無線通信装置
【課題】アンテナ特性の向上を図る。
【解決手段】無線通信装置は、アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、第2の筐体と、第2の筐体を第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールとを備える。また、基板のグランドとスライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷する。接点は、スライド開状態のとき、基板とスライドモジュールとが重なる領域内にあってアンテナから離れた箇所に設ける。
【解決手段】無線通信装置は、アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、第2の筐体と、第2の筐体を第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールとを備える。また、基板のグランドとスライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷する。接点は、スライド開状態のとき、基板とスライドモジュールとが重なる領域内にあってアンテナから離れた箇所に設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機は、操作部が実装された本体側基板を含む本体側筐体と、液晶表示部が実装されたディスプレイ側基板を含むディスプレイ側筐体とを別々にした2筐体型が知られている。
【0003】
2筐体型には折畳み型およびスライド型がある。近年では、液晶表示部を大きくできることや、搭載されたカメラを利用する際の利便性の観点から、スライド型の携帯電話機が注目されている。
【0004】
図33はスライド型携帯電話機の外観の一例を示す図である。(A)はスライド閉状態、(B)はスライド開状態を示している。
スライド型携帯電話機100は、下段の本体側筐体110と、上段のディスプレイ側筐体120を備える。本体側筐体110には、文字・数字入力キーなどのキーボード111、マイク112などが搭載され、本体側筐体110内部の本体側基板には、電池やアンテナ等の電子部品が実装される。また、ディスプレイ側筐体120には、LCD(Liquid Crystal Display)121、レシーバ(受話口)122、マルチファンクションキー123などが搭載される。
【0005】
さらに、スライド型携帯電話機100は、ディスプレイ側筐体120を本体側筐体110に対してスライドさせるためのモジュールであるスライドモジュール(図示せず)を有している。
【0006】
このスライドモジュールによるスライド開閉機構により、(A)に示すスライド閉状態では、ディスプレイ側筐体120を本体側筐体110に重ねて閉じた状態にする。また、(B)に示すスライド開状態では、本体側筐体110に対し、ディスプレイ側筐体120を直線的にスライドさせて開くことで、キーボード111等の操作部を露出させる状態にする。
【0007】
一方、携帯電話機は、小型、薄型、軽量化が要求されており、これに伴って、携帯電話機のアンテナに与えられる領域は縮小傾向にあり、良好なアンテナ特性を維持することが難しくなってきている。このため、所望の形状デザインを満たしつつ、かつアンテナ特性の劣化が抑制されるような構造を持つ携帯電話機の開発が求められている。
【0008】
スライド型携帯電話機の従来技術として、アンテナ特性の改善を図るために、スライドレールに負荷を設けた技術が提案されている(特許文献1)。また、スライドレールと地導体との間に共振回路を挿入した技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−203806号公報
【特許文献2】特開2009−44326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のようなスライド型携帯電話機では、スライド開状態のときに、アンテナ特性が劣化するといった問題があった。これは、スライド開状態では、本体側基板に設置されているアンテナの近傍に、スライドモジュールの金属部分がきてしまい、この金属部分でアンテナ電流が打ち消されてしまうからである。このような現象が生じると、アンテナにおける電波の放射が阻害されてしまう。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、アンテナ特性の向上を図った無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、無線通信装置が提供される。この無線通信装置は、アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、第2の筐体と、前記第2の筐体を前記第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールとを備え、前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する。
【発明の効果】
【0013】
アンテナ特性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】無線通信装置の構成例を示す図である。
【図2】本体側基板を示す図である。
【図3】図2をA方向から見た図である。
【図4】アンテナの接続部分を示す図である。
【図5】スライドモジュールを示す図である。
【図6】図5をB方向から見た図である。
【図7】図5をC方向から見た図である。
【図8】レール部を示す図である。
【図9】図8をD方向から見た図である。
【図10】図8をE方向から見た図である。
【図11】ベース部を示す図である。
【図12】図11をF方向から見た図である。
【図13】図11をG方向から見た図である。
【図14】スライド開状態を示す図である。
【図15】図14をH方向から見た図である。
【図16】スライド開状態の電流分布を示す図である。
【図17】アンテナ特性を示す図である。
【図18】本体側基板から見た接点の位置を示す図である。
【図19】スライドモジュールから見た接点の位置を示す図である。
【図20】図18をI方向から見た図である。
【図21】図18をJ方向から見た図である。
【図22】電流ループの発生を示す図である。
【図23】スライド開状態の電流分布を示す図である。
【図24】VSWR特性を示す図である。
【図25】共振回路が挿入されている状態を示す図である。
【図26】VSWR特性を示す図である。
【図27】共振回路を流れる電流を示す図である。
【図28】本体側基板から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。
【図29】スライドモジュールから見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。
【図30】結合用導体の一例を示す図である。
【図31】結合用導体が設置されている構成を示す図である。
【図32】VSWR特性を示す図である。
【図33】スライド型携帯電話機の外観の一例を示す図である。(A)はスライド閉状態、(B)はスライド開状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は無線通信装置の構成例を示す図である。無線通信装置1は、第1の筐体10、第2の筐体20およびスライドモジュール30を備える。無線通信装置1は、例えば、携帯型の無線機器などに適用でき、スライド型携帯電話機に適用可能である。
【0016】
第1の筐体10は、アンテナ11が実装された基板12を含む。第2の筐体20は、スライドモジュール30に搭載され、スライドモジュール30は、第2の筐体20を第1の筐体10に対してスライドさせる。
【0017】
また、アンテナ11の一部となる基板12のグランドである基板グランド(以下、グランドはGNDと表記)12aと、スライドモジュール30との間に、導体により接続した少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量(C)を装荷する。図の場合は、2つの接点41、42を設け、接点42に容量を装荷している。
【0018】
なお、詳細な構成および動作については後述する。また、以降では、第1の筐体10を本体側筐体10、基板12を本体側基板12、第2の筐体20をディスプレイ側筐体20と呼ぶ。
【0019】
次に無線通信装置1の適用例として、スライド型携帯電話機に適用した場合について以降詳しく説明する。最初にスライド型携帯電話機の構造について説明する。
図2は本体側基板12を示す図である。図3は図2をA方向から見た図であり、図4はアンテナ11の接続部分を示す図である。
【0020】
本体側基板12は、本体側主基板12−1と本体側副基板12−2とを含み、本体側主基板12−1と本体側副基板12−2とは、互いに接続用コネクタ2を介して接続する。本体側副基板12−2には、キーボード、電池、マイク等の部品が主に実装される。アンテナ11は、本体側主基板12−1上のアンテナ給電点11aと接続し、本体側主基板12−1の上端部に実装される。
【0021】
また、本体側主基板12−1には、本体側副基板12−2に実装されているユーザインタフェース部品の制御を行うための制御回路の一部や、アンテナ11を通じて無線通信を行うための通信制御回路などが実装される。
【0022】
ここで、スライド型携帯電話機のアンテナ11の設置位置について考えると、設置位置としては、ディスプレイ側筐体20に含まれるディスプレイ側基板の上端部、本体側主基板12−1の上端部、本体側主基板12−1の下端部の3つのいずれかが考えられる。
【0023】
ただし、本体側主基板12−1の下端部にアンテナ11を設置すると、ユーザの手・指がアンテナにかかりやすくなるので、本体側主基板12−1の下端部は避けられる。また、ディスプレイ側基板の上端部とすると、局所平均SAR(Specific Absorption Rate:人体の特定部位に吸収される単位時間・単位質量当たりの電力値)が高くなってしまうので、ディスプレイ側基板の上端部も避けられる。したがって、最適なアンテナ設置箇所としては、図2〜図4に示すような、本体側主基板12−1の上端部が一般的には選ばれている。
【0024】
一方、携帯電話機のアンテナには、モノポールアンテナが多く採用されている。モノポールアンテナは、モノポールアンテナが設置される基板のGNDもアンテナ化してアンテナの一部となる。すなわち、アンテナだけでなく、アンテナが接続される回路基板のGNDにも電波放射に寄与する電流が流れ、回路基板のGND上の電流分布によってアンテナ特性が変化する。
【0025】
このため、アンテナが小さくても基板のGNDの大きさで利得を稼げるという利点があり、モノポールアンテナは、携帯電話機のような小型の携帯無線機器に広く採用されている。スライド型携帯電話機のアンテナ11においても、モノポールアンテナが使用されており、本体側主基板12−1のGND(基板GND12a)は、アンテナ11の一部になっている。なお、GND上の電流分布によるアンテナ特性の変化は、低い周波数ほど顕著になって現れる。
【0026】
次にスライドモジュール30について説明する。図5はスライドモジュール30を示す図である。図6は図5をB方向から見た図であり、図7は図5をC方向から見た図である。スライドモジュール30は、金属製のレール部31とベース部32を備える。レール部31は、ディスプレイ側筐体20の樹脂ケース(図示せず)にネジで固定される。また、ベース部32は、本体側筐体10の樹脂ケース(図示せず)にネジで固定される。
【0027】
図8はレール部31を示す図である。また、図9は図8をD方向から見た図であり、図10は図8をE方向から見た図である。レール部31の両端には、スライド動作を行うための凹形状部31a、31bが設けられており、凹形状部31a、31bの内部には、凹形状の低摩擦樹脂(図示せず)が埋め込まれている。
【0028】
図11はベース部32を示す図である。また、図12は図11をF方向から見た図であり、図13は図11をG方向から見た図である。ベース部32の両端には、レール部31の凹形状部31a、31bと嵌合して、スライド動作を行うための凸形状部32a、32bが設けられている。凸形状部32a、32bは、上記の低摩擦樹脂にかみ合うような凸形状に加工されており、レール部31がスライド可能なように、低摩擦樹脂と低い摩擦力で接触してスライド動作を実現する。
【0029】
次にスライド開状態について説明する。図14はスライド開状態を示す図であり、図15は図14をH方向から見た図である。図14、図15はディスプレイ側筐体20が実装されるレール部31をスライドさせて、本体側筐体10の操作部を露出させるときのスライド開状態を示している。
【0030】
スライドモジュール30のレール部31には、図示しないディスプレイ側基板が取り付けられる。スライドモジュール30のベース部32には、本体側主基板12−1が取り付けられる。
【0031】
そして、上記のようなスライドモジュール30の構成により、ベース部32を起点としてレール部31をスライドさせると、レール部31にネジ止めされたディスプレイ側筐体20とレール部31とが一体となってスライドするため、ディスプレイ側筐体20全体が本体側筐体10に対してスライドすることになる。なお、図14、図15に示すスライド開状態から、レール部31を右方向にスライドさせると、ディスプレイ側筐体20を本体側筐体10に重ねたスライド閉状態となる。
【0032】
次に従来のスライド型携帯電話機においてアンテナ特性が劣化する原因について説明する。図16はスライド開状態の電流分布を示す図である。本体側主基板12−1(基板GND12a)とスライドモジュール30との間隔が3mmのスライド開状態のときの電流分布を示している。
【0033】
アンテナ11および本体側主基板12−1の基板GND12aに流れるアンテナ電流は、アンテナ11およびアンテナ給電点11aに集まるような電流分布となり、アンテナ11およびアンテナ給電点11aの周辺部において電流は最大となる。
【0034】
一方、スライド開状態では、アンテナ11が設置されている本体側主基板12−1と、スライドモジュール30との間に重なり部分が生じるが、この重なり部分において、基板GND12aと、スライドモジュール30の金属面とが近接に対向する。すると、アンテナ11および基板GND12aを流れるアンテナ電流を打ち消そうとする(キャンセルする)逆相電流が、スライドモジュール30上に流れることになる。
【0035】
図16に示すように、基板GND12aを流れるアンテナ電流は、アンテナ11およびアンテナ給電点11aに向かうため左向きに流れ、スライドモジュール30を流れる電流(逆相電流)は、アンテナ電流を打ち消そうとして右向きに流れる。
【0036】
このような現象が発生することにより、アンテナ11およびアンテナ給電点11aの下方の位置のスライドモジュール30の周辺において、アンテナ電流は逆相電流によって打ち消される。
【0037】
この場合、特にアンテナ11の直下とアンテナ給電点11aの直下は非常に強い逆相電流となる。また、基板GND12aと、スライドモジュール30との間隔によっても異なり、間隔が大きければ逆相電流は弱く、間隔が小さくなるほど逆相電流は強くなる。
【0038】
図17はアンテナ特性を示す図である。アンテナ特性としてVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)を示している。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。
VSWRは、機器内を高周波信号が通過するときに、信号の一部が回路上で反射される度合いを表す高周波特性の指標である。VSWRの値が1のときは、全く反射のない理想的な状態であり、反射が大きいほど数値が大きくなり信号ロス等が大きいことを表す。
【0039】
図17では、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmおよび7mmのときの、800MHz前後におけるVSWRと、2GHz前後におけるVSWRとを示している。
【0040】
2GHz前後におけるVSWRでは、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmおよび7mmの場合で、双方の劣化量に大きな差はない。しかし、800MHz前後におけるVSWRでは、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が、7mmから3mmに狭くなると、劣化量が大きくなっていることがわかる。
【0041】
ここで、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔を3mmに狭くしたときに、800MHz前後の帯域の方がより大きく劣化する理由について以下説明する。
800MHz前後の帯域では、本体側主基板12−1やスライドモジュール30の長さは、波長λに対して1/4程度であり、スライド開状態では、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との両方の長さが約λ/2の長さになるので、筐体全体がダイポールアンテナ化する。
【0042】
したがって、本体側主基板12−1の基板GND12aを流れる電流とスライドモジュール30を流れる電流が同相のときには、モノポールモード(本来の動作モード)にダイポールモードが加わり、アンテナ電流が多く流れて非常に良好なアンテナ特性を得られる。
【0043】
しかし、逆相状態が生じると、アンテナ電流をキャンセルしようとして、多くの逆相電流が流れて、逆相電流がアンテナ電流をキャンセルしてしまい、本来のモノポールアンテナとしての作用が低減してしまう。
【0044】
2GHz帯よりも800MHz帯の方がアンテナ電流は多く流れるので、逆相関係の状態が生じると、2GHz帯よりも800MHz帯の方が逆相電流も多く流れる。このため、800MHz帯では、2GHz帯よりもスライドモジュール30を流れる逆相電流の影響をより受け易い。このような理由で、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔を狭めたときに、800MHz前後の帯域の方がより大きく劣化するのである。
【0045】
次に無線通信装置1を適用したスライド型携帯電話機の接点周辺の構成について説明する。図18は本体側基板12から見た接点41、42の位置を示す図であり、図19はスライドモジュール30から見た接点41、42の位置を示す図である。また、図20に図18をI方向から見た図、図21に図18をJ方向から見た図を示す。
【0046】
基板GND12aとスライドモジュール30との間に接点41、42を2箇所設けている(基本的な基板構成やスライド開閉機構については、上述した内容と同じである)。接点41、42は、ディスプレイ側筐体20をスライドさせて本体側筐体10の操作面を露出させた状態にしたときに、本体側主基板12−1とスライドモジュールと30が重なる領域内にあって、アンテナ11およびアンテナ給電点11aから離れた箇所に設ける。これは、逆相電流のピークをアンテナ11およびアンテナ給電点11aからできるだけ離すためである。なお、一方の接点42には容量が装荷される。
【0047】
図22は電流ループの発生を示す図である。アンテナ11およびアンテナ給電点11aからなるべく離れた位置に、基板GND12aとスライドモジュール30を接続する接点41、42を2箇所設け、かつ片方の接点42には容量を装荷する。
【0048】
容量の装荷は、本体側主基板12−1上にコンデンサを実装することで容易に実現可能である。このような構成にすることにより、基板GND12aとスライドモジュール30との間に電流ループが発生する。
【0049】
図23はスライド開状態の電流分布を示す図である。本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmのスライド開状態であって、860MHzのときの電流分布のシミュレーション結果を示している。
【0050】
基板GND12aとスライドモジュール30を接続する接点41、42を2箇所設け、かつ片方の接点には容量を装荷する。すると、基板GND12aとスライドモジュール30の間に電流ループが形成され、電流ループによるインダクタンス成分(L成分)と、接点42のキャパシタンス成分(C成分)による共振が発生する。
【0051】
これにより、図23に示すように、スライドモジュール30の電流のピーク位置を、アンテナ11およびアンテナ給電点11aから接点41、42の方に移動させることができる。
【0052】
電流のピーク位置が移動することで、アンテナ11およびアンテナ給電点11a近傍のスライドモジュール30を流れる逆相電流が小さくなり、キャンセルされるアンテナ電流を低減することができるので、アンテナ特性を改善させることが可能になる。
【0053】
ここで、共振周波数fは、インダクタンスをL、キャパシタンスをCとすると、f=1/2π(LC)1/2であるので、fを例えば、1GHz以下となるように、基板GND12aとスライドモジュール30との間隔にもとづき、L、Cを決めていく。例えば、間隔が小さくなるほど、Lは小さくなるのでCは大きくなるように決めていく。
【0054】
なお、シミュレーションの結果、電流ループによる共振周波数は、800MHz帯のアンテナの場合、それよりもやや高い900MHz〜1GHz程度に合わせるのが効果的であった。
【0055】
次に本発明と従来技術との効果の差異について説明する。上記の特開2006−203806号公報の従来技術(以下、従来技術1)では、アンテナ特性を改善するために、スライドレールに負荷を設けて、アンテナを広帯域化したり、放射パターンを変化させたりすることが記載されている。しかし、従来技術1では、2GHz帯のアンテナ特性の改善策については記載されているが、1GHz以下の帯域のアンテナ特性についての指摘は何らなされていない。
【0056】
昨今の携帯電話機は薄型化が進んでおり、スライド型携帯電話機においても本体側基板12とスライドモジュール30との間隔が小さくなる方向であるが、その影響は1GHz以下の周波数で顕著になる。
【0057】
図17で上述したように、間隔が小さくなるとアンテナ特性は必然的に劣化するが、2GHz帯が小さな劣化であるのに対し、800MHz前後の帯域は大きく劣化している。従来技術1は、このような問題に対し解決策を提示していない。
【0058】
また、図16で上述したように、アンテナ電流に対してスライドモジュール30を流れる電流が逆相になり、特にアンテナ下とアンテナ給電点下は非常に強い逆相電流となる。このような金属間の容量結合が強い状況下での逆相電流を、従来技術1のような負荷のインピーダンスの調整のみでコントロールすることは難しい。
【0059】
図24はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。800MHz前後の帯域における、従来技術1と、本発明の無線通信装置1とのそれぞれのVSWR特性のシミュレーション結果を示している。図からわかるように、従来技術1と比べて、無線通信装置1のVSWRはより1に近くなっており、アンテナ特性が向上していることがわかる。
【0060】
一方、上記の特開2009−44326号公報の従来技術(以下、従来技術2)では、共振回路を挿入させる構成をとっている。図25は共振回路が挿入されている状態を示す図である。基板GND12aとスライドモジュール30とを1つの接点で接続し、基板GND12a側に共振回路130が挿入されている。
【0061】
図26はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。従来技術1のVSWR特性と、従来技術2のVSWR特性とのシミュレーション結果を示している。図からわかるように、800MHz前後の帯域での従来技術2のアンテナ特性は、従来技術1に対して改善は僅かである。
【0062】
図27は共振回路130を流れる電流を示す図である。従来技術1に対して800MHz前後の帯域におけるアンテナ特性の改善が僅かである理由は、従来技術2では、共振により増幅された電流がほとんど共振回路130の内部で閉じてしまい、基板GND12aを流れる電流を大きく変えるまでには至らないためである。
【0063】
これに対し、本発明の無線通信装置1では、基板GND12aとスライドモジュール30との間に2箇所の接点41、42を設けて、一方の接点42に容量を装荷して、本体側主基板12−1上の基板GND12a自体を共振回路化したものである。
【0064】
これにより、逆相電流を大きく変化させることができるので、接点41、42をアンテナ11およびアンテナ給電点11aから離れた箇所に設置することで、逆相電流を接点側に移動させることができる。これにより、上記の従来技術1、2よりも、アンテナ特性を大幅に改善することが可能になる。
【0065】
次に変形例について説明する。変形例は、容量を装荷する接点42を結合用導体に置き換えてC成分を発生させる構成を有する。金属が近接して対向する部分では、C成分が現れるので、容量を実際に装荷する代わりに、このC成分を利用するものである。具体的には、結合用導体を基板GND12aに接続し、スライドモジュール30と結合用導体とを近接させて、C成分を発生させる。
【0066】
図28は本体側基板12から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図であり、図29はスライドモジュール30から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。基板GND12aとスライドモジュール30との間に電流ループを形成するために接点41および結合用導体設置箇所42aを設ける。接点41には導体によって基板GND12aとスライドモジュール30とを接続する。結合用導体設置箇所42aには結合用導体を設置する。
【0067】
図30は結合用導体の一例を示す図である。結合用導体42a−1には、例えば、フレキシブル基板(柔軟性があり変形可能なプリント基板)を使用する。この場合、結合用導体(フレキシブル基板)42a−1を基板GND12aに接続し、スライドモジュール30の金属面近くまで伸ばして結合させる。図の場合は、フレキシブル基板42a−1をコの字型に変形して、フレキシブル基板42a−1の結合面4をスライドモジュール30に近接させる。
【0068】
図31は結合用導体が設置されている構成を示す図である。本体側主基板12−1(基板GND12a)とスライドモジュール30との間にフレキシブル基板42a−1が設置されており、フレキシブル基板42a−1の結合面4とスライドモジュール30との間隔dを一定にする。
【0069】
例えば、1GHzで共振させる場合は、この間隔dが0.2〜0.3mm程度に設定する。このような構成にすることにより、基板GND12aとスライドモジュール30との間にC成分を発生させることができ、容量を実際に装荷した場合とほぼ同様な効果を得ることが可能である。
【0070】
図32はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数であり、1GHz帯以下において、従来技術1のVSWRと、上記の変形例のVSWRとを示している。図からわかるように、変形例の方がVSWR特性を向上させていることがわかる。
【0071】
以上説明したように、無線通信装置1において、アンテナが接続される基板のグランドとスライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷する構成とした。これにより、スライドモジュールを流れる逆相電流のピーク位置を、アンテナ近傍領域から接点側へ移動させることができ、アンテナ特性の向上を図ることが可能になる。
【0072】
なお、上記ではスライド型携帯電話機に無線通信装置1を適用した場合について説明したが、スライド型携帯電話機に限らず、アンテナの近傍に金属部が存在し、アンテナが接続される基板のGNDを流れる電流と、金属部を流れる電流とが逆相の関係になるような無線機器全般に対し本発明は適用可能である。
【0073】
すなわち、このような無線機器に対しても、金属部と、アンテナが接続される基板のGNDとの間に少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷して基板GNDを共振化させて電流ピーク位置をアンテナから離すことで、アンテナ特性の改善を図ることができる。
【0074】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 無線通信装置
10 第1の筐体
11 アンテナ
12 基板
12a 基板GND
20 第2の筐体
30 スライドモジュール
41、42 接点
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機は、操作部が実装された本体側基板を含む本体側筐体と、液晶表示部が実装されたディスプレイ側基板を含むディスプレイ側筐体とを別々にした2筐体型が知られている。
【0003】
2筐体型には折畳み型およびスライド型がある。近年では、液晶表示部を大きくできることや、搭載されたカメラを利用する際の利便性の観点から、スライド型の携帯電話機が注目されている。
【0004】
図33はスライド型携帯電話機の外観の一例を示す図である。(A)はスライド閉状態、(B)はスライド開状態を示している。
スライド型携帯電話機100は、下段の本体側筐体110と、上段のディスプレイ側筐体120を備える。本体側筐体110には、文字・数字入力キーなどのキーボード111、マイク112などが搭載され、本体側筐体110内部の本体側基板には、電池やアンテナ等の電子部品が実装される。また、ディスプレイ側筐体120には、LCD(Liquid Crystal Display)121、レシーバ(受話口)122、マルチファンクションキー123などが搭載される。
【0005】
さらに、スライド型携帯電話機100は、ディスプレイ側筐体120を本体側筐体110に対してスライドさせるためのモジュールであるスライドモジュール(図示せず)を有している。
【0006】
このスライドモジュールによるスライド開閉機構により、(A)に示すスライド閉状態では、ディスプレイ側筐体120を本体側筐体110に重ねて閉じた状態にする。また、(B)に示すスライド開状態では、本体側筐体110に対し、ディスプレイ側筐体120を直線的にスライドさせて開くことで、キーボード111等の操作部を露出させる状態にする。
【0007】
一方、携帯電話機は、小型、薄型、軽量化が要求されており、これに伴って、携帯電話機のアンテナに与えられる領域は縮小傾向にあり、良好なアンテナ特性を維持することが難しくなってきている。このため、所望の形状デザインを満たしつつ、かつアンテナ特性の劣化が抑制されるような構造を持つ携帯電話機の開発が求められている。
【0008】
スライド型携帯電話機の従来技術として、アンテナ特性の改善を図るために、スライドレールに負荷を設けた技術が提案されている(特許文献1)。また、スライドレールと地導体との間に共振回路を挿入した技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−203806号公報
【特許文献2】特開2009−44326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のようなスライド型携帯電話機では、スライド開状態のときに、アンテナ特性が劣化するといった問題があった。これは、スライド開状態では、本体側基板に設置されているアンテナの近傍に、スライドモジュールの金属部分がきてしまい、この金属部分でアンテナ電流が打ち消されてしまうからである。このような現象が生じると、アンテナにおける電波の放射が阻害されてしまう。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、アンテナ特性の向上を図った無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、無線通信装置が提供される。この無線通信装置は、アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、第2の筐体と、前記第2の筐体を前記第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールとを備え、前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する。
【発明の効果】
【0013】
アンテナ特性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】無線通信装置の構成例を示す図である。
【図2】本体側基板を示す図である。
【図3】図2をA方向から見た図である。
【図4】アンテナの接続部分を示す図である。
【図5】スライドモジュールを示す図である。
【図6】図5をB方向から見た図である。
【図7】図5をC方向から見た図である。
【図8】レール部を示す図である。
【図9】図8をD方向から見た図である。
【図10】図8をE方向から見た図である。
【図11】ベース部を示す図である。
【図12】図11をF方向から見た図である。
【図13】図11をG方向から見た図である。
【図14】スライド開状態を示す図である。
【図15】図14をH方向から見た図である。
【図16】スライド開状態の電流分布を示す図である。
【図17】アンテナ特性を示す図である。
【図18】本体側基板から見た接点の位置を示す図である。
【図19】スライドモジュールから見た接点の位置を示す図である。
【図20】図18をI方向から見た図である。
【図21】図18をJ方向から見た図である。
【図22】電流ループの発生を示す図である。
【図23】スライド開状態の電流分布を示す図である。
【図24】VSWR特性を示す図である。
【図25】共振回路が挿入されている状態を示す図である。
【図26】VSWR特性を示す図である。
【図27】共振回路を流れる電流を示す図である。
【図28】本体側基板から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。
【図29】スライドモジュールから見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。
【図30】結合用導体の一例を示す図である。
【図31】結合用導体が設置されている構成を示す図である。
【図32】VSWR特性を示す図である。
【図33】スライド型携帯電話機の外観の一例を示す図である。(A)はスライド閉状態、(B)はスライド開状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は無線通信装置の構成例を示す図である。無線通信装置1は、第1の筐体10、第2の筐体20およびスライドモジュール30を備える。無線通信装置1は、例えば、携帯型の無線機器などに適用でき、スライド型携帯電話機に適用可能である。
【0016】
第1の筐体10は、アンテナ11が実装された基板12を含む。第2の筐体20は、スライドモジュール30に搭載され、スライドモジュール30は、第2の筐体20を第1の筐体10に対してスライドさせる。
【0017】
また、アンテナ11の一部となる基板12のグランドである基板グランド(以下、グランドはGNDと表記)12aと、スライドモジュール30との間に、導体により接続した少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量(C)を装荷する。図の場合は、2つの接点41、42を設け、接点42に容量を装荷している。
【0018】
なお、詳細な構成および動作については後述する。また、以降では、第1の筐体10を本体側筐体10、基板12を本体側基板12、第2の筐体20をディスプレイ側筐体20と呼ぶ。
【0019】
次に無線通信装置1の適用例として、スライド型携帯電話機に適用した場合について以降詳しく説明する。最初にスライド型携帯電話機の構造について説明する。
図2は本体側基板12を示す図である。図3は図2をA方向から見た図であり、図4はアンテナ11の接続部分を示す図である。
【0020】
本体側基板12は、本体側主基板12−1と本体側副基板12−2とを含み、本体側主基板12−1と本体側副基板12−2とは、互いに接続用コネクタ2を介して接続する。本体側副基板12−2には、キーボード、電池、マイク等の部品が主に実装される。アンテナ11は、本体側主基板12−1上のアンテナ給電点11aと接続し、本体側主基板12−1の上端部に実装される。
【0021】
また、本体側主基板12−1には、本体側副基板12−2に実装されているユーザインタフェース部品の制御を行うための制御回路の一部や、アンテナ11を通じて無線通信を行うための通信制御回路などが実装される。
【0022】
ここで、スライド型携帯電話機のアンテナ11の設置位置について考えると、設置位置としては、ディスプレイ側筐体20に含まれるディスプレイ側基板の上端部、本体側主基板12−1の上端部、本体側主基板12−1の下端部の3つのいずれかが考えられる。
【0023】
ただし、本体側主基板12−1の下端部にアンテナ11を設置すると、ユーザの手・指がアンテナにかかりやすくなるので、本体側主基板12−1の下端部は避けられる。また、ディスプレイ側基板の上端部とすると、局所平均SAR(Specific Absorption Rate:人体の特定部位に吸収される単位時間・単位質量当たりの電力値)が高くなってしまうので、ディスプレイ側基板の上端部も避けられる。したがって、最適なアンテナ設置箇所としては、図2〜図4に示すような、本体側主基板12−1の上端部が一般的には選ばれている。
【0024】
一方、携帯電話機のアンテナには、モノポールアンテナが多く採用されている。モノポールアンテナは、モノポールアンテナが設置される基板のGNDもアンテナ化してアンテナの一部となる。すなわち、アンテナだけでなく、アンテナが接続される回路基板のGNDにも電波放射に寄与する電流が流れ、回路基板のGND上の電流分布によってアンテナ特性が変化する。
【0025】
このため、アンテナが小さくても基板のGNDの大きさで利得を稼げるという利点があり、モノポールアンテナは、携帯電話機のような小型の携帯無線機器に広く採用されている。スライド型携帯電話機のアンテナ11においても、モノポールアンテナが使用されており、本体側主基板12−1のGND(基板GND12a)は、アンテナ11の一部になっている。なお、GND上の電流分布によるアンテナ特性の変化は、低い周波数ほど顕著になって現れる。
【0026】
次にスライドモジュール30について説明する。図5はスライドモジュール30を示す図である。図6は図5をB方向から見た図であり、図7は図5をC方向から見た図である。スライドモジュール30は、金属製のレール部31とベース部32を備える。レール部31は、ディスプレイ側筐体20の樹脂ケース(図示せず)にネジで固定される。また、ベース部32は、本体側筐体10の樹脂ケース(図示せず)にネジで固定される。
【0027】
図8はレール部31を示す図である。また、図9は図8をD方向から見た図であり、図10は図8をE方向から見た図である。レール部31の両端には、スライド動作を行うための凹形状部31a、31bが設けられており、凹形状部31a、31bの内部には、凹形状の低摩擦樹脂(図示せず)が埋め込まれている。
【0028】
図11はベース部32を示す図である。また、図12は図11をF方向から見た図であり、図13は図11をG方向から見た図である。ベース部32の両端には、レール部31の凹形状部31a、31bと嵌合して、スライド動作を行うための凸形状部32a、32bが設けられている。凸形状部32a、32bは、上記の低摩擦樹脂にかみ合うような凸形状に加工されており、レール部31がスライド可能なように、低摩擦樹脂と低い摩擦力で接触してスライド動作を実現する。
【0029】
次にスライド開状態について説明する。図14はスライド開状態を示す図であり、図15は図14をH方向から見た図である。図14、図15はディスプレイ側筐体20が実装されるレール部31をスライドさせて、本体側筐体10の操作部を露出させるときのスライド開状態を示している。
【0030】
スライドモジュール30のレール部31には、図示しないディスプレイ側基板が取り付けられる。スライドモジュール30のベース部32には、本体側主基板12−1が取り付けられる。
【0031】
そして、上記のようなスライドモジュール30の構成により、ベース部32を起点としてレール部31をスライドさせると、レール部31にネジ止めされたディスプレイ側筐体20とレール部31とが一体となってスライドするため、ディスプレイ側筐体20全体が本体側筐体10に対してスライドすることになる。なお、図14、図15に示すスライド開状態から、レール部31を右方向にスライドさせると、ディスプレイ側筐体20を本体側筐体10に重ねたスライド閉状態となる。
【0032】
次に従来のスライド型携帯電話機においてアンテナ特性が劣化する原因について説明する。図16はスライド開状態の電流分布を示す図である。本体側主基板12−1(基板GND12a)とスライドモジュール30との間隔が3mmのスライド開状態のときの電流分布を示している。
【0033】
アンテナ11および本体側主基板12−1の基板GND12aに流れるアンテナ電流は、アンテナ11およびアンテナ給電点11aに集まるような電流分布となり、アンテナ11およびアンテナ給電点11aの周辺部において電流は最大となる。
【0034】
一方、スライド開状態では、アンテナ11が設置されている本体側主基板12−1と、スライドモジュール30との間に重なり部分が生じるが、この重なり部分において、基板GND12aと、スライドモジュール30の金属面とが近接に対向する。すると、アンテナ11および基板GND12aを流れるアンテナ電流を打ち消そうとする(キャンセルする)逆相電流が、スライドモジュール30上に流れることになる。
【0035】
図16に示すように、基板GND12aを流れるアンテナ電流は、アンテナ11およびアンテナ給電点11aに向かうため左向きに流れ、スライドモジュール30を流れる電流(逆相電流)は、アンテナ電流を打ち消そうとして右向きに流れる。
【0036】
このような現象が発生することにより、アンテナ11およびアンテナ給電点11aの下方の位置のスライドモジュール30の周辺において、アンテナ電流は逆相電流によって打ち消される。
【0037】
この場合、特にアンテナ11の直下とアンテナ給電点11aの直下は非常に強い逆相電流となる。また、基板GND12aと、スライドモジュール30との間隔によっても異なり、間隔が大きければ逆相電流は弱く、間隔が小さくなるほど逆相電流は強くなる。
【0038】
図17はアンテナ特性を示す図である。アンテナ特性としてVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)を示している。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。
VSWRは、機器内を高周波信号が通過するときに、信号の一部が回路上で反射される度合いを表す高周波特性の指標である。VSWRの値が1のときは、全く反射のない理想的な状態であり、反射が大きいほど数値が大きくなり信号ロス等が大きいことを表す。
【0039】
図17では、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmおよび7mmのときの、800MHz前後におけるVSWRと、2GHz前後におけるVSWRとを示している。
【0040】
2GHz前後におけるVSWRでは、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmおよび7mmの場合で、双方の劣化量に大きな差はない。しかし、800MHz前後におけるVSWRでは、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が、7mmから3mmに狭くなると、劣化量が大きくなっていることがわかる。
【0041】
ここで、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔を3mmに狭くしたときに、800MHz前後の帯域の方がより大きく劣化する理由について以下説明する。
800MHz前後の帯域では、本体側主基板12−1やスライドモジュール30の長さは、波長λに対して1/4程度であり、スライド開状態では、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との両方の長さが約λ/2の長さになるので、筐体全体がダイポールアンテナ化する。
【0042】
したがって、本体側主基板12−1の基板GND12aを流れる電流とスライドモジュール30を流れる電流が同相のときには、モノポールモード(本来の動作モード)にダイポールモードが加わり、アンテナ電流が多く流れて非常に良好なアンテナ特性を得られる。
【0043】
しかし、逆相状態が生じると、アンテナ電流をキャンセルしようとして、多くの逆相電流が流れて、逆相電流がアンテナ電流をキャンセルしてしまい、本来のモノポールアンテナとしての作用が低減してしまう。
【0044】
2GHz帯よりも800MHz帯の方がアンテナ電流は多く流れるので、逆相関係の状態が生じると、2GHz帯よりも800MHz帯の方が逆相電流も多く流れる。このため、800MHz帯では、2GHz帯よりもスライドモジュール30を流れる逆相電流の影響をより受け易い。このような理由で、本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔を狭めたときに、800MHz前後の帯域の方がより大きく劣化するのである。
【0045】
次に無線通信装置1を適用したスライド型携帯電話機の接点周辺の構成について説明する。図18は本体側基板12から見た接点41、42の位置を示す図であり、図19はスライドモジュール30から見た接点41、42の位置を示す図である。また、図20に図18をI方向から見た図、図21に図18をJ方向から見た図を示す。
【0046】
基板GND12aとスライドモジュール30との間に接点41、42を2箇所設けている(基本的な基板構成やスライド開閉機構については、上述した内容と同じである)。接点41、42は、ディスプレイ側筐体20をスライドさせて本体側筐体10の操作面を露出させた状態にしたときに、本体側主基板12−1とスライドモジュールと30が重なる領域内にあって、アンテナ11およびアンテナ給電点11aから離れた箇所に設ける。これは、逆相電流のピークをアンテナ11およびアンテナ給電点11aからできるだけ離すためである。なお、一方の接点42には容量が装荷される。
【0047】
図22は電流ループの発生を示す図である。アンテナ11およびアンテナ給電点11aからなるべく離れた位置に、基板GND12aとスライドモジュール30を接続する接点41、42を2箇所設け、かつ片方の接点42には容量を装荷する。
【0048】
容量の装荷は、本体側主基板12−1上にコンデンサを実装することで容易に実現可能である。このような構成にすることにより、基板GND12aとスライドモジュール30との間に電流ループが発生する。
【0049】
図23はスライド開状態の電流分布を示す図である。本体側主基板12−1とスライドモジュール30との間隔が3mmのスライド開状態であって、860MHzのときの電流分布のシミュレーション結果を示している。
【0050】
基板GND12aとスライドモジュール30を接続する接点41、42を2箇所設け、かつ片方の接点には容量を装荷する。すると、基板GND12aとスライドモジュール30の間に電流ループが形成され、電流ループによるインダクタンス成分(L成分)と、接点42のキャパシタンス成分(C成分)による共振が発生する。
【0051】
これにより、図23に示すように、スライドモジュール30の電流のピーク位置を、アンテナ11およびアンテナ給電点11aから接点41、42の方に移動させることができる。
【0052】
電流のピーク位置が移動することで、アンテナ11およびアンテナ給電点11a近傍のスライドモジュール30を流れる逆相電流が小さくなり、キャンセルされるアンテナ電流を低減することができるので、アンテナ特性を改善させることが可能になる。
【0053】
ここで、共振周波数fは、インダクタンスをL、キャパシタンスをCとすると、f=1/2π(LC)1/2であるので、fを例えば、1GHz以下となるように、基板GND12aとスライドモジュール30との間隔にもとづき、L、Cを決めていく。例えば、間隔が小さくなるほど、Lは小さくなるのでCは大きくなるように決めていく。
【0054】
なお、シミュレーションの結果、電流ループによる共振周波数は、800MHz帯のアンテナの場合、それよりもやや高い900MHz〜1GHz程度に合わせるのが効果的であった。
【0055】
次に本発明と従来技術との効果の差異について説明する。上記の特開2006−203806号公報の従来技術(以下、従来技術1)では、アンテナ特性を改善するために、スライドレールに負荷を設けて、アンテナを広帯域化したり、放射パターンを変化させたりすることが記載されている。しかし、従来技術1では、2GHz帯のアンテナ特性の改善策については記載されているが、1GHz以下の帯域のアンテナ特性についての指摘は何らなされていない。
【0056】
昨今の携帯電話機は薄型化が進んでおり、スライド型携帯電話機においても本体側基板12とスライドモジュール30との間隔が小さくなる方向であるが、その影響は1GHz以下の周波数で顕著になる。
【0057】
図17で上述したように、間隔が小さくなるとアンテナ特性は必然的に劣化するが、2GHz帯が小さな劣化であるのに対し、800MHz前後の帯域は大きく劣化している。従来技術1は、このような問題に対し解決策を提示していない。
【0058】
また、図16で上述したように、アンテナ電流に対してスライドモジュール30を流れる電流が逆相になり、特にアンテナ下とアンテナ給電点下は非常に強い逆相電流となる。このような金属間の容量結合が強い状況下での逆相電流を、従来技術1のような負荷のインピーダンスの調整のみでコントロールすることは難しい。
【0059】
図24はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。800MHz前後の帯域における、従来技術1と、本発明の無線通信装置1とのそれぞれのVSWR特性のシミュレーション結果を示している。図からわかるように、従来技術1と比べて、無線通信装置1のVSWRはより1に近くなっており、アンテナ特性が向上していることがわかる。
【0060】
一方、上記の特開2009−44326号公報の従来技術(以下、従来技術2)では、共振回路を挿入させる構成をとっている。図25は共振回路が挿入されている状態を示す図である。基板GND12aとスライドモジュール30とを1つの接点で接続し、基板GND12a側に共振回路130が挿入されている。
【0061】
図26はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数である。従来技術1のVSWR特性と、従来技術2のVSWR特性とのシミュレーション結果を示している。図からわかるように、800MHz前後の帯域での従来技術2のアンテナ特性は、従来技術1に対して改善は僅かである。
【0062】
図27は共振回路130を流れる電流を示す図である。従来技術1に対して800MHz前後の帯域におけるアンテナ特性の改善が僅かである理由は、従来技術2では、共振により増幅された電流がほとんど共振回路130の内部で閉じてしまい、基板GND12aを流れる電流を大きく変えるまでには至らないためである。
【0063】
これに対し、本発明の無線通信装置1では、基板GND12aとスライドモジュール30との間に2箇所の接点41、42を設けて、一方の接点42に容量を装荷して、本体側主基板12−1上の基板GND12a自体を共振回路化したものである。
【0064】
これにより、逆相電流を大きく変化させることができるので、接点41、42をアンテナ11およびアンテナ給電点11aから離れた箇所に設置することで、逆相電流を接点側に移動させることができる。これにより、上記の従来技術1、2よりも、アンテナ特性を大幅に改善することが可能になる。
【0065】
次に変形例について説明する。変形例は、容量を装荷する接点42を結合用導体に置き換えてC成分を発生させる構成を有する。金属が近接して対向する部分では、C成分が現れるので、容量を実際に装荷する代わりに、このC成分を利用するものである。具体的には、結合用導体を基板GND12aに接続し、スライドモジュール30と結合用導体とを近接させて、C成分を発生させる。
【0066】
図28は本体側基板12から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図であり、図29はスライドモジュール30から見た接点および結合用導体設置箇所の位置を示す図である。基板GND12aとスライドモジュール30との間に電流ループを形成するために接点41および結合用導体設置箇所42aを設ける。接点41には導体によって基板GND12aとスライドモジュール30とを接続する。結合用導体設置箇所42aには結合用導体を設置する。
【0067】
図30は結合用導体の一例を示す図である。結合用導体42a−1には、例えば、フレキシブル基板(柔軟性があり変形可能なプリント基板)を使用する。この場合、結合用導体(フレキシブル基板)42a−1を基板GND12aに接続し、スライドモジュール30の金属面近くまで伸ばして結合させる。図の場合は、フレキシブル基板42a−1をコの字型に変形して、フレキシブル基板42a−1の結合面4をスライドモジュール30に近接させる。
【0068】
図31は結合用導体が設置されている構成を示す図である。本体側主基板12−1(基板GND12a)とスライドモジュール30との間にフレキシブル基板42a−1が設置されており、フレキシブル基板42a−1の結合面4とスライドモジュール30との間隔dを一定にする。
【0069】
例えば、1GHzで共振させる場合は、この間隔dが0.2〜0.3mm程度に設定する。このような構成にすることにより、基板GND12aとスライドモジュール30との間にC成分を発生させることができ、容量を実際に装荷した場合とほぼ同様な効果を得ることが可能である。
【0070】
図32はVSWR特性を示す図である。縦軸はVSWR、横軸は周波数であり、1GHz帯以下において、従来技術1のVSWRと、上記の変形例のVSWRとを示している。図からわかるように、変形例の方がVSWR特性を向上させていることがわかる。
【0071】
以上説明したように、無線通信装置1において、アンテナが接続される基板のグランドとスライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷する構成とした。これにより、スライドモジュールを流れる逆相電流のピーク位置を、アンテナ近傍領域から接点側へ移動させることができ、アンテナ特性の向上を図ることが可能になる。
【0072】
なお、上記ではスライド型携帯電話機に無線通信装置1を適用した場合について説明したが、スライド型携帯電話機に限らず、アンテナの近傍に金属部が存在し、アンテナが接続される基板のGNDを流れる電流と、金属部を流れる電流とが逆相の関係になるような無線機器全般に対し本発明は適用可能である。
【0073】
すなわち、このような無線機器に対しても、金属部と、アンテナが接続される基板のGNDとの間に少なくとも2つの接点を設け、1つの接点に容量を装荷して基板GNDを共振化させて電流ピーク位置をアンテナから離すことで、アンテナ特性の改善を図ることができる。
【0074】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 無線通信装置
10 第1の筐体
11 アンテナ
12 基板
12a 基板GND
20 第2の筐体
30 スライドモジュール
41、42 接点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、
第2の筐体と、
前記第2の筐体を前記第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールと、
を備え、
前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
スライド開状態のとき、前記基板と前記スライドモジュールとが重なる領域内にあって前記アンテナから離れた箇所に前記接点を設けることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記接点を設けて、前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に形成される電流ループのインダクタンス成分と、前記容量のキャパシタンス成分とにより共振を発生させ、前記スライドモジュールを流れる電流のピーク位置を、前記アンテナの近傍から前記接点の側へ移動させることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記容量を装荷する前記接点を結合用導体とすることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
アンテナと、
前記アンテナが接続される基板と、
を備え、
前記アンテナの近傍に金属部がある場合に、前記金属部と前記基板のグランドとの間に少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項1】
アンテナが実装された基板を含む第1の筐体と、
第2の筐体と、
前記第2の筐体を前記第1の筐体に対してスライドさせるスライドモジュールと、
を備え、
前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に、少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
スライド開状態のとき、前記基板と前記スライドモジュールとが重なる領域内にあって前記アンテナから離れた箇所に前記接点を設けることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記接点を設けて、前記基板のグランドと前記スライドモジュールとの間に形成される電流ループのインダクタンス成分と、前記容量のキャパシタンス成分とにより共振を発生させ、前記スライドモジュールを流れる電流のピーク位置を、前記アンテナの近傍から前記接点の側へ移動させることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記容量を装荷する前記接点を結合用導体とすることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
アンテナと、
前記アンテナが接続される基板と、
を備え、
前記アンテナの近傍に金属部がある場合に、前記金属部と前記基板のグランドとの間に少なくとも2つの接点を設け、1つの前記接点に容量を装荷する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2011−188398(P2011−188398A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54033(P2010−54033)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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