説明

無灰系潤滑油組成物

改善された酸化防止能力を有する潤滑油組成物が、金属不含硫黄含有化合物、芳香族アミン、およびヒンダードアミンを含む添加剤組成物によって提供される。とりわけ有効な金属不含硫黄含有化合物としては、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)などの無灰系ジチオカルバメート、および硫化脂肪酸が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)金属不含硫黄含有化合物、(b)ヒンダードアミン、および(c)芳香族アミンの存在によって酸化から安定化されている潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、潤滑油組成物、それらの調製方法および使用に関する。具体的には、本発明は、金属不含硫黄含有化合物、ヒンダードアミン、および芳香族アミンを含む酸化防止添加剤を含む潤滑組成物に関する。
【0003】
酸化は、潤滑油の分解の主要原因である。このことが、潤滑油の寿命短縮をもたらし、特に、内燃機関などの過酷な環境において、より頻繁な交換を余儀なくさせる。
【0004】
酸化防止剤は、したがって、潤滑油中の添加剤として、それら潤滑油の実用的寿命を延ばすために重要な役割を演じてきた。アリールアミン(芳香族アミンとも呼ばれる)、特に、第2級ジアリールアミン、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェノチアジン、およびアルキル化N−ナフチル−N−フェニルアミンは、潤滑組成物に対する重要な添加剤であった。フェノール系化合物も酸化を遅らせる上で重要であった。
【0005】
酸化防止剤のその他の組合せも使用されてきた。Schumacherらへの米国特許第5073278号および同第5273669号には、潤滑油における芳香族アミンとヒンダードアミンとの相乗的な組合せが開示されている。Evansらへの米国特許第5268113号には、ヒンダードアミンとフェノール系化合物との組合せが開示されている。
【0006】
硫化有機化合物はまた、酸化防止活性を有することが示されている。Doeへの米国特許第4880551号およびStunkelへの米国特許第6743759号には、無灰系ジチオカルバメートとトリアゾール化合物との間の相乗効果が開示されている。米国特許第6806241号には、無灰系ジチオカルバメート、モリブテン化合物およびアルキル化ジフェニルアミンとの間の相乗効果が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5073278号
【0008】
【特許文献2】米国特許第5273669号
【0009】
【特許文献3】米国特許第5268113号
【0010】
【特許文献4】米国特許第4880551号
【0011】
【特許文献5】米国特許第6743759号
【0012】
【特許文献6】米国特許第6806241号
【0013】
【特許文献7】米国特許第5847035号
【0014】
【特許文献8】米国特許第4085104号
【0015】
【特許文献9】米国特許第4857595号
【0016】
【特許文献10】米国特許第5098944号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Nitrones,Nitronates and Nitroxides」E.Breuerら、1989年、John Wiley& Sons
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、 本発明は、(a)金属不含硫黄含有化合物、(b)ヒンダードアミン、および(c)芳香族アミンの存在によって酸化から安定化されている潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、金属不含硫黄含有化合物、芳香族アミン、およびヒンダードアミンを含む添加剤を含む潤滑油組成物が、相乗的に抗酸化保護を提供することを発見した。より具体的には、本発明は、鉱物基油または合成基油、このような油の混合物またはグリース、および(潤滑油組成物全体の重量%として)
約0.001から10%の間、好ましくは約0.1から1.0%の間、最も好ましくは約0.25から0.5%の間の少なくとも1種の金属不含硫黄含有化合物、
0.001から10%の間、好ましくは約0.05から1.0%の間、最も好ましくは約0.1から0.5%の間の少なくとも1種のヒンダードアミン、および
0.001から10%の間、好ましくは約0.1から1.0%の間、最も好ましくは0.25から0.5%の間の少なくとも1種の芳香族アミン
を含む酸化防止添加剤組成物;を含む潤滑油組成物を提供する。
【0020】
とりわけ有効な金属不含硫黄含有化合物としては、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)などの無灰系ジチオカルバメート、および硫化脂肪酸が挙げられる。加えて、最も高度の相乗効果は、約0.1%のヒンダードアミン、約0.4%の芳香族アミン、および約0.5%の金属不含硫黄含有化合物を含む好ましい組成物のように、添加物中で比較的少量のヒンダードアミンを用いて認められた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
潤滑油ベースストック
本発明中で使用できる典型的な潤滑油ベースストックとしては、鉱物油および合成油の双方が挙げられ得る。ポリαオレフィン(PAOSとしても知られる)、エステル、ジエステル、およびポリオールエステル、またはこれらの混合物が包含される。ベースストックは、潤滑油組成物全体の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%を構成する。
【0022】
グリース
ベースグリース組成物は、潤滑油および増稠剤系からなる。一般に、基油および増稠剤系は、最終グリースのそれぞれ65〜95、および3〜10質量パーセントを構成する。最も一般的に使用される基油は、石油、バイオベース油、または合成基油である。当技術分野で知られている最も一般的な増稠剤系は、水酸化リチウムを用いてベース流体中で典型的には直接的に、脂肪系カルボン酸を中和すること、または脂肪系カルボン酸エステルを鹸化することによって製造されるリチウム石鹸およびリチウム錯体石鹸である。リチウム錯体グリースは、通常的にはジカルボン酸からなる錯化剤の組込みによって、単純なリチウム石鹸と異なる。
【0023】
本発明中で使用できるその他の増稠剤系としては、アルミニウム、アルミニウム錯体、ナトリウム、カルシウム、カルシウム錯体、有機粘土、スルホン酸塩、およびポリウレアなどが挙げられる。
【0024】
金属不含硫黄含有化合物
本発明中で使用される硫黄含有化合物には多くの種類がある。典型的には、硫黄含有化合物は、油溶性であり、容易に酸化できる硫黄原子または原子群を含む。このような化合物の例が、硫化オレフィン、アルキルスルフィドおよびジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメート、ジチオカルバメートエステル、無灰系ジチオカルバメート、チウラムジスルフィド、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸誘導体、およびチアジアゾール化合物である。
【0025】
1.硫化脂肪酸および誘導体
硫化脂肪酸は、不飽和脂肪酸を前述の硫黄供給源と反応させることによって調製することができる。不飽和脂肪酸の例としては、限定はされないが、リノール酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノレン酸、およびミリストレイン酸が挙げられる。
【0026】
硫化脂肪酸の誘導体としては、限定はされないが、硫化脂肪酸エステルおよび硫化脂肪酸アミドが挙げられる。
【0027】
2.その他の硫黄含有化合物
本発明中で使用するのに適している無灰系ジチオカルバメート、テトラアルキルチウラムジスルフィド、およびチアジアゾール化合物としては、限定はされないが、メチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)、エチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)、およびテトラアルキルチウラムジスルフィドが挙げられ、ここで、アルキル基は、優先的には1から20個の間の炭素原子を有する。好ましい無灰系ジチオカルバメートの例が、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)およびエチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)である。好ましいチウラムジスルフィドの例としては、テトラブチルチウラムジスルフィドおよびテトラオクチルチウラムジスルフィドが挙げられる。チアジアゾール化合物の例としては、ジアルキルチアジアゾールが挙げられる。
【0028】
硫化オレフィンは、提案される本発明の3成分系中で使用しても注目に値する相乗効果を提供しないことが見出される。硫化オレフィンは、通常、αオレフィン、異性化αオレフィン、環状オレフィン、分枝オレフィン、およびポリマー性オレフィンから、硫黄供給源と反応させて誘導される。オレフィンの具体例としては、限定はされないが、1−ブテン、イソブチレン、ジイソブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、およびC60およびそれを超えるより長い炭素鎖を有するポリマー性オレフィンまでが挙げられる。硫黄供給源の例としては、硫黄、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、塩化硫黄、二塩化硫黄が挙げられる。
【0029】
ヒンダードアミン
本発明で使用されるヒンダードアミンは多くの種類からなり、3種、すなわち、ピリミジン、ピペリジン、および安定なニトロキシド化合物が優勢である。さらに多くのものが、書籍「Nitrones,Nitronates and Nitroxides」E.Breuerら、1989年、John Wiley& Sons中に記載されている。ヒンダードアミンは、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)としても知られ、酸化防止作用の能力がある特殊な種類のアミンである。それらは、光化学分解を遅延させるためにプラスチック工業で広範に使用される。
【0030】
1.ピリミジン化合物
ピリミジン化合物は、置換されたテトラヒドロ型からなり、下記(I)で示され、Volodarskyらが米国特許第5847035号中に、およびAlinkが米国特許第4085104号中に記載のような2,3,4,5テトラヒドロピリミジンの一般構造
【化1】

【0031】
を含む。R1は、H、O、または1〜25個の炭素原子を有する炭化水素、あるいは窒素に結合された酸素を有し、1〜25個の炭素原子を含むアルキル部分を有するアルコキシ基である。R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素である。最も好ましくは、R2、R3、R6およびR7は、メチルである。
【0032】
その他のピリミジン化合物は、ヘキサヒドロ型(II)からなり、
【化2】

【0033】
R8およびR11は、H、O、または1〜25個の炭素原子を有する炭化水素、あるいは窒素に結合された酸素を有し、1〜25個の炭素原子を含むアルキル部分を有するアルコキシ基である。R9、R10、R11、R12、R13、R14およびR15は、それぞれ1〜25個の炭素原子有する炭化水素である。最も好ましくは、R9、R10、R14およびR15は、メチルである。
【0034】
2.ピペリジン化合物
本発明中で使用されるピペリジン化合物は、Schumacherらによって米国特許第5073278号中に、およびEvansによって米国特許第5268113号中に記載されている。これらの化合物は、一般式(III)
【化3】

【0035】
を有し、ここで、R16は、H、O、または1〜25個の炭素原子を有する炭化水素、あるいは窒素に結合された酸素を有し、1〜25個の炭素原子を含むアルキル部分を有するアルコキシ基である。R17、R18、R22およびR23は、優先的にはメチル基である。R20は、OH、H、O、NH2、エステル基O2CR(ここで、Rは、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素)、またはスクシンイミド基のいずれかである。
【0036】
ピペリジンをベースにしたヒンダードアミンの例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0037】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−tert−ブチルブタ−2−エニル)−4ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリイオイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジ(1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)マレエート、ジ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)スクシネート、ジ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)グルタレート、ジ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジペート、ジ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ジ(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ジ(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチルピペリジン−4−イル)セバケート、ジ(1−アリル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、1−ヒドロキシ−4−β−シアノエトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イルアセテート、トリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)トリメリテート、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラインエチルピペリジン、ジ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ジエチルマロネート、ジ(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)ジブチルマロネート、ジ(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)ブチル(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、ジ(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ジ(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ヘキサン−1’,6’−ビス(4−カルバモイルオキシ−1−n−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、トルエン−2’,4’−ビス(4−カルバモイルオキシ−1−n−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、ジメチル−ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)シラン、フェニル−トリス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)シラン、トリス(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ホスフェート、トリス(1−プロピル−2,2,6,6−テトラルネチルピペリジン−4イル)ホスフェート、フェニル[ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)]ホスホネート、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−N−ヒドロキシエチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシプロピル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−グリシジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ドデシル−N−(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジニル)スクシネート。
【0038】
本発明で最も有用なのは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタアルキルピペリジン、1−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、および1−アルコキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンである。
【0039】
3.ヒンダードアミンを含むポリマー
ポリマー性の2,2,6,6−テトラアルキルピペリジンおよび1,2,2,6,6−ペンタアルキルピペリジンも優勢であり、本処方物中で使用できる。本発明で使用されるポリマー性化合物は、Schumacherらによって米国特許第5073278号中に、Evansによって米国特許第5268113号中に、Kazmierzakらによって米国特許第4857595号中に記載されている。利用できるいくつかの種類のポリマー性ピペリジン化合物が存在する。市販の例としては、Ciba社からのTinuvin(登録商標)622、およびSongwon社からのSonglight(登録商標)9440が挙げられる。
【0040】
4.その他のヒンダードアミン
別の種類のヒンダードアミンが、米国特許第5098944号中に開示されており、一般式(IV)
【化4】

【0041】
に示される種類のヒンダードアミンが記載されている。
【0042】
式中、PSPは、一般式(V)
【化5】

【0043】
中の群から選択される構造によって表される環状アミンから誘導される置換基を表し、
ここで、R24は、C1〜C24アルキル、C5〜C20シクロアルキル、C7〜C20アラルキルまたはアルカリル、C1〜C24アミノアルキル、またはC6〜C20アミノシクロアルキルを表し;R25、R26、R27およびR28は、独立に、C1〜C24アルキルを表し;R25とR26、またはR27とR28は、環化して、ピペラジン−2−オン環のそれぞれC3およびC5原子を含むC5〜C12シクロアルキルとなっていてもよく;R29およびR30は、独立に、C1〜C24アルキル、および環化できる4〜7個の炭素原子を有するポリメチレンを表し;R31は、H、C1〜C6アルキル、およびフェニルを表し;R32は、C1〜C25アルキル、H、またはO、または1から25個の間の炭素原子を有する炭化水素鎖を有するアルコキシを表し;pは2〜約10の範囲の整数を表す。
【0044】
ジアリールアミン
本発明中で使用されるジアリールアミンは、種類Ar2NRからなる。これらは、当技術分野で周知の酸化防止剤であり、潤滑組成物への溶解度に関する必要条件は存在するが、本発明中で使用されるジアリールアミンの種類に関する限定は存在しない。
【0045】
【化6】

【0046】
アルキル化ジフェニルアミンは、周知の酸化防止剤であり、本発明中で使用される第2級ジアリールアミンの種類に関する特定の限定は存在しない、好ましくは、第2級ジアリールアミン系酸化防止剤は、一般式(X)を有し、ここで、R33およびR34は、それぞれ独立に、6〜30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリール基を表す。R35は、H原子、または1〜30個の炭素原子を含むアルキル基のいずれかを表す。アリールに関する置換基の例示としては、約1〜20個の炭素原子を有するアルキルなどの脂肪族炭化水素基、ヒドロキシ、カルボキシルまたはニトロ、例えば、アルキル基中に7〜20個の炭素原子を有するアルカリル基を挙げることができる。アリールは、好ましくは、置換または非置換のフェニルまたはナフチルであり、とりわけ、アリール基の一方または両方が、4〜18個の炭素原子を有するアルキルなどのアルキルで置換されている。R35は、H、または1〜30個の炭素原子を有するアルキルのいずれかでよい。本発明で使用されるアルキル化ジフェニルアミンは、分子中にただ1つの窒素原子を示す上記式中に示されるもの以外の構造からなることができる。したがって、アルキル化ジフェニルアミンは、例えば第2級窒素原子および窒素の1つの上に2つのアリールを有する種々のジアミンの場合のように、少なくとも1つの窒素が、それに結合された2つのアリール基を有するとの条件で、異なる構造からなることができる。本発明中で使用されるアルキル化ジフェニルアミンは、好ましくは、モリブデン化合物の不在下でさえ、潤滑油中で抗酸化特性を有する。
【0047】
本発明中で使用できるいくつかのアルキル化ジフェニルアミンの例としては、ジフェニルアミン、3−ヒドロキシジフェニルアミン、N−フェニル−1,2−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、ジブチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、およびp−配向のスチレン化ジフェニルアミンが挙げられる。
【0048】
フェノチアジン
フェノチアジンは、一般構造(VII)
【化7】

【0049】
を有する別のクラスのジアリールアミンであり、式中、R36は、H、または1〜30個の炭素原子を有するアルキルであり、R37およびR38は1〜30個の炭素原子を有するアルキルである。
【0050】
潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、ベースストックに、硫黄含有化合物、ヒンダードアミン、および芳香族アミンを添加することによって調製することができる。組合せは、潤滑油中にそれぞれ0.001〜10重量パーセントの3種の添加剤を含むことができる。
【0051】
グリース組成物
別の実施形態において、本発明のグリース組成物は、ベースグリースに、硫黄含有化合物、ヒンダードアミン、および芳香族アミンを添加することによって調製することができる。組合せは、潤滑油中にそれぞれ0.001〜10重量パーセントの3種の添加剤を含むことができる。
【0052】
その他の添加剤
さらに、その他の添加剤を、上記の潤滑組成物に添加することができる。これらの添加剤としては、次の成分を挙げることができる。
【0053】
フェノール、ヒンダードフェノール、ヒンダードビスフェノール、硫化フェノール、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート、亜鉛ジチオカルバメート、有機ホスファイトを含むその他の酸化防止剤。有用なフェノールのより完全なリストは、Schmacherらへの米国特許第5073278号中で見出すことができる。
【0054】
亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート、トリクレゾールホスフェート、ジラウリルホスフェートを含む耐磨耗添加剤。
【0055】
ポリメタクリレート、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、置換スクシンアミド、ポリアミンスクシンアミド、ポリヒドロキシコハク酸エステル、置換マンニッヒ塩基、および置換トリアゾールを含む分散剤。
【0056】
中性および塩基過剰のアルカリおよびアルカリ土類金属スルホネート、中性および塩基過剰のアルカリおよびアルカリ土類金属フェネート、硫化フェネート、塩基過剰ホスホネート、およびチオホスホネートを含む洗浄剤。
【0057】
ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ビニルピロリドン/メタクリレートコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリブテン、オレフィンコポリマー、スチレン/アクリレートコポリマーを含む粘度指数向上剤。
【0058】
ポリメタクリレート、およびアルキル化ナフタレン誘導体を含む流動点降下剤。
【実施例1】
【0059】
ヒンダードアミン、ジアリールアミンおよびメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)を含む潤滑油組成物
加圧示差走査熱量測定(PDSC)を、ASTM試験法D6186により実施した。これらの試験は、BP社からのポリαオレフィン油、Durasyn(登録商標)166;およびInfineum社からの1.2%Nitrogenを含むクランクケース分散剤、Infineum(登録商標)C9269を含む潤滑油組成物について実施した。また、潤滑油組成物中に提供したのは、Cytec社からの4−ピペリドール−2,2,6,6−テトラメチル−RPWステアリン(脂肪酸混合物)の名称を有するヒンダードアミン、Cyasorb(登録商標)UV−3853であった。金属不含硫黄含有化合物は、R.T.Vanderbilt Company, Inc.からのメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、VANLUBE(登録商標)7723添加剤である。使用されたジアリールアミンは、R.T.Vnaderbilt Company, Inc.からのオクチル化およびブチル化ジフェニルアミンの混合物、Vanlube(登録商標)961添加剤であった。試験は、成分をブレンドし、DSCセルに入れること、セルを180℃まで加熱すること、次いで500psiの酸素で加圧することによって実施される。測定されるものは、発熱を観察するまでに要する時間である酸化誘導時間(OIT)である。OITが長ければ長いほど、オイルブレンド物の酸化安定性がより大きい。結果を、「誘導時間(分)」と標記して表Iに示す。
【0060】
【表1】

【実施例2】
【0061】
ヒンダードアミン、ジアリールアミンおよび硫化脂肪酸を含む潤滑油組成物
潤滑油組成物を、Cyasorb(登録商標)UV−3853およびVanlube(登録商標)961、および硫黄含有化合物として、Arkema社からのほぼ15%(w/w)の硫黄を含む硫化脂肪酸混合物、Arkema(登録商標)VPS 15からなる組合せを含めて、上記実施例1のように調製した。PDSC(ASTM D1686)を実施例1のように実施した。データを表IIで報告する。
【0062】
【表2】

【0063】
(比較例3)
ヒンダードアミン、ジアリールアミン、および硫化オレフィンを含む潤滑油組成物
潤滑油組成物を、Cyasorb UV3853およびVanlube(登録商標)961と、R.T.Vanderbilt Company, Inc.からのほぼ45%の硫黄を含む硫化オレフィン、硫黄含有化合物VANLUBE(登録商標)SBとの組合せを含めて、上記実施例1により調製した。PDSC(ASTM D1686)を、実施例1のように実施した。データを表IIIに報告する。
【0064】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも90重量%の潤滑油ベースストック、ならびに
(a)硫化脂肪酸、無灰系ジチオカルバメート、テトラアルキルチウラムジスルフィド、およびチアジアゾールからなる群から選択される約0.001から10%の間の金属不含硫黄含有化合物、
(b)約0.001から10%の間のヒンダードアミン、および
(c)約0.001から10%の間のジアリールアミンを含む酸化防止添加剤組成物
を含む潤滑組成物。
【請求項2】
添加剤組成物が、
(a)約0.1から1.0%の間の金属不含硫黄含有化合物、
(b)約0.05から1.0%の間のヒンダードアミン、および
(c)約0.1から1.0%の間のジアリールアミン
を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
添加剤組成物が、
(a)約0.25から0.5%の間の金属不含硫黄含有化合物、
(b)約0.1から0.5%の間のヒンダードアミン、および
(c)約0.25から0.5%の間のジアリールアミン
を含む、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
添加剤組成物が、
(a)約0.5%の金属不含硫黄含有化合物、
(b)約0.1%のヒンダードアミン、および
(c)約0.4%のジアリールアミン
を含む、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
金属不含硫黄含有化合物が、無灰系ジチオカルバメートおよび硫化脂肪酸からなる群から選択される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
無灰系ジチオカルバメートが、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)または硫化脂肪酸である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
硫黄含有化合物がメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)であり、ヒンダードアミンが4−ピペリドール−2,2,6,6−テトラメチル−RPWステアリン(脂肪酸混合物)である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
硫黄含有化合物が、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
硫黄含有化合物が、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)である、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
硫黄含有化合物が、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)である、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
添加剤組成物が、
(a)約0.5%のメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、
(b)約0.1%の4−ピペリドール−2,2,6,6−テトラメチル−RPWステアリン(脂肪酸混合物)、および
(c)約0.4%のジアリールアミン
を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
硫黄含有化合物が、硫化脂肪酸である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
硫黄含有化合物が硫化脂肪酸であり、ヒンダードアミンが4−ピペリドール−2,2,6,6−テトラメチル−RPWステアリン(脂肪酸混合物)である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
硫黄含有化合物が、硫化脂肪酸である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
硫黄含有化合物が、硫化脂肪酸である、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
添加剤組成物が、
(a)約0.5%の硫化脂肪酸、
(b)約0.1%の4−ピペリドール−2,2,6,6−テトラメチル−RPWステアリン(脂肪酸混合物)、および
(c)約0.4%のジアリールアミン
を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公表番号】特表2012−516384(P2012−516384A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548291(P2011−548291)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/022392
【国際公開番号】WO2010/088377
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(507293620)アール.ティー. ヴァンダービルト カンパニー インコーポレーティッド (11)
【Fターム(参考)】