説明

無鉛ガラス組成物

【課題】黄変現象が効果的に抑制ないしは防止できる無鉛ガラス組成物を提供する。
【解決手段】酸化物のモル%表示で、A)下記の組成;(1)SiO:19〜26.5%、(2)Al:2〜15%、(3)B:33〜57%、(4)ZnO:2〜16%、(5)MgO及びCaOの少なくとも1種:0.1〜9%、(6)SrO及びBaOの少なくとも1種:0.1〜4%、(7)MgO、CaO、SrO及びBaOの合計:0.2〜13%、(8)LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:9〜17%、(9)ZrO、TiO及びLaの少なくとも1種:0〜3%を有し、かつ、B)下記の比率;(1)KO/(LiO+NaO+KO):0.40〜0.80、(2)(SiO+B)/(LiO+NaO+KO):4.0〜7.0を有することを特徴とする無鉛ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含有しないガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体素子、電子部品等のほか、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶等の各種表示装置では、小型化、薄型化等の要請に伴って高精度化が進んでいる。このため、その加工方法として、感光性樹脂組成物を用いたフォトリソグラフィーによる微細加工が行われている。
【0003】
特に、PDPは、前面板と背面板の2枚のガラス基板の間に形成された僅かな隙間を放電空間とし、アノード及びカソード電極間にプラズマ放電を生じさせ、放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線により、放電空間内に設けた赤(R)、緑(G)、青(B)蛍光体を刺激させ発光させることにより画像表示を行うものである。前記の放電空間はそれぞれ仕切る必要があるが、この際に放電空間を仕切るための隔壁が必要とされる。PDPはこの放電空間を画像表示素子の基本単位として構成されるため、高精細化のためには隔壁の形状や均一性などの高い寸法精度が必要である。このため、隔壁形成材料であるガラス等の無機材料を高精度かつ自在にパターン加工ができる方法が要求されており、これまでも様々な加工方法が提案されている。
【0004】
そのような加工方法の中でも、感光性ペースト法(フォトリソグラフ法)は、パターン形成において高精細化を可能とし、さらに工程の簡易化を図ることもできる方法である。感光性ペースト法による場合は、次のようにして隔壁を形成することができる。まず、基板上に、焼成後に所望の隔壁の高さになるような厚みにガラス等の無機材料を含んだ感光性ペーストを塗布し、乾燥後に露光を行う。続いて、アルカリ溶液を用いた現像により未露光部を除去し、さらに高温で焼成することにより有機成分を除去して、無機材料のみからなる隔壁を得ることができる。
【0005】
PDPの高画質化、低消費電力化等を達成するために、隔壁の形成方法、感光性ペースト樹脂組成の改良にとどまらず、感光性ペーストに用いるガラス等の無機材料の改良が進められている。
【0006】
従来、隔壁形成用途としての感光性ペーストに用いられてきたガラスとしては、例えば特許文献1に記載のガラス粉末が知られている。一方、ガラス粉末を用いた隔壁においては、誘電体ガラス層を通過し、隔壁にまで拡散したバス電極の銀が反応して隔壁が黄色に着色(黄変)する現象が確認されている。黄変現象は、プラズマディスプレイパネルが駆動した時に全体白色映像の色温度を減少させて、画質を低下させる要因となっている。隔壁の白色化が可能になることにより高画質化、さらには輝度の向上により低消費電力化を図ることが可能になることから、黄変現象の問題の解決が強く望まれている。そして、黄変現象の問題に関しては、ガラス成分を調整する方法等が提案されている(特許文献2〜8)。
【0007】
しかしながら、従来技術におけるガラスは鉛又はビスマスを含むものである。また、鉛及びビスマスを含有しない組成系においても、リン又はフッ素のほか、Sn、Co等の重金属を含有する。近年においては、環境負荷又は人体への影響に対する意識の高まりから、これらの成分を含まない無鉛・無ビスマス系の低軟化点ガラスの開発が切望されている。
【0008】
このようなタイプのガラスとしては、酸化物換算の質量%で、SiOが5〜30%、Bが30〜60%、Alが1〜25%、LiO、NaO及びKOの何れか1種以上が合計5〜20%、MgO及びCaOの何れか1種以上が合計0.1〜15%、SrO及びBaOの何れか1種以上が合計0.1〜20%、しかも、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計が0.2〜25%で、ZnOが0〜15%となる組成である無鉛ガラス組成物が知られている(特許文献9)。
【0009】
この無鉛ガラス組成物は、銀電極との反応性を抑制することで黄変を抑制することによって高い透過率を有し、かつ600℃前後での焼成を可能であるため、前面誘電体用材料として好適である。ところが、この無鉛ガラス組成物は、黄変現象の抑制等の点においてはなお改良の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3696725号
【特許文献2】特開2005−336018
【特許文献3】特開2009−102199
【特許文献4】国際公開WO2006/068030
【特許文献5】特開2009−120407
【特許文献6】特開2009−120408
【特許文献7】特開2005−219942
【特許文献8】特開2009−048927
【特許文献9】特開2008−19145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の主な目的は、化学的耐久性に優れるがゆえに、黄変現象が効果的に抑制ないしは防止できる無鉛ガラス組成物を提供することにある。さらに、本発明は、感光性プロセスにおいて高精細なパターン形成を可能とする無鉛ガラス組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ガラス組成を特定の組成及び比率に規定することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の無鉛ガラス組成物に係る。
1. 酸化物のモル%表示で、
A)下記の組成;
(1)SiO:19〜26.5%
(2)Al:2〜15%
(3)B:33〜57%
(4)ZnO:2〜16%
(5)MgO及びCaOの少なくとも1種:0.1〜9%
(6)SrO及びBaOの少なくとも1種:0.1〜4%
(7)MgO、CaO、SrO及びBaOの合計:0.2〜13%
(8)LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:9〜17%
(9)ZrO、TiO及びLaの少なくとも1種:0〜3%
を有し、かつ、
B)下記の比率;
O/(LiO+NaO+KO):0.40〜0.80
を有することを特徴とする無鉛ガラス組成物
2.下記の比率;
(SiO+B)/(LiO+NaO+KO):4.0〜7.0
を有することを特徴とする、前記項1に記載の無鉛ガラス組成物。
3. 感光性プロセスによるパターン形成のために用いられる、前記項1に記載の無鉛ガラス組成物。
4. フラットパネルディスプレイの隔壁又は誘電体層の形成のために用いられる、前記項1又は3に記載の無鉛ガラス組成物。
5. 溶剤及びバインダーの少なくとも1種と前記項1に記載のガラス組成物の粉末とを含むペースト。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、化学的耐久性と軟化点を上昇させるSiOと、化学的耐久性と軟化点を低下させるBとアルカリ金属の関係に着目し、さらにAgの拡散を容易にさせると推定され、黄変の発生要因となるアルカリ金属の量に着目することで、これらの成分を制御することによって化学的耐久性を向上させて実工程上での黄変抑制を可能とし、かつ、600℃以下での焼成を可能とし、さらに高精細なパターン形成が可能となるものである。
【0015】
すなわち、本発明の無鉛ガラス組成物によれば、ガラス組成・比率が特定の範囲に制御されていることから、アルカリ溶液等に対して優れた化学的耐久性(耐食性)を発揮することができる結果、黄変現象も効果的に抑制ないしは防止することが可能となる。しかも、感光性プロセスにおいて、設計当初の線幅等が焼成後も維持することができることから、設計通りの精細なパターンを形成することが可能になる。
【0016】
このような特長を有する本発明ガラス組成物(又はこれを含むペースト)は、これまでの無鉛ガラス組成物の場合と同様の用途等に幅広く使用することができる。とりわけ、感光性プロセスに用いられるガラス材料として好適であり、例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶等の各種表示装置の製造、半導体素子、その他の電子回路の製造等における高精細なパターン形成のためのガラス組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の無鉛ガラス組成物(本発明ガラス組成物)は、酸化物のモル%表示で、
A)下記の組成;
(1)SiO:19〜26.5%
(2)Al:2〜15%
(3)B:33〜57%
(4)ZnO:2〜16%
(5)MgO及びCaOの少なくとも1種:0.1〜9%
(6)SrO及びBaOの少なくとも1種:0.1〜4%
(7)MgO、CaO、SrO及びBaOの合計:0.2〜13%
(8)LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:9〜17%
(9)ZrO、TiO及びLaの少なくとも1種:0〜3%
を有し、かつ、
B)下記の比率;
O/(LiO+NaO+KO): 0.40〜0.80
を有することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明ガラス組成物について各成分含有量の限定理由等について説明する。
【0019】
SiO
SiOは19〜26.5モル%とし、好ましくは20〜25モル%とする。SiOは、ガラスのネットワークフォーマーとして必須であるとともに、低屈折率化にも有効な成分である。SiO含有量が19モル%未満ではガラス転移点、屈伏点等が下がり過ぎる上、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、基材に焼き付けた時にクラックを生じるおそれがある。しかも、銀コロイドの発生に伴う黄変が顕著になる。さらに、ガラスの化学的耐久性も悪くなり、現像工程での腐食が顕著となる。他方、SiO含有量が26.5モル%を超える場合は、ガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎる。このため、例えばPDP製造の工程で採用されている600℃前後の温度ではガラス基板に焼き付けるのが困難になる。
【0020】
Al
Alは2〜15モル%とし、好ましくは3〜13モル%とする。Alは、ガラスの化学的耐久性を向上させ、さらにガラス化範囲を広げてガラスを安定化させる効果がある。Al含有量が2モル%未満では、ガラスの安定性が低下するとともに化学的耐久性が悪くなり、現像工程での腐食が顕著となる。さらにガラス転移点、屈伏点等が下がり過ぎる上、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、基材に焼き付けた時にクラックを生じるおそれがある。Al含有量が15モル%を超えると失透傾向が大きくなるとともにガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎる。このため、例えばPDP製造の工程で採用されている600℃前後の温度ではガラス基板に焼き付けるのが困難になる。
【0021】

は33〜57モル%とし、好ましくは35〜55モル%とする。Bは、鉛等の重金属を含有しないガラスにおいては、低融化のために必須の成分であるとともに低屈折率化にも非常に有効な成分である。B含有量が33モル%未満ではガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎ、600℃前後での温度では焼き付けが困難になる。逆に、B含有量が57モル%を超える場合はガラスの化学的耐久性が悪くなり、現像工程での腐食が顕著となる。さらにガラス転移点、屈伏点等が下がり過ぎるおそれがある。
【0022】
ZnO
ZnOは2〜16モル%とし、好ましくは4〜14モル%とする。ZnOは、ガラスの熱膨張係数を大きく変化させることなく、低融化させ、化学的耐久性を向上させる成分である。ZnO含有量が2モル%未満では熱膨張係数が大きくなりすぎるとともに化学的耐久性が低下する。ZnO含有量が16モル%を超えるとガラスの失透傾向が大きくなるとともに感光性樹脂との屈折率差が大きくなるおそれがある。
【0023】
MgO及びCaO
MgO及びCaOは、ガラスの失透を抑制し、ガラス化範囲を広げるために有効な成分であることから、本発明ガラス組成物ではMgO及びCaOの少なくとも1類を含有させることが必須である。MgOとCaOは合計で0.1〜9モル%とし、好ましくは1.5〜7モル%とする。MgOとCaOの合計量が0.1モル%未満ではガラスが不安定となり、失透するおそれがある。MgOとCaOの合計量が9モル%を超えるとガラスの化学的耐久性が低くなり、現像工程での腐食が顕著となるとともに600℃前後での温度では焼付けが困難になるおそれがある。
【0024】
SrO及びBaO
SrO及びBaOは、ガラス化範囲を広げる効果があるとともに、ガラスの低融化、熱膨張係数等の調整に有効な成分であることから、本発明ガラス組成物ではSrO及びBaO少なくとも1種を含有させることが必須である。SrO及びBaOは合計で0.1〜4モル%とし、好ましくは0.1〜2モル%とする。SrO及びBaOの合計量が0.1モル%未満では低融化効果が不十分になるとともに、失透傾向が大きくなるおそれがある。SrO及びBaOの合計量が4モル%を超える場合は熱膨張係数が大きくなり過ぎ、焼き付け時にクラックを生じるおそれがある。また、感光性樹脂との屈折率差も大きくなり、好ましくない。さらにガラスの化学的耐久性も低下し、現像工程での腐食が顕著となるおそれがある。
【0025】
また、本発明ガラス組成物においては、安定したガラス製造、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、屈折率、化学的耐久性等のバランスを考慮すると、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計量は0.2〜13モル%とし、好ましくは1.6〜9モル%とする。
【0026】
LiO、NaO及びK
LiO、NaO及びKOはガラスの低融化に有効な成分であることから、本発明ガラス組成物ではLiO、NaO及びKO少なくとも1種を含有させることが必須である。LiOとNaOとKOは合計で9〜17モル%とし、好ましくは10.5〜15モル%とする。LiO、NaO及びKOの合計量が9モル%未満では低融化の効果が不十分となるおそれがある。逆に、LiO、NaO及びKOの合計量が17モル%を超えるとガラスの化学的耐久性が低くなり、熱膨張係数が大きくなり過ぎるとともに、黄変が生じるおそれがある。
【0027】
また、本発明ガラス組成物においては、混合アルカリ効果によってガラス中の銀イオンの拡散を抑えて銀のコロイド化を抑制させつつ、低融化の効果を発揮させるため、KO/(LiO+NaO+KO)の比率は、モル表示で0.40〜0.80とし、好ましくは0.45〜0.79とし、さらに好ましくは0.50〜0.78とする。従って、例えば上記比率を0.40〜0.78の範囲内で設定することもできる。上記比率が0.40より小さい場合は、銀のコロイド化が抑制されずに黄変してしまう。また、上記比率が0.80より大きい場合は、混合アルカリ効果が発揮されず、化学的耐久性が低くなり現像工程での腐食が顕著となる上、低融化の効果が不十分となる可能性ある。さらに、上記混合アルカリ効果による化学的耐久性の向上と黄変の抑制を考慮すると、LiOは2.5〜8.0モル%、NaOは0〜4モル%、KOは5〜12モル%とし、より好ましくは、LiOは2.5〜5モル%、NaOは0〜3モル%、KOは6〜11モル%とする。
【0028】
本発明ガラス組成物では、ガラス中の非架橋酸素を低減させることにより、ガラスの化学的耐久性を高め、かつ、銀イオンの拡散を抑えることにより銀のコロイド化を抑制するため、SiO及びBの合計量とアルカリ種の合計量との比率はモル表示で(SiO+B)/RO=4.0〜7.0、好ましくは4.3〜6.8とし、さらに好ましくは4.6〜6.6とする。従って、例えば上記比率を4.5〜6.6の範囲内で設定することもできる。上記比率が4.0より小さいとガラスの非架橋酸素が少なくなりすぎることにより化学的耐久性が失われて黄変し、さらに熱膨張係数が大きくなりすぎる。また、上記比率が7.0より大きいと低融化効果が不十分となり600℃前後での焼成が困難になる可能性がある。
【0029】
ZrO、TiO及びLa
本発明ガラス組成物では、ZrO、TiO、Laは化学的耐久性の向上やガラスを安定化するのに効果があることから、ZrO、TiO及びLaの少なくとも1種を含有させることが可能である。この場合の含有量は、ZrO、TiO及びLaの合計量で0〜3モル%とし、好ましくは0.1〜2.9モル%とする。ZrO、TiO及びLaの合計量が3モル%を超えると失透傾向が大きくなるとともにガラス転移点、屈伏点が上がり過ぎるおそれがある。
【0030】
本発明のガラス組成物ではCo、Cu等の遷移金属酸化物は着色によりパターニング特性が損なわれる可能性があるため含まないほうが望ましい。また、環境負荷又は人体への影響からも鉛又はビスマス、錫、リン等の酸化物又はフッ素も含まないことが好ましい。
【0031】
ガラス転移点等
本発明ガラス組成物のガラス転移点は特に限定されないが、通常は500℃以下、特に450〜500℃の範囲内とすることが好ましい。また、軟化点は、600℃以下での焼成を可能にするという点で550〜600℃とすることが好ましい。さらに、熱膨張係数は、50〜400℃の範囲で70×10-7〜95×10-7/℃であることが好ましい。熱膨張係数を上記範囲内に設定すれば、ソーダ石灰基板あるいは高歪点ガラス基板とのマッチングに優れ、さらに屈折率が感光性樹脂と同等の1.5〜1.6程度を発揮することができる。
【0032】
本発明ガラス組成物の製造
本発明ガラス組成物の製造方法としては、特に限定されない。まず、原料としては、本発明ガラス組成物のガラス成分の供給源となる化合物を出発原料として使用すれば良い。例えば、BのためにHBO、B等を用いることができる。また例えば、AlのためにAl(OH)、Al等を用いることができる。他の成分についても、SiO、ZnO、Mg(OH)、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO、KCO、ZrO、TiO、LaCOを等のように、各種酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常に用いられる出発原料を採用することができる。そして、これらを所定の割合で含有する混合物を出発原料として用い、これらを溶融することにより本発明ガラス組成物を得ることができる。
【0033】
本発明ガラス組成物の製造方法としては、例えば1)原料化合物を混合することにより混合物を得る第1工程及び2)得られた混合物を溶融することにより溶融物を得る第2工程を含む製造方法によって、本発明の無鉛ガラス組成物を得ることができる。
【0034】
第1工程では、本発明ガラス組成物の組成・比率となるように前記の出発原料を秤量し、混合することにより混合物を調製する。この場合、各成分の原料の混合順序等は特に制限されず、同時に配合しても良いし、所定の化合物から順番に配合しても良い。また、原料は、通常は粉末の形態で供給される。このような原料粉末は、各成分を含む原料を公知の方法で粉砕、混合等を実施することにより得ることができる。
【0035】
第2工程では、混合物を溶融することにより溶融物を得る。溶融に際しては、原料組成等に応じてガラス溶融温度を設定すれば良いが、通常は1000〜1300℃程度で実施すれば良い。得られた溶融物は、必要に応じて、溶融物からそのまま粉末を製造する工程に供しても良い。例えば、溶融物を冷却ロールにて冷却しながらフレーク状粉末を得ることができる。また例えば、溶融物を冷却した後、必要に応じて粉砕、分級等の処理することにより粉末を得ることもできる。このように、本発明の無鉛ガラス組成物は、粉末状として好適に提供することができる。
【0036】
粉末状とする場合の平均粒径(D50)は限定的ではないが、通常は50μm以下の範囲内において使用形態、用途等に応じて適宜調節することができる。例えば、本発明ガラス組成物の粉末を用いてペーストを調製する場合は、後記に示す粒度に調整すれば良い。
【0037】
ペーストの調製
本発明ガラス組成物の粉末を用いてペーストを調製することもできる。すなわち、溶剤及びバインダーの少なくとも1種と本発明ガラス組成物の粉末とを含むペーストをつくることができる。例えば、本発明ガラス組成物の粉末を用いることにより、感光性ガラスペーストを好適に調製することができる。この場合、主としてバインダーポリマー、光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)、光重合開始剤、その他の添加物からなるビヒクル中に本発明ガラス組成物の粉末を均一分散させれば良い。
【0038】
本発明ガラス組成物の粉末の平均粒径(D50)は特に制限されないが、通常は1.5〜5μmとし、特に2〜3μmとすることが好ましい。平均粒径が1.5μm未満である場合には、ペーストを作製する際、樹脂分が多く必要となり、焼成前後での体積収縮が大きくなる結果、高精細、高アスペクト比等の加工が困難になるおそれがある。逆に、平均粒径が5μmを超える場合は、相対的に大粒子が多くなり、その結果としてタッピング嵩密度も小さくなって高精細な加工が困難になることがある。
【0039】
また、前記粉末の最大粒径も限定的ではないが、通常は50μm以下とし、特に30μm以下とすることが好ましい。最大粒径が50μmを超えると、微細な加工が困難になり、例えばPDPの場合のバリアリブの幅を30μm程度以下とすることが困難になるおそれがある。
【0040】
前記ガラス粉末においては、その粒度分布は、あまりシャープではなく、ある程度の分布を持った粒度分布とする方がタッピング嵩密度は大きくなり、よりガラスの詰まった緻密な構造となるため、露光時において下部まで光が到達しやすく、より確実に設計通りの加工ができる。例えば、D10=0.8〜1μm、D50=2〜3μm、D90=7〜10μm、最大粒径=20〜25μmの範囲とすることができる。より具体的には、例えばD10=0.9μm、D50=2.6μm、D90=7.6μm、最大粒径=22μmで良好な結果が得られている。
【0041】
前記ガラス粉末の比表面積は粒度と密接な関係にあるが、1.5〜3.0m/gとすることが好ましい。ガラス粉末の形状については、ガラスを粉砕したままの状態でも良いし、球状化処理したものでも良い。より高精細な加工をする場合は、バーナー処理等で粉末を球状にした方が好ましい。すなわち、球状化処理されたガラス粉末を用いることにより、光の散乱が少なくなり、露光時に下部まで光が届くのでより好ましい。
【0042】
前記ガラス粉末のペースト中での濃度は特に制限されないが、通常はペースト中60〜90重量%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0043】
前記バインダーポリマーとしては、主成分であるメチルメタクリラートと各種アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、スチレン、アクリロニトリル等とアクリル酸、メタクリル酸等との共重合体及びこれにさらに各種不飽和基を付加させたもの等が挙げられる。また、前記光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリラート、(ジ)ペンタエリスリトール(トリ〜ヘキサ)アクリラート等が挙げられる。これら光重合性多官能モノマー(又はオリゴマー)は、1種のみでは特性(感度、解像度、接着性、パターニング性、現像性等)のバランスがとり難い場合があるため、2種以上を混合して使用することが好ましい。
【0044】
光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン系、チオキサントン系、アンスラキノン系、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系等が挙げられる。
【0045】
その他、感光性ガラスペーストの調製においては、必要に応じて熱重合禁止剤、可塑剤、増粘剤、増感剤、分散剤、溶剤等を添加物として加えることができる。
【0046】
本発明では、特に、前記のように本発明ガラス組成物の粉末を分散させた感光性ガラスペーストを用いることにより、フォトリソグラフ法による高精細な加工を、鉛等を用いることなく良好に行うことができる。このため、例えばPDP、液晶等の各種表示装置における高精細な隔壁等の形成に良好に用いることができる。そして、焼成後の銀コロイドの発生によって生じる黄変も効果的に抑制ないしは防止されるため、ハイビジョン化に伴うPDPの高精細化、高発光効率化等を可能とする。また、その他の半導体素子あるいは各種電子部品の製造において、高精細のパターンを良好に形成するための感光性ガラスペーストとして用いることができる。これらは、特にエッチング液としてアルカリ溶液を用いた現像により未露光部を除去する工程を含む感光プロセスに用いるためのパターン形成用ペーストとして最適である。
【0047】
前記の感光性ガラスペースト用ガラス組成物においては、必要に応じて、熱膨張係数、電気特性等の微調整、焼成前後での体積収縮の抑制、着色等を目的として、セラミックス又はガラス質のフィラー、有機系又は無機系の各種顔料等の公知の添加材を適宜配合することも可能である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0049】
実施例1〜9及び比較例1〜25
<配合材料>
各実施例及び比較例の無鉛ガラス組成物を作製すべく用いた配合材料は、以下の通りである。すなわち、配合材料(出発原料)として、SiO、Al(OH)、HBO、ZnO、Mg(OH)、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO、KCO、ZrO、TiO、LaCOを用いた。
<無鉛ガラス組成物の調製>
表1〜表3に示す組成となるように上記配合材料を調合し、混合した後、白金ルツボを用いて約1000℃〜1300℃の温度で1〜2時間溶融した。溶融したガラスをステンレススチール製の冷却ロールにて急冷し、ガラスフレークを作製した。次いで、ガラスフレークを粉砕して気流分級により平均粒径1〜3μmに調整し、粉末ガラスを作製した。なお、粉末ガラスの粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定機を用いて測定し、気流分級条件を求めた。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
<各評価試料の作製>
上記粉末ガラスを示差熱分析(DTA)用試料とした。
溶融して得られた上記ガラスを直径約5mm×長さ15〜20mmのロッド状に加工し、熱膨張係数測定用試料とした。
溶融して得られた上記ガラスを15mm×15mm×10mmの直方体に加工し、屈折率測定用試料とした。
また、上記粉末ガラスとエチルセルロース、ターピネオールを主成分とするビヒクルとによりガラスペーストを作製した。得られたガラスペーストをガラス基板(旭硝子社(株)製、商品名「PD−200」)上に、焼結後に約30μmの厚さとなるようスクリーン印刷し、各実施例及び比較例のガラス組成物を15分間焼成して得られた膜付ガラス基板のヘーズを測定することで焼結性評価用試料とした。
さらに、焼結性確認試料の作製に用いたガラスペーストを電極との反応(黄変)の観察用試料とした。
また、溶融して得られた上記ガラスを15mm×10mm×4mmの直方体に加工し、耐アルカリ性試験用試料とした。
【0054】
また、上記ガラスを用いて感光性ガラスペーストを調製した。より具体的には、バインダーポリマーとしてのメチルメタクリラート、スチレン及びメタクリル酸の共重合体(重量比で40:30:30)に、光重合性多官能モノマーとしてのトリメチロールプロパントリアクリラート、ポリエチレングリコールジメタクリラートと光重合開始剤としてのベンゾフェノンと溶剤としてのγ−ブチロラクトンとを添加してなる感光性ビヒクル中に、3本ロールを用いて上記ガラスを均一分散させることにより感光性ガラスペーストを得た。その際、ガラス粉末のペースト中での濃度は70〜80%とした。この感光性ペーストを市販の高歪点ガラス(製品名「PD−200」、旭硝子(株)製)上にスクリーン印刷法にて印刷・乾燥を数回繰り返して行い、次いでフォトリソグラフ法にて高圧水銀灯を光源とする露光機で50〜500mJ/cmの露光量で露光し、エッチング液として0.1〜3重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いたアルカリ現像を行い、水洗、乾燥後、焼成することによりストライプ状に線幅約50μm、高さ約20μm、ピッチ約220μmのパターンを形成した。得られた基板を精細性(パターニング性)評価用試料とした。
【0055】
<物性の評価>
各実施例及び比較例で得られたサンプルを用いて下記に示す各物性をそれぞれ測定した。その結果を表1〜表3に示す。
【0056】
(1)ガラス転移点(Tg)、軟化点(Ts)
各実施例及び比較例の粉末ガラス試料の約30mgを白金セルに入れ、示差熱分析装置(型名「TG−8120」、(株)リガク製)を用いて、アルミナ粉末を標準試料として大気雰囲気下において室温から20K/minの昇温速度でDTA曲線を得、最初の吸熱ピークの開始点(外挿点)をガラス転移点とし、軟化時の吸熱ピークが終了した点(外挿点)を軟化点とした。
【0057】
(2)熱膨張係数(α)
各実施例及び比較例のロッド状試料と石英ガラスにより形成された標準試料とを熱機械測定装置(型名「TMA8310」、(株)リガク製)を用いて、室温から10℃/minで昇温して熱膨張曲線の測定を行い、50℃から400℃までに観測される熱膨張係数の値を平均して各実施例及び比較例の熱膨張係数とした。
【0058】
(3)比重
各実施例及び比較例のガラスを用いてアルキメデス法により、比重を測定した。
【0059】
(4)屈折率
各実施例及び比較例の直方体試料を、屈折率はヘリウムd線を光源とし、精密屈折計(型名「KPR200」、(株)島津デバイス製造製)を用いるVブロック法により測定した。
【0060】
(5)粒度(平均粒径(D50)、最大粒径(TOP))
各実施例及び比較例のガラス粉末50〜100mgを水中で均一に分散させた後、レーザー散乱式粒度分布測定機(型名「マイクロトラックMT−3000II」、日機装(株)製)を用いて測定した。
【0061】
(6)耐アルカリ性
各実施例及び比較例の直方体試料を75℃の5%水酸化ナトリウム水溶液40mlに1時間浸漬し、試料の浸漬前後における重量減少率を求めた。
【0062】
(7)焼結性
各実施例及び比較例の厚さ30μmのガラス膜を形成した試験片を焼成し、ヘーズ・透過率計(型名「HM−150」、(株)村上色彩技術研究所製)を用いて得られたヘーズ値が35以下となる温度を焼成温度とした。
【0063】
(8)黄変現象の観察
市販のガラス基板(商品名「PD−200」旭硝子(株)製)上に銀電極を形成し、このガラス基板上に、各実施例及び比較例のガラス粉末を用いて作製されたガラスペーストを印刷し、焼結性評価により得られた焼成温度で15分間焼成した後、銀電極部分における黄変の程度をカラーメータ(H―CT)(スガ試験機(株)製)で測定し、得られたb*値が16未満であれば「○」、16以上であれば「×」として判定した。
一方、アルカリ浸漬による場合は、前記のようにガラス基板上にガラスペーストを印刷し、120℃で乾燥したペースト膜付ガラス基板を作製し、これを25℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬した後に、ヘーズ測定により得られた焼成温度で15分間焼成し、前記と同様にして黄変を測定したものである。
【0064】
(9)精細性(パターニング性)
各実施例及び比較例の粉末ガラスを用いて得られた感光性ペーストを、市販の高歪点ガラス(製品名「PD−200」、旭硝子(株)製)上にスクリーン印刷法によって印刷・乾燥を行い、次いでフォトリソグラフ法によりパターンを形成し、焼結性評価により得られた焼成温度で15分間焼成して得た試料を用いて精細性の評価を行った。精細性はパターンの線幅、高さを光学顕微鏡による観察で評価し、線幅が45μm未満となったものを「×」、45μm以上50μm未満となったものを「○」、50μm以上となったものを「◎」と評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物のモル%表示で、
A)下記の組成;
(1)SiO:19〜26.5%
(2)Al:2〜15%
(3)B:33〜57%
(4)ZnO:2〜16%
(5)MgO及びCaOの少なくとも1種:0.1〜9%
(6)SrO及びBaOの少なくとも1種:0.1〜4%
(7)MgO、CaO、SrO及びBaOの合計:0.2〜13%
(8)LiO、NaO及びKOの少なくとも1種:9〜17%
(9)ZrO、TiO及びLaの少なくとも1種:0〜3%
を有し、かつ、
B)下記の比率;
O/(LiO+NaO+KO):0.40〜0.80
を有することを特徴とする、無鉛ガラス組成物。
【請求項2】
下記の比率
(SiO+B)/(LiO+NaO+KO):4.0〜7.0
を有することを特徴とする、請求項1に記載の無鉛ガラス組成物。
【請求項3】
感光性プロセスによるパターン形成のために用いられる、請求項1に記載の無鉛ガラス組成物。
【請求項4】
フラットパネルディスプレイの隔壁又は誘電体層の形成のために用いられる、請求項1又は2に記載の無鉛ガラス組成物。
【請求項5】
溶剤及びバインダーの少なくとも1種と請求項1に記載のガラス組成物の粉末とを含むペースト。

【公開番号】特開2011−93790(P2011−93790A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222077(P2010−222077)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】