説明

無線通信機器

【課題】無線通信機器で使用するA/Dコンバータの個数を少なくして、装置の小型化、低コスト化、省電力化を図る。現行品の構成を大きく変更することなくAPCの高性能化を図る。
【解決手段】受信回路がA/Dコンバータを含み構成されており、送信動作と受信動作を交互に切替えて通信を行う無線通信機器において、送信回路の送信パワーのオートパワーコントロール機能を実現するため送信パワー検出信号、送信パワーアンプの温度検出信号、送信RF部の温度検出信号の少なくとも一つの信号を、入出力切替手段を介し前記データ用A/Dコンバータで変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明はワイヤレスLAN(以下WLAN)や広域高速無線(以下WiMax)等のパーソナル無線通信機器において、送信時の送信パワーを一定に保つ機能として利用されるAPC機能に必要な送信パワー検出とPA部の温度検出を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体プロセスの進化に伴い、無線通信機器において信号処理をデジタル処理に置き換えることによりアナログ+デジタルICの一体化がすすんでいる。
【0003】
特にWLAN等のパーソナル系の通信機器では高機能化達成や搭載機器の小型化と言った要請に答えるため、IC自体の小型化が顕著であり、消費電力に関しては特に携帯利用などの場合には長時間稼動が必要なために、消費電力の削減が強く要望されている。
【0004】
また、無線通信機器の増大に伴い電波管理上、最適な電波強度で送信出力をより適切にコントロールする必要性が高まっている。また、必要な電力で通信を行うために送信出力を適切にコントロールする必要性が高まっている。
【0005】
このように、狭い使用帯域内に複数の無線機や方式の異なる無線機の妨害する電波を極力減らしながら、かつ適切なパワーで、より遠距離を低い通信消費電力で安定した通信を実現することが必要となってきている。
【0006】
このための対応技術は、従来よりAPC機能として実現されている。例えば、先行文献1の場合には、FM復調用のIC内部に第2ミキサ(2nd MIX)、中間周波アンプ(IF AMP)及び検波器(DET)を有しており、中間周波アンプ(IF AMP)からRSSI(Received Signal Strength Indicator)信号を出力して、高周波回路ブロックの後段のプロセッサ等の制御回路が、このRSSI信号を利用して空きチャンネル探索や通話圏外検出を行うとともに、同じRSSI信号を自動利得制御送信パワーアンプ(AGC PA)の制御端子に直接接続している。RSSI信号の電圧が低いときは親機あるいは基地局が遠くにあるとみなして送信出力を上げ、電圧が高いときは親機あるいは基地局が近くにあるとみなして送信出力を下げる。
【0007】
近年、無線通信機器ではデジタル処理が実装されAPC機能も従来のアナログ方式ではなくデジタル処理で実現して、より高度な制御を行う機能が実装されている。この場合、送信パワー値や温度などをセンサ等により検出を行い、出力されるアナログ信号を基に、A/D(アナログ・デジタル)変換器などを使用してデータ変換を行い、デジタル処理部で所定の処理を行わせる構成が一般的に使用される。
【0008】
前述したRSSI信号処理を、A/Dコンバータを使用して実現した回路も多く知られている。図4にこうした回路の一例のブロック図を示す。この回路では、送信RF回路2からの送信出力をパワー検出回路7で検出し、このパワー検出値を送信パワー用A/D回路11により変換した後にデジタル処理部6により処理し、制御線やレジスタ設定で送信RF回路部2のアンプゲインの制御を行っている。この種のAPC機能において、よりきめ細かく送信出力をコントロールするためには、複数の環境データ、たとえば温度や送信時パワーを同時に検出し補正するなどの機能を追加する必要がある。そこで、図4の例では、送信出力に基づく制御だけでなく、送信RF回路部2の温度を計測する温度センサ8の出力を符号12の温度検出A/D変換回路によりデシダルデータに変換しデジタル処理部6で検出値を使用して処理し送信RF回路部2のアンプゲインを制御線やレジスタ設定で制御を行うようにしている。
【特許文献1】特開2000−224105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記例示回路のように送信パワーと温度等のデータ収集を行うためには、多数個のA/Dコンバータが必要となる。
【0010】
例えば、受信回路にA/Dコンバータを含む現行機種の無線通信機器の送信パワーのオートパワーコントロール回路をデジタル化する場合を考えると、実現のためには新たにA/Dコンバータ等の新規部品や機能を追加する必要があり、更に、制御の高性能化のために、他の検出データ、例えばIC等の温度変換などもデジタル処理を行うためには専用のA/Dコンバータが必要となる。また、現在使用しているシステムに応用する場合にはシステム構成そのものを見直す必要が生じ多くの設計工数が費やされる。
【0011】
上述のように、新たにデジタル処理によるオートパワーコントロール動作に付帯した機能を実装するためには、A/D変換器などの新規部品や制御回路が必要とされるが、コスト的にまたスペース上も追加は困難で、結果、現行システム上で新規に機能を追加することの抑制要因となっていた。
【0012】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、少ない個数のA/Dコンバータを活用して送信パワーのオートパワーコントロール回路をデジタル化した無線通信機器を提案することを目的とする。現行システムからの改良を想定して、送信パワーやPA部の温度検知を行うため、送信時には使用されていない受信用機能の一部である受信用RSSI回路のA/Dコンバータを使用して、送信時のセンサ等の外部データをA/D処理しデジタル部処理のデータとして使用することを特徴とする無線通信機器も提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の本発明の無線通信機器は、送信動作と受信動作を交互に切替えて通信を行う無線通信機器において、受信回路は、受信信号の処理に用いられるデータ用A/Dコンバータを含み構成されており、送信回路は、送信パワーのオートパワーコントロール機能を実現するための送信パワー制御回路を備え、送信動作時に、前記送信パワー制御回路のための送信パワー検出信号、送信パワーアンプの温度検出信号、送信RF部の温度検出信号の少なくとも一つの信号のみを、前記データ用A/Dコンバータの入力端へ受信時入力に代えて入力させるとともに当該データ用A/Dコンバータの出力を前記送信パワー制御回路に接続させる入出力切替手段を、具備したことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の無線通信機器において、前記受信回路が、受信信号の処理に用いられる前記データ用A/Dコンバータを複数含み構成されており、前記入出力切替手段は、前記複数のデータ用A/Dコンバータの入力端に個々に、送信パワー検出信号、送信パワーアンプの温度検出信号、送信RF部の温度検出信号のいずれかを受信時入力に代えて入力させるとともに、各データ用A/Dコンバータの出力を前記送信パワー制御回路に接続させることを特徴とする。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載の無線通信機器において、前記受信回路は、前記データ用A/Dコンバータにより実現した受信機能用のRSSI回路を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、後述するように、無線通信機器において送信時には使用されない受信データ用A/Dコンバータを送信時にも使用して、新たにA/Dコンバータを追加することなく送信パワーやその他のデータ収集機能を実現している。これにより、例えばLSI等の集積回路上の面積を削減でき、装置の小型化が可能となる。また、低コスト化、省電力化にも繋がる。特に、現行のシステムからAPCの高性能化を図るような場合には、その構成を大きく変更することなく新たな機能を追加することが可能となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1に本発明の実施形態である無線通信機器(装置)の概略構成ブロック図を、また図2に本発明の特徴である部分であるA/D共用部の説明図を示す。
【0018】
図中、符号1は、受信RF回路、2は送信RF回路(パワーアンプ部:PAを含む)、3はRSSI検出A/D変換(回路)、4は受信用DATA−A/D変換(回路)、5は送信用DATA−D/A変換(回路)、符号6は送受信時に共通してデータ処理を行い送信パワー制御回路としても機能するデジタル処理部である。また、符号7は、送信RF回路2からの送信出力パワーを検出するパワー検出回路、8は送信RF回路2の温度を計測する温度センサ、9は受信データ用A/Dコンバータ用の入出力切替手段としての切替部(スイッチ回路)、また、符号10はアンテナを受信RF回路1もしくは送信RF回路2のいずれかに選択的に接続するためのアンテナ切替スイッチである。
【0019】
実施形態における受信部は、デジタル処理無線通信では良く知られた、I/Qベースバンド方式を採用している。このため図2に示すように受信用DATA−A/D変換(2-4)はI,Q用として個別に2チャンネル分用意される(一体にIC化されていても良い)。
【0020】
切替部9は、受信時には受信データ用A/Dコンバータ4の入力端へ受信RF回路1からの出力を入力し、他方、送信時には、受信時入力に代えて、送信パワー検出信号および送信RF部(送信パワーアンプ部)2の温度検出信号を入力させる。また、本実施形態では必要がなく省略されているが、後続する処理部の構成に依っては、データ用A/Dコンバータ4の出力を送信パワー制御回路としてのデジタル処理部6に接続させる機能を含むものとする。こうした切替部は、マルチプレクサ機能として確立されていて、ICとして入手可能であり、また、適宜のアナログスイッチ回路として電子素子で構成することもできる。
【0021】
本発明の特徴は、図1に示すブロック図で受信用DATA−A/D変換4に対しての入力信号を送信時に切替部9にて切替えて、パワー検出用のA/D変換、温度検出用のA/D変換として使用していることである。すなわち、送信パワーのオートパワーコントロール機能で1個のA/D変換を使用し、もう一つのA/D変換により温度センサ8の検出値のデジタル変換を行う。本来、送信時には受信用DATA−A/D変換回路4は受信用のためスタンバイ等の待機状態であるが、本実施形態ではパワー検出用のA/D変換(先の図4では、1-8)の代わりに使用する。なお、送信時であれば、残るもう一つのRSSI検出A/D変換(回路)4を利用することも可能である。
【0022】
実施形態装置では、受信時にはデジタル処理部6により受信RF回路、受信用DATA−A/D変換部等の制御を行い受信用DATA−A/D変換部より出力されるデジタル信号をデジタル処理部6により復調し受信データを得る。
【0023】
一方、送信時、デジタル処理部6は送信に必要な各制御・信号生成を行う。たとえば、アンテナ切替スイッチ10を制御し送信RF回路2よりの送信信号をアンテナに出力させたり送信RF回路2の送信に必要な送信周波数、出力レベルの各パラメータを設定・制御したり送信データをデジタル変調を行ったりする。
【0024】
本実施形態では、この送信時に、通常は受信用のため、スタンバイ状態などの待機状態であり使用されていない受信RF回路や受信用DATA−A/D変換部を巧みに活用する。
【0025】
本実施形態では、送信時、2-6は送信に必要な各制御・信号生成を行う以外にも、送信時のパワー制御を行う。そのために受信RF回路2と受信用DATA−A/D変換部4の接続の間に切替部9を設け、送信時にパワー検出回路部7,温度センサ8で検出しているパワー値を受信用DATA−A/D変換部4でデジタルデータに変換する構成になっている。
【0026】
すなわち、切替部9の切替えによりパワー、温度の検出値を送信時に受信用DATA−A/D変換部4に入力することにより、パワー、温度の検出値をデジタル信号に変換してデジタル処理部6へと入力する。ちなみに、受信動作時と送信動作時での、A/Dコンバータの出力信号側での切替えには、特別なハードウェアは用意されておらず、実質的には、送受信時夫々に対応した、プログラム上のモジュール処理として実現されている。
【0027】
上記構成では、図4で例示した如くの既存の機器(現行品)において、APCの高性能化を図るような場合であれば、新規にA/D変換機能部を追加して重複搭載することなしに、送信パワー制御に必要なデータとしての送信パワー検出信号および送信パワーアンプの温度検出信号の収集が可能となり、低コストで大型化を回避してモデルチェンジができる。
【0028】
APCを実現する方法はソフトウェア、ハードウェアで各種方式が考案されているが、本発明では上述したようにして収集された各データをAPCのパラメータとして使用することで実現されている。図3のフローチャートにAPCの制御例を示しておく。
【0029】
以上説明したように、本実施形態では、前述のようなAPCの構成および制御とすることにより、新たにA/D変換機能部を追加することなく受信用のA/D変換機能を使用することにより、パワー制御に必要なパラメータの二つまでを収集して反映させるAPC機能を実現している。
【0030】
実施形態では、受信機能用回路の複数チャンネルのA/D回路(IC化され1パッケージの場合も多い)が、送信時付帯機能用に利用可能であるから、最大2つのパラメータデータの収集機能を新たにA/D変換機能部を追加することなく実現できている。なお、実施形態では、温度センサとしたが、もちろん他のセンシングを行うことも可能である。これにより収集したデータを既述したと同様に送信APC用の制御データとして利用し、送信RF回路(パワーアンプ部)に対してAPCを行う機能を実現することもできる。
【0031】
なお、切替部9に関しては上述説明ではスイッチとして説明したが、本発明では切換機能を実現できれば足りる。例えば、受信RF回路1が送信時にはスタンバイ状態などにより出力状態がハイインピダンス状態になる特性を有している場合には、切替部9を用いずとも、直接、センサ等からの各出力を受信用DATA−A/D変換(回路)4に接続することが可能となる。なお、この場合には、送信時に入力される各出力は受信時には出力がハイインピダンス状態にする等の必要がある(適宜手段で遮断等でも可)。
【0032】
本発明は、実施形態に限定されず、アナログデータをデジタル処理するためのA/Dコンバータを内蔵した無線通信機器一般にひろく適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信機器の概略構成ブロック図である。
【図2】本発明の特徴である部分であるA/D共用部の説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るAPCの制御例を示すフローチャートである。
【図4】A/Dコンバータを使用しRSSI信号処理回路を有した既知の無線通信機器回路の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
1 受信RF回路
2 送信RF回路(パワーアンプ部:PAを含む)
3 RSSI検出A/D変換(回路)
4 受信用DATA−A/D変換(回路)
5 送信用DATA−D/A変換(回路)
6 デジタル処理部
7 パワー検出回路
8 温度センサ
9 切替部(入出力切替手段)
10 アンテナ切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信動作と受信動作を交互に切替えて通信を行う無線通信機器において、
受信回路は、受信信号の処理に用いられるデータ用A/Dコンバータを含み構成されており、
送信回路は、送信パワーのオートパワーコントロール機能を実現するための送信パワー制御回路を備え、
送信動作時に、前記送信パワー制御回路のための送信パワー検出信号、送信パワーアンプの温度検出信号、送信RF部の温度検出信号の少なくとも一つの信号のみを、前記データ用A/Dコンバータの入力端へ受信時入力に代えて入力させるとともに当該データ用A/Dコンバータの出力を前記送信パワー制御回路に接続させる入出力切替手段を、具備したことを特徴とする無線通信機器。
【請求項2】
前記受信回路が、受信信号の処理に用いられる前記データ用A/Dコンバータを複数含み構成されており、
前記入出力切替手段は、前記複数のデータ用A/Dコンバータの入力端に個々に、送信パワー検出信号、送信パワーアンプの温度検出信号、送信RF部の温度検出信号のいずれかを受信時入力に代えて入力させるとともに、各データ用A/Dコンバータの出力を前記送信パワー制御回路に接続させることを特徴とする請求項1に記載の無線通信機器。
【請求項3】
前記受信回路は、前記データ用A/Dコンバータにより実現した受信機能用のRSSI回路を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−124299(P2010−124299A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296721(P2008−296721)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】