説明

無鉛ガラス組成物

【課題】化学的耐久性に優れ、低比重化を達成し、また溶融性に優れ、炉材の侵食が少なく、更に感光性プロセスにおいて高精細なパターン形成を可能とする無鉛ガラス組成物の提供を課題とする。
【解決手段】酸化物のモル%表示で、SiO:26〜40%、Al:4〜25%、B:20〜50%、ZnO:0.1〜4%、MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:2〜13%、LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜30%、但し、LiO:0〜25%、NaO:0〜20%、KO:0〜17%を含有する無鉛ガラス組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛を含有しない無鉛ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子、電子部品等の他、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPとする)、液晶等の各種の表示装置では、小型化、薄型化等の要請に伴って高精度化が進んでいる。このため、その加工方法として、感光性樹脂組成物を用いたフォトリソグラフィーによる微細加工が行われている。
【0003】
特にPDPは、前面板と背面板の2枚のガラス基板の間に形成された僅かな隙間を放電空間として、アノード及びカソード電極間にプラズマ放電を生じさせ、放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線により、放電空間内に設けた赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体を刺激させて発光させることにより、画像表示を行うものである。前記放電空間は、それぞれ仕切る必要があるが、この際、放電空間を仕切るための隔壁が必要とされる。PDPは、この放電空間を画像表示素子の基本単位として構成されるため、高精細化のためには隔壁の形状や均一性などの高い寸法精度が必要である。このため、隔壁形成材料であるガラス等の無機材料を高精度且つ自在にパターン加工できる方法が要求されており、これまでも様々な加工方法が提案されている。
【0004】
そのような加工方法の中でも感光性ペースト法(フォトリソグラフ法)は、パターン形成において高精細化を可能とし、更に工程の簡易化を図ることもできる方法である。感光性ペースト法による場合は、次のようにして隔壁を形成することができる。まず基板上に、焼成後に所望の隔壁の高さになるような厚みにガラス等の無機材料を含んだ感光性ペーストを塗布し、乾燥後に露光を行う。続いてアルカリ溶液を用いた現像により未露光部を除去し、更に高温で焼成することにより有機成分を除去して、無機材料のみからなる隔壁を得ることができる。
【0005】
また高画質化、低消費電力化等を達成するため、隔壁の形成方法、感光性ペースト樹脂組成の改良にとどまらず、感光性ペーストに用いるガラス等の無機材料の改良が進められている。
【0006】
PDPは視野角度が広いために画質の角度依存性がなく、また動画応答性が速く、残像が残り難いという点から、フルハイビジョンのクオリティを十分に表現する高精細性が求められる大型ディスプレイに最適である。近年、PDPは、その大型化に伴う重量増加が問題となっており、自重で基板に歪みが生じることや、破損する恐れが指摘されている。また壁掛けテレビ等の用途を考えた場合に、重量が大きくなり過ぎると用いることができない。そのため、製品重量の軽量化を図るため、隔壁材料であるガラスの低比重化が強く望まれている。更にガラスの使用量を低減できるため、環境負荷を小さくすることが可能である。
またPDPの普及に伴う環境負荷の増加が問題となっており、ガラス溶融に関わる使用エネルギーの増加が指摘されている。そのため、高い溶融性を示すことで溶融時間を短縮し、更に溶融時における炉材の侵食が小さいガラス組成が強く望まれている。
【0007】
従来技術におけるガラスは低軟化点を目的に鉛又はビスマスを含有しているため、これらのガラスは比重が大きい。更に環境負荷又は人体への影響に対する意識の高まりから、これらの成分を含まない無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスの開発が切望されている。(特許文献1、2)
【0008】
また鉛及びビスマスを含有しない低比重のガラス組成系においては、リン又はフッ素の他、Sn、Co、MnO等の重金属を含有する。しかしながら、これらのガラスは溶融時に著しく炉材を侵食するため、環境負荷が大きい。更に人体への影響に対する意識の高まりから、これらの成分を含まない無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスの開発が切望されている。(特許文献3、4、5)
【0009】
無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスでは、例えば特許文献6に記載のガラス粉末が知られている。これによると、ガラスの屈折率と感光性樹脂の屈折率を近似させることにより、高精細なパターンを形成することが可能である。一方で、近年のPDPの大型化に伴う重量増加においては低比重化が課題となっており、更に化学的耐久性や熱特性及び有機樹脂との屈折率のマッチング特性についても改良の余地が残っている。
【0010】
同様に無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスでは、例えば特許文献7に記載のガラス粉末が知られている。この無鉛ガラス組成物は、銀電極との反応性を抑制することで黄変を抑制し、よって高い透過率を有し且つ600℃前後での焼成が可能であるため、前面誘電体材料として最適である。ところが、この無鉛ガラス組成物は、リブ用とした場合、化学的耐久性に乏しいため、パターン形成後の現像時にガラスが剥離する恐れがある。更には低比重化、溶融性及び発光効率改善のための焼成後の白色度の向上において、なお改良の余地が残されている。
【0011】
特許文献8には無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスが開示されているが、ガラスの低比重化や熱特性及び有機樹脂との屈折率のマッチング特性、更には溶融性において、なお改良の余地が残されている。
また特許文献9には無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスの低比重化について開示されているが、溶融性において、なお改良の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−214772号公報
【特許文献2】特開平9−312135号公報
【特許文献3】特開2001−158640号公報
【特許文献4】特開2009−120407号公報
【特許文献5】特開2009−120408号公報
【特許文献6】特開平11−92168号公報
【特許文献7】特開2008−19145号公報
【特許文献8】特開2002−23351号公報
【特許文献9】特開平9−283035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は化学的耐久性に優れ、且つ低比重化を達成し、更に溶融性に優れ、炉材の侵食が少ない無鉛ガラス組成物の提供を課題とする。また感光性プロセスにおいて高精細なパターン形成を可能とする無鉛ガラス組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ガラス組成を特定の組成及び比率に規定することにより上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の無鉛ガラス組成物は、酸化物のモル%表示で、SiO:26〜40%、Al:4〜25%、B:20〜50%、ZnO:0.1〜4%、MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:2〜13%、LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜30%、但し、LiO:0〜25%、NaO:0〜20%、KO:0〜17%を含有することを第1の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、酸化物のモル%表示で、SiO:26〜38%、Al:5〜20%、B:25〜46%、ZnO:0.3〜4%、MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:3〜13%、LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜25%、但し、LiO:0〜22.5%、NaO:0〜18%、KO:0〜14%を含有することを第2の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、酸化物のモル%表示で、SiO:26〜35%、Al:5〜16%、B:27〜40%、ZnO:0.5〜4%、MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:4〜11%、LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜20%、但し、LiO:0〜20%、NaO:0〜16%、KO:0〜10%を含有することを第3の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、酸化物のモル%表示で、SiO:27〜33%、Al:6〜16%、B:29〜38%、ZnO:0.5〜4%、MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:5〜11%、LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:12〜18%、但し、LiO:0〜18%、NaO:0〜14%、KO:0〜8%を含有することを第4の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、上記第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、感光性プロセスによるパターン形成に用いられることを第5の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、上記第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、フラットパネルディスプレイの隔壁又は誘電体層の形成のために用いられることを第6の特徴としている。
また本発明の無鉛ガラス組成物は、上記第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、バインダーの少なくとも1種と溶剤とを加えることでペーストとして用いられることを第7の特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無鉛ガラス組成物によれば、ガラスの組成・比率を請求の範囲に示す特定の範囲に制御することにより、比重の低下、化学的耐久性の向上、溶融性の向上を達成し、且つ600℃以下での焼成を可能とし、更に有機樹脂との屈折率のマッチング特性を良好にすることができる。
即ち、低比重化により製品重量の軽量化を実現し、化学的耐久性の向上、溶融性の向上、低温焼成により環境負荷を低減することが可能である。しかも感光性プロセスにおいて有機樹脂と屈折率(g線)が同等であることから、設計通りの高精細なパターンを形成することが可能になり、フルハイビジョン化に好適である。更に焼成後の白色度が高いことから、発光効率を向上させることができ、低消費電力化にも好適である。
【0017】
このような特長を有する本発明の無鉛ガラス組成物又はこれを含むペーストは、これまでの無鉛ガラス組成物の場合と同様の用途等に幅広く使用することができる。とりわけ感光性プロセスに用いられるガラス材料として好適であり、例えばPDP、液晶等の各種表示装置の製造、半導体素子、その他の電子回路の製造等における高精細なパターン形成のためのガラス組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のガラス組成物における成分とその含有量の限定理由について説明する。
成分SiOは26〜40モル%含有させる。SiOはガラスのネットワークフォーマーとして必須であると共に、低比重化、低屈折率化にも有効な成分である。SiOの含有量が26モル%未満では、ガラス転移点、屈伏点等が下がり過ぎる上、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、素材に焼き付けた時にクラックを生じる恐れがある、またガラスの化学的耐久性も悪くなり、現像工程での腐食が顕著となる。更に屈折率が大きくなり過ぎ、精細なパターンが形成できない。他方、SiOの含有量が40モル%を超える場合は、溶融性を悪化させる上、ガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎる。このため、例えばPDP製造の工程で採用されている600℃前後の温度では、ガラス基板に焼き付けるのが困難になる。
SiOの含有量は、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、化学的耐久性、屈折率、溶融性等を考慮すると、26〜38モル%が好ましく、26〜35モル%がより好ましい。更に好ましくは27〜33モル%含有させるのがよい。
【0019】
成分Alは4〜25モル%含有させる。Alはガラスの化学的耐久性を向上させ、ガラス化範囲を広げてガラスを安定化させる効果があり、更に低比重化、低屈折率化にも有効な成分である。Alの含有量が4モル%未満では、ガラスの安定性が低下すると共に、化学的耐久性が悪くなり、更に溶融時の耐火物への侵食が著しくなる。また25モル%を超えると、溶融性を悪化させる上、失透傾向が大きくなると共に、ガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎる。このため、例えばPDP製造の工程で採用されている600℃前後の温度では、ガラス基板に焼き付けるのが困難になる。
Alの含有量は、溶融性、ガラス転移点、屈伏点等を考慮すると、5〜20モル%が好ましく、5〜16モル%がより好ましい。更に好ましくは6〜16モル%含有させるのがよい。
【0020】
成分Bは20〜50モル%含有させる。Bは鉛等の重金属を含有しないガラスにおいては、低融化のために必須の成分である。更に溶融性を向上させると共に、低比重化と低屈折率化にも非常に有効な成分である。Bの含有量が20モル%未満では溶融性を悪化させると共に、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、基板に焼き付けた時にクラックが生じる恐れがある。更に屈折率が大きくなり過ぎ、精細なパターンが形成できない。他方、50モル%を超えると、ガラスの化学的耐久性が悪くなり、更に溶融時の耐火物への侵食が著しくなる。
の含有量は、低融化、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、低屈折率化、化学的耐久性等を考慮すると、25〜46モル%が好ましく、27〜40モル%がより好ましい。更に好ましくは29〜38モル%含有させるのがよい。
【0021】
成分ZnOは0.1〜4モル%含有させる。ZnOはガラスの熱膨張係数を低下させると共に、化学的耐久性を向上させ、更には比重と屈折率の調整に有効な成分であることから必須である。ZnOの含有量が0.1モル%未満では、熱膨張係数が大きくなり過ぎると共に、化学的耐久性が低下する。またZnOの含有量が4モル%を超えると、ガラスの比重が大きくなり過ぎると共に、ガラスの屈折率が大きくなり過ぎ、感光性樹脂との屈折率差が大きくなるため、精細なパターンが形成できない。
ZnOの含有量は、熱膨張係数、化学的耐久性、低比重、屈折率等を考慮すると、0.3〜4モル%が好ましく、0.5〜4モル%がより好ましい。
【0022】
MgO、CaO、SrO及びBaOを合計量で2〜13モル%含有させる。MgO、CaO、SrO及びBaOはガラスの安定性を向上させる上、ガラスの熱膨張係数を低下させると共に、化学的耐久性を向上させ、更には比重と屈折率の調整に有効な成分であることから、少なくとも1種を含有させることが必須である。MgO、CaO、SrO及びBaOの合計量が2モル%未満では、熱膨張係数、失透傾向が大きくなると共に、化学的耐久性が低下する。また合計量が13モル%を超えると、ガラスの比重が大きくなり過ぎると共に、屈折率が大きくなり過ぎ、感光性樹脂との屈折率差が大きくなるため、精細なパターンが形成できない。
MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は、安定したガラス製造、熱膨張係数、化学的耐久性、比重、屈折率等を考慮すると、その合計量で3〜13モル%が好ましく、4〜11モル%がより好ましい。更に好ましくは、合計量で5〜11モル%含有させるのがよい。
【0023】
LiO、NaO及びKOはガラスの低融化に有効な成分であることから、本発明のガラス組成物ではLiO、NaO及びKOの少なくとも1種を含有させることが必須であり、合計量で10〜30モル%含有させる。LiO、NaO及びKOの合計量が10モル%未満では低融化の効果が不十分となると共に、溶融性が低下する。逆に合計量で30モル%を超えると、溶融時における炉材の侵食が著しくなる上、ガラスの化学的耐久性が低くなると共に、熱膨張係数が大きくなり過ぎる恐れがある。
LiO、NaO及びKOの含有量は、溶融性、化学的耐久性、熱膨張係数等を考慮すると、その合計量で10〜25モル%が好ましく、10〜20モル%がより好ましい。更に好ましくは、合計量で12〜18モル%含有させるのがよい。
【0024】
成分LiOは0〜25モル%含有させる。LiOはアルカリ金属の中で化学的耐久性への影響が少なく、ガラスの比重を低下させると共に、溶融性を向上させ、更にはガラスの低融化と熱膨張係数の調整に有効な成分である。LiOが25モル%を超えると、化学的耐久性が悪くなり、更に溶融時の耐火物への侵食が著しくなる上、熱膨張係数が高くなり過ぎる恐れがある。
LiOの含有量は、化学的耐久性、低比重化、溶融性、熱膨張係数等を考慮すると、0〜22.5モル%が好ましく、0〜20モル%がより好ましい。更に好ましくは0〜18モル%含有させるのがよい。
【0025】
成分NaOは0〜20モル%含有させる。NaOはガラスの溶融性を向上させ、更にはガラスの低融化と熱膨張係数の調整に有効な成分である。NaOが20モル%を超えると、化学的耐久性が悪くなり、更に溶融時の耐火物への侵食が著しくなる上、熱膨張係数が高くなり過ぎる恐れがある。
NaOの含有量は、溶融性、熱膨張係数、化学的耐久性を考慮すると、0〜18モル%が好ましく、0〜16モル%がより好ましい。更に好ましくは0〜14モル%含有させるのがよい。
【0026】
成分KOの含有量は0〜17モル%とする。KOはアルカリ金属の中でガラスの屈折率を低下させ、溶融性を向上させ、更にはガラスの低融化と熱膨張係数の調整に有効な成分である。KOが17モル%を超えると、化学的耐久性が悪くなり、更に溶融時の耐火物への侵食が著しくなる上、熱膨張係数が高くなり過ぎる恐れがある。
Oの含有量は、屈折率、溶融性、熱膨張係数、化学的耐久性等を考慮すると、0〜14モル%が好ましく、0〜10モル%がより好ましい。更に好ましくは0〜8モル%含有させるのがよい。
【0027】
更に本実施形態においては、無鉛ガラス組成物における各成分の間に上記のような関係が満たされていれば、得られるガラス粉末の物性に対して大きな影響を与えない中性成分を、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において加えることができる。このような中性成分を含有する場合も本発明が意図する範囲のものである。
【0028】
前記の中性成分としては、Bi、TiO、ZrO、Y、La、Gd等があげられる。
これらの成分は、有機樹脂との屈折率のマッチング特性を考慮すると、その総合計量が、3モル%以上が好ましく、2モル%以下がより好ましい。
【0029】
一方で、第5族から第11族にあたる遷移金属元素成分は、着色により透明性を損なうおそれがあることや、人体への有害性や環境負荷が高いことから、酸化物換算で、その総合計量が、0.5モル%以下が好ましく、0.2モル%以下がより好ましく、実質的に含有させないことが更に好ましい。
また環境面から、PbOは実質的に含有させないことが好ましい。
【0030】
ここで、「実質的に含有させない」との表現については、本発明においては、不純物レベルで含有されるような場合までをも否定する意図ではなく、例えばガラス粉末を作製する原材料などに不純物として含まれているレベルであれば、その含有が許容され得ることを意図するものである。
より具体的には、上記のような成分は、その合計量が酸化物換算で1000ppm以下であれば含有されても問題になるおそれは低く、実質的に含有されていない場合に相当する。ただし、上記のような問題を発生させるおそれをより確実に防止する意味においては、100ppm以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明のガラス組成物のガラス転移点は特に限定されないが、通常は530℃以下、特に470〜520℃の範囲内とすることが好ましい。また軟化点は、600℃以下での焼成を可能にするという点で、550〜600℃とすることが好ましい。更に熱膨張係数が60×10−7〜90×10−7/℃(測定温度50〜400℃の範囲)を有することが好ましく、70×10−7〜80×10−7/℃を有することがより好ましい。熱膨張係数を上記範囲内に設定すれば、ソーダ石灰基板或いは高歪点ガラス基板とのマッチングに優れる。更に屈折率(g線)が感光性樹脂と同等の1.530〜1.575程度を有することが、高精細なパターンを形成する上で好ましく、1.540〜1.570程度を有することがより好ましい。更に比重が2.60g/cm以下であることがPDPの重量軽減のために好ましく、2.55g/cm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明のガラス組成物の製造方法としては、特に限定されない。まず材料としては、本発明のガラス組成物のガラス成分の供給源となる化合物を出発原料として使用すればよい。例えばBのためにHBO、B等を用いることができる。また例えばAlのためにAl(OH)、Al等を用いることができる。他の成分についても、SiO、ZnO、Mg(OH)、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO、KCO、ZrO、TiO、LaCO等のように、各種酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常に用いられる出発原料を採用することができる。そして、これらを所定の割合で含有する混合物を出発原料として用い、溶融することにより、本発明のガラス組成物を得ることができる。
【0033】
ガラス組成物の製造方法としては、例えば原料化合物を混合することにより混合物を得る第1工程、及び得られた混合物を溶融することにより溶融物を得る第2工程、を含む製造方法によって、本発明の無鉛ガラス組成物を得ることができる。
【0034】
第1工程では、本発明のガラス組成物の組成・比率となるように前記出発原料を秤量し、混合することにより混合物を調製する。この場合、各成分の原料の混合順序等は特に制限されず、同時に配合してもよいし、所定の化合物から順番に配合してもよい。また原料は、通常は粉末の形態で供給される。このような原料粉末は、各成分を含む原料を公知の方法で粉砕、混合等を実施することにより得ることができる。
【0035】
第2工程では、混合物を溶融することにより溶融物を得る。溶融に際しては、原料組成等に応じてガラス溶融温度を設定すればよいが、通常は1000〜1300℃程度で実施すれがよい。得られた溶融物は、必要に応じて、溶融物からそのまま粉末を製造する工程に供してもよい。例えば溶融物を冷却ロールにて冷却しながらフレーク状粉末を得ることができる。また溶融物を冷却した後、必要に応じて粉砕、分級等の処理をすることにより粉末を得ることもできる。このように本発明の無鉛ガラス組成物は、粉末状として好適に提供することができる。
【0036】
粉末状とする場合の平均粒径(D50)は限定的ではないが、通常は50μm以下の範囲内において使用形態、用途等に応じて適宜調節することできる。例えば本発明のガラス組成物の粉末を用いてペーストを調製する場合は、後述の粒度に調整すればよい。
【0037】
(ペーストの調製)
本発明のガラス組成物の粉末を用いてペーストを調製することもできる。即ち、バインダーの少なくとも1種と溶剤と本発明のガラス組成物の粉末とを含むペーストを作ることができる。例えば本発明のガラス組成物の粉末を用いることにより、感光性ガラスペーストを好適に調製することができる。この場合、主としてバインダーポリマー、光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)、光重合開始剤、その他の添加物からなるビヒクル中に本発明のガラス組成物の粉末を均一に分散させればよい。
【0038】
本発明のガラス組成物の粉末の平均粒径(D50)は特に限定されないが、通常は1.0〜5μmとし、特に1.5〜3μmとすることが好ましい。平均粒径が1.0μm未満である場合には、ペーストを作製する際、樹脂分が多く必要となり、焼成前後での体積収縮が大きくなる。更に強固な凝集によりペースト中での分散性が悪化する結果、高精細、高アスペクト比等の加工が困難になる恐れがある。逆に平均粒径が5μmを超える場合は、相対的に大粒子が多くなり、その結果としてタッピング嵩密度も小さくなって高精細な加工が困難になることがある。
【0039】
また前記粉末の最大粒径も限定的ではないが、通常は50μm以下とし、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下とすることが好ましい。最大粒径が50μmを超えると、微細な加工が困難になり、例えばPDPの場合のバリアリブの幅を30μm程度以下とすることが困難になる恐れがある。
【0040】
前記ガラス粉末の比表面積は粒度と密接な関係にあるが、1.0〜4.0m/gとすることが好ましい。ガラス粉末の形状については、ガラスを粉砕したままの状態でもよいし、球状化処理したものでもよい。より高精細な加工をする場合は、バーナー処理等で粉末を球状にした方が好ましい。即ち、球状化処理されたガラス粉末を用いることにより、光の散乱が少なくなり、露光時に下部まで光が届くのでより好ましい。
【0041】
前記ガラス粉末のペースト中での濃度は特に制限されないが、通常はペースト中60〜90重量%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0042】
前記バインダーポリマーとしては、主成分であるメチルメタクリラートと各種アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、スチレン、アクリロニトリル等とアクリル酸、メタクリル酸との共重合体、及びこれに更に各種不飽和基を付加させたもの等があげられる。また前記光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリラート、(ジ)ペンタエリスリトール(トリ〜ヘキサ)アクリラート等があげられる。これら光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)は、1種のみでは特性(感度、解像度、接着性、パターニング性、現像性等)のバランスがとり難い場合があるため、2種以上を混合して使用することが好ましい。
【0043】
光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン系、チオキサントン系、アンスラキノン系、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系等があげられる。
【0044】
その他、感光性ガラスペーストの調製においては、必要に応じて熱重合禁止剤、可塑剤、増粘剤、増感剤、分散剤、溶剤等を添加物として加えることができる。
【0045】
本発明では、特に前記のように本発明のガラス組成物の粉末を分散させた感光性ガラスペーストを用いることにより、フォトリソグラフ法による高精細な加工を、鉛等を用いることなく良好に行うことができる。このため、例えばPDP、液晶等の各種表示装置における高精細な隔壁等の形成に良好に用いることができる。更にガラスの低比重化によりパネル作成時の歩留まりが向上し、また大画面化による重量増加を軽微にすることが可能となる。また溶融性の向上により、ガラス製造工程における使用エネルギーの低減且つ量産性の向上により、環境負荷を低減することが可能となる。更にガラスと感光性樹脂の屈折率が同等であることから、感光性法による微細なパターン形成を可能にせしめ、フルハイビジョン化に伴うPDPの高精細化、高発光効率化等を可能とする。また、その他の半導体素子或いは各種電子部品の製造において、高精細なパターンを良好に形成するための感光性ガラスペーストとして用いることができる。これらは、特にエッチング液としてアルカリ溶液を用いた現像により未露光部を除去する工程を含む感光プロセスに用いるためのパターン形成用ペーストとして最適である。
【0046】
前記感光性ガラスペースト用ガラス組成物においては、必要に応じて熱膨張係数、電気特性等の微調整、焼成前後での体積収縮の抑制、着色等を目的として、セラミックス又はガラス質フィラー、有機系又は無機系の各種顔料等の公知の添加剤を適宜配合することも可能である。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。但し、本発明の範囲は実施例に限定されない。
(配合材料)
実施例1〜20及び比較例1〜13の無鉛ガラス組成物を作製すべく用いた配合材料は、以下の通りである。即ち配合材料(出発原料)として、SiO、Al(OH)、HBO、ZnO、Mg(OH)、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO、KCO、ZrO、TiO、LaCOを用いた。
【0048】
表1〜表5に示した実施例1〜20、比較例1〜13の組成となるように上記配合材料を調合し、混合した後、白金質のルツボを用いて約1000℃〜1300℃の温度で1〜2時間溶融した。溶融したガラスをステンレススチール製の冷却ロールにて急冷し、ガラスフレークを作製した。次いでガラスフレークを粉砕して気流分級により平均粒径1〜3μm、最大粒径を20μm以下に調整し、粉末ガラスを作製した。なお、粉末ガラスの粒径はレーザー散乱式粒度分布測定機を用いて測定し、気流分級条件を求めた。
【0049】
(各評価試料の作製)
気流分級により得られた上記粉末ガラスを示差熱分析(DTA)用試料とした。
溶融して得られた上記ガラスを直径5mm×長さ15〜20mmのロッド状に加工し、熱膨張係数測定用試料とした。
溶融して得られた上記ガラスを15mm×15mm×10mmの直方体に加工し、屈折率用測定試料とした。
また溶融して得られた上記ガラスを15mm×10mm×4mmの直方体に加工し、耐アルカリ性試験用試料とした。
また気流分級により得られた上記粉末ガラスを、バインダーポリマーとしてのメチルメタクリラート、スチレン、メタクリル酸からなる共重合体(40:30:30)に、光重合性多官能モノマーとしてのトリメチロールプロパントリアクリラート、ポリエチレングリコールジメタクリラートと、光重合開始剤としてのベンゾフェノンと、溶剤としてのγ−ブチロラクトンとを添加してなる感光性ビヒクル中に、3本ロールを用いて均一分散させることにより感光性ガラスペーストを作製した。その際、ガラス粉末のペースト中での濃度は70〜80%とした。この感光性ペーストを市販の高歪点ガラス(製品名「PD−200」、旭硝子(株)製)上にスクリーン印刷法にて印刷・乾燥を数回繰り返して行い、次いでフォトリソグラフ法にて高圧水銀灯を光源とする露光機で50〜500mJ/cmの露光量で露光し、ストライプ状に線幅約50μm、高さ20μm、ピッチ約220μmのパターンを形成し、エッチング液としてモノエタノールアミン水溶液を用いて現像したものを水洗、乾燥後、空気中で580℃〜610℃で30分間焼成した。得られた基板を精細性(パターニング性)評価用試料とした。
【0050】
(物性の評価)
各実施例及び比較例で得られたサンプルを用いて下記に示す各物性をそれぞれ測定した。その結果を表1〜表5に示す。
なお、本発明における比較例13は特許文献6における実施例13に相当する。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
1.ガラス転移点、屈伏点
各実施例及び比較例の粉末ガラス試料の約30mgを白金セルに入れ、示差熱分析装置(型名「TG−8120」、(株)リガク製)を用いて、アルミナ粉末を標準試料として大気雰囲気下において室温から20K/minの昇温速度でDTA曲線を得、最初の吸熱ピークの開始点(外挿点)をガラス転移点とし、その吸熱の極小値の温度を屈伏点とした。
【0057】
2.熱膨張係数(α)
各実施例及び比較例のロッド状試料と石英ガラスにより形成された標準試料とを熱機械測定装置(型名「TMA8310」、(株)リガク製)を用いて、室温から10℃/minで昇温して熱膨張曲線の測定を行い、50℃〜400℃までに観測される熱膨張係数の値を平均して各実施例及び比較例の熱膨張係数とした。
【0058】
3.比重
各実施例及び比較例のガラスを用いてアルキメデス法により、比重を測定した。
【0059】
4.屈折率(n
各実施例及び比較例の直方体試料を、屈折率はヘリウムg線を光源とし、精密屈折計(型名「KPR200」、(株)島津デバイス製造製)を用いるブロック法により測定した。
【0060】
5.耐アルカリ性
各実施例及び比較例の直方体試料を75℃の5%水酸化ナトリウム水溶液40mlに1時間浸漬し、試料の浸漬前後における重量減少率を求めた。重量減少率が2%未満を「◎」、重量減少率が2〜3%未満を「○」、重量減少率が3〜4%未満を「△」、重量減少率が4%以上を「×」として評価した。
【0061】
6.溶融性
表に示す組成がガラス量として100gとなるように配合材料を調合し、混合した後、約1200℃の温度雰囲気下で白金質のルツボを用いて溶融した。配合材料を全量投入した後、30分間隔で手攪拌にて50回転の攪拌を実施し、目視で溶融の状態を確認した。攪拌2回で溶け残りがなかったものを「◎」、攪拌3回で溶け残りがなかったものを「○」、攪拌4回で溶け残りがなかったものを「△」、攪拌5回以上必要なものを「×」と評価した。
【0062】
7.レンガへの侵食性
表に示す組成がガラス量として100gとなるように配合材料を調合し、混合した後、約1200℃の温度雰囲気下でシャモット質のルツボを用いて溶融した。配合材料を全量投入した後、1時間間隔でルツボ底面からのガラス漏れを確認した。5時間以上漏れがなかったものを「◎」、4〜5時間未満で漏れが確認されたものを「○」、3〜4時間未満で漏れが確認されたものを「△」、3時間未満で漏れが確認されたものを「×」として評価した。
【0063】
8.クラック
また上記ガラス粉末とエチルセルロース、ターピネオールを主成分とするビヒクルとによりなるガラスペーストを、ガラス基板(商品名「PD−200」、旭硝子(株)製)上に焼結後に約30μmの厚さとなるようにスクリーン印刷して乾燥した後、空気中で580〜610℃、30分間焼成して得たサンプルを用いて評価を行った。光学顕微鏡にてガラス膜を観察し、クラックの有無を確認した。クラックがなかったものは「○」、クラックがあったものは「×」として評価した。
【0064】
9.精細性(パターニング性)
各実施例及び比較例の粉末ガラスを用いて得られた感光性ペーストを、市販の高歪点ガラス(製品名「PD−200」、旭硝子(株)製)上にスクリーン印刷法にて印刷・乾燥を行い、次いでフォトリソグラフ法によりパターンを形成し、580〜610℃で30分間焼成して得た試料を用いて精細性の評価を行った。精細性はパターンの線幅、高さを光学顕微鏡による観察で評価し、線幅が45μm未満となったものを「×」、45μm以上50μm未満となったものを「○」、50μm以上となったものを「◎」と評価した。
【0065】
10.白色度の観察
各実施例及び比較例の粉末ガラスを20φの金型に充填してプレスし、得られたペレットを600℃で焼成した焼結体の白色の程度をカラーメータ(商品名「H−CT」、スガ試験機(株)製)で測定した。得られたL*値が、50未満であれば「×」、50以上であれば「○」、60以上であれば「◎」と評価した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の無鉛ガラス組成物は、化学的耐久性に優れ、且つ低比重化を達成し、更に溶融性に優れ、炉材の侵食が少なく、感光性プロセスにおいて高精細なパターン形成を可能とする無鉛ガラス組成物として、産業上の利用性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物のモル%表示で、
SiO :26〜40%
Al :4〜25%
:20〜50%
ZnO :0.1〜4%
MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:2〜13%
LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜30%
但し、LiO:0〜25%、NaO:0〜20%、KO:0〜17%
を含有することを特徴とする無鉛ガラス組成物。
【請求項2】
酸化物のモル%表示で、
SiO :26〜38%
Al :5〜20%
:25〜46%
ZnO :0.3〜4%
MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:3〜13%
LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜25%
但し、LiO:0〜22.5%、NaO:0〜18%、KO:0〜14%
を含有することを特徴とする無鉛ガラス組成物。
【請求項3】
酸化物のモル%表示で、
SiO :26〜35%
Al :5〜16%
:27〜40%
ZnO :0.5〜4%
MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:4〜11%
LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:10〜20%
但し、LiO:0〜20%、NaO:0〜16%、KO:0〜10%
を含有することを特徴とする無鉛ガラス組成物。
【請求項4】
酸化物のモル%表示で、
SiO :27〜33%
Al :6〜16%
:29〜38%
ZnO :0.5〜4%
MgO、CaO、SrO及びBaOの少なくとも1種:5〜11%
LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:12〜18%
但し、LiO:0〜18%、NaO:0〜14%、KO:0〜8%
を含有することを特徴とする無鉛ガラス組成物。
【請求項5】
感光性プロセスによるパターン形成に用いられることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無鉛ガラス組成物。
【請求項6】
フラットパネルディスプレイの隔壁又は誘電体層の形成のために用いられることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無鉛ガラス組成物。
【請求項7】
バインダーの少なくとも1種と溶剤とを加えることでペーストとして用いられることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無鉛ガラス組成物。

【公開番号】特開2011−225439(P2011−225439A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77209(P2011−77209)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】