説明

無線通信機及び無線通信システム

【課題】簡易な構成で通信範囲を、予め設定した範囲内に確実に制限する。
【解決手段】他の無線通信機と互いに識別符号を認識することで通信を開始する無線通信機10であって、GPS電波から算出した自機の位置情報を記憶した記憶部108と、他の無線通信機からの呼び出し信号中の識別符号を認識する識別符号認識手段100bと、通信可否判断手段100cと、を有し、前記認識した識別符号に含まれる経度・緯度情報から、前記他の無線通信機の位置を判断し、前記位置情報が予め設定した通信範囲内である場合だけ受信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機、とくに、その交信範囲を自端末から所定の範囲内にある無線通信機との通信に限定する機能を備えた無線通信機、及び複数の上記無線通信機で構成される無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機(又は無線端末)間で通信を行う場合、相手との通信を開始するときは、送信側無線通信機は自身の身分を示すID(識別符号)を無線電文に挿入して送信し、これを受信した受信側無線通信機とIDを互いに認証して通信を成立させる。この場合、IDは、例えば、同一機種であることを識別するもの、無線通信機の事業者が同一事業者であることを識別するもの、或いは予め登録された無線通信機であることを識別するためのものが一般的である。
【0003】
ところで、無線通信機間でIDが認証されて一旦通信が開始されると、受信側無線通信機は送信側無線通信機の状況に関わらず、その後の電文を受信し続けることになる。この場合、特に遠距離の相手と無線通信を行う場合には、通信空間の変化による影響を受けやすく、時間的に長い電文を通信すると伝播ノイズや反射の変化などにより電文受信エラーが生じやすくなる。
そのため、IDにより送受信の認証はできても、その後の電文受信でエラーがあるまま長い電文を受信し続けることが生じ得る。エラーがあるまま長い電文を受信し続けると、電池駆動の通信機器においては無駄な電池の消費が進み、電池寿命の低下を招く事態となり得る。
【0004】
そのため、従来から無線通信する場合に、相手との距離の関係で通信の可否を判断することが行われている。例えば、無線通信システムにおいて、無線端末が、無線LANのアクセスポイントと端末との間の第1の距離を算出し、前記算出された第1の距離と、無線LANの通信が可能な距離である第2の距離とを比較することによって、無線LANの通信可否を判断する無線通信システムが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、通信相手の位置情報を取得する処理の負荷を軽減あるいはその処理を不要とするために、通信相手をアドレス帳記憶部ADに記憶しておき、自己の位置情報とアドレス帳に記憶されている通信相手情報とに基づいて、アドレス帳内からいずれかの通信相手を認識してその位置情報を取得するシステムも知られている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、これら従来のシステムでは、いずれも相手側との距離を把握しかつ通信の可否を判断するために特別の手段を必要としている。そのため、必然的にコストを要することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−055330号公報
【特許文献2】特開2008−199422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、無線通信システムにおける上記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、通信電文の受信に先立って行う識別符号の認証時に、同時に相手側つまり送信側無線通信機の位置情報を取得できるようにして、自端末との位置関係に応じて通信可否の判断を容易かつ簡便に行い無駄な電力の消費を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は無線通信機であって、他の無線通信機からの呼出信号に応じて通信を開始する無線通信機であって、他の無線通信機と通信を行う通信部と、自機の位置情報を記憶した記憶部と、他の無線通信機からの呼出信号中の識別符号を認識する識別符号認識手段と、前記認識した識別符号に含まれる前記他の無線通信機の位置情報に基づき前記他の無線通信機との通信の可否を判断する通信可否判断手段と、を有している。
(2)本発明は上記(1)の複数の無線通信機で構成された無線通信システムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通信開始時に互いに認証する識別符号を位置情報(経度・緯度)そのものとしたため、受信側無線通信機で予め通信可能範囲を設定しておくことにより、受信可能な送信側無線通信機のみを容易に選択することができ、簡易な手段で無駄な電力の消費を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るシステムを模式的に示した全体構成図である。
【図2】本実施形態のシステムを構成する無線通信機の構造を示すブロック図である。
【図3】本実施形態のシステムにおける通信フォーマットを示す。
【図4】識別符号作成手段で作成される識別符号を各無線通信機毎に表した一覧表である。
【図5】受信側無線通信機で行う電文受信可否判断処理を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシステムを模式的に示した全体構成図である。また、図2は、本実施形態のシステムを構成する無線通信機の構造を示すブロック図である。
【0013】
図1において、本無線通信システムは、複数の無線通信機10(1)、10(2)・・・からなる。
無線通信機10(10(1)、10(2)・・・)は、それぞれ自身の位置情報を取得し、それぞれの記憶手段に保存している。無線通信機10が固定局であれば、位置情報は不変であるが、移動局の場合は、例えば、図1に示すようにGPS(Global Positioning System)システムを運用する人工衛星20からのGPS電波を受信して自身の位置を測定する。
本実施形態では各無線通信機10はGPS電波により位置算出機能を有している。即ち、各無線通信機10は、人工衛星20からのGPS電波を受信して自身の位置を算出し、算出した緯度及び経度情報そのものを自身の識別符号とする処理を行う。
【0014】
各無線通信機10は、図2に示すように、当該無線通信機10全体を制御するCPU100と、CPU100のワーク用メモリとなるRAM101と、無線通信機10の動作プログラムなどを格納したROM102と、他の無線通信機10と通信を行うための通信部103と、通信部103に接続されたアンテナ104と、受信したGPS電波を処理するGPS入力部105と、例えばLCD(液晶表示装置)などで構成された表示部106と、必要に応じて音声入出力部107と、自身の位置情報や受信した電文などを記憶する記憶部108及びユーザが例えば通信可能範囲を入力するための操作部109を備えている。
【0015】
CPU100は、ROM102に格納されたプログラムによる機能実現手段として、識別符号作成手段100aと、識別符号認識手段100bと、通信可否判断手段100cを備えている。
識別符号作成手段100aは、受信したGPS電波から緯度・経度を算出し、その算出した緯度・経度をそのまま識別符号として、図3の送信フォーマットで示すように、その送信電文に付加する処理を行う。
【0016】
識別符号認識手段100bは、受信した信号から送信側無線通信機の緯度・経度を表す識別符号を認識して、その緯度・経度に基づき、送信側無線通信機の位置を特定する機能を有している。
通信可否判断手段100cは、送信側無線通信機からの距離と、予め定めた自機の通信(この場合受信)可能距離(無線通信機自体の通信可能距離と、周りの通信環境を考慮してユーザが任意に決定し、無線通信機の操作部109から入力して設定しておく)とを対比することにより、受信が可能か否かを判断する機能を有する。
【0017】
識別符号作成手段100a、識別符号認識手段100b、通信可否判断手段100cは、いずれもROM102に格納されたプログラムによりCPU100によって実行される機能実現手段である。
【0018】
図3は、本実施形態に係る無線通信機が通信を行う場合の通信フォーマットの一例を示す。本通信フォーマットは、例えば、DVI(device-independent file format)であって、データの送付に先立って送る同期確立用のビット列からなる制御信号であるプリアンブルと、それに続くID(識別符号)、電文、及びデータの送付後に送るビット列であるポストアンブルとからなっている。
ここでは、ビット同期信号、フレーム同期信号、識別符号を併せて「呼出信号」と呼び、例えば、間欠受信待ち受けを行うため呼出信号だけを繰り返し送信し、その繰り返し送信時間は受信側無線通信装置の間欠受信待ち受け周期よりも長くする。
【0019】
図4は、識別符号作成手段100aで作成される識別符号を各無線通信機毎に表した一覧表であって、各無線通信機はそれぞれ例えば人工衛星から受信したGPS電波に基づき、自機の位置情報を算出し、それぞれの記憶部108に記憶させておくと共に、識別符号作成手段100aはその位置情報をそのまま識別符号に作成する。
【0020】
図5は受信側無線通信機10で行う電文受信可否判断処理を説明するフロー図である。
即ち、受信側無線通信機10(1)は、例えば送信側無線通信機10(4)から呼出信号を受信すると(S101、YES)、その識別符号認識手段100bは呼出信号中の識別符号(ID)を認識し(S102)、上記識別符号から当該送信側無線通信機10(4)の経度及び緯度を取得して記憶部108に格納する(S103)。また、それと共に通信可否判断手段100cは、取得した送信側無線通信機の位置情報(経度及び緯度情報)に基づき、その位置情報と予め設定した通信可能範囲とを比較して(S104)、上記取得した位置情報が上記予め設定した通信可能範囲内でないときは(S104、NO)、上記送信側無線通信機との通信を不可と判断する。ここで、通信可否判断手段100cは上記送信側無線通信機との通信が不可と判断したときは、上記送信側無線通信機からの受信通信を遮断する処理を行う。この処理は、例えば電池電源の遮断である。(S106)。
ステップS104で、上記取得した位置情報が上記予め設定した通信可能範囲内であるときは(S104、YES)、識別符号の認証後に電文の受信を行い(S105)、処理を終了する。
【0021】
なお、電文中に位置情報を入れることでも、送信側−受信側無線通信機間における通信の可否の判断は可能であるが、この場合は、位置情報を含む一定長の電文を受信することになるため、本発明の上記課題を解決することはできない。
本実施形態では電文に先だって受信する呼出信号の識別符号自体が位置情報であり、受信した識別符号を認識することが同時に送信側無線通信機の位置を特定することになるため、識別符号(呼出信号)を受信した段階で、つまり電文受信が開始される前に、通信の可否を自動的に判断するため、無駄な受信を行って電池を徒らに浪費することはない。
【0022】
再び図1において、例えば、通信距離設定を1kmとした無線通信機10(1)を例に採って説明すれば、受信側無線通信機10(1)が例えば北緯35度40分18秒/東経139度44分41秒にある場合において、送信側無線通信機10(4)が北緯35度39分18秒/東経139度44分41秒にあるとすると、両者は緯度1分差(=1海里=1.8km)であるため通信は不可である。つまり、この受信側無線通信機10(1)は、緯度・経度が同度同分でない送信側無線通信機10(4)からの通信は、遠方であり通信不安定とみなして受信不可つまり受信しないようにすることができる。
【0023】
上記無線通信機は固定局でも移動局であってもよく、固定局であれば、その設置位置を識別符号として記憶部108に一度登録しておけば、後は識別符号が変わることはない。つまり、固定局の場合は、予めその緯度・経度情報が取得可能であればそれを保存しておくだけでよい。移動局であれば、既に述べたように、GPS電波を使用して自動的に緯度・経度を測定し、それに基づき識別符号を作成する。
以上の説明では、通信距離のみに限定して本発明の実施形態を説明したが、これに限るものではなく、受信方向を特定の方位(方位角)に限定することもできる。例えば県境に近い場所に設置された受信側無線通信機が県内(南側)の送信側無線通信機とのみ通信したい場合には、緯度情報が所定の値よりも小さい範囲、つまり南側にある識別符号の信号だけを選択受信する、という使用方法も可能である。
【0024】
本実施形態は、識別符号が位置情報(緯度・経度情報)でもあることにより、受信側無線通信機は、送信側無線通信機の識別符号を受信すると、その識別符号から直ちに受信の可否を判断でき、したがって、電力の無駄な消費を抑制できる。また、送信側および受信側無線通信機が固定局である場合、一旦ある送信側無線通信機からは受信可能であるとしたときは、その識別符号を記憶部108に登録しておくことにより、次回からの受信は、識別符号が認証されれば、自動的に電文の受信を行うことができる。
なお、送信側無線通信機又は受信側無線通信機の少なくとも一方が移動局であるときは、受信の度に図5に示す処理を行うことになる。しかし、その場合でもその処理は簡易であるから受信側無線通信機側の負担は少ない。
【符号の説明】
【0025】
10(10(1)、10(2)・・・)・・・無線通信機、20・・・人工衛星、100・・・CPU、100a・・・識別符号作成手段、100b・・・識別符号認識手段、100c・・・通信可否判断手段、101・・・RAM、102・・・ROM、103・・・通信部、105・・・GPS入力部、106・・・表示部、107・・・音声入出力部、108・・・記憶部、109・・・操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の無線通信機からの呼出信号に応じて通信を開始する無線通信機であって、
他の無線通信機と通信を行う通信部と、自機の位置情報を記憶した記憶部と、他の無線通信機からの呼出信号中の識別符号を認識する識別符号認識手段と、前記認識した識別符号に含まれる前記他の無線通信機の位置情報に基づき前記他の無線通信機との通信の可否を判断する通信可否判断手段と、
を有する無線通信機。
【請求項2】
請求項1に記載された無線通信機において、
前記記憶部に記憶された自機の位置情報から識別符号を作成する識別符号作成手段を有する無線通信機。
【請求項3】
請求項1または2に記載された無線通信機において、
前記位置情報は経度・緯度情報である無線通信機。
【請求項4】
請求項3に記載された無線通信機において、
自機の経度・緯度情報を取得する手段を有する無線通信機。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された無線通信機において、
通信範囲を設定するための操作部を有し、
前記通信可否判断手段は、他の無線通信機の識別符号が表す位置情報が前記設定された通信範囲内にあるときのみ、前記他の無線通信機との通信データの交信を許容する無線通信機。
【請求項6】
請求項5に記載された無線通信機において、
前記通信可否判断手段は、他の無線通信機の識別符号が表す位置情報が前記設定された通信範囲内にないとき、前記他の無線通信機からの通信を遮断する無線通信機。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された複数の無線通信機で構成された無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−74902(P2012−74902A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217816(P2010−217816)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(304020498)サクサ株式会社 (678)
【Fターム(参考)】