説明

無線タグ

【課題】 金属体に貼り付けた場合に双方向通信が可能であって、金属や水分を有していない対象物に貼り付けて使用する場合には特段の指向性を持たない無線タグを提供する。
【解決手段】 無線タグの基板13において、アンテナ12とは逆側の面にスペーサ14および金属層を設け、この金属層の中央部に絶縁領域16を設けて分離金属層15とする。分離金属層15の分割された各領域は、絶縁領域16によって互いに電気的に絶縁されている。無線タグを貼り付ける対象物が金属体である場合には、リーダライタとの間で絶縁領域16が設けられていない従来の無線タグと同様の双方向通信を行うことができ、また対象物が金属や水分を有していない場合には、リーダライタの位置する方向に関わらず、指向性を持たない双方向通信を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーダライタによって電磁波を用いて非接触にてデータの読み書きが可能な無線タグに関し、とくにその片面に金属層を設けることで、金属体に貼り付けて用いる場合にもリーダライタとの双方向通信が可能な無線タグに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁物からなる基体に、情報を記憶することのできるICチップとアンテナとを設置して構成される無線タグは、電磁誘導によりリーダライタと非接触の双方向通信を行い、そのデータを読み書きすることができる。これは電磁波による非接触の通信であるので、接触式の場合とは異なり、無線タグがリーダライタから多少離れた位置にある場合でも通信を確立することができるという特徴を持つ。とくに電池などの駆動電源を内部に持たないパッシブ型の無線タグを用いる場合には、電源寿命を気にすることなく長時間に渡り使用することが可能である。しかも価格も比較的廉価であることから、物流や製造などの分野における製品や資材の管理などでの用途が期待されている。
【0003】
パッシブ型の無線タグの一般的な形状は、PET(ポリエチレンテレフタレート)や紙などの薄い基体の表面に、アルミニウム箔や銀ペーストなどによってアンテナが形成されていて、このアンテナの給電パットにICチップが接続されたものである。アンテナの形状としては、ダイポールアンテナや折り返しダイポールアンテナがよく用いられるが、この他にループ型アンテナやミアンダ型アンテナなどが用いられる場合もある。
【0004】
無線タグは対象物に貼り付けて使用されることが多く、一般にパッシブ型の無線タグの場合には、基体のうちアンテナやICチップが設置されていない側の面に粘着層が設けられていて、この面を対象物の表面に貼り付けて用いることとなる。ところが無線タグを貼り付ける対象物が水分をさほど含まない絶縁物である場合には問題はないが、対象物の表面や内部に金属が用いられている場合や、対象物の内部に水分を多く含んでいる場合には、対象物が有している金属や水分によって無線タグのアンテナ特性(インピーダンス、アンテナ利得)が変化する。そのため、リーダライタとの通信可能距離が極端に短くなったり、あるいはデータの読み書きが不能となるという問題があった。
【0005】
この問題の解決方法として、無線タグの対象物への貼り付け面にスペーサを配置して、無線タグのアンテナを、対象物の表面から一定の間隔を設けて設置する方法が提案されている。一般にアンテナの特性として、金属や水分を有する対象物とアンテナとの間にある程度の距離がある場合には、この対象物をアンテナ自身の反射器として利用することができ、その場合はリーダライタとの通信可能距離を伸ばす点でプラスの効果を得ることが可能である。この効果によって金属や水分の存在による通信可能距離の減少を相殺し、あるいは逆に通信可能距離を拡大することができる。特許文献1には、対象物への貼り付け面に金属層を設けて反射器となし、これによってリーダライタとの通信可能距離の向上を図る技術が開示されている。以下に特許文献1に記載の、金属や水分の存在による通信可能距離の減少を防ぐための従来の技術について、図4に基づいて説明する。
【0006】
図4は特許文献1に記載の無線タグの斜視透視図である。図4において、基板43の表面中央にはICチップ41が設けられ、その左右にはアンテナ42が伸びていて、基板43の表面全体にこのアンテナ42の素子が形成されている。なお特許文献1にはループアンテナを用いた実施例が示されているが、図4のアンテナ42ではダイポールアンテナを用いた場合を示している。一方、図4において基板43の下側にはスペーサ44が配置されていて、さらにその下側には金属層45が設けられている。スペーサ44は水分を含まない絶縁物から構成されており、アンテナ42と金属層45の間に一定厚さの間隔を設ける役割を果たしている。金属層45は電磁波をアンテナ42に向けて反射させるための反射器であり、特許文献1の例では金属箔が用いられている。また無線タグを構成する基板43とスペーサ44は一体化していても構わない。
【0007】
この無線タグを実際に使用する際には、金属層45の表面に粘着面を設け、内部に金属や水分を有する対象物にこの面を貼り付けて用いる。対象物の有する金属や水分が無線タグのアンテナ特性に与える影響は、スペーサ44によって対象物の表面からアンテナ42まで一定の距離が存在するために、十分に小さなものとなっている。また、この構造では、リーダライタからの電磁波の反射器として金属層45を利用するだけではなく、無線タグを貼り付けた対象物自体を反射器として利用する効果も得られるために、電磁波の反射の効果がさらに向上することが期待できる。これらの結果として、リーダライタとの間で十分な電磁界強度での双方向通信を確立できる無線タグを得ることができる。なおこのような双方向通信が可能になるのはリーダライタが無線タグのアンテナより前方に存在する場合のみであり、逆に対象物の反対側に位置している場合には、距離によらず双方向通信を確立する効果は得られない。
【0008】
【特許文献1】特開2002−298106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上記した従来の無線タグにおいては、アンテナの反対面に反射器となる金属層が設けられているために、通信特性が指向性を持つという問題があった。このことは無線タグが金属や水分を有する対象物に貼り付けた場合にはやむを得ないことではあるが、同じ無線タグを金属体や含水物以外の対象物に貼り付けた場合、例えば物流などの用途でダンボール箱の表面などに貼り付けた場合にもこの問題が起きるので、特定の方向に位置しているリーダライタのみとしか通信することができないために不便である。また、無線タグを金属体である対象物の表面に貼り付ける際に、その貼り付け方が原因で金属体と無線タグとの間に微小な隙間が形成されることがある。このような場合には無線タグの裏面に設けられた金属層が第2のアンテナとしての機能を持ってしまう場合があり、その結果、無線タグとしての特性が著しく変化して、リーダライタとの通信可能距離が短くなることがあるという問題があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、金属や水分を有する対象物に貼り付けて使用することのできる無線タグであって、しかも金属や水分を有していない対象物に貼り付けて用いる場合にも、リーダライタとの通信において特段の指向性を持たない無線タグを提供することである。また本発明による無線タグは、金属体に貼り付けた場合でも、その貼り付け方が原因となって起きる通信特性の変化が低減されるものであって、無線タグとリーダライタとの間での安定した双方向通信を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明における無線タグは、アンテナおよびICチップを搭載する基板を有し、前記基板のアンテナ形成面の裏面に設置されたスペーサ、および前記スペーサの基板との接合面の裏面に設けられた金属層とをそれぞれ備えるものとする。そして前記金属層は絶縁領域によって2箇所もしくはそれ以上に分割された構造を有し、その分離幅は3mm以上となるように構成する。前記基板およびスペーサは、いずれも水分や金属部を有していない絶縁性の材料からなるものであって、樹脂により形成することが好適であり、また両者は一体としてもよい。この無線タグは、前記金属層が2箇所の領域に分離している点を除けば、前記特許文献1に記載されている従来の無線タグと実質的に同一の形状である。金属層を絶縁領域により分割するという簡単な構造によって、この無線タグを金属や水分を有していない対象物に貼り付けて用いる場合に、リーダライタとの通信における指向性を解消することができ、金属層を設けていない無線タグの場合と同じように、全方位での双方向通信が可能になる。
【0012】
この金属層の分割の効果は、分割により形成された隙間からの電磁波の漏洩によって、金属層の裏側からの通信が可能になることだけが原因であるとは考えにくい。その理由の詳細は今のところ不明であるが、スペーサを介してアンテナの裏側に設けられた金属層の分割された各領域が、その全長が短くなったことによって反射器ではなく、逆に一種の導波器としての役割を果たし、これによって無線タグの金属層側から届いた電磁波を強める効果が得られているのではないかと考えられる。金属層による電磁波の反射の効果、金属層の分割により生じた隙間からの電磁波の漏洩、金属層の導波器としての効果などが総合されて、全体として、この金属層が設けられていない場合と同等の、指向性を持たない通信特性が得られているものと思われる。
【0013】
本発明の無線タグにおいては、スペーサを挟んで形成される金属層に設けられる絶縁領域の位置やその形状が、その通信特性に対して大きく影響することが判明している。発明者らの検討の結果、無線タグのアンテナとしてエレメントの長さが左右対称であるダイポールアンテナを用いた場合には、スペーサの厚さを1mm以上として、かつ金属層の中央位置(一般にはICチップが配置される、ダイポールアンテナの両エレメントの根元の領域を無線タグの金属層側に延長した領域)に、幅3mm以上の絶縁領域を設けて両側の金属層を電気的に分離した場合に、無指向でかつ通信可能距離の大きな通信特性が得られることが判明している。
【0014】
本発明のもう一つの効果として、無線タグを金属や水分を有する対象物に貼り付ける際に僅かな隙間が生じたときに、通信可能距離が短くなる問題の解決がある。従来の無線タグを金属体の対象物に貼り付けた際に、この金属体の表面と無線タグの金属層との間に例えば0.1mm程度の隙間が生じたときは、この金属層に電気的な共振が生じることとなって、それにより通信可能距離が著しく短くなる場合があった。この原因は、従来の無線タグのアンテナの裏側に設けられた金属層が、無線タグの全長とほぼ同じ長さの単一の導体層であるために、結果としてその全長が双方向通信に用いられる周波数の電磁波の1/2波長に近いために起こる現象である。しかし、本発明による無線タグでは、この金属層を2箇所以上に分割した構成であるために、各々の分割領域の全長はこの電磁波の1/2波長よりもかなり短くなっており、そのためこの現象は基本的に起こらないものと考えられる。従って金属体への貼り付け方法に関わらず、リーダライタとの間で安定した双方向通信を行うことが可能である。
【0015】
即ち、本発明は、平板状の基体を有し、前記基体の厚さ方向に垂直な面の一方にアンテナが設けられ、前記基体の前記面上、もしくは前記基体の内部にICチップを有し、前記基体の、前記アンテナが設置されている面とは裏面となる面に金属層が形成されており、前記金属層が互いに絶縁された複数の領域に分割されていることを特徴とする無線タグである。
【0016】
また、本発明は、前記金属層が絶縁領域によって複数の領域に分割されており、前記各絶縁領域の幅の最小値が3mm以上であることを特徴とする無線タグである。
【0017】
さらに、本発明は、前記金属層が前記絶縁領域により2の領域に分割されていることを特徴とする無線タグである。
【0018】
さらに、本発明は、前記ICチップが前記基体の長手方向に対してその中央部に配置されており、前記アンテナが2本のエレメントを有するダイポールアンテナであり、前記アンテナを構成する各エレメントが、前記ICチップを中心として、前記基体の長手方向のそれぞれ逆方向の両端に向けて1ずつ設けられていて、前記ICチップが、前記絶縁領域上、もしくは前記絶縁領域を前記基体の内部および裏面に向けて厚さ方向に延長した領域に配置されていることを特徴とする無線タグである。
【0019】
さらに、本発明は、前記基体が単層構造であって、前記基体の平均厚さが1mm以上であることを特徴とする無線タグである。
【0020】
さらに、本発明は、前記基体が基板およびスペーサからなる複層構造であり、無線タグの構成要素が前記アンテナ、前記基板、前記スペーサ、前記金属層の順に形成されており、前記スペーサの厚さが前記基板の厚さを上回ることを特徴とする無線タグである。
【0021】
さらに、本発明は、前記基体が基板およびスペーサからなる複層構造であり、無線タグの構成要素が前記基板、前記アンテナ、前記スペーサ、前記金属層の順に形成されており、前記スペーサの厚さが前記基板の厚さを上回ることを特徴とする無線タグである。
【0022】
さらに、本発明は、前記スペーサの平均厚さが1mm以上であることを特徴とする無線タグである。
【0023】
さらに、本発明は、前記基体がエポキシ樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、アクリルから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなることを特徴とする無線タグである。
【0024】
さらに、本発明は、前記基板がガラスエポキシ、PET、ポリイミドから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなり、前記スペーサがエポキシ樹脂、PET、ポリプロピレン、アクリルから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなることを特徴とする無線タグである。
【0025】
さらに、本発明は、前記金属層が、銅、銀、金、アルミニウムから選択される金属箔のいずれか、もしくは前記各金属箔の複合物からなることを特徴とする無線タグである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アンテナ、ICチップ、水分を含まない絶縁物によるスペーサ、および金属層を有し、金属や水分を有する対象物に貼り付けて使用することのできる無線タグにおいて、前記金属層を、絶縁領域により2箇所もしくはそれ以上に分割した形状に構成する。この構成によって、金属や水分を有していない対象物に貼り付けて用いる場合には、リーダライタとの双方向通信において特段の指向性を持たず、通信可能距離がその向きによらずほぼ一定となる無線タグを提供することができる。またこの無線タグを金属体の対象物に貼り付けて用いる場合にも、その金属層に生じる電気的な共振を防ぐことができることから、安定した通信が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態に係る無線タグを、図1ないし図3に基づいて以下に説明する。
【0028】
図1は本発明における無線タグの実施の一形態を示す斜視透視図であり、以下で説明する分離金属層15の構成以外は図4に示される従来の無線タグと同様の形状である。図1において、基板13の表面中央にはICチップ11が設けられており、その左右にはアンテナ12が伸びていて、基板13の表面全体にこのアンテナ12の素子が形成されている。本発明の無線タグではアンテナ12としてはダイポールアンテナが好適であるが、その他の平面アンテナを用いることもできる。一方、図1において基板13の下側にはスペーサ14が設置されていて、さらにその下側には分離金属層15が設けられている。このうちスペーサ14は一定厚さの構造体であり、アンテナ12と分離金属層15の間に一定の間隔を設ける役割を果たしていて、基板13と一体化された構造でも構わない。
【0029】
ここで基板13およびスペーサ14は絶縁物であればどのような材質でもよいが、このうち基板13は比較的薄く、表面にアンテナ12を設ける必要があることから、ガラスエポキシ、PET、ポリイミドなどの樹脂からなる構成とすることが好適である。この基板13の面上に、銅、銀、金、アルミニウムなどの金属層からなるアンテナ12が形成されていて、アンテナ12の各エレメントとICチップ11の給電端子、グランド端子がそれぞれ接続されている。一方、図1において基板13の下側に設けられるスペーサ14は、基本的に基板13と同様の材質にて構成すればよいが、基板13とは異なり一定の厚さが必要であるため、無線タグの可撓性の観点からポリイミドなどの比較的硬い樹脂を用いることは適当ではない。このためスペーサ14の材質としては、エポキシ樹脂、PET、ポリプロピレン、アクリル樹脂などが好適である。なお、基板13、スペーサ14は絶縁性を持つことが要求されるため、水分を多く含んで導電性が高い場合は通信特性に悪影響が生じる。このため水分の含有量の低い材質であることが必要である。
【0030】
また分離金属層15は図1においてスペーサ14の下側に設けられており、無線タグを金属体の対象物に貼り付けて用いる場合には、リーダライタからの電磁波をアンテナ12に向けて反射させるための反射器として作用すると考えられる。この分離金属層15はアルミニウム箔により構成することが好適である。本発明における無線タグの特徴として、この分離金属層15は絶縁領域16によって2箇所に分割されており、この絶縁領域16は基板13上にあるICチップ11の位置に対応している。つまり無線タグにおいて、ダイポールアンテナであるアンテナ12の各エレメントが設けられている領域の裏側には、反射器となりうる金属層がそれぞれ対応した位置に設けられていることになる。そのためこの無線タグを金属体の対象物に貼り付けて用いる場合であっても、分離金属層15の反射器としての役割は、絶縁領域16の存在によって損なわれることがない。一方、無線タグを貼り付けて用いる対象物が、金属や水分を有していない絶縁物である場合には、この絶縁領域16が存在することによって、対象物の裏側から分離金属層15を介して届く電磁波に対しても指向性のない、安定した通信が可能となる。
【0031】
なお、上記の場合には、絶縁領域16によって分割された2箇所の分離金属層15は互いにほぼ同じ形状、面積となっている。ここで、スペーサ14の下側の金属層に設けられる絶縁領域を1箇所ではなく複数箇所として、金属層の分割領域を3箇所以上としても構わない。しかしその場合であっても金属層の中央位置には幅が3mmを下回らない絶縁領域を設け、この金属層を、少なくともアンテナの中央位置に対応する各エレメントの付け根に位置する領域において、電気的に分割する構成とすることが重要である。
【実施例】
【0032】
以上記した本発明による無線タグを実際に作製し、その通信特性を測定して従来の無線タグとの比較を行った。作製した本発明による無線タグの寸法は58mm×10mmであって、基板は厚さ0.05mmのPET樹脂、スペーサは厚さ1.0mmのアクリル樹脂である。アンテナはアルミニウム箔からなるダイポールアンテナであり、基板表面にエッチングにより形成されている。ダイポールアンテナを構成する2本のエレメントは中央に2mmの間隔を開けて設けられており、各エレメントの長さはそれぞれ26mm、幅は8mmで、無線タグの側面からは1mmの隙間が設けられている。ダイポールアンテナを構成する2本のエレメントの中央にはICチップが配置されていて、その外形は1mm×1mm、厚さは0.15mmである。前記アンテナはこのICチップに電気的に接続されている。スペーサにおいて基板とは反対側の面には、アルミニウム箔からなる金属層がその全面に形成されているが、その中央部には幅3mmの絶縁領域が設けられていて、この領域によって金属層は2箇所の領域に電気的に分離されている。この絶縁領域は基板とスペーサを挟んで基板面上でICチップが設けられている領域の真裏に位置している。
【0033】
本発明の無線タグのほかに、前記金属層に絶縁領域を設けていない、図4に記載の無線タグと同等形状の無線タグを作製して比較例とした。本発明の無線タグとの比較例との違いはこの金属層への絶縁領域の有無のみであり、その他の条件は全て同一としている。
【0034】
これら本発明と比較例の2種類の無線タグをそれぞれ対象物に貼り付けて、一定距離だけ離して設置したリーダライタとの間で双方向通信を行い、通信方向を変化させた場合の通信可能距離の変動の有無を評価した。評価のために使用した通信周波数は2.45GHzである。その結果を図2および図3にグラフとして示す。なお対象物に貼り付けた無線タグはパッシブ型である。
【0035】
このうち図2は、貼り付けた対象物が金属や水分を有していない絶縁物の場合を示したグラフである。無線タグを実際に貼り付けた対象物は外形が100mm×100mm×100mmの大きさの発泡スチロールの立方体で、無線タグをこのうちの1つの面の外側の中央部に、1つの縁に対して平行に貼り付けている。図2において、図2(a)は本発明の無線タグ、図2(b)は比較例の無線タグに関する測定結果のグラフであり、各無線タグの長手方向に垂直な面内での方向別の通信可能距離をプロットしたものである。各グラフの中央には、それぞれ対応する無線タグと貼り付けた絶縁物の対象物の配置を示す略図を記載している。各グラフにおいて、通信可能距離の基準となる点(原点)は、それぞれの無線タグのスペーサ22,25の上面中央であり、各無線タグのこの位置には基板(図示せず)およびICチップ21,24とアンテナ(図示せず)が配置されている。これらの無線タグはそれぞれ絶縁物の対象物23,26の中央部に貼り付けて固定されている。
【0036】
一方、図3は貼り付けた対象物が金属体の場合を示したグラフである。実際の対象物は外形が200mm×300mmで厚さが1mmのアルミ板であり、無線タグをこのアルミ板の中央部に、長さ300mmの縁に平行に貼り付けている。図3において、図3(a)は本発明の無線タグ、図3(b)は比較例の無線タグに関する測定結果のグラフであり、各無線タグの長手方向に垂直な面内での方向別の通信可能距離をプロットしたものである。各グラフの中央には、それぞれ対応する無線タグと貼り付けた金属体の対象物の配置を示す略図を記載している。各グラフにおいて、通信可能距離の基準となる点(原点)は、それぞれの無線タグのスペーサ32,35の上面中央であり、各無線タグのこの位置には基板(図示せず)およびICチップ31,34とアンテナ(図示せず)が配置されている。これらの無線タグはそれぞれ金属体の対象物33,36の中央部に貼り付けて固定されている。
【0037】
実際の測定では、まずリーダライタを無線タグから20cm離して設置し、リーダライタの備えるアンテナ(R/Wアンテナ)の中央部が無線タグの中心位置(ICチップの設置位置)の正面に位置するようにR/Wアンテナの高さと向きを調整して、このときの無線タグとリーダライタの相対位置を角度0度と定める。次に、R/Wアンテナから無線タグに対してIDの要求信号を送信する。パッシブ型の無線タグがIDの要求信号を受信すると動作を開始し、自分のID信号を返信する。R/Wアンテナがこの信号を受信して、最終的にリーダライタが無線タグのIDを認識できたかどうかを記録する。無線タグとリーダライタとの距離を変化させつつこの測定を行い、無線タグのIDを認識できる最も遠い距離をその角度における通信可能距離と定義する。
【0038】
以上の方法により、前記のリーダライタが無線タグの正面に位置する場合を基準として、10度ずつ角度を変化させてこの通信可能距離を測定した。この方法による、全周(360度)に渡る測定値を折れ線グラフで各々示したものが、図2および図3に示すグラフである。なお図2および図3では、各々の角度において合計10回の測定を行い、そのうちで最も短い通信可能距離の値をグラフとして示している。
【0039】
図2(a)に示されるように、本発明における無線タグを絶縁物である発泡スチロールの立方体の表面に貼り付けた場合は、通信可能距離はどの方向でも約20cmで一定であり、全方位に渡って通信可能距離が変化しない。一方、図2(b)の比較例の無線タグでは、グラフの上側であるアンテナ設置側での通信可能距離は約20cmと本発明の無線タグと同様であるが、グラフの下側である金属層を設けた側での通信可能距離が短くなっており、最も短い場合は約13cmになっている。一方、図3(a)、図3(b)に示されるように、無線タグを金属体であるアルミ板に貼り付けた場合には、本発明および比較例のいずれの無線タグにおいてもリーダライタとの通信には強い指向性が生じており、無線タグのアンテナ設置側でのみ双方向通信が可能となっている。即ち対象物が金属体である場合には、指向性の分布や通信可能距離の測定結果において、本発明と比較例の無線タグの間ではとくに違いは見られず、この場合の両者のリーダライタとの通信特性には特段の違いはないと判断される。
【0040】
なお、図2(a)の場合において、スペーサに設けたアルミニウム箔からなる金属層を二分割する絶縁領域の幅を3mmよりも狭くした場合には、無線タグの通信可能距離には次第に指向性が生じることとなり、絶縁領域の幅を狭くするほど通信可能距離の分布は図2(b)のグラフに近づいていく。一方、この絶縁領域の幅を3mmよりも広くしても、多少ならば通信可能距離の分布に変化が生じることはないが、この幅を極端に広くした場合には反射器としての機能に影響が生じ、図3(a)のグラフにおける無線タグのアンテナ設置側での通信可能距離が短くなる傾向が見られる。
【0041】
以上、図2および図3より明らかなように、本発明における無線タグを金属や水分を有していない対象物に貼り付けた場合には、従来の無線タグに比べて指向性のない、広い通信可能範囲を得ることができ、また金属体である対象物に貼り付けた場合は、従来の無線タグと同等程度の双方向通信を行うことができる。なお、上記実施例における説明は、本発明の実施の形態に係る無線タグに関するリーダライタとの双方向通信の結果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の無線タグの斜視透視図。
【図2】無線タグを貼り付ける対象物が絶縁物である場合の、方向別の通信可能距離の変化を示すグラフ。図2(a)は本発明の無線タグ、図2(b)は比較例の無線タグにおける実測値。
【図3】無線タグを貼り付ける対象物が金属体である場合の、方向別の通信可能距離の変化を示すグラフ。図3(a)は本発明の無線タグ、図3(b)は比較例の無線タグにおける実測値。
【図4】無線タグの従来例の斜視透視図。
【符号の説明】
【0043】
11,21,24,31,34,41 ICチップ
12,42 アンテナ
13,43 基板
14,22,25,32,35,44 スペーサ
15 分離金属層
16 絶縁領域
23,26 絶縁物の対象物
33,36 金属体の対象物
45 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基体を有し、前記基体の厚さ方向に垂直な面の一方にアンテナが設けられ、
前記基体の前記面上、もしくは前記基体の内部にICチップを有し、
前記基体の、前記アンテナが設置されている面とは裏面となる面に金属層が形成されており、
前記金属層が互いに絶縁された複数の領域に分割されていることを特徴とする無線タグ。
【請求項2】
前記金属層が絶縁領域によって複数の領域に分割されており、前記各絶縁領域の幅の最小値が3mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の無線タグ。
【請求項3】
前記金属層が前記絶縁領域により2の領域に分割されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線タグ。
【請求項4】
前記ICチップが前記基体の長手方向に対してその中央部に配置されており、
前記アンテナが2本のエレメントを有するダイポールアンテナであり、前記アンテナを構成する各エレメントが、前記ICチップを中心として、前記基体の長手方向のそれぞれ逆方向の両端に向けて1ずつ設けられていて、
前記ICチップが、前記絶縁領域上、もしくは前記絶縁領域を前記基体の内部および裏面に向けて厚さ方向に延長した領域に配置されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無線タグ。
【請求項5】
前記基体が単層構造であって、前記基体の平均厚さが1mm以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無線タグ。
【請求項6】
前記基体が基板およびスペーサからなる複層構造であり、無線タグの構成要素が前記アンテナ、前記基板、前記スペーサ、前記金属層の順に形成されており、
前記スペーサの厚さが前記基板の厚さを上回ることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無線タグ。
【請求項7】
前記基体が基板およびスペーサからなる複層構造であり、無線タグの構成要素が前記基板、前記アンテナ、前記スペーサ、前記金属層の順に形成されており、
前記スペーサの厚さが前記基板の厚さを上回ることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無線タグ。
【請求項8】
前記スペーサの平均厚さが1mm以上であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の無線タグ。
【請求項9】
前記基体がエポキシ樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、アクリルから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなることを特徴とする請求項5に記載の無線タグ。
【請求項10】
前記基板がガラスエポキシ、PET、ポリイミドから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなり、前記スペーサがエポキシ樹脂、PET、ポリプロピレン、アクリルから選択される絶縁性樹脂のいずれか、もしくは前記各絶縁性樹脂の複合物からなることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の無線タグ。
【請求項11】
前記金属層が、銅、銀、金、アルミニウムから選択される金属箔のいずれか、もしくは前記各金属箔の複合物からなることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の無線タグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−217522(P2008−217522A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55297(P2007−55297)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】