説明

熱交換器、冷凍サイクル装置及びそれらの製造に用いる親水性塗料

【課題】熱交換器の蒸発器に使用したアルミフィン表面に親水性塗膜を設けた熱交換器用アルミフィンの表面が経持的に撥水化するのを抑制し、熱交換器及び該熱交換器を用いた冷凍サイクル装置の経時的撥水化の問題を軽減する
【解決手段】アルミフィン表面に親水性塗膜が設けられたアルミフィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されている熱交換器を製造し、該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器用アルミフィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器であって、経時的に該親水性塗膜が撥水化することを抑制した熱交換器、該熱交換器を蒸発器に使用した冷凍サイクル装置及び前記親水性塗膜の形成に使用される親水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
室内用熱交換器に使用されるアルミフィンには、アルミフィン基材の腐食を防止するための下地処理が施された後、冷房時に発生する凝縮水が水滴状となり、熱交換器の性能を低下させることを防止するための表面親水化処理が施されている。前記凝縮水が水滴状になると、水滴の飛散等の不具合の原因となり、更に該水滴がアルミフィン間でブリッジを形成すると、空気の通風路を狭めるため通風抵抗が大きくなって電力の損失、騒音の発生等の問題が生ずる。
【0003】
前記アルミフィン基材としては、軽量性、加工性、熱伝導性に優れたアルミニウム又はアルミニウム合金製の基材が一般に使用されている。又、前記アルミフィン基材の腐食を防止するための下地処理として、一般にクロメートによる化成処理等が行われている。
【0004】
一方、前記表面親水化処理としては、例えば
(i)有機樹脂にシリカ、水ガラス、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、チタニア等を混合した塗料又はこれらの塗料に更に界面活性剤を含有させた塗料を塗布する方法
(ii)ポリビニルアルコールと特定の水溶性ポリマーとを組合せて用いる方法
(iii)特定の親水性モノマーからなる親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック共重合体と、金属キレート型架橋剤とを組合せて用いる方法
(iv)ポリアクリルアミド系樹脂を用いる方法
(v)ポリアクリル酸ポリマー等の高分子と、この高分子と水素結合によるポリマーコンプレックスを形成し得るポリエチレンオキサイドやポリビニルピロリドン等の高分子とを組合せて用いる方法
等の有機材料を主成分として使用する方法や、
(vi)水ガラスを塗布する方法
等の無機材料を主成分として使用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、特許文献2には、有機樹脂とシリカを主成分とする塗膜を形成したアルミフィンについて、初期段階では親水性が良好に発揮されるが、乾湿状態の繰り返しや空気中の炭化水素類等の付着等により経時的にその親水性が次第に劣化してしまう傾向にあることが記載されている。
【特許文献1】特開2002−275650号公報(例えば段落[0002]〜[0007]参照)
【特許文献2】特開平10−30069号公報(例えば段落[0005]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、室内用熱交換器は、建家の気密・断熱性が向上し、かつ、油分、ホルムアルデヒド、VOC(揮発性有機化合物)等様々な化学物質の浮遊した環境下で使用されることが多くなっている。この結果、前述のごとく、前記化学物質がアルミフィン上に形成された親水性塗膜に付着、堆積することにより塗膜表面を撥水化させ、運転により付着した凝縮水がアルミフィン表面に広がらずに水滴状になる。その結果、屋内に冷風を送る際に吹出口から水滴が飛散するという問題が生じている(例えば、特許文献2参照)。又、撥水化の原因と考えられる付着汚染物質を取り除くために、アルミフィン表面を洗浄した後も親水性が充分回復せず、再度短期間に同様な水滴飛散が起こるという問題も生じている。更に、前記洗浄を行った場合、アルミフィン基材の耐食性が低いため、アルミフィンの腐食を促進するという問題がある。そして、未だ親水性塗膜表面の親水性の劣化メカニズムが明確でなく、恒久的な対策がとれないという問題がある。
【0007】
本発明は、前記熱交換器用アルミフィンを蒸発器に使用した熱交換器及び該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置の問題、すなわち、経時的にアルミフィン表面が撥水化することによる問題の原因を明確にし、該問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、前記撥水化は、環境有機物質の付着及び親水性塗膜の表面に存在する例えば2個の水酸基がエーテル結合に変換することあるいは水酸基がカルボニル基に変換し、親水性が低下することのみならず、該環境有機物質に含まれる又は該環境有機物質が変化して生成したカルボン酸化合物とアルミニウムと水との化学反応によって生成するカルボン酸アルミニウムが主原因であることを見出した。前記カルボン酸アルミニウムの生成は、親水性塗膜中に前記カルボン酸化合物がアルミニウムと反応する前に反応する化合物を含有させることにより抑制させ得ることを見出した。
【0009】
本発明は、アルミフィン表面に親水性塗膜が設けられたアルミフィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されている熱交換器である。
【0010】
前記アルミフィン上に形成された親水性塗膜が環境有機物質と接触した場合、環境有機物質由来の成分がアルミフィン基材から溶出したアルミニウムイオンよりもアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩からのアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンと反応し易い場合、該環境有機物質由来の成分は前記アルカリ金属イオンやアンモニウムイオンと反応する。環境有機物質由来の成分がアルミニウムイオンと反応して水に溶解しにくい化合物が生成する場合でも、該反応の前にアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンと反応することにより、水に溶解しやすい化合物が生成して凝縮水により洗い流されるので熱交換器用アルミフィンの表面撥水化が抑制される。
【0011】
又、前記アルカリ金属塩は、環境有機物質由来の成分であるカルボン酸化合物Aと反応し、該カルボン酸化合物のアルカリ金属塩A1を生成するのが好ましい。
前記環境有機物質には、カルボン酸化合物A等が含まれるが、これがアルミフィン上に形成された親水性塗膜と接触した場合には、アルミフィン基材から溶出したアルミニウムイオンよりも前記カルボン酸化合物Aとの反応性の高いアルカリ金属塩からのアルカリ金属イオンと反応し、カルボン酸アルミニウムの生成が抑制される。生成したカルボン酸アルカリ金属塩A1は、水に溶解し易い化合物であるため、生成した凝縮水に溶解し、洗い流される。そのため、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aがアルミニウムイオンと反応してカルボン酸アルミニウムが生成した場合のように、撥水性を呈することがなく、熱交換器用アルミフィンの表面撥水化が抑制された熱交換器が得られる。
【0012】
又、前記アルカリ金属塩は、pKa0.3〜15のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩であるのが好ましく、該アルカリ金属塩として、酢酸アルカリ金属塩又はマレイン酸ナトリウム等の多価カルボン酸アルカリ金属塩を使用することができる。
【0013】
前記カルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩中には、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aのカルボキシル基と同等〜該カルボキシル基よりも弱いカルボキシル基の塩が含まれるため、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aが、前記カルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩中の前記同等〜弱いカルボキシル基の塩からアルカリ金属イオンを奪い、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aのアルカリ金属塩が生成し易くなる。
【0014】
更に、本発明では、前記アルカリ金属塩が、前記親水性塗膜に対して0.01〜10重量%含有されるのが好ましく、マレイン酸ナトリウムの場合、親水性塗膜に対して0.19〜10重量%含有されるのが好ましい。この場合には、親水性塗膜が設けられた熱交換器用アルミフィンとして良好な性能を有する熱交換器用アルミフィンを製造することができる。
【0015】
又、本発明では、前記アルカリ金属塩の代わりにアンモニウム塩を使用することができる。この場合には、前記アルカリ金属塩がアンモニウム塩に代わっているため、アルカリ金属塩を使用した場合の方が、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aとの反応性が高い点以外同じである。なお、好ましいアンモニウム塩の具体例として、酢酸アンモニウム塩及び多価カルボン酸アンモニウム塩に加えて、硫酸アンモニウム塩を使用することができる。硫酸アンモニウム塩を使用する場合、前記親水性塗膜に対して0.15〜10重量%含有させるのが好ましい。
【0016】
更に、本発明では、前記親水性塗膜として、ポリアクリル酸系塗膜、ポリビニルアルコール系塗膜、エポキシ系塗膜、アクリルセルロース系塗膜、アクリルアミド系塗膜又は前記塗膜を形成する樹脂のうちの2種以上を含む塗膜を使用することができる。この場合、熱交換器用アルミフィンの表面に設けられる親水性塗膜が、長期間親水性を持続できるようにすることができる。
【0017】
前記説明は、熱交換器についての説明であるが、該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置についても、同様に作用する。
また、前記熱交換器用アルミフィンの表面に形成される塗膜を形成することができる親水性塗料を、熱交換器用アルミフィンの表面の塗装に使用した場合、本発明の熱交換器に使用されるアルミニウムフィンが得られ、本発明の熱交換器の場合と同様に作用する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱交換器のアルミフィン上の親水性塗膜に、アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を含有させる。この結果、環境有機物質がアルミフィンに接触しても、該環境有機物質由来の成分、例えばカルボン酸化合物Aが、アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩からのアルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオンと反応する。そして、該環境有機物質由来の成分、例えばカルボン酸化合物Aのアルカリ金属塩A1及び/又はアンモニウム塩A2が形成され、水への溶解性を上げることができ、撥水性が抑制される。又、アルミフィン表面に形成する親水性塗膜中に含有させるアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩の含有量及び種類を規定することにより、生成するカルボン酸アルカリ金属塩等の生成のし易さ、水への溶解性を上げることができる。アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を形成する酸は所定の範囲のpKaであるのが更に好ましい。アルミフィンの表面に形成する親水性塗膜の種類を規定することにより、更に好ましい表面撥水化抑制熱交換器用アルミフィンを得ることができ、これを用いた熱交換器を得ることができる。また、該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置においても同様の効果が得られる。更に、前記親水性塗料を用いて熱交換器用アルミフィンを製造し、次いで熱交換器を製造することにより本発明の熱交換器が得られ、該熱交換器を使用した場合の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の熱交換器は、アルミフィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用アルミフィンを蒸発器に使用した熱交換器であり、前記親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されている。
【0020】
本発明において、カルボン酸化合物A等が含まれる環境有機物質が、アルミフィン上に形成された親水性塗膜と接触した場合、アルミフィン基材から溶出したアルミニウムイオンよりも前記カルボン酸化合物Aとの反応性の高い化合物(アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩)が存在する場合、そこからのアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンとの反応が優先し、カルボン酸アルミニウムの生成が抑制される。このようにして生成したカルボン酸アルカリ金属塩A1やカルボン酸アンモニウム塩A2は、水に溶解し易い化合物であるため、生成した凝縮水に溶解し、洗い流される。そのため、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aがアルミニウムイオンと反応してカルボン酸アルミニウムが生成した場合のように、撥水性を呈することがなく、熱交換器用アルミフィンの表面撥水化が抑制される。
【0021】
一方、カルボン酸化合物Cが最初から親水性塗膜中に含まれている場合、アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が該塗膜中に含有せしめられた時点で該カルボン酸化合物Cはすぐにアルカリ金属塩C1又はアンモニウム塩C2になる。このとき、アルミフィン基材の腐食はほとんど起こっていないから、アルミニウムイオンの溶出は少ない。したがって、親水性塗膜中に含まれているカルボン酸化合物Cとアルミニウムイオンとの反応も起こり難く、熱交換器の運転により凝縮水が生成し、アルミフィン表面を濡らすと、前記カルボン酸化合物Cのアルカリ金属塩C1及び/又はアンモニウム塩C2は、凝縮水に溶解し、除去されると考えられる。
【0022】
なお、前記親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有され、水が存在するとき、該アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩は解離するため、アルミニウムイオンの生成が抑制されると考えられる。
【0023】
前記表面に親水性塗膜が設けられたアルミフィンは、アルミニウム又はアルミニウム合金製のフィン基材表面に、耐食性向上のための処理、例えばクロメート処理、耐食性有機皮膜の形成又はクロメート処理及び耐食性有機皮膜の形成等を施したものであり、該アルミフィンの表面に親水性塗膜を設けたものが、表面に親水性塗膜を設けたアルミフィンである。
【0024】
前記親水性塗膜は、該親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されている以外、従来から使用されている親水性塗膜が設けられた熱交換器用アルミフィンに使用されているものと同じものである。そして、該塗膜を形成するための塗料が親水性塗料である。
【0025】
前記親水性塗膜の代表例としては、例えば
(1)親水性有機樹脂を主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂系塗膜、
(2)親水性有機樹脂とコロイダルシリカを主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜、
(3)主成分のアルカリ珪酸塩とアニオン系又はノニオン系親水性有機樹脂との混合物である水ガラス系塗膜
等を挙げることができる。なかでも、有機樹脂系塗膜(1)、有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)が成形加工性及び耐臭気性の点から好ましく、有機樹脂系塗膜(1)がさらに好ましい。
【0026】
前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用する親水性有機樹脂としては、分子内に水酸基、カルボキシル基又はアミノ基等の官能基を含有し、そのままで、又は前記官能基を酸又は塩基で中和することにより、水溶化ないしは水分散化可能となる樹脂を挙げることができる。
【0027】
前記親水性有機樹脂の具体例としては、例えばポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(例えばアクリルアミド、不飽和カルボン酸、スルホン酸基含有モノマー、カチオン性モノマー、不飽和シランモノマー等との共重合物)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル酸、カルボキシル基含有アクリル樹脂、エチレンとアクリル酸との共重合体アイオノマー等のアクリル酸系樹脂、エポキシ樹脂とアミンとの付加物等のエポキシ系樹脂、アクリルアミド系樹脂、ポリエチレングリコール、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂等の合成親水性樹脂;デンプン、セルロース、アルギン等の天然多糖類;酸化デンプン、デキストリン、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルセルロース系樹脂等の天然多糖類の誘導体等を挙げることができる。これらの内では、アクリル酸系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリルセルロース系樹脂、アクリルアミド系樹脂又は前記樹脂のうちの2種以上を含む樹脂であるのが好ましい。
【0028】
前記有機樹脂系塗膜(1)において必要に応じて使用される架橋剤としては、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリエポキシ化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、金属キレート化合物等を挙げることができる。該架橋剤は一般に水溶性又は水分散性を有していることが、均一な塗膜が形成され易い点から好ましい。
【0029】
前記架橋剤の具体例としては、例えばメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチルブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチルエーテル化尿素樹脂、メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ポリフェノール類又は脂肪族多価アルコールのジ−又はポリグリシジルエーテル、アミン変性エポキシ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリイソシアヌレート体のブロック化物;チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)等の金属元素の金属キレート化合物等を挙げることができる。該金属キレート化合物は、一分子中に2個以上の金属アルコキシド結合を有するものが好ましい。
【0030】
前記有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)の形成に用いる親水性有機樹脂としては、前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用する親水性有機樹脂と同様のものを使用することができる。
【0031】
また、前記有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)の形成に使用されるコロイダルシリカは、いわゆるシリカゾル又は微粉状シリカであって、通常、粒子径が5nm〜10μm程度、好ましくは5nm〜1μmで、通常、水分散液として供給されているものをそのまま使用するか、又は微粉状シリカを水に分散させて使用することができる。有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)を形成する際に、有機樹脂及びコロイダルシリカは単に混合したものであってもよいし、有機樹脂及びコロイダルシリカをアルコキシシランの存在下で反応させ複合化させたものであってもよい。
【0032】
前記水ガラス系塗膜(3)の形成に使用するアニオン系又はノニオン系親水性有機樹脂としては、前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用される親水性有機樹脂のうち、アニオン系又はノニオン系有機樹脂を使用することができる。
【0033】
本発明において、前記親水性塗膜中に含有されるアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩とは、pKaが0.3〜15の酸基、例えばカルボキシル基を有する酸のアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩のことである。前記pKaを有する酸基を分子中に少なくとも1個有することが好ましい。このような酸基からのアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を含有する場合、カルボン酸化合物A等が含まれる環境有機物質がアルミフィン上に形成された親水性塗膜と接触すると、アルミフィン基材から溶出したアルミニウムイオンよりも前記カルボン酸化合物Aとの反応性の高い化合物(アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩)からのアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンとの反応が優先し、カルボン酸アルミニウムの生成が抑制される。このようにして生成したカルボン酸アルカリ金属A1やカルボン酸アンモニウム塩A2は、水に溶解しやすい化合物であるため、生成した凝縮水に溶解し、洗い流される。そのため、環境有機物質に含まれるカルボン酸化合物Aがアルミニウムイオンと反応してカルボン酸アルミニウムが生成した場合のように、撥水性を呈することがなく、熱交換器用アルミフィンの表面撥水化が抑制される。
【0034】
前記アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩としては、pKa4.5〜13の酸基を有するアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩であるのが好ましく、例えば前記範囲のpKaを有するカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩、硫酸、リン酸、ポリリン酸、硼酸等のアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩等が挙げられる。これらのうちでは、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等のモノカルボン酸アルカリ金属塩、マレイン酸ナトリウム(マレイン酸モノナトリウム塩及び/又はマレイン酸ジナトリウム塩)、グルタミン酸ナトリウム等の多価モノカルボン酸アルカリ金属塩、前記モノカルボン酸及び多価モノカルボン酸のアンモニウム塩、硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0035】
前記pKa4.5〜13を有するカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bの具体例としては、カルボキシル基に含まれる炭素以外の炭素数が0〜10のカルボン酸化合物、具体的には蟻酸、酢酸、マレイン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0036】
前記親水性塗膜は、前記塗膜成分並びにアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩のみから形成されていてもよいが、必要に応じて、塗膜の親水性を向上させるための界面活性剤;親水性を向上させるための親水性重合体微粒子(通常、平均粒子径0. 03〜1μm、好ましくは0.05〜0.6μmの範囲内である);2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジサルファイド、ゼオライト(アルミノシリケート)などの防菌剤;タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾール等の防錆剤;モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、鉄等の酸素酸塩化合物;着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料類等を含有することができる。
【0037】
前記親水性塗膜に含有されるアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩の量は、アルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を含む親水性塗膜に対して0.01重量%以上、アルカリ金属塩の場合更には0.19重量%以上、特には0.38重量%以上、ことには1重量%以上、更にことには2重量%以上、アンモニウム塩の場合さらには0.15重量%以上、特には0.3重量%以上、ことには1重量%以上、更にことには2重量%以上であるのが、アルミフィンのほぼ全面に付着し得る環境有機物質由来のカルボン酸化合物Aと反応するのに必要な含有量であり、本発明の効果を維持する期間が長くなる、また、付着した反応物がドレン水や洗浄液等で洗い流され易くなる点から好ましく、10重量%以下、さらには6重量%以下、特には5重量%以下、ことには4重量%以下であるのが、本発明の親水性の持続耐久性を保ちつつ本来の親水性を著しく損なわない含有量である点、親水性塗膜が形成され易い点、塗膜内にほぼ完全に又均一に分散され易い点から好ましい。
【0038】
なお、例えば前記親水性塗膜を形成する塗料中に、すでにアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されていることもあるが、この場合、すでに含有されているアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩と、後から加えられるアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を合わせたものが、本発明において親水性塗膜中に含有されるアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩となる。
【0039】
前記塗膜の形成に使用される塗料が本発明の親水性塗料であり、各成分の使用割合は、塗膜の場合と同様である。違いは、形態が既に塗膜に形成されているか、塗膜が形成される前の塗料の状態であるかの違いである。
【0040】
次に、本発明に使用する表面の撥水化を抑制した熱交換器用アルミフィン及びその製造方法について説明する。なお、本発明の熱交換器は、該熱交換器用アルミフィンを有する熱交換器であり、本発明の冷凍サイクル装置は、該熱交換器を有する冷凍サイクル装置である。
【0041】
本発明に使用する表面の撥水化を抑制した親水性塗膜を設けた熱交換器用アルミフィンは、アルミニウム又はアルミニウム合金製のフィン基材表面に耐食性向上のための皮膜を形成した上に、前記親水性塗膜を設けたものである。
【0042】
前記アルミフィン基材としては、従来、熱交換器用アルミフィン基材として使用可能なそれ自体既知のものを使用することができる。
前記アルミフィン基材上に前記耐食性向上のための皮膜を設けることによって、耐食性向上被膜を有するアルミフィン基材を得ることができる。前記皮膜は、アルミフィン基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に、それ自体既知の処理方法、例えば浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装等の塗装方法によって設けることができる。前記皮膜が塗装による場合の乾燥条件は、通常、基材到達最高温度が約60〜250℃となる条件で約2秒から約30分間乾燥させることにより行われる。
【0043】
また、乾燥膜厚としては、通常、0.001〜10μm、特に0.1〜3μmの範囲が好ましい。0.001μm未満になると、耐食性、耐水性等の性能が劣る傾向が生じ、一方、10μmを超えると、下地処理膜が割れたり親水性が劣る傾向が生じる。
【0044】
前記皮膜を設けたアルミフィン基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に前記親水性塗膜を、それ自体既知の塗装方法、例えば、浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装等の方法により塗装して乾燥させることによって、表面に親水性塗膜が形成された熱交換器用アルミフィンを製造することができる。前記親水性塗膜の膜厚には特に限定はないが、通常、0.3〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの範囲内である。又、親水性塗膜の形成条件(乾燥条件)は用いる有機樹脂の種類、塗膜の厚さ等に応じて適宜設定することができるが、通常、アルミフィン材到達最高温度が約80〜250℃となる条件で約5秒から約30分間乾燥させるのが好ましい。
【0045】
このようにして製造された表面に親水性塗膜が形成された熱交換器用アルミフィンは、熱交換器の蒸発器に使用され、製造された熱交換器は、冷凍サイクル装置の製造に使用される。
【0046】
なお、前記冷凍サイクル装置とは、空気調和器及び冷蔵庫、例えばコンテナ冷蔵庫、営業用冷蔵庫、ショーケース等の冷蔵庫、更に冷凍設備用冷凍装置等のように、冷媒が蒸発することにより熱交換用アルミフィンを介し、その周囲を冷却する装置のことである。
【実施例】
【0047】
次に本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1及び従来例1]
表面をクロメート処理したアルミフィン基材上に、表1に記載の塗料を乾燥膜厚が0.5μmになるように塗装し、200〜220℃で30秒の条件で乾燥させた2種類の塗装物を得た。得られた塗装物からアルミフィンを製造し、得られたアルミフィンを使用して熱交換器を形成するアルミフィンの束の枚数の半分を実施例1の塗料を塗装したアルミフィンとし、残りの半分を従来例1の塗料を塗装したアルミフィンとした熱交換器を製造し、次いで天井埋め込み型のマルチフローカセットタイプのエアーコンディショナーを製造した。
【0048】
得られたエアーコンディショナーを一般事務所に設置し、7〜9月の3ヵ月間、10時間/日、冷房運転をした。3ヵ月後、運転中に前面パネルを外してアルミフィン部を観察したところ、実施例1の塗料を塗装した側には、アルミフィン間に水滴によるブリッジは形成しておらず、水滴の飛散もなかったが、従来例1の塗料を塗装した側には、アルミフィン間に水滴によるブリッジが形成しており、水滴の飛散があった。
【0049】
前記の結果から、実施例1の場合、アルミフィン表面は良好な親水性を保っているが、従来例1の場合、アルミフィン表面の親水性が低下していることがわかる。
【0050】
【表1】

*1:ポリビニルアルコール系塗料。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の親水性塗料を用いた熱交換器用アルミフィンは、熱交換器用アルミフィンの表面撥水化を抑制することができるので、アルミフィン表面、アルミフィン間に形成された水滴の飛散防止が図られ、又、空調システムとしての送風能力増加による更なる性能向上が図られ、特に室内で使用する空調機用の熱交換器、空気調整器又は冷凍機等の様々な用途に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミフィン表面に親水性塗膜が設けられたアルミフィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩が、環境有機物質由来のカルボン酸化合物Aと反応し、該カルボン酸アルカリ金属塩A1が生成することを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩が、pKa0.3〜15のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩が、酢酸アルカリ金属塩又は多価カルボン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩が、前記親水性塗膜に対して0.01〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩が、マレイン酸ナトリウムであり、該マレイン酸ナトリウムが前記親水性塗膜に対して0.19〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記アンモニウム塩が、環境有機物質由来のカルボン酸化合物Aと反応し、該カルボン酸アンモニウム塩A2が生成することを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項8】
前記アンモニウム塩が、pKa0.3〜15のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1または7記載の熱交換器。
【請求項9】
前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、酢酸アンモニウム塩又は多価カルボン酸アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1、7又は8記載の熱交換器。
【請求項10】
前記アンモニウム塩が、前記親水性塗膜に対して0.01〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項1及び7〜9のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項11】
前記硫酸アンモニウム塩が、前記親水性塗膜に対して0.15〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の熱交換器。
【請求項12】
前記親水性塗膜が、アクリル酸系塗膜、ポリビニルアルコール系塗膜、エポキシ系塗膜、アクリルセルロース系塗膜、アクリルアミド系塗膜又は前記塗膜を形成する樹脂のうちの2種以上を含む塗膜であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱交換器を使用したことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項14】
熱交換器用アルミフィンの表面に塗装される親水性塗料であって、親水性塗料にアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が含有されていることを特徴とする親水性塗料。
【請求項15】
前記アルカリ金属塩が、環境有機物質由来のカルボン酸化合物Aと反応し、該カルボン酸アルカリ金属塩A1が生成することを特徴とする請求項14記載の親水性塗料。
【請求項16】
前記アルカリ金属塩が、pKa0.3〜15のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項14又は15記載の親水性塗料。
【請求項17】
前記アルカリ金属塩が、酢酸アルカリ金属塩又は多価カルボン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の親水性塗料。
【請求項18】
前記アルカリ金属塩が、前記親水性塗料に対して0.01〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の親水性塗料。
【請求項19】
前記アルカリ金属塩が、マレイン酸ナトリウムであり、該マレイン酸ナトリウムが前記親水性塗料に対して0.19〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項14〜18のいずれか1項に記載の親水性塗料。
【請求項20】
前記アンモニウム塩が、環境有機物質由来のカルボン酸化合物Aと反応し、該カルボン酸アンモニウム塩A2が生成することを特徴とする請求項14記載の親水性塗料。
【請求項21】
前記アンモニウム塩が、pKa0.3〜15のカルボキシル基を有するカルボン酸化合物Bのアンモニウム塩であることを特徴とする請求項14または20記載の親水性塗料。
【請求項22】
前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、酢酸アンモニウム塩又は多価カルボン酸アンモニウム塩であることを特徴とする請求項14、20又は21記載の親水性塗料。
【請求項23】
前記アンモニウム塩が、前記親水性塗料に対して0.01〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項14及び20〜22のいずれか1項に記載の親水性塗料。
【請求項24】
前記硫酸アンモニウム塩が、前記親水性塗料に対して0.15〜10重量%含有されていることを特徴とする請求項22又は23に記載の親水性塗料。
【請求項25】
前記親水性塗料が、アクリル酸系塗料、ポリビニルアルコール系塗料、エポキシ系塗料、アクリルセルロース系塗料、アクリルアミド系塗料又は前記塗料を形成する樹脂のうちの2種以上を含む塗料であることを特徴とする請求項14〜24のいずれか1項に記載の親水性塗料。

【公開番号】特開2006−213859(P2006−213859A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29436(P2005−29436)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】