説明

焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤および焼き菓子類製品の掛け油用組成物

【課題】焼き菓子類製品に対する掛け油の浸透速度を十分に且つ安定的に高めることが出来る焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤を提供する。
【解決手段】構成グリセリンの平均重合度が3〜15であり、HLBが4以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルから成る焼き菓子の掛け油用乳化剤。本発明の好ましい態様においては構成脂肪酸がオレイン酸またはエルカ酸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤および焼き菓子類製品の掛け油用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、米菓を初めとする焼き菓子類製品には、色調のテリや風味改良のため、各種のサラダ油などが掛け油として使用される。また、焼き菓子類製品には、各種の風味剤や調味料が付着させられることもある。これらは一般的に予め掛け油に含有されて使用される。
【0003】
ところで、焼き菓子類製品に対する掛け油の浸透速度が遅い場合は、菓子類製品の生地の内部にまで掛け油が浸透して乾燥するまでに長時間を要することになり生産効率が低下する。また、掛け油の浸透速度が変動するような場合は、表面の乾燥状態にバラつきが生じるという問題がある。
【0004】
焼き菓子類製品に対する掛け油の浸透速度を高めることを目的とし、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を0.1〜20重量部配合してなるコーティング用油脂組成物が提案されている(特許文献1)。この提案は、極度硬化油は通常の水素添加油(硬化油)とは異なり、融点が極端に高いため、10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂中において、乾燥促進作用を有し、その結果、米菓等の食品にコーティングされた液状油が迅速に乾燥されるという作用を利用したものである。そして、上記の提案においては、液状油の表面張力が低下し浸透性が増すとの作用を期待し、乳化剤の併用についても言及され、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられている。そして、レシチンを使用した具体例が示されている。また、掛け油の浸透速度の改善を目的としたものではないが、掛け油と共にジグリセリン脂肪酸エステルを使用する提案もなされている(特許文献2〜4)。
【0005】
従って、焼き菓子類製品に対する掛け油の浸透速度を高めるための乳化剤として、脂肪酸エステルの利用が考えられるが、ジグリセリン脂肪酸エステルのような脂肪酸エステルでは必ずしも満足し得る効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−047500号公報
【特許文献2】特開2005−328739号公報
【特許文献3】特開2006−166725号公報
【特許文献4】特開平9−271372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、焼き菓子類製品に対する掛け油の浸透速度を十分に且つ安定的に高めることが出来る焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記と同特性を有する焼き菓子類製品の掛け油用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルにより、また、特定の物性値で規定される掛け油用組成物により、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の要旨は、グリセリンの平均重合度が3〜15で且つHLBが4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルから成ることを特徴とする焼き菓子の掛け油用乳化剤に存する。
【0010】
そして、本発明の第2の要旨は、少なくとも掛け油と乳化剤を含有し、25℃における表面張力が32mN/m以下であることを特徴とする焼き菓子類製品の掛け油用組成物に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば前記の課題が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<焼き菓子類製品>
本発明において、焼き菓子類製品とは、粉末または粒状の穀類を主成分とし、加熱により水分を除去する工程を経て製造された固形食品を意味する。また、嗜好用に限らず食用であればよい。更に具体的に言えば、小麦粉、コーンフラワー、米粉等の澱粉性原料(これらの化工澱粉を含む)と油脂原料を主成分とした生地を成形し、焼成等の加熱したもの(ビスケット類・膨化食品(エクストルーダー加工品)等)をいう。本発明で言う加工・焼成とは、ビスケット類の生地を最終製品の形状に成型し、オーブン等で加熱すること、及び膨化食品の加圧加熱押出成型等のことを言う。エクストルーダーによる加熱・乾燥、加圧蒸煮・蒸錬機による加工ビスケット類としては、ビスケット(ビスコッティを含む)、クッキー、ワッフル、クラッカー(乾パン、プレッツェルを含む)、パイ、ラスク、ウエハース、スナック菓子、小麦せんべい、成形ポテットチップ等を例示することが出来る。米菓としては、煎餅、おかき、あられ等を例示することが出来る。本発明は、特に米菓に対して好適であり、米菓の中では、原料として一般的にうるち米が使用される煎餅に対して特に好適である。
【0014】
<掛け油用乳化剤>
本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤は、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルから成る。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン同士を脱水縮合したポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られるが、ポリグリセリンの種類(重合度)、脂肪酸の種類(炭素数、二重結合の数)、エステル組成などにより、多種類存在する。そして、その種類毎に著しく異なる性質を示す。
【0015】
本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が3〜15のものでなければならない。ポリグリセリンの平均重合度が3未満の場合、例えば、ジグリセリン脂肪酸エステルでは本発明の目的を達成することは出来ない。ポリグリセリンの平均重合度が15を超える場合はエステル化反応も困難となり実用的ではない。ポリグリセリンの平均重合度は、好ましくは3〜13、更に好ましくは6〜10である。
【0016】
本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが4以上のものでなければならない。HLBが4未満のポリグリセリン脂肪酸エステルでは本発明の目的を達成することは出来ない。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBの上限値は、通常13以下、好ましくは10以下である。HLB値が13を超える場合は、掛け油に溶解し難くなり、実用的ではない。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBはエステル組成によって異なる。
【0017】
また、本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるエステルの結合数、すなわち、以下の計算式で表される平均エステル化率は、通常10〜95%、好ましくは15〜90%、更に好ましくは20〜85%である。ただし、以下の計算式におけるケン化価、酸価、酸基価は、JIS K 0070(1992)に準拠して測定するものとする。
【0018】
[数1]
平均エステル化率(%)=[(ケン化価−酸価)/(水酸基価+ケン化価−酸価)]×100
【0019】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、通常、炭素数8〜24の飽和又は不飽和の脂肪酸が使用される。そして、脂肪酸は混合物であってもよい。上記の脂肪酸の具体例としては、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベンタデシル酸、パルミチン酸、パルモトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ベヘン酸などが挙げられる。本発明では、オレイン酸またはエルカ酸が好ましい。
【0020】
例えば、三菱化学フーズ(株)製の「リョートーポリグリエステルO−50D」は、デカグリセリンペンタオレイン酸エステルを主成分とし且つHLBが7でエステル化率が39%であり、また、三菱化学フーズ(株)製の「リョートーポリグリエステルER−60D」は、デカグリセリンヘキサエルカ酸エステルを主成分とし、HLBが5でエステル化率が46%であり、何れも、本発明において好適に使用し得るポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0021】
本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤は、後述する掛け油に添加して使用されるが、添加量は、掛け油100重量部に対し、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部である。乳化剤の添加量が0.01重量部未満の場合は、掛け油の浸透速度を十分に且つ安定的に高めることが出来ず、10重量部を超える場合は、掛け油による色調のテリや風味改良の効果が損なわれる恐れがある。
【0022】
<掛け油用組成物>
本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用組成物は、少なくとも掛け油と乳化剤を含有する。
【0023】
本発明において、掛け油としては、精製油の基準に加えて更にロウ分の除去など精製度を高くした植物油として知られるサラダ油が好適に使用される。植物油としては、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、ごま油などが挙げられる。しかしながら、掛け油は、サラダ油に限定されず、常温で液状のサラダ油以外の食用油であってもよい。
【0024】
なお、本発明の掛け油用組成物においては、各種の風味剤や調味料、例えば、醤油、砂糖、食塩、食塩以外の調味塩、アミノ酸類、みりん等を使用することが出来る。これらは必要に応じて2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の掛け油用組成物において、乳化剤としては、例えば前述の本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用乳化剤が好適に使用される。
【0026】
本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用組成物は25℃における表面張力が32mN/m以下でなければならない。25℃における表面張力は、好ましくは31mN/m以下、更に好ましくは30mN/m以下である。各種の風味剤や調味料を添加する場合は、その条件下において上記の表面張力を満足する必要がある。表面張力が上記の値を超える場合は、掛け油用組成物の浸透速度を十分に且つ安定的に高めることが出来ない。上記の表面張力は、(株)アールデック製の自動表面張力計(KRUSSK100)を使用し、プレート法にて測定した値を意味する。
【0027】
上記の表面張力は、掛け油および乳化剤の種類や両者の使用割合を選択することによって達成することが出来る。風味剤や調味料の添加量によっても調節することが出来る。乳化剤の添加量は、前記と同趣旨により、掛け油100重量部に対し、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部である。
【0028】
本発明に係る焼き菓子類製品の掛け油用組成物は、常法に従い、スプレー法や浸漬法やドラ掛け法などにより生地に塗布して使用される。この際、塗布量は、生地に対する油分量として通常1〜35%の範囲である。塗布後、乾燥装置に入れ、温度(室温または加温)や風量を適宜設定することにより乾燥させる。例えば、約50〜80℃の温度風で水分含量として0.5〜5%に乾燥させて製品とする。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
以下の諸例では、焼き菓子原料として、直径約90mm、重量約13gの素焼き煎餅(うるち米)を使用し、掛け油として日清サラダ油(日清オイリオグループ(株)製)を使用した。そして、乳化剤として次の表1に示す乳化剤を使用した。
【0031】
【表1】

【0032】
<表面張力の測定>
サラダ油に表1に示す各乳化剤を0.5重量%添加して掛け油用組成物を調製した。そして、25℃における表面張力(mN/m)を測定し、乳化剤無添加のサラダ油の表面張力と比較した。表面張力の測定は、明細書の本文に記載した方法に従って行い、表面張力の変化を30秒毎に測定し、連続する5点の移動平均を取り、移動平均を取るデータ内の偏差が0.01(mN/m)に達した点を測定終点とした。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
<掛け油用組成物の浸透試験>
乳化剤として「O−50D」と「DO−100V」を使用した。サラダ油に各乳化剤を0.5重量%添加して掛け油用組成物を調製した。そして、前述の素焼き煎餅(うるち米)の重量(WA)を正確に測定した後に片面に刷毛で0.5g塗布した。その後、掛け油用組成物を塗布した素焼き煎餅をアルミ皿に載せ、真空乾燥器中、50℃で3分間放置し、掛け油用組成物を素焼き煎餅に浸透させた。その後、真空乾燥器から焼き煎餅を取り出し、浸透せずに表面に残った掛け油用組成物をキムワイプ(日本製紙クレシア(株)製)で拭き取った後に素焼き煎餅の重量(WB)を測定した。そして、以下の式により、掛け油用組成物の浸透率(%)を測定し、結果を表3に示した。なお、上記の浸透試験は乳化剤無添加のサラダ油についても行った。
【0035】
[数2]
[{重量(WB)−重量(WA)}/掛け油用組成物の塗布量(0.5g)]×100
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示す結果から明らかな様に、「O−50D」を使用した場合は、浸透率が最も高く76%であり且つ安定したバラツキの無い結果が得られている。これに対し、乳化剤無添加の場合は、浸透率が63〜73%の範囲でバラついており、「DO−100V」を使用した場合も68〜75%の範囲でバラついている。
【0038】
ところで、真空乾燥器での処理の際、「O−50D」を使用した場合は煎餅の表面にかなりの量の気泡が生じた。このような気泡は、乳化剤無添加の場合は殆ど生じず、「DO−100V」を使用した場合は僅かであった。上記の浸透率の測定結果と併せて考慮すると、煎餅の表面の気泡は、煎餅の内部に浸透した油に置換されて空気が追い出されて生じたものと判断される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成グリセリンの平均重合度が3〜15であり、HLBが4以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルから成ることを特徴とする焼き菓子の掛け油用乳化剤。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸がオレイン酸またはエルカ酸である請求項1に記載の掛け油用乳化剤。
【請求項3】
少なくとも掛け油と乳化剤を含有し、25℃における表面張力が32mN/m以下であることを特徴とする焼き菓子類製品の掛け油用組成物。

【公開番号】特開2010−239920(P2010−239920A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94231(P2009−94231)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】