説明

無線タグ

【課題】 ダイポール型アンテナを用いた無線タグを、ガラス、プラスチックやセラミックなどの誘電率の異なる様々な材質の物品に貼った場合であっても、通信距離が劣化しない無線タグを提供する。
【解決手段】 中央部と該中央部の両端からそれぞれ延在する2つの翼部を有するダイポール型アンテナ部3Aおよび該2つの翼部を結合する導通パターン部2を有するよう構成した無線タグ6Aであり、翼部は、導通パターン部2との結合部付近から、端部に向かってアンテナ幅が増加するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に少なくとも1つのICチップ、及びアンテナを有し、データを無線で通信することが可能な無線タグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報を記憶するICチップとアンテナからなる無線タグは、電波を介して、質問器またはリーダと呼ばれる無線機とデータを送受信することができる。そのうち特に、電波の周波数として300MHz以上を使用し、内部に電源を持たない無線タグは、リーダライタとの通信可能距離が長く、価格も比較的廉価であることから、バーコードの置き換え用途への利用などが検討されている。
【0003】
一般的な無線タグは、ポリエチレンテレフタレート(以下PETとも表記)や紙などの薄い基材の上にアルミニウムや、銀ペーストなどでアンテナが形成され、アンテナの給電パッドにICチップが接続されている。アンテナの形状としては、ダイポール型アンテナ、折り返しダイポール型アンテナ、ループ型やミアンダ型アンテナなどが用いられる。
【0004】
図6は、従来の無線タグを説明する図である。無線タグ62は、基板42の上に、ICチップ12とアンテナ52とが搭載された構造である。ここで、前記アンテナ52は、1/2波長のダイポール型アンテナである。
【0005】
アンテナ52の長さをLとすると、この長さLを1/2波長とする周波数が、このアンテナの共振周波数となる。
【0006】
900MHz帯、2.45GHz帯などの電波方式でこのような無線タグを使用する場合、ガラスやプラスチック、セラミックのような該無線タグを貼って用いる部材の材質または該部材で作製された容器の内容物によっては、部材や内容物の誘電率の影響により、アンテナの共振周波数が下がり、インピーダンスが大きく変化する。このような場合は、ICチップ側とアンテナ側のインピーダンスが不整合となり通信距離が短くなる。
【0007】
無線タグを貼る部材や内容物の誘電率に合わせて無線タグ自体のインピーダンスを調整しておくことも可能であるが、その場合は、無線タグを貼る部材や材質があらかじめ限定されるために、無線タグを単体で用いることや、他の環境で用いることが不可能となり、汎用性に欠けるものとなる。
【0008】
上記問題を直接的に解決するものではなく、アンテナの小型化による通信距離の劣化を回避する技術としてはH型アンテナがあり、例えば特許文献1に開示されている。
【0009】
H型アンテナは、例えばアンテナの長さを1/4波長以下として、アンテナの幅とアンテナの長さをほぼ同等に設計し、ICチップの周辺に効率的にエネルギーを集中させて一定の通信距離を確保するものであり、安定した通信性能を有する1/2波長のダイポール型アンテナを用いることができない小型物品への貼り付けを目的とする。
【0010】
【特許文献1】特開2006−25390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の技術的課題は、1/2波長のダイポール型アンテナを用いた無線タグを、ガラス、プラスチックやセラミックなどの誘電率の異なる様々な材質の物品に貼った場合であっても、通信距離が劣化しない無線タグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基板にアンテナおよびICチップを搭載して構成された無線タグであって、前記アンテナは、例えば略方形または帯状の中央部と、該中央部の両端からそれぞれ異なる方向に延在する2つの翼部を構成要素とするダイポール型アンテナ部および該2つの翼部を結合する導通パターン部(ショートスタブ部)を有するよう構成した無線タグである。なお、該導通パターン部は略帯状で、該中央部と略平行に配され、該ダイポール型アンテナ部の2つの翼部は、該導通パターン部との結合部付近から、該翼部の端部に向かってアンテナ幅が増加する部分を有するよう構成する。
【0013】
なお、アンテナ幅の増加部分は、一定の割合で増加するように構成するのが通信特性おび製造上好ましい。
【0014】
さらに、該2つの翼部は、ICチップを通り、ダイポール型アンテナ部の長さ方向に垂直な線に対して線対象に構成するのが通信特性および製造上好ましい。
【0015】
該導通パターン部は、インピーダンス調整用に設けるもので、該2つの翼部を繋ぐように形成することで、効果的にインピーダンスの調整を行うことができ、製造も容易となる。また、該中央部と平行に設けるのが、設計および製造上好ましい。
【0016】
ダイポール型アンテナ部の翼部形状をこのように構成することにより、複数のアンテナ長を設定することができるので、無線タグアンテナの共振周波数を1/2波長を中心として幅を持たせた範囲に設定することができる。従って、本無線タグを単独で用いても、誘電率の異なる物品に貼り付けて用いても、一定条件内であればインピーダンスが整合し、通信状態を良好に保つことができる。
【0017】
本発明によれば、基板にアンテナおよびICチップを搭載して構成された無線タグであって、前記アンテナは、ICチップが接続されてなる中央部と前記中央部の両端からそれぞれ延在する2つの翼部とで構成されるダイポール型アンテナ部および前記2つの翼部を結合する導通パターン部を有し、前記アンテナは少なくとも1/2波長の共振周波数を有することを特徴とする無線タグが得られる。
【0018】
本発明によれば、前記2つの翼部は、前記翼部の端部に向かってアンテナ幅が増加することを特徴とする無線タグが得られる。
【0019】
本発明によれば、前記2つの翼部は、前記翼部の端部に向かって一定の割合でアンテナ幅が増加する部分を有することを特徴とする無線タグが得られる。
【0020】
本発明によれば、前記2つの翼部はアンテナ幅が一定となる平坦部を有することを特徴とする無線タグが得られる。
【0021】
本発明によれば、前記2つの翼部の広がり角度を前記ダイポール型アンテナ部の長さ方向に対して、45°以上55°以下の範囲に設定してなることを特徴とする無線タグが得られる。
【0022】
本発明によれば、前記導通パターン部は帯状で、前記中央部と平行に配されていることを特徴とする無線タグが得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、ガラスやプラスチック、セラミックなどの誘電率の異なる物品に、無線タグを貼った場合、あるいは無線タグの近傍に該誘電率の異なる液体や物品等が存在する場合でも、通信距離が劣化せず通信特性を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の無線タグは、ガラスエポキシ、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドなどの一般的な誘電体からなる基板および該基板上に銅、銀、金などの金属からなるアンテナパターンによって形成されたアンテナ、およびICチップを有し、該ICチップの給電端子およびグランド端子は、それぞれ該アンテナに接続されている。
【0025】
前記アンテナはダイポール型アンテナ部にインピーダンス調整用の導通パターン(ショートスタブ)部が接続されており、該ダイポール型アンテナ部は、ICチップを搭載している中央部および、該中央部の両端から、それぞれアンテナの開放端方向に向かって、アンテナ幅が増加して形成された翼形状、すなわち2つの翼部から構成される。該アンテナ幅の増加割合は任意に設定可能であるが、アンテナ幅が一定の割合で増加する台形状が設計、製造上好ましい。
【0026】
また、該ダイポール型アンテナ部の翼部を台形に形成する場合は、台形の広がり角度を該ダイポール型アンテナ部の長さ方向に対して、45°以上55°以下の範囲に設定するのが共振周波数範囲を広くする上で好ましい。すなわち、前記広がり角度が、45°未満であると、アンテナの電磁波に対する共振周波数範囲が限定され、該角度が、55°を超えると、無線タグ全体が大きくなり好ましくないためである。
【0027】
さらに、該翼部は基本的な通信性能を維持するために、該中央部の幅よりも厚く構成するのが好ましい。従って、該中央部と翼部の間には段差を設けるのが良い。
【0028】
また、小型化のためには、翼部にアンテナ幅が一定となる平坦部を設けるのが良い。
【0029】
インピーダンス調整を容易とするために2つの翼部の間に平行に導通パターン部を形成するのが良い。
【実施例1】
【0030】
以下に実施例を用いて、本発明の実施の形態を詳述する。図1は、本発明の無線タグを説明する図である。無線タグ6Aは、PETからなる基板4A上に、アルミニウムパターンからなるアンテナ5Aが形成され、アンテナ5Aは、ICチップ1の給電端子(図示せず)と、グランド端子(図示せず)にそれぞれ接続されている。ここで、アンテナ5Aは、1/2波長のダイポール型アンテナ部3A、および導通パターン部2とで構成されている。
【0031】
さらにダイポール型アンテナ部3Aは、ICチップ1と接続している中央部と該中央部両端からそれぞれ延在する2つの翼部を有し、該翼部の長さX1は50mmである。また、中央部から約4mm離れた位置に導通パターン部2が中央部と平行に形成されている。
【0032】
前記ダイポール型アンテナ部3Aの翼部は、導通パターン部2と、ダイポール型アンテナ部3Aとの境界部分からアンテナの長さ方向に対して、45°の広がり角度をもつように形成している。また、導通パターン部2を形成しない部分も図示したように45°の広がり角度を持ち、アンテナの長さ方向に対して対象となるように翼部を形成している。このような形状とすることにより、アンテナ5Aの電波に対する有効寸法は、最小で翼部の開放端から開放端までの長さX1、最大で一方の翼部の頂点から中央部を通り、他方の翼部の頂点までの距離Y1となり、長さX1以上距離Y1以下の範囲に1/2波長を有する電波に対して、共振可能となる。
【0033】
図3は、本発明の無線タグのVSWR測定結果を示すグラフである。VSWRとは、Voltage Standing Wave Ratioの頭文字をとったもので電圧定在波比、すなわち、インピーダンス不整合により,反射波が発生している伝送線路上に発生する電圧振幅分布の山と谷の比を示すものである。
【0034】
図3は、2〜3GHzの周波数を用いてVSWRを測定した結果を示し、データAは図1に示した無線タグを誘電率1、厚み3mmの発砲スチロール板に貼り付けた場合、データBは該無線タグを誘電率が2.5、厚み3mmのプラスチック板に貼り付けた場合、データCは該無線タグを誘電率が6.5、厚み3mmのセラミック板に貼り付けた場合の測定結果を示したものである。
【0035】
データA、データB、データC共に、2.4〜2.5GHzにおけるVSWRは2.5以下であり、異なる誘電率を有する物品に貼り付けたにも関わらず、ICチップ1と、アンテナ5Aとのインピーダンスは整合していることがわかる。
【0036】
図5は比較例の無線タグを説明する図である。無線タグ61は、基板41上に、ICチップ11およびダイポール型アンテナ部31と導電パターン部21からなるアンテナ51を搭載し、構成している。なお、アンテナ51の長さは50mmである。
【0037】
図4は、比較例の無線タグのVSWR測定結果を示すグラフで、図5に示した無線タグを用いて図3と同様の条件でVSWRを測定した結果を示したものである。すなわち、データDは発砲スチロールに貼った場合、データEはプラスチック板に貼った場合、データFは、セラミック板に貼った場合のVSWR測定結果を示す。
【0038】
データDでは、2.4〜2.5GHzのVSWRは2.5以下であるが、データEおよびデータFでは、VSWRは6〜7および7〜9となり、ICチップ11とアンテナ51とのインピーダンスは整合していない。
【0039】
さらに通信距離を比較したところ、図5に示した比較例の無線タグは誘電率7、厚み3mmのセラミック板に貼った場合、通信ができなくなったのに対し、本発明の無線タグは誘電率7、厚み3mmのセラミック板に貼った場合でも誘電率1、厚み3mmの発砲スチロール板に貼った場合と比べほとんど通信距離が劣化しなかった。
【実施例2】
【0040】
図2は、本発明の無線タグを説明する図である。無線タグ6Bは、PETからなる基板4B上に、銀パターンからなるアンテナ5Bが形成され、アンテナ5Bは、ICチップ1の給電端子(図示せず)と、グランド端子(図示せず)にそれぞれ接続されている。ここで、アンテナ5Bは、1/2波長のダイポール型アンテナ部3B、および導通パターン部2とで構成されている。
【0041】
さらにダイポール型アンテナ部3Bは、ICチップ1と接続している中央部と該中央部両端からそれぞれ延在する2つの翼部を有し、該翼部の長さX2は55mmである。また、中央部から約3mm離れた位置に導通パターン部2が中央部と平行に形成されている。
【0042】
前記ダイポール型アンテナ部3Bの翼部は、導通パターン部2と、ダイポール型アンテナ部3Bとの境界部分からアンテナの長さ方向に対して55°の広がり角度を有するように形成し、翼部の長さ15mm以上の部分は、翼部の幅が一定となる平坦部を形成した。また、導通パターン部2を形成しない部分も図示したように55°の広がり角度を持ち、アンテナの長さ方向に対して対象となるように翼部を形成している。すなわち、該翼部は、広がり角度55°の台形と長方形を連続形成した形状となっている。
【0043】
このような形状とすることにより、無線タグ全体の幅を狭く設計することができる。また、アンテナ5Aの電波に対する有効寸法は、最小で翼部の開放端から他の開放端までの長さX2、最大で一方の翼部の頂点から中央部を通り、他方の翼部の頂点までの距離Y2となり、長さX2以上距離Y2以下の範囲に1/2波長を有する電波に対して、共振可能となる。
【0044】
なお、アンテナの長さを55mmにした図5の構成を有する無線タグは誘電率20、厚み7mmのセラミックに貼った場合、通信ができなくなったのに対し、本発明の無線タグは誘電率20、厚み7mmのセラミック板に貼った場合でも誘電率1、厚み7mmの発砲スチロール板に貼った場合と比べほとんど通信距離が劣化しなかった。
【0045】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の無線タグを用いることにより、商品等の流通管理、販売管理、在庫管理、利用状況管理に代表される多様な物品の管理において、管理する物品の材質や使用環境等に適したシステムを簡便に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による無線タグを説明する図。
【図2】本発明による無線タグを説明する図。
【図3】本発明の無線タグのVSWR測定結果を示すグラフ。
【図4】比較例の無線タグのVSWR測定結果を示すグラフ。
【図5】比較例の無線タグを説明する図。
【図6】従来の無線タグを説明する図。
【符号の説明】
【0048】
1,11,12 ICチップ
2,21 導通パターン部
3A,3B,31 ダイポール型アンテナ部
4A,4B,41,42 基板
5A,5B,51,52 アンテナ
6A,6B,61,62 無線タグ
A データ(本発明の無線タグを発砲スチロールに貼った場合)
B データ(本発明の無線タグをプラスチック板に貼った場合)
C データ(本発明の無線タグをセラミック板に貼った場合)
D データ(従来の無線タグを発砲スチロールに貼った場合)
E データ(従来の無線タグをプラスチック板に貼った場合)
F データ(従来の無線タグをセラミック板に貼った場合)
X1,X2,L 長さ
Y1,Y2 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にアンテナおよびICチップを搭載して構成された無線タグであって、前記アンテナは、ICチップが接続されてなる中央部と前記中央部の両端からそれぞれ延在する2つの翼部とで構成されるダイポール型アンテナ部および前記2つの翼部を結合する導通パターン部を有し、前記アンテナは少なくとも1/2波長の共振周波数を有することを特徴とする無線タグ。
【請求項2】
前記2つの翼部は、前記翼部の端部に向かってアンテナ幅が増加することを特徴とする請求項1記載の無線タグ。
【請求項3】
前記2つの翼部は、前記翼部の端部に向かって一定の割合でアンテナ幅が増加する部分を有することを特徴とする請求項1または2記載の無線タグ。
【請求項4】
前記2つの翼部はアンテナ幅が一定となる平坦部を有することを特徴とする請求項3に記載の無線タグ。
【請求項5】
前記2つの翼部の広がり角度を前記ダイポールアンテナ部の長さ方向に対して、45°以上55°以下の範囲に設定してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無線タグ。
【請求項6】
前記導通パターン部は、前記中央部と平行に配されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無線タグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−182438(P2008−182438A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13792(P2007−13792)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】