説明

焼結体の製造方法

【課題】脱脂後の成形体の搬送時において、成形体の割れや欠けを有効に防止できる焼結体の製造方法を提供すること。
【解決手段】原料粉末と樹脂材料とを加熱混練して成形用原料を得る工程と、成形用原料を射出成形して成形体を得る工程と、成形体から樹脂材料の一部を除去する第1脱脂工程と、残りの樹脂材料を除去する第2脱脂工程と、焼成工程と、を有し、樹脂材料はワックス、第1バインダおよび第2バインダを含有している。ワックスの熱分解温度は、第1バインダおよび第2バインダの熱分解温度よりも低く、第1バインダの熱分解温度は、第2バインダの熱分解温度よりも低い。第1脱脂工程において、第1バインダの流動開始温度以上、かつ第2バインダの熱分解温度未満の温度範囲とした後に、第1バインダの流動開始温度未満の温度まで冷却する。第2脱脂工程と焼成工程とは連続して行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体の製造方法に係り、さらに詳しくは、脱脂後の成形体を搬送する際における成形体の破損を有効に防止できる焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料から構成される焼結体は、たとえばプレス成形法、押出成形法、鋳込み成形法、テープ成形法、射出成形法などにより成形された成形体を焼成して製造される。
【0003】
射出成形法は、複雑な形状の成形体を得ることができ、成形工程に要する時間が短いという利点を有する。しかしながら、成形体に含まれる樹脂成分量が比較的に多く、脱脂工程においてこれらを急速に除去すると、成形体が膨れるなどの不良が発生することがある。
【0004】
特許文献1では、射出成形して得られた成形体を脱脂する工程を、脱脂予備工程と、加熱脱脂工程とに分けて行うことが開示されている。しかしながら、このような脱脂工程では、成形体に含まれる樹脂成分(バインダ、ワックス、可塑剤など)が除去されすぎてしまい、脱脂体(脱脂工程後の成形体)の強度が、脱脂工程前の成形体の強度よりも低下してしまう。
【0005】
その結果、脱脂に用いられた加熱炉から、脱脂体を別の加熱炉(焼成炉)に搬送する際に、脱脂体に割れや欠けなどが発生するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−47684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、脱脂後の成形体の搬送時において、成形体の割れや欠けを有効に防止できる焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る焼結体の製造方法は、
原料粉末と樹脂材料とを加熱混練して成形用原料を得る工程と、
前記成形用原料を射出成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体から、前記樹脂材料の一部を除去する第1脱脂工程と、
残りの前記樹脂材料を除去する第2脱脂工程と、
前記第1脱脂工程および第2脱脂工程後の成形体を焼成する焼成工程と、を有し、
前記樹脂材料は、少なくともワックス、第1バインダおよび第2バインダを含有しており、前記ワックスの熱分解温度は、前記第1バインダおよび第2バインダの熱分解温度よりも低く、前記第1バインダの熱分解温度は、前記第2バインダの熱分解温度よりも低く、
前記第1脱脂工程において、前記第1バインダの流動開始温度以上、かつ前記第2バインダの熱分解温度未満の温度範囲とした後に、前記第1バインダの流動開始温度未満の温度まで冷却し、
前記第2脱脂工程と前記焼成工程とが連続して行われることを特徴とする。
【0009】
本発明では、第1脱脂工程において、まず熱分解温度の低いワックスが成形体から除去される。このとき、ワックスが除去された部分には、微細な空孔が形成される。一方、第1脱脂工程では、第1バインダが流動し始め、成形体全体に浸透していき、脆い状態となっている空孔周辺にも浸透していく。このとき、第2バインダは分解せずにバインダとして十分な保形性を示すため、成形体の形状を維持することができる。
【0010】
その後、第1バインダの流動開始温度未満の温度まで冷却されると、第1バインダは固化して、バインダとしての十分な保形性を発揮することができる。このとき、ワックスが除去されて形成された空孔にも第1バインダが全体的に浸透しているため、空孔が補強されており、変形することはない。そのため、その形状が維持された状態で、第1脱脂工程後の成形体の強度を向上させることができる。すなわち、第1脱脂工程前の成形体の強度よりも、第1脱脂工程後の成形体の強度を高めることができる。
【0011】
したがって、第1脱脂工程後の成形体を搬送しても、強度が十分に確保されているために、割れや欠けなどの破損を有効に防止することができる。また、成形体の加工時の割れや欠けなども有効に防止できる。そのため、製品としての歩留まりを向上させることができる。
【0012】
続いて、空孔の形状が維持された状態で、第2脱脂工程が行われるため、成形体に含有されている樹脂材料が空孔を介してスムーズに除去される。このとき、第2バインダは、第1バインダよりも熱分解温度が高いので、第1バインダが気化して除去された後も成形体内部に存在して、成形体の形状を維持することができる。その結果、脱脂工程の終了付近まで、成形体の形状を保ち、第2脱脂工程に引き続いて行われる焼成工程における焼結体の変形を有効に防止することができる。
【0013】
好ましくは、前記樹脂材料がさらに可塑剤を有している。可塑剤が含有されていることで、成形体への可撓性を付与すると共に、樹脂の結晶化速度を遅くするので、第1バインダの固化が成形体の全域で均等に進むという利点を有する。
【0014】
好ましくは、前記第1脱脂工程において、前記ワックスがほぼ除去されている。このようにすることで、第1脱脂工程後の成形体の強度を確実に高めることができる。
【0015】
好ましくは、前記第1脱脂工程前における前記成形体に含有される前記樹脂材料の含有量を100%とした場合に、前記第1脱脂工程後における前記成形体に含有される前記樹脂材料の含有量が10〜60%である。
【0016】
第1脱脂工程後の成形体に含有される樹脂材料の含有量を上記の範囲にすることで、上述した効果が得られるとともに、樹脂成分が適度に除去されているため、第2脱脂工程および焼成工程においても成形体に膨れが生じず、得られる焼結体の変形を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るフェライト磁石を製造するための装置の概略断面図である。
【図2】図2は、第1脱脂工程前後の成形体に残留している樹脂成分量と、該成形体の破壊荷重と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
本発明における焼結体としては、特に制限されず、たとえば、セラミック、金属材料などが挙げられるが、本実施形態では、セラミックが好ましく、特にフェライト磁石が好ましい。フェライトとしては、マグネトプランバイト型のM相、W相等の六方晶系のフェライトが好ましく用いられる。
【0020】
このようなフェライトとしては、特に、MO・nFe(Mは好ましくはSrおよびBaの1種以上、n=4.5〜6.5)であることが好ましい。このようなフェライトには、さらに、希土類元素、Ca、Pb、Si、Al、Ga、Sn、Zn、In、Co、Ni、Ti、Cr、Mn、Cu、Ge、Nb、Zr等が含有されていてもよい。
【0021】
特に、下記に示すA,R,FeおよびMを構成元素として含む六方晶マグネトプランバイト型(M型)フェライトを主相に有するフェライトが好ましい。ただし、Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素であり、Rは、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Coおよび/またはZnである。これらのA,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜5原子%である。
【0022】
このフェライトにおいて、RがAサイトに存在するとし、MがFeのサイトに存在するとした場合におけるフェライトの組成式は、下記の式1に示すように表すことができる。なお、x、y、zは上記の量から計算される値である。
【0023】
1−x (Fe12−y19…式1
【0024】
本実施形態に係る焼結体の製造方法では、まず、上記フェライトの原料粉末を準備する。原料粉末としては、酸化物、または焼成により酸化物となる化合物を用いればよい。次いで、準備した原料粉末を混合し、必要に応じて、仮焼を行ってもよい。仮焼は、大気中で、例えば1000〜1350℃で、1秒間〜10時間、特にM型のSrフェライトの微細仮焼粉末を得るときには、1000〜1200℃で、1秒間〜3時間程度行えばよい。
【0025】
このような仮焼粉末は、実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもつ顆粒状粒子から構成され、その一次粒子の平均粒径は0.1〜1μm、特に0.1〜0.5μmであることが好ましい。平均粒径は、たとえば走査型電子顕微鏡(SEM)により測定すればよい。
【0026】
原料粉末あるいは仮焼粉末は、必要に応じて、粉砕を行ってもよい。粉砕は、乾式であってもよいし、湿式であってもよいし、これらを組み合わせてもよい。
【0027】
粉砕を行う場合、粉砕後の粉末粒子の平均粒径は、好ましくは0.03〜0.7μmの範囲内、より好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
【0028】
得られた原料粉末を、樹脂材料とともに射出成形機内で加熱混練して成形してもよいが、本実施形態では、乾燥後の原料粉末と樹脂材料とを混練してペレタイザなどで、ペレットに成形する。混練は、たとえばニーダーなどで行う。ペレタイザとしては、たとえば2軸1軸押出機が用いられる。
【0029】
樹脂材料には、ワックス、第1バインダおよび第2バインダが含有されている。これらは、熱分解温度や流動開始温度が後述する特定の関係にある。ここで、熱分解温度とは、樹脂材料が成形体から除去され始める温度をいい、たとえば樹脂材料が蒸発、気化し始める温度である。
【0030】
また、流動開始温度とは、樹脂材料が軟化し、成形体を構成する原料粉末間を容易に移動できる温度である。本実施形態では、流動開始温度に達すると、樹脂材料が原料粉末内あるいは成形体内に十分行き渡る(浸透する)こととなる。なお、流動開始温度は、樹脂材料の融点とほぼ同じ概念であるが、ガラス転移点などであってもよい。
【0031】
ワックスとしては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコールなどの合成ワックスが用いられる。
【0032】
ワックスは、主として成形時における原料の流動性を向上させるが、多すぎると、成形体が脆くなる傾向にある。したがって、ワックスの含有量は、原料粉末100重量%に対し、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜10重量%である。
【0033】
また、ワックスは、樹脂材料の中では気化しやすい(熱分解しやすい)ため、脱脂工程の初期段階(後述する第1脱脂工程)において、大部分が成形体から除去される傾向にある。ワックスの熱分解温度は、好ましくは110〜350℃、より好ましくは200〜330℃である。
【0034】
第1バインダおよび第2バインダとしては、熱可塑性樹脂などの高分子化合物が用いられる。
【0035】
第1バインダは、成形時における原料の流動性を向上させるとともに、成形体の形状を維持する(保形する)。
【0036】
第1バインダは、ワックスの熱分解温度よりも高い熱分解温度を有していれば特に制限されないが、結晶性樹脂であって比較的に低い流動開始温度を有していることが好ましい。第1脱脂工程を比較的に低い温度で行うことができるからである。第1バインダの熱分解温度は、好ましくは180〜450℃、より好ましくは250〜450℃である。また、第1バインダの流動開始温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは130〜200℃である。
【0037】
この第1バインダは、脱脂工程(特に第2脱脂工程)において、液化した後、熱分解して(気化して)成形体から除去されることとなる。具体的な第1バインダとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。
【0038】
第1バインダの含有量が多すぎると、脱脂時に除去される樹脂が多くなるので成形体にクラックが生じやすくなってしまい、少なすぎると、射出成形の成形性が悪化し、かつ成形体の形状維持が困難となる傾向にある。したがって、原料粉末100重量%に対し、第1バインダの含有量は、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜10重量%である。
【0039】
第2バインダは、第1バインダが熱分解されて、成形体から除去された後も、成形体に存在して保形し、焼成時における成形体の変形を効果的に防止することができる。
【0040】
第2バインダは、ワックスおよび第1バインダよりも高い熱分解温度を有していれば特に制限されないが、同じ温度において第1バインダよりも粘度が高い非結晶性樹脂であることが好ましい。
【0041】
第2バインダの熱分解温度は、好ましくは200〜500℃、より好ましくは300〜460℃である。
【0042】
この第2バインダは、第2脱脂工程において、液化が急速に進まず、あるいは、液化しても粘度が高い状態で存在した後に熱分解され、成形体から除去されることになる。このような挙動を示すことで、熱分解する直前までバインダとしての性能を十分に発揮し、成形体の形状を保つことができる。具体的な第2バインダとしては、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル系樹脂、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネイトなどが挙げられる。
【0043】
第2バインダの含有量が多すぎると、脱脂に長時間を要し、クラックや変形を誘発することになってしまい、少なすぎると、第2脱脂工程において、成形体の保形性が不十分となり、焼結体の変形が生じてしまう傾向にある。したがって、原料粉末100重量%に対し、第2バインダの含有量は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜5重量%である。
【0044】
樹脂材料は、上記のワックス、バインダに加え、さらに可塑剤、滑剤、その他の昇華性化合物などを有していてもよい。
【0045】
可塑剤としては、たとえばフタル酸エステルが用いられ、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ブチルラウリル、フタル酸ジノルマルオクチル、DOPなどが好ましく、その他には、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジオクチル、リン酸トリクレシルなどが好ましい。
【0046】
上述のペレットは、図1に示す射出成形装置2に投入されて成形される。射出成形装置2は、ペレット10が投入されるホッパ4を有する押出機6と、押出機6から押し出されたペレット10の溶融物をキャビティ12内で成形するための金型装置8とを有する。本実施形態では、フェライト磁石を製造するので、金型装置8に磁場を印加して、CIM(ceramic injection molding)成形を行う。
【0047】
ホッパ4に投入されたペレット10は、押出機6の内部で、たとえば160〜230℃に加熱溶融・混練され、成形用原料となり、スクリューにより金型装置8のキャビティ12内に射出される。金型装置8の温度は、20〜80℃である。金型装置8に印加する磁場は適宜決定すればよい。
【0048】
得られた成形体は、脱脂工程に供され樹脂成分が除去される。まず、第1脱脂工程では、少なくとも、第1バインダの流動開始温度以上の温度であって、第2バインダの熱分解温度未満とされる。具体的には、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜280℃の温度範囲において、好ましくは10〜100時間程度保持する。このような温度範囲とすることで、成形体に含まれるワックスの大部分が成形体から除去される。特に180〜280℃の温度範囲とすることで、ワックスのほぼ全量が気化して除去される。このとき、成形体には、ワックスの気化により微細な空孔が形成される。
【0049】
一方、第1バインダは、第1脱脂工程において流動し始める。そして、成形体中に浸透し、ワックスの気化により形成された空孔周辺にも浸透する。したがって、成形体における第1バインダの分散度合いは、成形後よりも良好となる。なお、第1バインダが流動し始めると、バインダとしての性能は低下してしまう。しかしながら、成形体には第2バインダが存在しており、しかもこの第2バインダは、第1脱脂工程において、分解せずに固化した状態にある。したがって、第1バインダによる保形性が若干低下したとしても、固化している第2バインダにより、成形体が変形することはない。
【0050】
その後、第1バインダの流動開始温度未満の温度まで冷却されると、第1バインダは固化する。このとき、固化した第1バインダにより、脆くなっている空孔が全体的に補強され、その形状は確実に維持される。しかも、成形体の脆さの主たる原因となるワックスは気化しているため、第1脱脂工程後の成形体は、第1バインダおよび第2バインダにより保形され、その強度は、第1脱脂工程前の成形体の強度よりも大きくなっている。
【0051】
第1脱脂工程後の成形体の強度を、第1脱脂工程前の成形体の強度よりも大きくするには、第1脱脂工程前後における樹脂成分の含有量を特定の関係とすればよい。具体的には、第1脱脂工程前の成形体に含有される樹脂成分を100重量%とすると第1脱脂工程後の成形体に含有される樹脂成分を、好ましくは10〜60%、より好ましくは20〜50%とし、ワックスをほぼ除去すればよい。
【0052】
このようにすることで、成形体の保形性に悪影響を与えるワックスはほぼ除去されているため、第1脱脂工程後の成形体を加熱炉から取り出し、第2脱脂工程および焼成工程を行う加熱炉へ搬送した場合であっても、成形体に割れや欠けなどの破損は生じない。また、第1脱脂工程に用いる加熱炉と、第2脱脂工程および焼成工程に用いる加熱炉とを分けることで、工程の効率化を実現できる。
【0053】
また、成形体の加工時においても、割れや欠けを有効に防止することができる。特に成形体がフェライト磁石の場合には、第1脱脂工程における熱履歴により残留磁場がほとんどないため、加工くず等の付着を防止することができる。
【0054】
第2脱脂工程の温度範囲は、用いる樹脂材料に応じて決定すればよいが、好ましくは150〜600℃、より好ましくは200〜500℃である。また、保持時間は、好ましくは1〜50時間、より好ましくは3〜30時間である。
【0055】
第2脱脂工程では、まず、第1バインダが気化して、成形体から除去される。このとき、第2バインダは、液化が急速には進行せず十分な保形性を有しているため、空孔は変形しない。したがって、この空孔を介して第1バインダが気化し、スムーズに除去される。
【0056】
第1バインダが除去された後も、成形体中には第2バインダが固化している状態あるいは粘度が高い状態で存在しているため、成形体の保形性を十分に維持することができる。そして、第2脱脂工程において成形体の変形を防止しながら、気化して除去され、引き続き焼成工程に供されるため、成形体は変形することなく焼成され、変形のない焼結体が得られる。
【0057】
このようにして、第2脱脂工程および焼成工程を連続して行うことで、工程の効率化を図りつつ、得られる焼結体(フェライト磁石)の変形を防止することができる。
【0058】
上記の工程を経て得られた焼結体は、必要に応じて加工され、フェライト磁石とされる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば原料粉末としては、フェライトに制限されず、他のセラミック粉体、金属材料であってもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
焼結体として、組成がLa0.4 Ca0.2 Sr0.4 Co0.3 Fe11.319で示されるフェライト磁石を製造した。出発原料としては以下のものを用いた。Fe粉末(不純物として、Mn,Cr,Si,Clを含む)、SrCO粉末(不純物として、Ba,Caを含む)、La(OH)粉末,CaCO粉末,Co粉末を準備した。上記出発原料および添加物を湿式アトライターで粉砕後、乾燥・整粒し、これを空気中において1230℃で3時間焼成し、顆粒状の仮焼粉末を得た。
【0062】
この仮焼粉末を、乾式粗粉砕・湿式粉砕した。湿式粉砕後、仮焼粉末(原料粉末)を100℃で10時間乾燥させた。乾燥後の原料粉末の平均粒径を、SEMにより調べたところ、0.3μmであった。
【0063】
乾燥後の原料粉末100重量%に対し、ワックスとしてのパラフィンワックスを10重量%、第1バインダとしてのポリプロピレンを8重量%、第2バインダとしてのアクリル系樹脂を2重量%、滑剤、可塑剤、昇華性化合物などと共に、ニーダーで混練し、ペレタイザでペレットに成形した。混練は150℃および2時間の条件で行った。
【0064】
なお、パラフィンワックスの熱分解温度は200℃であり、ポリプロピレンの流動開始温度は165℃、熱分解温度は295℃であり、アクリル系樹脂の熱分解温度は340℃であった。
【0065】
次に、図1に示す磁場を利用する射出成形装置2を用いて、ペレット10を、金型装置8内に射出成形した。金型装置8への射出前には、金型装置8は閉じられており、内部にキャビティ12が形成され、金型装置8には磁場が印加される。なお、ペレット10は、押出機6の内部で、たとえば160℃に加熱溶融・混練され、成形用原料となり、スクリューにより金型装置8のキャビティ12内に射出された。金型装置8の温度は、40℃であった。磁場射出成形工程後の成形体の厚みは、2mmであり、円弧形状の平板を成形した。
【0066】
得られた成形体について、下記に示す破壊加重を測定することで、成形体の強度を評価した。
【0067】
破壊荷重は、成形体の両端部のみを支持し、成形体中央に集中荷重を0Nから徐々に増加させていき、成形体が破断した荷重により算出した。成形直後の成形体の破壊荷重は60Nであった。
【0068】
また、TG(熱重量)分析により、成形体に残留している樹脂材料の含有量を測定した結果、残留樹脂材料量(重量減少量)は15.6%であった。すなわち、成形体の重量100%のうち、樹脂成分が15.6%を占めていた。
【0069】
次に、この成形体を、210℃まで昇温し、樹脂材料の一部を除去し、その後室温まで冷却した(第1脱脂工程)。第1脱脂工程は96時間であった。なお、第1脱脂工程における雰囲気は加湿N雰囲気(酸素濃度0.01%以下)であった。
【0070】
第1脱脂工程後の成形体について上記と同様にして強度および成形体に残留している樹脂材料の含有量を測定した。また、残留樹脂材料量の測定結果から、成形体に残留しているワックス量を算出し、成形直後の成形体に含有されるワックス量100%に対する割合を算出した。結果を表1に示す。
【0071】
第1脱脂工程後の成形体を焼成炉に搬送し、第2脱脂工程および焼成工程を連続して行った。搬送時には、成形体の割れや欠けなどは生じなかった。
【0072】
第2脱脂工程では、15時間掛けて600℃まで昇温して、成形体に残留している樹脂材料を除去した。なお、第2脱脂工程における雰囲気は大気雰囲気であった。そして、さらに1200℃まで昇温し、その温度で1時間保持してフェライト磁石の焼結体を得た(焼成工程)。
【0073】
得られたフェライト磁石の焼結体について、変形およびクラックの有無を目視にて評価した。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2
第1脱脂工程における雰囲気を加湿N/air雰囲気(酸素濃度5%)とした以外は、実施例1と同様にして、フェライト磁石を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
実施例3
第1脱脂工程における雰囲気を加湿N/air雰囲気(酸素濃度5%)とし、250℃まで昇温した以外は、実施例1と同様にして、フェライト磁石を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
比較例1
第1脱脂工程における雰囲気を加湿N/air雰囲気(酸素濃度5%)とし、300℃まで昇温した以外は、実施例1と同様にして、フェライト磁石を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
比較例2
第1脱脂工程において、600℃まで昇温した以外は、実施例1と同様にして、フェライト磁石を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
比較例3
第1脱脂工程における雰囲気を乾燥N雰囲気(酸素濃度0.01%以下)とし、160℃まで昇温した以外は、実施例1と同様にして、フェライト磁石を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1における残留樹脂量と破壊荷重との関係を表すグラフを図2に示す。表1および図2より、第1脱脂工程において第1バインダの流動開始温度よりも高い温度とすることで、第1脱脂工程後の成形体の強度が、第1脱脂工程前の成形体の強度よりも高くなっていることが確認できる。また、第1脱脂工程後の成形体の強度の強度が高いため、搬送時や焼成後の割れ、変形などは見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末と樹脂材料とを加熱混練して成形用原料を得る工程と、
前記成形用原料を射出成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体から、前記樹脂材料の一部を除去する第1脱脂工程と、
残りの前記樹脂材料を除去する第2脱脂工程と、
前記第1脱脂工程および第2脱脂工程後の成形体を焼成する焼成工程と、を有し、
前記樹脂材料は、少なくともワックス、第1バインダおよび第2バインダを含有しており、前記ワックスの熱分解温度は、前記第1バインダおよび第2バインダの熱分解温度よりも低く、前記第1バインダの熱分解温度は、前記第2バインダの熱分解温度よりも低く、
前記第1脱脂工程において、前記第1バインダの流動開始温度以上、かつ前記第2バインダの熱分解温度未満の温度範囲とした後に、前記第1バインダの流動開始温度未満の温度まで冷却し、
前記第2脱脂工程と前記焼成工程とが連続して行われることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂材料がさらに可塑剤を有している請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第1脱脂工程において、前記ワックスがほぼ除去されている請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第1脱脂工程前における前記成形体に含有される前記樹脂材料の含有量を100%とした場合に、前記第1脱脂工程後における前記成形体に含有される前記樹脂材料の含有量が10〜60%である請求項1〜3のいずれかに記載の焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−62221(P2012−62221A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207913(P2010−207913)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】