無線チャネルの状態を推定する方法
【課題】低い複雑度と低コストで、無線チャネルの状態を推定する。
【解決手段】方法は、レンジング信号を送信してから無線ネットワークのチャネルを介して該レンジング信号を受信するまでの時間、および該レンジング信号の受信信号強度(RSS)を測定する。この時間に基づいて距離を推定し、このRSSに基づいて経路損失を推定する。この距離およびこの経路損失に基づいてチャネルの状態の確率を推定する。この状態は見通し(LOS)または見通し外(NLOS)のうちの一方にある。
【解決手段】方法は、レンジング信号を送信してから無線ネットワークのチャネルを介して該レンジング信号を受信するまでの時間、および該レンジング信号の受信信号強度(RSS)を測定する。この時間に基づいて距離を推定し、このRSSに基づいて経路損失を推定する。この距離およびこの経路損失に基づいてチャネルの状態の確率を推定する。この状態は見通し(LOS)または見通し外(NLOS)のうちの一方にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無線通信および位置特定に関し、より詳細には無線チャネルの状態を推定および特定することに関する。
【背景技術】
【0002】
チャネルの状態は無線ネットワークの性能にとって重要である。見通し外(NLOS)チャネルにおける無線信号は、より大きな経路損失を被ることが多く、したがって等しい距離の見通し(LOS)チャネルよりも、通信に関して信頼性が低い。無線ネットワークが、2つのノード間の経路が見通し(LOS)、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)、または非直接経路NLOS(NLOS−NDP)のうちの1つであるか否かを検出することが可能である場合、ネットワークはデータを異なる経路にルーティングして通信信頼性を向上させることができる。
【0003】
ToAベースのレンジングにおけるチャネル状態の影響
無線ネットワークにおける2つのノード間の距離は、受信信号強度(RSS)または到着時刻(ToA)を使用して推定することができる。ToAベースのレンジングは、信号が送信されてから信号が受信されるまでの時間tを測定することに基づく。距離はd=t×cと推定される。ただし、cは媒質における信号の進行速度である(たとえば、電磁波は自由空間内を〜3×108m/秒で進行する)。
【0004】
図1(a)は、距離d103だけ離隔された2つの送受信機A101およびB102を示している。
【0005】
図1(b)は、送受信機Aが時点t0において無線信号111を送信し、該信号が、時間τ123経過後、時刻t1=t0+τにおいて、送受信機B102において受信されることを示している。ToAベースのレンジングにおいて、時間τは距離d103を推定するのに使用される「飛行」時間である。信号の進行距離はd=τ×cと推定される。
【0006】
図2に示すように、無線チャネルは多数の経路を含むことができる。送信機と受信機との間の直接経路210は見通し(LOS)経路と称される。反射経路である間接経路は見通し外(NLOS)経路と称される。
【0007】
NLOS経路の総進行距離は、LOS経路よりも長い。たとえば、2つのNLOS経路の長さ220は、d1+d2>dおよびd3+d4>dである。
通常、ToAは信号の最も早い到着に基づいて推定され、距離は、次式となる。
【0008】
【数1】
【0009】
ただし、dijはLOS距離であり、zijはLOSチャネルにおいてゼロ値およびNLOSチャネルにおいて正値を有するNLOSバイアスであり、εijはゼロ平均ガウス分布を有する測定誤差である。
【0010】
図3AはLOSチャネルの電力遅延プロファイル(PDP)を示している。直接経路は最も強い成分であり、直接経路が予期される時刻301に出現する。したがって、ToA推定値は誤差をほとんど含まない。
【0011】
図3Bは、直接経路が減衰しているが検出可能であるNLOSチャネル(NLOS−DPチャネル)のPDPを示している。直接経路は最も強い成分ではなく、直接経路が予期される時刻において出現する幾らかのエネルギーが存在する。その結果、到着推定時刻302の誤差はLOSチャネルにおけるよりも大きくなる。
【0012】
図3Cは、直接経路が減衰すると共に検出することができずに完了したNLOSチャネル(NLOS−NDPチャネル)のPDPを示している。直接経路は最も強い成分ではなく、直接経路が予期される時刻に検出することができない。最も早く検出可能な信号は、時刻301または302ではなく、時刻303におけるものである。その結果、ToA推定値は、他の2つのチャネル状態と比較して大幅に多くの誤差を有し得る。誤差の大部分はNLOSバイアスによってもたらされる。これはzij>>τijであるためである。
【0013】
無線ネットワークにおける位置推定の影響
無線ネットワークにおけるノードの位置特定は、無線信号を使用して実施することができる。図4は一例のネットワークを示す。位置を推定される目標ノードT401が、既知の位置を有するM個のノードA1、A2、・・・AM402に無線で接続されると仮定する。これらのノードはアンカー(A)ノードと称され、該ノードの位置は(x1、y1)、(x2、y2)、・・・(xM、yM)である。また、ノードTとアンカーノードAiとの間の距離推定値を、
【数2】
として利用可能であると仮定すると、最小2乗(LS)位置推定器を使用してノードTの位置を、次式と推定することができる。
【0014】
【数3】
【0015】
これは、次式で与えられる。
【0016】
【数4】
【0017】
ただし、
【数5】
はレンジ測定ベクトルである。また、
【数6】
は、ノードTの位置の推定位置において計算される距離であり、以下のように与えられる。
【0018】
【数7】
【0019】
LS推定器は各推定距離
【数8】
を等しく扱う。しかしながら、距離
【数9】
は、物体410によって反射されるため不正確であり得る。距離推定が正確である場合、位置ソルバはノードTの推定位置、すなわち、次式を返す。
【0020】
【数10】
【0021】
すべての距離推定における誤差が等しいかまたは近い場合、すべての利用可能なアンカーノードを使用するLS推定は概して、アンカーノードのサブセットのみを使用するLS推定と比較してより正確な推定値を返す。
【0022】
1つまたは複数の距離推定値が、他の距離推定値よりも大幅に大きい誤差を含む場合、LS位置推定器、またはすべての距離を等しく扱う任意の他の方法は、より多くの誤差を有する結果を生成する。
【0023】
所与の距離測定値
【数11】
が大きな誤差を有する場合、位置推定中の距離測定値を判別する位置推定方法を使用して位置誤差性能改善を達成することができる。このような方法のうちの1つは、重み付き最小2乗(WLS)、次式を使用する。
【0024】
【数12】
【0025】
ただし、W=[W1、W2、・・・WM]は重みベクトルであり、Wiはi番目の距離測定値に割り当てられる重みである。より高い信頼度スコアを有する距離測定値に、より大きな重みが割り当てられる。逆に、距離推定値が大きな誤差および低い信頼度を有する場合、小さな重みが割り当てられる。
【0026】
WLS方法が良好な性能を有するために、正確な重み割当てが必須である。
【0027】
従来技術のチャネル分類
幾つかのチャネル状態分類方法が既知である。
【0028】
(RMS遅延広がりのような)「チャネル統計」を使用してNLOSチャネルを識別することができる。この方法は計算が複雑で、エネルギー効率が悪い。これは、チャネル統計を求めるのにチャネルごとに複数のレンジ測定が必要となるためである。
【0029】
「周波数ダイバーシティ」を使用して直接経路遮蔽物を識別することもできる。典型的な屋内環境におけるチャネル測定値に基づくと、複数の周波数サブバンドにわたるToA推定値の変動はチャネル状態と正の相関を有する。この手法は周波数ホッピングが可能な無線周波数(RF)フロントエンド部を必要とし、したがって送受信機はより高いコスト、複雑度、および電力消費を有する。また、アンテナの周波数依存性をチャネルから切り離すことは難しく、このことは上記手法の効率性に直接影響を及ぼす。
【0030】
「実行分散(running variance)」はチャネル状態識別の別の方法である。この方法は、後続のレンジ推定値の分散を計算し、該分散を所定の閾値と比較してLOSとNLOSとのいずれであるか決める。この方法は高い計算複雑度を有し、エネルギー効率が悪い。
【0031】
「SNRの変化」方法は、SNRの急変を検出し、チャネルがLOSからNLOSへ移行しているか、またはNLOSからLOSへ移行しているかを判断する。
【発明の概要】
【0032】
この発明の実施の形態は、測定された到着時刻(ToA)および受信信号強度(RSS)に基づいて無線チャネル状態を推定する方法を提供する。
【0033】
本方法は信頼性の高い推定を提供する。本方法は低い複雑度を有すると共に、低コストで実施することができる。これは、上記RSSが受信機において簡単に利用可能であるためである。
【発明の効果】
【0034】
従来方法と比較して、この発明は以下の利点を有する。
この発明は無線チャネルのLOS/NLOS状態を信頼性をもって推定する。
この発明の方法は、3つのチャネル状態の確率を生成する。これらの確率を使用して各無線チャネルのハード重みまたはソフト重みを生成することができる。
上記重みを引き続き位置特定方法によって使用して、正確度を高めることができる。推定されたチャネル条件付き確率を他のアプリケーションによって使用して、通信信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1(a)は無線ネットワークにおける距離dを有する2つのノードのブロック図であり、図1(b)は送信メッセージおよび受信メッセージの時間の概略図である。
【図2】多経路無線チャネルの概略図である。
【図3A】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図3B】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図3C】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図4】単純な無線位置特定ネットワークの概略図である。
【図5】測定経路損失と計算された経路損失とを距離にわたって比較するグラフである。
【図6】所与の距離における、異なるチャネルに関する受信信号強度の分布である。
【図7】NLOS−NPチャネル状態およびNLOS−NDPチャネル状態の距離にわたる分布のヒストグラムである。
【図8】この発明の実施形態によるチャネル状態を推定する方法のフロー図である。
【図9】最小2乗(LS)を使用する位置特定方法の場合の位置誤差と、この発明の実施形態によるチャネル状態推定およびソフト重み割当ての方法を使用する、重み付き最小2乗(WLS)を使用する位置特定方法の場合の位置誤差とを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明の実施形態によれば、C0、C1およびC2は3つのチャネル状態、すなわち見通しLOS、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)および非直接経路NLOS(NLOS−NDP)をそれぞれ示す。
【0037】
この発明の目標は、ToAベースの距離推定値
【数13】
およびRSS測定値
【数14】
に基づいて、チャネルが3つのチャネル状態Ci、i={0、1、2}のうちの1つにあるか否かの尤度を推定することである。尤度は条件付き確率、すなわち、以下によって表すことができる。
【数15】
【0038】
条件付き確率
【数16】
は、ベイズ方程式を使用して計算することができ、次式によって与えられる。
【0039】
【数17】
【0040】
ただし、
【数18】
はToA推定距離
【数19】
における所与のチャネル状態Ckに関する信号電力分布である。
【数20】
は、ToA推定距離を所与とするチャネル状態の確率である。
【0041】
先見的情報
【数21】
は、チャネル測定および経路損失のモデル化PL=Pt−rrssを通じて取得することができ、これは距離と電力との関係を確定する。
【数22】
の平均値は、無線チャネルにおける平均経路損失PLである。通常、平均経路損失とアンテナ分離との間の関係は、以下によって与えられる単純なモデルを使用して表すことができる。
【0042】
PL=P0+10nlog(d)+χ ・・・(2)
【0043】
ただし、P0は固定距離、通常1mにおける経路損失であり、nは経路損失指数であり、χは通常対数正規分布としてモデル化されるシャドーフェージング成分である。このモデルはLOSチャネルに関して有効である。
【0044】
nおよびP0の値は通常、チャネル状態に依拠する。NLOSチャネルの場合、経路損失を、2つの要素から成るモデルとして、モデル化することができる。
【0045】
【数23】
【0046】
ただし、n1は遮断距離dbreak以下の場合の経路損失指数であり、n2は遮断距離dbreakを超える場合の経路損失指数であり、χ1は遮断距離dbreak以下の場合のシャドーフェージングであり、χ2は遮断距離dbreakを超える場合のシャドーフェージングである。これらの値は、異なるチャネル状態において、異なるシャドーイング度合いに起因して変化する。
【0047】
図5は、このような関係をチャネルC0、C1およびC2に関して示している。測定結果も図5において示されている。
【0048】
ここで、
【数24】
は式(2)および式(3)に基づいて計算された平均値を有する分布である。
【0049】
図6は、所与の距離
【数25】
において3つすべてのチャネル状態に関して
【数26】
の分布を示している。
【0050】
【数27】
は、ベイズ方程式を使用して取得することができ、次式によって与えられる。
【0051】
【数28】
【0052】
ただし、
【数29】
はチャネル状態を所与とするToA推定距離分布であり、p(Ci)は状態Ci下にあるチャネルの確率である。
【0053】
【数30】
はチャネル状態を所与とするToA推定距離分布である。通常、
【数31】
はレンジ内の距離に依拠しない。
【数32】
および
【数33】
は距離に依拠する。直感的に、
【数34】
は通信レンジdc内で単調増加し、
【数35】
は通信レンジdc内で単調減少する。式(5)、式(6)、および式(7)はこれらの要件を満たす分布である。
【0054】
【数36】
【0055】
図7は実際の測定値に基づく
【数37】
および
【数38】
を示している。図7は式(6)および式(7)によって与えられる分布も示している。
【0056】
重み割当て方式
上記の式を使用してチャネル条件付き確率を計算した後、チャネルの重みを生成することができる。ハード重みまたはソフト重みを生成することができる。
【0057】
ハード重み
以下の状態を満たすチャネルを選択する。
【0058】
【数39】
【0059】
ただし、arg maxは、確率
【数40】
を最大にする引数、すなわち最大確率を有するチャネル状態を返す。次に、選択されたチャネルに基づいてチャネルに重みを割り当てる。すなわちw=w(Ck)である。
【0060】
ソフト重み
所与のチャネルの重みは、以下によって計算される。
【0061】
【数41】
【0062】
ただし、kは異なるチャネル状態のインデックスであり、Gkはチャネル状態Ckの対応する重みである。
【0063】
次に、チャネルの重みを位置決め方法、たとえばWLS位置決め方法によって使用することができる。
【0064】
一般的方法
図8は、この発明の実施形態による、チャネル状態を推定する方法を示している。レンジング信号の到着時刻(ToA)に基づいて距離dを推定する(810)。レンジング信号の受信信号強度(RSS)に基づいて経路損失を推定する(820)。
【0065】
実施形態にしたがって、チャネル状態の条件付き確率
【数42】
を求める(830)。次に、プロセスは、
【数43】
を直接出力する(842)か、または、重みwを最初に割り当て(841)、続いて、その重みを出力する(843)。
【0066】
図9は、位置推定の2乗平均平方根誤差(RMSE)の累積分布関数(CDF)を示している。重み情報を有しない場合、LSアルゴリズム性能は曲線910として示される。この発明の方法を使用して生成された重みを使用する場合、位置のRMSEのCDFは曲線920である。平均して40%を超える改善を見てとることができる。
【0067】
この発明を好ましい実施形態の例として説明してきたが、この発明の精神および範囲内で様々な他の適応および変更を行うことができることは理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、この発明の真の精神および範囲内に入るすべての変形形態および変更形態を包含することである。
【技術分野】
【0001】
この発明は無線通信および位置特定に関し、より詳細には無線チャネルの状態を推定および特定することに関する。
【背景技術】
【0002】
チャネルの状態は無線ネットワークの性能にとって重要である。見通し外(NLOS)チャネルにおける無線信号は、より大きな経路損失を被ることが多く、したがって等しい距離の見通し(LOS)チャネルよりも、通信に関して信頼性が低い。無線ネットワークが、2つのノード間の経路が見通し(LOS)、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)、または非直接経路NLOS(NLOS−NDP)のうちの1つであるか否かを検出することが可能である場合、ネットワークはデータを異なる経路にルーティングして通信信頼性を向上させることができる。
【0003】
ToAベースのレンジングにおけるチャネル状態の影響
無線ネットワークにおける2つのノード間の距離は、受信信号強度(RSS)または到着時刻(ToA)を使用して推定することができる。ToAベースのレンジングは、信号が送信されてから信号が受信されるまでの時間tを測定することに基づく。距離はd=t×cと推定される。ただし、cは媒質における信号の進行速度である(たとえば、電磁波は自由空間内を〜3×108m/秒で進行する)。
【0004】
図1(a)は、距離d103だけ離隔された2つの送受信機A101およびB102を示している。
【0005】
図1(b)は、送受信機Aが時点t0において無線信号111を送信し、該信号が、時間τ123経過後、時刻t1=t0+τにおいて、送受信機B102において受信されることを示している。ToAベースのレンジングにおいて、時間τは距離d103を推定するのに使用される「飛行」時間である。信号の進行距離はd=τ×cと推定される。
【0006】
図2に示すように、無線チャネルは多数の経路を含むことができる。送信機と受信機との間の直接経路210は見通し(LOS)経路と称される。反射経路である間接経路は見通し外(NLOS)経路と称される。
【0007】
NLOS経路の総進行距離は、LOS経路よりも長い。たとえば、2つのNLOS経路の長さ220は、d1+d2>dおよびd3+d4>dである。
通常、ToAは信号の最も早い到着に基づいて推定され、距離は、次式となる。
【0008】
【数1】
【0009】
ただし、dijはLOS距離であり、zijはLOSチャネルにおいてゼロ値およびNLOSチャネルにおいて正値を有するNLOSバイアスであり、εijはゼロ平均ガウス分布を有する測定誤差である。
【0010】
図3AはLOSチャネルの電力遅延プロファイル(PDP)を示している。直接経路は最も強い成分であり、直接経路が予期される時刻301に出現する。したがって、ToA推定値は誤差をほとんど含まない。
【0011】
図3Bは、直接経路が減衰しているが検出可能であるNLOSチャネル(NLOS−DPチャネル)のPDPを示している。直接経路は最も強い成分ではなく、直接経路が予期される時刻において出現する幾らかのエネルギーが存在する。その結果、到着推定時刻302の誤差はLOSチャネルにおけるよりも大きくなる。
【0012】
図3Cは、直接経路が減衰すると共に検出することができずに完了したNLOSチャネル(NLOS−NDPチャネル)のPDPを示している。直接経路は最も強い成分ではなく、直接経路が予期される時刻に検出することができない。最も早く検出可能な信号は、時刻301または302ではなく、時刻303におけるものである。その結果、ToA推定値は、他の2つのチャネル状態と比較して大幅に多くの誤差を有し得る。誤差の大部分はNLOSバイアスによってもたらされる。これはzij>>τijであるためである。
【0013】
無線ネットワークにおける位置推定の影響
無線ネットワークにおけるノードの位置特定は、無線信号を使用して実施することができる。図4は一例のネットワークを示す。位置を推定される目標ノードT401が、既知の位置を有するM個のノードA1、A2、・・・AM402に無線で接続されると仮定する。これらのノードはアンカー(A)ノードと称され、該ノードの位置は(x1、y1)、(x2、y2)、・・・(xM、yM)である。また、ノードTとアンカーノードAiとの間の距離推定値を、
【数2】
として利用可能であると仮定すると、最小2乗(LS)位置推定器を使用してノードTの位置を、次式と推定することができる。
【0014】
【数3】
【0015】
これは、次式で与えられる。
【0016】
【数4】
【0017】
ただし、
【数5】
はレンジ測定ベクトルである。また、
【数6】
は、ノードTの位置の推定位置において計算される距離であり、以下のように与えられる。
【0018】
【数7】
【0019】
LS推定器は各推定距離
【数8】
を等しく扱う。しかしながら、距離
【数9】
は、物体410によって反射されるため不正確であり得る。距離推定が正確である場合、位置ソルバはノードTの推定位置、すなわち、次式を返す。
【0020】
【数10】
【0021】
すべての距離推定における誤差が等しいかまたは近い場合、すべての利用可能なアンカーノードを使用するLS推定は概して、アンカーノードのサブセットのみを使用するLS推定と比較してより正確な推定値を返す。
【0022】
1つまたは複数の距離推定値が、他の距離推定値よりも大幅に大きい誤差を含む場合、LS位置推定器、またはすべての距離を等しく扱う任意の他の方法は、より多くの誤差を有する結果を生成する。
【0023】
所与の距離測定値
【数11】
が大きな誤差を有する場合、位置推定中の距離測定値を判別する位置推定方法を使用して位置誤差性能改善を達成することができる。このような方法のうちの1つは、重み付き最小2乗(WLS)、次式を使用する。
【0024】
【数12】
【0025】
ただし、W=[W1、W2、・・・WM]は重みベクトルであり、Wiはi番目の距離測定値に割り当てられる重みである。より高い信頼度スコアを有する距離測定値に、より大きな重みが割り当てられる。逆に、距離推定値が大きな誤差および低い信頼度を有する場合、小さな重みが割り当てられる。
【0026】
WLS方法が良好な性能を有するために、正確な重み割当てが必須である。
【0027】
従来技術のチャネル分類
幾つかのチャネル状態分類方法が既知である。
【0028】
(RMS遅延広がりのような)「チャネル統計」を使用してNLOSチャネルを識別することができる。この方法は計算が複雑で、エネルギー効率が悪い。これは、チャネル統計を求めるのにチャネルごとに複数のレンジ測定が必要となるためである。
【0029】
「周波数ダイバーシティ」を使用して直接経路遮蔽物を識別することもできる。典型的な屋内環境におけるチャネル測定値に基づくと、複数の周波数サブバンドにわたるToA推定値の変動はチャネル状態と正の相関を有する。この手法は周波数ホッピングが可能な無線周波数(RF)フロントエンド部を必要とし、したがって送受信機はより高いコスト、複雑度、および電力消費を有する。また、アンテナの周波数依存性をチャネルから切り離すことは難しく、このことは上記手法の効率性に直接影響を及ぼす。
【0030】
「実行分散(running variance)」はチャネル状態識別の別の方法である。この方法は、後続のレンジ推定値の分散を計算し、該分散を所定の閾値と比較してLOSとNLOSとのいずれであるか決める。この方法は高い計算複雑度を有し、エネルギー効率が悪い。
【0031】
「SNRの変化」方法は、SNRの急変を検出し、チャネルがLOSからNLOSへ移行しているか、またはNLOSからLOSへ移行しているかを判断する。
【発明の概要】
【0032】
この発明の実施の形態は、測定された到着時刻(ToA)および受信信号強度(RSS)に基づいて無線チャネル状態を推定する方法を提供する。
【0033】
本方法は信頼性の高い推定を提供する。本方法は低い複雑度を有すると共に、低コストで実施することができる。これは、上記RSSが受信機において簡単に利用可能であるためである。
【発明の効果】
【0034】
従来方法と比較して、この発明は以下の利点を有する。
この発明は無線チャネルのLOS/NLOS状態を信頼性をもって推定する。
この発明の方法は、3つのチャネル状態の確率を生成する。これらの確率を使用して各無線チャネルのハード重みまたはソフト重みを生成することができる。
上記重みを引き続き位置特定方法によって使用して、正確度を高めることができる。推定されたチャネル条件付き確率を他のアプリケーションによって使用して、通信信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1(a)は無線ネットワークにおける距離dを有する2つのノードのブロック図であり、図1(b)は送信メッセージおよび受信メッセージの時間の概略図である。
【図2】多経路無線チャネルの概略図である。
【図3A】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図3B】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図3C】チャネル電力遅延プロファイル(PDP)のグラフである。
【図4】単純な無線位置特定ネットワークの概略図である。
【図5】測定経路損失と計算された経路損失とを距離にわたって比較するグラフである。
【図6】所与の距離における、異なるチャネルに関する受信信号強度の分布である。
【図7】NLOS−NPチャネル状態およびNLOS−NDPチャネル状態の距離にわたる分布のヒストグラムである。
【図8】この発明の実施形態によるチャネル状態を推定する方法のフロー図である。
【図9】最小2乗(LS)を使用する位置特定方法の場合の位置誤差と、この発明の実施形態によるチャネル状態推定およびソフト重み割当ての方法を使用する、重み付き最小2乗(WLS)を使用する位置特定方法の場合の位置誤差とを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明の実施形態によれば、C0、C1およびC2は3つのチャネル状態、すなわち見通しLOS、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)および非直接経路NLOS(NLOS−NDP)をそれぞれ示す。
【0037】
この発明の目標は、ToAベースの距離推定値
【数13】
およびRSS測定値
【数14】
に基づいて、チャネルが3つのチャネル状態Ci、i={0、1、2}のうちの1つにあるか否かの尤度を推定することである。尤度は条件付き確率、すなわち、以下によって表すことができる。
【数15】
【0038】
条件付き確率
【数16】
は、ベイズ方程式を使用して計算することができ、次式によって与えられる。
【0039】
【数17】
【0040】
ただし、
【数18】
はToA推定距離
【数19】
における所与のチャネル状態Ckに関する信号電力分布である。
【数20】
は、ToA推定距離を所与とするチャネル状態の確率である。
【0041】
先見的情報
【数21】
は、チャネル測定および経路損失のモデル化PL=Pt−rrssを通じて取得することができ、これは距離と電力との関係を確定する。
【数22】
の平均値は、無線チャネルにおける平均経路損失PLである。通常、平均経路損失とアンテナ分離との間の関係は、以下によって与えられる単純なモデルを使用して表すことができる。
【0042】
PL=P0+10nlog(d)+χ ・・・(2)
【0043】
ただし、P0は固定距離、通常1mにおける経路損失であり、nは経路損失指数であり、χは通常対数正規分布としてモデル化されるシャドーフェージング成分である。このモデルはLOSチャネルに関して有効である。
【0044】
nおよびP0の値は通常、チャネル状態に依拠する。NLOSチャネルの場合、経路損失を、2つの要素から成るモデルとして、モデル化することができる。
【0045】
【数23】
【0046】
ただし、n1は遮断距離dbreak以下の場合の経路損失指数であり、n2は遮断距離dbreakを超える場合の経路損失指数であり、χ1は遮断距離dbreak以下の場合のシャドーフェージングであり、χ2は遮断距離dbreakを超える場合のシャドーフェージングである。これらの値は、異なるチャネル状態において、異なるシャドーイング度合いに起因して変化する。
【0047】
図5は、このような関係をチャネルC0、C1およびC2に関して示している。測定結果も図5において示されている。
【0048】
ここで、
【数24】
は式(2)および式(3)に基づいて計算された平均値を有する分布である。
【0049】
図6は、所与の距離
【数25】
において3つすべてのチャネル状態に関して
【数26】
の分布を示している。
【0050】
【数27】
は、ベイズ方程式を使用して取得することができ、次式によって与えられる。
【0051】
【数28】
【0052】
ただし、
【数29】
はチャネル状態を所与とするToA推定距離分布であり、p(Ci)は状態Ci下にあるチャネルの確率である。
【0053】
【数30】
はチャネル状態を所与とするToA推定距離分布である。通常、
【数31】
はレンジ内の距離に依拠しない。
【数32】
および
【数33】
は距離に依拠する。直感的に、
【数34】
は通信レンジdc内で単調増加し、
【数35】
は通信レンジdc内で単調減少する。式(5)、式(6)、および式(7)はこれらの要件を満たす分布である。
【0054】
【数36】
【0055】
図7は実際の測定値に基づく
【数37】
および
【数38】
を示している。図7は式(6)および式(7)によって与えられる分布も示している。
【0056】
重み割当て方式
上記の式を使用してチャネル条件付き確率を計算した後、チャネルの重みを生成することができる。ハード重みまたはソフト重みを生成することができる。
【0057】
ハード重み
以下の状態を満たすチャネルを選択する。
【0058】
【数39】
【0059】
ただし、arg maxは、確率
【数40】
を最大にする引数、すなわち最大確率を有するチャネル状態を返す。次に、選択されたチャネルに基づいてチャネルに重みを割り当てる。すなわちw=w(Ck)である。
【0060】
ソフト重み
所与のチャネルの重みは、以下によって計算される。
【0061】
【数41】
【0062】
ただし、kは異なるチャネル状態のインデックスであり、Gkはチャネル状態Ckの対応する重みである。
【0063】
次に、チャネルの重みを位置決め方法、たとえばWLS位置決め方法によって使用することができる。
【0064】
一般的方法
図8は、この発明の実施形態による、チャネル状態を推定する方法を示している。レンジング信号の到着時刻(ToA)に基づいて距離dを推定する(810)。レンジング信号の受信信号強度(RSS)に基づいて経路損失を推定する(820)。
【0065】
実施形態にしたがって、チャネル状態の条件付き確率
【数42】
を求める(830)。次に、プロセスは、
【数43】
を直接出力する(842)か、または、重みwを最初に割り当て(841)、続いて、その重みを出力する(843)。
【0066】
図9は、位置推定の2乗平均平方根誤差(RMSE)の累積分布関数(CDF)を示している。重み情報を有しない場合、LSアルゴリズム性能は曲線910として示される。この発明の方法を使用して生成された重みを使用する場合、位置のRMSEのCDFは曲線920である。平均して40%を超える改善を見てとることができる。
【0067】
この発明を好ましい実施形態の例として説明してきたが、この発明の精神および範囲内で様々な他の適応および変更を行うことができることは理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、この発明の真の精神および範囲内に入るすべての変形形態および変更形態を包含することである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークにおいて受信機と送信機との間のチャネルの状態を推定する方法であって、
レンジング信号を送信してから、前記無線ネットワークの前記チャネルを介して該レンジング信号を受信するまでの時間を測定するステップと、
前記レンジング信号の受信信号強度(RSS)を測定するステップと、
前記時間に基づいて前記送信機と前記受信機との間の距離を推定するステップと、
前記RSSに基づいて前記受信機と前記送信機との間の経路損失を推定するステップと、
前記距離および前記経路損失に基づいて前記チャネルの状態の確率を推定するステップであって、該状態は見通し(LOS)および見通し外(NLOS)を含む、推定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記NLOSチャネル状態は、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)と、非直接経路NLOS(NLOS−NDP)とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各前記状態は前記確率に基づいて重みを割り当てられ、前記方法は、最も高い確率を有する前記状態を選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各前記チャネルに対し、前記状態に対応する重みを割り当てるステップと、
すべての前記状態の前記確率を組合わせるステップであって、前記チャネルの前記重みを生成する、組合わせるステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記状態は、
【数1】
であり、ただし、arg maxは、確率
【数2】
を最大にする引数を返し、
【数3】
は推定距離であり、
【数4】
は推定RSSであり、前記方法は、重みwをw=w(Ck)として前記チャネルに割り当てるステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記重みは、
【数5】
であり、ただし、kは前記状態のインデックスであり、Gkはチャネル状態Ckの対応する重みであり、
【数6】
は推定距離であり、
【数7】
は推定RSSである、請求項4に記載の方法。
【請求項1】
無線ネットワークにおいて受信機と送信機との間のチャネルの状態を推定する方法であって、
レンジング信号を送信してから、前記無線ネットワークの前記チャネルを介して該レンジング信号を受信するまでの時間を測定するステップと、
前記レンジング信号の受信信号強度(RSS)を測定するステップと、
前記時間に基づいて前記送信機と前記受信機との間の距離を推定するステップと、
前記RSSに基づいて前記受信機と前記送信機との間の経路損失を推定するステップと、
前記距離および前記経路損失に基づいて前記チャネルの状態の確率を推定するステップであって、該状態は見通し(LOS)および見通し外(NLOS)を含む、推定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記NLOSチャネル状態は、部分的に遮蔽された直接経路NLOS(NLOS−DP)と、非直接経路NLOS(NLOS−NDP)とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各前記状態は前記確率に基づいて重みを割り当てられ、前記方法は、最も高い確率を有する前記状態を選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各前記チャネルに対し、前記状態に対応する重みを割り当てるステップと、
すべての前記状態の前記確率を組合わせるステップであって、前記チャネルの前記重みを生成する、組合わせるステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記状態は、
【数1】
であり、ただし、arg maxは、確率
【数2】
を最大にする引数を返し、
【数3】
は推定距離であり、
【数4】
は推定RSSであり、前記方法は、重みwをw=w(Ck)として前記チャネルに割り当てるステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記重みは、
【数5】
であり、ただし、kは前記状態のインデックスであり、Gkはチャネル状態Ckの対応する重みであり、
【数6】
は推定距離であり、
【数7】
は推定RSSである、請求項4に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−187359(P2010−187359A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−195227(P2009−195227)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195227(P2009−195227)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】
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