の凹部17aと軸14の可動歯16は接触していない(図2参照)。
次に、徐々に変速比を最Hi時に近づけて凹部17aと可動歯16が接触するような状態(図7及び図8の(B)参照)では、凹部17aと可動歯16は接触するが、それによって発生する摩擦力は小さく、チェーン滑りを抑制することができない。
【0029】
更に、変速比を最Hi時に近づけて凹部17aと可動歯16が接触するような状態(図7及び図8の(C)参照)では、凹部17aと可動歯16の接触が強くなってチェーン13は滑るため、凹部17aと可動歯16の位相が合っていると可動歯16の突出量が大きいが、凹部17aと可動歯16の位相がずれていると可動歯16は軸14内部に沈み込んだ退避状態となる。
図9は、駆動状態のチェーンに対し可動歯が可動歯組込孔から突出している状態の断面説明図である。図10は、駆動状態のチェーンに対し可動歯が可動歯組込孔に沈み込んでいる状態の断面説明図である。図11は、チェーンが可動歯の突起状段部に接触している状態の力の関係を示す断面説明図である。
【0030】
図9及び図10に示すように、可動歯16は、駆動状態(駆動方向を矢印で示す)のチェーン13に対し、可動歯組込孔19から突出している状態(図9参照)、或いは可動歯組込孔19に沈み込んでいる状態(図10参照)となり、両状態の間、特に、図11に示すように、チェーンリンク17の凹部17aが突起状段部16aの傾斜面16cに接触している間は、可動歯16に、チェーン13を滑ろうとする力(=滑り力a)と斜面摩擦力bとばね力cの3つの力が働く。
【0031】
この斜面摩擦力bとばね力cの合力である「滑り反力d」と「滑り力a」の巻付き部の総和の大小によって、次式のように滑りの有無が決まる。
Σ滑り反力d<Σ滑り力aの場合→チェーン13が滑る………(1)
Σ滑り反力d>Σ滑り力aの場合→チェーン13の滑りが少ないか無い………(2)
最終的に、CVT10の変速比が最Hi時になった(図3参照)場合は、可動歯16とチェーンリンク17の凹部17aのピッチが一致するため、チェーン巻付き部の可動歯16が全て噛み合う。この結果、滑り反力dの総和が最大となって(図7及び図8の(D)参照)、式(2)のような状態、即ち、滑りが少ない状態或いは滑りが無い状態となり、最Hi時における燃費が向上する。
【0032】
このように、CVT10の最Hi時において、ドリブンプーリ12のV溝底に位置するチェーン13が、ピン18の端部をドリブンプーリ12に接触させるだけでなく、チェーンリンク17に噛み合う可動歯16を介して、ドリブンプーリ12の軸部14と噛合状態に接触することとする。つまり、最Hi時におけるチェーン13の巻き付き径が小さいドリブンプーリ12の軸部14に、チェーン13を噛み合わせる機構(可動歯16)を軸部14の半径方向に移動可能に設けている。
【0033】
このため、従来のプーリV溝底にVベルトの歯と噛み合う歯車を有する構成においては、歯車が固定されていたため、Vベルトの歯と歯車が確実に噛み合わない場合、歯車がVベルトを攻撃してしまうことが避けられなかったが、この発明に係るCVT10にあっては、プーリV溝底の軸14に設けた可動歯16とチェーン13が確実に噛み合わない場合が生じたとしても、可動歯16が可動構造により軸14半径方向に移動するため、可動歯16がチェーン13を攻撃することがない。
【0034】
また、ドリブンプーリ12の軸部14にチェーン13を噛み合わせる機構を設けたことにより、チェーン13によるドリブンプーリ12の駆動時、チェーン13がドリブンプーリ12との間でスリップしてしまうのを抑制することができるので、CVT10において無段変速時の燃費性能の向上と有段変速時の高効率を併せ持つことが可能になる。即ち、CVTの駆動力伝達手段としてベルト・チェーンを用いた場合、一般的に、プーリ巻き付き半径の小さい側のプーリで約3〜5%滑りながら動力を伝達することになるので、最Lo時と最Hi時の燃費の悪化、特に最Hi時の燃費が悪化してしまうが、このような状況に効果的に対処することができる。
【0035】
また、プーリ比が最Hi時より小さい(図8の(C)参照)場合、ドリブンプーリ12とチェーン13のスリップ率を低減させることができ、プーリ比が最Hi時(図8の(D)参照)の場合、ドリブンプーリ12とチェーン13がスリップしない状態又は殆どスリップしない状態になる。
図12は、この発明におけるスリップレス状態と従来のスリップ状態をプーリ比とスリップ率の関係において示す説明図である。図12には、この発明に係るCVT10における最Hi時でのスリップレス状態S1と従来のスリップ状態S2、及びドリブンプーリの軸の滑り(SEC軸すべり)状態S3とドライブプーリの軸の滑り(PRI軸すべり)状態S4を、それぞれ示している。
【0036】
図12に示すように、プーリ比が最Hi時より小さい(図8の(C)参照)場合は、ドリブンプーリ12の軸部14に設けた可動歯16が軸部14半径方向に可動して、可動歯16とチェーン13との間に斜面摩擦力bを発生させ、ドリブンプーリ12とチェーン13のスリップ率を低減させる。一方、プーリ比が最Hi時(図8の(D)参照)の場合は、可動歯16とチェーン13が十分に噛み合った状態となり、ドリブンプーリ12とチェーン13がスリップしない状態又は殆どスリップしない状態になる。
この結果、プーリ比が最Hi時の場合と最Hi時より小さい場合(図8(D)参照)で、ドリブンプーリ12とチェーン13がスリップ状態になるのを抑制することができるので、無段変速における燃費性能の向上と有段変速における高効率を併せ持つことが可能になる。
【0037】
更に、チェーンリンク17の凹部17aと可動歯16が噛合した状態において、可動歯16の可動歯組込孔19からの突出部である突起状段部16aの傾斜面16cの有効な接触範囲が最大となるようにする。
図13は、チェーンリンクの凹部と可動歯が噛合した状態における可動歯固定部品内部の可動歯を示す断面説明図である。図13に示すように、チェーンリンク17の凹部17aと可動歯16が噛合した状態で、可動歯16の係止部16bと可動歯固定部品15の段差面20bとの間に間隙sを有するように、即ち、可動歯16の係止部16bと可動歯固定部品15の段差面20bが当接しないようにする。ここで、段差面20bは、可動歯16の突出を規制する突出規制部として機能する。
【0038】
これにより、凹部17aの凹部17a以外の部分との境界部分を形成する境界傾斜面と、可動歯16の傾斜面16cの間における、有効接触範囲が最大となり、摩擦力が大きくなる。この結果、チェーン13が、ドリブンプーリ12のV溝底の軸14に設置した可動歯16との間で滑ってしまうのを、より効果的に抑制することができる。
なお、可動歯16は、付勢部材21を介して、可動歯組込孔19から突出可能に軸部14半径方向に可動するが、別部材としての付勢部材21を用いることなく、同様の機能を持たせるように構成しても良い。
【0039】
図14は、可動歯の他の例を示す断面説明図である。図14に示すように、可動歯22は、可動歯固定部品15への組込時に可動歯組込孔19から突出する、可動歯固定部品15の中心軸方向に延びる突起状段部22aの下部に、圧縮付勢力を備えた脚部22bを有するように形成しても良い。つまり、例えば、付勢部材により、突起状段部22aと脚部22bを一体的に形成して、可動歯16と同様の機能を有する可動歯22としても良い。
また、可動歯22を安定的に保持すると共に可動歯16と同様に機能させるため、可動歯22に、係止部16bと同様に機能する係止部22c,22dを設けても良い。
【0040】
(第2実施の形態)
図15は、この発明の第2実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。図15に示すように、可動歯30は、プーリの軸部14外表面に、円筒状の可動歯ガイド31を介して、複数個(例えば、12個を図示)装着されている。つまり、可動歯ガイド31は、可動歯30が取り付けられる可動歯固定部品として機能する。各可動歯30は、円環(リング)状のスプリング32の付勢力に付勢された状態で、可動歯ガイド31に組み込まれており、その上端側を、可動歯ガイド31外表面側に突出させている。
【0041】
可動歯30は、突出する上端側が、駆動力伝達手段としてのチェーン(ロックアップチェーン)13のチェーンリンク17に形成された凹部17aに係止することで、チェーン13と噛み合った状態になる。
つまり、可動歯30は、第1実施の形態に係る可動歯構造における、コイルスプリング等の付勢部材21(図5参照)を、コイルスプリングに代えてリング状のスプリング32としている。このスプリング32により、可動歯30はプーリの軸部14の半径方向外側に突出するように付勢されている。リング状のスプリング32により付勢力を得るための構成及びそれに関連する構成以外の、その他の構成及び作用は、第1実施の形態に係る可動歯構造におけるものと同様である。
【0042】
図16は、図15の可動歯が組み込まれた可動歯ガイドの一部を裏面側から等角投影法で示した説明図である。図16に示すように、各可動歯30は、可動歯ガイド31に埋設された状態で、可動歯ガイド31周方向に略等間隔離間して配置されており、可動歯ガイド31の内面(裏面)側には、スプリング32が装着されている。スプリング32は、可動歯ガイド31中心軸方向に沿って略平行に複数本(例えば、4本を図示)配置されており、可動歯30を可動歯ガイド31に付勢保持している。
【0043】
図17は、可動歯を等角投影法で示した説明図である。図17に示すように、可動歯30は、下端面側と両端面側が開口する、Ω字状縦断面を有する長方形略箱形状に形成され
ており、両下側長辺部が外向きフランジ状に突設されて係止面30aを有すると共に、係止面30aの裏面側に、スプリング32を装着するための複数の可動歯スプリング装着溝33を有している。可動歯スプリング装着溝33は、スプリング32が埋設状態に収納することができる形状を有し、可動歯30の長辺方向に略等間隔離間して複数列(例えば、3列を図示)配置されている。
【0044】
図18は、可動歯ガイドの一部裏面側を等角投影法で示した説明図である。図18に示すように、可動歯ガイド31は、円筒状に形成されており(図15参照)、その周面に、可動歯30を組み込むための可動歯組込孔34が略等間隔で複数箇所開けられていると共に、周面内側に、スプリング32を装着するためのガイドスプリング装着溝35を有している。
この可動歯ガイド31は、円筒中心軸方向に沿う分割線で二分割されており、プーリ(例えば、ドリブンプーリ12)の軸部14外表面に、軸部14と一体的に組み付けた後、周面の両端部近傍に設けた溝31aに固定用のスナップリング(図示しない)を取り付けることにより、組み付け状態で固定される。
【0045】
可動歯組込孔34は、可動歯ガイド31の周壁内外面を貫通して円筒中心軸方向を長辺とする長孔状に形成され、可動歯ガイド31の周方向に略等間隔離間して配置されている。可動歯ガイド31の可動歯組込孔34境界部分の周壁内面には、円筒中心軸側(内側)に突出する隔壁部36が形成されており、各隔壁部36の円筒周方向幅を、隔壁部36が突設された周壁の円筒周方向幅より狭くしている。これにより、各隔壁部36の円筒周方向両側には、可動歯組込孔34の両側に位置する段差面(突出規制部)31bが形成される。
【0046】
ガイドスプリング装着溝35は、各隔壁部36を円筒中心軸側から切り欠いて、スプリング32が埋設状態に収納することができる形状を有し、全隔壁部36を円筒周方向に直線的に連通して形成されている。このガイドスプリング装着溝35は、円筒中心軸方向に略等間隔離間して複数列(例えば、3列を図示、図17参照)配置されており、可動歯組込孔34に可動歯30が組み込まれた状態で、可動歯スプリング装着溝33と直線的に連通し一体化する。
【0047】
また、隔壁部36の少なくとも一つには、円筒中心軸方向全域に渡って円筒中心側に突出する係止突部37(例えば、2個を図示、図18参照)が形成されており、この係止突部37が、可動歯ガイド31を軸部14に装着した際、軸部14に形成された受け部(図示しない)に係止することで、軸部14と可動歯ガイド31を一体化させることができる。
【0048】
図19は、図15のスプリングを等角投影法で示した説明図である。図19に示すように、スプリング32は、可動歯スプリング装着溝33及びガイドスプリング装着溝35に収納することができる横幅を有する、一箇所を切断した円環(リング)状に形成されており、可動歯ガイド31に装着された可動歯30の数に対応する数(例えば、12個を図示)の突部32aが設けられている。
【0049】
各突部32aは、可動歯ガイド31の内側から可動歯30の上端側内部空間に入り込み、その状態で空間内に位置するように、外側に向かって逆向きU字状に突出して形成されており、スプリング32の全周に渡って略等間隔離間して配置されている。これらの突部32aの一箇所が、リング周方向に切り離されて非連結部32bとされている。このスプリング32は、縮径状態になると原状復元力によって拡径方向に付勢力が作用する。
【0050】
上述した構成を有することにより、可動歯30は、可動歯ガイド31の内側から可動歯組込孔34に入り込ませ、その上端側を可動歯組込孔34から突出させた状態で、可動歯組込孔34に取り付けられ、可動歯30を取り付けた可動歯ガイド31を二つ組み合わせて円筒状にすることで、可動歯ガイド31内面側に、可動歯スプリング装着溝33とガイドスプリング装着溝35が連通し、スプリング32が装着される複数列(例えば、3列)の円環状溝が形成される(図16参照)。
【0051】
可動歯30及びスプリング32が組み込まれた可動歯ガイド31は、プーリ(例えば、ドリブンプーリ12)の軸部14外表面に、軸部14と一体的に組み付けた後、周面の両端部近傍に設けた溝31aに固定用のスナップリング(図示しない)を取り付けることにより、組み付け状態で固定される。
【0052】
可動歯30が取り付けられた可動歯ガイド31の可動歯スプリング装着溝33とガイドスプリング装着溝35にスプリング32を装着すると、スプリング32は、縮径状態で各突部32aをそれぞれ可動歯30の上端側内面(裏面)に位置させることになる。このとき、可動歯30は、スプリング32の付勢力によって可動歯ガイド31の外側へと押し出されるが、可動歯30の係止面30aが可動歯ガイド31の段差面31bに当接することにより可動歯30の移動が規制され、可動歯組込孔34内の可動歯30の上端側を、可動歯ガイド31の外表面から突出させた状態に保持される。
【0053】
なお、可動歯30の上端側は、可動歯組込孔34から突出した状態で、ドリブンプーリ12のV溝底に位置するチェーン13の凹部17aに噛み合うために十分な、可動歯ガイド31中心軸方向長さ及び突出量を有している。
図20は、可動歯ガイド内の可動歯保持状態を部分的に示す説明図である。図20に示すように、可動歯30は、チェーン13と噛み合った状態で、スプリング32の付勢力により、その上端側をチェーン13の凹部17aに位置させているが、このとき、スプリング32の突部32aのスプリング32周方向側には、可動歯30の上端側内面(裏面)との間に隙間Dが形成される。スプリング32は、可動歯30の上端側内面(裏面)との間で、この隙間Dを設けることができるように、その形状や付勢力等の構造及び機能を備えている。
【0054】
つまり、スプリング32は、縮径することによって必要な付勢力を発生させるが、この隙間Dを設けることにより、突部32aのスプリング32周方向への付勢変形が許容されてスプリング32の縮径が可能になり、スプリング32が必要な付勢力を発生させることができる。
【0055】
上述した、第2実施の形態に係る可動歯構造において、可動歯30は、プーリ比が最Hi時の場合以外では、固定プーリ12aに接近した状態にある可動プーリ(スライドプーリ)12bの下に潜り込んでいる。このとき、可動歯30は、プーリ径方向(軸部14の半径方向)に対し最大のストローク(伸縮動作)量を有している。これに対し、プーリ比が最Hi時の場合では、可動プーリ12bは固定プーリ12aに対し離反する方向に移動するため、可動歯30は、スプリング32の付勢力によりプーリ径方向に飛び出た状態になる。
【0056】
プーリ比が最Hi時の場合となる変速動作後、可動歯30とチェーン13が噛み合って可動歯30にトルクが作用すると、作用したトルクに比例して、可動歯30にはプーリ径方向に押し込まれる力が発生する。このとき、スプリング32には、可動歯30が押し込まれる力に抗するための付勢力が必要になる。
ここで、リング状のスプリング32は、プーリの軸部14外周に装着されて軸部14外周で縮径或いは拡径動作し、拡径時、軸部14外周に配置された複数の可動波30を一体的に突出させる。つまり、スプリング32は、各可動波30毎に装着されてプーリの軸部14の半径方向に伸縮動作し、伸縮時、可動波30を突出させる付勢部材として機能する。
【0057】
そして、可動歯30に付勢力を付与する手段として、リング状のスプリング32を用いることにより、縮径することで付勢力を発生させることができるため、付勢力を発生させるためにプーリ径方向のストロークを必要としない。なお、付勢力を付与する手段として皿バネを使用した場合、十分なストローク量を得ることができず、複数枚を重ねて使用することになるため、組み付け性が悪化したり、安定して付勢力を付与することができなくなってしまう。
このように、リング状のスプリング32を用いることで、プーリ径方向のストロークを必要としないので、可動歯30への付勢力付与手段を備えても、プーリの軸部14の構造に影響を与えず軸部14の強度を十分確保することができる。
【0058】
また、スプリング32は、リング状の一体構造を有することにより、可動歯ガイド31に取り付けられた可動歯30へのスプリング32の組み付けが容易になり、可動歯構造における組み付け性が向上する。
また、リング状のスプリング32は、付勢力付与の安定性を保つため、可動歯30に組み付ける突部32aを設けている。これにより、スプリング32は、スプリング周方向に移動することなく、非連結部32bが移動しないので、可動歯ガイド31への組み付け時の位置を保持することができる。
【0059】
また、スプリング32は、複数の可動歯30それぞれに付勢力を作用させるが、各可動歯30に係止して付勢力を作用させる突部32aを一体的に配置したリング状に形成されている。このため、スプリング32は、各可動歯30毎に個別に対応した付勢手段の組み付けを必要としないので、組み付け性が容易になる。
更に、スプリング32は、大きな付勢力が必要な場合、スプリング板厚やリング径を変更することで対応することができる。
【0060】
(第3実施の形態)
図21は、この発明の第3実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。図21に示すように、この可動歯構造においては、可動歯30への付勢力付与手段として、複数の突部を有するスプリング32の代わりに突部が一つしかないスプリング40が用いられる。その他の構成及び作用は、第2実施の形態に係る可動歯構造と同様である。
【0061】
図22は、図21のスプリングを等角投影法で示した説明図である。図22に示すように、スプリング40は、スプリング32に設けられていた、可動歯30に組み付ける突部32aを設けておらず、スプリング周方向への移動を阻止するために、突起状の移動阻止部40aを一個設けている他は、スプリング32と同様の構成及び作用を有している。この移動阻止部40aは、非連結部32bに対しリング平面直径位置に配置されている。
そして、スプリング40を、可動歯ガイド31に取り付けられた可動歯30に組み付ける際、組み付けられる複数(例えば、3個)のスプリング40の非連結部32bが、プーリ軸方向に一列にならず、それぞれスプリング周方向にずらして配置されている。
【0062】
このように、スプリング40は、一つの突部しか設けられておらず、スプリング形状が複雑にならないので、スプリングの生産性を向上させることができる。
また、移動阻止部40aにより、スプリング40の周方向への移動を阻止することができるので、スプリング40が移動することにより、プーリ軸方向に複数箇所設けたスプリングの切断箇所(非連結部32b)が一つの可動歯30に集中してしまうのを防止することができる。このため、スプリングの付勢力をより安定して作用させることができる。
また、複数のスプリング40は、非連結部32bがそれぞれ周方向にずれて配置されるので、付勢力の発生が不安定な箇所である非連結部32bを、一つの可動歯30に集中させることがないので、付勢力をより安定して発生させることができる。
【0063】
(第4実施の形態)
図23は、この発明の第4実施の形態に係る可動歯構造におけるプーリの軸部にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。図23に示すように、この可動歯構造においては、可動歯30への付勢力付与手段として、1個のスプリング32の代わりに複数個のスプリング45を用いている。その他の構成及び作用は、第2実施の形態に係る可動歯構造と同様である。
【0064】
図24は、図23の可動歯ガイド内の可動歯保持状態を部分的に示す説明図である。図24に示すように、スプリング45は、中央部に、可動歯30に組み付ける突部45aを1個有し、両端部に、突部32aの突出方向とは逆方向に屈曲させた脚部45bを有する、細板状に形成されており、概略、リング状のスプリング32を突部32a毎に分離した形状を有している。つまり、スプリング45は、各可動歯30に個別に付勢力を付与する手段として、可動歯30一個ずつに対応する複数個(例えば、12個、図23参照)が装着されている。
【0065】
(第5実施の形態)
この発明の第5実施の形態に係る可動歯構造における可動歯は、軸部(プーリ軸)14の周方向(プーリ軸周方向)に突出する係止部(第1実施の形態、図5の16b参照)に代えて、プーリ軸14の軸方向(プーリ軸方向)に突出する係止部を有しており、この係止部に対応する可動歯固定部品に組み込まれて構成されている。その他の構成及び作用は、第1実施の形態に係る可動歯構造と同様である。
【0066】
図25は、この発明の第5実施の形態に係る可動歯構造の可動歯部分を軸部方向に沿う断面で示す説明図である。図25に示すように、可動歯50は、横に長い山形の突条凸部50aのプーリ軸方向に、外向きフランジ(鍔)状に突出する係止部50bを有すると共に、突条凸部50aの上端面全周(長方形の四辺)に、角を切り落とした状態の傾斜面50cを有している。
【0067】
この可動歯50は、ドリブンプーリ12の軸外表面14aとの間に、例えば、コイルスプリング等の付勢部材21を介して可動歯固定部品51に組み込まれており、可動歯固定部品51に組み込まれた可動歯50は、両係止部50b,50bが、可動歯固定部品51の後述する円環(リング)部51aに下面側から係止した状態になる。付勢部材21は、プーリ軸方向に沿う離間した2箇所に配置されている。
【0068】
図26は、図25のA−A線に沿う断面図である。図26に示すように、可動歯固定部品51に組み込まれた可動歯50は、傾斜面50cを含む突条凸部50aの上部を可動歯固定部品51の外表面から突出させる。このとき、可動歯50は、両係止部50b,50bが円環部(突出規制部)51aに係止することで上方移動が規制され、傾斜面50cを含む突条凸部50aの上部が、可動歯固定部品51の外表面から突出した状態に保持される。
【0069】
つまり、可動歯50は、突条凸部50aのプーリ軸周方向を除く、プーリ軸方向のみに設置された両係止部50b,50bが円環部51aに係止することにより、可動歯固定部品51からの突出が規制される。
なお、可動歯50は、可動歯固定部品51に組み込まれた際に、可動歯固定部品51の外表面から突出した状態で、ドリブンプーリ12のV溝底に位置するチェーン13の凹部17aに噛み合うために十分な、可動歯固定部品51の中心軸方向長さ及び突出量を有している。
【0070】
可動歯50は、可動歯50を付勢保持する付勢部材21と共に、プーリ軸14を貫通させて一体化した状態にプーリ軸14の外周面を覆ってプーリ軸14に装着された、円筒状のスペーサ52の溝部53に配置されている。つまり、可動歯50は、突条凸部50aの下部を溝部53内に入り込ませて係合させており、溝部53が形成されているスペーサ52を介して、スペーサ52と一体化しているプーリ軸14に係合した状態になる。
【0071】
溝部53は、可動歯50が自在に進出退避することができるように、スペーサ52外表面のプーリ軸方向に沿う幅全域に開口しており、スペーサ52の周方向全域に亘って、略等間隔離間して形成されている。つまり、この溝部53は、プーリ軸14の外表面に配置される可動歯50のプーリ軸周方向における位置規制を行っている。なお、溝部53は、スペーサ52の外表面側に形成する他、スペーサ52を設けずに、直接、プーリ軸14の外表面側に形成しても良い。
【0072】
図27は、図25の可動歯が組み込まれる可動歯固定部品を示す斜視説明図である。図27に示すように、可動歯固定部品51は、横に並べた2個の円環(リング)部51aの間に複数の横桟部51bを略平行に配置した、恰も、梯子の両端を結び円環状にした形状を有している。この可動歯固定部品51の隣接する横桟部51b,51bの間に、それぞれ可動歯50を組み込むことにより、可動歯50を、略等間隔離間して一列に並んだ状態で位置決め配置することができる。
【0073】
図28は、図27の可動歯固定部品と可動歯をプーリ軸に組み込んだ状態を示す斜視説明図である。図28に示すように、各可動歯(エレメント)50を、それぞれ略等間隔離間して一列に円環状に並んだ状態で、可動歯固定部品(ロックガイド)51の両円環部51a,51aと横桟部51bの間に配置する。そして、配置した状態で付勢部材21によって付勢保持されるように、プーリ軸14を貫通させたスペーサ52を、溝部53に付勢部材21を装着した状態(図示しない)で、可動歯固定部品51内に組み込む。なお、溝部53をプーリ軸14に直接形成した場合は、溝部53に付勢部材21を装着した状態のプーリ軸14を可動歯固定部品51内に組み込む。
【0074】
上記構成を有することにより、CVT10の最Hi時、即ち、ドリブンプーリ12のV溝幅が広がってチェーン13がV溝底に位置する、チェーン13がドリブンプーリ12に巻き付く巻き付き径が小さいとき、チェーン13とドリブンプーリ12の軸部とが接触状態になって、チェーン13の凹部17aは、可動歯固定部品51の円環部51a及び横桟部51bの間から突出する可動歯50の上部に噛み合うことになる。
【0075】
なお、プーリ軸14の外表面に沿って摺動する可動プーリ12bは、そのまま可動歯固定部品51の外表面を摺動し、その際、可動歯50の上部の傾斜面50cを付勢部材21の付勢力に抗して押し下げつつ移動する。従って、円環部51a及び横桟部51bの間から突出する可動歯50は、円環部51a及び横桟部51b下方に退避した状態になり、可動プーリ12bの移動を妨げない。
【0076】
上述したように、可動歯50は、突出規制部である円環部51aに係止する係止部50bを、突条凸部50aのプーリ軸周方向を除いた、プーリ軸方向のみに形成したので、突条凸部50aのプーリ軸周方向に突出するフランジ状のリブが無くなる。
このように、係止部50bをプーリ軸方向のみに形成したことにより、第1実施の形態のように係止部(図5の16b)がプーリ軸周方向に形成される場合に比して、可動歯50の歯数が同じ条件なら歯幅をプーリ軸周方向へ拡大することができるため、複数の可動歯50のそれぞれの強度を向上させることができる。また、可動歯50の歯幅が同じ条件なら歯数を増大することができるため、複数の可動歯50の一歯当たりのトルク分担率を低減することができ、可動歯50の耐久性を向上させることができる。
【0077】
図29は、図26の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。図29に示すように、可動歯50の歯幅eは、突条凸部50aのプーリ軸周方向に突出するフランジ状のリブを設けた場合に比べ、溝部53内でプーリ軸周方向全域迄、拡大することができるので、歯幅eを拡大した分、可動歯50の強度をより高めることができる。
【0078】
また、可動歯50を、溝部53が形成されているスペーサ52を介して(或いは直接)プーリ軸14に係合させることで、可動歯50に作用する駆動力をプーリ軸14で受けることができる。このため、可動歯50に作用する駆動力を、可動歯50を固定するための可動歯固定部品のみで受ける場合に比べ、ロックアップ性能を満足しつつ可動歯固定部品の剛性を低減することができる。
【0079】
つまり、可動歯50に作用する駆動力を、可動歯50を固定するための可動歯固定部品のみで受ける場合、ロックアップ性能を満足させるために可動歯固定部品の剛性を高くする必要がある。一方、可動歯固定部品の剛性が低い場合、例えば、可動歯固定部品の変形等が発生することも想定され、場合によっては、ピッチずれが発生してロックアップ性能を満足することができなくなる虞もある。
【0080】
(第6実施の形態)
この発明の第6実施の形態に係る可動歯構造においては、可動歯の上方移動を規制する係止部が、2箇所ではなく3箇所設けられている。その他の構成及び作用は、第5実施の形態に係る可動歯構造と同様である。
図30は、この発明の第6実施の形態に係る可動歯構造の可動歯部分をプーリ軸方向に沿う断面で示す説明図である。図31は、図30の可動歯が組み込まれる可動歯固定部品を示す斜視説明図である。
【0081】
図30に示すように、可動歯55は、突条凸部55aのプーリ軸方向に設けた係止部55b,55bに加えて、プーリ軸方向略中央部にも、係止部55bを有しており、可動歯55の上方移動を規制する係止部55bを、プーリ軸方向両側と略中央の3箇所に設けている。このプーリ軸方向略中央部に設けた係止部55bは、プーリ軸方向両側に設けた係止部55bと同様に、後述する可動歯固定部品56の円環部56aに係止させることができるように、プーリ軸方向両側に設けた係止部55bと同様の上面高さ及び上面形状からなる底面を有する溝状に形成されている。その他の構成及び作用は、可動歯50と同様である。
【0082】
これら3箇所の係止部55bを有することにより、図31に示すように、可動歯固定部品56は、3箇所の係止部55bに対応する3個の円環部56aを有すると共に、3個の円環部56aの間に複数の横桟部(リブ)56bを略平行に配置して、形成されている。その他の構成及び作用は、可動歯固定部品51と同様である。
【0083】
図32は、図31の可動歯固定部品と可動歯をプーリ軸に組み込んだ状態を示す斜視説明図である。図32に示すように、各可動歯(エレメント)55を、それぞれ略等間隔離間して一列に円環状に並んだ状態で、可動歯固定部品(ロックガイド)56の3個の円環部56a,56a,56aが両側と略中央に位置するように、横桟部56bの間に配置する。そして、配置した状態で付勢部材21によって付勢保持されるように、プーリ軸14を貫通させたスペーサ52を、溝部53に付勢部材21を装着した状態(図示しない)で、可動歯固定部品56内に組み込む。なお、溝部53をプーリ軸14に直接形成した場合は、溝部53に付勢部材21を装着した状態のプーリ軸14を可動歯固定部品56内に組み込む。
【0084】
このように、可動歯55の上方移動による突出を規制する係止部55bを、プーリ軸方向のみの複数箇所(ここでは、プーリ軸方向の両側と略中央の3箇所)に設けており、プーリ軸方向略中央にも係止部55bを有することにより、可動歯55のプーリ軸方向略中央も円環部56aが位置することになるので、例えば、可動歯55のプーリ軸方向の傾きやトルク伝達時の変形等により、喩え、両側の円環部56aの内の一方が可動歯55から外れたとしても、可動歯55の突出を確実に防止することができる。
また、係止部55bを複数箇所(ここでは、3箇所を例示)設けたことにより、可動歯55を付勢する付勢部材21による負荷を分散させて平均化することができるため、可動歯55が組み込まれる可動歯固定部品56の強度を確保することができる。
【0085】
(第7実施の形態)
この発明の第7実施の形態に係る可動歯構造においては、可動歯の突出を規制する係止部が可動歯固定部品の円環部と係止する係止面の形状を、凸状或いは凹状としている。その他の構成及び作用は、第5実施の形態に係る可動歯構造と同様である。
【0086】
図33は、この発明の第7実施の形態に係る可動歯構造(その1)を説明する、図25のB−B線に沿う断面図である。図34は、図33の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。図33に示すように、可動歯60の突出を規制する係止部60bは、可動歯固定部品61の円環部61aの下方から円環部61aの下面に係止した状態になるが、円環部61aに係止する係止部60bの上面(係止面)を、プーリ軸14の外表面周方向において山形断面形状となる凸状の傾斜面により形成している。また、円環部61aの下面を、係止部60bの上面に対応した受け部となるように、プーリ軸14の外表面周方向において皿形断面形状となる凹状の傾斜面に形成している。
【0087】
上記構成を有することにより、図34に示すように、可動歯60に付勢部材21の付勢力が作用し、可動歯60の突出を規制する係止部60bの上面(係止面)に荷重F0が付加されると、係止部60bの凸状の傾斜面からなる上面を介して、可動歯60を可動歯固定部材61の円環部61aに押付けようとする垂直分力F1が発生する。このため、可動歯60のプーリ軸14の外表面周方向への傾きを防止することができる。
【0088】
図35は、この発明の第7実施の形態に係る可動歯構造(その2)を説明する、図25のB−B線に沿う断面図である。図36は、図35の可動歯装着部を拡大して示す部分説明図である。図35に示すように、可動歯60の突出を規制する係止部60bは、可動歯固定部品61の円環部61aの下方から円環部61aの下面に係止した状態になるが、円環部61aに係止する係止部60bの上面(係止面)を、プーリ軸14の外表面周方向において皿形断面形状となる凹状の傾斜面により形成している。また、円環部61aの下面を、係止部60bの上面に対応した受け部となるように、プーリ軸14の外表面周方向において山形断面形状となる凸状の傾斜面に形成している。
【0089】
上記構成を有することにより、図36に示すように、可動歯60に付勢部材21の付勢力が作用し、可動歯60の突出を規制する係止部60bの上面(係止面)に荷重F0が付加されると、係止部60bの凹状の傾斜面からなる上面を介して、可動歯60を可動歯固定部材61の円環部61aに押付けようとする垂直分力F1が発生する。このため、可動歯60のプーリ軸14の外表面周方向への傾きを防止することができる。
【0090】
上述したように、この発明に係る無段変速装置は、共にプーリ溝幅を変更可能な二つのプーリの間に掛け回された駆動力伝達手段により、一方のプーリの回転駆動力を他方のプーリに伝達する無段変速装置において、前記駆動力伝達手段のプーリ巻き付き側に設けた被噛合部と、前記プーリの軸部に、前記軸部に対し進出退避自在に軸部半径方向に移動可能に設置され、変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、進出状態になって前記被噛合部に噛合することができる可動噛合部とを有することを特徴としている。
【0091】
また、この発明において、前記駆動力伝達手段がプーリ溝底に位置してプーリ巻き付き径が小さいとき、前記駆動力伝達手段と前記プーリの軸部とが接触状態になって前記可動噛合部が前記被噛合部に噛合することが好ましい。
また、この発明において、前記可動噛合部は、前記二つのプーリのプーリ比が最Hi時より小さい場合、前記軸部の半径方向に可動し前記駆動力伝達手段との間に斜面摩擦力を発生させて、前記プーリと前記駆動力伝達手段のスリップ率を低減させ、前記プーリ比が最Hi時、前記駆動力伝達手段が十分に噛み合った状態となって、前記プーリと前記駆動力伝達手段がスリップしない状態或いは殆どスリップしない状態にすることが好ましい。
【0092】
また、この発明において、前記可動噛合部は、前記被噛合部と噛み合った状態で、前記軸部に形成された前記可動噛合部の突出を規制する突出規制部との間に間隙を有するように設置されていることが好ましい。
また、この発明において、前記軸部に形成された前記可動噛合部の突出を規制する突出規制部に係止する前記可動噛合部の係止部を、前記プーリの軸方向のみに設置したことが好ましい。
また、この発明において、前記係止部の係止面を凸状或いは凹状の傾斜面により形成したことが好ましい。
【0093】
また、この発明において、前記駆動力伝達手段は、ピンを用いて円環状に連結された複数のチェーンリンクのそれぞれが前記ピンを軸として前記ピンの周りに自在に回動するチェーンからなることが好ましい。
また、この発明において、前記被噛合部は、前記チェーンリンクに形成された、前記可動噛合部側に開口する凹部であることが好ましい。
【0094】
また、この発明において、前記二つのプーリは、駆動力が入力するドライブプーリと、前記駆動力伝達手段を介して前記ドライブプーリから回転駆動力が伝達されるドリブンプーリであることが好ましい。
また、この発明において、前記可動噛合部は、付勢部材により前記プーリの軸部の半径方向外側に突出するように付勢されていることが好ましい。
【0095】
また、この発明において、前記付勢部材は、前記可動噛合部毎に装着されて前記プーリの軸部の半径方向に伸縮動作し、伸縮時、前記可動噛合部を突出させるコイルスプリングであることが好ましい。
また、この発明において、前記付勢部材は、前記プーリの軸部外周に装着されて前記軸部外周で縮径或いは拡径動作し、拡径時、前記軸部外周に配置された複数の前記可動噛合部を一体的に突出させるリング状スプリングであることが好ましい。
【0096】
また、この発明において、前記リング状スプリングは、前記可動噛合部のそれぞれの内部に配置される突部を有し、前記突部と前記可動噛合部の間に、前記リング状スプリングの付勢変形を許容する隙間を設けて、配置されていることが好ましい。
また、この発明において、前記リング状スプリングは、前記リング状スプリングのスプリング周方向への移動を阻止する移動阻止部を有することが好ましい。
【0097】
また、この発明において、前記リング状スプリングは、リング周方向に切り離す非連結部を有し、前記非連結部を、前記可動噛合部に装着された複数の前記リング状スプリング間でずらして配置したことが好ましい。
なお、上述した各実施の形態1〜7においては、説明したそれぞれの構成に限るものではなく、他の実施の形態において説明した対応する構成について適宜組み合わせても良く、その組み合わせた構成も、当然、この発明に係る無段変速装置に含まれるものである。
【符号の説明】
【0098】
10 CVT
11 ドライブプーリ
12 ドリブンプーリ
12a 固定プーリ
12b 可動プーリ
13 チェーン(駆動力伝達手段)
14 軸部
15,51,56,61 可動歯固定部品
15a 分割線
15b 溝
16,22,30,50,55,60 可動歯
16a 突起状段部
16b,20a,22c,22d,50b,55b,60b 係止部
16c,50c 傾斜面
17 チェーンリンク
17a 凹部
18 ピン
19 可動歯組込孔
19a 拡幅部
20 隔壁部
20b 段差面
21 付勢部材
22a 突起状段部
22b 脚部
31 可動歯ガイド
32,40,45 スプリング
30a 係止面
31a 溝
31b 段差面
32a 突部
32b 非連結部
33 可動歯スプリング装着溝
34 可動歯組込孔
35 ガイドスプリング装着溝
36 隔壁部
37 係止突部
40a 移動阻止部
45a 突部
45b 脚部
50a 突条凸部
51a,56a,61a 円環部
51b,56b 横桟部
52 スペーサ
53 溝部
55a 突条凸部
a 滑り力
b 斜面摩擦力
c ばね力
d 滑り反力
e 歯幅
s 間隙
D 隙間
F SEC軸歯ばね力
F0 荷重
F1,F2 垂直分力
L スナップリング
S SEC軸スリップ率
S1 スリップレス状態
S2 スリップ状態
S3 ドリブンプーリの軸の滑り状態
S4 ドライブプーリの軸の滑り状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共にプーリ溝幅を変更可能な二つのプーリの間に掛け回された駆動力伝達手段により、一方のプーリの回転駆動力を他方のプーリに伝達する無段変速装置において、
前記駆動力伝達手段のプーリ巻き付き側に設けた被噛合部と、
前記プーリの軸部に、前記軸部に対し進出退避自在に軸部半径方向に移動可能に設置され、変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、進出状態になって前記被噛合部に噛合することができる可動噛合部と
を有することを特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
前記駆動力伝達手段がプーリ溝底に位置してプーリ巻き付き径が小さいとき、前記駆動力伝達手段と前記プーリの軸部とが接触状態になって前記可動噛合部が前記被噛合部に噛合することを特徴とする請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記可動噛合部は、
前記二つのプーリのプーリ比が最Hi時より小さい場合、前記軸部の半径方向に可動し前記駆動力伝達手段との間に斜面摩擦力を発生させて、前記プーリと前記駆動力伝達手段のスリップ率を低減させ、
前記プーリ比が最Hi時、前記駆動力伝達手段が十分に噛み合った状態となって、前記プーリと前記駆動力伝達手段がスリップしない状態或いは殆どスリップしない状態にすることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速装置。
【請求項4】
前記可動噛合部は、
前記被噛合部と噛み合った状態で、前記軸部に形成された前記可動噛合部の突出を規制する突出規制部との間に間隙を有するように設置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の無段変速装置。
【請求項5】
前記軸部に形成された前記可動噛合部の突出を規制する突出規制部に係止する前記可動噛合部の係止部を、前記プーリの軸方向のみに設置したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の無段変速装置。
【請求項6】
前記係止部の係止面を凸状或いは凹状の傾斜面により形成したことを特徴とする請求項5に記載の無段変速装置。
【請求項7】
前記駆動力伝達手段は、
ピンを用いて円環状に連結された複数のチェーンリンクのそれぞれが前記ピンを軸として前記ピンの周りに自在に回動するチェーンからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の無段変速装置。
【請求項8】
前記被噛合部は、
前記チェーンリンクに形成された、前記可動噛合部側に開口する凹部であることを特徴とする請求項7に記載の無段変速装置。
【請求項9】
前記二つのプーリは、
駆動力が入力するドライブプーリと、前記駆動力伝達手段を介して前記ドライブプーリから回転駆動力が伝達されるドリブンプーリであることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の無段変速装置。
【請求項10】
前記可動噛合部は、
付勢部材により前記プーリの軸部の半径方向外側に突出するように付勢されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の無段変速装置。
【請求項11】
前記付勢部材は、
前記可動噛合部毎に装着されて前記プーリの軸部の半径方向に伸縮動作し、伸縮時、前記可動噛合部を突出させるコイルスプリングであることを特徴とする請求項10に記載の無段変速装置。
【請求項12】
前記付勢部材は、
前記プーリの軸部外周に装着されて前記軸部外周で縮径或いは拡径動作し、拡径時、前記軸部外周に配置された複数の前記可動噛合部を一体的に突出させるリング状スプリングであることを特徴とする請求項10に記載の無段変速装置。
【請求項13】
前記リング状スプリングは、前記可動噛合部のそれぞれの内部に配置される突部を有し、前記突部と前記可動噛合部の間に、前記リング状スプリングの付勢変形を許容する隙間を設けて、配置されていることを特徴とする請求項12に記載の無段変速装置。
【請求項14】
前記リング状スプリングは、前記リング状スプリングのスプリング周方向への移動を阻止する移動阻止部を有することを特徴とする請求項12に記載の無段変速装置。
【請求項15】
前記リング状スプリングは、リング周方向に切り離す非連結部を有し、前記非連結部を、前記可動噛合部に装着された複数の前記リング状スプリング間でずらして配置したことを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の無段変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate


【公開番号】特開2010−14269(P2010−14269A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17811(P2009−17811)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】