説明

無線通信装置

【課題】受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号を十分に除去し得る無線通信装置を提供する。
【解決手段】アンテナ16により受信された受信信号における送信側からの直接波成分を検出する直接波検出部28、36と、それら直接波検出部28、36により検出された直接波成分を処理する信号処理部44と、その信号処理部44による処理結果に基づいて受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部22と、そのキャンセル信号発生部22により発生させられたキャンセル信号とアンテナ16により受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部24とを、有することから、直接波すなわち送信側からの回り込み信号を正確に検出することができ、その検出結果に基づいて前記キャンセル信号を好適に制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信側からの回り込み信号を抑制するためのキャンセル回路を有する無線通信装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
送信用アンテナから所定の送信信号を送信する送信部と、その送信信号に応じて返信される返信信号を受信用アンテナにより受信する受信部とを、有する無線通信装置が知られている。例えば、所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から非接触にて情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムの無線タグ通信装置(質問器)がそれである。このRFIDシステムは、無線タグが汚れている場合や見えない位置に配置されている場合であっても無線タグ通信装置との通信によりその無線タグに記憶された情報を読み出すことが可能であることから、商品管理や検査工程等の様々な分野において実用が期待されている。
【0003】
ところで、通常、上記無線タグ通信装置は、上記無線タグに向けて所定の送信信号(質問波)をアンテナから送信すると共に、その送信信号を受信した無線タグから返信される返信信号(応答波)をアンテナにより受信することでその無線タグとの間で情報の通信を行うが、その受信された返信信号に送信側からの強い回り込み信号(直接波)が混入して全体の受信信号強度が増大する場合がある。これにより、増幅器の許容入力強度を超えてしまうことから、受信信号を十分に増幅することができず、結果として無線タグからの返信信号成分を十分増幅することができないため、信号対雑音比が低下するという不具合があった。そこで、斯かる送信側からの回り込み信号を除去する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された移動体識別装置の干渉補償装置がそれである。
【0004】
【特許文献1】特開平8−122429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述したような技術により受信信号に含まれる回り込み信号の除去を十分に行うためには、直接波すなわち送信側からの回り込み信号の強度を正確に検出する必要があるが、従来の回路ではその信号強度を正確に検出することができず、前記受信信号に含まれる回り込み信号を十分には除去できなかった。すなわち、受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号を十分に除去し得る無線通信装置の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号を十分に除去し得る無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、送信用アンテナから送信信号を送信すると共に、その送信信号に応じて通信対象から返信される返信信号を受信用アンテナにより受信してその通信対象との間で情報の通信を行う無線通信装置であって、その受信用アンテナにより受信された受信信号における送信側からの直接波成分を検出する直接波検出部と、その直接波検出部により検出された直接波成分を処理する信号処理部と、その信号処理部による処理結果に基づいて前記受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部と、そのキャンセル信号発生部により発生させられたキャンセル信号と前記受信用アンテナにより受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部とを、有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記受信用アンテナにより受信された受信信号における送信側からの直接波成分を検出する直接波検出部と、その直接波検出部により検出された直接波成分を処理する信号処理部と、その信号処理部による処理結果に基づいて前記受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部と、そのキャンセル信号発生部により発生させられたキャンセル信号と前記受信用アンテナにより受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部とを、有することから、直接波すなわち送信側からの回り込み信号を正確に検出することができ、その検出結果に基づいて前記キャンセル信号を好適に制御できる。すなわち、受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号を十分に除去し得る無線通信装置を提供することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記キャンセル信号発生部は、前記キャンセル信号の位相を制御するキャンセル位相制御部及び/又は振幅を制御するキャンセル振幅制御部を含むものである。このようにすれば、前記キャンセル信号を実用的な態様で制御できる。
【0010】
また、好適には、前記受信用アンテナにより受信された受信信号を前記信号処理部へ供給する第1の回路と、前記直接波検出部により検出された直接波成分をその信号処理部へ供給する第2の回路とを、切り替える回路切替部を有するものである。このようにすれば、回路の構成を簡単なものとすることができる。
【0011】
また、好適には、前記受信用アンテナにより受信された受信信号又は前記直接波検出部により検出された直接波成分をディジタル変換して前記信号処理部へ供給するA/D変換部を有するものである。このようにすれば、ディジタル信号処理により前記受信信号又は直接波成分に関する種々の処理を行うことができる。
【0012】
また、好適には、前記直接波検出部は、前記受信用アンテナにより受信された受信信号と所定の基準信号との差に応じてその受信信号における直接波成分を抽出する直接波抽出部と、その直接波抽出部と前記A/D変換部との間に設けられてそのA/D変換部の基準値を定める基準調整部と、前記直接波抽出部とその基準調整部との間の回路を接続又は遮断する開閉器とを、含むものである。このようにすれば、前記受信信号に含まれる直接波成分を実用的な態様で検出することができる。
【0013】
また、好適には、前記信号処理部は、予め定められた関係から前記A/D変換部による前記直接波成分のディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものであり、前記キャンセル信号生成部は、予め定められた関係からその演算値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである。このようにすれば、前記直接波成分に基づいて前記キャンセル信号を好適に制御することができる。
【0014】
また、好適には、前記信号処理部は、前記A/D変換部から供給される信号を記憶する記憶部を含むものであり、そのA/D変換部による前記直接波成分のディジタル変換が行われる前にその記憶部に前記基準値を記憶するものである。このようにすれば、前記記憶部に記憶された基準値に基づいて前記直接波成分を好適に処理することができる。
【0015】
また、好適には、前記受信用アンテナにより受信された受信信号を互いに直交するI相成分及びQ相成分として復調を行う直交復調部を有するものである。このようにすれば、送信側からの回り込み信号による影響が特に大きい直交検波回路に関して、その送信側からの回り込み信号を広い位相範囲において好適に抑制することができる。
【0016】
また、好適には、前記直交復調部により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波検出部、A/D変換部、及び回路切替部をそれぞれ個別に有するものである。このようにすれば、前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波成分を速やかに検出することができる。
【0017】
また、好適には、前記直交復調部により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波抽出部、A/D変換部、及び回路切替部をそれぞれ個別に有すると共に、前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波抽出部とA/D変換部との間に設けられてそれらA/D変換部の基準値を定める基準調整部と、前記I相成分又はQ相成分に対応する直接波抽出部とその基準調整部との間の回路を接続又は遮断する開閉器と、前記I相成分に対応して設けられた直接波抽出部からの出力をその開閉器へ供給する第1の回路と、前記Q相成分に対応して設けられた直接波抽出部からの出力をその開閉器へ供給する第2の回路とを切り替える第2の回路切替部を有するものである。このようにすれば、簡単な回路により前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波成分を検出することができる。
【0018】
また、好適には、前記信号処理部は、前記直接波検出部及びA/D変換部を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、予め定められた関係から前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものである。このようにすれば、前記直接波成分に基づいて前記キャンセル信号を制御するための演算値を算出することができる。
【0019】
また、好適には、前記信号処理部は、前記直接波検出部及びA/D変換部を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、そのA/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差を求め、それらI相成分及びQ相成分に対応する差それぞれの二乗の和の平方根を前記演算値として算出するものである。このようにすれば、前記直接波成分に基づいて実用的な態様で前記キャンセル信号を制御するための演算値を算出することができる。
【0020】
また、好適には、前記キャンセル信号生成部は、前記信号処理部により算出される前記演算値が可及的に小さくなるように前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである。このようにすれば、前記演算値に基づいて前記キャンセル信号を実用的な態様で制御することができる。
【0021】
また、好適には、前記キャンセル信号生成部は、前記信号処理部により前記I相成分に対応して算出される前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差と、前記Q相成分に対応して算出される前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差とのうち、何れか大きな方に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである。このようにすれば、前記演算値に基づいて前記キャンセル信号を実用的な態様で制御することができる。
【0022】
また、好適には、前記信号処理部は、前記送信用アンテナから送信される搬送波又は所定のコマンドを含む信号に応じて前記受信用アンテナにより受信される受信信号に関して前記直接波成分の処理を行うものである。このようにすれば、コマンドを含まない搬送波及びコマンドを含む信号の何れにおいても前記直接波成分の検出乃至はキャンセル信号の制御等の処理を行うことができる。
【0023】
また、好適には、前記通信対象は、無線通信を介して情報の書き込み及び/又は読み出しが可能な無線タグであり、前記無線通信装置は、その無線タグに向けて所定の送信信号を送信用アンテナにより送信すると共に、その送信信号に応答してその無線タグから返信される返信信号を前記受信用アンテナにより受信することでその無線タグとの間で情報の通信を行う無線タグ通信装置である。このようにすれば、送信側からの回り込み信号による影響が特に大きい無線タグ通信装置に関して、その送信側からの回り込み信号を好適に抑制することができる。
【0024】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明の無線通信装置が好適に用いられる無線タグ通信システム10について説明する図である。この無線タグ通信システム10は、本発明の無線通信装置の一実施例である無線タグ通信装置12と、その無線タグ通信装置12の通信対象である単数乃至は複数(図1では単数)の無線タグ14とから構成される所謂RFID(Radio Frequency Identification)システムであり、上記無線タグ通信装置12はそのRFIDシステムの質問器として、上記無線タグ14は応答器としてそれぞれ機能する。すなわち、上記無線タグ通信装置12から質問波Fc(送信信号)が上記無線タグ14に向けて送信されると、その質問波Fcを受信した上記無線タグ14において所定の情報信号(送信データ)によりその質問波Fcが変調され、応答波Fr(返信信号)として上記無線タグ通信装置12に向けて返信されることで、その無線タグ通信装置12と無線タグ14との間で情報の通信が行われる。この無線タグ通信システム10は、例えば、所定の通信領域内における物品の管理等に用いられるものであり、上記無線タグ14は、好適には、管理対象である物品に貼られる等してその物品と一体的に設けられている。
【0026】
図2は、上記無線タグ通信装置12の構成を説明する図である。この図2に示すように、本実施例の無線タグ通信装置12は、送受信共用のアンテナ16と、そのアンテナ16から上記無線タグ14に向けて送信信号を送信すると共に、その送信信号に応じて上記無線タグ14から返信される返信信号をそのアンテナ16により受信する送受信処理を行う送受信部18と、所定の局所信号を発生させる局部発振器20と、その局部発振器20から供給される局所信号に応じて上記アンテナ16により受信される受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部22と、そのキャンセル信号発生部22により発生させられたキャンセル信号と上記アンテナ16により受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部24と、そのキャンセル信号合成部24を介して供給される受信信号を、上記局部発振器20から供給される局所信号に基づき、I相成分(同相成分)及びQ相成分(直交成分)として復調を行う直交復調部26と、その直交復調部26から供給されるI相成分における送信側からの直接波成分を検出するI相直接波検出部28と、上記直交復調部26から供給されるI相成分のうち所定の周波数帯域の信号を通過させるI相バンドパスフィルタ30と、上記I相直接波検出部28から出力される信号又は上記I相バンドパスフィルタ30から出力される信号をディジタル変換して信号処理部44へ供給するI相A/D変換部32と、上記I相バンドパスフィルタ30から出力される信号を上記I相A/D変換部32へ供給する第1の回路と、上記I相直接波検出部28から出力される信号を上記I相A/D変換部32へ供給する第2の回路とを、切り替えるI相回路切替部34(SW2i)と、上記直交復調部26から供給されるQ相成分における送信側からの直接波成分を検出するQ相直接波検出部36と、上記直交復調部26から供給されるQ相成分のうち所定の周波数帯域の信号を通過させるQ相バンドパスフィルタ38と、上記Q相直接波検出部36から出力される信号又は上記Q相バンドパスフィルタ38から出力される信号をディジタル変換して信号処理部44へ供給するQ相A/D変換部40と、上記Q相バンドパスフィルタ38から出力される信号を上記Q相A/D変換部40へ供給する第1の回路と、上記Q相直接波検出部36から出力される信号を上記Q相A/D変換部40へ供給する第2の回路とを、切り替えるQ相回路切替部42(SW2q)と、上記I相A/D変換部32又はQ相A/D変換部40から供給される信号を処理する信号処理部44と、その信号処理部44による処理結果に基づいて上記送受信部18による送受信動作や上記キャンセル信号発生部22によるキャンセル信号制御動作等を制御する制御部46とを、備えて構成されている。
【0027】
上記キャンセル信号発生部22は、キャンセル信号の位相を制御するキャンセル位相制御部である可変移相器48と、振幅を制御するキャンセル振幅制御部である可変減衰器50とを、含むものであり、上記局部発振器20から供給される局所信号の位相及び/又は振幅をそれら可変移相器48、可変減衰器50により制御することで前記受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させる。また、このキャンセル信号の制御は、後述するように上記信号処理部44による処理結果に基づいて行われる。このキャンセル信号発生部22により発生させられたキャンセル信号が上記キャンセル信号合成部24において前記受信信号に合成(加算)されることで、その受信信号に含まれる送信側からの直接波成分(回り込み信号)が抑圧される。
【0028】
前記無線タグ通信装置12による無線タグ14との通信では、前記回路切替部34、42は何れもa側に接続される。これにより第1の回路が成立し、前記アンテナ16により受信された受信信号が前記バンドパスフィルタ30、36等を介して前記信号処理部44へ供給される。また、前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の制御に際しては、前記回路切替部34、42は何れもb側に接続される。これにより第2の回路が成立し、前記直接波検出部28、36により検出された直接波成分が前記信号処理部44へ供給される。
【0029】
前記I相直接波検出部28は、前記直交復調部26から供給されるI相成分(I相信号)と所定の基準信号との差に応じてそのI相成分における直接波成分を抽出する差動増幅器としてのI相直接波抽出部52と、そのI相直接波抽出部52と前記I相A/D変換部32との間に設けられてそのI相A/D変換部32の基準値を定めるI相基準調整部54と、上記I相直接波抽出部52とそのI相基準調整部54との間の回路を接続又は遮断するI相開閉器56(SW1i)とを、含むものである。図2に示すように、上記I相開閉器56のb側の端子は接地されており、そのI相開閉器56がb側に接続されると共に前記I相回路切替部34がb側に接続されると、前記I相A/D変換部32の入力電圧が、上記I相基準調整部54により所定の基準値に定められる。この基準値は、好適には、前記I相A/D変換部32に入力可能な電圧範囲の中間値であり、例えば1.65Vである。また、上記I相開閉器56がa側に接続されると共に前記I相回路切替部34がb側に接続されると、上記I相直接波抽出部52からの出力が上記I相基準調整部54及びI相回路切替部34を介して前記I相A/D変換部32へ供給される。
【0030】
前記Q相直接波検出部36は、前記直交復調部26から供給されるQ相成分(Q相信号)と所定の基準信号との差に応じてそのQ相成分における直接波成分を抽出する差動増幅器としてのQ相直接波抽出部58と、そのQ相直接波抽出部58と前記Q相A/D変換部40との間に設けられてそのQ相A/D変換部40の基準値を定めるQ相基準調整部60と、上記Q相直接波抽出部58とそのQ相基準調整部60との間の回路を接続又は遮断するQ相開閉器62(SW1q)とを、含むものである。図2に示すように、上記Q相開閉器62のb側の端子は接地されており、そのQ相開閉器62がb側に接続されると共に前記Q相回路切替部42がb側に接続されると、前記Q相A/D変換部40の入力電圧が、上記Q相基準調整部60により所定の基準値に定められる。この基準値は、好適には、前記Q相A/D変換部40に入力可能な電圧範囲の中間値であり、例えば1.65Vである。また、上記Q相開閉器62がa側に接続されると共に前記Q相回路切替部42がb側に接続されると、上記Q相直接波抽出部58からの出力が上記Q相基準調整部60及びQ相回路切替部42を介して前記Q相A/D変換部40へ供給される。
【0031】
前記信号処理部44は、CPU、ROM、及びRAM等を備え、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータシステムであり、前記I相A/D変換部32又はQ相A/D変換部40から供給される信号を記憶する記憶部64を含んでいる。この信号処理部44は、予め定められた関係から前記I相A/D変換部32及びQ相A/D変換部40による前記直接波成分のディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出する。好適には、前記I相A/D変換部32及びQ相A/D変換部40から供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、予め定められた関係から前記I相A/D変換部32、Q相A/D変換部40によるディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出する。この信号処理部44により算出された演算値は前記制御部46へ供給される。この演算値の算出については、図4のフローチャートを用いて後述する。
【0032】
前記制御部46は、CPU、ROM、及びRAM等を備え、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータシステムであり、前記信号処理部44による処理結果に基づいて前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するキャンセル信号制御部として機能する。また、前記送受信部18による送信信号の送信タイミングを制御したり、直接波成分検出のためにその送受信部18によりコマンドを含まない搬送波を送信させたりというように、前記送受信部18を介しての送受信制御を行う。
【0033】
図3は、前記無線タグ14に備えられた無線タグ回路素子66の構成を説明する図である。この図3に示すように、斯かる無線タグ回路素子66は、前記無線タグ通信装置12との間で通信を行うためのアンテナ68と、そのアンテナ68に接続されて前記無線タグ通信装置12からの送信信号を処理するためのIC回路部70とを、備えて構成されている。そのIC回路部70は、上記アンテナ68により受信された前記無線タグ通信装置12からの質問波Fを整流する整流部72と、その整流部72により整流された質問波Fのエネルギを蓄積するための電源部74と、上記アンテナ68により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部82に供給するクロック抽出部76と、所定の情報信号を記憶し得る記憶部として機能するメモリ部78と、上記アンテナ68に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部80と、上記整流部72、クロック抽出部76、及び変復調部80等を介して上記無線タグ回路素子66の作動を制御するための制御部82とを、機能的に含んでいる。この制御部82は、前記無線タグ通信装置12と通信を行うことにより上記メモリ部78に上記所定の情報を記憶する制御や、上記アンテナ68により受信された質問波Fを上記変復調部80において上記メモリ部78に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波Fとして上記アンテナ68から反射返信する制御等の基本的な制御を実行する。
【0034】
図4は、前記無線タグ通信装置12の信号処理部44及び制御部46による直接波キャンセル制御の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0035】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記I相回路切替部34(SW1i)がb側に、I相直接波検出部28のI相開閉器56(SW2i)がb側にそれぞれ接続され、そのときの前記I相A/D変換部32の出力mi0が前記記憶部64に記憶される。この出力mi0は、前記I相基準調整部54の基準値に対応する値となる。また、前記Q相回路切替部42(SW1q)がb側に、Q相直接波検出部36のQ相開閉器62(SW2q)がb側にそれぞれ接続され、そのときの前記Q相A/D変換部40の出力mq0が前記記憶部64に記憶される。この出力mq0は、前記Q相基準調整部60の基準値に対応する値となる。
【0036】
次に、S2において、前記I相直接波検出部28のI相開閉器56がa側に、前記Q相直接波検出部36のQ相開閉器62がa側にそれぞれ切り替えられ、前記送受信部18により前記アンテナ16から所定の送信信号が送信される。この送信信号は、所定のコマンドを含む信号であってもよいし、コマンドを含まない搬送波であっても構わない。そして、その送信信号に応じた前記I相A/D変換部32の出力mi1及びQ相A/D変換部40の出力mq1が前記記憶部64に記憶される。この出力mi1、mq1は、前記I相直接波検出部28により検出されたI相成分の直接波成分、Q相直接波検出部36により検出されたQ相成分の直接波成分にそれぞれ対応する値となる。
【0037】
次に、S3において、前記I相直接波検出部28及びI相A/D変換部32を介して供給されるI相成分に関して、そのI相A/D変換部32によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差が算出される。すなわち、S2にて検出された直接波成分に対応する出力mi1と、S1にて検出された基準値に対応する出力mi0との差mi2(=mi1−mi0)が算出される。また、前記Q相直接波検出部36及びQ相A/D変換部40を介して供給されるQ相成分に関して、そのQ相A/D変換部40によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差が算出される。すなわち、S2にて検出された直接波成分に対応する出力mq1と、S1にて検出された基準値に対応する出力mq0との差mq2(=mq1−mq0)が算出される。
【0038】
次に、S4において、S3にて算出されたI相成分及びQ相成分に対応する差mi2、mq2それぞれの二乗の和の平方根m3(={mi22+mq221/2)が演算値として算出される。この演算値はキャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるために前記制御部46へ供給される。
【0039】
次に、S5において、前記信号処理部44から供給される演算値すなわちS4にて算出されるm3が可及的に小さくなるように、前記可変移相器48、可変減衰器50を介してキャンセル信号の位相及び/又は振幅が制御される。
【0040】
次に、S6において、前記I相回路切替部34がa側に、Q相回路切替部42がa側にそれぞれ切り替えられ、前記送受信部18により前記アンテナ16から所定のコマンドを含む送信信号が前記無線タグ14に向けて送信される。そして、その送信信号に応じて無線タグ14から返信される返信信号が前記アンテナ16により受信され、前記キャンセル信号合成部24によりキャンセル信号が合成された後に前記直交復調部26により復調されることで、その無線タグ14との通信が行われて、本ルーチンが終了させられる。
【0041】
以上に説明した制御において、前記制御部46は、前記I相成分及びQ相成分に対応して算出される演算値m3に基づいて前記キャンセル信号を制御するものであったが、前記信号処理部44により前記I相成分に対応して算出される前記I相A/D変換部32によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差mi2と、前記Q相成分に対応して算出される前記Q相A/D変換部40によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差mq2とのうち、何れか大きな方に基づいて前記キャンセル信号を制御するものであってもよい。
【0042】
このように、本実施例によれば、前記アンテナ16により受信された受信信号における送信側からの直接波成分を検出するI相直接波検出部28、Q相直接波検出部36と、それらI相直接波検出部28、Q相直接波検出部36により検出された直接波成分を処理する信号処理部44と、その信号処理部44による処理結果に基づいて前記受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部22と、そのキャンセル信号発生部22により発生させられたキャンセル信号と前記アンテナ16により受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部24とを、有することから、直接波すなわち送信側からの回り込み信号を正確に検出することができ、その検出結果に基づいて前記キャンセル信号を好適に制御できる。すなわち、受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号を十分に除去し得る無線タグ通信装置12を提供することができる。
【0043】
また、前記アンテナ16により受信された受信信号をI相成分及びQ相成分として復調を行う直交復調部26を有するものであるため、送信側からの回り込み信号による影響が特に大きい直交検波回路に関して、その送信側からの回り込み信号を好適に抑制することができる。
【0044】
また、前記直交復調部26により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波検出部28、36、A/D変換部32、40、及び回路切替部34、42をそれぞれ個別に有するものであるため、前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波成分を速やかに検出することができる。
【0045】
また、前記キャンセル信号発生部22は、前記キャンセル信号の位相を制御するキャンセル位相制御部として機能する可変移相器48と、振幅を制御するキャンセル振幅制御部として機能する可変減衰器50とを、含むものであるため、前記キャンセル信号を実用的な態様で制御できる。
【0046】
また、前記アンテナ16により受信された受信信号を前記信号処理部44へ供給する第1の回路と、前記I相直接波検出部28、Q相直接波検出部36により検出された直接波成分をその信号処理部44へ供給する第2の回路とを、切り替えるI相回路切替部34、Q相回路切替部42を有するものであるため、回路の構成を簡単なものとすることができる。
【0047】
また、前記アンテナ16により受信された受信信号又は前記I相直接波検出部28、Q相直接波検出部36により検出された直接波成分をディジタル変換して前記信号処理部44へ供給するI相A/D変換部32、Q相A/D変換部40を有するものであるため、ディジタル信号処理により前記受信信号又は直接波成分に関する種々の処理を行うことができる。
【0048】
また、前記I相直接波検出部28は、前記アンテナ16により受信された受信信号のI相成分と所定の基準信号との差に応じてそのI相成分における直接波成分を抽出するI相直接波抽出部52と、そのI相直接波抽出部52と前記I相A/D変換部32との間に設けられてそのI相A/D変換部32の基準値を定めるI相基準調整部54と、前記I相直接波抽出部52とそのI相基準調整部54との間の回路を接続又は遮断するI相開閉器56とを、含むものであるため、前記受信信号のI相成分に含まれる直接波成分を実用的な態様で検出することができる。
【0049】
また、前記Q相直接波検出部36は、前記アンテナ16により受信された受信信号のQ相成分と所定の基準信号との差に応じてそのQ相成分における直接波成分を抽出するQ相直接波抽出部58と、そのQ相直接波抽出部58と前記Q相A/D変換部40との間に設けられてそのQ相A/D変換部40の基準値を定めるQ相基準調整部60と、前記Q相直接波抽出部58とそのQ相基準調整部60との間の回路を接続又は遮断するQ相開閉器62とを、含むものであるため、前記受信信号のQ相成分に含まれる直接波成分を実用的な態様で検出することができる。
【0050】
また、前記信号処理部44は、予め定められた関係から前記I相A/D変換部32、Q相A/D変換部40による前記直接波成分のディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものであり、前記制御部46は、予め定められた関係からその演算値に基づいて前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものであるため、前記直接波成分に基づいて前記キャンセル信号を好適に制御することができる。
【0051】
また、前記信号処理部44は、前記I相A/D変換部32、Q相A/D変換部40から供給される信号を記憶する記憶部64を含むものであり、そのI相A/D変換部32、Q相A/D変換部40による前記直接波成分のディジタル変換が行われる前にその記憶部64に前記基準値に対応する出力mi0、mq0を記憶するものであるため、前記記憶部64に記憶された基準値に対応する出力mi0、mq0に基づいて前記直接波成分を好適に処理することができる。
【0052】
また、前記信号処理部44は、前記直接波検出部28、36及びA/D変換部32、40を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、予め定められた関係から前記A/D変換部32、40によるディジタル変換における基準値に対応する出力mi0、mq0及び実際の出力値mi1、mq1に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものであるため、前記直接波成分に基づいて前記キャンセル信号を制御するための演算値を算出することができる。
【0053】
また、前記信号処理部44は、前記直接波検出部28、36及びA/D変換部32、40を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、そのA/D変換部32、40によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差mi2、mq2を求め、それらI相成分及びQ相成分に対応する差それぞれの二乗の和の平方根m3を前記演算値として算出するものであるため、前記直接波成分に基づいて実用的な態様で前記キャンセル信号を制御するための演算値を算出することができる。
【0054】
また、前記制御部46は、前記信号処理部44により算出される前記演算値m3が可及的に小さくなるように前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである。このようにすれば、前記演算値に基づいて前記キャンセル信号を実用的な態様で制御することができる。
【0055】
また、前記制御部46は、前記信号処理部44により前記I相成分に対応して算出される前記I相A/D変換部32によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差mi2と、前記Q相成分に対応して算出される前記Q相A/D変換部40によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差mq2とのうち、何れか大きな方に基づいて前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものであるため、前記演算値に基づいて前記キャンセル信号を実用的な態様で制御することができる。
【0056】
また、前記信号処理部44は、前記アンテナ16から送信される搬送波又は所定のコマンドを含む信号に応じてそのアンテナ16により受信される受信信号に関して前記直接波成分の処理を行うものであるため、コマンドを含まない搬送波及びコマンドを含む信号の何れにおいても前記直接波成分の検出乃至はキャンセル信号の制御等の処理を行うことができる。
【0057】
また、前記通信対象は、無線通信を介して情報の書き込み及び/又は読み出しが可能な無線タグ14であり、前記無線通信装置は、その無線タグ14に向けて所定の送信信号を前記アンテナ16により送信すると共に、その送信信号に応答してその無線タグ14から返信される返信信号を前記アンテナ16により受信することでその無線タグ14との間で情報の通信を行う無線タグ通信装置12であるため、送信側からの回り込み信号による影響が特に大きい無線タグ通信装置12に関して、その送信側からの回り込み信号を好適に抑制することができる。
【0058】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図5は、本発明の無線通信装置の好適な実施例である無線タグ通信装置84の構成を説明する図である。この図5に示すように、本実施例の無線タグ通信装置84は、前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波抽出部52、58とA/D変換部32、40との間に設けられてそれらA/D変換部32、40の基準値を定める基準調整部86と、前記I相成分又はQ相成分に対応する直接波抽出部52、58とその基準調整部86との間の回路を接続又は遮断する開閉器88(SW1)と、前記I相成分に対応して設けられたI相直接波抽出部52からの出力をその開閉器88へ供給する第1の回路と、前記Q相成分に対応して設けられたQ相直接波抽出部58からの出力をその開閉器88へ供給する第2の回路とを切り替える第2の回路切替部90(SW3)とを、備えて構成されている。上記開閉器88のb側の端子は接地されており、その開閉器88がb側に接続されると共に前記回路切替部34、42がb側に接続されると、前記A/D変換部32、40の入力電圧が上記基準調整部86により所定の基準値に定められる。この基準値は、好適には、前記A/D変換部32、40に入力可能な電圧範囲の中間値であり、例えば1.65Vである。また、また、上記開閉器88がa側に接続されると共に前記回路切替部34、42がb側に接続されると、上記I相直接波抽出部52又はQ相直接波抽出部58からの出力が上記基準調整部86及び回路切替部34、42を介して前記A/D変換部32、40へ供給される。また、上記回路切替部90がa側に接続されると、前記I相直接波抽出部52からの出力が上記開閉器88に入力され、b側に接続されると、前記Q相直接波抽出部58からの出力が上記開閉器88に入力される。この無線タグ通信装置84においては、前記I相直接波抽出部52、基準調整部86、及び開閉器88からI相直接波検出部が、前記Q相直接波抽出部58、基準調整部86、及び開閉器88からQ相直接波検出部がそれぞれ構成される。
【0060】
図6は、前記無線タグ通信装置84の信号処理部44及び制御部46による直接波キャンセル制御の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この図6に示す制御において、前述した図4の制御と共通するステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0061】
先ず、S7において、前記開閉器88(SW1)がb側に接続されると共に前記回路切替部34(SW2i)、42(SW2q)がb側に接続され、そのときの前記A/D変換部32、40それぞれの出力mi0、mq0が前記記憶部64に記憶される。この出力mi0、mq0は、前記基準調整部86の基準値に対応する値となる。このとき、前記回路切替部90(SW3)はa側、b側のどちらに接続されていてもよい。
【0062】
次に、S8において、前記回路切替部90がa側に切り替えられ、前記送受信部18により前記アンテナ16から所定の送信信号が送信される。この送信信号は、所定のコマンドを含む信号であってもよいし、コマンドを含まない搬送波であっても構わない。そして、その送信信号に応じた前記I相A/D変換部32の出力mi1が前記記憶部64に記憶される。この出力mi1は、前記I相直接波抽出部52により抽出されたI相成分の直接波成分に対応する値となる。
【0063】
次に、S9において、前記回路切替部90がb側に切り替えられ、前記送受信部18により前記アンテナ16から所定の送信信号が送信される。この送信信号は、所定のコマンドを含む信号であってもよいし、コマンドを含まない搬送波であっても構わない。そして、その送信信号に応じた前記Q相A/D変換部40の出力mq1が前記記憶部64に記憶される。この出力mq1は、前記Q相直接波抽出部58により抽出されたQ相成分の直接波成分に対応する値となる。そして、前述したS3乃至S6の処理が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0064】
このように、本実施例によれば、前記直交復調部26により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波抽出部52、58、A/D変換部32、40、及び回路切替部34、40をそれぞれ個別に有すると共に、前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波抽出部52、58とA/D変換部32、40との間に設けられてそれらA/D変換部32、40の基準値を定める基準調整部86と、前記I相成分又はQ相成分に対応する直接波抽出部52、58とその基準調整部86との間の回路を接続又は遮断する開閉器88と、前記I相成分に対応して設けられたI相直接波抽出部52からの出力をその開閉器88へ供給する第1の回路と、前記Q相成分に対応して設けられたQ相直接波抽出部58からの出力をその開閉器88へ供給する第2の回路とを切り替える第2の回路切替部90を有するものであるため、前述した無線タグ通信装置12よりも簡単な回路により前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波成分を検出することができる。
【0065】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0066】
例えば、前述の実施例において、前記直接波検出部28、36には、差動増幅器としての直接波抽出部52、58が備えられていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、受信信号に負極性を加算する構成等によっても直接波成分を抽出することができる。
【0067】
また、前述の実施例において、前記制御部46は、前記信号処理部44により算出される前記演算値m3が可及的に小さくなるように前記キャンセル信号発生部22により発生させられるキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものであったが、例えば、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amp)を備えた無線通信装置において、その低雑音増幅器の出力が最大となるようにキャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものであってもよい。
【0068】
また、前述の実施例では、送受信共用のアンテナ16が備えられた無線タグ通信装置12等を例示したが、送信用アンテナ及び受信用アンテナをそれぞれ個別に備えた無線通信装置に本発明が適用されてもよいことは言うまでもない。
【0069】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の無線通信装置が好適に用いられる無線タグ通信システムについて説明する図である。
【図2】本発明の無線通信装置の一実施例である無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
【図3】図2の無線タグ通信装置の通信対象である無線タグに備えられた無線タグ回路素子の構成を説明する図である。
【図4】図2の無線タグ通信装置の信号処理部及び制御部による直接波キャンセル制御の要部について説明するフローチャートである。
【図5】本発明の無線通信装置の他の実施例である無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
【図6】図5の無線タグ通信装置の信号処理部及び制御部による直接波キャンセル制御の要部について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
12、84:無線タグ通信装置(無線通信装置)
14:無線タグ(通信対象)
16:アンテナ(送信用アンテナ、受信用アンテナ)
22:キャンセル信号発生部
24:キャンセル信号合成部
26:直交復調部
28:I相直接波検出部
32:I相A/D変換部
34:I相回路切替部
36:Q相直接波検出部
40:Q相A/D変換部
42:Q相回路切替部
44:信号処理部
48:可変移相器(キャンセル位相制御部)
50:可変減衰器(キャンセル振幅制御部)
52:I相直接波成分抽出部
54:I相基準調整部
56:I相開閉器
58:Q相直接波成分抽出部
60:Q相基準調整部
62:Q相開閉器
64:記憶部
86:基準調整部
88:開閉器
90:第2の回路切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信用アンテナから送信信号を送信すると共に、該送信信号に応じて通信対象から返信される返信信号を受信用アンテナにより受信して該通信対象との間で情報の通信を行う無線通信装置であって、
該受信用アンテナにより受信された受信信号における送信側からの直接波成分を検出する直接波検出部と、
該直接波検出部により検出された直接波成分を処理する信号処理部と、
該信号処理部による処理結果に基づいて前記受信信号における送信側からの直接波成分を抑制するためのキャンセル信号を発生させるキャンセル信号発生部と、
該キャンセル信号発生部により発生させられたキャンセル信号と前記受信用アンテナにより受信された受信信号とを合成するキャンセル信号合成部と
を、有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記キャンセル信号発生部は、前記キャンセル信号の位相を制御するキャンセル位相制御部及び/又は振幅を制御するキャンセル振幅制御部を含むものである請求項1の無線通信装置。
【請求項3】
前記受信用アンテナにより受信された受信信号を前記信号処理部へ供給する第1の回路と、前記直接波検出部により検出された直接波成分を該信号処理部へ供給する第2の回路とを、切り替える回路切替部を有するものである請求項1又は2の無線通信装置。
【請求項4】
前記受信用アンテナにより受信された受信信号又は前記直接波検出部により検出された直接波成分をディジタル変換して前記信号処理部へ供給するA/D変換部を有するものである請求項1から3の何れかの無線通信装置。
【請求項5】
前記直接波検出部は、
前記受信用アンテナにより受信された受信信号と所定の基準信号との差に応じて該受信信号における直接波成分を抽出する直接波抽出部と、
該直接波抽出部と前記A/D変換部との間に設けられて該A/D変換部の基準値を定める基準調整部と、
前記直接波抽出部と該基準調整部との間の回路を接続又は遮断する開閉器と
を、含むものである請求項4の無線通信装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、予め定められた関係から前記A/D変換部による前記直接波成分のディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものであり、
前記キャンセル信号生成部は、予め定められた関係から該演算値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである請求項5の無線通信装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記A/D変換部から供給される信号を記憶する記憶部を含むものであり、該A/D変換部による前記直接波成分のディジタル変換が行われる前に該記憶部に前記基準値を記憶するものである請求項6の無線通信装置。
【請求項8】
前記受信用アンテナにより受信された受信信号を互いに直交するI相成分及びQ相成分として復調を行う直交復調部を有するものである請求項1から7の何れかの無線通信装置。
【請求項9】
前記直交復調部により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波検出部、A/D変換部、及び回路切替部を有するものである請求項8の無線通信装置。
【請求項10】
前記直交復調部により復調されるI相成分及びQ相成分に対応して前記直接波抽出部、A/D変換部、及び回路切替部を有すると共に、
前記I相成分及びQ相成分それぞれに対応する直接波抽出部とA/D変換部との間に設けられてそれらA/D変換部の基準値を定める基準調整部と、
前記I相成分又はQ相成分に対応する直接波抽出部と該基準調整部との間の回路を接続又は遮断する開閉器と、
前記I相成分に対応して設けられた直接波抽出部からの出力を該開閉器へ供給する第1の回路と、前記Q相成分に対応して設けられた直接波抽出部からの出力を該開閉器へ供給する第2の回路とを切り替える第2の回路切替部を有するものである請求項8の無線通信装置。
【請求項11】
前記信号処理部は、前記直接波検出部及びA/D変換部を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、予め定められた関係から前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値及び実際の出力値に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を定めるための演算値を算出するものである請求項8から10の何れかの無線通信装置。
【請求項12】
前記信号処理部は、前記直接波検出部及びA/D変換部を介して供給されるI相成分及びQ相成分それぞれに関して、該A/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差を求め、それらI相成分及びQ相成分に対応する差それぞれの二乗の和の平方根を前記演算値として算出するものである請求項11の無線通信装置。
【請求項13】
前記キャンセル信号生成部は、前記信号処理部により算出される前記演算値が可及的に小さくなるように前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである請求項12の無線通信装置。
【請求項14】
前記キャンセル信号生成部は、前記信号処理部により前記I相成分に対応して算出される前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差と、前記Q相成分に対応して算出される前記A/D変換部によるディジタル変換における基準値と実際の出力値との差とのうち、何れか大きな方に基づいて前記キャンセル信号の位相及び/又は振幅を制御するものである請求項11の無線通信装置。
【請求項15】
前記信号処理部は、前記送信用アンテナから送信される搬送波又は所定のコマンドを含む信号に応じて前記受信用アンテナにより受信される受信信号に関して前記直接波成分の処理を行うものである請求項1から14の何れかの無線通信装置。
【請求項16】
前記通信対象は、無線通信を介して情報の書き込み及び/又は読み出しが可能な無線タグであり、
前記無線通信装置は、該無線タグに向けて所定の送信信号を送信用アンテナにより送信すると共に、該送信信号に応答して該無線タグから返信される返信信号を前記受信用アンテナにより受信することで該無線タグとの間で情報の通信を行う無線タグ通信装置である請求項1から15の何れかの無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−306512(P2007−306512A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135531(P2006−135531)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】