説明

無線測距システム及び無線測距方法

【課題】複数の基地局間のクロック同期、及び、基地局間の位置関係の入力を必要とすることなく、基地局と端末との距離を測定すること。
【解決手段】クロック移相部210は、送信パルスの発生に用いたクロックを100ナノ秒毎に特定の移相量でシフトして、AD変換部211は、シフトしたクロックを用いて、端末103から再放射された信号をデジタル信号に変換する。相関演算部212は、デジタル信号と送信パルスとの相関演算を行い、シフトした位相におけるデジタル信号を同じ位相毎に加算して得られる遅延プロファイルを形成し、到来波検出部213は、遅延プロファイルにおいてパルスのピークを検出する。距離算出部214は、パルスを送信したタイミングとパルスのピークを検出したタイミングとに基づいて、端末103までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UWB(ウルトラワイドバンド)通信方式を利用した無線通信端末装置及び基地局装置間の距離を測定する無線測距システム及び無線測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速無線伝送技術の一つとして、UWB通信方式がある。UWB通信方式は、所定の周期タイミングに同期したパルス信号からなるパルス信号列を用いて、超広帯域な通信を行う技術である。UWB通信の一例として、搬送波を用いず、パルス幅が例えば1ナノ秒以下等の極めて細かいパルス信号からなるパルス信号列を用いて通信を行うことが知られている。
【0003】
一方で、基地局装置(以下、「基地局」という)が無線通信端末装置(以下、「端末」という)との距離を測定する測距技術が、例えば、特許文献1等に開示されている。特許文献1に開示の測距技術は、3個又は4個の基地局を用いて、端末で受信される信号の到来時間差を用いるものである。
【0004】
図1は、特許文献1に開示された測位システムを示す図である。図1に示すように、測位システムは、複数の基地局11、12、13と、計算サーバ14とを備えており、各基地局11〜13と計算サーバ14とは有線ネットワーク15によって互いに接続されている。この測位システムは、端末10の位置座標を計算することを目的としている。
【0005】
特許文献1に開示のシステムにおいて、端末の測位は、端末と基地局との間で送受信される測定用信号の伝搬時間差を用いて行われる。信号伝搬の絶対的な時間を求めるためには、端末のクロックと基地局のクロックとが同期している必要があるが、一般的な無線通信システムにおいては端末と基地局は非同期であるため、絶対的な伝搬時間を利用した測位(TOA:Time Of Arrival)を行うことはできない。しかし、複数の基地局のクロックを同期させた場合、端末からの測定用信号が各基地局に到達するまでに要した時間の差を求めることができ、相対的な伝搬時間(伝搬時間差)を利用した測位(TDOA:Time Difference Of Arrival)を行うことができる。
【特許文献1】特開2004−242122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示の測位システムでは、端末からの測定用信号が複数の基地局に到達するまでの伝搬時間差を用いて測定するため、複数の基地局のクロックを同期させる必要がある。従って、基地局間をケーブルで接続する、または、測定を行う基地局とは別にクロックを同期させるための基準局を備える必要がある。また、複数の基地局への伝搬時間差から端末の距離を測定するためには、基地局間の相対位置関係をデータとして予め保持する必要があり、それには基地局の位置を予め測定しておかなければならないという問題がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、複数の基地局間のクロック同期、及び、基地局間の位置関係の入力を必要とすることなく、基地局と端末との距離を測定することができる無線測距システム及び無線測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線測距システムは、基地局装置と無線通信端末装置とを備える無線測距システムであって、前記基地局装置は、クロックに基づいてパルスを発生し、発生したパルスを送信する送信手段と、送信された前記パルスを、前記無線通信端末装置を経由して受信する受信手段と、一定の周期で前記クロックを特定量移相する移相手段と、移相した前記クロックを用いて、受信したパルスを複数の移相においてデジタル信号に変換するAD変換手段と、デジタル信号に変換したパルスと、前記送信手段が送信したパルスとの相関演算を行い、相関値を同じ位相毎に加算して遅延プロファイルを形成する相関演算手段と、前記遅延プロファイルにおけるパルスのピークに基づいて、所望の無線通信端末装置からの到来波を検出する検出手段と、検出された前記到来波が前記送信手段から送信されてから前記受信手段に受信されるまでの経過時間を用いて、前記無線通信端末装置との距離を算出する距離算出手段と、を有し、前記無線通信端末装置は、前記基地局装置から送信されたパルスを受信して、受信信号と送信信号とを分配する分配手段と、受信した前記パルスを増幅して前記基地局装置に再放射する第1増幅手段と、を有する構成を採る。
【0009】
本発明の無線測距方法は、クロックに基づいてパルスを発生し、発生したパルスを基地局装置から無線通信端末装置に送信する送信工程と、前記基地局装置から送信されたパルスを受信した前記無線通信端末装置が前記パルスを前記基地局装置に再放射する再放射工程と、前記無線通信端末装置から再放射されたパルスを受信する受信工程と、一定の周期で前記クロックを特定量移相する移相工程と、移相した前記クロックを用いて、受信したパルスを複数の移相においてデジタル信号に変換するAD変換工程と、デジタル信号に変換したパルスと、前記送信工程において送信したパルスとの相関演算を行い、相関値を同じ位相毎に加算して遅延プロファイルを形成する相関演算工程と、前記遅延プロファイルにおけるパルスのピークに基づいて、所望の無線通信端末装置からの到来波を検出する検出工程と、検出された前記到来波が前記送信工程において送信されてから前記受信工程において受信されるまでの経過時間を用いて、前記基地局装置と前記無線通信端末装置との距離を算出する距離算出工程と、を具備するようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の基地局間のクロック同期、及び、基地局間の位置関係の入力を必要とすることなく、基地局と端末との距離を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、実施の形態において、同一機能を有する構成には、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る無線測距システムの構成を示すブロック図である。図2において、基地局101は、アンテナ102を備え、UWB無線方式により非常に細かいパルス信号をアンテナ102から送信する。UWB無線方式によれば、送信帯域幅は1〜3GHz程度の帯域幅を有するため、パルス幅が1ナノ秒程度の非常に細いパルスが送信される。ここで、パルス幅が1ナノ秒である場合には、空間の伝搬遅延差が30cm以上ある信号を分離できる。よって、受信側においては、マルチパス環境の多数反射波を受信する場合でも、それぞれの多重反射波を分離受信することが可能となる。
【0013】
端末103は、アンテナ104、分配器105及び増幅器106を備え、一般的なセミパッシブ方式の無線タグと同様の構成である。基地局101から送信されたUWB帯域の信号はアンテナ104により受信される。
【0014】
分配器105は、アンテナ104を介して受信した信号を増幅器106に出力する。また、分配器105は、後述する増幅器106から出力された信号をアンテナ104から再放射するため、受信信号と送信信号をカプリング(Coupling)し、送信信号をアンテナ104から送信する。なお、分配器105は、送信信号と受信信号に対して十分アイソレーションを確保できる部品により構成され、例えば、ウイルキンソン方式カプラやサーキュレータを用いることができる。
【0015】
増幅器106は、分配器105から出力された信号を増幅し、増幅した信号を分配器105に戻す。ただし、分配器105がUWB帯域でのアイソレーションを確保できる大きさは20dBから30dBであり、このため端末103内部での発振現象を防ぐためには、増幅器106での増幅度は20dB程度に限定される。
【0016】
図3は、図2に示した基地局101の内部構成を示すブロック図である。図3において、基地局101は、送信部201、受信部202、測距部203及び表示部215を備えている。
【0017】
送信部201は、パルス発生部204、DA変換部205及び送信RF部206を備え、端末103にパルスを送信する。以下、送信部201の内部構成について詳細に説明する。
【0018】
パルス発生部204は、パルス幅を決定するクロックを入力して、一定間隔で短いパルスを発生する。発生させたパルスはDA変換部205、相関演算部212及び到来波検出部213に出力される。なお、発生させるパルスのパルス幅が、到来波の距離の分解能と関連する。例えば、パルス幅が1ナノ秒の信号を用いた場合、30cm以上の経路差を持った到来波を検出することができる。
【0019】
ここでは、発生させるパルスの間隔は、基地局のカバレッジを想定して決定される。例えば、パルス間隔を100ナノ秒とすると、電波は100ナノ秒で30m伝搬する。これは、1つのパルスを送信してから次のパルスを送信するまでの間(パルス間隔)に、基地局から半径15m以内に存在する端末の応答を基地局が受信可能であることを意味する。
【0020】
DA変換部205は、パルス発生部204から出力されたパルス信号をアナログベースバンド信号に変換し、変換したアナログベースバンド信号を送信RF部206に出力する。送信RF部206は、DA変換部205から出力されたアナログベースバンド信号に周波数変換処理、帯域制限処理、増幅処理を施すことにより、アナログベースバンド信号をRF信号に変換し、RF信号をアンテナ102からUWBパルス信号として送信する。
【0021】
受信部202は、受信RF部209、クロック移相部210及びAD変換部211を備え、端末103からパルスを受信する。以下、受信部202の内部構成について詳細に説明する。
【0022】
受信RF部209は、端末103から送信された応答UWBパルス(再放射パルス)、空間内に存在する反射物からの反射波などをアンテナ102を介して受信し、受信したこれらのRF信号に増幅処理、帯域制限処理、周波数変換処理を施すことにより、RF信号をベースバンド信号に変換し、ベースバンド信号をAD変換部211に出力する。
【0023】
クロック移相部210は、クロックを入力し、入力したクロックをシフトする。例えば、クロック移相部210は、100ナノ秒毎に特定の位相量だけクロックをシフトする。シフトしたクロックはAD変換部211に出力される。なお、クロック移相部210は、遅延線又はマルチ移相PLLなどにより実現される。
【0024】
AD変換部211は、受信RF部209から出力されたベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。このとき、AD変換部211は、クロック移相部210によりシフトされたクロックを用いてAD変換を行う。変換されたデジタル信号は相関演算部212に出力される。
【0025】
なお、クロック移相部210がクロックをシフトする特定の移相量としては、例えば、次のように設定する。基地局が1ナノ秒幅の送信パルスを生成し、1GHzのクロックを用いる場合、サンプリング周波数も1GHzとなるが、伝搬遅延時間により端末103からの到来パルスのサンプリング点が異なり、到来パルスの受信レベルが変化する。そこで、クロック移相部210は、100ナノ秒毎に位相に1GHzの8分の1程度の変動を与え、そのサンプリング点を変化させる。
【0026】
測距部203は、相関演算部212、到来波検出部213及び距離算出部214を備え、端末103との距離を算出する。以下、測距部203の内部構成について詳細に説明する。
【0027】
相関演算部212は、AD変換部211から出力されたデジタル信号と、パルス発生部204から出力されたパルス系列との相関演算を行い、遅延プロファイルを形成する。ここで、相関演算の方法には、例えば、スライディング相関法がある。この方法は、送信部201から送信されるパルス系列をレプリカ系列とし、レプリカ系列の位相を変化させながら相関演算を行うものである。なお、位相はパルスを送信してから次のパルスを送信するまでの間(パルス間隔)で変化させる。
【0028】
また、相関演算部212は、クロック移相部210が位相変化させたタイミングでサンプリングされたパルスを合算することにより、パルス受信電力を増大させる。形成された遅延プロファイルは到来波検出部213に出力される。
【0029】
到来波検出部213は、相関演算部212から出力された遅延プロファイルから到来波を抽出し、抽出した到来波がパルス発生部204から出力されてからの経過時間を算出し、抽出した到来波と算出した各到来波の経過時間を距離算出部214に出力する。
【0030】
ところで、一般に、基地局から送出された信号は、自由空間伝搬損失によって距離の2乗に比例して減衰する。ところが、本実施の形態では、端末が信号を復調することなく再放射するため、通常のパッシブタグと同様、往復では距離の4乗に比例して減衰する。よって、基地局における感度を上げる必要がある。例えば、UWB帯域を8GHz帯とし、基地局と端末との距離を10mとすると、基地局から送出された信号は往復で140dB減衰する。このため、上述したように端末が20dB増幅すると、空間の伝搬損失として120dBの減衰となる。
【0031】
ここで、送信ピーク電力を3dBm(デシベルミリワット)とし、帯域を1GHzとした場合、受信C/Nは約−50dBとなる。このため、相関演算部212は、100ナノ秒毎に位相変化した遅延プロファイルを合算することにより、1つの遅延プロファイルを形成する。この処理として具体的な数値を挙げれば、例えば、100ナノ秒で100万回得られた遅延プロファイルを加算する。これによって、理論的には、100万回は、2の20乗とほぼ同じであるため、3(dB)×20(乗)=60(dB)の利得が得られ、1秒程度で受信C/Nを約60dBに改善した数値で距離測定を行うことができる。なお、100万回加算する間、送信部201と受信部202は同一のクロックを使用しているため、通常の通信機のように周波数ずれによる同期はずれが起こることはほとんどない。
【0032】
距離算出部214は、到来波検出部213から出力された到来波と各到来波の経過時間とに基づいて、基地局101から端末103までの距離を算出し、算出した距離を表示部215に出力する。基地局101から端末103までの距離の算出は、基地局101が信号を送信してから端末103を経由して、基地局101が受信するまでの時間を経過時間とし、所望の端末からの応答である到来波の経過時間から距離を算出する。このとき、パルス発生以降のDA変換部205および送信RF部206における遅延時間と、端末103が応答するときに発生する受信RF部209およびAD変換部211における遅延時間とを経過時間から差し引く。この遅延時間に関しては、距離が0mの時の遅延時間を測定しておくことにより、事前キャリブレーションデータとして、距離算出部214に保持しておけばよい。遅延時間を経過時間から差し引くことによって、基地局101からパルスが送信されてから端末103で受信されるまでの到来時間と、端末103が応答を送信してから基地局101が受信するまでの到来時間を正確に求めることができる。このようにして算出した2つの到来時間を用いて、基地局101から端末103までの距離を算出する。
【0033】
表示部215は、距離算出部214から出力された距離をディスプレイ上に表示する。
【0034】
次に、図3に示した基地局101における距離測定手順について図4を用いて説明する。図4において、送信信号301は、パルス発生部204によってデジタル値として発生された送信パルス、またはDA変換部205によってアナログ値として発生された送信パルスである。また、アナログベースバンド信号302は、受信RF部209から出力された検波出力である。
【0035】
送信信号301及びアナログベースバンド信号302における破線は、1ナノ秒の8分の1ずつ移相した場合の各サンプルタイミングを示している。本実施の形態における実際の構成では、まず、基地局101の送信部201から送信パルス303及び305が100ナノ秒間隔で送信され、これらの送信信号に空間伝搬遅延及び端末103内部における遅延が加わり、端末103から再放射された信号が基地局101の受信RF部209で検波される。また、基地局101の受信信号には、壁等からの反射波及び他の端末からの反射波が観測されるが、このような受信信号に対して100ナノ秒毎にAD変換部211のクロック位相を1ナノ秒の8分の1だけ位相をずらしてサンプリングを行う。
【0036】
これにより、伝搬遅延時間とADサンプルとの関係から、例えば、端末103からの伝搬パルス304及び306のように、サンプル位相が異なることにより、同じ受信信号でもAD変換レベルが異なる。8位相のそれぞれでサンプリングしたパルスを同じ位相毎に合算することにより、それぞれの反射波のピークを検出することができる。よって、不要な反射波を除去し、所望の端末からの信号のみを抽出することができるので、基地局からパルスが送信されてから端末で受信されるまでの到来時間と、端末が応答を送信してから基地局が受信するまでの到来時間を正確に求めることができる。このようにして算出した2つの到来時間を用いて、基地局から端末までの距離を算出する。
【0037】
このように実施の形態1では、送信パルスの発生に用いたクロックを所定の間隔毎に特定の移相量でシフトして、シフトしたクロックを用いて、端末から再放射された信号をデジタル信号に変換する。そして、このデジタル信号と送信パルスとの相関演算を行い、シフトした位相におけるデジタル信号を同じ位相毎に加算して得られるパルスのピークを検出する。さらに、パルスを送信したタイミングとパルスのピークを検出したタイミングとに基づいて、基地局が端末までの距離を算出する。このように実施の形態1によれば、1つの基地局のみを用いて端末までの距離を算出することができるため、複数の基地局が協働しなくて済み、基地局間のクロック同期、及び、基地局間の位置関係を不要とすることができる。
【0038】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る無線測距システムの構成を示すブロック図である。図5において、端末400は、分配器105、増幅器401、検波器402、コンパレータ403、タイミングマスク部404、バッファアンプ405、電圧電流変換部406、ステップリカバリダイオード407及びバンドパスフィルタ408を備える。以下、端末内部の構成について図2と異なる点を詳細に説明する。
【0039】
増幅器401は、分配器105から出力された信号を増幅し、増幅した信号を検波器402に出力する。なお、増幅器401の増幅度は、後述する検波器402及びコンパレータ403が作動するために十分な大きさとする。
【0040】
検波器402は、増幅器401から出力された信号をダイオード等によって包絡線検波し、検波した信号をコンパレータ403に出力する。コンパレータ403は、検波器402から出力された信号をデジタル2値化し、端末400から送信するパルスの生成タイミングを生成してタイミングマスク部404に出力する。
【0041】
タイミングマスク部404は、コンパレータ403から出力された信号を所定のタイミングでマスクし、マスクした信号はタイミングマスク部404から出力しない。タイミングマスク部404は、マスクするタイミング以外では、コンパレータ403から出力された信号をバッファアンプ405に出力する。
【0042】
バッファアンプ405は、タイミングマスク部404から出力された信号を増幅して電圧電流変換部406に出力し、電圧電流変換部406は、バッファアンプ405から出力された信号を電圧に比例した電流に変換し、ステップリカバリダイオード407を介してバンドパスフィルタ408に出力する。ただし、バッファアンプ405から出力された信号が立ち下がりエッジの場合、電圧電流変換部406から出力された電流がステップリカバリダイオード407を貫通することにより、インパルスが生成され、生成されたインパルスがバンドパスフィルタ408に出力される。
【0043】
バンドパスフィルタ408は、UWBのスペクトルマスクを満たすように、ステップリカバリダイオード407によって生成されたインパルスの帯域を制限し、帯域制限したインパルス、すなわち、UWBパルスを分配器105及びアンテナ104を介して基地局101に送信する。
【0044】
なお、端末400から送信された信号は基地局101において受信され、基地局101は、実施の形態1に示した距離測定手順に従って、端末400との距離を測定する。
【0045】
ここで、分配器105のアイソレーションは、実施の形態1に示したように、20〜30dB程度である。よって、例えば、UWBパルスが−10dBmであったとしても、−30〜−40dBm程度の信号が分配器105から増幅器401に出力される。この信号は、受信電力と比較しても大きな電力である。このため、端末400において発生したUWBパルスが受信側に回り込むと、ループ処理が繰り返し行われ、パルスが連続して送信される状態になる。タイミングマスク部404は、このような繰り返しループ処理を防止するために設けられている。なお、タイミングマスク部404は、例えば、パルスの立ち下がりエッジでトグル動作するDフリップフロップなどが挙げられる。
【0046】
次に、図5に示した端末400における動作について図6を用いて説明する。受信パルス501は、検波器402において検波され、検波された結果がコンパレータ403においてデジタル2値化される。2値化されたコンパレータ出力503は、タイミングマスク部404、バッファアンプ405、電圧電流変換部406及びステップリカバリダイオード407を介することにより、立ち下がりエッジ506でステップリカバリダイオード407からインパルスが生成される。
【0047】
ステップリカバリダイオード407において生成されたインパルスは、バンドパスフィルタ408によって帯域制限され、再放射パルス507として送信される。再放射パルス507は、アンテナ104から空間に送信される一方、受信側にも回りこみ、分配器105において漏れ信号であるUWBパルス502として再び増幅器401に入力されてしまう。
【0048】
そこで、コンパレータ出力503の立ち下がりエッジ506がタイミングマスク部404のクロック入力に入力されることにより、漏れ信号であるUWBパルス502のコンパレータ出力504がタイミングマスク部404によりマスクされ、コンパレータ出力504の立ち下がりエッジがタイミングマスク部404から出力されない。コンパレータ出力は、タイミングマスク部404のリセット信号として入力されるが、漏れ信号であるUWBパルス502が入力されている間は、デジタル信号としてはマスクされているため、再発振することはない。
【0049】
このように実施の形態2によれば、端末の送信信号が分配器において受信側に漏れてしまっても、漏れ信号のエッジ信号をマスクすることにより、漏れ信号の再発振を防止することができる。
【0050】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3に係る無線測距システムの構成を示すブロック図である。図7において、端末600は、分配器105、増幅器401、検波器402、コンパレータ403、発振器601、クロック遅延時間制御部602、遅延器603、クロック切り替えスイッチ604、電圧電流変換部406、ステップリカバリダイオード407及びバンドパスフィルタ408を備える。以下、端末600内部の構成について図5と異なる点を詳細に説明する。
【0051】
発振器601は、基地局101の送信クロックレートと1パーセント程度異なる周波数で方形波信号を生成する。ここでは、基地局101は、100ナノ秒間隔でUWBパスルを送信しているため、基地局101の送信クロックレートは10MHzであるのに対して、発振器601は9.9MHzで発振する。生成された方形波は、クロック遅延時間制御部602、遅延器603及びクロック切り替えスイッチ604の一方の端子に出力される。
【0052】
クロック遅延時間制御部602は、Dフリップフロップが用いられており、コンパレータ403において検波出力が得られていれば、コンパレータ403から「1」信号が出力され、コンパレータ403において検波出力が得られていなければ、コンパレータ403から「0」信号が出力される。一方で、Dフリップフロップのトリガ端子は、クロックの立ち上がりエッジでコンパレータ出力をラッチするため、クロック遅延時間制御部602は、発振器601から出力されたクロック信号の立ち上がりエッジでUWB検波信号が得られているかを判定することになる。クロック遅延時間制御部602は、この判定結果に基づいて、クロック切り替えスイッチ604を制御する。
【0053】
遅延器603は、発振器601において発振するクロック周期より小さく、かつ、UWBパルスの幅より大きい値を選択する。本実施の形態においては、発振器601のクロック周期が101ナノ秒であり、UWBパルスが1ナノ秒であることから、遅延器603は2ナノ秒から10ナノ秒の間の値に設定される。この遅延されたクロックはクロック切り替えスイッチ604の他方の端子に出力される。
【0054】
クロック切り替えスイッチ604は、Dフリップフロップから「1」信号が出力された場合、すなわち、コンパレータ403において検波出力が得られている場合には、遅延器603から出力された遅延が加えられたクロックを電圧電流変換部406に出力する。一方、クロック切り替えスイッチ604は、Dフリップフロップから「0」信号が出力された場合、すなわち、コンパレータ403において検波出力が得られていない場合には、発振器601から出力された遅延のないクロックを電圧電流変換部406に出力する。
【0055】
次に、図7に示した端末600における動作について図8を用いて説明する。受信パルス701は、検波器402において検波され、1ナノ秒程度のパルス幅の検波出力702が得られる。検波出力702は、コンパレータ403においてデジタル2値化され、2値化されたコンパレータ出力703及び708が得られる。
【0056】
ここで、端末600は、基地局101とは1パーセント程度異なる周波数で発振する発振器601を有して、その周波数に基づいて動作する。例えば、基地局101がUWBパルスを100ナノ秒間隔で送信する場合、繰り返し周期は10MHzとなるため、端末600の発振器601は9.9MHzの発振周波数に設定する。この場合、基地局101と端末600は特に同期を取る必要はなく、基地局101と端末600の発振器601の周波数誤差が、基地局101と端末600の周波数差に対して十分小さければよい。
【0057】
立ち上がりエッジ704、709及び立ち下がりエッジ705は、発振器出力に遅延が加えられていないエッジである。この立ち上がりエッジ704及び709のタイミングでコンパレータ出力がDフリッププロップでラッチされるため、クロック切り替えスイッチ604から出力されるクロックの立ち下がりエッジは、コンパレータ出力703については、遅延を加えられていないクロックの立ち下がりエッジ705であり、コンパレータ出力708については、遅延が加えられたクロックの立ち下がりエッジ710である。
【0058】
この結果、ステップリカバリダイオード407のインパルスは、立ち下がりエッジ705及び710に対応したインパルス706及び711となり、インパルス706及び711はバンドパスフィルタ408を通過後、再放射パスル707及び712として送信される。
【0059】
このように、受信パルスの検波出力と、端末のクロックの立ち上がりエッジとが一致する場合には、再放射パルスの送信タイミングに遅延時間が与えられる。すなわち、この再放射パルスは、パルス位置変調されたUWBパスルとして送信されることになる。一方、受信パルスの検波出力と、端末のクロックの立ち上がりエッジとが一致しない場合には、再放射パルスの送信タイミングに遅延時間が与えられない。
【0060】
本実施の形態では、受信パルスの間隔は100ナノ秒であり、受信パルスの間隔と端末600のクロックとは周波数差が1ナノ秒である。このため、受信パルスと端末600のクロックのタイミングは100回に1回の割合で一致して、端末600からの再放射パルスに遅延時間が与えられて送信される。
【0061】
端末600から送信されたUWBパルスは、基地局101のアンテナ102で受信され、基地局101は、実施の形態1に示した距離測定手順に従って、端末600との距離を測定する。上述したように、端末600は、100パルスのうち99パルスを101ナノ秒間隔で送信し、1パルスを101ナノ秒に遅延時間を加えて送信するため、基地局101は、これらの101ナノ秒間隔を検出し、99パルスに対して平均化することにより、基地局側で端末600との同期をとることができる。
【0062】
一方、101ナノ秒に遅延時間を加えて端末600から送信されたUWBパルスは、基地局101の基準クロック(ここでは10MHz)に対して端末600において加えられた遅延時間と、基地局101から端末600への電波の往復時間とを含むため、基地局101は、遅延時間を加えて送信されたUWBパルスから端末600における既知の遅延時間を減算することにより、基地局101と端末600との間の往復時間を検出し、距離を求めることができる。
【0063】
このように実施の形態3によれば、基地局のクロックに対して、端末のクロックを低い周波数に設定しておき、受信パルスの検波出力と、端末のクロックの立ち上がりエッジとが一致する場合には、再放射パルスに遅延時間を与え、受信パルスの検波出力と、端末のクロックの立ち上がりエッジとが一致しない場合には、再放射パルスに遅延時間を与えない。そして、基地局が遅延時間の与えられていないパルスを検出し、検出したパルスを平均化することにより、基地局は端末との同期をとることができる。また、基地局は、遅延時間の与えられたパルスを用いて、端末までの距離を算出することができる。
【0064】
なお、上記各実施の形態では、増幅器の増幅度を20dBとして説明したが、本発明はこれに限るものではない。
【0065】
また、上記各実施の形態において説明した基地局は例えばリーダー/ライターであり、端末は例えば無線タグである。具体的には、リモコンや名札などに装着された無線タグの位置測定などに本発明を用いることができる。また、物体間の精密な距離測定などにも本発明を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明にかかる無線測距システム及び無線測距方法は、リーダー/ライター及び無線タグを備える無線タグシステム等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】特許文献1に開示された測位システムを示す図
【図2】本発明の実施の形態1に係る無線測距システムの構成を示すブロック図
【図3】図2に示した基地局の内部構成を示すブロック図
【図4】図3に示した基地局における距離測定手順の説明に供する図
【図5】本発明の実施の形態2に係る無線測距システムの構成を示すブロック図
【図6】図5に示した端末における動作の説明に供する図
【図7】本発明の実施の形態3に係る無線測距システムの構成を示すブロック図
【図8】図7に示した端末における動作の説明に供する図
【符号の説明】
【0068】
101 基地局
102、104 アンテナ
103、400、600 端末
105 分配器
106、401 増幅器
201 送信部
202 受信部
203 測距部
204 パルス発生部
205 DA変換部
206 送信RF部
209 受信RF部
210 クロック移相部
211 AD変換部
212 相関演算部
213 到来波検出部
214 距離算出部
215 表示部
402 検波器
403 コンパレータ
404 タイミングマスク部
405 バッファアンプ
406 電圧電流変換部
407 ステップリカバリダイオード
408 バンドパスフィルタ
601 発振器
602 クロック遅延時間制御部
603 遅延器
604 クロック切り替えスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と無線通信端末装置とを備える無線測距システムであって、
前記基地局装置は、
クロックに基づいてパルスを発生し、発生したパルスを送信する送信手段と、
送信された前記パルスを、前記無線通信端末装置を経由して受信する受信手段と、
一定の周期で前記クロックを特定量移相する移相手段と、
移相した前記クロックを用いて、受信したパルスを複数の移相においてデジタル信号に変換するAD変換手段と、
デジタル信号に変換したパルスと、前記送信手段が送信したパルスとの相関演算を行い、相関値を同じ位相毎に加算して遅延プロファイルを形成する相関演算手段と、
前記遅延プロファイルにおけるパルスのピークに基づいて、所望の無線通信端末装置からの到来波を検出する検出手段と、
検出された前記到来波が前記送信手段から送信されてから前記受信手段に受信されるまでの経過時間を用いて、前記無線通信端末装置との距離を算出する距離算出手段と、
を有し、
前記無線通信端末装置は、
前記基地局装置から送信されたパルスを受信して、受信信号と送信信号とを分配する分配手段と、
受信した前記パルスを増幅して前記基地局装置に再放射する第1増幅手段と、
を有する無線測距システム。
【請求項2】
前記無線通信端末装置は、
前記第1増幅手段によって増幅された受信パルスを包絡線検波する検波手段と、
前記検波手段による検波結果を2値化するコンパレータと、
2値化された信号のうち、前記分配手段において送信信号が回り込んだ漏れ信号をマスクするマスク手段と、
前記マスク手段を通過した信号を増幅する第2増幅手段と、
前記第2増幅手段によって増幅された信号を電圧電流変換する電圧電流変換手段と、
2値化された前記信号のエッジにおける電圧電流変換された信号からインパルスを生成するダイオードと、
生成された前記インパルスの帯域を制限して前記基地局装置に再放射するバンドパスフィルタと、
を有する請求項1に記載の無線測距システム。
【請求項3】
前記無線通信端末装置は、
前記第1増幅手段によって増幅された受信パルスを包絡線検波する検波手段と、
前記検波手段による検波結果を2値化するコンパレータと、
前記基地局装置におけるクロックとは異なる周波数のクロックを発生する発振手段と、
前記発振手段によって発生されたクロックを遅延させる遅延手段と、
前記検波手段によって検波出力が得られている場合、遅延された前記クロックを出力し、前記検波手段によって検波出力が得られていない場合、前記発振手段によって発生されたクロックを出力するように切り替える切り替え手段と、
前記切り替え手段によって出力された信号を電圧電流変換する電圧電流変換手段と、
2値化された前記信号のエッジにおける電圧電流変換された信号からインパルスを生成するダイオードと、
生成された前記インパルスの帯域を制限して前記基地局装置に再放射するバンドパスフィルタと、
を有する請求項1に記載の無線測距システム。
【請求項4】
クロックに基づいてパルスを発生し、発生したパルスを基地局装置から無線通信端末装置に送信する送信工程と、
前記基地局装置から送信されたパルスを受信した前記無線通信端末装置が前記パルスを前記基地局装置に再放射する再放射工程と、
前記無線通信端末装置から再放射されたパルスを受信する受信工程と、
一定の周期で前記クロックを特定量移相する移相工程と、
移相した前記クロックを用いて、受信したパルスを複数の移相においてデジタル信号に変換するAD変換工程と、
デジタル信号に変換したパルスと、前記送信工程において送信したパルスとの相関演算を行い、相関値を同じ位相毎に加算して遅延プロファイルを形成する相関演算工程と、
前記遅延プロファイルにおけるパルスのピークに基づいて、所望の無線通信端末装置からの到来波を検出する検出工程と、
検出された前記到来波が前記送信工程において送信されてから前記受信工程において受信されるまでの経過時間を用いて、前記基地局装置と前記無線通信端末装置との距離を算出する距離算出工程と、
を具備する無線測距方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−2266(P2010−2266A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160444(P2008−160444)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】