説明

無線通信システム、中継システム、中継装置、及び、同期方法

【課題】無線端末装置が通信チャンネルを変更したときに、無線信号の同期を迅速にとることができるようにする。
【解決手段】無線通信システムは、複数の中継装置を備えた中継システム130と、中継システム130を介して通信を行う複数の無線端末装置TA〜TH、から構成される。各中継装置111〜111は、自己に登録された無線端末装置に対して制御情報を送信する。各無線端末装置TA〜THは、自己が登録された中継装置111〜111nから受信した制御情報に基づいて、中継可能な状態であるチャンネルを選択して無線端末装置TA〜TH間の通信を行う。各中継装置111〜111は、通信回線を介して制御情報を構成する情報を取得するとともに、通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させる。各無線端末装置TA〜THは、通信を行うチャンネルを移動したときに、移動前のチャンネルにおいて確立した同期状態を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム、中継システム、中継装置、及び、同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランキング方式の無線通信システム(以下、「トランキングシステム」と称する)が知られている。トランキングシステムは、1つのサイトに複数のレピータを有し、複数の無線端末装置が複数のレピータによる複数の通話チャンネルを共有する。トランキングシステムには、専用の制御チャンネルを有する専用制御方式と呼ばれるものと、専用の制御チャンネルを有しない分散型制御方式と呼ばれるものがある。
【0003】
専用制御方式では、複数の無線端末装置は、制御チャンネルからの制御情報に基づいて、空き通話チャンネルを設定し、空き通話チャンネルを介して相互に通話を行う。
【0004】
分散型制御方式では、複数の無線端末装置は、各無線端末装置に予め登録されているホームレピータからの制御情報に基づいて、空き通話チャンネルを設定し、空き通話チャンネルを介して相互に通話を行う。また、複数のレピータは、その中の1台がマスタレピータとして機能し、他はスレーブレピータとして機能する。スレーブレピータは、マスタレピータから供給される同期信号に同期を取りながら動作する。
【0005】
特許文献1は、マスタレピータが故障したときに、他のレピータをマスタレピータに自動的に切り換える技術を開示している。この技術では、マスタレピータは、同期信号を生成し、他の複数のスレーブレピータに送信する。各レピータは、同期信号の授受のために同期信号コネクタによって他のレピータと接続されると共に、通信チャンネルの接続に関する制御の通信のためにLANによって他のレピータと接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−281800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランキングシステムにおいては、無線端末装置同士で通話を行う際、専用制御方式では制御チャンネル、分散型制御方式においてはホームレピータからの制御情報に基づいて通話チャンネルが設定される。つまりトランキングシステムでは、無線端末装置は、常に同じ通話チャンネルで通話を行うものではなく、通話チャンネルが必要に応じて変更される。
【0008】
このように、トランキングシステムでは、通話チャンネルが変更されたときに、レピータの動作と無線端末装置の動作との同期が取れなくなる虞がある。具体的には、無線端末装置が、レピータが送信した通信フレームに同期して、これを受信できなくなることがある。無線端末装置によるフレーム同期の検出が遅れると、無線端末装置の受信データは頭切れした状態となってしまう。
【0009】
特許文献1は、マスタレピータが故障した場合に、他のレピータをマスタレピータに切り換えることで、複数のレピータ間の同期を確保する技術を開示する。しかし、通話チャンネルが変更されたときに、フレーム同期を高速で確立することについては何ら開示していない。また、特許文献1に開示されたトランキングシステムでは、通信チャンネルの接続に関する制御のための信号ラインとは別に、同期信号のための専用信号ラインが設けられており、このためレピータのコストアップを招く。
【0010】
一方、無線端末装置が、チャンネルを変更した後、レピータが送信する通信フレームに同期をとるために要する時間を短縮することも考えられる。しかし、そのためには高速で動作する受信回路や制御回路が要求され、回路構成が高度化及び複雑化し、無線端末装置のコストアップを招くという問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、無線端末装置がチャンネルを変更したときに、無線信号の同期を容易にとることができる無線通信システム、中継システム、中継装置、及びその同期方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、チャンネル変更の同期をとるために専用信号ラインをレピータに設けることなく、かつ、高価な受信回路や制御回路を無線端末装置に設けることなく、無線端末装置がチャンネル変更を行ったときに、無線信号の同期を迅速にとることができる無線通信システム、中継システム、中継装置、及びその同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る無線通信システムは、
通信回線を介して相互に接続され、各固有のチャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムと、
該中継システムを介して通信を行う複数の無線端末装置と、を備え、
各中継装置は、自己に登録された無線端末装置に対して制御情報を送信し、
各無線端末装置は、自己が登録された中継装置より送信された前記制御情報を受信し、受信した制御情報に基づいて、各中継装置に割り当てられたチャンネルの中から中継可能な状態であるチャンネルを選択し、選択したチャンネルを介して他の無線端末装置との間の通信を行い、
各中継装置は、前記通信回線を介して通信信号を送受信することにより、前記制御情報を構成する情報を送受信し、該通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させ、各無線端末装置は、通信を行うチャンネルを他のチャンネルに移動したときに、該移動前のチャンネルにおいて確立した同期状態を少なくとも所定期間維持する、
ことを特徴とする。
【0014】
前記通信回線における通信信号の単位長さと各中継装置が送信するダウンリンク信号の信号フレームの長さが同一に設定されている、ことも可能である。
【0015】
前記中継システムが、前記通信回線に同期信号を送出するマスター中継装置と、前記通信回線より同期信号を取得するスレーブ中継装置と、からなる、ことも可能である。
【0016】
前記マスター中継装置は、同期信号を生成する同期回路を備え、
前記スレーブ中継装置は、受信した同期信号に同期して発振する同期回路を備え、
マスター中継装置及びスレーブ中継装置は、同期信号に同期してダウンリンク信号を送信し、
前記無線端末装置は、受信したダウンリンク信号に同期する同期回路を備え、この同期回路は、確立した同期状態を1同期期間以上維持可能である、ことも可能である。
【0017】
前記各中継装置が、前記通信回線の通信信号中における自己の割り当て位置に、自己が保有する情報を送出し、さらに、前記各中継装置が、前記通信回線の通信フレーム中から他の中継装置が保有する情報を取得し、それに基づいて自己が無線送信する制御情報を構築する、ことも可能である。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る中継システムは、
通信回線を介して相互に接続され、各固有の中継用チャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムであって、
前記複数の中継装置に対して同期を取るための同期信号を前記通信回線に送出するマスター中継装置と、
前記通信回線を介して、前記マスター中継装置が送出した前記同期信号を取得し、前記同期信号に同期して稼働するスレーブ中継装置と、を備える、
ことを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係る中継装置は、
通信回線に接続され、固有の中継用チャンネルが割り当てられた中継装置であって、
前記通信回線の通信信号中における自己の割り当て位置に、自己が保有する自己情報を出力する出力部と、
前記通信回線の通信信号中から他の中継装置が出力した他情報を入力する入力部と、
前記他情報に基づいて、自己が無線通信する無線端末装置を制御する制御情報を生成する処理部と、を備え、
前記処理部は、前記通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させるようにする、
ことを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の第4の観点に係る同期方法は、
通信回線を介して相互に接続され、各固有の中継用チャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムと、該中継システムを介して通信を行う複数の無線端末装置と、を同期させる同期方法であって、
前記中継装置が、自己に登録された無線端末装置に対して制御情報を送信する送信工程と、
前記無線端末装置が、自己が登録された中継装置より受信した前記制御情報に基づいて、各中継装置に割り当てられたチャンネルの中から中継可能な状態であるチャンネルを選択して無線端末装置間の通信を行う通信工程と、を備え、
前記送信工程では、前記中継装置が、前記通信回線を介して前記制御情報を構成する情報を取得するとともに、該通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させるようにし、
前記通信工程では、前記無線端末装置が、通信を行うチャンネルを他のチャンネルに移動したときに、該移動前のチャンネルにおいて確立した同期状態を維持する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、簡単な構成で、無線端末装置がチャンネル変更を行ったときに、無線信号の同期を迅速にとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における無線通信システムの構成図である。
【図2】図1の無線端末装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1のレピータの構成を示すブロック図である。
【図4】マスタレピータからシステムバスに送出される同期信号及び同期信号に続く各レピータに割当てられたタイムスロットを含む図である。
【図5】レピータと無線端末装置との間で送受信される通信フレームのフォーマットを示す図である。
【図6】図1のレピータ111のCPUによって実行されるフローチャートである。
【図7】図1のレピータ111〜111のCPUによって実行されるフローチャートである。
【図8】通信フレーム送信時に実行されるフローチャートである。
【図9】同期信号と通信フレームとの関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る無線通信システム、中継システム、中継装置、及び、同期方法について、図面を参照して説明する。
【0024】
本実施の形態に係る無線通信システムのサイト100は、図1に示すように、複数(例えば最大30台)のレピータ111〜111から構成されている。複数のレピータ111〜111には、それぞれ固有の中継用チャンネルが割当てられており、同一の通信エリアの中継処理を担う。レピータ111〜111は、通信回線115で相互に接続されており、1つのレピータシステム(中継システム)130を構成する。レピータシステム130によって、チャンネル数n(nは、レピータの台数分)を有する1つの通信エリアが構成される。また、レピータ111〜111は、IP接続線などの通信回線116を介してサーバ104に接続されている。一般に通信回線115を「システムバス」と称するので、以下の説明においては、通信回線115をシステムバスという。
【0025】
サーバ104は、複数のレピータ111〜111の各種設定を遠隔操作により行うことができる。各レピータ111〜111は、レピータユニットとコントローラユニットから構成されている。また、各レピータ111〜111は、レピータ111〜111に関する情報(例えば、中継中か否かを示す情報)を、システムバス115を介してやり取りし、情報を共有している。各レピータ111〜111には、予めどのタイムスロットでデータをシステムバス115に送出するかが設定されている。このため、各レピータ111〜111は、予め設定されたタイムスロットにデータを送出する。
【0026】
複数のレピータ111〜111のうち、1台が「マスタレピータ」として設定される。この実施形態では、レピータ111がマスタレピータであるとする。マスタレピータは、自装置も含めたレピータ111〜111の同期を取るための同期信号をシステムバス115に送出する。
【0027】
無線端末装置TA〜THは、レピータ111〜111のうち、いずれか1台のレピータをホームレピータとして登録している。同様に、各レピータ111〜111は、自己をホームレピータとしている無線端末装置TA〜THの情報を登録している。無線端末装置TA〜THは、待ち受け状態においては、ホームレピータのダウンリンク信号を受信している。無線端末装置TA〜THは、ホームレピータのダウンリンク信号に挿入されている空きチャンネル情報を取得し、通信チャネル(通信に使用するチャンネル)を空きチャンネル情報が示す空きチャンネルに移動し、該空きチャンネルを介して他の無線端末装置との通話を行う。そして、通話が終了すると、通信チャンネルをホームレピータのチャンネルに戻し、待ち受け状態に戻る。図1では、無線端末装置TA〜TDがレピータ111をホームレピータ、無線端末装置TE及びTFがレピータ111をホームレピータ、無線端末装置TG及びTHがレピータ111をホームレピータとしている。
【0028】
図1の無線通信システムは、無線端末装置TA〜THが複数のレピータ111〜111を共用し、中継用に少なくとも1つのレピータを適宜選択する分散型のトランキングシステムである。分散型のトランキングシステムは、制御用の専用チャンネルを有しておらず、全てのチャンネルが、制御チャンネルとして機能すると共に通話チャンネルとしても機能する。例として、無線端末装置TAが同じホームレピータに登録された他の無線端末装置TB〜TDと通話する場合を想定する。この場合、無線端末装置TAは、自己のホームレピータであるレピータ111からのダウンリンク信号に含まれている通話可能なチャンネルを示すチャンネル情報を取得し、取得したチャンネル情報に基づいて通話可能なチャンネルを判別し、判別した通話可能なチャンネルの1つ(例えば、レピータ111のチャンネル)を選択し、選択したチャンネルに自己の通信チャンネルを移動する。
【0029】
さらに、無線端末装置TAは、このチャンネル(レピータ111が提供するチャンネル)に通話許可要求を送信し、レピータ111より通話を許可する旨の応答を受け取ってリンクを確立する。リンクの確立に応答して、ホームレピータ111は、通話の相手である無線端末装置TB〜TDに、リンクを確立した通話チャンネル(レピータ111のチャンネル)への移動を指示する制御信号を送る。無線端末装置TB〜TDは、制御信号に応答して、通話チャンネルを指示されたチャンネルに変更し、無線端末装置TAとの通話を行う。つまり、レピータ111は、自己をホームレピータとして登録している無線端末装置TA〜TDに対しては、制御チャンネルとして動作し、他の無線端末装置TE〜THに対しては通話チャンネルとして動作する。ここで、無線端末装置TA〜TD間の通話は、無線端末装置TA〜TD全体でのグループ通話や、さらにグループの単位を細分化して、例えば、無線端末装置TA及びTBから構成される小グループでのグループ通話、又は、1台の無線端末装置を対象とした個別呼び出し(「Individual Call」という)などがある。
【0030】
次に、各無線端末装置TA〜TH及び各レピータ111〜111の構成及び機能について説明する。図2は、図1の無線端末装置TA〜THの構成を示すブロック図である。図3は、図1のレピータ111〜111の構成を示すブロック図である。図4は、マスタレピータ111からシステムバス115に送出される同期信号及び同期信号に続く各レピータに割当てられているタイムスロットを示す図である。図5(A)、(B)は、レピータと無線端末装置との間で送受信される通信フレームのフォーマットを示す図である。通信フレームはヘッダ部とデータ部で構成されている。ヘッダ部及びデータ部の詳細な内容については後述する。
【0031】
図2に示すように、無線端末装置TA〜THは、信号系のブロックとして、アンテナANTSR、送受信切換部11、送信部12、ベースバンド処理部13、A/D変換部14、マイク15、受信部16、ベースバンド処理部17、D/A変換部18、スピーカ19を備えている。また、無線端末装置TA〜THは、制御系のブロックとして、コントローラ20、計時部25、表示部26、操作部27、同期回路28を備えている。さらに、コントローラ20は、CPU(中央演算ユニット)21、I/O(入出力部)22、RAM(読み書き可能メモリ)23、ROM(読み出し専用メモリ)24、及びこれらを互いに接続する内部バスを備えている。
【0032】
無線端末装置TA〜THの信号系のブロックはCPU21によって制御される。CPU21は、ROM24に記憶されている制御プログラムを実行して無線端末装置の全体を制御し、I/O22を介して操作部27から入力されるコマンドやデータ、及びベースバンド処理部17から得られるデータを処理してRAM23に一時的に記憶する。また、CPU21は、必要に応じて記憶したコマンドやデータをLCD(Liquid Crystal Display)などからなる表示部26に表示する。また、CPU21は、計時部25から得られる現在時刻を表示部26に表示する。
【0033】
同期回路28は、PLL(Phase Locked Loop)回路を内蔵し、ベースバンド処理部17から供給される受信信号に含まれている同期信号、さらに、周期的に受信する通信フレーム等に同期して発振動作し、この無線端末装置TA〜THの動作タイミングの基準となる同期信号を生成する。同期回路28は、さらに、この同期信号に同期した動作クロックを生成し、コントローラ20等に供給する。同期回路28は、比較的長い時定数を有し、同期を一度確立すると、ある程度の期間(例えば、1〜3フレーム周期の間)は、同期状態を維持する。
【0034】
なお、コントローラ20は、無線端末装置の固有の識別情報を記録したフラッシュメモリ等の書き換え可能な不揮発性メモリカードが着脱可能に装着される構成であってもよい。
【0035】
次に、信号系のブロックに関して、送受信切換部11は、その入力端がアンテナANTSRに接続され、その出力端が、CPU21の制御に応じて、送信部12と受信部16に択一的に接続される。操作部27により発信操作がされないときには、この無線端末装置は受信(待受)モードになっており、送受信切換部11の出力端は受信部16に接続されている。一方、操作部27により送信操作がされたときは、この無線端末装置は送信モードになり、送受信切換部11の出力端は送信部12に接続される。
【0036】
マイク15は、送信モードのときに、ユーザの音声入力をアナログ音声信号に変換し、A/D変換部14に出力する。
【0037】
A/D変換部14は、マイク15からのアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換してベースバンド処理部13に出力する。
【0038】
ベースバンド処理部13は、A/D変換部14からのデジタル音声信号に基づいて、あるいはコントローラ20のRAM23に記憶されているデータに基づいて、所定のフォーマットの通信フレーム(ベースバンド信号)を生成し、生成して通信フレームを送信部12に出力する。
【0039】
送信部12は、ベースバンド処理部13からの通信フレームを用いて搬送波を変調し、送受信切換部11及びアンテナANTSRを介して中継動作中のレピータに対して送信する。送信部12の変調方式には、GMSK(Gaussian filtered Minimum Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、又はFSK(Frequency Shift Keying)などが用いられる。
【0040】
無線端末装置TA〜THが受信モードの場合には、送受信切換部11はアンテナANTSRと受信部16とを接続する。受信部16は、レピータ111〜111からの無線信号をアンテナANTSRを介して受信する。受信部16は、受信信号を増幅すると共に、復調処理などの信号処理を施して、復調信号をベースバンド処理部17に出力する。
【0041】
ベースバンド処理部17は、受信部16から出力された復調信号から通信フレームを抽出する。さらに、ベースバンド処理部17は、抽出した通信フレームのヘッダ部Hの情報をCPU21に出力する。CPU21は、ヘッダ部Hの情報を分析して、その受信信号の送信先が自局の場合には、データ部Dに含まれている音声信号のデータについてはD/A変換部18に出力させ、データ部Dに含まれている音声信号以外のデータについてはRAM23に一時的にストアすると共に必要に応じて表示部26に表示する。D/A変換部18は、ベースバンド処理部17からの音声信号をデジタルからアナログに変換してスピーカ19から発音させる。
【0042】
レピータ111〜111は、図3に示すように、信号系のブロックとして、送信専用のアンテナANTS、送信部32、ベースバンド処理部33、受信専用のアンテナANTR、受信部36、ベースバンド処理部37、入力部6、出力部7、ネットワークI/F(インターフェース)8を備えている。また、各レピータ111〜111は、制御系のブロックとして、コントローラ40、計時部45、表示部46、操作部47、を備えている。さらに、コントローラ40は、CPU(中央演算ユニット)41、I/O(入出力部)42、RAM(読み書き可能メモリ)43、ROM(読み出し専用メモリ)44、及びこれらを互いに接続する内部バスを備えている。また、レピータ111〜111は、後述するシステムバス115に自装置の情報を送出し、他のレピータからの情報を取得するためのバスI/F(インターフェース)9を備えている。
【0043】
レピータ111〜111(例えば、レピータ111)は、送信元の無線端末装置(例えば、無線端末装置TA)から受信した無線信号を増幅処理や波形処理などの信号処理を行って、送信先の無線端末装置(例えば、無線端末装置TB)に対して送信する。従って、レピータ111〜111は、基本的には図2に示した無線端末装置TA〜THと同様の構成を備えている。したがって、図2に示した無線端末装置TA〜THの構成要素と基本的に同じものについては、同一の符号で表し、それらの動作については無線端末装置TA〜THと重複するので説明を省略する。
【0044】
レピータ111〜111を経由して無線端末装置TA〜TH同士が通信を行う場合には、無線端末装置からレピータへの送信のアップリンクと、レピータから無線端末装置への送信のダウンリンクとは、周波数又はタイムスロットを変えて実質的に同時に通信する。したがって、レピータ111〜111は送信専用のアンテナANTS及び受信専用のアンテナANTRを備えている。また、複数のレピータ111〜111の各々は、図1に示したように、システムバス115を介して相互に接続され、IP接続線などの通信回線116を介してサーバ104に接続されている。
【0045】
入力部6は、CPU41の入力制御によって、ネットワークI/F8を介してサーバ104より送信されたデータ等を入力する。さらに、別の通信エリアを構成する他のサイト100との通信を行うマルチサイトネットワークを構築する場合は、ネットワークI/F8を介して他のサイトのレピータと通信フレームの受信を行う。
【0046】
出力部7は、CPU41の制御に従って、ネットワークI/F8を介してサーバ104より要求されたデータ等を出力する。さらに、別の通信エリアを構成する他のサイト100との通信を行うマルチサイトネットワークを構築する場合には、ネットワークI/F8を介して他のサイトのレピータと通信フレームの送信を行う。
【0047】
バスI/F9は、CPU41の入力制御によって、マスタレピータによってシステムバス115に送出された同期信号や、自装置以外の他のレピータからシステムバス115に送出されるレピータ情報の取得、CPU41の出力卸御によってシステムバス115への自装置の情報の送出を仲介する。
【0048】
同期回路48は、PLL回路を備え、このレピータが、マスタレピータとして機能する場合には、自ら発振し、このシステム全体の同期信号を生成する。同期信号は、コントローラ40に供給されて動作の基準タイミングとなると共に図4を参照して後述するように、システムバス115上に出力され、他のレピータに伝送される。同期回路48は、このレピータが、スレーブレピータとして機能する場合には、バスI/F9を介して供給される同期信号に同期して発振し、内部の同期信号を生成し、コントローラ40に供給する。この内部同期信号は、レピータの動作の基準タイミングとなる。
【0049】
次に、実施の形態における同期方法について、図4ないし図9を参照して説明する。
図4は、マスタレピータによってシステムバス115に送出される同期信号及びそれに続く各レピータに対応するスロットを示す図である。図4に示すように、同期信号は、1周期が80msになっており、前半の40msは、スロット0からスロット31までの32個のスロットで構成されている。したがって、各スロットは1.25msの時間長になっている。最初のスロット0は同期信号を含み、決められたアルゴリズムに従って特定された1つのレピータすなわちマスタレピータ111が送出する。他のレピータ111〜111はスレーブレピータになって、この同期信号を取得する。レピータ111〜111、すなわちレピータシステム130は、この同期信号に同期して動作している。レピータ111〜111には、同期用のスロット0以外のスロット1〜スロット31のいずれかが割り当てられている。レピータ111〜111は、互いに共有する各レピータの情報(中継チャンネルが空きか否か等)を自装置に割り当てられたスロットに書き込む(出力する)。マスタレピータであるレピータ111は、スロット0には同期信号を送出し、また、スロット1からスロット30のうちレピータ111に割り当てられたスロットにレピータ111の情報を書き込むことになる。なお、最後のスロット31は、ここでは、未定義とする。
【0050】
図5は、レピータと無線端末装置との間で送受信される通信フレームのフォーマットを示す。図5(A)に通話チャンネルとのリンク確立時の通信フレームのフォーマット、図5(B)に音声及びデータ通信時の通信フレームのフォーマットの一例を示す。図5(A)及び(B)に示すレピータとの無線端末装置との間で送受信される通信フレームのフォーマットも1周期が80msであり、384ビットで構成される。図5において、Pはプリアンブル(初期送信時のみ)、FSWはフレーム同期ワード、LICHはリンク情報、SCCHはシグナリング制御、FACCHは高速付随制御、Gはガードタイムのデータが挿入される。
【0051】
図6は、マスタレピータ111(レピータ111)の動作を示すフローチャートである。前述の通り、マスタレピータ111は、図4におけるスロット0に、同期回路48が出力した同期信号を送出し、マスタレピータ111に対しスレーブレピータとなる他のレピータ111〜111は、この同期信号を取得し、マスタレピータ111を含むレピータシステム130は、この同期信号に同期して動作する。また、この同期信号は、通信フレームの周期と同じ80ms毎にシステムバス115上に送出される。
【0052】
実施の形態の無線通信システムは、初期立ち上げ時に所定の規則に従い、レピータ111〜111のうち1台のレピータがマスタレピータとなる。ここでは、レピータ111がマスタレピータとなり同期信号を送出すると仮定する。他のレピータ111〜111は、自動的にスレーブレピータとなり、マスタレピータが送出する同期信号を取得する。またレピータ111〜111には、スロット1〜スロット30のいずれかのスロットが割り当てられている。また、レピータ111〜111は、他のレピータがどのスロットに割り当てられているかについても把握している。割当スロットへの情報の送出は、同期回路48と計時部45とによってタイミングを計る。つまり、同期信号は80ms毎に、自装置の情報は同期信号送出から割当スロット間での時間を計測して送出する。これらを踏まえて、マスタレピータ111の同期信号及び自装置の状態を示す情報の送出、及び、他のレピータ111〜111の情報の取得について説明する。
【0053】
CPU41は、ステップS101において、先の同期信号送出から80ms経過しているか否か、すなわち、スロットがスロット0であるか否かを判別し(ステップS101)、スロット0である場合には、スロット0に同期信号を書き込む(ステップS102)。ステップS101において、先の同期信号送出から80ms経過していない場合、すなわち、スロットがスロット0でない場合には、自装置に割り当てられている割当スロットであるか否かを判別する(ステップS103)。割当スロットである場合には、自装置の情報を割当スロットに書き込む(ステップS104)。スロットが割当スロットでない場合、すなわち、他のレピータの割当スロットである場合には、そのスロットの情報を読み込む(ステップS105)。次に、読み込んだ情報によってRAM43の情報を更新する(ステップS106)。
【0054】
図7は、スレーブレピータ(レピータ111〜111)の動作を示すフローチャートである。スレーブレピータ111〜111は、マスタレピータ111と同様、スロット0に送出される同期信号を取得し、この同期信号に同期して稼働する。また、同期信号が出力されてからの経過時間を計時部45により計時する。
【0055】
スレーブレピータ111〜111は、電源を投入されている間、図7に示す処理を繰り返し、まず、ステップS201において、現在のタイムスロットが、同期信号が送出されるスロットであるか否か、すなわち、スロット0であるか否かを計時部45の計時時間から判別する。スロット0である場合には、スロット0に送出された同期信号を取得する(ステップS202)。ステップS201において、同期信号が送出されるスロット0でない場合には、同期信号取得から時間を計測し、自装置に割り当てられている割当スロットのタイミングであるか否かを判別する(ステップS203)。割当スロットである場合には、自装置の情報を割当スロットに書き込む(ステップS204)。スロットが割当スロットでない場合、すなわち、他のレピータの割当スロットである場合には、そのスロットの情報を読み込む(ステップS205)。次に、読み込んだ情報によってRAM43の情報を更新する(ステップS206)。
【0056】
一方、各レピータ111〜111は、通信フレームを送信するときは、図8のフローチャートに示すように、まず、送信フレームを生成し(ステップS301)、同期信号に同期してこの通信フレームを送信する(ステップS302)。即ち、この無線通信システムは、図9に示すように、同期信号に同期して通信フレームが出力される。
【0057】
一方、無線通信端末TA〜THの同期回路28は、この通信フレームに同期して発振している。従って、無線通信端末TA〜THも同期して動作していることになる。
【0058】
以上のように、上記実施の形態において、マスタレピータ111は、通信フレーム長と同じ80msの周期で、同期信号をシステムバスに送出する。スレーブレピータ111〜111は、このシステムバスに送出された同期信号を取得する。レピータ111〜111は、この同期信号に同期して稼働する。レピータ111〜111が同期する同期信号の周期は、通信フレーム長と同じであるため、レピータ111〜111は、この同期信号に同期したダウンリンク信号を送信することができる。
【0059】
本無線通信システムにおいては、無線端末装置が通話を行うチャンネルは、固定のチャンネルではなく、レピータ111〜111に固有の中継チャンネルのうち、空きチャンネルであるレピータ111〜111のいずれか1つのレピータに対して、通話許可要求を行い、通話許可要求を行ったレピータから通話を許可する旨の応答を受信したら通話を開始するものである。このため、チャンネル周波数の変更を余儀なくされる。特に、デジタル方式の無線通信では、通信フレームのフレーム同期信号を検出し、それに続くデータを復調する。このため、仮にフレーム同期信号の検出が遅れると、受信データは頭切れした状態となってしまう。そのため、デジタル方式の無線通信で、実施の形態のような無線通信システムを構築する場合、無線端末装置では、ロックアップタイムの早いPLLが要求され、コストアップを招くことになる。
【0060】
しかし、本実施の形態では、レピータ111〜111の動作とレピータ111〜111が送信する通信フレームと、無線端末装置TA〜THの動作とが、同期している。さらに、無線端末装置TA〜THの同期回路28が、比較的長い時定数を有し、一旦同期を確立すると、チャンネルの変更等があってもしばらく(例えば、2通信フレーム期間等)は従前の同期状態を維持する。このため、無線端末装置TA〜THは、通信フレームに対する同期状態を維持したまま、チャンネル変更することができる。このため、ロックアップタイムが早い高価なPLLを用いずとも、頭切れを起こすことなく通信フレームを受信することができる。
【0061】
上記実施の形態において、送信工程、及び通信工程はレピータ111〜111のCPU41の機能に相当する。また、CPU41の機能に代えて、送信回路、及び通信回路などの電子回路によって、送信工程、及び通信工程をそれぞれ構成することもできる。
【0062】
なお、上記実施の形態は本発明を説明するためのものであり、本発明は上記実施の形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者によって考えられる他の実施の形態や変形例についても本発明に属するものである。
【0063】
フレーム周期として80msを例示したが、数値やフォーマットは適宜変更可能である。回路構成等も任意であり、ハードウエアで構成した回路の一部をソフトウエアで構成したり、ソフトウエアで構成した機能をハードウエアで構成する等種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
TA〜TH 無線端末装置
111〜111 レピータ
100 サイト
104 サーバ
115 通信回線
130 レピータシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回線を介して相互に接続され、各固有のチャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムと、
該中継システムを介して通信を行う複数の無線端末装置と、を備え、
各中継装置は、自己に登録された無線端末装置に対して制御情報を送信し、
各無線端末装置は、自己が登録された中継装置より送信された前記制御情報を受信し、受信した制御情報に基づいて、各中継装置に割り当てられたチャンネルの中から中継可能な状態であるチャンネルを選択し、選択したチャンネルを介して他の無線端末装置との間の通信を行い、
各中継装置は、前記通信回線を介して通信信号を送受信することにより、前記制御情報を構成する情報を送受信し、該通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させ、各無線端末装置は、通信を行うチャンネルを他のチャンネルに移動したときに、該移動前のチャンネルにおいて確立した同期状態を少なくとも所定期間維持する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記通信回線における通信信号の単位長さと各中継装置が送信するダウンリンク信号の信号フレームの長さが同一に設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記中継システムが、前記通信回線に同期信号を送出するマスター中継装置と、前記通信回線より同期信号を取得するスレーブ中継装置と、からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記マスター中継装置は、同期信号を生成する同期回路を備え、
前記スレーブ中継装置は、受信した同期信号に同期して発振する同期回路を備え、
マスター中継装置及びスレーブ中継装置は、同期信号に同期してダウンリンク信号を送信し、
前記無線端末装置は、受信したダウンリンク信号に同期する同期回路を備え、この同期回路は、確立した同期状態を1同期期間以上維持可能である、
ことを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記各中継装置が、前記通信回線の通信信号中における自己の割り当て位置に、自己が保有する情報を送出し、さらに、前記各中継装置が、前記通信回線の通信フレーム中から他の中継装置が保有する情報を取得し、それに基づいて自己が無線送信する制御情報を構築する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
通信回線を介して相互に接続され、各固有の中継用チャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムであって、
前記複数の中継装置に対して同期を取るための同期信号を前記通信回線に送出するマスター中継装置と、
前記通信回線を介して、前記マスター中継装置が送出した前記同期信号を取得し、前記同期信号に同期して稼働するスレーブ中継装置と、を備える、
ことを特徴とする中継システム。
【請求項7】
通信回線に接続され、固有の中継用チャンネルが割り当てられた中継装置であって、
前記通信回線の通信信号中における自己の割り当て位置に、自己が保有する自己情報を出力する出力部と、
前記通信回線の通信信号中から他の中継装置が出力した他情報を入力する入力部と、
前記他情報に基づいて、自己が無線通信する無線端末装置を制御する制御情報を生成する処理部と、を備え、
前記処理部は、前記通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させるようにする、
ことを特徴とする中継装置。
【請求項8】
通信回線を介して相互に接続され、各固有の中継用チャンネルが割り当てられた複数の中継装置を備えた中継システムと、該中継システムを介して通信を行う複数の無線端末装置と、を同期させる同期方法であって、
前記中継装置が、自己に登録された無線端末装置に対して制御情報を送信する送信工程と、
前記無線端末装置が、自己が登録された中継装置より受信した前記制御情報に基づいて、各中継装置に割り当てられたチャンネルの中から中継可能な状態であるチャンネルを選択して無線端末装置間の通信を行う通信工程と、を備え、
前記送信工程では、前記中継装置が、前記通信回線を介して前記制御情報を構成する情報を取得するとともに、該通信回線における通信信号に自己が無線送信するダウンリンク信号を同期させるようにし、
前記通信工程では、前記無線端末装置が、通信を行うチャンネルを他のチャンネルに移動したときに、該移動前のチャンネルにおいて確立した同期状態を維持する、
ことを特徴とする同期方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−136351(P2010−136351A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248331(P2009−248331)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】