説明

熱交換部材

【課題】熱交換の効率を維持しつつ熱応力による破損を抑制する技術を提供する。
【解決手段】筒形状の外周壁3と第一の流体の流路となる複数のセル5を区画形成する隔壁7とを有するセラミックスを主成分とするハニカム構造体2と、ハニカム構造体2を被覆する被覆部材4と、を備え、ハニカム構造体2の隔壁7には1つ以上のスリット6が設けられており、ハニカム構造体2の中心から該中心と外周壁3との距離の30%以内に含まれるセル5のうちの50%以上のセル5は、該セル5から外周壁3までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、スリット6に阻まれることなく隔壁7により外周壁3まで繋がる熱交換部材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に装着可能な熱交換部材に関する。
【背景技術】
【0002】
流体(気体、液体)を加熱あるいは冷却する際に、熱交換器を使用することがある。熱交換器は、高温の流体と低温の流体との間で熱交換がなされるという原理を利用することにより、流体の加熱や冷却を行う。熱交換器は、高温の流体と低温の流体との間で熱伝導性のある部材を通じて熱交換を行わせる。また、熱交換器は、高温の流体と低温の流体とを波型の壁で隔てる構造のものや、高温の流体の流路と低温の流体の流路とを互い違いに配置した構造のものが広く用いられている。こうした構造の熱交換器では、高温の流体と低温の流体とを隔てる壁(流路壁)を介して熱交換がなされ、特に、両流体の間を隔てる壁(流路壁)の面積が広いので、熱交換の効率が高い。
【0003】
一般に、熱交換器では、高温の流体と低温の流体との間の熱交換を介在する部材(例えば両流体を隔てる流路壁)は金属製であることが多い。金属製の部材は熱伝導性に優れ、また、上述したような波型の壁や互い違いに配置された流路を金属で作ると構造的強度を維持させやすい。その一方で、金属製の部材は、耐腐食性に劣る。
【0004】
こうした問題に対して、熱交換器に耐熱性や耐腐食性に優れたセラミックス製の部材を用いる技術が提案されている。この提案されている技術の中には、例えば、高温の流体と低温の流体とを互い違いに流す流路がセラミックスで作られた熱交換器がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−24997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、提案されている技術では、セラミックス製の部材が熱応力により破損しやいという問題がある。こうした問題に鑑みて、提案されている技術では、セラミックス製の部材の厚みを増したり、あるいはセラミックス製の部材を他の部材で補強したりすることがあるが、こうした部材の厚みの増加や補強用の部材の使用は熱損失を増大させてしまい、その結果、熱交換の効率を低下させてしまう。
【0007】
上記の問題に鑑みて、本発明は、熱交換の効率を維持しつつ熱応力による破損を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す熱交換部材である。
【0009】
[1] 筒形状の外周壁と、第一の流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するセラミックスを主成分とするハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の内部を流れる前記第一の流体と前記ハニカム構造体の外部を流れる第二の流体とを混合させずに、前記第一の流路と前記第二の流体との間での熱交換可能に前記ハニカム構造体を被覆する被覆部材と、を備え、前記ハニカム構造体の前記隔壁には1つ以上のスリットが設けられており、前記第一の流体が流れる方向に垂直な前記ハニカム構造体の断面においては、前記ハニカム構造体の中心から該中心と前記外周壁との距離の30%以内に含まれる前記セルのうちの50%以上の前記セルは、該セルから前記外周壁までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、前記スリットに阻まれることなく前記隔壁により前記外周壁まで繋がる熱交換部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱交換部材は、熱交換の効率を維持しつつ熱応力による破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の熱交換部材の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1の熱交換部材を装着した熱交換器の模式図である。
【図3】図2中のA−A’断面図である。
【図4】本発明の熱交換部材の別の実施形態の断面図である。
【図5】実施例1の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図6】実施例2の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図7】実施例3の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図8】実施例4の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図9】実施例5の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図10】実施例6の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図11】比較例1の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【図12】比較例2の熱交換部材に用いたハニカム構造体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
本発明の熱交換部材は、筒形状の外周壁と、第一の流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するセラミックスを主成分とするハニカム構造体と、ハニカム構造体の内部を流れる第一の流体とハニカム構造体の外部を流れる第二の流体とを混合させずに第一の流路と第二の流体との間での熱交換可能にハニカム構造体を被覆する被覆部材と、を備え、ハニカム構造体の隔壁には1つ以上のスリットが設けられている。さらに、本発明の熱交換部材では、第一の流体が流れる方向に垂直なハニカム構造体の断面においては、ハニカム構造体の中心から該中心と外周壁との距離の30%以内に含まれるセルのうちの50%以上のセルは、該セルから外周壁までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、スリットに阻まれることなく隔壁により外周壁まで繋がる。
【0014】
本発明の熱交換部材は、ハニカム構造体の内部にある流路を流れる第一の流体と、ハニカム構造体を覆う被覆部材の外側を流れる第二の流体との間で熱交換をさせることができる。これらの2つの流体間の熱交換は、ハニカム構造体の外周壁を介在させて行われる。言い換えると、本発明の熱交換部材では、第一の流体と第二の流体との熱交換が、第一の流体と外周壁との熱交換と、第二の流体と外周壁との熱交換という2つの要素を含んでいる。
【0015】
また、本発明の熱交換部材では、第一の流体を複数のセルに振り分けて流す。さらに、本発明の熱交換部材では、これらの第一の流体を振り分けられた各セルから隔壁を辿っていくと、直接にあるいは他の部材を挟んで間接に外周壁にまで繋がる。そのため、本発明の熱交換部材では、複数のセルに振り分けられた各々の第一の流体が、隔壁に熱を伝わせていく態様によって、外周壁との間で着実に熱交換をすることができる。こうして本発明の熱交換部材では、第一の流体と外周壁との間で熱交換を効率良く行うことができる。さらに、本発明の熱交換部材では、第一の流体と外周壁との間で熱交換を良好に行うことができるので、第一の流体と第二の流体との間で外周壁を介してなされる熱交換の効率も高められている。
【0016】
第一の流体と第二の流体との間の熱交換を外周壁や隔壁に熱を伝わせて行わせると、外周壁や隔壁では部分ごとに温度差が生じる。この温度差に起因して、外周壁や隔壁には部分ごとに熱による膨張や収縮の度合いの差が生じ、その結果、外周壁や隔壁に応力が生じる。こうした応力は、外周壁や隔壁の歪みや割れの原因になりうる。本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の隔壁に1つ以上のスリットが設けられているので、隔壁に生じる応力を緩和し、ひいては外周壁や隔壁における歪みや割れの発生を抑えることができる。すなわち、隔壁上の2箇所の間で熱による膨張や収縮の度合いに差が生じる場合であっても、両箇所を結ぶ隔壁がスリットで分断されていると、応力の伝播を断たれ、その結果、歪みや割れが生じにくくなる。
【0017】
隔壁に熱を伝わせる過程では、熱損失を避けることができない。本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の中心から該中心と外周壁との距離の30%以内に含まれるセルのうちの50%以上のセルは、該セルから外周壁までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、スリットに阻まれることなく隔壁により外周壁まで繋がる。こうしてセルから外周壁までが隔壁により短距離で繋がると、隔壁に熱を伝わせる際の熱損失を抑えることができる。このように熱損失が抑えられているので、本発明の熱交換部材は熱交換効率が高い。
【0018】
本明細書にいうハニカム構造体の中心から該中心と外周壁との距離の30%以内に含まれるセルには、この30%以内の領域にセルの一部が含まれているものも該当する。
【0019】
一般に、筒の中に流体を流すと、筒の中の中央部分で流量が多く、外周部分で流量が少なくなる。そのため、本発明の熱交換部材のようにハニカム構造体の中心部分にあるセルのうちの半数以上が隔壁により短距離で外周壁と繋がっていると、第一の流体の流量の多い箇所を有効に利用することができ、その結果、第一の流体と外周壁との間の熱交換の効率を高め、ひいては、第一の流体と第二の流体との間の熱交換の効率を高めることができる。
【0020】
本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体がセラミックスを主成分とすることにより、隔壁や外周壁の熱伝導率が高まり、その結果として、隔壁や外周壁を介在させた熱交換を効率良く行わせることができる。また、本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体がセラミックスを主成分とすることにより、ハニカム構造体の耐腐食性が高められている。その結果、本発明の熱交換部材は、流体が腐食を誘発する性質を持つ場合であっても、この流体を第一の流体として用いることができる。なお、本明細書にいうセラミックスを主成分とするとは、セラミックスを50質量%以上含むことをいう。
【0021】
また、本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体は、特に伝熱性を考慮すると、熱伝導性が高いSiC(炭化珪素)を主成分とすることが好ましい。本明細書にいうハニカム構造体の主成分が炭化珪素(SiC)であるとは、ハニカム構造体の50質量%以上が炭化珪素(SiC)であることを意味する。
【0022】
さらに具体的には、ハニカム構造体の材料としては、Si含浸SiC、(Si+Al)含浸SiC、金属複合SiC、再結晶SiC、Si、およびSiC等を採用することができる。ただし、多孔体の場合は高い熱伝導率が得られないことがあるため、高い熱交換率を得るためには、緻密体構造(気孔率5%以下)とすることが好ましく、Si含浸SiC、(Si+Al)含浸SiCを採用することが好ましい。SiCは、熱伝導率が高く、放熱しやすいという特徴を有するが、Siを含浸するSiCは、高い熱伝導率や耐熱性を示しつつ、緻密に形成され、伝熱部材として十分な強度を示す。例えば、SiC(炭化珪素)の多孔体の場合、20W/m・K程度であるが、緻密体とすることにより、150W/m・K程度とすることができる。
【0023】
また、本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の外形は、円筒状(円柱状)に限らず、第一の流体の流れる方向に垂直な断面の形状が楕円形でもよい。あるいはハニカム構造体の外形が角柱状で、その断面形状が四角形またはその他の多角形であってもよい。また、本発明の熱交換部材では、セルの断面形状についても、円形、楕円形、三角形、四角形、その他の多角形等の中から所望の形状を適宜選択すればよい。
【0024】
本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体のセル密度(単位断面積当たりのセルの数)については特に制限はなく、目的に応じて適宜設計すればよいが、25〜2000セル/平方インチ(4〜320セル/cm)の範囲であることが好ましい。セル密度が25セル/平方インチ(4セル/cm)以上の場合には、隔壁の強度を高めることができ、ひいてはハニカム構造体全体の強度を高めることができる。また、セル密度が25セル/平方インチ(4セル/cm)以上の場合には、有効GSA(幾何学的表面積)を十分に大きくすることができる。一方、セル密度が2000セル/平方インチ(320セル/cm)以下の場合には、第一の流体を流す際の圧力損失を抑えることができる。
【0025】
本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の隔壁の厚さ(壁厚)についても、目的に応じて適宜設計すればよく、特に制限はない。本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の壁厚を50μm〜2mmにすることが好ましく、さらに60〜500μmにすることがより好ましい。壁厚が50μm以上の場合には、機械的強度が高まり、衝撃や熱応力によって破損しにくくなる。一方、壁厚が2mm以下の場合には、ハニカム構造体に占めるセル容積の割合を大きくでき、その結果、第一の流体を流す際の圧力損失を抑制し、また、熱交換率を高めることができる。
【0026】
本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体の隔壁の密度は、0.5〜5g/cmであることが好ましい。ハニカム構造体の隔壁の密度が0.5g/cm以上の場合には、隔壁は強度が十分に強くなり、その結果、セル内に第一流体を高圧で流入させても、隔壁が破損しにくくなる。また、ハニカム構造体の隔壁の密度が5g/cm以下の場合には、ハニカム構造体が重くなり過ぎず、熱交換部材の軽量化を確実に実現できる。また、ハニカム構造体の隔壁の密度が0.5〜5g/cmである場合には、熱伝導率を向上させることもできる。
【0027】
本発明の熱交換部材では、ハニカム構造体は、熱交換効率を高める観点からは、熱伝導率が100W/m・K以上であることが好ましい。熱交換効率をより高める観点からは、ハニカム構造体の熱伝導率については、より好ましくは、120〜300W/m・K、さらに好ましくは、150〜300W/m・Kである。
【0028】
本発明の熱交換部材では、第一の流体として排ガスを流す場合、隔壁に触媒を担持させることが好ましい。このように隔壁に触媒を担持させると、排ガス中のCOやNOやHCなどを触媒反応を通じてより無害な物質(例えば、CO、N、HO)にすることでき、さらに、触媒反応で生じた反応熱を熱交換に利用することもできる。本発明の熱交換部材に用いる触媒としては、貴金属(白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、及び金)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、亜鉛、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、およびバリウムからなる群から選択された元素を少なくとも一種を含有すると良い。ここに挙げた触媒は、金属、酸化物、およびそれ以外の化合物であっても良い。
【0029】
本発明の熱交換部材では、隔壁に触媒を担持させる場合、触媒(触媒金属+担持体)の担持量としては、10〜400g/Lであることが好ましく、触媒が貴金属であれば、触媒の担持量が0.1〜5g/Lであることが更に好ましい。触媒の担持量が10g/L以上の場合には、触媒作用が発現しやすくなる。一方、触媒の担持量が400g/L以下の場合には、第一の流体を流す際の圧力損失を抑えることができ、また、製造コストを抑えることもできる。
【0030】
本発明の熱交換部材では、被覆部材には、ハニカム構造体を内部に収める金属管、あるいはハニカム構造体の外表面をコートする樹脂や緻密なセラミックス材や金属材などを用いることができる。これらの金属管や樹脂や緻密なセラミックス材や金属材によりハニカム構造体を被覆する場合には、第一の流体と第二の流体との混合を防止することができる。
【0031】
本発明の熱交換部材では、筒の内と外という単純な構成により第一の流体と第二の流体とを隔てることができる。熱交換部材を筒形状というシンプルな構造にできるので、簡単な組み付け作業で熱交換器を作ることができる。例えば、本発明の熱交換部材の両端に管を繋いで第一の流体の流路を作り、さらに熱交換部材をケーシングで覆うと、簡便に熱交換器を組み上げることができる(例えば、後述する図2および図3を参照)。
【0032】
以下、本発明の熱交換部材の具体的な実施形態を参照しつつ、その内容を詳しく説明する。
【0033】
図1は、本発明の熱交換部材の一実施形態の斜視図である。本熱交換部材1は、金属管8に円筒形状のハニカム構造体2を嵌合させて作られている。
【0034】
本熱交換部材1では、ハニカム構造体2が両端部9a,9bで開口する円筒状の外周壁3を有している。この外周壁3の筒の内部が隔壁7によって区画されており、筒が抜けている方向(端部9aと端部9bとを結ぶ方向:軸方向)に対して垂直な断面からみると、外周壁3に囲まれた内部を横切る隔壁7によって、方眼紙のます目のように四角形に区画されている。その結果、外周壁3の内部には複数のセル5が作られている。なお、本熱交換部材1では、ハニカム構造体2の外周壁3の断面形状(貫通する方向に垂直な断面の形状)が円であるが、円以外にも、楕円や四角などであってもよい。また、セル5の断面形状についても、四角形の他に、六角形や円など任意の形状を適用することができる。
【0035】
本熱交換部材1では、隔壁7は、セル5を形作る役割の他に、梁として外周壁3を補強する役割も担っている。こうした隔壁7の役割により、本熱交換部材1は構造的強度が高められている。
【0036】
また、本熱交換部材1では、ハニカム構造体2の外周壁3と金属管8との間にグラファイトシート31を挟んでいる。グラファイトシート31は外周壁3や金属管8と広域で接触することができるので、外周壁3と金属管8との間で熱の受け渡しを良好にすることが可能になる。
【0037】
図2は、図1に示した熱交換部材1を装着した熱交換器の模式図である。図示されるように、本熱交換器21では、熱交換部材1をケーシング11内に装着している。熱交換部材1の端部9aと端部9bは、ケーシング11の壁19に開けた穴に嵌め込まれ、さらに、壁19の外側で管23aと管23bに繋がれている。この結果、第一の流体を管23aに流すと、熱交換部材1の内部(外周壁3の筒の中、いわゆるセル5内)を通り抜け、さらに管23bに流れていく。
【0038】
図3は、図2中のA−A’の断面図である。図示されるように、第二の流体は、入口13からケーシング11内に流入すると、熱交換部材1の金属管8の外周側を流れ、最終的に出口15から排出される。ケーシング11内で、金属管8と壁19に挟まれた空間は、第二の流体の流路17となる。本熱交換部材1では、ハニカム構造体2を金属管8内に収めているので、第一の流体がハニカム構造体2から漏れ出ても、金属管8によって遮蔽されるので、第一の流体が第二の流体の流路17内に漏出することは抑えることができる。
【0039】
なお、本熱交換部材1では、ハニカム構造体2を金属管8内に嵌合させている形態であるが、この他にも、ハニカム構造体2を樹脂でコートしたり、あるいはハニカム構造体2を緻密なセラミックス材でコートしたりする形態により、第一の流体の漏出を抑えてもよい。
【0040】
第一の流体が高温であり、第二の流体が低温である場合であれば、第一の流体から第二の流体に向けて伝熱を生じる。この伝熱は、第一の流体から隔壁7や外周壁3に熱を伝えていき、さらに外周壁3から第二の流体に熱を伝えていくことにより行われる。このとき、第一の流体から外周壁3への伝熱は2つの態様により行われる。まず、最も外周側にあるセル5(例えば、セル5c)に流れる第一の流体は、外周壁3に接触しているので、外周壁3に直接熱を伝えることができる。一方、その他のセル(例えば、セル5a、セル5b)に流れる第一の流体は、隔壁7を介して外周壁3に熱を伝えることができる。例えば、セル5aを流れる第一の流体の場合には、第一の流体からセル5aを囲む隔壁7に熱を伝え、このセル5aの隔壁7から他のセルの隔壁7を順次辿って外周壁3に熱を伝える。こうして、隔壁7に熱を伝わせることにより、第一の流体が外周壁3とは直接接触せずに流れていても、確実に熱を外周壁3に伝えることが可能になる。
【0041】
また、本熱交換部材1では、4つのスリット6a〜6dが隔壁7に設けられている。このようにスリット6が隔壁7に設けられていると、隔壁7に引張応力や圧縮応力を生じても、これらの応力を緩和することができる。その結果、本熱交換部材1では、隔壁7や外周壁3に歪みや割れを生じにくい。例えば、セル5aと外周壁3との間の隔壁7(破線35aに沿って延びる隔壁7)が熱膨張や収縮を生じた場合でも、隔壁7の途中がスリット6aで分断されているので、スリット6aの幅の伸縮によって隔壁7に生じる圧縮応力や引張応力を緩和することができる。
【0042】
図3中の一点鎖線は、ハニカム構造体2の中心から外周壁3の内径の30%以内に含まれているセル5と含まれていないセル5との境界を示す。すなわち、ハニカム構造体2の中心部分の境界33を示している。ハニカム構造体2の中心部分にあるセル5のうち、セル5aについては、セル5aと外周壁3とを最短距離で結ぶ線35aとの間にスリット6(6a)がある。そのため、セル5aは、この線35aに沿うかたちでスリット6(6a)に阻まれることなく隔壁7により外周壁3まで繋がることができない。このセル5aと同様なセル5(合計4つ)を、図3中では網点で示す。
【0043】
また、セル5bについては、セル5bと外周壁3とを最短距離で結ぶ線35bを挟んで並行する2本の隔壁7のうち、一方の隔壁7はスリット6aにより分断されているが、もう一方の隔壁7はスリット6aに分断されていない。よって、セル5bは、最短距離で結ぶ線35bに沿うかたちで、スリット6に阻まれることなく外周壁3まで隔壁7により繋がっている。
【0044】
また、ここでは図示しないが、例えば、セルの断面形状が六角形や丸などの場合に起こり得るように、セルから外周壁までを最短距離で結ぶ線の上、あるいは最短距離で結ぶ線の横をスリットに阻まれることなくジグザグに隔壁を辿ることで外周壁に繋がる場合がある。こうした場合も、「セルから外周壁までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、スリットに阻まれることなく隔壁により外周壁まで繋がる」という範疇に含まれるものとする。
【0045】
また、本熱交換器21では、セル5aとセル5bとを隔てる隔壁7に穴や亀裂が生じた場合であっても、両セル5a,5bを流れる第一の流体同士が混じり合うだけであるため、熱交換器としての機能を損なうことはない。そのため、本熱交換部材1では、隔壁7を薄くしたり、隔壁7をねじれた形状にしたりなどの熱交換効率を高めることが可能な形態を適宜適用しやすい。
【0046】
図4は、本発明の熱交換部材の別の実施形態の断面図である。図示されるように、本熱交換部材41には、4つのスリット46がある。これらの4つのスリット46は、いずれもハニカム構造体42の中心から放射状に延びている。特に、本熱交換部材41のように外周壁43が円筒形状の場合には、スリット46がハニカム構造体42の中心から放射状に向かう方向に沿って延びていると、全てのセル45が、外周壁43までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、スリット46に阻まれることなく隔壁47によって外周壁43まで繋がる。こうして全てのセル45が隔壁47により最短距離で外周壁43まで繋がれていると、隔壁47に熱を伝わせるときの熱損失をより抑えることができ、その結果、熱交換効率をより高めることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(1)熱交換部材
(実施例1〜6、比較例1,2)
SiCや有機バインダ(メチルセルロース)や水などを適量混ぜ合わせ、さらに混練して、坏土を作製した。この坏土を押出成形によって円柱状の外観を備えたハニカム形状に成形し、乾燥して成形体を得た。続いて、成形体を焼成して、ハニカム構造体を得た。このハニカム製造体は、円筒状の外周壁(厚さ1.5mm)で、外周壁に囲まれた内部が直交する隔壁によって区画されている。外周壁の外径42mm、外周壁の長さ100mm、隔壁厚さ0.4mm、セル密度150cpsi(23セル/cm)であった。図5〜11は、実施例1〜6および比較例1に用いたハニカム構造体の正面図を示す。これらの図に示すように、実施例1〜6および比較例1に用いたハニカム構造体62a〜62gにはスリット66を形成した。なお、スリット66は、ハニカム構造体62a〜62gの軸方向全体に亘って形成した。比較例2には、図12に示すようにスリットを形成していないハニカム構造体を用いた。
【0049】
さらに、ハニカム構造体66a〜66hの外周壁63にグラファイトシートを巻き付けておき、ステンレス製の金属管(外径43mm、厚さ0.5mm)に嵌合し、熱交換部材を得た。なお、ステンレス製の金属管を嵌合する際には焼きばめを用いた。
【0050】
ハニカム構造体62a〜62hの中心から外周壁63の内径の30%以内の中心部分で、スリット66に阻まれることなく最短距離で外周壁63まで隔壁67により繋がっているセル65の割合を表1に示す(表1の「外周壁に最短距離で繋がるセルの割合」の欄)。
【0051】
【表1】

【0052】
(2)アイソスタティック強度試験
実施例1〜6および比較例1,2に用いたハニカム構造体の外周に、厚さ0.5mmのウレタンゴム製のシートを巻き付けた。ハニカム構造体の両端部にも円形のウレタンゴム製のシートを当て、さらに、このウレタンゴム製のシートに厚さ20mmのアルミニウム製の円板を当てた状態で、アルミニウム製の円板とウレタンゴム製のシートの周りをビニールテープで巻くことによりハニカム構造体の両端部を封止した。この両端部を封止したハニカム構造体を試験用サンプルとした。なお、アルミニウム製の円板や円形のウレタンゴム製のシートの半径はハニカム構造体の端部の半径と同じにした。試験用サンプルを圧力容器に入れ、0.3〜3.0MPa/分の速度で圧力を上昇させ、3.0MPaの圧力をかけたときに、ハニカム構造体に破壊あるいはクラックを生じたか否かを調べた。クラックの発生は、圧力をかけていた時の破壊音の有無やハニカム構造体の外観を目視することにより確認した。結果を表1に示す。
【0053】
(3)熱交換試験
実施例1〜6および比較例1,2の熱交換部材をステンレス製の容器(ケーシング)に収容することにより、熱交換器(図2に示したものと同じ形の熱交換器)を作製した。この熱交換器に、第一の流体として350℃の窒素ガス(N)をSV(空間速度)50000h−1にて流し、第二の流体として40℃の水を流量10L/minにて流した。熱交換部材の入口側の端部から上流20mmを流れる第一の流体の温度を「入口ガス温」、熱交換部材の出口側の端部から下流200mmを流れる第一の流体の温度を「出口ガス温」として計測した。また、ケーシングの入口を通過する水の温度を「入口水温」として計測した。これらの温度から、熱交換効率(%)を下記式にて算出した。結果を表1に示す。なお、熱交換効率が60%以上を「合格」とした。
熱交換効率(%)=(入口ガス温−出口ガス温)/(入口ガス温−入口水温)×100
【0054】
(4)耐熱試験
上述した熱交換試験で用いた熱交換器に、第一の流体として500℃の窒素ガス(N)を、第二の流体として20℃の水を、1時間にわたり流した。その後、熱交換部材を取り出して割れの有無を確認した。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、熱交換器に装着可能な熱交換部材として利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1:熱交換部材、2:ハニカム構造体、3:外周壁、4:被覆部材、5,5a〜5c:セル、6,6a〜6d:スリット、7:隔壁、8:金属管、9,9a,9b:端部、11:ケーシング、13:(第二の流体の)入口、15:(第二の流体の)出口、17:(第二の流体の)流路、19:(ケーシングの)壁、21:熱交換器、23a,23b:管、31:グラファイトシート、33:(ハニカム構造体の中心部分の)境界、35a,35b:(セルと外周壁とを最短距離で結ぶ)線、41:熱交換部材、42:ハニカム構造体、43:外周壁、45:セル、46:スリット、47:隔壁、62a〜62h:ハニカム構造体、63:外周壁:65:セル、66:スリット、67:隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状の外周壁と、第一の流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するセラミックスを主成分とするハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の内部を流れる前記第一の流体と前記ハニカム構造体の外部を流れる第二の流体とを混合させずに、前記第一の流路と前記第二の流体との間での熱交換可能に前記ハニカム構造体を被覆する被覆部材と、を備え、
前記ハニカム構造体の前記隔壁には1つ以上のスリットが設けられており、
前記第一の流体が流れる方向に垂直な前記ハニカム構造体の断面においては、
前記ハニカム構造体の中心から該中心と前記外周壁との距離の30%以内に含まれる前記セルのうちの50%以上の前記セルは、該セルから前記外周壁までを最短距離で結ぶ線に沿うかたちで、前記スリットに阻まれることなく前記隔壁により前記外周壁まで繋がる熱交換部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−11428(P2013−11428A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145883(P2011−145883)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】