説明

無線ネットワークにおいて協力中継を使用して通信する方法及びシステム

【課題】無線ネットワークにおいて、ダウンリンクにおける協力通信を提供する。
【解決手段】協力中継を使用する無線ネットワークにおいて、スケジューリング間隔のフェース1の間に、メッセージのセットが基地局から中継局のセットにブロードキャストされる。スケジューリング間隔のフェース2の間、中継局のセットからのメッセージのセットは、ブロードキャストしている間に移動局のセットに協力してブロードキャストされる。ブロードキャストしている間に、フェース1の間に各メッセージの時間及びレート及びサイズが最適化され、フェース2の間に各メッセージのレートが最適化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には無線ネットワークに関し、特にセルラネットワークのダウンリンクにおける中継局との協力(cooperation)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の中継ネットワークでは、メッセージは、ソースノードから宛先ノードへ単一経路を介して恐らくは中継ノードを通じて複数の連続ホップで送信される。協力中継(cooperative relay)ネットワークでは、無線ノードは、メッセージを並列に送信する際に互いに協力する。無線チャネルのブロードキャスト性を利用して複数の中継ノードに同時に到達することにより、且つ中継ノードが協力することができるようにすることにより、メッセージをソースから宛先に配信する際の電力消費量を低減することが可能である。これはまた、全スループット及び電力効率における利得を大幅に増大させることも可能である。これについては、すべて参照により本明細書に援用される、A. Nosratinia、T. Hunter及びA. Hedayat著、「Cooperative communication in wireless networks」(IEEE Communications Magazine, vol.42, pp.68-73, 2004)、Sendonaris、E. Erkip及びB. Aazhang著、「User cooperation diversity-Part I: System description」(IEEE Transactions on Communications, vol. 51, pp.1927-1938, 2003)、A. Jardine、S. McLaughlin及びJ. Thompson著、「Comparison of space-time cooperative diversity relaying techniques」(Proc. IEEE VTC 2005- Spring, pp.2374-2378, 2005)及びJ. N. Laneman、D. N. C. Tse、A. Stefanov及びE. Erkip著、「Cooperative coding for wireless networks」(IEEE Trans. Commun., pp.1470-1476, Sept. 2004)及びG. W. Wornell著、「Cooperative diversity in wireless networks: Efficient protocols and outage behavior」(IEEE Transactions on Information Theory, vol. 50, pp.3062-3080, 2004)を参照されたい。
【0003】
協力ネットワークでは、メッセージは、いくつかの中間中継ノードを使用して並列に宛先ノードに送信される。これについては、すべて参照により本明細書に援用される、A. Wittneben、I. Hammerstroem及びM. Kuhn著、「Joint cooperative diversity and scheduling in low mobility wireless networks」(IEEE Global Telecommunications Conference (GLOBECOM), vol.2, pp.780-784, 2004)、A. E. Khandani、J. Abounadi、E. Modiano及びL. Zheng著、「Cooperative routing in wireless networks」(Allerton Conference on Communications, Control and Computing, 2003)並びにRankov及びA. Wittneben著、「Distributed spatial multiplexing in a wireless network」(The Asilomar Conference on Signals, Systems, and Computers, pp.1932-1937, 2004)を参照されたい。
【0004】
いくつかの単純な中継局選択基準については、J. Luo、R.S. Blum、L. J. Cimini、L. J. Greenstein及びA. M. Haimovichによって、参照により本明細書に援用される「Link-Failure Probabilities for Practical Cooperative Relay Networks」(IEEE Globecom 2005)において述べられている。基準のうちの2つ、「Pre-Select One Relay」及び「Best-Select Relay」は、平均チャネル利得に基づいて単一の最良中継局を選択し、残りの2つの基準、「Simple Relay」及び「ST-Coded Relay」では、ソースからのデータを復号するすべての中継局が選択される。「Simple Relay」では、中継ノードはそれらの位相を同期させず、ST-Coded Relayでは、分散時空間符号(distributed space-time code)が使用される。
【0005】
平均距離又はノード間の経路損失に基づいて、フレーム誤り確率及び対のコードワード誤り確率に基づいて単一中継ノードを選択する探索アルゴリズムは、Zinan Lin及びElza Erkipによって、参照により本明細書に援用される「Relay Search Algorithms for Coded Cooperative Systems」(IEEE Globecom 2005)おいて述べられている。
【0006】
Khandani他は、位相補償を含む加法的白色ガウス雑音(AWGN)チャネルに限定されるモデルについて述べている。そのモデルは、動的フェージングによって引き起こされるチャネル変動、通信遮断(outage)又は中継ノード間の協力に必要なオーバヘッドを考慮していない。
【0007】
送信機においてチャネル状態情報(CSI)が既知であるということが、上記Laneman、Rankov及びLarsonによって想定される。しかしながら、彼らは、CSIを獲得するコストについて考慮していない。Wittnebenは、増幅転送法(amplify-and-forward)のみを考慮するが、これもまたCSIを獲得するコストは無視している。これについては、Abdallah及びH.C. Papadopoulos著、「Beamforming algorithms for decode-and-forward relaying in wireless networks」(Conference on Information Sciences and Systems, 2005)も参照されたい。
【0008】
中継ノードがCSIを有していない場合、受信機は、よくても、さまざまな中継ノードから相互の情報をたとえば時空間符号化を通じて蓄積することができるだけである。これについては、Luo他及びJardine他を参照されたい。リンクが所与の信号対雑音比で動作する場合のかかる中継方式の通信遮断分析については、Y. Zhao、R. Adve及びT. J. Limにより、参照により本明細書に援用される「Outage probability at arbitrary SNR with cooperative diversity」(IEEE Communications Letters, pp. 700-702, 2005)において、且つA. Khisti、U. Erez及びG. Wornellにより、参照により本明細書に援用される「Fundamental limits and scaling behavior of cooperative multicasting in wireless networks」(IEEE Trans. Information Theory, Vol.52, No.6, June 2006)において述べられている。
【0009】
無線ネットワークにおける協力通信を、多数の既知の物理層通信技法を使用して達成することができる。送信機においてチャネルフェージングが未知である場合、時空間符号化は、リンクの信頼性を向上させることができる。分散時空間符号化は、フェージングチャネルによる協力通信においてダイバーシティを達成する別のやり方である。送信機に対してチャネル係数が既知である場合、分散ビームフォーミング又は分散空間分割多元接続(distributed space division multiple access)技法を使用して、協力利得を達成することができる。中継局を含むチャネルでは、復号転送(decode-and-forward)方式、増幅転送方式及びバースト増幅転送(bursty-amplify-and-forward)方式が、有力な通信技法及びプロトコルである。
【0010】
特に重要なことは、セルラネットワークのダウンリンクに対する協力通信であり、その場合、各スケジューリング間隔の間に、複数のメッセージが基地局から移動局、たとえば携帯電話に送信される。無線ネットワークにおけるスケジューリングについては、概してAndrewsにより、参照により本明細書に援用される「A survey of scheduling theory in wireless data networks」(in Proc. of the 2005 IMA summer workshop on wireless communications, June 2005)において、且つLiu他により、参照により本明細書に援用される「A framework for opportunistic scheduling in wireless networks」(Compute Networks, vol. 41, no. 4, pp.451-474, 2003)において述べられている。
【0011】
セルラ設定では、中継局の2つの主なカテゴリがある。すなわち、固定中継局及び移動中継局である。固定中継局を採用する利点は、セルカバレッジを拡大すること、伝送レートを増大させること、スペクトル効率を向上させること、及び完全な基地局を構成することに対するコストを含む。これについては、参照により本明細書に援用される、Hu他著、「Range extension without capacity penalty in cellular networks with digital fixed relay stations」(in IEEE Global Telecommunications Conference (Globecom), Nov. 2004)及びPebst他著、「Relay-based deployment concepts for wireless and mobile broadband radio」(IEEE Communication Mag., vol. 42, no. 9, pp.80-89, Sept.2005)を参照されたい。移動中継局は、すべて参照により本明細書に援用されるアドホックネットワークにおいて出現する可能性がより高い。
【0012】
別の協力戦略では、セルラネットワークにおいてマルチユーザ伝送をサポートするために、線形処理を伴うMIMO固定中継局を使用する。これについては、参照により本明細書に援用される、Chae他著、「MIMO relaying with linear processing for multi-user transmission in fixed relay networks」(IEEE Trans. Signal Processing, vol.9, no.1, pp.19-31, 2006)を参照されたい。単一固定中継局は、受信信号を線形操作を用いて処理し、処理済み信号を複数の移動局に転送する。彼らは、2フェースプロトコルについて述べている。フェース1では、マルチアンテナ基地局とMIMO中継局との間でMIMOチャネルを使用し、フェース2の間は、MIMO中継局は、メッセージを予め符号化して複数の移動局に送信する。
【0013】
Challa他は、参照により本明細書に援用される「Cost-aware downlink scheduling of shared channels for cellular networks with relay stations」(IEEE IPCCC, April. 2004)において、中継局を含むセルラネットワークにおける2ホップダウンリンクスケジューリングについて述べている。そこでは、スケジューリングアルゴリズムは、CDMAベースセルラシステムにおいて共用チャネルのために低伝送電力を使用する一方で、最良のチャネルスループットをもたらす、基地局から移動局への1ホップ経路か、又は基地局から中継局、その後中継局から移動局への2ホップ経路のいずれかを選択することにより、共用チャネル利用を向上させようと試みる。
【0014】
Viswanathan他は、参照により本明細書に援用される「Performance of cellular networks with relay stations and centralized scheduling」(IEEE Trans. Wireless Commun., vol.4, no.5, pp.2318-2323, September 2005)において、中継局の数が少ないセルラネットワークにおける集中ダウンリンクスケジューリング方式について述べている。彼らは、さまざまなシナリオに対してスループット結果を取得し、複数の中継局の効果、基地局電力に対する中継伝送電力、及び基地局と異なる数の中継局との間の所与の総電力を分散させる効果について検討している。中継ノードの間に協力はない。
【0015】
協力伝送は、コグニティブ無線チャネル、又は低下したメッセージセットを有する干渉チャネル(interference channels with degraded message sets)という名で情報理論的観点からも考慮されている。これについては、いずれも参照により本明細書に援用される、Devroye他著、「Achievable rates in cognitive radio channels」(IEEE Trans. Inf. Theory, vol.52, no.5, pp.1813-1827, May 2006)及びJovicic他著、「Cognitive radio: An information-theoretic perspective」(IEEE Trans. Inf. Theory, May 2006)を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、基地局、中継局のセット及び移動局のセットを含むセルラネットワークのダウンリンクにおける協力通信を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明において、各スケジューリング間隔は2つの相(phase)を有する。スケジューリング間隔は長さが可変であることが可能である。
【0018】
フェース1の間、基地局は、時分割多元接続(TDMA)を使用して中継局のセットにメッセージを送信する。1つのメッセージは、各TDMA時間間隔で送信され、その時間間隔は長さが変化してもよい。なお、本発明の実施の形態を、たとえばブロードキャストSDMA、CDMA、OFDM又はFDMA等の形態のフェース1(phase 1)伝送を使用するように拡張することができる。フェース2の間、中継局のセットは、協力して、空間分割多元接続(SDMA)を使用して受信メッセージを移動局のセットに同時に送信する。フェース2もまた、たとえばTDMA、FDMA、CDMA又はOFDM等、他の伝送方式を可能にするように拡張することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、すべてのメッセージをすべての中継局に送信しなければならない、という必要はない。むしろ、いくつかの中継局がメッセージのサブセットを受信するだけでよい。それは、フェース1でいくつかのメッセージに割り当てられる時間が、それらのメッセージをすべての中継局に送信するために十分でない場合もあるためである。その結果、フェース2(phase 2)における伝送戦略、すなわち、いずれの中継局がいずれのメッセージを何の予測符号化を行って送信するかは、いずれの中継局がいずれのメッセージを受信したかによって決まる。
【0020】
本発明は、両相に対し伝送パラメータを連帯的に最適化する。2つの最適化基準を、フェース2における協力の2つの形態と共に説明する。すなわち、ダーティ・ペーパ符号化(dirty-paper coding)及び線形プリコーディングである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態による無線中継ネットワーク100を示す。一適用例では、セルラネットワークのダウンリンクにおいてメッセージのセットが通信される。ネットワーク100は、基地局111、中継局のセット121〜122並びに移動局(MS)のセット131及び132を含む。本発明を、R個の中継局及びM個の移動局の場合にまで拡張することができるということが留意されるべきである。しかしながら、本発明の本質を簡単に詳述するために、1つの基地局、2つの中継局及び2つの移動局の場合を詳細に説明する。
【0022】
基地局111は、スケジューリング間隔140の間に2つの中継局の協力を使用してメッセージのセット1及び2を2つの移動局131〜132にブロードキャストする。メッセージを最良の(best)方法で送信することが望まれ、最良は、何らかの最適化基準、たとえば両移動局に対する総スループット、又は最小電力若しくは最小遅延制約下でのいずれかの移動局に対する最大若しくは最小のスループットによって決まる。
【0023】
本発明の実施の形態は、2つの相141及び142を使用して、スケジューリング間隔140の間にメッセージのセットを移動局に送信する。フェース1141の間、基地局111は、たとえば時分割多元接続(TDMA)を使用してメッセージのセットを中継局121及び122の1つ又は複数にブロードキャストする。
【0024】
フェース1は、ダーティ・ペーパ符号化方式でメッセージをブロードキャストすること、及びFDMA方式、OFDM方式又はCDMA方式を採用することを代替的に含むことができる。さらに、移動局は、基地局の送信からそのメッセージを復号しようと試みることができる。たとえばチャネル状態が好適であるため、移動局がメッセージを復号することができる場合、フェース2が不要になり、新たなスケジューリング間隔が開始することができる。各移動局は、メッセージを完全に復号することができない場合、それにも関わらず、フェース1の受信信号を、恐らくはレートを上昇させるか又は時間及び電力を低減して、フェース2の受信信号と結合されるように保持することができる。
【0025】
基地局は、個々の独立したメッセージの各々に対し送信時間(t)、レート(R)及びサイズ(n)を選択する。フェース2の間、中継局は協力して、たとえば空間分割多元接続(SDMA)技法を使用して受信メッセージを移動局131及び132に送信する。
【0026】
別法として、中継局は、フェース2で結合ビームフォーミング・TDMA(combined beamforming-TDMA)手法を使用してメッセージを送信することができる。すなわち、各メッセージに、時間t(2)及びt(2)をそれぞれ割り当てることができ、それらの時間に、中継局は協力して所望の受信機に対するメッセージをビームフォーミングする。フェース2もまた、CDMA技法、FDMA技法、OFDM技法又は時空間符号化技法を採用して2つのメッセージを移動局に送信することができる。いくつかの中継局が、「受信段階」、すなわち他の中継局に向けられるように意図されたいくつかのメッセージの送信を受信することによりフェース2を開始することも可能である。これは、2つの中継局の間の伝送チャネルの減衰が低い場合に効率的な戦略である場合があり、追加の中継局によってメッセージが既知であることにより、フェース2の間の伝送がより効率的になる。
【0027】
本発明は、非対称メッセージ知識構造400を使用する。図4を参照されたい。フェース1のTDMA構造と共に無線チャネルのブロードキャストの利点のために、異なる中継局がメッセージの異なるサブセットを受け取ることが可能である。ここで、サブセットは、基地局がブロードキャストするメッセージのいずれでもないか、一部であるか、又はすべてであることができる。いずれの中継局がいずれのメッセージを有するかを、メッセージ知識構造400として示す。
【0028】
本発明による中継局は、新規な方法で協力する。時空間ブロック符号に対し、分散アンテナアレイとして協力する中継局について説明されてきた。しかしながら、本発明の実施の形態による非対称協力は、非対称メッセージ知識構造から発生するものであって、新規である。これは、中継局間の協力がいかに達成されるかを確定する。
【0029】
特に、非対称協力は、線形プリコーディング(LPC)が使用される場合は線形プリコーディング行列を、ダーティ・ペーパ符号化(DPC)が使用される場合は送信共分散行列を、メッセージ知識構造400によって指示されるように、適当な行列要素に0を含む一定の形式であるように制限する。
【0030】
中継局は互いに通信することができる。本明細書で説明する実施の形態を、中継局がフェース2の前に又はその間に互いの間で通信するのを可能にするように一般化することができる。たとえば、中継局はメッセージを交換することができる。別法として、基地局へは特に「悪い」チャネルを有するが移動局へは「良い」チャネルを有する中継局に対し、基地局へは良いチャネルを有するが移動局へは悪いチャネルを有する他の中継局によってメッセージを与えることができる。このため、メッセージは最終的な宛先に達するために複数のホップを経ることができ、たとえば、基地局から1つの中継局に、その後別の中継局に、最後に移動局までという3つのホップがある。
【0031】
ここでは、フェース1がTDMAを使用しフェース2がSDMAを使用する場合について説明するが、他の方式を使用することも可能である。中継局がTDMAを使用する場合、メッセージは、フェース2の間に互いに干渉しない。
【0032】
本発明では、各相を他の相と無関係に最適化するのではなく、両相を連帯的に最適化する。本発明では、さまざまな最適化基準の利点を比較することには関心がなく、所与の最適化基準の下で通信がいかに発生すべきかを確定する。特に、メッセージのセットを送信するためにノードを協力させる利点及び危険(pitfall)を確定することに関心がある。
【0033】
ここで、これから考慮する(簡略化された)シナリオに対する正確な数学的表記を示す。ここでは、通信は2つのフェース141及び142で発生するものとする。第1フェース141の間、基地局111が唯一の送信機であり、時分割多元接続(TDMA)構造において、中継局に一度に1つのメッセージをブロードキャストする。一定期間の時間tに、基地局はサイズnのメッセージ1をレートR(1)で送信する。この時間の後、基地局は、時間tにサイズnのメッセージ2を、レートR(1)と同じであっても異なってもよい別のレートR(1)で送信する。
【0034】
このTDMA構造は、単一アンテナの場合に単純であると共に最適である。特に、ここでこの説明の目的で想定するように基地局が単一送信アンテナを有する場合、スループットに関して最適である。このTDMA構造により、いかなる中継局もメッセージを受け取ることができるため、ブロードキャストの利点が効率的に使用される結果となる。
【0035】
したがって、基地局は、所望の中継局が適当なメッセージを取得するように、時間t、tと共にレートR(1)、R(1)を選択する。これは、中継局における非対称メッセージ知識が可能であることを意味する。多くの場合、これは有益である。こうした非対称メッセージ知識は、本質的に、ブロードキャストの利点の結果である。
【0036】
第2フェース142では、中継局は、たとえば変更された空間分割多元接続(SDMA)方式で受信メッセージを移動局に同時に送信する。フェース2は、変更されたSDMAを採用する。それは、従来、SDMAとは、送信機が事前にメッセージのすべてを完全に知っている場合に複数の異なるメッセージがさまざまな移動局に同時に送信されるシステムのことを言うためである。
【0037】
本発明の場合、中継局は、理想的な同期化方式で協力する分散アンテナアレイを形成するが、各中継局は、移動局に送信されるメッセージのすべてではなくサブセットのみを受信してもよい。なお、この説明の目的で、ここでは、中継局は各々1つのアンテナしか有していないものとするが、本発明は複数のアンテナを有する中継局にも適用可能であることに留意されたい。
【0038】
フェース2の持続時間はtである。この時間の間、両メッセージが移動局に送信される。ここでは、中継局はメッセージをバッファリングしないものとする。フェース1の間に受信されるいかなるメッセージも、フェース2の間に完全に送信される(又は破棄される)。フェース2の間、送信は、変更された(非対称メッセージ知識制約に従って)線形プリコーディング(LPC)方式か又は変更されたダーティ・ペーパ符号化(DPC)方式のいずれかを使用するものとする。それらについては後に詳細に説明する。
【0039】
このように、本発明の実施の形態により、従来の協力伝送は、非対称協力の場合を包含するように拡張される。それはまた、基地局がフェース2を念頭においてそのフェース1伝送変数を選択することを意味するようにも使用される。本発明の協力方式では、2つの相がリンクされる。これは、メッセージが単に中継局のうちの1つに送信され、その後その中継局がそのメッセージを移動局に送信する従来の2ホップシナリオとは極めて対照的である。そのシナリオでは、中継局の間に協力が必要ではない。
【0040】
ここでは、マルチホップシナリオに対する連帯する(joint)基地局及び中継局協力の利点について説明する。ここでまた、伝送方式及び中継局/移動局の数に対する制限は、単にこの説明の目的のためであり、本発明の全般的な適用可能性を制限するものではないということを強調する。
【0041】
ここで、本明細書で使用する変数及びパラメータのうちのいくつかを定義する。図2に示すように、基地局と中継局1又は中継局2との間のチャネル利得は、それぞれhBR1及びhBR2である。ここでは、一般性を失うことなく、|hBR1|≧|hBR2|である。その結果、ブロードキャストの利点のために、中継局2がメッセージを受け取る時はいつでも、中継局1もまたメッセージを受け取る。中継局1と移動局1(MS1)又は移動局2(MS2)との間のチャネル利得を、それぞれh11及びh12によって示す。ここで、添え字は(送信機−受信機)の形式である。同様に、h21及びh22は、それぞれ中継局2とMS1、MS2との間のチャネル利得である。ここでは、すべての利得がすべてのノードに既知であるものとする。このため、最適化を連帯的に行うことができる。ここではまた、移動局及び中継局において独立したゼロ平均、単位分散雑音を含む加法的白色ガウス雑音チャネル(AWGN)も想定する。
【0042】
フェース1の間にメッセージ1及びメッセージ2をブロードキャストするための時間を、それぞれt及びtによって示す。フェース2の時間をtによって示す。フェース1の間にメッセージ1がブロードキャストされるレートはR(1)であり、メッセージ2がブロードキャストされるレートはR(1)によって示す。ここでは、可変数のビットのメッセージが可能であり、たとえばメッセージ1はnビットのサイズであり、メッセージ2はnビットのサイズであり、概してメッセージiはnビットのサイズである。基地局110はまた、ユーティリティ関数(utility function)、すなわち後に詳細に説明する超公平性(extreme fairness)基準及び最大スループット基準を最適化するようにメッセージサイズn及びnを確定する。
【0043】
本発明によるネットワークは、平均電力制約下で動作する。基地局はガウスメッセージを送信する。これは、最大予測電力PのAWGNチャネルに対して最適であり、中継局はPの総電力制約を有する。中継局は、あらゆる方法でこの電力を分散させてもよい。なお、基地局は、考慮されるシナリオの下であり得る通信の基本的な限界を確定するためにガウスコードブックを使用して送信することに留意されたい。本発明では、これは、実際には決して必要ではなく、他のコードブックを同様に採用してもよいということが留意される。
【0044】
ここで、2つの相についてより詳細に説明する。図3に示すように、2つのメッセージ、すなわち、基地局からMS1へのメッセージ1及び基地局からMS2へのメッセージ2が送信される。各メッセージは、2つの相の間に送信され、フェース1の間、メッセージは基地局から中継局にブロードキャストされ、フェース2の間、中継局から移動局にブロードキャストされる。このため、2つのメッセージが取り得るメッセージ経路は4つあり得る。
【0045】
フェース1:ピラミッド状メッセージ知識構造
フェース1の間、メッセージは、TDMA方式で基地局から中継局のセットにブロードキャストされる。M個の移動局(したがってM個のメッセージ)がある場合、フェース1はM個の時間変数t,・・・,tによって定義される。基地局は、時間tにわたりメッセージM(最終的に移動局jに向けられる)を送信する。伝送のレートRは、メッセージを受け取る「最悪の」中継局のシャノン(Shannon)レートである。
【0046】
時間及びレートの両方に可変性があることにより、さまざまなサイズのメッセージを送信することができる。このように、2つのレートR(1)及びR(1)と2つの時間t、tとがあり、基地局はそれらを、フェース1の間にブロードキャストされるべきメッセージをスケジューリングするために最適に確定する。
【0047】
基地局が電力Pで中継局1又は中継局2に確実に送信することができるレートは、シャノンレートによって以下のようにそれぞれ与えられる。
【0048】
【数1】

【0049】
フェース1から取得される真の変数は指標Iijであり、それは、中継局iが移動局jについてメッセージを受け取るケース1であり、そうでない場合0である。これらの指標Iij(i,j=1,2)から、以下のようにフェース1に対するt及びtを得ることができる。
【0050】
【数2】

【0051】
チャネルのブロードキャスト性により、図4に示すようなピラミッド状メッセージ知識構造となる。すなわち、最良のチャネル利得を有する中継局(ここでは中継局1とする)は、全t>0)とすると、すべてのメッセージを受け取り、最悪のチャネル利得を有し、且つ依然として少なくとも1つのメッセージを受け取る中継局は、メッセージのサブセット、すなわち0のメッセージとすべてのメッセージとの間のメッセージを受け取る。これらの2つの極値の間のチャネル利得を有するすべての中継局は、ピラミッド状構造でメッセージを受け取る。
【0052】
このピラミッド状メッセージ知識構造は、チャネルのブロードキャスト性の結果である。フェース1に対する本発明によるTDMA方式では、特定のメッセージのレートは、メッセージを復号したいと望む最悪のチャネル利得を有する中継局がメッセージを正しく復号することができるように低減される。これは、それより良いチャネル利得を有するすべての中継局が、その特定のメッセージを、それを欲しても欲しなくても受け取ることを意味する。これにより、図4に示すようなメッセージ知識構造となり、そこでは、中継局410から移動局420への最良から最悪までの基地局・中継局チャネル401が、上から下までの順序402で配置される。チャネルのブロードキャスト性により、ピラミッド状メッセージ知識構造となる。リンク401は、いずれの中継局がいずれのメッセージを受け取るかを示す。
【0053】
ここで、フェース2で使用する符号化のタイプに関わらず、この2中継局2移動局シナリオでは、考慮すべきあり得る場合は有限数しかないことに留意する。各場合は、異なるメッセージ知識構造、すなわち、いずれの中継局がいずれのメッセージを受け取るかに対応する。可能性の数は、メッセージの数が増大すると指数関数的に増大する。この2中継局2移動局の場合に対し列挙法が可能であるが、それは、中継局及びメッセージの数が増大すると困難になる。
【0054】
中継局の数は、実質的に、チャネルにおける自由度の数である。アンテナ、又はこの場合は中継局と同程度の数の移動局に送信することが総レート最適である。ここでは、中継局1の基地局・中継局チャネルの方が中継局2より良く、すなわち|hBR1|≧|hBR2|であるものとする。そして、中継局2がメッセージを受け取る時はいつでも、中継局1も同様にメッセージを受け取る。
【0055】
ここでは、表記
【0056】
【数3】

【0057】
を使用して、いずれの中継局がメッセージを受け取るかを示す。アレイ要素Iijは、中継局iが移動局jに向けられたメッセージを有するか否かを示す。そして、フェース1の間にメッセージ1をブロードキャストするために費やされる時間はt(1)であり、フェース1の間のメッセージ2をブロードキャストするために費やされる時間はt(1)である。これは、以下のように、いずれの中継局がいずれのメッセージを受け取るかによって決まる。
【0058】
1つのメッセージの場合:
【0059】
【数4】

【0060】
2つのメッセージの場合:
【0061】
【数5】

【0062】
これらの時間は、後述するようにスループット全体を確定するために有用である。本質的に、これらの時間及びそれらがもたらすメッセージ知識構造は、フェース1及びフェース2をリンクし、両相に対する連帯的な最適化を可能にする。
【0063】
図5は、単一メッセージ伝送経路に対する4つの場合を示す。図5Aは、中継局1を通るメッセージ1を示す。図5Bは、中継局1を通るメッセージ2を示す。図5Cは、両中継局を通るメッセージ1を示す。図5Dは、両中継局を通るメッセージ2を示す。いずれの方式が最良であるかは、チャネル利得と共に最適化される基準によって決まる。
【0064】
概して、最適化基準に応じて、単一メッセージのみを単一移動局に送信することが最適であり得る。図5A〜図5Dでは、メッセージ1がMS1、中継局1、中継局2又は両中継局に送信される時のあり得る経路が、フェース2の変更されたSDMAにおいて使用され得ることを示す。中継局がメッセージの送信において協力するために、メッセージは、フェース1においてメッセージを正しく受け取っていなければならない。このため、送信時間t及びメッセージ1に対するレートR(1)は、その中継局がメッセージのnビットすべてを正しく復号することができるようなものである。ここでは、中継チャネルに関して復号転送戦略を使用する。
【0065】
フェース2の間に2つのメッセージが送信される場合、図6A〜図6Dに示すように、4つのメッセージ経路があり得る。なお、|hBR1|≧|hBR2|であると想定したため、中継局2がいずれかのメッセージを受け取ると、中継局1もまた受け取る。これらのシナリオのいずれが選択されるかは、最適化基準及びチャネル利得によって決まる。これらの4つの場合を、一般性を失うことなく、中継局1を基地局・中継局チャネル利得が最良である中継局としてラベル付けすることにより想定してもよい。中継局2がメッセージを受け取る時はいつでも、中継局1の方がより良いチャネル利得を有するため、中継局1も同様にこのメッセージを受け取る。
【0066】
図6A及び図6Dにおいてケース1及びケース4は対称であるとする。中継局が移動局に送信するフェース2の間、両メッセージは、ケース1(6A)では中継局1によって同じノードにより、ケース4(6D)では両中継局によって受け取られる。一方、ケース2及びケース3(6B及び6C)は、フェース2の間に非対称であるとする。すなわち、中継局1は両メッセージを受け取り、中継局2は、ケース2ではメッセージ1のみを受け取り、ケース3ではメッセージ2のみを受け取る。
【0067】
フェース1:非対称協力
フェース2の間、2つの中継局は、受け取ったメッセージはすべて符号化し、その後、それらのメッセージをチャネルによって同時に移動局に送信する。送信は、MS1及びMS2の両方がそれらのメッセージを受け取るまで続く。そして、新たなスケジューリング間隔に遷移する。ここで再び、基地局は、次のスケジューリング間隔に対しt、t、サイズn、nと共に、レートR(1)及びR(1)を最適に確定する。このように、フェース2はSDMAの変更形態であり、その変更は、フェース1の間に非対称メッセージ知識構造が発生する可能性のあることによる。
【0068】
ここで、中継局は、2つの既知の技法のうちの1つでメッセージを符号化するものとする。これらの技法は、いくつかのチャネルにわたって通信の基本的な限界を評価するために使用されることが多い。しかしながら、実際には、他の準最適な符号化戦略を使用してもよい。第1の戦略は線形プリコーディング(LPC)である。各中継局は、それらのメッセージの線形結合を送信する。第2の戦略はダーティ・ペーパ符号化(DPC)である。これについては、概して、共に参照により本明細書に援用される、Caire他著、「On the achievable throughput of a multi-antenna gaussian broadcast channel」(IEEE Trans. Inf. Theory, vol.49, no.7, pp.1961-1705, July 2003)、及びCosta他著、「Writing on dirty paper」(IEEE Trans. Inf. Theory, vol. IT-29, pp.439-441, May 1983)を参照されたい。そこでは、メッセージは、ガウス多入力多出力(multiple input multiple output)(MIMO)ブロードキャストチャネルの容量領域(capacity region)を達成するように知られているダーティ・ペーパ符号化の干渉緩和技法を使用して連続して符号化される。これについては、参照により本明細書に援用される、Weingarten他著、「The capacity region of the Gaussian MIMO broadcast channel」(Proc. 2004 Conference on Information Sciences and Systems (CISS), March 2004)を参照されたい。
【0069】
これらの符号化技法の両方と、本発明による協力通信の実施の形態に対するそれらの適用に含まれる微妙な違いとについて説明する。以下では、移動局はメッセージを独立して復号するものとする。このため、協力は、中継局間でのみ可能であり、移動局間では可能ではない。
【0070】
望ましくない信号はすべて、雑音として扱われる。このため、干渉キャンセル又は連続復号化は採用されない。これらの概念を、連続復号化と共にフェース1及びフェース2の間に受け取られたメッセージの結合を可能にするように拡張することも可能である。ここでは、2つの中継局における送信信号をそれぞれX及びXによって、又は列ベクトル形式X=[X,X]’で示す。同様に、2つの移動局の受信信号を、それぞれY及びYによって、又は列ベクトル形式でY=[Y,Y]’によって与える。これらは、
【0071】
【数6】

【0072】
を通じて中継局における入力に関連付けられ、ここで、Nは独立したゼロ平均単位分散AWGN成分を有する。
【0073】
本発明が扱う問題の最も概略的な定式化では、2つの相の間で制約を受け易いユーティリティ関数を最適化する。決定変数は、概してフェース1における各メッセージの送信時間、レート及びサイズであり、又は等価的に、レート又は時間のいずれかを、フェース1における指標変数に対して最適化することによって置き換えてもよい。フェース1がフェース2に対してもたらすメッセージ知識構造を通じて、2つの相が絡み合わされて関連付けられることに留意することが重要である。フェース2では、決定変数は伝送パラメータである。これらは、いずれの伝送戦略が使用されるかによって決まる。
【0074】
問題をより具体的にするために、ここでは2つの伝送戦略、すなわち線形プリコーディング及びダーティ・ペーパ符号化を、2つのユーティリティ関数、すなわち(1)超公平性基準及び(2)最大スループット基準と共に想定する。
【0075】
ユーティリティ関数:超公平性
本発明による2相協力の利点及び危険を探求するために想定する第1のユーティリティ関数は、2つの移動局に対して超公平性をもたらすユーティリティ関数である。この基準に基づき、各MSには同数のビットが送信され、ここでは、これを最短時間で達成する伝送パラメータを確定することを望む。別法として、最低量の電力を使用して同数のビットを両移動局に送信することができる。これらの2つの問題は直接関連するため、時間の量を最小限にすることのみを考慮する。
【0076】
このため、n=n=1とし、フェース1においてt、t、R(1)、R(1)、フェース2において適当な伝送パラメータを見つけようとし、それらは、総時間t+t+tを最小化するように、使用される伝送戦略によって決まる。当然ながら、tは、フェース2の伝送パラメータと共にt、t、R(1)及びR(1)によって決まる。
【0077】
ユーティリティ関数:最大スループット
超公平性基準は、各スケジューリング間隔の間に各移動局に同数のビットが送信されることを確実にする。スケジューリング間隔の間に移動局のうちの1つへのチャネルが不十分である場合、電力及び/又は時間の使用が非常に非効率的になる可能性がある。より効率的な戦略は、各スケジューリング間隔において両移動局に対する総スループット全体を最大化することができる。このため、本発明による最大スループット基準は、両移動局に対する、2つの相にわたって確定される総スループットを最大化するフェース1変数及びフェース2変数を選択しようとする。これは、当然ながら、公平性を犠牲にする。1つの移動局は、チャネル利得が他の移動局によって使用されるチャネルより連続して「悪い」場合、少量のデータを受け取る。
【0078】
この不公平性を軽減し、公平性と総スループットとのトレードオフを提供する他のユーティリティ関数を考慮することができる。簡単にするために、且つ対極に対する2相協力について説明するために(最大スループットが超不公平性であるように考慮してもよい)、最大スループット基準について考慮する。
【0079】
異なる中継局は異なるメッセージを有する可能性がある。これは、線形プリコーディングと共にダーティ・ペーパ符号化に影響を与える。こうした制約付き最適化は、従来技術では述べられていない。完全行列(full matrix)を有する理想的な場合であっても、解決法を見つけることは困難である。
【0080】
線形プリコーディング(LPC)
フェース2に対する第1伝送戦略は線形プリコーディングである。詳述すると、各中継局は、フェース1の間に基地局から0、1つ又は2つのメッセージを受け取っている。フェース2の間、中継局は、受け取ったメッセージの何らかの線形結合を送信する。メッセージが正規化単位サイズの列ベクトルU=[U,U]’に配置される場合、送信される2×1列ベクトルXは、Bが2×2線形プリコーディング行列である場合、以下の式によって与えられる。
【0081】
【数7】

【0082】
ここで、行列Iijはメッセージiが中継局jによって受け取られるか否かを示すものとする。中継局における総電力制約は、Bの要素が以下を満たすようにする。
【0083】
【数8】

【0084】
ここで、問題は、式(5)の制約を受け易い、本発明で望むユーティリティ関数をすべて最大化する線形プリコーディング行列Bを見つけることである。なお、フェース1は、指標変数Iijを確定し、それにより線形プリコーディング行列Bの形式を変更することに留意する。ここでは、受信側移動局がすべての望ましくないメッセージを雑音として扱うものとする。そして、達成されるレートは、以下のように適当な受信SINRを含むシャノンレートである。
【0085】
【数9】

【0086】
このことから、MS1におけるSNRγ(メッセージXに対する)及びMS2におけるSNRγ(メッセージXに対する)は、以下の式によって与えられる。
【0087】
【数10】

【0088】
フェース2の場合、達成可能なシャノンレート、MS1に対するR及びMS2に対するRは、以下の式によって与えられる。
【0089】
【数11】

【0090】
最適化されるべきユーティリティ関数を、受信SNR1、2から又は達成されるレートR及びRから導出することができる。ここでは、ダーティ・ペーパ符号化のフェース2伝送技法について説明する前に、超公平性状態及び最大スループット状態を最適化することについていくらか述べる。
【0091】
まず、2×2行列Bが、1つ〜4つの非ゼロ要素を有する可能性があることに留意する。或る中継局が或るメッセージを有していない場合、B行列の対応する要素はゼロである。これにより、或る形式の制約付き且つ恐らくは非対称の線形プリコーディングがもたらされる。すべてのメッセージがすべての送信機に既知である(このためBはそのエントリすべてを厳密に正にする可能性がある)、一般的な場合の線形プリコーディング行列の1つの一般的な選択は、ゼロフォーシング(zero-forcing)予測コーダである。そこでは、入力と出力との間のチャネルが対角に見えるように、チャネル行列Hの逆数(又は非正方行列Hの場合は擬似逆数)であるように選択される。そして、所望の基準を最適化するように電力が割り当てられる。
【0092】
基準がスループットを最大化することである場合、従来の注水定理(water filling)電力割当て(電力水を並列チャネルに割り当てる)による電力割当てが最適であることが知られている。注水定理について説明する1つの文献は、参照により本明細書に援用される、Robert G. Gallager、John Wiley及びSonsによる「Information Theory and Reliable Communication」(1968)である。Bが4つではなく3つの非ゼロ要素を有する2つの場合において、同様のゼロフォーシング且つ注水定理解決法が存在するか否かを問うことができる。チャネル行列Hの逆数として、概して、すべての非ゼロ要素の行列が必要である。ゼロフォーシングを行うこと、又は非対称で協力する場合に並列チャネルを生成することが不可能であるように見える場合がある。
【0093】
しかしながら、ここでは、予測符号化に対して下三角行列Bか又は上三角行列Bを有するため、チャネルの少なくとも一部を無くすことができるということはもっともらしく見える。すなわち、ゼロフォーシング解決法が行うように両MS1及びMS2に対する干渉を抑制する予測符号化ではなく、MS1又はMS2のうちの一方に対する干渉を抑制することができ、一方で、他の移動局は干渉を受け続ける。これは、後述するように、発見的予測符号化行列Bを使用するいくつかのシナリオにおいて可能である。これがいくつかのシナリオにおいてのみ可能であるという事実はまた、本発明による協力が有利である場合に重要な見識を提供する。
【0094】
まず、Wが単位長さ行を有する予測符号化行列であり、Pが、中継局総電力制約に従って、P+P=Pである場合の対角行列P=diag(√P,√P)である場合、B=WPとする。行列Wは、行列Bと同じ形式であるか、又はメッセージ知識構造に従って行列Bと同様に強制されたゼロを有する。このため、行列Wは予測符号化行列であり、Pは電力割当て行列である。ここで、受信信号は以下の式によって与えられる。
【0095】
【数12】

【0096】
そして、この問題に対する従来のゼロフォーシング手法は、システムを並列チャネルのセットにし、その後電力割当てPを取得するために注水するようにW=H−1(又はこれでない場合は擬似逆数)を得る。本発明の場合、行列Wはメッセージ知識構造によって指示される特別な形式であるため、W=H−1を得ることができない。
【0097】
非対称協力の場合を探求するために、行列Bは形式が上三角であるものとする。これは、中継局1が両メッセージを有し、中継局2がメッセージ2のみを有することを意味する。このため、本発明の扱う問題は、「最良の」上三角線形プリコーディング行列を見つけることに還元される。線形代数により、所与の行列Hに対し、
Π・H=L・V
であるような置換行列Π並びに下行列L及び上行列Vを見つけることができるということが分かる。
【0098】
このため、H=Π−1・L・Vと書くことができ、したがって
【0099】
【数13】

【0100】
と書くことができる。
【0101】
ここでは、W=V−1を得ることができる。行列Wは上三角であり、上三角行列の逆数もまた上三角であるということに留意されたい。メッセージ指標を置換することによりWが上三角であることを保証することができる。このWの選択により、Πは置換行列であるため、その逆数であるように、チャネルは、新たなチャネルH’=Π−1Lになる。
【0102】
R個の中継局及び移動局の場合、Πは指標{1,2,・・・,R}の任意の置換を表すことができる。本明細書で説明する2中継局2移動局の例では、Πは恒等置換Π=(12)であってもよく、又は指標1及び2をΠ=(21)として入れ替えてもよい。これらのΠのいずれが発生するかは、所与のチャネル行列Hによって完全に決まる。2つの可能性を考慮し、概してR!個の場合がある。
【0103】
1)Π=(12)
この場合、Πは恒等行列であり、受信ベクトルYは以下の式によって与えられる。
【0104】
【数14】

【0105】
このように、受信機Yはその所望の信号に干渉がないと認めるが、受信機Yは依然として、望ましくないメッセージU1からの干渉を受ける。この場合、直観的に、チャネルの「半分」が対角化されるか又は強制的にゼロにされている。これは、チャネル行列Hが単位Π行列によるLU分解を有するため可能である。a=l11、b=l21及びc=l22とする。そして、フェース2の間の2つの移動局に対する達成可能なレートは、以下の式によって与えられる。
【0106】
【数15】

【0107】
そして、電力P1及びP2に対して解決すべき最適化問題は、最大
【0108】
【数16】

【0109】
によって与えられる。
【0110】
これを、ラグランジュ乗数を使用して解くことができる。以下のように示す。
【0111】
【数17】

【0112】
3つの変数P、P、λに関する偏導関数を0に設定することにより、以下のようになる。
【0113】
【数18】

【0114】
これらの偏導関数をすべて0に設定することにより、PをPに関して明示的に書くことができ、これを式P=P+Pに入れることにより、Pに関するPとチャネルパラメータa、b、cとについて解くことができる。ここで、明示的に解くことができるPにおける2次方程式が得られる。ここで、
【0115】
【数19】

【0116】
と設定し、式P+P=Pがあるため、これはラグランジュ条件から落ち、P=P−Pを使用することにより以下の2次方程式がもたらされる。
【0117】
【数20】

【0118】
これは、Pに対して容易に解くことができ、ここから、P=P−Pを得ることができる。二次方程式によって範囲[0,P]における結果がもたらされない場合、電力はすべてP=Pに割り当てられるか、又はP=Pに割り当てられ、それらはいずれも大きい総レートをもたらす。
【0119】
このため、Π=(1)である場合、上記プロセスにより、電力に対して変更された注水定理解決法を含む「半ゼロフォーシング」解決法の形態がもたらされる。
【0120】
2)Π=(21)
この場合、Πは非対角要素1及び対角要素0を含む行列である。この場合、受信ベクトルは以下の式によって与えられる。
【0121】
【数21】

【0122】
このため、Πが或る意味「誤った」置換であるため、Yは、所望のメッセージUではなく望ましくないメッセージUの「クリーンアップされた(cleaned up)」バージョンを受け取ることが分かる。B(又は等価的にW)の形態を指示するメッセージ知識構造は、置換Πを指示する、Hにおけるチャネル行列利得と適合しない。この場合、行列を受信機に対して部分的に対角化することが不可能である。
【0123】
指標を適当に置換することにより状況が緩和される可能性があるということが考えられるが、これは事実ではなく、上記問題は、三角行列のみを使用して任意のチャネルを部分的に対角化することに対する基本的な障害を形成する。
【0124】
チャネルを部分的に対角化することしかできない(受信機のうちの1つだけが干渉のないチャネルを見る)という事実は、フェース1及びフェース2の絡み合った性質を論証する。フェース1は、B(又はW)の構造を確定し、フェース2のチャネル行列Hは置換行列Πを確定する。これらの行列が整列しない場合、部分対角化は不可能である。
【0125】
また、本発明による適用例では、2つの置換のうちの一方のみが「悪い」ということにも留意されたい。しかしながら、概して、置換のうちの1つを除くすべてが悪く、そのため、すべての置換が等しく可能性があるとすると、この単純な形態の対角化を可能にするようにフェース1及びフェース2を整列させる確率は、R!において1である。チャネルが整列する場合、目的関数を最大化するP+P=Pによって決まる電力割当てP、Pを続けて確定することができる。そうでない場合、別の形態の線形プリコーディングが必要である。
【0126】
線形プリコーディングは既知であり、参照により本明細書に援用される、Caire著、「MIMO downlink joint processing and scheduling: a survey of classical and recent results」(in Proceedings of Information Theory and its Applications Workshop, February 2006)を参照されたい。そこでは、本明細書におけるメッセージ知識構造によって決まるゼロを有する本発明による行列とは異なり、すべての線形プリコーディング行列は完全行列である。完全行列の場合であっても、総レートを最大化するための線形前処理(又はビームフォーミング)行列Bの選択は既知ではない。Caireの第2頁を引用すると、「線形ビームフォーミングに基づく重み付きレート和最大化は、今までは単純な解決法に逃げていた非凸問題である」。
【0127】
このため、完全行列であってもそれに対する解決法は非自明である。本明細書におけるように、問題が非対称となる場合、直観的に、ことをさらに複雑にするだけである可能性がある。さらに、総レート最大化問題を、線形プリコーディング制約下で提起することができる。これについては、参照により本明細書に援用される、Stojnic他著、「Rate maximization in multi-antenna broadcast channels with linear preprocessing」(IEEE Trans. Wireless Commun., vol. 5, no. 9, pp.2338-2343, Sept. 2006)の式(3)を参照されたい。彼らは、式(3)に対する閉形式解析解は容易に見つけることができないと述べている。
【0128】
実際には、式(3)を数値的に解くことが保証される効率的なプロセスでさえ、実現可能であるようには見えない。したがって、ここでは、結果を確定する解析的アルゴリズム又は効率的アルゴリズムを見つけることではなく、線形前処理の結果に的を絞る。2中継局2移動局のシナリオでは、非対称形態の線形前処理を使用して、あり得る線形前処理行列にわたる力任せな(brute force)探索が依然として数値的に実現可能である。この非対称性は、無線媒体のブロードキャストの利点と組み合わせて、フェース1の基地局から中継局へのチャネル利得の順序付けの直接の結果である。
【0129】
ダーティ・ペーパ符号化
本発明において考慮するフェース2に対する第2の伝送戦略は、ダーティ・ペーパ符号化である。この符号化方法は、ガウスMIMOブロードキャストチャネルに対し容量限界に迫るものであることが示されてきた。これについては、上記Weingarten他を参照されたい。容量領域は、伝送共分散行列にわたる和集合と、ダーティ・ペーパ符号化レートのダーティ・ペーパ符号化順序(送信メッセージの置換)とから構成される。
【0130】
より正確には、K個の中継局とK個の移動局(したがってK個のメッセージ)とを含むAWGNでは、容量領域は、ガウスコードブックを使用して達成される。中継局及びメッセージが固定である場合、フェース1の結果として、中継局1はすべてのメッセージs,・・・,sを受け取り、中継局2はメッセージs,・・・,sを受け取り、中継局iはメッセージs,・・・,sを受け取るものと想定することができる。ここでは、K個のメッセージを送信するR個の中継局があるものとする。これにより、厳密なピラミッド状メッセージ知識構造がもたらされる。当然ながら、すべての中継局がすべてのメッセージを受け取る(反対の極)ということであってもよく、又は中間の任意の段階的な場合であってもよい。必要なことは、Siが、中継局iが受け取るメッセージのサブセットを示す場合、概してS⊂S⊂,・・・,S⊂Sとなるということでのみある。
【0131】
ここで、ブロードキャストチャネル領域と、本発明による特定の追加のメッセージ知識構造制約を考慮するようにそれをいかに変更すべきかとについて説明する。K個のメッセージがあることを想起されたい。各メッセージjに対し、Rが中継局の数である場合、サイズR×Rの共分散行列Bを想定する。この共分散行列は、第jのメッセージに対するガウスコードブックを生成し、このメッセージがR個の中継アンテナの間でいかに相関されるかを説明するために使用される。各中継局が単一アンテナを有し、そのためK個の中継局を分散アンテナアレイとして考えてもよいということを想起されたい。
【0132】
MIMOブロードキャストチャネルでは、MIMOブロードキャストチャネルの定義によれば、すべてのアンテナがすべてのメッセージを送信することができるため、共分散行列Bは、たとえば電力制約等の何らかの制約を受け易い任意の半正定行列であり得る。しかしながら、本発明による分散MIMOブロードキャストチャネルでは、この仮定が崩れる。すべての中継局がすべてのメッセージを受け取るわけではなく、そのため、Bのエントリのうちのいくつかをゼロにしなければならない(さもなければ、いくつかの中継局は受け取っていないメッセージを符号化する可能性がある)。
【0133】
詳述すると、メッセージsに対する共分散行列Bについて説明する。中継局Rがメッセージsを有する場合、エントリ(Bjjは非ゼロであり得る。それがメッセージを有していない場合、(Bjj=0である。中継局R及びRがともにメッセージsを有する場合、(Bjkは非ゼロであり得る。いずれかがメッセージを有していない場合、(Bjk=(Bjk=0である。メッセージ知識に応じて、適当なゼロに加えて、Bに対する唯一の制約は、それが適当な共分散行列(半正定、すなわちB≦0)であるということであり、AWGNチャネルで見られることが多い電力制約である。
【0134】
特に、総電力制約がPである(アンテナ毎の電力制約ではなく)場合、トレース(trace)(Σ)≦Pでなければならない。アンテナ毎の制約は、Pの第jのアンテナ電力制約に対して(Σ≦Pとすることにより考慮することができる。
【0135】
ブロードキャストチャネル領域は、ダーティ・ペーパ符号化を通じて達成される。これには、ダーティ・ペーパ符号化順序を特定することが含まれる。すなわち、第1のメッセージは、他のメッセージが存在しないかのように符号化される。そして、第2のメッセージは、非因果的に(non-causally)既知な干渉として第1のメッセージを処理して符号化される(メッセージを「ダーティ・ペーパ符号化」する)。これは、最後のメッセージが符号化されるまで続き、その時、他のすでに符号化されたメッセージのすべてが非因果的に既知な干渉として処理される。このため、このメッセージの受取側に他のメッセージからの干渉がないことを確実にすることができる。このため、符号化が行われる「順序」が重要であり、それが、異なる受信機によって認められる干渉に影響を与えることになる。
【0136】
従来のMIMOブロードキャストチャネルでは、すべての置換が可能であり、容量領域は、実際に明示的にすべての置換にわたる和集合、又は符号化順序をとる。本発明の場合、すべての置換が可能であるとは限らない。すなわち、有していないメッセージに対してダーティ・ペーパ符号化することができない。すなわち、すべての局によって受け取られるメッセージが最初に符号化される。そして、1つを除くすべての局によって受け取られるメッセージが、非因果的に既知な干渉としてその第1のメッセージを使用して符号化され、単一中継局によってのみ受け取られるメッセージが、非因果的に既知な干渉として他のメッセージのすべてを処理して符号化されるまで、同様に続く。
【0137】
レートは、中継局1がすべてのメッセージを有し、中継局Kが1つのメッセージのみを有する場合に達成され(提示を容易にするために、厳密な順序付けを想定し、すなわち各連続した中継局には1つ少ないメッセージが既知であるものとする)、また、メッセージ1は1つの中継局のみに既知であり、メッセージKがすべての中継局に既知となるまで同様に続くものとする。そして、置換(又はダーティ・ペーパ符号化順序)は(KK−1,・・・、21)でなければならず、行列Bは完全であるが、行列Bは(B11以外すべてゼロである。
【0138】
が、すべての中継局と移動局iとの間のチャネルを示すものとする。それは、1×K行ベクトルである。Nが、移動局iにおける雑音共分散行列であるものとする。そして、達成可能なレートは以下の通りである。
【0139】
【数22】

【0140】
そして、本発明の扱う問題は、特定の形式のBの問題(適当な行列要素がゼロである)と、望まれるすべてのユーティリティ関数を最大化する正しい形式の置換とについて解くことまで還元される。
【0141】
この最適化問題を解決することは、実際には困難である可能性がある。ここでは、最適なBを確定する効率的なアルゴリズムを見つけることに焦点を当てず、代りに、協力のいずれの形式が価値があるかを指定する、力任せの最適化の結果に焦点を当てる。
【0142】
本発明による非対称制約に基づくダーティ・ペーパ符号化の一例として、再び2中継局2移動局シナリオを考慮する。中継局1がメッセージ1及びメッセージ2の両方を有し、中継局2がメッセージ2のみを有するものと仮定する。そして、唯一の許容できる置換は(21)である。すなわち、第1のメッセージ2が符号化された後、メッセージ2を事前に既知の干渉として使用してメッセージ1が符号化される。2つの伝送共分散行列B、Bは、この例では2×2行列であり、伝送共分散行列Bは、メッセージiが2つの中継アンテナにわたっていかに相関されるかを示すということを想起する。以下、文字は非ゼロである可能性のある要素を示す。このため、以下のようになる。
【0143】
【数23】

【0144】
そして、フェース2の間に達成可能なレートは、H、Hに対し、中継局とMS1及びMS2それぞれとの間のチャネルによって与えられる。
【0145】
【数24】

【0146】
共分散行列B及びBに対する制約は、それらが正定値であるということである。本発明の場合、N及びNはスカラーである雑音分散であり、そのため行列式は冗長である。非対称メッセージ知識を用いるこの特定の2中継局2メッセージシナリオは、コグニティブ無線チャネル]又はメッセージセットが低減した干渉チャネルの一例である。
【0147】
このチャネルの容量領域は、弱干渉様式(regime)(h21≦1)におけるアンテナ毎の電力制約の下で確定される。これらの結果は、次のサブセクションにおいて使用され、そこでは、フェース2に対し、ダーティ・ペーパ符号化に基づく最大総スループットが確定される。
【0148】
最大スループットを有するDPCに対するフェース2の明示的総スループット
本発明では、フェース2の間にダーティ・ペーパ符号化に対する4つの場合の最大総スループットを明示的に確定することができる。これにより、少なくとも2送信機2受信機の場合に、DPCの場合に対して総レートを最大化しようとする時に力任せの探索を回避する可能性がもたらされる。
【0149】
一般性を失うことなく達成することができる中継局及びメッセージの4つのあり得る組合せを考える。|hBR1|>|hBR2|とする。これらは以下の式によって与えられる。
【0150】
【数25】

【0151】
すべての4つの場合において解析的総スループットについて説明し、それを解析的に導出する。
1)ケース1:
【0152】
【数26】

【0153】
すべてのノードにおいて単一アンテナがある2中継局2移動局シナリオでは、これは、情報が理論的に低減した(information theoretic degraded)ガウスブロードキャストチャネルになる。その容量領域は既知であり、単一パラメータαに関して表現することができる。
【0154】
信号電力制約Pと、ゼロ平均並びにそれぞれ分散N及びNの加法的白色ガウス雑音を含む2つの受信機に対するチャネル利得h11及びh12とを有するガウスブロードキャストチャネルに対する容量領域は、以下の式によって与えられる。
【0155】
【数27】

【0156】
総レートを最大化する場合、これは、|h12|>|h11|である場合はα=0において、又は|h12|<|h11|である場合はα=1において達成されるということが容易に分かる。αに関して導関数を得ることができ、それは決してゼロでないことに留意することができ、そのため、間隔α∈[0,1]の端点においてその最大値に達する。このため、予測されるように、単一アンテナでのブロードキャストチャネルにおいて総レートを最大化したい場合、最良チャネルを有する受信機を選択し、それに送信することが最良である。
【0157】
2)ケース2
【0158】
【数28】

【0159】
この場合、ここでは、Jovicic他の結果を使用して最大総レートに達することができる。留意すべき1つの重要な詳細は、それらの結果がすべてアンテナ毎の電力制約を想定するということであり、ここでは、電力をいかなる方法で2つの中継局に割り当ててもよいものと想定する。これは、領域を評価する場合に考慮されるべきである。また、それらのシナリオは直接本発明に対応しないため、指標には注意すべきである。
【0160】
ケース2のシナリオの容量領域は、文脈は異なるがJovicic他によって導出され、相対チャネルパラメータによって決まる。|h12|>|h11|である場合、Jovicic他の推論4.1は、最大総レートが以下の式によって与えられると述べている。
【0161】
【数29】

【0162】
これは、P及びPのアンテナ毎の電力制約に基づく。本発明の場合、中継局は、P+P≦Pである限り、本発明が望むいかなる方法でも電力を分散させることができる。最適化問題
【0163】
【数30】

【0164】
を解くことにより、Pに対する2次方程式を得ることができ、それは2つの解
【0165】
【数31】

【0166】
をもたらし、そこから、最大総レートが注水定理のような解
【0167】
【数32】

【0168】
によって得られるということを導出することができ、そして、最大総レートは、以下の式によって与えられる。
【0169】
【数33】

【0170】
一方、|h12|<|h11|である場合、この特定のメッセージ知識構造を有する、考慮されるチャネル領域は、以下の式によって与えられる。
【0171】
【数34】

【0172】
これは、0≦α≦1と共にP+P≦Pに関して最適化される。
【0173】
3)ケース3
【0174】
【数35】

【0175】
この場合、ここでは、Jovicic他の結果を使用して最大総レートを確定することができる。留意すべき1つの重要な詳細は、それらの結果がすべてアンテナ毎の電力制約を想定するということであり、ここでは、電力を任意の方法で中継局に割り当てることができるものとする。これは、領域を評価する場合に考慮されるべきである。また、それらのシナリオは直接本発明に対応しないため、指標には注意しなければならない。ケース3のシナリオの容量領域は、文脈は異なるがJovicic他によって導出され、相対チャネルパラメータによって決まる。
【0176】
|h12|>|h22|である場合、最大総レートは以下の式によって与えられる。
【0177】
【数36】

【0178】
これは、P及びPのアンテナ毎の電力制約に基づく。本発明の場合、中継局は、P+P≦Pである限り、それらが望むいかなる方法でも電力を分散させることができる。最適化問題
【0179】
【数37】

【0180】
を解くことにより、Pに対する2次方程式を得ることができ、それは2つの解
【0181】
【数38】

【0182】
をもたらし、そこから、最大総レートが注水定理のような解
【0183】
【数39】

【0184】
によって得られるということを導出することができ、そして、最大総レートは、以下の式によって与えられる。
【0185】
【数40】

【0186】
|h12|<|h22|である場合、この特定のメッセージ知識構造を有する、考慮されるチャネル領域は、以下の式によって与えられる。
【0187】
【数41】

【0188】
これは、0≦α≦1と共にP+P≦Pに関して最適化される。たとえば、Pに関して総レートR+Rを導出し、それをゼロに設定するには、αに関してPに対する以下の式を解く必要がある。
【0189】
【数42】

【0190】
同様に、Pが固定であるとして、αに関して総レート導関数を最初にゼロに設定しようとすると、
【0191】
【数43】

【0192】
における2次方程式がもたらされ、それは、以下のように解かれる。
【0193】
【数44】

【0194】
4)ケース4
【0195】
【数45】

【0196】
この場合、各々単一アンテナ、ブロードキャストチャネルを有する2つの移動局がある。チャネルが複素行列
【0197】
【数46】

【0198】
によって記述され、それが送信機及び受信機の両方に既知である、2アンテナ、2単一アンテナ受信機ガウスブロードキャストチャネルの達成可能な最大スループットは、以下の式によって与えられ、
【0199】
【数47】

【0200】
ここで、一般性を失うことなく、|h11+|h21>|h12+|h22であると想定され、
【0201】
【数48】

【0202】
である。
【0203】
上記では、フェース1及びフェース2に対して一般的な連帯最適化関数について説明した。また、特定の最適化基準を詳述するのではなく、最適化されるべき相及びパラメータの構造についても説明した。ここで、本発明において考慮する2つの基準の、2相にわたる、最適化に関与する特殊性のうちのいくつかが超公平性及び最大スループットであることについて説明する。
【0204】
ここでは、さまざまなランダムなノード分散及びチャネルパラメータに対する最適化を実行する。ここでは、メッセージ知識構造のいずれが最良を実行し、最終最適化において選択されるかについて説明する。
【0205】
低SNRでは、すべての中継局を使用して単一移動局に送信することが最良であることが多い。また、一方の中継局が両メッセージを有し他方の中継局が1つのメッセージしか有さない非対称メッセージ知識の場合のうちの1つは、2つの考慮される最適化基準の下では、両基地局に両メッセージが既知であるようにし従来のSDMA技法を採用する場合より、適切に実行することが多い。このため、非対称の形態の協力は、両方が完全に協力的である場合より優れていることが多い。
【0206】
ここで、フェース1のメッセージ伝送時間t、t及び恐らくはレートR(1)、R(1)と共に、フェース2の符号化パラメータ、すなわち超公平性又は最大スループット基準のいずれかを最適化する線形プリコーディング行列B又は2つのメッセージのダーティ・ペーパ共分散行列(dirty-paper covariance matrix)B、Bのいずれかを確定しようとする、2相最適化問題について考慮する。
【0207】
これらの2つの場合を解決する1つの一般的な方法は、すべてのあり得るメッセージ知識構造に対して列挙法を使用する。すなわち、2中継局2移動局システムを扱っているため、すべての関連する伝送知識構造、又はいずれの中継局がいずれのメッセージを取得するかを列挙することが可能である。
【0208】
これらの可能性の各々に対し、フェース2で必要なパラメータを取得するために2相最適化問題を解決する。そして、本発明による基準を最適化するフェース1変数及びフェース2変数を選択する。
【0209】
超公平性
超公平性基準に基づき、2つの移動局の各々に対する1つのメッセージの総伝送時間を最小化する。協力システムの利点を探求しようとしているため、2ホップTDMA方式は考慮しないが、これをより一般的な場合で実行することができる。すなわち、フェース1は、本発明によるTDMA構造に従って、基地局から中継局にメッセージを送信する。しかしながら、フェース2の間、両メッセージは2つの中継局によって同時に送信される。すべての符号化方法及び最適化基準に対して共通しているのは、以下のように定義される両相に対する総スループット全体である。
【0210】
【数49】

【0211】
ここで、tはフェース2の時間を示し、それは、
【0212】
【数50】

【0213】
に等しい。
【0214】
ここでは、以下の4つのメッセージ知識の場合を使用し、それらをその指標行列Iによって参照する。4つの場合を図6に示す。メッセージ知識構造とも呼ぶ4つの場合は、以下のようにより明示的に定義される。
【0215】
【数51】

【0216】
超公平性、フェース1:
超公平性が等しい数のビットが両中継局に送信されることを必要とするため、n=n=1とする。そして、4つのあり得るフェース1メッセージ知識構造及び対応する時間対(t,t)は、以下の通りである。
【0217】
【数52】

【0218】
超公平性、フェース2:
これらの4つの場合の各々に対し、異なる形式のフェース2伝送方式パラメータがある。これらの場合のうちの1つを固定し、βを、フェース2がフェース2時間tを最小化するように伝送パラメータを選択しようとする許容できるフェース2符号化パラメータのセットとする。フェース2時間tは、以下の式によって与えられる。
【0219】
【数53】

【0220】
フェース2では、伝送レートRDPC及びRDPCは、式(14)によって与えられ、レートRlin、Rlinは、行列B、B又はBそれぞれにおいて必要なゼロを確定する、4つの場合のいずれをここで扱っているかに応じて、式(8)により与えられる。
【0221】
このため、最適化問題は
【0222】
【数54】

【0223】
及び
【0224】
【数55】

【0225】
によって与えられる。
【0226】
超公平性、全体:
選択される方式全体は、t+t+tを最小化するものであり、ここでtは、フェース2における最適化問題の最適値である。
【0227】
最大スループット基準:
超公平性基準とは対照的に、最大スループット基準の下では、各スケジューリング間隔の間、各移動局は異なる数のビットを受け取る可能性がある。たとえば、1つの移動局はまったくビットを受け取らない場合さえある。しかし超公平性基準の下では、各ユーザに対してビットの数が事前に確定されているため、フェース1の時間(t,t)の4つの対のみが可能である。最大スループット基準の下では、任意の数のビットが可能であり、各あり得るメッセージ知識構造に対し、任意の数のフェース1時間対を含む。
【0228】
両相に対する最大スループット基準の連帯最適化は複雑な混合整数計画問題(ビット又はパケットの数が整数値であると想定する)であり、それはさらに、線形プリコーディング制約下では非凸性である。このため、解析的解決法を得ることは実行不可能であるように見え、内点法を適用することができない(非凸性)。
【0229】
このため、両相に対する最大スループットについて解くためにグリッド探索を使用する。探索は、フェース2の間にあり得るレート対(R(2),R(2))の各々に対して最適数のビットn,nについて解くことができることによってより容易になる。4つの場合の各々に対し、線形プリコーディング伝送方式又はダーティ・ペーパ符号化伝送方式のいずれかに対してフェース2の間に可能なすべてのあり得るレート対(R(2),R(2))にわたって循環する。
【0230】
これは、すべての実行可能な線形プリコーディング行列又はダーティ・ペーパ符号化共分散行列それぞれを通じて循環することによって行われる。この2相システムの全スループットを確定するために、フェース1の間にメッセージ1及び2をブロードキャストするために費やされる時間t、tを取得する。それは、t=n(1)、t=n(1)として送信されるビットの数によって決まる。フェース1の間のレートは、いずれの中継局が所望の受信機であるかによって決まり、その特定のメッセージを必要とする最悪のチャネルを有する中継局のシャノンレートに対応する。
【0231】
このため、ここでは整数ではなく実数であるように緩和する最大スループット最適化全体に対する解としてn、nを見つける。損失を、大きい整数
【0232】
【数56】

【0233】
を可能にすることによって任意に小さくすることができ、ここで、a、aは各移動局に対するビットを得る「重要性」を表し、それは或る意味、サービス品質を表すことができ、本発明の場合では以下の通りである。
【0234】
【数57】

【0235】
1つの場合は、この最適化問題に対しあり得る解が3つしかないことを示す。
【0236】
【数58】

【0237】
単純な比較を行い、あり得るメッセージ知識構造の各々に対し且つ各所与のフェース2レート対(R(2),R(2))に対していずれの(n,n)対が最適であるかを確定し、最大総スループットを有するものを選択することができる。最大スループットシナリオ下では、n又はnのいずれもゼロであることが可能である。このため、単一メッセージの場合が可能である。同様な計算が線形プリコーディングの場合にも可能である。
【0238】
本発明を、好ましい実施の形態の例として説明したが、さまざまな他の適応及び変更を本発明の精神及び範囲内で行うことができるということが理解されるべきである。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲内にある変形及び変更のすべてを包含することである。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】本発明の一実施の形態による2つの相でメッセージを送信する協力中継ネットワークのブロック図である。
【図2】チャネル利得を示す図1のネットワークのブロック図である。
【図3】基地局から移動局へ中継局を介するあり得るメッセージ経路のブロック図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるメッセージ知識構造のブロック図である。
【図5A】単一メッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図5B】単一メッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図5C】単一メッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図5D】単一メッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図6A】2つのメッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図6B】2つのメッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図6C】2つのメッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。
【図6D】2つのメッセージに対するメッセージ経路のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークにおいて協力中継を使用して通信する方法であって、
スケジューリング間隔の第1フェースの間、基地局から中継局のセットにメッセージのセットをブロードキャストすること、
前記スケジューリング間隔の第2フェースの間、前記中継局のセットから移動局のセットに前記メッセージのセットを協力してブロードキャストすること、
前記第1フェースの間にブロードキャストしている間、及び前記第2フェースの間にブロードキャストしている間に、前記第1フェースの間の各メッセージの時間、レート及びサイズと、前記第2フェースの間の各メッセージのレートを連帯的に最適化すること
を含む、無線ネットワークにおいて協力中継を使用して通信する方法。
【請求項2】
前記最適化することは、前記中継局に対する電力制約の下で最大スループット基準に従う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最適化することは、最小遅延制約の下で最大スループット基準に従う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1フェース及び前記第2フェースの間にブロードキャストすることは、TDMA、SDMA、FDMA、CDMA又はOFDMを含むグループから選択される符号化技法を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
特定の中継局は前記メッセージのセットのサブセットを受け取る、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2フェースは線形プリコーディングを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2フェースはダーティ・ペーパ符号化を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
特定の中継局は、特定のメッセージを別の中継局にブロードキャストする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1フェース及び前記第2フェースの間にブロードキャストすることは、時分割多元接続を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記最適化はユーティリティ関数に従う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
各メッセージはそれぞれ所定のビットを含み、前記ユーティリティ関数は、各移動局がそれぞれ最短時間で等しい数のビットを受け取る超公平性基準を使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
各メッセージはそれぞれ所定のビットを含み、前記ユーティリティ関数は、前記移動局が最低量の電力を使用して異なる数のビットを受け取る最大スループット基準を使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記中継局のセットと前記移動局のセットとの間のチャネル利得を、該中継局と該移動局との間のリンクがいずれの中継局がいずれのメッセージを受け取るかを示す、前記最適化することに対するメッセージ知識構造において最良から最悪の順序で配置すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
無線ネットワークにおいて協力中継を使用して通信するシステムにおいて、
スケジューリング間隔の第1フェースの間にメッセージのセットをブロードキャストするように構成される基地局と、
前記メッセージのセットを受け取ると共に前記スケジューリング間隔の第2フェースの間に前記中継局のセットから移動局のセットに前記メッセージのセットを協力してブロードキャストするように構成される中継局のセットと、
前記第1フェースの間にブロードキャストしている間、及び前記第2フェースの間にブロードキャストしている間に、前記第1フェースの間の各メッセージの時間、レート及びサイズと、前記第2フェースの間の各メッセージのレートを連帯的に最適化する手段と
を具備する、無線ネットワークにおいて協力中継を使用して通信するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公開番号】特開2008−178070(P2008−178070A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−268912(P2007−268912)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】