説明

焼成物、セメント添加材及びセメント組成物

【課題】セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、長期強度発現性の低下が小さいセメント添加材を製造できる焼成物、該焼成物を粉砕してなるセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物を提供する。
【解決手段】2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を必須成分とし、P2O5を0.3〜10質量%含有する焼成物であって、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜100質量部含有し、かつ、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下である焼成物、及びこれを粉砕してなるセメント添加材、及びセメントに対して前記セメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期強度発現性が良好なセメント添加材を製造できる焼成物、該焼成物を粉砕してなるセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中に伴い、産業廃棄物や一般廃棄物等が急増している。従来、これらの廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容化して埋め立て処分されているが、近年、埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題になっている。セメント産業では産業廃棄物や一般廃棄物を原料として多く使用しており、今後さらなる使用量の増大が求められている。しかしながら、産業廃棄物や一般廃棄物は天然原料に比べてAl2O3分に富むため、単純にこれらの使用量を増大すると、セメントクリンカー中の3CaO・Al2O3が増大し、モルタルやコンクリートとして使用した場合に水和熱の増加、流動性の悪化等を引き起こす。この課題に対処するため、産業廃棄物等をより多く原料として使用した焼成物を製造し、これをセメント添加材として使用することが提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
上記セメント添加材は、石炭灰等の廃棄物を原料としたSiO2量が30〜50質量%、CaO量が25〜45質量%、Al2O3量が5〜25質量%、f-CaO量が1.0質量%以下の焼結物の粉砕物(特許文献1)か、SiO2量が50質量%を越えて70質量%以下、CaO量が5〜45質量%、Al2O3量が5〜45質量%、f-CaO量が1.0質量%以下の焼結物の粉砕物(特許文献2)であり、アノーサイト等のアルミノ珪酸塩鉱物を主体とするもので、2CaO・SiO2等のカルシウムシリケートや3CaO・Al2O3等のカルシウムアルミネートをほとんど含まないものであるので、セメントへの添加量が内割で10〜50質量%と大きくなると、セメント組成物の長期強度発現性が極端に低下するため、セメントへの添加量が制限されるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−219347号公報
【特許文献2】特開2006−219348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、産業廃棄物、一般廃棄物や建設発生土等を原料としたものであって、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、長期強度発現性の低下が小さいセメント添加材を製造できる焼成物、該焼成物を粉砕してなるセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定量のP2O5を含有する特定の鉱物組成を有する焼成物の粉砕物であれば、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、セメント組成物の長期強度発現性の低下が小さくなることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を必須成分とし、P2O5を0.3〜10質量%含有する焼成物であって、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜100質量部含有し、かつ、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下であることを特徴とする焼成物、及びこれを粉砕してなるセメント添加材を提供するものである。
また、本発明は、セメントに対して、前記セメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の焼成物は、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として用いることができるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができる。また、本発明の焼成物を粉砕してなるセメント添加材は、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、セメント組成物の長期強度発現性の低下を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の焼成物は、2CaO・SiO2(以降、C2Sと略す)及び2CaO・Al2O3・SiO2(以降、C2ASと略す)を必須成分とするもので、C2S100質量部に対して、C2ASを10〜100質量部、好ましくは20〜90質量部含有するものである。C2AS含有量が10質量部未満では、焼成時に焼成温度を上げてもフリーライム量(未反応CaO量)が低下しにくく、焼成が困難になり、また、生成するC2Sも水和活性のないγ型C2Sである可能性が高くなり、セメント組成物の長期強度を大きく低下させることがある。一方、C2AS含有量が100質量部を超えると、高温における融液が増加するため、焼成可能温度が狭まり、またC2Sが少ないため、セメント組成物の初期及び長期強度がともに低下する。
【0009】
本発明の焼成物は、C2S100質量部に対する3CaO・Al2O3(以降、C3Aと略す)の含有量が20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。C3Aの含有量が20質量部を超えると、セメント組成物の長期強度を大きく低下させることがある。また、セメント組成物の水和熱が上昇し、流動性も悪化する。
【0010】
本発明の焼成物は、P2O5を0.3〜10質量%含有するものである。前記範囲のP2O5を含有することにより、セメント組成物の長期強度発現性の低下を小さくすることができる。焼成物のP2O5含有量が0.3質量%未満では、セメント組成物の長期強度を低下させることがある。P2O5の含有量が10質量%を越えるものは、製造が困難であるうえ、セメント組成物の凝結遅延が生じることがある。
本発明においては、焼成物の製造の容易性や、セメント組成物の凝結、流動性や強度発現性等から、焼成物中のP2O5含有量は、0.5〜9.5質量%が好ましく、0.6〜9.0質量%がより好ましく、0.7〜8.0質量%が特に好ましい。
【0011】
このような組成の焼成物は、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とし、これを焼成することにより製造することができる。産業廃棄物としては、例えば石炭灰;生コンスラッジ、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥;ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、建設廃材、コンクリート廃材などが挙げられ;一般廃棄物としては、例えば下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。建設発生土としては、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらには廃土壌等が挙げられる。
また、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料、珪石、粘土等のSiO2原料、粘土等のAl2O3原料、鉄滓、鉄ケーキ等のFe2O3原料も使用することができる。
【0012】
なお、焼成物の原料組成によっては、特に、前記産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上(以下、廃棄物原料と称する)を原料として用いた場合、4CaO・Al2O3・Fe2O3(以降、C4AFと略す)が生成することがあるが、本発明の焼成物においては、C2ASの一部、好ましくはC2AS重量の70質量%以下がC4AFで置換されても良い。C4AFがこの範囲を超えて置換されると、焼成の温度範囲が狭くなり、製造の管理が難しくなる。
【0013】
本発明の焼成物の鉱物組成は、使用原料中のCaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3の各含有量(質量%)から、次式により求めることができる。
C4AF=3.04×Fe2O3
C3A =1.61×CaO−3.00×SiO2−2.26×Fe2O3
C2AS=−1.63×CaO+3.04×SiO2+2.69×Al2O3+0.57×Fe2O3
C2S =1.02×CaO+0.95×SiO2−1.69×Al2O3−0.36×Fe2O3
【0014】
従って、例えば、廃棄物原料中にカルシウムが不足する場合には、その不足分を調整するために、石灰石等を混合して用いることができる。混合割合は、廃棄物原料の組成に応じて、得られる焼成物の組成が、本発明の範囲内になるよう、適宜決定すれば良い。
【0015】
これらを焼成する際の焼成温度は、1000〜1350℃、特に1200〜1330℃であるのが、焼成工程の熔融相の状態が良好であるので好ましい。
用いる装置は特に限定されず、例えばロータリーキルン等を用いることができる。また、ロータリーキルンで焼成する際には、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
このような焼成により、C2ASが生成し、本発明のような組成の焼成物を得ることができ
る。
【0016】
本発明のセメント添加材は、前記焼成物の粉砕物、又は前記焼成物の粉砕物と石膏とからなるものである。
焼成物の粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕すれば良い。焼成物の粉砕物は、ブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
石膏のブレーン比表面積は、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から、2500〜10000cm2/gであることが好ましい。石膏としては、特に制限されず、例えば二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明のセメント添加材においては、石膏の含有量は、セメント組成物の強度発現性、水和熱や流動性の観点から、焼成物の粉砕物100質量部に対してSO3換算で6質量部以下が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0018】
本発明のセメント組成物は、上記セメント添加材とセメントを混合することにより得られるものである。セメントとしては、普通ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメントやフライアッシュセメント等の混合セメントを使用することができる。
セメント添加材の添加量は、セメントに対して、内割で50質量%以下が好ましく、廃棄物原料の有効活用や、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減、流動性や強度発現性の観点から、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。セメント添加材の添加量が、セメントに対して、内割で50質量%を越えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0019】
また、本発明のセメント組成物には石膏を配合することができ、セメント組成物中に全SO3換算で1.0〜5.0質量%、特に1.5〜4.0質量%、更に1.8〜3.0質量%配合するのが、一般的な凝結性状が得られるので好ましい。
【0020】
本発明のセメント組成物は、セメント添加材とセメントを混合して製造することができるが、その方法は特に制限されず、例えば、ポルトランドセメントクリンカー、焼成物、石膏の配合成分を、混合した後粉砕するか、あるいは各成分を粉砕した後に混合しても良い。また、焼成物又は焼成物と石膏を粉砕して得られたセメント添加材を、セメントクリンカー粉砕物やポルトランドセメントや混合セメントと混合して製造することもできる。得られるセメント組成物は、ブレーン比表面積が2500〜4500cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1
1.焼成物の調製
(1)焼成物の製造:
表1に示す化学組成の原料混合物(石灰石及び石炭灰の混合物)に、炭酸カルシウム(試薬)、シリカ(試薬)、アルミナ(試薬)、酸化鉄(試薬)、第2リン酸カルシウム(試薬)を加えて、表2に示す焼成物を製造した。焼成は、ロータリーキルンを用いて、焼成物1〜5は焼成温度1280〜1350℃で、焼成物6は焼成温度1200℃で行った。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
2.セメント添加材の製造
上記各焼成物の粉砕物(ブレーン比表面積3200±50cm2/g)100質量部と二水石膏(ブレーン比表面積4000cm2/g)2質量部(SO3換算)を混合してセメント添加材を製造した。
【0025】
3.セメント組成物の製造と評価
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)と上記各セメント添加材を表3に示す割合で混合して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、材齢91日、半年及び1年のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201」に従って測定した。
結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3より、本発明のセメント添加材を使用したモルタルでは、長期強度発現性の低下が小さいことが分かる。
【0028】
実施例2
(1)焼成物の製造:
表4に示す化学組成の石灰石、珪石及び下水汚泥を原料として焼成物を製造した。焼成は、ロータリーキルンを用いて焼成温度1350℃で行った。なお、焼成物の鉱物組成は、C2S:100質量部に対して、C2AS:22質量部、C4AF:17質量部、C3A:0質量部、フリーライム:0.1質量部で、化学組成は、CaO:53.3質量%、SiO2:26.3質量%、Al2O3:7.3質量%、Fe2O3:3.6質量%、P2O5:4.8質量%であった。
【0029】
【表4】

【0030】
(2)セメント添加材の材料
上記焼成物の粉砕物(ブレーン比表面積3220cm2/g)100質量部と二水石膏(ブレーン比表面積4000cm2/g)2質量部(SO3換算)を混合してセメント添加材を製造した。
【0031】
3.セメント組成物の製造と評価
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に上記セメント添加材を内割りで15質量%添加して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、材齢91日、半年及び1年のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201」に従って測定した。
その結果、材齢91日のモルタル圧縮強さは70.5N/mm2、材齢半年のモルタル圧縮強さは79.3N/mm2、材齢1年のモルタル圧縮強さは85.2N/mm2であり、長期強度発現性の低下は小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を必須成分とし、P2O5を0.3〜10質量%含有する焼成物であって、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜100質量部含有し、かつ、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下であることを特徴とする焼成物。
【請求項2】
産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とする請求項1に記載の焼成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼成物を粉砕してなるセメント添加材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO3換算で6質量部以下含有するセメント添加材。
【請求項5】
セメントに対して、請求項3又は4に記載のセメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物。
【請求項6】
石膏を、SO3換算で1.5〜5質量%含有する請求項5記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2008−222475(P2008−222475A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61177(P2007−61177)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】