説明

熱交換器用チューブ

【課題】従来と同様に排気ガスに旋回流を与えて高い熱交換効率を実現しながらも単位体積当たりの熱交換量を従来より大幅に向上し得る熱交換器用チューブを提供する。
【解決手段】複数本の円管を互いに近接させて平面状に並べ且つその相互間の近接部位を連通部13として接続した如き形状の偏平チューブ本体14を採用し、該偏平チューブ本体14の前記円管に相当する円管部15の内周面に該円管部15の中心軸Oと同心の螺旋軌道に沿うように旋回流形成突起16を形成し、前記各円管部15に個別に排気ガス10の旋回流を形成し得るようにして熱交換器用チューブを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRクーラ等の熱交換器に用いることが可能な熱交換器用チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より自動車等のエンジンの排気ガスの一部をエンジンに再循環して窒素酸化物の発生を低減させるEGR装置が知られているが、このようなEGR装置では、エンジンに再循環する排気ガスを冷却すると、該排気ガスの温度が下がり且つその容積が小さくなることによって、エンジンの出力を余り低下させずに燃焼温度を低下して効果的に窒素酸化物の発生を低減させることができる為、エンジンに排気ガスを再循環するラインの途中に、排気ガスを冷却するEGRクーラを装備したものがある。
【0003】
図4は前記EGRクーラの一例を示す断面図であって、図中1は円筒状に形成されたシェルを示し、該シェル1の軸心方向両端には、シェル1の端面を閉塞するようプレート2,2が固着されていて、該各プレート2,2には、多数のチューブ3の両端が貫通状態で固着されており、これら多数のチューブ3はシェル1の内部を軸心方向に延びている。
【0004】
そして、シェル1の一方の端部近傍には、外部から冷却水入口管4が取り付けられ、シェル1の他方の端部近傍には、外部から冷却水出口管5が取り付けられており、冷却水9が冷却水入口管4からシェル1の内部に供給されてチューブ3の外側を流れ、冷却水出口管5からシェル1の外部に排出されるようになっている。
【0005】
更に、各プレート2,2の反シェル1側には、椀状に形成されたボンネット6,6が前記各プレート2,2の端面を被包するように固着され、一方のボンネット6の中央には排気ガス入口7が、他方のボンネット6の中央には排気ガス出口8が夫々設けられており、エンジンの排気ガス10が排気ガス入口7から一方のボンネット6の内部に入り、多数のチューブ3を通る間に該チューブ3の外側を流れる冷却水9との熱交換により冷却された後に、他方のボンネット6の内部に排出されて排気ガス出口8からエンジンに再循環するようになっている。
【0006】
尚、図中11は冷却水入口管4に対しシェル1の直径方向に対峙する位置に設けたバイパス出口管を示し、該バイパス出口管11から冷却水9の一部を抜き出すことにより、冷却水入口管4に対峙する箇所に冷却水9の澱みが生じないようにしてある。
【0007】
斯かる従来のEGRクーラにおいては、排気ガス10がチューブ3内をストレートに流れ、チューブ3の内周面に対して排気ガス10が十分に接触しないために熱交換効率があまり良くなかったため、図5に示す如く、チューブ3の内周面にスパイラル突起12を形成(チューブ3の外周面側をスパイラル溝として凹ませることで反転形状として内周面側にスパイラル突起12を形成)してチューブ3内を流れる排気ガス10を旋回流とし、これにより排気ガス10のチューブ3の内周面に対する接触頻度や接触距離を増加させてEGRクーラの熱交換効率を向上することが既に提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2を参照)。
【0008】
尚、この種の熱交換器用チューブに関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1、2等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−345925号公報
【特許文献2】特開2001−254649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、将来的な排ガス規制の更なる強化に対応するためには、これまで以上に排気ガス10の再循環量を増やしてEGR率を高めることが求められているが、前述の如き複数本のチューブ3を平行に並べてシェル1内に収容する構造では、単位体積当たりの交換熱量が小さいためにEGRクーラ全体が大きくなり過ぎてしまい、車両への搭載が難しくなるという問題があった。
【0011】
そこで、図6に示す如く、チューブ3を偏平化して単位体積当たりの交換熱量を上げることが考えられたが、このようにしてしまうと、スパイラル突起12により排気ガス10に旋回流を与える効果が著しく低下してしまい、かえって熱交換性能が悪くなってしまうことが判った。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、従来と同様に排気ガスに旋回流を与えて高い熱交換効率を実現しながらも単位体積当たりの熱交換量を従来より大幅に向上し得る熱交換器用チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数本の円管を互いに近接させて平面状に並べ且つその相互間の近接部位を連通部として接続した如き形状の偏平チューブ本体から成り、該偏平チューブ本体の前記円管に相当する円管部の内周面に該円管部の中心軸と同心の螺旋軌道に沿うように旋回流形成突起を形成し、前記各円管部に個別に熱媒体の旋回流を形成し得るように構成したことを特徴とする熱交換器用チューブ、に係るものである。
【0014】
而して、このように熱交換器用チューブを構成すれば、熱媒体が偏平チューブ本体の各円管部を流れる際に、該各円管部の内周面の旋回流形成突起により螺旋軌道に沿う方向に流れを案内され、これにより各円管部に個別に熱媒体の旋回流が形成される結果、該各円管部における内周面に対する熱媒体の接触頻度や接触距離が増加して熱交換効率が高められることになり、しかも、各円管部の相互間は連通部を介し連通した状態となっていて、熱媒体が流通するための流路断面積が大きく確保されるようになっているので、単位体積当たりの交換熱量が大きくなり、圧力損失の低減にもなる。
【0015】
また、本発明においては、隣り合う円管部の旋回流形成突起の向きが、互いに逆向きの螺旋軌道に沿うように形成されていることが好ましく、このようにすれば、隣り合う円管部の連通部で旋回流同士が同じ向きの流れとなって互いに加速し合い、各円管部の相互間に連通部があっても、より確実に熱媒体を旋回流として形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明の熱交換器用チューブによれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0017】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、従来と同様に熱媒体に旋回流を与えて高い熱交換効率を実現しながらも単位体積当たりの熱交換量を従来より大幅に向上することができ、EGRクーラ等の熱交換器への適用にあたり、該熱交換器の全体構成をコンパクト化して車両等への搭載性の向上を図ることができる。
【0018】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、隣り合う円管部の連通部で旋回流同士を同じ向きの流れとすることで互いに加速させることができ、各円管部での旋回流の形成をより確実なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の偏平チューブ本体の断面図である。
【図3】EGRクーラへの適用例を概略的に示す断面図である。
【図4】一般的なEGRクーラの一例を示す断面図である。
【図5】従来例を示す斜視図である。
【図6】図5のチューブを偏平化した試作例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1及び図2は本発明の熱交換器用チューブを実施する形態の一例を示すもので、前述した従来例の場合と同様にEGRクーラに適用した場合を示しており、図4〜図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0022】
図1に示す如く、本形態例の熱交換器用チューブにおいては、複数本の円管を互いに近接させて平面状に並べ且つその相互間の近接部位を連通部13として接続した如き形状の偏平チューブ本体14から成り、該偏平チューブ本体14の前記円管に相当する円管部15の内周面に該円管部15の中心軸Oと同心の螺旋軌道に沿うように旋回流形成突起16を形成(各円管部15の外周面側を溝状に凹ませることで反転形状として旋回流形成突起16を形成)し、前記各円管部15に個別に排気ガス10の旋回流を形成し得るように構成している。
【0023】
即ち、図2に示す如く、各円管部15の中心軸間ピッチL、連通部13の高さ方向の隙間C、旋回流形成突起16の隆起高さH等を適宜にチューニングすることによって、各円管部15の相互間に連通部13があっても、各円管部15内を流れる排気ガス10に対し旋回流を与えられるようにしたものとなっている。
【0024】
また、特に本形態例の場合は、隣り合う円管部15の旋回流形成突起16の向きを、互いに逆向きの螺旋軌道に沿うように形成してあり(図1における各円管部15の外観を参照)、隣り合う円管部15の連通部13で旋回流同士が同じ向きの流れとなるようにして相互の流れが打ち消し合わないように工夫してある(図2の矢印で示す排気ガス10の旋回流の向きを参照)。
【0025】
更に、偏平チューブ本体14の製造にあたっては、例えば、その上部と下部とを二分割した一対の半割り部品をプレス加工等により製作し、該各半割り部品を上下に重ね合わせて両側を溶接して製作すれば良く、前記プレス加工の際に、各円管部15の外周面側を溝状に凹ませて内周面側に反転形状として旋回流形成突起16を隆起させるようにすれば良い。
【0026】
ただし、このような偏平チューブ本体14の製造には、既存のラジエータやインタークーラ等の熱交換器において既に実践されている様々な製造方法を利用することが可能であり、接合部分に重ね代を設定してロウ付けにより接合したり、上部構造を下部構造の側方に展開した一枚部品としてプレス加工し、上部構造を下部構造の上に折り重ねて溶接やロウ付けにより接合するような製造方法を採用しても良いことは勿論である。
【0027】
尚、斯かる偏平チューブ本体14の製造時に該偏平チューブ本体14の側部を接合のために利用する場合には、その接合作業時における加工性を考慮して前記側部の旋回流形成突起16の加工(外周面側からの溝加工:図1参照)を部分的に省略しても良く、ここに部分的な旋回流形成突起16の省略があっても、旋回流の形成に大きな影響を与えなくて済むことが本願発明者らにより確認されている。
【0028】
而して、このように熱交換器用チューブを構成すれば、排気ガス10が偏平チューブ本体14の各円管部15を流れる際に、該各円管部15の内周面の旋回流形成突起16により螺旋軌道に沿う方向に流れを案内され、これにより各円管部15に個別に排気ガス10の旋回流が形成される結果、該各円管部15における内周面に対する排気ガス10の接触頻度や接触距離が増加して熱交換効率が高められることになり、しかも、各円管部15の相互間は連通部13を介し連通した状態となっていて、排気ガス10が流通するための流路断面積が大きく確保されるようになっているので、単位体積当たりの交換熱量が大きくなり、圧力損失の低減にもなる。
【0029】
また、本形態例においては、隣り合う円管部15の旋回流形成突起16の向きが、互いに逆向きの螺旋軌道に沿うように形成されているので、隣り合う円管部15の連通部13で旋回流同士が同じ向きの流れとなって互いに加速し合い、各円管部15の相互間に連通部13があっても、より確実に排気ガス10を旋回流として形成することが可能となる。
【0030】
従って、上記形態例によれば、従来と同様に排気ガス10に旋回流を与えて高い熱交換効率を実現しながらも単位体積当たりの熱交換量を従来より大幅に向上することができ、例えば、図3に示す如きEGRクーラへの適用にあたり、矩形断面のシェル1に対し前述の如き偏平チューブ本体14を複数列(図示例では二列)に分けて多段(図示例では九段)に配置して収容させるようにすれば、これまで以上に排気ガス10の再循環量を増やしてEGR率を高めても、EGRクーラの全体構成をコンパクトに抑えて車両への搭載性を向上することができる。
【0031】
また、特に本形態例においては、隣り合う円管部15の旋回流形成突起16の向きを、互いに逆向きの螺旋軌道に沿うように形成しているので、隣り合う円管部15の連通部13で旋回流同士を同じ向きの流れとして互いに加速させることができ、各円管部15での旋回流の形成をより確実なものとすることができる。
【0032】
尚、本発明の熱交換器用チューブは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、EGRクーラ以外の熱交換器に適用しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
10 排気ガス(熱媒体)
13 連通部
14 偏平チューブ本体
15 円管部
16 旋回流形成突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の円管を互いに近接させて平面状に並べ且つその相互間の近接部位を連通部として接続した如き形状の偏平チューブ本体から成り、該偏平チューブ本体の前記円管に相当する円管部の内周面に該円管部の中心軸と同心の螺旋軌道に沿うように旋回流形成突起を形成し、前記各円管部に個別に熱媒体の旋回流を形成し得るように構成したことを特徴とする熱交換器用チューブ。
【請求項2】
隣り合う円管部の旋回流形成突起の向きが、互いに逆向きの螺旋軌道に沿うように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79779(P2013−79779A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220778(P2011−220778)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【出願人】(505377382)三共ラヂエーター株式会社 (3)
【Fターム(参考)】