説明

焼結板材の製造方法

【課題】 一度のHIP処理によって得られる焼結体から多数枚の焼結板材を製造する方法において、原料のロスを低減すると同時に高い焼結密度の焼結板材を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 加圧容器内に原料粉末の充填層と該充填層を仕切る相対密度50〜85%のスペーサーとを交互に配置した後、前記加圧容器に熱間静水圧プレス処理を施して焼結体を得、該焼結体のスペーサー部を切断除去して複数枚の焼結板材を得る焼結板材の製造方法である。また、原料粉末として、鉄よりも融点の高い高融点金属を用いる場合に特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一度の熱間静水圧プレス処理によって、多数の焼結板材を得る焼結板材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間静水圧プレス(以下、HIPと略す)処理は、加圧空間を特定温度に加熱することで高圧環境を形成し、加圧空間に配置した処理品に、特定温度で高圧且つ等方的な圧力を作用させる技術である。
HIP処理の適用は多岐にわたるが、その用途の一例として粉末冶金における焼結プロセスへの適用がある。具体的には、軟鉄やステンレス製などの圧密用の焼結容器に原料粉末を充填した後、容器内を脱気、封止して、これをHIP装置内の加圧空間で加圧焼結するものである。この方法によれば、均一微細な組織を得ることができるとともに、溶製法では製造の困難な高融点の金属材料を得ることも可能である。
【0003】
また、HIP処理によって効率的に所望サイズの焼結体を得る方法として、一度のHIP処理で得た焼結体を切断して多数の焼結板材を得る方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、原料粉末の予備成形体を形成し、焼結容器内にこの予備成形体間にスペーサーを介して積層した後にHIP処理を行なって一度のHIP処理で多数の焼結板材を得る方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−113188号公報
【特許文献2】特開昭63−290272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される方法は、一度に多数枚の焼結板材が得られ、生産効率の観点からも好ましいものである。しかし、特許文献1に記載する方法では、焼結体を切断して複数枚の焼結板材を作製する際に、切断しろが発生してその部分が除去されるために、製品の歩留りが低く望ましくない。特に焼結板材の原料として高価な高融点の金属材料を使用する場合には、切断しろの除去部分の発生はコスト上大きな問題となる。
また、特許文献2に開示される方法は、予備成形体間にスペーサーを介して積層してHIP処理することで一度に多数枚の焼結板材が得られる優れた方法である。しかし、スペーサーを介して積層してHIP処理をする場合には、焼結板材の一部で焼結密度が上がらない場合があることを確認した。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、一度のHIP処理によって得られる焼結体から多数枚の焼結板材を製造する方法において、原料のロスを低減すると同時に高い焼結密度の焼結板材を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、HIP処理によって得られる焼結体における切断部分を、HIP処理前の加圧容器中で予め原料粉末と同程度の相対密度のスペーサーとして構成し、得られた焼結体ではそのスペーサー部を切断除去することで、原料のロスを低減すると同時に高い焼結密度でバラツキの抑制された多数枚の焼結板材が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、焼結容器内に原料粉末の充填層と該充填層を仕切る相対密度50〜85%のスペーサーとを交互に配置した後、前記焼結容器に熱間静水圧プレス処理を施して焼結体を得、該焼結体のスペーサー部を切断除去して複数枚の焼結板材を得る焼結板材の製造方法である。
【0009】
本発明においては、原料粉末として、鉄よりも融点の高い高融点金属を用いる場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼結体を切断して複数枚の焼結板材を得る際に原料ロスを低減できるため、高価な金属材料の焼結板材を得る方法として、欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の原料粉末及びスペーサーの充填方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の原料粉末及びスペーサーの充填方法の一例を示す模式図である。
【図3】Mo焼結板材の相対密度と加圧容器の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の重要な特徴は、HIP処理による焼結体の切断部分をスペーサーで構成し、切断しろとしてのスペーサーを切断することで、複数枚の焼結板材を得る際に原料の切断ロスを低減できることを見出した点である。
また、HIP処理に際しては、HIP用の焼結容器に特定温度で高圧かつ等方的な圧力が付与される。本発明者が、焼結容器に原料粉末の充填層とその充填層を仕切るスペーサーを交互に配置して、HIP処理を行なったところ、原料粉末の焼結容器への充填密度とスペーサーの相対密度に大きな差がある場合には、焼結容器内の中心部の焼結密度が上がらず、焼結容器内の壁面付近部との焼結密度にバラツキが発生するという問題を発見した。そこで、本発明においては、スペーサーの相対密度を原料粉末の充填密度とほぼ同等となる50〜85%に制御する。このスペーサーの相対密度の制御も本発明における重要な特徴である。
【0013】
以下、さらに具体的な例を含めて説明する。
図1に本発明の焼結容器内に原料粉末の充填層と充填層を仕切るスペーサーとを交互に配置した状態の一例を示し説明する。まず、図1(a)に示すように、焼結容器1にスペーサー2を設置し、図1(b)に示すように、設置したスペーサーと焼結容器で形成される空間に原料粉末3を充填することで充填層を形成し、焼結容器内に原料粉末とスペーサーとを交互に配置する。その後、図1(c)に示すように、脱気孔5付きの蓋体4を焼結容器に溶接し、脱気孔から焼結容器内を脱気して脱気孔を封止する。封止した加圧容器をHIP装置内に配置し、HIP処理を行って、焼結体を得る。得られた焼結体は、原料の焼結部とスペーサー部を有しているので、このスペーサー部を切断除去することで、複数枚の焼結板材が得られる。
なお、別の焼結容器内に原料粉末の充填層と充填層を仕切るスペーサーとを交互に配置した状態の一例を示す図2のように、原料粉末を焼結容器内に所定の厚さになるように充填して充填層を形成した上に、スペーサーを設置し、更にその上に原料粉末の充填を繰り返して、原料粉末とスペーサーを交互に配置することもできる。
【0014】
また、本発明においては、スペーサーの相対密度の設定が重要となる。HIP処理では、処理材に等方的に圧力が付与されるが、原料粉末と別材質のスペーサーとを同時にHIP処理する際には、その表面部と中心部で焼結の進行に差が生じると考えられる。特に、焼結容器に配置される原料粉末の相対密度に比べてスペーサーの相対密度が高い場合には焼結進行に顕著な差が発生し、中心部の焼結体の相対密度は上がらない。
そこで、加圧容器に充填する原料粉末の充填密度とスペーサーの相対密度をほぼ同等にしてHIP処理を施すことが、焼結体の密度バラツキを抑制する上で重要になる。原料粉末の充填密度は、その組成、原料粉末の形状・粒径によって異なるが、原料粉末の加圧容器への充填密度は凡そ50〜85%であるため、スペーサーの相対密度の範囲も50〜85%とする。尚、スペーサーの相対密度は、アルキメデス法により測定した密度とスペーサー原料の理論密度の相対比で表される密度を言い、相対密度(%)=100×測定密度/理論密度で表される。
【0015】
また、焼結容器内に配置する原料粉末は、HIP処理による焼結後に所望の形状が得られるように設定すれば良く、原料粉末の充填密度から収縮量を計算して決定できる。また、スペーサーも相対密度50〜85%であるため焼結後の収縮量を考慮して形状を設定する必要がある。また、スペーサーはHIP処理後に切断除去するため、切断工具の幅よりも大きくなるような厚さとすることが原料の切断ロスを低減する上で望ましい。
【0016】
HIP処理は、焼結容器が溶融しない温度で可能な範囲の高圧を発生させることで、原料粉末を高密度に焼結可能な優位な焼結処理方法である。焼結容器の材質としては、軟鉄SPCCやステンレス等の材質が適用でき、これらの鉄基材質を適用した場合であれば、1000℃〜1400℃程度の温度、50〜150MPaの圧力、0.5〜10hの保持時間が用いられることが多い。
この条件により、例えば鉄よりも融点の高い高融点金属のMo、Wなどを原料粉末として相対密度98%以上の焼結体を得ることができる。また、上記の高融点金属を主体とし、Ti、Nb、Zr等の高融点金属からなる複数の元素の粉末を混合して充填して焼結する合金の焼結体とすることも可能である。
【0017】
また、HIP処理により得られた焼結体のスペーサー部の切断除去方法としては、ワイヤー放電加工や鋸切断があり、スペーサーの材質に合わせて適宜選定すると良い。
【0018】
本発明のスペーサーは、焼結容器に原料粉末とともに配置されてHIP処理される。また、HIP処理後に切断除去される。そのため、スペーサーの材質は、HIP処理の高温高圧下で溶融せず、原料粉末よりも安価である必要がある。このような材料として、例えば、Fe、Cu、Cr又は、これらを主体とする合金がある。これらの元素は比較的安価なためスペーサーとして適した材料である。
また、原料粉末とスペーサーがHIP処理による焼結時に反応する場合は、スペーサーを金属箔で覆っても良い。金属箔としては、ステンレス箔やNb箔等があり、原料粉末との反応性や金属箔の融点を考慮して適宜材質を選定すると良い。特にNb箔は原料粉末中の酸素を吸収するので、低酸素濃度の焼結体を作製する場合には好適である。
【0019】
また、スペーサーとしては、焼結容器内で原料粉末の充填層を仕切ることが可能で、相対密度が50〜85%であれば適用可能である。例えば、部分的に空隙を有する所望の相対密度のポーラス状板材や、粉末材料を所望の相対密度に圧縮成形した板材あるいは焼結した板材が適用可能である。
なお、スペーサーの作製方法は、相対密度50〜85%のスペーサーが得られる方法であれば適用可能である。例えば、スペーサーの原料となる粉末を焼結時間や焼結温度を調節したHIPやホットプレスで所望の相対密度の板状等の焼結体とする方法がある。その他の方法として、スペーサーの原料粉末を冷間でプレス成形して所望の相対密度の板状等の成形体としても良い。
【実施例】
【0020】
Fe粉末を超硬製の金型に充填し、表1に示す各加圧圧力の条件で冷間プレスを施してFe成形体を作製し、切断・機械加工して145.5×5.6×158(mm)のスペーサーを得、作製したスペーサーの相対密度をアルキメデス法により測定した。
【0021】
【表1】

【0022】
また、Fe粉末を軟鋼製の焼結容器内に充填し、表2に示す各加圧圧力、加熱温度、保持時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)による加圧焼結を施し得られたFe焼結体を切断・機械加工して145.5×5.6×158(mm)のスペーサーを得、作製したスペーサーの相対密度をアルキメデス法により測定した。
【0023】
【表2】

【0024】
次に、軟鋼製の焼結容器(145.5×145.5×高さ175mm)に上記で作製した試料2のスペーサー(145.5×5.6×158mm)の最大面が焼結容器底面に対して垂直になるような方向で図1に示すように配置し、スペーサーと焼結容器で形成される空間(8.4mm間隔)に原料粉末として粒度分布(d50)が100μmのMo粉末を充填した。この際のMo原料粉末の充填密度は59%であった。
また、試料3、4のスペーサーについても上記と同様に焼結容器内に配置し、同様の粒度分布のMo粉末を充填した。いずれのMo原料粉末の充填密度も59%であった。
なお、試料1のスペーサーは相対密度が低く形状を保持することが困難であり、スペーサーとして使用することができなかった。
【0025】
次に、上記でMo原料粉末とスペーサーを交互に配置した各焼結容器に図1(c)に示すように蓋体を溶接し、蓋体の脱気孔から真空脱気し焼結容器を封止した。封止した焼結容器をHIP装置内に設置して、加圧圧力140MPa、加熱温度1250℃、保持時間5時間の条件でHIP処理を施し焼結体を得た。得られた焼結体のスペーサー部を鋸切断機で切断除去して10枚に分断し、各々表面を研削による機械加工を施して、110×120×5(mm)のMo焼結板材とした。アルキメデス法により作製した各々10枚のMo焼結板材の密度を測定し相対密度を算出した。算出した相対密度結果について焼結容器内の位置と相対密度の関係を図3に示す。
【0026】
また、比較例として、145.5×158×5.6(mm)、相対密度100%のSPCC(JIS G3141冷間圧延鋼板)製のスペーサー(試料5)を使用する以外は、上記と同様の条件で焼結容器にスペーサーとMo原料粉末を交互に配置し、HIP処理を施して焼結体を得た。なお、Mo原料粉末の充填密度は59%であった。得られた焼結体のスペーサー部を鋸切断機で切断除去して10枚に分断し、各々表面を研削機械加工を施して、110×120×5(mm)のMo焼結板材とした。アルキメデス法により作製した10枚のMo焼結板材の密度を測定し相対密度を算出した。算出した相対密度結果について焼結容器内の位置と相対密度の関係を図3に示す。
【0027】
図3から、試料2〜4のスペーサーを使用した場合には、得られた焼結板材は焼結容器内での位置に関わらず98%以上の相対密度を実現できることが確認できる。一方、相対密度が高い試料5のスペーサーを使用した場合は、加圧容器中央部になるにつれて相対密度が低下し、特に中央部の焼結板材の相対密度は相対密度が98%に満たないことが分かる。
【符号の説明】
【0028】
1.焼結容器、2.スペーサー、3.原料粉末、4.蓋体、5.脱気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結容器内に原料粉末の充填層と該充填層を仕切る相対密度50〜85%のスペーサーとを交互に配置した後、前記焼結容器に熱間静水圧プレス処理を施して焼結体を得、該焼結体のスペーサー部を切断除去して複数枚の焼結板材を得ることを特徴とする焼結板材の製造方法。
【請求項2】
原料粉末として、鉄よりも融点の高い高融点金属を用いることを特徴とする請求項1に記載の焼結板材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−185137(P2010−185137A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5930(P2010−5930)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】