説明

焼酎蒸留残液乾燥物とその製造方法

【目的】焼酎蒸留残液の処理方法としては海洋投棄、土壌還元、家畜飼料への混合といったものがあったが、いずれも問題が多い。そこで焼酎蒸留残液には発酵に伴う多種多様の有価物が含まれることに着目し、有価物を効率的に回収できる焼酎蒸留残液の処理方法を提供すること、より詳しくは、スプレードライすなわち噴霧乾燥によりながら安定した粉末の回収を可能とすると共に、発酵に伴う有価物を含む粉末の回収が可能な焼酎蒸留残液の乾燥法及び乾燥物を提供することを目的とする。
【構成】焼酎蒸留残液にカルシウム塩及び/又はマグネシウム塩の添加した溶液を噴霧乾燥させ焼酎蒸留残液乾燥物を得る。又、原材料として黒糖を用いた焼酎の蒸留残液を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼酎蒸留残液乾燥物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎の製造は以下の工程による。
【0003】
1、 元の原材料(多くの場合は米ないしは麦)へこうじ菌を生やし、麹をつくる。
【0004】
2、 麹をタンクや甕、木桶で酵母と培養及び発酵させ、もろみを作る(一次発酵)。
【0005】
3、 一次発酵させたもろみの中へ原材料を投入し、発酵させる(二次発酵)。この とき投入した原材料が焼酎の主要原材料として表記されることになる。二次発酵 としてサツマイモを投入すれば「芋焼酎」となる。
【0006】
4、 アルコールが生成された発酵液を蒸留する。
【0007】
上述の発酵液を蒸留する時に発生する焼酎蒸留残液の処理方法としては海洋投棄、土壌還元、家畜飼料への混合といったものがあった。しかし、焼酎蒸留残液は約90パーセント前後の水分を含んでいるため、土壌還元には地下水汚染、飼料としては水分が多すぎる等の問題点があって処理方法として限界があり、海洋投棄については地球環境保全の上から今後とも継続していけるとの見通しは立てがたい。
【0008】
そこで焼酎蒸留残液には発酵に伴う多種多様の有価物が含まれることに着目し、これら有価物を回収することで焼酎蒸留廃液の有効利用を図る方法が種々提案されている。例えば特許文献1には焼酎粕等から血糖値上昇抑制剤を製造する方法が提案されており、特許文献2には焼酎蒸留残液から健康補助食品を製造する方法が記載されており、特許文献3にはデキストリンを含む焼酎粕乾燥物の製法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−371003号公報
【特許文献2】特開2003−210135号公報
【特許文献3】特開2005−213157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように焼酎蒸留残液は含水率が90重量%前後と非常に高いがゆえに、乾燥したり固液に分離したりすることが難しく、処理にはコストがかかっていた。
【0010】
具体的には加熱濃縮したり或いはスプレードライ法といった方法が採用されているが、大量に発生する焼酎蒸留残液を加熱濃縮するのはコストの面で見合わない。
【0011】
又、スプレードライ法には安定した粉末の生成が難しいという難点がある。すなわち焼酎蒸留残液には酵母の発酵によるクエン酸が0・5〜1パーセント程度含まれるが、一般にクエン酸はスプレードライ法により非晶性の粉末を作るため、得られた生成物は潮解性を有することになる。この潮解性ゆえに安定した粉末の回収が困難となるのである。
【0012】
かような難点に鑑み本発明は、スプレードライすなわち噴霧乾燥によりながら安定した粉末の回収、より詳しくは発酵に伴う有価物を含む粉末の回収が可能な焼酎蒸留残液の乾燥法及び乾燥物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、カルシウム塩或いはマグネシウム塩の一方或いは両方を添加して噴霧乾燥すれば安定した粉末の回収が可能との知見を得た。又、焼酎の原材料としてはサツマイモ、米、麦等の一般的な焼酎原材料を使用することが可能であるが、黒糖を原材料とすれば生理活性物質を多く含む粉末の回収が可能との知見を得た。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る焼酎蒸留残液の乾燥法によれば、カルシウム塩及び/又はマグネシウム塩によりクエン酸カルシウムやクエン酸マグネシウムが精製されることになる。これらクエン酸カルシウムやクエン酸マグネシウムは潮解性を有しないことから、安定した粉末の回収が可能となるのである。すなわち加熱濃縮等の方法よりもエネルギー消費量の少ない、つまりはコストの安い噴霧乾燥法によりながら、安定した粉末の回収が可能となるのである。
【0015】
又、乾燥物にはクエン酸カルシウムやクエン酸マグネシウムが含まれることになるが、焼酎蒸留残液に含まれるクエン酸は0・5〜1重量パーセント程度と微量であるため生成されるクエン酸カルシウムも微量であり、しかもクエン酸カルシウムは菓子類、味噌、納豆等のカルシウム強化剤に使用されている果実酸であり無害なものである。一方、クエン酸マグネシウムは下剤等に使用されるものであるが、上述のように焼酎蒸留残液に含まれるクエン酸が微量であるため生成されるクエン酸マグネシウムも微量であり問題はない。
【0016】
以上のように本発明によって得られる焼酎蒸留残液乾燥物は、少量のクエン酸カルシウムやクエン酸マグネシウムが含まれるだけの純度の高いものであり、そのまま或いは適当な溶媒で抽出した液を化粧品・食品・医薬品などに用いることが可能なものである。
【0017】
又、黒糖焼酎蒸留残液には生理活性物質たるポリフェノール類が多く含まれており、このポリフェノール類にはチロシナーゼ阻害活性やメラニン生成抑制効果が認められる。つまりは本発明による乾燥粉末にはこれらの効果を有する生理活性物質を多く含む乾燥粉末の提供が可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に使用される焼酎蒸留残液は黒糖焼酎、芋焼酎、麦焼酎、そば焼酎、米焼酎等焼酎蒸留時に産生するものであれば特に原料の種類や蒸留方法等は問わない。又、二次発酵を行わない乙類焼酎たる泡盛の蒸留残液も利用可能であり、本発明に記載される焼酎蒸留残液とは泡盛蒸留時の残液も含むものである。
【0019】
焼酎蒸留残液ををそのまま、或いは固液分離・ろ過などにより固形分を除いた溶液に、炭酸カルシウムを0.5〜20g/l加え加熱・攪拌などを行いクエン酸カルシウムの精製を促す。この際カルシウム塩、マグネシウム塩であれば炭酸カルシウム以外でもよいが(例えば乳酸カルシウム、燐酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等も使用可能であるが)、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0020】
上記溶液をそのまま、あるいはクエン酸カルシウムの沈殿をろ別し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥し粉末を作成する。作成した粉末はそのまま或いは適当な溶媒で抽出した液を化粧品・食品・医薬品などに利用することができる。
【実施例1】
【0021】
焼酎蒸留残液を以下の7つの方法で噴霧乾燥させ、残液1lあたりの回収粉末の量を測定した。
【0022】
1、 焼酎蒸留残液を固液分離しないでスプレードライ
2、 焼酎蒸留残液を固液分離しないで、炭酸カルシウムを加えスプレードライ
3、 焼酎蒸留残液を固液分離・ろ過した後スプレードライ
4、 焼酎蒸留残液を固液分離・ろ過した後、炭酸カルシウムを加えスプレードライ
5、 焼酎蒸留残液を固液分離・ろ過した後、炭酸カルシウムを加え、生じたカルシウ ム塩をろ過しスプレードライ
6、 焼酎蒸留残液を固液分離・ろ過した後、5%デキストリンを加えスプレードライ
7、 焼酎蒸留残液を固液分離・ろ過した後、10%デキストリンを加えスプレードラ イ
噴霧乾燥条件は以下の通りである。
【0023】
機種: 大川原化工機株式会社製 LB−8型 アドマイザ回転数:30000rpm 入口温度: 180℃ 出口温度: 125℃ 流速: 20ml/min
結果は表1に示すとおりであり、焼酎蒸留残液の固液分離の有無、カルシウム塩のろ過の有無にかかわらず、炭酸カルシウムを加えた場合に粉末の回収効率が大きく向上するとの結果を得た。
【0024】
【表1】

【実施例2】
【0025】
黒糖焼酎蒸留残液を実施例1における7つの方法で噴霧乾燥させ、当該方法で得た粉末に有価物、具体的にはポリフェノールがどの程度含まれるかを以下の方法で測定した。
【0026】
一、 1 黒糖焼酎蒸留残液を本発明に係る製法で乾燥させ、得た粉末を約500m g秤量する。 2 溶媒(80v/v%エタノール、50v/v%エタノール)を5.00ml加 え、激しく振とうさせ遠心分離機(3000rpm、20分)にかけ、上澄 みを以下の二つの操作で分析する。 (一) フォーリンデニス法によるポリフェノールの定量法 (1) 各試料を精製水で20倍に希釈する (2) (1)の溶液を100μl試験管に採り、精製水3.300mlを 加える。 (3) フォーリンデニス試薬を200μlと炭酸ナトリウム水溶液 400μlを加え、試験管ミキサーなどで十分攪拌し、60分間 放置する。 (4) 分光光度計(日立U−2810、光路長10mm)で760nm における吸光度を測定する (5) 検量線は、3,4−ジヒドロキシけい皮酸(カフェ酸)を用いて 作成する。 (二) フェノール硫酸法による糖の定量法 (1) 各試料を精製水で20倍に希釈する (2) (1)の溶液を20μl試験管に採り、精製水480mlを 加える。 (3) 5%フェノール水溶液500mlを加え、濃硫酸2.5mlを攪 拌しながらゆっくりと加える。試験管ミキサーなどで十分攪拌 し、60分間放置する。 (4) 分光光度計(日立U−2810、光路長10mm)で490nm における吸光度を測定する (5) 検量線は、グルコースを用いて作成する。
【0027】
結果を表2に示す。表中A欄は噴霧乾燥直前の溶液に何グラムの固形分が本来含まれているのかを示し、B欄は1リットル当たり何グラムの粉末が回収できたかを示し、D欄は抽出に用いた粉末濃度を示し、F欄は加えた粉末に対して何パーセントの物質が抽出されたかを示し、G欄は抽出液中のポリフェノール量(カフェ酸換算)を示し、H欄は抽出物におけるポリフェノールの純度(カフェ酸換算)を示し、I欄は抽出液中の糖分量(グルコース換算)を示し、J欄は1グラムのポリフェノールを得るのに何リットルの焼酎蒸留残液が必要かを示す。ここにJ欄の値は小さいほどスプレードライの運転が減り、効率が良いことを示す。
【0028】
表中No.1、No.2に示されるように不溶物をろ過しない場合、抽出液の純度は大差ないが、得られる粉末化の効率が悪くコストがかかる。No.4、No.5に示されるように炭酸カルシウムを0.5%投入することで総合回収効率が良くなり、純度も良い。炭酸カルシウム投入後の沈殿物はろ過してもしなくても良い。No.6、No.7に示されるようにデキストリンを加えスプレードライした場合は、粉末の回収率は悪くないが、ポリフェノールの抽出効率が大きく劣ることになる。純度もやや悪くなる。
【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎蒸留残液にカルシウム塩及び/又はマグネシウム塩の添加した溶液を噴霧乾燥させた焼酎蒸留残液乾燥物。
【請求項2】
焼酎の原材料が黒糖である請求項1記載の焼酎蒸留残液乾燥物。
【請求項3】
焼酎蒸留残液にカルシウム塩或いはマグネシウム塩の一方或いは両方を添加した溶液を噴霧乾燥させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の焼酎蒸留残液乾燥物の製造方法。

【公開番号】特開2009−213382(P2009−213382A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59117(P2008−59117)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(508072729)財団法人奄美市農業研究センター (1)
【Fターム(参考)】