無線通信機、ネットワーク、無線通信方法およびプログラム
【課題】他の通信との干渉を抑制し、データ伝送効率を向上させることを可能にした無線通信機を提供する。
【解決手段】複数のテスト用パケットを無線で送出するデータ送受信部と、複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、サンプルデータをサンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、時系列サンプルデータに基づいて複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部とを有する。
【解決手段】複数のテスト用パケットを無線で送出するデータ送受信部と、複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、サンプルデータをサンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、時系列サンプルデータに基づいて複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機、ネットワーク、無線通信方法、およびその方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN(Local Area Network)通信が、企業の職場だけでなく、家庭内や屋外などの広い範囲に普及してきた。無線LANの普及に伴い、限られた周波数資源での通信量が増加し、互いの通信の干渉問題が深刻になってきた。
【0003】
無線LAN規格の1つであるIEEE802.11では、衝突回避機能付きキャリア感知多重アクセス(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:CSMA/CA)のアクセス制御方法が使用されている(非特許文献1参照)。このアクセス制御方法は、通信を開始しようとする各無線通信機は、通信を開始する前に周りの無線通信機が電波を出していないかを、必ず確認してから通信を開始する方法である。
【0004】
また、上記アクセス制御方法では、通信衝突を回避するために、無線通信機は、周囲の機器(他の無線通信機)が電波を出していれば、ある一定期間(バックオフ時間)だけ待った後、電波が出ていないかを再び調べ、周囲の機器が電波を出していなければ、あるランダムな時間経過後に自分が電波を送信する。無線通信機は、周囲の機器が電波を出していないかを確認するために、キャリアセンスを使用する。
【0005】
キャリアセンスは、無線チャネルの使用状況を確認し、IEEE802.11の規格に合う信号のプリアンプル(同期を確立するための信号)を検出した場合は、信号の受信を行うので無線チャネル使用中(Busy:ビジー)となる。IEEE802.11の規格に合う信号のプリアンプルを検出できなかった場合で、予め設定されたキャリアセンス閾値より高い電力レベルが検出されたときは、ビジーと判断し、送信を待機する。また、キャリアセンス閾値より低い電力レベルが検出されたときは、無線チャネルが未使用(アイドル)と判断される。
【0006】
上述したアクセス制御方法には、次のような問題があった。以下では、IEEE802.11を満たす無線通信機を「802.11無線機」と表記する。
【0007】
802.11無線機の送受信制御に使用されているCSMA/CAは、外部干渉によるパケットの衝突を完全には回避できないという問題がある。しかもパケット衝突の検出ができないため、パケット衝突による通信失敗が起こった場合、通信失敗の原因の確定ができず、通信失敗に対して有効な防止策を立てられない。また、外部干渉によりパケットが衝突する場合、衝突率を定量的に統計する手段がないため、正確に衝突の度合を評価するのは難しい。
【0008】
パケット衝突の検出方法として、信号の送信と同時に伝送路上の信号を観測し、観測された信号から送信信号を除去し、送信信号が除去した後の信号のエネルギー量に基づいて、伝送路上の信号衝突の有無を判定する衝突検出方法が特許文献1に開示されている。また、パケット衝突に関する別の検出方法として、近傍に存在する無線端末数および無線伝送速度等に基づいて、データの衝突確率を算出することが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−64884号公報
【特許文献2】特開2010−233187号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】無線LAN規格 IEEE802.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された方法では、送信信号以外の干渉信号の有無を判定できるが、観測された干渉信号は受信側の受信を干渉するかどうか判定できない。また、送信側で観測できない信号が受信側での受信を干渉するおそれもあり、その干渉についても検出できない。
【0012】
特許文献2に開示された方法では、データの衝突確率は予測される無線状況から算出されており、予測された無線状況が実際の無線状況と大きく異なっている場合、算出される衝突確率は実際の無線状況と合わないものになってしまう。特許文献1および2に開示された方法は、パケット衝突の検出精度が不十分であり、データの伝送効率を向上させるための対策を取れない。
【0013】
また、無線LAN通信では外部干渉からの影響は干渉距離や干渉波の電力強度によって異なり、802.11無線機では、これらの異なる干渉状況を正確に把握できないという問題もある。その結果、干渉状況に合わせてデータの伝送効率を向上させるための対策を取ることができない。
【0014】
本発明は上述したような技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、他の通信との干渉を抑制し、データの伝送効率を向上させることを可能にした無線通信機、ネットワーク、無線通信方法、およびその方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明の無線通信機は、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、センシングした空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、
前記信号センシング部から出力されるサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部と、
を有する構成である。
【0016】
また、本発明の無線通信機は、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行うデータ送受信部と、
前記データ送受信部で算出された、前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出する計算処理部と、
前記計算処理部が算出した前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定する通信状態分類部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記通信状態分類部が判定した通信状態に対応して調整する制御部と、
を有する構成である。
【0017】
また、本発明のネットワークは、本発明の無線通信機が基地局として複数配置された構成である。
【0018】
また、本発明の無線通信方法は、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整するものである。
【0019】
また、本発明の無線通信方法は、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整するものである。
【0020】
また、本発明のプログラムは、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるものである。
【0021】
さらに、本発明のプログラムは、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、他の通信との干渉を抑制し、データの伝送効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の無線通信機で実行される通信状態分類アルゴリズムの一例を示す図である。
【図3】図2に示した通信状態分類アルゴリズムで用いられる閾値Bの無線伝送レートに対する依存関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態の無線通信機による、通信状態分類方法の動作を具体的に説明するための図である。
【図5】図4に示した無線機Aのbcの一例を示す図である。
【図6】図4に示した無線機Aのdrの一例を示す図である。
【図7】図4に示した無線機Aの通信状態の分類結果の一例を示す図である。
【図8】第1の実施形態の無線通信機で実行される干渉検出アルゴリズムの一例を示す図である。
【図9】電力の時系列サンプルデータからパケットの衝突を検出する方法を説明するための図である。
【図10】想定される2種類のパケット衝突パターンを説明するための模式図である。
【図11】第1の実施形態の無線通信機において、通信状態が更新された際、1つの通信状態が確認された場合の通信制御動作の手順を示す図である。
【図12】第1の実施形態の無線通信機において、通信状態が更新された際、2つの通信状態が確認された場合の通信制御動作の手順を示す図である。
【図13】第2の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図14】第3の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図15】第1の実施形態の無線通信機が基地局として構成される、第4の実施形態におけるメッシュネットワークの一例を示す図である。
【図16】第4の実施形態におけるメッシュネットワークにおいて、基地局のキャリアセンス感度の調整方法を説明するための図である。
【図17】第4の実施形態におけるメッシュネットワークにおいて、通信路の通信品質測定方法を説明するための図である。
【図18】第4の実施形態におけるメッシュネットワークの運用方法を説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態の無線通信機について説明する。以下では、無線LAN規格がIEEE802.11の場合で説明する。また、IEEE802.11を満たす無線通信機を「802.11無線機」と表記するだけでなく、IEEE802.11を満たす無線送信機を「802.11無線送信機」と表記し、IEEE802.11を満たす無線受信機を「802.11無線受信機」と表記する。
【0025】
(第1の実施形態)
本実施形態の無線通信機の構成を説明する。図1は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の無線通信機は、データ通信と信号センシングを行う通信部1と、受信信号の初期処理と通信評価用パラメータの算出を行う計算処理部2と、情報を記録する記憶部3と、干渉を受ける自機の通信状態を分類する通信状態分類部4と、通信衝突の検出と評価を行う衝突検出部5と、通信部1の通信性能を調整する制御部6とを有する。
【0027】
なお、計算処理部2、通信状態分類部4、衝突検出部5および制御部6を含む演算制御部8に、プログラムにしたがって処理を実行するCPU(Central Processing Unit)(不図示)と、プログラムを格納するためのメモリ(不図示)とが設けられている。CPUがプログラムを実行することで、計算処理部2、通信状態分類部4、衝突検出部5および制御部6が仮想的に構成される。
【0028】
通信部1は、信号センシング部11と、データ送受信部12とを有する。信号センシング部11は、受信アンテナを備え、本実施形態の無線通信機が送信時に用いる周波数チャネルと同じ周波数領域で空間電波信号の電力をセンシングする。
【0029】
データ送受信部12は、送受信アンテナを備え、本実施形態の無線通信機で処理されるデータおよびテストパケットの送受信と、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計とを行う。送受信パラメータの例としては、"送信パケットが占める時間"、"一組のデータの送信において最初のパケット送信開始から最後のパケット送信完了までの時間"、"送信パケット数"、"送信成功パケット数"、"単位時間当たりの送信パケット数"等がある。
【0030】
計算処理部2は、信号センシング部11から供給される空間電波信号の電力データを時系列データに変換することと、データ送受信部12から供給される送受信パラメータに基づいて通信評価用パラメータを計算することとを行う。通信評価用パラメータの例としては、"Busy Count(bc)"、"Delivery Ratio(dr)"、"Standard Deviation of deliver ratio(Std(dr))"等がある。
【0031】
bcはチャネルが使用されている可能性があると判断する時間の割合を表す。bcは、観測時間内でチャネルがビジーの状態にある時間を観測時間で割ることで求められる。bcはビジー率と称されることもある。連続時間でのbc測定ができない場合、観測時間内にチャネルをサンプリングし、チャネルのサンプル値のうち、ビジーであるサンプル値をカウントし、ビジーであるサンプル値の数を観測時間内の全体のサンプル数で割ることでbcが求められる。drは送信成功率を表す。drは、以下の式(1)で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、TxFrameは観測時間内の送信成功パケットの数である。TxCountは観測時間内の送信パケットの数である。
【0034】
Std(dr)は一定時間内のdrの標準偏差値を表す。
【0035】
通信状態分類部4は、計算処理部2から算出される、テスト通信における通信評価用パラメータを用いて、自機の送信が他の通信からの干渉の影響により、自機の通信状態が3つの通信状態のうち、いずれの状態にあるかを判定する。通信評価用パラメータで分類される3つの状態とは、"Performance Anomaly State(PA)"、"Gray State(Gray)"、および"Max Performance State(Good)"である。
【0036】
PAは高速伝送レート通信と低速伝送レート通信とが互いの存在を検知できる場合、高速伝送レート通信のスループットが低速伝送レート通信のスループットより低下する通信状態を表す。ここで、スループット(throughput)は単位時間あたりのデータの実効伝送量を意味する。Grayは802.11無線機Xの送信信号が他の802.11無線機Yに検知されてないため、802.11無線機Xの送信信号が受信側で他の802.11無線機Yの送信信号に干渉される場合の通信状態を表す。Gray状態における通信は他の通信からの干渉によって送信の成功率が低下する。Goodは802.11無線送信機が単独でチャネルを使用しているか、あるいは、自分と同じレートで送信する送信機によってチャネルが使用されている通信状態を表す。
【0037】
衝突検出部5は、計算処理部2から出力される空間電波信号電力の時系列を用い、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの個数を算出する手段と、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットと他の無線通信機が送信したデータパケットとの衝突を検出する手段と、衝突したデータパケットの数を算出する手段と、衝突したデータパケットの数と本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの数に基づいてデータパケットの衝突率を算出する手段とを備える。
【0038】
制御部6は、通信状態分類部4と衝突検出部5とから出力される結果に基づき、本実施形態の無線通信機の伝送効率を高めるように送信パラメータを調整する。なお、伝送効率を高めるために、本実施形態では、通信状態分類部4と衝突検出部5のそれぞれが個別に動作してもよく、あるいは、同時に動作してもよい。
【0039】
次に、本実施形態の無線通信機の動作について、図1を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態の無線通信機の通信状態分類の動作について詳細に説明する。
【0040】
図1に示すデータ送受信部12は、一定の伝送レートで、802.11受信機にテスト送信を行う。送信完了後に、送受信パラメータを統計し、送受信パラメータの統計結果を計算処理部2に出力する。
【0041】
次に、計算処理部2は、データ送受信部12から供給される送受信パラメータの統計結果に基づいて、上記テスト送信を評価するための通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を計算する。そして、計算処理部2は、通信評価用パラメータの計算結果を記憶部3に保存する。
【0042】
次に、通信状態分類部4は、記憶部3に保存されている、テスト送信を評価するための通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を、通信状態分類部4に設けられたバッファ(不図示)に読み込み、本実施形態の無線通信機の通信状態を分類する。上記の外部干渉の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態が、図2に示す通信状態分類アルゴリズムに従って3つの状態に分類される。3つの通信状態とは、PA、GrayおよびGoodである。
【0043】
図2を参照して通信状態分類アルゴリズムについて詳細に説明する。なお、演算制御部8内のCPU(不図示)が、図2に示す通信状態分類アルゴリズムを含むプログラムを実行することで、通信状態分類部4が仮想的に構成される。そのため、図2に示す通信状態分類アルゴリズムを実行する主体が通信状態分類部4であるものとして説明する。
【0044】
通信状態分類部4は、まず、drが閾値Aより大きいかどうかを調べる(ステップA1)。drが閾値Aより大きい場合、通信状態分類部4は、bcが閾値Bより大きいかどうかを調べる(ステップA2)。bcが閾値Bより大きく、かつdrが閾値Aより大きい場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態はPA状態であると判定する(ステップA5)。PA状態は、他の通信の干渉による影響は大きくはないが、通信に異常が発生している通信性能異常状態に相当する。
【0045】
図2において、ステップA1でdrが閾値Aより大きく、かつステップA2でbcが閾値B以下の場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響が小さく、本実施形態の無線通信機の通信状態がGood状態であると判定する(ステップA4)。Good状態は、他の通信との干渉による影響がほとんどない無干渉状態に相当する。
【0046】
図2に示すステップA1で、drが閾値A以下である場合、通信状態分類部4は、Std(dr)が閾値Cより大きいかどうかを調べる(ステップA3)。Std(dr)が閾値Cより大きく、かつdrが閾値Aより大きくない場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態がGray状態であると判定する(ステップA6)。Gray状態の区域をGZと表記する。Gray状態は、他の通信の干渉を受けている通信干渉状態に相当する。
【0047】
図2において、ステップA1でdrが閾値A以下で、かつStd(dr)が閾値C以下である場合(ステップA3)、通信状態分類部4は、本実施形態の無線通信機のテスト送信信号が無線受信機に到達していないと判定する(ステップA7)。
【0048】
ここで、図2に示した通信状態分類アルゴリズムにおける判定処理で用いられた閾値A、閾値Bおよび閾値Cについて説明する。閾値A、閾値Bおよび閾値Cは、802.11無線通信機の性能特性に依存する。閾値A、閾値Bおよび閾値Cは、判定のための基準値に相当する。
【0049】
閾値Aは、802.11無線機と、干渉源となる他の802.11無線機が同時にそれぞれの802.11受信機に送信する場合、かつ互いの送信を検知できる場合の802.11無線機のdrの最小値である。
【0050】
閾値Bは無線伝送レートに依存する。図3に閾値Bの無線伝送レートに対する依存関係を示す。閾値Bの伝送レートに対する依存関係は以下の手順で求められる。まず、1つの通信リンクしか存在しない環境で、通信リンクの802.11無線送信機に802.11無線受信機に向けて各伝送レートでそれぞれ送信テストをさせ、次に、各伝送レート下のbcをそれぞれ求め、最後に各伝送レートとそれぞれのbcに対応関係をつける。bcに一定のオフセットを足して検出用の閾値Bとする。本実施形態の通信状態分類アルゴリズムは、図3に示すテスト送信レートと対応する閾値Bを用いて、通信状態を判定する。図3に、オフセットを10%にした例を示す。1つの通信リンクしか存在しない環境で測定したbcを四角印で示し、さらにオフセットを10%に足した閾値Bを三角印で示す。
【0051】
閾値Cは、802.11無線機と、干渉源となる他の802.11無線機が同時にそれぞれの802.11無線受信機に送信する場合、かつ互いの送信を検知できない場合の802.11の無線機の一定時間内のdrの標準偏差値である。通信状態分類部4は、上記の判定結果を記憶部3に保存する。
【0052】
次に、本実施形態の無線通信機の通信状態分類方法の動作について、図4を参照して具体例を説明する。無線機Aが本実施形態の無線通信機とし、無線機B、無線機Cおよび無線機DがIEEE802.11を満たす無線通信機とする。
【0053】
図4に示すように、例えば、無線機Aが自機から9メートル離れた無線機Bに、54Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのパケットを無線送信するものとする。同時に、無線機Cが自機から9メートル離れた無線機Dに、6Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのパケットを無線送信するものとする。無線機Aと無線機Bの送信電力はなるべく固定することが望ましいが、特に限定されない。
【0054】
無線機Aから無線機Bへのパケット送信をflow1と呼び、無線機Cから無線機Dへのパケット送信をflow2と呼ぶ。ここではflow2がflow1に与える干渉信号を検出対象とする。従って、flow2をflow1から離していくにつれ、flow2がflow1に与える干渉が弱まる。図4に示す例では、flow2がflow1に与える干渉波の強度を調査するために、flow2をflow1から離す距離を1メートルから200メートルまで変化させ、本実施形態の無線機Aの通信状態の分類を行う。
【0055】
無線機Aのデータ送受信部12は、flow2がflow1と1メートルの距離から移動開始するのと同時に送受信パラメータの統計処理を開始する。無線機Aの計算処理部2は、無線機Aのデータ送受信部12から供給される送受信パラメータに基づいて、通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を計算し、計算結果を記憶部3に保存する。図4に示す例では、無線機Aの計算処理部2で求めたbcとdrのそれぞれを図5と図6のそれぞれに示す。図5の縦軸はbcを示し、横軸は距離を示す。図5に示す実線はbcの平均値を結ぶ線である。図6の縦軸はdrを示し、横軸は距離を示す。
【0056】
図4示す無線機Aの通信状態分類部4は、記憶部3に保存されている通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を記憶部3から読み出し、図2に示す通信状態分類アルゴリズムにしたがって、flow2がflow1から1メートルから200メートルまで離れて行く過程で、flow2からの干渉を受けるflow1の無線機Aの通信状態を分類する。図4に示す例では、通信状態分類アルゴリズムにおける閾値Aと閾値Cとして、上述の閾値の計算方法により、それぞれ80%と0.12を用いる。
【0057】
上述の閾値Bの計算方法により求めた、伝送レートと閾値Bの関係を表1に示す。表1に示すbcは閾値Bに相当する。
【0058】
【表1】
【0059】
本実施形態では、上述の閾値Bの計算方法によって求めた表1を参照し、図4に示す例では、閾値Bとして、伝送レート54Mbpsに対応する59%を用いる。無線機Aの通信状態の分類結果を図7に示す。図7の縦軸は通信状態を示し、横軸は距離を示す。
【0060】
次に、本実施形態の無線通信機の衝突検出の動作について詳細に説明する。
【0061】
図1に示すデータ送受信部12はテスト用パケットを最大伝送速度(例えば54Mbps)で一定時間(例えば3秒)にかけてテスト送信する。このとき、衝突検出部5は、データ送受信部12が送信したテスト用パケットの個数をカウントし、カウントした個数をC1として記録部3に保存する。テスト送信の開始と同時に、信号センシング部11はテスト送信と同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングする。テスト送信完了後に、信号センシング部11はセンシングを停止し、センシングした空間電波信号のサンプルデータを計算処理部2に出力する。
【0062】
次に、計算処理部2は、信号センシング部11から供給される空間電波信号のサンプルデータに基づいて、空間電波信号のサンプルデータを時系列の電力サンプルデータに変換する。その時系列の電力サンプルデータを記憶部3に保存する。以下では、この時系列の電力サンプルデータを、単に「時系列サンプルデータ」と称する。
【0063】
次に、衝突検出部5は、記憶部3に保存されている時系列サンプルデータを衝突検出部5に読み込み、本実施形態の無線通信機が他の802.11無線機からの干渉を受ける場合、上記の干渉を検出する。
【0064】
次に、図8と図9を参照して、干渉検出のアルゴリズムについて詳細に説明する。図8は干渉検出アルゴリズムの一例を示し、図9は電力の時系列サンプルデータからパケットの衝突を検出する方法を説明するための図である。図9の縦軸は電力を示し、横軸は時間を示す。
【0065】
図8に示すように、干渉検出アルゴリズムは、平均電力算出プロセス51と、衝突回数統計プロセス52と、衝突率算出プロセス53とを有する。なお、演算制御部8内のCPU(不図示)が、図8に示す干渉検出アルゴリズムを含むプログラムを実行することで、衝突検出部5が仮想的に構成される。そのため、図8に示す各プロセスを実行する主体が衝突検出部5であるものとして説明する。
【0066】
はじめに、平均電力算出プロセス51の動作について詳細に説明する。衝突検出部5は、図9(a)に示す時系列サンプルデータに基づいて、図9(b)に示す第1回目の平均電力計算を行う(ステップB1)。具体的には、衝突検出部5は記憶部3から読み込んだ時系列サンプルデータをN個毎に分け、それぞれの平均電力を求める(ステップB1)。図9(b)に示す例では、N=2である。図9(a)に示す黒丸印は、センシングした信号の電力パワーを示す。
【0067】
次に、衝突検出部5は、図9(c)に示す第2回目の平均電力計算を行う(ステップB2)。具体的に説明する。衝突検出部5は、ステップB1で求められた平均電力のデータの最初から最後まで順番に調べる。そして、閾値1より大きいデータがあり、その後に、閾値1より大きいデータの連続する数が(M−1)個である場合、衝突検出部5は、これらM個の連続のデータの平均値を求め、求めた平均値をこれらM個のデータのそれぞれの平均電力の値にする。図9(c)に示す例では、M=5である。
【0068】
一方、閾値1より大きいデータがあり、その後に、閾値1より大きいデータの連続する数が(M−1)個より小さい場合、衝突検出部5は、“平均電力が閾値1より大きい最初のデータ”から“平均電力が閾値1より小さい最初のデータの1つ前のデータ(連続する(M−1)個より小さい数のデータのうち、平均電力が閾値1より大きい最後のデータ)”までのデータの平均値を求める。そして、衝突検出部5は、求めた平均値を、平均電力が閾値1より大きい最初のデータから最後のデータまでのそれぞれの平均電力の値とする。
【0069】
上述のM個のデータ、または(M−1)より小さい個数のデータの場合と同様にして、衝突検出部5は、第2回目の平均電力計算を、それ以降のデータについても、ステップB1で求められた平均電力のデータの最後まで行う。さらに、このようにして求められた平均電力のうち、ノイズの電力閾値より小さい平均電力値をL個(例えば3個)の連続する0値と入れ替える(ステップB2)。図9(c)に示す例では、L=2である。
【0070】
ここで、N×Mは最大伝送速度で送信する1個のテストパケットのサンプル数Kと一致する。NをKの約1%にする場合に適切な計算精度が得られる。閾値1はデバイスの性能によって異なるが、キャリアセンスの閾値より大きく設定する。キャリアセンスの閾値は、CSMA/CAにおいて、チャネルが使用されているか否かを判定するための閾値である。キャリアセンスの閾値はClear Channel Assessmentレベル(CCAレベル)とも言われている。ノイズの電力閾値はノイズの平均電力の1.5倍が適切だと考えられる。ノイズの平均電力は電力測定器により求められる。また、電力判定の基準として、閾値1とは別に閾値2を定義しておく。閾値2はデバイスの性能によって異なるが、閾値1を負の値にしたものと等しい。
【0071】
衝突検出部5は、図9(c)に例示した、ステップB2で求めた時系列データの全てのデータ値のそれぞれについて、当該データ値から直前のデータ値を引いて、隣接データの電力差を求める(ステップB3)。つまり、隣接する2つのデータについて、時間経過の大きい方から時間経過の小さい方を引いた値を、隣接データの電力差とする。その結果の一例を図9(d)に示す。図9(d)の時間軸の上側は電力差の値がプラスであることを示し、時間軸の下側は電力差の値がマイナスであることを示す。図9(d)における黒三角印は隣接データの電力差を示す。図9(d)を電力差時系列データと称する。
【0072】
次に、衝突回数統計プロセス52の動作について詳細に説明する。
【0073】
衝突検出ステップ(ステップB4)において、衝突検出部5は、ステップB3で求めた時系列データの最初から順番に調べる。閾値1より大きいデータの後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値1より大きいデータ”である場合(これをケース1と称する)、衝突検出部5は、1回のパケット衝突としてカウントする。ケース1に該当しない場合、次のケースについて判定する。ただし、閾値1をCCAレベルより大きく、かつテスト用パケットの電力の50%より小さく設定する場合があり、このように閾値1を定義した場合、ケース1のパケット衝突は存在しないため、ケース1についての判定を行わない。
【0074】
閾値1より大きいデータの直前のZ個のデータ値の中に0の値が存在しない場合(これをケース2と称する)、あるいは閾値2より小さいデータの直後のY個のデータ値の中に0の値が存在しない場合(これをケース3と称する)、衝突検出部5は、1回のパケット衝突としてカウントする。Zはデバイスの性能によって異なるが、2個が適切だと考えられる。Yはデバイスの性能によって異なるが、5個が適切だと考えられる。ただし、上記のケース2とケース3が連続する場合、つまり、閾値1より大きく、かつ直前のZ個のデータ値の中に0の値が存在しないデータの直後に、閾値2より小さく、かつ直後のY個のデータ値の中に0の値が存在しないデータ値が出現する場合、衝突検出部5は、2回のパケット衝突とカウントせず、1回のパケット衝突としてカウントする。
【0075】
一方、“閾値1より大きいデータ(このデータを「データP1」と称する)”の直前のZ個のデータの中に0が存在し、データP1の後に最初に出現する“閾値2より小さいデータ(このデータを「データP2」と称する)”の直後のY個のデータの中に0が存在する場合、衝突検出部5は、次に説明するケース4またはケース5のいずれかに該当すると判定すると、1回のパケット衝突としてカウントする。ケース4は、データP2の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値2より小さいデータ”の場合である。ケース5は、データP2の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値1より大きいデータ”であり、かつ、データP1とデータP2の和の絶対値が閾値3より大きい場合である。閾値3はデバイスの性能によって異なるが、閾値1と同等の値が適切だと考えられる。ケース4およびケース5のいずれにも該当しなければ、衝突検出部5は、パケット衝突ではないと判定する。衝突検出部5は、上述のようにしてカウントしたパケット衝突の回数C2を記録装置3に保存する(ステップB5)。
【0076】
ここで、図9(d)を参照して、衝突検出部5がケース4のパケット衝突を検出する方法を説明する。図9(d)には、説明のために、隣接データの電力差を示すデータに符号101〜108を付している。
【0077】
図9(d)に示すデータ101はデータP1の条件に当てはまり、データ102はデータP2の条件に当てはまるが、データ102の後に、閾値2より小さいデータではなく、閾値1より大きいデータ103が最初に出現するので、ケース4には該当しない。また、データ102の後に閾値1より大きいデータ103が最初に出現するが、データ101とデータ102の和の絶対値はほぼ0(<閾値3)となり、ケース5にも該当しない。
【0078】
続いて、図9(d)を参照して、時間軸に沿ってデータを見ていくと、データ103がデータP1の条件に当てはまり、データ104がデータP2の条件に当てはまるので、ケース4またはケース5に該当するか検討する。図9(d)を見ると、データ104の後に、閾値1より大きいデータではなく、閾値2より小さいデータ106が最初に出現するので、ケース4に該当することがわかる。なお、データ104の後のデータ105は、閾値1より小さく、かつ閾値2より大きいので、“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のいずれにも該当せず、判定対象から除外される。
【0079】
さらに、図9(d)を参照して、時間軸に沿ってデータを見ていくと、データ107がデータP1の条件に当てはまり、データ108がデータP2の条件に当てはまる。しかし、図9に例示する時系列データの観測時間の範囲では、データ108の後には、“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”が出現していないので、パケット衝突があるか否かを判定する必要はない。
【0080】
ここで、閾値1をキャリアセンスの閾値より大きく設定する理由を説明する。図10は想定される2種類のパケット衝突パターンを説明するための模式図である。図10の縦軸は電力を示し、横軸は時間を示す。そして、図10では、送信端末の送信パケットの電力を縦長の四角形で示し、干渉パケットの電力を横長の四角形で示している。
【0081】
パケットの衝突には2種類のパターンがある。この2種類のパターンを第1および第2のパターンと称する。図10(a)は第1のパターンの時系列サンプルデータを模式的に示す図であり、図10(b)は図10(a)に示した時系列サンプルデータに対して包絡特徴抽出を行った電力差時系列データを模式的に示す図である。ただし、図10(b)では、閾値1より電力の低い干渉パケットの部分が「0でない値が連続して出現すること」を示すために、図10(a)に示した干渉パケットをそのまま模式的に示している。
【0082】
図10(a)に示す第1のパターンは、干渉パケットの電力がキャリアセンスの閾値より大きい場合である。この場合、各送信端末が互いの送信パケットの存在を正しく検知できる。各送信端末はチャネルが空いていると判定した後、ちょうど同時にパケットを送信すると、図10(a)に示すように、パケットの衝突が起こり得る。図10(a)に示すパケット衝突pc1は、図10(b)を見てわかるように、上述したパケット衝突検出判定のケース5に相当する。また、図10(a)に示すパケット衝突pc2は、上述したパケット衝突検出判定のケース3に相当する。
【0083】
ここで、図10(b)では、パケット衝突pc3は検出されないように見える。これは、図10(a)に示す観測時間では、パケット衝突pc3の後に出現するテスト用パケットが観測されていないからである。パケット衝突pc3の後にテスト用パケットが検出されると、パケット衝突pc3における「閾値1より大きいデータ」の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータは、次のテスト用パケットの「閾値1より大きいデータ」となる。そのため、パケット衝突pc3は、上述したパケット衝突検出判定のケース1に相当する。よって、本実施形態では、第1のパターンのパケット衝突を検出できることがわかる。
【0084】
図10(c)は第2のパターンの時系列サンプルデータを模式的に示す図であり、図10(d)は図10(c)に示した時系列サンプルデータに対して包絡特徴抽出を行った電力差時系列データを模式的に示す図である。ただし、図10(d)では、キャリアセンスの閾値より電力の低い干渉パケットの部分が「0でない値が連続して出現すること」を示すために、図10(c)に示した干渉パケットをそのまま模式的に示している。
【0085】
図10(c)に示す第2のパターンは、干渉パケットの電力がキャリアセンスの閾値より小さい場合である。この場合、各送信端末が互いの送信パケットの存在を正しく検知できないため、チャネルのビジー状態を正しく判定できない。その結果、図10(c)に示すように、自端末が送出したパケットと、検出できない干渉パケットとの衝突が発生する。図10(c)に示す3つのパケット衝突は、図10(d)を見てわかるように、上述したパケット衝突検出判定のケース2またはケース3に相当している。そのため、本実施形態では、第2のパターンのパケット衝突も検出できることがわかる。
【0086】
図10を参照して説明したように、本実施形態では、閾値1をキャリアセンスの閾値より大きく設定することで、上記の第1および第2のパターンのいずれの衝突パターンの検出にも対応できることがわかる。
【0087】
次に、衝突率算出プロセス53の動作について詳細に説明する。衝突検出部5は、衝突率を算出するため、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの個数C1とパケット衝突の回数C2を記憶部3から読み出し、以下に示す式(2)によって衝突率を求める。最後に、衝突検出部5は、算出した衝突率を記憶部3に保存する(ステップB6)。
【0088】
【数2】
【0089】
式(2)において、右辺の分母は送信したテスト用パケットの個数C1であり、分子はパケット衝突の回数C2である。
【0090】
次に、図4に示した実験を用いて、衝突検出の実験結果を示す。ここでも、無線機Aが本実施形態の無線通信機とし、無線機B、無線機Cおよび無線機DがIEEE802.11を満たす無線通信機とする。
【0091】
図4に示すように、例えば、無線機Aが自機から9メートル離れた無線機Bにパケットを無線送信するものとする。同時に、無線機Cが自機から9メートル離れた無線機Dにパケットを無線送信するものとする。無線機Aから無線機Bへのパケット送信をflow1と呼び、無線機Cから無線機Dへのパケット送信をflow2と呼ぶ。flow2がflow1に与える干渉信号を検出対象とする。従って、flow2をflow1から離していくにつれ、flow2がflow1に与える干渉が弱まる。
【0092】
図4に示す例では、flow1に与える干渉波の強度を調査するために、flow2をflow1から離す距離を、1メートル、10メートル、40メートル、80メートル、110メートル、および200メートルの6つの場合とし、それぞれの距離の位置にflow2を順番に移動させる。各位置で、無線機Aが54Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのテスト用パケットを0dBmの送信電力で無線機Bに3秒間送信する。同時に無線機Cが6Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのテスト用パケットを0dBmの送信電力で3秒間送信する。ここでは、flow2がflow1に与える干渉を、限られた移動距離(200メートル)内に減衰させるため、最大送信電力ではなく0dBmの送信電力でテスト送信を行う。
【0093】
閾値1をテスト用パケットの平均電力の35%に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値1=(P×0.35)となる。閾値2をテスト用パケットの平均電力の35%の負の値に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値2=−(P×0.35)となる。閾値3をテスト用パケットの平均電力の35%に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値3=(P×0.35)となる。各位置でのテスト用パケット送信期間内の衝突検出結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2には、flow1およびflow2間の距離に対応して、送信パケット数、パケット衝突数およびパケット衝突率が記述されている。
【0096】
本実施形態の無線通信機の通信状態分類部4の分類結果と衝突検出部5の衝突検出結果をそれぞれ用いて、無線通信機の通信を制御する動作について詳細に説明する。
【0097】
はじめに、本実施形態の無線通信機の通信状態分類部4の分類結果に基づく、制御部6の通信制御方法について詳細に説明する。本実施形態の無線通信機の制御部6は、記憶部3に対して定期的にチェックを行い、通信状態の更新の有無を確認する。通信状態の更新が確認された場合、制御部6は、通信部1に動作指令を出す。表3に制御部6から通信部1に送出される動作指令の一例を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3には、通信状態がPAの場合とGrayの場合の動作指令が記述されている。チャネル、パケットサイズおよび通信ルートのそれぞれは、送信パラメータの一種である。
【0100】
表3に示すように、動作指令には、動作指令1、動作指令2および動作指令3がある。本実施形態では、動作指令に優先度を設けており、動作指令1が動作指令2より優先度が高く、動作指令2が動作指令3より優先度が高い。本実施形態の無線通信機は動作指令1のチャネル変更指令を実行することにより、他の干渉信号が存在しないチャネル、あるいは、他の干渉信号からの影響が少ないチャネルで送信することが可能となる。通信状態がPAの場合、本実施形態の無線通信機は動作指令2のパケットサイズ増加指令を実行することにより、1回の送信でより多いデータを送信でき、より多い時間でチャネルを利用でき、伝送効率を上げられる。通信状態がGrayの場合、本実施形態の無線通信機は動作指令2のパケットサイズ減少指令を実行することにより、1つのデータパッケトの伝送にチャネルの利用時間が減少し、他の干渉信号との衝突の確率が下がり、伝送効率を上げられる。本実施形態の無線通信機は動作指令3の通信ルート変更指令を実行することにより、他の干渉信号が存在しない通信ルート、あるいは、他の干渉信号からの影響が少ない通信ルートで送信することが可能となる。
【0101】
図11を参照して、本実施形態の無線通信機の通信状態が更新された場合、かつ通信状態が1つしか確認されない場合の通信制御動作について詳細に説明する。
【0102】
はじめに、制御部6が、通信状態がPAに更新されたのを確認した場合を説明する。制御部6は通信状態がPAに更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0103】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令2の「パケットサイズ増加指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0104】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0105】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。
【0106】
続いて、制御部6が、通信状態がGrayに更新されたのを確認した場合を説明する。制御部6は通信状態がGrayに更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0107】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令2の「パケットサイズ減少指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0108】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0109】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令より優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。
【0110】
図12を参照して、本実施形態の無線通信機の通信状態が更新された場合、かつ2つの通信状態が確認される場合の通信制御動作について詳細に説明する。
【0111】
干渉源が2つ以上に存在するため、通信状態のPAとGrayが同時に存在することがある。制御部6はPAとGrayの2つの通信状態が同時に存在し、かつ通信状態が更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0112】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度の低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0113】
制御部6がデータ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令より優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。制御部6は通信状態がGoodに更新されたのを確認した場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を発送しない。
【0114】
次に、本実施形態の無線通信機の衝突検出部5の衝突検出結果に基づく、制御部6の通信制御方法について詳細に説明する。
【0115】
本実施形態の無線通信機の制御部6は、記憶部3に定期的にチェックを行い、衝突率の更新を確認する。制御部6は、衝突率の更新を確認した場合、かつ衝突率が閾値4より大きい場合、送信パラメータの調整を指示する旨の送信パラメータ調整指令をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12は、制御部6から送信パラメータ調整指令を受け取ると、素早く指令に従って送信パラメータを調整する。送信パラメータには、キャリアセンス感度、バックオフ時間および伝送レートなどがある。バックオフ時間は、802.11無線機の送信待機時間のことである。閾値4はデバイスの性能と通信の応用によって決められる。例えば、図4に示す実験の場合、表2に示す衝突検出結果を参照し、閾値4を80%としている。
【0116】
なお、衝突率が閾値4より大きい場合、例えば、送信パラメータがキャリアセンス感度である場合、送信パラメータの調整はキャリアセンス感度を高くすることであり、送信パラメータが送信パケットサイズである場合、送信パラメータの調整は送信パケットサイズを下げることであり、送信パラメータが伝送レートである場合、送信パラメータの調整は伝送レートを上げることである。これらの送信パラメータのうち、いずれを調整対象として選択するか、また、選択した送信パラメータをどのように調整するかは、パケットの衝突を回避するだけでなく、通信環境が全体的に改善されるように、最適な条件に設定するのが望ましい。
【0117】
本実施形態の無線通信機では、データ送信が他の通信からの干渉を受ける場合、自機の通信状態が3つの通信状態のうち、いずれの通信状態であるかを判定し、判定した通信状態に基づいて送信パラメータを調整することによって伝送効率を高めることができる。
【0118】
また、本実施形態の無線通信機では、データ送信を開始する前に、周囲電波状況におけるテスト用パケットの衝突の発生を予め検出し、衝突が発生する場合の衝突率を計算し、衝突検出の結果と衝突率に基づいて、送信パラメータを適切に調整している。そのため、他の通信からの干渉の検出精度を高めることができ、他の通信との干渉を防ぎ、伝送効率を高めることができる。
【0119】
(第2の実施形態)
本実施形態の無線通信機を、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成については、その詳細な説明を省略する。
【0120】
図13は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。図13に示すように、本実施形態の無線通信機は、通信部1と、計算処理部2と、記憶部3と、通信状態分類部4と、制御部6とを有する構成である。本実施形態では、通信部1に、データ送信部12が設けられているが、図1に示した信号センシング部11が設けられていない。
【0121】
本実施形態の無線通信機は、図1に示した信号センシング部11と衝突検出部5を有していない。したがって、本実施形態では、伝送効率を高めるための送信パラメータの調整は通信状態分類部4から出力される結果に基づいて行われる。
【0122】
本実施形態では、図1に示した衝突検出部5から出力される衝突率による送信パラメータの調整を行わなくても、あるいは、衝突検出部5による衝突検出を行わなくても、伝送効率を高めることができるだけでなく、無線通信機の回路構成が簡単になり、消費電力を抑えられる利点がある。
【0123】
(第3の実施形態)
本実施形態の無線通信機を、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成については、その詳細な説明を省略する。
【0124】
図14は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。図14に示すように、本実施形態の無線通信機は、通信部1と、計算処理部2と、記憶部3と、衝突検出部5と、制御部6とを有する構成である。
【0125】
本実施形態の無線通信機は、図1に示した通信状態分類部4を有していない。したがって、本実施形態では、伝送効率を高めるための送信パラメータの調整は衝突検出部5から出力される結果に基づいて行われる。
【0126】
本実施形態では、図1に示した通信状態分類部4から出力される通信状態による送信パラメータの調整を行わなくても、伝送効率を高めることができるだけでなく、無線通信機の回路構成が簡単になり、消費電力を抑えられる利点がある。
【0127】
(第4の実施形態)
本発明の無線通信機を、メッシュネットワークを構成する基地局に適用することが可能である。本実施形態では、第1の実施形態の無線通信機をメッシュネットワークの基地局として動作させる場合のメッシュネットワークの構成について説明する。
【0128】
図15は、第1の実施形態の無線通信機が基地局として構成されるメッシュネットワークの一例を示す図である。図15に示す丸印が基地局に相当する。基地局の位置設定は実際の応用に応じて、一般的なメッシュネットワークの基地局の設置方法に従って行われる。複数の基地局のうち、1つの基地局がネットワーク内通信を管理するネットワーク通信管理部として機能する。以下では、このネットワーク通信管理部を管理局と称する。図15では、管理局を符号7で表している。
【0129】
次に、本実施形態のメッシュネットワークの初期設定と運用方法について詳細に説明する。
【0130】
メッシュネットワークの初期設定は、基地局のキャリアセンス感度の調整と通信路の通信品質測定との2段階で構成される。まず、メッシュネットワーク内の基地局のキャリアセンス感度の調整について、図16を参照して詳細に説明する。
【0131】
メッシュネットワーク内の基地局の位置設定が完了した後、ネットワーク内通信を管理する1つの基地局が管理局7として選出される。管理局7はネットワーク内に最小あるいは最大MACアドレスを持つ基地局から自動的に選出される。管理局7の安定性を考えると、管理局7として、電源給電の基地局、無停電電源装置を装備する基地局、イーサネット(登録商標)に接続する基地局などの基地局から優先的に選出すべきである。選出された管理局7は自分のアドレスをネットワーク内の全ての基地局に送信する。各基地局は受信した管理局7のアドレスを自分の記憶部3に保存する。管理局7が変更された場合、新しい管理局7が自分のアドレスをネットワーク内の全ての基地局に送信し、各基地局が記憶部3に保存している管理局7のアドレスを更新する。ここでは、管理局の選出方法として、いくつかの例を示したが、ここで説明した方法に限定するものではない。
【0132】
次に、管理局7はネットワーク内の任意の1つの基地局に指令を送り、当該基地局に衝突検出するための一定の伝送速度(例えば6Mbps)かつ最大電力でのテスト送信(ブロードキャスト送信)をさせる(ステップD1)。図15では、テスト送信を行う基地局を、基地局K1としている。ブロードキャスト送信を送信TAと称する。この時点で、基地局K1以外の基地局がアイドル状態である。
【0133】
次に、アイドル状態である基地局の中の任意の1つの基地局に、管理局7が指令を送り、基地局K1と同じチャネルかつフルレート(ここでは、「フルレート」は休まずに連続的に動作することを意味する)でテスト送信(ブロードキャスト送信)をさせる(ステップD2)。ここで、テスト送信を行う基地局を、基地局K2とする。このときのブロードキャスト送信を送信TBと称する。基地局K2のテスト送信速度は基地局K1の伝送速度より高くする(例えば54Mbps)。
【0134】
次に、基地局K2がテスト送信開始後、管理局7は基地局K2に指令を送り、基地局K2に基地局K1のテスト送信との衝突検出を実行させる(ステップD3)。基地局K2は衝突検出後に基地局K1のテスト送信との衝突率を基地局K2の記憶部3に保存する(ステップD4)。
【0135】
次に、管理局7は基地局K2に指令を送り、基地局K2のテスト送信を停止させ、基地局K2をアイドル状態に戻す(ステップD5)。基地局K2は記憶部3に保存する衝突率を閾値4と比較し(ステップD6)、衝突率が閾値4より大きい場合、基地局K1への干渉を抑制するようにキャリアセンスの感度を調整する(ステップD7)。
【0136】
次に、管理局7は送信TAあるいは送信TBを行った基地局以外の任意の基地局に順次に指令を送り、それぞれの基地局にステップD2からステップD7までの動作を実行させる(ステップD8)。ステップD2からステップD8までの動作により基地局K1とネットワーク内の他の基地局と同時に通信する場合の互いの干渉が抑えられる。次に、管理局7は基地局K1に指令を送り、基地局K1のテスト送信を停止させ、基地局K1をアイドル状態に戻す(ステップD9)。
【0137】
次に、管理局7は送信TAを行った基地局以外の任意の基地局に順次に指令を送り、それぞれの基地局にステップ1からステップ7までの動作を実行させる(ステップD10)。ステップD1からステップD10までの動作によりネットワーク内の全ての基地局の互いの干渉が抑えられる。
【0138】
次に、メッシュネットワーク内の通信路の通信品質測定について、図17を参照して詳細に説明する。
【0139】
まず、管理局7はネットワーク内の任意の1つ基地局H1に指令を送り、基地局H1に基地局H1の隣接の任意の1つの基地局H2にテスト送信を実行させる(ステップE1)。このテスト送信を送信FAと称する。基地局H1は固定の伝送速度かつフルレートで基地局H2にテスト送信を行う。この時点で、基地局H1および基地局H2を除く基地局がアイドル状態である。次に、管理局7は、基地局H1および基地局H2を除く任意の1つの基地局H3に指令を送り、基地局H3に基地局H3の隣接の任意の1つの基地局H4にテスト送信(ユニキャスト送信)を実行させる(ステップE2)。このテスト送信を送信FBと称する。基地局H3は固定の伝送速度かつフルレートで基地局H4にテスト送信を行う。
【0140】
次に、管理局7は基地局H1に指令を送り、基地局H1に送信FAの通信状態を分類させる(ステップE3)。上記の通信状態の分類が完了した後に、基地局H1は、送信FBが存在する場合の送信FAの通信状態の分類結果と、送信FAの伝送速度と、送信FBの伝送速度とを管理局7に送る(ステップE4)。管理局7は、送信FBが存在する場合の送信FAの通信状態の分類結果、送信FAの伝送速度、および送信FBの伝送速度の情報を基地局H1から受け取ると、これらの情報を1つの組にして記憶部3に保存する。
【0141】
次に、管理局7は基地局H3が全ての伝送速度で送信FBを実行したかを判断し(ステップE5)、基地局H3が全ての伝送速度での送信FBを終了していない場合、基地局H3に指令を送り、基地局H3にテスト送信の伝送速度を予め決められた範囲内で変更させ(ステップE6)、ステップE2の処理に戻る。なお、ここで言う「全ての伝送速度」とは、予め決められた範囲の伝送レートであり、例えば、表1に示す伝送レートである。
【0142】
次に、基地局H3が全ての伝送速度で送信FBを実行した場合(ステップE5)、管理局7は基地局H1が全ての伝送速度で送信FAを実行したかを判断し(ステップE7)、基地局H1が全ての伝送速度での送信FAを終了していない場合、管理局7は基地局H1に指令を送り、基地局H1にテスト送信の伝送速度を予め決められた範囲内で変更させ(ステップE8)、ステップE1の処理に戻る。
【0143】
次に、基地局H1が全ての伝送速度での送信FAを終了した場合(ステップE7)、管理局7は基地局H3と基地局H4に指令を送り、基地局H3のテスト送信を停止させ、基地局H3および基地局H4をアイドル状態に戻す(ステップE9)。
【0144】
管理局7は、ステップE1で基地局H1に送信FAを実行させているときに、送信FBを実行していない基地局の有無を判断する(ステップE10)。ステップE10で、送信FBを実行していない基地局が存在する場合、管理局7は、送信FBを実行していない基地局H3(送信側)と基地局H4(受信側)を選出し(ステップE11)、基地局H3と基地局H4に指令を送り、ステップE2の処理に戻る。
【0145】
ステップE1からステップE10までの動作により、ある基地局の送信FAとネットワーク内の各通信路とが同時に通信した場合における、送信FAの通信状態が管理局7で把握される。
【0146】
ステップE10で、送信FBを実行していない基地局が存在しない場合、管理局7は基地局H1と基地局H2に指令を送り、基地局H1のテスト送信を停止させ、基地局H1および基地局H2をアイドル状態に戻す(ステップE12)。次に、管理局7は送信FAを実行していない基地局の有無を判断し(ステップE13)、送信FAを実行していない基地局が存在する場合、ステップE1の処理に戻る。
【0147】
ステップE1からステップE13までの動作により、ネットワーク内の全ての通信路のそれぞれが各伝送速度で他の通信路と同時に通信する場合の通信状態が把握され、全ての通信組み合わせにおける、通信状態と通信路とが対応づけられ、その対応づけられた情報が管理局7の記憶部3に保存される。
【0148】
なお、本実施形態では、ステップE2の処理における送信FBが、基地局H3が基地局H4に対して行うユニキャスト通信の場合で説明したが、基地局H3からのブロードキャスト通信であってもよい。送信FBに基地局H3からのブロードキャスト通信が用いられる場合、ステップE2における基地局H4はアイドル状態である。
【0149】
次に、図18を参照して、本実施形態のメッシュネットワークの運用方法について詳細に説明する。
【0150】
本実施形態のメッシュネットワークを構成する複数の基地局のうち、1つの基地局がデータ送信を行う際、その基地局は、データ送信を行う前に、データ送信を予定していることを通知するための送信請求メッセージを管理局7に送る。以下では、データ送信を予定している基地局を基地局10とする。送信請求メッセージには、基地局10が予定するデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報が含まれている。なお、基地局10がデータ送信を行う前に既にデータ送信を行っている基地局があれば、その基地局のデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報を含む通信状況情報が、管理局7の記憶部3に格納されている。このことは、基地局10の場合で後述する。
【0151】
管理局7は、基地局10から送信請求メッセージを受信すると、基地局10が予定している送信ルートでの通信がネットワーク内の既存の通信から干渉を受ける場合の通信状態を記憶部3から読み出し、読み出した通信状態と既存の通信の送信ルート(干渉ルート)の情報を含む返信メッセージを基地局10に送信する。全ての通信組み合わせにおける、通信状態と通信路とが対応づけられた情報と、既にデータ送信を行っている基地局の通信状況情報とが記憶部3に保存されていることから、管理局7は、基地局10が予定している送信ルートでの通信状態を、記憶部3から読み出すことが可能である。
【0152】
基地局10は、管理局7から返信メッセージを受信すると、返信メッセージに含まれる通信状態の情報を、予定している送信ルートの通信状態として記憶部3に保存する。続いて、基地局10の制御部6は、第1の実施形態で説明した表3を参照し、記憶部3に保存した通信状態に対応する動作指令を読み出し、データ送受信部12を通信制御するために、読み出した動作指令をデータ送受信部12に送る。制御部6がデータ送受信部12に通信制御を行うことで送信パラメータの調整が完了した後、基地局10は、データ送信の準備が完了したことを通知するための送信準備完了メッセージを管理局7に送る。送信準備完了メッセージには、基地局10が予定するデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報が含まれている。
【0153】
管理局7は、基地局10から送信準備完了メッセージを受信すると、送信準備完了メッセージから送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報を読み出し、読み出した情報を、基地局10の通信状況情報として記憶部3に保存する。次に、基地局10は、管理局に通知した、送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度で、データ送信を開始する。データ送信が完了した後、基地局10は、データ送信処理が完了したことを通知するための送信完了メッセージを管理局7に送る。管理局7は送信完了メッセージを基地局10から受信した場合、基地局10の通信状況情報を記憶部3から消去する。
【0154】
上述の動作で、管理局7は、基地局10から送信請求メッセージを受信した場合、一定時間内(例えば3秒)に必ず基地局10に返信メッセージを送るようにする。基地局10は、送信請求メッセージを管理局7に送信した後、一定時間内(例えば3秒)に管理局7からの返信メッセージを受信できない場合、データ送信を直ちに開始する。
【0155】
なお、基地局10は、管理局7に送信請求メッセージを送信した後、一定時間内(例えば3秒)に管理局7から返信メッセージを受信できない場合、一定時間後(例えば3秒後)に送信請求メッセージを管理局7に再送してもよい。この場合、基地局10は、送信請求メッセージの送信回数が再送を含めて一定回数(例えば3回)になっても、管理局7から返信メッセージを受信できない場合、予定するデータ送信を直ちに開始する。また、本実施形態では、基地局10は、管理局7から返信メッセージを受信できない場合、直ちにデータ送信を開始する場合を説明したが、場合によってはデータ送信を開始しないようにしてもよい。
【0156】
本実施形態では、本発明の無線通信機を用いてメッシュネットワークを構成することにより、ネットワーク内の各通信路間の干渉が抑えられる。
【0157】
上述の第1から第4の実施形態では、無線LAN規格がIEEE802.11の場合で説明したが、この規格に限定されず、また、ネットワークはLANに限らない。
【0158】
また、本発明の無線通信方法をコンピュータに実行させてもよく、本発明の無線通信方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに適用してもよく、そのプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納してもよい。
【符号の説明】
【0159】
1 通信部
2 計算処理部
3 記憶部
4 通信状態分類部
5 衝突検出部
6 制御部
7 管理局
8 演算制御部
11 信号センシング部
12 データ送受信部
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機、ネットワーク、無線通信方法、およびその方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN(Local Area Network)通信が、企業の職場だけでなく、家庭内や屋外などの広い範囲に普及してきた。無線LANの普及に伴い、限られた周波数資源での通信量が増加し、互いの通信の干渉問題が深刻になってきた。
【0003】
無線LAN規格の1つであるIEEE802.11では、衝突回避機能付きキャリア感知多重アクセス(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:CSMA/CA)のアクセス制御方法が使用されている(非特許文献1参照)。このアクセス制御方法は、通信を開始しようとする各無線通信機は、通信を開始する前に周りの無線通信機が電波を出していないかを、必ず確認してから通信を開始する方法である。
【0004】
また、上記アクセス制御方法では、通信衝突を回避するために、無線通信機は、周囲の機器(他の無線通信機)が電波を出していれば、ある一定期間(バックオフ時間)だけ待った後、電波が出ていないかを再び調べ、周囲の機器が電波を出していなければ、あるランダムな時間経過後に自分が電波を送信する。無線通信機は、周囲の機器が電波を出していないかを確認するために、キャリアセンスを使用する。
【0005】
キャリアセンスは、無線チャネルの使用状況を確認し、IEEE802.11の規格に合う信号のプリアンプル(同期を確立するための信号)を検出した場合は、信号の受信を行うので無線チャネル使用中(Busy:ビジー)となる。IEEE802.11の規格に合う信号のプリアンプルを検出できなかった場合で、予め設定されたキャリアセンス閾値より高い電力レベルが検出されたときは、ビジーと判断し、送信を待機する。また、キャリアセンス閾値より低い電力レベルが検出されたときは、無線チャネルが未使用(アイドル)と判断される。
【0006】
上述したアクセス制御方法には、次のような問題があった。以下では、IEEE802.11を満たす無線通信機を「802.11無線機」と表記する。
【0007】
802.11無線機の送受信制御に使用されているCSMA/CAは、外部干渉によるパケットの衝突を完全には回避できないという問題がある。しかもパケット衝突の検出ができないため、パケット衝突による通信失敗が起こった場合、通信失敗の原因の確定ができず、通信失敗に対して有効な防止策を立てられない。また、外部干渉によりパケットが衝突する場合、衝突率を定量的に統計する手段がないため、正確に衝突の度合を評価するのは難しい。
【0008】
パケット衝突の検出方法として、信号の送信と同時に伝送路上の信号を観測し、観測された信号から送信信号を除去し、送信信号が除去した後の信号のエネルギー量に基づいて、伝送路上の信号衝突の有無を判定する衝突検出方法が特許文献1に開示されている。また、パケット衝突に関する別の検出方法として、近傍に存在する無線端末数および無線伝送速度等に基づいて、データの衝突確率を算出することが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−64884号公報
【特許文献2】特開2010−233187号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】無線LAN規格 IEEE802.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された方法では、送信信号以外の干渉信号の有無を判定できるが、観測された干渉信号は受信側の受信を干渉するかどうか判定できない。また、送信側で観測できない信号が受信側での受信を干渉するおそれもあり、その干渉についても検出できない。
【0012】
特許文献2に開示された方法では、データの衝突確率は予測される無線状況から算出されており、予測された無線状況が実際の無線状況と大きく異なっている場合、算出される衝突確率は実際の無線状況と合わないものになってしまう。特許文献1および2に開示された方法は、パケット衝突の検出精度が不十分であり、データの伝送効率を向上させるための対策を取れない。
【0013】
また、無線LAN通信では外部干渉からの影響は干渉距離や干渉波の電力強度によって異なり、802.11無線機では、これらの異なる干渉状況を正確に把握できないという問題もある。その結果、干渉状況に合わせてデータの伝送効率を向上させるための対策を取ることができない。
【0014】
本発明は上述したような技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、他の通信との干渉を抑制し、データの伝送効率を向上させることを可能にした無線通信機、ネットワーク、無線通信方法、およびその方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明の無線通信機は、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、センシングした空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、
前記信号センシング部から出力されるサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部と、
を有する構成である。
【0016】
また、本発明の無線通信機は、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行うデータ送受信部と、
前記データ送受信部で算出された、前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出する計算処理部と、
前記計算処理部が算出した前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定する通信状態分類部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記通信状態分類部が判定した通信状態に対応して調整する制御部と、
を有する構成である。
【0017】
また、本発明のネットワークは、本発明の無線通信機が基地局として複数配置された構成である。
【0018】
また、本発明の無線通信方法は、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整するものである。
【0019】
また、本発明の無線通信方法は、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整するものである。
【0020】
また、本発明のプログラムは、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるものである。
【0021】
さらに、本発明のプログラムは、コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、他の通信との干渉を抑制し、データの伝送効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の無線通信機で実行される通信状態分類アルゴリズムの一例を示す図である。
【図3】図2に示した通信状態分類アルゴリズムで用いられる閾値Bの無線伝送レートに対する依存関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態の無線通信機による、通信状態分類方法の動作を具体的に説明するための図である。
【図5】図4に示した無線機Aのbcの一例を示す図である。
【図6】図4に示した無線機Aのdrの一例を示す図である。
【図7】図4に示した無線機Aの通信状態の分類結果の一例を示す図である。
【図8】第1の実施形態の無線通信機で実行される干渉検出アルゴリズムの一例を示す図である。
【図9】電力の時系列サンプルデータからパケットの衝突を検出する方法を説明するための図である。
【図10】想定される2種類のパケット衝突パターンを説明するための模式図である。
【図11】第1の実施形態の無線通信機において、通信状態が更新された際、1つの通信状態が確認された場合の通信制御動作の手順を示す図である。
【図12】第1の実施形態の無線通信機において、通信状態が更新された際、2つの通信状態が確認された場合の通信制御動作の手順を示す図である。
【図13】第2の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図14】第3の実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【図15】第1の実施形態の無線通信機が基地局として構成される、第4の実施形態におけるメッシュネットワークの一例を示す図である。
【図16】第4の実施形態におけるメッシュネットワークにおいて、基地局のキャリアセンス感度の調整方法を説明するための図である。
【図17】第4の実施形態におけるメッシュネットワークにおいて、通信路の通信品質測定方法を説明するための図である。
【図18】第4の実施形態におけるメッシュネットワークの運用方法を説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態の無線通信機について説明する。以下では、無線LAN規格がIEEE802.11の場合で説明する。また、IEEE802.11を満たす無線通信機を「802.11無線機」と表記するだけでなく、IEEE802.11を満たす無線送信機を「802.11無線送信機」と表記し、IEEE802.11を満たす無線受信機を「802.11無線受信機」と表記する。
【0025】
(第1の実施形態)
本実施形態の無線通信機の構成を説明する。図1は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の無線通信機は、データ通信と信号センシングを行う通信部1と、受信信号の初期処理と通信評価用パラメータの算出を行う計算処理部2と、情報を記録する記憶部3と、干渉を受ける自機の通信状態を分類する通信状態分類部4と、通信衝突の検出と評価を行う衝突検出部5と、通信部1の通信性能を調整する制御部6とを有する。
【0027】
なお、計算処理部2、通信状態分類部4、衝突検出部5および制御部6を含む演算制御部8に、プログラムにしたがって処理を実行するCPU(Central Processing Unit)(不図示)と、プログラムを格納するためのメモリ(不図示)とが設けられている。CPUがプログラムを実行することで、計算処理部2、通信状態分類部4、衝突検出部5および制御部6が仮想的に構成される。
【0028】
通信部1は、信号センシング部11と、データ送受信部12とを有する。信号センシング部11は、受信アンテナを備え、本実施形態の無線通信機が送信時に用いる周波数チャネルと同じ周波数領域で空間電波信号の電力をセンシングする。
【0029】
データ送受信部12は、送受信アンテナを備え、本実施形態の無線通信機で処理されるデータおよびテストパケットの送受信と、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計とを行う。送受信パラメータの例としては、"送信パケットが占める時間"、"一組のデータの送信において最初のパケット送信開始から最後のパケット送信完了までの時間"、"送信パケット数"、"送信成功パケット数"、"単位時間当たりの送信パケット数"等がある。
【0030】
計算処理部2は、信号センシング部11から供給される空間電波信号の電力データを時系列データに変換することと、データ送受信部12から供給される送受信パラメータに基づいて通信評価用パラメータを計算することとを行う。通信評価用パラメータの例としては、"Busy Count(bc)"、"Delivery Ratio(dr)"、"Standard Deviation of deliver ratio(Std(dr))"等がある。
【0031】
bcはチャネルが使用されている可能性があると判断する時間の割合を表す。bcは、観測時間内でチャネルがビジーの状態にある時間を観測時間で割ることで求められる。bcはビジー率と称されることもある。連続時間でのbc測定ができない場合、観測時間内にチャネルをサンプリングし、チャネルのサンプル値のうち、ビジーであるサンプル値をカウントし、ビジーであるサンプル値の数を観測時間内の全体のサンプル数で割ることでbcが求められる。drは送信成功率を表す。drは、以下の式(1)で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、TxFrameは観測時間内の送信成功パケットの数である。TxCountは観測時間内の送信パケットの数である。
【0034】
Std(dr)は一定時間内のdrの標準偏差値を表す。
【0035】
通信状態分類部4は、計算処理部2から算出される、テスト通信における通信評価用パラメータを用いて、自機の送信が他の通信からの干渉の影響により、自機の通信状態が3つの通信状態のうち、いずれの状態にあるかを判定する。通信評価用パラメータで分類される3つの状態とは、"Performance Anomaly State(PA)"、"Gray State(Gray)"、および"Max Performance State(Good)"である。
【0036】
PAは高速伝送レート通信と低速伝送レート通信とが互いの存在を検知できる場合、高速伝送レート通信のスループットが低速伝送レート通信のスループットより低下する通信状態を表す。ここで、スループット(throughput)は単位時間あたりのデータの実効伝送量を意味する。Grayは802.11無線機Xの送信信号が他の802.11無線機Yに検知されてないため、802.11無線機Xの送信信号が受信側で他の802.11無線機Yの送信信号に干渉される場合の通信状態を表す。Gray状態における通信は他の通信からの干渉によって送信の成功率が低下する。Goodは802.11無線送信機が単独でチャネルを使用しているか、あるいは、自分と同じレートで送信する送信機によってチャネルが使用されている通信状態を表す。
【0037】
衝突検出部5は、計算処理部2から出力される空間電波信号電力の時系列を用い、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの個数を算出する手段と、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットと他の無線通信機が送信したデータパケットとの衝突を検出する手段と、衝突したデータパケットの数を算出する手段と、衝突したデータパケットの数と本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの数に基づいてデータパケットの衝突率を算出する手段とを備える。
【0038】
制御部6は、通信状態分類部4と衝突検出部5とから出力される結果に基づき、本実施形態の無線通信機の伝送効率を高めるように送信パラメータを調整する。なお、伝送効率を高めるために、本実施形態では、通信状態分類部4と衝突検出部5のそれぞれが個別に動作してもよく、あるいは、同時に動作してもよい。
【0039】
次に、本実施形態の無線通信機の動作について、図1を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態の無線通信機の通信状態分類の動作について詳細に説明する。
【0040】
図1に示すデータ送受信部12は、一定の伝送レートで、802.11受信機にテスト送信を行う。送信完了後に、送受信パラメータを統計し、送受信パラメータの統計結果を計算処理部2に出力する。
【0041】
次に、計算処理部2は、データ送受信部12から供給される送受信パラメータの統計結果に基づいて、上記テスト送信を評価するための通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を計算する。そして、計算処理部2は、通信評価用パラメータの計算結果を記憶部3に保存する。
【0042】
次に、通信状態分類部4は、記憶部3に保存されている、テスト送信を評価するための通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を、通信状態分類部4に設けられたバッファ(不図示)に読み込み、本実施形態の無線通信機の通信状態を分類する。上記の外部干渉の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態が、図2に示す通信状態分類アルゴリズムに従って3つの状態に分類される。3つの通信状態とは、PA、GrayおよびGoodである。
【0043】
図2を参照して通信状態分類アルゴリズムについて詳細に説明する。なお、演算制御部8内のCPU(不図示)が、図2に示す通信状態分類アルゴリズムを含むプログラムを実行することで、通信状態分類部4が仮想的に構成される。そのため、図2に示す通信状態分類アルゴリズムを実行する主体が通信状態分類部4であるものとして説明する。
【0044】
通信状態分類部4は、まず、drが閾値Aより大きいかどうかを調べる(ステップA1)。drが閾値Aより大きい場合、通信状態分類部4は、bcが閾値Bより大きいかどうかを調べる(ステップA2)。bcが閾値Bより大きく、かつdrが閾値Aより大きい場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態はPA状態であると判定する(ステップA5)。PA状態は、他の通信の干渉による影響は大きくはないが、通信に異常が発生している通信性能異常状態に相当する。
【0045】
図2において、ステップA1でdrが閾値Aより大きく、かつステップA2でbcが閾値B以下の場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響が小さく、本実施形態の無線通信機の通信状態がGood状態であると判定する(ステップA4)。Good状態は、他の通信との干渉による影響がほとんどない無干渉状態に相当する。
【0046】
図2に示すステップA1で、drが閾値A以下である場合、通信状態分類部4は、Std(dr)が閾値Cより大きいかどうかを調べる(ステップA3)。Std(dr)が閾値Cより大きく、かつdrが閾値Aより大きくない場合、通信状態分類部4は、外部干渉信号の影響で本実施形態の無線通信機の通信状態がGray状態であると判定する(ステップA6)。Gray状態の区域をGZと表記する。Gray状態は、他の通信の干渉を受けている通信干渉状態に相当する。
【0047】
図2において、ステップA1でdrが閾値A以下で、かつStd(dr)が閾値C以下である場合(ステップA3)、通信状態分類部4は、本実施形態の無線通信機のテスト送信信号が無線受信機に到達していないと判定する(ステップA7)。
【0048】
ここで、図2に示した通信状態分類アルゴリズムにおける判定処理で用いられた閾値A、閾値Bおよび閾値Cについて説明する。閾値A、閾値Bおよび閾値Cは、802.11無線通信機の性能特性に依存する。閾値A、閾値Bおよび閾値Cは、判定のための基準値に相当する。
【0049】
閾値Aは、802.11無線機と、干渉源となる他の802.11無線機が同時にそれぞれの802.11受信機に送信する場合、かつ互いの送信を検知できる場合の802.11無線機のdrの最小値である。
【0050】
閾値Bは無線伝送レートに依存する。図3に閾値Bの無線伝送レートに対する依存関係を示す。閾値Bの伝送レートに対する依存関係は以下の手順で求められる。まず、1つの通信リンクしか存在しない環境で、通信リンクの802.11無線送信機に802.11無線受信機に向けて各伝送レートでそれぞれ送信テストをさせ、次に、各伝送レート下のbcをそれぞれ求め、最後に各伝送レートとそれぞれのbcに対応関係をつける。bcに一定のオフセットを足して検出用の閾値Bとする。本実施形態の通信状態分類アルゴリズムは、図3に示すテスト送信レートと対応する閾値Bを用いて、通信状態を判定する。図3に、オフセットを10%にした例を示す。1つの通信リンクしか存在しない環境で測定したbcを四角印で示し、さらにオフセットを10%に足した閾値Bを三角印で示す。
【0051】
閾値Cは、802.11無線機と、干渉源となる他の802.11無線機が同時にそれぞれの802.11無線受信機に送信する場合、かつ互いの送信を検知できない場合の802.11の無線機の一定時間内のdrの標準偏差値である。通信状態分類部4は、上記の判定結果を記憶部3に保存する。
【0052】
次に、本実施形態の無線通信機の通信状態分類方法の動作について、図4を参照して具体例を説明する。無線機Aが本実施形態の無線通信機とし、無線機B、無線機Cおよび無線機DがIEEE802.11を満たす無線通信機とする。
【0053】
図4に示すように、例えば、無線機Aが自機から9メートル離れた無線機Bに、54Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのパケットを無線送信するものとする。同時に、無線機Cが自機から9メートル離れた無線機Dに、6Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのパケットを無線送信するものとする。無線機Aと無線機Bの送信電力はなるべく固定することが望ましいが、特に限定されない。
【0054】
無線機Aから無線機Bへのパケット送信をflow1と呼び、無線機Cから無線機Dへのパケット送信をflow2と呼ぶ。ここではflow2がflow1に与える干渉信号を検出対象とする。従って、flow2をflow1から離していくにつれ、flow2がflow1に与える干渉が弱まる。図4に示す例では、flow2がflow1に与える干渉波の強度を調査するために、flow2をflow1から離す距離を1メートルから200メートルまで変化させ、本実施形態の無線機Aの通信状態の分類を行う。
【0055】
無線機Aのデータ送受信部12は、flow2がflow1と1メートルの距離から移動開始するのと同時に送受信パラメータの統計処理を開始する。無線機Aの計算処理部2は、無線機Aのデータ送受信部12から供給される送受信パラメータに基づいて、通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を計算し、計算結果を記憶部3に保存する。図4に示す例では、無線機Aの計算処理部2で求めたbcとdrのそれぞれを図5と図6のそれぞれに示す。図5の縦軸はbcを示し、横軸は距離を示す。図5に示す実線はbcの平均値を結ぶ線である。図6の縦軸はdrを示し、横軸は距離を示す。
【0056】
図4示す無線機Aの通信状態分類部4は、記憶部3に保存されている通信評価用パラメータであるbc、drおよびStd(dr)を記憶部3から読み出し、図2に示す通信状態分類アルゴリズムにしたがって、flow2がflow1から1メートルから200メートルまで離れて行く過程で、flow2からの干渉を受けるflow1の無線機Aの通信状態を分類する。図4に示す例では、通信状態分類アルゴリズムにおける閾値Aと閾値Cとして、上述の閾値の計算方法により、それぞれ80%と0.12を用いる。
【0057】
上述の閾値Bの計算方法により求めた、伝送レートと閾値Bの関係を表1に示す。表1に示すbcは閾値Bに相当する。
【0058】
【表1】
【0059】
本実施形態では、上述の閾値Bの計算方法によって求めた表1を参照し、図4に示す例では、閾値Bとして、伝送レート54Mbpsに対応する59%を用いる。無線機Aの通信状態の分類結果を図7に示す。図7の縦軸は通信状態を示し、横軸は距離を示す。
【0060】
次に、本実施形態の無線通信機の衝突検出の動作について詳細に説明する。
【0061】
図1に示すデータ送受信部12はテスト用パケットを最大伝送速度(例えば54Mbps)で一定時間(例えば3秒)にかけてテスト送信する。このとき、衝突検出部5は、データ送受信部12が送信したテスト用パケットの個数をカウントし、カウントした個数をC1として記録部3に保存する。テスト送信の開始と同時に、信号センシング部11はテスト送信と同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングする。テスト送信完了後に、信号センシング部11はセンシングを停止し、センシングした空間電波信号のサンプルデータを計算処理部2に出力する。
【0062】
次に、計算処理部2は、信号センシング部11から供給される空間電波信号のサンプルデータに基づいて、空間電波信号のサンプルデータを時系列の電力サンプルデータに変換する。その時系列の電力サンプルデータを記憶部3に保存する。以下では、この時系列の電力サンプルデータを、単に「時系列サンプルデータ」と称する。
【0063】
次に、衝突検出部5は、記憶部3に保存されている時系列サンプルデータを衝突検出部5に読み込み、本実施形態の無線通信機が他の802.11無線機からの干渉を受ける場合、上記の干渉を検出する。
【0064】
次に、図8と図9を参照して、干渉検出のアルゴリズムについて詳細に説明する。図8は干渉検出アルゴリズムの一例を示し、図9は電力の時系列サンプルデータからパケットの衝突を検出する方法を説明するための図である。図9の縦軸は電力を示し、横軸は時間を示す。
【0065】
図8に示すように、干渉検出アルゴリズムは、平均電力算出プロセス51と、衝突回数統計プロセス52と、衝突率算出プロセス53とを有する。なお、演算制御部8内のCPU(不図示)が、図8に示す干渉検出アルゴリズムを含むプログラムを実行することで、衝突検出部5が仮想的に構成される。そのため、図8に示す各プロセスを実行する主体が衝突検出部5であるものとして説明する。
【0066】
はじめに、平均電力算出プロセス51の動作について詳細に説明する。衝突検出部5は、図9(a)に示す時系列サンプルデータに基づいて、図9(b)に示す第1回目の平均電力計算を行う(ステップB1)。具体的には、衝突検出部5は記憶部3から読み込んだ時系列サンプルデータをN個毎に分け、それぞれの平均電力を求める(ステップB1)。図9(b)に示す例では、N=2である。図9(a)に示す黒丸印は、センシングした信号の電力パワーを示す。
【0067】
次に、衝突検出部5は、図9(c)に示す第2回目の平均電力計算を行う(ステップB2)。具体的に説明する。衝突検出部5は、ステップB1で求められた平均電力のデータの最初から最後まで順番に調べる。そして、閾値1より大きいデータがあり、その後に、閾値1より大きいデータの連続する数が(M−1)個である場合、衝突検出部5は、これらM個の連続のデータの平均値を求め、求めた平均値をこれらM個のデータのそれぞれの平均電力の値にする。図9(c)に示す例では、M=5である。
【0068】
一方、閾値1より大きいデータがあり、その後に、閾値1より大きいデータの連続する数が(M−1)個より小さい場合、衝突検出部5は、“平均電力が閾値1より大きい最初のデータ”から“平均電力が閾値1より小さい最初のデータの1つ前のデータ(連続する(M−1)個より小さい数のデータのうち、平均電力が閾値1より大きい最後のデータ)”までのデータの平均値を求める。そして、衝突検出部5は、求めた平均値を、平均電力が閾値1より大きい最初のデータから最後のデータまでのそれぞれの平均電力の値とする。
【0069】
上述のM個のデータ、または(M−1)より小さい個数のデータの場合と同様にして、衝突検出部5は、第2回目の平均電力計算を、それ以降のデータについても、ステップB1で求められた平均電力のデータの最後まで行う。さらに、このようにして求められた平均電力のうち、ノイズの電力閾値より小さい平均電力値をL個(例えば3個)の連続する0値と入れ替える(ステップB2)。図9(c)に示す例では、L=2である。
【0070】
ここで、N×Mは最大伝送速度で送信する1個のテストパケットのサンプル数Kと一致する。NをKの約1%にする場合に適切な計算精度が得られる。閾値1はデバイスの性能によって異なるが、キャリアセンスの閾値より大きく設定する。キャリアセンスの閾値は、CSMA/CAにおいて、チャネルが使用されているか否かを判定するための閾値である。キャリアセンスの閾値はClear Channel Assessmentレベル(CCAレベル)とも言われている。ノイズの電力閾値はノイズの平均電力の1.5倍が適切だと考えられる。ノイズの平均電力は電力測定器により求められる。また、電力判定の基準として、閾値1とは別に閾値2を定義しておく。閾値2はデバイスの性能によって異なるが、閾値1を負の値にしたものと等しい。
【0071】
衝突検出部5は、図9(c)に例示した、ステップB2で求めた時系列データの全てのデータ値のそれぞれについて、当該データ値から直前のデータ値を引いて、隣接データの電力差を求める(ステップB3)。つまり、隣接する2つのデータについて、時間経過の大きい方から時間経過の小さい方を引いた値を、隣接データの電力差とする。その結果の一例を図9(d)に示す。図9(d)の時間軸の上側は電力差の値がプラスであることを示し、時間軸の下側は電力差の値がマイナスであることを示す。図9(d)における黒三角印は隣接データの電力差を示す。図9(d)を電力差時系列データと称する。
【0072】
次に、衝突回数統計プロセス52の動作について詳細に説明する。
【0073】
衝突検出ステップ(ステップB4)において、衝突検出部5は、ステップB3で求めた時系列データの最初から順番に調べる。閾値1より大きいデータの後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値1より大きいデータ”である場合(これをケース1と称する)、衝突検出部5は、1回のパケット衝突としてカウントする。ケース1に該当しない場合、次のケースについて判定する。ただし、閾値1をCCAレベルより大きく、かつテスト用パケットの電力の50%より小さく設定する場合があり、このように閾値1を定義した場合、ケース1のパケット衝突は存在しないため、ケース1についての判定を行わない。
【0074】
閾値1より大きいデータの直前のZ個のデータ値の中に0の値が存在しない場合(これをケース2と称する)、あるいは閾値2より小さいデータの直後のY個のデータ値の中に0の値が存在しない場合(これをケース3と称する)、衝突検出部5は、1回のパケット衝突としてカウントする。Zはデバイスの性能によって異なるが、2個が適切だと考えられる。Yはデバイスの性能によって異なるが、5個が適切だと考えられる。ただし、上記のケース2とケース3が連続する場合、つまり、閾値1より大きく、かつ直前のZ個のデータ値の中に0の値が存在しないデータの直後に、閾値2より小さく、かつ直後のY個のデータ値の中に0の値が存在しないデータ値が出現する場合、衝突検出部5は、2回のパケット衝突とカウントせず、1回のパケット衝突としてカウントする。
【0075】
一方、“閾値1より大きいデータ(このデータを「データP1」と称する)”の直前のZ個のデータの中に0が存在し、データP1の後に最初に出現する“閾値2より小さいデータ(このデータを「データP2」と称する)”の直後のY個のデータの中に0が存在する場合、衝突検出部5は、次に説明するケース4またはケース5のいずれかに該当すると判定すると、1回のパケット衝突としてカウントする。ケース4は、データP2の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値2より小さいデータ”の場合である。ケース5は、データP2の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータが“閾値1より大きいデータ”であり、かつ、データP1とデータP2の和の絶対値が閾値3より大きい場合である。閾値3はデバイスの性能によって異なるが、閾値1と同等の値が適切だと考えられる。ケース4およびケース5のいずれにも該当しなければ、衝突検出部5は、パケット衝突ではないと判定する。衝突検出部5は、上述のようにしてカウントしたパケット衝突の回数C2を記録装置3に保存する(ステップB5)。
【0076】
ここで、図9(d)を参照して、衝突検出部5がケース4のパケット衝突を検出する方法を説明する。図9(d)には、説明のために、隣接データの電力差を示すデータに符号101〜108を付している。
【0077】
図9(d)に示すデータ101はデータP1の条件に当てはまり、データ102はデータP2の条件に当てはまるが、データ102の後に、閾値2より小さいデータではなく、閾値1より大きいデータ103が最初に出現するので、ケース4には該当しない。また、データ102の後に閾値1より大きいデータ103が最初に出現するが、データ101とデータ102の和の絶対値はほぼ0(<閾値3)となり、ケース5にも該当しない。
【0078】
続いて、図9(d)を参照して、時間軸に沿ってデータを見ていくと、データ103がデータP1の条件に当てはまり、データ104がデータP2の条件に当てはまるので、ケース4またはケース5に該当するか検討する。図9(d)を見ると、データ104の後に、閾値1より大きいデータではなく、閾値2より小さいデータ106が最初に出現するので、ケース4に該当することがわかる。なお、データ104の後のデータ105は、閾値1より小さく、かつ閾値2より大きいので、“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のいずれにも該当せず、判定対象から除外される。
【0079】
さらに、図9(d)を参照して、時間軸に沿ってデータを見ていくと、データ107がデータP1の条件に当てはまり、データ108がデータP2の条件に当てはまる。しかし、図9に例示する時系列データの観測時間の範囲では、データ108の後には、“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”が出現していないので、パケット衝突があるか否かを判定する必要はない。
【0080】
ここで、閾値1をキャリアセンスの閾値より大きく設定する理由を説明する。図10は想定される2種類のパケット衝突パターンを説明するための模式図である。図10の縦軸は電力を示し、横軸は時間を示す。そして、図10では、送信端末の送信パケットの電力を縦長の四角形で示し、干渉パケットの電力を横長の四角形で示している。
【0081】
パケットの衝突には2種類のパターンがある。この2種類のパターンを第1および第2のパターンと称する。図10(a)は第1のパターンの時系列サンプルデータを模式的に示す図であり、図10(b)は図10(a)に示した時系列サンプルデータに対して包絡特徴抽出を行った電力差時系列データを模式的に示す図である。ただし、図10(b)では、閾値1より電力の低い干渉パケットの部分が「0でない値が連続して出現すること」を示すために、図10(a)に示した干渉パケットをそのまま模式的に示している。
【0082】
図10(a)に示す第1のパターンは、干渉パケットの電力がキャリアセンスの閾値より大きい場合である。この場合、各送信端末が互いの送信パケットの存在を正しく検知できる。各送信端末はチャネルが空いていると判定した後、ちょうど同時にパケットを送信すると、図10(a)に示すように、パケットの衝突が起こり得る。図10(a)に示すパケット衝突pc1は、図10(b)を見てわかるように、上述したパケット衝突検出判定のケース5に相当する。また、図10(a)に示すパケット衝突pc2は、上述したパケット衝突検出判定のケース3に相当する。
【0083】
ここで、図10(b)では、パケット衝突pc3は検出されないように見える。これは、図10(a)に示す観測時間では、パケット衝突pc3の後に出現するテスト用パケットが観測されていないからである。パケット衝突pc3の後にテスト用パケットが検出されると、パケット衝突pc3における「閾値1より大きいデータ」の後に出現する“閾値1より大きいデータ”または“閾値2より小さいデータ”のうち、最初に出現するデータは、次のテスト用パケットの「閾値1より大きいデータ」となる。そのため、パケット衝突pc3は、上述したパケット衝突検出判定のケース1に相当する。よって、本実施形態では、第1のパターンのパケット衝突を検出できることがわかる。
【0084】
図10(c)は第2のパターンの時系列サンプルデータを模式的に示す図であり、図10(d)は図10(c)に示した時系列サンプルデータに対して包絡特徴抽出を行った電力差時系列データを模式的に示す図である。ただし、図10(d)では、キャリアセンスの閾値より電力の低い干渉パケットの部分が「0でない値が連続して出現すること」を示すために、図10(c)に示した干渉パケットをそのまま模式的に示している。
【0085】
図10(c)に示す第2のパターンは、干渉パケットの電力がキャリアセンスの閾値より小さい場合である。この場合、各送信端末が互いの送信パケットの存在を正しく検知できないため、チャネルのビジー状態を正しく判定できない。その結果、図10(c)に示すように、自端末が送出したパケットと、検出できない干渉パケットとの衝突が発生する。図10(c)に示す3つのパケット衝突は、図10(d)を見てわかるように、上述したパケット衝突検出判定のケース2またはケース3に相当している。そのため、本実施形態では、第2のパターンのパケット衝突も検出できることがわかる。
【0086】
図10を参照して説明したように、本実施形態では、閾値1をキャリアセンスの閾値より大きく設定することで、上記の第1および第2のパターンのいずれの衝突パターンの検出にも対応できることがわかる。
【0087】
次に、衝突率算出プロセス53の動作について詳細に説明する。衝突検出部5は、衝突率を算出するため、本実施形態の無線通信機が送信したテスト用パケットの個数C1とパケット衝突の回数C2を記憶部3から読み出し、以下に示す式(2)によって衝突率を求める。最後に、衝突検出部5は、算出した衝突率を記憶部3に保存する(ステップB6)。
【0088】
【数2】
【0089】
式(2)において、右辺の分母は送信したテスト用パケットの個数C1であり、分子はパケット衝突の回数C2である。
【0090】
次に、図4に示した実験を用いて、衝突検出の実験結果を示す。ここでも、無線機Aが本実施形態の無線通信機とし、無線機B、無線機Cおよび無線機DがIEEE802.11を満たす無線通信機とする。
【0091】
図4に示すように、例えば、無線機Aが自機から9メートル離れた無線機Bにパケットを無線送信するものとする。同時に、無線機Cが自機から9メートル離れた無線機Dにパケットを無線送信するものとする。無線機Aから無線機Bへのパケット送信をflow1と呼び、無線機Cから無線機Dへのパケット送信をflow2と呼ぶ。flow2がflow1に与える干渉信号を検出対象とする。従って、flow2をflow1から離していくにつれ、flow2がflow1に与える干渉が弱まる。
【0092】
図4に示す例では、flow1に与える干渉波の強度を調査するために、flow2をflow1から離す距離を、1メートル、10メートル、40メートル、80メートル、110メートル、および200メートルの6つの場合とし、それぞれの距離の位置にflow2を順番に移動させる。各位置で、無線機Aが54Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのテスト用パケットを0dBmの送信電力で無線機Bに3秒間送信する。同時に無線機Cが6Mpbsの伝送レートで固定長さ1500バイトのテスト用パケットを0dBmの送信電力で3秒間送信する。ここでは、flow2がflow1に与える干渉を、限られた移動距離(200メートル)内に減衰させるため、最大送信電力ではなく0dBmの送信電力でテスト送信を行う。
【0093】
閾値1をテスト用パケットの平均電力の35%に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値1=(P×0.35)となる。閾値2をテスト用パケットの平均電力の35%の負の値に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値2=−(P×0.35)となる。閾値3をテスト用パケットの平均電力の35%に設定する。つまり、テスト用パケットの平均電力の絶対値をPとすると、閾値3=(P×0.35)となる。各位置でのテスト用パケット送信期間内の衝突検出結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2には、flow1およびflow2間の距離に対応して、送信パケット数、パケット衝突数およびパケット衝突率が記述されている。
【0096】
本実施形態の無線通信機の通信状態分類部4の分類結果と衝突検出部5の衝突検出結果をそれぞれ用いて、無線通信機の通信を制御する動作について詳細に説明する。
【0097】
はじめに、本実施形態の無線通信機の通信状態分類部4の分類結果に基づく、制御部6の通信制御方法について詳細に説明する。本実施形態の無線通信機の制御部6は、記憶部3に対して定期的にチェックを行い、通信状態の更新の有無を確認する。通信状態の更新が確認された場合、制御部6は、通信部1に動作指令を出す。表3に制御部6から通信部1に送出される動作指令の一例を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3には、通信状態がPAの場合とGrayの場合の動作指令が記述されている。チャネル、パケットサイズおよび通信ルートのそれぞれは、送信パラメータの一種である。
【0100】
表3に示すように、動作指令には、動作指令1、動作指令2および動作指令3がある。本実施形態では、動作指令に優先度を設けており、動作指令1が動作指令2より優先度が高く、動作指令2が動作指令3より優先度が高い。本実施形態の無線通信機は動作指令1のチャネル変更指令を実行することにより、他の干渉信号が存在しないチャネル、あるいは、他の干渉信号からの影響が少ないチャネルで送信することが可能となる。通信状態がPAの場合、本実施形態の無線通信機は動作指令2のパケットサイズ増加指令を実行することにより、1回の送信でより多いデータを送信でき、より多い時間でチャネルを利用でき、伝送効率を上げられる。通信状態がGrayの場合、本実施形態の無線通信機は動作指令2のパケットサイズ減少指令を実行することにより、1つのデータパッケトの伝送にチャネルの利用時間が減少し、他の干渉信号との衝突の確率が下がり、伝送効率を上げられる。本実施形態の無線通信機は動作指令3の通信ルート変更指令を実行することにより、他の干渉信号が存在しない通信ルート、あるいは、他の干渉信号からの影響が少ない通信ルートで送信することが可能となる。
【0101】
図11を参照して、本実施形態の無線通信機の通信状態が更新された場合、かつ通信状態が1つしか確認されない場合の通信制御動作について詳細に説明する。
【0102】
はじめに、制御部6が、通信状態がPAに更新されたのを確認した場合を説明する。制御部6は通信状態がPAに更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0103】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令2の「パケットサイズ増加指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0104】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0105】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。
【0106】
続いて、制御部6が、通信状態がGrayに更新されたのを確認した場合を説明する。制御部6は通信状態がGrayに更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0107】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令2の「パケットサイズ減少指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令2)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0108】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度が1つ低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0109】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令より優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。
【0110】
図12を参照して、本実施形態の無線通信機の通信状態が更新された場合、かつ2つの通信状態が確認される場合の通信制御動作について詳細に説明する。
【0111】
干渉源が2つ以上に存在するため、通信状態のPAとGrayが同時に存在することがある。制御部6はPAとGrayの2つの通信状態が同時に存在し、かつ通信状態が更新されたのを確認した場合、まず、動作指令1の「通信チャネル変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令1)を受けた後、素早く指令(動作指令1)に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0112】
制御部6は、データ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、データ送受信部12に送った前回の指令よりも優先度の低い動作指令3の「通信ルート変更指令」をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)を受けた後、素早く指令に従って動作を実行する。データ送受信部12が制御部6からの指令(動作指令3)に従って動作実行できない場合、制御部6に指令実行失敗の信号を送る。
【0113】
制御部6がデータ送受信部12からの指令実行失敗の信号を受け取った場合、かつデータ送受信部12に送った前回の指令より優先度の低い動作指令が存在しない場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を送信しない。制御部6は通信状態がGoodに更新されたのを確認した場合、次の通信状態の更新を確認するまで動作指令を発送しない。
【0114】
次に、本実施形態の無線通信機の衝突検出部5の衝突検出結果に基づく、制御部6の通信制御方法について詳細に説明する。
【0115】
本実施形態の無線通信機の制御部6は、記憶部3に定期的にチェックを行い、衝突率の更新を確認する。制御部6は、衝突率の更新を確認した場合、かつ衝突率が閾値4より大きい場合、送信パラメータの調整を指示する旨の送信パラメータ調整指令をデータ送受信部12に送る。データ送受信部12は、制御部6から送信パラメータ調整指令を受け取ると、素早く指令に従って送信パラメータを調整する。送信パラメータには、キャリアセンス感度、バックオフ時間および伝送レートなどがある。バックオフ時間は、802.11無線機の送信待機時間のことである。閾値4はデバイスの性能と通信の応用によって決められる。例えば、図4に示す実験の場合、表2に示す衝突検出結果を参照し、閾値4を80%としている。
【0116】
なお、衝突率が閾値4より大きい場合、例えば、送信パラメータがキャリアセンス感度である場合、送信パラメータの調整はキャリアセンス感度を高くすることであり、送信パラメータが送信パケットサイズである場合、送信パラメータの調整は送信パケットサイズを下げることであり、送信パラメータが伝送レートである場合、送信パラメータの調整は伝送レートを上げることである。これらの送信パラメータのうち、いずれを調整対象として選択するか、また、選択した送信パラメータをどのように調整するかは、パケットの衝突を回避するだけでなく、通信環境が全体的に改善されるように、最適な条件に設定するのが望ましい。
【0117】
本実施形態の無線通信機では、データ送信が他の通信からの干渉を受ける場合、自機の通信状態が3つの通信状態のうち、いずれの通信状態であるかを判定し、判定した通信状態に基づいて送信パラメータを調整することによって伝送効率を高めることができる。
【0118】
また、本実施形態の無線通信機では、データ送信を開始する前に、周囲電波状況におけるテスト用パケットの衝突の発生を予め検出し、衝突が発生する場合の衝突率を計算し、衝突検出の結果と衝突率に基づいて、送信パラメータを適切に調整している。そのため、他の通信からの干渉の検出精度を高めることができ、他の通信との干渉を防ぎ、伝送効率を高めることができる。
【0119】
(第2の実施形態)
本実施形態の無線通信機を、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成については、その詳細な説明を省略する。
【0120】
図13は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。図13に示すように、本実施形態の無線通信機は、通信部1と、計算処理部2と、記憶部3と、通信状態分類部4と、制御部6とを有する構成である。本実施形態では、通信部1に、データ送信部12が設けられているが、図1に示した信号センシング部11が設けられていない。
【0121】
本実施形態の無線通信機は、図1に示した信号センシング部11と衝突検出部5を有していない。したがって、本実施形態では、伝送効率を高めるための送信パラメータの調整は通信状態分類部4から出力される結果に基づいて行われる。
【0122】
本実施形態では、図1に示した衝突検出部5から出力される衝突率による送信パラメータの調整を行わなくても、あるいは、衝突検出部5による衝突検出を行わなくても、伝送効率を高めることができるだけでなく、無線通信機の回路構成が簡単になり、消費電力を抑えられる利点がある。
【0123】
(第3の実施形態)
本実施形態の無線通信機を、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成については、その詳細な説明を省略する。
【0124】
図14は本実施形態の無線通信機の一構成例を示すブロック図である。図14に示すように、本実施形態の無線通信機は、通信部1と、計算処理部2と、記憶部3と、衝突検出部5と、制御部6とを有する構成である。
【0125】
本実施形態の無線通信機は、図1に示した通信状態分類部4を有していない。したがって、本実施形態では、伝送効率を高めるための送信パラメータの調整は衝突検出部5から出力される結果に基づいて行われる。
【0126】
本実施形態では、図1に示した通信状態分類部4から出力される通信状態による送信パラメータの調整を行わなくても、伝送効率を高めることができるだけでなく、無線通信機の回路構成が簡単になり、消費電力を抑えられる利点がある。
【0127】
(第4の実施形態)
本発明の無線通信機を、メッシュネットワークを構成する基地局に適用することが可能である。本実施形態では、第1の実施形態の無線通信機をメッシュネットワークの基地局として動作させる場合のメッシュネットワークの構成について説明する。
【0128】
図15は、第1の実施形態の無線通信機が基地局として構成されるメッシュネットワークの一例を示す図である。図15に示す丸印が基地局に相当する。基地局の位置設定は実際の応用に応じて、一般的なメッシュネットワークの基地局の設置方法に従って行われる。複数の基地局のうち、1つの基地局がネットワーク内通信を管理するネットワーク通信管理部として機能する。以下では、このネットワーク通信管理部を管理局と称する。図15では、管理局を符号7で表している。
【0129】
次に、本実施形態のメッシュネットワークの初期設定と運用方法について詳細に説明する。
【0130】
メッシュネットワークの初期設定は、基地局のキャリアセンス感度の調整と通信路の通信品質測定との2段階で構成される。まず、メッシュネットワーク内の基地局のキャリアセンス感度の調整について、図16を参照して詳細に説明する。
【0131】
メッシュネットワーク内の基地局の位置設定が完了した後、ネットワーク内通信を管理する1つの基地局が管理局7として選出される。管理局7はネットワーク内に最小あるいは最大MACアドレスを持つ基地局から自動的に選出される。管理局7の安定性を考えると、管理局7として、電源給電の基地局、無停電電源装置を装備する基地局、イーサネット(登録商標)に接続する基地局などの基地局から優先的に選出すべきである。選出された管理局7は自分のアドレスをネットワーク内の全ての基地局に送信する。各基地局は受信した管理局7のアドレスを自分の記憶部3に保存する。管理局7が変更された場合、新しい管理局7が自分のアドレスをネットワーク内の全ての基地局に送信し、各基地局が記憶部3に保存している管理局7のアドレスを更新する。ここでは、管理局の選出方法として、いくつかの例を示したが、ここで説明した方法に限定するものではない。
【0132】
次に、管理局7はネットワーク内の任意の1つの基地局に指令を送り、当該基地局に衝突検出するための一定の伝送速度(例えば6Mbps)かつ最大電力でのテスト送信(ブロードキャスト送信)をさせる(ステップD1)。図15では、テスト送信を行う基地局を、基地局K1としている。ブロードキャスト送信を送信TAと称する。この時点で、基地局K1以外の基地局がアイドル状態である。
【0133】
次に、アイドル状態である基地局の中の任意の1つの基地局に、管理局7が指令を送り、基地局K1と同じチャネルかつフルレート(ここでは、「フルレート」は休まずに連続的に動作することを意味する)でテスト送信(ブロードキャスト送信)をさせる(ステップD2)。ここで、テスト送信を行う基地局を、基地局K2とする。このときのブロードキャスト送信を送信TBと称する。基地局K2のテスト送信速度は基地局K1の伝送速度より高くする(例えば54Mbps)。
【0134】
次に、基地局K2がテスト送信開始後、管理局7は基地局K2に指令を送り、基地局K2に基地局K1のテスト送信との衝突検出を実行させる(ステップD3)。基地局K2は衝突検出後に基地局K1のテスト送信との衝突率を基地局K2の記憶部3に保存する(ステップD4)。
【0135】
次に、管理局7は基地局K2に指令を送り、基地局K2のテスト送信を停止させ、基地局K2をアイドル状態に戻す(ステップD5)。基地局K2は記憶部3に保存する衝突率を閾値4と比較し(ステップD6)、衝突率が閾値4より大きい場合、基地局K1への干渉を抑制するようにキャリアセンスの感度を調整する(ステップD7)。
【0136】
次に、管理局7は送信TAあるいは送信TBを行った基地局以外の任意の基地局に順次に指令を送り、それぞれの基地局にステップD2からステップD7までの動作を実行させる(ステップD8)。ステップD2からステップD8までの動作により基地局K1とネットワーク内の他の基地局と同時に通信する場合の互いの干渉が抑えられる。次に、管理局7は基地局K1に指令を送り、基地局K1のテスト送信を停止させ、基地局K1をアイドル状態に戻す(ステップD9)。
【0137】
次に、管理局7は送信TAを行った基地局以外の任意の基地局に順次に指令を送り、それぞれの基地局にステップ1からステップ7までの動作を実行させる(ステップD10)。ステップD1からステップD10までの動作によりネットワーク内の全ての基地局の互いの干渉が抑えられる。
【0138】
次に、メッシュネットワーク内の通信路の通信品質測定について、図17を参照して詳細に説明する。
【0139】
まず、管理局7はネットワーク内の任意の1つ基地局H1に指令を送り、基地局H1に基地局H1の隣接の任意の1つの基地局H2にテスト送信を実行させる(ステップE1)。このテスト送信を送信FAと称する。基地局H1は固定の伝送速度かつフルレートで基地局H2にテスト送信を行う。この時点で、基地局H1および基地局H2を除く基地局がアイドル状態である。次に、管理局7は、基地局H1および基地局H2を除く任意の1つの基地局H3に指令を送り、基地局H3に基地局H3の隣接の任意の1つの基地局H4にテスト送信(ユニキャスト送信)を実行させる(ステップE2)。このテスト送信を送信FBと称する。基地局H3は固定の伝送速度かつフルレートで基地局H4にテスト送信を行う。
【0140】
次に、管理局7は基地局H1に指令を送り、基地局H1に送信FAの通信状態を分類させる(ステップE3)。上記の通信状態の分類が完了した後に、基地局H1は、送信FBが存在する場合の送信FAの通信状態の分類結果と、送信FAの伝送速度と、送信FBの伝送速度とを管理局7に送る(ステップE4)。管理局7は、送信FBが存在する場合の送信FAの通信状態の分類結果、送信FAの伝送速度、および送信FBの伝送速度の情報を基地局H1から受け取ると、これらの情報を1つの組にして記憶部3に保存する。
【0141】
次に、管理局7は基地局H3が全ての伝送速度で送信FBを実行したかを判断し(ステップE5)、基地局H3が全ての伝送速度での送信FBを終了していない場合、基地局H3に指令を送り、基地局H3にテスト送信の伝送速度を予め決められた範囲内で変更させ(ステップE6)、ステップE2の処理に戻る。なお、ここで言う「全ての伝送速度」とは、予め決められた範囲の伝送レートであり、例えば、表1に示す伝送レートである。
【0142】
次に、基地局H3が全ての伝送速度で送信FBを実行した場合(ステップE5)、管理局7は基地局H1が全ての伝送速度で送信FAを実行したかを判断し(ステップE7)、基地局H1が全ての伝送速度での送信FAを終了していない場合、管理局7は基地局H1に指令を送り、基地局H1にテスト送信の伝送速度を予め決められた範囲内で変更させ(ステップE8)、ステップE1の処理に戻る。
【0143】
次に、基地局H1が全ての伝送速度での送信FAを終了した場合(ステップE7)、管理局7は基地局H3と基地局H4に指令を送り、基地局H3のテスト送信を停止させ、基地局H3および基地局H4をアイドル状態に戻す(ステップE9)。
【0144】
管理局7は、ステップE1で基地局H1に送信FAを実行させているときに、送信FBを実行していない基地局の有無を判断する(ステップE10)。ステップE10で、送信FBを実行していない基地局が存在する場合、管理局7は、送信FBを実行していない基地局H3(送信側)と基地局H4(受信側)を選出し(ステップE11)、基地局H3と基地局H4に指令を送り、ステップE2の処理に戻る。
【0145】
ステップE1からステップE10までの動作により、ある基地局の送信FAとネットワーク内の各通信路とが同時に通信した場合における、送信FAの通信状態が管理局7で把握される。
【0146】
ステップE10で、送信FBを実行していない基地局が存在しない場合、管理局7は基地局H1と基地局H2に指令を送り、基地局H1のテスト送信を停止させ、基地局H1および基地局H2をアイドル状態に戻す(ステップE12)。次に、管理局7は送信FAを実行していない基地局の有無を判断し(ステップE13)、送信FAを実行していない基地局が存在する場合、ステップE1の処理に戻る。
【0147】
ステップE1からステップE13までの動作により、ネットワーク内の全ての通信路のそれぞれが各伝送速度で他の通信路と同時に通信する場合の通信状態が把握され、全ての通信組み合わせにおける、通信状態と通信路とが対応づけられ、その対応づけられた情報が管理局7の記憶部3に保存される。
【0148】
なお、本実施形態では、ステップE2の処理における送信FBが、基地局H3が基地局H4に対して行うユニキャスト通信の場合で説明したが、基地局H3からのブロードキャスト通信であってもよい。送信FBに基地局H3からのブロードキャスト通信が用いられる場合、ステップE2における基地局H4はアイドル状態である。
【0149】
次に、図18を参照して、本実施形態のメッシュネットワークの運用方法について詳細に説明する。
【0150】
本実施形態のメッシュネットワークを構成する複数の基地局のうち、1つの基地局がデータ送信を行う際、その基地局は、データ送信を行う前に、データ送信を予定していることを通知するための送信請求メッセージを管理局7に送る。以下では、データ送信を予定している基地局を基地局10とする。送信請求メッセージには、基地局10が予定するデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報が含まれている。なお、基地局10がデータ送信を行う前に既にデータ送信を行っている基地局があれば、その基地局のデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報を含む通信状況情報が、管理局7の記憶部3に格納されている。このことは、基地局10の場合で後述する。
【0151】
管理局7は、基地局10から送信請求メッセージを受信すると、基地局10が予定している送信ルートでの通信がネットワーク内の既存の通信から干渉を受ける場合の通信状態を記憶部3から読み出し、読み出した通信状態と既存の通信の送信ルート(干渉ルート)の情報を含む返信メッセージを基地局10に送信する。全ての通信組み合わせにおける、通信状態と通信路とが対応づけられた情報と、既にデータ送信を行っている基地局の通信状況情報とが記憶部3に保存されていることから、管理局7は、基地局10が予定している送信ルートでの通信状態を、記憶部3から読み出すことが可能である。
【0152】
基地局10は、管理局7から返信メッセージを受信すると、返信メッセージに含まれる通信状態の情報を、予定している送信ルートの通信状態として記憶部3に保存する。続いて、基地局10の制御部6は、第1の実施形態で説明した表3を参照し、記憶部3に保存した通信状態に対応する動作指令を読み出し、データ送受信部12を通信制御するために、読み出した動作指令をデータ送受信部12に送る。制御部6がデータ送受信部12に通信制御を行うことで送信パラメータの調整が完了した後、基地局10は、データ送信の準備が完了したことを通知するための送信準備完了メッセージを管理局7に送る。送信準備完了メッセージには、基地局10が予定するデータ送信の送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報が含まれている。
【0153】
管理局7は、基地局10から送信準備完了メッセージを受信すると、送信準備完了メッセージから送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度の情報を読み出し、読み出した情報を、基地局10の通信状況情報として記憶部3に保存する。次に、基地局10は、管理局に通知した、送信ルート、送信チャネルおよびデータ伝送速度で、データ送信を開始する。データ送信が完了した後、基地局10は、データ送信処理が完了したことを通知するための送信完了メッセージを管理局7に送る。管理局7は送信完了メッセージを基地局10から受信した場合、基地局10の通信状況情報を記憶部3から消去する。
【0154】
上述の動作で、管理局7は、基地局10から送信請求メッセージを受信した場合、一定時間内(例えば3秒)に必ず基地局10に返信メッセージを送るようにする。基地局10は、送信請求メッセージを管理局7に送信した後、一定時間内(例えば3秒)に管理局7からの返信メッセージを受信できない場合、データ送信を直ちに開始する。
【0155】
なお、基地局10は、管理局7に送信請求メッセージを送信した後、一定時間内(例えば3秒)に管理局7から返信メッセージを受信できない場合、一定時間後(例えば3秒後)に送信請求メッセージを管理局7に再送してもよい。この場合、基地局10は、送信請求メッセージの送信回数が再送を含めて一定回数(例えば3回)になっても、管理局7から返信メッセージを受信できない場合、予定するデータ送信を直ちに開始する。また、本実施形態では、基地局10は、管理局7から返信メッセージを受信できない場合、直ちにデータ送信を開始する場合を説明したが、場合によってはデータ送信を開始しないようにしてもよい。
【0156】
本実施形態では、本発明の無線通信機を用いてメッシュネットワークを構成することにより、ネットワーク内の各通信路間の干渉が抑えられる。
【0157】
上述の第1から第4の実施形態では、無線LAN規格がIEEE802.11の場合で説明したが、この規格に限定されず、また、ネットワークはLANに限らない。
【0158】
また、本発明の無線通信方法をコンピュータに実行させてもよく、本発明の無線通信方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに適用してもよく、そのプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納してもよい。
【符号の説明】
【0159】
1 通信部
2 計算処理部
3 記憶部
4 通信状態分類部
5 衝突検出部
6 制御部
7 管理局
8 演算制御部
11 信号センシング部
12 データ送受信部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のテスト用パケットを無線で送出するデータ送受信部と、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、センシングした空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、
前記信号センシング部から出力されるサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部と、
を有する無線通信機。
【請求項2】
請求項1記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、前記時系列サンプルデータから所定のサンプル数毎に前記空間電波信号の平均電力を算出し、算出した平均電力の隣接する2つのデータについて、時間経過の大きい方から時間経過の小さい方を引いた電力差を算出することで、前記時系列サンプルデータを該電力差のデータが時系列に出現する電力差時系列データに変換した後、該電力差時系列データに基づいて前記パケット衝突があるか否かを判定する、無線通信機。
【請求項3】
請求項2記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、
前記電力差時系列データを時間軸に沿って調べ、予め決められた第1の閾値よりも大きい第1のデータが出現し、該第1のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第1のデータである第1のケース、もしくは、該第1のデータの直後の所定の範囲内のデータが全て0でない第2のケース、または、予め決められた第2の閾値より小さい第2のデータが出現し、該第2のデータの直後の所定の範囲内のデータが全て0でない第3のケースのうち、いずれかのケースに該当していると認識すると、前記パケット衝突があったと判定する、無線通信機。
【請求項4】
請求項2または3記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、
前記電力差時系列データを時間軸に沿って調べ、予め決められた第1の閾値よりも大きい第1のデータが出現し、該第1のデータの直前の所定の範囲内のデータの中に0が存在し、かつ該第1のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが予め決められた第2の閾値より小さい第2のデータであり、該第2のデータの直後の所定の範囲内のデータに0が存在する場合であって、前記第2のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第2の閾値より小さいデータである第4のケース、または、前記第2のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第1の閾値より大きいデータであり、前記第1のデータおよび前記第2のデータの和の絶対値が前記第1の閾値よりも大きい第5のケースのうち、いずれかのケースに該当していると認識すると、前記パケット衝突があったと判定する、無線通信機。
【請求項5】
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行うデータ送受信部と、
前記データ送受信部で算出された、前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出する計算処理部と、
前記計算処理部が算出した前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定する通信状態分類部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記通信状態分類部が判定した通信状態に対応して調整する制御部と、
を有する無線通信機。
【請求項6】
請求項5記載の無線通信機において、
前記通信状態分類部は、
前記パケット送信成功率が予め決められた第1の基準値より大きく、かつ前記ビジー率が予め決められた第2の基準値以下である場合、前記通信状態が他の通信との干渉による影響が小さい状態である無干渉状態と判定し、前記パケット送信成功率が前記第1の基準値より大きく、かつ前記ビジー率が前記第2の基準値より大きい場合、前記通信状態が通信に異常が発生している状態である通信異常状態と判定し、前記パケット送信成功率が前記第1の基準値以下、かつ前記パケット送信成功率の標準偏差が予め決められた第3の基準値より大きい場合、前記通信状態が他の通信の干渉を受けている状態である通信干渉状態と判定する、無線通信機。
【請求項7】
請求項6記載の無線通信機において、
前記制御部は、
前記通信状態が前記通信異常状態または前記通信干渉状態である場合、前記データ送受信部に対して、チャネルの変更、パケットサイズの変更および通信ルートの変更のうち、いずれかの調整を行う、無線通信機。
【請求項8】
請求項1記載の無線通信機と、請求項5記載の無線通信機とが一体に構成される無線通信機。
【請求項9】
請求項8記載の無線通信機が基地局として複数配置されたネットワーク。
【請求項10】
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する、無線通信方法。
【請求項11】
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する、無線通信方法。
【請求項12】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項1】
複数のテスト用パケットを無線で送出するデータ送受信部と、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、センシングした空間電波信号のサンプルデータを出力する信号センシング部と、
前記信号センシング部から出力されるサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換する計算処理部と、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出する衝突検出部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記衝突検出部の算出結果に基づいて調整する制御部と、
を有する無線通信機。
【請求項2】
請求項1記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、前記時系列サンプルデータから所定のサンプル数毎に前記空間電波信号の平均電力を算出し、算出した平均電力の隣接する2つのデータについて、時間経過の大きい方から時間経過の小さい方を引いた電力差を算出することで、前記時系列サンプルデータを該電力差のデータが時系列に出現する電力差時系列データに変換した後、該電力差時系列データに基づいて前記パケット衝突があるか否かを判定する、無線通信機。
【請求項3】
請求項2記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、
前記電力差時系列データを時間軸に沿って調べ、予め決められた第1の閾値よりも大きい第1のデータが出現し、該第1のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第1のデータである第1のケース、もしくは、該第1のデータの直後の所定の範囲内のデータが全て0でない第2のケース、または、予め決められた第2の閾値より小さい第2のデータが出現し、該第2のデータの直後の所定の範囲内のデータが全て0でない第3のケースのうち、いずれかのケースに該当していると認識すると、前記パケット衝突があったと判定する、無線通信機。
【請求項4】
請求項2または3記載の無線通信機において、
前記衝突検出部は、
前記電力差時系列データを時間軸に沿って調べ、予め決められた第1の閾値よりも大きい第1のデータが出現し、該第1のデータの直前の所定の範囲内のデータの中に0が存在し、かつ該第1のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが予め決められた第2の閾値より小さい第2のデータであり、該第2のデータの直後の所定の範囲内のデータに0が存在する場合であって、前記第2のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第2の閾値より小さいデータである第4のケース、または、前記第2のデータの後に最初に出現する、ノイズレベルではないデータが前記第1の閾値より大きいデータであり、前記第1のデータおよび前記第2のデータの和の絶対値が前記第1の閾値よりも大きい第5のケースのうち、いずれかのケースに該当していると認識すると、前記パケット衝突があったと判定する、無線通信機。
【請求項5】
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行うデータ送受信部と、
前記データ送受信部で算出された、前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出する計算処理部と、
前記計算処理部が算出した前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定する通信状態分類部と、
前記データ送受信部がデータ送信を行う際のパラメータを、前記通信状態分類部が判定した通信状態に対応して調整する制御部と、
を有する無線通信機。
【請求項6】
請求項5記載の無線通信機において、
前記通信状態分類部は、
前記パケット送信成功率が予め決められた第1の基準値より大きく、かつ前記ビジー率が予め決められた第2の基準値以下である場合、前記通信状態が他の通信との干渉による影響が小さい状態である無干渉状態と判定し、前記パケット送信成功率が前記第1の基準値より大きく、かつ前記ビジー率が前記第2の基準値より大きい場合、前記通信状態が通信に異常が発生している状態である通信異常状態と判定し、前記パケット送信成功率が前記第1の基準値以下、かつ前記パケット送信成功率の標準偏差が予め決められた第3の基準値より大きい場合、前記通信状態が他の通信の干渉を受けている状態である通信干渉状態と判定する、無線通信機。
【請求項7】
請求項6記載の無線通信機において、
前記制御部は、
前記通信状態が前記通信異常状態または前記通信干渉状態である場合、前記データ送受信部に対して、チャネルの変更、パケットサイズの変更および通信ルートの変更のうち、いずれかの調整を行う、無線通信機。
【請求項8】
請求項1記載の無線通信機と、請求項5記載の無線通信機とが一体に構成される無線通信機。
【請求項9】
請求項8記載の無線通信機が基地局として複数配置されたネットワーク。
【請求項10】
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する、無線通信方法。
【請求項11】
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する、無線通信方法。
【請求項12】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
複数のテスト用パケットを無線で送出し、
前記複数のテスト用パケットと同じ周波数チャネルで空間電波信号の電力をセンシングし、
センシングした空間電波信号のサンプルデータを、該サンプルデータが時系列にプロットされたデータである時系列サンプルデータに変換し、
前記時系列サンプルデータに基づいて前記複数のテスト用パケットと他の通信との干渉によるパケット衝突があると判定すると、パケット衝突の回数と前記複数のテスト用パケットの送信数とからパケット衝突率を算出し、
前記パケット衝突率に基づいて、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
無線によるパケットの送受信に伴って、パケットの送受信に関するパラメータである送受信パラメータの統計処理を行い、
前記送受信パラメータの統計処理の結果から、自機がパケットの送受信で使用するチャネルと同一のチャネルが使用されていると判断される時間の割合であるビジー率、パケット送信成功率、および該パケット送信成功率の標準偏差を含む通信評価用パラメータを算出し、
前記通信評価用パラメータに基づいて、他の通信との干渉による影響度を示す通信状態を判定し、
前記判定した通信状態に対応して、データ送信を行う際のパラメータを調整する処理を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−5097(P2013−5097A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132314(P2011−132314)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000232254)日本電気通信システム株式会社 (586)
【出願人】(509092971)株式会社テレコグニックス (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000232254)日本電気通信システム株式会社 (586)
【出願人】(509092971)株式会社テレコグニックス (6)
【Fターム(参考)】
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