焼入れ品質検査装置および焼入れ品質検査方法
【課題】 非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる焼入れ品質検査装置および焼入れ品質検査方法を提供する。
【解決手段】 検査対象物1の表面に接触させる通電用電極2,2と、通電用電極2,2を介して検査対象物1に交流電流を印加する電源4と、検査対象物1を流れる電流がつくる磁界を測定する磁界センサ5と、磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する品質測定手段18とを備える。
【解決手段】 検査対象物1の表面に接触させる通電用電極2,2と、通電用電極2,2を介して検査対象物1に交流電流を印加する電源4と、検査対象物1を流れる電流がつくる磁界を測定する磁界センサ5と、磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する品質測定手段18とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼材製品における焼入れ硬度分布、焼入れ深さ等の焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置および焼入れ品質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受等の転動製品には焼入れ処理や焼戻し処理が施される。これらの処理の中でも、高周波焼入れ処理や、浸炭処理、浸炭窒化処理等の表面硬化処理では、品質保証のために表面硬化層の検査が行われる。この検査では、実際の製品を切断して、その切断面上で、製品表面から深さ方向に硬度を測定して硬化層の深さを測定している。製品を切断できないものでは、テストピースに製品と同じ炉で熱処理を施し、そのテストピースを切断して前記と同様に硬化層深さを測定して、製品の硬化層深さの保証を行っている。
【0003】
このように、熱処理した転動製品の焼入れ硬化層深さの検査では、製品を切断する破壊検査が行われているが、この場合には製品が破壊されるため、マテリアルコストが大きくなる問題がある。また、製品の切断、および硬度計による深さ方向の硬度測定に時間がかかり、工数が大きくなる問題点もある。
製品を切断できない場合には、上記したようなテストピースにより保証が行われているが、実際の製品の検査ではないため、保証精度が悪い等の問題点がある。
【0004】
そこで、破壊検査での上記した課題を解決するために、焼入れ硬化層を非破壊で検査する方法が提案されている。その非破壊検査の提案例の一つは、焼入れによる導電率の変化を利用して検査する電位差法である。この方法は、検査対象物に接触させたプローブで、検査対象物に直流電流を通電し、この検査対象物におけるプローブの接触位置とは異なる位置で接触させた2つの探針間の電位差を測定して焼入れ深さを求めるものである(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−309355号公報
【特許文献2】特開2007−064817号公報
【特許文献3】特願2009−088813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した非破壊検査方法では、検査対象物に直流電流を通電していることから、焼入れ深さの測定には有効であるものの、硬度の深さ方向の分布を測定できない。焼入れの品質保証精度を向上させるためには、焼入れ深さだけでなく、焼入れ硬度の深さ方向の分布検出が必要である。
【0007】
上記問題を解決するため、本件出願人は、検査対象物に交流電流を通電してプローブとは異なる位置で接触する2つの探針間の電位差を測定して焼入れ深さを求める方法を提案した(特許文献3)。この方法では、電流の周波数を変化させることで電流が流れる深さを制御できるため、深さ方向の硬度分布を検出できる。しかし抵抗を測定する方法では、探針と検査対象物の接触抵抗の影響を受ける場合がある。この場合、探針と検査対象物の接触状態によって抵抗値が変化して検出精度が悪くなる問題点がある。
【0008】
この発明の目的は、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる焼入れ品質検査装置、および焼入れ品質検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物1中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、検査対象物1の表面に接触させる通電用電極2,2と、前記通電用電極2,2を介して前記検査対象物1に電流を印加する電源4と、この電源4により検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサ5と、前記磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する品質測定手段18とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によると、検査対象物1の表面に一対の通電用電極2,2を接触させ、電源4からこれら通電用電極2,2を通して電流を通電する。この状態において、検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を、磁界センサ5で測定する。品質測定手段18は、磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する。例えば、磁界の磁路断面積の変化が磁気抵抗の変化として現れ、この磁気抵抗の変化に基づいて検査対象物1の焼入れ硬度、焼入れ深さ等の焼入れ品質を求める。
焼入れにより鋼材の透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の磁路断面積の変化を磁界センサで測定することにより、電流の変化を検出する。
【0011】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる浸入深さは周波数により変化する。このため、周波数を変化させることで、電流が流れる深さを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の浸入深さは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数を高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0012】
前記電源4は周波数可変の発振回路19を有するものであっても良い。この発振回路19により周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定し得る。前記「周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した」とは、周波数を変化させる過程と、その変化させた周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向、つまり磁界の磁路断面積の変化を測定する過程とを含む。
前記磁界センサ5を、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2間に配置した場合、電流が生成する磁界を安定してより正確に測定することができる。また、装置のコンパクト化を図ることも可能となる。
前記品質測定手段18は、交流電源の出力する周波数を種々変化させる周波数変更指令部20bを有し、かつこの周波数変更指令部20bで変化させた各周波数における磁界を測定し、焼入れ品質を測定する機能を有するものとしても良い。前記周波数の種々の変化は、漸時行うようにしても良く、また周波数の増減を繰り返すように行っても良い。例えば、周波数変更指令部20bが周波数を高周波側から低周波側または低周波側から高周波側に段階的に変化させ、この変化させた各周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。また、周波数変更指令部20bが周波数を高周波側、低周波側にわたって連続的に変化させ、この変化させた周波数のうちいくつか選択した各周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。品質測定手段18が周波数変更指令部20bを有する場合、検査目的となる焼入れ品質を求めるのに適した周波数の変更が行い易い。
【0013】
前記品質測定手段18は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定するものとしても良い。
【0014】
前記品質測定手段18の測定した焼入れ品質を表示する表示装置10を有するものとしても良い。この表示装置10に表示される焼入れ品質を目視確認でき、検査効率を高めることができる。
前記品質測定手段18は、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るときに品質異常と判定する判定部20aを有するものとしても良い。設定品質値は、任意に設定した値とされる。このように判定部20aを設けることで、品質異常の判定が容易に行える。
【0015】
前記磁界センサ5は、センサ基板11に実装され、且つ、非磁性体からなるセンサハウジング13に前記一対の通電用電極2,2と一体に固定されるものであっても良い。この場合、磁界センサ5と一対の通電用電極2,2とが一体化されたものを、検査対象物1に対向させて用いることができる。磁界センサ5と通電用電極2との相対的な距離が固定されるため、検査対象物1が変わる毎に通電用電極2に対する磁界センサ5の位置を調整する必要がなく、よって焼入れ品質の検査を容易化できるうえ焼入れ品質の検査をより正確に行える。
【0016】
焼入れ品質検査装置は、転動装置または転動装置部品の焼入れ品質の検査に用いられるものであっても良い。転動装置は、ボールやころ等の転動体を有する装置であり、転がり軸受やボールねじ、ボールジョイント等が該当する。転動装置部品は、上記転動装置を構成する部品であり、軸受の軌道輪やボールねじのねじ軸、ナット等、ボールジョイントの転動体が転がり接触する面を有する継手部品等である。これら転動装置や転動装置部品は、焼入れ品質が性能の重要な要素となるため、この発明の非破壊で焼入れ品質が測定できる効果が、効果的に発揮される。
【0017】
前記検査対象物1を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段26をさらに備え、前記磁界センサ5は、各変化させた電流の向き毎に生成される磁界を測定し、前記品質測定手段18は、前記磁界センサ5で電流の向き毎に複数測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものであっても良い。この場合、電流の向き毎に複数測定した磁界の大きさの例えば平均値を計算することで、電流の向きにより磁界の大きさが変化して測定精度が悪くなる問題を解決し得る。
【0018】
前記品質測定手段18は、複数測定した磁界の測定値を平均する機能を有するものであっても良い。この場合、検査対象物1を流れる電流の向きに拘わらず、焼入れの硬度分布をより精度良く推定することができる。
【0019】
前記電流向き変化手段26は、磁界センサ5と通電用電極2とを一体で回転自在としたものであり、一体の磁界センサ5および通電用電極2を、検査対象物1に対し角変位可能に構成したものであっても良い。この場合、少なくとも一対の通電用電極2があれば足り、部品点数の低減を図れる。また、磁界センサ5と通電用電極2とを一体で回転させるため、これら磁界センサ5、通電用電極2の取り扱いが容易となり、作業性を高めることができる。
【0020】
複数の通電用電極2を固定する固定部材27、27Aを設け、前記電流向き変化手段26は、複数の通電用電極のうち所定の通電用電極2,2間に別々に順次電流を供給するものであっても良い。
【0021】
前記磁界センサ5は、固定部材27Aに対し角変位可能とし、別々に順次供給された通電用電極2,2間の電流により生成される磁界をそれぞれ測定可能としても良い。この場合、例えば、電流の向きに対して直交する磁界の検出方向に、磁界センサ5を正確に角変位させることができる。ところで、電流による発生磁界が磁界センサ5の検出方向と一致していない場合、検出値を補正する必要がある。前記のように磁界センサ5を角変位させた場合、検出値の補正を不要または必要最小限の検出値の補正とすることができ、これにより測定精度を高めることができる。
【0022】
一対または複数対の通電用電極2,2を固定する固定部材27Aを設け、この固定部材27Aを、磁界センサ5に対し角変位可能としても良い。この場合にも、検出値の補正を不要または必要最小限の検出値の補正とすることができる。
【0023】
この発明における第1の焼入れ品質検査方法は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物1に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。
この構成によると、前述のように、検査対象物1を電流が流れる浸入深さは周波数により変化する。このため、交流電流の周波数を変化させることで、検査対象物1を電流が流れる浸入深さを変化させながら磁界を測定をし得る。それ故、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定できる。
【0024】
この発明における第2の焼入れ品質検査方法は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物1に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。
この構成によると、異なる電流値毎の磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定することで、検査対象物1の焼入れ品質を測定し得る。
前記焼入れ品質として、前記検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを検査しても良い。
【発明の効果】
【0025】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、前記通電用電極を介して前記検査対象物に電流を印加する電源と、この電源により検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサと、前記磁界センサで測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段とを備えるため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0026】
この発明における第1の焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定するため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0027】
この発明における第2の焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定するため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る焼入れ品質検査方法の説明図である。
【図2】同焼入れ品質検査方法に用いられる焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図5】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図9】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図11】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図12】(A)はこの発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図、(B)は同焼入れ品質検査装置における磁界センサと通電用電極との関係を表す一構成例を示す図である。
【図13】同焼入れ品質検査装置の一使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態に係る焼入れ品質検査装置の基本構造について説明する。以下の説明は、焼入れ品質検査方法についての説明をも含む。この焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する。検査対象物は、焼入れ処理が施された例えば軸受や軸受部品等の鋼材製品である。ただし、これらの鋼材製品に限定されるものではない。
【0030】
この例では、通電電流として交流電流が使用される。図1に示すように、交流電流は、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2を介して交流電源である電源4から供給、すなわち印加する。検査対象物1に交流電流を印加して、検査対象物1上に設けた磁界センサ5で、検査対象物1を流れる電流3が生成する磁界6を測定する。磁界センサ5は、磁界の強さまたは大きさおよび方向を検出するセンサであり、例えば電圧値で出力する。この明細書で言う「磁界センサ」は、磁気センサを含む。
ところで焼入れにより鋼材の透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物1に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の強さまたは大きさを磁界センサ5で測定することにより、電流の変化を検出する。
【0031】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる浸入深さδは周波数fにより変化する。このため、周波数fを変化させることで、電流が流れる深さδを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の浸入深さδは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数fを高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0032】
図2は、図1に示した焼入れ品質検査方法に用いられる焼入れ品質検査装置の概念構成を示す。この焼入れ品質検査装置は、検出ヘッドとなるプローブ8と、測定装置9と、表示装置10とを有する。プローブ8は、検査対象物1の表面1aに接触させる一対の通電用電極2,2と、電源4により検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサ5とを一体にしたものである。すなわち磁界センサ5は、センサ基板11に実装されてモールド剤12等でセンサハウジング13に固定されている。センサハウジング13は樹脂等の非磁性体であることが望ましい。
【0033】
センサハウジング13には、センサ基板11への配線である電極14,15および前記一対の通電用電極2,2が固定される。各通電用電極2は棒状に形成されこの通電用電極2の少なくとも一端部が、センサハウジング13の端面から突出する。また一対の通電用電極2,2を所定距離離隔して平行に配置し、且つ、これら通電用電極2,2間に磁界センサ5を配置している。各通電用電極2の他端部が、測定装置9における後述の増幅回路16に電気的に接続され、センサ基板11に固着される電極14,15が測定装置9における後述のセンサ信号処理回路17に電気的に接続されている。
【0034】
前記測定装置9は、電源4と、品質測定手段18とを有する。
電源4は、周波数可変の発振回路19と、この発振回路19から出力された交流信号を増幅して検査対象物1に通電する電流を供給つまり印加する増幅回路16とを含む。発振回路19は、信号処理部20に電気的に接続され、この信号処理部20からの指示により周波数および振幅を変化させる。
品質測定手段18は、発振回路19により交流電流の周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。この品質測定手段18は、磁界センサ5の信号を処理するセンサ信号処理回路17と、測定した磁界センサ信号から焼入れ深さや硬度分布を推定する信号処理部20とを有する。
【0035】
この信号処理部20は、焼入れ品質として、検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さ(焼入れ硬度等と称す)を、各品質項目毎に磁気抵抗の変化量に見合う電圧値と、各品質項目毎の設定品質値との関係に照らして後述のように推定する。ただし、これら検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さのうちの少なくともいずれか1つを測定するものとしても良い。信号処理部20は、判定部20aと、周波数変更指令部20bとを有する。
【0036】
判定部20aは、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るとき、品質異常つまり焼入れ異常と判定する。すなわち、判定部20aは、センサ信号処理回路17で処理された信号に比例する深さ方向の焼入れ硬度等を算出する電子回路等からなる。この判定部20aは、前記信号と、深さ方向の焼入れ硬度等との関係を演算式またはテーブル等で設定した図示外の関係設定手段を有し、測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を、前記関係設定手段に照らし深さ方向の焼入れ硬度を算出する。
前記設定品質値は、種々の試験等に求めて適宜設定される閾値であり、例えば書換え可能な図示外の記憶媒体等に記憶される。判定部20aは、前記関係設定手段に照らして算出した任意の深さの焼入れ硬度が、同深さにおける設定品質値を下回るか否かを判定する。前記算出した焼入れ硬度が設定品質値を下回るとき、品質異常と判定される。
【0037】
周波数変更指令部20bは、交流電源4の発振回路19に交流信号の周波数および振幅を可変設定する指令を与える。この周波数変更指令部20bの指令を受け、発振回路19の出力する交流信号の周波数および振幅が可変設定される。周波数変更指令部20bは、例えば、周波数を変える変更幅、頻度、変更の繰り返し周期等の規則等が、目的とする焼入れ品質の種類や、検査対象物1の種類等に応じて複数種類設定されていて、適宜の入力により任意の規則が選択可能なものとしても良い。
【0038】
前記のように判定部20aが任意の深さの焼入れ硬度を算出した後、検査対象物1の同一箇所において周波数変更指令部20bが発振回路19に周波数を変更する指令を与える。これにより、検査対象物1を電流が流れる浸入深さが変化する。この場合に測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を、前記関係設定手段に照らし前記任意の深さとは異なる深さの焼入れ硬度を算出する。このような周波数変更を繰り返すことで、判定部20aは焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定し得る。なお、複数の周波数における、磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を一旦記憶しておき、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定するようにしても良い。
【0039】
測定装置9には、図示外の駆動回路を介して表示装置10が接続される。この表示装置10は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ、プリンタ等によって実現される。この表示装置10は、品質測定手段の測定した焼入れ品質を表示する。具体的には、信号処理部20で推定された焼入れ硬度分布の計算結果、焼入れ深さ計算結果、焼入れ異常の有無等が表示される。
以上説明した焼入れ品質検査装置を上記した焼入れ品質検査方法に用いることにより、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0040】
磁界センサ5を、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2間に配置した場合、電流が生成する磁界を安定してより正確に測定することができる。また、プローブ8のコンパクト化、小型化を図ることも可能となる。それ故、このプローブ8により種々な形状の検査対象物を測定可能となる。よって、焼入れ品質検査装置の汎用性を高めることができる。
品質測定手段18が周波数変更指令部20bを有する場合、検査目的となる焼入れ品質を求めるのに適した周波数の変更が行い易い。焼入れ品質検査装置が、品質測定手段18の測定した焼入れ品質を表示する表示装置10を有する場合、この表示装置10に表示される焼入れ品質を目視確認でき、検査効率を高めることができる。
【0041】
磁界センサ5は、センサハウジング13に一対の通電用電極2,2と一体に固定されるため、この一体化されたものつまりプローブ8を、検査対象物1に対向させて用いることができる。磁界センサ5と通電用電極2,2との相対的な距離が固定されるため、検査対象物が変わる毎に通電用電極2,2に対する磁界センサ5の位置を調整する必要がなく、よって焼入れ品質の検査を容易化できるうえ焼入れ品質の検査をより正確に行える。
【0042】
図3は、この発明の他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。以下の各実施形態の説明において、前述の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。図3の例では、測定装置9Aは、直流電源4Aを備えている。また信号処理部20Aは、判定部20aと電源制御部20cとを備えている。すなわち、電源制御部20cは、通電用電極2,2間に印加する電流の少なくとも方向、大きさを切換える。所定時間毎に電流の方向、大きさを切換えてもよい。品質測定手段18は、この電流切換え毎に磁界センサ5の信号を処理してもよい。この構成においては検査対象物の焼入れ深さを測定し得る。
なお、交流電源を用いて、一対の通電用電極を介して検査対象物に周波数fを変化させない単一周波数の電流を通電することも可能である。
交流電源を用いて検査対象物に直流電流を通電する場合において、検査対象物に、方向、大きさが種々異なる電流を印加して、方向、大きさが異なる電流毎の磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。この場合にも、前記実施形態のものと同様に検査対象物の焼入れ深さを測定し得る。
【0043】
図4〜図5の例は、検査対象物1を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段26をさらに備えたものである。図1と共に説明する。この例の磁界センサ5として、図4矢符Xにて表記する一方向の磁界6を検出できるものを用いる。図4に示すように、この磁界センサ5の中心に、後述の各通電用電極間の中心が一致するように配置される。通電用電極2,2を複数対(この例では三対)設け、電流向き変化手段26は、対角となる電極2,2間に別々に電流を流すようになっている。具体的には、電流向き変化手段26は、図4の通電用電極2a1 ,2d1間、通電用電極2b1 ,2e1間、通電用電極2c1 ,2f1間に順次切換えて別々に電流を流す。これら複数対の通電用電極2a1 ,2d1、2b1 ,2e1、2c1 ,2f1と、磁界センサ5とは、例えば、センサハウジング等の固定部材27に一体に固定される。電流向き変化手段26は、図5に示すように、測定装置9に設けられ、且つ、電源4の増幅回路16等に電気的に接続される。この電流向き変化手段26は例えばスイッチング回路からなる。信号処理部20は、前述の判定部20aと、周波数変更指令部20bと、電流向き変化指令部20dとを有する。この電流向き変化指令部20dは、通電用電極2a1 ,2d1間、通電用電極2b1 ,2e1間、通電用電極2c1 ,2f1間に別々に電流を流すように前記スイッチング回路に切替指令を与える。
【0044】
通電用電極2a1 ,2d1は、図4に示すように、前記磁界センサ5による磁界の検出方向に直交する方向に離隔して配置される。検査対象物1(図1)の表面にこれら電極2a1 ,2d1を接触させた状態で、同電極2a1 ,2d1に電流を供給することで、検査対象物1には矢符L2方向に電流が流れる。通電用電極2b1 ,2e1は、前記磁界センサ5による磁界の検出方向に対し、傾斜角度α1(α1は例えば45度)を持つ方向に離隔して配置される。通電用電極2c1 ,2f1は、磁界の検出方向に対し、傾斜角度α2(α2は例えば45度)を持つ方向に離隔して配置される。これら通電用電極2a1 ,2d1、2b1 ,2e1、2c1 ,2f1は、固定部材27における同一円上に配置される。
【0045】
通電用電極2a1 ,2d1は、磁界の検出方向に直交する方向に離隔して配置されるため、磁界センサ5の検出方向と一致する。このため、磁界センサ5の検出値は補正されることなく、センサ信号処理回路17で処理される。
通電用電極2b1 ,2e1は、磁界の検出方向に対し傾斜角度α1を持つ方向に離隔して配置され、通電用電極2c1 ,2f1は、磁界の検出方向に対し傾斜角度α2を持つ方向に離隔して配置される。これらの場合、磁界センサ5の検出方向と一致していないため、磁界センサ5の検出値を補正する必要がある。
【0046】
例えば、通電用電極2b1 ,2e1間に電流を流す指令が与えられたとき、磁界センサ5の検出値は正味の検出値にcosα2を乗じた値が出力される。よって、図5に示すセンサ信号処理回路17のうち検出値補正部17aは、三角関数を用いて、出力された検出値をcosα2で除す補正を施す。
通電用電極2c1 ,2f1間に電流を流す指令が与えられたとき、磁界センサ5の検出値は正味の検出値にcosα1を乗じた値が出力される。この場合、検出値補正部17aは三角関数を用いて、出力された検出値をcosα1で除す補正を施す。
【0047】
したがって、図4および図5に示すように。判定部20aのうち平均値演算部20aaは、通電用電極2a1 ,2d1間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b1 ,2e1間に流れる電流による発生磁界の補正値と、通電用電極2c1 ,2f1間に流れる電流による発生磁界の補正値との平均値を演算する。判定部20aはこの演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。このように平均値を演算することで、電流の向きにより磁界の大きさが変化して測定精度が悪くなる問題を解決し得る。
【0048】
図6の例は、磁界センサ5として、図6矢符X,Yにて表記する直角二方向の磁界を検出できるものを用いる。図1および図5と共に説明する。また、通電用電極2,2を複数対(この例では二対)設け、各対の通電用電極2,2が直交する磁界検出方向と一致するように配置している。電流向き変化手段26は、対角となる通電用電極2a2 ,2c2間、通電用電極2b2 ,2d2間に別々に電流を流す。平均値演算部20aaは、通電用電極2a2 ,2c2間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b2 ,2d2間に流れる電流による発生磁界の検出値との平均値を演算する。判定部20aは、この演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。
【0049】
図7の例は、磁界センサ5として、直角二方向の磁界を検出できるものを用いる。また、通電用電極2,2を複数対(この例では四対)設け、図5の電流向き変化手段26は、対角となる通電用電極2a3 ,2e3間、通電用電極2b3 ,2f3間、通電用電極2c3 ,2g3間、通電用電極2d3 ,2h3間に別々に電流を流す。通電用電極2a3 ,2e3間、通電用電極2c3 ,2g3間に流れる電流による発生磁界は、前記磁界センサ5の磁界検出方向と一致しているため前述の補正は必要ない。通電用電極2b3 ,2f3間、通電用電極2d3 ,2h3間に流れる電流による発生磁界は、磁界センサ5の磁界検出方向と一致していないため、磁界センサ5の検出値を補正する必要がある。
【0050】
例えば、通電用電極2b3 ,2f3間に電流を流す指令が与えられたとき、検出値補正部17aは、出力された検出値をcosα2で除す補正を施す。通電用電極2d3 ,2h3間に電流を流す指令が与えられたとき、検出値補正部17aは、出力された検出値をcosα1で除す補正を施す。したがって、判定部20aのうち平均値演算部20aaは、通電用電極2a3 ,2e3間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2c3 ,2g3間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b3 ,2f3間に流れる電流による発生磁界の補正値と、通電用電極2d3 ,2h3間に流れる電流による発生磁界の補正値との平均値を演算する。判定部20aはこの演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。
【0051】
図8、図9の例では、電流向き変化手段26は、回転駆動源26aと、ケーシング26bと、軸受26cとを有し、回転駆動源26aによりケーシング26bに対し磁界センサ5と通電用電極2,2とを一体で回転自在としたものである。図1と共に説明する。これら磁界センサ5と通電用電極2,2とを一体化したユニット28を、軸受26cにより検査対象物1に対し角変位可能に構成している。ユニット28を例えばモータ等の前記回転駆動源26aにより所定角度回転させる。信号処理部20は、判定部20aと、周波数変更指令部20bと、回転指令部20eとを有する。この回転指令部20eは、ユニット28を回転駆動させる回転指令を与える。この例の磁界センサ5として、一方向の磁界6を検出できるものを用いる。通電用電極2,2を、磁界センサ5を隔てて一対のみ対角に設けている。したがって、判定部20aのうち平均値演算部20aaは、各回転角度毎に通電用電極2,2に流れる電流による発生磁界の検出値を検出し、これらの平均値を演算する。この例によると、ユニット28を回転させるため、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
【0052】
図10および図11の例では、複数対の通電用電極2,2を固定する固定部材27Aを設け、この固定部材27Aに対し、磁界センサ5を角変位可能に構成したものである。図1と共に説明する。この例では、電流向き変化手段26は、回転駆動源26aと、固定部材27Aと、軸受26cとを有する。磁界センサ5として一方向の磁界6を検出できるものを用いる。また、通電用電極2,2を複数対(この例では四対)設け、各対毎に別々に電流を流す。回転指令部20eは、発生した磁界方向と、磁界センサ5の磁界検出方向とが一致するように、磁界センサ5の回転駆動源26aへ回転指令を与える。よって、平均値演算部20aaは、回転毎に対応する通電用電極2,2に流れる電流による発生磁界の検出値を検出し、これらの平均値を演算する。この例によると、磁界センサ5を回転させるため、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
【0053】
図12の例では、磁界センサ5をセンサハウジング13等に固定し、この固定した磁界センサ5に対し、通電用電極2,2を角変位可能にしたものである。図1、図9と共に説明する。一対の通電用電極2,2を固定部材27Aに固定し、この固定部材27Aを回転駆動源26aにより回転させ得る。図12(B)に示すように、例えば、固定部材27Aの外周面にギヤ27Aaが設けられ、このギヤ27Aaに、回転駆動源26aのモータ軸に付設されたピニオンギヤが噛合する。固定部材27Aの内周面に、軸受26c,26cを介してセンサハウジング13が設けられる。磁界センサ5として、複数方向(この例では直角二方向)の磁界を検出できるものを用いる。回転指令部20eは、通電用電極2,2間に通電したとき発生磁界の方向が、磁界センサ5の磁界検出方向と一致するように、固定部材27Aの回転駆動源へ回転指令を与える。よって、回転移動前の通電用電極2,2(図12実線にて表記)から流れる電流がつくる磁界を磁界検出X方向で検出し、回転移動後の通電用電極2,2(図12点線にて表記)から流れる電流がつくる磁界を磁界検出Y方向で検出する。平均値演算部20aaは、これらの平均値を演算する。この例の場合にも、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
図4〜図12の例では、交流電源を用いているが、交流電源と共に、または交流電源に代えて直流電源を用いて、通電用電極を介して検査対象物に直流電流、または単一周波数の電流を通電することも可能である。
【0054】
図13は、前記焼入れ品質検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の内輪21の転走面21aの焼入れ品質を検査する。回転軸22の小径部に内輪21が嵌合され、この回転軸22は図示外の駆動源により軸線L1回りに回転可能に構成されている。プローブ進退駆動源23の先端部に、検出ヘッドであるプローブ8を固定する固定部材24が設けられ、固定部材24に固定されたプローブ8がプローブ進退駆動源23の駆動により軸線L1方向に平行に移動可能に構成される。プローブ進退駆動源23として、流体圧シリンダや、モータとボールねじ機構から成るもの等を適用し得る。
【0055】
固定部材24がプローブ8を適当な押し付け力で転走面21aに押し付ける。回転軸L1を回転させプローブ8を移動させることで、内輪21の転走面21aの全周面にプローブ8を摺動させて周上全ての箇所または数箇所の焼入れ硬度分布を検出し得る。この場合、オンライン上で焼入れ硬度分布を全数検査できるので、品質保証能力を高めることができる。なお、プローブ進退駆動源23、固定部材24等を設けることなくプローブ8を例えば手動により移動させて、転走面21a等の焼入れ品質を検査しても良い。
【0056】
磁界センサ5には、磁気インピーダンス素子(MIセンサ、MI:Magneto-Impedance element)、磁気抵抗素子(MRセンサ、MR:Magneto Resistance Effect)、巨大磁気抵抗素子(GMRセンサ、GMR:Giant Magneto Resistive)、ホールセンサ、フラックスゲートセンサ等を使用することができる。交流磁界のみを測定する場合、巻き線型の磁界センサを使用しても良い。
【0057】
一対の通電用電極2,2と、磁界センサ5とを別体に設けることも可能である。軸受のうち外輪軌道面、外輪外径面、外輪端面、外輪内径面の焼入れ品質を検査しても良い。内輪内径面、内輪端面、内輪外径面、その他転動体の転走面や端面等の焼入れ品質を検査しても良い。勿論、軸受以外の転動装置およびその転動装置部品を測定対象としても良い。
【符号の説明】
【0058】
1…検査対象物
2…通電用電極
4…電源
5…磁界センサ
10…表示装置
18…品質測定手段
19…発振回路
20…信号処理部
20a…判定部
20b…周波数変更指令部
26…電流向き変化手段
27,27A…固定部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼材製品における焼入れ硬度分布、焼入れ深さ等の焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置および焼入れ品質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受等の転動製品には焼入れ処理や焼戻し処理が施される。これらの処理の中でも、高周波焼入れ処理や、浸炭処理、浸炭窒化処理等の表面硬化処理では、品質保証のために表面硬化層の検査が行われる。この検査では、実際の製品を切断して、その切断面上で、製品表面から深さ方向に硬度を測定して硬化層の深さを測定している。製品を切断できないものでは、テストピースに製品と同じ炉で熱処理を施し、そのテストピースを切断して前記と同様に硬化層深さを測定して、製品の硬化層深さの保証を行っている。
【0003】
このように、熱処理した転動製品の焼入れ硬化層深さの検査では、製品を切断する破壊検査が行われているが、この場合には製品が破壊されるため、マテリアルコストが大きくなる問題がある。また、製品の切断、および硬度計による深さ方向の硬度測定に時間がかかり、工数が大きくなる問題点もある。
製品を切断できない場合には、上記したようなテストピースにより保証が行われているが、実際の製品の検査ではないため、保証精度が悪い等の問題点がある。
【0004】
そこで、破壊検査での上記した課題を解決するために、焼入れ硬化層を非破壊で検査する方法が提案されている。その非破壊検査の提案例の一つは、焼入れによる導電率の変化を利用して検査する電位差法である。この方法は、検査対象物に接触させたプローブで、検査対象物に直流電流を通電し、この検査対象物におけるプローブの接触位置とは異なる位置で接触させた2つの探針間の電位差を測定して焼入れ深さを求めるものである(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−309355号公報
【特許文献2】特開2007−064817号公報
【特許文献3】特願2009−088813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した非破壊検査方法では、検査対象物に直流電流を通電していることから、焼入れ深さの測定には有効であるものの、硬度の深さ方向の分布を測定できない。焼入れの品質保証精度を向上させるためには、焼入れ深さだけでなく、焼入れ硬度の深さ方向の分布検出が必要である。
【0007】
上記問題を解決するため、本件出願人は、検査対象物に交流電流を通電してプローブとは異なる位置で接触する2つの探針間の電位差を測定して焼入れ深さを求める方法を提案した(特許文献3)。この方法では、電流の周波数を変化させることで電流が流れる深さを制御できるため、深さ方向の硬度分布を検出できる。しかし抵抗を測定する方法では、探針と検査対象物の接触抵抗の影響を受ける場合がある。この場合、探針と検査対象物の接触状態によって抵抗値が変化して検出精度が悪くなる問題点がある。
【0008】
この発明の目的は、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる焼入れ品質検査装置、および焼入れ品質検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物1中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、検査対象物1の表面に接触させる通電用電極2,2と、前記通電用電極2,2を介して前記検査対象物1に電流を印加する電源4と、この電源4により検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサ5と、前記磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する品質測定手段18とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によると、検査対象物1の表面に一対の通電用電極2,2を接触させ、電源4からこれら通電用電極2,2を通して電流を通電する。この状態において、検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を、磁界センサ5で測定する。品質測定手段18は、磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する。例えば、磁界の磁路断面積の変化が磁気抵抗の変化として現れ、この磁気抵抗の変化に基づいて検査対象物1の焼入れ硬度、焼入れ深さ等の焼入れ品質を求める。
焼入れにより鋼材の透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の磁路断面積の変化を磁界センサで測定することにより、電流の変化を検出する。
【0011】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる浸入深さは周波数により変化する。このため、周波数を変化させることで、電流が流れる深さを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の浸入深さは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数を高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0012】
前記電源4は周波数可変の発振回路19を有するものであっても良い。この発振回路19により周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定し得る。前記「周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した」とは、周波数を変化させる過程と、その変化させた周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向、つまり磁界の磁路断面積の変化を測定する過程とを含む。
前記磁界センサ5を、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2間に配置した場合、電流が生成する磁界を安定してより正確に測定することができる。また、装置のコンパクト化を図ることも可能となる。
前記品質測定手段18は、交流電源の出力する周波数を種々変化させる周波数変更指令部20bを有し、かつこの周波数変更指令部20bで変化させた各周波数における磁界を測定し、焼入れ品質を測定する機能を有するものとしても良い。前記周波数の種々の変化は、漸時行うようにしても良く、また周波数の増減を繰り返すように行っても良い。例えば、周波数変更指令部20bが周波数を高周波側から低周波側または低周波側から高周波側に段階的に変化させ、この変化させた各周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。また、周波数変更指令部20bが周波数を高周波側、低周波側にわたって連続的に変化させ、この変化させた周波数のうちいくつか選択した各周波数における磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。品質測定手段18が周波数変更指令部20bを有する場合、検査目的となる焼入れ品質を求めるのに適した周波数の変更が行い易い。
【0013】
前記品質測定手段18は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定するものとしても良い。
【0014】
前記品質測定手段18の測定した焼入れ品質を表示する表示装置10を有するものとしても良い。この表示装置10に表示される焼入れ品質を目視確認でき、検査効率を高めることができる。
前記品質測定手段18は、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るときに品質異常と判定する判定部20aを有するものとしても良い。設定品質値は、任意に設定した値とされる。このように判定部20aを設けることで、品質異常の判定が容易に行える。
【0015】
前記磁界センサ5は、センサ基板11に実装され、且つ、非磁性体からなるセンサハウジング13に前記一対の通電用電極2,2と一体に固定されるものであっても良い。この場合、磁界センサ5と一対の通電用電極2,2とが一体化されたものを、検査対象物1に対向させて用いることができる。磁界センサ5と通電用電極2との相対的な距離が固定されるため、検査対象物1が変わる毎に通電用電極2に対する磁界センサ5の位置を調整する必要がなく、よって焼入れ品質の検査を容易化できるうえ焼入れ品質の検査をより正確に行える。
【0016】
焼入れ品質検査装置は、転動装置または転動装置部品の焼入れ品質の検査に用いられるものであっても良い。転動装置は、ボールやころ等の転動体を有する装置であり、転がり軸受やボールねじ、ボールジョイント等が該当する。転動装置部品は、上記転動装置を構成する部品であり、軸受の軌道輪やボールねじのねじ軸、ナット等、ボールジョイントの転動体が転がり接触する面を有する継手部品等である。これら転動装置や転動装置部品は、焼入れ品質が性能の重要な要素となるため、この発明の非破壊で焼入れ品質が測定できる効果が、効果的に発揮される。
【0017】
前記検査対象物1を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段26をさらに備え、前記磁界センサ5は、各変化させた電流の向き毎に生成される磁界を測定し、前記品質測定手段18は、前記磁界センサ5で電流の向き毎に複数測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものであっても良い。この場合、電流の向き毎に複数測定した磁界の大きさの例えば平均値を計算することで、電流の向きにより磁界の大きさが変化して測定精度が悪くなる問題を解決し得る。
【0018】
前記品質測定手段18は、複数測定した磁界の測定値を平均する機能を有するものであっても良い。この場合、検査対象物1を流れる電流の向きに拘わらず、焼入れの硬度分布をより精度良く推定することができる。
【0019】
前記電流向き変化手段26は、磁界センサ5と通電用電極2とを一体で回転自在としたものであり、一体の磁界センサ5および通電用電極2を、検査対象物1に対し角変位可能に構成したものであっても良い。この場合、少なくとも一対の通電用電極2があれば足り、部品点数の低減を図れる。また、磁界センサ5と通電用電極2とを一体で回転させるため、これら磁界センサ5、通電用電極2の取り扱いが容易となり、作業性を高めることができる。
【0020】
複数の通電用電極2を固定する固定部材27、27Aを設け、前記電流向き変化手段26は、複数の通電用電極のうち所定の通電用電極2,2間に別々に順次電流を供給するものであっても良い。
【0021】
前記磁界センサ5は、固定部材27Aに対し角変位可能とし、別々に順次供給された通電用電極2,2間の電流により生成される磁界をそれぞれ測定可能としても良い。この場合、例えば、電流の向きに対して直交する磁界の検出方向に、磁界センサ5を正確に角変位させることができる。ところで、電流による発生磁界が磁界センサ5の検出方向と一致していない場合、検出値を補正する必要がある。前記のように磁界センサ5を角変位させた場合、検出値の補正を不要または必要最小限の検出値の補正とすることができ、これにより測定精度を高めることができる。
【0022】
一対または複数対の通電用電極2,2を固定する固定部材27Aを設け、この固定部材27Aを、磁界センサ5に対し角変位可能としても良い。この場合にも、検出値の補正を不要または必要最小限の検出値の補正とすることができる。
【0023】
この発明における第1の焼入れ品質検査方法は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物1に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。
この構成によると、前述のように、検査対象物1を電流が流れる浸入深さは周波数により変化する。このため、交流電流の周波数を変化させることで、検査対象物1を電流が流れる浸入深さを変化させながら磁界を測定をし得る。それ故、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定できる。
【0024】
この発明における第2の焼入れ品質検査方法は、検査対象物1に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物1に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。
この構成によると、異なる電流値毎の磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定することで、検査対象物1の焼入れ品質を測定し得る。
前記焼入れ品質として、前記検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを検査しても良い。
【発明の効果】
【0025】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、前記通電用電極を介して前記検査対象物に電流を印加する電源と、この電源により検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサと、前記磁界センサで測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段とを備えるため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0026】
この発明における第1の焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定するため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0027】
この発明における第2の焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、前記検査対象物に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定するため、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る焼入れ品質検査方法の説明図である。
【図2】同焼入れ品質検査方法に用いられる焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図5】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図9】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図である。
【図11】同焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。
【図12】(A)はこの発明のさらに他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の要部の概略平面図、(B)は同焼入れ品質検査装置における磁界センサと通電用電極との関係を表す一構成例を示す図である。
【図13】同焼入れ品質検査装置の一使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態に係る焼入れ品質検査装置の基本構造について説明する。以下の説明は、焼入れ品質検査方法についての説明をも含む。この焼入れ品質検査方法は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する。検査対象物は、焼入れ処理が施された例えば軸受や軸受部品等の鋼材製品である。ただし、これらの鋼材製品に限定されるものではない。
【0030】
この例では、通電電流として交流電流が使用される。図1に示すように、交流電流は、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2を介して交流電源である電源4から供給、すなわち印加する。検査対象物1に交流電流を印加して、検査対象物1上に設けた磁界センサ5で、検査対象物1を流れる電流3が生成する磁界6を測定する。磁界センサ5は、磁界の強さまたは大きさおよび方向を検出するセンサであり、例えば電圧値で出力する。この明細書で言う「磁界センサ」は、磁気センサを含む。
ところで焼入れにより鋼材の透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物1に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の強さまたは大きさを磁界センサ5で測定することにより、電流の変化を検出する。
【0031】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる浸入深さδは周波数fにより変化する。このため、周波数fを変化させることで、電流が流れる深さδを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の浸入深さδは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数fを高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0032】
図2は、図1に示した焼入れ品質検査方法に用いられる焼入れ品質検査装置の概念構成を示す。この焼入れ品質検査装置は、検出ヘッドとなるプローブ8と、測定装置9と、表示装置10とを有する。プローブ8は、検査対象物1の表面1aに接触させる一対の通電用電極2,2と、電源4により検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサ5とを一体にしたものである。すなわち磁界センサ5は、センサ基板11に実装されてモールド剤12等でセンサハウジング13に固定されている。センサハウジング13は樹脂等の非磁性体であることが望ましい。
【0033】
センサハウジング13には、センサ基板11への配線である電極14,15および前記一対の通電用電極2,2が固定される。各通電用電極2は棒状に形成されこの通電用電極2の少なくとも一端部が、センサハウジング13の端面から突出する。また一対の通電用電極2,2を所定距離離隔して平行に配置し、且つ、これら通電用電極2,2間に磁界センサ5を配置している。各通電用電極2の他端部が、測定装置9における後述の増幅回路16に電気的に接続され、センサ基板11に固着される電極14,15が測定装置9における後述のセンサ信号処理回路17に電気的に接続されている。
【0034】
前記測定装置9は、電源4と、品質測定手段18とを有する。
電源4は、周波数可変の発振回路19と、この発振回路19から出力された交流信号を増幅して検査対象物1に通電する電流を供給つまり印加する増幅回路16とを含む。発振回路19は、信号処理部20に電気的に接続され、この信号処理部20からの指示により周波数および振幅を変化させる。
品質測定手段18は、発振回路19により交流電流の周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。この品質測定手段18は、磁界センサ5の信号を処理するセンサ信号処理回路17と、測定した磁界センサ信号から焼入れ深さや硬度分布を推定する信号処理部20とを有する。
【0035】
この信号処理部20は、焼入れ品質として、検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さ(焼入れ硬度等と称す)を、各品質項目毎に磁気抵抗の変化量に見合う電圧値と、各品質項目毎の設定品質値との関係に照らして後述のように推定する。ただし、これら検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さのうちの少なくともいずれか1つを測定するものとしても良い。信号処理部20は、判定部20aと、周波数変更指令部20bとを有する。
【0036】
判定部20aは、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るとき、品質異常つまり焼入れ異常と判定する。すなわち、判定部20aは、センサ信号処理回路17で処理された信号に比例する深さ方向の焼入れ硬度等を算出する電子回路等からなる。この判定部20aは、前記信号と、深さ方向の焼入れ硬度等との関係を演算式またはテーブル等で設定した図示外の関係設定手段を有し、測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を、前記関係設定手段に照らし深さ方向の焼入れ硬度を算出する。
前記設定品質値は、種々の試験等に求めて適宜設定される閾値であり、例えば書換え可能な図示外の記憶媒体等に記憶される。判定部20aは、前記関係設定手段に照らして算出した任意の深さの焼入れ硬度が、同深さにおける設定品質値を下回るか否かを判定する。前記算出した焼入れ硬度が設定品質値を下回るとき、品質異常と判定される。
【0037】
周波数変更指令部20bは、交流電源4の発振回路19に交流信号の周波数および振幅を可変設定する指令を与える。この周波数変更指令部20bの指令を受け、発振回路19の出力する交流信号の周波数および振幅が可変設定される。周波数変更指令部20bは、例えば、周波数を変える変更幅、頻度、変更の繰り返し周期等の規則等が、目的とする焼入れ品質の種類や、検査対象物1の種類等に応じて複数種類設定されていて、適宜の入力により任意の規則が選択可能なものとしても良い。
【0038】
前記のように判定部20aが任意の深さの焼入れ硬度を算出した後、検査対象物1の同一箇所において周波数変更指令部20bが発振回路19に周波数を変更する指令を与える。これにより、検査対象物1を電流が流れる浸入深さが変化する。この場合に測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を、前記関係設定手段に照らし前記任意の深さとは異なる深さの焼入れ硬度を算出する。このような周波数変更を繰り返すことで、判定部20aは焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定し得る。なお、複数の周波数における、磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を一旦記憶しておき、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定するようにしても良い。
【0039】
測定装置9には、図示外の駆動回路を介して表示装置10が接続される。この表示装置10は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ、プリンタ等によって実現される。この表示装置10は、品質測定手段の測定した焼入れ品質を表示する。具体的には、信号処理部20で推定された焼入れ硬度分布の計算結果、焼入れ深さ計算結果、焼入れ異常の有無等が表示される。
以上説明した焼入れ品質検査装置を上記した焼入れ品質検査方法に用いることにより、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0040】
磁界センサ5を、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2間に配置した場合、電流が生成する磁界を安定してより正確に測定することができる。また、プローブ8のコンパクト化、小型化を図ることも可能となる。それ故、このプローブ8により種々な形状の検査対象物を測定可能となる。よって、焼入れ品質検査装置の汎用性を高めることができる。
品質測定手段18が周波数変更指令部20bを有する場合、検査目的となる焼入れ品質を求めるのに適した周波数の変更が行い易い。焼入れ品質検査装置が、品質測定手段18の測定した焼入れ品質を表示する表示装置10を有する場合、この表示装置10に表示される焼入れ品質を目視確認でき、検査効率を高めることができる。
【0041】
磁界センサ5は、センサハウジング13に一対の通電用電極2,2と一体に固定されるため、この一体化されたものつまりプローブ8を、検査対象物1に対向させて用いることができる。磁界センサ5と通電用電極2,2との相対的な距離が固定されるため、検査対象物が変わる毎に通電用電極2,2に対する磁界センサ5の位置を調整する必要がなく、よって焼入れ品質の検査を容易化できるうえ焼入れ品質の検査をより正確に行える。
【0042】
図3は、この発明の他の実施形態に係る焼入れ品質検査装置の概念構成を示すブロック図である。以下の各実施形態の説明において、前述の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。図3の例では、測定装置9Aは、直流電源4Aを備えている。また信号処理部20Aは、判定部20aと電源制御部20cとを備えている。すなわち、電源制御部20cは、通電用電極2,2間に印加する電流の少なくとも方向、大きさを切換える。所定時間毎に電流の方向、大きさを切換えてもよい。品質測定手段18は、この電流切換え毎に磁界センサ5の信号を処理してもよい。この構成においては検査対象物の焼入れ深さを測定し得る。
なお、交流電源を用いて、一対の通電用電極を介して検査対象物に周波数fを変化させない単一周波数の電流を通電することも可能である。
交流電源を用いて検査対象物に直流電流を通電する場合において、検査対象物に、方向、大きさが種々異なる電流を印加して、方向、大きさが異なる電流毎の磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。この場合にも、前記実施形態のものと同様に検査対象物の焼入れ深さを測定し得る。
【0043】
図4〜図5の例は、検査対象物1を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段26をさらに備えたものである。図1と共に説明する。この例の磁界センサ5として、図4矢符Xにて表記する一方向の磁界6を検出できるものを用いる。図4に示すように、この磁界センサ5の中心に、後述の各通電用電極間の中心が一致するように配置される。通電用電極2,2を複数対(この例では三対)設け、電流向き変化手段26は、対角となる電極2,2間に別々に電流を流すようになっている。具体的には、電流向き変化手段26は、図4の通電用電極2a1 ,2d1間、通電用電極2b1 ,2e1間、通電用電極2c1 ,2f1間に順次切換えて別々に電流を流す。これら複数対の通電用電極2a1 ,2d1、2b1 ,2e1、2c1 ,2f1と、磁界センサ5とは、例えば、センサハウジング等の固定部材27に一体に固定される。電流向き変化手段26は、図5に示すように、測定装置9に設けられ、且つ、電源4の増幅回路16等に電気的に接続される。この電流向き変化手段26は例えばスイッチング回路からなる。信号処理部20は、前述の判定部20aと、周波数変更指令部20bと、電流向き変化指令部20dとを有する。この電流向き変化指令部20dは、通電用電極2a1 ,2d1間、通電用電極2b1 ,2e1間、通電用電極2c1 ,2f1間に別々に電流を流すように前記スイッチング回路に切替指令を与える。
【0044】
通電用電極2a1 ,2d1は、図4に示すように、前記磁界センサ5による磁界の検出方向に直交する方向に離隔して配置される。検査対象物1(図1)の表面にこれら電極2a1 ,2d1を接触させた状態で、同電極2a1 ,2d1に電流を供給することで、検査対象物1には矢符L2方向に電流が流れる。通電用電極2b1 ,2e1は、前記磁界センサ5による磁界の検出方向に対し、傾斜角度α1(α1は例えば45度)を持つ方向に離隔して配置される。通電用電極2c1 ,2f1は、磁界の検出方向に対し、傾斜角度α2(α2は例えば45度)を持つ方向に離隔して配置される。これら通電用電極2a1 ,2d1、2b1 ,2e1、2c1 ,2f1は、固定部材27における同一円上に配置される。
【0045】
通電用電極2a1 ,2d1は、磁界の検出方向に直交する方向に離隔して配置されるため、磁界センサ5の検出方向と一致する。このため、磁界センサ5の検出値は補正されることなく、センサ信号処理回路17で処理される。
通電用電極2b1 ,2e1は、磁界の検出方向に対し傾斜角度α1を持つ方向に離隔して配置され、通電用電極2c1 ,2f1は、磁界の検出方向に対し傾斜角度α2を持つ方向に離隔して配置される。これらの場合、磁界センサ5の検出方向と一致していないため、磁界センサ5の検出値を補正する必要がある。
【0046】
例えば、通電用電極2b1 ,2e1間に電流を流す指令が与えられたとき、磁界センサ5の検出値は正味の検出値にcosα2を乗じた値が出力される。よって、図5に示すセンサ信号処理回路17のうち検出値補正部17aは、三角関数を用いて、出力された検出値をcosα2で除す補正を施す。
通電用電極2c1 ,2f1間に電流を流す指令が与えられたとき、磁界センサ5の検出値は正味の検出値にcosα1を乗じた値が出力される。この場合、検出値補正部17aは三角関数を用いて、出力された検出値をcosα1で除す補正を施す。
【0047】
したがって、図4および図5に示すように。判定部20aのうち平均値演算部20aaは、通電用電極2a1 ,2d1間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b1 ,2e1間に流れる電流による発生磁界の補正値と、通電用電極2c1 ,2f1間に流れる電流による発生磁界の補正値との平均値を演算する。判定部20aはこの演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。このように平均値を演算することで、電流の向きにより磁界の大きさが変化して測定精度が悪くなる問題を解決し得る。
【0048】
図6の例は、磁界センサ5として、図6矢符X,Yにて表記する直角二方向の磁界を検出できるものを用いる。図1および図5と共に説明する。また、通電用電極2,2を複数対(この例では二対)設け、各対の通電用電極2,2が直交する磁界検出方向と一致するように配置している。電流向き変化手段26は、対角となる通電用電極2a2 ,2c2間、通電用電極2b2 ,2d2間に別々に電流を流す。平均値演算部20aaは、通電用電極2a2 ,2c2間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b2 ,2d2間に流れる電流による発生磁界の検出値との平均値を演算する。判定部20aは、この演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。
【0049】
図7の例は、磁界センサ5として、直角二方向の磁界を検出できるものを用いる。また、通電用電極2,2を複数対(この例では四対)設け、図5の電流向き変化手段26は、対角となる通電用電極2a3 ,2e3間、通電用電極2b3 ,2f3間、通電用電極2c3 ,2g3間、通電用電極2d3 ,2h3間に別々に電流を流す。通電用電極2a3 ,2e3間、通電用電極2c3 ,2g3間に流れる電流による発生磁界は、前記磁界センサ5の磁界検出方向と一致しているため前述の補正は必要ない。通電用電極2b3 ,2f3間、通電用電極2d3 ,2h3間に流れる電流による発生磁界は、磁界センサ5の磁界検出方向と一致していないため、磁界センサ5の検出値を補正する必要がある。
【0050】
例えば、通電用電極2b3 ,2f3間に電流を流す指令が与えられたとき、検出値補正部17aは、出力された検出値をcosα2で除す補正を施す。通電用電極2d3 ,2h3間に電流を流す指令が与えられたとき、検出値補正部17aは、出力された検出値をcosα1で除す補正を施す。したがって、判定部20aのうち平均値演算部20aaは、通電用電極2a3 ,2e3間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2c3 ,2g3間に流れる電流による発生磁界の検出値と、通電用電極2b3 ,2f3間に流れる電流による発生磁界の補正値と、通電用電極2d3 ,2h3間に流れる電流による発生磁界の補正値との平均値を演算する。判定部20aはこの演算した平均値により検査対象物1の深さ方向の焼入れ硬度を算出し得る。
【0051】
図8、図9の例では、電流向き変化手段26は、回転駆動源26aと、ケーシング26bと、軸受26cとを有し、回転駆動源26aによりケーシング26bに対し磁界センサ5と通電用電極2,2とを一体で回転自在としたものである。図1と共に説明する。これら磁界センサ5と通電用電極2,2とを一体化したユニット28を、軸受26cにより検査対象物1に対し角変位可能に構成している。ユニット28を例えばモータ等の前記回転駆動源26aにより所定角度回転させる。信号処理部20は、判定部20aと、周波数変更指令部20bと、回転指令部20eとを有する。この回転指令部20eは、ユニット28を回転駆動させる回転指令を与える。この例の磁界センサ5として、一方向の磁界6を検出できるものを用いる。通電用電極2,2を、磁界センサ5を隔てて一対のみ対角に設けている。したがって、判定部20aのうち平均値演算部20aaは、各回転角度毎に通電用電極2,2に流れる電流による発生磁界の検出値を検出し、これらの平均値を演算する。この例によると、ユニット28を回転させるため、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
【0052】
図10および図11の例では、複数対の通電用電極2,2を固定する固定部材27Aを設け、この固定部材27Aに対し、磁界センサ5を角変位可能に構成したものである。図1と共に説明する。この例では、電流向き変化手段26は、回転駆動源26aと、固定部材27Aと、軸受26cとを有する。磁界センサ5として一方向の磁界6を検出できるものを用いる。また、通電用電極2,2を複数対(この例では四対)設け、各対毎に別々に電流を流す。回転指令部20eは、発生した磁界方向と、磁界センサ5の磁界検出方向とが一致するように、磁界センサ5の回転駆動源26aへ回転指令を与える。よって、平均値演算部20aaは、回転毎に対応する通電用電極2,2に流れる電流による発生磁界の検出値を検出し、これらの平均値を演算する。この例によると、磁界センサ5を回転させるため、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
【0053】
図12の例では、磁界センサ5をセンサハウジング13等に固定し、この固定した磁界センサ5に対し、通電用電極2,2を角変位可能にしたものである。図1、図9と共に説明する。一対の通電用電極2,2を固定部材27Aに固定し、この固定部材27Aを回転駆動源26aにより回転させ得る。図12(B)に示すように、例えば、固定部材27Aの外周面にギヤ27Aaが設けられ、このギヤ27Aaに、回転駆動源26aのモータ軸に付設されたピニオンギヤが噛合する。固定部材27Aの内周面に、軸受26c,26cを介してセンサハウジング13が設けられる。磁界センサ5として、複数方向(この例では直角二方向)の磁界を検出できるものを用いる。回転指令部20eは、通電用電極2,2間に通電したとき発生磁界の方向が、磁界センサ5の磁界検出方向と一致するように、固定部材27Aの回転駆動源へ回転指令を与える。よって、回転移動前の通電用電極2,2(図12実線にて表記)から流れる電流がつくる磁界を磁界検出X方向で検出し、回転移動後の通電用電極2,2(図12点線にて表記)から流れる電流がつくる磁界を磁界検出Y方向で検出する。平均値演算部20aaは、これらの平均値を演算する。この例の場合にも、発生磁界の検出値の補正を不要にでき、且つ、測定精度を高めることが可能となる。
図4〜図12の例では、交流電源を用いているが、交流電源と共に、または交流電源に代えて直流電源を用いて、通電用電極を介して検査対象物に直流電流、または単一周波数の電流を通電することも可能である。
【0054】
図13は、前記焼入れ品質検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の内輪21の転走面21aの焼入れ品質を検査する。回転軸22の小径部に内輪21が嵌合され、この回転軸22は図示外の駆動源により軸線L1回りに回転可能に構成されている。プローブ進退駆動源23の先端部に、検出ヘッドであるプローブ8を固定する固定部材24が設けられ、固定部材24に固定されたプローブ8がプローブ進退駆動源23の駆動により軸線L1方向に平行に移動可能に構成される。プローブ進退駆動源23として、流体圧シリンダや、モータとボールねじ機構から成るもの等を適用し得る。
【0055】
固定部材24がプローブ8を適当な押し付け力で転走面21aに押し付ける。回転軸L1を回転させプローブ8を移動させることで、内輪21の転走面21aの全周面にプローブ8を摺動させて周上全ての箇所または数箇所の焼入れ硬度分布を検出し得る。この場合、オンライン上で焼入れ硬度分布を全数検査できるので、品質保証能力を高めることができる。なお、プローブ進退駆動源23、固定部材24等を設けることなくプローブ8を例えば手動により移動させて、転走面21a等の焼入れ品質を検査しても良い。
【0056】
磁界センサ5には、磁気インピーダンス素子(MIセンサ、MI:Magneto-Impedance element)、磁気抵抗素子(MRセンサ、MR:Magneto Resistance Effect)、巨大磁気抵抗素子(GMRセンサ、GMR:Giant Magneto Resistive)、ホールセンサ、フラックスゲートセンサ等を使用することができる。交流磁界のみを測定する場合、巻き線型の磁界センサを使用しても良い。
【0057】
一対の通電用電極2,2と、磁界センサ5とを別体に設けることも可能である。軸受のうち外輪軌道面、外輪外径面、外輪端面、外輪内径面の焼入れ品質を検査しても良い。内輪内径面、内輪端面、内輪外径面、その他転動体の転走面や端面等の焼入れ品質を検査しても良い。勿論、軸受以外の転動装置およびその転動装置部品を測定対象としても良い。
【符号の説明】
【0058】
1…検査対象物
2…通電用電極
4…電源
5…磁界センサ
10…表示装置
18…品質測定手段
19…発振回路
20…信号処理部
20a…判定部
20b…周波数変更指令部
26…電流向き変化手段
27,27A…固定部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、
検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、
前記通電用電極を介して前記検査対象物に電流を印加する電源と、
この電源により検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサと、
前記磁界センサで測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段と、
を備えることを特徴とする焼入れ品質検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電源は周波数可変の発振回路を有することを特徴とする焼入れ品質検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記磁界センサを、検査対象物に接触させた一対の通電用電極間に配置した焼入れ品質検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記品質測定手段は、交流電源の出力する周波数を種々変化させる周波数変更指令部を有し、かつこの周波数変更指令部で変化させた各周波数における磁界を測定し、焼入れ品質を測定する機能を有するものとした焼入れ品質検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記品質測定手段は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定するものとした焼入れ品質検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記品質測定手段の測定した焼入れ品質を表示する表示装置を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記品質測定手段は、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るときに品質異常と判定する判定部を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記磁界センサは、センサ基板に実装され、且つ、非磁性体からなるセンサハウジングに前記一対の通電用電極と一体に固定される焼入れ品質検査装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、転動装置または転動装置部品の焼入れ品質の検査に用いられる焼入れ品質検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記検査対象物を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段をさらに備え、前記磁界センサは、各変化させた電流の向き毎に生成される磁界を測定し、前記品質測定手段は、前記磁界センサで電流の向き毎に複数測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査装置。
【請求項11】
請求項10において、前記品質測定手段は、複数測定した磁界の測定値を平均する機能を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11において、前記電流向き変化手段は、磁界センサと通電用電極とを一体で回転自在としたものであり、一体の磁界センサおよび通電用電極を、検査対象物に対し角変位可能に構成した焼入れ品質検査装置。
【請求項13】
請求項10または請求項11において、複数の通電用電極を固定する固定部材を設け、前記電流向き変化手段は、複数の通電用電極のうち所定の通電用電極間に別々に順次電流を供給するものである焼入れ品質検査装置。
【請求項14】
請求項13において、前記磁界センサは、固定部材に対し角変位可能とし、別々に順次供給された通電用電極間の電流により生成される磁界をそれぞれ測定可能とした焼入れ品質検査装置。
【請求項15】
請求項10または請求項11において、一対または複数対の通電用電極を固定する固定部材を設け、この固定部材を、磁界センサに対し角変位可能とした焼入れ品質検査装置。
【請求項16】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、
前記検査対象物に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査方法。
【請求項17】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、
前記検査対象物に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査方法。
【請求項18】
請求項16または請求項17において、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを検査する焼入れ品質検査方法。
【請求項1】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、
検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、
前記通電用電極を介して前記検査対象物に電流を印加する電源と、
この電源により検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定する磁界センサと、
前記磁界センサで測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段と、
を備えることを特徴とする焼入れ品質検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電源は周波数可変の発振回路を有することを特徴とする焼入れ品質検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記磁界センサを、検査対象物に接触させた一対の通電用電極間に配置した焼入れ品質検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記品質測定手段は、交流電源の出力する周波数を種々変化させる周波数変更指令部を有し、かつこの周波数変更指令部で変化させた各周波数における磁界を測定し、焼入れ品質を測定する機能を有するものとした焼入れ品質検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記品質測定手段は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定するものとした焼入れ品質検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記品質測定手段の測定した焼入れ品質を表示する表示装置を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記品質測定手段は、測定した焼入れ品質が設定品質値を下回るときに品質異常と判定する判定部を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記磁界センサは、センサ基板に実装され、且つ、非磁性体からなるセンサハウジングに前記一対の通電用電極と一体に固定される焼入れ品質検査装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、転動装置または転動装置部品の焼入れ品質の検査に用いられる焼入れ品質検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記検査対象物を流れる電流の向きを変化させる電流向き変化手段をさらに備え、前記磁界センサは、各変化させた電流の向き毎に生成される磁界を測定し、前記品質測定手段は、前記磁界センサで電流の向き毎に複数測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査装置。
【請求項11】
請求項10において、前記品質測定手段は、複数測定した磁界の測定値を平均する機能を有する焼入れ品質検査装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11において、前記電流向き変化手段は、磁界センサと通電用電極とを一体で回転自在としたものであり、一体の磁界センサおよび通電用電極を、検査対象物に対し角変位可能に構成した焼入れ品質検査装置。
【請求項13】
請求項10または請求項11において、複数の通電用電極を固定する固定部材を設け、前記電流向き変化手段は、複数の通電用電極のうち所定の通電用電極間に別々に順次電流を供給するものである焼入れ品質検査装置。
【請求項14】
請求項13において、前記磁界センサは、固定部材に対し角変位可能とし、別々に順次供給された通電用電極間の電流により生成される磁界をそれぞれ測定可能とした焼入れ品質検査装置。
【請求項15】
請求項10または請求項11において、一対または複数対の通電用電極を固定する固定部材を設け、この固定部材を、磁界センサに対し角変位可能とした焼入れ品質検査装置。
【請求項16】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、
前記検査対象物に周波数の種々異なる交流電流を印加し、この印加した各周波数における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査方法。
【請求項17】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査方法であって、
前記検査対象物に直流電流または単一周波数の電流値が種々異なる電流を印加し、この印加した各電流値における検査対象物を流れる電流が生成する磁界を測定し、この測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する焼入れ品質検査方法。
【請求項18】
請求項16または請求項17において、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを検査する焼入れ品質検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−281657(P2010−281657A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134727(P2009−134727)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]